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特開2023-111271気体検出装置、気体検出方法及び気体検出プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111271
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】気体検出装置、気体検出方法及び気体検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G01N27/04 E
G01N27/04 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013047
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】春本 高志
(72)【発明者】
【氏名】史 蹟
(72)【発明者】
【氏名】中村 吉男
(72)【発明者】
【氏名】藤木 弘之
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AE19
2G060AF07
2G060AG03
2G060BB02
2G060HA06
2G060HC02
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】気体の有無及び濃度を高精度で推定可能な気体検出装置を提供する。
【解決手段】気体検出装置1は、温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体10と、導電体10に電気を供給する電源11と、導電体10から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサ12と、導電体10の周囲に存在する所定の気体の濃度を推定する推定装置20と、を有し、推定装置20は、導電体10に供給される電気の量を徐々に変化させ、導電体10に供給される電気の量を変化させる間に、電気センサ12によって検出された複数の物理量を取得し、導電体10に供給される電気の量、及び取得した複数の物理量に基づいて、導電体10の周囲に存在する気体の濃度を推定し、推定した気体の濃度を示す濃度信号を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体と、
前記導電体に電気を供給する電源と、
前記導電体の電気特性を示す物理量を検出する電気センサと、
前記導電体の周囲に存在する所定の気体の濃度を推定する推定装置と、を有し、
前記推定装置は、
前記導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、
前記導電体に供給される電気の量を変化させる間に、前記電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、
前記導電体に供給される電気の量、及び取得した前記複数の物理量に基づいて、前記導電体の周囲に存在する前記気体の濃度を推定し、
推定した前記気体の濃度を示す濃度信号を出力する、
ことを特徴とする気体検出装置。
【請求項2】
前記電源は、前記導電体に電流を供給する電流源であり、
前記電気センサは、前記導電体から出力される電圧を検出する電圧計であり、
前記推定装置は、
前記導電体に供給される電流量を変化させる間に、前記電圧計によって検出された複数の電圧値を取得し、
前記導電体に供給される電流量、及び取得した前記複数の電圧値から演算される抵抗値及び電力に基づいて、前記導電体の周囲に存在する前記気体の量を推定する、
請求項1に記載の気体検出装置。
【請求項3】
前記電源は、前記導電体に電圧を印加する電圧源であり、
前記電気センサは、前記導電体を流れる電流を検出する電流計であり、
前記推定装置は、
前記導電体に供給される電圧値を変化させる間に、前記電流計によって検出された複数の電流量を取得し、
前記導電体に供給される電圧値、及び取得した前記複数の電流量から演算される抵抗値及び電力に基づいて、前記導電体の周囲に存在する前記気体の量を推定する、
請求項1に記載の気体検出装置。
【請求項4】
前記導電体は、大気中に配置され、
前記気体は、水素である、請求項1~3の何れか一項に記載の気体検出装置。
【請求項5】
前記推定装置は、第1の量から前記第1の量よりも高い第2の量に前記導電体に供給される電気の量を徐々に増加させる供給処理を繰り返す、請求項1~4の何れか一項に記載の気体検出装置。
【請求項6】
前記推定装置は、
前記導電体に供給される電気の量、及び取得した前記複数の電気特性を示す物理量から、取得した前記複数の物理量が前記導電体から出力されるときに、前記導電体に投入された電力を演算し、
前記導電体に供給される電気の量、取得した前記複数の物理量から、取得した前記複数の物理量が前記導電体から出力されるときの前記導電体の抵抗値を演算し、
演算された前記電力及び前記抵抗値から、前記電力と前記抵抗値との相関関係を示す相関係数を演算し、
前記相関係数に基づいて、前記導電体の周囲に存在する前記気体の量を推定する、
請求項5に記載の気体検出装置。
【請求項7】
前記相関係数は、演算された前記電力の変化量と演算された前記抵抗値の変化量との間の比率である、請求項6に記載の気体検出装置。
【請求項8】
前記供給処理において、前記推定装置は、前記導電体に供給される電気の量を前記第1の量から前記第2の量に増加させた後に、前記導電体に供給される電気の量を前記第2の量から前記第1の量に徐々に減少させる、請求項6に記載の気体検出装置。
【請求項9】
前記推定装置は、演算された前記電力を第1軸とし、演算された前記抵抗値を第2軸とする直交座標系において、取得した前記複数の電圧値のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積を前記相関係数として演算する、請求項8に記載の気体検出装置。
【請求項10】
前記推定装置は、前記第2の量より前記第1の量に近い電気の量を供給するときに取得した物理量に基づいて、前記相関係数を補正する、請求項6~9の何れか一項に記載の気体検出装置。
【請求項11】
前記推定装置は、最初に取得した物理量に基づいて、前記相関係数を補正する、請求項10に記載の気体検出装置。
【請求項12】
前記推定装置は、演算された前記電力及び前記抵抗値から、前記導電体に電気が供給されないときの前記抵抗値を推定し、
推定された前記抵抗値と基準抵抗値との差が所定のしきい値差以上であるか否かを判定し、
推定された前記抵抗値と基準抵抗値との差が所定のしきい値差以上であると判定したときに、前記導電体が劣化したことを示す警報信号を出力する、請求項6~11の何れか一項に記載の気体検出装置。
【請求項13】
温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、
前記導電体に供給される電気の量を変化させる間に、前記導電体から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、
前記導電体に供給される電気の量、及び取得した前記複数の物理量に基づいて、前記導電体の周囲に存在する所定の気体の濃度を推定し、
推定した前記気体の濃度を示す濃度信号を出力する、
ことを含むことを特徴とする気体検出方法。
【請求項14】
温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、
前記導電体に供給される電気の量を変化させる間に、前記導電体から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、
前記導電体に供給される電気の量、及び取得した前記複数の物理量に基づいて、前記導電体の周囲に存在する所定の気体の濃度を推定し、
推定した前記気体の濃度を示す濃度信号を出力する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする気体検出プログラム。
【請求項15】
温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体と、
前記導電体に電気を供給する電源と、
前記導電体から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサと、
前記導電体の周囲に所定の気体が存在か否かを判定する判定装置と、を有し、
前記判定装置は、
前記導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、
前記導電体に供給される電気の量を変化させる間に、前記電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、
前記導電体に供給される電気の量、及び取得した前記複数の物理量に基づいて、前記導電体の周囲に前記気体が存在するか否かを判定し、
前記導電体の周囲に前記気体が存在すると判定したときに、前記気体を検出したことを示す検出信号を出力する、
ことを特徴とする気体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体検出装置、気体検出方法及び気体検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
微小電子機械システム(Micro Electro Mechanical Systems、MEMS)を利用して形成され、水素等の所定の気体を検出する気体センサが知られている(例えば、非特許文献1~3を参照)。非特許文献1には、MEMSを利用して形成された気体センサによって消費電力を抑制しながら気体を高感度で検出する技術が記載されている。また、非特許文献2には、複数の元素を含有する気体を、定電力、定抵抗及び定エネルギー状態で気体センサによって測定することで、気体に含有される元素の含有率を推定する技術が記載される。さらに、非特許文献3には、-15℃から84℃の範囲において湿度が高い雰囲気中で、気体センサによって0%~4%の範囲で雰囲気中に含有される水素を検出する技術が記載される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Transient thermal response of micro-thermal conductivity detector (μTCD) for the identification of gas mixtures: An ultra-fast and low power method, Allireza Mahodafar et al., Microsystems &Nanoengineering 1 (2015) 15025
【非特許文献2】Investigating time-resolved response of micro thermal conductivitysensor under various modes of operation, Daniel Struka et al., Sensors and Actuators B 254 (2018) 771-777
【非特許文献3】MEMS-based thermal conductivity sensor for hydrogen gas detectionin automotive applications, Dominik Berndt et al., Sensors and Actuators A 305 (2020) 111670
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1~3に記載される技術では、気体センサにパルス電流を供給することによる気体センサの抵抗値の変化に基づいて水素を検出する。しかしながら、気体センサにパルス電流を供給するとき、気体センサに供給される電流量は、最小値及び最大値の2点のみであり、供給されるパルス電流から演算される気体センサの抵抗値を示す信号は、センサ周辺の環境に影響され、SN比が低くなり、気体の有無を誤判定するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するものであり、気体の有無及び濃度を高精度で推定可能な気体検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る気体検出装置は、温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体と、導電体に電気を供給する電源と、導電体から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサと、導電体の周囲に存在する所定の気体の濃度を推定する推定装置と、を有し、推定装置は、導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、導電体に供給される電気の量を変化させる間に、電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、導電体に供給される電気の量、及び取得した複数の物理量に基づいて、導電体の周囲に存在する気体の濃度を推定し、推定した気体の濃度を示す濃度信号を出力する。
【0007】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、電源は、導電体に電流を供給する電流源であり、電気センサは、導電体から出力される電圧を検出する電圧計であり、推定装置は、導電体に供給される電流量を変化させる間に、電圧計によって検出された複数の電圧値を取得し、導電体に供給される電流量、及び取得した複数の電圧値から演算される抵抗値及び電力に基づいて、導電体の周囲に存在する気体の量を推定することが好ましい。
【0008】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、電源は、導電体に電圧を印加する電圧源であり、電気センサは、導電体を流れる電流を検出する電流計であり、推定装置は、導電体に供給される電圧値を変化させる間に、電流計によって検出された複数の電流量を取得し、導電体に供給される電圧値、及び取得した複数の電流量から演算される抵抗値及び電力に基づいて、導電体の周囲に存在する気体の量を推定することが好ましい。
【0009】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、導電体は、大気中に配置され、気体は、水素であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、推定装置は、第1の量から第1の量よりも高い第2の量に導電体に供給される電気の量を徐々に増加させる供給処理を繰り返すことが好ましい。
【0011】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、推定装置は、導電体に供給される電気の量、及び取得した複数の物理量から、取得した複数の物理量が導電体から出力されるときに、導電体に投入された電力を演算し、導電体に供給される電気の量、取得した複数の物理量から、取得した複数の物理量が導電体から出力されるときの導電体の抵抗値を演算し、演算された電力及び抵抗値から、電力と抵抗値との相関関係を示す相関係数を演算し、相関係数に基づいて、導電体の周囲に存在する気体の濃度を推定することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、相関係数は、演算された電力の変化量と演算された抵抗値の変化量との間の比率であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、供給処理において、推定装置は、導電体に供給される電気の量を第1の量から第2の量に増加させた後に、導電体に供給される電気の量を第2の量から第1の量に徐々に減少させることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、推定装置は、演算された電力を第1軸とし、演算された抵抗値を第2軸とする直交座標系において、取得した複数の物理量のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積を相関係数として演算することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、推定装置は、第2の量より第1の量に近い電気の量を供給するときに取得した物理量に基づいて、相関係数を補正することが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、推定装置は、最初に取得した物理量に基づいて、相関係数を補正することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明に係る気体検出装置では、推定装置は、演算された電力及び抵抗値から、導電体に電気が供給されないときの抵抗値を推定し、推定された抵抗値と基準抵抗値との差が所定のしきい値差以上であるか否かを判定し、推定された抵抗値と基準抵抗値との差が所定のしきい値差以上であると判定したときに、導電体が劣化したことを示す警報信号を出力することが好ましい。
【0018】
本発明に係る気体検出方法は、温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、導電体に供給される電気の量を変化させる間に、導電体から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、導電体に供給される電気の量、及び取得した複数の物理量に基づいて、導電体の周囲に存在する気体の濃度を推定し、推定した気体の濃度を示す濃度信号を出力する。
【0019】
本発明に係る気体検出プログラムは、温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、導電体に供給される電気の量を変化させる間に、導電体から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、導電体に供給される電気の量、及び取得した複数の物理量に基づいて、導電体の周囲に存在する気体の濃度を推定し、推定した気体の濃度を示す濃度信号を出力する、処理をコンピュータに実行させる。
【0020】
また、発明に係る気体検出装置は、温度の変化に応じて抵抗値が変化する導電体と、導電体に電気を供給する電源と、導電体から出力される電気特性を示す物理量を検出する電気センサと、導電体の周囲に所定の気体が存在か否かを判定する判定装置と、を有し、判定装置は、導電体に供給される電気の量を徐々に変化させ、導電体に供給される電気の量を変化させる間に、電気センサによって検出された複数の物理量を取得し、導電体に供給される電気の量、及び取得した複数の物理量に基づいて、導電体の周囲に気体が存在するか否かを判定し、導電体の周囲に気体が存在すると判定したときに、気体を検出したことを示す検出信号を出力する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る気体検出装置は、気体の有無及び濃度を高精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る水素検出装置の概要を説明するための図であり、(a)は実施形態に係る水素検出装置の水素センサに供給される電流量を示し、(b)は(a)に示す電流量が水素センサに供給されることに応じて水素センサから出力される電圧値を示し、(c)は水素センサに供給される電流量と水素センサから出力される電圧値との相関関係を示し、(d)は水素センサに投入される電力と水素センサの抵抗値との間の相関関係を示す。
図2】第1実施形態に係る水素検出装置を示す図である。
図3図2に示す電流遷移情報を示す図である。
図4図2に示す推定装置により実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。
図5】第2実施形態に係る水素検出装置を示す図である。
図6図5に示す抵抗補正テーブルを示す図である。
図7図5に示す推定装置により実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。
図8】第3実施形態に係る水素検出装置を示す図である。
図9図8に示す推定装置により実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。
図10図9に示すS312の抵抗値推定処理の概要を説明するための図である。
図11】第1変形例に係る水素検出装置を示す図である。
図12図11に示す推定装置により実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。
図13】第2変形例に係る水素検出装置を示す図である。
図14図13に示す判定装置により実行される判定処理の第1態様に係るフローチャートである。
図15】(a)は実施形態に係るスウィープ期間の第1変形例を示す図であり、(b)は実施形態に係るスウィープ期間の第2変形例を示す図であり、(c)は実施形態に係るスウィープ期間の第3変形例を示す図であり、(d)は実施形態に係るスウィープ期間の第4変形例を示す図である。
図16】(a)は図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間に対応する増加期間、減少期間及び休止期間に相当する電流量を白金に供給したときのシミュレーション結果及び実測値を示す図であり、(b)は白金に供給される電流量を示す図である。
図17】実施例2において使用された実験装置の外観を示す図である。
図18】(a)は混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その1)であり、(b)は混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その2)であり、(c)は混合ガスに含有される水素の含有率と面積APRとの関係を示す図(その1)であり、(d)は混合ガスに含有される水素の含有率と面積APRとの関係を示す図(その2)である。
図19】(a)は混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その3)であり、(b)は混合ガスに含有される水素の含有率と面積APRとの関係を示す図(その3)である。
図20】(a)は水素濃度を変化させたときの比率(dR/dP)の変化を示す図であり、(b)は水素濃度を変化させたときの面積APRの変化を示す図であり、(c)は水素濃度を変化させたときの混合ガスの熱抵抗率の変化を示す図である。
図21】混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その4)であり、(a)は比率(dR/dP)の経時変化を示し、(b)は導入水素量の経時変化を示す。
図22】(a)は実験装置が配置される雰囲気の温度の経時変化を示す図であり、(b)は増加期間において10mAの電流量が供給されたときの白金の抵抗値の経時変化を示す図である。
図23】(a)は補正前の比率(dR/dP)の経時変化を示す図であり、(b)は補正後の比率(dR/dP)の経時変化を示す図であり、(c)は補正前の面積APRの経時変化を示す図であり、(d)は補正後の面積APRの経時変化を示す図である。
図24】白金の代わりにタングステンを水素センサとして使用する実験装置の特性を示す図であり、(a)は水素センサに供給される電流量を示し、(b)は(a)に示す電流量が水素センサに供給されることに応じて水素センサから出力される電圧値を示し、(c)は(a)に示す電流量を水素センサに供給したときのシミュレーション結果及び実測値を示し、(d)は水素センサに供給される電流量と水素センサから出力される電圧値との相関関係を示し、(e)は水素センサに投入される電力と水素センサの抵抗値との間の相関関係を示す。
図25】白金の代わりにコバルトを水素センサとして使用する実験装置の特性を示す図であり、(a)は水素センサに供給される電流量を示し、(b)は(a)に示す電流量が水素センサに供給されることに応じて水素センサから出力される電圧値を示し、(c)は(a)に示す電流量を水素センサに供給したときのシミュレーション結果及び実測値を示し、(d)は水素センサに供給される電流量と水素センサから出力される電圧値との相関関係を示し、(e)は水素センサに投入される電力と水素センサの抵抗値との間の相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る気体検出装置の一例である水素検出装置を説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0024】
(実施形態に係る水素検出装置の概要)
本発明の発明者らは、水素センサに供給される電流量を徐々に増加させた後に水素センサに供給される電流量を徐々に減少させることにより、従来の熱伝導式水素センサのように検出素子に加えて補償素子を配置することなく水素を検出することを見出した。実施形態に係る水素検出装置は、導電体である水素センサに供給される電流量を徐々に変化させる間に、電圧計によって検出された複数の電圧値を取得する。実施形態に係る水素検出装置は、水素センサに供給される電流量、及び水素センサから取得した複数の電圧値に基づいて、水素センサの周囲に存在する水素の濃度を推定し、推定した濃度を示す濃度信号を出力する。実施形態に係る水素検出装置は、水素センサに供給される電流量、及び水素センサに供給される電流量を変化させる間に水素センサから取得した複数の電圧値に基づいて、水素の濃度を推定することで、水素センサの周囲に存在する水素の濃度を高精度に推定できる。
【0025】
図1は、実施形態に係る水素検出装置の概要を説明するための図である。図1(a)は実施形態に係る水素検出装置の水素センサに供給される電流量を示し、図1(b)は図1(a)に示す電流量が水素センサに供給されることに応じて水素センサから出力される電圧値を示す。図1(c)は水素センサに供給される電流量と水素センサから出力される電圧値との相関関係を示し、図1(d)は水素センサに投入される電力と水素センサの抵抗値との間の相関関係を示す。図1に示す例では、水素センサは、直径が0.05mmであり且つ長さが88mmの白金(Pt)製のワイヤである。図1(a)において、横軸は時間であり、縦軸は水素センサに供給される電流量である。図1(b)において、横軸は時間であり、縦軸は水素センサから出力される電圧値である。図1(c)において、横軸は水素センサに供給される電流量であり、縦軸は水素センサから出力される電圧値である。図1(d)において、横軸は水素センサに投入される電力であり、左縦軸は水素センサの抵抗値であり、右縦軸は水素センサの温度変化量である。水素センサの温度変化量は、水素センサの抵抗値の変化量から抵抗温度係数TCRにより演算された。図1(b)~1(d)において、実線は水素センサの周囲の雰囲気を一気圧の窒素(N2)とした場合を示し、破線は水素センサの周囲の雰囲気を一気圧の水素(H2)とした場合を示す。図1(a)及び1(d)において、「1」~「21」の数字は、水素センサに供給される電流量を階段状に変化させたときのステップ数である。図1(d)において、四角印は窒素が100%である雰囲気における特性を示し、丸印は水素が100%である雰囲気における特性を示す。
【0026】
図1(a)に示すように、水素センサに供給される電流量は、0.0sから1.0sまでの間、階段状に10mAずつ徐々に増加され、1.0sから2.0sまでの間、階段状に10mAずつ徐々に減少された後、約0.7sに亘る休止期間が設定される。休止期間が設定されることで、水素センサの温度は室温より若干高い平衡温度まで低下する。
【0027】
図1(b)及び1(c)に示すように、水素センサの周囲の雰囲気が窒素である場合と水素センサの周囲の雰囲気が水素である場合とで、水素センサに供給される電流量と水素センサから出力される電圧値との間の相関関係が相違する。水素センサの周囲の雰囲気が水素である場合、水素センサの周囲の雰囲気が窒素である場合よりも水素センサから出力される電圧値は低くなる。水素センサの周囲の雰囲気が水素である場合、水素は窒素よりも熱伝導率が高いため、水素センサの自己加熱による温度上昇に対する水素センサの周囲に存在する気体を介する熱損失による温度下降の割合が大きくなる。水素センサの周囲の雰囲気が水素である場合、自己加熱による温度上昇に対する熱損失による温度下降の割合が大きくなるので、水素センサの温度上昇が抑制され、水素センサから出力される電圧値は、水素センサの周囲の雰囲気が窒素である場合よりも低くなる。
【0028】
実施形態に係る水素検出装置は、水素センサの周囲に存在することに起因する水素センサに供給される電流量及び水素センサから出力される電圧値の相関関係の変化から、水素センサの周囲に存在する水素の濃度を推定する。
【0029】
図1(d)に示すように、実施形態に係る水素検出装置は、水素センサに投入される電力と水素センサの抵抗値とから演算される相関係数に基づいて、水素センサの周囲に存在する水素の濃度を推定する。一例では、実施形態に係る水素検出装置は、図1(d)において矢印Aで示される傾き、すなわち電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量との間の比率に基づいて水素センサの周囲に存在する水素の濃度を推定する。他の例では、実施形態に係る水素検出装置は、図1(d)において斜線で示される領域B、すなわち取得した電圧値のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積に基づいて水素センサの周囲に存在する水素の濃度を推定する。
【0030】
実施形態に係る水素検出装置は、水素センサに供給される電流量を徐々に変化させたときの複数の電流量及び電圧値の相関関係の変化に基づいて水素濃度を推定するので、気体の濃度を高精度に推定できる。
【0031】
(第1実施形態に係る水素検出装置の構成および機能)
図2は、第1実施形態に係る水素検出装置を示す図である。
【0032】
水素検出装置1は、水素センサ10と、電流源11と、電圧計12と、第1制御線13と、第2制御線14と、推定装置20とを有する。水素検出装置1は、電流源11から水素センサ10に供給される電流量を徐々に変化させる間に、水素センサ10に供給される電流量及び電圧計12から取得した複数の電圧値に基づいて、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を推定する。
【0033】
水素センサ10は、白金で形成される直径が0.01~0.1mm程度のワイヤであり、電流源11から電流が供給されることにより自己加熱して温度が上昇することに応じて抵抗値が上昇する。水素センサ10は、ガラス、セラミックス、及び合成樹脂等により形成され、大気が流入する1又は2以上の開口部が形成された容器の内部に収容される。水素センサ10が収容される容器に形成される開口部は、スポンジメタル及び微細な金属メッシュにより覆われる。なお、水素センサ10は、大気の対流の影響が大きくない場合、容器の内部に収容されなくてもよい。また、対流量が一定の場合、対流による熱散逸を事前に考慮に入れることで、容器の内部に収容されなくてもよい。水素センサ10は、白金で形成されるが、実施形態に係る水素検出装置では、水素センサは、水素センサ10自体の温度の変化に応じて抵抗値が変化するタングステン(W)及びコバルト(Co)等の金属を含む導電体であればよく、ワイヤの直径は0.01mm以下でもよく、0.1mm以上であってもよい。実施形態に係る水素検出装置は、ワイヤの直径を短くすることで検出感度を向上させることができる。また、水素センサ10は、ワイヤ形状であるが、実施形態に係る水素検出装置では、水素センサは、薄膜状に形成されてもよい。
【0034】
電流源11は、商用電源や電池から降圧した直流電圧を生成する降圧回路、降圧回路を制御する電圧制御回路及びインタフェース部を有する。電流源11は、第1制御線13を介して推定装置20からインタフェース部に入力された設定信号に応じた電流量に対応する電圧を、水素センサ10に供給する。電流源11は、推定装置20から設定信号が入力されることに応じて、増加期間、増加期間に続く減少期間及び減少期間に続く休止期間を有するスウィープ期間を繰り返す。図1(a)に示す例では、増加期間は0.0sから1.0sまでの間の期間であり、増加期間では、電流源11は水素センサ10に供給する電流量を第1電流量とも称される0mAから第2電流量とも称される100mAまで階段状に10mAずつ徐々に増加する。減少期間は1.0sから2.0sまでの間の期間であり、減少期間では、電流源11は水素センサ10に供給する電流量を第2電流量とも称される100mAから第1電流とも称される0mAまで階段状に10mAずつ徐々に減少する。休止期間は2.0sから2.7sまでの間の期間であり、休止期間では、電流源11は、水素センサ10に電流を供給しない。
【0035】
電圧計12は、公知の電圧計であり、アナログ電圧計及びデジタル電圧計の何れでもよい。電圧計12は、電流源11から水素センサ10に電流が供給されることにより水素センサ10から出力される電圧値を検出し、検出した電圧値を示す電圧信号を第2制御線14を介して推定装置20に出力する。なお、水素検出装置1は、電流源11と電圧計12とを別体として有するが、実施形態に係る水素検出装置は、電流源11及び電圧計12の代わりに、電流源と電圧計とを一体化したソース・メジャー・ユニット(Source Measure Uni、SMU)を有してもよい。また、実施形態に係る水素検出装置は、電流源と電圧計を内蔵したアナログ・フロント・エンド(Analog Front End、AFE)ICを電流源11及び電圧計12の代わりに有してもよい。
【0036】
推定装置20は、通信部21と、記憶部22と、入力部23と、出力部24と、処理部30とを有する。通信部21、記憶部22、入力部23、出力部24及び処理部30は、バス25を介して互いに接続される。推定装置20は、導電体である水素センサに供給する電流量を徐々に変化させる間に、電圧計によって検出された複数の電圧値を取得する。推定装置20は、水素センサ10に供給する電流量、及び水素センサ10から取得した複数の電圧値に基づいて、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を推定し、推定した濃度を示す濃度信号を出力する。
【0037】
通信部21は、I2Cなどの通信インターフェース回路を有する。通信部21は、第1制御線13を介して電流源11に設定信号を送信すると共に、第2制御線14を介して電圧計12から電圧信号を受信する。
【0038】
記憶部22は、例えば、半導体記憶装置、磁気テープ装置、磁気ディスク装置、又は光ディスク装置のうちの少なくとも一つを備える。記憶部22は、処理部30での処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。例えば、記憶部22は、アプリケーションプログラムとして、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を推定する推定処理を処理部30に実行させるための推定プログラム等を記憶する。推定プログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部22にインストールされてもよい。また、記憶部22は、推定処理で使用される種々のデータを記憶する。記憶部22は、所定の処理に係る一時的なデータを一時的に記憶し、データを蓄積するデータベースを記憶する。例えば、記憶部22は、推定処理を実行するときに使用される電流遷移情報220及び濃度推定テーブル225を記憶する。
【0039】
電流遷移情報220は、電流源11から供給される電流の基本パターンであるスウィープ期間における電流供給パターンを示す情報を記憶するテーブルである。電流遷移情報220に記憶される情報に対応する電流供給パターンの一例は、図1(a)に示される電流供給パターンである。
【0040】
図3は、電流遷移情報220を示す図である。
【0041】
電流遷移情報220は、ステップ欄221と、供給電流量欄222と、電流供給時間欄223とを有する。ステップ欄221は、「1」~「21」の数字が識別子として示される。
【0042】
供給電流量欄222は、電流源11から水素センサ10に供給される電流量がステップ欄に示されるステップ数と関連付けて記憶される。供給電流量欄222において、供給電流量「10mA」はステップ「1」及び「20」に関連付けて記憶され、供給電流量「20mA」はステップ「2」及び「19」に関連付けて記憶される。供給電流量「30mA」はステップ「3」及び「18」に関連付けて記憶され、供給電流量「40mA」はステップ「4」及び「17」に関連付けて記憶される。供給電流量「50mA」はステップ「5」及び「16」に関連付けて記憶され、供給電流量「60mA」はステップ「6」及び「15」に関連付けて記憶される。供給電流量「70mA」はステップ「7」及び「14」に関連付けて記憶され、供給電流量「80mA」はステップ「8」及び「13」に関連付けて記憶される。供給電流量「90mA」はステップ「9」及び「12」に関連付けて記憶され、供給電流量「100mA」はステップ「10」及び「11」に関連付けて記憶される。
【0043】
電流供給時間欄223は、それぞれのステップにおいて、電流源11から水素センサ10に電流が供給される電流供給時間がステップ欄に示されるステップ数と関連付けて記憶される。電流供給時間欄223において、電流供給時間「0.1秒」は、ステップ「1」~「20」に関連付けて記憶され、電流供給時間「0.7秒」はステップ「21」に関連付けて記憶される。
【0044】
電流遷移情報220において、ステップ「1」~「10」は、水素センサ10に供給される電流量が階段状に10mAずつ徐々に増加する増加期間である。また、ステップ「11」~「20」は水素センサ10に供給される電流量が階段状に10mAずつ徐々に減少する減少期間であり、ステップ「21」は水素センサ10に電流を供給しない休止期間である。
【0045】
濃度推定テーブル225は、水素センサ10に供給される電力Pと水素センサ10の抵抗値Rとの相関関係を示す相関係数と、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度との関係を記憶するテーブルである。濃度推定テーブル225は、電力Pの変化量dPと抵抗値Rの変化量dRとの間の比率(dR/dP)である相関係数と水素の濃度との関係を記憶する。また、濃度推定テーブル225は、電力Pを第1軸とし、演算された抵抗値Rを第2軸とする直交座標系において電流遷移情報220のステップ「1」~「20」のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積APRである相関係数と、水素の濃度との関係を記憶する。
【0046】
入力部23は、データの入力が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、タッチパネル、キーボード等である。オペレータは、入力部23を用いて、文字、数字、記号等を入力することができる。入力部23は、オペレータにより操作されると、その操作に対応する信号を生成する。そして、生成された信号は、オペレータの指示として、処理部30に供給される。
【0047】
出力部24は、映像や画像等の表示が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ及びスピーカを含む。出力部24は、処理部30から供給された映像データに応じた映像や、画像データに応じた画像等を表示する。また、出力部24は、音声やアナログ電気信号、デジタル電気信号を出力してもよい。
【0048】
処理部30は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部30は、推定装置20の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、CPUである。処理部30は、記憶部22に記憶されているプログラム(ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、処理部30は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行できる。
【0049】
処理部30は、電流供給部31と、電圧取得部32と、推定処理部33と、濃度信号出力部34とを有する。これらの各部は、処理部30が備えるプロセッサで実行されるプログラムにより実現される機能モジュールである。あるいは、これらの各部は、ファームウェアとして処理部30に実装されてもよい。
【0050】
(第1実施形態に係る推定装置による推定処理の第1態様)
図4は、推定装置20により実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。図4に示す推定処理は、予め記憶部22に記憶されているプログラムに基づいて、主に処理部30により推定装置20の各要素と協働して実行される。また、図4に示す推定処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0051】
まず、電流供給部31は、記憶部22に記憶される電流遷移情報220を参照して、電流源11から水素センサ10に供給される電流量を決定する(S101)。電流供給部31は、電流遷移情報220のステップ欄に示される「1」に関連付けて記憶される供給電流量「10mA」を電流源11から水素センサ10に供給される電流量に決定する。
【0052】
次いで、電流供給部31は、S101の処理で決定した供給電流量「10mA」を示す設定信号を電流源11に通信部21に出力する(S102)。通信部21は、電流供給部31から入力された設定信号を第1制御線13を介して電流源11に送信する。電流源11は、設定信号が入力されることに応じて、設定信号に対応する供給電流量となるように電流を水素センサ10に供給する。電流源11は、供給電流量が10mAとなるように電流を水素センサ10に供給する。
【0053】
次いで、電圧取得部32は、電圧計12によって検出された電圧値を取得する(S103)。電圧取得部32は、通信部21を介して電圧要求信号を電圧計12に送信する。電圧計12は、電圧要求信号を受信したことに応じて、検出した電圧値を示す電圧信号を第2制御線14を介して通信部21に送信する。電圧取得部32は、電圧計12から送信された電圧信号に対応する電圧値を取得し、取得した電圧値を示す電圧情報を電流遷移情報220のステップ欄に示される「1」に関連付けて記憶部22に記憶する。
【0054】
次いで、電流供給部31は、ステップ数を1つ加算して(S104)、ステップ数を「2」とする。次いで、電流供給部31は、現在のステップ数が最終ステップであるステップ「20」であるか否かを判定する(S105)。電流供給部31は、現在のステップ数が最終ステップでないと判定する(S105-NO)と、現在のステップ数である「1」に関連付けて記憶される電流供給時間「0.1秒」に亘って待機する。次いで、処理はS101に戻る。
【0055】
以降、電流供給部31によって現在のステップ数が最終ステップであると判定する(S105-YES)まで、S101~S105の処理が繰り返される。現在のステップ数が最終ステップであると判定される(S105-YES)まで、S101~S105の処理が繰り返されることで、電流供給部31は、図1(a)に示す増加期間及び減少期間に対応する電流を供給する電流供給処理を繰り返す。電流供給部31が電流供給処理を繰り返すことで、電流源11は、図1(a)に示す増加期間及び減少期間に対応する電流を水素センサ10に供給する。電圧取得部32は、図1(a)に示す増加期間及び減少期間のそれぞれのステップに対応する電流量が供給された状態の水素センサ10から出力される電圧値を順次取得する。
【0056】
現在のステップ数が最終ステップであると判定される(S105-YES)と、推定処理部33は、供給される電流量及びS103の処理で取得された電圧値から、それぞれのステップにおいて水素センサ10に投入された電力を演算する(S106)。推定処理部33は、ステップ「1」~「20」のそれぞれにおける電流量Iとステップ「1」~「20」のそれぞれにおいて取得された電圧値Vとを乗算することで、それぞれのステップにおいて水素センサ10に投入された電力Pを演算する。推定処理部33は、演算した電力Pを対応するステップ数に関連付けて記憶部22に記憶する。
【0057】
次いで、推定処理部33は、水素センサ10に供給される電流量、及びS103の処理で取得された複数の電圧値から、それぞれのステップにおける水素センサ10の抵抗値Rを演算する(S107)。ステップ「1」~「20」のそれぞれにおいて取得された電圧値Vをステップ「1」~「20」のそれぞれにおける電流量Iによって除算することで、それぞれのステップにおける水素センサ10の抵抗値Rを演算する。推定処理部33は、演算した抵抗値Rを対応するステップ数に関連付けて記憶部22に記憶する。
【0058】
次いで、推定処理部33は、S106及びS107のそれぞれで演算された電力P及び抵抗値Rから、電力Pと抵抗値Rとの相関関係を示す相関係数を演算する(S108)。推定処理部33は、演算された電力Pの変化量dPと抵抗値Rの変化量dRとの間の比率(dR/dP)を相関係数として演算する。推定処理部33は、記憶部22に記憶されるステップ「7」~「10」のそれぞれに関連付けて記憶される電力P及び抵抗値Rから図1(d)において矢印Aで示される傾きに相当する相関係数を演算する。ステップ「7」~「10」において水素センサ10に供給される電流量は、70mA、80mA、90mA及び100mAである。図1(d)に示すように、ステップ「7」からステップ「10」までの間は、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量は、ほぼ線形関係である。推定処理部33は、ステップ「7」~「10」のそれぞれの電力Pと抵抗値Rから、例えば最小二乗法によって電力Pの変化量dPと抵抗値Rの変化量dRとの間の比率(dR/dP)を演算する。窒素中では、比率(dR/dP)は4.242Ω/Wであり、水素中では、比率(dR/dP)は0.858Ω/Wであり、窒素中の比率(dR/dP)は水素中の比率(dR/dP)と大きく相違する。
【0059】
次いで、推定処理部33は、水素センサ10に供給される電流量及びS103の処理で取得された電圧値からS106~S108の処理で演算される相関係数に基づいて、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を推定する(S109)。推定処理部33は、記憶部225に記憶される濃度変換テーブル225を参照して、S108の処理で演算された相関係数である比率(dR/dP)に対応する濃度を水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度として推定する。
【0060】
そして、濃度信号出力部34は、検出した水素の濃度を示す濃度信号を出力部24に出力する(S110)。出力部24は、濃度信号が入力されることに応じて、検出した水素の濃度を示す画像を表示する。
【0061】
(第1実施形態に係る推定装置による推定処理の第2態様)
推定処理の第2態様は、電力P及び抵抗値Rから、電力Pと抵抗値Rとの相関関係を示す相関係数を演算するS108の処理が推定処理の第1態様と相違する。S108の処理以外の推定処理の第2態様の処理は、推定処理の第1態様の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0062】
推定処理部33は、演算された電力Pを第1軸とし、演算された抵抗値Rを第2軸とする直交座標系において、S103の処理で取得された複数の電圧値のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積APRを相関係数として演算する。推定処理部33は、記憶部22に記憶されるステップ「1」~「20」のそれぞれに関連付けて記憶される電力P及び抵抗値Rから図1(d)において斜線で示される領域の面積Bに相当する相関係数を演算する。推定処理部33は、ステップ「1」~「20」のそれぞれの電力Pと抵抗値Rから、例えば座標法によってS103の処理で取得された複数の電圧値のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積APRを演算する。なお、窒素中では、面積APRは0.00484Ω・Wであり、水素中では、面積APRは0.00016Ω・Wであり、窒素中の面積APRは水素中の面積APRと大きく相違する。
【0063】
(第1実施形態に係る水素検出装置の作用効果)
水素検出装置1では、水素センサ10に供給させる電流を徐々に変化させる間に取得された電圧値に基づいて水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を推定することで、比較に使用される補償センサを使用することなく、水素の濃度を推定できる。また、水素検出装置1は、水素センサ10に電流を常時供給しないので、補償センサを使用する水素検出装置よりも省電力化が可能である。
【0064】
また、水素検出装置1は、水素センサ10に供給される電流量、及び水素センサ10に供給される電流量を変化させる間に、取得した複数の電圧値に基づいて演算される比率(dR/dP)又は面積APRを使用して水素の濃度を推定する。水素検出装置1は、複数の電流量及び電圧値に基づいて演算される比率(dR/dP)又は面積APRをパラメータとして使用するので、最小値及び最大値の2点のみで水素の濃度を推定する場合よりもS/N比が大きい信号を生成することができる。また、水素検出装置1は、比率(dR/dP)又は面積APRをパラメータとして使用することで、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を高精度に推定することができる。
【0065】
また、水素検出装置1では、推定装置20は、水素センサ10に供給する電流をパルス状ではなく階段状に徐々に変化させるため、水素センサ10に供給する電流量を高くすることができる。水素が存在する雰囲気の温度が急激に上昇した場合、水素が酸化反応することにより爆発するおそれがあるため、水素センサ10に電流をパルス状に供給するとき、パルスの振幅を大きくすることができず、S/N比が大きい信号が生成されない。一方、水素検出装置1では、水素センサ10に供給する電流を階段状に徐々に増加させるため、爆発しそうになったら電流の供給を中止することができるので、水素が酸化反応することにより爆発するおそれが低くなり、S/N比が大きい信号を生成することができる。
【0066】
また、水素検出装置1では、直径が0.01~0.1程度の白金ワイヤを水素センサ10として使用されるので、水素センサをMEMSを利用して形成する必要はなく、MEMSを利用して形成された水素センサを有する水素検出装置よりも製造コストが低い。
【0067】
また、推定装置20による推定処理の第1態様では、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量が線形関係であるステップ「7」~ステップ「10」を使用して相関係数を演算するので、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量との間の比率を相関係数として演算する。推定装置20による推定処理の第1態様では、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量が線形関係であるステップを使用するので、相関係数は、高精度に演算できる。
【0068】
(第2実施形態に係る水素検出装置の構成および機能)
図5は、第2実施形態に係る水素検出装置を示す図である。
【0069】
水素検出装置2は、推定装置40を推定装置20の代わりに有することが水素検出装置1と相違する。推定装置40は、記憶部42及び処理部50を記憶部22及び処理部30の代わりに有することが推定装置20と相違する。記憶部42及び処理部50以外の水素検出装置2の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された水素検出装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0070】
記憶部42は、抵抗補正テーブル420を有することが記憶部22と相違する。抵抗補正テーブル420以外の記憶部42の構成及び機能は、記憶部22の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。抵抗補正テーブル420は、水素センサ10に投入された電力及び水素センサ10の抵抗値を補正するときに使用される補正係数を温度と関連付けて記憶するテーブルである。
【0071】
図6は、抵抗補正テーブル420を示す図である。
【0072】
抵抗補正テーブル420は、温度欄421と、10mAでの抵抗値欄422と、補正係数欄423とを有する。温度欄421は、-40℃から40度まで温度が示される。温度欄421に示される温度の間隔は、補正するときの精度に応じて適宜設定され、例えば1℃であってもよく、0.5℃であってもよく、0.1℃であってもよい。
【0073】
10mAでの抵抗値欄422は、温度欄421に示される温度のそれぞれに関連付けて記憶される抵抗値が示される。10mAでの抵抗値欄422に示される抵抗値は、水素センサ10に供給される供給電流量が10mAであるときの水素センサ10のそれぞれの温度における抵抗値である。10mAでの抵抗値欄422に示される抵抗値は、大気中に配置される水素センサ10の周囲の温度を、温度欄421に示される対応する温度に設定して、水素センサ10に10mAの電流を供給して測定される。
【0074】
補正係数欄423は、温度欄421に示される温度のそれぞれに関連付けて記憶される補正係数が示される。相関係数が図1(d)において矢印Aで示される傾きに相当する第1態様では、補正係数は、温度が25℃であるときの電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量との間の比率を基準として、それぞれの温度における電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量との間の比率である。また、相関係数が図1(d)において領域Bの面積に相当する第2態様では、補正係数は、温度が25℃であるときのプロットに囲まれた領域の面積を基準として、それぞれの温度におけるプロットに囲まれた領域の面積である。補正係数は、例えば窒素雰囲気中における室温の変化と比率(dR/dP)及び面積APRのそれぞれの変化に基づいて演算される。なお、補正係数は、室温の近傍などの温度の変化量が小さい場合は、室温の変化量に比例して変化するように演算してもよい。
【0075】
処理部50は、補正部55を有することが処理部30と相違する。補正部55以外の処理部50の構成及び機能は、処理部30の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0076】
(第2実施形態に係る推定装置による推定処理)
図7は、推定装置40により実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。図7に示す推定処理は、予め記憶部42に記憶されているプログラムに基づいて、主に処理部50により推定装置40の各要素と協働して実行される。また、図7に示す推定処理は、所定の周期で繰り返し実行される。S201~S208の処理は、S101~S108の処理の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0077】
S208の処理が終了すると、補正部55は、S208の処理で演算された相関係数を補正するときに使用される補正係数を決定する(S209)。補正部55は、補正係数欄423を参照して、S207の処理で演算されたステップ「1」における抵抗値Rに関連付けて記憶される補正係数を、S208の処理で演算された相関係数を補正するときに使用する補正係数に決定する。
【0078】
次いで、補正部55は、S209の処理で決定された補正係数を使用して、S208の処理で演算された相関係数を補正する(S210)。補正部55は、相関係数は、S208の処理で演算された相関係数に、S209の処理で決定された補正係数を乗算することで、相関係数を補正する。補正部55は、補正した相関係数を記憶部42に記憶する。
【0079】
次いで、推定処理部33は、S210の処理で補正された相関係数に基づいて、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を推定する(S211)。そして、濃度信号出力部34は、S110の処理と同様に、濃度信号を出力部24に出力する(S212)。
【0080】
(第2実施形態に係る水素検出装置の作用効果)
水素検出装置2では、推定装置40は、水素の濃度を推定するときに使用される相関係数は、温度に応じて規定された補正係数により補正されるので、水素センサ10自体の温度変化にかかわらず、水素の有無を高精度に判定することができる。
【0081】
また、水素検出装置2では、相関係数を補正する補正係数は、スウィープ期間において最初のステップであるステップ「1」において取得された電圧値に基づいて決定されるので、水素センサ10の温度が室温に近く、相関係数を高精度に補正することができる。
【0082】
(第3実施形態に係る水素検出装置の構成および機能)
図8は、第3実施形態に係る水素検出装置を示す図である。
【0083】
水素検出装置3は、推定装置60を推定装置20の代わりに有することが水素検出装置1と相違する。推定装置60は、記憶部62及び処理部70を記憶部22及び処理部30の代わりに有することが推定装置20と相違する。記憶部62及び処理部70以外の水素検出装置2の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された水素検出装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0084】
記憶部62は、基準抵抗情報620を有することが記憶部22と相違する。基準抵抗情報620以外の記憶部62の構成及び機能は、記憶部22の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。基準抵抗情報620は、温度が25℃であるときの水素センサ10の抵抗値を示す情報である。温度が25℃であるときの水素センサ10の抵抗値は、基準抵抗値とも称される。
【0085】
処理部70は、劣化判定部75、警報信号出力部76及び検出信号出力部77を有することが処理部30と相違する。劣化判定部75、警報信号出力部76及び検出信号出力部77以外の処理部70の構成及び機能は、処理部30の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0086】
(第3実施形態に係る推定装置による推定処理)
図9は、推定装置60により実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。図9に示す推定処理は、予め記憶部22に記憶されているプログラムに基づいて、主に処理部70により推定装置60の各要素と協働して実行される。S301~S310の処理は、S101~S110の処理の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0087】
S310の処理が終了すると、劣化判定部75は、水素センサ10に供給される電流量及びS303の処理で取得された電圧値からS306~S308の処理で演算される相関係数に基づいて、水素センサ10の周囲に水素が存在するか否かを判定する(S311)。劣化判定部75は、S308の処理で演算された相関係数である比率(dR/dP)が所定のしきい値以上であるときに、水素センサ10の周囲に水素が存在しないと判定する(S311-NO)。また、劣化判定部75は、S108の処理で演算された相関係数である比率(dR/dP)が所定のしきい値未満であるときに、水素センサ10の周囲に水素が存在すると判定する(S311-YES)。S109の処理で使用されるしきい値は、大気中に水素が存在しないときの比率(dR/dP)から誤差に相当する係数を減算した値である。
【0088】
劣化判定部75は、水素が存在しないと判定する(S311-NO)と、S306及びS307の処理で演算された電力P及び抵抗値Rから、水素センサ10に電流が供給されないときの水素センサ10の抵抗値を推定する(S312)。
【0089】
図10は、S312の抵抗値推定処理の概要を説明するための図である。図10において、横軸は水素センサに投入される電力であり、左縦軸は水素センサの抵抗値であり、右縦軸は水素センサの温度変化量であり、四角印は窒素が100%である雰囲気における特性を示す。また、「1」~「20」の数字は、水素センサに供給される電流量を階段状に変化させたときのステップ数である。
【0090】
図10において破線で囲まれるステップ「7」からステップ「10」までの間は、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量は、線形関係である。一方、図10において一点鎖線で囲まれるステップ「1」からステップ「5」までの間は、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量は、非線形関係である。S312の抵抗値推定処理では、劣化判定部75は、ステップ「1」~「5」に対応するプロットから指数近似又は累乗近似により水素センサ10に電流が供給されないときの水素センサ10の抵抗値を推定する。
【0091】
次いで、劣化判定部75は、S312で推定された抵抗値と基準抵抗値との差が所定のしきい値差以上であるか否かを判定する(S313)。劣化判定部75は、劣化判定部75は、S311で推定された抵抗値と、基準抵抗情報620に対応する基準抵抗値との間の差の絶対値を演算する。次いで、劣化判定部75は、推定された抵抗値と基準抵抗値との間の差の絶対値が所定のしきい値差以上であるか否かを判定する。
【0092】
推定された抵抗値と基準抵抗値との間の差の絶対値が所定のしきい値差未満であると判定される(S313-NO)と、処理はS301に戻る。
【0093】
推定された抵抗値と基準抵抗値との間の差の絶対値が所定のしきい値差以上であると判定される(S313-YES)と、警報信号出力部76は、水素センサ10が劣化したことを示す警報信号を出力部24に出力する(S314)。出力部24は、警報信号が入力されることに応じて、水素センサ10が劣化したことを示す画像を表示する。次いで、処理はS301に戻る。以降、判定処理部33によって水素センサ10の周囲に水素が存在すると判定される(S311-YES)まで、S301~S314の処理が繰り返される。
【0094】
判定処理部33によって水素センサ10の周囲に水素が存在すると判定される(S311-YES)と、検出信号出力部77は、水素を検出したことを示す検出信号を出力部24に出力する(S315)。出力部24は、検出信号が入力されることに応じて、水素を検出したことを示す画像を表示すると共に水素を検出したことを示す音声を警報音と共に出力する。
【0095】
(第3実施形態に係る水素検出装置の作用効果)
水素検出装置3では、推定装置60は、水素センサ10に電流が供給されないときの水素センサ10の抵抗値と基準抵抗値との間の差の絶対値が所定のしきい値差以上となったときに警報信号を出力して、水素センサ10の経年劣化をオペレータに認識させることができる。
【0096】
また、水素検出装置3では、推定装置60は、電流量を増加させる間に複数の電圧値を取得することで、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量が非線形関係プロットと、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量が線形関係を演算できる。水素検出装置3では、推定装置60は、電力Pの変化量と抵抗値Rの変化量が非線形関係プロットを使用することで、水素センサ10に電流が供給されないときの水素センサ10の抵抗値を高精度に推定できる。
【0097】
(実施形態に係る気体検出装置の変形例)
水素検出装置1~3は、大気中において水素の濃度を推定すると共に、水素を検出する検出装置であるが、実施形態に係る気体検出装置は、窒素等の大気以外の雰囲気において、水素の濃度を推定すると共に、水素を検出する検出装置であってもよい。また、実施形態に係る気体検出装置は、大気中において、ヘリウム(He)及び一酸化炭素(CO)等の水素以外の元素を検出する検出装置であってもよい。
【0098】
また、水素検出装置1~3は、比率(dR/dP)及び面積APRをパラメータとして使用して水素の存在の有無を判定するが、実施形態に係る水素検出装置は、比率(dR/dP)及び面積APR以外のパラメータを使用して水素の存在の有無を判定してもよい。実施形態に係る水素検出装置は、例えば水素センサ10の温度上昇のピークの白金に供給される電流量のピークからの遅延量をパラメータとして水素の存在の有無を判定してもよい。
【0099】
また、水素検出装置1~3は、水素センサ10に供給される電流量を変化させる間に電圧計11によって検出された複数の電圧値を取得する。しかしながら、実施形態に係る水素検出装置は、水素センサ10に印加される電圧値を変化させる間に電流計によって検出された複数の電流量を取得してもよい。
【0100】
図11は、第1変形例に係る水素検出装置を示す図である。
【0101】
水素検出装置4は、電圧源16、電流計17及び推定装置20aを電流源11、電圧計12及び推定装置20の代わりに有することが水素検出装置と相違する。電圧源16、電流計17及び推定装置20a以外の水素検出装置4の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された水素検出装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0102】
電圧源16は、商用電源や電池から降圧した直流電圧を生成する降圧回路、降圧回路を制御する電圧制御回路及びインタフェース部を有する。電圧源16は、第1制御線13を介して推定装置20aからインタフェース部に入力された設定信号に応じた電圧値を、水素センサ10に供給する。
【0103】
電流計17は、公知の電流計であり、アナログ電流計及びデジタル電流計の何れでもよい。また、実施形態に係る水素検出装置は、電圧源16及び電流計17の代わりに、電圧源と電流計とを一体化したSMUを有してもよく、電圧源と電流計を内蔵したAFE ICを電圧源16及び電流計17の代わりに有してもよい。電流計17は、電圧源16から水素センサ10に電圧が印加されることにより水素センサ10を流れる電流の電流量を検出し、検出した電流量を示す電流信号を第2制御線14を介して推定装置20aに出力する。
【0104】
推定装置20aは、記憶部27及び処理部30aを記憶部22及び処理部30の代わりに有することが推定装置20と相違する。記憶部27及び処理部30a以外の推定装置20aの構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された推定装置20の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0105】
記憶部27は、電圧推移情報270を電流推移情報220の代わりに記憶することが記憶部22と相違する。電圧推移情報270は、電圧源16から出力される電圧の基本パターンであるスウィープ期間における電圧印加パターンを示す情報を記憶するテーブルである。電圧推移情報270は、図3を参照して説明される電流遷移情報220と同様に、ステップ欄、印加電圧値欄、及び電圧印加時間欄を有し、印加電圧値欄及び電圧印加時間欄に、ステップ欄に示されるステップ数に関連づけて印加電圧値及び印加時間を記憶する。電圧推移情報270は、階段状に電圧値が上昇する増加期間、階段状に電圧値が下降する減少期間及び休止期間を有するスウィープ期間を形成する電圧値を水素センサ10に印加するように電圧印加パターンを記憶する。
【0106】
処理部30aは、電圧印加部36、電流取得部37及び推定処理部38を電流供給部31、電圧取得部32及び推定処理部33の代わりに有することが処理部30と相違する。電圧印加部36、電流取得部37及び推定処理部38以外の処理部30aの構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された処理部30の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0107】
(第1変形例に係る推定装置による推定処理の第1態様)
図12は、推定装置20aにより実行される推定処理の第1態様に係るフローチャートである。図12に示す推定処理は、予め記憶部27に記憶されているプログラムに基づいて、主に処理部30aにより推定装置20aの各要素と協働して実行される。また、図12に示す推定処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0108】
まず、電圧印加部36は、記憶部27に記憶される電圧推移情報270を参照して、電圧源16から水素センサ10に印加される電圧値を決定する(S401)。電圧印加部36は、電圧推移情報270のステップ欄に示される「1」に関連付けて記憶される印加電圧値を電圧源16から水素センサ10に印加される電圧値に決定する。
【0109】
次いで、電圧印加部36は、S401の処理で決定した電圧値を示す設定信号を電圧源16に通信部21に出力する(S402)。通信部21は、電圧印加部36から入力された設定信号を第1制御線13を介して電圧源16に送信する。電圧源16は、設定信号が入力されることに応じて、設定信号に対応する印加電圧値を水素センサ10に供給する。
【0110】
次いで、電流取得部37は、電流計17によって検出された電流量を取得する(S403)。電流取得部37は、通信部21を介して電流要求信号を電流計17に送信する。電流計17は、電流要求信号を受信したことに応じて、検出した電流量を示す電流信号を第2制御線14を介して通信部21に送信する。電流取得部37は、電流計17から送信された電流信号に対応する電流量を取得し、取得した電流量を示す電流情報を電圧遷移情報270のステップ欄に示される「1」に関連付けて記憶部22に記憶する。
【0111】
次いで、電圧印加部36は、ステップ数を1つ加算して(S404)、ステップ数を「2」とする。次いで、電圧印加部36は、現在のステップ数が最終ステップであるか否かを判定する(S405)。電圧印加部36は、現在のステップ数が最終ステップでないと判定する(S405-NO)と、現在のステップ数である「1」に関連付けて記憶される電圧印加時間に亘って待機する。次いで、処理はS401に戻る。
【0112】
以降、電圧印加部36によって現在のステップ数が最終ステップであると判定する(S405-YES)まで、S401~S405の処理が繰り返される。現在のステップ数が最終ステップであると判定される(S405-YES)まで、S401~S405の処理が繰り返されることで、電圧印加部36は、電圧推移情報270に対応する電圧を印加する電圧印加処理を繰り返す。電圧印加部36が電圧印加処理を繰り返すことで、電圧源16は、電圧推移情報270に対応する電圧を水素センサ10に印加する。電流取得部37は、電圧推移情報270に対応する電圧値が印加された状態の水素センサ10を流れる電流の電流量を順次取得する。
【0113】
現在のステップ数が最終ステップであると判定される(S405-YES)と、推定処理部38は、印加される電圧値及びS403の処理で取得された電流量から、それぞれのステップにおいて水素センサ10に投入された電力を演算する(S406)。推定処理部33は、ステップのそれぞれにおける電圧値Vとステップのそれぞれにおいて取得された電流量Iとを乗算することで、それぞれのステップにおいて水素センサ10に投入された電力Pを演算する。推定処理部38は、演算した電力Pを対応するステップ数に関連付けて記憶部22に記憶する。
【0114】
次いで、推定処理部38は、水素センサ10に印加される電圧値、及びS403の処理で取得された複数の電流量から、それぞれのステップにおける水素センサ10の抵抗値Rを演算する(S407)。ステップのそれぞれにおける電圧値Vをステップのそれぞれにおいて取得された電流量Iによって除算することで、それぞれのステップにおける水素センサ10の抵抗値Rを演算する。推定処理部33は、演算した抵抗値Rを対応するステップ数に関連付けて記憶部22に記憶する。S408~S410の処理は、S108~S110の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0115】
また、実施形態に係る水素検出装置は、電流の供給又は電圧の印加によって水素センサ10に供給される電気の量を変化させる間に、電圧計11及び電流計16以外の電気センサによって検出された電気特性を示す物理量を取得して、水素の濃度を推定してもよい。実施形態に係る水素検出装置が取得する電気特性を示す物理量は、水素センサ10に供給される電気を示す物理量と共に、水素センサ10の電力及び抵抗が演算可能な物理量であればよい。電気センサは、水素センサ10の抵抗値を検出する抵抗計であってもよく、水素センサ10の電力を検出する電力計であってもよい。また、実施形態に係る水素検出装置は、抵抗計及び電力計を電気センサとして有してもよい。
【0116】
また、水素検出装置1~3は、水素センサ10の周囲に存在する水素の濃度を推定するが、実施形態に係る水素検出装置は、水素センサ10の周囲に水素が存在するか否かを判定してもよい。
【0117】
図13は、第2変形例に係る水素検出装置を示す図である。
【0118】
水素検出装置5は、判定装置80を推定装置20の代わりに有することが水素検出装置1と相違する。判定装置80は、処理部90を処理部30の代わりに有することが推定装置20と相違する。処理部90以外の水素検出装置5の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された水素検出装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0119】
処理部90は、判定処理部93及び検出信号出力部94を推定処理部33及び濃度信号出力部34の代わりに有することが処理部30と相違する。判定処理部93及び検出信号出力部94以外の処理部90の構成及び機能は、処理部30の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0120】
(第2変形例に係る判定装置による判定処理)
図14は、判定装置80により実行される判定処理の第1態様に係るフローチャートである。図14に示す判定処理は、予め記憶部22に記憶されているプログラムに基づいて、主に処理部90により判定装置80の各要素と協働して実行される。S501~S508の処理は、S101~S108の処理の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0121】
S508の処理が終了すると、判定処理部93は、水素センサ10に供給される電流量及びS503の処理で取得された電圧値からS506~S508の処理で演算される相関係数に基づいて、水素センサ10の周囲に水素が存在するか否かを判定する(S509)。判定処理部93は、S508の処理で演算された相関係数である比率(dR/dP)が所定のしきい値以上であるときに、水素センサ10の周囲に水素が存在しないと判定する(S509-NO)。また、判定処理部93は、S508の処理で演算された相関係数である比率(dR/dP)が所定のしきい値未満であるときに、水素センサ10の周囲に水素が存在すると判定する(S509-YES)。S509の処理で使用されるしきい値は、大気中に水素が存在しないときの比率(dR/dP)から誤差に相当する係数を減算した値である。
【0122】
判定処理部93によって水素が存在しないと判定される(S509-NO)と、処理はS501に戻る。以降、判定処理部93によって水素が存在すると判定される(S509-YES)まで、S501~S509の処理が繰り返される。
【0123】
判定処理部93によって水素が存在すると判定される(S509-YES)と、検出信号出力部94は、水素を検出したことを示す検出信号を出力部24に出力する(S510)。出力部24は、検出信号が入力されることに応じて、水素を検出したことを示す画像を表示すると共に水素を検出したことを示す音声を警報音と共に出力する。
【0124】
また、水素検出装置1~3では、階段状に電流量が上昇する増加期間、階段状に電流量が下降する減少期間及び休止期間を有するスウィープ期間が繰り返されるが、実施形態に係る気体検出装置では、スウィープ期間は、他の態様であってもよい。
【0125】
図15(a)は実施形態に係るスウィープ期間の第1変形例を示す図であり、図15(b)は実施形態に係るスウィープ期間の第2変形例を示す図である。図15(c)は実施形態に係るスウィープ期間の第3変形例を示す図であり、図15(d)は実施形態に係るスウィープ期間の第4変形例を示す図である。図15(a)~15(d)において、横軸は時間であり、縦軸は水素センサに供給される電流量である。
【0126】
スウィープ期間の第1変形例は、階段状に電流量が上昇する増加期間、増加期間に続く休止期間を有し、減少期間を有さないことが図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間と相違する。スウィープ期間の第1変形例は、実施形態に係る水素検出装置が推定処理の第1態様を実施するときに使用されてもよい。スウィープ期間の第2変形例は、増加期間において電流量が階段状に上昇せずに単調増加すると共に、減少期間において電流量が階段状に下降せずに単調減少することが図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間と相違する。スウィープ期間の第2変形例では、増加期間及び減少期間は三角波である。スウィープ期間の第3変形例は、増加期間及び減少期間において電流量が階段状に変化せずに、増加期間及び減少期間がサイン波であることが図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間と相違する。
【0127】
スウィープ期間の第4変形例は、増加期間、減少期間及び休止期間に加え、増加期間の前にパルス状に電流量を変化させるパルス期間を有することが図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間と相違する。パルス期間に取得された電圧値は、例えば第2実施形態に係る推定装置40によって相関係数を補正するときに使用されてもよい。
【0128】
また、水素検出装置2では、ステップ「1」において取得された電圧値に基づいて相関係数を補正するが、実施形態に係る水素検出装置では、ステップ「10」よりステップ「1」に近いステップにおいて取得された電圧値に基づいて相関係数を補正してもよい。すなわち、実施形態に係る水素検出装置では、ステップ「10」において供給される100mAよりステップ「1」において供給される10mAに近い電流量を供給されるときに取得した電圧値に基づいて相関係数を補正してもよい。
【実施例0129】
図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間に対応する増加期間、減少期間及び休止期間に相当する電流量を白金に供給したときの白金の温度変化を有限要素法(FEM法)によりスーパーコンピュータ「TSUBAME」を使用してシミュレーションした。
【0130】
図16(a)は図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間に対応する増加期間、減少期間及び休止期間に相当する電流量を白金に供給したときのシミュレーション結果及び実測値を示す図であり、図16(b)は白金に供給される電流量を示す図である。図16(a)において、横軸は時間であり、縦軸は白金の温度変化量であり、図16(b)において、横軸は時間であり、縦軸は水素センサに供給される電流量である。図16(a)において、四角印は窒素が100%である雰囲気における実測値を示し、丸印は水素が100%である雰囲気における実測値を示す。また、波形W101は窒素が100%である雰囲気におけるシミュレーション結果を示し、四角印は窒素が100%である雰囲気におけるシミュレーション結果を示す。波形W102は水素が100%である雰囲気におけるシミュレーション結果を示し、丸印は水素が100%である雰囲気におけるシミュレーション結果を示す。白金は、直径が0.05mmであり且つ長さが88mmのワイヤ状の形状を有する。シミュレーションでは、熱輸送の中で対流及び輻射は考慮されず、熱伝導のみが考慮されている。また、白金の温度は室温を基準とし、その温度からの温度上昇を計算している。
【0131】
図16(a)に示すように、窒素が100%である雰囲気及び水素が100%である雰囲気の何れでもシミュレーション結果は、熱の蓄積により白金の温度上昇のピークが白金に供給される電流量のピークから遅延して現れることを含めて実測値と略一致している。熱伝導のみが考慮されたシミュレーション結果が実測値と略一致するので、室温において、図1(a)に示すスウィープ期間に対応する電流量をワイヤ状の白金に供給する場合、熱輸送の中で熱伝導が対流及び輻射よりも寄与度が非常に大きいことが推認される。
【実施例0132】
図17は、実施例2において使用された実験装置の外観を示す図である。
【0133】
図17に示す実験装置では、窒素及び水素の混合ガスが充填された試験管中にワイヤ状の形状を有する白金を配置して、雰囲気中の図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間に対応する電流量を白金に供給したときに白金から出力される電圧値を測定した。白金は、直径が0.05mmであり且つ長さが88mmのワイヤ状の形状を有する。
【0134】
(水素濃度を変化させたときの応答特性について)
図17に示す実験装置を使用して、試験管に導入される混合ガスに含有される水素の含有率を変化させながら、雰囲気中の図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間に対応する電流量を白金に供給したときに白金から出力される電圧値を測定した。白金に供給した電流量及び測定された電圧値から、白金に投入された電力Pの変化量dPと抵抗値Rの変化量dRとの間の比率(dR/dP)を演算した。併せて、電力Pを第1軸とし、演算された抵抗値Rを第2軸とする直交座標系において、測定された複数の電圧値のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積APRを演算した。
【0135】
図18(a)は混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その1)であり、図18(b)は混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その2)である。図18(c)は混合ガスに含有される水素の含有率と面積APRとの関係を示す図(その1)であり、図18(d)は混合ガスに含有される水素の含有率と面積APRとの関係を示す図(その2)である。図18(a)及び14(b)において、横軸は時間を示し、左縦軸は比率(dR/dP)を示し、右縦軸は混合ガスに含有される水素濃度を示す。図18(c)及び18(d)において、横軸は時間を示し、左縦軸は面積APRを示し、右縦軸は混合ガスに含有される水素濃度を示す。水素の含有率は、1%から10%まで1%毎に変更され、20%から100%まで20%毎に変更された。図18(a)~18(d)に示すグラフは、2.7秒毎に繰り返される図1(a)に示すスウィープ期間を所定の時間に亘って繰り返したときの比率(dR/dP)及び面積APRを演算してプロットしたものである。
【0136】
比率(dR/dP)及び面積APRは、何れも混合ガスに含有される水素濃度の変化に応じて変化しており、実施形態に係る水素検出装置1~3において推定装置による推定処理の第1態様及び第2態様の何れの態様でも水素濃度が推定可能であることが確認された。
【0137】
(水素濃度を変化させたときの繰り返し特性について)
図17に示す実験装置を使用して、水素を含有しない窒素ガス及び水素の含有率が10%である混合ガスを試験管に交互に導入し、図1(a)に示す実施形態に係るスウィープ期間に対応する電流量を白金に供給したときに白金から出力される電圧値を測定した。白金に供給した電流量及び測定された電圧値から、白金に投入された電力Pの変化量dPと抵抗値Rの変化量dRとの間の比率(dR/dP)を演算した。併せて、電力Pを第1軸とし、演算された抵抗値Rを第2軸とする直交座標系において、測定された複数の電圧値のそれぞれに対応するプロットに囲まれた領域の面積APRを演算した。
【0138】
図19(a)は混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その3)であり、図19(b)は混合ガスに含有される水素の含有率と面積APRとの関係を示す図(その3)である。図19(a)において、横軸は時間を示し、左縦軸は比率(dR/dP)を示し、右縦軸は混合ガスに含有される水素濃度を示す。図19(b)において、横軸は時間を示し、左縦軸は面積APRを示し、右縦軸は混合ガスに含有される水素濃度を示す。図19(a)及び19(b)に示すグラフは、2.7秒毎に繰り返される図1(a)に示すスウィープ期間を所定の時間に亘って繰り返したときの比率(dR/dP)及び面積APRを演算してプロットしたものである。
【0139】
比率(dR/dP)及び面積APRの双方において、窒素ガスの雰囲気中及び水素の含有率が10%である混合ガスの雰囲気の双方で繰り返す毎に、同一値となることが確認された。
【0140】
(相関係数である比率(dR/dP)及び面積APRと水素濃度との関係について)
図20(a)は水素濃度を変化させたときの比率(dR/dP)の変化を示す図であり、図20(b)は水素濃度を変化させたときの面積APRの変化を示す図であり、図20(c)は水素濃度を変化させたときの混合ガスの熱抵抗率の変化を示す図である。
【0141】
図20(a)に示す比率(dR/dP)及び20(b)に示す面積APRのそれぞれは、水素濃度に対して指数関数的に減少することが確認された。また、図20(a)に示す比率(dR/dP)及び図20(b)に示す面積APRの双方の水素濃度特性は、濃度を変化させたときの混合ガスの熱抵抗率の水素濃度特性に略一致することが確認された。熱抵抗率は、熱伝導率の逆数であり、熱輸送の中で熱伝導が対流及び輻射よりも寄与度が非常に大きいことが裏付けられた。
【実施例0142】
図17に示す実験装置において、白金の直径を0.05mmから0.03mmに変更した実験装置を使用して、より低濃度の水素の検出可能性を検証すると共に、第2実施形態に係る水素検出装置における補正処理の実用性を検証した。白金の直径を0.05mmから0.03mmに変更することにより、白金の抵抗値は約3倍となるので、白金の加熱量は図17に示す実験装置の約3倍となると共に、測定する電圧も約3倍となり、実験装置の検出精度は図17に示す実験装置の約10倍となる。
【0143】
(低濃度の水素の検出可能性について)
図21は混合ガスに含有される水素の含有率と比率(dR/dP)との関係を示す図(その4)であり、図21(a)は比率(dR/dP)の経時変化を示し、図21(b)は導入水素量の経時変化を示す。図21(a)において、横軸は時間を示し、縦軸は比率(dR/dP)を示す。図21(b)において、横軸は時間を示し、縦軸は水素含有率を示す。水素の含有率は、0.4%から4%まで0.4%毎に変更された。図21(a)に示すグラフは、2.7秒毎に繰り返される図1(a)に示すスウィープ期間を所定の時間に亘って繰り返したときの比率(dR/dP)を演算してプロットしたものである。
【0144】
比率(dR/dP)は、0.4%においても混合ガスに含有される水素濃度の変化に応じて変化しており、実施形態に係る水素検出装置1~3において推定装置による推定処理の第1態様において、0.4%程度の水素濃度が検出可能であることが確認された。
【0145】
(補正処理の実用性について)
図22(a)は実験装置が配置される雰囲気の温度の経時変化を示す図であり、図22(b)は増加期間において10mAの電流量が供給されたときの白金の抵抗値の経時変化を示す図である。図22(a)において、横軸は時間を示し、縦軸は実験装置が配置される雰囲気の温度を示す。図22(b)において、横軸は時間を示し、縦軸は10mAの電流量が供給されたときの白金の抵抗値を示す。
【0146】
10mAの電流量が供給されたときの白金の抵抗値の経時変化は、実験装置が配置される雰囲気の温度の経時変化と略一致している。10mAの電流量が供給されたときの抵抗値の経時変化が実験装置が配置される雰囲気の温度の経時変化と略一致しているので、白金に10mAの電流量が供給されたときの白金の抵抗値から演算される補正係数は、室温の変動を反映することが確認された。
【0147】
図23(a)は補正前の比率(dR/dP)の経時変化を示す図であり、図23(b)は補正後の比率(dR/dP)の経時変化を示す図である。図23(c)は補正前の面積APRの経時変化を示す図であり、図23(d)は補正後の面積APRの経時変化を示す図である。図23(a)及び23(b)において、横軸は時間を示し、縦軸は比率(dR/dP)を示し、図23(c)及び23(d)において、横軸は時間を示し、縦軸は面積APRを示す。図23(a)~23(d)に示すグラフは、2.7秒毎に繰り返される図1(a)に示すスウィープ期間を所定の時間に亘って繰り返したときの比率(dR/dP)及び面積APRを演算してプロットしたものである。
【0148】
図23(a)において、矢印A、B、C及びDで示される実験装置が配置される雰囲気の温度変化に起因すると推察される比率(dR/dP)の変位は、補正後の比率(dR/dP)では確認されない。また、図23(c)において、矢印E、F,G及びHで示される実験装置が配置される雰囲気の温度変化に起因すると推察される面積APRの変位は、補正後の面積APRでは確認されない。第2実施形態に係る水素検出装置における補正処理によって、水素検出装置が配置される雰囲気の温度変化の影響が除去されることが確認された。
【実施例0149】
図17に示す実験装置において、水素センサとして使用される白金の代わりにタングステン及びコバルトを水素センサとして使用することが可能であるかを検証した。白金の結晶構造は、面心立方格子構造である。一方、タングステンの結晶構造は体心立方格子構造であり、コバルトの結晶構造は六方最密充填構造であり、タングステン及びコバルトは結晶構造が白金と相違する。
【0150】
図24は白金の代わりにタングステンを水素センサとして使用する実験装置の特性を示す図であり、図25は白金の代わりにコバルトを水素センサとして使用する実験装置の特性を示す図である。図24及び25の特性の取得のために使用された実験装置は、水素センサの材料以外の構成及び機能は図13に示す実験装置の構成及び機能と同一である。
【0151】
図24(a)及び図25(a)は水素センサに供給される電流量を示し、図24(b)及び図25(b)は図24(a)及び図25(a)に示す電流量が水素センサに供給されることに応じて水素センサから出力される電圧値を示す。図24(c)及び図25(c)は図24(a)及び図25(a)に示す電流量を水素センサに供給したときのシミュレーション結果及び実測値を示す。図24(d)及び図25(d)は水素センサに供給される電流量と水素センサから出力される電圧値との相関関係を示し、図24(e)及び図25(e)は水素センサに投入される電力と水素センサの抵抗値との間の相関関係を示す。
【0152】
図24(a)及び図25(a)において、横軸は時間であり、縦軸は水素センサに供給される電流量である。図24(b)及び図25(b)において、横軸は時間であり、縦軸は水素センサから出力される電圧値である。図24(c)及び図25(c)において、横軸は時間であり、左縦軸は水素センサの抵抗値であり、右縦軸は水素センサの温度変化量である。図24(d)及び図25(d)において、横軸は水素センサに供給される電流量であり、縦軸は水素センサから出力される電圧値である。図24(e)及び図25(e)において、横軸は水素センサに投入される電力であり、左縦軸は水素センサの抵抗値であり、右縦軸は水素センサの温度変化量である。
【0153】
白金の代わりにタングステン及びコバルトを水素センサとして使用した場合でも、実施形態に係る水素検出装置において、白金を水素センサとして使用する場合と同様に、比率(dR/dP)及び面積APRが演算可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0154】
1~3 水素検出装置(気体検出装置)
10 水素センサ(導電体)
11 電流源
12 電圧計
16 電圧源
17 電流計
20、20a、40、60、80 推定装置
31 電流供給部
32 電圧取得部
33、38 推定処理部
34 濃度信号出力部
36 電圧印加部
37 電流取得部
55 補正部
75 劣化判定部
76 警報信号出力部
93 判定処理部
94 検出信号出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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