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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109003
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】地形計測システム、およびセンサ体
(51)【国際特許分類】
   G01C 7/04 20060101AFI20230731BHJP
   G01S 19/42 20100101ALI20230731BHJP
【FI】
G01C7/04
G01S19/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010357
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大畠 陽二郎
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 公一
(72)【発明者】
【氏名】浦 大介
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB07
5J062CC07
5J062FF04
(57)【要約】
【課題】地表面の形状をより容易にかつ精度よく計測できる地形計測システムを提供する。
【解決手段】移動体1は、地表面に対して相対移動可能である。位置検知部14は、移動体1の位置を測定する。FSTは、2つのリンクと、2つのリンクを連結する関節部と、関節部により連結された2つのリンクの相対位置を検出する関節角検出部72と、を有している。FSTは、移動体1とともに地表面に対して相対移動して地表面に接触可能である。FSTは、地表面から作用する外力によって、2つのリンクの相対位置を変化可能である。移動体1の位置と、FSTのリンクの相対位置とに基づいて、地表面の形状が算出される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面に対して相対移動可能な移動機構部と、
前記移動機構部の位置を測定する測位部と、
2つのリンクと、前記2つのリンクを連結する関節部と、前記関節部により連結された前記2つのリンクの相対位置を検出する検出器と、を有し、前記移動機構部とともに前記地表面に対して相対移動して前記地表面に接触可能であり、前記地表面から作用する外力によって前記相対位置を変化可能な、少なくとも1つの接触変形部と、
前記測位部の測位結果と前記検出器の検出結果とに基づいて前記地表面の形状を算出する形状算出部と、を備える、地形計測システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの接触変形部は、複数の接触変形部を有し、
前記複数の接触変形部の比重が互いに異なる、請求項1に記載の地形計測システム。
【請求項3】
前記移動機構部は、前記地表面から離れた空間内を移動可能である、請求項1または請求項2に記載の地形計測システム。
【請求項4】
前記移動機構部は、水平方向に移動可能な水平移動部を含む、請求項3に記載の地形計測システム。
【請求項5】
前記移動機構部は、上下方向に移動可能な上下移動部を含む、請求項3または請求項4に記載の地形計測システム。
【請求項6】
前記地表面の形状計測に関する情報を送信する通信部をさらに備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の地形計測システム。
【請求項7】
地表面の形状計測に用いられるセンサ体であって、
2つのリンクと、
前記2つのリンクを連結する関節部と、
前記関節部により連結された前記2つのリンクの相対位置を検出する検出器とを備え、
前記センサ体が前記地表面に接触したときに前記地表面から作用する外力によって変化する前記相対位置を前記検出器が検出し、前記地表面の形状を計測するための検出結果を出力する、センサ体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地形計測システム、およびセンサ体に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-227014号公報(特許文献1)には、油圧ショベルのバケットの刃先が水底の測定点に接触しているときの刃先の位置データを算出することにより、水底の測定点の位置データが算出され、水底の複数の位置データに基づいて水底の現況地形データを生成する、施行システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-227014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に記載の技術では、油圧ショベルの刃先を水底に接触させて水底の地形を計測することが記載されている。水底の複数の測定点に刃先を接触させる作業は時間がかかる。水中での掘削作業では、掘削後に地形が崩れる可能性があり地形が安定しないので、バケットの刃先の位置データに基づく地形計測の精度を向上するのが難しい。
【0005】
本開示では、地表面の形状をより容易にかつ精度よく計測できる地形計測システムおよびセンサ体が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った地形計測システムは、地表面に対して相対移動可能な移動機構部と、移動機構部の位置を測定する測位部と、接触変形部と、形状算出部とを備えている。接触変形部は、2つのリンクと、2つのリンクを連結する関節部と、関節部により連結された2つのリンクの相対位置を検出する検出器と、を有している。接触変形部は、移動機構部とともに地表面に対して相対移動して地表面に接触可能である。接触変形部は、地表面から作用する外力によって、2つのリンクの相対位置を変化可能である。形状算出部は、測位部の測位結果と検出器の検出結果とに基づいて、地表面の形状を算出する。
【0007】
本開示に従ったセンサ体は、地表面の形状計測に用いられるセンサ体であって、2つのリンクと、2つのリンクを連結する関節部と、関節部により連結された2つのリンクの相対位置を検出する検出器とを備えている。センサ体が地表面に接触したときに地表面から作用する外力によって変化する2つのリンクの相対位置を、検出器が検出する。センサ体は、地表面の形状を計測するための検出結果を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に従うと、地表面の形状をより容易にかつ精度よく計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る地形計測システムの概略構成を示す模式図である。
図2】センサ体の構成を示す第1の図である。
図3】センサ体の構成を示す第2の図である。
図4】地形計測システムの構成例を示す機能ブロック図である。
図5】地形計測方法の一例を示すフローチャートである。
図6】第2実施形態に係る地形計測システムの概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。以下の説明では、同一部品には、同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0011】
図1は、実施形態に係る地形計測システムの概略構成を示す模式図である。実施形態に係る地形計測システムは、地表面の形状を計測するためのシステムである。図1に示される水底100は、地表面の一例である。水底100とは、たとえば、河底、河側壁、海底、池の底、または油が溜まった容器の底などである。図1に示されるように、地形計測システムは、移動体1と、地形検知部50とを主に備えている。
【0012】
実施形態に係る移動体1は、水面110を移動する移動ボートである。移動体1は、流体に浮遊可能とされている。移動体1は、形状計測対象の水底100に対して相対移動可能である。移動体1は、移動体推進装置4を備えている。移動体推進装置4はたとえば、モータ、エンジンなどの駆動源を含んでいる。移動体推進装置4はたとえば、駆動源の発生する回転駆動力が出力軸に出力され、出力軸を介して回転駆動力を伝達されたプロペラが回転することにより、移動体1を推進させ、移動体1を水底100に対して相対移動させることができる。
【0013】
移動体1は、出力部6と受信部8とを備えている。出力部6と受信部8とは、外部との通信を行う通信部を構成している。
【0014】
地形検知部50は、移動体1の下方に配置されている。地形検知部50は、移動体1の下面に取り付けられている。地形検知部50は、水面110に浮かぶ移動体1から水中に延び、水底100にまで到達するように配置されている。
【0015】
地形検知部50は、フレキシブルセンサチューブ(以下、FSTという。)60を備えている。FST60は、地表面の形状計測に用いられるセンサ体の一例である。FST60は、移動体1の下方に配置されている。図2および図3は、センサ体の構成を示す図である。図3には、図2中に示される矢印III方向から見たFST60が図示されている。図2には、図3中に示される矢印II方向から見たFST60が図示されている。
【0016】
FST60は、複数のリンク62と、リンク62同士を連結する関節部64,66とを有している。FST60は多関節構造を有しており、関節部64,66はFST60の可動部である。FST60は、複数のリンク62が関節部64,66を介して長尺状につながった、多関節構造体である。関節部64は、FST60の長さ方向に隣り合う2つのリンク62を連結する。関節部64により連結された2つのリンク62は、関節部64を中心として相対回転移動可能である。関節部66は、FST60の長さ方向に隣り合う2つのリンク62を連結する。関節部66により連結された2つのリンク62は、関節部66を中心として相対回転移動可能である。
【0017】
図2,3に示される例では、関節部64は、図2中の紙面垂直方向の回転自由度を有しており、関節部66は、図3中の紙面垂直方向の回転自由度を有している。関節部64を中心とするリンク62の移動方向と、関節部66を中心とするリンク62の移動方向とが、90°異なっている。この例に限られず、関節部64,66はいずれも、2以上の自由度を有してもよい。たとえば関節部64,66は、ユニバーサルジョイントを有してもよく、ユニバーサルジョイントにより連結された2つのリンク62の成す角度が自在に変化可能である構成であってもよい。関節部64,66は、軸方向の回転関節を持つ構成であってもよい。
【0018】
図1には5つのリンク62が例示的に図示されており、図2,3には6つのリンク62が例示的に図示されているが、FST60は2以上の任意の数のリンク62を有してもよい。FST60は、7つ以上の多数のリンク62を有していてもよい。
【0019】
FST60は水面110の下方に配置されており、水中に配置されている。FST60は防水仕様とされている。各関節部64,66をシールすることで、FST60の防水がなされている。各関節部64,66にリップシールが設けられていてもよい。
【0020】
FST60の先端に、回転体68が取り付けられている。図1に示される回転体68は、水底100に接触している。回転体68が水底100に接触した状態でFST60の全体が水底100に対して相対移動するときに、回転体68は水底100に対して相対回転する。回転体68は、たとえばタイヤを有していてもよい。
【0021】
FST60の基端(上端)は、FST左右移動機構部56に取り付けられている。図1中の左右方向に延びるFST左右移動機構部56の両端に、それぞれFST60が取り付けられている。地形計測システムは、FST60を複数備えている。
【0022】
複数のFST60の比重が、互いに異なっている。FST60の各リンク62には、重りを取り付けることができる。リンク62に取り付ける重りの重量を調整することにより、FST60の比重の調整が可能とされている。たとえば、一方のFST60の比重を浮泥層の比重と同等の1200kg/mに調整することができ、他方のFST60の比重を浮泥層の比重より大きく圧密泥層の比重よりも小さい1200~2650kg/mに調整することができる。
【0023】
図1中の左右方向に延びるFST左右移動機構部56の中央部に、FST上下移動機構部54の下端が取り付けられている。FST上下移動機構部54の上端は、移動体1に取り付けられている。
【0024】
FST上下移動機構部54の下端は、上下方向に移動可能である。FST左右移動機構部56は、FST上下移動機構部54に対して水平方向に相対移動可能である。FST左右移動機構部56は、移動体1に対して水平方向に相対移動可能である。FST上下移動機構部54の下端が上下方向に移動することにより、FST60が上下方向に移動する。FST左右移動機構部56が水平方向に移動することにより、FST60が水平方向に移動する。
【0025】
FST60は、地表面に対して相対移動可能である。図1に示される配置では、回転体68が水底100に接触しておりFST60のリンク62は水底100に接触していないが、FST60をさらに下方に移動させてFST60を水底100に接近させることで、FST60のリンク62を水底100に接触させることができる。FST60は、水底100に接触している回転体68およびリンク62に対して水底100から作用する外力によって、関節部64,66により連結された2つのリンク62の相対位置を変化可能である。
【0026】
水底100に接触するリンク62は、FST60の先端のリンク62に限られず、複数のリンク62を水底100に接触させることが可能である。水底100に接触するリンク62の数だけ、水底100の形状計測のための計測点が得られる。そのため、複数のリンク62が水底100に接触する程度にFST60を水底100に接近させて、水底100の形状を計測するのが望ましい。
【0027】
移動体1、FST上下移動機構部54、およびFST左右移動機構部56は、地表面に対して相対移動可能な、実施形態の移動機構部を構成している。移動機構部は、少なくとも前後左右のいずれかに移動可能に構成されている。移動体1とFST左右移動機構部56は、水平方向に移動可能な実施形態の水平移動部を構成している。FST上下移動機構部54は、上下方向に移動可能な実施形態の上下移動部を構成している。移動体1、FST上下移動機構部54およびFST左右移動機構部56は、水底100から離れて配置されており、水面110または水中を移動可能とされている。
【0028】
FST60は、移動機構部とともに地表面に対して相対移動して地表面に接触可能である。地表面に接触しているFST60は、地表面から作用する外力によって、変形する。FST60は、FST60を地表面に接触させたときに地表面から作用する外力によって互いに連結された2つのリンク62の相対位置が変化する、実施形態の接触変形部を構成している。
【0029】
図4は、地形計測システムの構成例を示す機能ブロック図である。上述した通り、地形検知部50は、FST上下移動機構部54と、FST左右移動機構部56とを備えている。地形検知部50はさらに、関節角検出部72と、回転検出部74とを備えている。
【0030】
関節角検出部72は、FST60の関節部64,66に設けられている。関節角検出部72は、関節部64,66により連結された2つのリンク62のなす角度を検出する、実施形態の検出器を構成している。関節角検出部72は、たとえばポテンショメータなどの、変化量検出センサである。
【0031】
回転検出部74は、FST60の先端の回転体68に設けられている。回転検出部74は、回転体68の回転を検出する。回転検出部74は、たとえばロータリーエンコーダである。
【0032】
移動体1は、上述した通り、移動体推進装置4と、出力部6と、受信部8とを備えている。移動体1はさらに、姿勢検知部12と、位置検知部14と、コントローラ20とを備えている。
【0033】
姿勢検知部12は、移動体1に搭載されている。姿勢検知部12は、移動体1の姿勢を検知する。姿勢検知部12は、たとえば慣性計測装置(IMU:inertial measurement unit)である。IMUにより、移動体1の3次元の角速度と加速度とが検知される。IMUにより検知された角速度および加速度に基づいて、移動体1の姿勢の変化が算出される。
【0034】
位置検知部14は、移動体1に搭載されている。位置検知部14は、移動体1の位置を検知する。位置検知部14はたとえば、衛星測位システムを利用して、地球を基準としたグローバル座標系における移動体1の位置を検知する。位置検知部14は、たとえばGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いるものであり、GNSSレシーバを有している。GNSSレシーバのアンテナは、たとえば、移動体1から上方に突き出して配置されている。GNSSレシーバは、衛星から測位信号を受信する。衛星測位システムは、GNSSレシーバが受信した測位信号により、GNSSレシーバのアンテナの位置を演算して、移動体1の位置を算出する。
【0035】
コントローラ20は、FST検知データ処理部22と、FST上下位置制御部24と、FST水平位置制御部26と、推進装置制御部28と、記憶部30とを備えている。
【0036】
FST検知データ処理部22は、関節角検出部72により検出されたリンク62間の角度に基づいて、FST60の形状を推定する。FST検知データ処理部22は、FST60の各関節部64,66に設けられた関節角検出部72の出力信号を集約することにより、FST60の全体形状を算出する。
【0037】
FST上下位置制御部24は、FST60の上下方向の位置を制御する。FST上下位置制御部24は、FST上下移動機構部54に出力される制御信号を生成する。入力された制御信号に従ってFST上下移動機構部54の下端が上下方向に移動することにより、FST60が上下方向に移動する。
【0038】
FST水平位置制御部26は、FST60の水平方向の位置を制御する。FST水平位置制御部26は、FST左右移動機構部56に出力される制御信号を生成する。入力された制御信号に従ってFST左右移動機構部56が移動体1に対して水平方向に相対移動することにより、FST60が水平方向に移動する。
【0039】
推進装置制御部28は、移動体推進装置4を制御する。推進装置制御部28は、移動体推進装置4に出力される制御信号を生成する。入力された制御信号に従って移動体推進装置4が移動体1を推進させることにより、FST60が水平方向に移動する。
【0040】
記憶部30は、不揮発性のメモリであり、必要なデータを記憶する領域として設けられている。記憶部30には、地表面の形状計測を実行するために地形計測システムの動作を制御するためのプログラム、およびそのプログラムの実行に必要な各種データなどが記憶されている。記憶部30にはまた、地表面の形状計測に伴って発生するワーキングデータが一時的に記憶される。
【0041】
移動体1と地形検知部50とは、信号線45により接続されている。関節角検出部72および回転検出部74の検出結果は、信号線45を介して、地形検知部50から移動体1のコントローラ20へ出力される。FST上下位置制御部24の生成した制御信号、およびFST水平位置制御部26の生成した制御信号は、信号線45を介して、移動体1のコントローラ20から地形検知部50へ出力される。
【0042】
出力部6と受信部8とは、ネットワークを介して、外部の遠隔コントローラ80に接続されている。出力部6は、水底100の形状計測に関する情報を、遠隔コントローラ80へ送信する。受信部8は、水底100の形状計測に関する制御信号を、遠隔コントローラ80から受信する。
【0043】
遠隔コントローラ80は、FST検知データ処理部22によるFST60の形状の算出結果を受信する。遠隔コントローラ80はまた、姿勢検知部12および位置検知部14による移動体1の位置および姿勢の検知結果を受信する。遠隔コントローラ80は、移動体1の位置および姿勢と、FST60の形状とに基づいて、水底100の形状を推定する。遠隔コントローラ80は、リンク62が水底100に接触した状態でFST60の全体が水底100に対して相対移動するときの、FST60の形状の変化から、水底100の形状を推定する。遠隔コントローラ80は、地表面の形状を算出する実施形態の形状算出部を構成している。
【0044】
回転検出部74が回転体68の回転を検出することによって、水底100の形状の推定の精度が向上されている。回転体68が水底100に接触した状態で回転体68が水底100に対して相対移動するとき、回転体68は水底100に対して相対回転する。回転体68の回転が、回転検出部74により検出される。回転検出部74が、回転体68が回転していることを検出するとき、回転体68は水底100に接触している。遠隔コントローラ80は、FST60と回転体68とを含む多関節構造体の全体形状に基づいて、回転体68の位置から水底100の形状を推定する。
【0045】
図5は、地形計測方法の一例を示すフローチャートである。図4について説明した内容と一部重複もあるが、図5を参照して、計測対象の地表面の形状を計測する処理について、以下に説明する。
【0046】
まず、ステップS1において、FST60の形状計測が開始される。FST検知データ処理部22は、関節角検出部72の検出結果の入力を受ける。FST検知データ処理部22は、FST60の各関節部64,66に設けられた関節角検出部72の出力信号を集約することにより、FST60の全体形状を算出する。FST60の形状計測が開始されると、以後は、後述するステップS5において計測を終了するまで、FST60の形状の計測と、計測により取得された形状データの記録とが継続される。
【0047】
ステップS2において、計測対象の地表面の全領域について、地表面の形状の推定が完了したか否かが判断される。全領域の地形形状の推定が完了していないと判断されると(ステップS2の判断においてNO)、ステップS3に進み、移動体1の位置姿勢情報とFST60の形状計測結果とより、地表面の形状の推定が行われる。
【0048】
姿勢検知部12が検知した移動体1の姿勢が、コントローラ20に入力される。位置検知部14が検知した移動体1の位置が、コントローラ20に入力される。姿勢検知部12と位置検知部14とは、移動体1の位置を測定する実施形態の測位部を構成している。移動体1に対するFST60の相対位置は、FST上下位置制御部24およびFST水平位置制御部26によって規定される。移動体1の姿勢の情報、移動体1の位置の情報、および移動体1に対するFST60の相対位置の情報によって、グローバル座標系におけるFST60の位置が算出され、水底100のどの位置の形状を計測しているかがわかるようになる。
【0049】
遠隔コントローラ80は、リンク62が水底100に接触した状態でFST60の全体が水底100に対して相対移動するときの、FST60の形状の変化から、水底100の形状を推定する。FST60を用いた水底100の形状の推定結果と、そのときのFST60の位置とから、グローバル座標系における水底100の位置とその形状とが推定される。
【0050】
ステップS4において、ステップS3での地形推定結果をもとに、地表面の形状を未だ計測していない未探査領域へ、FST60を移動させる。移動体推進装置4を駆動し、必要に応じてFST上下移動機構部54およびFST左右移動機構部56を駆動することによって、適切な位置へFST60を移動させる。この移動中のFST60の形状の変化から、未探査領域の形状計測が実行される。
【0051】
ステップS2の判断に戻り、全領域の地形形状の推定が完了していないと判断されている間は、ステップS3の地形形状の推定と、ステップS4のFST60の移動とが繰り返される。全領域の地形形状の推定が完了したと判断されると(ステップS2の判断においてYES)、ステップS5に進み、FST60を用いた地表面の形状計測が終了する。
【0052】
図6は、第2実施形態に係る地形計測システムの概略構成を示す模式図である。図1に示される地形計測システムでは、FST60の基端(上端)がFST左右移動機構部56およびFST上下移動機構部54を介して移動体1に取り付けられ、FST60の下端が水底100に向かって延びる構成とされた。これに対し、図6に示される第2実施形態の地形計測システムでは、FST60の両端が移動体1に取り付けられ、FST60の中央部が水底100に向かって延びている。
【0053】
FST60の先端を水底100に向かって延ばす図1の構成の場合、移動体1の移動経路、および水流によって、複数のFST60の先端同士が交差して水中で絡む可能性があり、移動体1の移動方法の工夫が必要になる。これに対し、図6に示されるようにFST60の両端を移動体1に固定することで、複数のFST60が交差しにくくなる。複数のFST60が水中で絡むことなく、水底100にFST60を接触させて水底100の形状を精度よく計測することが可能になる。
【0054】
以上説明したように、実施形態に係る地形計測システムでは、姿勢検知部12および位置検知部14によって検知される移動体1の位置姿勢情報に基づいて、グローバル座標系におけるFST60の位置が算出される。図5に示されるように、形状計測対象の地表面である水底100に接触して変形するFST60の形状と、FST60の位置情報とによって、グローバル座標系における水底100の位置とその形状とが推定される。
【0055】
従来、水底100の形状計測には一般に音響ソナーが用いられているが、砂埃などの外乱により計測誤差が発生してしまう。実施形態に係る地形計測システムでは、FST60を水底100に接触させて直接地形を計測するため、水が泥で濁っている場合、または水中に浮泥層が形成されている場合においても、外乱の影響を受けず水底100の形状をリアルタイムで精度よく計測することができる。簡単な構造のFST60を用いて地表面の形状を計測できるので、地形計測のコストを抑制でき、より容易に地形を計測することができる。河川、湾口の浚渫など水底100を掘削する場合に、水底100の掘削前および掘削後の地形を精度よく計測することで、高品質な施工管理が可能になる。
【0056】
水底100の現況地形を精度よく把握することで、浚渫用のショベルを稼働させる際に、無駄な掘削などがなくなり、作業効率が向上する。水底100の現況地形をリアルタイムに計測することで、さらに施工の精度が向上する。ICT(Information and Communication Technology)機能を備えるショベルを用いる場合、正確な現況地形の情報を活用して、ショベルを自動運転することが可能となる。また、水底100を走行しながら水底100の土砂を掘削および運土可能な水中ブルドーザにおいて、正確な現況地形の情報を活用して、所望の水底100の形状にするために水中ブルドーザのブレードの位置を的確に制御できる。浚渫の施工が終わった後、施工後の地形を正確に計測することもできる。
【0057】
図1,6に示されるように、地形計測システムは、FST60を複数備え、複数のFST60の比重が互いに異なってもよい。一方のFST60の比重を浮泥層の比重1200kg/mにし、他方のFST60の比重を圧密層の比重1200~2650kg/mに調整することができる。浮泥層と圧密層とが混在しても、異なる比重のFST60を用いて同時計測するため、データ解析が容易であり、データ解析時間の短縮化を実現できる。一方のFST60が浮泥層で浮き他方のFST60が浮泥層を沈むようにFST60の比重を調整することで、浮泥層の厚さを計測することが可能になる。
【0058】
図1に示されるように、移動体1、FST上下移動機構部54およびFST左右移動機構部56は、水底100から離れた空間内を移動可能であってもよい。移動体1、FST上下移動機構部54およびFST左右移動機構部56を水底100に接触させずに、FST60の一部を水底100に接触させた状態で水底100に対してFST60を相対移動させることで、FST60を用いて水底100の形状を精度よく計測することができる。
【0059】
図1に示されるように、地形計測システムは、水面110を移動する移動体1と、移動体1に対して水平方向に相対移動可能なFST左右移動機構部56とを備えてもよい。FST60をFST左右移動機構部56に取り付けることで、FST60を水平方向に移動できる。水底100に対して相対移動するときのFST60の形状の変化を検出することで、水底100の形状を精度よく計測することができる。
【0060】
図1に示されるように、FST上下移動機構部54の少なくとも下端が上下方向に移動可能であってもよい。FST上下移動機構部54の下端にFST左右移動機構部56が取り付けられ、FST左右移動機構部56にFST60が取り付けられているので、FST上下移動機構部54の下端を上下方向に移動させることでFST60を上下方向に移動させることができる。これにより、FST60を確実に水底100に接触させて、水底100の形状を計測することができる。
【0061】
図1に示されるように、水面110を移動する移動体1に、FST上下移動機構部54およびFST左右移動機構部56を介して、FST60が取り付けられている。FST上下移動機構部54の下端は、移動体1に対して上下方向に相対移動可能である。FST左右移動機構部56は、移動体1に対して水平方向に相対移動可能である。このようにすれば、移動体1を動かさなくても、FST60を水底100に対して相対移動させて、FST60を用いて水底100の形状を計測することができる。
【0062】
移動体1から延びるFST60が水底100に接触できる程度の長さを有していれば、FST上下移動機構部54は必ずしも必要ではないが、FST上下移動機構部54が設けられていることで、FST60の長さが短くてもFST60を水底100に接触させやすくなる。これにより地形計測システムのコストを低減することができる。
【0063】
図1,4に示されるように、地形計測システムは、出力部6を備えてもよい。出力部6は、移動体1の位置および姿勢、FST60の形状などの、水底100の形状計測に関する情報を、外部の遠隔コントローラ80に送信する。遠隔コントローラ80が、受信した情報に基づいて水底100の形状を算出することにより、水底100の形状を精度よく計測することができる。移動体1および地形検知部50に含まれる構成を簡素化できるので、地形計測システムのコストを低減することができる。
【0064】
図1,4に示されるように、地形計測システムは、受信部8を備えている。遠隔コントローラ80から、移動体1、FST上下移動機構部54およびFST左右移動機構部56を駆動させる制御信号を移動体1に送信することで、遠隔操作による地表面の形状計測が可能になる。また、地形計測システムを自動運転することで、地表面の形状を無人で計測することが可能になる。
【0065】
これまでの説明においては、移動体1が水面110に浮かぶ移動ボートである例を説明したが、この例に限られるものではない。移動体1は、遠隔操作により水中を移動可能な水中ROV(Remotely Operated Vehicle)などの、水中ドローンであってもよい。水中ドローンはそれ自体が上下方向および水平方向に移動可能であるので、FST上下移動機構部54およびFST左右移動機構部56を介さずに、FST60を水中ドローンに直接取り付けてよい。
【0066】
形状計測対象の地表面は、水底100に限られない。移動体1は空中ドローンであり、地形計測システムは陸上の地形を計測するためのシステムであってもよい。FST60を地表面に接触させて地形を計測する実施形態の地形計測システムによれば、霧または煙などで地表面の視認性が低下している場合、および夜間においても、計測対象の地表面の形状を精度よく計測することができる。
【0067】
地表面の形状を算出する演算を実行するコンピュータは、遠隔地にある遠隔コントローラ80である必要はない。移動体1に含まれるコントローラ20が、FST60の形状とFST60の位置情報とに基づいて、地表面の形状を算出してもよい。コントローラ20が算出した地表面の形状が、出力部6から遠隔コントローラ80に送信されてもよい。この場合、コントローラ20が形状算出部を構成し、地表面の形状の算出結果が、出力部6から送信される「地表面の形状計測に関する情報」に相当する。
【0068】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 移動体、4 移動体推進装置、6 出力部、8 受信部、12 姿勢検知部、14 位置検知部、20 コントローラ、22 FST検知データ処理部、24 FST上下位置制御部、26 FST水平位置制御部、28 推進位置制御部、30 記憶部、45 信号線、50 地形検知部、54 FST上下移動機構部、56 FST左右移動機構部、60 フレキシブルセンサチューブ(FST)、62 リンク、64,66 関節部、68 回転体、72 関節角検出部、74 回転検出部、80 遠隔コントローラ、100 水底、110 水面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6