(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110417
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】半導体積層物、および半導体積層物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20230802BHJP
C30B 25/14 20060101ALI20230802BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20230802BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230802BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20230802BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20230802BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
H01L21/205
C30B25/14
C30B29/38 D
C23C16/34
H01L29/91 F
H01L29/91 C
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011846
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】金木 奨太
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
(72)【発明者】
【氏名】今野 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 健司
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
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4G077EB01
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4K030LA14
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5F045EK06
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5F045EM10
(57)【要約】
【課題】p型層を有する高品質な半導体積層物を得る。
【解決手段】半導体積層物は、基板と、基板の上方に設けられ、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層と、を備え、p型層中のC濃度は、5×10
15cm
-3未満であり、p型層中のO濃度は、5×10
15cm
-3未満であり、p型層中のSi濃度は、1×10
15cm
-3未満であり、p型層中のF濃度は、1×10
14cm
-3以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に設けられ、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層と、
を備え、
前記p型層中のC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のSi濃度は、1×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のF濃度は、1×1014cm-3以上である
半導体積層物。
【請求項2】
前記基板と前記p型層との間に設けられ、III族窒化物を有する下地層を備え、
前記下地層中のC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記下地層中のO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上である、
ただし、
前記Aは、前記界面から厚さ方向へ前記下地層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Bは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度である
請求項1に記載の半導体積層物。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に設けられ、III族窒化物を有する下地層と、
前記下地層上に設けられ、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層と、
を備え、
前記下地層および前記p型層のそれぞれにおけるC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層のそれぞれにおけるO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のSi濃度は、1×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上である、
ただし、
前記Aは、前記界面から厚さ方向へ前記下地層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Bは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度である
半導体積層物。
【請求項4】
前記p型層の厚さは、10nm以上5μm以下である
請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体積層物。
【請求項5】
前記p型層中のB濃度およびFe濃度のそれぞれは、1×1015cm-3未満である
請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体積層物。
【請求項6】
前記p型層上に設けられ、III族窒化物を有する上層を備え、
前記上層中のC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記上層中のO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記上層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率D/Eは、100以上である、
ただし、
前Dは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Eは、前記界面から厚さ方向へ前記上層側に100nmの位置におけるMg濃度である
請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体積層物。
【請求項7】
前記p型層中のMg濃度は、1×1018cm-3未満であり、
前記p型層中のMg濃度に対する、23℃での前記p型層中のホール濃度で求められるMgの活性化率は、11%以上である
請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体積層物。
【請求項8】
前記p型層中のMg濃度は、1×1018cm-3以上であり、
前記p型層は、式(1)を満たす、
Y≧-5.5logX+110 ・・・(1)
ただし、
Xは、cm-3で表した前記p型層中のMg濃度であり、
Yは、前記p型層中のMg濃度に対する、23℃での前記p型層中のホール濃度で求められる比率であって、%で表したMgの活性化率である
請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体積層物。
【請求項9】
基板を準備するとともに、前記基板を収容したハイドライド気相成長装置を準備する工程と、
前記ハイドライド気相成長装置により、前記基板の上方に、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層を成長させる工程と、
を備え、
前記p型層を成長させる工程では、
ハロゲン含有ガスによりMgF2をエッチングしながら輸送することで、前記p型層中にMgをドープする
半導体積層物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体積層物、および半導体積層物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
p型のIII族窒化物の結晶を得る製造方法として、様々な方法が開示されている(例えば、特許文献1、2、および非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/117750号
【特許文献2】国際公開第2004/061923号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.Mori et al.:Japanese Journal of Applied Physics 58, SC0803 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、p型層を有する高品質な半導体積層物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
基板と、
前記基板の上方に設けられ、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層と、
を備え、
前記p型層中のC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のSi濃度は、1×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のF濃度は、1×1014cm-3以上である
半導体積層物が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられ、III族窒化物を有する下地層と、
前記下地層上に設けられ、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層と、
を備え、
前記下地層および前記p型層のそれぞれにおけるC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層のそれぞれにおけるO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のSi濃度は、1×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上である、
ただし、
前記Aは、前記界面から厚さ方向へ前記下地層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Bは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度である
半導体積層物が提供される。
【0008】
本発明の更に他の態様によれば、
基板を準備するとともに、前記基板を収容したハイドライド気相成長装置を準備する工程と、
前記ハイドライド気相成長装置により、前記基板の上方に、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層を成長させる工程と、
を備え、
前記p型層を成長させる工程では、
ハロゲン含有ガスによりMgF2をエッチングしながら輸送することで、前記p型層中にMgをドープする
半導体積層物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、p型層を有する高品質な半導体積層物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る半導体積層物を示す概略断面図である。
【
図2】HVPE装置の概略構成図であり、反応容器内で結晶成長工程を実行中の様子を示している。
【
図3】HVPE装置の概略構成図であり、反応容器の炉口を開放させた状態を示している。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る半導体積層物を示す概略断面図である。
【
図5】サンプルAおよびサンプルB1の半導体積層物におけるSIMSの深さプロファイルを示す図である。
【
図6】サンプルA、サンプルB1~3の半導体積層物におけるMg濃度に対するホール濃度を示す図である。
【
図7】サンプルA、サンプルB1~3の半導体積層物におけるMg濃度に対するMgの活性化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<発明者が得た知見>
従来では、工業的なp型のIII族窒化物半導体の成長方法として、主に有機金属気相成長法(MOCVD法)が用いられてきた。
【0012】
MOCVD法では、例えば、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)がドーパントとして用いられる。これにより、Mg濃度を比較的容易に制御することができる。また、MOCVD法では、アクセプタを補償するシリコン(Si)または酸素(O)などのn型不純物を低濃度に制御することができる。これらの結果、MOCVD法で成長されたp型窒化物半導体では、1015~1018cm-3の広いホール濃度の範囲を実現することが可能となる。
【0013】
しかしながら、MOCVD法では、各種有機原料ガスに起因して、p型層への炭素(C)の混入を抑制することが困難であった。MOCVD法でも1015台のホール濃度は実現可能であったが、Cによるキャリア補償の影響に起因して、低いホール濃度の制御が困難となっていた。
【0014】
一方で、他の成長方法では、以下のような課題が生じていた。
【0015】
例えば、アモノサーマル法として、補償ドナーとなるOなどの不純物の混入を抑制した技術が特許文献2に開示されている。しかしながら、アモノサーマル法は、主にバルク結晶を得るための技術であり、薄膜を成長させることが困難であった。これは、Ga溶液中でGaNが溶け出してしまうメルトバックと呼ばれる現象や、昇温・昇圧過程での成長などが無視できないためである。このため、アモノサーマル法では、厚さが薄いp型層を有する積層物を製造することが困難となっていた。また、上述と同様の理由のため、複数層を有する積層物を製造することが困難となっていた。
【0016】
さらに、アモノサーマル法では、そのプロセスに起因して、補償ドナーとしてのOが高濃度に混入していた。このため、特に低いホール濃度を有するp型の窒化物半導体を実現することは非常に困難となっていた。
【0017】
また、例えば、フラックス法として、p型層を有する積層物の成長に関する技術が非特許文献1に開示されている。しかしながら、フラックス法においても、そのプロセスに起因して、補償ドナーとしてのOが高濃度に混入していた。このため、特に低いホール濃度を有するp型の窒化物半導体を実現することは非常に困難となっていた。
【0018】
また、例えば、従来のハイドライド気相成長法(HVPE法)では、成長装置の主要部分に石英が用いられてきた。このため、従来のHVPE法では、石英から生じるSiまたはOが高濃度に混入していた。たとえHVPE法によりp型の窒化物半導体が得られたとしても、補償ドナーとしてのSiまたはOが混入するため、特に低いホール濃度を有するp型の窒化物半導体を実現することは困難となっていた。
【0019】
さらに、従来のHVPE法では、ドーパントに起因した課題も生じる可能性があった。
【0020】
例えば、ドーパントとして金属Mgを用いる場合では、反応容器内の800℃程度となる領域に金属Mgを設置し、金属Mgを蒸気の状態で成長部まで輸送していた。このとき、金属Mgが高温反応領域を構成する石英と反応するため、ドーパントの輸送が困難となっていた。
【0021】
また、例えば、ドーパントとして酸化マグネシウム(MgO)を用いる場合では、比較的容易にMgの輸送が可能である。しかしながら、ドーパントに含まれる補償ドナーとしてのOが結晶中に混入するため、特に低いホール濃度を有するp型の窒化物半導体を実現することは困難となっていた。
【0022】
また、例えば、ドーパントとして窒化マグネシウム(Mg3N2)を用いる場合では、比較的容易にMgの輸送が可能である。しかしながら、反応容器内に配置されたMg3N2から常時Mg含有ガスが供給されるため、非p型層を成長する際にもMgが一定量取り込まれてしまっていた。
【0023】
そこで、本発明者等は、従来の製造方法におけるp型窒化物半導体成長の上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、本発明者等によって発明された高純度の窒化物半導体を得るHVPE法の技術(特開2018-070405号公報)に加え、フッ化マグネシウム(MgF2)をドーパントとして使用することで、広い範囲に亘ったホール濃度を安定的に制御することができることを見出した。
【0024】
以下の実施形態は、本発明者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0025】
<本発明の第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
(1)半導体積層物
図1を参照し、本実施形態に係る半導体積層物1について説明する。
図1は、本実施形態に係る半導体積層物を示す概略断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の半導体積層物1は、半導体装置を製造する際に用いられる円板状の積層体として構成されている。具体的には、半導体積層物1は、例えば、半導体装置としてpn接合ダイオードを製造するための積層体として構成されている。
【0028】
具体的には、半導体積層物1は、例えば、基板10と、下地層20と、p型層30と、を有している。
【0029】
[基板]
基板10は、III族窒化物半導体の単結晶からなっている。本実施形態の基板10は、例えば、窒化ガリウム(GaN)の単結晶からなっている。
【0030】
基板10の主面(上面)の面方位は、例えば、(0001)面(+c面、Ga極性面)である。なお、基板10を構成するGaN結晶は、基板10の主面に対して所定のオフ角を有していても良い。オフ角とは、基板10の主面の法線方向と、基板10を構成するGaN結晶の主軸(c軸)とのなす角度のことをいう。具体的には、基板10のオフ角は、例えば、0°以上1.2°以下である。
【0031】
なお、基板10の主面は、エピレディ面であり、基板10の主面の二乗平均平方根粗さ(RMS)は、例えば、10nm以下、好ましくは1nm以下である。なお、ここでいう「RMS」は、原子間力顕微鏡(AFM)にて20μm角エリアを測定した際のRMSを意味している。
【0032】
また、基板10の直径は、特に制限されるものではないが、例えば、25mm以上、好ましくは50mm以上、より好ましくは100mm以上である。基板10の直径が25mm以上、好ましくは50mm以上、より好ましくは100mm以上であることにより、半導体装置の生産性を向上させることができる。
【0033】
また、基板10の厚さは、例えば、150μm以上2mm以下である。基板10の厚さが150μm以上であることで、基板10の機械的強度を確保し、基板10を自立させることができる。
【0034】
基板10の導電型は、特に限定されるものではないが、例えば、n型である。基板10中のn型不純物としては、例えば、シリコン(Si)またはゲルマニウム(Ge)が挙げられる。本実施形態では、例えば、基板10中のn型不純物はSiであり、基板10中のSi濃度は1×1018cm-3以上3×1020cm-3以下である。
【0035】
[下地層]
下地層20は、例えば、基板10上に設けられ、III族窒化物半導体を有し、III族窒化物半導体の単結晶からなっていることが好ましい。本実施形態の下地層20は、例えば、後述の製造方法によりエピタキシャル成長されたGaNの単結晶からなっている。
【0036】
下地層20の導電型は、特に限定されるものではないが、例えば、n型である。下地層20中のn型不純物としては、例えば、SiまたはGeが挙げられる。本実施形態では、下地層20中のn型不純物は例えばSiであり、下地層20中のSi濃度は、例えば、5×1014cm-3以上3×1019cm-3以下である。MOCVD法では、上述のように不純物としてのCの混入が避けられず、低い自由電子濃度が得られ難かった。これに対し、本実施形態では、後述のHVPE法により、下地層20中のSi濃度を低くしつつ、自由電子濃度を安定的に低くすることができる。これにより、高耐圧を有する半導体装置を安定的に製造することが可能となる。
【0037】
本実施形態では、後述の製造方法により、下地層20中のn型不純物以外の各不純物濃度が、SIMSの測定限界(検出下限値)未満となっている。
【0038】
具体的には、SIMSの深さプロファイル分析により測定した下地層20中のC濃度およびO濃度のそれぞれは、5×1015cm-3未満である。
【0039】
また、SIMSの深さプロファイル分析により測定した下地層20中の鉄(Fe)濃度およびボロン(B)濃度のそれぞれは、1×1015cm-3未満である。
【0040】
また、本実施形態の下地層20は、後述のHVPE法により成長されたものであるため、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)等のアルカリ金属をフラックスとして用いるフラックス法により成長させたものではない。そのため、本実施形態の下地層20は、NaやLi等のアルカリ金属元素を実質的に含んでいない。
【0041】
さらに、本実施形態の下地層20中には、ヒ素(As)、塩素(Cl)、リン(P)、フッ素(F)、Na、Li、カリウム(K)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびニッケル(Ni)のうち、いずれの元素も検出されない。
【0042】
すなわち、下地層20中のこれらの不純物濃度は、SIMSの検出下限値未満である。なお、SIMSにおける各元素の現在の検出下限値は、以下の通りである。
【0043】
As:5×1012cm-3、
Cl:1×1014cm-3、
P:2×1015cm-3、
F:4×1013cm-3、
Na:5×1011cm-3、
K:2×1012cm-3、
Sn:1×1013cm-3、
Ti:1×1012cm-3、
Mn:5×1012cm-3、
Cr:7×1013cm-3、
Mo:1×1015cm-3、
W:3×1016cm-3、
Ni:1×1014cm-3。
【0044】
下地層20の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、5μm以上200μm以下である。例えば、半導体積層物1を用い、実用的なGaN縦型デバイスを製造する場合には、下地層20のキャリア濃度が低いほど、高耐圧なデバイスを製造することができる。しかしながら、下地層20のキャリア濃度が低いほど、パンチスルーと呼ばれる現象に起因して、当該デバイスは、キャリア濃度から予測される耐圧よりも低い耐圧を示すこととなる。このため、下地層20のキャリア濃度が低いほど、下地層20が厚い必要がある。例えば、下地層20のキャリア濃度(=Si濃度)が上述した下限値の5×1014cm-3である場合には、下地層20の厚さは、200μmが必要となる。
【0045】
[p型層]
p型層30は、例えば、下地層20上(すなわち基板10の上方)に設けられ、III族窒化物半導体を有し、III族窒化物半導体の単結晶からなっていることが好ましい。本実施形態のp型層30は、p型不純物をドープする点を除いて下地層20と同様の製造方法により、エピタキシャル成長されたGaNの単結晶からなっている。
【0046】
p型層30は、p型不純物として、Mgを含んでいる。p型層30中のMg濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である。
【0047】
本実施形態では、後述の製造方法により、p型層30中のMgおよび後述のフッ素(F)以外の各不純物濃度が、SIMSの測定限界(検出下限値)未満となっている。
【0048】
具体的には、SIMSの深さプロファイル分析により測定したp型層30中のC濃度、O濃度、およびSi濃度は、それぞれ、5×1015cm-3未満、5×1015cm-3未満、および1×1015cm-3未満である。
【0049】
また、SIMSの深さプロファイル分析により測定したp型層30中のFe濃度およびB濃度のそれぞれは、例えば、1×1015cm-3未満である。
【0050】
また、本実施形態のp型層30は、下地層20と同様に、Na、Li等のアルカリ金属元素を実質的に含んでいない。さらに、本実施形態のp型層30中には、As、Cl、P、Na、Li、K、Sn、Ti、Mn、Cr、Mo、WおよびNiのうち、いずれの元素も検出されない。
【0051】
すなわち、p型層30中のこれらの不純物濃度は、SIMSの検出下限値未満である。なお、SIMSにおける各元素の現在の検出下限値は、以下の通りである。
【0052】
As:5×1012cm-3、
Cl:1×1014cm-3、
P:2×1015cm-3、
Na:5×1011cm-3、
K:2×1012cm-3、
Sn:1×1013cm-3、
Ti:1×1012cm-3、
Mn:5×1012cm-3、
Cr:7×1013cm-3、
Mo:1×1015cm-3、
W:3×1016cm-3、
Ni:1×1014cm-3。
【0053】
このように、p型層30中への意図しないこれらの不純物の取り込みが抑制されていることで、p型層30の結晶歪を抑制することができる。また、p型層30中への上述のSiまたはOなどの補償ドナーの取り込みが抑制されていることで、p型層30中の特に低いホール濃度を安定的に実現することができる。
【0054】
一方で、本実施形態のp型層30は、後述の製造方法におけるMgのドーパントに起因して、フッ素(F)を含んでいる。
【0055】
具体的には、本実施形態のp型層30中のF濃度は、例えば、1×1014cm-3以上である。このように、p型層30が微量のFを含むことで、p型層30中のMgの活性化率を向上させることができる。
【0056】
なお、本実施形態のp型層30中のF濃度は、例えば、1×1016cm-3以下であることが好ましい。これにより、過剰なF混入に起因したキャリアパッシベーションを抑制することができる。
【0057】
このように、本実施形態では、p型層30がMg以外の不要な不純物を含まず、且つ、微量のFを含むことで、p型層30中のMgの活性化率が、MOCVD法により得られるMgの活性化率以上となっている。なお、ここでいう「Mgの活性化率」とは、p型層30中のMg濃度に対する、室温(23℃)でのp型層30中のホール濃度の比率のことを意味する。
【0058】
具体的には、本実施形態では、p型層30中のMg濃度が1×1018cm-3未満である場合に、p型層30中のMgの活性化率は、例えば、11%以上である。
【0059】
一方で、本実施形態では、p型層30中のMg濃度が1×1018cm-3以上である場合に、p型層30は、以下の式(1)を満たす。
Y≧-5.5logX+110 ・・・(1)
【0060】
ただし、Xは、cm-3で表したp型層30中のMg濃度である。Yは、%で表したp型層30中のMgの活性化率である。
【0061】
このように、本実施形態では、p型層30が高いMgの活性化率を示すことで、広い範囲に亘ったホール濃度を実現することができる。具体的には、本実施形態のp型層30中のホール濃度を、例えば、1×1015cm-3以上5×1018cm-3以下とすることができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、後述の製造方法により、下地層成長工程S20からp型層成長工程S30に向けてMg含有ガスの供給が適切に切り替えられていることで、下地層20およびp型層30の界面付近において、Mg濃度が急峻に変化している。
【0063】
具体的には、下地層20およびp型層30の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上である。
【0064】
ただし、Aは、下地層20およびp型層30の界面から厚さ方向へ下地層20側に100nmの位置におけるMg濃度であり、Bは、下地層20およびp型層30の界面から厚さ方向へp型層30側に100nmの位置におけるMg濃度である。なお、ここでいう「界面」とは、下地層20およびp型層30におけるMg濃度の最大値をNMaxとし、Mg濃度の最小値Nminとしたときに、Mg濃度が10^{(logNMax+logNmin)/2}となる位置を意味する。
【0065】
このように、下地層20およびp型層30の界面付近のMg濃度の比率B/Aを100以上とし、すなわち、Mg濃度を急峻に変化させることで、pn接合ダイオードにおける空乏層幅を狭くすることができる。
【0066】
さらに、本実施形態では、後述の製造方法により得られるp型層30の厚さを、アモノサーマル法により得られる結晶よりも薄くすることができる。具体的には、p型層30の厚さは、例えば、10nm以上5μm以下、好ましくは10nm以上3μm以下である。p型層30の厚さが10nm以上であることで、p型層30をp型のコンタクト層として機能させることができる。一方で、p型層30の厚さが5μm以下であることで、厚膜に起因したp型層30の不活性化を抑制することができる。これにより、p型層30を有する縦型デバイスを好適に機能させることができる。
【0067】
本実施形態では、後述するように下地層20とp型層30とが同一のHVPE装置200内で連続的に成長される。これにより、下地層20とp型層30との間の界面に、大気中の不純物に由来した意図しないSiまたはOなどの高濃度領域が形成されていない。
【0068】
具体的には、SIMSの深さプロファイルにおける下地層20およびp型層30の間には、下地層20およびp型層30の界面から厚さ方向へ下地層20側に100nmの位置におけるSi濃度よりも10倍以上高いSi濃度を有するスパイク状のピークが、形成されていない。
【0069】
また、SIMSの深さプロファイルにおいて、下地層20およびp型層30の界面から厚さ方向へ下地層20側に100nmの位置におけるO濃度よりも10倍以上高いスパイク状のO濃度のピークが、下地層20およびp型層30の間に形成されていない。
【0070】
(2)半導体積層物の製造方法
以下、本実施形態における半導体積層物1の製造方法について、具体的に説明する。
【0071】
本実施形態の半導体積層物1の製造方法は、例えば、準備工程S10と、下地層成長工程S20と、p型層成長工程S30と、搬出工程S40と、を有している。なお、以下において、下地層成長工程S20およびp型層成長工程S30を総称して「結晶成長工程」ともいう。
【0072】
[S10:準備工程]
まず、基板10を準備するとともに、基板10を収容したHVPE装置200を準備する。本実施形態の準備工程S10は、例えば、装置準備ステップS12と、高温ベークステップS14と、基板配置ステップS18と、を有している。なお、後述のように、場合によっては、高温ベークステップS14は、通常ベークステップS16に置き換えられる。
【0073】
(S12:装置準備ステップ)
以下のHVPE装置200を準備する。
【0074】
GaN結晶の成長に用いるHVPE装置200の構成について、
図2を参照しながら詳しく説明する。HVPE装置200は、例えば円筒状に構成された反応容器203を備えている。反応容器203は、その外側の大気や後述のグローブボックス220内の気体が内部に入り込まないよう、密閉構造となっている。反応容器203の内部には、結晶成長が行われる反応室201が形成されている。反応室201内には、GaN単結晶からなる基板10を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。また、サセプタ208は、内部ヒータ210を内包している。内部ヒータ210の温度は、後述のゾーンヒータ207とは別個に制御可能なように構成されている。さらに、サセプタ208は、その上流側および周囲が遮熱壁211により覆われている。遮熱壁211が設けられることにより、後述のノズル249a~249c、249eから供給されるガス以外のガスが、基板10に供給されなくなる。
【0075】
反応容器203は、円筒状に形成されたSUS等からなる金属フランジ219を介して、グローブボックス220に接続されている。グローブボックス220も、その内部に大気が混入しないように気密構造となっている。グローブボックス220の内部に設けられた交換室202は、高純度窒素(以下、単にN
2ガスとも称する)により連続的にパージされており、酸素および水分濃度が低い値となるように維持されている。グローブボックス220は、透明なアクリル製の壁と、この壁を貫通する穴に接続された複数個のゴム製のグローブと、グローブボックス220の内外間での物の出し入れを行うためのパスボックスと、を備えてなる。パスボックスは、真空引き機構とN
2パージ機構とを備えており、その内部の大気をN
2ガスにより置換することで、グローブボックス220内に酸素を含む大気を引き込むことなく、グローブボックス220の内外での物の出し入れが可能となるように構成されている。反応容器203から結晶基板を出し入れする際には、
図3に示すように、金属フランジ219の開口部、すなわち、炉口221を開放して行う。これにより、後述の高温ベーク工程を行うことで清浄化および改質処理が完了した反応容器203内の各部材の表面が再度汚染されてしまうことや、これらの部材の表面に大気や上述した各種不純物を含むガスが付着してしまうことを防止することができる。
【0076】
反応容器203の一端には、後述するガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、反応室201内へアンモニア(NH3)ガスを供給するガス供給管232b、反応室201内へ高温ベークおよび通常ベーク用のHClガスを供給するガス供給管232c、反応室201内へ窒素(N2)ガスを供給するガス供給管232dがそれぞれ接続されている。なお、ガス供給管232a~232cは、HClガスやNH3ガスに加えて、キャリアガスとしての水素(H2)ガスおよびN2ガスを供給可能なようにも構成されている。ガス供給管232a~232c、232eは、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を、これらガスの種別毎にそれぞれ備えており、各種ガスの流量制御や供給開始/停止を、ガス種別毎に個別に行えるように構成されている。また、ガス供給管232dも、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を備えている。ガス供給管232dから供給されるN2ガスは、反応室201内における遮熱壁211の上流側および周囲をパージすることで、これらの部分の雰囲気の清浄度を維持するために用いられる。
【0077】
ガス供給管232cから供給されるHClガス、および、ガス供給管232a~232cから供給されるH2ガスは、後述する高温ベークステップおよび通常ベークステップにおいて、反応室201内(特に遮熱壁211の内側)の部材の表面を清浄化させるクリーニングガスとして、また、これらの表面を不純物の放出確率が少ない面へと改質する改質ガスとして作用する。ガス供給管232a~232cから供給されるN2ガスは、各ベークステップにおいて、反応室201内(特に遮熱壁211の内側)の所望の個所が適正にクリーニング等されるよう、ノズル249a~249cの先端から噴出するHClガスやH2ガスの吹き出し流速を適切に調整するように作用する。
【0078】
ガス供給管232aから導入されるHClガスは、後述する結晶成長工程において、Ga原料と反応することでGaのハロゲン化物であるGaClガス、すなわち、Ga原料ガスを生成する反応ガスとして作用する。また、ガス供給管232bから供給されるNH3ガスは、後述する結晶成長工程において、GaClガスと反応することでGaの窒化物であるGaNを基板10上に成長させる窒化剤、すなわち、N原料ガスとして作用する。以下、GaClガス、NH3ガスを原料ガスと総称する場合もある。なお、ガス供給管232a~232cから供給されるH2ガスやN2ガスは、後述する結晶成長工程において、ノズル249a~249cの先端から噴出する原料ガスの吹き出し流速を適切に調整し、原料ガスを基板10に向わせるように作用する。
【0079】
ガス供給管232aの下流側には、上述したように、Ga原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成されたGaClガスを、サセプタ208上に保持された基板10の主面に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスを、サセプタ208上に保持された基板10の主面に向けて供給するノズル249b,249cが設けられている。ノズル249a~249cは、それぞれ、遮熱壁211の上流側を貫通するように構成されている。
【0080】
ガス供給管232cは、HClガス、H2ガス、N2ガスの他、ドーパントガスとして、例えば、シラン(SiH4)ガスやジクロロシラン(SiH2Cl2)等のSi含有ガスを供給することが可能なようにも構成されている。
【0081】
さらに、本実施形態では、反応容器203の一端に、後述するガス生成器233e内へハロゲン含有ガスを供給するガス供給管232eが接続されている。ハロゲン含有ガスとしては、後述のMgF2をエッチング可能なガスであり、例えば、HClガス、HFガス、CH3Fなどが挙げられる。なお、ガス供給管232eは、ハロゲン含有ガスに加えて、キャリアガスとしてのH2ガスおよびN2ガスを供給可能なように構成されている。ガス供給管232eは、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を、これらガスの種別毎にそれぞれ備えており、各種ガスの流量制御や供給開始/停止を、ガス種別毎に個別に行えるように構成されている。
【0082】
ガス供給管232eの下流側には、MgドーパントとしてのMgF2を収容するガス生成器233eが設けられている。ガス供給管232eからガス生成器233eに導入されるハロゲン含有ガスは、後述するp型層成長工程S30において、MgF2をエッチングしながら輸送するよう作用する。一方で、ガス生成器233eが加熱されていても、ハロゲン含有ガスを供給しなければ、Mg含有ガスがほとんど生成されることはない。
【0083】
当該ガス生成器233eには、ハロゲン含有ガスによってMgF2をエッチングしながら輸送されたMg含有ガスを、サセプタ208上に保持された基板10の主面に向けて供給するノズル249eが設けられている。ノズル249eは、遮熱壁211の上流側を貫通するように構成されている。
【0084】
ガス供給管232eから供給されるH2ガスは、後述するp型層成長工程S30において、ノズル249eの先端から噴出する原料ガスの吹き出し流速を適切に調整し、原料ガスを基板10に向わせるように作用する。なお、ガス供給管232eから供給されるH2ガスは、上述のガス供給管232a~232cから供給されるH2ガスと同様に、後述する高温ベークステップおよび通常ベークステップにおけるクリーニングガスおよび改質ガスとしても作用しうる。
【0085】
反応容器203の他端に設けられた金属フランジ219には、反応室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、圧力調整器としてのAPCバルブ244、および、ポンプ231が、上流側から順に設けられている。なお、APCバルブ244およびポンプ231に代えて、圧力調整機構を含むブロアを用いることも可能である。
【0086】
反応容器203の外周には、反応室201内を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が設けられている。ゾーンヒータ207は、上流側のガス生成器233aおよびガス生成器233eを含む部分と、下流側のサセプタ208を含む部分の、少なくとも2つのヒータからなっており、各ヒータはそれぞれが個別に室温~1200℃の範囲での温度調整ができるよう、それぞれが温度センサと温度調整器と(いずれも図示しない)を有している。
【0087】
また、基板10を保持するサセプタ208は、上述したように、ゾーンヒータ207とは別に、少なくとも室温~1600℃の範囲での温度調整ができるよう、内部ヒータ210、温度センサ209および温度調整器(図示しない)をそれぞれ備えている。また、サセプタ208の上流側および周囲は、上述したように、遮熱壁211により囲われている。遮熱壁211のうち、少なくともサセプタ208に向いた面の表面(内周面)は、後述するように、不純物を発生しない限定した部材を用いる必要があるが、それ以外の面(外周面)に関しては、1600℃以上の温度に耐える部材であれば、使用する部材に関する限定はなない。遮熱壁211のうち、少なくとも内周面を除いた部分は、例えば、カーボンや炭化珪素(SiC)等の耐熱性の高い非金属材料や、MoやW等の耐熱性の高い金属材料から構成することができ、また、板状のリフレクタを積層した構造とすることができる。このような構成を用いることで、サセプタ208の温度を1600℃とした場合においても、遮熱壁211の外部の温度を1200℃以下に抑制することができる。この温度は石英の軟化点以下であるため、本構成においては、反応容器203、ガス生成器233a、ガス生成器233e、ガス供給管232a~232eの上流側の部分を構成する各部材として、石英を用いることが可能となる。
【0088】
ここで、反応室201は、後述する結晶成長工程でIII族窒化物の結晶成長温度(900℃以上)に加熱され、かつ、基板10に供給されるガスが接触する高温反応領域201aを有している。
【0089】
本実施形態では、高温反応領域201aを構成する部材の少なくとも表面は、例えば、石英(SiO2)非含有およびB非含有の材料により構成され、少なくとも1600℃以上の耐熱性を有している。
【0090】
具体的には、遮熱壁211のサセプタ208よりも上流側の内壁、ノズル249a~249c,249eに関しては遮熱壁211の内側に貫通した部分、および、遮熱壁211の外側の部分に関しても結晶成長工程において900℃以上に加熱される部分、サセプタ208の表面等は、アルミナ(Al2O3)、SiC、グラファイト、パイロリティックグラファイト等の耐熱性材料により構成されている。なお、高温反応領域201aには含まれないが、内部ヒータ210周囲の部分も、少なくとも1600℃以上の耐熱性が要求されることは言うまでもない。なお、高温反応領域201a等を構成する部材にこのような高い耐熱性が要求されるのは、後述するように、結晶成長工程の実施前に高温ベークステップを実施するためである。
【0091】
HVPE装置200が備える各部材、例えば、ガス供給管232a~232eが備える各種バルブや流量制御器、ポンプ231、APCバルブ244、ゾーンヒータ207、内部ヒータ210、温度センサ209等は、コンピュータとして構成されたコントローラ280にそれぞれ接続されている。
【0092】
続いて、上述のHVPE装置200を用いた処理の一例について、
図2を参照しながら詳しく説明する。以下の説明において、HVPE装置200を構成する各部の動作はコントローラ280により制御される。
【0093】
(S14:高温ベークステップ)
本ステップは、HVPE装置200のメンテナンス、ガス生成器233a内へのGa原料の投入、ガス生成器233e内へのMgF2の投入等を行うことで、反応室201内や交換室202内が大気に暴露された場合に実施する。本ステップを行う前に、反応室201および交換室の202の気密が確保されていることを確認する。気密が確認された後、反応室201内および交換室202内をN2ガスでそれぞれ置換し、これら室内を酸素および水分が低い状態としてから、反応容器203内を所定の雰囲気とした状態で、反応室201を構成する各種部材の表面を加熱処理する。この処理は、反応容器203内への基板10の搬入を行っていない状態であって、かつ、ガス生成器233a内へのGa原料の投入およびガス生成器233e内へのMgF2の投入を行った状態で実施する。
【0094】
本ステップでは、ゾーンヒータ207の温度を結晶成長工程と同程度の温度に調整する。具体的には、ガス生成器233aおよび233eを含む上流側のヒータの温度は700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む下流側のヒータの温度は1000~1200℃の温度に設定する。更に、内部ヒータ210の温度は1500℃以上の所定の温度に設定する。後述するように、結晶成長工程では内部ヒータ210はオフであるか1200℃以下の温度に設定するため、高温反応領域201aの温度は900℃以上1200℃未満となる。一方、高温ベークステップにおいては、内部ヒータ210の温度を1500℃以上の温度に設定することで、高温反応領域201aの温度が1000~1500℃以上となり、基板10が載置されるサセプタ208の近傍が1500℃以上の高温になるとともに、それ以外の位置に関しても、それぞれの位置において、結晶成長工程中の温度よりも少なくとも100℃以上高くなる。高温反応領域201aの中で、結晶成長工程の実施中において、温度が最も低い900℃となる部位、具体的には、遮熱壁211の内側におけるノズル249a~249c,249eの上流側の部位は、付着している不純物ガスが最も除去されにくい部分である。この部分の温度が少なくとも1000℃以上の温度となるように、内部ヒータ210の温度を1500℃以上の温度に設定することで、後述する清浄化および改質処理の効果、すなわち、成長させるGaN結晶における不純物の低減効果が充分得られるようになるのである。内部ヒータ210の温度を1500℃未満の温度とした場合、高温反応領域201a内のいずれかの点における温度を充分に高めることができず、後述する清浄化および改質処理の効果、すなわち、GaN結晶における不純物の低減効果が得られにくくなる。
【0095】
このステップにおける内部ヒータ210の温度の上限は、遮熱壁211の能力に依存する。すなわち、遮熱壁211の外側の石英部品等の温度が、それらの耐熱温度を超えない範囲に抑制できる限りにおいては、内部ヒータ210の温度を高くすればするほど、後述する清浄化および改質処理の効果が得られやすくなる。遮熱壁211の外側の石英部品等の温度が、それらの耐熱温度を超えてしまった場合には、HVPE装置200のメンテナンス頻度やコストが増加する場合がある。
【0096】
また、本ステップでは、ゾーンヒータ207および内部ヒータ210の温度がそれぞれ上述した所定の温度に到達した後、ガス供給管232a,232b,232eのそれぞれから、例えば3slm程度の流量でH2ガスを供給する。なお、ガス供給管232aからHClガスを供給せず、かつ、ガス供給管232eからハロゲン含有ガスを供給しない。また、ガス供給管232cから、例えば2slm程度の流量でHClガスを供給するとともに、例えば1slm程度の流量でH2ガスを供給する。また、ガス供給管232dから、例えば10slm程度の流量でN2ガスを供給する。そして、この状態を所定時間維持することで、反応室201内のベーキングを実施する。H2ガスやHClガスの供給を上述のタイミングで、すなわち、反応室201内を昇温してから開始することにより、後述する清浄化や改質処理に寄与することなく無駄に流れるだけとなってしまうガスの量を削減し、結晶成長の処理コストを低減させることが可能となる。
【0097】
また、本ステップは、ポンプ231を作動させた状態で行い、その際、APCバルブ244の開度を調整することで、反応容器203内の圧力を、例えば0.5気圧以上2気圧以下の圧力に維持する。本ステップを、反応容器203内の排気中に行うことで、反応容器203内からの不純物の除去、すなわち、反応容器203内の清浄化を効率的に行うことが可能となる。なお、反応容器203内の圧力が0.5気圧未満となると、後述する清浄化および改質処理の効果が得られにくくなる。また、反応容器203内の圧力が2気圧を超えると、反応室201内の部材が受けるエッチングダメージが過剰となる。
【0098】
また、本ステップでは、反応容器203内におけるHClガスのH2ガスに対する分圧比率(HClの分圧/H2の分圧)を、例えば1/50~1/2の大きさに設定する。上述の分圧比率が1/50より小さくなると、後述する清浄化および改質処理の効果が得られにくくなる。また、上述の分圧比率が1/2より大きくなると、反応室201内の部材が受けるエッチングダメージが過剰となる。なお、この分圧制御は、ガス供給管232a~232eに設けられた流量制御器の流量調整により行うことができる。
【0099】
本ステップを例えば30分以上300分以下の時間実施することで、反応室201のうち、少なくとも高温反応領域201aを構成する各種部材の表面を清浄化し、これらの表面に付着していた異物を除去することができる。そして、これら部材の表面を、後述する結晶成長工程における温度よりも100℃以上高温に保つことで、これらの表面からの不純物ガスの放出を促進し、結晶成長工程における温度、圧力条件下において、Si、B、Fe、OおよびC等の不純物の放出が生じにくい面へと改質することが可能となる。なお、本ステップの実施時間が30分未満となると、ここで述べた清浄化および改質処理の効果が不充分となる場合がある。また、本ステップの実施時間が300分を超えると、高温反応領域201aを構成する部材のダメージが過剰となる。
【0100】
なお、反応容器203内へH2ガス、HClガスを供給する際は、反応容器203内へのNH3ガスの供給は不実施とする。本ステップにおいて反応容器203内へNH3ガスを供給すると、上述の清浄化および改質処理の効果、特に改質処理の効果が得られにくくなる。
【0101】
また、反応容器203内へH2ガス、HClガスを供給する際は、HClガスの代わりに塩素(Cl2)ガスのようなハロゲン系ガスを供給するようにしてもよい。この場合においても、上述の清浄化および改質処理の効果が同様に得られるようになる。
【0102】
また、反応容器203内へH2ガス、HClガスを供給する際は、ガス供給管232a~232cからキャリアガスとしてN2ガスを添加してもよい。N2ガスの添加によりノズル249a~249cからのガスの吹き出し流速を調整することで、上述の清浄化および改質処理が不完全な部分が生じるのを防ぐことができる。なお、N2ガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを供給するようにしてもよい。
【0103】
上述の清浄化および改質処理が完了したら、ゾーンヒータ207の出力を低下させ、反応容器203内を例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内への基板10の搬入等が可能となる温度へと降温させる。また、反応容器203内へのH2ガス、HClガスの供給を停止し、N2ガスでパージする。反応容器203内のパージが完了したら、反応容器203内へのN2ガスの供給を維持しつつ、反応容器203内の圧力が大気圧、或いは、大気圧よりも僅かに高い圧力になるように、APCバルブ244の開度を調整する。
【0104】
(S16:通常ベークステップ)
上述の高温ベークステップS14は、反応室201内や交換室202内が大気に暴露された場合に実施する。しかしながら、結晶成長工程を行う際には、通常、その前後を含めて、反応室201内や交換室202内が大気に暴露されることはないので、高温ベークステップS14は不要となる。但し、結晶成長工程を行うことで、ノズル249a~249c,249eの表面、サセプタ208の表面、遮熱壁211の内壁等に、GaNの多結晶が付着する。GaNの多結晶が残留した状態で次の結晶成長工程を実施すると、多結晶から分離する等して飛散したGaN多結晶粉やGa液滴等が基板10に付着し、良好な結晶成長を阻害する原因となる。このため、結晶成長工程の後には、上述のGaN多結晶を除去する目的で通常ベークステップS16を実施する。通常ベークステップの処理手順、処理条件は、内部ヒータ210をオフの状態とし、サセプタ208付近の温度を1000~1200℃の温度とする点以外は、高温ベークステップS14におけるそれらと同様とすることができる。通常ベークステップS16を行うことにより、反応室201内からGaN多結晶を除去することができる。
【0105】
(S18:基板配置ステップ)
高温ベークステップS14あるいは通常ベークステップS16を実施した後、反応容器203内の降温およびパージが完了したら、反応容器203内に基板10を収容する基板配置ステップS18を行う。
【0106】
図3に示すように、反応容器203の炉口221を開放し、サセプタ208上に基板10を載置する。炉口221は、大気から隔離されており、N
2ガスで連続的にパージされたグローブボックス220に接続されている。グローブボックス220は、上述したように、透明なアクリル製の壁と、壁を貫通する穴に接続された複数個のゴム製のグローブと、グローブボックス220の内外間での物の出し入れを行うためのパスボックスと、を備えてなる。パスボックス内部の大気をN
2ガスに置換することで、グローブボックス220内に大気を引き込むことなく、グローブボックス220の内外での物の出し入れが可能となる。このような機構を用いて基板10の載置作業を行うことで、高温ベークステップS14を行うことで清浄化および改質処理が完了した反応容器203内の各部材の再汚染や、これら部材への不純物ガスの再付着を防止することができる。なお、サセプタ208上に載置する基板10の表面、すなわち、ノズル249a~249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)は、例えば、GaN結晶の(0001)面、すなわち、+c面(Ga極性面)となるようにする。
【0107】
[S20:下地層成長工程]
反応室201内への基板10の収容が完了したら、HVPE装置200を用い、以下の下地層成長工程S20を行う。
【0108】
反応室201内への基板10の搬入後、炉口221を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのH2ガス、或いは、H2ガスおよびN2ガスの供給を開始する。そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NH3ガスの供給を開始し、基板10の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスをそれぞれ供給する。このとき、ガス供給管232cから、基板10の表面に対してSiH2Cl2を供給する。なお、ガス供給管232eからはハロゲン含有ガスを供給せず、Mg含有ガスが生成しないようにする。このようにして、n型のGaNの単結晶からなる下地層20を基板10上に成長させることができる。
【0109】
なお、本ステップでは、基板10を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、基板10の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、反応室201内へのNH3ガスの供給を開始するのが好ましい。また、下地層20およびp型層30の面内膜厚均一性等を向上させるため、後述のp型層成長工程S30を含む結晶成長工程は、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0110】
本ステップでは、ゾーンヒータ207の温度は、ガス生成器233aを含む上流側のヒータでは例えば700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む下流側のヒータでは例えば1000~1200℃の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208の温度は1000~1200℃の所定の結晶成長温度に調整される。本ステップでは、内部ヒータ210はオフの状態で使用してもよいが、サセプタ208の温度が上述の1000~1200℃の範囲である限りにおいては、内部ヒータ210を用いた温度制御を実施しても構わない。
【0111】
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5~2気圧
GaClガスの分圧:0.1~20kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:1~100
H2ガスの分圧/GaClガスの分圧:0~100
SiH2Cl2ガスの分圧:0.1~10Pa
【0112】
下地層20の成長が完了したら、ガス供給管232cからのSiH2Cl2の供給を停止する。
【0113】
[S30:p型層成長工程]
下地層成長工程S20が完了したら、HVPE装置200を引き続き用い、下地層20上に、Mgを含むGaNの単結晶からなるp型層30を成長させる。
【0114】
具体的には、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NH3ガスの供給を継続し、基板10の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスをそれぞれ供給する。
【0115】
このとき、本実施形態では、ガス供給管232eからハロゲン含有ガスとしてのHClガスを供給し、ガス生成器233e内のMgF2をエッチングしながら輸送することで、p型層30中にMgをドープする。
【0116】
このとき、ガス供給管232eからハロゲン含有ガスとしてのHClガスの分圧を、例えば、1Pa以上1kPa以下とする。なお、p型層成長工程S30において、ガス供給管232eからのハロゲン含有ガスの分圧以外の条件は、下地層成長工程S20と同様である。
【0117】
このように、上述のHVPE装置200を用い、p型層30を成長させることで、p型層30中へのMgおよびF以外の不純物の取り込みを抑制しつつ、所定量のMgと微量のFとをp型層30中に取り込むことができる。また、MgF2をドーパントとして用いることで、p型層30のみに選択的にMgをドーピングすることができる。
【0118】
以上の下地層成長工程S20からp型層成長工程S30までの工程を、基板10を大気暴露することなく、同一のHVPE装置200内で連続的に行う。これにより、下地層20とp型層30との間の界面に、大気中の不純物に由来した意図しないSiまたはOなどの高濃度領域(下地層20およびp型層30よりも相対的に高いSi濃度またはO濃度を有する領域)が形成されることを抑制することができる。
【0119】
[S40:搬出工程]
基板10上に下地層20とp型層30とをこの順で成長させたら、反応室201内へNH3ガス、N2ガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、反応室201内へのHClガス、H2ガスの供給、ゾーンヒータ207による加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNH3ガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内からの半導体積層物1の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、半導体積層物1を反応室201内から、グローブボックス220およびパスボックスを介して、搬出する。
【0120】
以上により、本実施形態の半導体積層物1が製造される。
【0121】
なお、複数(n個)の半導体積層物1を製造する場合には、例えば、反応室201内や交換室202内を大気に暴露→高温ベークステップS14→結晶成長工程→搬出工程S40→(通常ベークステップS16→結晶成長工程→搬出工程S40)×(n-1)という順序で実施するのが好ましい。
【0122】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0123】
(a)本実施形態では、上述の製造方法により、清浄化および改質処理された高温反応領域201a内で、高温反応領域201aからのC、SiおよびOなどの不純物の放出を抑制しつつ、p型層30を成長させることで、p型層30中への意図しないこれらの不純物の取り込みを抑制することができる。これにより、p型層30の結晶歪を抑制することができる。また、p型層30中へのC、SiまたはOなどの補償不純物の取り込みが抑制されていることで、p型層30中の特に低いホール濃度を実現することができる。
【0124】
(b)本実施形態では、p型層成長工程S30において、HVPE法により、ドーパントとしてMgF2を用い、ハロゲン含有ガスによりMgF2をエッチングしながら輸送することで、p型層30中にMgをドープする。
【0125】
HVPE法により、有機原料ガスを用いないことで、p型層30へのCの混入を抑制することができる。これにより、不純物としてのCに起因したキャリア補償を抑制することができる。その結果、MOCVD法では得られなかったような低いMg濃度におけるMgの高い活性化率を実現することができる。すなわち、低いホール濃度を安定的に制御することができる。
【0126】
また、MgのドーパントとしてOを含まないMgF2を用いることで、p型層30中への補償ドナーとしてOの取り込みを抑制することができる。これにより、上述の装置起因の補償ドナーを抑制する効果との相乗効果を得ることができる。すなわち、HVPE法を用いていても、p型層30中の低いホール濃度を安定的に実現することができる。
【0127】
さらに、ドーパントとしてMgF2を用いることで、当該ドーパント由来の微量のFをp型層30中に取り込みつつ、p型層30中にMgをドーピングすることができる。これにより、p型層30中のMgの活性化率を向上させることができる。この効果についての詳細なメカニズムが分かっていないものの、p型層30がFを含むことで、p型層30の結晶歪みを緩和することができるものと考えられる。これにより、従来の製造方法では得られなかったような高いMg濃度におけるMgの高い活性化率を実現することができる。その結果、高いホール濃度を有するp型層30を得ることができる。
【0128】
このように、p型層30中への補償ドナーの取り込みを抑制しつつ、p型層30中に所定量のMgと微量のFとを取り込むことで、p型層30において広い範囲に亘ったホール濃度を得ることが可能となる。すなわち、p型層30を含む高品質な半導体積層物1を得ることが可能となる。
【0129】
(c)本実施形態では、MgF2をドーパントとして用い、MgF2のエッチング作用を有するハロゲン含有ガスの供給によりMgドーピングを制御する。このようなMgドーピング制御により、非p型層としての下地層20中へのMgの混入を抑制しつつ、p型層30のみに選択的にMgをドーピングすることができる。これにより、下地層20およびp型層30の界面付近において、Mg濃度を急峻に変化させることができる。具体的には、下地層20およびp型層30の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上とすることができる。
【0130】
このように、Mg濃度を急峻に変化させることがで、pn接合ダイオードにおける空乏層幅を狭くすることができる。これにより、オン状態における電流拡散時の再結合確率を減少させることができる。その結果、pn接合ダイオードにおける損失を低減することが可能となる。
【0131】
また、設計通りのMgのドーピング・プロファイルを実現することができる。これにより、自由度の高いデバイス設計が可能になる。
【0132】
<本発明の第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上述の第1実施形態では、半導体積層物1が、基板10上に下地層20とp型層30とをこの順で有する場合について説明した。しかしながら、以下の本実施形態のように、半導体積層物1の構成を変更してもよい。
【0133】
以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0134】
(1)半導体積層物
図4を参照し、本実施形態に係る半導体積層物1について説明する。
図4は、本実施形態に係る半導体積層物を示す概略断面図である。
【0135】
図4に示すように、本実施形態の半導体積層物1は、例えば、トレンチゲート構造(npn構造)を有する縦型の電界効果トランジスタ(FET)を製造するための積層体として構成されている。具体的には、半導体積層物1は、例えば、基板10と、下地層20と、p型層30と、上層40と、を有している。
【0136】
[上層]
上層40は、例えば、p型層30上に設けられ、III族窒化物半導体を有し、III族窒化物半導体の単結晶からなっていることが好ましい。本実施形態の上層40は、例えば、上述の下地層20と同様の製造方法によりエピタキシャル成長されたGaNの単結晶からなっている。
【0137】
上層40の導電型は、例えば、n型であり、上層40中のSi濃度は、例えば、下地層20中のSi濃度と同等である。
【0138】
本実施形態では、上述の製造方法により、上層40中のn型不純物以外の各不純物濃度は、下地層20と同様に、SIMSの測定限界(検出下限値)未満となっている。
【0139】
具体的には、SIMSの深さプロファイル分析により測定した下地層20中のC濃度およびO濃度のそれぞれは、5×1015cm-3未満である。また、SIMSの深さプロファイル分析により測定した下地層20中のFe濃度およびB濃度のそれぞれは、1×1015cm-3未満である。また、上層40中のAs、Cl、P、Na、Li、K、Sn、Ti、Mn、Cr、Mo、WおよびNiのそれぞれの濃度についても、下地層20と同等である。
【0140】
さらに、本実施形態では、p型層成長工程S30から上層成長工程に向けてMg含有ガスの供給が適切に停止されていることで、p型層30および上層40の界面付近において、Mg濃度が急峻に変化している。
【0141】
具体的には、p型層30および上層40の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率D/Eは、100以上である。
【0142】
ただし、Dは、p型層30および上層40の界面から厚さ方向へp型層30側に100nmの位置におけるMg濃度であり、Eは、p型層30および上層40の界面から厚さ方向へ上層40側に100nmの位置におけるMg濃度である。なお、界面の定義は、下地層20を上層40と置き換えた点を除いて、上述の界面の定義と同様である。
【0143】
上層40の厚さは、限定されるものではないが、例えば、10nm以上1μm以下である。
【0144】
本実施形態の半導体積層物1の製造方法では、例えば、p型層成長工程S30の後に、上層成長工程を下地層成長工程S20と同様に行えばよい。
【0145】
(2)本実施形態の効果
本実施形態では、上述のMgドーピング制御により、非p型層としての上層40中へのMgの混入を抑制することができる。これにより、p型層30および上層40の界面付近のMg濃度の比率D/Eを100以上とし、すなわち、Mg濃度を急峻に変化させることができる。その結果、トレンチゲート構造におけるゲートの領域を明確に区画し、ゲート長をp型層30の厚さと同等とすることができる。
【0146】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0147】
上述の実施形態では、基板10がGaN自立基板からなる場合について説明したが、基板10は、その他の材料からなっていてもよい。具体的には、基板10は、炭化シリコン(SiC)、Si、Si、サファイア(Al2O3)からなっていてもよい。
【0148】
上述の実施形態では、下地層20、p型層30および上層40のそれぞれの半導体層がGaNの単結晶からなる場合について説明したが、本発明はこの場合に限られない。各半導体層は、GaNの単結晶に限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物結晶、すなわち、InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される単結晶からなっていてもよい。
【0149】
上述の実施形態では、半導体積層物1が、基板10上に下地層20、p型層30および上層40をこの順で有する場合について説明したが、本発明はこの場合に限られない。例えば、半導体積層物1が下地層20を有さず、基板10上にp型層30および上層40をこの順で有していてもよい。
【0150】
上述の実施形態では、半導体積層物1によって製造される半導体装置として、縦型のpn接合ダイオードまたは縦型のトレンチゲート構造のFETを挙げたが、半導体積層物1は、他の半導体装置を製造するために用いられてもよい。例えば、半導体積層物1を、横型デバイスを製造するよう構成してもよい。例えば、下地層20およびp型層30を成長させた後に、p型層30中にSiなどのn型不純物をイオン注入することで、横型のパワーデバイスを製造するための半導体積層物1を製造してもよい。
【実施例0151】
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について説明する。
【0152】
(1)半導体積層物について
以下のようにして、サンプルA、サンプルB1~3の半導体積層物を作製した。
【0153】
[共通する条件]
サンプルA、サンプルB1~3において、以下の条件は同様である。
【0154】
基板:GaN自立基板
基板の主面の面方位:+c面
基板の直径:2インチ(50.8mm)
基板の厚さ:500μm
【0155】
[サンプルA:本開示のHVPE法]
サンプルAでは、上述したHVPE装置として、高温反応領域を構成する部材の少なくとも表面がSiCにより構成された装置を用いた。Ga原料およびMgF2を投入後、結晶成長工程の実施前に、高温ベークステップを実施した。このとき、圧力条件は1気圧とし、高温反応領域の温度を1500℃とした。高温ベークステップ後、グローブボックスを経由して、反応容器内に基板を収容した。
【0156】
次に、下地層成長工程において、基板上にGaNからなる下地層を成長させた。本サンプルAでは、下地層をノンドープとした。また、下流側ゾーンヒータおよびサセプタの温度を1050℃とし、下地層の厚さを5μmとした。
【0157】
下地層成長工程の後、反応室を大気解放することなく、p型層成長工程を行った。HClガスによりMgF2をエッチングしながら輸送することで、GaNからなるp型層中にMgをドーピングした。このとき、下流側ゾーンヒータおよびサセプタの温度を下地層成長工程と等しく維持し、p型層の厚さを3μmとした。
【0158】
サンプルAでは、MgF2ラインに供給するHClガスの分圧を変更することで、Mg濃度が互いに異なる複数の半導体積層物を製造した。
【0159】
[サンプルB1:Mg3N2使用HVPE法]
サンプルB1では、p型層成長工程におけるMgドーパントして、Mg3N2を用いた点を除いてサンプルAと同様に、半導体装置を製造した。なお、Mg3N2のキャリアガスとして、H2ガスを供給した。
【0160】
[サンプルB2:従来HVPE法]
サンプルB2では、従来のHVPE法として、高温反応領域が石英からなるHVPE装置を用い、高温ベークステップを行わなかった。p型層成長工程におけるMgドーパントして、金属Mgを用いた。サンプルB2におけるその他の条件は、サンプルB1と同様とした。
【0161】
[サンプルB3:MOCVD法]
サンプルB3では、MOCVD法により半導体積層物を製造した。p型層成長工程におけるMgドーパントガスとして、Cp2Mgガスを供給した。サンプルB3における半導体積層物の層構成は、サンプルB1と同様とした。サンプルB3におけるその他の条件は、従来のMOCVD法の標準的な条件に設定した。
【0162】
なお、サンプルB1~3においても、Mg濃度が互いに異なる複数の半導体積層物を製造した。
【0163】
(2)評価
サンプルA、サンプルB1~3の半導体積層物において、以下の評価を行った。
【0164】
[SIMS]
SIMSの深さプロファイル分析により、サンプルA、サンプルB1~3のそれぞれのp型層中のMg、C、O、Si、BおよびFeなどの各濃度を測定した。
【0165】
[ホール濃度]
ホール効果測定により、23℃の温度で半導体積層物のp型層中のホール濃度を測定した。
【0166】
(3)結果
表1、
図5~7を参照し、評価結果について説明する。表1の各不純物濃度は、p型層中の濃度を示している。なお、表1中の(下限)とは、各評価における検出下限を示し、当該検出下限未満であった結果を「DL」として表記している。
【0167】
【0168】
[サンプルB3:MOCVD法]
表1に示すように、サンプルB3では、p型層中のMgおよびC以外の不純物濃度が低く、広い範囲に亘ってMg濃度が得られていた。なお、p型層中のF濃度は検出下限未満であった。
【0169】
図6および
図7に示すように、サンプルB3では、Mg濃度の広い範囲に亘って、1%以上のMgの活性化率が得られた。しかしながら、Mg濃度が2×10
17cm
-3以下である範囲と、Mg濃度が2×10
18cm
-3以上である範囲とにおいて、Mgの活性化率が低くなっていた。
【0170】
MOCVD法のサンプルB3では、Cp2Mgガスをドーパントとして用いたことで、Mg濃度を比較的容易に制御することができた。しかしながら、サンプルB3では、不純物としてのCが混入していたため、CがMgを補償していた。このため、Mg濃度が低い範囲において、Mgの活性化率が低くなっていた。また、サンプルB3では、Fを非含有であったことで、Mg濃度が高くなるにつれて、Mgの活性化率がやや低下する傾向にあった。
【0171】
[サンプルB2:従来HVPE法]
表1に示すように、サンプルB2では、Mg以外の不純物濃度が高かった。
図6および
図7に示すように、サンプルB2では、高いMg濃度であってもホール濃度が低く、充分なMgの活性化率が得られなかった。
【0172】
従来HVPE法のサンプルB2では、ドーパントとしての金属Mgが高温反応領域を構成する石英と反応したため、ドーパントの輸送が困難となっていた。また、高温反応領域を構成する石英から、補償ドナーとしてのSiまたはOが高濃度に混入していた。その結果、ホール濃度が低く、充分なMgの活性化率が得られなかった。
【0173】
[サンプルB1:Mg3N2使用HVPE法]
表1に示すように、サンプルB1では、p型層中のMg以外の不純物濃度が低く、広い範囲に亘ってMg濃度が得られていた。ただし、p型層中のF濃度は検出下限未満であった。
【0174】
図6および
図7に示すように、サンプルB1では、サンプルB2よりも高いMgの活性化率が得られた。しかしながら、Mg濃度が2×10
18cm
-3以上である範囲において、ホール濃度が低くなり、Mgの活性化率が急激に低くなっていた。
【0175】
さらに、
図5に示すように、サンプルB1では、下地層中においても、Mgが検出されていた。下地層とp型層との間でMg濃度が緩やかに変化していた。
【0176】
Mg3N2使用HVPE法のサンプルB1では、MgドーパントがFを含まなかったため、p型層中にFが取り込まれることがなかった。このため、高いMg濃度の範囲において、充分なMgの活性化率が得られなかった。
【0177】
また、サンプルB1では、反応容器内に配置されたMg3N2から常時Mg含有ガスが供給されたため、下地層中にもMgが一定量取り込まれてしまっていた。
【0178】
[サンプルA]
表1に示すように、サンプルAでは、p型層中のMgおよびF以外の不純物濃度が低く、広い範囲に亘ってMg濃度が得られていた。一方で、p型層中のF濃度は1×1014cm-3以上であった。
【0179】
また、
図6および
図7に示すように、サンプルAでは、Mg濃度の広い範囲に亘って、MOCVD法のサンプルB1よりも高いホール濃度およびMgの活性化率が得られた。すなわち、サンプルAのp型層中のMg濃度が1×10
18cm
-3未満である範囲において、p型層中のMgの活性化率は、11%以上であった。また、サンプルAのp型層中のMg濃度が1×10
18cm
-3以上である範囲において、p型層は、上述の活性化率に関する式(1)(Y≧-5.5logX+110)を満たしていた。
【0180】
さらに、
図5に示すように、サンプルAでは、下地層とp型層との間でMg濃度が急峻に変化していた。具体的には、下地層およびp型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上であった。
【0181】
なお、サンプルAにおいて、SIMSの深さプロファイルにおける下地層およびp型層の間には、下地層およびp型層の界面から厚さ方向へ下地層側に100nmの位置におけるSi濃度よりも10倍以上高いSi濃度を有するスパイク状のピークが、形成されていなかった。
【0182】
本開示に係るサンプルAでは、p型層中への補償不純物の取り込みを抑制しつつ、p型層中に所定量のMgと微量のFとを取り込むことで、p型層において広い範囲に亘ったホール濃度を得ることができたことを確認した。
【0183】
また、サンプルAでは、MgF2のエッチング作用を有するハロゲン含有ガスの供給によりMgドーピングを制御することで、下地層およびp型層の界面付近において、Mg濃度を急峻に変化させることができたことを確認した。
【0184】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0185】
(付記1)
基板と、
前記基板の上方に設けられ、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層と、
を備え、
前記p型層中のC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のSi濃度は、1×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のF濃度は、1×1014cm-3以上である
半導体積層物。
【0186】
(付記2)
前記p型層中のF濃度は、1×1016cm-3以下である
付記1に記載の半導体積層物。
【0187】
(付記3)
前記基板と前記p型層との間に設けられ、III族窒化物を有する下地層を備え、
前記下地層中のC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記下地層中のO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上である、
ただし、
前記Aは、前記界面から厚さ方向へ前記下地層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Bは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度である
付記1又は2に記載の半導体積層物。
【0188】
(付記4)
基板と、
前記基板上に設けられ、III族窒化物を有する下地層と、
前記下地層上に設けられ、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層と、
を備え、
前記下地層および前記p型層のそれぞれにおけるC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層のそれぞれにおけるO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記p型層中のSi濃度は、1×1015cm-3未満であり、
前記下地層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aは、100以上である、
ただし、
前記Aは、前記界面から厚さ方向へ前記下地層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Bは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度である
半導体積層物。
【0189】
(付記5)
前記p型層の厚さは、10nm以上5μm以下である
付記1~4のいずれか1つに記載の半導体積層物。
【0190】
(付記6)
前記p型層中のB濃度およびFe濃度のそれぞれは、1×1015cm-3未満である
付記1~5のいずれか1つに記載の半導体積層物。
【0191】
(付記7)
前記p型層上に設けられ、III族窒化物を有する上層を備え、
前記上層中のC濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記上層中のO濃度は、5×1015cm-3未満であり、
前記上層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率D/Eは、100以上である、
ただし、
前Dは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Eは、前記界面から厚さ方向へ前記上層側に100nmの位置におけるMg濃度である
付記1~6のいずれか1つに記載の半導体積層物。
【0192】
(付記8)
前記p型層中のMg濃度は、1×1018cm-3未満であり、
前記p型層中のMg濃度に対する、23℃での前記p型層中のホール濃度で求められるMgの活性化率は、11%以上である
付記1~7のいずれか1つに記載の半導体積層物。
【0193】
(付記9)
前記p型層中のMg濃度は、1×1018cm-3以上であり、
前記p型層は、式(1)を満たす、
Y≧-5.5logX+110 ・・・(1)
ただし、
Xは、cm-3で表した前記p型層中のMg濃度であり、
Yは、前記p型層中のMg濃度に対する、23℃での前記p型層中のホール濃度で求められる比率であって、%で表したMgの活性化率である
付記1~7のいずれか1つに記載の半導体積層物。
【0194】
(付記10)
23℃での前記p型層中のホール濃度は、×1015cm-3以上5×1018cm-3以下である
付記1~9のいずれか1つに記載の半導体積層物。
【0195】
(付記11)
基板を準備するとともに、前記基板を収容したハイドライド気相成長装置を準備する工程と、
前記ハイドライド気相成長装置により、前記基板の上方に、Mgを含むIII族窒化物を有するp型層を成長させる工程と、
を備え、
前記p型層を成長させる工程では、
ハロゲン含有ガスによりMgF2をエッチングしながら輸送することで、前記p型層中にMgをドープする
半導体積層物の製造方法。
【0196】
(付記12)
前記準備する工程は、
前記ハイドライド気相成長装置における反応容器として、III族窒化物の結晶成長温度に加熱され、前記基板に供給されるガスが接触する高温反応領域を有し、前記高温反応領域を構成する部材の少なくとも表面が石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる容器を準備する工程と、
前記高温反応領域の温度を1500℃以上の温度に加熱しつつ、前記反応容器内への前記窒素原料ガスの供給を不実施とし、前記反応容器内への水素ガスおよびハロゲン含有ガスの供給を実施することで、前記高温反応領域を構成する部材の前記表面を清浄化および改質させる高温ベーク工程と、
前記反応容器内に前記基板を収容する工程と、
を有する
付記11に記載の半導体積層物の製造方法。
【0197】
(付記13)
前記p型層を成長させる工程では、
前記p型層中のC濃度を、5×1015cm-3未満とし、
前記p型層中のO濃度を、5×1015cm-3未満とし、
前記p型層中のSi濃度を、1×1015cm-3未満とし、
前記p型層中のF濃度を、1×1014cm-3以上とする
付記11又は12に記載の半導体積層物の製造方法。
【0198】
(付記14)
前記準備する工程の後で前記p型層を成長させる工程の前に、前記基板上に、III族窒化物を有する下地層を成長させる工程を備え、
前記下地層を成長させる工程では、
前記下地層中のC濃度を、5×1015cm-3未満とし、
前記下地層中のO濃度は、5×1015cm-3未満とし、
前記下地層および前記p型層の界面付近の両側を比較したMg濃度の比率B/Aを、100以上とする、
ただし、
前記Aは、前記界面から厚さ方向へ前記下地層側に100nmの位置におけるMg濃度であり、
前記Bは、前記界面から厚さ方向へ前記p型層側に100nmの位置におけるMg濃度である
付記11~13のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。