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特開2023-111250ポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111250
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/03 20060101AFI20230803BHJP
   C07C 69/82 20060101ALI20230803BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20230803BHJP
   C07C 27/02 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C07C67/03
C07C69/82 A
C07C31/20 B
C07C27/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013015
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】岡島 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】森 健登
(72)【発明者】
【氏名】川口 邦明
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 裕明
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC48
4H006BB14
4H006BC10
4H006BC11
4H006BN10
4H006FE11
4H006FG28
4H006KA03
(57)【要約】
【課題】特に1,4-ブタンジオールを十分な回収率で、かつ、短時間で回収することができるポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法を提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート樹脂とメタノールとを混合するステップAと、メタノールを超臨界状態とし、ポリブチレンテレフタレート樹脂と反応させて、テレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールとに解重合するステップBと、を含み、ステップAにおいて、ポリブチレンテレフタレート樹脂中のブチレンテレフタレート単位1モルに対するメタノールのモル比が100~500となるように混合し、ステップBにおいて、反応温度を245~270℃とする、ポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂とメタノールとを混合するステップAと、
前記メタノールを超臨界状態とし、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂と反応させて、テレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールとに解重合するステップBと、を含み、
前記ステップAにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂中のブチレンテレフタレート単位1モルに対する前記メタノールのモル比が100~500となるように混合し、
前記ステップBにおいて、反応温度を245~270℃とする、ポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法。
【請求項2】
前記ステップBにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂と超臨界状態の前記メタノールとの反応時間が30分以下であり、かつ、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の分解率が90%以上である、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界状態のメタノールを用いる、ポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械的強度、電気的性質、その他、各種特性に優れており自動車、電気・電子機器等をはじめとして広範な用途に使用されている。その一方で、地球環境保護のための資源の有効利用という点から、ポリエステル樹脂の有効なリサイクル化が求められている。リサイクル方法としては、例えば、ケミカルリサイクル方法、マテリアルリサイクル方法及びサーマルリサイクル方法などが知られている。
【0003】
特許文献1においては、芳香族ポリエステル樹脂から、そのモノマーである芳香族ジカルボン酸及びジオールを、ケミカルリサイクル方法により高収率で回収する方法が提案されている。具体的には、芳香族ポリエステル樹脂とメタノールとを反応容器に充填し、加熱炉において加熱してメタノールを超臨界条件とすることにより、芳香族二価カルボン酸ジメチルと2価アルコールとに分解(解重合)して回収することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-249597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された反応条件でポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合を実施した場合、モノマー、特に1,4-ブタンジオールを十分な回収率で回収することができないことが判明した。すなわち、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、芳香族ポリエステル樹脂でありながらも、特許文献1に記載の方法では、特に1,4-ブタンジオールを十分な回収率で回収することができなかった。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、特に1,4-ブタンジオールを十分な回収率で、かつ、短時間で回収することができるポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対する超臨界状態のメタノールの濃度及び反応条件を検討し、特に1,4-ブタンジオールについて良好な回収率を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂とメタノールとを混合するステップAと、
前記メタノールを超臨界状態とし、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂と反応させて、テレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールとに解重合するステップBと、を含み、
前記ステップAにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂中のブチレンテレフタレート単位1モルに対する前記メタノールのモル比が100~500となるように混合し、
前記ステップBにおいて、反応温度を245~270℃とする、ポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法。
【0009】
(2)前記ステップBにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂と超臨界状態の前記メタノールとの反応時間が30分以下であり、かつ、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の分解率が90%以上である、前記(1)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特に1,4-ブタンジオールを十分な回収率で、かつ、短時間で回収することができるポリブチレンテレフタレート樹脂の解重合方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)の解重合方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とメタノールとを混合するステップAと、メタノールを超臨界状態とし、ポリブチレンテレフタレート樹脂と反応させて、テレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールとに解重合するステップBと、を含む。そして、ステップAにおいて、ポリブチレンテレフタレート樹脂中のブチレンテレフタレート単位1モルに対するメタノールのモル比が100~500となるように混合する。また、ステップBにおいて、反応温度を245~270℃とする。
【0012】
本実施形態のPBT樹脂の解重合方法においては、ステップAにおいて、ポリブチレンテレフタレート樹脂中のブチレンテレフタレート単位1モルに対するメタノールのモル比が100~500となるように混合する。併せて、ステップBにおいて、反応温度を245~270℃とする。そのようなステップA及びステップBによって、特に1,4-ブタンジオールを十分な回収率で回収することができる。
以下、本実施形態のPBT樹脂の解重合方法の各ステップについて詳述する。
【0013】
[ステップA]
ステップAにおいては、PBT樹脂とメタノールとを混合する。本実施形態において、解重合の対象となるPBT樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。
PBT樹脂としては、ブチレンテレフタレートを主成分として含むホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又はコポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体、又はポリブチレンテレフタレートコポリエステル、又は変性PBT樹脂)などが挙げられる。
また、PBT樹脂は公知の各種の添加物が配合されていてもよい。添加物の例を示せば、各種の安定剤、滑剤、核剤、界面活性剤、着色剤、高分子改良剤、異種ポリマー、及び、無機、有機、などの繊維状、粉粒状、板状の充填剤などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合することができる。
本実施形態のPBT樹脂の解重合方法においては、当該PBT樹脂を、テレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールとに解重合する。
【0014】
ステップAにおいて、メタノールと混合する、解重合の対象となるPBT樹脂としては、使用済みのPBT樹脂製品、未使用のPBT樹脂ペレット、PBT樹脂ペレット及びPBT樹脂製品の製造過程で発生する樹脂廃棄物等が挙げられる。そして、そのようなPBT樹脂は、メタノールとの混合に際し、必要に応じて切断又は粉砕することが好ましい。
【0015】
ステップAにおいて、PBT樹脂とメタノールとを混合するに際し、PBT樹脂中のブチレンテレフタレート単位1モルに対するメタノールのモル比が100~500となるように混合する。当該モル比が100未満では、モノマーの回収率を高めることができず、また500超としてもそれ以上の効果が見込めず余剰量となる。当該モル比は、100~350が好ましく、120~250がより好ましい。PBT樹脂中のブチレンテレフタレート単位は、換言すると、PBT樹脂における繰り返し単位1つ分を意味する。
【0016】
ステップAにおける、PBT樹脂とメタノールとの混合に当たり、その混合方法は何ら限定されない。例えば、混合用の容器内にPBT樹脂を充填した後にメタノールを加え混合する方法、混合用の容器内にメタノールを充填した後にPBT樹脂を加え混合する方法、連続的に配管内で合流させて後に容器内で混合する方法等が挙げられる。また、上記の各成分の混合において、混合温度、混合時間は特に限定されない。
【0017】
以上のステップAの終了後、すなわちPBT樹脂とメタノールとを混合後、ステップBに移行する。ステップAとステップBとは連続的に実行してもよいし、ステップAの終了後、ステップBを開始するまでの間に任意の時間があってもよい。また、ステップAにおいて用いる混合用の容器と、ステップBにおいて用いる反応用の容器とは同じとしてもよいし、異ならせてもよい。ただ、ステップAを終えた後、そのままの状態でステップBに移行できる観点から、ステップA及びステップBにおいて用いる容器は同じとすることが好ましい。
【0018】
[ステップB]
ステップBにおいては、メタノールを超臨界状態とし、PBT樹脂と反応させて、テレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールとに解重合する。
ここで、メタノールは、温度:239℃以上、かつ、圧力:8.1MPa以上とすることで超臨界状態となる。そして、ステップBにおいては、温度を245~270℃に設定し、超臨界状態のメタノールをPBT樹脂と反応させる。当該温度が245℃未満であっても、270℃を超えても、モノマーの回収率が不十分となる。ステップBにおける反応温度は、250~270℃が好ましく、250~265℃がより好ましい。なお、メタノールが超臨界状態となれば圧力は特に限定はなく、8.1MPa以上で適宜設定することができるが、8.5~20MPaとすることが好ましい。
【0019】
ステップBにおいて、メタノールが超臨界状態となるように反応温度及び圧力を設定するため、高温高圧に対する耐久性を有する反応容器が用いられ、反応容器の形状や容積は任意である。また、温度を上記範囲内とする加熱源としては、温度を制御できるものが好ましく、液状で使用する熱媒、ソルトバス、流動床サンドバス、メタルバス、ヒーター、オーブン、マイクロ波加熱などが挙げられる。
【0020】
本実施形態のPBT樹脂の解重合方法においては、PBT樹脂と超臨界状態のメタノールとの反応時間を30分以下とし、かつ、PBT樹脂の分解率を90%以上とすることができる。すなわち、反応時間が30分以下という短時間で、かつ、十分な回収率で解重合を行うことができる。さらには、PBT樹脂と超臨界状態のメタノールとの反応時間を20分以下としても、PBT樹脂の分解率を90%以上とすることができる。なお、反応時間の下限は、PBT樹脂の分解率が90%以上となる時間であればよく任意である。また、当該反応時間とは、メタノールが超臨界状態に達してからの経過時間である。
【0021】
ステップBにおける反応は攪拌下で行ってもよいし、攪拌せずに行ってもよい。
【0022】
本実施形態にPBT樹脂の解重合方法において、PBT樹脂の解重合は、バッチ式としてもよいし、連続式としてもよい。
【0023】
さらには、本実施形態のPBT樹脂の解重合方法においては、解重合を促進させるため、アルカリ性添加剤の存在下で解重合を実施することも可能である。アルカリ性添加剤の例としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、及び、カルボン酸塩などの化合物、アミン類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【実施例0024】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1~5、比較例1~15]
解重合の対象となるPBT樹脂として、ポリプラスチックス(株)製のPBT樹脂(ジュラネックス(登録商標)PBT 300FP)を準備し、以下の操作を行った。
各実施例・比較例において、表1~3に示す割合でPBT樹脂とメタノールとを混合し、SUS316製のチューブ型反応容器(容積:8.8cm)内に注入した。次いで、チューブ型反応容器を撹拌機及び温度計を付したソルトバス(KNO、NaNO)中に投入して、表1~3に示す温度で加熱し、表1~3に示す反応時間経過後、急冷して反応を停止した。反応停止後、分解物をクロロホルムで回収し、吸引ろ過を行い、ろ液と残渣に分離した。続いて、分解物のろ液についてGC/FID分析によりテレフタル酸ジメチル及び1,4-ブタンジオールの量を測定し各モノマー回収率を計算した。また、分解物のろ過残渣を乾燥後、質量測定を行い、PBT樹脂の分解率を算出した。各モノマー回収率、PBTの分解率の算出は、以下の計算式に基づく。
【0026】
【数1】
【0027】
【数2】
【0028】
【数3】
【0029】
なお、PBT樹脂中のブチレンテレフタレート単位数は以下の式により求めることができる。
【0030】
【数4】
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
表1~3より、実施例1~5においては、いずれも、テレフタル酸ジメチルの回収率も、1,4-ブタンジオールの回収率も、全比較例よりも高いことが分かる。特に、1,4-ブタンジオールも十分な回収率で回収されている。しかも、実施例1~5のいずれも、反応時間が30分以内という短時間でPBT樹脂の分解率が90%以上であり、PBT樹脂の解重合を短時間で行うことが可能であることが分かる。すなわち、本実施形態のPBT樹脂の解重合方法によれば、特に1,4-ブタンジオールを十分な回収率で、かつ、短時間で回収可能であることが分かる。