(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109309
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】インキ組成物及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/50 20140101AFI20230801BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C09D11/50
B41M1/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010746
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直子
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 浩
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA06
2H113BA01
2H113BA03
2H113BA05
2H113BA09
2H113BA18
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB08
2H113BB09
2H113BB10
2H113BB18
2H113BB22
2H113BC02
2H113CA39
2H113DA03
2H113DA06
2H113DA15
2H113EA17
2H113FA44
4J039AD21
4J039BA13
4J039BA36
4J039BA39
4J039BE01
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA15
4J039EA21
4J039EA28
4J039GA03
(57)【要約】
【課題】
赤外線吸収特性を備えた有彩色のインキ塗膜を形成することができ、カーボンブラックを含むインキ組成物を用いた偽造を防止可能なインキ組成物及び印刷物を提供する。
【解決手段】
セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物であって、インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、波長850nmの赤外線反射率が30%以下であり、かつ、CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、表1に示す座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10の外側にある構成とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物であって、
前記インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、以下の要件(1)及び(2)を満たすインキ組成物。
(1)波長850nmの赤外線反射率が30%以下である。
(2)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10の外側にあり、座標A~Hが、それぞれ表1;
【表1】
である。
【請求項2】
セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物であって、前記インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、以下の要件(3)及び(4)を満たすインキ組成物。
(3)波長850nmの赤外線の反射率が30%より高く50%以下である。
(4)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標A’E’H’を含む平面1、A’H’D’を含む平面2、D’G’H’を含む平面3、D’C’G’を含む平面4、A’F’E’を含む平面5、A’B’F’を含む平面6、A’B’D’を含む平面7、D’C’B’を含む平面8、F’E’H’を含む平面9、H’G’F’を含む平面10の外側にあり、座標A’~H’が、それぞれ表2;
【表2】
である。
【請求項3】
前記インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、さらに、以下の要件(5)を満たす、請求項1又は2に記載のインキ組成物。
(5)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標aehを含む平面1、ahdを含む平面2、dghを含む平面3、dcgを含む平面4、afeを含む平面5、abfを含む平面6、abdを含む平面7、dcbを含む平面8、fehを含む平面9、hgfを含む平面10の内側にあり、座標a~hが、それぞれ表3;
【表3】
である。
【請求項4】
基材上に、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜を有し、前記インキ塗膜が、以下の要件(6)及び(7)を満たす、印刷物。
(6)波長850nmの赤外線反射率が30%以下である。
(7)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10の外側にあり、座標A~Hが、それぞれ表4;
【表4】
である。
【請求項5】
基材上に、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜を有し、前記インキ塗膜が、以下の要件(8)及び(9)を満たす、印刷物。
(8)波長850nmの赤外線の反射率が30%より高く50%以下である。
(9)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標A’E’H’を含む平面1、A’H’D’を含む平面2、D’G’H’を含む平面3、D’C’G’を含む平面4、A’F’E’を含む平面5、A’B’F’を含む平面6、A’B’D’を含む平面7、D’C’B’を含む平面8、F’E’H’を含む平面9、H’G’F’を含む平面10の外側にあり、座標A’~H’が、それぞれ表5;
【表5】
である。
【請求項6】
前記基材上に前記インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、さらに、以下の要件(10)を満たす、請求項4又は5に記載のインキ組成物。
(10)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標aehを含む平面1、ahdを含む平面2、dghを含む平面3、dcgを含む平面4、afeを含む平面5、abfを含む平面6、abdを含む平面7、dcbを含む平面8、fehを含む平面9、hgfを含む平面10の内側にあり、座標a~hが、それぞれ表6;
【表6】
である。
【請求項7】
前記セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜による第1のパターンと、可視光下で前記第1のパターンと等色の第2のパターンを備え、前記第1のパターンと前記第2のパターンは、赤色の波長域の分光反射率が異なり、かつ、色相角度が-52度から92度であることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を吸収する効果を有するインキ組成物及び印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、旅券、株券、商品券、収入印紙、切手、各種チケット及びその他の有価証券等は、金銭的価値を有するため、高度な偽造防止技術や真偽判別技術を付与することが求められている。これらの偽造防止技術及び真偽判別技術としては、特定の波長領域に吸収特性を有するインキ組成物の塗膜を、目視又は機械により判別して、偽造品と真正品を見極める真偽判別方法等が広く用いられている。
【0003】
例えば、現金処理機等の高速で処理される真偽判別装置で確実に検知して真偽判定するために、一定量以上の赤外線吸収特性を有するインキ組成物の塗膜を用いる方法が知られている。この場合には、例えば、赤外線吸収性顔料を大量に含むインキ組成物を用いて、インキ塗膜の厚さを抑えて画線を形成する方法が用いられる。
【0004】
例えば、目視により真偽を判別する技術として、照明する光源を適当に選択することにより、複数の印刷部分が同色に見える場合と、異なった色に見える場合があることを用いる方法が知られている。例えば、条件等色の特徴を持つ2種以上のインキ組成物(メタメリックペアインキ(見た目の色は通常と変わらないが、発色の成分等が異なるインキがペアで含まれているもの))を用い、インキ組成物に含まれる顔料の特定波長領域における吸収特性を用いるものである。通常光下では等色に見えるが、異なる光源を使用する場合や色フィルタを通して見た場合には、メタメリックペアインキによるインキ塗膜が互いに異る色に見え、また、カラー複写機でも異なる色に再現され、この作用により目視による印刷物の真偽判別が可能となる。
【0005】
特定の波長領域に吸収特性を有するインキ組成物の塗膜を、目視又は機械により判別して、偽造品と真正品を見極める真偽判別に係る技術としては、以下のものが知られている。特許文献1には、セシウム酸化タングステン(Cs0.33WO3)を含む赤外線吸収透明インキ組成物及びセシウム酸化タングステン(Cs0.33WO3)及び黒色有機顔料を含む赤外線吸収黒色インキ組成物が記載されている。特許文献2には、アンチモンドープ酸化錫及び有機染料を含むインキ組成物が記載されている。特許文献3にはメタメリックペア印刷物に、赤外吸収特性を有する画像を付与するために、カーボンブラックを含むインキ組成物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6160830号公報
【特許文献2】特開2011-225782号公報
【特許文献3】特許第4863118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の赤外線吸収透明又は黒色インキ組成物は、有彩色の着色顔料を用いたものではなく、色鮮やかで明るい色彩のインキ塗膜を形成できるものではない。そこで、特許文献1のインキ組成物を色鮮やかで明るい色彩とするために、単純に有彩色の着色顔料を混合して用いた場合、セシウム酸化タングステンの代わりにカーボンブラックを用いて、所望の色の着色顔料を混合することで、同じ赤外線を吸収する効果のある印刷物が偽造されてしまうおそれがある。
【0008】
また、特許文献2のインキ組成物は、セシウム酸化タングステンを含むインキ組成物ではなく、さらに有機染料を用いるものであることから、着色顔料を用いた場合と比較して、経時的に色調が変化するおそれがある。
【0009】
また、特許文献3のインキ組成物及び印刷物は、カーボンブラックを含むものであり、赤外線吸収特性を高めると、カーボンブラックの使用量が増加して黒色濃度が高く明度が低いインキ組成物となることから、インキ塗膜の色調が暗くなり、色彩・デザイン性が制約されてしまう。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、赤外線吸収特性を備えた有彩色のインキ塗膜を形成することができ、カーボンブラックを含むインキ組成物を用いた偽造を防止可能なインキ組成物及び印刷物を提供することである。さらに、メタメリックの効果のある印刷物において、赤外波長域での真偽判定が可能であり、色彩が限定されない印刷模様を形成することができ、カーボンブラックを含むインキ組成物を用いたメタリックの効果のある印刷物の偽造を防止し得る印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(a)セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜が、特定の要件を満たすインキ組成物、及び(b)基材上に、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜が、特定の要件を満たす印刷物、によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下のインキ組成物及び印刷物を提供するものである。
【0012】
[項1]
セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物であって、インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、以下の要件(1)及び(2)を満たすインキ組成物。
(1)波長850nmの赤外線反射率が30%以下である。
(2)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10の外側にあり、座標A~Hが、それぞれ表1;
【表1】
である。
【0013】
[項2]
セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物であって、インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、以下の要件(3)及び(4)を満たすインキ組成物。
(3)波長850nmの赤外線の反射率が30%より高く50%以下である。
(4)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標A’E’H’を含む平面1、A’H’D’を含む平面2、D’G’H’を含む平面3、D’C’G’を含む平面4、A’F’E’を含む平面5、A’B’F’を含む平面6、A’B’D’を含む平面7、D’C’B’を含む平面8、F’E’H’を含む平面9、H’G’F’を含む平面10の外側にあり、
座標A’~H’が、それぞれ表2;
【表2】
である。
【0014】
[項3]
インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、さらに、以下の要件(5)を満たす、項1又は項2に記載のインキ組成物。
(5)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標aehを含む平面1、ahdを含む平面2、dghを含む平面3、dcgを含む平面4、afeを含む平面5、abfを含む平面6、abdを含む平面7、dcbを含む平面8、fehを含む平面9、hgfを含む平面10の内側にあり、座標a~hが、それぞれ表3;
【表3】
である。
【0015】
[項4]
基材上に、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜を有し、インキ塗膜が、以下の要件(6)及び(7)を満たす、印刷物。
(6)波長850nmの赤外線反射率が30%以下である。
(7)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10の外側にあり、座標A~Hが、それぞれ表4;
【表4】
である。
【0016】
[項5]
基材上に、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜を有し、インキ塗膜が、以下の要件(8)及び(9)を満たす、印刷物。
(8)波長850nmの赤外線の反射率が30%より高く50%以下である。
(9)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標A’E’H’を含む平面1、A’H’D’を含む平面2、D’G’H’を含む平面3、D’C’G’を含む平面4、A’F’E’を含む平面5、A’B’F’を含む平面6、A’B’D’を含む平面7、D’C’B’を含む平面8、F’E’H’を含む平面9、H’G’F’を含む平面10の外側にあり、
座標A’~H’が、それぞれ表5;
【表5】
である。
【0017】
[項6]
基材上に前記インキ組成物によって形成したインキ塗膜が、さらに、以下の要件(10)を満たす、項4又は項5に記載の印刷物。
(10)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標aehを含む平面1、ahdを含む平面2、dghを含む平面3、dcgを含む平面4、afeを含む平面5、abfを含む平面6、abdを含む平面7、dcbを含む平面8、fehを含む平面9、hgfを含む平面10の内側にあり、座標a~hが、それぞれ表6;
【表6】
である。
【0018】
[項7]
セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜による第1のパターンと、可視光下で第1のパターンと等色の第2のパターンを備え、第1のパターンと第2のパターンは、赤色の波長域の分光反射率が異なり、かつ、色相角度が-52度から92度であることを特徴とする項4から項6に記載の印刷物。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、赤外線吸収特性を備えた有彩色のインキ塗膜を形成することができ、カーボンブラックを含むインキ組成物を用いた偽造を防止可能なインキ組成物及び印刷物を提供することができる。さらに、メタメリック効果のある印刷物において、赤外波長域での真偽判定が可能であり、色彩が限定されない印刷模様を形成することができ、カーボンブラックを含むインキ組成物を用いたメタメリック効果のある印刷物の偽造を防止し得る印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】CIE1976 L
*a
*b
*色空間における仮の色座標と、色座標を結ぶ平面を示す図である。
【
図2】本発明のインキ組成物の一つ目の形態におけるCIE1976 L
*a
*b
*色空間の色座標と、色座標を結ぶ平面を示す図である。
【
図3】本発明のインキ組成物の二つ目の形態におけるCIE1976 L
*a
*b
*色空間の色座標と、色座標を結ぶ平面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0022】
[インキ組成物]
本発明のインキ組成物は、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物であって、所定の厚さのインキ塗膜を形成したとき、以下の要件を満たす、インキ組成物である。なお、インキ塗膜の特性は、二つの形態があり、順に説明する。
【0023】
(インキ塗膜の特性1)
一つ目のインキ塗膜の特性は、以下の要件(1)及び(2)を満たす。
(1)波長850nmの赤外線の反射率が30%以下である。
(2)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10の外側にあり、座標A~Hが、それぞれ表7;
【表7】
である。
【0024】
インキ塗膜における波長850nmの赤外線の反射率を30%以下とする理由は、インキ塗膜が付与された媒体が高速で搬送される環境において、赤外線吸収特性を読み取るために一般的に用いられている光学センサによって、安定して読み取りを行うためである。なお、インキ塗膜の赤外線反射率は、例えば、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0025】
(CIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*))
本発明において、インキ塗膜の色の特性については、CIE1976 L*a*b*色空間を用いて表しており、CIE1976 L*a*b*色空間において、明度は、L*で、色相と彩度を示す色度は、a*及びb*で表される。明度L*は、0~100の範囲にあり、0が黒方向、100が白方向を示す。色度a*及びb*は、色の方向を示し、+a*方向は赤方向、-a*方向は緑方向、+b*方向は黄方向、-b*方向は青方向を示す。a*及びb*の数値の絶対値が大きくなるにしたがって色鮮やかとなり、絶対値が小さくなる(a*及びb*の数値が0に近くなる)にしたがってくすんだ色となる。なお、彩度は、a*の二乗値とb*の二乗値の和の平方根で表される。インキ塗膜のCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)は、例えば、後述する実施例に記載した方法で測定できる。
【0026】
本発明において、CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)を含む複数の平面よりも、外側にある色の構成について説明する。
図1(a)は、表7に示す座標とは異なる仮の座標A
0からH
0を結ぶ平面の色空間の模式図であり、色空間の座標について分かり易く説明するため、座標点A
0からH
0を結ぶ形状を立方体とした例である。
図1(a)に示す立方体は、座標A
0B
0C
0D
0を含む平面1、座標C
0D
0G
0H
0を含む平面2、座標D
0G
0E
0A
0を含む平面3、座標A
0E
0F
0B
0を含む平面4、座標C
0H
0F
0B
0を含む平面5及び座標H
0G
0E
0F
0を含む平面6によって囲まれており、複数の平面よりも外側とは、平面1、平面2、平面3、平面4、及び平面5に対して外側の色であり、立方体において明度が低い側の平面6の外側は含まない。
【0027】
図1(b)は、平面1から平面5に対して外側の色について説明するための図であり、平面1に対しては、明度L
*の値が高くなる矢印(V1)の方向にある色となる。また、平面2に対しては、矢印(V2)の方向(-a
*の値が高くなる方向)にある色となり、平面3に対しては、矢印(V3)方向(-b
*の値が高くなる方向)にある色となり、平面4に対しては、矢印(V4)の方向(a
*の値が高くなる方向)にある色となり、平面5に対しては、矢印(V5)の方向(b
*の値が高くなる方向)にある色となる。さらに、平面1から平面5に対して外側の色は、平面1と平面2に共通して、
図1(b)に示す矢印(V6)の方向(L
*の値が高くなる方向であり、かつ、-a
*の値が高くなる方向)や、平面1と平面4に共通して矢印(V7)の方向(L
*の値が高くなる方向であり、かつ、a
*の値が高くなる方向)にある色であってもよい。また、平面4と平面5に共通して、a
*の値及びb
*の値が高くなる方向(図示せず)にある色、平面2と平面3に共通して、-a
*の値及び-b
*の値が高くなる方向(図示せず)にある色、平面1、平面4及び平面5に共通して、明度L
*の値、a
*の値及びb
*の値が高くなる方向(図示せず)にある色であってもよい。ただし、平面1から平面5に対して、L
*の値が低くなる方向にある色は含まない。
【0028】
図2は、表7に示す各座標A~Hを結んだ立体図の模式図である。なお、詳細には、各座標A~Hの点を結んだ平面は、各座標A~Hのうちの三つの座標を結ぶ三角形の平面が接して成る立体形状となるが、
図2では簡易に説明するため、各座標A~Hのうち、四つの座標を結んだ立体形状を示している。
【0029】
図2に示す立体形状においても、座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10よりも外側にある色を塗膜の色として用いることができ、外側の方向の一部について、矢印の方向(v1からv6)で示している。
図2では、平面1から平面10の外側の方向の一部を図示しているが、
図1(b)に示す各平面に対して外側となる方向と、段落(0027)で説明した方向は、
図2に示す平面に対しても同様となる。なお、明度が低い側のGCBF面より外側の領域は、暗い色となることから、本発明の効果を奏することができない。
【0030】
本発明のインキ塗膜は、セシウム酸化タングステンを含むインキ組成物を印刷することにより、十分な赤外線吸収特性を有していながら、明度又は彩度の高いインキ組成物とすることができ、デザイン性の幅を広げることが可能となる。なお、本発明者は、赤外線吸収顔料としてカーボンブラックを含むインキ組成物の塗膜を作製したとき、波長850nmの赤外線の反射率を30%以下とすると、カーボンブラックによって、インキ組成物の色が暗くなり、CIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)が、上記平面よりも外側の色の要件を満たすことが困難であることを見出した。このため、カーボンブラックを用いたインキ組成物により偽造されるおそれを低くすることができる。
【0031】
(インキ塗膜の特性2)
二つ目のインキ塗膜の特性は、以下の要件(3)及び(4)を満たす。
(3)波長850nmの赤外線の反射率が30%より高く50%以下である。
(4)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標A’E’H’を含む平面1、A’H’D’を含む平面2、D’G’H’を含む平面3、D’C’G’を含む平面4、A’F’E’を含む平面5、A’B’F’を含む平面6、A’B’D’を含む平面7、D’C’B’を含む平面8、F’E’H’を含む平面9、H’G’F’を含む平面10の外側にあり、座標A’~H’が、それぞれ表8;
【表8】
である。
【0032】
図3は、表8に示す各座標A’~ H’を結ぶ立体図形と、比較のため表7の各座標A~Hを結んだ立体図形の模式的に示す図である。
図3において、表8に示す各座標A’~ H’を結ぶ立体図形は、太線で示しており、表7に示す各座標A~Hを結ぶ立体図形は、
図2と同じ形状を示している。
図3に示すように、表8に示す各座標を結ぶ立体図形は、表7に示す各座標を結ぶ立体図形よりも、全体的に明度が高い方向にあるとともに、a
*及びb
*の数値の絶対値が大きい傾向にある。すなわち、二つ目のインキ塗膜は、一つ目のインキ塗膜よりも明るく、彩度が高い色の範囲となっている。
【0033】
インキ塗膜における波長850nmの赤外線の反射率を30%より高く50%以下とする理由は、一つ目の形態とは異なり、赤外線カメラや赤外線ビューワによって、印刷物の赤外吸収特性の読取を行うためである。赤外線カメラや赤外線ビューワを用いる場合、高速で搬送される媒体の赤外線の読取を行う場合よりも観察環境が安定していることから、インキ塗膜のパターンが安定して得られるとともに、パターンのわずかなカスレや汚れを人の目が補間して判別することから、一つ目の構成より赤外線吸収特性が低くても、判別を行うことができる。
【0034】
二つ目のインキ塗膜の特性である色の範囲についても、セシウム酸化タングステンを含むインキ組成物を印刷することにより、十分な赤外線吸収特性を有していながら、明度の高いインキ組成物とすることができ、デザイン性の幅を広げることが可能となる。なお、本発明者は、波長850nmの赤外線の反射率が50%のときにおいても、カーボンブラックによって、インキ組成物の色が暗くなり、CIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)が、上記平面よりも外側の色の要件を満たすことが困難であることを見出した。赤外線の反射率が50%のインキ塗膜を、カーンブラックを含むインキ組成物で形成する場合に対して、赤外線の反射率が30%のインキ塗膜を、カーボンブラックを含むインキ組成物で形成する場合には、よりカーボンブラックの量を増やす必要があることから、そのときに再現できるインキ塗膜の色の範囲は狭くなる(くすんだ色、暗い色)。したがって、表8に記載の赤外線の反射率50%のときに、カーボンブラックを含むインキ組成物で再現できない色の範囲については、赤外線の反射率が50%以下の範囲においても再現できない。
【0035】
赤外線反射率については、インキ組成物に含まれるセシウム酸化タングステンの配合量やインキの膜厚によって調整可能であり、塗膜の色についてもインキ組成物に含まれる着色顔料やインキの膜厚によって調整可能であるが、いずれにしても、上記(1)と(2)又は(3)と(4)の要件を満たすインキ組成物であれば、カーボンブラックを含むインキ組成物によって再現できない効果を奏する。なお、インキ塗膜が上記した赤外線反射率と色の要件を満たすためのインキ塗膜の厚さについては、後述するインク組成物を印刷する方式によって形成可能な範囲であればよい。例えば、インキ塗膜が薄くなるオフセット印刷の場合、インキ塗膜の厚さは、0.5μm~2μm程度であり、インキ塗膜を厚くすることができるスクリーン印刷の場合、インキ塗膜の厚さは、200μmまで印刷することが可能であり、各印刷方式において、赤外線反射率と色の要件を満たせばよい。
【0036】
<セシウム酸化タングステン>
セシウム酸化タングステンは、下記一般式(組成式)(I)で表される化合物であることが好ましい。
MxWyOz・・・(I)
Mはセシウムを含む金属、Wはタングステン、Oは酸素を表す。
0.001≦x/y≦1.1
2.2≦z/y≦3.0
Mはセシウムを含む金属であり、セシウム以外の金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Sn、Pb、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi等からなる群から選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0037】
x/yが0.001以上であることにより、赤外線を十分に遮蔽することができ、1.1以下であることにより、セシウム酸化タングステン中に不純物相が生成されることをより確実に回避することできる。z/yが2.2以上であることにより、材料としての化学的安定性をより向上させることができ、3.0以下であることにより赤外線を十分に遮蔽することができる。
【0038】
上記一般式(I)で表されるセシウム酸化タングステンの微粒子は、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、当該六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を含むことが好ましく、特に六方晶の結晶構造を持つことが好ましい。上記一般式(I)で表されるセシウム酸化タングステンの具体例としては、Cs0.33WO3等が挙げられる。
【0039】
セシウム酸化タングステンは、微粒子であることが好ましく、セシウム酸化タングステンの体積平均粒子径は、800nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。体積平均粒子径がこのような範囲であることによって、セシウム酸化タングステンが光散乱によって可視光を遮断しにくくなることから、可視光領域における透光性をより確実にすることができる。光散乱を回避する観点からは、平均粒子径は小さいほど好ましいが、製造コストや取扱容易性等から、セシウム酸化タングステンの体積平均粒子径は、通常1nm以上である。セシウム酸化タングステンは、市販品を用いてもよい。例えば、住友金属鉱山株式会社製のYMF-02、YMF-02A、YMS-01A-2、YMF-10A-1、YMDF-05A、YMDS-874、YMW-D20等を用いることができる。
【0040】
インキ組成物中のセシウム酸化タングステンの含有量は、用途やインキ塗膜の機能等に応じて調整すればよい。同じ赤外線の反射率の塗膜を形成する場合であっても、セシウム酸化タングステンの含有量が少なければ、その分、厚い膜厚とすることで対応でき、セシウム酸化タングステンの含有量が多ければ、薄い膜厚とすることで対応できる。なお、本発明においては、赤外線の反射率が50%以下の塗膜を形成する必要があり、少なくとも、インキ組成物の全固形分を100質量%としたときに、0.1質量%以上とする必要がある。一方、インキ組成物中のセシウム酸化タングステンの含有量が、インキ組成物の全固形分を100質量%としたときに10質量%を超えると、インキ塗膜のヘイズ値が低下し、インキ塗膜の透明性や色調に影響を与えるおそれがあることから、10質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
<着色顔料>
本発明のインキ組成物の構成成分である着色顔料は、特に限定されない。無機顔料及び有機顔料から、所望の色彩を得るために適宜のものが用いられる。
【0042】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、アルミナ、亜鉛黄、紺青、群青、グラファイト、アルミニウム粉等を用いることができる。有機顔料としては、例えば、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、アゾメチン系、インダンスロン系、カルボニル系、アントラキノン系、ニトロ系、フタロシアニン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ベンゾジフラノン系、ベンゾイミダゾロン系、メチン系、ポリエン系、ポリメチン系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、キノフタロン系、ペリレン系、ペリノン系、トリアリルメタン系、ジケトピロロピロール系及びカロテン系等を用いることができる。着色顔料は、これらの1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
インキ組成物における着色顔料の含有量は、上記の要件(1)及び(2)又は要件(3)及び(4)を満たすものであれば特に限定されるものではなく、所望とするインキ塗膜の色に応じて配合して用いればよいが、インキ組成物の印刷用の基材への印刷適性や、インキ塗膜の堅ろう性を考慮すると、インキ組成物の全固形分を100質量%とした場合、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。
【0044】
<溶剤>
本発明のインキ組成物は、粘度調整や印刷適性付与等を目的として、溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、鉱物油、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤等を用いることができる。
【0045】
<その他成分>
本発明のインキ組成物は、必要に応じて、「セシウム酸化タングステン及び着色顔料」以外の顔料(以下、「その他の顔料」という場合がある。)、樹脂や光重合性化合物等の塗膜形成成分、ゲル化剤、界面活性剤、酸化防止剤、沈降防止剤、消泡剤、ブロッキング防止剤、磁性材料、発光性材料、導電性材料、乾燥剤等を添加して使用してもよい。本発明においては、これらのその他成分のうち1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明のインキ組成物は、所定の厚さのインキ塗膜を形成したとき、インキ塗膜がさらに以下の要件(5)を満たすことが好ましい。
(5)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標aehを含む平面1、ahdを含む平面2、dghを含む平面3、dcgを含む平面4、afeを含む平面5、abfを含む平面6、abdを含む平面7、dcbを含む平面8、fehを含む平面9、hgfを含む平面10の内側にあり、座標a~hが、それぞれ表9;
【表9】
である。
【0047】
表9に示す各座標は、インキ組成物に含まれる着色顔料として、プロセスインキである、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、ブラックインキを用いて再現できる色の範囲である。シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、ブラックインキは、一般的で安価であり、各色のインキの組合せにより、表現できる色の範囲も広いことから、好ましい。なお、上記のプロセスインキの他に特色インキを用いることで、表9に示す領域以外の色を再現することもできる。
【0048】
<インキ組成物の製造方法>
本発明のインキ組成物の製造方法は、インキ組成物の構成成分を均一に混合できる製造方法であれば、特に限定されない。インキ組成物の製造方法における構成成分の混合に際しては、例えば、プラネタリミキサ、タンブラー、ビーズミル、サンドミル、スターラー、撹拌機、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、3本ロールミル等の混合機を用いることができる。
【0049】
<インキ組成物の用途>
本発明のインキ組成物は、赤外線吸収特性を利用した偽造防止インキ組成物又はメタメリックペアインキ組成物として用いることができる。インキ組成物を付与した製品の例としては、銀行券(紙幣)、印紙、切手、有価証券、身分証明書、パスポート、セキュリティラベル、カード等の偽造防止が求められる印刷物用インキとして用いることができる。
【0050】
[印刷物]
本発明の印刷物は、基材上に、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキ塗膜を有し、インキ塗膜の特性は、二つの形態があり、順に説明する。
【0051】
一つ目のインキ塗膜の特性は、以下の要件(6)及び(7)を満たす印刷物である。
(6)波長850nmの赤外線の反射率が30%以下である。
(7)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標AEHを含む平面1、AHDを含む平面2、DGHを含む平面3、DCGを含む平面4、AFEを含む平面5、ABFを含む平面6、ABDを含む平面7、DCBを含む平面8、FEHを含む平面9、HGFを含む平面10の外側にあり、座標A~Hが、それぞれ表10;
【表10】
である。
【0052】
二つ目のインキ塗膜の特性は、以下の要件(8)及び(9)を満たす印刷物である。
(8)波長850nmの赤外線の反射率が30%より高く50%以下である。
(9)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標A’E’H’を含む平面1、A’H’D’を含む平面2、D’G’H’を含む平面3、D’C’G’を含む平面4、A’F’E’を含む平面5、A’B’F’を含む平面6、A’B’D’を含む平面7、D’C’B’を含む平面8、F’E’H’を含む平面9、H’G’F’を含む平面10の外側にあり、座標A’~H’が、それぞれ表11;
【表11】
である。
【0053】
表10及び表11に示す本発明の印刷物に形成されたインキ塗膜が備える一つ目のインキ塗膜の特性と二つ目のインキ塗膜の特性は、前述した本発明のインキ組成物を読み取る環境の赤外線反射率と、各赤外線反射率を備えたインキ組成物を、カーボンブラックを含むインキ組成物では、再現することができない色の範囲に対応したものである。
【0054】
また、本発明の印刷物に形成されたインキ塗膜は、さらに以下の要件(10)を満たすことが好ましい。
(10)CIE1976 L
*a
*b
*色空間の座標(L
*,a
*,b
*)が、下記座標aehを含む平面1、ahdを含む平面2、dghを含む平面3、dcgを含む平面4、afeを含む平面5、abfを含む平面6、abdを含む平面7、dcbを含む平面8、fehを含む平面9、hgfを含む平面10の内側にあり、座標a~hが、それぞれ表12;
【表12】
である。
【0055】
表12に示す本発明の印刷物に形成されたインキ塗膜が備える特性は、プロセスインキであるシアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、ブラックインキを用いて再現できる色の範囲であり、一般的で安価であり、各色のインキの組み合わせにより、表現できる色の範囲も広いことから、好ましい。なお、上記のプロセスインキの他に特色インキを用いることで、表12に示す領域以外の色を再現することもできる。
【0056】
基材としては、インキ塗膜を付与できる面を備えていれば特に限定されず、例えば、紙、プラスチックフィルム、ガラス、金属、木材、これらの複合体等を用いることができる。また、基材は、白色でもよいし、赤、青、黄色等の色で着色されていてもよいが、本発明の印刷物において、基材の色がインキ塗膜の色に影響する場合(インキ塗膜の厚さが薄いと、基材の色が透ける場合がある)、インキ塗膜が付与された領域の色が、要件(7)又は要件(9)の条件を満たす構成であればよい。
【0057】
本発明の印刷物の構成において説明するセシウム酸化タングステン、着色顔料及びこれらを含むインキ組成物、波長850nmの赤外線の反射率及びCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)については、前述した[インキ組成物]に記載したのと同様である。
【0058】
<印刷方法>
本発明の印刷物は、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物を用い、基材上に、凹版印刷、凸版印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の印刷方法を用いることで、作製することができる。
【0059】
<印刷物の用途>
本発明の印刷物は、種々の用途に用いられる。特に、セキュリティ印刷物や意匠性が求められる印刷物、例えば、銀行券(紙幣)、印紙、切手、有価証券、身分証明書、パスポート、セキュリティラベル等に用いられる。例えば、基材上に赤外線を吸収するインキ塗膜を形成し、赤外光の吸収を検知して真偽判別する印刷物に用いることができる。また、可視光下では等色として視認されるが、特定光源下又は特定波長透過フィルタを介在させたときに、パターンを認識可能なメタメリックな性質を有する偽造防止用印刷物に用いることができる。
【0060】
メタメリックな性質を有する偽造防止用印刷物とする場合、表10又は表11に示す赤外線反射率に応じた色の範囲において、セシウム酸化タングステンを含むインキにより形成した第1のパターンと、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ等の通常の着色インキ(カーボンブラック、セシウム酸化タングステンは含まない)により、可視光下で観察した際に、第1のパターンと等色に形成された第2のパターンを設ける構成とする。なお、第1のパターンと第2のパターンは、従来のメタメリックペアインキと同様に、分光反射率が異なる顔料を可視光下で等色になるように組合せて、それぞれのパターンを形成するインキに配合して形成する。本発明において、「等色」とは、観察者が注意を払わずに二つのパターンを観察した場合に同じ色彩であると感じられる程度に二つの色が近い状態を指すこととする。二つのパターンの色が近く、可視光下で区別できない構成として、二つのパターンの色差ΔE(本発明ではCIE1976L*a*b*色差式によるものとする。)が、7以下とすることが好ましく、3以下とすることが、より好ましい。
【0061】
第1のパターンと第2のパターンは、所定の図柄(文字、記号、図形等や、地紋、彩紋等)をネガポジ関係で配置する例や、同じ図柄を二つ並べて配置する例等があり、基材に二つのパターンが配置されるものであれば、特に限定されるものではなく、第1のパターンと第2のパターンが、離れて配置されてもよい。
【0062】
メタメリック効果を有する偽造防止用印刷物においては、特定光源下又は特性波長透過フィルタの条件として、赤色の波長域(610nm~700nm)を用いることができ、このとき赤色の光源又は赤色透過フィルタを用いた際に視認される二つのパターンのコントラストが高くなることから好ましい。これに対応したセシウム酸化タングステンを含む第1のパターンを形成するインキ及びこれと等色の第2のパターンを形成するインキによるインキ塗膜の色は、赤紫色から黄赤の色相であって、具体的には、色相角度が、-52度(赤紫色)~92度(黄赤色)の144度の範囲である。本発明において色相角度は、CIE1976 L*a*b*色空間において、赤、青、黄等の各色相を表す角度のことであり、a*軸を基準に、反時計回りの方向は正の角度とし、時計回りの方向は負の角度として表される。
【0063】
上記色相角度の範囲は、赤色の光源又は赤色透過フィルタを用いた場合に消失する赤紫色のインキの色相を基準(色相角度が-52度)に、赤色の光源又は赤色透過フィルタを用いた場合に消失する黄色のインキと赤色のインキを混ぜて表現できる色相に対応しており、赤紫色のインキに黄色のインキと赤色のインキを適宜混ぜることで、色相角度が92度までの色を表現することができる。一方で、赤色の光源又は赤色透過フィルタを用いた場合に消失する効果のない青色のインキを混ぜた場合には、消失する効果が得られないことから、これを第1のパターンを形成するためのインキとして用いる。なお、メタメリック効果のある印刷物を形成するためのインキの配合の詳細については、実施例で説明する。
【0064】
メタメリックな性質を有する偽造防止用印刷物において、セシウム酸化タングステンを含むインキにより形成した第1のパターンと、それと等色の第2のパターンは、可視光下では等色として認識されるが、特定光源下又は特定波長透過フィルタを介在させたときに、二つのパターンの色の差が生じることから、これによって真偽判別することができる。なお、偽造防止用印刷物に可視光を照射する光源としては、蛍光灯や太陽光を用いることができる。さらに、偽造防止用印刷物を赤外光下で観察した場合には、第1のパターンが所定の割合の赤外線を吸収していることを確認することで、真偽判別することができる。すなわち、従来のメタメリック効果を有する印刷物に対して、更に、赤外線の波長を利用した真偽判別ができるとともに、偽造防止効果が向上する効果が得られる。
【0065】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製したインキ組成物及びインキ組成物を印刷したインキ塗膜の例及び比較例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。なお、特に記載がない場合、各例中の「部」は質量部、「%」は「質量%」である。
【実施例0066】
[インキ原料]
実施例及び比較例で用いたインキ原料は、以下のとおりであり、各インキ原料を所定の割合で配合してインキ組成物を作製し、各インキ組成物による塗膜の評価を行った。以下、実施例及び比較例の詳細について説明する。
【0067】
<セシウム酸化タングステンペースト(CWOペースト)>
セシウム酸化タングステンペースト(住友金属鉱山株式会社、CWO(登録商標) YMDM-05A)を用いた。なお、本実施例で用いたセシウム酸化タングステンペーストは、セシウム酸化タングステンの顔料の濃度が65.9wt%のものである。
【0068】
<カーボンブラック(CB)>
黒色顔料(T&K TOKA社製 No.6UVLカートン墨CW)を用いた。
【0069】
<黄インキ>
黄色顔料(T&K TOKA社製 No.6UVLカートン黄CW)を用いた。
【0070】
<紅インキ>
紅色顔料(T&K TOKA社製 No.6UVLカートン紅CW)を用いた。
【0071】
<藍インキ>
黄色顔料(T&K TOKA社製 No.6UVLカートン藍CW)を用いた。
【0072】
<蛍光メジウム>
蛍光顔料(T&K TOKA社製 UV蛍光メジウムB)を用いた。
【0073】
[インキ塗膜の評価]
<印刷物の作製>
作製したインキ組成物を、万能印刷適性試験機(熊谷理機工業株式会社)を用いて、印刷速度1.0m/min、印刷圧力20kgfで上質紙に印刷し、印刷物を作製した。
<赤外線反射率>
分光光度計(UH4150 日立ハイテクサイエンス社製)を用い、得られた印刷物の印刷部分の赤外線反射率を測定した。赤外線の波長は、一般的に偽造品の真贋判定で使用される波長である850nmとした。赤外線反射率の数値が低いほど、そのインキ塗膜の赤外線吸収率が高いことを意味している。
【0074】
<CIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)>
Spectroeye 分光光度計(Gretag Macbeth社製)を用い、光源D65、視野10°の条件で測定し、絶対白基準のL*値、a*値及びb*値を得た。
【0075】
[実施例1]
セシウム酸化タングステンペースト(住友金属鉱山株式会社、CWO(登録商標) YMDM-05A) 15部、及び、蛍光メジウム 85部を、ミキサーを用いて混合し、インキ組成物を作製した。得られたインキ組成物の組成、当該インキ組成物による塗膜の赤外線反射率及びCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)を表13に示す。
【0076】
[実施例2~8、比較例1~8]
実施例2~8のインキ組成物については、インキ組成物の構成成分を、それぞれ表13に記載した成分としたほかは、実施例1と同様にして、インキ組成物を作製したもので、当該インキ組成物による塗膜の赤外線反射率及びCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)を表13に示す。比較例1~8のインキ組成物については、実施例1から8のインキ組成物の赤外反射特性と略同等の赤外反射特性とするためにカーボンブラックを配合するとともに、同じ色とするために、各色の着色インキを配合したもので、得られたインキ組成物の組成、赤外線反射率及びCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)、塗膜の膜厚を表14に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
表13及び表14より、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物は、比較例よりも明度L*が大きく(白方向の色調であり)、色度a*及びb*の絶対値が大きいことから、明度が高く色鮮やかな色調の塗膜を形成できることがわかる。一方で、カーボンブラックを含むインキ組成物は、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物と同様の赤外線反射率とした場合、明度L*が小さく(暗い方向の色調であり)、色度a*及びb*の絶対値が小さいことわかる。すなわち、カーボンブラックを含むインキ組成物は、セシウム酸化タングステンを含むインキ組成物の色を再現できないことがわかる。
【0080】
比較例1~8のインキ組成物の赤外線反射率は、33%程度であるが、それよりも低い反射率(赤外線吸収率が高くなる)を有するインキ組成物にする場合には、カーボンブラックの配合を増やす必要があり、表14に示す色よりも、明度L*の値は小さくなるとともに、色度a*及びb*の絶対値が小さくなる。すなわち、セシウム酸化タングステンを含むインキ組成物による塗膜の赤外線の反射率を30%以下とした場合に、表14に示す色の範囲を超えて再現することができない。
【0081】
実施例1~7において、インキ塗膜の膜厚は、概ね1μmとなっているが、前述のように、印刷方式に応じて、0.5~200μmの膜厚の塗膜を形成することができるので、所望とする膜厚に応じて、セシウム酸化タングステンの配合を調整して塗膜の赤外線反射率を30%以下とし、前述した要件(2)を満たす色のインキ組成物とすることで、カーボンブラックを含むインキ組成物による偽造を防止することができる。
【0082】
[比較例9~16]
比較例9~16のインキ組成物については、赤外反射率が50%となるように、カーボンブラックを配合し、各色の着色インキを配合したもので、得られたインキ組成物の組成、赤外線反射率及びCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)を表15に示す。
【0083】
【0084】
比較例9~16のインキ組成物の赤外線反射率は、50%程度であり、比較例1~8のインキ組成物よりも、カーボンブラックの配合量が少なくなっている。これにより、比較例1~8のインキ組成物よりも、明度が高く、鮮やかな色のインキ塗膜となっている。ただし、比較例9~16のインキ組成物にと同程度の赤外線反射率を有するセシウム酸化タングステンを含むインキ組成物による塗膜は、セシウム酸化タングステンペーストが透明であるため、表15に示す色よりも明度L*の値と彩度の値が高い色を再現することができる。すなわち、セシウム酸化タングステンを含むインキ組成物の塗膜の赤外線の反射率を50%以下とした場合に、表15に示す色の範囲を超えて再現することができない。
【0085】
[実施例9~実施例11メタメリック効果を有する印刷物]
実施例9~実施例11は、メタメリック効果を有する印刷物の例であり、セシウム酸化タングステンを含むインキ組成物により、第1のパターンを形成し、可視光下で第1のパターンと等色の第2のパターンを形成した。なお、実施例9~実施例11の印刷物を構成する第1のパターンと第2のパターンを形成するための各インキ組成を構成する材料については、実施例1~8で用いた材料と、赤色の光源又は赤色透過フィルタを用いた場合に消失するインキとして、赤紫インキ(クラリアント社製 Hostaperm Red Violet ER02)を用い、表16に示す割合で配合して各インキ組成物を作製した。
【0086】
実施例9~実施例11の印刷物における第1のパターン及び第2のパターンの赤外線反射率及びCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)及び色相角度を表16に示す。なお、実施例9の第1のパターンと第2のパターンは、赤紫色であり、実施例10の第1のパターンと第2のパターンは、赤色であり、実施例11の第1のパターンと第2のパターンは、薄い紫色である。
【0087】
【0088】
実施例9~実施例11の印刷物において、可視光下で観察すると二つのパターンが等色であることから、見分けがつかないが、赤色フィルタ(富士フィルム社製 シャープカットフィルタ SC64)を用いて観察すると、第2のパターンが消失して見えなくなる効果が得られるとともに、第1のパターンは、消失することなく確認された。これは、第1のパターンを形成するCWOペーストが目視では略透明であるが、わずかに青色成分を含んでいることから、赤色フィルタを用いて消失することがないためである。また、近赤外線カメラ(日本シィーディーアール社製 MS-40)を用いて観察すると、第2のパターンは、消失して、第1のパターンのみ視認できることで、真偽判別が行えることが確認できた。なお、実施例9~実施例11のインキ組成物の赤外線反射率は、37%程度であり、表15に示す比較例9~16に示すCIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)の範囲の外側であって、かつ、色相角度が-52度~92度の範囲とした場合には、カーボンブラックを用いて再現することができない。
【0089】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、上記の構成において、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。したがって、上記の説明に含まれるか又は添付の図面に示されるすべての事項は、例示的なものとして解釈されるべきである。