(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110227
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】β-TCP前駆体の製造方法、β-TCP前駆体、β-TCPの製造方法及びβ-TCP
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
C01B25/32 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011533
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆史
(72)【発明者】
【氏名】白井 誉訓
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕一
(72)【発明者】
【氏名】高▲崎▼ 薫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕三
(57)【要約】
【課題】BET比表面積が小さいβ-TCP前駆体を簡便な方法で得ることが可能なβ-TCP前駆体の製造方法、β-TCP前駆体、β-TCPの製造方法及びβ-TCPを提供する。
【解決手段】カルシウム化合物及びアンモニアが溶解されたアンモニア性カルシウムイオン含有水溶液と、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つとを混合することによりβ-TCP前駆体を得るβ-TCP前駆体の製造方法であって、前記アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液中のアンモニア濃度とカルシウム濃度との比を4.0≦Ca/NH3≦5.5に調整することを特徴とするβ-TCP前駆体の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム化合物及びアンモニアが溶解されたアンモニア性カルシウムイオン含有水溶液と、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つとを混合することによりβ-TCP前駆体を得るβ-TCP前駆体の製造方法であって、
前記アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液中のアンモニア濃度とカルシウム濃度との比を4.0≦Ca/NH3≦5.5に調整することを特徴とするβ-TCP前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記カルシウム化合物が、硝酸カルシウムであり、
前記アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液が、アンモニア性硝酸カルシウム水溶液である請求項1記載のβ-TCP前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記混合は、前記アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液にリン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つを添加することにより行われ、反応中の水溶液のpHを監視し、pHが最下点になったところで添加を終了する請求項1又は2記載のβ-TCP前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸塩水溶液が、リン酸水素二アンモニウム水溶液である請求項1乃至3いずれか記載のβ-TCP前駆体の製造方法。
【請求項5】
BET比表面積が120m2/g以下であり、平均粒子径が2.1μm未満であることを特徴とするβ-TCP前駆体。
【請求項6】
請求項1乃至4いずれか記載のβ-TCP前駆体の製造方法により得られたβ-TCP前駆体を焼成することを特徴とするβ-TCPの製造方法。
【請求項7】
請求項5記載のβ-TCP前駆体を焼成することを特徴とするβ-TCPの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4いずれか記載のβ-TCP前駆体の製造方法により得られたβ-TCP前駆体又は請求項5記載のβ-TCP前駆体が焼成されたβ-TCP。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-TCP前駆体の製造方法、β-TCP前駆体、β-TCPの製造方法及びβ-TCPに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療目的に合致した人工骨材料の開発が注目を集めており、人工骨材料として、骨の無機成分であり生体親和性の材料である生体活性セラミックスが注目されている。生体活性セラミックスの代表例としては、ハイドロキシアパタイトやβ型リン酸三カルシウム(β-TCP)が挙げられる。特に、β-TCPは、ハイドロキシアパタイトに比べ、溶解性が高く、生体内で新生骨形成とともに吸収されるので、骨に置換され易い。このため、β-TCPの開発が望まれている。
【0003】
β-TCPを製造する方法としては、例えば、ボールミルと呼ばれる回転式粉砕機で材料を撹拌して、セラミックボール同士の衝突エネルギーを利用して合成するメカノケミカル法といった方法が一般的である。また、メカノケミカル法により生じる不純物を減らす方法として、例えば、特許文献1には、水中でリン酸イオンとカルシウム塩とを反応させることによりリン酸三カルシウムを含むスラリーを生成させる第1工程、前記スラリー又はそれより得られる湿潤固形分を平均粒子径2.1~3μm及び最大粒子径10μm以下となるように湿式粉砕することによって、固形分として微粉末を含む湿式粉砕処理物を調製する第2工程、前記湿式粉砕処理物を焼成することによりβTCP微粉末を得る第3工程を含む、高純度βTCP微粉末の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1に記載の製造方法では、焼成してβ-TCPを得る以前のβ-TCP前駆体を製造する際に、希硝酸による処理が必要であり、操作が煩雑になるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、BET比表面積が比較的小さいβ-TCP前駆体を簡便な方法で得ることが可能なβ-TCP前駆体の製造方法、β-TCP前駆体、β-TCPの製造方法及びβ-TCPを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以上の目的を達成するために、鋭意検討した結果、水中でリン酸イオンとカルシウム塩とを反応させてβ-TCP前駆体を製造する方法において、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液中のアンモニア濃度とカルシウム濃度との比を特定の比に調整することにより、BET比表面積が小さいβ-TCP前駆体を簡便な方法で得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、カルシウム化合物及びアンモニアが溶解されたアンモニア性カルシウムイオン含有水溶液と、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つとを混合することによりβ-TCP前駆体を得るβ-TCP前駆体の製造方法であって、前記アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液中のアンモニア濃度とカルシウム濃度との比を4.0≦Ca/NH3≦5.5に調整することを特徴とするβ-TCP前駆体の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、BET比表面積が120m2/g以下であり、平均粒子径が2.1μm未満であることを特徴とするβ-TCP前駆体に関する。
【0010】
さらに、本発明は、前記β-TCP前駆体の製造方法により得られたβ-TCP前駆体を焼成することを特徴とするβ-TCPの製造方法に関する。
【0011】
またさらに、本発明は、前記β-TCP前駆体が焼成されたβ-TCPに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、BET比表面積が小さいβ-TCP前駆体を簡便な方法で得ることが可能なβ-TCP前駆体の製造方法、β-TCP前駆体、β-TCPの製造方法及びβ-TCPを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.β-TCP前駆体の製造方法
本発明に係るβ-TCP前駆体の製造方法は、カルシウム化合物及びアンモニアが溶解されたアンモニア性カルシウムイオン含有水溶液と、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つとを混合することによりβ-TCP前駆体を得る方法である。より具体的には、純水にカルシウム化合物を溶解し、カルシウムイオン含有水溶液を調製する第1工程と、該カルシウムイオン含有水溶液にアンモニア水を添加し、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液を調製する第2工程と、該アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液と、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つとを混合する第3工程とを有する。
【0014】
(第1工程)
第1工程は、純水にカルシウム化合物を溶解し、カルシウムイオン含有水溶液を調製する工程である。
【0015】
カルシウム化合物としては、特に限定されず、無機酸又は有機酸のカルシウム塩を好適に用いることができる。より具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム及び酢酸カルシウムのうち少なくとも1種を好適に用いることができる。中でも、硝酸カルシウム、塩化カルシウムが好ましく、硝酸カルシウムが特に好ましい。
【0016】
カルシウムイオン含有水溶液のカルシウムイオンの濃度としては、20~80g/Lが好ましく、40~70g/Lが特に好ましい。カルシウムイオンの濃度が上記範囲であれば、収率を高くできるため好ましい。
【0017】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で得られたカルシウムイオン含有水溶液にアンモニア水を添加し、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液を調製する工程である。本発明においては、この際にアンモニア性カルシウムイオン含有水溶液中のアンモニア濃度とカルシウム濃度との比を4.0≦Ca/NH3≦5.5に調整することを特徴とする。
【0018】
添加するアンモニア水は、濃度が25≦NH3≦28wt%が好ましい。
【0019】
アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液中のアンモニア濃度とカルシウム濃度との比は、4.0≦Ca/NH3≦5.5であるが、4.0≦Ca/NH3≦5.0が好ましく、4.0≦Ca/NH3≦4.4が特に好ましい。アンモニア濃度とカルシウム濃度との比が上記範囲であれば、容易にβ-TCPの単一結晶相を生成することができる。
【0020】
アンモニア濃度とカルシウム濃度との比を調整する方法としては、アンモニア水の添加量を調整する方法や排気によりアンモニア濃度を揮発・除去するなどの方法が考えられる。
【0021】
(第3工程)
第3工程は、第2工程で得られたアンモニア性カルシウムイオン含有水溶液と、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つとを混合し、スラリーを得る工程である。混合方法は、特に制限はないが、予めそれぞれの水溶液を調製した後にこれら水溶液を同時又は順次に混合する方法等を採用することができる。中でも特に、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液に、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つを添加して混合することが好ましい。混合する際は、反応を促進させる手段を用いることが好ましく、例えば攪拌しながら反応させることが好ましい。攪拌は、公知の攪拌装置等を使用することができる。
【0022】
カルシウムイオンとリン酸イオンの配合割合は、用いる化合物の種類に応じて化学量論比となるような割合で反応させればよい。また、その濃度も特に限定されないが、通常1~50重量%の範囲内で適宜調整すればよい。
【0023】
リン酸塩としては、水溶性のリン酸塩等を特に制限なく用いることができる。より具体的には、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムの少なくとも1種を好適に用いることができる。中でも、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムが好ましく、リン酸水素二アンモニウムが特に好ましい。
【0024】
アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液にリン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つを添加する際には、反応中の水溶液のpHを監視し、pHが最下点になったところで終了することが好ましい。pHが最下点になったところで終了することで、良好にβ-TCPの単一結晶相を生成することができる。ここで、最下点とは、pHが下降し始めた後、下降が停止した時(変化率が0になった時)をいう。なお、リン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つの添加を続けると、pHは再び上昇し、最終的にはリン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つと同等のpHに収束すると考えられる。
【0025】
pHの最下点になったところでリン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つの添加を終了することで、反応終了後にpH調整工程を設ける必要がなく簡便である、製造時間短縮などの利点を有する。
【0026】
また、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液にリン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つを添加する際には、水溶液からアンモニアが放出可能であることが好ましい。アンモニアを放出する手段としては、特に限定はなく、加温や排気などを用いればよい。
【0027】
また、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液にリン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つを添加する際には、0.5~3.0L/minで行うことが好ましい。1.0~2.0L/minで添加することによって、安定した反応ができる。
【0028】
さらに、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液にリン酸水溶液及びリン酸塩水溶液のうち少なくとも一つを添加する際には、アンモニア性カルシウムイオン含有水溶液を20~60℃に保持することが好ましい。40~50℃に保持することによって、安定した反応を行うことができる。
【0029】
(その他の工程)
本発明に係るβ-TCP前駆体の製造方法は、さらに、第3工程で得られたスラリーを脱水して、純水で洗浄する工程と、該洗浄した物をリスラリーして解砕を行う工程とを有することが好ましい。これらの工程を経ることで、本発明に係るβ-TCP前駆体を製造することができる。
【0030】
スラリーの脱水方法としては、遠心脱水、ろ過などの公知の方法が使用できる。また、洗浄は、未反応原料を効率良く、完全に除去できる方法が望ましい。
【0031】
解砕の方法は、特に制限されず、例えば衝撃、せん断式、磨砕式、圧縮、振動等のいずれの方式によるものであっても良い。また、装置上の分類としても、例えば高圧流体衝突ミル、高速回転スリットミル、アトライター、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、リング状粉砕媒体ミル、高速旋回薄膜ミル等のいずれの装置であってもよい。これらの装置自体は公知又は市販のものを使用することができる。
【0032】
これらの中でも、ボールミルを好適に用いることができる。ボールミルによる場合、溶媒としては、水及び有機系溶媒の少なくとも1種を用いることが好ましく、特に水及びアルコールの少なくとも一種を用いることがより好ましい。メディアとしては、限定的ではないが、例えばジルコニア系材料からなるビーズを好適に用いることができる。ビーズの大きさは直径0.5~5mm程度とすれば良い。ビーズの充填量は、用いる装置の種類等に応じて40~80%程度の範囲内で適宜調整すればよい。
【0033】
解砕の程度は、所望の微粉末の平均粒子径、粒度分布等に応じて適宜調節することができるが、通常は、平均粒子径2.1μm未満、より好ましくは、1.9μm以下となるように調整する。
【0034】
2.β-TCP前駆体
本発明に係るβ-TCP前駆体は、上述した本発明に係るβ-TCP前駆体の製造方法によって得られる。本発明に係るβ-TCP前駆体は、BET比表面積が120m2/g以下であり、平均粒子径が2.1μm未満である。
【0035】
BET比表面積は、120m2/g以下であり、80~120m2/gが好ましく、90~110m2/gが特に好ましい。BET比表面積が120m2/g以下であることで、粉砕後も高粘度スラリーになりにくい。本発明において、BET比表面積は、後述する実施例に記載の方法で測定したBET比表面積を採用する。
【0036】
平均粒子径は、2.1μm未満であり、1.9μm以下が特に好ましい。平均粒子径が2.1μm未満であることで、パッキング性が良く緻密な焼結体を得やすい。本発明において、平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法で測定した平均粒子径を採用する。
【0037】
また、本発明におけるβ-TCP前駆体は、900℃以上で焼成することでβ-TCP単一結晶相となり、ヒドロキシアパタイトやピロリン酸カルシウムなどのその他のリン酸カルシウムを含有しない。
【0038】
3.β-TCPの製造方法
本発明に係るβ-TCPの製造方法は、上述した本発明に係るβ-TCP前駆体の製造方法によって得られたβ-TCP前駆体を焼成することを特徴とする。
【0039】
焼成は、電気炉等の通常の焼成手段を使用することができる。焼成温度としては、800~1150℃が好ましい。また、焼成時間は、1~10時間が好ましい。
【0040】
また、本発明に係るβ-TCPの製造方法においては、焼成前にβ-TCP前駆体に乾燥処理を施してもよい。乾燥方法としては、通常の乾燥(自然乾燥又は加熱乾燥)のほか、凍結乾燥、噴霧乾燥等も採用することができる。乾燥温度は、β-TCPに変化しない温度以下であれば特に制限されないが、通常は200℃以下、特に150℃以下の範囲内で行うことが好ましい。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではなく、また、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0042】
まず、本実施例で用いたβ-TCP前駆体の各物性の測定方法を示す。
[平均粒子径]
スラリーを粉砕し固液分離したβ-TCP前駆体を純水に懸濁し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製 MT-3000)の循環部に投入し、純水を循環させながら超音波強度最大で分散処理を行い測定する。測定された粒度分布から、体積分布でD50となる粒子径を、本発明における平均粒子径とする。
【0043】
[BET比表面積]
スラリーを粉砕し固液分離したβ-TCP前駆体を乾燥し、測定直前に120℃で前処理を行い、一点法BET比表面積測定装置(カンタクローム株式会社製 モノソーブ)で測定する。
【0044】
[結晶相]
スラリーを粉砕し固液分離したβ-TCP前駆体の乾燥粉を900℃で焼成し、焼成粉を粉末X線回折装置(ブルカーAXS株式会社製D8 アドバンス)で、2θ=25°~37°、ステップ幅 0.02°、管電圧 40kV、管電流 40mAでプロファイル測定を行う。得られたプロファイルについて、β-TCPが存在することとヒドロキシアパタイト、ピロリン酸カルシウムが存在しないことを確認する。
【0045】
[β-TCP前駆体のpH]
スラリーを粉砕し固液分離したβ-TCP前駆体を純水に懸濁し、pH電極で測定する。
【0046】
[焼結密度]
内径1.5cmの金型に粉末1.5gを入れ、圧力6MPaで一軸圧縮成型を行った。得られた成型体の直径、厚みをノギスで計測して成型体の体積を算出し、成型体重量を除して成型体密度を計算した。
次に、この成型体を電気炉中で保持温度1100℃、保持時間6時間の条件で焼成し、焼結体を得た。この焼結体についても直径、厚み、重量を計測して焼結体密度を計算した。同じ成型体、焼結体を各サンプルについて3個作製し、各計測値の平均値を算出して比較を行った。
【0047】
(実施例1)
純水103.3kgに硝酸カルシウム4水和物54.47kgを溶解し、硝酸カルシウム水溶液を調製した。次に、調整した硝酸カルシウム4水和物水溶液に28wt%アンモニア水7.50kgを添加し、アンモニア性硝酸カルシウム水溶液を調製した。この時のCa/NH3は、4.46であった。このアンモニア性硝酸カルシウム水溶液を45℃に保持しながら、リン酸水素二アンモニウム水溶液(純水126.6kgにリン酸水素二アンモニウムを20kg溶解)を1.5L/minで添加した。反応液のpHを監視し、pHが最下点になったところで添加を停止した。スラリーを脱水して、純水で洗浄し、実施例1に係るβ-TCP前駆体を得た。β-TCP前駆体の各物性を表1に示す。
【0048】
(実施例2)
28wt%アンモニア水の添加を6.52kg(Ca/NH3=5.0)とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。β-TCP前駆体の各物性を表1に示す。
【0049】
(比較例1)
28wt%アンモニア水の添加を8.62kg(Ca/NH3=3.8)とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。β-TCP前駆体の各物性を表1に示す。
【0050】
(比較例2)
28wt%アンモニア水の添加を5.73kg(Ca/NH3=5.7)とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。β-TCP前駆体の各物性を表1に示す。
【0051】
(比較例3)
純水109.1kgに硝酸カルシウム4水和物48.71kgを溶解し、28wt%アンモニア水の添加を7.69kg(Ca/NH3=3.8)とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。β-TCP前駆体の各物性を表1に示す。
【0052】
(比較例4)
純水114kgに硝酸カルシウム4水和物43.84kgを溶解し、28wt%アンモニア水の添加を7.69kg(Ca/NH3=3.4)とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。β-TCP前駆体の各物性を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1より、Ca/NH3<4.0では、β-TCPの他にハイドロキシアパタイト(HAP)が生成してしまい、5.5<Ca/NH3ではβ-TCPの他にピロリン酸カルシウム(Pyro)が生成してしまうことが分かる。HAP、Pyroが生成すると、これらを除去する作業が必要となる。一方、4.0≦Ca/NH3≦5.5であれば、反応液pH最下点で反応停止することにより、β-TCPの単一結晶相が生成することが分かる。
【0055】
次に、実施例1に係るβ-TCP前駆体を固形分濃度20wt%の条件で純水にリスラリーし、ボールミルにて解砕、さらに乾燥を行うことで、実施例1に係るβ-TCP前駆体乾燥粉を作製した。また、このβ-TCP前駆体乾燥粉を使用し[焼結密度]項に記載した方法で成型体を作製し、さらにこれを焼成して焼結体を得た。β-TCP前駆体の各物性を表2に、成型体及び焼結体の物性を表3に示す。
【0056】
(比較例5)
特許第5417648号明細書に記載の方法でβ-TCP前駆体を、[焼結密度]項に記載した方法で成型体とさらにこれを焼成して焼結体を作製した。このようにして作製したβ-TCP前駆体の各物性を表2に、成型体及び焼結体の物性を表3に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
表2より、実施例1のβ-TCPは、成型体密度が大きく、焼結体密度も大きいことから、焼結しやすいことが分かる。昨今の生体材料用セラミックスは、細胞が容易に侵入できるように相互に連結された細孔を持つ、多孔質性が求められており、空隙率が高くなるように設計されている。したがって、成型体を構成しているセラミックス部分は緻密で、高い強度を有することが求められていると言える。実施例1により作製した平均粒子径2.1μm以下の粉末は、パッキング性が高いために焼結時にち密化しやすく、強度も高いと言え、比較例5の粉末に比べ生体材料用セラミックスに適している。また、実施例1により作製したβ-TCP前駆体は、ボールミルによる粉砕も容易であった。
【0060】
表3より、実施例1は、比較例5に比べて高密度であるため、高強度となり、多孔質化した際、空隙率を高くしても強度を保つことができることが分かる。