(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109091
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】自己吸着性積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 3/26 20060101AFI20230731BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230731BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230731BHJP
D06N 7/00 20060101ALI20230731BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230731BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20230731BHJP
C09J 5/08 20060101ALI20230731BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B32B3/26 A
B32B27/12
B32B27/30 A
D06N7/00
C09J7/38
C09J133/00
C09J5/08
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010488
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100217135
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】屋代 亜梨沙
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F055AA17
4F055BA14
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4J004AA10
4J004AB01
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4J040MA05
4J040MB05
4J040NA12
4J040PA23
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】耐湿性と、長期に亘る密着安定性と、長期使用後のリワーク性とを高いレベルで並立させた自己吸着性積層体を提供する。
【解決手段】基材と、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートとを積層してなる自己吸着性積層体であって、前記基材は、不織布層、融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層、および、アルミニウム層からなる群から選ばれる少なくとも1つの層を含み、前記不織布層、前記樹脂層、または前記アルミニウム層は前記自己吸着性発泡シートと接触しており、前記自己吸着性発泡シートは、密度が0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であり、かつ、25%圧縮強度が3kPa以上15kPa以下である、自己吸着性積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートとを積層してなる自己吸着性積層体であって、
前記基材は、不織布層、融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層、および、アルミニウム層からなる群から選ばれる少なくとも1つの層を含み、
前記不織布層、前記樹脂層、または前記アルミニウム層は前記自己吸着性発泡シートと接触しており、
前記自己吸着性発泡シートは、密度が0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であり、かつ、25%圧縮強度が3kPa以上15kPa以下である、自己吸着性積層体。
【請求項2】
前記不織布層、前記樹脂層、および前記アルミニウム層から選ばれる少なくとも1つ層の坪量が40g/m2以上である、請求項1に記載の自己吸着性積層体。
【請求項3】
前記自己吸着性発泡シートの平均厚みが0.05mm以上1mm以下である、請求項1または2に記載の自己吸着性積層体。
【請求項4】
前記アクリル樹脂発泡体が架橋されたアクリル樹脂で形成されている、請求項1~3の何れかに記載の自己吸着性積層体。
【請求項5】
前記アクリル樹脂発泡体が整泡剤を含有する、請求項1~4の何れかに記載の自己吸着性積層体。
【請求項6】
前記自己吸着性発泡シートの凹凸追従率が30%以上90%以下である、請求項1~5の何れかに記載の自己吸着性積層体。
【請求項7】
前記自己吸着性発泡シートの初期自着力が0.01N/cm以上0.50N/cm以下である、請求項1~6の何れかに記載の自己吸着性積層体。
【請求項8】
前記自己吸着性発泡シートの促進試験後自着力が0.10N/cm以上1.0N/cm以下である、請求項1~7の何れかに記載の自己吸着性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己吸着性積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、壁や窓ガラス等の被着体に貼り付けて使用する貼着シートとして、微細な空孔を多数有する発泡材料からなり、自己吸着性を有するシート状の部材、即ち自己吸着性発泡シート(以下、単に「発泡シート」という場合がある。)が使用されている。自己吸着性発泡シートの接着様式は、糊接着ではなく、微細な空孔を利用した被着体への吸着である。したがって、自己吸着性発泡シートは、従来の糊接着を採用した貼着シートに比べて貼り直しが容易であり、例えば、壁紙、ポスター、ステッカーといった用途に好適に使用される。そして、これらの用途に用いるに際し、自己吸着性発泡シートは、通常、基材と積層された自己吸着性積層体(以下、単に「積層シート」という場合がある。)の形態で使用される。この自己吸着性積層体の基材側の表面に印刷等の装飾が施されることで、上述した用途に有利に使用することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、基材と、所定の(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂等からなる自己吸着性発泡シートとを備える、自己吸着性積層体としての自己吸着性発泡積層シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記従来の自己吸着性積層体は、耐湿性が必ずしも十分ではなく、壁紙等の被着体に貼り付けて使用した場合に、環境によっては吸湿により寸法が変化し、シワ、浮き、剥がれが生じることがあることがわかった。また、上記従来の自己吸着性積層体は、長期に亘る使用中の浮きや剥がれの発生の抑制、および、長期使用後の剥離時の被着面への樹脂残りの抑制を両立する点においても改良の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、耐湿性と、長期に亘る密着安定性と、長期使用後のリワーク性とを高いレベルで並立させた自己吸着性積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の材料からなる層を含む基材と、密度および圧縮強度の双方が所定の範囲内にあるアクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートとを使用し、かつ、該所定の材料からなる層と該自己吸着性発泡シートとを接触させれば、耐湿性と、長期に亘る密着安定性と、長期使用後のリワーク性とを高いレベルで並立させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の自己吸着性積層体は、基材と、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートとを積層してなる自己吸着性積層体であって、前記基材は、不織布層、融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層、および、アルミニウム層からなる群から選ばれる少なくとも1つの層を含み、前記不織布層、前記樹脂層、または前記アルミニウム層は前記自己吸着性発泡シートと接触しており、前記自己吸着性発泡シートは、密度が0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であり、かつ、25%圧縮強度が3kPa以上15kPa以下であることを特徴とする。このように、基材が所定の材料からなる層を含み、該所定の材料からなる層が自己吸着性発泡シートと接触しており、かつ、自己吸着性発泡シートの密度および圧縮強度の双方が所定の範囲内であれば、耐湿性と、長期に亘る密着安定性と、長期使用後のリワーク性とを高いレベルで並立させることができる。
なお、本発明において、自己吸着性発泡シートの「密度」および「25%圧縮強度」は、それぞれ、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0009】
本発明の自己吸着性積層体は、前記不織布層、前記樹脂層、および前記アルミニウム層から選ばれる少なくとも1つ層の坪量が40g/m2以上であることが好ましい。上記所定の材料からなる層の坪量が40g/m2以上であれば、自己吸着性積層体の機械的強度を向上させることができる。また、基材が不織布層を含む場合であって、自己吸着性発泡シートの形成に用いる発泡シート用組成物から形成される発泡体等を不織布層上にコーティングしたときに、発泡体等が不織布層のコーティングした面とは反対側の面に抜けること(以下、単に「裏抜け」ともいう)を良好に抑制することができる。
なお、本発明において、坪量は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0010】
本発明の自己吸着性積層体は、前記自己吸着性発泡シートの平均厚みが0.05mm以上1mm以下であることが好ましい。自己吸着性発泡シートの平均厚みが0.05mm以上1mm以下であれば、自己吸着性発泡シートの凹凸追従性を向上させることができると共に、自重の増加および施工性の低下を抑制することができる。
なお、本発明において、自己吸着性発泡シートの「平均厚み」は、自己吸着性発泡シートの任意の6点の厚みの算術平均値を指す。
【0011】
本発明の自己吸着性積層体は、前記アクリル樹脂発泡体が架橋されたアクリル樹脂で形成されていることが好ましい。アクリル樹脂発泡体が架橋されたアクリル樹脂で形成されていれば、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を更に抑制し、リワーク性を更に高めることができる。
【0012】
本発明の自己吸着性積層体は、前記アクリル樹脂発泡体が整泡剤を含有することが好ましい。整泡剤を含有するアクリル樹脂発泡体は、良好な連続気泡構造を有しており、貼り付け時に空気を良好に逃がすことができるからである。
【0013】
本発明の自己吸着性積層体は、前記自己吸着性発泡シートの凹凸追従率が30%以上90%以下であることが好ましい。凹凸追従率が上記下限値以上であれば、長期に亘る密着安定性を一層向上させることができる。また、凹凸追従率が上記上限値以下であれば、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を一層抑制することができる。
なお、本発明において、自己吸着性発泡シートの「凹凸追従率」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0014】
本発明の自己吸着性積層体は、前記自己吸着性発泡シートの初期自着力が0.01N/cm以上0.50N/cm以下であることが好ましい。初期自着力が上記下限値以上であれば、自己吸着性積層体を被着体に対して良好に貼り付けることができる。また、初期自着力が上記上限値以下であれば、リワーク性を高め、剥離時の被着体の損傷を抑制することができる。
なお、本発明において、自己吸着性発泡シートの「初期自着力」は、実施例に記載の方法(自着力(初期))を用いて測定することができる。
【0015】
本発明の自己吸着性積層体は、前記自己吸着性発泡シートの促進試験後自着力が0.10N/cm以上1.0N/cm以下であることが好ましい。促進試験後自着力が上記下限値以上であれば、長期に亘る密着安定性を十分に確保することができる。また、促進試験後自着力が上記上限値以下であれば、リワーク性を高め、剥離時の被着体の損傷を抑制することができる。
なお、本発明において、自己吸着性発泡シートの「促進試験後自着力」は、実施例に記載の方法(自着力(促進試験後))を用いて測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の自己吸着性積層体によれば、耐湿性と、長期に亘る密着安定性と、長期使用後のリワーク性とを高いレベルで並立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の自己吸着性積層体は、特に限定されることなく、自己吸着性積層体の自己吸着性発泡シートを、例えば、壁紙が貼られた壁面などの被着面に貼り付けて使用し、使用後は該被着面から容易に剥離することができるものである。
【0018】
(自己吸着性積層体)
本発明の自己吸着性積層体は、基材と、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートとを積層してなる。そして、本発明の自己吸着性積層体は、不織布層、融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層(以下、単に「所定の樹脂層」ともいう)、および、アルミニウム層からなる群から選ばれる少なくとも1つの層(以下、単に「所定の材料からなる層」ともいう)を含む基材と、密度が0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であり、かつ、25%圧縮強度が3kPa以上15kPa以下である自己吸着性発泡シートとを使用することを特徴とする。また、本発明の自己吸着性積層体は、上記所定の材料からなる層が自己吸着性発泡シートと接触していることを特徴とする。換言すると、本発明の自己吸着性積層体は、自己吸着性発泡シートが、不織布層、所定の樹脂層、またはアルミニウム層の表面上に直接積層されており、不織布層、所定の樹脂層、またはアルミニウム層と自己吸着性発泡シートとの間には他の層は設けられていないことを特徴とする。
かかる構成により、本発明の自己吸着性積層体は、耐湿性と、長期に亘る密着安定性と、長期使用後のリワーク性とを高いレベルで並立させることができる。その理由は必ずしも定かではないが、以下のとおりであると推察される。
すなわち、自己吸着性積層体は、使用する環境によっては、吸湿により寸法が変化し、シワ、浮き、剥がれが生じることがあることがある。しかし、本発明の自己吸着性積層体では、基材を、上記所定の材料からなる層を介して自己吸着性発泡シートに直接貼り合わせているため寸法変化が抑制されるものと推察される。また、長期に亘る密着安定性を高めるためには粘着力の大きい自己吸着性発泡シートを使用する必要があるが、粘着力の大きい自己吸着性発泡シートを使用した場合には、自己吸着性積層体の剥離時に被着面に樹脂が残りやすくなることに加え、被着体を損傷する可能性がある。そのため、通常、長期に亘る密着安定性と長期使用後のリワーク性とはトレードオフの関係にあり、互いに両立させることは困難である。しかし、本発明の自己吸着性積層体では、自己吸着性発泡シートとして密度および25%圧縮強度の双方が特定の範囲にあるアクリル樹脂発泡体を使用しているので、長期に亘る密着安定性と長期使用後のリワーク性とを高いレベルで両立させることができるものと推察される。
【0019】
なお、本発明の自己吸着性積層体の構造は、基材の厚み方向一方側に自己吸着性発泡シートが積層されており、一方の表面(使用時に被着体に貼り合わされる面)が自己吸着性発泡シートで構成されていれば、特に限定されない。例えば、自己吸着性積層体は、基材と自己吸着性発泡シートとの間に接着層などの任意の層が介在する構造であってもよい。
【0020】
<基材>
基材は、不織布層、融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層、および、アルミニウム層からなる群から選ばれる少なくとも1つの層を含み、任意で、上記所定の材料以外の材料から構成される層(以下、単に「その他の層」という)を含む。その他の層は、所定の材料からなる層の、自己吸着性発泡シートが設けられる側とは反対側の表面の上に形成される。その他の層は、当該表面の一部に設けられていてもよいし全体に設けられていてもよいが、全体に設けられていることが好ましい。
基材は、所定の材料からなる層のみからなっていてもよい。中でも、基材は、不織布層、または、不織布層と所定の樹脂層とからなることが好ましい。
基材が、不織布層、所定の樹脂層、およびアルミニウム層からなる群から選択される2種以上の層を含む場合、これらの層を一体化する方法は、特に限定されず、接着剤の使用、融着、圧着等の既知の手法を用いて一体化することができる。
【0021】
上記所定の材料からなる層は、坪量(目付け)が40g/m2以上であることが好ましく、80g/m2以上であることがより好ましく、また、500g/m2以下であることが好ましく、400g/m2以下であることがより好ましい。上記所定の材料からなる層の坪量が上記下限値以上であれば、自己吸着性積層体の機械的強度を一層向上させることができる。また、基材が不織布層を含む場合であって、後述する発泡シート用組成物から形成された発泡体や、所定の樹脂層を形成するための樹脂組成物等を不織布層にコーティングしたときに、裏抜けを良好に抑制することができる。一方、所定の材料からなる層の坪量が上記上限値以下であれば、自己吸着性発泡シートを作製する際の加熱乾燥時に熱の通りが悪化することを抑制して、自己吸着性発泡シートを充分乾燥させることができることができる。また、上記所定の材料からなる層の坪量が上記上限値以下であれば、自重の増加を抑制し、施工性を高めることができる。
【0022】
また、上記所定の材料からなる層の厚みは、特に限定されないが、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、130μm以上であることが更に好ましく、また、1000μm以下であることが好ましい。上記所定の材料からなる層の厚みが上記下限値以上であれば、自己吸着性積層体の機械的強度を一層向上させることができると共に、基材が不織布層を含む場合であって、後述する発泡シート用組成物から形成される発泡体や、所定の樹脂層を形成するための樹脂組成物等を不織布層にコーティングしたときに、裏抜けを良好に抑制することができる。また上記所定の材料からなる層の厚みが上記上限値以下であれば、自己吸着性発泡シートを作製する際の加熱乾燥時に熱の通りが悪化することを抑制して、自己吸着性発泡シートを充分乾燥させることができる。
【0023】
[不織布層]
不織布層は、不織布から構成される層である。不織布(フリース)は、繊維が3次元に絡んでなる材料である。具体的には、「不織布」とは、JIS L 0222にて定義されているように、「繊維シート、ウェブまたはバットで、繊維が一方向またはランダムに配向しており、交絡、融着、および接着の少なくとも1つの態様によって繊維間が結合されたもの」(ただし、紙、織物、編物、タフトおよび縮じゅうフェルトを除く)を指す。このように、不織布は繊維が3次元に絡んでなるため、吸湿しても寸法変化し難いものと推察される。
不織布の材質は、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル、ポリウレタン、ポリオオキシメチレン、ポリテトラフルオレエチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール等の樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂は1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、樹脂としては、耐熱性、耐水性、耐薬品性等の観点からは、ポリエステルを用いることが好ましい。また、自己吸着性発泡シートを作製する際の加熱処理中の収縮や溶融に起因して基材の外観が損なわれることを抑制する観点からは、樹脂としては、耐熱性に優れるもの(例えば、結晶性樹脂を用いる場合、融点が100℃以上のもの)を用いることが好ましい。
【0024】
ここで、自己吸着性積層体の耐湿性を一層向上させる観点からは、不織布を構成する繊維は上述した樹脂のみからなることが望ましいが、本発明で使用される不織布は、パルプを含んでいてもよい。ここで、パルプとは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の物質を指す。例えば、不織布は、不織布に含まれる成分の合計を100質量%としたときに、50質量%以上90質量%以下のパルプを含み得る。
【0025】
また、不織布層には、本発明の効果を損なわない範囲で、不織布の製造に使用され得るバインダー(接着剤)、後述する所定の樹脂層を構成する樹脂等の成分、および/または、後述する自己吸着性発泡シートを構成するアクリル樹脂等の成分が含まれていてもよい。さらに、不織布層には、本発明の効果を損なわない範囲で、難燃剤、無機質剤、着色剤、サイズ剤、定着剤、防カビ剤、艶消し剤、抗菌剤などの添加剤が適宜添加されていてもよい。
なお、不織布層には、後述する「融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層」は含まれないものとする。
【0026】
不織布の製造方法としては、特に限定されず、例えば、湿式法、スパンボンド法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法、水流絡合(スパンレース)法などのいずれであってもよい。
【0027】
[融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層]
融点が120℃以上の結晶性樹脂またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなる樹脂層は、融点が120℃以上の結晶性樹脂からなるフィルム(シート)、またはガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂からなるフィルム(シート)である。
これらの樹脂は、吸湿しても寸法変化し難く、また、耐熱性に優れるため、耐湿性を向上させつつ、自己吸着性発泡シートを作製する際の加熱乾燥時の熱による基材の劣化を抑制することができる。
【0028】
融点が120℃以上の結晶性樹脂としては、限定されないが、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等;ポリアミド;ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、融点が120℃以上の結晶性樹脂としては、耐湿性および耐熱性の観点から、ポリエステルを用いることが好ましい。
融点は、示差走査熱量計を用いてJIS K7121に準じて求めることができる。
【0029】
ガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂としては、限定されないが、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル樹脂)、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、加工性、印刷適正、難燃性、耐久性、耐候性、耐薬品性等の観点からは、ガラス転移温度が50℃以上の非結晶性樹脂としては、ポリ塩化ビニルを用いることが好ましい。
ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いてJIS K7121に準じて求めることができる。
【0030】
上記樹脂は発泡体とされていてもよい。すなわち、上記所定の樹脂層は発泡樹脂フィルム(シート)であり得る。
【0031】
なお、上記所定の樹脂層には、通常、後述する自己吸着性発泡シートを構成するアクリル樹脂発泡体は含まれない。
【0032】
上記樹脂フィルム(シート)の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、上記樹脂を含む樹脂層用組成物またはその発泡体を離型性シート(離型性を有する工程紙など)にコーティングしてシート状に成形し、次いで加熱乾燥させて離型性シートの上に直接樹脂層を形成し、得られた積層体から離型性シートを剥離することにより、樹脂層を単独で(独立フィルム(シート)として)得ることができる。あるいは、基材が上記不織布層および/または上記アルミニウム層を備える場合、樹脂層(フィルム)は、上記樹脂を含む樹脂層用組成物またはその発泡体を不織布層またはアルミニウム層にコーティングしてシート状に成形し、次いで加熱乾燥させることにより得てもよい。
ここで、樹脂層用組成物が含み得るその他の成分(樹脂以外の成分)、樹脂層用組成物の調製方法およびコーティング方法、ならびに、樹脂の発泡方法および発泡体の架橋方法等は、特に限定されず、後述する「自己吸着性発泡シート」の項に記載されたものと同様のものを用いることができる。
【0033】
[アルミニウム層]
アルミニウム層は、アルミニウムから構成されるフィルム(シート)である。アルミニウムは吸湿により寸法変化がし難く、また、軽量であり断熱性に優れる材料である。したがって、アルミニウム層は、自重増加の抑制および断熱性の向上を図りつつ、耐湿性を向上させ得る。
【0034】
アルミニウムフィルム(シート)の製造方法は特に限定されず、公知の方法により形成することができる。なお、基材が上記所定の樹脂層を備える場合、該所定の樹脂層上に蒸着法によりアルミニウムを成膜することによりアルミニウム層を形成してもよい。
【0035】
[その他の層]
基材が含み得るその他の層としては、特に限定されないが、アルミニウム以外の金属層、ガラス層などを用いることができる。
【0036】
その他の層の厚みは、特に限定されないが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、また、500μm以下であることがより好ましい。
【0037】
その他の層は、特に限定されず、所定の材料からなる層上に公知の方法により設けることができる。
【0038】
上記所定の材料からなる層とその他の層とを一体化する方法は、特に限定されず、接着剤の使用、融着、圧着等の既知の手法を用いて行うことができる。
【0039】
[基材の厚み]
基材の厚みは、特に限定されないが、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、130μm以上であることが更に好ましく、また、1000μm以下であることが好ましい。基材の厚みが上記下限値以上であれば、自己吸着性積層体の耐湿性を一層向上させることができると共に、基材が不織布層を含む場合であって、後述する発泡シート用組成物から形成される発泡体や、上記所定の樹脂層を形成するための樹脂組成物等を不織布層にコーティングしたときに、裏抜けを良好に抑制することができる。また、基材の厚みが上記上限値以下であれば、自己吸着性発泡シートを作製する際の加熱乾燥時に熱の通りが悪化することを抑制して、自己吸着性発泡シートを充分乾燥させることができる。
【0040】
[基材の坪量]
基材の坪量は、特に限定されないが、10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、また、500g/m2以下であることが好ましく、400g/m2以下であることがより好ましい。基材の坪量が上記下限値以上であれば、自己吸着性積層体の機械的強度を高めることができる。また、基材の坪量が上記上限値以下であれば、自重の増加を抑制し、施工性を高めることことができる。
【0041】
[基材の寸法変化率]
基材は、下記条件の耐湿試験に供した場合に、下記式で表される寸法変化率が1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
基材を23、50%RHの環境下で24時間以上静置し調整した後、10cm×10cmに裁断する。初期の寸法L0を測定し、その後基材を23℃、50%RHの環境下で水に浸漬する。浸漬から4時間後に基材を取出し、軽く水を切った後乾いた布で表面の水気をふき取り吸水後の寸法L1を測定する。下記式に従い寸法変化率を測定する。
寸法変化率(%)=(L1-L0)/L0×100
【0042】
基材は、適宜製造してもよいが、市販のものを用いてもよい。基材として用いられ得る不織布の市販品としては、例えば、帝人フロンティア社製の「315TH-140」、「05-TH-20」等が挙げられる。また、不織布層と樹脂層とを有する市販の基材としては、例えば、アサヒペン社製の「FW-01」等のフリース(不織布)壁紙が挙げられる。
【0043】
<自己吸着性発泡シート>
自己吸着性発泡シートは、密度が0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であり、かつ、25%圧縮強度が3kPa以上15kPa以下であるアクリル樹脂発泡体で構成されている。
【0044】
[アクリル樹脂発泡体]
アクリル樹脂発泡体は、アクリル樹脂を含む発泡シート用組成物を発泡および成形し、必要に応じて硬化させて形成することができる。なお、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を抑制し、リワーク性を高める観点からは、アクリル樹脂発泡体は架橋されたアクリル樹脂で形成されていることが好ましい。
【0045】
ここで、アクリル樹脂発泡体の形成に用いる発泡シート用組成物としては、アクリル樹脂を含み、任意に、架橋剤、整泡剤、溶媒およびその他の添加剤からなる群より選択される1種以上を更に含有する組成物を用いることができる。
【0046】
そして、アクリル樹脂としては、(メタ)アクリレート単量体単位を含有し、任意に、その他の単量体単位を更に含有する重合体を用いることができる。
なお、本発明において、重合体が「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。また、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0047】
ここで、(メタ)アクリレート単量体単位は、(メタ)アクリレート単量体に由来する繰り返し単位である。(メタ)アクリレート単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;などを挙げることができる。中でも、貼り付け時の凹凸追従性と、長期に亘る密着安定性とを向上させる観点からは、(メタ)アクリレート単量体としては、アクリル酸n-ブチルおよび/またはアクリル酸2-エチルヘキシルを用いることが好ましい。
なお、(メタ)アクリレート単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。また、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0048】
そして、重合体中における(メタ)アクリレート単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0049】
その他の単量体単位としては、特に限定されることなく、例えば国際公開第2018/151274号に記載の単量体単位などが挙げられる。具体的には、その他の単量体単位としては、特に限定されることなく、不飽和カルボン酸単量体に由来する繰り返し単位、シアン化ビニル単量体に由来する繰り返し単位およびアルケニル芳香族単量体に由来する繰り返し単位などが挙げられる。
なお、アクリル樹脂は、その他の単量体単位として、後に詳述する架橋剤を用いて架橋構造を形成可能な官能基を有する単量体単位を含むことが好ましい。
【0050】
そして、貼り付け時の凹凸追従性および長期に亘る密着安定性に優れるアクリル樹脂発泡体を得る観点からは、アクリル樹脂としては、ガラス転移温度が低いものを用いることが好ましく、アクリル樹脂のガラス転移温度は-25℃以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、「ガラス転移温度」は、JIS K7121に準拠し、測定温度-50℃以上160℃以下、昇温速度10℃/分の条件で、示差走査熱量分析計を用いることにより、測定することができる。
【0051】
発泡シート用組成物に配合され得る架橋剤としては、アクリル樹脂を架橋可能であれば特に限定されることなく、エポキシ系架橋剤;カルボジイミド系架橋剤;オキサゾリン系架橋剤;トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネート等の多官能性イソシアネート系架橋剤;金属塩系架橋剤;金属キレート系架橋剤;過酸化物系架橋剤;などが挙げられる。
中でも、架橋剤としては、エポキシ系架橋剤またはオキサゾリン系架橋剤が好ましい。
【0052】
なお、架橋剤の配合量は、特に限定されることなく、アクリル樹脂100質量部当たり、0.1質量部以上10質量部以下とすることができる。架橋剤の配合量が上記下限値以上であれば、アクリル樹脂発泡体の強度を確保し、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を抑制することができる。また、架橋剤の配合量が上記上限値以下であれば、アクリル樹脂発泡体の柔軟性を確保し、貼り付け時の凹凸追従性および長期に亘る密着安定性を向上させることができる。
【0053】
発泡シート用組成物に配合され得る整泡剤としては、高級脂肪酸塩や界面活性剤などの既知の整泡剤を用いることができる。なお、整泡剤は、発泡シート用組成物を用いて形成したアクリル樹脂発泡体中に残留し得る。
【0054】
そして、整泡剤の配合量は、特に限定されることなく、アクリル樹脂100質量部当たり、0.1質量部以上20質量部以下とすることができる。整泡剤の配合量が上記下限値以上であれば、良好な連続気泡構造を有するアクリル樹脂発泡体が得られる。
【0055】
発泡シート用組成物が任意に含みうる溶媒としては、特に限定されることなく、水または有機溶媒が挙げられる。中でも、水が好ましい。
【0056】
そして、発泡シート用組成物に配合され得るその他の添加剤としては、例えば、発泡助剤、増粘剤、充填材、防腐剤、防かび剤、ゲル化剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与剤、導電性化合物、耐水剤、耐油剤などを挙げることができる。なお、上述したその他の添加剤としては、特に限定されることなく、既知の添加剤、例えば国際公開第2016/147679号に記載されているものを用いることができる。
【0057】
上述した発泡シート用組成物を用いたアクリル樹脂発泡体の形成は、特に限定されることなく、例えば、準備した発泡シート用組成物を発泡させて未硬化(未架橋)状態の発泡体を得た後、発泡体をシート状に成形し、必要に応じて硬化(架橋反応)させることにより行うことができる。
【0058】
ここで、発泡シート用組成物は、上述した成分を任意の方法および順番で混合することにより調製することができる。例えば、発泡シート用組成物の調製にアクリル樹脂のラテックスを用いる場合には、ラテックスに対し、必要に応じて架橋剤、整泡剤、その他の添加剤などを添加して既知の方法で混合すればよい。また、発泡シート用組成物の調製に溶媒を使用せず、固形状のアクリル樹脂を用いる場合には、固形状のアクリル樹脂と、必要に応じて添加される架橋剤、整泡剤、その他の添加剤などとを既知の方法(例えば、既知のロール、ヘンシェルミキサー、ニーダー等を使用)で混合すればよい。
【0059】
なお、溶媒を含む発泡シート用組成物(例えば、エマルジョンまたはディスパージョンの形態をとる。)の粘度は、1,000mPa・s以上とするのが好ましく、2,000mPa・s以上とするのがより好ましく、3,500mPa・s以上とするのが更に好ましく、10,000mPa・s以下とするのが好ましく、5,500mPa・s以下とするのがより好ましい。発泡シート用組成物の粘度が1,000mPa・s以上であれば、発泡シート用組成物から形成される発泡体を基材または離型性シート(離型性を有する工程紙など)の上にコーティングする際に液ダレが生じて厚みの制御が困難になるのを防止することができる。一方、発泡シート用組成物の粘度が10,000mPa・s以下であれば、発泡シートを形成する際に機械発泡による発泡倍率の制御が困難になることもない。
なお、発泡シート用組成物の粘度は、B型粘度計を用いて、温度23℃で測定することができる。
【0060】
また、発泡シート用組成物の発泡の方法としては、柔軟性に優れるアクリル樹脂発泡体を得る観点から、機械発泡を採用することが好ましい。発泡倍率は、適宜、調整すればよいが、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.6倍以上であり、また、好ましくは2.2倍以下、より好ましくは2.0倍以下である。発泡倍率が上記下限値以上であれば、貼り付け時の凹凸追従性および長期に亘る密着安定性に優れるアクリル樹脂発泡体を得ることができる。また、発泡倍率が上記上限値以下であれば、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を抑制することができる。
【0061】
なお、機械発泡は、特に限定されないが、発泡シート用組成物のエマルジョンまたはディスパージョン中に一定量の空気を混入しオークスミキサー、ホイッパー等により連続的またはバッチ式に撹拌することにより行うことができる。こうして得られた発泡体(発泡エマルジョンまたは発泡ディスパージョン)はクリーム状になる。
【0062】
更に、発泡体をシート状に成形する方法は特に限定されない。好適な方法としては、例えば、上記基材(不織布層、所定の樹脂層、またはアルミニウム層)の上に発泡体をコーティングしてシート状に成形する方法が挙げられる。このように、上記基材上へ発泡体のコーティングを行い、架橋反応を進行させれば、基材上に直接発泡シートが設けられた積層シートを得ることができる。
【0063】
なお、発泡体のコーティングは、上記基材に替えて、離型性シートの上に行うこともできる。離型性シートの上へ発泡体のコーティングを行い、架橋反応を進行させれば、離型性シートの上に直接発泡シートが設けられた積層体を得ることができる。そして、この積層体の発泡シートから離型性シートを剥離させることで、発泡シートを単独で(独立膜として)得ることができる。
【0064】
発泡体を基材または離型性シート(以下、これらを纏めて「基材等」という場合がある。)の上へコーティングする方法としては、アプリケーター、バーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、スクリーンコーター、ドクターナイフコーター、コンマナイフコーター等の一般に知られているコーティング装置を使用することができる。
【0065】
シート状に成形された発泡体を架橋する方法としては、発泡体を加熱乾燥する方法が好ましい。加熱乾燥の方法としては、シート状に成形された発泡体を乾燥、架橋させることができる方法であれば特に限定されず、既知の乾燥炉(例えば、熱風循環型のオーブン、熱油循環熱風チャンバー、遠赤外線ヒーターチャンバー)を使用することができる。乾燥温度は、例えば60℃以上180℃以下とすることができる。また、乾燥を一定温度で実施するのではなく、乾燥初期には低温で内部から乾燥させ、乾燥後期に、より高温で十分乾燥させるような多段階乾燥を行うことが好ましい。
【0066】
なお、上述したようにして得られる、アクリル樹脂発泡体と基材等との積層体は、特に限定されないが、例えば、自己吸着性を有する面にセパレーターフィルムが貼られた後、巻取機によって巻き取られ、プレス裁断、スリッター等により裁断されて使いやすいサイズに加工することができる。
【0067】
[密度]
アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートの密度は、0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であることが必要であり、0.4g/cm3以上0.55g/cm3以下であることが好ましい。密度が上記上限値以下であれば、自己吸着性発泡シートに適度な柔軟性を持たせ、貼り付け時の凹凸追従性および長期に亘る密着安定性を向上させることができる。また、密度が上記下限値以上であれば、自己吸着性発泡シートに適度な強度を持たせ、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を抑制することができる。
【0068】
[25%圧縮強度]
また、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートの25%圧縮強度は、3kPa以上15kPa以下であることが必要であり、4kPa以上であることが好ましく、4.5kPa以上であることがより好ましく、10kPa以下であることが好ましく、8kPa以下であることがより好ましい。25%圧縮強度が上記上限値以下であれば、自己吸着性発泡シートに適度な柔軟性を持たせ、貼り付け時の凹凸追従性および長期に亘る密着安定性を向上させることができる。また、25%圧縮強度が上記下限値以上であれば、自己吸着性発泡シートに適度な強度を持たせ、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を抑制することができる。
【0069】
[凹凸追従率]
更に、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートの凹凸追従率は、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。凹凸追従率が上記下限値以上であれば、長期に亘る密着安定性を向上させることができる。また、凹凸追従率が上記上限値以下であれば、剥離時の被着面への樹脂残りの発生を抑制することができる。
ここで、凹凸を有する被着面に対して良好に貼り付くように自己吸着性発泡シートの粘着力を高めると剥離時に壁紙のような脆い被着体を損傷し易くなる一方、粘着力が低いと凹凸を有する被着面に貼りつかない。そのため、凹凸追従率を高めて被着体との接触面積を確保することで粘着力を高めなくても良好に貼り付けるようにし得ることが、密着安定性と被着体保護の観点から効果的である。
【0070】
[初期自着力]
また、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートの初期自着力は、0.01N/cm以上であることが好ましく、0.05N/cm以上であることがより好ましく、0.50N/cm以下であることが好ましく、0.30N/cm以下であることがより好ましい。初期自着力が上記下限値以上であれば、自己吸着性積層体を被着体に対して良好に貼り付けることができる。また、初期自着力が上記上限値以下であれば、壁紙のような脆い被着体に貼り付けた場合であっても剥離時の被着体の損傷を抑制することができる。
【0071】
[促進試験後自着力]
また、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートの促進試験後自着力は、0.10N/cm以上であることが好ましく、0.20N/cm以上であることがより好ましく、1.0N/cm以下であることが好ましく、0.70N/cm以下であることがより好ましい。促進試験後自着力が上記下限値以上であれば、長期に亘る密着安定性を十分に確保することができる。また、促進試験後自着力が上記上限値以下であれば、リワーク性を高め、壁紙のような脆い被着体に貼り付けた場合であっても剥離時の被着体の損傷を抑制することができる。
【0072】
[平均厚み]
そして、アクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートは、平均厚みが、0.05mm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。平均厚みが上記下限値以上であれば、貼り付け時の凹凸追従性を高めることができると共に、被着面の凹凸形状が基材側に転写されるのを抑制することができる。また、平均厚みが上記上限値以下であれば、自重の増加を抑制し、施工性を高めることができる。
【0073】
なお、上述したアクリル樹脂発泡体の性状(密度、25%圧縮強度、凹凸追従率、平均厚み、自着力等)は、例えば、発泡シート用組成物の組成および固形分濃度、発泡時の気泡の混入比率、発泡体をコーティングする厚み、並びに、乾燥および架橋の条件等を変更することにより、調整することができる。
【0074】
<自己吸着性積層体の製造方法>
上述したアクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートの成形を基材上で行った場合には、得られる積層体をそのまま、或いは、必要に応じて切断等の加工を施してから、自己吸着性積層体として用いることができる。
また、上述したアクリル樹脂発泡体よりなる自己吸着性発泡シートの成形を離型性シート上で行った場合には、離型性シートから剥離した自己吸着性発泡シートを基材に積層および一体化することにより、自己吸着性積層体を得ることができる。ここで、自己吸着性発泡シートと基材の一体化は、接着剤の使用、融着、圧着等の既知の手法を用いて行うことができる。
【0075】
<自己吸着性積層体の用途>
自己吸着性積層体は、その基材面に、例えば、オフセット印刷、シール印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、レーザープリンター、熱転写プリンター、インクジェットプリンター等による印刷を施すことができる。また、自己吸着性積層体は、基材に加飾が施されていてもよい。
そして、自己吸着性積層体は、特に限定されることなく、例えば壁紙の上に貼る壁紙等の、被着面に対して貼り付けるシートとして有利に使用することが可能である。また、自己吸着性積層体は、耐湿性に優れているため、湿度の高い環境下で有利に使用することが可能である。
【実施例0076】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、基材の坪量、厚みおよび寸法変化率、自己吸着性発泡シートの密度、25%圧縮強度および凹凸追従率、並びに、自己吸着性積層体の自着力(初期および促進試験後)、密着安定性、リワーク性および耐湿性は、以下の方法で評価した。
【0077】
<坪量>
実施例および比較例で準備した各基材を20cm×20cmのサイズに切り出し、精秤して得られた質量をXgとした。そして、Xの値を次式に代入することにより、基材の坪量を算出した。
坪量(g/m2)=X/(20×20)×100
<基材の寸法変化率>
実施例および比較例で準備した各基材を、23℃、50%RHの環境下で24時間以上静置し調整した後、10cm×10cmに裁断した。基材の初期の寸法L0を測定し、その後基材を23℃、50%RHの環境下で水に浸漬した。浸漬から4時間後に基材を取出し、軽く水を切った後乾いた布で表面の水気をふき取り、吸水後の寸法L1を測定した。そして、下記式を用いて基材の寸法変化率を測定した。なお、基材の寸法の測定は、不織布(実施例)または裏打ち紙(比較例)の繊維の流れる方向(縦方向)に直交する方向(横方向)に沿う寸法について行った。
寸法変化率(%)=(L1-L0)/L0×100
<密度>
作製した自己吸着性積層体を20cm×20cmのサイズに切り出して試験片を用意した。切り出した試験片の質量:Xgを精秤した。また、20cm×20cmに切り出した基材の質量:Ygを精秤した。その後、作製した自己吸着性積層体および基材の厚みを厚み計にてそれぞれ計測し、自己吸着性積層体の厚みから基材の厚みを差し引くことで、自己吸着性発泡シートの厚み:Tcmを得た。このとき、厚みの値は6点測定した際の平均値より算出した。測定したX、Y、およびTの値を次式に代入することにより、自己吸着性発泡シートの密度を算出した。
密度(g/cm3)=(X-Y)/(T×20×20)
<25%圧縮強度>
自己吸着性積層体から自己吸着性発泡シートを25mm×25mm×20mmのサイズに切り出し、試験片とした。
そして、JIS K6254に準拠し、オートグラフ(島津製作所社製、「AG-IS」)を用いて10mm/分の速度で初期厚みの25%圧縮した際の応力値(kPa)を測定し、25%圧縮強度とした。
<凹凸追従率>
作製した自己吸着性積層体を125mm×25mmのサイズに切り出し、試験片とした。そして、125mm×50mmのサイズに切り出した壁紙(リリカラ社製、「LB-9424」)に試験片を貼り合わせ、試験片の上から2kgfの荷重をかけてローラーで壁紙と試験片を圧着した。
次に、壁紙に貼り合わせた試験片を、上から剃刀刃で断面(接着面)が露出するよう切り出し、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、「VHK-6000」)で断面を観察し、壁紙表面と、試験片の自己吸着性発泡シートとの接触率(=(壁紙に密着している自己吸着性発泡シートの断面の長さ/壁紙表面の断面の長さ)×100%)を凹凸追従率(%)とした。
<自着力(初期)>
作製した自己吸着性積層体を125mm×25mmのサイズに切り出し、試験片とした。次に、125mm×50mmのサイズに切り出した壁紙(リリカラ社製、「LB-9424」)を同サイズのアルミ板に両面テープで貼り合わせ、被着体を用意した。被着体の壁紙側の面に試験片の自己吸着性発泡シート側の面を貼り合わせ、試験片の上から2kgfの荷重をかけてローラーで圧着し、23℃、50%RH環境下にて1時間放置した。その後、試験片の端部をオートグラフ(島津製作所社製、「AG-IS」)の上側チャックに固定し、被着体を下側チャックに固定し、23℃、50%RH環境下にて180度剥離試験を300mm/分の速度で実施した。この時の剥離力(N/cm)を被着体に対する自着力(初期)とした。
<自着力(促進試験後)>
上記「自着力(初期)」の測定と同様の方法で試験片および被着体を用意した。被着体の壁紙側の面に試験片の自己吸着性発泡シート側の面を貼り合わせ、試験片の上から2kgfの荷重をかけてローラーで圧着し、23℃、50%RH環境下にて3時間放置した。その後、60℃、80%RHに調整した恒温槽(ESPEC社製、「CSH-111」)内で14日間放置した(促進試験)。14日経過後、試験片と被着体の貼り合わせ体を恒温槽から取り出し、23℃、50%RH環境下にて3時間放置した後に、試験片の端部をオートグラフ(島津製作所社製、「AG-IS」)の上側チャックに固定し、被着体を下側チャックに固定し、23℃、50%RH環境下にて180度剥離試験を300mm/分の速度で実施した。この時の剥離力(N/cm)を被着体に対する自着力(促進試験後)とした。
<密着安定性>
上記「自着力(促進試験後)」の測定において促進試験後に恒温槽から取り出した直後の試験片について、被着体からの浮きや剥がれが生じていないかを目視で確認し、下記の基準で評価した。
A:試験片の被着体からの浮き・剥がれが確認されない
B:試験片の被着体からの浮き・剥がれが確認される
<リワーク性>
上記「自着力(促進試験後)」測定後の被着体(即ち、自己吸着性積層体が剥離された後の被着体)について、その表面に自己吸着性発泡シートの一部(アクリル樹脂)が残存していないかを目視で確認し、下記の基準で評価した。
A:被着体表面に樹脂残りが確認されない
B:被着体表面に樹脂残りが確認される
<耐湿性>
作製した自己吸着性積層体を20cm×50cmのサイズに切り出し、試験片とした。次に、試験片よりも一回り大きいサイズに切り出した壁紙(リリカラ社製、「LB-9424」)を同サイズのアルミ板に両面テープで貼り合わせて、被着体を用意した。被着体の壁紙側の面に試験片の自己吸着性発泡シート側の面を貼り合わせ、試験片の上から2kgfの荷重をかけてローラーで圧着し、23℃、50%RH環境下にて1時間放置した。その後、試験片と被着体との貼り合わせ体を、40℃、90%RHに調整した恒温槽(ESPEC社製、「CSH-111」)内に4週間放置した。4週間経過後、試験片について、シワや被着体からの浮き・剥がれがないかを目視で確認し、下記の基準で評価した。
A:試験片に、シワや被着体からの浮き・剥がれが確認されない
B:試験片の一部に、シワや被着体からの浮き・剥がれが確認される
C:試験片の全体に、シワや被着体からの浮き・剥がれが確認される
【0078】
(実施例1)
<発泡シート用組成物の調製>
混合容器に、アクリル樹脂のラテックス(日本ゼオン社製、「Nipol LX874」、ガラス転移温度:-36℃、固形分濃度:55%)を100部(固形分:55部)と、エポキシ系架橋剤(ジャパンコーティングレジン社製、「リカボンド EX-8」、脂肪酸ポリグリシジルエーテル)1部と、整泡剤(サンノプコ社製、「ノプコDC-100A」、ステアリン酸アンモニウム)4部とをこの順に添加し、発泡シート用組成物を得た。
<自己吸着性積層体の作製>
上記の通り得られた発泡シート用組成物を泡立て器で撹拌し、発泡倍率が1.6倍になるように泡立て、更に撹拌速度を落として5分間撹拌を続行した。
発泡済みの発泡シート用組成物(発泡体)を、壁紙基材(アサヒペン社製、「FW-01」;パルプとポリエステル繊維からなる不織布層と、発泡塩化ビニル樹脂層とからなる基材)の不織布層の上に、アプリケーターを用いてコーティングした。これを乾燥炉に入れ、80℃で1.33分間、120℃で1.33分間、140℃で1.33分間保持して、乾燥および架橋を実施して基材上に自己吸着性発泡シートを備える自己吸着性積層体(積層シート)を得た。なお、基材の厚みは468μm、坪量は282g/m2であり、寸法変化率は0.3%であった。また、自己吸着性発泡シートの厚みは200μmであった。
そして、得られた自己吸着性積層体を用いて各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例2)
自己吸着性積層体の作製時に、基材をポリエチレンテレフタレート(PET)製の不織布(帝人フロンティア社製、「315TH-140」、厚み:130μm、坪量:140g/m2)に変更した以外は実施例1と同様にして発泡シート用組成物および自己吸着性積層体を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
自己吸着性積層体の作製時に、基材を塩化ビニル壁紙(サンゲツ社製、「SP9519」;パルプからなる裏打ち紙と発泡塩化ビニル樹脂層とからなる基材、厚み:684μm、坪量:243g/m2)に変更し、裏打ち紙の表面上に発泡シート用組成物(発泡体)をコーティングした以外は実施例1と同様にして発泡シート用組成物および自己吸着性積層体を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例2)
自己吸着性積層体の作製時に発泡倍率を1.0倍に変更した以外は比較例1と同様にして発泡シート用組成物および自己吸着性積層体を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例3)
自己吸着性積層体の作製時に発泡倍率を2.5倍に変更した以外は比較例1と同様にして発泡シート用組成物および自己吸着性積層体を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1より、実施例1,2の自己吸着性積層体では、耐湿性と、長期に亘る密着安定性と、長期使用後のリワーク性とを高いレベルで並立できることがわかる。一方、表1より発泡塩化ビニル樹脂層と発泡シートとの間に裏打ち紙が介在して発泡塩化ビニル樹脂層が発泡シートに接触していない比較例1では、耐湿性が低下し、発泡塩化ビニル樹脂層と発泡シートとの間に裏打ち紙が介在して発泡塩化ビニル樹脂層が発泡シートに接触しておらず、かつ、発泡シートの密度および25%圧縮強度が高い比較例2では、リワーク性に優れるものの耐湿性および長期に亘る密着安定性が低下し、また、発泡塩化ビニル樹脂層と発泡シートとの間に裏打ち紙が介在して発泡塩化ビニル樹脂層が発泡シートに接触しておらず、かつ、発泡シートの密度および25%圧縮強度が低い比較例3では、長期に亘る密着安定性に優れるものの耐湿性およびリワーク性が低下することがわかる。