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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111243
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】大豆餡の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20230803BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
A23L11/00 301
A23L11/00 A
A23G3/34 106
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013006
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(71)【出願人】
【識別番号】390022002
【氏名又は名称】オーケー食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】三浦 七海
(72)【発明者】
【氏名】三原 静香
【テーマコード(参考)】
4B014
4B020
【Fターム(参考)】
4B014GE11
4B014GG06
4B014GG07
4B014GK03
4B014GL01
4B014GL10
4B014GP01
4B014GP14
4B014GP25
4B014GP26
4B014GP27
4B020LB15
4B020LC01
4B020LC04
4B020LG01
4B020LK01
4B020LK05
4B020LP03
4B020LP10
4B020LP15
4B020LP27
4B020LZ10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、大豆に含まれる脂質に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がなく、さらに、一般的な小豆から製造される餡が有する食感に近い食感を有する大豆餡及びその新規な製造方法を提供することである。
【解決手段】大豆粉と糖類と液体原料とを含むペーストを提供する工程1と、前記ペーストを加熱する工程2とを含み、かつ餡練工程を含まない、大豆餡の製造方法により、大豆に含まれる脂質に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がなく、しっとりとして滑らかで口溶けのよい食感を有する大豆餡を製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆粉と、糖類と、液体原料とを含むペーストを提供する工程1と、
前記ペーストを加熱する工程2と、
を含み、かつ餡練工程を含まない、大豆餡の製造方法。
【請求項2】
工程1におけるペーストに含まれる水分の量が、大豆粉100質量部に対して50~150質量部である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程1における糖類の量が、大豆粉100質量部に対して40~210質量部である、請求項1又は2記載の大豆餡の製造方法。
【請求項4】
工程1が、ペーストを密封包装することをさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の大豆餡の製造方法。
【請求項5】
工程1の大豆粉が、大豆の粉砕物であり、粉砕の前あるいは後に焙煎されている、請求項1~4のいずれかに記載の大豆餡の製造方法。
【請求項6】
工程2の加熱が、ペースト中の大豆粉の澱粉をα化させる条件下で行なわれる、請求項1~5のいずれかに記載の大豆餡の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大豆粉から製造する大豆餡の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餡は、澱粉含有量が高い塊茎、塊根、果菜、種実などを原料として用い、その原料を煮た後に練ったものであり、煮た原料の形を残した「粒餡」、煮た原料を潰した「つぶし餡」、煮た原料を潰して裏漉しした「漉し餡」に分類される。また、煮た原料を任意に潰して水晒ししたものを生餡、生餡に糖類を加えて加熱しながら混練したものを練餡(又は加糖餡)という。澱粉含有量が高い原料としては、一般的にアズキ、ササゲ、リョクトウ、インゲンマメ、テボウ、キントキマメ等の種実類が使用されるが、サツマイモ等の塊根類、カボチャ等の果菜類、クリ等の果実類が使用されることもある。このような餡は、饅頭などの和菓子やアンパンなどの菓子パンのフィリング材として使用されるほか、近年ではケーキやパイ、フラッペ、パフェなどのトッピング材としても使用され、広く人気のある食材である。特に漉し餡は、澱粉含有量が高いために可塑性のある物性をしており、しっとりとして滑らかで口溶けのよい食感を有しているため、スプレッド材としても人気がある。
一方、大豆は、糖質、脂質、タンパク質のバランスに優れた食品原料である。これまで大豆を用いた餡の製造が試みられてきたが、前記のような原料よりも糖質(澱粉)の含有量が低く、タンパク質含有量が高いため、餡を製造する際の加熱混練工程において強い粘りが生じることになり、小豆等の澱粉含量の高い原料を用いて製造した餡とは大きく物性の異なるもであった。また、大豆に含まれる脂質に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)が生じるため、敬遠される傾向にある。このような理由から、大豆を餡の原料に用いる場合には、小豆の一部を置き換えるなどして、大豆の物性及び嗜好性に及ぼす影響を出来る限り小さくするように工夫がなされてきた。
例えば、特許文献1には、餡の製造方法において、原料大豆として、種皮を含まない大豆と大豆種皮を、重量比1:0.07~0.22の割合となるように混合したものを用い、水に浸漬して膨潤させる工程、膨潤させた大豆を水煮する工程、水煮した大豆及び大豆種皮を磨砕する工程を含み、最後に砂糖を加えて加熱混合して大豆餡を製造する方法が開示されており、食感や外観が糊状ではなくしっとりしていて従来の小豆等を用いた餡と同様であるだけでなく、味がまろやかで甘味も適度であり、さらには大豆の風味も十分に感じられる大豆餡が得られることが記載されている。
特許文献2には、洗浄した原料大豆を、高温・加湿の熱風下にさらす加湿熱風加工工程と、この加湿熱風加工した大豆を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕した大豆を煮る煮熟工程と、を含むことを特徴とする大豆由来の生餡の製造方法が開示されており、粘度の低い、いわゆるさらっとしたペースト状の大豆の生餡が得られることが記載されている。そして、当該大豆の生餡に砂糖と塩を加えて練ることにより大豆の餡を完成させたことが記載されている。
特許文献3には、重曹を入れた水に大豆を浸漬する工程と、前記大豆を、重曹を入れた水とともに炊く本炊き工程と、前記大豆が炊き上がった後、煮汁を排出し、水洗いする工程と、前記水洗いした大豆を潰す工程とを含む大豆ペーストの製造方法が開示されており、粘度の低い、さらっとした大豆ペーストとしての大豆生餡が得られたことが記載されている。この大豆生餡を用いて(砂糖を加えて)練り餡を製造することができるとも記載されているが、その大豆練り餡についての評価はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-80678号公報
【特許文献2】特開2014-158431号公報
【特許文献3】特開2006-121920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第一の目的は、大豆に含まれる脂質に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がない大豆餡及びその新規な製造方法を提供することである。
また、本発明の更なる目的は、大豆に含まれる脂質に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がなく、かつ、しっとりとして滑らかで口溶けのよい食感を有する大豆餡及びその新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、大豆粉と糖類とを含むペーストを加熱し、餡練工程を行なわない方法により、上記課題を解決することをみいだした。以下の説明に拘束されるものではないが、本発明の方法により課題が解決しうる理由は以下のことが考えられる。小豆等と異なり、大豆は脂質を30質量%余り含有していることから、従来の加熱した小豆類に砂糖を加えて練る工程(餡練工程)を有する餡の製造方法では、油脂と空気(酸素)とが接触して、大豆に含まれる脂質が酸化され、これに起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)が生じると考えられる。本発明の方法により、このような餡練工程を行なわずとも食感のよい大豆餡を製造することができるため、大豆に含まれる脂質に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がない大豆餡を製造できたものと考えられる。また、本発明の方法により、従来の小豆餡の食感に近い、しっとりとして滑らかで口溶けのよい食感を有する大豆餡を製造することができることも見いだされた。
本発明は以下の態様を提供する。
〔1〕大豆粉と、糖類と、液体原料とを含むペーストを提供する工程1と、
前記ペーストを加熱する工程2と、
を含み、かつ餡練工程を含まない、大豆餡の製造方法。
〔2〕工程1におけるペーストに含まれる水分の量が、大豆粉100質量部に対して50~150質量部である、〔1〕記載の製造方法。
〔3〕工程1における糖類の量が、大豆粉100質量部に対して40~210質量部である、〔1〕又は〔2〕記載の大豆餡の製造方法。
〔4〕工程1が、ペーストを密封包装することをさらに含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の大豆餡の製造方法。
〔5〕工程1の大豆粉が、大豆の粉砕物であり、粉砕の前あるいは後に焙煎されている、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の大豆餡の製造方法。
〔6〕工程2の加熱が、ペースト中の大豆粉の澱粉をα化させる条件下で行なわれる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の大豆餡の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法により、大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がない大豆餡を製造することができる。従来の加熱した豆類に砂糖を加えて練る工程(餡練工程)を含む製造方法では、豆類に含まれる油脂と空気(酸素)とを接触させる機会になるため、大豆餡の場合、大豆に多く含まれる脂質の酸化に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)が生じると考えられる。餡練工程を含まずに大豆餡を製造することができる本発明の方法により、大豆に含まれる脂質に起因する大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がない大豆餡が製造できたものと考えられる。
さらに本発明の方法により、一般的な小豆から製造される餡が有するしっとりとして滑らかで口溶けのよい食感により近い食感を有する大豆餡を製造することができることも見いだされた。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(I)ペーストを提供する工程1
本発明の大豆餡の製造方法は、大豆粉と、糖類と、水分とを混合してペーストを提供する工程1を含む。
(1)大豆粉
大豆粉とは、マメ科ダイズ属に属するダイズ(大豆)の種実を粉砕して得られるものである。大豆は、その種皮の色によって区別されており、黄大豆、青大豆、黒大豆、赤大豆(紅大豆)、茶豆、鞍掛豆等が知られているが、本発明においては何れの大豆を用いてもよい。また、本発明の効果に影響の無い範囲において、大豆原料として、上記大豆に加えて脱脂加工大豆を用いてもよい(例えば大豆原料全量に対して10質量%以下の脱脂加工大豆を用いてもよい)。
大豆を粉砕する方法は特に制限されるものではなく、公知の方法であれば何れも適用でき、例えば、乾式粉砕、湿式粉砕、凍結粉砕等が挙げられる。粉砕に用いる大豆は、ダイズ種実をそのまま用いてもよいが、粉砕の前処理として脱皮処理により種皮を取り除いたものや、更に胚軸あるいは胚芽を取り除いたものであってもよい。
大豆特有の青臭みとエグ味を抑制するために、あるいは、大豆内に含まれているリポキシゲナーゼなどの酵素を一部失活させるために、粉砕の後処理として得られた大豆粉を低温で焙煎処理を行ってもよく、粉砕の前処理として大豆を焙煎処理してもよい。低温焙煎の温度は例えば50~80℃程度で行なわれる。温度が高くなると大豆粉の食味が落ちる傾向にある。
大豆粉の粒径は特に制限されるものではなく、本発明の大豆餡の製造方法によって得られる大豆餡に求められる嗜好性に応じて適宜調節すればよいが、例えば、200メッシュスルー(75μm以下)であり、280メッシュスルー(53μm以下)であることが好ましく、400メッシュスルー(35μm以下)であることがより好ましい。粒感のある食感を得るために挽割大豆や100メッシュオン(150μm以上)の粗粒大豆粉を任意に使用してもよい。この場合、大豆餡のしっとりとして滑らかで口溶けのよい食感を保つ観点から、挽割大豆及び/又は粗粒大豆粉の量は、大豆粉と挽割大豆及び/又は粗粒大豆粉との合計に対して5質量%以下であることが好ましい。
本発明において使用する大豆粉は、大豆餡を製造する際に適宜粉砕して調製してもよいが、市販されている大豆粉を用いてもよく、例えば、マルコメ株式会社、日本ガーリック株式会社、みたけ食品工業株式会社、株式会社ペリカン等から市販されているものを用いてもよい。
また、大豆を可食状態なるまで蒸煮し、乾燥の後に粉砕して得られる大豆粉を使用してもよい。
【0008】
(2)糖類
糖類としては、一般に小豆餡の製造に使用される糖類を使用することができ、例えば、グルコースやフルクトース等の単糖類;ショ糖(スクロース)やラクトース、麦芽糖(マルトース)等の二糖類;キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、マルチトール等の糖アルコール;澱粉を糖化及び酵素反応させた異性化糖など、食用に供される糖類であれば何れも使用することができる。ショ糖を用いる場合であれば、グラニュー糖や上白糖等の精製糖(分蜜糖)及び黒砂糖や三温糖、赤糖、メープルシュガー等の含蜜糖の何れであってもよい。糖類としてブドウ糖果糖液糖等の液糖を用いる場合には、液糖に含まれる水分は後述する水分の量に算入する。
【0009】
本発明の大豆餡の製造方法において、前記ペーストに含まれる糖類の量は、食感と風味に影響を与える。本発明の効果を奏する限り限定されるものではないが、大豆粉100質量部に対して、例えば40~210質量部であり、55~190質量部であってもよく、好ましくは58~185質量部であり、より好ましくは65~175質量部であり、更に好ましくは70~170質量部であり、なお好ましくは75~160質量部であり、より更に好ましくは90~140質量部であり、なお更に好ましくは100~130質量部であり、最も好ましくは110~130質量部である。この範囲内であれば、大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がなく、かつ小豆餡のようにしっとりとして滑らかで口溶けのよい食感を有する大豆餡を得ることができる。
【0010】
(3)液体原料
液体原料としては、水、好ましくは飲用水が挙げられるが、求める大豆餡の嗜好性に応じて、カツオ出汁、昆布出汁、豆乳等の煮汁;ぶどうジュース、みかんジュース等の搾り汁;牛乳、山羊乳等の畜乳などの一般に食品の製造に使用される液体原料であれば何れも使用することができる。ただし、このような液体原料を用いる場合には、その液体原料に含まれる水溶性成分及び水不溶性成分の質量を除き、後述する水分の量に算入する。
【0011】
(4)大豆粉と水分の量
本発明の大豆餡の製造方法において、前記ペーストに含まれる水分の量は本発明の効果を奏する限り限定されるものではないが、大豆粉100質量部に対して、例えば50~150質量部であり、65~130質量部であってもよく、好ましくは67~128質量部であり、より好ましくは70~125質量部であり、更に好ましくは75~120質量部であり、なお好ましくは80~113質量部であり、より更に好ましくは83~115質量部であり、なお更に好ましくは90~110質量部である。この範囲内であれば、粘りがなく、小豆餡のようにしっとりとして滑らかで口溶けのよい食感を有し、さらに大豆特有の大豆臭(青臭みとエグ味)がない大豆餡を得ることができる。
【0012】
(5)その他の成分
本発明において、前記成分以外に本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を使用することができる。大豆粉以外のそのような非水溶性成分としては、普通小麦、デュラム小麦、米、ライ麦、大麦、とうもろこし、そば等の穀物由来の穀粉;小豆、ささげ、緑豆、いんげん豆、手忙豆、金時豆等の種実類;落花生、マカダミアンナッツ等のナッツ類;馬鈴薯、里芋、キャッサバあるいは甘藷、山芋等の塊茎粉あるいは塊根粉;穀物、塊茎、塊根、樹幹等から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、及びそれらのワキシー澱粉並びにハイアミロース澱粉);前記澱粉をエーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理、熱処理、酵素処理等並びにそれらを組合せて処理を行った変性澱粉;小麦ふすま、米ぬか等の糠素材;セルロース、難消化性澱粉等の水不溶性食物繊維;大豆蛋白、小麦蛋白、えんどう豆蛋白等のタンパク質素材等が挙げられる。
【0013】
このような非水溶性成分を用いる場合、大豆粉と大豆粉以外の成分の合計に対する大豆粉の含有率は50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、これらの成分を含まず大豆粉からなることが最も好ましい。糖類以外の水溶性成分としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩;グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸;イノシン酸等の核酸;ポリデキストロース、大麦βグルカン、難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維;デキストリン、サイクロデキストリン等の澱粉分解物及びその誘導体;ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、イヌリン等の増粘多糖類;メチルセルロース類等のセルロース誘導体;卵白粉、脱脂粉乳、豆乳粉等の水溶性又は水分散性タンパク質素材;アスコルビン酸等のビタミン;乳酸、酢酸、コハク酸等の有機酸;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、カゼインナトリウム等の乳化剤等が挙げられる。また、マーガリン、バター、オリーブ油、ダイズ油等の油脂類;保存料;香料;色素;香辛料など、嗜好性に応じて任意に使用することができる。
【0014】
ペーストを得る方法は特に限定されるものではなく、使用する原料により適宜調整することができる。すべての原料をミキサーに投入して混合することにより得てもよく、あらかじめ糖類等の水溶性成分の全部又は一部を大豆粉と混合した後に水分を加えてペーストとしてもよく、あらかじめ糖類等の水溶性成分の全部又は一部を水分に溶解してから大豆粉と他の粉末原料とを加えてペーストとしてもよい。
混合の条件は、ペースト内にムラがなくなる程度であればよく、例えば、ミキサーなどを用いて、20~100rpm程度で撹拌することが好ましく、40~80rpmであることがより好ましい。このとき、大豆由来タンパク質の変性を伴う条件での加熱は行なわない。室温で行なうかあるいは加熱をせずに行なうことが好ましい。
【0015】
(6)その他の工程
上述したペーストを提供する工程1は、ペーストを加熱する工程2の前に、ペーストを密封包装することをさらに含んでいてもよい。本明細書では、ペーストを密封包袋することをさらに含む工程1を工程1’と呼ぶ場合がある。
ペーストを密封する容器は特に限定されず、ペーストと空気との接触を遮断できるものであれば何れも適用することができる。そのような容器としては、樹脂製袋や樹脂製容器、ガラス製の容器、金属製の容器等が挙げられる。樹脂製袋を用いる場合であれば、脱気包装ないしは真空包装することができるよう、熱溶着が容易な樹脂製包装資材を積層したものを用いることが好ましい。樹脂製袋はガスバリア性を有していることが好ましい。各種の容器を用いる場合であれば、ペーストを充填した後、窒素等の不活性ガスを用いて容器内の空気と置換し、蓋を装着して密封することが好ましく、蓋を装着する前に樹脂製フィルムを熱溶着してもよい。
このようにペーストと空気(酸素)とが接触しないように密封包装することを含む工程1’により、大豆油脂に由来する特有の青臭みとエグ味の発生をさらに抑制することができるため好ましい。
【0016】
(II)ペーストを加熱する工程2
本発明の大豆餡の製造方法は、工程1あるいは工程1’で提供された前記ペーストを加熱する工程2を含む。加熱の条件は、最終的に可食可能な餡を製造できるような条件であればいずれであってもよい。本発明において「可食可能な餡」とは、少なくとも大豆由来の澱粉がα化されており、さらに大豆由来の蛋白質が熱変性した状態をいう。
より具体的には、以下のとおりである。
(1)工程1あるいは工程1’で提供された前記ペースト中の大豆粉が可食可能な状態(可食状態ともいう)にない場合には、可食化(少なくとも澱粉をα化し、大豆由来の蛋白質を熱変性し、食中毒菌等の細菌を死滅させる)するための条件で加熱することが好ましい。そのような条件としては、大豆ペーストの中心温度(最も熱が伝わり難い領域)が75℃以上で10分間以上加熱される条件であればよく、例えば85~100℃の湯中で15~90分間加熱すること、121℃で5~10分間程度以上又はそれと同等の加熱条件でレトルト処理すること、あるいは、97~106℃で5~20分間程度以上又はそれと同等の加熱条件で煮沸処理することなどが挙げられる。
(2)工程1あるいは工程1’で提供された前記ペースト中の大豆粉が可食状態にある場合には、ペーストを食品衛生上の殺菌を満たす条件で加熱すれば特に制限はない。例えば、容器詰め等の密封状態であればレトルト処理(121℃以上で4分間以上又はそれと同等の加熱)又は湯殺菌処理(85~100℃で40~90分間の加熱)、非密封状態であれば煮沸処理(97~106℃で2分間以上またはそれと同等以上の加熱)であればよい。
ペーストを加熱する工程2では、工程1あるいは工程1’で提供されたペーストをそのまま加熱する工程であり、提供されたペーストは混合や撹拌を行なわないことが好ましい。工程2は「餡練工程」ではない。
【0017】
(III)餡練工程
本発明の大豆餡の製造方法は、いわゆる餡練工程を必要とせず、含まない。通例、小豆餡等であれば、生餡を得た後に糖類を加えて餡練することにより練餡とされる。ところが、小豆等とは異なり、大豆は脂質を30質量%余り含有している。大豆餡において、餡練工程は、脂質が空気(酸素)と接触し、また、加熱昇温過程における低温時(概ね50℃以下)に完全失活されていないリポキシゲナーゼの作用を受けて酸化ないしは分解されるため、青臭みやエグ味が生じる原因となる。それ故、餡練工程を含まない本発明の大豆餡の製造法は従来にない有利な効果を有する。
【実施例0018】
<製造例1 大豆餡の製造>
下記配合表の原料を用いて次の工程で大豆餡を製造した。
(1) 水に加工黒糖を加え、均質になるまで混合して加工黒糖溶液を得た。
(2) 大豆粉と上白糖と食塩とをミキサー(株式会社西田、NU-3)に投入し、ムラがなくなるよう60rpmで5分間粉体混合した。
(3) ミキサーに加工黒糖溶液を全量投入し、適宜掻き落としながら60rpmで20分間混合し、ペーストを得た。
(4) ペースト1kgを耐熱性樹脂製包装袋に充填し、真空シーラーを用いて真空包装した。
(5) 包装袋入りペーストを95℃の湯浴殺菌装置に投入し、潜行80分間加熱処理した。
(6) 室温で放冷し、包装袋入り大豆餡を得た。
<比較製造例1>
下記配合表の原料を用いて次の工程で大豆餡を製造した。
(1) ミキサーに水と大豆粉とを全量投入し、ムラがなくなるよう60rpmで20分間混合し、ペーストを得た。
(2) ペースト1kgを耐熱性樹脂製包装袋に充填し、真空シーラーを用いて真空包装した。
(3) 包装袋入りペーストを95℃の湯浴殺菌装置に投入し、潜行80分間加熱処理した。
(4) 室温で放冷した後、包装袋を開封して、ボウルに包袋袋からの大豆ペーストと、上白糖、加工黒糖及び食塩とを投入して強火(95℃)で加熱しながら均質になるまで練り上げた。
【0019】
配合表

*大豆粉は、マルコメ株式会社の「大豆粉」である。当該「大豆粉」は低温焙煎された丸大豆を粉砕したものである。粒径は400メッシュスルー(35μm以下)である。
*上白糖は、三井製糖株式会社の「上白糖」である。
*加工黒糖は、北部製糖株式会社の「沖縄特産加工黒糖みやらび」である。
【0020】
<評価例1 大豆餡の官能評価>
得られた包装袋入り大豆餡を開封し、10名の熟練パネラーにより下記評価基準表1に従って官能評価を行い、平均点と標準偏差(SD)を求めた。小豆餡の食感を5点とした。食感が3点以上であれば製品として特によい範囲である。
【0021】
評価基準表1
【0022】
<試験例1 水分の量の検討>
表1記載の水分量を使用した以外は製造例1に従って大豆餡を製造し(実施例1~7)、評価例1に従って評価した。
また、比較製造例1に従って大豆餡を製造し(比較例1)、評価例1に従って評価した。
結果を表1に示す。
水60質量部を用いた実施例1では硬めの大豆餡になり、もたつきが感じられ、口溶けがやや劣るものであった。実施例2~6では、しっとりと滑らかな大豆餡が得られ、口溶けも良好であり、100質量部の水を用いた実施例4において最も良好な食感であった。実施例7では、水の量が若干多すぎたためにやや緩い大豆餡になり、べたついた食感であった。風味については、実施例1~7の何れも大豆の青臭みとエグ味がなく、良好であった。一方、比較例1では、練り上げる過程で大豆餡に粘りが生じ、非常に重くもたつき口溶けが悪くなり、さらに大豆特有の青臭みとエグ味が感じられた。
【0023】
表1
【0024】
<試験例2 糖類の検討>
表2記載の糖類を使用した以外は製造例1に従って大豆餡を製造し、評価例1に従って評価した。結果を表2に示す。
糖類50質量部用いた実施例8では、ややもたつきがあり口溶けもやや悪い大豆餡であったが、実施例9、10、4にかけて糖類の使用量の増加に依存してしっとりと滑らかで口溶けの良い大豆餡になった。更に実施例11~13にかけて糖類の使用量を増加させると次第に大豆餡が緩くなり、実施例13では食感にべたつきが感じられるものであった。大豆餡の風味については、糖類の使用量の増加に依存する傾向は見られたが、実施例8~13の何れも青臭みとエグ味がなく、大豆特有の青臭みとエグ味が感じられた比較例1に対し非常に優れていた。
【0025】
表2
【0026】
<試験例3 糖類の添加時期の検討>
製造例1の工程(2)で加えた上白糖と食塩とを工程(1)で加えた以外は製造例1に従って大豆餡を製造し、評価例1に従って評価した(実施例14)。なお、ペースト作成後に糖類を加える場合には、包装袋を開封して、ボウルに大豆ペーストをいれ、上白糖及び食塩を投入して均質になるまで加熱しながら練り上げた(比較製造例1、工程(4))。結果を表3に示す。
工程(1)で上白糖と食塩とを水に溶解させて添加した実施例14では、実施例4と同様に食感も風味も良好であった。それに対して、比較例1では、練り上げる過程で大豆餡に粘りが生じ、非常に重くもたつき口溶けの悪いものであり、大豆特有の青臭みとエグ味が感じられた。
【0027】
表3
【0028】
<試験例4 包装の検討>
表4記載の包装資材を用いた以外は製造例1に従って大豆餡を製造し、評価例1に従って評価した。実施例15と16では、開口部内径が10cmの500ml容広口瓶に400mlの大豆ペーストを充填し、シールリングを装着した蓋を用いて密栓した。なお、実施例15では内部の空気を窒素ガスに置換した後に密栓した。結果を表4に示す。
窒素ガスで置換した実施例15では、実施例4と同様に食感も風味も良好であった。ガス置換しなかった実施例16では、食感は実施例4と同等であり、空気(酸素)が残存していたためか実施例4と比べるとわずかに青臭みとエグ味が感じられたが、十分に許容し得るものであった。
【0029】
表4
【0030】
<試験例5 加熱条件の検討>
製造例1工程(5)の加熱条件を表5記載の加熱条件とした以外は製造例1に従って大豆餡を製造し、評価例1に従って評価した。結果を表5に示す。
85℃で80分間加熱した実施例17では実施例4よりもやや緩くなったが、クリーミさが付与された滑らかさで口溶けの良い食感であった。95℃で20分間加熱した実施例18はわずかに実施例4よりも緩く感じられたがほぼ同等であった。また、いずれの実施例においても大豆の青臭みとエグ味がなく良好な風味であった。
【0031】
表5