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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110645
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】フィルムロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 18/10 20060101AFI20230802BHJP
   B29C 59/16 20060101ALI20230802BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B65H18/10
B29C59/16
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012226
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 真緒
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊輔
【テーマコード(参考)】
2H149
3F055
4F209
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB26
2H149CA02
2H149CB00
2H149DA02
2H149DA12
2H149DB00
2H149FB05
2H149FD44
3F055AA05
3F055DA01
3F055EA02
3F055FA11
4F209AC03
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG05
4F209PA15
4F209PB02
4F209PC05
4F209PN03
(57)【要約】
【課題】フィルムに生じる欠陥(ブツ、傷、及び、ナール部付近の凹凸欠陥)を低減できる、フィルムロールの製造方法。
【解決手段】長尺フィルムを巻き芯に巻き取ってフィルムロールを製造する、フィルムロールの製造方法であって、前記製造方法が、タッチロールに前記長尺フィルムを巻き掛ける工程と、前記タッチロールに巻き掛けられた前記長尺フィルムを前記巻き芯に巻き取る工程とを有し、前記タッチロールが、製造途中の前記フィルムロールを前記巻き芯の中心に向かって押し、前記長尺フィルムが、凹凸部を有するナール部を前記長尺フィルムの幅方向の両端部に有し、前記凹凸部を前記長尺フィルムの厚み方向から見た平面形状が、80°~100°の角度を有する複数の角部を含み、前記ナール部における前記角部の個数が、40個/cm以上である、フィルムロールの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺フィルムを巻き芯に巻き取ってフィルムロールを製造する、フィルムロールの製造方法であって、
前記製造方法が、タッチロールに前記長尺フィルムを巻き掛ける工程と、前記タッチロールに巻き掛けられた前記長尺フィルムを前記巻き芯に巻き取る工程とを有し、
前記タッチロールが、製造途中の前記フィルムロールを前記巻き芯の中心に向かって押し、
前記長尺フィルムが、凹凸部を有するナール部を前記長尺フィルムの幅方向の両端部に有し、
前記凹凸部を前記長尺フィルムの厚み方向から見た平面形状が、80°~100°の角度を有する複数の角部を含み、前記ナール部における前記角部の個数が、40個/cm以上である、フィルムロールの製造方法。
【請求項2】
前記タッチロールが製造途中の前記フィルムロールを前記巻き芯の中心に向かって押す荷重が、5N/m~150N/mである、請求項1に記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項3】
前記タッチロールに巻き掛けられた前記長尺フィルムを前記巻き芯に巻き取る張力が、80N/m~150N/mである、請求項1又は2に記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項4】
前記凹凸部の平均高さが、0.5μm~8μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項5】
前記タッチロールの周面部が、ゴム硬度が55度以上である材料で形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項6】
前記凹凸部が、レーザー光の照射により形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルムロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムは、通常、長尺フィルムとして製造された後、適切な巻き芯に巻き取ってフィルムロールとされ、このフィルムロールの状態で保存及び運搬される。近年、このフィルムロールの品質を維持することが、課題となってきている。その課題を解決するための方法の一つとして、長尺フィルムにおいて、幅方向の両端部に凹凸部を有するナール部を設けることが知られている。ナール部が設けられた長尺フィルムを巻き取る方法として、タッチロールに長尺フィルムを巻き掛け、タッチロールに巻き掛けられた長尺フィルムを巻き芯に巻き取る方法が知られている。巻き取りの際に、製造途中のフィルムロールをタッチロールで押すことも知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-132537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
幅方向両端部にナール部が設けられた長尺フィルムを巻き取ってフィルムロールとすると、ナール部が有する凹凸部が高い圧力で上層のフィルムと接触するために、ナール部が巻き重なったフィルムロールの軸方向両端部は動きが制限される。一方、フィルムロールの軸方向両端部を除くフィルムロールの軸方向中央部において、巻き重ねられた長尺フィルムの間に空気層が形成される。この空気層は、巻き重ねられたフィルム同士が付着する現象(ブロッキング)の発生を抑制するが、空気層により、フィルムが動きやすくなる。その結果、フィルムロールの運搬の際にフィルム同士が擦れて傷が生じたり、フィルムロールが径方向に凹み、フィルムに「ブツ」と呼ばれる、径が10mm以下程度の欠陥が形成されることがある。また、動きが制限されているフィルムロールの軸方向両端部と、動きやすいフィルムロールの軸方向中央部との境界付近に、凹凸が発生し、フィルムのナール部に近い場所に凹凸欠陥が形成されることがある。
【0005】
よってフィルムに生じるこれらの欠陥(ブツ、傷、及び、ナール部付近の凹凸欠陥)を低減できる、フィルムロールの製造方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、ナール部の単位面積当たりの、特定の凹凸形状の個数を所定の範囲とした長尺フィルムを、特定の方法によって巻き取ることにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] 長尺フィルムを巻き芯に巻き取ってフィルムロールを製造する、フィルムロールの製造方法であって、
前記製造方法が、タッチロールに前記長尺フィルムを巻き掛ける工程と、前記タッチロールに巻き掛けられた前記長尺フィルムを前記巻き芯に巻き取る工程とを有し、
前記タッチロールが、製造途中の前記フィルムロールを前記巻き芯の中心に向かって押し、
前記長尺フィルムが、凹凸部を有するナール部を前記長尺フィルムの幅方向の両端部に有し、
前記凹凸部を前記長尺フィルムの厚み方向から見た平面形状が、80°~100°の角度を有する複数の角部を含み、前記ナール部における前記角部の個数が、40個/cm以上である、フィルムロールの製造方法。
[2] 前記タッチロールが製造途中の前記フィルムロールを前記巻き芯の中心に向かって押す荷重が、5N/m~150N/mである、[1]に記載のフィルムロールの製造方法。
[3] 前記タッチロールに巻き掛けられた前記長尺フィルムを前記巻き芯に巻き取る張力が、80N/m~150N/mである、[1]又は[2]に記載のフィルムロールの製造方法。
[4] 前記凹凸部の平均高さが、0.5μm~8μmである、[1]~[3]のいずれか一項に記載のフィルムロールの製造方法。
[5] 前記タッチロールの周面部が、ゴム硬度が55度以上である材料で形成されている、[1]~[4]のいずれか一項に記載のフィルムロールの製造方法。
[6] 前記凹凸部が、レーザー光の照射により形成されている、[1]~[5]のいずれか一項に記載のフィルムロールの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルムに生じる欠陥(ブツ、傷、及び、ナール部付近の凹凸欠陥)を低減できる、フィルムロールの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る巻取装置を模式的に示す正面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルムを、当該長尺フィルムの厚み方向から見た様子を模式的に示す平面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルムが有する凹凸部の一つを前記長尺フィルムの厚み方向から見た平面形状を、模式的に示す平面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルムが有する凹凸部の角部の一例を、拡大して模式的に示す平面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルムが有する線状の凹凸部を、当該凹凸部の延在方向に垂直な面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係るフィルムロールの製造方法により得られうるフィルムロールを模式的に示す部分断面図である。
図7図7は、比較例に係るフィルムロールを模式的に示す部分断面図である。
図8図8は、比較例1で形成された凹凸部500の平面形状を示す模式的な平面図である。
図9図9は、比較例に係る製造方法を実施する巻き取り装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。以下に示す実施形態の構成要素は、適宜組み合わせうる。また、図において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0011】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長尺のフィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0012】
以下の説明において、フィルムに形成された凹凸部の平面形状とは、別に断らない限り、前記フィルムの厚み方向から見た凹凸部の形状を表す。
【0013】
以下の説明において、「厚み方向」とは、別に断らない限り、フィルムの厚み方向を表す。
【0014】
以下の説明において、別に断らない限り、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する用語であり、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」、「メタクリレート」及びこれらの組み合わせを包含する用語である。
【0015】
以下の説明において、別に断らない限り、範囲「AA~BB」は、境界値「AA」及び「BB」を含む。
【0016】
[1.フィルムロールの製造方法の概要]
本発明の一実施形態に係るフィルムロールの製造方法は、長尺フィルムを巻き芯に巻き取ってフィルムロールを製造する方法である。本実施形態のフィルムロールの製造方法は、タッチロールに前記長尺フィルムを巻き掛ける工程と、前記タッチロールに巻き掛けられた前記長尺フィルムを前記巻き芯に巻き取る工程とを有する。
タッチロールは、製造途中の前記フィルムロールを前記巻き芯の中心に向かって押す。
長尺フィルムは、凹凸部を有するナール部を前記長尺フィルムの幅方向の両端部に有する。
凹凸部を前記長尺フィルムの厚み方向から見た平面形状は、80°~100°の角度を有する複数の角部を含む。前記ナール部における前記角部の個数は、40個/cm以上である。
【0017】
タッチロールが、製造途中のフィルムロールを巻き芯の中心に向かって押すことによって、フィルムに生じる「ブツ」及び傷は低減される傾向にある。ナール部における80°~100°の角度を有する角部の個数が、40個/cm以上であることによって、ナール部付近の凹凸欠陥は低減される傾向にある。
本発明の一実施形態に係るフィルムロールの製造方法が、前記の構成を備えることにより、フィルムに生じる「ブツ」、傷、及びナール部付近の凹凸欠陥を低減しうる。
【0018】
[2.フィルムロールの製造装置の構造]
図1は、本発明の一実施形態に係る巻取装置1000を模式的に示す正面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る巻取装置1000は、長尺フィルム1を巻き取ってフィルムロール1300を製造するためのフィルムロール製造装置であって、巻き芯1110と、巻き芯1110用の回転駆動装置としての巻き芯モーター1120と、タッチロール1130と、タッチロール1130用の位置調整装置としてのアーム1140とを備える。
【0019】
巻き芯1110は、長尺フィルム1を巻き取りうるように、当該巻き芯1110の周方向に回転可能に設けられた部材である。巻き芯1110としては、通常、長尺フィルム1の幅以上の長さを有する円柱状又は円筒状の部材を用いる。この巻き芯1110には、巻き芯1110を回転駆動しうる巻き芯モーター1120が、図示しないギア機構等の動力伝達機構によって接続されている。
【0020】
タッチロール1130は、当該タッチロール1130の周方向に回転可能、且つ、巻き芯1110の径方向に移動可能に設けられたロールである。このタッチロール1130は、巻き芯1110に巻き取られる直前の長尺フィルム1を巻き掛けうるように、巻き芯1110又は製造途中のフィルムロール1300へ長尺フィルム1が進入する位置に、巻き芯1110と平行に且つ巻き芯1110に対向して設けられている。ここで、製造途中のフィルムロール1300とは、巻き芯1110に長尺フィルム1を巻き取って製造されるフィルムロール1300であって、長尺フィルム1の巻き取りが完了していないものを指す。また、タッチロール1130は、巻き芯1110に巻き取られて製造途中のフィルムロール1300の一部となった長尺フィルム1のうち、最も外にある長尺フィルム1に接しうるように設けられている。さらに、タッチロール1130は、製造途中のフィルムロール1300を巻き芯1110の中心(即ち、巻き芯1110の回転中心)に向かって所定の荷重で押しうるように設けられている。タッチロール1130は、通常長尺フィルム1の幅以上の長さを有する単一の円柱状又は円筒状の部材であり、長尺フィルム1と接しうる範囲においては一定の径を有している。
【0021】
タッチロール1130の周面を含む周面部は、好ましくは、ゴム硬度が55度以上である材料で形成されている。本明細書において、別に断らない限り、「ゴム硬度」とは、JIS K6253-3に準拠し、デュロメータタイプAを用いて測定された値を意味する。周面部のゴム硬度は、より好ましくは58度以上、特に好ましくは60度以上であり、好ましくは90度以下である。ゴム硬度がこのような範囲にある材料でタッチロール1130の周面部が形成されていることにより、長尺フィルム1のナール部付近に、凹凸欠陥が生じることを効果的に抑制できる。また、タッチロールのゴムの摩耗を軽減できる。
【0022】
前記のタッチロール1130は、アーム1140によって支持されている。アーム1140は、巻き芯1110の径方向におけるタッチロール1130の位置を調整しうるように、巻き芯1110の径方向において移動可能に設けられている。この際、アーム1140の位置は、長尺フィルム1の巻取量に応じて設定されうる。具体的には、アーム1140は、長尺フィルム1の巻取量が大きくなるに従ってフィルムロール1300の径が大きくなった場合に、タッチロール1130を巻き芯1110の径方向に移動させて、タッチロール1130を巻き芯1110から離しうるように設けられている。また、アーム1140には、当該アーム1140に取り付けられたタッチロール1130が製造途中のフィルムロール1300を所定の力で押せるように、図示しない付勢装置としてのエアーシリンダーが設けられている。
【0023】
以上の巻取装置1000により、本実施形態に係る長尺フィルム1が巻き取られる。巻取装置1000による巻き取り条件については後述する。
【0024】
[3.長尺フィルムの実施形態]
図2は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルム1を、当該長尺フィルム1の厚み方向から見た様子を模式的に示す平面図である。
図2に示すように、長尺フィルム1は、長尺のフィルムであって、少なくとも一方の面1Uに、複数の凹凸部10を有する。これら複数の凹凸部10は、通常、長尺フィルム1の長手方向MDに並んで設けられている。また、凹凸部10は、通常、長尺フィルム1の幅方向TDの両端部に設けられる。各凹凸部10を厚み方向から見た平面形状は、異なっていてもよいが、本実施形態では、いずれも凹凸部10の平面形状も同じである例を示す。また、本実施形態では、長尺フィルム1はその両端部のそれぞれに、複数の凹凸部10を有しているが、別の実施形態では、長尺フィルムの両端部のそれぞれに、連続した一本の折れ線状である凹凸部を有していてもよい。
【0025】
図2に示すように、複数の凹凸部10により、長尺フィルム1の両端部にはそれぞれ、長尺フィルム1の長手方向MDに延びる帯状のナール部101が形成されている。長尺フィルム1の幅方向TDにおけるナール部101の幅W1は、通常、長尺フィルム1の幅方向TDにおいて最も内側にある凹凸部10の位置を結ぶ直線L1と、長尺フィルム1の幅方向TDにおいて最も外側、すなわち、長尺フィルム1の端部に最も近い凹凸部10の位置を結ぶ直線L2との距離をいう。
【0026】
ナール部101の幅W1は、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、特に好ましくは7mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは17mm以下、特に好ましくは15mm以下である。ナール部101の幅W1が、前記下限値以上であることにより、長尺フィルム1のブロッキングを効果的に抑制できる。またナール部101の幅W1が前記上限値以下であることにより、長尺フィルム1を歩留まり良く偏光板などの光学要素に利用できる。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルム1が有する凹凸部10の一つを前記長尺フィルム1の厚み方向から見た平面形状を、模式的に示す平面図である。図3に示すように、一つの凹凸部10は、連続した線状である。凹凸部10は、レーザー光の照射によって形成されたものでありうる。よって、一つの凹凸部10は、レーザー光の照射点が移動した跡として、通常は一筆書き状に連続する線として形成される。このように形成された線状の凹凸部10は、特定の平面形状を有する。
【0028】
凹凸部10の平面形状は、80°~100°の角度を有する複数の角部131を含む。角部131は、直線状である2本の直線部を連結する連結部分である。角部131は、図3において右上がりの直線部111と右下がりの直線部112との間に形成される角の頂点に相当しうる。よって、角部131は、直線部111が伸びる方向及び直線部112が伸びる方向に応じた角度θ131を有する。角度θ131は、通常80°以上、好ましくは85°以上、より好ましくは88°以上であり、また、通常100°以下、好ましくは95°以下、より好ましくは92°以下の範囲にある。中でも、90°が特に好ましい。
【0029】
本実施形態では、複数の角部131は、図3において右上がりの直線部111及び右下がりの直線部112を連結し、複数の角部131と複数の直線部111及び複数の直線部112とにより、無端である一つの凹凸部10の平面形状が形成されている。一つの凹凸部10が含む角部131の数は、特に限定されない。本実施形態では、無端である一つの凹凸部10が含む角部131の個数は、24個であるが、24個以上(例えば、32個、40個、48個、56個)であってもよく、24個未満(例えば、16個、8個、4個)であってもよい。また、本実施形態では、無端である一つの凹凸部10の平面形状に複数の角部131が含まれているが、一つの凹凸部が、有端で折れ線状の平面形状を有し、かかる折れ線状の平面形状が、角部を有していてもよい。折れ線状の平面形状には、一個の角部又は複数個の角部(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個)が含まれていてもよい。
さらに、前記のとおり、一つのナール部101に形成されている凹凸部が、連続した一本の折れ線状である平面形状を有していてもよい。
【0030】
図3に示すように、長尺フィルム1の幅方向TDにおける凹凸部10の1つ当たりの長さLTDと、長尺フィルム1の長手方向MDにおける凹凸部10の1つ当たりの長さLMDとの比LTD/LMDは、特定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、前記の比LTD/LMDは、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、特に好ましくは3以上である。比LTD/LMDが前記範囲に収まる場合、形状の崩れを抑制しながら凹凸部10を形成し易い。前記の比LTD/LMDの上限に特段の制限は無いが、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、特に好ましくは10以下である。
【0031】
長尺フィルム1の長手方向MDにおける凹凸部10の1つ当たりの長さLMDは、小さいことが好ましい。具体的には、長さLMDは、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下、特に好ましくは10mm以下である。長さLMDが小さい場合、凹凸部10を短時間で形成できる。また、長尺フィルム1の長手方向MDにおける凹凸部10の密度を高くできる。長さLMDの下限は特に制限されないが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、特に好ましくは1mm以上である。
【0032】
長尺フィルム1の幅方向TDにおける凹凸部10の1つ当たりの長さLTDは、前記の比LTD/Lが上述した範囲に収まるように、適切に設定することが好ましい。具体的には、長尺フィルム1の幅方向TDにおける凹凸部10の1つ当たりの長さLTDは、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、特に好ましくは7mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは17mm以下、特に好ましくは15mm以下である。
【0033】
図2に示したように、複数の凹凸部10が、特定のピッチで、長尺フィルム1の長手方向MDに並んで設けられていることが好ましい。この際、凹凸部10のピッチは、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、特に好ましくは1.5mm以上であり、好ましくは10mm以下、より好ましくは7mm以下、特に好ましくは5mm以下である。凹凸部10のピッチは、一定でもよく、異なっていてもよい。
【0034】
本明細書において、「角部が有する角度」とは、別に断らない限り、当該角部で連結される2本の直線部が交わる角度(0°≦角部の角度≦180°)を表す。角部は、巨視的に見ると、尖った角になっているが、微視的に見ると、丸みを帯びていることがありうる。このように角部が丸みを帯びている場合、別に断らない限り、巨視的に見た時に当該角部において交わる2本の直線部を延長し、延長した線が交わる角度が、角部の角度を表す。
【0035】
図4は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルム1が有する凹凸部10の角部131の一例を、拡大して模式的に示す平面図である。例えば図4に示す例のように、直線部111と直線部112とを連結する角部131が丸みを帯びている場合、巨視的に見た時に角部131において交わる2本の直線部(即ち、直線部111及び直線部112)を延長し、延長した線111a及び112aが交わる角度が、その角部131の角度θ131を表す。
【0036】
角部131が丸みを帯びている場合、それらの角部131の曲率半径Rは、特定の範囲に収まることが好ましい。この曲率半径Rの範囲は、好ましくは0.0mm~0.5mm、より好ましくは0.0mm~0.2mm、特に好ましくは0.0mm~0.1mmである。角部の曲率半径とは、別に断らない限り、図4に示すように、その角部の丸みを帯びた部分の曲率半径Rを表す。
【0037】
長尺フィルム1の厚み方向から見た凹凸部10の平面形状が含む、80°~100°の角度を有する角部131の個数は、ナール部101において、通常40個/cm以上、好ましくは42個/cm以上、より好ましくは45個/cm以上であり、好ましくは160個/cm以下、より好ましくは140個/cm以下である。
ここで、ナール部101における、80°~100°の角度を有する角部131の個数は、ナール部101の単位面積(1cm)当たりの当該角部131の個数、すなわち、ナール部における角部131の密度として、算出されうる。
【0038】
ナール部101における80°~100°の角度を有する角部131の個数が、前記下限値以上であることにより、欠陥、特に「ブツ」及び傷の発生を、効果的に抑制でき、また、前記上限値以下であることにより、凹凸部10をレーザー光により効率的に形成できる。
【0039】
ナール部101における80°~100°の角度を有する角部131の個数が、前記下限値以上であることにより、欠陥を効果的に抑制できる仕組みを、本発明者は、下記のように推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の理由に制限されない。
【0040】
線状に連続する凹凸部10を形成する場合、レーザー光の照射点を移動させながら、フィルムにレーザー光を照射する。直線部を形成する場合には、照射点は直線状に移動する。他方、角部を形成する場合には、照射点は、適切な角度で曲がるように移動する。曲がるように照射点を移動させた場合、その移動方向の内側部分では、レーザー光の照射時間が長くなるので、照射されるレーザー光のエネルギー密度が大きくなる。よって、角部においては、凹凸部10の高さH(図5参照)が高くなる。
【0041】
本実施形態に係る長尺フィルム1は、ナール部101において、90°に近い80°~100°の角度を有する角部131の密度が大きい。一般に、角部の角度が小さいほど当該角部を高くできる。よって、80°~100°の角度を有する角部131は、十分に大きい高さを有することができる。また、上述した実施形態では、角部131の有する角度は、90°に近い範囲に揃っており、均一性に優れる。よって、ナール部101に、このような高くかつ均一性に優れる角部131が多く存在する。
【0042】
長尺フィルム1がロール状に巻き取られた場合、各凹凸部10が長尺フィルム1を支持しうる。この際、角部131は、巻き重なった別の層の長尺フィルム1に接触する。角部131が高いので、前記の接触の接触圧を大きくできる。さらに、角部131の高さの均一性が良好であり、且つ、ナール部101の広い範囲に高い密度で分布しているので、接触圧の均一性を高くできる。したがって、巻き重ねられる長尺フィルム1同士のグリップ力を大きく且つ均一にできる。
【0043】
そうすると、ロールに加わる応力(例えば、ロールの自重によって生じる軸方向の応力)に対して、前記のグリップ力が、強力かつ高い均一性で抗することができる。よって、前記の凹凸部10を備える長尺フィルム1を巻き取ったロールは、応力による変形を抑制できる。ロールの変形が抑制されるので、フィルム同士が接触して擦れることによる傷の発生及びフィルムロールが径方向に凹むことによる「ブツ」の発生を、特に効果的に抑制できる。
【0044】
図5は、本発明の一実施形態に係る長尺フィルム1が有する線状の凹凸部10を、当該凹凸部10の延在方向に垂直な面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、凹凸部10は、凹部11と、凹部11の両側に設けられた凸部12を備える。通常、凹部11は、レーザー光の照射による熱溶融又はアブレーションによって、樹脂が取り除かれた部分に相当し、また、凸部12は、前記のレーザー光の照射によって加熱されて流動化した樹脂が盛り上がった部分に相当する。凸部12が、周囲の長尺フィルム1の面1Uよりも突出していることにより、この凹凸部10においては長尺フィルム1の実質的な厚みが厚くなっている。そのため、上述したように、長尺フィルム1の欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0045】
凹凸部10の高さとは、長尺フィルム1の面1Uから凹凸部10の凸部12の頂点までの高さHを意味する。凹凸部10の高さHは、均一でもよく、不均一でもよい。通常は、凹凸部10の角部と直線部とで、凹凸部10の高さHは異なる。また、角部においては、内側の凸部12と外側の凸部12とで、その高さHが異なりうる。
【0046】
凹凸部10の平均高さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上、特に好ましくは1μm以上であり、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、特に好ましくは6μm以下である。凹凸部10の平均高さが、前記範囲の下限値以上である場合、長尺フィルム1の欠陥の発生を効果的に抑制でき、更に通常は、巻きずれ、巻き締り、巻き緩み及び蛇行を効果的に抑制できる。また、凹凸部10の平均高さが、前記範囲の上限値以下である場合、形状の崩れを抑制しながら凹凸部10を容易に形成でき、また巻き取ったロールの巻径が、凹凸部10が形成された部分(例えば、ロールの軸方向端部)とそれ以外の部分(例えば、ロールの軸方向中央部)とで差ができることによる、長尺フィルム1の変形を抑制できる。
【0047】
ここで、凹凸部10の平均高さとは、凹凸部10に含まれる80°~100°の角度を有する角部131の高さの平均をいう。凹凸部10の平均高さとして、任意の一つの凹凸部10に含まれるすべての80°~100°の角度を有する角部131の高さの算術平均値を用いうる。
【0048】
凹凸部10の直線部における平均高さは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、特に好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、特に好ましくは6μm以下である。直線部における凹凸部10の平均高さが、前記範囲の下限値以上である場合、長尺フィルム1の欠陥の発生を効果的に抑制でき、更に通常は、巻きずれ、巻き締り、巻き緩み及び蛇行を効果的に抑制できる。また、直線部における凹凸部10の平均高さが、前記範囲の上限値以下である場合、形状の崩れを抑制しながら凹凸部10を容易に形成できる。
【0049】
凹凸部10の幅Wは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上、特に好ましくは0.2μm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.75μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。凹凸部10の幅Wが、前記範囲の下限値以上である場合、長尺フィルム1の欠陥の発生を効果的に抑制でき、更に通常は、巻きずれ、巻き締り、巻き緩み及び蛇行を効果的に抑制できる。また、凹凸部10の幅Wが、前記範囲の上限値以下である場合、形状の崩れを抑制しながら凹凸部10を容易に形成できる。
【0050】
長尺フィルム1の幅及び厚みには特に制限は無く、使用目的に応じた幅及び厚みを採用しうる。長尺フィルム1の幅は、好ましくは700mm以上、より好ましくは1000mm以上、特に好ましくは1200mm以上であり、好ましくは2500mm以下、より好ましくは2200mm以下、特に好ましくは2000mm以下である。また、長尺フィルム1の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは300μm以下、特に好ましくは150μm以下である。
【0051】
長尺フィルム1は、光学フィルムとして用いる場合には、ナール部101以外の光学フィルムのエリアにおいて、高い透明性を有することが好ましい。具体的には、前記のエリアにおける長尺フィルム1の全光線透過率は、好ましくは85%~100%、より好ましくは92%~100%である。また、前記のエリアにおける長尺フィルム1のヘイズは、好ましくは0%~5%、より好ましくは0%~3%、特に好ましくは0%~2%である。全光線透過率は、JIS K7105に準拠して、日本電色工業社製の濁度計「NDH-2000」を用いて測定しうる。また、ヘイズは、日本電色工業社製の濁度計「NDH2000」を用いて測定しうる。
【0052】
(長尺フィルムの組成)
上述した長尺フィルム1としては、通常、樹脂フィルムを用いる。この樹脂フィルムは、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。また、前記の樹脂フィルムは、基材層のみを備える単層フィルムであってもよく、基材層に組み合わせて更に任意の層を備える複層フィルムであってもよい。
【0053】
基材層としては、通常、樹脂で形成された層を用いる。このような樹脂としては、長尺フィルムの用途に応じて様々な樹脂を用いうるが、中でも、環状オレフィン樹脂及び(メタ)アクリル樹脂が好ましい。環状オレフィン樹脂又は(メタ)アクリル樹脂で形成された基材層を備えるフィルムは、一般に、巻き取り時に空気を巻きこみやすく、そのため、フィルムに欠陥が発生しやすい傾向がある。これに対し、本実施形態の製造方法を用いれば、欠陥の発生を抑制でき、更に通常は、巻きずれ、巻き締り、巻き緩み及び蛇行を効果的に抑制できる。
【0054】
環状オレフィン樹脂は、環状オレフィン重合体を含む樹脂である。環状オレフィン重合体は、機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れる。
【0055】
環状オレフィン重合体とは、その重合体の構造単位が脂環式構造を有する重合体を表す。環状オレフィン重合体は、主鎖に脂環式構造を有する重合体、側鎖に脂環式構造を有する重合体、主鎖及び側鎖に脂環式構造を有する重合体、並びに、これらの2以上の任意の比率の混合物としうる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0056】
脂環式構造の例としては、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、及び不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造が挙げられる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0057】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲であると、樹脂の機械的強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされる。
【0058】
環状オレフィン重合体において、脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは55重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。環状オレフィン重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、透明性及び耐熱性が良好となる。
【0059】
環状オレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体及びその水素化物は、成形性が良好なため、特に好適である。
【0060】
ノルボルネン系重合体及びその水素化物の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0061】
環状オレフィン重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量が前記の範囲にある場合、樹脂の機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされる。
【0062】
環状オレフィン重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。分子量分布が前記範囲の下限値以上である場合、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下である場合、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、フィルムの安定性を高めることができる。
【0063】
重量平均分子量及び数平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサンを用いてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量である。但し、前記のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーでは、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合には、溶媒としてトルエンを用いてもよい。
【0064】
環状オレフィン重合体のガラス転移温度は、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下である。ガラス転移温度が前記範囲の下限値以上である場合、高温下におけるフィルムの耐久性を良好にできる。また、ガラス転移温度が前記範囲の上限値以下である場合、延伸処理を容易に行うことが可能である。
【0065】
前記の環状オレフィン重合体としては、例えば、国際公開第2017/145718号に記載のものを用いうる。
【0066】
環状オレフィン樹脂における環状オレフィン重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲である場合、十分な耐熱性及び透明性を得られる。
【0067】
環状オレフィン樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環状オレフィン重合体以外の任意の成分を含みうる。任意の成分の例を挙げると、顔料、染料等の着色剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;酸化防止剤;滑剤;などが挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル重合体を含む樹脂である。(メタ)アクリル重合体とは、アクリル酸又はアクリル酸誘導体の重合体を意味し、例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルなどの重合体及び共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル重合体は強度が高く硬いため、機械的強度の高いフィルムを実現できる。
【0069】
(メタ)アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルを重合して得られる構造を有する構造単位を含む重合体が好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸と、炭素数1~15のアルカノール又はシクロアルカノールとから誘導される構造を有する化合物が好ましい。さらには、(メタ)アクリル酸と、炭素数1~8のアルカノールとから誘導される構造を有する化合物がより好ましい。炭素数を前記のように小さくすることにより、フィルム破断時の伸びを小さくすることができる。
【0070】
アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸n-ドデシルなどが挙げられる。
【0071】
また、メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸n-ドデシルなどが挙げられる。
【0072】
さらに、前記の(メタ)アクリル酸エステルは、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、例えば水酸基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。そのような置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0073】
また、(メタ)アクリル重合体は、アクリル酸又はアクリル酸誘導体のみの重合体であってもよいが、アクリル酸又はアクリル酸誘導体とこれに共重合可能な任意の単量体との共重合体でもよい。任意の単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、並びに、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、及びオレフィン単量体などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(メタ)アクリル重合体が任意の単量体を含む場合、当該(メタ)アクリル重合体における任意の単量体を重合して得られる構造を有する構造単位の量は、好ましくは50重量%以下、より好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0075】
これらの(メタ)アクリル重合体のうち、ポリメタクリレートが好ましく、中でもポリメチルメタクリレートがより好ましい。
【0076】
前記の(メタ)アクリル重合体としては、例えば、国際公開第2017/145718号に記載のものを用いうる。
【0077】
(メタ)アクリル樹脂における(メタ)アクリル重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲にある場合、十分な機械的強度を得られる。
【0078】
(メタ)アクリル樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、(メタ)アクリル重合体以外の任意の成分を含みうる。任意の成分の例を挙げると、環状オレフィン樹脂が含みうる任意の成分と同様の例が挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
前記の基材層は、樹脂を適切なフィルム成形法で成形することによって、製造しうる。フィルム成形法としては、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。中でも、溶媒を使用しない溶融押出法は、残留揮発成分量を効率よく低減させることができ、地球環境及び作業環境の観点、並びに、製造効率に優れる観点から、好ましい。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法を用いてもよいが、生産性及び厚さ精度に優れる点で、Tダイ法が好ましい。
【0080】
長尺フィルムとして、2層以上の層を備える複層フィルムを用いる場合、当該複層フィルムは、基材層及び機能層を備えることが好ましい。機能層は、基材層の片側に設けられていてもよく、両側に設けられていてもよい。中でも、機能層は、基材層のナール部側に設けられていることが好ましく、機能層の表面にナール部が設けられていることが更に好ましい。
このような機能層としては、例えば、帯電防止層、ハードコート層、密着防止層、易接着層などが挙げられる。
【0081】
帯電防止層とは、小さい表面抵抗値を有する層をいう。帯電防止層の具体的な表面抵抗値は、好ましくは1.0×10Ω/□以上、より好ましくは1.0×10Ω/□以上、特に好ましくは1.0×10Ω/□以上であり、好ましくは1.0×1010Ω/□以下、より好ましくは5.0×10Ω/□以下、特に好ましくは1.0×10Ω/□以下である。表面抵抗値は、JIS K6911に準拠して、ディジタル超絶縁/微少電流計(日置電気社製「DSM-8104」)を用いて測定しうる。このような帯電防止層は、例えば、金属酸化物粒子等の導電性粒子と重合体とを含む樹脂により形成しうる。
【0082】
ハードコート層とは、高い硬度を有する層をいう。ハードコート層の具体的な硬度をJIS鉛筆硬度で示すと、好ましくはB以上、より好ましくはHB以上、特に好ましくはH以上である。ここで、JIS鉛筆硬度は、JIS K5600-5-4に準拠して、各種硬度の鉛筆を45°傾けて、上から500g重の荷重を掛けて層の表面を引っ掻き、傷が付きはじめる鉛筆の硬さである。このようなハードコート層は、例えば、樹脂により形成しうる。
【0083】
密着防止層とは、粗い表面を有し、他のフィルムと重ねた時にフィルム間の密着を抑制しうる層をいう。このような密着防止層は、例えば、重合体及び粒子を含む樹脂により形成しうる。
【0084】
易接着層とは、当該易接着層の表面を別の部材と貼り合わせる際に高い接着性を発揮しうる層をいう。このような易接着層は、例えば、重合体を含む樹脂により形成しうる。
【0085】
前記の機能層のなかでも、易接着層が好ましい。易接着層は、水系樹脂を含む層とすることが好ましい。水系樹脂とは、水を媒体とした溶液または分散液として調製されうる樹脂である。水系樹脂を含む水溶液又は水分散液を基材層の表面に塗布して乾燥することにより、基材層の表面に、水系樹脂の層を形成することができる。水系樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及びそれぞれの樹脂のエマルジョンなどが挙げられ、好ましくは水系ウレタン樹脂が挙げられる。
【0086】
前記の機能層としては、例えば、国際公開第2017/145718号に記載のものを用いうる。
【0087】
[4.長尺フィルムの製造方法]
上述した長尺フィルムは、例えば、凹凸部を形成される前のフィルムに、レーザー光を照射する工程を含む製造方法によって製造しうる。以下、凹凸部を形成される前のフィルムを、適宜「処理前フィルム」ということがある。
【0088】
レーザー光の照射は、通常、処理前フィルムを当該処理前フィルムの長手方向に連続的に搬送しながら、行う。処理前フィルムの少なくとも一方の面にレーザー光を照射すると、レーザー光が照射された場所において局所的に熱溶融又はアブレーションが生じる。このため、レーザー光が照射された場所では、処理前フィルムに、凹凸部としての凸状の変形及び凹状の変形を生じさせることができる。
【0089】
このようなレーザー光を用いた凹凸部の形成では、機械的な力が不要であるので、凹凸部における残留応力が残り難い。そのため、長尺フィルムにおける凹凸部を起点とした破断の発生を抑制できる。また、厚みの薄い処理前フィルムを用いた場合でも、凹凸部の形成時におけるフィルム破断を抑制し易い。さらに、凹凸部の形成による異物の発生を、抑制できる。
【0090】
前記のレーザー光の照射の際には、レーザー光が処理前フィルムに当たる照射点を、形成したい凹凸部の平面形状を描画するように移動させる。これにより、レーザー光の照射点が移動した跡に凹凸部が形成されて、所望の平面形状を有する凹凸部を形成することができる。
【0091】
処理前フィルムに、複数の凹凸部を形成する場合、一つの凹凸部の平面形状を、途中で線を途切れさせずに連続して描画することが好ましい(一筆書き)。これにより、一つの凹凸部を形成する期間、レーザー光を照射したままにできる。したがって、複数の凹凸部の形状のバラツキを抑制することができるので、凹凸部の安定した形成が可能である。
【0092】
一つの凹凸部の平面形状を描画する場合、レーザー光の照射の開始位置を、ナール部101の幅方向中央近傍(好ましくはナール部101の幅方向中央)とすることが好ましい。通常、レーザー光の照射の開始位置において、凹凸部の高さは最も高くなる。したがって、ナール部101の幅方向中央近傍において凹凸部が高くなり、フィルムロール1300において、ナール部101が巻き重なった部分の動きが効果的に制限されて、フィルムロール1300の欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0093】
レーザー光の照射点の移動速度は、所望の凹凸部を形成できる範囲で任意に設定しうる。具体的な移動速度は、好ましくは500mm/s以上、より好ましくは1000mm/s以上、特に好ましくは1500mm/s以上であり、好ましくは10000mm/s以下、より好ましくは9000mm/s以下、特に好ましくは8000mm/s以下である。レーザー光の照射点の移動速度が前記範囲の下限値以上である場合、描画にかかる時間を短くすることができ、凹凸部を高速で形成できる。また、レーザー光の照射点の移動速度が前記範囲の上限値以下である場合、レーザーの光学系に含まれる可動部分(ミラー等)の慣性によるオーバーシュート部の発生を抑制できるので、所望の形状からの変形や、角部の丸みが抑制できる。
【0094】
レーザー光の照射装置であるレーザー装置としては、例えば、ArFエキシマレーザー装置、KrFエキシマレーザー装置、XeClエキシマレーザー装置、YAGレーザー装置(特に、第3高調波若しくは第4高調波)、YLF若しくはYVO4の固体レーザー装置(特に、第3高調波若しくは第4高調波)、Ti:Sレーザー装置、半導体レーザー装置、ファイバーレーザー装置、及び炭酸ガスレーザー装置が挙げられる。これらのレーザー装置の中でも、比較的安価であり、且つフィルムの加工に適した出力が効率的に得られる観点から、炭酸ガスレーザー装置が好ましい。
【0095】
レーザー光の出力は、好ましくは1W以上、より好ましくは5W以上、特に好ましくは15W以上であり、好ましくは200W以下、より好ましくは190W以下、更に好ましくは180W以下、特に好ましくは170W以下である。レーザー光の出力を前記範囲の下限値以上にすることにより、レーザー光の照射量不足を抑制して、凹凸部を安定して形成できる。また、レーザー光の出力を前記範囲の上限値以下とすることにより、フィルムに貫通孔が生じるのを抑制できる。
【0096】
[5.フィルムロールの製造方法の実施形態]
本実施形態に係る巻取装置1000及び長尺フィルム1は、上述した構造を有している。このような巻取装置1000を用いて長尺フィルム1を巻き取ってフィルムロール1300を製造する場合、タッチロール1130に長尺フィルム1を巻き掛ける工程と、タッチロール1130に巻き掛けられた長尺フィルム1を巻き芯1110に巻き取る工程とを含む、フィルムロール1300の製造方法を行う。以下、この製造方法を説明する。
【0097】
本実施形態に係るフィルムロール1300の製造方法では、図1に示すように、長尺フィルム1を当該長尺フィルム1の長手方向に連続的に搬送して、タッチロール1130に供給する。この際、長尺フィルム1の搬送速度は、通常、長尺フィルム1を巻き芯1110で巻き取る際の巻取速度と等しい。したがって、長尺フィルム1の搬送速度は、所望の巻取速度が実現しうるように設定することが好ましい。長尺フィルム1の巻取速度の具体的な範囲は、好ましくは10m/min以上、より好ましくは15m/min以上、特に好ましくは20m/min以上であり、好ましくは150m/min以下、より好ましくは140m/min以下、特に好ましくは130m/min以下である。長尺フィルム1の巻取速度を前記の範囲に収めることにより、フィルムロール1300の製造後における欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0098】
タッチロール1130に供給された長尺フィルム1は、タッチロール1130に巻き掛けられる。このとき、タッチロール1130は、自由に回転可能に設けられているので、巻き掛けられた長尺フィルム1から与えられる摩擦力によって周方向に回転する。そして、このように回転するタッチロール1130によって、長尺フィルム1は巻き芯1110へと案内される。必要に応じて、タッチロール1130には、当該タッチロール1130を回転させるための駆動力が与えられていてもよい。例えば、タッチロール1130と長尺フィルム1との摩擦力が小さかったり、タッチロール1130が重い場合に、メカニカルロスを低減しうる程度に、タッチロール1130に回転駆動力を与えてもよい。
【0099】
巻き芯1110は、巻き芯モーター1120から与えられる駆動力により、周方向に回転している。そのため、タッチロール1130に巻き掛けられた状態で巻き芯1110へ案内された長尺フィルム1は、巻き芯1110に巻き取られる。そして、巻き芯1110に巻き取られた長尺フィルム1により、フィルムロール1300が形成される。この際、タッチロール1130は、既に巻き芯1110に巻き取られて製造途中のフィルムロール1300の一部となった長尺フィルム1に接触するように、アーム1140によって位置を調整されている。以下、既に巻き芯1110に巻き取られて製造途中のフィルムロール1300の一部となった長尺フィルム1にタッチロール1130が接触する位置を、「巻取位置」ということがある。図1に示すように、この巻取位置Pは、タッチロール1130に巻き掛けられた長尺フィルム1が、巻き芯1110又は製造途中のフィルムロール1300に接触し始める位置である。
【0100】
巻き芯1110で長尺フィルム1を巻き取る際、図示しないエアーシリンダーから与えられる付勢力により、タッチロール1130は、製造途中のフィルムロール1300を、巻き芯1110の径方向に所定の荷重で押している。これにより、巻き芯1110に巻き取られた長尺フィルム(即ち、製造途中のフィルムロール1300に含まれる長尺フィルム)1は、巻き芯1110の中心に向かって所定の荷重で押される。そのため、長尺フィルム1の巻き取りの際、製造途中のフィルムロール1300の周面1301と長尺フィルム1との間への空気の巻き込みは、抑制される。
【0101】
製造途中のフィルムロール1300の周面1301と長尺フィルム1との間への空気の巻き込みが抑制されるため、フィルムロール1300の軸方向両端部の巻きが十分に締まった状態となると同時に、凹凸部10の形成されていない、フィルムロール1300の軸方向中央部におけるフィルムがフィルムロール1300の軸方向に動くことが制限されて、ナール部101付近のフィルムに凹凸状の欠陥が発生することを効果的に抑制できる。
【0102】
タッチロール1130が製造途中のフィルムロール1300を押す荷重の大きさは、好ましくは5N/m以上、より好ましくは10N/m以上、特に好ましくは15N/m以上であり、好ましくは150N/m以下、より好ましくは120N/m以下、特に好ましくは100N/m以下である。ここで、前記の荷重の単位「N/m」は、長尺フィルムの幅1m当たりに加えられる力の大きさを表す。前記の荷重の大きさを前記の範囲に収めることにより、フィルムロール1300の製造後における欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0103】
タッチロール1130が製造途中のフィルムロール1300を押す荷重の大きさは、上記範囲において、製造途中のフィルムロール300の巻径に応じて値を任意に変化させてもよい。この場合、例えば、前記の荷重の大きさを、次第に小さくなるように変化させてもよく、次第に大きくなるように変化させてもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0104】
巻き芯1110で長尺フィルム1を巻き取る際、長尺フィルム1の巻取張力は、所定の範囲に収めることが好ましい。具体的な巻取張力の範囲は、好ましくは80N/m以上、より好ましくは85N/m以上、特に好ましくは90N/m以上であり、好ましくは150N/m以下、より好ましくは145N/m以下、特に好ましくは140N/m以下である。前記の巻取張力の単位「N/m」は、長尺フィルムの幅1m当たりに加えられる力の大きさを表す。長尺フィルム1の巻取張力を前記の範囲に収めることにより、フィルムロール1300の製造後における欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0105】
長尺フィルム1の巻取張力は、上記範囲において、製造途中のフィルムロール1300の巻径に応じて値を任意に変化させてもよい。この場合、例えば、前記の巻取張力を、次第に小さくなるように変化させてもよく、次第に大きくなるように変化させてもよく、これらを組み合わせてもよい。中でも、前記の巻取張力は、時間の経過に伴って次第に小さくなるように調整することが好ましい。
【0106】
[6.フィルムロール]
本実施形態のフィルムロールの製造方法により、フィルムの欠陥の発生が抑制されたフィルムロールが得られる。
図6は、本発明の一実施形態に係るフィルムロールの製造方法により得られうるフィルムロールを模式的に示す部分断面図である。図6は、フィルムロールの軸を含む平面により、フィルムロールを切断した際の断面の一部を示す。
図6に示すように、フィルムロール1300は、軸方向の両端部に、断面の輪郭がアーチ状である、盛り上がり部1310を有する。盛り上がり部1310は、長尺フィルムの両端部に形成されているナール部が巻き重なった部分に相当する。本実施形態に係るフィルムロール1300は、ナール部の単位面積あたりの角部の個数が、40個/cm以上であって多い。前記のとおり、角部における凹凸部の高さは、直線部における凹凸部の高さよりも通常高い。このように高い角部が、ナール部に高い密度で分布していることにより、角部がナール部に低い密度で分布している場合と比較して、フィルムロール1300の両端部に存在する盛り上がり部1310が斜度の小さい斜面1311を有する。このような盛り上がり部1310を有するフィルムロール1300は、巻き重ねられた長尺フィルムを下層のナール部に存在する角部が万遍なく支持しており、巻き重ねられた長尺フィルムが長尺フィルムの軸方向に動くことが制限されて、欠陥の発生が効果的に抑制されている。
ナール部が重なった部分である盛り上がり部1310が有する斜面1311の斜度θ1311は、例えば、好ましくは0.050°未満であり、例えば、好ましくは0.010°以上である。
【0107】
図7は、ナール部の単位面積あたりの角部の個数が、40個/cm未満であって少ない長尺フィルムから製造された、比較例に係るフィルムロールを模式的に示す部分断面図である。図7は、フィルムロールの軸を含む平面により、フィルムロールを切断した際の断面の一部を示す。
図7に示すように、フィルムロール5000は、軸方向の両端部に、盛り上がり部5010を有する。盛り上がり部5010は、斜度が盛り上がり部1310と比較して大きい斜面5011を有する。盛り上がり部5010が有する斜面5011の斜度θ5011は、例えば0.050°以上である。
【0108】
[7.フィルムロールの用途]
前記の製造方法で製造されるフィルムロールは、例えば光学フィルム、防湿フィルム、包装用フィルム、導電フィルム、絶縁フィルム、帯電防止フィルム、バリアフィルム、配線基板用フィルム等の任意の用途のフィルムに適用しうる。中でも、欠陥を抑制できるという利点を有効に活用する観点から光学フィルムに用いることが好ましい。光学フィルムとしては、例えば、位相差フィルム、偏光板の保護フィルム、偏光フィルム、輝度向上フィルム、光拡散フィルム、集光フィルム、反射フィルム等が挙げられる。
これらの光学フィルムは、例えば、前記の製造方法でフィルムロールを製造する工程を含む製造方法により、製造できる。
【実施例0109】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0110】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温(20℃±15℃)及び常圧(1atm)の条件において行った。
【0111】
[評価方法]
(凹凸部の高さの測定方法)
長尺フィルムのナール部の凹凸部の高さは、三次元表面プロファイラー(ザイゴ社製「NewView5000」)を用いて測定した。任意の一つの凹凸部に含まれるすべての80°~100°の角度を有する角部の平均高さを算出し、凹凸部の平均高さとした。
【0112】
(角部の曲率半径の測定方法)
長尺フィルムのナール部の各角部の曲率半径は、三次元表面プロファイラー(ザイゴ社製「NewView5000」)を用いて測定した。
【0113】
(欠陥の評価方法)
フィルムロールからフィルムを繰り出しながら、フィルムの幅方向全体をカメラで撮影し、欠陥を検出した。次いで、検出された欠陥の画像を再確認して、欠陥の種類を判定した。
ナール部付近(フィルムの端から50mm程度内側)に存在する欠陥を、「ナール部付近の凹凸欠陥」に分類した。
ナール部付近を除く、フィルムの中央部に存在する線状の欠陥を、「傷」に分類した。
ナール部付近を除く、フィルムの中央部に存在する点状の欠陥を、「ブツ」に分類した。
これらの欠陥のそれぞれについて、下記基準に従い評価した。
A:欠陥がない
B:欠陥があるが僅かに見える程度である。
C:はっきりと見える欠陥がある。
【0114】
[実施例1、2]
(基材層の製造)
環状オレフィン樹脂(日本ゼオン社製「ZEONOR」;ガラス転移温度135℃)のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて、70℃で2時間、乾燥した。乾燥させたペレットを、65mmφのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出成形機に供給し、溶融樹脂温度270℃、Tダイの幅1700mmの成形条件で押出成形を行って、長尺の基材層(厚さ50μm、幅1500mm、長さ4000m)を製造した。
【0115】
(処理前フィルムの製造(易接着層の形成))
ポリエーテル系ポリウレタンの水分散体(第一工業製薬社製「スーパーフレックス870」)をポリウレタンの量で100部と、架橋剤としてエポキシ化合物(ナガセケムテックス社製「デナコールEX313」)15部と、滑材としてシリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスMP1040」;平均粒子径120nm)をシリカ粒子の量で8部及びシリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスXL」;平均粒子径50nm)をシリカ粒子の量で8部と、濡れ剤としてアセチレン系界面活性剤(エアープロダクツアンドケミカルズ社製「サーフィノール440」)を固形分合計量に対して0.5重量%と、水とを配合して、固形分濃度2%の液状の水系ウレタン樹脂の水分散体を得た。
【0116】
前記の基材層の片面に、上記水系ウレタン樹脂の水分散体を、リバースロール法で、乾燥後の厚みが45nmになるように塗布し、90℃にて乾燥させた。これにより、基材層の片面に易接着層を形成して、基材層及び易接着層を備える複層構造の処理前フィルムを得た。
【0117】
(ナール部の形成)
前記の処理前フィルムを長尺方向に30m/分の速度で搬送した。そして、搬送される処理前フィルムの幅方向の左右両端部の、易接着層側の面に、レーザー光を照射して複数の凹凸部を形成し、幅方向の左右両端部にそれぞれナール部を有する長尺フィルムを得た。レーザー光の照射装置としては、COレーザー光照射装置(コヒレント社製「J3シリーズ」、レーザー波長9.4μm)を用いた。また、レーザー光の照射出力は、出力120Wとした。さらに、レーザー光の照射は、所望の凹凸部の平面形状を描くように、ガルバノスキャナにて移動速度7000mm/sでレーザー光照射点を移動させながら、行った。
【0118】
前記のレーザー光の照射により、幅Wが0.2mmであり、図3に示す平面形状を有する凹凸部10が複数形成された。
【0119】
凹凸部10に含まれる全ての角部131の角度は、いずれも90°であった。また、凹凸部10に含まれる全ての角部131の曲率半径は、いずれも0.2mmであった。
【0120】
フィルム長手方向MDにおける凹凸部10の長さLMDは1.9mm、フィルム幅方向TDにおける凹凸部10の長さLTDは9.4mmであった。また、フィルム長手方向MDにおける凹凸部10のピッチは、3.0mmであった。
フィルムに形成されたナール部の幅W1は、9.4mmであった。
さらに、凹凸部10の平均高さを測定したところ、3μmであった。
凹凸部10一つ当たり、90°の角度を有する角部の数は、24個であり、ナール部1cmあたりの、90°の角度を有する角部の個数は、85個であった。
【0121】
(長尺フィルムの巻き取り)
上述した実施形態で説明した構造を有する巻取装置1000(図1参照)に、前記の長尺フィルムを供給した。そして、表1に示す巻取条件にて、タッチロール1130に長尺フィルム1を巻き掛ける工程と、タッチロール1130に巻き掛けられた長尺フィルム1を巻き芯1110に巻き取る工程とを行って、フィルムロール1300を製造した。その後、製造したフィルムロールを、上述した方法で評価した。
【0122】
[比較例1]
図8は、比較例1で形成された凹凸部500の平面形状を示す模式的な平面図である。
凹凸部500の平面形状を、図8に示すように、国際公開第2017/145718号の実施例1と同じ形状に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法によって、長尺フィルム及びフィルムロールの製造及び評価を行った。
【0123】
比較例1で形成された凹凸部500において、図8に示す角部501の角度は90°、角部502の角度は135°、フィルム長手方向MDにおける凹凸部500の長さLMDは1.2mm、フィルム幅方向TDにおける凹凸部500の長さLTDは9.3mm、フィルム長手方向MDにおける凹凸部500のピッチは4.2mmであった。さらに、凹凸部500の平均高さを測定したところ、3μmであった。
凹凸部500一つ当たり、90°の角度を有する角部の数は、10個であり、ナール部1cmあたりの、90°の角度を有する角部の個数は、25個であった。
【0124】
[比較例2]
実施例1の長尺フィルムの製造と同様の手順で、図3に示す平面形状を有する凹凸部10が複数形成された長尺フィルムを製造した。ただし、凹凸部10の平均高さが、7μmとなるように、レーザー光の出力を140Wへ変更した。
次いで、巻取装置1000の代わりに、図9に示した巻取装置2000を用いて、表1に示す巻取条件にて長尺フィルム1を巻き取った。図9は、比較例に係る製造方法を実施する巻き取り装置の一例を示す模式図である。巻取装置2000は、タッチロール1130の代わりに、ニアロール2130を備えていた。ニアロール2130は、製造途中のフィルムロール2300を巻き芯1110の中心に向かって押してはおらず、製造途中のフィルムロール2300はニアロール2130に接していなかった。
得られたフィルムロールの評価を実施例1と同様に行った。
【0125】
[比較例3]
凹凸部10の平面形状を、図8に示すように、国際公開第2017/145718号の実施例1と同じ形状に変更した。凹凸部500の平均高さが、7μmとなるように、レーザー光の出力を140Wへ変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同様の手順で、長尺フィルムを製造した。
次いで、巻取装置1000の代わりに、図9に示した巻取装置2000を用いて、表1に示す巻取条件にて長尺フィルム1を巻き取った。ニアロール2130は、製造途中のフィルムロール2300を巻き芯1110の中心に向かって押してはおらず、製造途中のフィルムロール2300はニアロール2130に接していなかった。
得られたフィルムロールの評価を実施例1と同様に行った。
【0126】
[製造条件及び結果]
製造条件及び結果を下表に示す。
下表における略記は下記の意味を示す。
「90°角部の密度」:ナール部1cm当たりに存在する角度90°を有する角部の個数
「タッチロール接圧」:タッチロールが製造途中のフィルムロールを押す荷重の大きさ
「タッチ」:タッチロールを備えた巻取装置1000による巻き取り
「ギャップ」:ニアロールを備えた巻取装置2000による巻き取り
「凹凸欠陥」:ナール部付近の凹凸欠陥
【0127】
【表1】
【0128】
ナール部における80°~100°の角度を有する角部の個数が、40個/cm未満である、比較例1及び3に係る製造方法により得られたフィルムロールは、ナール部付近の凹凸欠陥、ブツ、及び傷のいずれかの欠陥が観察された。
ナール部における80°~100°の角度を有する角部の個数が、40個/cm以上であるが、タッチロールではなく、ニアロールを備えた巻取装置による比較例2に係る製造方法では、僅かなブツ及び傷が観察された。
実施例1~2に係る製造方法により得られたフィルムロールは、ナール部付近の凹凸欠陥、ブツ、及び傷のいずれの欠陥も観察できず、比較例1~3と比較して、良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0129】
1:長尺フィルム
1U:面
10:凹凸部
11:凹部
12:凸部
101:ナール部
111:直線部
111a:線
112:直線部
112a:線
131:角部
θ131:角度
500:凹凸部
501:角部
502:角部
1000:巻き取り装置
1110:巻き芯
1120:巻き芯モーター
1130:タッチロール
1140:アーム
1300:フィルムロール
1301:周面
1310:盛り上がり部
1311:斜面
θ1311:斜度
2000:巻取装置
2130:ニアロール
2300:フィルムロール
5000:フィルムロール
5010:盛り上がり部
5011:斜面
θ5011:斜度
H:高さ
L1:直線
L2:直線
R:曲率半径
W:幅
W1:幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9