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特開2023-111351粉体物性予測システム、粉体物性予測方法および粉体物性予測用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111351
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】粉体物性予測システム、粉体物性予測方法および粉体物性予測用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20230803BHJP
   G01N 15/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
G01N15/02 C
G01N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013166
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】518293424
【氏名又は名称】田原 耕平
(71)【出願人】
【識別番号】518089159
【氏名又は名称】株式会社ナノシーズ
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田原 耕平
(72)【発明者】
【氏名】島田 泰拓
(72)【発明者】
【氏名】堀田 幹則
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 彰紘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粉体の物性をより簡便に評価可能な技術を提供する。
【解決手段】粉体を構成する粒子の画像を解析し、粒子の粒度分布、粒子の形状に関係するパラメータ、および粒子の表面の状態に関係するパラメータ(画素分散値、表面特徴量)を取得する。これらパラメータと当該粉体の実測物性値との関係を深層学習により学習し、AI予測モデルを作成する。このAI予測モデルに物性値が未知の粒子の画像から得た上記パラメータを入力し、当該粒子の物性値の予測を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を構成する粒子を撮影することで得た画像の画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データに基づき、前記粉体の粒度分布の算出、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出、および前記粒子における粒子表面の構造の凹凸の状態を示す表面パラメータの算出を行う画像解析部と、
前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測する粉体の物性値予測部と
を備える粉体物性予測システム。
【請求項2】
前記形状パラメータは、凸度、円形度、アスペクト比、線形度を含み、
前記凸度は、粒子を覆う凸多角形の周長と該粒子の周長の比であり、
前記円形度は、粒子の形状がどれだけ円に近いかを示すパラメータであり、
前記アスペクト比は、粒子の形状を楕円近似した場合における長軸と短軸の比であり、
前記線形度は、粒子の線状の程度を示すパラメータである請求項1に記載の粉体物性予測システム。
【請求項3】
前記表面パラメータは、画素分散値と表面特徴量であり、
前記画素分散値は、画素値の分散の大小を評価するパラメータであり、
前記表面特徴量は、前記粒子表面の特徴の多少を評価するパラメータである請求項1または2に記載の粉体物性予測システム。
【請求項4】
記表面特徴量は、
特定の方向における画素の濃淡の変化に基づき算出され、
前記表面特徴量は、複数の表面特徴量候補の中から求められ、
前記複数の表面特徴量候補は、前記特定の方向として異なる複数の方向における表面特徴量であり、
前記複数の表面特徴量候補における最大のものが採用される請求項3に記載の粉体物性予測システム。
【請求項5】
前記物性値には、粉体動摩擦角、応力伝達率、応力緩和率、圧縮率、かさ密度、内部摩擦角、せん断付着力、フローファクターから選ばれた2以上のものが含まれる請求項1~4のいずれか一項に記載の粉体物性予測システム。
【請求項6】
予め、
粒子の構造に関する複数の形状タイプと、
前記複数の形状タイプに対応した補正係数と
が用意されており、
前記画像データに基づき分類された前記形状タイプに対応する前記補正係数を用いて、前記予測された前記物性値が補正される請求項1~5のいずれか一項に記載の粉体物性予測システム。
【請求項7】
前記物性値予測部は、前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測する物性値予測モデルを有し、
前記粒子の構造を示す複数の形状タイプのそれぞれに対応して前記物性値予測モデルは複数が用意されており、
前記複数の形状タイプの中の一つに対応した前記複数の物性値予測モデルの中の一つを用いて、前記物性値が予測される請求項1~5のいずれか一項に記載の粉体物性予測システム。
【請求項8】
前記形状タイプは、粒子の3次元構造の特徴に基づき分類されている請求項6または7に記載の粉体物性予測システム。
【請求項9】
前記形状タイプには、
円で近似した断面の径より長手方向の長さが20倍以上ある細長い棒状である(Type1)、
最小の辺の長さと最大の辺の長さの比が20倍未満の直方体である(Type2)、
厚みと短手方向の幅の比が10倍以上である薄板状である(Type3)、
粒の集合体であり、粒の径が集合体の径の1/30以下である(Type4)、
粒の集合体であり、粒の径が集合体の径の1/30を超えている(Type5)、
Type2の直方体の表面に、それより小さい直方体が結合している(Type6)、
Type2の直方体の表面に、それより小さい丸い立体形状物が結合している(Type7)、
Type3の条件を満たす六角形の薄板状 (Type8)、
Type2の形状が多数集まった塊(Type9)、
Type3の条件を満たす五角以上不定形の薄板状の多角形状(Type10)、
Type3の条件を満たす平たい円板形状(Type11)、
球で近似した直径がType5の条件を満たす立方体が集まった形状(Type12)、
長手形状を有し、角が尖った細長い多角形状(木を砕いたような形状)(Type13)、
Type3の条件を満たす平たい楕円形状(Type14)、
瓢箪型の形状(Type15)、
Type3の条件を満たす薄板状の粒子が集まった形状(Type16)、
薄い不定形の粒子の集合で中央に孔が空いている形状(Type17)、
Type3の条件を満たす薄い不定形の粒子が多数重なっている形状(Type18)、
Type3の条件を満たす薄板状で尖った多数の角がある粒子が集まった形状(Type19)、
尖った多数の角がある粒子(Type20)、
中空パイプ状の粒子(Type21)、
Type1より径が太い円柱状の粒子(Type22)、
高さが三角形を構成する辺の長さより短い三角柱の形状の粒子(Type23)、
八面以上の多面体の粒子(Type24)、
中央に孔がある円板形状(ドーナツ形状)の粒子(Type25)、
球形で表面に複数の穴がある粒子(Type26)、
球形で表面に該球形に比較して相対的に小さな径の多数の粒子が埋め込まれている粒子(Type27)、
球形で表面に該球形の径に比較して1/50未満の径の多数の粒子が付着している粒子(Type28)、
球形で表面に該球形の径に比較して1/10~1/50の径の多数の粒子が付着している粒子(Type29)から選ばれた一または複数が含まれる請求項6または7に記載の粉体物性予測システム。
【請求項10】
粉体を構成する粒子を撮影することで得た画像の画像データを取得し、
前記画像データに基づき、前記粉体の粒度分布の算出、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出、および前記粒子における粒子表面の構造の凹凸の状態を示す表面パラメータの算出を行い、
前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測する粉体物性予測方法。
【請求項11】
コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、
コンピュータに
粉体を構成する粒子を撮影することで得た画像の画像データの取得と、
前記画像データに基づき、前記粉体の粒度分布の算出、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出、および前記粒子における粒子表面の構造の凹凸の状態を示す表面パラメータの算出を実行させ、
前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測させる粉体物性予測用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の物性を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、薬品、食品、セラミック製品、金属製品、化粧品、電子部品、トナー、3Dプリンタの原料、各種製品の材料として各種の粉体(粉末)が利用される。粉体は、付着性、流動性、圧縮性といった物性の評価が重要となる。この粉体の物性を評価する手法や装置については、例えば非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】粉体工学会誌2017年54巻2号p.90-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術は有効であるが、専用の計測装置が必要であり、また試料の扱いや計測機器を扱うための専門技術や専門知識が必要となる。また、現状の技術では、試料として、100g単位の粉体が必要であるが、医薬品等ではg単位の試料を用意することが容易でない場合がある。このような背景において、本発明は、粉体の物性をより簡便に評価できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、粉体を構成する粒子を撮影することで得た画像の画像データを取得する画像データ取得部と、前記画像データに基づき、前記粉体の粒度分布の算出、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出、および前記粒子における粒子表面の構造の凹凸の状態を示す表面パラメータの算出を行う画像解析部と、前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測する粉体の物性値予測部とを備える粉体物性予測システムである。
【0006】
本発明において、前記形状パラメータは、凸度、円形度、アスペクト比、線形度を含み、前記凸度は、粒子を覆う凸多角形の周長と該粒子の周長の比であり、前記円形度は、粒子の形状がどれだけ円に近いかを示すパラメータであり、前記アスペクト比は、粒子の形状を楕円近似した場合における長軸と短軸の比であり、前記線形度は、粒子の線状の程度を示すパラメータである態様が挙げられる。
【0007】
本発明において、前記表面パラメータは、画素分散値と表面特徴量であり、前記画素分散値は、画素値の分散の大小を評価するパラメータであり、前記表面特徴量は、前記粒子表面の特徴の多少を評価するパラメータである態様が挙げられる。
【0008】
本発明において、前記表面特徴量は、特定の方向における画素の濃淡の変化に基づき算出され、前記表面特徴量は、複数の表面特徴量候補の中から求められ、前記複数の表面特徴量候補は、前記特定の方向として異なる複数の方向における表面特徴量であり、前記複数の表面特徴量候補における最大のものが採用される態様が挙げられる。
【0009】
本発明において、前記物性値には、粉体動摩擦角、応力伝達率、応力緩和率、圧縮率、かさ密度、内部摩擦角、せん断付着力、フローファクターから選ばれた2以上のものが含まれる態様が挙げられる。
【0010】
本発明において、予め、粒子の構造に関する複数の形状タイプと、前記複数の形状タイプに対応した補正係数とが用意されており、前記画像データに基づき分類された前記形状タイプに対応する前記補正係数を用いて、前記予測された前記物性値が補正される態様が挙げられる。
【0011】
本発明において、前記物性値予測部は、前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測する物性値予測モデルを有し、前記粒子の構造を示す複数の形状タイプのそれぞれに対応して前記物性値予測モデルは複数が用意されており、前記複数の形状タイプの中の一つに対応した前記複数の物性値予測モデルの中の一つを用いて、前記物性値が予測される態様が挙げられる。
【0012】
本発明において、前記形状タイプは、粒子の3次元構造の特徴に基づき分類されている態様が挙げられる。本発明において、前記形状タイプとして、円で近似した断面の径より長手方向の長さが20倍以上ある細長い棒状である(Type1)、最小の辺の長さと最大の辺の長さの比が20倍未満の直方体である(Type2)、厚みと短手方向の幅の比が10倍以上である薄板状である(Type3)、粒の集合体であり、粒の径が集合体の径の1/30以下である(Type4)、粒の集合体であり、粒の径が集合体の径の1/30を超えている(Type5)、Type2の直方体の表面に、それより小さい直方体が結合している(Type6)、Type2の直方体の表面に、それより小さい丸い立体形状物が結合している(Type7)、Type3の条件を満たす六角形の薄板状 (Type8)、Type2の形状が多数集まった塊(Type9)、Type3の条件を満たす五角以上不定形の薄板状の多角形状(Type10)、Type3の条件を満たす平たい円板形状(Type11)、球で近似した直径がType5の条件を満たす立方体が集まった形状(Type12)、長手形状を有し、角が尖った細長い多角形状(木を砕いたような形状)(Type13)、Type3の条件を満たす平たい楕円形状(Type14)、瓢箪型の形状(Type15)、Type3の条件を満たす薄板状の粒子が集まった形状(Type16)、薄い不定形の粒子の集合で中央に孔が空いている形状(Type17)、Type3の条件を満たす薄い不定形の粒子が多数重なっている形状(Type18)、Type3の条件を満たす薄板状で尖った多数の角がある粒子が集まった形状(Type19)、尖った多数の角がある粒子(Type20)、中空パイプ状の粒子(Type21)、Type1より径が太い円柱状の粒子(Type22)、高さが三角形を構成する辺の長さより短い三角柱の形状の粒子(Type23)、八面以上の多面体の粒子(Type24)、中央に孔がある円板形状(ドーナツ形状)の粒子(Type25)、球形で表面に複数の穴がある粒子(Type26)、球形で表面に該球形に比較して相対的に小さな径の多数の粒子が埋め込まれている粒子(Type27)、球形で表面に該球形の径に比較して1/50未満の径の多数の粒子が付着している粒子(Type28)、球形で表面に該球形の径に比較して1/10~1/50の径の多数の粒子が付着している粒子(Type29)から選ばれた一または複数を挙げることができる。
【0013】
本発明は、粉体を構成する粒子を撮影することで得た画像の画像データを取得し、前記画像データに基づき、前記粉体の粒度分布の算出、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出、および前記粒子における粒子表面の構造の凹凸の状態を示す表面パラメータの算出を行い、前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測する粉体物性予測方法として把握することもできる。
【0014】
本発明は、コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、コンピュータに粉体を構成する粒子を撮影することで得た画像の画像データの取得と、前記画像データに基づき、前記粉体の粒度分布の算出、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出、および前記粒子における粒子表面の構造の凹凸の状態を示す表面パラメータの算出を実行させ、前記粉体の粒度分布、前記形状パラメータおよび前記表面パラメータに基づき当該粉体の物性値を予測させる粉体物性予測用プログラムとして把握することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粉体の物性をより簡便に評価できる技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】粉体の物性を予測するシステムのイメージ図である。
図2】粉体物性予測装置のブロック図である。
図3】凸度、円形度、線形度、アスペクト比の定義を示す図である。
図4】粒子のSEM画像の一例を示す図面代用写真(A)および(B)である。
図5】画素分散値の説明図である。
図6】画素分散値の一例を示す図面代用写真(A)および(B)である。
図7】表面特徴量の算出方法を説明する図(A)および(B)である。
図8】画素値の規格化について説明する図である。
図9】表面特徴量の一例を示す図面代用写真(A)および(B)である。
図10】表面特徴量の算出方法を説明する図(A),(B)および(C)である。
図11】粒子の形状タイプの一例を示す図(A)~(E)である。
図12】処理の手順を示すフローチャートである。
図13】処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.第1の実施形態
(概要)
図1は、粉体の物性を予測するシステムのイメージ図である。この技術では、粉体を構成する粒子の画像を解析し、粒子の粒度分布、粒子の形状に関係する形状パラメータ、および粒子の表面の状態に関係する表面パラメータ(画素分散値、表面特徴量)を取得する。これらパラメータと当該粉体の実測物性値との関係を深層学習により学習し、物性値予測モデルであるAI予測モデルを作成する。このAI予測モデルに物性値が未知の粒子の画像から得た上記パラメータを入力し、物性値の予測を行う。
【0018】
(ハードウェアの構成)
図2は、本発明を利用した粉体物性予測装置100のブロック図である。粉体物性予測装置100は、PC(パーソナル・コンピュータ)により構成されている。粉体物性予測装置100を専用のコンピュータで構成することも可能である。また、データ処理サーバを用いて粉体物性予測装置100を構成することも可能である。
【0019】
粉体物性予測装置100は、画像データ取得部101、画像解析部102、物性値予測部103、形状タイプ判定部104、補正係数取得部105、AI予測モデル選択部106を備える。これらの機能部は、アプリケーションソフトウェアを当該PCにインストールすることでソフトウェア的に実現されている。これら機能部の一部をFPGA等の専用のハードウェアで構成することも可能である。また、データ処理サーバにおいて図2の機能部を実現し、そこで処理を行う形態も可能である。
【0020】
粉体物性予測装置100はデータ記憶部107を備える。データ記憶部107は、利用するPCが備える半導体メモリやハードディスク装置を利用して構成されている。なお、利用するPCは、入出力インターフェース、GUIに代表されるユーザインターフェースを備えている。外部の記憶装置にデータを記憶させる形態も可能である。
【0021】
画像データ取得部101は、物性値の予測の対象となる粉体粒子の拡大画像の画像データを取得する。この例では、当該粒子のSEM画像の画像データが画像データ取得部101において受け付けられる。
【0022】
画像解析部102は、粒子のSEM画像を解析し、粒度分布、形状パラメータ(図3に示す凸度、円形度、線形度、アスペクト比)を算出する。また、画像解析部102は、粒子のSEM画像を解析し、後述する表面パラメータ(画素分散度および当該粒子の表面特徴量)の算出を行う。
【0023】
物性値予測部103は、当該粒子のSEM画像から得られる粒度分布、形状パラメータ(凸度、円形度、線形度、アスペクト比)および表面パラメータ(画素分散度および当該粒子の表面特徴量)に基づき、当該粒子により構成される粉体の物性値を、AI予測モデルを用いて予測する。粒度分布、形状パラメータおよび表面パラメータについては後述する。
【0024】
粉体の物性値としては、粉体動摩擦角(角度)、応力伝達率(%)、応力緩和率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)が挙げられる。これらの物性値の実測は、せん断力測定装置を用い、JIS規格(JIS-Z8835)に制定されている手法により行われる。せん断応力測定装置としては、例えば株式会社ナノシーズ社製の「粉体層せん断力測定装置NS-S」が利用される。これらの物性値により、粉体の流動性、摩擦性、付着性、圧縮性、充填性を評価することができる。
【0025】
以下、各物性値について説明する。粉体動摩擦角は、JIS-Z8835で定義され、運動中の粉体層の摩擦特性を示し、小さいほど流動性が高く、付着しにくいことを示す。
【0026】
応力伝達率は、せん断垂直応力を上部垂直応力で除した値で、粉体層とセル壁面との摩擦性を表している。応力緩和率は、緩和応力と初期応力との比(%)であり、変形させた場合に元に戻らない程度を示す。応力緩和率は、粉体の圧密特性のひとつである。圧縮率は、圧縮のし易さを評価する指標である。
【0027】
内部摩擦角は、JIS-Z8835で定義され、粒子同士のせん断力に対する抵抗の程度を示す。例えば、粉体の山の崩れにくさが内部摩擦角で評価される。せん断付着力(kPa)は、粉体の付着力を評価する指標である。
【0028】
フローファクター(ffc)は、粉体の流動性を評価する指標である。フローファクター(ffc)は、単軸崩壊応力fcと最大主応力σの関係を表しており,ffc=σ/fcで与えられる。流動性は、1<ffc<2:非常に流れ難い、2<ffc<4:やや流れ難い、4<ffc<10:流れ易い、ffc>10:非常に流れ易い、と評価される。
【0029】
一般に、せん断付着力(kPa)が大きければ、フローファクター(ffc)は小さく、せん断付着力(kPa)が小さければ、フローファクター(ffc)は大きい。
【0030】
応力緩和率、応力伝達率、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)については、粉体工学会誌2017年54巻2号p.90-96(J. Soc. Powder Technol., Japan, 54, 90-96 (2017))に記載されている。
【0031】
形状タイプ判定部104、補正係数取得部105、AI予測モデル選択部106は、第1の実施形態では利用しない。これらの機能部については後述する。
【0032】
データ記憶部107には、粉体物性予測装置100を動作させるのに必要なデータ、動作プログラム、処理の過程や処理の結果得られるデータが記憶される。記憶部107には、図2の機能部をPC上で実現するためのプログラム、図3の形状パラメータの算出方法、AI予測モデル、図5の画素分散値の算出方法、図7および図10に関連して説明した画素特徴量の算出方法、図8の画素値の規格化の方法、図11(A)~(E)の粒子の形状タイプのデータ、図12図13の処理の手順を実行するため動作プログラムが記憶されている。
【0033】
(画像から取得するパラメータの説明)
本実施形態では、粒子のSEM画像から粒度分布、4種類の形状パラメータ、2種類の表面パラメータを取得する。本発明者らの知見によれば、これらのパラメータは、粉体としての振る舞いに大きく影響する。それ故、これらのパラメータと物性値との関係を深層学習によりAIに学習させ、AI予測モデルを作成する。
【0034】
まず、粒度分布について説明する。粒度分布は、対象となる粉体のSEM画像に基づき、当該粉体の粒度分布を算出する。粒度分布の算出は、公知の画像解析手法を利用して行なわれる(専用のソフトウェアも販売されている)。この例では、x10,x50,x90により粒度分布が定義される。ここで、x10は、これ以下の粒子の比率が10%である粒径である。x50は、粒子の50%がこれより大きく、50%がこれより小さい粒径である。x90は、これ以下の粒子の比率が90%である粒径である。粒度分布の定義は、粉体を構成する粒子のサイズの分布状態を評価できるものであれば、上記の例に限定されない。
【0035】
粒度分布を計測する方法としては、レーザー回折・散乱法を利用することもできる。粒度分布を計測する他の方法としては、比重を利用する方法、液相沈降法、遮光法、電気的検知法、光相関法、クロマトグラフィーを挙げることができる。
【0036】
次に、4種類の形状パラメータについて説明する。4種類の形状パラメータは、凸度、円形度、線形度、アスペクト比である。図3に定義を示す。これらの形状パラメータは、粉体を構成する粒子の形状を特徴付けるパラメータの一例である。これら形状パラメータは、粒子の拡大画像に対する画像解析から取得される。
【0037】
上記の画像解析は以下のようにして行われる。まず、粒子のSEM画像に対して、白黒2値化処理を行い、2値化画像を得る。次に、この2値化画像に対して輪郭抽出処理を行い、粒子の輪郭を抽出する。この粒子の輪郭から画像解析により、図3に定義する凸度、円形度、線形度、アスペクト比を算出する。
【0038】
次に、表面パラメータについて説明する。この例における表面パラメータは、画素分散値と表面特徴量である。画素分散値と表面特徴量は、粉体を構成する粒子表面の構造の凹凸の状態を示す。
【0039】
ここで、図4(A)と(B)の粒子は、ほぼ同じ形状と大きさである。しかしながら、(A)は流動性が低く、(B)は流動性が高い。この差は、表面の状態の違いにある。(A)は細かい凹凸、細かい表面の微細構造を持つが、(B)はそうではない。凸度、円形度、線形度、アスペクト比は、この表面の詳細構造の差を効果的に定量化できない。そこで、図4(A)と(B)の差を画像から検出(評価)する方法を考える。
【0040】
ここでは、粒子表面の構造に起因する画像の細かさを定量的に評価するパラメータとして画素分散値と表面特徴量を導入する。まず、画素分散値について説明する。図5に画素分散値の定義を示す。画素分散値は、画像中における画素の分散の程度を示す指標である。
【0041】
図4(B)に示すような滑らかな面の粒子の画像の場合、画素分散値は小さくなる。これは、滑らかな表面の画像では、場所による画素値の違いが小さく、図5の定義式の右辺が小さくなるからである。
【0042】
これに対して、図4(A)に示すような微細な表面状態の画像の場合、画素分散値は大きくなる。これは、場所による画素値の変化が大きく、図5の定義式の右辺が大きくなるからである。
【0043】
図6(A)は、表面が比較的滑らかな粒子の場合の画素分散値である。図6(B)は、表面が比較的凹凸な粒子の場合の画素分散値である。
【0044】
次に表面特徴量について説明する。粒子の表面に細かい凹凸があると、その画像は細かい模様となる。この細かさを評価することを考える。ここで画像を構成する画素を考える。細かい模様の画像は、濃淡の細かい変化が多い。そこで、画素の階調を画素値として数値化し、場所によるその変化の程度を計量する。
【0045】
例えば、図7に示す4×4画素の画像(A)と(B)を考える。ここで、各画素の数字は画素値である。例えば濃淡を5段階で示したものが画素値である。
【0046】
ここで、表面特徴量は、以下のように計算される。まず、縦方向の画素値の差の総和Vdを考える。ここでは、縦方向(列)の画素に着目する。図7の画像の場合、4列の縦列がある。この列の一つ一つにおいて、上下に隣接する画素値を比較し、その差を求める。そして全ての列における上記の差を積算する。この積算値をVdとする。(A)の場合、左から1列目に隣接する画素の差の積算値が3、2列目の隣接する画素の差の積算値が3、3列目の隣接する画素の差の積算値が4、4列目の隣接する画素の差の積算値が4である。よって、Vd=3+3+4+4=14となる。
【0047】
同様の考え方で、横方向の画素値の差の総和Hdを考える。上記(A)の場合、横方向で配列する画素(4行ある画素の並び)について、隣接する画素間の画素値の差を積算する。この積算値をHdとする。(A)の場合、4行目にしか横方向において隣接する画素間の差がないので、Hd=1となる。
【0048】
ここで、縦方向の画素の数Nv、横方向の画素の数Nh として、表面特徴量は下記のように定義される。
表面特徴量=(Vd/Nh)+(Hd/Nv)
【0049】
図7(A)の場合、(Vd/Nh)が(3+3+4+4)/4=14/4であり、(Hd/Nh)が1/4である。よって表面特徴量は14/4+1/4=15/4=3.75となる。
【0050】
図7(B)の場合、(Vd/Nh)が(1+1+1)/4あり、(Hd/Nv)が1/4である。よって表面特徴量は3/4+1/4=1となる。
【0051】
実際の表面特徴量の算出は、以下のようにして行われる。ここでは、画素値が256階調の場合を説明する。また、画素は最小の単位画素を利用する。なお、2×2画素というような複数の画素をまとめて一つの画素と考えることも可能である。この場合、演算量は減らせるが、精度は低下する。
【0052】
まず、粒子のSEM画像を得、粒子の近似楕円を設定する。そして、この近似楕円の長軸が水平となるように、画像を回転させ、該近似楕円の長軸の方向を横、短軸の方向を縦とする。そして、縦方向に配列した当該粒子に係る画素について上記Vdを求め、横方向に配列した当該粒子に係る画素について上記Hdを求める。
【0053】
この際、明るさの影響を低減するために、算出に利用する画素値として規格値Xを用いる。規格値Xは、X=255×(x-xmin)/(xmax-xmin)によって求められる。ここで、xは、対象となる画素の画素値であり、xmaxは対象となる画像における画素値の最大値であり、xminは画素値の最小値である。図7に上記規格化のイメージ図を示す。512階調の場合は、X=511×(x-xmin)/(xmax-xmin)を用いる。画素値として規格化したものを用いるのは、他の実施形態の場合も同じである。
【0054】
図9(A)は、表面が比較的滑らかな粒子の場合の表面特徴量である。図9(B)は、表面が比較的凹凸な粒子の場合の表面特徴量である。
【0055】
(処理の一例:前段階の処理)
まず、AI予測モデルを作成する。ここでは、粒度分布、図3に示す形状パラメータ、画素分散値および表面特徴量と、粉体粒子の物性値の関係をAIに深層学習させ、AI予測モデルを得る。
【0056】
ここでは以下のようにして深層学習を行う。まず、サンプルとなる粉体の粒子のSEM画像を得、画像解析により、当該粒子の画像解析データ(粒度、凸度、円形度、線形度、アスペクト比、画素分散度および表面特徴量)の算出を行う。また、この粉体の物性値をせん断試験により測定する。
【0057】
これを出来るだけ多くの種類の粉体を対象に行ない、各粉体に係る画像解析データと実測したせん断試験データの対応関係をAI学習モデルに機械学習させる。AI学習手法としては、ランダムフォレストを利用する。この技術では、画像解析データと実測された物性値との間に強い相関関係があることを利用している。この相関関係をAI学習モデルに機械学習させ、粉体に関して、画像解析データから物性値を予測するAI予測モデルを作成する。作成したAI予測モデルは、データ記憶部107に記憶しておく。そして、運用に当たっては、サンプルの粉体を撮影したSEM画像の画像解析データを上記AI予測モデルに入力し、物性値の予測値を得る。
【0058】
(処理の一例:物性値の予測処理)
まず、物性の予測の対象となる粉体のSEM画像の画像データを取得する。次に、取得したSEM画像の画像データをAI予測モデルに入力し、当該粉体の物性値の予想を行う(図1参照)。
【0059】
下記表1に結果を示す。ここで、(1)~(4)のパラメータは、図3で定義される凸度、円形度、線形度、アスペクト比である。(5)のパラメータは画素分散値である。(6)のパラメータは表面特徴量である。実験値は、測定装置(せん断試験装置)により得た実測値である。
【0060】
表1における物性値は、粉体動摩擦角、応力伝達率、応力緩和率、圧縮率、かさ密度、内部摩擦角、せん断付着力、フローファクターである。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、パラメータ(1)~(4)に加えて、パラメータ(5)と(6)を加えることで、パラメータ(1)~(4)のみを利用する場合に比較して、予測値の精度が改善する。
【0063】
2.第2の実施形態
以下、更に高い予測精度を得るための表面特徴量の例を説明する。図10(A),(B),(C)に5×5の画素により構成される画像の各画素値(画素値は1~5の5段階)の例が示されている。
【0064】
第1の実施形態の定義に従った表面特徴量は、図10(A),(B),(C)において同じである。しかしながら、画素値の変化の状態は、図10(A),(B),(C)において異なる。すなわち、図10(A)は斜面であるが滑らかであり、図10(B)は、凸部が一つある面であり、図10(C)は、凸部が2つある面である。
【0065】
上記の表面状態の違いを定量的に評価するために、第2の表面特徴量として、以下のものを考える。ここでは、増減係数δを導入する。増減係数δは以下のように定義される。
【0066】
まず、特定の方向で見た場合に、当該粒子に係る画素の画素数が増大から減少に転じた極の数を増減係数とする。例えば、横の並びで考えて、
(1)画素値が、1,2,3,4,5の並びであれば、極はなくδ=0である。
(2)画素値が、1,2,3,2,1の並びであれば、δ=1である。
(3)画素値が、1,2,1,2,1の並びであれば、δ=2である。
【0067】
ここで、縦の並びの増減係数をδv、横の並びの増減係数をδhと表記する。(1)の場合δh=0、(2)の場合δh=1、(3)の場合δh=2となる。
【0068】
δvとδhは、凹凸の山の頂部の数である。特定の範囲で考えて、凹凸の山の頂部の数が多いということは、それだけ細かい凹凸があるということを意味する。このように考えると、増減係数δは、「表面の凹凸の多さ」を示す指標(パラメータ)であると考えることができる。
【0069】
ここで、縦方向の当該粒子の画素の数Nv、横方向の当該粒子の画素の数Nhとして、第2の表面特徴量を以下のように定義する。
【0070】
第2の表面特徴量=(Σδv/Nh)+(Σδh/Nv)
Σは、縦方向であれば、縦方向におけるδvを全て積算することを示し、横方向であれば、横方向におけるδhを全て積算することを示す。
【0071】
図10(A)の場合における第2の表面特徴量は以下のようになる。まず、縦列の1~5列目のδvは全て0である。よって、(Σδv/Nh)=0である。また、横行の1~5行目のδhも全て0である。よって、(Σδh/Nv)=0である。よって、図10(A)の第2の画像の表面特徴量は0である。
【0072】
図10(B)の場合における第2の表面特徴量は以下のようになる。まず、縦列の1~5列目のδvは全て0である。よって、(Σδv/Nh)=0である。また、横行の1~5行目のδhは全て1である。よって、(Σδh/Nv)=(1+1+1+1+1)/5=1である。よって、図10(A)の第2の画像の表面特徴量は1である。
【0073】
図10(C)の場合における第2の表面特徴量は以下のようになる。まず、縦列の1~5列目のδvは全て0である。よって、(Σδv/Nh)=0である。また、横行の1~5行目のδhは全て2である。よって、(Σδh/Nv)=(2+2+2+2+2)/5=2である。よって、図10(A)の第2の画像の表面特徴量は2である。
【0074】
第2の表面特徴量は、画素値の変化の凹凸の多少を示すパラメータと捉えることができる。第2の表面特徴量によれば、粒子表面の凹凸の状態を定量化できる。
【0075】
3.第3の実施形態
第2の実施形態では、表面特徴量として凹凸の極の数を計量する視点を導入した。本実施形態では、更に凹凸の極の急峻の程度を定量的に把握する視点を表面特徴量に導入する。
【0076】
まず、特定の方向(例えば横の方向)で画素の配列を見た場合における凹凸の極(画素値が増加から減少に変わる部分)に着目する。この極は凸部の頂部となる。次に、この極の前後の斜面の傾きを算出する。
【0077】
例えば、ある極に着目した場合に、画素値が3,2、1,3,5,4,2,3と変化しているとする。この場合、凸部前後の凹部の底を始点と終点として、画素値の変化分を計測する。ここで、傾きは、(画素値の変化分/画素数)から求められる。
【0078】
この例の場合、1,3,5,4,2と画素値が並んでいる部分が凸部(極)であり、前の傾斜の部分の傾きは(5-1)/2=2であり、後の傾斜の部分の傾きは(5-2)/2=1.5である。ここでは、当該凸部の傾斜は、前後の傾きの平均値を採用し、1.75となる。
【0079】
具体的な計算では、縦方向における当該粒子を構成する特定の画素の列に着目した場合における極の傾きの合計値をGv、横方向における当該粒子を構成する特定の画素の列に着目した場合における極の傾きの合計値をGhとする。また、縦方向の画素の数Nv、横方向の画素の数Nh として、第3の表面特徴量を以下のように定義する。
第3の表面特徴量=(ΣGv/Nh)+(ΣGh/Nv)
Σは、縦方向であれば、縦方向におけるGvを全て積算することを示し、横方向であれば、横方向におけるGhを全て積算することを示す。
【0080】
急峻な極(凸部)が多いほど、上記第3の表面特徴量が大きくなる。こうして、細かい凸部の鋭さの程度を定量的に評価した表面特徴量が得られる。
【0081】
一般に、細かく鋭い突出部が多い程、粒子の流れは悪くなる。よって、この観点の指標を導入することで、粒子の流れに関連する物性の予測精度を高くできる。
【0082】
4.第4の実施形態
表面特徴量として、特徴点の数(密度)を用いてもよい。特徴点は、画像中の輝度や濃淡が急峻に変化している点として抽出される。特徴点は、複数の画像間のマッチングに利用されている。画像から特徴量を抽出するためのアルゴリズムは複数開発されており、それらを利用できる。
【0083】
特徴点の抽出の対象とする画像は、画像の明るさの違いの影響を低減するために、第1の実施形態で述べた各画素の画素量を規格化したものを画素として画像を作成し直したものを用いる。
【0084】
ここで、抽出された特徴点の数がfである場合、(f/当該粒子の総画素数)により、表面特徴量が定義される。図4(A)の粒子の場合は、表面は微細な構造を有し、画像中の特徴点の数は相対的に多くなる。これに対して、図4(B)の粒子の場合は、表面は比較的平滑であり、特徴点の数は相対的に少なくなる。
【0085】
5.第5の実施形態
上述したように粒子の表面特徴量の算出の方法には多様な方法がある。これらの方法による表面特徴量の算出において、粒子の拡大画像を回転させると、表面特徴量が変化する場合がある。以下、この問題に対応した表面特徴量の算出方法について説明する。
【0086】
まず粒子の拡大画像(例えば、SEM画像)を取得する。これは、他の実施形態の場合と同じである。次に、画像を角度θだけ回転させ、本明細書で開示する表面特徴量の算出方法を用いて表面特徴量を算出する。この表面特徴量をq(θ)とする。
【0087】
θの値を変えて、様々な角度θi(θi=0を含んでもよい)においてq(θi)を求める。ここで多数求めたq(θi)を比較し、その値が最大となるθi=θmaxを求める。そして、q(θmax)を当該粒子の表面特徴量とする。
【0088】
例えば、ある粒子に係り、θi=10°~180°まで10°刻みで設定し、計18の表面特徴量を算出する。この場合、その中で最大の表面特徴量が当該粒子の表面特徴量として採用される。
【0089】
この方法によれば、粒子表面の構造の凹凸の状態を示す表面パラメータが粒子の向き(回転)によって変化する問題が解消できる。理屈上、回転不変な特徴量が得られる。本実施形態は、本明細書中で説明した表面特徴量のいずれにも適用できる。
【0090】
第1~第5の実施形態で述べた表面特徴量の2以上をAI予測モデルの学習に利用することで、さらに高い精度で粉体の物性(特に流動性に関する物性)の予測を期待できる。
【0091】
6.第6の実施形態
表1を見ると、AI予測モデルによるせん断付着力とフローファクターの予測値は実測値との差が大きい。また、この差は一様ではない。本発明者らの解析によれば、物性値の予測値と実測値との差は、粒子の形状に依存する傾向が判明している。これは、せん断付着力とフローファクターに限定されず、他の物性値においても見られる。
【0092】
図11(A)~(E)に粒子の形状を類型化し分類した形状タイプの一例を示す。形状タイプとしては、円で近似した断面の径より長手方向の長さが20倍以上ある細長い棒状である(Type1)、最小の辺の長さと最大の辺の長さの比が20倍未満の直方体である(Type2)、厚みと短手方向の幅の比が10倍以上である薄板状である(Type3)、粒の集合体であり、粒の径が集合体の径の1/30以下である(Type4)、粒の集合体であり、粒の径が集合体の径の1/30を超えている(Type5)、Type2の直方体の表面に、それより小さい直方体が結合している(Type6)、Type2の直方体の表面に、それより小さい丸い立体形状物が結合している(Type7)、Type3の条件を満たす六角形の薄板状 (Type8)、Type2の形状が多数集まった塊(Type9)、Type3の条件を満たす五角以上不定形の薄板状の多角形状(Type10)、Type3の条件を満たす平たい円板形状(Type11)、球で近似した直径がType5の条件を満たす立方体が集まった形状(Type12)、長手形状を有し、角が尖った細長い多角形状(木を砕いたような形状)(Type13)、Type3の条件を満たす平たい楕円形状(Type14)、瓢箪型の形状(Type15)、Type3の条件を満たす薄板状の粒子が集まった形状(Type16)、薄い不定形の粒子の集合で中央に孔が空いている形状(Type17)、Type3の条件を満たす薄い不定形の粒子が多数重なっている形状(Type18)、Type3の条件を満たす薄板状で尖った多数の角がある粒子が集まった形状(Type19)、尖った多数の角がある粒子(Type20)、中空パイプ状の粒子(Type21)、Type1より径が太い円柱状の粒子(Type22)、高さが三角形を構成する辺の長さより短い三角柱の形状の粒子(Type23)、八面以上の多面体の粒子(Type24)、中央に孔がある円板形状(ドーナツ形状)の粒子(Type25)、球形で表面に複数の穴がある粒子(Type26)、球形で表面に該球形に比較して相対的に小さな径の多数の粒子が埋め込まれている粒子(Type27)、球形で表面に該球形の径に比較して1/50未満の径の多数の粒子が付着している粒子(Type28)、球形で表面に該球形の径に比較して1/10~1/50の径の多数の粒子が付着している粒子(Type29)等が挙げられる。
【0093】
図11(A)~(E)に示す形状タイプの違いは、主に立体的な構造(3次元構造)に関係する。形状パラメータ、画素分散値および表面特徴量は、2次元の画像から得られる情報であり、立体的な形状の特徴を判定するのには限界がある。これが、上述した予測値と実測値に差が生じる要因の一つであると考えられる。
【0094】
以下、上記の形状タイプと、図3の形状パラメータおよび表面パラメータとの関係について説明する。Type1の形状タイプは、図3の形状パラメータにおける線形度とアスペクト比で評価できるが、これらパラメータで数値化した場合、Type3,Type9,Type16との差は見た目程の差が付かない場合がある。また、Type1の形状タイプは、図5図7図10の表面パラメータではその特徴を的確に評価できない。
【0095】
Type2、Type3、Type3、Type8、Type10、Type11、Type13、Type14、Type15は、形状パラメータおよび表面パラメータでは、その特徴を的確に評価できない。Type4~Type7は、ある程度表面パラメータで評価できる。しかしながら、その構造の違いは、表面パラメータでは適切に評価できない。例えば、Type6とType7の違いは、表面パラメータでは区別がつかない。この傾向は、Type9、Type12、Type16、Type17、Type18、Type19についても同様である。
【0096】
上記の理由により、本実施形態では、形状タイプによる区分を導入し、形状パラメータおよび表面パラメータによる物性の予測の精度を高める。
【0097】
上述したように、予測値と実測値との差は、粒子の形状に依存する傾向がある。すなわち、Type2に分類される粒子により構成される粉体の物性の予測値の実測値とのずれは、ある特定の傾向を示し、Type4に分類される粒子により構成される粉体の物性の予測値の実測値とのずれは、また別のある特定の傾向を示す、といった事実が判明している。
【0098】
そこで、図11(A)~(E)に示すような粒子形状のタイプに応じて補正係数を予め求めておき、その補正係数を用いてAI予測モデルが予測した物性値を補正する。下記表2に補正係数の例を示す。表2の場合、「実験値(実測値)/予想値」により、各パラメータの補正係数を算出した例が示されている。
【0099】
【表2】
【0100】
この場合、粒子の形状タイプ毎に表2に示すような各物性値に係る補正係数を予め用意し、データ記憶部107に記憶しておく。そして、粒子の形状タイプに応じて、AI予測モデルが予測した物性値を補正係数を用いて補正し、補正予測値を得る。似た形状タイプの粒子は、精度は完全ではないが同じ補正係数を用いることで、実測値に近い予測値を得ることができる。
【0101】
手間はかかるが、形状タイプを細かく分類し、形状タイプ毎に表2のような補正係数を求めておくことで、より高い精度で粉体の物性を予測できる。
【0102】
図12に処理の一例を示す。図12の処理を実行するプログラムは適当な記憶領域や記憶媒体に記憶され、図2の粉体物性予測装置を構成するPCにより実行される。これは、図13の処理も同じである。
【0103】
前処理として、予めAI予測モデルを作成しておく。これは、第1の実施形態の場合と同じである。また、図11(A)~(E)に例示する粒子の形状タイプに対応した補正係数を用意しておく(例えば、表2を参照)。
【0104】
処理が開始されると、まず、粉体を構成する粒子を撮影したSEM画像を取得する(ステップS201)。次に、取得したSEM画像を画像解析し、粒度分布、形状パラメータ(凸度、円形度、アスペクト比、線形度)、画素分散値、表面特徴量を算出する(ステップS202)。この処理は、図2の画像解析部102において行われる。
【0105】
次に、ステップS202において得られた粒度分布、形状パラメータ(凸度、円形度、アスペクト比、線形度)、画素分散値、表面特徴量を予め用意しておいたAI予測モデルに入力し、当該粉体の物性値の予測を行う(ステップS203)。この処理は、物性値予測部103において行われる。
【0106】
また、ステップS201で取得した粒子のSEM画像に基づき、図11(A)~(E)の形状タイプの判定を行う(ステップS204)。この処理は、図2の形状タイプ判定部104において行われる。この判定は、画像認識技術を用いて行う。
【0107】
例えば、予め形状タイプの画像を記憶しておき、これらとステップS201で取得した粒子画像とを比較する。この比較から当該粒子画像に最も類似する形状タイプがどれであるかを判定する。この処理は、防犯、車両の自動運転(自律運転)や事故防止技術、商品の画像識別等に利用されるAI画像判定技術を利用して行われる。
【0108】
なお、この判定を人間が行い、その結果を受け付ける形態も可能である。この場合、形状タイプ判定部104は、形状タイプ受付部として機能する。この態様では、例えば、使用するPCのディスプレイ上に予め用意しておいた形状モデルを表示する。そしてこの表示されたモデルの中からユーザが対象となる粒子に適合すると判断する形状モデルを選択する。この選択された形状モデルが形状タイプ受付部で受け付けられる。
【0109】
次に、判定された形状タイプに応じた補正係数を取得する(ステップS205)。この処理は、補正係数取得部105において行われる。次に、ステップS205で選択した補正係数を用い、表2に例示するように、予測値の補正を行う(ステップS206)。
【0110】
(その他)
形状対応タイプを更に細かく設定することもできる。形状タイプの種類が少ないと、予測の精度が低下する。しかしながら、事前にデータを準備するコストを勘案し、図11(A)~(E)に例示した形状タイプの複数を採用する態様も可能である。これらは、第7の実施形態の場合も同じである。
【0111】
7.第7の実施形態
第6の実施形態において、1つの粒子に着目した場合に、異なる2つの形状タイプが混在している粒子があったとする。あるいは対象とする粉体が異なる2つの形状タイプの粒子を含んでいるとする。この場合、2つ形状タイプの補正係数の加重平均値を用いて物性を予測する。
【0112】
例えば、1つの粒子に着目した際、タイプ4の構造とタイプ5の構造が見られたとする。そして、その割合が7:3であったとする。この場合、タイプ1の補正係数とタイプ2の補正係数を7:3の割合で加重平均した補正係数を用いる。例えば、ある物性値のタイプ4の補正係数がα、タイプ5の補正係数がβである場合、(7/10)α+(3/10)βをこの場合の補正係数とする。
【0113】
また例えば、タイプ5の構造の粒子の割合が6割、タイプ6の構造の粒子の割合が4割である粉体があるとする。この場合、タイプ5の補正係数とタイプ6の補正係数を6:4の割合で加重平均した補正係数を用いる。例えば、ある物性値のタイプ1の補正係数がα、タイプ2の補正係数がβである場合、(6/10)α+(4/10)βをこの場合の補正係数とする。なお、3以上の形状タイプを採用することも可能である。
【0114】
8.第8の実施形態
上述したように、粉体を構成する粒子の形状のタイプによって、予測値の実測値からのズレが異なる傾向がある。これは、AIの深層学習が多様な形状タイプに対応しきれていないことが原因であると考えられる。
【0115】
一般に、AIの深層学習は、学習の内容を絞った方が学習効果は高い(勿論、学習時のサンプル数は多い程よい)。そこで、本実施形態では、粉体の粒子の形状タイプ毎にAI予測モデルを用意する。すなわち、形状タイプ1の粒子を対象に深層学習を行ったAI予測モデル、形状タイプ2の粒子を対象に深層学習を行ったAI予測モデル、といった具合にAI予測モデルを用意する。なお、例えば形状タイプ2と形状タイプ3では、同じAI予測モデルが利用できる、といった場合もあり得る。用意したAI予測モデルは、データ記憶部107に記憶しておく。つまり、第6の実施形態の処理方法と異なる点は、当該粉体の粒度分布、形状パラメータ、画素分散値、表面特徴量をAI予測モデルに入力し、当該粉体の物性値の予測を行う以前に、まず対象粒子の形状タイプの判定を行い、その形状タイプに対応したAI予測モデルを選択し、選択されたAI予測モデルに当該粉体の粒度分布、形状パラメータ、画素分散値、表面特徴量を入力することで、当該粉体の物性値の予測を行うことである。
【0116】
図13に処理の一例を示す。まず、粉体を構成する粒子を撮影したSEM画像を取得する(ステップS401)。次に、取得したSEM画像を画像解析し、粒度分布、形状パラメータ(凸度、円形度、アスペクト比、線形度)、画素分散値、表面特徴量を算出する(ステップS402)。この処理は、図2の画像解析部102において行われる。
【0117】
次に、ステップS201で取得した粒子のSEM画像に基づき、図11(A)~(E)の形状タイプの判定を行う(ステップS403)。この処理は、図2の形状タイプ判定部104において行われる。この判定は、画像認識技術を用いて行う。また、人間が形状タイプを判定し、その結果を受け付ける形態も可能である。
【0118】
次に、ステップS403の判定で選択された形状タイプに対応したAI予測モデルを選択する(ステップS404)。この処理は、AI予測モデル選択部106において行われる。
【0119】
次に、選択されたAI予測モデルに、ステップS402において得られた粒度分布、形状パラメータ(凸度、円形度、アスペクト比、線形度)、画素分散値、表面特徴量を入力し、当該粉体の物性値の予測を行う(ステップS405)。この処理は、物性値予測部103において行われる。
【0120】
9.優位性
画像データから粉体の物性を予測できる。画像が得られればよいので、試料となる粉体は少量でよい。また、実際に粉体を分析する装置に比較すれば、画像を得る装置(例えば、SEM装置)は一般的であり、また取り扱いも容易である。そのため、粉体の物性をより簡便に評価できる。
【0121】
10.その他の実施形態
粉体に係る形状パラメータとして、均整度、空間充足度、球形度、円形度、凹凸度、表面粗度を用いることもできる。これらのパラメータの詳細については、粉体工学ハンドブック(朝倉書店、2014年2月20日発行、ISBN978-4-254-25267-5)の31頁~39頁に記載されている。
【0122】
本明細書では、粒子の画像としてSEM画像の例を示したが、画像解析により、凸度、円形度、線形度、アスペクト比、画素分散度および表面特徴量の算出を行うことができる画像であれば、他の手法により得た粒子の画像であってもよい。
【0123】
例えば、図2に示す構成をデータ処理サーバに置き、そこに粉体粒子の画像データを送り、当該粉体の物性値の予測を行うシステムが可能である。
【0124】
予測する粉体の物性値は、粉体動摩擦角(角度)、応力伝達率(%)、応力緩和率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)の全てではなく、その中の2以上であってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13