(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108895
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】圧電装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20230731BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20230731BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20230731BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20230731BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/047
H01L41/29
H01L41/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010193
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 愛美
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 悠也
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
(72)【発明者】
【氏名】池上 尚克
(72)【発明者】
【氏名】片上 崇治
(57)【要約】
【課題】下層ScAlN膜の所定領域でのマイクロクラックの発生を抑制する。
【解決手段】圧電装置1の製造方法において、絶縁膜12の上に下部電極膜14を形成した後、下部電極膜14の上方の位置と、絶縁膜12のうち下部電極膜14が配置されていない非電極領域402の上方の位置との両方にわたって連続する下層ScAlN膜15を形成する。その後、下層ScAlN膜15のうち非電極領域402の上方に位置するとともに絶縁膜12の上面に沿う方向での下部電極膜14の隣に位置する所定領域151に対して、イオン注入する。その後、下層ScAlN膜15の上に、中間電極膜16、上層ScAlN膜17、上部電極膜18を順に形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電装置であって、
支持体本体部(4)と空間部(5)とを有する支持体(2)と、
少なくとも前記支持体本体部の上方に配置された下部電極膜(14)と、
前記支持体本体部と前記空間部とのそれぞれの上方に配置され、前記下部電極膜の上方の位置および前記支持体本体部のうち前記下部電極膜が配置されていない非電極領域(402)の上方の位置の両方にわたって連続しており、ScAlNで構成された下層ScAlN膜(15)と、
前記下部電極膜の少なくとも一部の上方に配置され、前記下層ScAlN膜の上に積層された中間電極膜(16)と、
前記支持体本体部と前記空間部とのそれぞれの上方に配置され、前記中間電極膜の上および前記下層ScAlN膜のうち前記中間電極膜が配置されていない領域の上に積層され、ScAlNで構成された上層ScAlN膜(17)と、
前記中間電極膜の少なくとも一部の上方に配置され、前記上層ScAlN膜の上に積層された上部電極膜(18)と、を備え、
前記下層ScAlN膜と前記上層ScAlN膜とを含む積層体(3)のうち前記空間部の上方に位置する部分(302)は、メンブレン構造体であり、
前記下層ScAlN膜は、前記支持体本体部の前記非電極領域の上方に位置するとともに、前記支持体本体部の上面に沿う方向での前記下部電極膜の隣に位置する所定領域(151、151A、151B、151C、151D)を有し、
前記所定領域での所定元素の濃度は、前記下層ScAlN膜のうち前記メンブレン構造体を構成するメンブレン領域(152)と比較して、高くなっている、圧電装置。
【請求項2】
前記所定元素は、Al、Sc、N、または、これらと同族の元素、あるいは、希ガス、あるいは、酸素である、請求項1に記載の圧電装置。
【請求項3】
前記所定領域(151C)のうち上側に位置する上側部分(151C1)と比較して、前記所定領域のうち前記上側部分よりも下側に位置する下側部分(151C2)での前記所定元素の濃度は、低くなっている、請求項1または2に記載の圧電装置。
【請求項4】
前記下側部分は、前記下層ScAlN膜の下端からの厚さ(T4)が100nmの部分である、請求項3に記載の圧電装置。
【請求項5】
前記所定領域(151D)の少なくとも一部は、アモルファスである、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の圧電装置。
【請求項6】
圧電装置の製造方法であって、
支持体(2)の上に下部電極膜(14)を形成することと、
前記下部電極膜の上方の位置と、前記支持体のうち前記下部電極膜が配置されていない非電極領域(402)の上方の位置との両方にわたって連続し、ScAlNで構成された下層ScAlN膜(15)を形成することと、
前記下層ScAlN膜の上に中間電極膜(16)を形成することと、
前記中間電極膜の形成前または形成後に、前記下層ScAlN膜のうち前記非電極領域の上方に位置するとともに前記支持体の上面に沿う方向での前記下部電極膜の隣に位置する所定領域(151、151A、151B、151C、151D)に対して、イオン注入することと、
前記中間電極膜の上および前記下層ScAlN膜のうち前記中間電極膜が配置されていない領域の上に、ScAlNで構成された上層ScAlN膜(17)を形成することと、
前記上層ScAlN膜の上に上部電極膜(18)を形成することと、を含む、圧電装置の製造方法。
【請求項7】
前記イオン注入することにおいては、イオン種として、Al、Sc、N、または、これらと同族の元素、あるいは、希ガス、あるいは、酸素が用いられる、請求項6に記載の圧電装置の製造方法。
【請求項8】
前記イオン注入することにおいては、前記下層ScAlN膜の形成途中に、1回または複数回、イオン注入が行われる、請求項6または7に記載の圧電装置の製造方法。
【請求項9】
前記イオン注入することにおいては、前記所定領域(151C)のうち上側に位置する上側部分(151C1)に対するイオン注入量と比較して、前記所定領域のうち前記上側部分よりも下側に位置する下側部分(151C2)に対するイオン注入量を少なくする、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の圧電装置の製造方法。
【請求項10】
前記下側部分は、前記下層ScAlN膜の下端からの厚さ(T4)が100nmの部分である、請求項9に記載の圧電装置の製造方法。
【請求項11】
前記イオン注入することにおいては、イオン注入することによって、前記所定領域(151D)の少なくとも一部をアモルファス化させる、請求項6ないし10のいずれか1つに記載の圧電装置の製造方法。
【請求項12】
圧電装置の製造方法であって、
支持体(2)の上に下部電極膜(14)を形成することと、
前記下部電極膜の上方の位置と、前記支持体のうち前記下部電極膜が配置されていない非電極領域(402)の上方の位置との両方にわたって連続し、ScAlNで構成された下層ScAlN膜(15)を形成することと、
前記下層ScAlN膜のうち前記非電極領域の上方に位置するとともに前記支持体の上面に沿う方向での前記下部電極膜の隣に位置する所定領域(151E)に対して、レーザ光(La)を照射して加熱することと、
前記レーザ光の照射後に、前記下層ScAlN膜の上に中間電極膜(16)を形成することと、
前記中間電極膜の上および前記下層ScAlN膜のうち前記中間電極膜が配置されていない領域の上に、ScAlNで構成された上層ScAlN膜(17)を形成することと、
前記上層ScAlN膜の上に上部電極膜(18)を形成することと、を含む、圧電装置の製造方法。
【請求項13】
前記レーザ光を照射して加熱することにおいては、加熱温度は600℃以上1000℃以下である、請求項12に記載の圧電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧電装置の製造方法において、圧電膜の一部に対して、イオン注入またはレーザ光を照射することによって、変性部を形成することが記載されている。これは、圧電膜の面に沿った横方向の圧電膜の収縮によるクラックの発生を抑えるために行われる。すなわち、圧電膜をゾルゲル法などで形成し、焼成する際に、圧電膜が横方向に収縮することで、圧電膜にクラックが発生する。圧電膜の面積が大きいほど、圧電膜に生じる横方向の応力が大きく、クラックが発生しやすい。そこで、変性部によって圧電膜を横方向に複数の部分に分割することで、横方向に発生する応力を分断し、クラックの発生を抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧電装置として、支持体の上に配置された下部電極膜と、下部電極膜の上方の位置および支持体のうち下部電極膜が配置されていない非電極領域の上方の位置の両方にわたって連続して配置された下層ScAlN膜と、下層ScAlN膜の上に配置された中間電極膜と、中間電極膜の上に配置された上層ScAlN膜と、上層ScAlN膜の上に配置された上部電極膜と、を備えるものがある。この構造の圧電装置の製造では、支持体の上に下部電極膜を形成することが行われる。その後、下部電極膜の上方の位置と、支持体の非電極領域の上方の位置との両方にわたって連続して、下層ScAlN膜を形成することが行われる。その後、下層ScAlN膜の上に、中間電極膜と、上層ScAlN膜と、上部電極膜とを順に形成することが行われる。
【0005】
ここで、下層ScAlN膜の形成後において、下層ScAlN膜のうち支持体の非電極領域の上に位置するとともに支持体の上面に沿う方向での下部電極膜の隣に位置する所定領域では、下部電極膜の有無による段差により、局所的に引張り応力が生じた状態、または、他の領域よりも小さな圧縮応力が生じた状態となる。このため、この所定領域の結晶性は、他の領域よりも悪い。
【0006】
この状態で、下層ScAlN膜の上に、中間電極膜と、上層ScAlN膜とが形成されると、これらの膜応力が、下層ScAlN膜の所定領域に印加される。これにより、中間電極膜および上層ScAlN膜の形成前に所定領域に生じていた引張り応力が増大する。または、中間電極膜および上層ScAlN膜の形成前に所定領域に生じていた小さな圧縮応力が大きな引張り応力に変わる。所定領域に生じている引張り応力が大きいと、所定領域にマイクロクラックが発生する。このマイクロクラックは、下部電極膜と中間電極膜の間に電流が流れやすい経路(すなわち、リークパス)となる。このため、マイクロクラックの発生を抑制することが求められる。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、下層ScAlN膜の所定領域でのマイクロクラックの発生を抑制することができる圧電装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
圧電装置は、
支持体本体部(4)と空間部(5)とを有する支持体(2)と、
少なくとも支持体本体部の上方に配置された下部電極膜(14)と、
支持体本体部と空間部とのそれぞれの上方に配置され、下部電極膜の上方の位置および支持体本体部のうち下部電極膜が配置されていない非電極領域(402)の上方の位置の両方にわたって連続しており、ScAlNで構成された下層ScAlN膜(15)と、
下部電極膜の少なくとも一部の上方に配置され、下層ScAlN膜の上に積層された中間電極膜(16)と、
支持体本体部と空間部とのそれぞれの上方に配置され、中間電極膜の上および下層ScAlN膜のうち中間電極膜が配置されていない領域の上に積層され、ScAlNで構成された上層ScAlN膜(17)と、
中間電極膜の少なくとも一部の上方に配置され、上層ScAlN膜の上に積層された上部電極膜(18)と、を備え、
下層ScAlN膜と上層ScAlN膜とを含む積層体(3)のうち空間部の上方に位置する部分(302)は、メンブレン構造体であり、
下層ScAlN膜は、支持体本体部の非電極領域の上方に位置するとともに、支持体本体部の上面に沿う方向での下部電極膜の隣に位置する所定領域(151、151A、151B、151C、151D)を有し、
所定領域での所定元素の濃度は、下層ScAlN膜のうちメンブレン構造体を構成するメンブレン領域(152)と比較して、高くなっている。
【0009】
この圧電装置は、下層ScAlN膜の所定領域に対してイオン注入することで製造される。圧電装置の製造時に、下層ScAlN膜の所定領域にイオン注入することで、所定領域に圧縮応力を付加することができる。このため、下層ScAlN膜の上に中間電極膜と上層ScAlN膜とが形成されることで、下層ScAlN膜に引張り応力が付加されても、所定領域に圧縮応力が生じた状態を保つことができる。または、所定領域に引張り応力が生じた状態であっても、その引張り応力の値を低くすることができる。よって、下層ScAlN膜の所定領域でのマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0010】
また、請求項6に記載の発明によれば、
圧電装置の製造方法は、
支持体(2)の上に下部電極膜(14)を形成することと、
下部電極膜の上方の位置と、支持体のうち下部電極膜が配置されていない非電極領域(402)の上方の位置との両方にわたって連続し、ScAlNで構成された下層ScAlN膜(15)を形成することと、
下層ScAlN膜の上に中間電極膜(16)を形成することと、
中間電極膜の形成前または形成後に、下層ScAlN膜のうち非電極領域の上方に位置するとともに支持体の上面に沿う方向での下部電極膜の隣に位置する所定領域(151、151A、151B、151C、151D)に対して、イオン注入することと、
中間電極膜の上および下層ScAlN膜のうち中間電極膜が配置されていない領域の上に、ScAlNで構成された上層ScAlN膜(17)を形成することと、
上層ScAlN膜の上に上部電極膜(18)を形成することと、を含む。
【0011】
これによれば、下層ScAlN膜の所定領域にイオン注入することで、所定領域に圧縮応力を付加することができる。このため、下層ScAlN膜の上に中間電極膜と上層ScAlN膜とが形成されることで、下層ScAlN膜に引張り応力が付加されても、所定領域に圧縮応力が生じた状態を保つことができる。または、所定領域に引張り応力が生じた状態であっても、その引張り応力の値を低くすることができる。よって、下層ScAlN膜の所定領域でのマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0012】
また、請求項12に記載の発明によれば、
圧電装置の製造方法は、
支持体(2)の上に下部電極膜(14)を形成することと、
下部電極膜の上方の位置と、支持体のうち下部電極膜が配置されていない非電極領域(402)の上方の位置との両方にわたって連続し、ScAlNで構成された下層ScAlN膜(15)を形成することと、
下層ScAlN膜のうち非電極領域の上方に位置するとともに支持体の上面に沿う方向での下部電極膜の隣に位置する所定領域(151E)に対して、レーザ光(La)を照射して加熱することと、
レーザ光の照射後に、下層ScAlN膜の上に中間電極膜(16)を形成することと、
中間電極膜の上および下層ScAlN膜のうち中間電極膜が配置されていない領域の上に、ScAlNで構成された上層ScAlN膜(17)を形成することと、
上層ScAlN膜の上に上部電極膜(18)を形成することと、を含む。
【0013】
これによれば、下層ScAlN膜の所定領域を局所的に加熱することで、所定領域に圧縮応力を付加することができる。このため、下層ScAlN膜の上に中間電極膜と上層ScAlN膜とが形成されることで、下層ScAlN膜に引張り応力が付加されても、所定領域に圧縮応力が生じた状態を保つことができる。または、所定領域に引張り応力が生じた状態であっても、その引張り応力の値を低くすることができる。よって、下層ScAlN膜の所定領域でのマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】第1実施形態の圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図4】
図3に続く圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図5】
図4に続く圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図6】
図5に続く圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図8】第2実施形態の圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図9】
図8に続く圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図10】
図9に続く圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図11】第3実施形態の圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図12】第4実施形態の圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図13】第5実施形態の圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【
図14】第6実施形態の圧電装置の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態の圧電装置1は、マイクとして用いられる。圧電装置1は、支持体2と、圧電膜積層体3とを備える。
【0018】
支持体2は、圧電膜積層体3を支持する。支持体2は、支持体本体部4と空間部5とを有する。支持体本体部4は、基板11と、基板11の上に配置された絶縁膜12とを含む。基板11は、シリコン(Si)等で構成される。絶縁膜12は、酸化シリコン等の絶縁材料で構成される。絶縁膜12の上面が、支持体本体部4の上面を構成している。空間部5は、支持体2の中央部に配置されている。
【0019】
圧電膜積層体3は、支持体本体部4に支持されている。圧電膜積層体3は、支持体本体部4と空間部5とのそれぞれの上にわたって配置されている。圧電膜積層体3のうち支持体本体部4の上に位置する部分である固定部301は、支持体本体部4に固定されている。圧電膜積層体3のうち空間部5の上に位置する部分である浮遊部302は、浮遊した状態である。浮遊部302は、他の領域よりも薄肉のメンブレン構造体である。浮遊部302には、スリット303が形成されている。このため、浮遊部302における支持体本体部4から離れた側の端部は、固定されていない自由端である。浮遊部302における支持体本体部4側の端部は、固定されている固定端である。このように、浮遊部302は、カンチレバー(すなわち、一端が自由端であって他端が固定端である片持ち構造)である。
【0020】
図1、2に示すように、圧電膜積層体3は、圧電膜を含む複数の膜が積層されている。具体的には、圧電膜積層体3は、複数の膜として、AlN膜13と、下部電極膜14と、下層ScAlN膜15と、中間電極膜16と、上層ScAlN膜17と、上部電極膜18とを含む。
【0021】
AlN膜13は、AlN(すなわち、窒化アルミニウム)で構成される膜である。AlN膜13は、AlN膜13の上に形成される下部電極膜14および下層ScAlN膜15を構成する材料の結晶性の向上のために用いられるバッファ膜である。下部電極膜14は、主としてMoで構成される金属膜である。下部電極膜14は、Mo以外の金属元素を含む金属材料で構成されてもよい。
【0022】
AlN膜13および下部電極膜14は、支持体本体部4と空間部5とのそれぞれの上方に配置されている。AlN膜13のうち支持体本体部4の上方に位置する部分は、支持体本体部4の上面に接している。下部電極膜14は、AlN膜13の上面に接して、AlN膜13の上に積層されている。下部電極膜14およびAlN膜13は、所定の同じ平面パターンとされている。
【0023】
AlN膜13および下部電極膜14は、支持体本体部4の上方の位置から圧電膜積層体3の自由端となっている先端の位置まで連続して配置されている。しかしながら、AlN膜13および下部電極膜14は、空間部5の上方において、圧電膜積層体3の自由端となっている先端よりも支持体本体部4側に配置されてもよい。
【0024】
また、
図1の左側に示すように、AlN膜13および下部電極膜14の一部は、支持体本体部4の上方の位置であって、中間電極膜16および上部電極膜18よりも空間部5から離れた位置にあり、後述する第1コンタクトビア212と接続されている。
【0025】
図2に示すように、支持体本体部4の上方の位置に、AlN膜13および下部電極膜14のそれぞれの端部がある。このため、支持体本体部4は、その上方にAlN膜13および下部電極膜14が配置された電極領域401と、その上方にAlN膜13および下部電極膜14が配置されていない非電極領域402とを有する。
【0026】
下層ScAlN膜15は、多結晶のScAlN(すなわち、スカンジウム含有窒化アルミニウム)で構成される圧電膜である。ScAlNで構成されるとは、主成分がScAlNであることを意味し、下層ScAlN膜15にScAlN以外の成分が含まれてもよい。
図1に示すように、下層ScAlN膜15は、支持体本体部4と空間部5とのそれぞれの上方に配置されている。空間部5の上方の位置において、下層ScAlN膜15は、下部電極膜14の上面に接している。
図2に示すように、支持体本体部4の上方の位置において、下層ScAlN膜15は、下部電極膜の上方の位置および支持体本体部4のうち非電極領域402の上方の位置の両方にわたって連続している。より具体的には、下層ScAlN膜15は、下部電極膜14の上面および支持体本体部4の非電極領域402の上面の両方に接して連続している。
【0027】
中間電極膜16は、主としてMoで構成される金属膜である。中間電極膜16は、Mo以外の金属元素を含む金属材料で構成されてもよい。
図1に示すように、中間電極膜16は、支持体本体部4と空間部5とのそれぞれの上方に配置されている。中間電極膜16は、下部電極膜14の少なくとも一部の上方に配置されている。中間電極膜16は、下層ScAlN膜15の上面に接して、下層ScAlN膜15の上に積層されている。中間電極膜16は、他の膜を介して、下層ScAlN膜15の上に積層されてもよい。
【0028】
図1に示すように、中間電極膜16の一部は、下層ScAlN膜15を挟んで、下層ScAlN膜15の厚さ方向で、下部電極膜14の一部と対向している。また、
図1の右側に示すように、中間電極膜16の他の一部は、支持体本体部4の上方の位置であって、下部電極膜14および上部電極膜18よりも、空間部5から離れた位置にあり、後述する第2コンタクトビア222と接続されている。
【0029】
中間電極膜16は、支持体本体部4の上方の位置から圧電膜積層体3の自由端となっている先端の位置まで連続して延び広がっている。しかしながら、中間電極膜16は、空間部5の上方において、圧電膜積層体3の自由端となっている先端よりも支持体本体部4側に配置されてもよい。
【0030】
上層ScAlN膜17は、多結晶のScAlNで構成される圧電膜である。ScAlNで構成されるとは、主成分がScAlNであることを意味し、上層ScAlN膜17にScAlN以外の成分が含まれてもよい。上層ScAlN膜17は、支持体本体部4と空間部5とのそれぞれの上方に配置されている。上層ScAlN膜17は、中間電極膜16の上および下層ScAlN膜15のうち中間電極膜16が配置されていない領域の上に積層されている。
【0031】
上部電極膜18は、主としてMoで構成される金属膜である。上部電極膜18は、Mo以外の金属元素を含む金属材料で構成されてもよい。上部電極膜18は、支持体本体部4と空間部5とのそれぞれの上方に配置されている。上部電極膜18は、中間電極膜16の少なくとも一部の上方に配置されている。上部電極膜18の一部は、上層ScAlN膜17を挟んで、中間電極膜16の一部と対向している。上部電極膜18は、上層ScAlN膜17の上面に接して、上層ScAlN膜17の上に積層されている。上部電極膜18は、他の膜を介して、上層ScAlN膜17の上に積層されてもよい。
【0032】
上部電極膜18は、支持体本体部4の上方の位置から圧電膜積層体3の自由端となっている先端の位置まで連続して配置されている。しかしながら、上部電極膜18は、空間部5の上方において、圧電膜積層体3の自由端となっている先端よりも支持体本体部4側に配置されてもよい。
【0033】
また、
図1に示すように、圧電装置1は、圧電膜積層体3の一部を覆う保護膜20と、下部電極膜14に接続された下部コンタクト電極部21と、中間電極膜16に接続された中間コンタクト電極部22とを備える。保護膜20は、支持体本体部4の上方に配置されている。
【0034】
下部コンタクト電極部21は、支持体本体部4の上方に配置されている。下部コンタクト電極部21は、保護膜20、上層ScAlN膜17および下層ScAlN膜15を貫通する第1貫通孔211に設けられた第1コンタクトビア212と、保護膜20の上に設けられ、第1コンタクトビア212に接続された第1配線213とを含む。
【0035】
中間コンタクト電極部22は、支持体本体部4の上方であって、下部コンタクト電極部21が配置された位置とは別の位置に配置されている。中間コンタクト電極部22は、保護膜20および上層ScAlN膜17を貫通する第2貫通孔221に設けられた第2コンタクトビア222と、保護膜10の上に設けられ、第2コンタクトビア222に接続された第2配線223とを含む。
【0036】
次に、上記した構造の圧電装置1の製造方法について説明する。
図3に示すように、支持体2を構成する絶縁膜12の上に所定の平面形状の下部電極膜14を形成することが行われる。
図3は、
図2に対応する部位の支持体2および下部電極膜14等の断面図であり、基板11の図示が省略されている。
【0037】
具体的には、図示しない基板11の上に絶縁膜12を形成する。その後、絶縁膜12の上にAlN膜13、下部電極膜14を順に形成する。その後、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、下部電極膜14とAlN膜13との両方を同じ平面形状にパターニングする。絶縁膜12の上に、下部電極膜14とAlN膜13のそれぞれの端部が位置する。このため、絶縁膜12は、AlN膜13および下部電極膜14が配置された電極領域401と、AlN膜13および下部電極膜14が配置されていない非電極領域402とを有する。
【0038】
続いて、
図4に示すように、下部電極膜14の上に下層ScAlN膜15を形成することが行われる。このとき、下層ScAlN膜15は、下部電極膜14の上方の位置と絶縁膜12の非電極領域402の上方の位置との両方にわたって連続して形成される。より具体的には、下層ScAlN膜15は、下部電極膜14の上面と絶縁膜12の非電極領域402の上面との両方に接して連続して形成される。
【0039】
そして、下層ScAlN膜15の形成完了後に、
図5に示すように、下層ScAlN膜15に対してイオン注入することが行われる。形成完了後とは、形成予定の膜厚とされた下層ScAlN膜15が形成されたことを意味する。
【0040】
このとき、下層ScAlN膜15の全域に、イオン注入すると、カンチレバーである
図1中の浮遊部302の応力設計が崩れる。そこで、下層ScAlN膜15のうち所定領域151を除く領域を覆うレジストマスク31を形成する。これにより、下層ScAlN膜15のうち
図1中の浮遊部302を構成する領域に対してイオン注入を行わず、下層ScAlN膜15の所定領域151に対してイオン注入する。この所定領域151は、下層ScAlN膜15のうち絶縁膜12の非電極領域402の上に位置するとともに絶縁膜12の上面に沿う方向での下部電極膜14の隣に位置する領域である。より具体的には、この所定領域151は、下部電極膜14の端部から下層ScAlN膜15の膜厚T1以下の所定距離D1までの領域である。
【0041】
また、イオン注入された元素が後工程の熱処理で活性化すると、下層ScAlN膜15の絶縁抵抗が低下し、下層ScAlN膜15の導電化に至ってしまう。そこで、イオン種として、Al、Sc、N、または、これらと同族の元素、あるいは、希ガス、あるいは、酸素が用いられる。これにより、下層ScAlN膜15の絶縁抵抗の低下を抑制することができる。なお、本実施形態で用いられるイオン種は、1つであるが、複数であってもよい。イオン注入した後、レジストマスク31が除去される。
【0042】
続いて、
図6に示すように、下層ScAlN膜15の上に、所定の平面形状の中間電極膜16を形成することが行われる。中間電極膜16は、下部電極膜14の少なくとも一部の上方に配置される。続いて、中間電極膜16の上に、上層ScAlN膜17を形成することが行われる。上層ScAlN膜17は、中間電極膜16の上および下層ScAlN膜15のうち中間電極膜16が形成されていない領域の上に配置される。上層ScAlN膜17は、下部電極膜14の上方の位置から絶縁膜12の非電極領域402の上方の位置にわたって配置される。続いて、上層ScAlN膜17の上に所定の平面形状の上部電極膜18を形成することが行われる。上部電極膜18は、中間電極膜16の少なくとも一部の上方に配置される。
【0043】
その後、図示しないが、圧電膜積層体3に対するフォトリソグラフィおよびエッチングにより、スリット303を形成することが行われる。また、図示しないが、支持体2に対するフォトリソグラフィおよびエッチングにより、支持体2の空間部5を形成することが行われる。なお、スリット303と空間部5とのそれぞれを形成する時期は、変更可能である。
【0044】
このようにして、本実施形態の圧電装置1が製造される。上記の通り、本実施形態の圧電装置1の製造方法では、下層ScAlN膜15の所定領域151に対してイオン注入が行われる。このため、製造後の圧電装置1では、
図2に示される下層ScAlN膜15のうち所定領域151での所定元素の濃度は、
図1に示される下層ScAlN膜15のうちカンチレバーを構成するカンチレバー領域152と比較して高い。比較する所定元素は、同じ元素である。所定元素は、上記したイオン種のいずれかの元素である。カンチレバー領域152は、メンブレン構造体を構成するメンブレン領域に対応する。
【0045】
次に、本実施形態の効果について、
図7に示す比較例1の圧電装置J1と対比して説明する。比較例1の圧電装置J1の製造方法は、下層ScAlN膜15に対してイオン注入を行わずに、圧電装置J1を製造する点で、本実施形態と異なる。圧電装置J1の製造方法および圧電装置J1の他の構成は、本実施形態の圧電装置1の製造方法および圧電装置1と同じである。
【0046】
比較例1の製造方法によって圧電装置J1を製造する場合、下層ScAlN膜15の形成時において、下層ScAlN膜15の所定領域151Zでは、下部電極膜14の有無による段差により、局所的に引張り応力が生じた状態、または、他の領域よりも小さな圧縮応力が生じた状態となる。このため、この所定領域151Zの結晶性は、他の領域よりも悪い。所定領域151Zは、本実施形態の所定領域151と同じ場所である。
【0047】
この状態で、下層ScAlN膜15の上に、下部電極膜14の上方の位置から非電極領域402の上方の位置にわたって、中間電極膜16と上層ScAlN膜17とが順に形成されると、これらの膜応力が、下層ScAlN膜15の所定領域151Zに印加される。これにより、中間電極膜16および上層ScAlN膜17の形成前に所定領域151Zに生じていた引張り応力が増大する。または、中間電極膜16および上層ScAlN膜17の形成前に所定領域151Zに生じていた小さな圧縮応力が大きな引張り応力に変わる。所定領域151Zに生じている引張り応力が大きいと、所定領域151ZにマイクロクラックC1が発生する。このマイクロクラックC1は、下部電極膜14と中間電極膜16との間に電流が流れやすい経路(すなわち、リークパス)となりうる。このため、マイクロクラックC1が発生すると、下部電極膜14と中間電極膜16との間で形成されるキャパシタンスの誘電損失が増加する。これが、マイクとしてのノイズにつながることで、マイクの特性が劣化する。
【0048】
これに対して、本実施形態の圧電装置1の製造方法は、下層ScAlN膜15の形成後であって、中間電極膜16の形成前に、下層ScAlN膜15の所定領域151に対してイオン注入を行うことを含む。
【0049】
これによれば、下層ScAlN膜15の所定領域151にイオン注入することで、所定領域151に圧縮応力を付加することができる。このため、下層ScAlN膜15の上に中間電極膜16と上層ScAlN膜17とが形成されることで、下層ScAlN膜15に引張り応力が付加されても、所定領域151に圧縮応力が生じた状態を保つことができる。または、所定領域151に引張り応力が生じた状態であっても、その引張り応力の値を低くすることができる。よって、下層ScAlN膜15の所定領域151でのマイクロクラックC1の発生を抑制することができる。
【0050】
ここで、所定領域151に圧縮応力を付加するためのイオン注入量の一例について言及する。本発明者の実験結果によれば、注入したイオンの膜中濃度にして、1×1018atms/cm3で、約100MPaの応力シフトが得られた。これは、例えば、膜厚が500nmの膜に対するイオン注入量で表現すると、5×1013atms/cm2である。また、応力シフト量は、注入したイオンの膜中濃度にほぼ比例することがわかっている。なお、上記の実験結果は、Si、Mgのそれぞれを注入した場合の実験結果であり、両者の間で大きな差異はない。したがって、イオン半径的にその中間であるScやAlをイオン注入した場合も同等の結果が得られると言える。
【0051】
また、本実施形態の圧電装置1では、下層ScAlN膜15のうち所定領域151での所定元素の濃度は、下層ScAlN膜15のうちカンチレバー領域152と比較して高い。これは、所定領域151に対する上記したイオン注入によって実現される。すなわち、本実施形態の圧電装置1は、上記した圧電装置1の製造方法によって製造される。このため、本実施形態の圧電装置1によれば、上記した圧電装置1の製造方法と同じ効果が得られる。
【0052】
また、本実施形態の製造方法では、下層ScAlN膜15のうちカンチレバー領域152に対してイオン注入を行っていないが、カンチレバーの応力制御を目的として、ある程度のイオン注入を行ってもよい。この場合であっても、下層ScAlN膜15の所定領域151の所定元素の濃度は、下層ScAlN膜のうちカンチレバー領域152と比較して高い。
【0053】
また、本実施形態の製造方法では、下層ScAlN膜15の所定領域151に対してのイオン注入において、イオン種として、Al、Sc、N、または、これらと同族の元素、あるいは、希ガス、あるいは、酸素が用いられる。しかしながら、イオン注入の後工程で熱処理が行われない場合、下層ScAlN膜15の絶縁抵抗の低下が許容される場合等においては、イオン種として他の元素が用いられてもよい。
【0054】
また、本実施形態の圧電装置1のうち
図2に示す部分では、中間コンタクト電極部22との接続のために、中間電極膜16は、下部電極膜14の上方の位置から非電極領域402の上方の位置にわたって配置される。しかしながら、圧電装置1のうち
図2に示す部分以外では、中間電極膜16は、下部電極膜14の上方の位置に配置されていればよく、非電極領域402の上方の位置に配置されていなくてもよい。この場合であっても、圧電装置1の製造において、上層ScAlN膜17が形成されたときに、少なくとも上層ScAlN膜17の膜応力が、下層ScAlN膜15の所定領域151に印加されることで、比較例1の圧電装置J1の課題が生じるからである。
【0055】
(第2実施形態)
本実施形態は、圧電装置1の製造方法において、下層ScAlN膜15の形成途中に、下層ScAlN膜15に対してイオン注入することが行われる点で、第1実施形態と異なる。具体的には、下部電極膜14を所定の平面形状にパターニングした後、
図8に示すように、下層ScAlN膜15を形成するときに、下層ScAlN膜15の成膜を中断する。このとき、下層ScAlN膜15の形成途中の膜厚T2は、最終的な膜厚T3よりも小さい。例えば、最終的な膜厚T3は500nmであり、形成途中の膜厚T2は250nmである。
【0056】
続いて、
図9に示すように、形成途中の下層ScAlN膜15の所定領域151Aに対して、イオン注入する。この所定領域151Aは、絶縁膜12の上面に沿う方向での範囲が第1実施形態の所定領域151と同じである。このイオン注入は、レジストマスク32を用いて、第1実施形態でのイオン注入と同じ方法で行われる。レジストマスク32は、レジストマスク31と同じ位置に形成される。
【0057】
続いて、
図10に示すように、下層ScAlN膜15の成膜を再開し、最終的な膜厚T3まで、下層ScAlN膜15を成膜する。これにより、下層ScAlN膜15が形成される。
【0058】
本実施形態では、下層ScAlN膜15の成膜を再開して最終的な膜厚まで積み増した分に対してのイオン注入は、行われない。このため、製造後の圧電装置1において、下層ScAlN膜15の所定領域151のうち下側に位置する下側部分での所定元素の濃度は、所定領域151のうち下側部分よりも上側に位置する上側部分と比較して高い。下側部分は、イオン注入された所定領域151Aに対応する。
【0059】
圧電装置1の製造方法の他の構成および圧電装置1の他の構成は、第1実施形態と同じである。本実施形態によっても第1実施形態と同じ効果が得られる。また、本実施形態によれば、下記の効果が得られる。
【0060】
本実施形態と異なり、最終的な膜厚T3とされた下層ScAlN膜15に対してイオン注入する場合、下層ScAlN膜15の下側部分まで、イオンを注入するには、加速電圧を上げることが必要となる。加速電圧を上げると、下層ScAlN膜15の上側部分を通過するイオン量が多くなり、上側部分の結晶性が劣化し、リーク電流が増える可能性がある。
【0061】
これに対して、本実施形態によれば、形成途中の下層ScAlN膜15に対してイオン注入するので、加速電圧を上げなくて済む。また、イオンの通過による上側部分の結晶性の劣化を回避することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、下層ScAlN膜15の形成途中に、イオン注入を1回行うが、イオン注入を複数回行ってもよい。すなわち、下層ScAlN膜15の形成が複数回中断され、それぞれの中断後にイオン注入を行ってもよい。
【0063】
(第3実施形態)
本実施形態は、第2実施形態の圧電装置1の製造方法に対して、イオン注入の工程を追加したものである。具体的には、第2実施形態と同様に、
図10に示すように、イオン注入後に、下層ScAlN膜15の成膜を再開し、最終的な膜厚T3まで、下層ScAlN膜15を成膜する。その後、第2実施形態と異なり、
図11に示すように、下層ScAlN膜15のうち最終的な膜厚まで積み増した分の所定領域151Bに対して、イオン注入することが行われる。この所定領域151Bは、絶縁膜12の上面に沿う方向での範囲が第1実施形態の所定領域151と同じである。このイオン注入は、レジストマスク33を用いて、第1実施形態でのイオン注入と同じ方法で行われる。レジストマスク33は、レジストマスク31と同じ位置に形成される。
【0064】
このとき、所定領域151のうち上側部分(すなわち、所定領域151B)の所定元素の濃度を、所定領域151のうち下側部分(すなわち、所定領域151A)での所定元素の濃度と同じとする、または、所定領域151のうち下側部分での所定元素の濃度よりも低くする。なお、所定領域151のうち上側部分の所定元素の濃度を、所定領域151のうち下側部分での所定元素の濃度よりも高くしてもよい。
【0065】
このように、下層ScAlN膜15の形成途中と、下層ScAlN膜15の形成完了後とのそれぞれの時期に、下層ScAlN膜15に対してイオン注入してもよい。本実施形態によっても、第2実施形態と同じ効果が得られる。
【0066】
(第4実施形態)
図12に示すように、本実施形態では、下層ScAlN膜15に対してイオン注入することにおいて、所定領域151Cのうち上側に位置する上側部分151C1に対するイオン注入量と比較して、所定領域151Cのうち上側部分151C1よりも下側に位置する下側部分151C2に対するイオン注入量を少なくする。この所定領域151Cは、第1実施形態の所定領域151と同じ範囲である。このため、製造後の圧電装置1では、上側部分151C1と比較して、下側部分151C2での所定元素の濃度は、低くなっている。下側部分151C2は、下層ScAlN膜15の下端からの厚さT4が100nmの部分であることが好ましい。圧電装置1の製造方法の他の構成および圧電装置1の他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0067】
下層ScAlN膜15の成膜において、成長初期の膜は、圧縮応力が付加された状態になりやすい。このため、所定領域151Cの下側部分151C2、特に、下層ScAlN膜15の下端からの厚さT4が100nmの部分に、イオン注入をしなくてもよく、上側部分151C1に対してイオン注入することで、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0068】
なお、下側部分151C2は、下層ScAlN膜15の下端からの厚さT4が100nmの部分であることが好ましいが、これに限られない。下側部分151C2の下層ScAlN膜15の下端からの厚さT4は、100nmよりも大きくてもよい。
【0069】
(第5実施形態)
図13に示すように、本実施形態では、下層ScAlN膜15に対してイオン注入することにおいて、イオン注入することによって、所定領域151Dの全部をアモルファス化させる。この所定領域151Dは、第1実施形態の所定領域151と同じ範囲である。このとき、アモルファス化させるために、イオン注入量、注入深さは、膜中濃度が1×10
20atoms/cm
3となるように、選ばれる。このため、製造後の圧電装置1では、所定領域151Dの全部は、アモルファスである。
【0070】
圧電装置1の製造方法の他の構成および圧電装置1の他の構成は、第1実施形態と同じである。本実施形態によっても、第1実施形態と同じ効果が得られる。さらに、本実施形態によれば、次の効果が得られる。
【0071】
下層ScAlN膜15の所定領域151Dが多結晶の状態である場合、粒界にリークパスが形成される可能性がある。これに対して、本実施形態によれば、所定領域151Dがアモルファスの状態であり、粒界が存在しないので、リークパスの形成を回避することができる。
【0072】
なお、本実施形態では、圧電装置1の製造方法において、イオン注入することによって、所定領域151Dの全部をアモルファス化させるが、所定領域151Dのうち一部のみを、アモルファス化させてもよい。この場合であっても、所定領域151Dのうちアモルファスの状態である部分において、上記した効果が得られる。
【0073】
以上の通り、圧電装置1の製造方法において、イオン注入することによって、所定領域151Dの少なくとも一部をアモルファス化させればよい。圧電装置1において、所定領域151Dの少なくとも一部がアモルファスであればよい。また、第2~第4実施形態において、所定領域151A、151B、151Cの少なくとも一部をアモルファス化させてもよい。
【0074】
(第6実施形態)
図14に示すように、本実施形態では、第1実施形態の圧電装置1の製造方法において、下層ScAlN膜15を形成した後に、下層ScAlN膜15の所定領域151に対して、イオン注入することにかえて、下層ScAlN膜15の所定領域151Eに対して、レーザ光Laを照射して加熱することを行う。所定領域151Eは、第1実施形態の所定領域151と同じ範囲である。
【0075】
このときの所定領域151Eの加熱温度は、所定領域151Eに圧縮応力を付加することができる温度とされる。このような温度は、例えば、600℃以上である。また、ScAlNの結晶性の劣化を防止するために、加熱温度は、1000℃以下であることが好ましい。
【0076】
レーザ光Laを照射するレーザ加工機としては、CO2、ファイバーなどの市販のレーザ加工機を用いることができる。ただし、波長の短いレーザ光ほどビーム径を小さくすることが可能であり、昇温領域を限定しやすいため、波長の短いレーザ光を照射するレーザ加工機を用いることが好ましい。
【0077】
このレーザ光Laを照射して加熱するときでは、
図1に示される下層ScAlN膜15のうちカンチレバー領域152は、加熱処理されない。
【0078】
レーザ光Laの照射後に、下層ScAlN膜15の上に中間電極膜16を形成することが行われる。圧電装置1の製造方法の他の工程は、第1実施形態と同じである。圧電装置1の構成は、第1実施形態と同じである。
【0079】
本実施形態の圧電装置1の製造方法によれば、下層ScAlN膜15の所定領域151Eを局所的に加熱することで、所定領域151Eに圧縮応力を付加することができる。このため、下層ScAlN膜15の上に中間電極膜16と上層ScAlN膜17とが形成されることで、下層ScAlN膜15に引張り応力が付加されても、所定領域151Eに圧縮応力が生じた状態を保つことができる。または、所定領域151Eに引張り応力が生じた状態であっても、その引張り応力の値を低くすることができる。よって、下層ScAlN膜15の所定領域151Eでのマイクロクラックの発生を抑制することができる。
(他の実施形態)
【0080】
(1)第1~第5実施形態では、下層ScAlN膜15に対してのイオン注入は、中間電極膜16の形成前に行われる。しかしながら、下層ScAlN膜15に対してのイオン注入は、中間電極膜16の形成後に行われてもよい。この場合、中間電極膜16越しにイオン注入する。
【0081】
(2)上記した各実施形態では、支持体本体部4は、基板11と絶縁膜12とを含む。しかしながら、支持体本体部4は、絶縁膜12を含まず、基板11のみで構成されてもよい。また、支持体本体部4は、基板11と絶縁膜12に加えて、他の部材を含んでもよい。
【0082】
(3)上記した各実施形態では、下部電極膜14は、AlN膜13を介して、支持体本体部4の上方に配置されている。しかしながら、下部電極膜14は、支持体本体部4の上面に接した状態で、支持体本体部4の上方に配置されてもよい。
【0083】
(4)上記した各実施形態では、圧電装置1の製造において、
図3に示すように、AlN膜13は、下部電極膜14と同じ平面形状にパターニングされる。しかしながら、AlN膜13は、必ずしも下部電極膜14と同じ平面形状にパターニングされなくてもよい。例えば、下部電極膜14が所定の平面形状にパターニングされるとき、AlN膜13はエッチング除去されなくてもよい。この場合においても、下層ScAlN膜15は、下部電極膜14の上方の位置と絶縁膜12の非電極領域402の上方の位置との両方にわたって連続して形成される。この場合、
図4と異なり、下層ScAlN膜15は、非電極領域402の上にAlN膜13を介して配置されるため、非電極領域402の上面に接していない。しかしながら、この場合においても、下層ScAlN膜15の下側には、下部電極膜14の有無による段差が有り、各実施形態と同じことを行うことで、各実施形態と同じ効果が得られる。
【0084】
(5)上記した各実施形態では、
図1に示すように、浮遊部302にスリット303が形成されることで、浮遊部302はカンチレバーとされている。しかしながら、浮遊部302にスリット303が形成されていなくてもよい。すなわち、浮遊部302はカンチレバーでなくてもよい。
【0085】
(6)上記した各実施形態では、圧電装置1は、マイクとして用いられる。しかしながら、圧電装置1は、マイク以外のセンサに用いられてもよい。
【0086】
(7)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0087】
2 支持体
4 支持体本体部
5 空間部
14 下部電極膜
15 下層ScAlN膜
151 所定領域
16 中間電極膜
17 上層ScAlN膜
18 上部電極膜