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特開2023-111037反応槽、炭酸ニッケルの製造方法およびニッケル製錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111037
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】反応槽、炭酸ニッケルの製造方法およびニッケル製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/02 20060101AFI20230803BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20230803BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20230803BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230803BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C22B3/02
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B23/00 102
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012660
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA03
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA20
4K001AA30
4K001BA02
4K001BA06
4K001BA10
4K001DB02
4K001DB04
4K001DB14
4K001DB18
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB26
4K001DB36
4K001JA10
(57)【要約】
【課題】粒径の大きい炭酸ニッケルを生成できる反応槽を提供する。
【解決手段】反応槽1は、槽本体10と、槽本体10に設けられた撹拌軸11と、撹拌軸11の上段に設けられた垂直タービン翼12と、撹拌軸11の下段に設けられた傾斜パドル翼13と、撹拌軸11を回転させる駆動部14と、槽本体10にニッケル水溶液を供給するニッケル水溶液供給管15と、槽本体10に炭酸ナトリウムを供給する炭酸ナトリウム供給管16とを有する。ニッケル水溶液供給管15の排出口は垂直タービン翼12と傾斜パドル翼13との中間高さより下方に配置されている。炭酸ナトリウム供給管16の排出口は垂直タービン翼12より上方に配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル水溶液と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸ニッケルを生成する反応槽であって、
槽本体と、
前記槽本体に設けられた撹拌軸と、
前記撹拌軸の上段に設けられた垂直タービン翼と、
前記撹拌軸の下段に設けられた傾斜パドル翼と、
前記撹拌軸を回転させる駆動部と、
前記槽本体に前記ニッケル水溶液を供給するニッケル水溶液供給管と、
前記槽本体に前記炭酸ナトリウムを供給する炭酸ナトリウム供給管と、を備え、
前記ニッケル水溶液供給管の排出口は前記垂直タービン翼と前記傾斜パドル翼との中間高さより下方に配置されており、
前記炭酸ナトリウム供給管の排出口は前記垂直タービン翼より上方に配置されている
ことを特徴とする反応槽。
【請求項2】
前記ニッケル水溶液供給管の排出口は前記傾斜パドル翼と同じ高さに配置されている
ことを特徴とする請求項1記載の反応槽。
【請求項3】
請求項1または2記載の反応槽を用いて、前記ニッケル水溶液と前記炭酸ナトリウムとを反応させて前記炭酸ニッケルを製造する
ことを特徴とする炭酸ニッケルの製造方法。
【請求項4】
硫酸ニッケルを含むニッケル原料を浸出処理して粗塩化ニッケル水溶液を得る浸出工程と、
酸化中和法により前記粗塩化ニッケル水溶液に含まれる不純物を澱物として除去する酸化中和工程と、
前記粗塩化ニッケル水溶液を浄液して得られる塩化ニッケル水溶液を電解液として用い、電解採取法により電気ニッケルを製造する電解工程と、
請求項3記載の方法により、前記電解工程から排出された電解廃液と前記炭酸ナトリウムとを反応させて前記炭酸ニッケルを製造する炭酸ニッケル製造工程と、を備え、
前記炭酸ニッケル製造工程において、前記炭酸ニッケルを含むスラリーを前記炭酸ニッケルと排水とに固液分離し、
前記炭酸ニッケルを前記酸化中和工程において中和剤として用い、
前記排水を系外に排出する
ことを特徴とするニッケル製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応槽、炭酸ニッケルの製造方法およびニッケル製錬方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ニッケル水溶液と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸ニッケルを生成する反応槽、ニッケル水溶液と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸ニッケルを製造する方法、およびニッケル原料を製錬してニッケルを回収するニッケル製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルを回収する湿式製錬プロセスとして、ニッケル原料を塩素の酸化力を利用して浸出し、得られた浸出液から不純物を除去する浄液工程などを経て、電解工程で電気ニッケルを回収する方法が知られている。
【0003】
電解工程では、塩化ニッケル水溶液を電解槽に給液し、電解採取により電気ニッケルを製造する。電解槽から排出される電解廃液の一部は炭酸ニッケルの製造に利用される。
【0004】
特許文献1には、撹拌槽に電解廃液(塩化ニッケル水溶液)と炭酸ナトリウムとを供給して炭酸ニッケルを生成し、撹拌槽から排出されたスラリーを炭酸ニッケルと排水とに固液分離することが開示されている。炭酸ニッケルは湿式製錬プロセスの浄液工程において中和剤として用いられる。一方、排水は系外に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-83747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
湿式製錬プロセスに用いられるニッケル原料の主成分はニッケル硫化物である。しかし、原料の生産地によっては硫酸ニッケル(NiSO)が混在することがある。この種のニッケル原料を用いた場合、系内の硫酸イオン(SO 2-)が増加するため、塩化浴で行なわれる電解採取においてつぎの問題が生じる恐れがある。1)電気ニッケルの外観異常(ピンホール)が発生するリスクが上昇する。2)不溶性アノード電極が劣化する。3)電解電圧が上昇し、電力使用量が増加する。
【0007】
そこで、電解液の硫酸イオン濃度が上昇した場合には、硫酸イオンの系外への排出量を増加させて、電解液の硫酸イオン濃度を低減することが行なわれる。具体的には、電解廃液を利用した炭酸ニッケルの生産量を増加させて、排水の排出量を増加させる。硫酸イオンは排水とともに系外に排出されるため、排水の排出量増加は硫酸イオンの系外への排出量増加となる。
【0008】
しかし、本来、炭酸ニッケルは湿式製錬プロセスで用いられる中和剤として必要な量だけ製造すればよい。硫酸イオンの系外への排出量増加のために必要量を超えて炭酸ニッケルを製造することは、資材コスト(炭酸ナトリウムのコスト、炭酸ニッケルの中和に要する塩酸のコスト)が必要以上に増加することになる。
【0009】
炭酸ニッケルの製造工程においてスラリーを固液分離しても炭酸ニッケルには不可避的に水分が付着する。炭酸ニッケルの脱水効率を向上すれば、炭酸ニッケルの生産量を維持したまま排水の排出量、すなわち硫酸イオンの系外への排出量を増加させることができる。炭酸ニッケルの脱水効率を向上する方法として、炭酸ニッケルの大粒径化が考えられる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、粒径の大きい炭酸ニッケルを生成できる反応槽および炭酸ニッケルの製造方法を提供することを目的とする。
または、本発明は、硫酸ニッケルを含むニッケル原料を用いても電解採取において硫酸イオンに起因する問題が生じにくいニッケル製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の反応槽は、ニッケル水溶液と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸ニッケルを生成する反応槽であって、槽本体と、前記槽本体に設けられた撹拌軸と、前記撹拌軸の上段に設けられた垂直タービン翼と、前記撹拌軸の下段に設けられた傾斜パドル翼と、前記撹拌軸を回転させる駆動部と、前記槽本体に前記ニッケル水溶液を供給するニッケル水溶液供給管と、前記槽本体に前記炭酸ナトリウムを供給する炭酸ナトリウム供給管と、を備え、前記ニッケル水溶液供給管の排出口は前記垂直タービン翼と前記傾斜パドル翼との中間高さより下方に配置されており、前記炭酸ナトリウム供給管の排出口は前記垂直タービン翼より上方に配置されていることを特徴とする。
第2発明の反応槽は、第1発明において、前記ニッケル水溶液供給管の排出口は前記傾斜パドル翼と同じ高さに配置されていることを特徴とする。
第3発明の炭酸ニッケルの製造方法は、第1または第2発明の反応槽を用いて、前記ニッケル水溶液と前記炭酸ナトリウムとを反応させて前記炭酸ニッケルを製造することを特徴とする。
第4発明のニッケル製錬方法は、硫酸ニッケルを含むニッケル原料を浸出処理して粗塩化ニッケル水溶液を得る浸出工程と、酸化中和法により前記粗塩化ニッケル水溶液に含まれる不純物を澱物として除去する酸化中和工程と、前記粗塩化ニッケル水溶液を浄液して得られる塩化ニッケル水溶液を電解液として用い、電解採取法により電気ニッケルを製造する電解工程と、第3発明の方法により、前記電解工程から排出された電解廃液と前記炭酸ナトリウムとを反応させて前記炭酸ニッケルを製造する炭酸ニッケル製造工程と、を備え、前記炭酸ニッケル製造工程において、前記炭酸ニッケルを含むスラリーを前記炭酸ニッケルと排水とに固液分離し、前記炭酸ニッケルを前記酸化中和工程において中和剤として用い、前記排水を系外に排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、反応槽内の液の流れが垂直タービン翼を境として上下に分離した状態となる。上部の流れに供給された炭酸ナトリウムと下部の流れに供給されたニッケル水溶液との混合が緩慢に進むことから、炭酸ニッケルの核の発生が抑制されるとともに、粒子の成長が促進される。そのため、粒径の大きい炭酸ニッケルを製造できる。
第2発明によれば、ニッケル水溶液を素早く拡散できるのでニッケル水溶液の高濃度領域を小さくでき、炭酸ニッケルの核の発生をより抑制できる。その結果、より粒径の大きい炭酸ニッケルを製造できる。
第3発明によれば、粒径の大きい炭酸ニッケルを製造できる。
第4発明によれば、排水とともに系外に排出される硫酸イオンの量を増加できるので、電解液の硫酸イオン濃度を低減でき、電解工程において硫酸イオンに起因する問題が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ニッケル製錬方法の全体工程図である。
図2】炭酸ニッケルの製造設備の説明図である。
図3】反応槽の縦断面図である。
図4】図(A)シミュレーションに用いた反応槽の構成である。図(B)はシミュレーションにより得られた流線である。図(C)はシミュレーションにより得られた流れ場である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(ニッケル製錬方法)
まず、図1に基づき、本発明の一実施形態に係るニッケル製錬方法を説明する。
ニッケル製錬に用いられるニッケル原料の主成分はニッケル硫化物である。ニッケル原料には金属ニッケル(Ni)が含まれてもよい。また、ニッケル原料には硫酸ニッケル(NiSO)が含まれてもよい。ニッケル原料として、ニッケルマット、ニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスドサルファイド)、硫酸ニッケル含有硫化物原料を用いることができる。
【0015】
ニッケルマットは乾式製錬により得られる。具体的には、ニッケルマットは硫鉄ニッケル鉱を熔錬することで得られる。ニッケルマットの主成分は二硫化三ニッケル(Ni)および金属ニッケル(Ni)である。
【0016】
ニッケル・コバルト混合硫化物は湿式製錬により得られる。具体的には、低品位ラテライト鉱、リモナイト鉱などのニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)し、浸出液から鉄などの不純物を除去した後、硫化水素ガスを浸出液に吹き込んで硫化反応によりニッケル・コバルト混合硫化物を得る。ニッケル・コバルト混合硫化物の主成分は硫化ニッケル(NiS)である。
【0017】
硫酸ニッケル含有硫化物原料として、四硫化三ニッケル(Ni)および硫酸ニッケル(NiSOおよびその水和物)の混合物が挙げられる。
【0018】
まず、ニッケル・コバルト混合硫化物の一部と後述のセメンテーション残渣とからなるスラリーを塩素浸出工程に供給して塩素浸出する。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。塩素浸出工程から排出されたスラリーは浸出液と浸出残渣とに固液分離される。浸出液は不純物を含む塩化ニッケル水溶液(粗塩化ニッケル水溶液)である。
【0019】
ニッケルマットは、粉砕工程において粉砕した後、レパルプしてマットスラリーとし、セメンテーション工程に供給する。また、セメンテーション工程には、ニッケル・コバルト混合硫化物の残部および硫酸ニッケル含有硫化物原料も供給される。セメンテーション工程には塩素浸出工程で得られた浸出液が供給されている。浸出液には回収目的金属であるニッケルおよびコバルトのほか、不純物として銅、鉄、鉛、マンガン、亜鉛、砒素、クロムなどが含まれている。
【0020】
浸出液には2価の銅クロロ錯イオンが含まれている。セメンテーション工程では、浸出液とニッケルマット、ニッケル・コバルト混合硫化物、および硫酸ニッケル含有硫化物原料とを接触させて、銅とニッケルとの置換反応を行なう。これにより、ニッケルマット、ニッケル・コバルト混合硫化物、および硫酸ニッケル含有硫化物原料中のニッケルが液に置換浸出され、浸出液中の銅イオンが硫化銅(CuS)または金属銅(Cu)の形態で析出する。固液分離により得られたセメンテーション残渣は塩素浸出工程に供給される。
【0021】
なお、塩素浸出工程およびセメンテーション工程は、特許請求の範囲に記載の「浸出工程」に相当する。
【0022】
セメンテーション工程から得られたセメンテーション終液は脱鉄工程に供給される。脱鉄工程では、セメンテーション終液(粗塩化ニッケル水溶液)に酸化剤および中和剤を添加して酸化中和反応を生じさせ、鉄を水酸化物として固定化し、濾過機を用いて固液分離することで除去する。ここで、酸化剤として、例えば塩素ガスが用いられる。また、中和剤として炭酸ニッケルスラリーが用いられる。脱鉄工程においてセメンテーション終液に含まれる不純物である鉄、砒素およびクロムが澱物として除去される。
【0023】
脱鉄工程から得られた脱鉄終液を抽出始液として溶媒抽出工程に供給する。溶媒抽出工程では、抽出始液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、粗塩化ニッケル水溶液(抽出残液)と粗塩化コバルト水溶液とを得る。
【0024】
粗塩化コバルト水溶液は浄液工程を経てさらに不純物が除去されて高純度塩化コバルト水溶液となる。高純度塩化コバルト水溶液を電解液とした電解採取により電気コバルトが製造される。
【0025】
抽出残液は脱鉛工程に供給され、不純物である鉛が除去される。脱鉛工程では、抽出残液に酸化剤および中和剤を添加して酸化中和反応を生じさせ、鉛を沈澱物として固定化し、濾過機を用いて固液分離することで除去する。ここで、酸化剤として、例えば塩素ガスが用いられる。また、中和剤として炭酸ニッケルスラリーが用いられる。脱鉛工程において粗塩化ニッケル水溶液に含まれる不純物である鉛、コバルト、鉄および銅が澱物として除去される。なお、微量の鉛を沈澱物として固定化する条件では、ニッケルも沈澱し易い。そこで、脱鉛工程で得られる沈澱物である脱鉛澱物は、ニッケル原料としてリサイクルされる。
【0026】
脱鉛工程から得られた脱鉛終液を脱亜鉛工程に供給する。脱亜鉛工程では、脱鉛終液に残留した微量の亜鉛を陰イオン交換樹脂に吸着させることで除去する。
【0027】
脱亜鉛工程から得られた高純度塩化ニッケル水溶液は電解給液としてニッケル電解工程に供給される。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0028】
ニッケル電解工程において電解槽から排出される電解廃液(アノライトとも称される。)はニッケル濃度が低下した塩化ニッケル水溶液である。電解廃液の一部は炭酸ニッケル製造工程に供給される。電解廃液の残部は、濃縮後、電解給液として電解槽に繰り返される。
【0029】
炭酸ニッケル製造工程では、電解廃液(塩化ニッケル水溶液)と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸ニッケルを生成する。炭酸ニッケルを含むスラリーを炭酸ニッケルと排水とに固液分離する。炭酸ニッケルは、レパルプ後に、脱鉄工程および脱鉛工程において中和剤として用いられる。排水は系外に排出される。
【0030】
なお、脱鉄工程および脱鉛工程は、いずれも、特許請求の範囲に記載の「酸化中和工程」に相当する。
【0031】
(炭酸ニッケル製造工程)
つぎに、炭酸ニッケル製造工程を詳説する。
炭酸ニッケル製造工程は、図2に示す炭酸ニッケルの製造設備AAを用いて実施される。製造設備AAは、反応槽1、固液分離装置2、およびシックナー3を有する。
【0032】
塩化ニッケル水溶液および炭酸ナトリウムは反応槽1に供給され、撹拌される。これにより、塩化ニッケル水溶液と炭酸ナトリウムとが反応し、炭酸ニッケルが生成される。塩化ニッケル水溶液はニッケル電解工程の電解廃液である。炭酸ナトリウムは、粉末状のまま反応槽1に供給しても良いが、あらかじめ炭酸ナトリウム水溶液としたものを添加することが好ましい。そうすることで、添加精度、反応制御精度が向上する。なお、反応槽1の数は1つでもよいし、複数でもよい。複数の反応槽1を直列に接続してもよいし、並列に接続してもよい。
【0033】
反応槽1への炭酸ナトリウムの供給量は、スラリーの液相分のpHが6~9、好ましくは7となるよう調整される。このpH領域では炭酸ニッケルが固形物として安定であり、炭酸ニッケルを効率よく生成できるからである。
【0034】
反応槽1から排出されたスラリーは固液分離装置2に供給される。固液分離装置2において、スラリーが炭酸ニッケルと濾液とに固液分離される。これにより、炭酸ニッケルが得られる。固液分離装置2としては、特に限定されないが、デカンターなどの遠心分離機、オリバーフィルターなどの真空脱水機、フィルタープレスなどの加圧脱水機などを用いることができる。
【0035】
固液分離装置2から排出された濾液はシックナー3に供給される。シックナー3では濾液に含まれる炭酸ニッケルの微粒子を沈降させる。シックナー3のアンダーフローは反応槽1に供給される。アンダーフローには炭酸ニッケルの微粒子が含まれており、この微粒子が反応槽1に供給されることになる。
【0036】
シックナー3のオーバーフローは排水として処理される。すなわち、排水は排水処理された後に、系外に排出される。排水には硫酸イオンが含まれる。したがって、排水の排出とともに、硫酸イオンを系外に排出することができる。
【0037】
(反応槽)
図3に示すように、反応槽1は槽本体10を有する。槽本体10の形状は、特に限定されないが、例えば円筒縦形である。槽本体10の中心軸に沿って撹拌軸11が設けられている。撹拌軸11には、上段に垂直タービン翼12が設けられ、下段に傾斜パドル翼13が設けられている。すなわち、1本の撹拌軸11に垂直タービン翼12および傾斜パドル翼13の両方が設けられている。垂直タービン翼12の取り付け位置は撹拌軸11の中腹であり、傾斜パドル翼13の取り付け位置は撹拌軸11の下端である。
【0038】
撹拌軸11の上端には駆動部14が設けられている。駆動部14により撹拌軸11が回転する。撹拌軸11、垂直タービン翼12、傾斜パドル翼13および駆動部14により撹拌機が構成されている。
【0039】
反応槽1はニッケル水溶液供給管15を有する。ニッケル水溶液供給管15は槽本体10の内部に塩化ニッケル水溶液を供給する管である。ニッケル水溶液供給管15の排出口は垂直タービン翼12と傾斜パドル翼13との中間高さHより下方に配置されている。ここで、高さHは傾斜パドル翼13を基準とした垂直タービン翼12の高さの1/2である。
【0040】
反応槽1は炭酸ナトリウム供給管16を有する。炭酸ナトリウム供給管16は槽本体10の内部に炭酸ナトリウムを供給する管である。炭酸ナトリウム供給管16の排出口は垂直タービン翼12より上方に配置されている。炭酸ナトリウム供給管16の排出口は液面より上方に設ければよい。また、炭酸ナトリウム供給管16の排出口を液面より下方に設けてもよい。
【0041】
反応槽1は排出管17を有する。排出管17は槽本体10から炭酸ニッケルを含むスラリーを排出する管である。排出管17の位置は特に限定されない。図3に示すように、槽本体10の下部に排出管17を取り付ければよい。排出管17を液面の高さに設け、スラリーをオーバーフローにより排出する構成としてもよい。この場合、槽本体10に対する排出管17の接続部を静水筒で囲うことが好ましい。静水筒は槽本体10の内壁面に沿って槽の下部から液面より上方に至るまで上下方向に延在する筒形の部材である。スラリーは静水筒の下端から静水筒の内部に流入して排出管17から排出される。静水筒が存在することにより、塩化ニッケル水溶液および炭酸ナトリウムが未反応のまま、あるいは炭酸ニッケル微粒子が未成長のまま、短時間で排出管17から排出されるショートパスを抑制できる。
【0042】
図3に、反応槽1内の液の流れを破線矢印で示す。垂直タービン翼12は水平な円盤の縁部に複数枚の羽根を垂直に設けた翼である。したがって、垂直タービン翼12は、液体を回転軸付近から吸い込んで、半径方向外側に吐出し、放射流を形成する。一方、傾斜パドル翼13は複数枚の羽根を傾斜させて設けた翼である。傾斜パドル翼13は液体を上部から吸い込んで下方に吐出し、上下方向の対流を形成するとともに、周方向の旋回流を形成する。
【0043】
垂直タービン翼12を上段、傾斜パドル翼13を下段に設けた撹拌機で液を撹拌すると、反応槽1内の液の流れが垂直タービン翼12を境として上下に分離した状態となる。これは、下段の傾斜パドル翼13で形成された上下対流が、垂直タービン翼12で形成された放射流により遮断されるためである。
【0044】
炭酸ナトリウムは垂直タービン翼12より上部の流れに供給され、塩化ニッケル水溶液は垂直タービン翼12より下部の流れに供給される。上部の流れに供給された炭酸ナトリウムと下部の流れに供給された塩化ニッケル水溶液との混合が緩慢に進むことから、炭酸ニッケルの核の発生が抑制されるとともに、粒子の成長が促進される。そのため、粒径の大きい炭酸ニッケルを製造できる。
【0045】
ニッケル水溶液供給管15の排出口は傾斜パドル翼13と同じ高さに配置することが好ましい。また、この際、ニッケル水溶液供給管15の排出口を傾斜パドル翼13に向けることが好ましい。傾斜パドル翼13の近傍は液の流れが速い領域である。この領域に塩化ニッケル水溶液を供給すると、塩化ニッケル水溶液が素早く拡散され、塩化ニッケル水溶液の高濃度領域を小さくできる。これにより、炭酸ニッケルの核の発生をより抑制でき、より粒径の大きい炭酸ニッケルを製造できる。
【0046】
なお、シックナー3のアンダーフローは反応槽1のいずれの位置に供給してもよい。すなわち、シックナー3のアンダーフローは垂直タービン翼12より上部の流れに供給してもよいし、下部の流れに供給してもよい。
【0047】
炭酸ニッケルの粒径が大きくなると、固液分離装置2およびシックナー3による炭酸ニッケルの脱水効率が向上する。そのため、炭酸ニッケルの生産量を維持したまま排水の排出量、すなわち硫酸イオンの系外への排出量を増加させることができる。排水とともに系外に排出される硫酸イオンの量を増加できるので、電解液の硫酸イオン濃度を低減できる。そのため、ニッケル電解工程において硫酸イオンに起因する問題が生じにくい。
【0048】
なお、粒径の大きい炭酸ニッケルを生成するという観点からは、塩化ニッケル水溶液に限らず、硫酸ニッケルなどのニッケル水溶液を用いて、炭酸ニッケルを生成してもよい。
【実施例0049】
反応槽内の液の流れについて数理解析によるシミュレーションを行なった。図4(A)に反応槽のシミュレーションに用いた反応槽の構成を示す。撹拌軸の上段に6枚羽根の垂直タービン翼が設けられ、下段に6枚羽根の傾斜パドル翼が設けられている。シミュレーションにより得られた流線を図4(B)に、流れ場を図4(C)に示す。流線および流れ場から分かるように、反応槽内の液の流れは垂直タービン翼を境として上下に分離した状態となる。
【符号の説明】
【0050】
1 反応槽
10 槽本体
11 撹拌軸
12 垂直タービン翼
13 傾斜パドル翼
14 駆動部
15 ニッケル水溶液供給管
16 炭酸ナトリウム供給管
17 排出管
図1
図2
図3
図4