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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111353
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】冷凍食品用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230803BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20230803BHJP
   A23L 7/109 20160101ALN20230803BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L3/36 A
A23L7/109 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013168
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 太一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
【テーマコード(参考)】
4B022
4B026
4B046
【Fターム(参考)】
4B022LA01
4B022LB01
4B022LB02
4B022LJ02
4B026DC02
4B026DG04
4B026DK01
4B026DK10
4B026DX01
4B046LA06
4B046LB04
4B046LB10
4B046LC20
4B046LE18
4B046LG10
4B046LG11
4B046LP51
4B046LP56
(57)【要約】
【課題】冷凍焼けを抑制することのできる冷凍食品用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】油脂と、下記の乳化剤A及び乳化剤Bを含む、冷凍食品用油脂組成物。
乳化剤A:HLB4~8のポリグリセリン脂肪酸エステル
乳化剤B:有機酸モノグリセリドとモノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と、下記の乳化剤A及び乳化剤Bを含む、冷凍食品用油脂組成物。
乳化剤A:HLB4~8のポリグリセリン脂肪酸エステル
乳化剤B:有機酸モノグリセリドとモノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤
【請求項2】
前記油脂を89~99.5質量%含有し、前記乳化剤Aと前記乳化剤Bを合計0.5~11質量%含有し、該乳化剤Aと乳化剤Bの質量比が1:0.05~1:20である、請求項1に記載の冷凍食品用油脂組成物。
【請求項3】
前記有機酸モノグリセリドがクエン酸モノグリセリドである、請求項1又は2に記載の冷凍食品用油脂組成物。
【請求項4】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の割合が50質量%以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の冷凍食品用油脂組成物。
【請求項5】
前記油脂が、20℃で流動性を有する、請求項1~4の何れか1項に記載の冷凍食品用油脂組成物。
【請求項6】
冷凍食品用油脂組成物が、噴霧、塗布又は対象食品を浸漬して用いるものである、請求項1~5の何れか1項に記載の冷凍食品用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の冷凍食品用油脂組成物で対象食品をコーティングし、冷凍処理を行う、冷凍食品の製造方法。
【請求項8】
冷凍食品が、澱粉含有食品である、請求項7に記載の冷凍食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍食品用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍食品は、解凍、加熱処理等を行うだけで容易に食すことができるものであり、その保存性や利便性の高さから様々な製品の開発が進められている。ここで、主に麺や米飯などの澱粉含有製品の冷凍食品は、冷凍庫等の保管中に食品の一部から水分が昇華し、白く焼けたような状態となることがある。このような冷凍焼けは、冷凍庫の開閉等が原因で、冷凍食品の部分的な溶解が生じるために発生する。冷凍焼けの生じた部分は乾燥した状態となり、レンジ等での解凍後も冷凍焼け部分だけが固く、好ましくない食感となってしまう。
【0003】
冷凍焼けを抑制するため、食品に油脂を塗布する方法が用いられている。特許文献1には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤を含有した油脂を食品の表面に接触処理した後、該食品を冷凍する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4933719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術のあるところ、本発明は、冷凍焼けを抑制することのできる冷凍食品用油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、以下のとおりである。
[1] 油脂と、下記の乳化剤A及び乳化剤Bを含む、冷凍食品用油脂組成物。
乳化剤A:HLB4~8のポリグリセリン脂肪酸エステル
乳化剤B:有機酸モノグリセリドとモノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤
[2] 前記油脂を89~99.5質量%含有し、前記乳化剤Aと前記乳化剤Bを合計0.5~11質量%含有し、該乳化剤Aと乳化剤Bの質量比が1:0.05~1:20である、[1]に記載の冷凍食品用油脂組成物。
[3] 前記有機酸モノグリセリドがクエン酸モノグリセリドである、[1]又は[2]に記載の冷凍食品用油脂組成物。
[4] 前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の割合が50質量%以上である、[1]~[3]の何れか1つに記載の冷凍食品用油脂組成物。
[5] 前記油脂が、20℃で流動性を有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の冷凍食品用油脂組成物。
[6] 冷凍食品用油脂組成物が、噴霧、塗布又は対象食品を浸漬して用いるものである、[1]~[5]の何れか1つに記載の冷凍食品用油脂組成物。
[7] [1]~[5]の何れか1つに記載の冷凍食品用油脂組成物を対象食品にコーティングし、冷凍処理を行う、冷凍食品の製造方法。
[8] 冷凍食品が、澱粉含有食品である、[7]に記載の冷凍食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、冷凍食品の冷凍焼けを抑制することができる。また、本発明によれば、冷凍焼けが抑制された冷凍食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に例示説明する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。また、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0009】
[冷凍食品用油脂組成物]
本発明の冷凍食品用油脂組成物は、油脂と、下記の乳化剤A及び乳化剤Bを含む。
乳化剤A:HLB4~8のポリグリセリン脂肪酸エステル
乳化剤B:有機酸モノグリセリドとモノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤
上記成分を含む本発明の冷凍食品用油脂組成物は、食品に塗布することで冷凍時の水分の昇華を抑制し、冷凍焼けの抑制効果を発揮する。
【0010】
以下、本発明の冷凍食品油脂組成物の含有する成分について詳述する。
【0011】
(1)乳化剤A
本発明は、複数の乳化剤を含有することを許容するが、乳化剤Aに係るHLBは、含有する乳化剤A全体のHLBである。乳化剤AのHLBは4~8であり、より好ましくは6~8である。
【0012】
HLBは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0~20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。同算出方法では、HLB値は、算術平均として算出される。例えば、HLB2の乳化剤とHLB4の乳化剤とを1:1(質量割合)で含有する場合、乳化剤全体のHLBは3となる。
【0013】
また、乳化剤Aのポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。さらに、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の割合が、70~100質量%であることがより好ましく、80~98質量%であることがさらに好ましい。
構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量を上記範囲とすることで、本発明の冷凍食品用油脂組成物の低温下での固化を防ぐことができる。なお、本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとは別のものとして扱う。
【0014】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの不飽和脂肪酸は、例えば炭素数16~22、好ましくは炭素数18~22、より好ましくは炭素数18~20の直鎖状不飽和脂肪酸を用いることができる。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びエルカ酸から選ばれる1種又は2種以上の不飽和脂肪酸が好ましい。特に好ましくは、構成脂肪酸の65~100質量%がオレイン酸であることが好ましい。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸をエステル化して合成されたものである。ポリグリセリン脂肪酸エステルの原料として使用されるポリグリセリンは一般には、グリセリンを原料として苛性ソーダなどのアルカリ触媒の存在下、高温にて脱水縮合し、必要に応じて蒸留、脱臭、脱色して得られる。これらポリグリセリン脂肪酸エステルの原料であるポリグリセリンは、反応ポリグリセリンとも呼ばれ、重合度の異なるポリグリセリンの混合物であり、重合度分布の広いものである。
【0016】
乳化剤Aを構成するポリグリセリンの重合度は特に限定されず、乳化剤AのHLBが4~8となる範囲で適宜設計することができる。乳化剤Aを構成するポリグリセリンの重合度は、具体的には2~40とすることができる。乳化剤Aを構成するポリグリセリンの重合度は、好ましくは2~12であり、より好ましくは2~6であり、さらに好ましくは2~4である。また、本発明の冷凍食品用油脂組成物では、乳化剤Aとして、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はトリグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有することが好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、重合度4以上のものは、単離することが困難なため、様々なエステル化度のポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物であることを許容する。また、重合度4未満のものは、様々なエステル化度の混合物の他、高純度にしたものを用いることができる。このようなポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ジグリセリル、モノリノール酸ジグリセリル、モノリノレン酸ジグリセリル、モノエルカ酸ジグリセリルなどのモノエステルを例示できる。また、ジオレイン酸ジグリセリル、ジリノール酸ジグリセリル、ジリノレン酸ジグリセリル、ジエルカ酸ジグリセリルなどのジエステルを例示できる。これらのモノエステル、ジエステルは、高純度のエステルの他、その混合物、あるいはトリエステル以上のエステルを含む混合物であってもよい。また、平均エステル化度がモノエステルとジエステルの間であるモノ・ジオレイン酸ジグリセリンをより好適に例示できる。
【0018】
乳化剤Aの含有量は、油脂組成物(100質量%)中に好ましくは0.4~8質量%、より好ましくは1~5質量%、さらに好ましくは1~2質量%である。
乳化剤Aを上記範囲で含有する冷凍食品用油脂組成物は、冷凍焼けの抑制効果に優れる。
【0019】
(2)乳化剤B
有機酸モノグリセリド(有機酸MG)は、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド)の水酸基に有機酸が結合した構造を有する。有機酸モノグリセリドを構成する有機酸としては、クエン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、及び酪酸等を好適に使用できる。
【0020】
本発明で使用できる有機酸モノグリセリドの例としては、コハク酸モノオレイン酸グリセリン、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、クエン酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノオレイン酸グリセリン、乳酸モノオレイン酸グリセリン、乳酸モノステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。
また、有機酸モノグリセリドのHLBは4~10であることが好ましく、6~10であることがより好ましく、6~8がさらに好ましい。
【0021】
本発明においては、有機酸モノグリセリドを構成する有機酸がクエン酸であることが好ましい。クエン酸モノグリセリドを含む本発明の冷凍食品用油脂組成物は、冷凍焼けを抑制する効果に優れる。
【0022】
また、本発明で用いるクエン酸モノグリセリドは、構成脂肪酸が炭素数12~24の直鎖脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸等)が好ましく、オレイン酸がより好ましい。前記クエン酸モノグリセリドの好ましい例として、クエン酸オレイン酸モノグリセリドが挙げられる。
【0023】
モノグリセリドは、油脂の精製工程(脱臭工程)にて、除去される成分であり、本発明ではグリセリンと脂肪酸から合成されたモノグリセリドを用いることができる。モノグリセリドの合成反応は、アルカリ触媒の存在下、又は無触媒で、グリセリンと脂肪酸を加熱エステル化して、製造できる。ここで、アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。なお、モノグリセリドを、アルカリ触媒を用いて製造した場合、通常、アルカリ触媒由来のアルカリ金属が脂肪酸塩として残存しているモノグリセリドが得られ、精製度の低いものはアルカリ金属が残存しているが、本発明においては、アルカリ金属(脂肪酸塩)を含むものでも除去したものでも用いることができる。
【0024】
また、モノグリセリドの合成において、ジグリセリドが副生し、蒸留によりモノグリセリドの純度を高めることも行われるが、本発明においては、モノグリセリドの純度を高めた製品を用いることもでき、ジグリセリドを含む未精製/あるいは精製度の低い製品を用いることもできる。
【0025】
モノグリセリドを構成する脂肪酸は、炭素数8~22の脂肪酸であることが好ましく、それらの混合脂肪酸でもよい。モノグリセリドを構成する構成脂肪酸中の総炭素数8~22の不飽和脂肪酸は60質量%以上であることが溶解性の点からより好ましく、総炭素数8~22の不飽和脂肪酸は70質量%以上であることがさらに好ましい。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸から選ばれる1種以上であることが好ましく、オレイン酸、及び/又はリノール酸を含むことがより好ましい。また、構成脂肪酸中のオレイン酸、及び/又はリノール酸の割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
また、モノグリセリドのHLBは、2~8であることが好ましく、3~8がより好ましく、3~5がさらに好ましい。
【0026】
油脂組成物(100質量%)中における乳化剤Bの含有量は、冷凍焼けの抑制効果を向上させる観点では、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。
【0027】
また、油脂組成物(100質量%)中における乳化剤Bの含有量は、ほぐれ性を向上させる観点では、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
なお、本明細書において「ほぐれ性」とは、本発明を適用した冷凍食品を解凍した後、食品を構成する複数の要素同士が付着せずにほぐれる性質をいう。
【0028】
乳化剤Bの含有量は、冷凍焼けとほぐれ性を両立させる観点では、油脂組成物(100質量%)中に好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.5~3質量%、特に好ましくは1~3質量%である。
【0029】
乳化剤A及び乳化剤Bの含有量の合計は、冷凍焼けの抑制効果を向上させる観点では、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.2質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上である。
【0030】
乳化剤A及び乳化剤Bの含有量の合計は、ほぐれ性を向上させる観点では、好ましくは11質量%以下、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0031】
冷凍焼けとほぐれ性を両立させる観点では、乳化剤A及び乳化剤Bの含有量の合計は、0.5~11質量%とすることが好ましく、1.2~6質量%とすることがより好ましく、1.5~4質量%とすることがさらに好ましく、2~4質量%とすることが特に好ましい。
【0032】
また、乳化剤Aと乳化剤Bの含有量の質量比は、冷凍焼けの抑制効果を向上させる観点では、乳化剤Aを1とした場合、乳化剤Bの割合が好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上である。
【0033】
乳化剤Aと乳化剤Bの含有量の質量比は、ほぐれ性を向上させる観点では、乳化剤Aを1とした場合、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である。
【0034】
乳化剤Aと乳化剤Bの含有量の質量比は、冷凍焼けとほぐれ性を両立させる観点では、好ましくは1:0.05~1:20、より好ましくは1:0.1~1:10、より好ましくは1:0.2~1:5、さらに好ましくは1:0.5~1:3、特に好ましくは1:1~1:3である。
【0035】
本発明の冷凍食品用油脂組成物は、上述の乳化剤A及び乳化剤B以外の乳化剤を含んでもよい。その他の乳化剤としては、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及びレシチン等が好ましく挙げられる。
【0036】
(3)油脂
本発明の冷凍食品用油脂組成物は、油脂を含む。
油脂としては、動植物油脂、グリセリンと脂肪酸から合成した油脂及びそれらの分別油脂、エステル交換油、水素添加油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。
動植物油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、エゴマ油、亜麻仁油、落花生油、グレープシード油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。
グリセリンと脂肪酸から合成した油脂としては、炭素数6~12、好ましくは炭素数8~10の直鎖状飽和脂肪酸を含有する油脂、例えば炭素数8~10の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。
分別油としては、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクションなどのパーム油の分別油が挙げられる。
エステル交換油としては、パーム油あるいはパーム油の分別油と他の液状油脂のエステル交換油、あるいはMCTと植物油などとのエステル交換油を用いることができる。
水素添加油は、動植物油、動植物油の分別油の水素添加油の他、エステル交換油の水素添加油などが挙げられる。
【0037】
本発明で用いる油脂につき、室温(25℃±5℃)で流動性を失う油脂は、澱粉含有食品への適用(コーティング)時に加熱により溶解させる必要があるので、30℃で流動性を有する態様の油脂が好ましい。原料油脂の一部が30℃で固体であっても、他の原料油脂と併用して用いることによって、油脂全体として流動性を有していれば好適に使用できる。20℃で流動性を有する油脂がより好ましく、20℃で液状である油脂がさらに好ましい。特に、融点の低い液状油脂でありながら、酸化安定性も良好であるという利点を有することから、油脂の構成脂肪酸に炭素数6~12、好ましくは炭素数8~10の直鎖状飽和脂肪酸を含有する油脂、菜種油、大豆油、コーン油、パームオレイン、オリーブ油、及びこれらの混合物などを好適に使用することができる。
【0038】
本発明の冷凍食品用油脂組成物は、油脂組成物(100質量%)中の油脂量が、89~99.5質量%であることが好ましく、90~99.5質量%であることがより好ましく、95~99.5質量%であることがさらに好ましく、98~99質量%であることが最も好ましい。
【0039】
(4)その他
本発明の冷凍食品用油脂組成物には、上記成分以外にも、澱粉含有食品用油脂組成物に一般的に配合される原材料を使用することができる。具体的には、例えば、エタノール、pH調整剤、調味剤、着色料、香料、酸化防止剤、糖類、増粘多糖類、糖アルコール類、安定剤、乳化剤等を使用することができる。これらの成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、冷凍食品用油脂組成物(100質量%)中に10質量%以下含有させることができ、好ましくは0~3質量%又は0質量%を超え3質量%以下、より好ましくは0~1質量%又は0質量%を超え1質量%以下含有させることができる。
【0040】
本発明の冷凍食品用油脂組成物は、澱粉含有食品の冷凍焼けの抑制のために好適に用いられる。澱粉含有食品としては、小麦粉、そば粉、米粉、片栗粉、くず粉、アワ粉、こんにゃく粉、及びタピオカ粉等の穀物粉を主体とする原料を水等と混錬して作成される加工食品を挙げることができる。澱粉含有食品としては、例えば、そば、うどん、ソーメン、冷や麦、中華麺、米粉麺、冷麺、パスタ(ロングパスタ)等の麺類、すいとん、マカロニ、ショートパスタ、ぎょうざの皮、春巻きの皮等の麺類以外の練り製品、及び、ご飯、チャーハン、カレーライス、丼物等の飯類が挙げられる。中でも、パスタ等の麺類に好適に用いられる。
【0041】
本発明の冷凍食品用油脂組成物は、冷凍処理前の対象食品にコーティングして用いることができる。コーティング手法としては噴霧、塗布、又は浸漬等が挙げられる。
【0042】
冷凍食品用油脂組成物の適用(コーティング)量は、対象食品100質量部に対して、好ましくは0.1~7質量部、より好ましくは0.2~5.0質量部、さらに好ましくは1~3質量部である。
【0043】
本発明の冷凍食品用油脂組成物を澱粉含有食品に適用する場合、澱粉含有食品を90~100℃程度の湯で茹でた直後、あるいは、当該茹でた澱粉含有食品を冷却して室温(25℃±5℃)とした後に適用する実施形態としてもよい。
【0044】
[冷凍食品の製造方法]
本発明の冷凍食品の製造方法は、対象食品を冷凍食品用油脂組成物でコーティングし、冷凍処理を行う工程を含む。本発明の製造方法により、冷凍焼けが抑制された食品を製造することができる。なお、各用語の定義や好ましい態様の詳細は、前述の通りである。
【0045】
本発明で製造する冷凍食品は、澱粉含有食品であることが好ましく、パスタ等の麺類であることがより好ましい。
【0046】
冷凍処理は、急速冷凍、緩慢冷凍等の従来公知の方法を用いて実施することができる。冷凍焼けを抑制する観点から、急速冷凍を採用することが好ましい。急速冷凍は、-15℃以下、特に-40℃以下の条件で行うことが好ましい。急速冷凍後は、通常の冷凍保存条件(-20~-18℃)で保存することができる。
【0047】
本発明の製造方法により得られた冷凍食品は、解凍して喫食される。解凍方法は、電子レンジ、ボイル、加熱蒸気等の処理による急速解凍や、自然解凍、緩慢解凍など任意の方法を採用できる。冷凍食品の品質を保持するため、急速解凍、及び/又は加湿条件で解凍することが好ましい。
【0048】
[冷凍焼けの抑制方法]
本発明の冷凍焼けの抑制方法は、冷凍処理前の対象食品を冷凍食品用油脂組成物でコーティングする工程を含む。各用語の定義や好ましい態様の詳細は、前述の通りである。
本発明の冷凍焼けの抑制方法によれば、冷凍食品の冷凍焼けを抑制することができる。
【実施例0049】
次に、実施例、比較例及び参考例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0050】
[冷凍食品用油脂組成物の製造]
表1の配合にて、各原料が溶解するまで加熱し、混合し、冷凍食品用油脂組成物を得た。また、使用した原材料は以下の通りである。
・菜種油(日清オイリオグループ株式会社製 精製キャノーラ油 商品名「日清キャノーラ油」、構成脂肪酸:パルミチン酸4質量%、ステアリン酸1.9質量%、オレイン酸61.4質量%、リノール酸19.9質量%、リノレン酸9質量%)
・ポリグリセリン脂肪酸エステル(モノ・ジオレイン酸ジグリセリン、太陽化学株式会社製 商品名「サンソフトQ-17B」:HLB6.5)
・有機酸モノグリセリド(クエン酸モノオレイン酸グリセリル、太陽化学株式会社製 商品名「サンソフトNo.623M」:HLB7)
・モノグリセリド(蒸留モノグリセリド、理研ビタミン株式会社製 商品名「エマルジーMU」:リノール酸約75%、オレイン酸約10%、HLB4.2)
・プロピレングリコールエステル(モノオレイン酸プロピレングリコール、理研ビタミン株式会社製 商品名「リケマールPO-100V」:HLB3.6)
【0051】
次いで、乾麺(日清フーズ株式会社 商品名「マ・マー スパゲッティ 1.6mm」)100gを7分間茹で、その後、湯切り、冷水で冷却し、水をよく切り茹で麺を得た。茹で麺100質量部に対して、2質量部の冷凍食品用油脂組成物を添加・混合し、実施例1~9及び比較例1~3の茹で麺を得た。
【0052】
さらに、乾麺(日清フーズ株式会社 商品名「マ・マー スパゲッティ 1.6mm」)100質量部を7分間茹で、その後、湯切り、冷水で冷却し、水をよく切り茹で麺(参考例1)を得た。
【0053】
続いて、得られた茹で麺について、冷凍焼け評価及びほぐれ性評価を行った。
【0054】
[冷凍焼け評価]
各パスタ120質量部を四角いトレーに盛り付け、-40℃まで急速冷凍した。その後、-18℃で2週間保管した。2週間後、凍ったままのパスタをデジタルカメラで撮影し、画像処理を行い、冷凍焼けの面積を評価した。なお、画像処理には、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス 商品名「デジタルマイクロスコープVHX-5000」)を用い、冷凍焼けしている部分を指定し、それと同じ色の部分の面積を算出し、パスタの全面積に対する割合(%)として算出した。なお、同割合が少ないほど、冷凍焼けが抑制されることを示す。
【0055】
[ほぐれ性評価]
各パスタを開口部10cm×10cm、深さ2.6cmの容器に詰めて、-40℃まで急速冷凍した。その後、-18℃で1日保管し、電子レンジで解凍後(表面温度約40℃)、ステンレスの平面から1mの高さに当該容器を設置し、当該容器からステンレス面に向けて麺を落下させ、分散した麺の最大距離(最大径)を測定し、各サンプルの麺の最大距離から10cmを除した値を麺のほぐれ性とした(下記式参照)。
・麺のほぐれ性(cm)=(サンプルの麺の最大距離)-10(cm)
数値が大きいほど、麺が広く分散しており、ほぐれ性がよいことを示す。
【0056】
冷凍焼け及びほぐれ性の評価結果は、以下の表1の通りである。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1~9の油脂組成物を添加した麺は、参考例1、比較例1~3を添加した麺と比較し、冷凍焼けが抑制されていた。すなわち、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、有機酸モノグリセリド又はモノグリセリドとを含有する本発明の冷凍食品用油脂組成物を添加した場合、より冷凍焼けが抑制されることが明らかとなった。また、有機酸モノグリセリドの含有量が多い方が、麺の冷凍焼けがより抑制されていた(実施例1~8)。
【0059】
さらに、実施例2~7を塗布した麺は、冷凍焼けが抑制されるだけでなく、麺のほぐれ性にも優れていた。中でも、実施例3~6は、冷凍焼けの抑制効果と麺のほぐれ性のバランスが最もよい結果となった。
【0060】
上述の実施例の結果より、油脂と、下記の乳化剤A及び乳化剤Bを含む冷凍食品用油脂組成物は、麺に塗布することで、麺の冷凍焼けを抑制することができることが示された。
乳化剤A:HLB4~8のポリグリセリン脂肪酸エステル
乳化剤B:有機酸モノグリセリドとモノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、澱粉含有食品等の冷凍焼けが生じる冷凍食品の製造に応用することができる。