(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108901
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】鋳型、インゴットの鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 7/06 20060101AFI20230731BHJP
B22D 7/00 20060101ALI20230731BHJP
B22D 21/00 20060101ALI20230731BHJP
B22C 9/08 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B22D7/06 H
B22D7/00 C
B22D7/00 G
B22D21/00 B
B22C9/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010204
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NB09
4E093NB10
4E093PA03
4E093PA10
(57)【要約】
【課題】型を複数個並べて構成される鋳型において、その鋳型の表面の損耗を抑えて長寿命化し、また、それぞれの型で形成されるインゴット同士の連結を抑え、簡易な操作でインゴットを鋳造することができる技術を提供する。
【解決手段】本発明は、インゴットの鋳造に用いる鋳型1であって、鋳鉄製又は鋳鋼製であり、所定の形状からなる型10が複数個連接して構成され、隣り合う型10同士の間には仕切り11が設けられており、上方から金属の熔湯を注湯する位置にある型10
Aとその型10
Aに接する型10
B1,10
B2との間に設けられている仕切り11
a1,
a2の頂部T
1の高さが最も高く、その型10
Aから離れるに従って仕切り11の頂部Tの高さが段階的に低くなるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットの鋳造に用いる鋳型であって、
鋳鉄製又は鋳鋼製であり、
所定の形状からなる型が複数個連接して構成され、隣り合う型同士の間には仕切りが設けられており、
上方から金属の熔湯を注湯する位置にある型とその型に接する型との間に設けられている仕切りの頂部の高さが最も高く、その型から離れるに従って仕切りの頂部の高さが段階的に低くなるように構成されている、
鋳型。
【請求項2】
ニッケル・コバルト・銅合金を鋳込むための鋳型である、
請求項1に記載の鋳型。
【請求項3】
前記型は、底面が略長方形である逆円錐台の形状である、
請求項1又は2に記載の鋳型。
【請求項4】
前記型は、その容量が1800cm3以上3200cm3以下である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳型。
【請求項5】
金属の熔湯を注湯する位置にある前記型から離れるに従って、仕切りの頂部の高さが3mm以上8mm以下の長さずつ段階的に低くなるように構成されている、
請求項1乃至4のいずれかに記載の鋳型。
【請求項6】
鋳型を用いてインゴットを鋳造する方法であって、
前記鋳型として、請求項1に記載の鋳型を用い、
前記鋳型を構成する複数の型の内表面に離型剤を塗布したのち、金属の熔湯を注湯する位置にある前記型に所定の速度で熔湯を注湯する工程を含む、
インゴットの鋳造方法。
【請求項7】
前記熔湯は、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解して得られ、
ニッケル・コバルト・銅合金からなるインゴットを鋳造する、
請求項6に記載のインゴットの鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を鋳込むための鋳型、及びその鋳型を用いたインゴットの鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、廃リチウムイオン電池を乾式製錬して得られたニッケル・コバルト・銅合金のインゴットを鋳造する場合、高い濡れ性を有するSiCを含有する耐火物からなる、底面が略長方形の略四角錘型の型を使用していた。なお、以下では、熔湯を鋳込むための単体の容器を「型」、この型が複数個連なって構成されるものを「鋳型」と定義する。
【0003】
このような型を使用して鋳造すると、当初の段階では、型表面は平滑であるものの、鋳造を繰り返すことで急速に型表面の平滑さが失われていき、鋳込まれた金属が型表面から離れることが難しくなる。また、型の平滑な表面も徐々に剥がれていき、短い期間のうちに型を取り換えざるを得なくなるという問題もある。
【0004】
さらに、
図3に例示するような、型を複数個並べた鋳型(従来の鋳型)100を用いて、同時に複数のインゴットを鋳造する場合、出湯位置の型からこの型に隣接する型に、また隣接する型からさらに隣の型に、十分な熔湯を注ぎ入れるためには、型と型の仕切りを熔湯が大きく乗り越える必要があるが、注湯した熔湯を冷却すると、その大きく乗り越えた部分がそのままの状態で固まり、インゴット同士を強固に連結させてしまう。そのため、連結したインゴットを個々に分離するために、人手が必要になるとともに、個々をきれいにかつ迅速に分離するための労力を要することになる。
【0005】
なお、特許文献1では、金、銀、白金族元素からなる群から選択されるいずれかの金属を構成する貴金属インゴットの鋳造に用いる型に関する技術が開示されている。具体的には、略水平に貴金属インゴットを支える床部と、床部の表面に描いた閉曲線から上へ突き出すように設けられる外枠部とを含み、床部の表面粗さRmaxが1.0mm~2.0mmであり、床部の表面上に炭素系離型薄膜又はシリコン系離型薄膜が形成されていることを特徴とする型を用いることで、金属を鋳造してインゴットを得る際に、表面が平滑なインゴットを得ることができることが示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1には、型を複数個並べて構成される鋳型を用いて金属を鋳造し、複数のインゴットを製造することについては具体的に開示されておらず、そのときに生じる、インゴット同士の連結の問題を解決する考え方も示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、型を複数個並べて構成される鋳型において、その鋳型の表面の損耗を抑えて長寿命化し、また、それぞれの型で形成されるインゴット同士の連結を抑え、簡易な操作でインゴットを鋳造することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を重ねた。その結果、鋳鉄製又は鋳鋼製で構成されるとともに、上方から金属の熔湯を注湯する位置にある型とその型に接する型との間に設けられている仕切りの頂部の高さが最も高く、その型から離れるに従って仕切りの頂部の高さが段階的に低くなるように構成される鋳型によれば、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、インゴットの鋳造に用いる鋳型であって、鋳鉄製又は鋳鋼製であり、所定の形状からなる型が複数個連接して構成され、隣り合う型同士の間には仕切りが設けられており、上方から金属の熔湯を注湯する位置にある型とその型に接する型との間に設けられている仕切りの頂部の高さが最も高く、その型から離れるに従って仕切りの頂部の高さが段階的に低くなるように構成されている、鋳型である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、ニッケル・コバルト・銅合金を鋳込むための鋳型である、鋳型である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記型は、底面が略長方形である逆円錐台の形状である、鋳型である。
【0013】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記型は、その容量が1800cm3以上3200cm3以下である、鋳型である。
【0014】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、金属の熔湯を注湯する位置にある前記型から離れるに従って、仕切りの頂部の高さが3mm以上8mm以下の長さずつ段階的に低くなるように構成されている、鋳型である。
【0015】
(6)本発明の第6の発明は、鋳型を用いてインゴットを鋳造する方法であって、前記鋳型として、請求項1に記載の鋳型を用い、前記鋳型を構成する複数の型の内表面に離型剤を塗布したのち、金属の熔湯を注湯する位置にある前記型に所定の速度で熔湯を注湯する工程を含む、インゴットの鋳造方法である。
【0016】
(7)本発明の第7の発明は、第6の発明において、前記熔湯は、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解して得られ、ニッケル・コバルト・銅合金からなるインゴットを鋳造する、インゴットの鋳造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、型を複数個並べて構成される鋳型において、その鋳型の表面の損耗を抑えて長寿命化し、また、それぞれの型で形成されるインゴット同士の連結を抑え、簡易な操作でインゴットを鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0020】
≪1.鋳型≫
本実施の形態に係る鋳型は、インゴットの鋳造に用いられるものであり、金属の熔湯を注湯して鋳込むための単体の容器である「型」が複数個連接して構成されるものである。
【0021】
インゴットにする金属としては、特に限定されず、いずれの金属のインゴット鋳造においても本実施の形態に係る鋳型を適用することができる。具体的には、例えば、上述したニッケル・コバルト・銅合金を挙げることができる。詳しくは後述するが、ニッケル・コバルト・銅合金のインゴットを鋳造するに際しては、例えば、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解して得られる熔湯を用い、その熔湯を鋳型に注湯し、この熔湯を冷却固化して製造することができる。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る鋳型の構成を模式的に示す図である。また、
図2は、鋳型の垂直断面図である。
【0023】
鋳型1は、所定の形状からなる型10が複数個連接して構成されており、隣り合う型10同士の間には仕切り11が設けられている。また、上方から金属の熔湯を注湯する位置にある型10Aとその型10Aに接する型(型10B1,型10B2)との間に設けられている仕切り11a1,11a2の頂部の高さが最も高く、その型から離れるに従って仕切り11の頂部の高さが段階的に低くなるように構成されている。
【0024】
なお、
図1、2に示す鋳型1では、9個の型10(10
A,10
B1,10
B2,10
C1,10
C2,10
D1,10
D2,10
E1,10
E2)が連接して構成されている例を示しているが、型10の個数については特に限定されない。
【0025】
(材質について)
本実施の形態に係る鋳型1は、鋳鉄製又は鋳鋼製である。鋳鉄又は鋳鋼は、耐熱温度が高いものであることが好ましく、これら鋳鉄又は鋳鋼には、耐熱温度の高い合金鋼、あるいは合金を含む。
【0026】
このような鋳鉄又は鋳鋼によって鋳型1を構成することで、複数回の鋳造操作によっても、また融点の高い金属種を対象とする鋳造に適用した場合であっても、鋳型1の表面の損耗を抑えることができ、その表面の荒れや剥がれ等の不具合の発生を防ぐことができる。これにより、鋳型1の寿命を延ばすことができ、鋳型1の交換頻度を減らして、効率的な鋳造操業を行うことが可能となる。
【0027】
(鋳型を構成する型について)
本実施の形態に係る鋳型1は、上述したように、複数の「型」10が連続して接続され構成されている。この型10は、金属の熔湯が注湯される単体の容器である。インゴットの鋳造においては、鋳型1の容量に対応する量の熔湯が、それぞれの型10の内部に順次注ぎ流れていき、一度の注湯操作によって、連接している型10の個数(
図1、2に示す鋳型1では9個)と同じ数のインゴットが得られる。
【0028】
型10の形状は、特に限定されない。鋳造するインゴットの形状に応じて設定することができる。例えば、
図1、2に示すように、底部の面(底面)が略長方形である逆四角錘台の形状とすることができる。この場合、当該鋳型1を用いて鋳造されるインゴットの形状も、型の形状に対応する略円錐台形となる。
【0029】
型10の形状を、
図1、2に示すように底面が略長方形である逆四角錘台の形状とする場合、その底面の略長方形は、長辺:短辺の比が2:1以上10:1以下であることが好ましい。長辺:短辺の比が2:1以上である略長方形の底面とすることで、熔湯が満たされた型10の内部を熔湯が移動し、隣の型10に至るまで間の熱落ちを抑えることができる。また、最も外側の型10(10
E1,10
E2)に対しても確りと熔湯を満たすことができる。さらに、長辺:短辺の比を10:1以下である略長方形の底面とすることで、熔湯が型10の内部に流れ込んだ後、その位置から型10の短辺側の端まで流れる間の熱落ちを抑え、型10の端部まで確りと熔湯を満たすことができる。
【0030】
または、型の形状としては、その断面視において略円弧状(略逆ドーム状)の底部を有するものとすることもできる。
【0031】
型10の容量は、特に限定されないが、例えば3200cm3以下とすることができる。例えば、ニッケル・コバルト・銅合金のインゴットを鋳造する場合を例とした場合、鋳型1を構成する型10の容量を3200cm3以下としたとき、得られるインゴットの重量はおよそ25kg以下となる。このような大きさのインゴットによれば、作業者1名で容易にハンドリングでき、またそのインゴットを熔解する作業を行うときにも容易に処理できる。また、型10の容量を3200cm3以下とすることで、自然冷却により容易にインゴットを得ることができ、さらに、鋳型1に対して熱膨張による負荷を最低限に抑え、鋳型1の寿命を最大限に引き延ばすことができる。
【0032】
なお、型10の容量の下限値としては、特に限定されないが、1800cm3以上とすることができる。例えば、型の容量を1800cm3未満としたとき、得られるニッケル・コバルト・銅合金のインゴットの重量はおよそ15kg以下となり、得られるインゴットの数が増えることによる、その後の作業の煩雑さが生じる可能性がある。
【0033】
(仕切りについて)
複数個の型10が連接して構成されている鋳型1において、隣り合う型10同士の間には仕切り11が設けられている。仕切り11は、隣り合う型10同士を仕切るものである。仕切り11は、板状のいわゆる仕切り板であることに限られず、
図1、2に示すように、隣り合う型10の側壁を接続して形成される構造体であってよい。なお、仕切り11は、連接する型10の個数に応じて複数設けられ、その数は「型の個数-1(マイナス1)」の数となる。
【0034】
ここで、鋳型1においては、上方から金属の熔湯を注湯する位置を基準として、隣り合う型10同士の間の仕切り11の頂部Tの高さが異なっている。このような構成であることにより、それぞれの型10で形成されるインゴット同士の連結を抑えることができ、簡易な操作でインゴットを鋳造することができる。
【0035】
より具体的に説明する。
図1、2に示す鋳型1においては、鋳型1の真ん中に位置する型10
Aに対して、その上方から金属の熔湯が注湯されていく。なお、熔湯が注湯される位置にある型10
Aを、説明の便宜のために「注湯型」10
Aと称する。鋳型1では、その注湯型10
Aと、注湯型10
Aに隣接する型10
B1,10
B2との間に設けられている仕切り11
a1,11
a2の頂部T
1の高さが最も高くなっている。そして、その注湯型10
Aから離れるに従って仕切り11の頂部T(T
2,T
3,T
4)の高さが段階的に低くなるように構成されている。
【0036】
鋳型1の構成は、
図2の断面図からより明確にわかる。
図2にあるように、鋳型1では、仕切り11
a1,11
a2の頂部T
1の高さが最も高く、その注湯型10
Aから離れるに従って仕切り11の頂部T(T
2,T
3,T
4)の高さが段階的に低くなり、頂部T
1から鋳型1の両端に向かって頂部T(T
2,T
3,T
4)が階段状に下がっている様子がわかる。
【0037】
このような鋳型1を用いた鋳造操作では、注湯型10Aに対して上方から金属の熔湯を注湯していくと、熔湯が注湯型10Aの内部を満たしたのち、その注湯型10Aと隣り合う型10B1,10B2の間に設けられる仕切り11a1,11a2を超えて、それら型10B1,10B2の内部を満たしていく。その後同様に、仕切り11b1,11b2を超えて、次の型10C1,10C2の内部に熔湯が移っていき、鋳型1の両端に向かって順次に、熔湯が仕切り11を乗り越えながら型10の内部を満たしていく。
【0038】
そして、鋳型1を構成する型10のすべてに熔湯が満たされ、自然冷却等により冷却されて固化すると、型10のそれぞれにおいてインゴットが形成される。
【0039】
このとき、鋳型1では、仕切り11a1,11a2の頂部T1の高さが最も高く、その注湯型10Aから離れるに従って仕切り11の頂部T(T2,T3,T4)の高さが段階的に低くなっている。このことから、熔湯が仕切り11を容易に乗り越えスムーズに各型10を満たしていくだけでなく、隣り合う型10に満たされた熔湯同士は接触せずに保持されて、形成されるインゴット同士がその端部で連結してしまうことを有効に抑えることができる。また、仮に、インゴット同士が端部で僅かに連結してしまった場合でも、その連結強度は極めて弱いため、簡易な操作で分離することができ、大きな労力を要しない。
【0040】
注湯型10Aから離れるに従って仕切り11の頂部T(T2,T3,T4)の高さが段階的に低くなる構成において、頂部Tの高さの差の程度は、特に限定されない。例えば、注湯型10Aから離れるに従って、仕切り11の頂部Tの高さが3mm以上8mm以下程度の長さずつ段階的に低くなるように構成することができる。高さの差を3mm以上とすることで、インゴット同士が強固に連結することをより効果的に抑えることができる。また、高さの差を8mm以下とすることで、鋳型1全体のサイズが過度に大きくなることを避けて鋳型1のハンドリングを容易にし、また、鋳型本体の価格を抑えることができる。
【0041】
(変形例について)
図1、2では、鋳型1の真ん中に位置する型10
Aを、上方から熔湯が注湯される「注湯型」とし、その注湯型10
Aと注湯型10
Aに隣接する型10
B1,10
B2との間に設けられている仕切り11
a1,11
a2の頂部T
1の高さが最も高くなっている態様を例示して説明したが、これに限定されない。
【0042】
例えば、複数個の型が連接されて構成される鋳型において、いずれか一方の端に位置する型を注湯型とし、その注湯型と注湯型に隣接する型との間に設けられる仕切りの頂部の高さが最も高く、注湯型から離れるに従って、すなわちもう一方の端に行くに従って、頂部の高さが段階的に低くなるような構成であってもよい。つまり、断面視してすべての仕切りの頂部を結んだとき
図2のような中央の頂部を頂点とする山状となる態様ではなく、鋳型の一方の端から他方の端に向かって仕切りの頂部が階段状に下がっていくような態様の構成であってもよい。
【0043】
このような変形例であっても、熔湯が仕切りを容易に乗り越えスムーズに各型を満たしていき、また、隣り合う型に満たされた熔湯同士は接触せずに保持されて、形成されるインゴット同士がその端部で連結してしまうことを有効に抑えることができる。
【0044】
≪2.インゴットの鋳造方法≫
本実施の形態に係るインゴットの鋳造方法は、インゴットの鋳造に用いる鋳型として、上述した特徴的な構成を有する鋳型1を用いた方法として定義することができる。
【0045】
具体的に、この鋳造方法は、鋳型1を用い、その鋳型1を構成する複数の型10の内表面に離型剤を塗布したのち、金属の熔湯を注湯する位置にある型(注湯型)10Aに所定の速度で熔湯を注湯する工程を含む、ものである。
【0046】
鋳造するに際しては、鋳型1に金属の熔湯を注湯するに先立ち、すべての型10の内表面に離型剤を塗布する。離型剤を塗布することで、熔湯が固化してインゴットが形成され、そのインゴットを鋳型から離して取り出すときに、その離型性を高めることができる。離型剤としては、特に限定されず、粘土、硫酸バリウム等を水に溶いてスラリー状にしたものを用いることができる。また、グラファイト、ボロンナイトライド等を離型剤として用いることもできる。
【0047】
すべての型10の内表面に離型剤を塗布し乾燥させたのち、金属の熔湯を注湯する位置にある型(注湯型)10Aに、熔湯を所定の速度で注湯していく。なお、注湯時の熔湯の温度(出湯温度)は、特に限定されず金属の種類に応じて設定できる。例えば、例えばニッケル・コバルト・銅合金の熔湯では1300℃以上1400℃以下程度とする。
【0048】
注湯型10
Aは、
図1、2に示すように、鋳型1の真ん中にある型であり、他の型10よりも高い位置(最も高い位置)にある型である。鋳型1への注湯は、注湯型10Aに熔湯を注ぎ始めてから、鋳型1の両端にある、最も高さ位置が低い位置にある型10
E1,10
E2に熔湯が満たされたら終了とする。
【0049】
その後、自然冷却、あるいは扇風機等を使用した強制冷却を経て、熔湯を固化すると、鋳型1を反転させることによって、各型10に形成されたインゴットを鋳型1から取り出すことができる。
【0050】
本実施の形態に係る鋳造方法では、鋳型1を用いて鋳造を行っていることから、各型10に形成されるインゴット同士がその端部で連結することを抑えることができ、鋳型1を反転させてインゴットを離型させるという極めて簡易な操作で、複数個のインゴットを容易に得ることができる。また、いずれかのインゴット同士が部分的に薄く繋がってしまったとしても、ハンマー等で連結した部分を軽く叩くことで、容易に分離することができる。
【0051】
本実施の形態に係る鋳造方法は、いずれの金属のインゴット鋳造においても好適に適用することができる。具体的には、例えば上述したように、金属としてニッケル・コバルト・銅合金を用いた鋳造を挙げることができる。例えば、ニッケル・コバルト・銅合金の熔湯は、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解して得ることができる。なお、廃リチウムイオン電池は、有価金属として、銅、ニッケル、コバルトを、例えば、ニッケル30%以上50%以下、コバルト10%以上30%以下、銅30%以上50%以下の割合で含有している。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0053】
[実施例1]
(合金の熔湯の生成)
廃リチウムイオン電池を含む原料に対して粉砕処理を施し、その後、篩分処理を行って、篩下の粉状の処理原料(粉状物)と、篩上の箔状の処理原料(箔状物)とを、混合しない状態で別々に準備した。熔融炉として三相交流式電気炉であるサブマージドアーク炉を用い、その炉内に、1時間当たり合計30kg(粉状の処理原料24kg、箔状の処理原料6kg)の装入速度で6時間に亘って原料装入を行って、還元熔融処理に付した。還元熔融処理を施した後、2時間の保持時間を経て、スラグと、メタル(ニッケル・コバルト・銅合金)を排出してそれぞれ回収した。
【0054】
(インゴットの鋳造)
次に、得られたニッケル・コバルト・銅合金の熔湯からインゴットを鋳造した。具体的には、鋳型として、鋳鋼製であって、底面が略長方形である逆四角錘台の形状からなる型(容量1900cm
3)が5個連接して構成され、隣り合う型同士の間には仕切りが設けられている鋳型を用いた。また、その鋳型は、上方から熔湯を注湯する位置(中央の位置)にある型(注湯型)とその型に接する型との間に設けられている仕切りの頂部の高さが最も高く、その型から離れるに従って仕切りの頂部の高さが段階的に低くなるように構成されているものであった。隣り合う仕切りの頂部の高さの差は5mmであり、したがって、注湯型から離れるに従って5mmずつ、仕切りの頂部が段階的に低くなっていた。なお、実施例1にて用いた鋳型は、型の数は異なるものの、
図1、2に模式的に示す鋳型と同様の構成を有している。
【0055】
このような鋳型を準備したのち、鋳型を構成するすべての型の内表面に対し、離型剤として粘土を水でスラリー状にしたものを塗布し、乾燥させた。
【0056】
その後、鋳型(鋳型における注湯型)に、出湯温度(熔湯温度)1350℃でニッケル・コバルト・銅合金の熔湯を注湯した。すべての型に熔湯が満たされたことを確認後、自然冷却して固化した。そして、鋳型を反転させることによって、ニッケル・コバルト・銅合金製インゴットを得た。
【0057】
このような鋳造の操作を、1つの鋳型で50回行った。
【0058】
鋳造されたインゴットは、鋳型を反転させることで、容易に、一つ一つのインゴットとして得られた。すなわち、インゴット同士が連結することなく、1回の鋳造操作で型の数に応じた5個のインゴットを容易に得ることができた。
【0059】
また、50回の鋳造操作の後に、鋳型の表面の損耗等を目視で確認したが、著しい損耗は認められなかった。
【0060】
[比較例1]
比較例1では、鋳型として、SiC30%を含む耐火材で成形されたものであり、底面が略長方形である逆四角錘台の形状からなる型(容量1900cm
3)が水平に5個並べて接続された鋳型を用いた。すなわち、比較例1で用いた鋳型は、実施例1にて用いた鋳型のように型同士の間に設けられている仕切りの頂部の高さが段階的に低くなるように構成されているものではなく、
図3に模式的に示すように型同士が単に水平に並べられているものであった。なお、その他の鋳造条件は、実施例1と同じとした。
【0061】
鋳造されたインゴットは、それぞれのインゴットが端部で強固に連結していた。そのため、ハンマーを使用して連結部を強打する、あるいはグラインダーを使用して、それらのインゴットを分離する作業が必要となった。
【0062】
また、鋳型の表面は2回目の鋳造操作から荒れ始め、それにより、鋳型からインゴットが外れ難くなり、バールを使用してインゴットを外した。鋳型の表面の損耗の著しい所では、補修用の耐火材を使用して補修して使用を継続したが、5回目の鋳造操作を終えたところで表面の損耗が著しくなり、新しい鋳型に交換せざるを得なくなった。したがって、合計50回の鋳造操作で、10回の鋳型交換を行った。