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特開2023-109359積層体の固定治具、及び、窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法
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  • 特開-積層体の固定治具、及び、窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109359
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】積層体の固定治具、及び、窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20230801BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20230801BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20230801BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230801BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20230801BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20230801BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B33/00
H01L21/68 N
H01L21/304 611W
B24B27/06 D
B24B41/06 Z
B28D5/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010825
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】石津 澄人
(72)【発明者】
【氏名】永島 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 玲緒
【テーマコード(参考)】
3C034
3C069
3C158
4G077
5F057
5F131
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB75
3C069AA01
3C069BA06
3C069CA03
3C069CB01
3C069EA02
3C158AA05
3C158AA11
3C158AB04
3C158AB09
3C158CA04
3C158CB01
3C158DA03
4G077AA02
4G077BE13
4G077FG13
4G077FJ03
4G077HA02
5F057AA01
5F057AA41
5F057BA01
5F057BA11
5F057BA16
5F057BB05
5F057BC06
5F057CA02
5F057CA14
5F057DA15
5F057EB24
5F057FA15
5F057FA22
5F057FA30
5F131AA02
5F131AA22
5F131BA42
5F131CA01
5F131EA05
5F131EB46
5F131EB51
5F131EB53
(57)【要約】
【課題】窒化アルミニウム単結晶体の分離において、厚さ方向における目標位置からのずれを抑制する。
【解決手段】積層体から窒化アルミニウム単結晶体を分離するときに用いる固定冶具であって、積層体を接着する接着層が載置される載置面を備え、載置面は、少なくとも1つの凹部を有している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体から窒化アルミニウム単結晶体を分離するときに用いる固定冶具であって、
前記積層体を接着する接着層が載置される載置面を備え、
前記載置面は、少なくとも1つの凹部を有している、
固定冶具。
【請求項2】
前記載置面に前記接着層が設けられ、該接着層に前記積層体が接着された状態において、
前記凹部は、平面視において、少なくとも1部が前記積層体と重なる位置に形成されている、
請求項1に記載の固定冶具。
【請求項3】
窒化アルミニウム単結晶体を含む積層体を準備する準備工程、
固定冶具の載置面上に接着剤により形成された接着層を介して前記積層体を載置する載置工程、及び、
前記接着層上に接着された前記積層体から前記窒化アルミニウム単結晶体を分離する分離工程、を含む窒化物アルミニウム単結晶基板の製造方法であって、
前記載置工程は、前記載置面と前記積層体との間に存する前記接着剤の1部を、前記固定冶具の厚さ方向において前記載置面よりも低い位置に案内することを含む、
窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記分離工程では、ワイヤーソウを用いて前記積層体から前記窒化アルミニウム単結晶体を板状に切断する、請求項3に記載の窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
前記分離工程において、前記窒化アルミニウム単結晶体の側面に緩衝層を形成し、次いで緩衝層とワイヤーソウとを接触させてから前記窒化アルミニウム単結晶体を切断する、請求項4に記載の窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体からの窒化アルミニウム単結晶体の分離に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムによるアルミニウム系III族窒化物半導体は広範囲のバンドギャップエネルギーの値を有している。これらの窒化物半導体は任意の組成の混晶半導体をつくることが可能であり、その混晶組成によって、各種バンドギャップの間の値を取ることが可能である。
【0003】
したがって、アルミニウム系III族窒化物半導体を用いることにより、原理的には赤外光から紫外光までの広範囲な発光素子を作ることが可能となる。特に、アルミニウム系III族窒化物半導体を用いた発光素子によれば、紫外領域等の短波長での発光が可能となる。
【0004】
アルミニウム系III族窒化物半導体を用いた発光素子は、従来の半導体発光素子と同様に、基板上に厚さが数ミクロン程度の半導体単結晶の薄膜(具体的にはn型半導体層、発光層、p型半導体層となる薄膜)を順次積層することにより製造可能である。このような半導体単結晶の薄膜を形成する方法としては、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属気相成長(MOCVD:Metalorganic Chemical Vapor Deposition)法等の結晶成長方法が知られている。
【0005】
アルミニウム系III族窒化物半導体発光素子の製造にあたっては、基板としての結晶品質、紫外光透過性、量産性及びコストの観点から、サファイア基板が一般的に採用されている。しかし、サファイア基板上にアルミニウム系III族窒化物半導体発光素子を形成した場合、サファイア基板と半導体発光素子の各層を構成するアルミニウム系III族窒化物との間の格子定数や熱膨張係数等の違いに起因して、結晶欠陥(ミスフィット転位)やクラック等が生じ、素子の発光性能を低下させる原因になる。
【0006】
これらの問題を解決するためには、素子を構成するアルミニウム系III族窒化物半導体薄膜に近い格子定数および熱膨張係数を有する基板を採用することが望ましい。アルミニウム系III族窒化物半導体薄膜を成長させるための基板としては、窒化アルミニウム単結晶基板が適しているといえる。
【0007】
窒化アルミニウム単結晶を基板として用いるには、機械的強度の観点から該単結晶体がある程度(例えば10μm以上。)の厚さを有することが好ましい。MOCVD法はMBE法に比べて結晶成長が速いため、窒化アルミニウム単結晶基板の製造に適しているといえる。またMOCVD法よりもさらに結晶成長の速い窒化アルミニウム単結晶の成長方法として、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法および物理気相成長(PVT:Physical Vapor Transport)法が知られている。
【0008】
ベース基板上に成長した窒化アルミニウム単結晶体を板状に切断することによりウェハが得られ、該ウェハを研磨して表面のダメージ層を除去することにより窒化アルミニウム単結晶基板が得られる。窒化アルミニウム単結晶体を板状に分離(切断、スライス)する手段としては、ワイヤーソウが一般的に用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2016/076270号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、ワイヤーソウによる窒化アルミニウム単結晶体の切断において、切断の際に厚さ方向における目標位置からのずれが生じることがあった。また、半導体素子の製造において結晶の方位は重要な要素だが、結晶の方位のずれが著しい切断体が生じることがあった。
【0011】
そこで本開示では、窒化アルミニウム単結晶体の分離において、厚さ方向における目標位置からのずれおよび方位のずれを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、鋭意検討の結果、窒化アルミニウム単結晶体の分離(切断、スライス)のために当該窒化アルミニウム単結晶体を接着剤により固定治具に固定した際、窒化アルミニウム単結晶体と固定治具の載置面との間に存在する接着剤の厚さにより、目標とする位置からのずれを生じることをつきとめた。さらに接着層の面内の厚さのばらつきが結晶の方位のずれにつながることをつきとめ、これを解決する具体的手段により本開示の技術を完成させた。
【0013】
本開示の1つの態様は、積層体から窒化アルミニウム単結晶体を分離するときに用いる固定冶具であって、積層体を接着する接着層が載置される載置面を備え、載置面は、少なくとも1つの凹部を有している、固定冶具である。
【0014】
載置面に接着層が設けられ、該接着層に積層体が接着された状態において、凹部は、平面視において、少なくとも1部が積層体と重なる位置に形成されてもよい。
【0015】
本開示の他の態様は、窒化アルミニウム単結晶体を含む積層体を準備する準備工程、固定冶具の載置面上に接着剤により形成された接着層を介して積層体を載置する載置工程、及び、接着層上に接着された積層体から窒化アルミニウム単結晶体を分離する分離工程、を含む窒化物アルミニウム単結晶基板の製造方法であって、載置工程は、載置面と積層体との間に存する接着剤の1部を、固定冶具の厚さ方向において載置面よりも低い位置に案内することを含む、窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法である。
【0016】
分離工程では、ワイヤーソウを用いて積層体から窒化アルミニウム単結晶体を板状に切断してもよい。
【0017】
分離工程において、窒化アルミニウム単結晶体の側面に緩衝層を形成し、次いで緩衝層とワイヤーソウとを接触させてから窒化アルミニウム単結晶体を切断することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、窒化アルミニウム単結晶体の厚さ方向において、窒化アルミニウム単結晶体の目標とする分離位置からのずれと結晶の方位のずれの程度を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法S10の流れを示す図である。
図2図2(a)は積層体10の平面図、図2(b)は積層体10の正面図である。
図3図3は載置工程S12を説明する図であり、図3(a)は平面図、図3(b)は正面図である。
図4図4(a)は固定治具20Aの平面図、図4(b)は固定治具20Aの正面図である。
図5図5(a)は固定治具20Bの平面図、図5(b)は固定治具20Bの正面図である。
図6図6(a)は固定治具20Cの平面図、図6(b)は固定治具20Cの正面図である。
図7図7(a)は固定治具20Dの平面図、図7(b)は固定治具20Dの正面図である。
図8図8は分離工程S13を説明する図である。
図9図9は分離工程S13を説明する図で、図9(a)は平面図、図9(b)は正面図である。
図10図10は窒化アルミニウム単結晶の高を測定した位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法
本開示の1つの形態例にかかる窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法S10は、図1に表したように準備工程S11、載置工程S12、及び、分離工程S13を含んでいる。以下、各工程について説明する。なお、工程の説明の中で固定治具の形態例等についても合わせて説明する。
【0021】
1.1.準備工程S11
準備工程S11では、分離(切断、スライス)対象である窒化アルミニウム単結晶体(AIN単結晶体)を含む積層体を準備する。
図2(a)は、窒化アルミニウム単結晶体を含む積層体10を模式的に説明する平面図であり、図2(b)は積層体10の正面図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、積層体10は、第1面10a、及び、第1面10aとは反対側の第2面10bを有している。第1面10aと第2面10bとの間が厚さとされ、第1面10aの外周縁と第2面10bの外周縁とを渡すように側面10cが形成されている。図2(a)、図2(b)からわかるように、本形態で積層体10は円板状である。
積層体10の厚さは特に限定されることはないが、ワイヤーソウによる切り代を考慮すると窒化アルミニウム単結晶体の層で500μm以上が好ましく、より好ましくは800μm以上である。
【0022】
なお、積層体10は図2(a)、図2(b)のように窒化アルミニウム単結晶体の単層によるものであってもよいし、窒化アルミニウム単結晶体が他の基板に積層された積層体であってもよい。
【0023】
1.2.載置工程S12
載置工程S12では、準備工程S11で作製した窒化アルミニウム単結晶体を含む積層体10を、接着剤により形成された接着層11を介して固定冶具20の載置面上に載置する。すなわち、図3(a)の平面図、図3(b)の正面図に示したように、積層体10の第2面10bを固定治具20の載置面20aに向けて接着層11を介して積層体10を固定治具20に置くことで固定する。
【0024】
1.2.1.接着層
接着層11となる接着剤は公知のものを用いることができ、使用できる接着剤に制限はないが、エポキシ系、シアノクリレート系、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、レゾルシノール樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、イソシアネート系、シリコーン樹脂系、変性シリコーン樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系、ポリエステル系、ポリエチレン系等を挙げることができる。
【0025】
接着剤にはエポキシ系、シアノクリレート系等のような化学反応を接着の原動力とした接着剤と、ポリエステル、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を利用した接着剤があるが、この中でも化学反応を接着の原動力とした、特にエポキシ系接着剤は入手も容易でコストが低く、反応の前後での体積変化が小さく、安定した硬化ができる。エポキシ系接着剤は反応後の樹脂の硬度が高く、安定した切断に有用であることから好ましい。
【0026】
エポキシ系接着剤は2液混合型、1液混合型、熱硬化型等の多様な種類がある。2液混合型は常温で扱うことができ、かつコストが低いためより有用である。2液混合型の中でも日化精工製のQボンドやUボンドが有用である。
【0027】
また、接着剤の粘度に制限はないが、動粘度0.01cSt以上10000cSt以下であることが好ましい。0.1cSt以上1000cSt以下であることがより好ましく、0.4cSt以上100cSt以下であることがさらに好ましく、0.8cSt以上10cSt以下であることが最も好ましい。
【0028】
接着剤を塗布する際には、塗布する前の固定治具の表面を清浄に保つ必要がある。清浄でない場合は、接着剤の固定能力の低下や、異物の混入による接着面の傾きが生じる可能性がある。固定治具の表面を清浄に保つ方法としてはブロワーによる異物の除去、クリーンワイプ等によるふき取り、アセトンやアルコール等の薬品による有機物の除去等が有効である。
【0029】
接着剤を塗布するときに使用する道具にはへらやディスペンサー、バーコーター等を制限なく使用することができる。
一般的な2液混合型エポキシ系接着剤のように時間で硬化が進行するタイプの接着剤を使用する場合は、接着剤の混合から接着までの間に粘度が変化する可能性があるため、ばらつきが生じないように時間を監視し、一定の時間内で作業を終えることが好ましい。
熱可塑性樹脂を用いる場合は、温度が均一になった状態で接着を行うことが好ましい。そのため棒状温度計や熱電対、放射温度計等で温度を監視することが好ましい。なお、一般的に固定治具に用いられる金属に比べて、樹脂は熱伝導性が低く、温度が上がりにくい傾向がある。
【0030】
接着層上に積層体を載置する際には、載置後に積層体に適切な圧力を加えることが好ましい。圧力を加えることで、積層体外周部や固定治具の空孔より過剰の接着層が流れ、均一な接着につながる。加える圧力に制限はないが、圧力は0.001MPa以上1MPa以下であることが好ましく、0.002MPa以上0.5MPa以下、0.0025MPa以上0.05MPa以下であることが好ましい。圧力を加える時間は任意であるが、一定に保つことが好ましい。圧力を加える時間は5秒以上24時間以下であることが好ましく、20秒以上1時間以下、1分以上10分以下であることが好ましい。
積層体に圧力を加える箇所は積層体の全面に同時に圧力を加えることが好ましい。この時に塗布された接着剤の一部を、固定冶具の厚さ方向において載置面よりも低い位置に案内する流路があると過剰の接着層を効率的に除外することができる。
【0031】
接着剤を硬化するに際しては、使用する接着剤の種類に従って適切な硬化手法を選択する必要がある。例えば一般的な2液混合型エポキシ系接着剤であれば時間で硬化が進行するため適切な時間をとる必要がある。熱硬化型接着剤の場合は一定の温度を加える必要がある。また、熱可塑性樹脂の場合は十分に冷却が進行し、温度が下がったことを確認する必要がある。
【0032】
1.2.2.固定治具
この工程では、積層体を固定治具の載置面上に配置する過程で、載置面と積層体との間に存在する接着剤の一部を、固定治具の厚さ方向(上下方向)において載置面と積層体の間から逃がして載置面よりも低い位置に案内(移動)する。これにより、載置面と積層体との間に残る接着剤の量が調整され、接着層11が薄くなり、後述する分離工程S13で積層体10から窒化アルミニウム単結晶体を分離する時にその目標位置に対する位置ずれを抑制することができる。
本発明は積層体と固定治具の間の余剰の接着剤を効率的に案内することで、精度良く積層体の固定を行い、精度の良い切断を行うものである。上述の、載置面と積層体との間に存在する接着剤の一部を、固定治具の厚さ方向(上下方向)において載置面と積層体の間から逃がして載置面よりも低い位置に案内(移動)することにより、載置面と積層体との間に残る接着剤の量が調整される理由について詳細は不明であるが、発明者らは以下のとおり推測している。すなわち、接着剤と積層体、固定治具の間にはニュートンの粘性法則に従って摩擦応力が生じる。通常の固定治具の場合接着剤の案内先は積層体の外縁部であり、案内するためには摩擦応力と接着剤の移動距離に応じた仕事量が必要である。開口を設けることで接着剤の移動距離を短縮することができ、必要な仕事量が減じる。結果として接着層が薄くなり、より精度の良い固定を行うことができる。
【0033】
このように接着剤を案内するための手段は特に限定されることはないが、1つの具体的な態様として固定治具20の載置面側に凹部を設けることが挙げられる。以下に固定治具の形態について説明する。
【0034】
1.2.2a.固定治具20A
図4には固定治具20Aを説明する図を示した。他の形態の固定治具と区別するため、固定治具20Aと表記するが、当該固定治具20Aは上記した固定治具20として適用できるものである。
図4(a)は固定治具20Aの平面図、図4(b)は固定治具20AのA-A’断面図である。図4からわかるように固定治具20Aは、載置面21A、及び、その反対側の裏面22Aを有し、載置面21Aと裏面22Aとの間が厚さとされ、載置面21Aの外周縁と裏面22Aの外周縁とを渡すように側面23Aが形成されている。本形態で固定治具20Aは円板状であるが、必ずしも円板状である必要はない。
【0035】
固定治具20Aには載置面21Aに開口した凹部として、載置面21Aに複数の穴24Aが設けられている。本形態で穴24Aは載置面21Aと裏面22Aとを通じ、厚さ方向に貫通する貫通穴であるが、必ずしも貫通穴である必要はなく、載置面21Aで開口した非貫通穴(窪み)であってもよい。貫通穴でない場合における穴の深さは、載置面と積層体との間に残る接着剤の量が調整される際に除外すべき接着剤の量を穴に移動させることができる容積を有していればよい。但し、穴には少なくとも一つの外部につながる貫通孔を持つことが好ましい。貫通孔を持つことで、接着剤を効率的に案内することができるためである。また、接着剤の中には、例えばエポキシ接着剤のように、治具からの剥離に専用の剥離液を用いるものがある。貫通孔を持つことで剥離液を効果的に浸透させ、効率的な剥離を行うことができる。
【0036】
本形態で穴24Aは、固定治具20Aの平面視で、その中心に1つの穴24Aが設けられ、これを中心とした2つの同心円上に複数の穴24Aが設けられている。中心に近い側の同心円上には90°間隔で4つの穴24Aが設けられ、中心から遠い同心円上には45°間隔で8つの穴24Aが設けられている。
【0037】
穴24Aの配置は、載置面21Aに積層体10を置いた姿勢で、平面視した時に穴24Aが積層体10に重なる位置となる。必ずしも全ての穴24Aが重なる必要はないが、好ましくは全ての穴24Aが平面視で積層体10に重なる位置とされる。
また、穴24Aは、固定治具20Aの中心点に対して点対称となるように複数の穴24Aが配置されていることが好ましい。
【0038】
穴24Aの大きさや数は特に限定されることはないが、載置面21Aの面積に対する穴24Aの開口の面積の合計の比率で表される開口率が10%以上であることが好ましい。穴が十分な面積の開口を持つことで接着剤を効率的に案内することができる。また、接着面積が少なくなることで剥離に係る負荷が少なくなる。20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。穴の開口面積は積層体の総面積に対して60%以下であることが好ましい。面積が少なくなると積層体を十分に接着することができなくなる。50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
穴は、積層体と固定治具の接触する面内で可能な限り均一になるように配置されていることが好ましい。具体的には、穴はその開口長さが積層体と固定治具の接触する面内で可能な限り均一になるように配置されていることが好ましい。ここで、「開口長さ」とは、積層体と固定治具の接触する任意の点から最も近い穴の開口までの距離をbとし、最も近い積層体外周部までの距離をcとした場合における、b、cどちらかの短いほうの長さをいう。
【0040】
図4を用いて具体例を列挙する。
任意の第1の点Pに注目すると、最も近い穴24Aの開口(図示、中心から遠い同心円上において一番上から右隣に位置する開口)までの距離をbとし、最も近い積層体外周部までの距離をcとすると、c>bであるため、該第1の点Pおける開口長さは、bとなる。
次に、第1の点Pよりも積層体外周部側に位置する任意の第2の点Pに注目すると、最も近い穴24Aの開口(図示、中心から遠い同心円上において一番上から右方向2つ隣に位置する開口)までの距離をbとし、最も近い積層体外周部までの距離をcとすると、b>cであるため、該第2の点Pおける開口長さは、cとなる。
以上のように開口長さを定義したとき、載置面上の任意の点における開口長さの中で、最も長い長さを示す開口長さを開口最大長さとする。図4に示す例では、図示した第1の特定点Qにおける開口長さが、開口最大長さLとなる。図4に示す例では、第1の特定点Qは、中心から遠い同心円上の隣接する2つの穴24Aの開口と、中心に近い側の同心円上に存在し該2つの穴24Aに最も近い位置に位置する1つの穴24Aの開口とからなる3つの穴24Aの開口の中心点である。
【0041】
開口最大長さLが大きくなると接着剤移動距離の増加に繋がり、同一仕事量において接着層が厚くなり、接着層の厚さのばらつきが大きくなる。
そこで、開口最大長さLは、20mm以下であることが好ましい。開口長さLが10mm以下であることがより好ましく、5mm以下、2mm以下であるとより好ましい。開口最大長さLが短くなると積層体に係る負荷が増加し、積層体の破損につながる恐れがある。また、積層体と固定治具間の接着面積が少なくなり、十分な固定ができなくなる虞がある。開口最大長さLは、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上、2mm以上であるとより好ましい。
【0042】
穴の開口は開口長さが積層体と固定治具の接触する面内で可能な限り均一になるように配置されていることが好ましい。そのような配置となるために、開口は点対称もしくは線対称になるような配置となることが好ましい。
本形態の固定治具における穴の数や大きさは任意であるが、開口長さをできるだけ小さくすることが好ましい。具体的には図4における穴24Aに代表されるような貫通穴の数を増やし、積層体と固定治具とに接触する面全体に均一に配置し、開口長さを小さくするようにすることが好ましい。このような形状の場合、穴の数は4個以上であることが好ましく、13個以上であることがより好ましい。その時の穴のサイズは、直径1mm以上10mm以下であることが好ましく、2mm以上6mm以下であることが好ましい。
【0043】
本形態で穴24Aの平面視形状は円形であるが、これに限らず他の形態(三角形、四角形、及びその他の多角形、並びに楕円形)であってもよい。
【0044】
固定治具20Aを構成する材料は特に限定されることはないが、強度等の観点から金属であることが好ましい。金属としては例えばステンレス鋼、銅、鉄等を挙げることができる。銅や鉄等の被酸化性物質を用いる場合、酸化による寸法、形状の変化を抑制するためにメッキ処理を行うことが好ましい。メッキに用いる物質は任意のものを使用することができるが、汎用性の観点からニッケルメッキが好ましい。
【0045】
1.2.2b.固定治具20B
図5には固定治具20Bを説明する図を示した。他の形態の固定治具と区別するため、固定治具20Bと表記するが、当該固定治具20Bは上記した固定治具20として適用できるものである。
図5(a)は固定治具20Bの平面図、図5(b)は固定治具20BのB-B’断面図である。図5からわかるように固定治具20Bは、載置面21B、及び、その反対側の裏面22Bを有し、載置面21Bと裏面22Bとの間が厚さとされ、載置面21Bの外周縁と裏面22Bの外周縁とを渡すように側面23Bが形成されている。本形態で固定治具20Bは円板状であるが、必ずしも円板状である必要はない。
【0046】
固定治具20Bには載置面21Bに開口した凹部として、載置面21Bに複数の穴24Bが設けられている。本形態で穴24Bは載置面21Bと裏面22Bとを通じ、厚さ方向に貫通する貫通穴であるが、必ずしも貫通穴である必要はなく、載置面21Bで開口した非貫通穴(窪み)であってもよい。貫通穴でない場合における穴の深さは、載置面と積層体との間に残る接着剤の量が調整される際に除外すべき接着剤の量を穴に移動させることができる容積を有していればよい。
【0047】
本形態で穴24Bは、固定治具20Bの平面視で、2つの同心円に属する円弧(外側円弧24Ba、内側円弧24Bb)と、当該円弧の端部同士を結んだ2つの直線(24Bc)と、により囲まれた形状の穴であり、同じ形状の穴が中心周りに90°間隔で4つ配置されている。
【0048】
穴24Bの配置は、載置面21Bに積層体10を置いた姿勢で、平面視した時に穴24Bが積層体10に重なる位置となる。必ずしも全ての穴24Bが重なる必要はないが、好ましくは全ての穴24Bが平面視で積層体10に重なる位置とされる。
また、穴24Bは、固定治具20Bの中心点に対して点対称となるように複数の穴24Bが配置されていることが好ましい。
【0049】
穴24Bの大きさや数は特に限定されることはないが、載置面21Bの面積に対する穴24Bの開口の面積の合計の比率で表される開口率が10%以上であることが好ましい。十分な面積の穴の開口を持つことで接着剤を効率的に案内することができる。また、接着面積が少なくなることで剥離する際に負荷が少なくなる。20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。開口の面積は積層体の総面積に対して60%以下であることが好ましい。面積が少なくなると積層体を十分に接着することができなくなる。50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
図5に示す例では、図示した特定点Qにおける開口長さが、開口最大長さLとなる。
開口最大長さLは、20mm以下であることが好ましい。開口長さLが10mm以下であることがより好ましく、5mm以下、2mm以下であるとさらに好ましい。開口最大長さが短くなると積層体に係る負荷が増加し、積層体の破損につながる虞がある。また、積層体と固定治具間の接着面積が少なくなり、十分な固定ができなくなる虞がある。開口最大長さLは、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上、2mm以上であるとより好ましい。
【0051】
本発明の固定治具における穴の数や大きさは任意であるが、開口長さを小さくすることが好ましい。具体的には図5における穴24Bに代表されるような断面形状を有する貫通穴の数を増やし、積層体と固定治具に接触する面全体に均一に配置し、開口長さを小さくするようにすることが好ましい。このような形状の場合、穴の数は4個以上であることが好ましい。その時の穴のサイズは、面積が150mm以上250mm以下であることが好ましい。
【0052】
固定治具20Bを構成する材料は特に限定されることはないが、強度等の観点から金属であることが好ましい。金属としては例えばステンレス鋼、銅、鉄等を挙げることができる。銅や鉄等の被酸化性物質を用いる場合、酸化による寸法、形状の変化を抑制するためにメッキ処理を行うことが好ましい。メッキに用いる物質は任意のものを使用することができるが、汎用性の観点からニッケルメッキが好ましい。
【0053】
1.2.2c.固定治具20C
図6には固定治具20Cを説明する図を示した。他の形態の固定治具と区別するため、固定治具20Cと表記するが、当該固定治具20Cは上記した固定治具20として適用できるものである。
図6(a)は固定治具20Cの平面図、図6(b)は固定治具20CのC-C’断面図である。図6からわかるように固定治具20Cは、載置面21C、及び、その反対側の裏面22Cを有し、載置面21Cと裏面22Cとの間が厚さとされ、載置面21Cの外周縁と裏面22Cの外周縁とを渡すように側面23Cが形成されている。本形態で固定治具20Cは円板状であるが、必ずしも円板状である必要はない。
【0054】
固定治具20Cには載置面21Cに開口した凹部として、載置面21Cの中央に穴25C、及び、その周りに複数の穴24Cが設けられている。本形態で穴24C、穴25Cは載置面21Cと裏面22Cとを通じ、厚さ方向に貫通する貫通穴であるが、必ずしも貫通穴である必要はなく、載置面21Cで開口した非貫通穴(窪み)であってもよい。貫通穴でない場合における穴の深さは、載置面と積層体との間に残る接着剤の量が調整される際に除外すべき接着剤の量を穴に移動させることができる容積を有していればよい。
【0055】
本形態で穴24Cは、上記した固定治具20Bの穴24Bと同様に考えることができる。
【0056】
一方、穴25Cは、載置面21Cの中央に設けられており、平面視形状は円形であるが、これに限らず他の形態(三角形、四角形、及びその他の多角形、並びに楕円形)であってもよい。
【0057】
穴24C、穴25Cの配置は、載置面21Cに積層体10を置いた姿勢で、平面視した時に穴24C、穴25Cが積層体10に重なる位置となる。必ずしも全ての穴24C、穴25Cが積層体10に重なる必要はないが、好ましくは全ての穴24C、穴25Cが平面視で積層体10に重なる位置とされる。
また、穴24Cは、固定治具20Cの中心点に対して点対称となるように複数の穴24Cが配置されていることが好ましい。
【0058】
穴24Cの大きさや数、穴25Cの大きさは特に限定されることはないが、載置面21Cの面積に対する穴24C及び穴25Cの開口の面積の合計の比率で表される開口率が10%以上であることが好ましい。十分な面積の開口を持つことで接着剤を効率的に案内することができる。また、接着面積が少なくなることで剥離の際に負荷が少なくなる。20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。開口の面積は積層体の総面積に対して60%以下であることが好ましい。面積が少なくなると積層体を十分に接着することができなくなる。50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
図6に示す例では、図示した特定点Qにおける開口長さが、開口最大長さLとなる。
図6に示す例では、特定点Qは、載置面21の周りに設けられた穴24Cの最外側(積層体外周部側)の角部の位置にある点である。
開口最大長さLは、20mm以下であることが好ましい。開口長さLが10mm以下であることがより好ましく、5mm以下、2mm以下であるとより好ましい。開口最大長さが短くなると積層体に係る負荷が増加し、積層体の破損につながる恐れがある。また、積層体と固定治具間の接着面積が少なくなり、十分な固定ができなくなる恐れがある。開口最大長さLは、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上、2mm以上であるとより好ましい。
【0060】
本形態の固定治具における穴の数や大きさは任意であるが、開口長さを小さくすることが好ましい。具体的には図6における穴24Cに代表されるような形状の貫通穴の数を増やし、積層体と固定治具に接触する面全体に均一に配置し、開口長さを小さくするようにすることが好ましい。このような形状の場合、穴の数は4個以上であることが好ましい。その時の載置面21の周りに設けられた穴24Cのサイズは、面積が150mm以上250mm以下であることが好ましい。また、中央に設けられた穴25Cのサイズは、前記の穴24Cのサイズよりも小さいことが好ましく、具体的には、面積が5mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0061】
固定治具20Cを構成する材料は特に限定されることはないが、強度等の観点から金属であることが好ましい。金属としては例えばステンレス鋼や銅等を挙げることができる。
【0062】
1.2.2d.固定治具20D
図7には固定治具20Dを説明する図を示した。他の形態の固定治具と区別するため、固定治具20Dと表記するが、当該固定治具20Dは上記した固定治具20として適用できるものである。
図7(a)は固定治具20Dの平面図、図7(b)は固定治具20DのD-D’断面図である。図7からわかるように固定治具20Dは、載置面21D、及び、その反対側の裏面22Dを有し、載置面21Dと裏面22Dとの間が厚さとされ、載置面21Dの外周縁と裏面22Dの外周縁とを渡すように側面23Dが形成されている。本形態で固定治具20Dは円板状であるが、必ずしも円板状である必要はない。
【0063】
固定治具20Dには載置面21Dに開口した凹部として、載置面21Dの中央及び外周に近い部分にそれぞれ穴24Dが設けられ、この2つの穴24Dを結ぶように平面視で渦巻状に溝25Dが設けられている。
本形態で穴24Dは載置面21Dと裏面22Dとを通じ、厚さ方向に貫通する貫通穴であるが、必ずしも貫通穴である必要はなく、載置面21Dで開口した非貫通穴(窪み)であってもよい。また穴24Dは設けられていなくてもよい。
本形態で溝25Dは載置面21Dに開口を有して中心の穴24Dの周りを周回するようにして外周側の穴24Dへと渦巻状に延びる溝である。本形態で溝25Dは深さ方向について裏面22Dに達していないが、これに限定されることはなく裏面に達する溝であってもよい。
【0064】
穴24Dは平面視形状は円形であるが、これに限らず他の形態(三角形、四角形、及びその他の多角形、並びに楕円形)であってもよい。
【0065】
穴24D、溝25Dの配置は、載置面21Dに積層体10を置いた姿勢で、平面視した時に穴24D、溝25Dが積層体10に重なる位置となる。必ずしも全ての穴24D、溝25Dが積層体10に重なる必要はないが、好ましくは全ての穴24D、溝25Dが平面視で積層体10に重なる位置とされる。
【0066】
穴24Dの大きさや数、溝25Dの溝幅や渦巻の巻き数については特に限定されることはないが、載置面21Dの面積に対する穴24D及び溝25Dの開口の面積の合計の比率で表される開口率が10%以上であることが好ましい。十分な面積の開口を持つことで接着剤を効率的に案内することができる。また、接着面積が少なくなることで剥離の際に負荷が少なくなる。20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。開口の面積は積層体の総面積に対して60%以下であることが好ましい。面積が少なくなると積層体を十分に接着することができなくなる。は50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
開口長さを均一にするように穴24Dを配置すると、穴を円状にしてかつ等間隔に配置する方法と、アルキメデスの螺旋に代表されるように穴の間の間隔を一定に保つ形状の穴を配置する方法が好ましい。
アルキメデスの螺旋の場合、穴は一つであるために貫通孔の必要数が減ることから、穴を円状にしてかつ等間隔に配置する方法のような穴の一つ一つが独立している場合(図4参照。)と比較して、設計上の自由度が大きくなる。また、穴を円状にしてかつ等間隔に配置する方法の場合、開口長さが距離bと距離c両方に依存するため、距離cに依存する積層体のサイズに応じて設計する必要がある。アルキメデスの螺旋の場合、螺旋の直径が積層体の直径以上のサイズまで拡大すれば積層体外周部までの距離cが前記開口までの距離bよりも常時小さい値になることは明白である。このような形状を示す固定治具は、積層体の面積、形状が変わった場合でも固定治具の再設計が不要となり、汎用的に使用することができ、より好ましい。
アルキメデスのらせん状の穴を持つ場合、その始点と終点の二か所に貫通孔を持つことが好ましい。
【0068】
図7に示すアルキメデスの螺旋の場合、開口最大長さLは、固定治具20Dの径方向において隣接する溝25の一部同士の間隔として定義できる。開口最大長さLは、20mm以下であることが好ましい。開口長さが10mm以下であることがより好ましく、5mm以下、2mm以下であるとさらに好ましい。開口最大長さが短くなると積層体に係る負荷が増加し、積層体の破損につながる虞がある。また、積層体と固定治具間の接着面積が少なくなり、十分な固定ができなくなる恐れがある。開口最大長さLは、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上、2mm以上であるとより好ましい。
【0069】
アルキメデスの螺旋は極座標の方程式r=aθで表すことができる。ここで、rは、固定治具20Dの中心点から溝25Dの幅方向における中心までの距離であり、θは、固定治具20Dの中心点と溝25Dの幅方向における中心とを結ぶ線分と基準線(図7に示す例では、図示横方向とする。)とのなす角であり、aは、係数である。本形態における形状においてaは0.5以上10以下であることが好ましい。1以上5以下であることが好ましく、1.5以上3以下であるとより好ましい。この時の螺旋の幅をdとすると、dは0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、1mm以上5mm以下であることがより好ましく、1.5mm以上3mm以下であるとさらに好ましい。aとdの比率はd/a=0.3以上3以下であることが好ましく、0.5以上2以下、0.8以上1.5、0.95以上1.1以下であることがより好ましい。アルキメデスの螺旋は治具のサイズが許す限り拡大することができるが、螺旋の直径が積層体の直径以上のサイズまで拡大すれば積層体外周部までの距離cが前記開口までの距離bよりも常時小さい値になり、それよりも小さな積層体であれば本形態に使用可能であり、より適している。
【0070】
固定治具20Dを構成する材料は特に限定されることはないが、強度等の観点から金属であることが好ましい。金属としては例えばステンレス鋼、銅、鉄等を挙げることができる。銅や鉄等の被酸化性物質を用いる場合、酸化による寸法、形状の変化を抑制するためにメッキ処理を行うことが好ましい。メッキに用いる物質は任意のものを使用することができるが、汎用性の観点からニッケルメッキが好ましい。
【0071】
1.2.3.積層体の配置
上記のように本工程で積層体10を接着層11を介して固定治具20の載置面に固定する。このとき、上記したように不要な接着剤を固定治具20に設けられた凹部(各形態の穴や溝)に移動させるが、そのために、積層体10と固定治具20との間に押圧力を付与することができる。これにより円滑な接着剤の移動が可能となる。具体的な押圧力は特に限定されることはないが、これにより積層体10と固定治具20の載置面との間に適切な厚さの接着層11が形成されるように調整する。接着層11が厚すぎると、窒化アルミニウム単結晶体の目標とする分離(切断)位置からのずれが大きくなる。一方、接着層11が薄すぎると固定が弱く不安定となり適切な分離(切断)ができなくなる虞がある。具体的な接着層の厚さは特に限定されることはないが0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。0.5μm以上30μm以下、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0072】
1.3.分離工程
分離工程S13では、載置工程S12で準備した、接着層11を介して固定治具20に配置した積層体10から窒化アルミニウム単結晶体を分離する。
分離する方法は特に限定されることはないが例えばワイヤーソウによる切断を挙げることができる。すなわち、図8に示したようにワイヤーソウ12を積層体10の側面10cから、図8に直線矢印で示したように第1面10a、第2面10bに沿って送ることで窒化アルミニウム単結晶体を分離する。
【0073】
上記の他、分離工程S13では次のように構成することができる。図9に説明のための図を示した図9(a)は平面図、図9(b)は正面図である。
図9に示したようにワイヤーソウ12による切断の前に、積層体10の側面10cに緩衝層13を形成し、次いで緩衝層13とワイヤーソウ12とを接触させた後に積層体10の窒化アルミニウム単結晶体を切断するように進めてもよい。これによれば、ワイヤーソウ12の位置ずれをさらに抑制することができる。
【0074】
緩衝層13を構成する材料はエポキシ系、シアノクリレート系等の接着剤やポリエステル、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を制限なく使用することができる。接着層に用いた樹脂と異なるものを使用してもよいが、作業性の観点から同一の素材とすることが好ましい。樹脂中にはガラス、酸化アルミニウム等の粒子を混入させ、硬度を高くしてもよい。緩衝層に用いる材料は日化精工製のQボンドやUボンドが有用である。
【0075】
図9に示した例では緩衝層13は積層体10の側面10cの全周に亘って配置されているが、必ずしもこれに限定されることはなく、ワイヤーソウ12の位置ずれを抑制することができればよい。そのために、少なくともワイヤーソウ12が最初に触れる側面10cの部位に緩衝層13が配置されていることが好ましい。
また、図示は省略するが、窒化アルミニウム単結晶は、結晶の成長の条件によっては、その外周部にクラウンとよばれる凸状の多結晶が発生している場合がある。このような、外周部にクラウンが発生している窒化アルミニウム単結晶については、外周部を切断又は研磨、研削を行ってクラウンを除去した後に、上述した形態に係る方法を適用することがより好ましい。すなわち、本発明の効果は、外周部にクラウンが存在しない窒化アルミニウム単結晶に対してより顕著に発現する。
【0076】
2.効果等
本開示によれば、積層体を固定治具の載置面上に配置する過程で、載置面と積層体との間に存在する接着剤の一部を、固定治具の厚さ方向(上下方向)において載置面と積層体の間から凹部に逃がして載置面よりも低い位置に案内することができる。これにより、載置面と積層体との間に残る接着剤の量が調整され、接着層の厚さを薄くし、分離工程で積層体から窒化アルミニウム単結晶体を分離する時にその目標位置に対する位置ずれを抑制することができる。
【0077】
3.実施例
実施例として上記した固定治具20A、固定治具20B、固定治具20C、及び、固定治具20Dに倣って固定治具を作製し、及び、比較例として載置面に凹部を有しない固定治具を作製して試験を行った。
【0078】
各固定治具の寸法は幅70mm、長さ100mm、高さ20mmの直方体とした。
【0079】
また、接着層を形成する接着剤は、上述した日化精工製のQボンドやUボンドを使用した。
【0080】
3.1.実施例A
実施例Aでは、PVT法で作製したAIN基板にHVPE法で窒化アルミニウム単結晶体を積層した積層体10を準備した。積層体のサイズは直径2inch、厚さ1400μmであった。なお、以下、積層体10を「窒化アルミニウム単結晶」とも記する。
窒化アルミニウム単結晶のオフ角を測定した。固定治具20A、固定治具20B、固定治具20C、及び比較例の固定治具のそれぞれマイクロメーターを用いて高さを測定し、原点とした。治具上に窒化アルミニウム単結晶を載置し、図10に示した黒丸の箇所(窒化アルミニウム単結晶の中心を通る線分上において中心点及び該中心点から左右にそれぞれ5mm間隔で離れた8つの箇所、及び、前記の線分と直交する線分上において中心点から上下にそれぞれ5mm間隔で離れた8つの箇所を含む合計17点の箇所)で窒化物単結晶の高さを測定した。測定点を変えて同様の測定を行い、窒化アルミニウム単結晶の面内高さの分布を測定した。治具と積層体表面をアセトンを用いて洗浄した後、治具の載置面に接着剤を塗布し、作製した積層体の第2面を配置して押圧した。押圧は0.05MPaの圧力で1分行った。24時間放置し、接着層の固化を行った後にマイクロメーターを用いて積層体と接着層の厚さを測定した。測定点を変えて同様の測定を行い、接着前の積層体の高さとの差を算出することで接着層の平均厚さと標準偏差を算出した。切断後の窒化アルミニウム単結晶のオフ角を測定し、切断前との差を算出することで切断前後でのオフ角の差を算出した。表1に結果を示した。
【0081】
【表1】
【0082】
表1からわかるように比較例の固定治具に比べて、固定治具20A、固定治具20B、及び、固定治具20Cは接着層厚さを小さくすることができた。これによれば分離工程で積層体から窒化アルミニウム単結晶体を分離する時にその目標位置に対する位置ずれを抑制することができる。
【0083】
3.2.実施例B
実施例Bでは、サファイア基板にHVPE法で窒化アルミニウム単結晶体を積層した積層体を準備した。積層体のサイズは直径2inch、厚さ1400μmであった。
固定治具20A、固定治具20B、固定治具20C、固定治具20D及び比較例の固定治具のそれぞれに対して、その載置面に接着剤を塗布し、作製した積層体の第2面を配置して押圧した。本実施例では押圧力を変化させその圧力で1分間押圧した。そして積層体の第2面と固定治具の載置面との間の接着層の厚さを調べた。表2に結果を示した。
【0084】
【表2】
【0085】
表2からわかるように、押圧力を変更しても比較例の固定治具に比べて、固定治具20A、固定治具20B、固定治具20C、及び、固定治具20Dは接着層厚さを小さくすることができた。また、その時の標準偏差が小さくなっており、面内で接着層の厚さのばらつきが小さくなっていることが分かった。その時に切断前後でのオフ角の差が小さくなっていることが確認できた。
【符号の説明】
【0086】
10 積層体
11 接着層
12 ワイヤーソウ
13 緩衝層
20 固定治具
20A 固定治具
20B 固定治具
20C 固定治具
20D 固定治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10