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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111438
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】経口用乳酸菌組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20230803BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230803BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20230803BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230803BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20230803BHJP
【FI】
A61K35/744
A23L33/135
A61K35/745
A61K35/747
A61P25/18
A61P25/00 101
C12N1/20 A
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013298
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】遠野 雅徳
(72)【発明者】
【氏名】豊田 淳
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF13
4B065AA21X
4B065AA30X
4B065AA39X
4B065AA49X
4B065AC14
4B065BB04
4B065CA42
4B065CA43
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087BC56
4C087BC57
4C087BC59
4C087BC61
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA18
(57)【要約】
【課題】 脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む組成物を提供すること。
【解決手段】 本開示の組成物は、脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む組成物であって、該菌株は、カテコール骨格を有する化合物、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇することを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む組成物であって、該菌株は、カテコール骨格を有する化合物、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇する、組成物。
【請求項2】
脳神経系に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脳神経系に直接または間接に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
神経発達/精神学的状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患は、フレイル、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症、睡眠障害、読字障害、知的能力障害、学習障害、記憶障害、レット症候群、精神症状、不安症群およびストレス因関連障害群、解離症群、摂食障害群、気分障害、強迫症およびその関連症群、パーソナリティ障害、統合失調症およびその関連症群、セクシュアリティ・性別違和・パラフィリア、身体症状症およびその関連症群、自殺行動および自傷行為、ならびに物質関連障害群からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患の処置または予防は、精神発達の促進を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患は、摂食障害群、および/または不安症群およびストレス因関連障害群を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記カテコール骨格を有する化合物が、ピロカテコールまたはその塩、(-)-エピネフリン(アドレナリン)またはその塩、L-(-)-ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)またはその塩、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(L-ドパ)またはその塩、ドパミンまたはその塩、ドブタミンまたはその塩、(-)-イソプロテレノールまたはその塩、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸またはその塩、3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸またはその塩、塩酸(R)-(+)-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-(1H)3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、塩酸cis-(±)-1-(アミノメチル)-3,4-ジヒドロ-3-フェニル-1H-2-ベンゾピラン-5,6-ジオール、臭化水素酸4-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロ-チエノ[2,3-c]ピリジン、一臭化水素酸6-クロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、臭化水素酸(±)-6-クロロ-7,8-ジヒドロキシ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピン、臭化水素酸R(-)-2,10,11-トリヒドロキシ-N-プロピル-ノルアポルフィン水和物、塩酸R(-)-プロピルノルアポモルフィン、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸および3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸ならびにそれらの溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物が、フェルラ酸、ヒドロキシフェルラ酸、バニリン酸、カプサイシン、4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)、DL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩、DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)、3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩、ホモバニリン酸(HVA)、バニリン酸(VA)、ホモバニリルアルコール(MOPET)、およびメタネフリン(Metanephrine)塩酸塩、グアイアコール(2-メトキシフェノール)、4-メトキシフェノール、ギンゲロール、ショウガオール、バニリン酸ジエチルアミド、イソオイゲノール、オイゲノール、イソバニリン酸、o-バニリン、トランスフェルラ酸、イソフェルラ酸、イソクレオソール、4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オン、ヘスペレチン、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸、イソバニリルアルコール、クレオソール、o-バニリン酸、バニリン酸メチル、メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩、5-ニトログアイアコール、スコポレチン、シリビン、バニリルアルコール、バニリン酸エチル、コニフェリルアルコールならびにそれらの塩および溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ラクチカゼイバチルス属、ラクチプランチバチルス属、およびビフィドバクテリウム属からなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、またはラクチプランチバチルス属である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記乳酸菌は、ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ラクチプランチバチルス・プランタルムは、Lactobacillus plantarum TO1002株(NITE P-960)を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記乳酸菌は、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記ラクチカゼイバチルス・カゼイは、Lactobacillus casei LOOC82株(NITE P-1310)を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ストレス負荷による摂食障害を改善するための、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
精神状態を改善するための、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
記憶能力を改善するための、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
生菌を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
飲食品、食品添加物、飼料、サプリメント、または医薬である、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乳酸菌に属する菌株を含む組成物に関する。とりわけ本開示は、脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む組成物、それを含有する飲食品、食品添加物、飼料、サプリメント、または医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢の存在や多様性により、動物の情動、ストレス応答、行動様式が変化する知見が幾つか報告されている。腸内細菌叢を持たない成熟マウスの行動様式は、腸内細菌叢を持つ成熟マウスよりも危険度が高く大胆となり、一般的に警戒心が強いマウスの行動様式とは大きく異なることが明らかになっている。すなわち、腸内細菌叢の組成によって宿主であるヒトや哺乳動物におけるストレス応答や行動様式にも影響が及ぼされていると考えられている。そのため、脳神経系または身体的に関連する状態等を処置または予防するための組成物が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らはこれまでに、特定の乳酸菌が、動物体内(神経系や消化管)や植物体内においてホルモンやストレス性神経伝達物質として生理的作用を発揮しているカテコールアミンやその代謝産物であるグアイアコール骨格を有する化合物によって、増殖促進することを見出している。本開示は、その特定の乳酸菌を利用し、脳神経系または身体的に関連する状態等を処置または予防するための組成物を提供する。
【0004】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む組成物であって、該菌株は、カテコール骨格を有する化合物、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇する、組成物。
(項目2)
脳神経系に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む、上記項目に記載の組成物。
(項目3)
脳神経系に直接または間接に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目4)
神経発達/精神学的状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)
前記脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患は、フレイル、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症、睡眠障害、読字障害、知的能力障害、学習障害、記憶障害、レット症候群、精神症状、不安症群およびストレス因関連障害群、解離症群、摂食障害群、気分障害、強迫症およびその関連症群、パーソナリティ障害、統合失調症およびその関連症群、セクシュアリティ・性別違和・パラフィリア、身体症状症およびその関連症群、自殺行動および自傷行為、ならびに物質関連障害群からなる群より選択される、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
前記脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患の処置または予防は、精神発達の促進を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
前記脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患は、摂食障害群、および/または不安症群およびストレス因関連障害群を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記カテコール骨格を有する化合物が、ピロカテコールまたはその塩、(-)-エピネフリン(アドレナリン)またはその塩、L-(-)-ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)またはその塩、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(L-ドパ)またはその塩、ドパミンまたはその塩、ドブタミンまたはその塩、(-)-イソプロテレノールまたはその塩、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸またはその塩、3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸またはその塩、塩酸(R)-(+)-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-(1H)3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、塩酸cis-(±)-1-(アミノメチル)-3,4-ジヒドロ-3-フェニル-1H-2-ベンゾピラン-5,6-ジオール、臭化水素酸4-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロ-チエノ[2,3-c]ピリジン、一臭化水素酸6-クロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、臭化水素酸(±)-6-クロロ-7,8-ジヒドロキシ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピン、臭化水素酸R(-)-2,10,11-トリヒドロキシ-N-プロピル-ノルアポルフィン水和物、塩酸R(-)-プロピルノルアポモルフィン、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸および3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸ならびにそれらの溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
前記グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物が、フェルラ酸、ヒドロキシフェルラ酸、バニリン酸、カプサイシン、4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)、DL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩、DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)、3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩、ホモバニリン酸(HVA)、バニリン酸(VA)、ホモバニリルアルコール(MOPET)、およびメタネフリン(Metanephrine)塩酸塩、グアイアコール(2-メトキシフェノール)、4-メトキシフェノール、ギンゲロール、ショウガオール、バニリン酸ジエチルアミド、イソオイゲノール、オイゲノール、イソバニリン酸、o-バニリン、トランスフェルラ酸、イソフェルラ酸、イソクレオソール、4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オン、ヘスペレチン、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸、イソバニリルアルコール、クレオソール、o-バニリン酸、バニリン酸メチル、メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩、5-ニトログアイアコール、スコポレチン、シリビン、バニリルアルコール、バニリン酸エチル、コニフェリルアルコールならびにそれらの塩および溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記項目のいずれか一項記載の組成物。
(項目10)
前記乳酸菌は、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ラクチカゼイバチルス属、ラクチプランチバチルス属、およびビフィドバクテリウム属からなる群より選択される、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
前記乳酸菌は、ラクトバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、またはラクチプランチバチルス属である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目12)
前記乳酸菌は、ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目13)
前記ラクチプランチバチルス・プランタルムは、Lactobacillus plantarum TO1002株(NITE P-960)を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
前記乳酸菌は、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei)である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目15)
前記ラクチカゼイバチルス・カゼイは、Lactobacillus casei LOOC82株(NITE P-1310)を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目16)
ストレス負荷による摂食障害を改善するための、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
精神状態を改善するための、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目18)
記憶能力を改善するための、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目19)
生菌を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目20)
飲食品、食品添加物、飼料、サプリメント、または医薬である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
【0005】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0006】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0007】
本開示の組成物を用いることで、脳神経系処置または予防に関連する状態等を処置または予防することができる。また摂食障害改善、飼料摂取量の増加効果、精神・行動発達の促進、目標指向行動改善、無気力改善、内発的動機改善、うつ病/ストレス/精神障害等の改善、記憶能力改善などの効果や多機能性・相乗性を期待できるため、医療分野への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る組成物を投与した群と、投与していない群とを比較した行動試験期間中の総摂食量を示すグラフである。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る組成物を投与した群と、投与していない群とを比較した最終増体重を示すグラフである。
図3図3は、本開示の一実施形態における巣作り行動試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、本開示の一実施形態におけるY字迷路試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0011】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0012】
本明細書において、「脳神経系に関連する状態、障害、または疾患」とは、少なくとも部分的に、神経系の中でも脳神経の機能や特性の変化によって引き起こされる任意の状態、障害、または疾患を指す。対象の脳神経の状態の変化によって、対象が疾患を発症するリスクを増加させるか、疾患に対する対象の感受性を増加させるか、疾患関連分子の産生を引き起こすか、または細胞を病気にかからせるか、もしくは異常な状態になるなどの場合には、少なくとも部分的に、脳神経の機能や特性の変化によって状態、障害、または疾患が引き起こされる。脳神経系に関連する状態、障害、または疾患には以下が含まれるがこれに限定されない:フレイル、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症、睡眠障害、読字障害、知的能力障害、学習障害、記憶障害、レット症候群、精神症状、不安症群およびストレス因関連障害群、解離症群、摂食障害群、気分障害、強迫症およびその関連症群、パーソナリティ障害、統合失調症およびその関連症群、セクシュアリティ・性別違和・パラフィリア、身体症状症およびその関連症群、自殺行動および自傷行為、ならびに物質関連障害群、新型うつ、アパシー、目標指向行動欠如、内発的動機欠如、やる気欠如。
【0013】
本明細書において、「身体的に関連する状態、障害、または疾患」とは、少なくとも部分的に、身体の機能や特性の変化によって引き起こされる任意の状態、障害、または疾患を指す。対象の身体の状態の変化によって、対象が疾患を発症するリスクを増加させるか、疾患に対する対象の感受性を増加させるか、疾患関連分子の産生を引き起こすか、または細胞を病気にかからせるか、もしくは異常な状態になるなどの場合には、少なくとも部分的に、身体の機能や特性の変化によって状態、障害、または疾患が引き起こされる。身体的に関連する状態、障害、または疾患には、フレイルなどを挙げることができるが、これに限定されない。
【0014】
本明細書において、「神経発達/精神学的状態、障害、または疾患」とは、少なくとも部分的に、神経発達の程度や精神の状態の変化によって引き起こされる任意の状態、障害、または疾患を指す。対象の神経発達の程度や精神の状態の変化によって、対象が疾患を発症するリスクを増加させるか、疾患に対する対象の感受性を増加させるか、疾患関連分子の産生を引き起こすか、または細胞を病気にかからせるか、もしくは異常な状態になるなどの場合には、少なくとも部分的に、身体の機能や特性の変化によって状態、障害、または疾患が引き起こされる。神経発達/精神学的状態、障害、または疾患には、以下が含まれるがこれに限定されない:フレイル、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症、睡眠障害、読字障害、知的能力障害、学習障害、記憶障害、レット症候群、精神症状、不安症群およびストレス因関連障害群、解離症群、摂食障害群、気分障害、強迫症およびその関連症群、パーソナリティ障害、統合失調症およびその関連症群、セクシュアリティ・性別違和・パラフィリア、身体症状症およびその関連症群、自殺行動および自傷行為、ならびに物質関連障害群、新型うつ、アパシー、目標指向行動欠如、内発的動機欠如、やる気欠如。
【0015】
本明細書において、「精神発達の促進」とは、最広義に解釈され、対象の成長の過程によって生じる系列的な心的機能が促進することを指す。対象の精神の機能や構造が、成長とともに分化や統合していく過程についても、本明細書における精神発達の促進に含まれる。精神発達の促進には、探索心、操作性、社会性、食事、生活集団(対人関係)、言語などの発達促進が含まれるが、これに限定されない。
【0016】
本明細書において、「フレイル」とは、最広義に解釈され、加齢によって身体と心の活力が低下した状態であって、身体や精神、または社会的なネットワークの脆弱化により介護が必要となる前段階を意味する多面的概念である。「フレイル」は、しかるべき介入により健常な状態に戻るという可逆性を包含する概念である。具体的には、筋肉の減少や肺活量の低下等の「身体的な衰え」、記憶力の低下や気分的な鬱等の「精神・心理的な衰え」、社会的な孤立、経済力の不足や引きこもり等の「社会的な衰え」が挙げられる。
【0017】
本明細書において、「ストレス因関連障害群」とは、最広義に解釈され、ストレスや心的外傷の強い出来事への曝露が関与する障害群をいう。例えば、急性ストレス障害(ASD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを挙げることができ、ストレスや心的外傷の発生に伴い発症する。
【0018】
本明細書において、「摂食障害群」とは、最広義に解釈され、摂食または摂食に関連する行動に関する持続的な障害であって、食物の摂取または吸収を変容させたり、身体的健康および/または心理社会的機能を大きく損なうことを伴う。具体的な摂食障害群としては例えば、神経性やせ症、回避・制限性食物摂取症、過食性障害、神経性過食症、異食症、反芻症などを挙げることができる。
【0019】
本明細書において、「ストレス負荷による摂食障害」とは、最広義に解釈され、ストレスや心的外傷の発生に伴って発症する摂食障害群をいう。
【0020】
本明細書において、「不安症群」とは、最広義に解釈され、神経過敏や心配事による苦痛で不快な感情状態を指す。脅威が生じる時期と不安との間の関連性が弱いことが特徴であり、不安は脅威の前に予期される場合もあれば、脅威が去った後に持続する場合や、確認可能な脅威なしに生じる場合もある。不安症の原因は精神医学的因子と身体的因子の両方が関与している。また一部の身体疾患によっても不安症が生じることがあり、例えば、原因としては、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、心不全、不整脈、喘息、慢性閉塞性肺疾患などが挙げられる。また不安症は、コルチコステロイド,コカイン,アンフェタミン類,およびカフェインなどによっても引き起こされる可能性があり、アルコール、鎮静薬、および一部の違法薬物からの離脱によっても引き起こされる可能性がある。
【0021】
本明細書において、「精神状態」とは、最広義に解釈され、対象の精神の状態であって、対象の感情や気分の安定性、または対象の感情や気分の明暗などを示す。
【0022】
本明細書において、「記憶能力」とは、最広義に解釈され、物事を記憶する能力であって、過去の経験の内容を保持し、後でそれを思い出すことをいう。具体的には、即時記憶、近時記憶、短期記憶、長期記憶等を挙げることができる。
【0023】
本明細書において、「生菌」とは、最広義に解釈され、生きた状態の菌であり、菌の培養液、当該培養液の懸濁物、粗精製物、精製物、またこれらの生きた菌を凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させた菌体粉末なども含まれ、生きた状態である限り制限されない。生菌であるかどうかは、例えば、寒天等の支持体に栄養素を含ませた固体培地にコロニーが形成されることによって確認することができる。
【0024】
本明細書において「医薬」とは、当該分野でもっとも広義に解釈され、任意の薬を含み、薬事法上の医薬品、医薬部外品等のほか、人に適用するものだけでなく、動物に適用するもの(獣医薬)をも包含する概念として使用され、腸内細菌叢バランスの改善等のプロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクスの効果によって、それを必要とする疾患、障害または状態の治療または予防を意図する任意の用途の薬剤、組成物等を包含することが理解される。そのような例として、医療分野、獣医科学等における応用が挙げられる。通常、医薬は固体または液体の賦形剤を含むとともに、必要に応じて崩壊剤、香味剤、遅延放出剤、滑沢剤、結合剤、着色剤などの添加剤を含むことができる。医薬品の形態は、錠剤、注射剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、徐放製剤などを含むが、これらに限定されない。本発明の成分、微生物、化合物、プロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等は、医薬的に許容されうる一般的な担体または賦形剤などの成分と一緒にして医薬組成物とすることができる。
【0025】
本明細書において「飲食品」とは、当該分野で日常的に使用される意味を有し、人間が食することができるすべての食料(飲料を含む)を指し、一実施形態としては加工品を挙げることができる。たとえば菓子類、乳製品、穀類加工品などの加工食品に、本発明の成分、微生物、化合物、プロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等を混入させることができる。また、「健康食品」および「機能性食品」とは、業界で一般的に使用される意味を有し、腸内細菌叢バランスの改善等のプロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクスのために特別に処方された、医薬品または一般の食品とは区別される食品の一種を指す。このような食品の例としては、例えば、食事前または食事とともに被験者に一定期間摂取させる食品を想定することができるがこれに限定されない。
【0026】
本明細書において「飼料」とは、当該分野で日常的に使用される意味を有し、人間以外の動物が食することができるすべての食料(飲料を含む)を指し、一実施形態としては加工品を挙げることができる。たとえば加工飼料に、本発明の成分、微生物、化合物、プロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等を混入させることができる。このような飼料の例としては、例えば、飼料摂取前に家畜等の動物に一定期間摂取させる飼料を想定することができるがこれに限定されない。すなわち、本発明の成分、腸内細菌叢バランスの改善等のプロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等の効果は、動物に対しても有効であるので、公知の一般的な栄養成分と組み合わせて、またはさらに他の有効成分と組み合わせて、本発明の成分、微生物、化合物、プロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等を含有する飼料(ペットフード、家畜用飼料など)とすることもできる。
【0027】
本明細書において「食品添加物」とは、主成分に対して、何らかの目的で添加される任意の薬剤をいう。例えば、腸内細菌叢バランスの改善等のプロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等のための添加剤等を例示することができる。
【0028】
本明細書において、「サプリメント」とは、栄養素等を補うための栄養補助食品等を意味するだけではなく、健康の保持、回復、増進等のために役立つ機能(例えば、体重増加抑制、体脂肪蓄積抑制等の抗肥満作用、又は痩身作用)等を有する健康機能食品等をも意味する。
【0029】
本明細書において「疾患」、「障害」および「状態」は、交換可能に用いられ、最広義に解釈され、人間や動物の心や体に不調または不都合が生じた状態をいい、病気、障害、種々の症状等、具体的に定義されていない健康な状態とは言えない任意の状態を指す。
【0030】
本明細書における、「処置」とは、医師またはその同等の実務者により疾患を発症していると診断をされた個体(被験者、患者)に対して、例えば、本開示の有効成分を投与する行為であり、例えば、疾患や症状を軽減、緩和、または改善すること、被験者内の疾患の原因因子を取り除くこと、または疾患発症前の状態に戻すことを目的とするものである。
【0031】
本明細書における、「予防」とは、対象となる疾患を発症していない個体に対して本開示の有効成分を投与する行為であり、例えば、疾患の発症を防止することを目的とするものである。ワクチンは予防を目的とした医薬の代表例といえる。本開示では、予防は、疾患の原因因子が対象内に存在する場合であっても、発症していなければ通常疾患状態とは判断されないことから、このような状態であっても、処置の対象とすることができ、予防を行うということができる。
【0032】
本明細書において「カテコール骨格を有する化合物」とは、カテコール(o-ジヒドロキシベンゼン)骨格を有する任意の化合物を意味する。カテコール骨格を有する化合物は、いずれの異性体(光学異性体等)であってもよく、D/L体がある場合、両方をさすことが理解される。このような物質としては、例えば、ピロカテコール、カテコールアミン類、カテコール骨格含有カテキン類(たとえば、カテキン、カテキンガラート、エピカテキン、エピカテキンガラート)、ウルシオール(例えば、7-ヘプタデシルカテコ-ル(3B Scientific Corporationから入手可能))などを挙げることができるがこれらに限定されない。例えば、ピロカテコールまたはその塩、(-)-エピネフリン(相当するD体、L体またはD/L体を含む)またはその塩、L-(-)-ノルエピネフリン(相当するD体、L体またはD/L体を含む)またはその塩、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(L-ドパ)(相当するD体、L体またはD/L体を含む)またはその塩、およびドパミンまたはその塩、ドブタミンまたはその塩、(-)-イソプロテレノールまたはその塩、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸またはその塩、3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸またはその塩、(R)-(+)-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-(1H)3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオールまたはその塩、cis-(±)-1-(アミノメチル)-3,4-ジヒドロ-3-フェニル-1H-2-ベンゾピラン-5,6-ジオールまたはその塩、4-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロ-チエノ[2,3-c]ピリジンまたはその塩、6-クロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオールまたはその塩、(±)-6-クロロ-7,8-ジヒドロキシ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピンまたはその塩、R(-)-2,10,11-トリヒドロキシ-N-プロピル-ノルアポルフィン水和物またはその塩、R(-)-プロピルノルアポモルフィン、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸またはその塩および3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸またはその塩、ならびに存在する場合これらに相当するD体、L体またはD/L体が挙げられる。さらに好ましくは、ピロカテコール、(-)-エピネフリン、(+)-酒石酸水素(-)-エピネフリン、塩酸(-)-エピネフリン、L-(-)-ノルエピネフリン、(+)-酒石酸水素L-(-)-ノルエピネフリン一水和物、L-ドパ、塩酸ドパミン、塩酸ドブタミン、塩酸(-)-イソプロテレノール、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸および3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸が挙げられる。別の例としては、以下が挙げられる:塩酸(R)-(+)-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-(1H)3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、塩酸cis-(±)-1-(アミノメチル)-3,4-ジヒドロ-3-フェニル-1H-2-ベンゾピラン-5,6-ジオール、臭化水素酸4-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロ-チエノ[2,3-c]ピリジン、一臭化水素酸6-クロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、臭化水素酸(±)-6-クロロ-7,8-ジヒドロキシ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピン、臭化水素酸R(-)-2,10,11-トリヒドロキシ-N-プロピル-ノルアポルフィン水和物、塩酸R(-)-プロピルノルアポモルフィン、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸および3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸またはその塩、ならびに存在する場合これらに相当するD体、L体またはD/L体が挙げられる。
【0033】
本明細書において「カテコールアミン」とは、カテコールにアミンを含む側鎖がついた物質の総称である。アドレナリン,ノルアドレナリン,ドパミン、あるいはこれらに基づいて開発された人工合成アゴニスト物質などがあり,ホルモン,神経伝達物質として作用するものも多い。したがって、カテコールアミンは、カテコール環(1,2-ジヒドロキシベンゼン)とエチルアミン構造をもった化合物としても定義することができる。成体内では、チロシン→ドパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンという経路で合成され,モノアミンオキシダーゼによって酸化的脱アミノ化を受けて不活化する。カテコールアミンの例としては、(-)-エピネフリンまたはその塩、L-(-)-ノルエピネフリンまたはその塩、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(L-ドパ)またはその塩、およびドパミンまたはその塩、ドブタミンまたはその塩、(-)-イソプロテレノールまたはその塩、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸またはその塩、3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸またはその塩、ならびに存在する場合これらに相当するD体、L体またはD/L体を挙げることができる。
【0034】
本明細書において「グアイアコール骨格を有する化合物」または「グアイアコール骨格含有化合物」とは、グアイアコール(2-メトキシフェノール)骨格を有する任意の化合物を意味する。グアイアコール骨格を有する化合物は、いずれの異性体(光学異性体等)であってもよく、D/L体がある場合、両方をさすことが理解される。このような物質としては、例えば、グアイアコール、フェルラ酸、バニリン、クレオソール、4-エチルグアイアコール、ヒドロキシフェルラ酸、カプサイシン、ギンゲロール(ジンゲロール)、ショウガオール、4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩、DL-ノルメタネフリン塩酸塩、DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸、3-メトキシチラミン塩酸塩、ホモバニリン酸、バニリン酸(o-バニリン酸)、ホモバニリルアルコール、メタネフリン塩酸塩、コニフェリルアルコール、バニリン酸ジエチルアミド、イソオイゲノール、オイゲノール、塩化ペオニジン(Peonidin chloride)、2-メトキシヒドロキノン、4’-ヒドロキシ-3’-メトキシアセトフェノン、イソバニリン、o-バニリン、4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸ナトリウム、trans-フェルラ酸(トランスフェルラ酸)、イソフェルラ酸、イソクレオソール、3-ヒドロキシ-4-メトキシけい皮酸、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾニトリル、2-メトキシ-5-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-4-メトキシアニリン、ヘスペレチン、4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オン、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸、イソバニリン酸、イソバニリルアルコール、2-メトキシ-4-メチルフェノール、3-メトキシサリチル酸、バニリン酸メチル、メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸メチル、5-ニトログアイアコール、スコポレチン、シリビン、バニリルアルコール、バニリン酸エチルなどを挙げることができる。
【0035】
グアイアコール骨格を有する化合物の代表的な好ましい例としては、フェルラ酸、ヒドロキシフェルラ酸、バニリン酸、カプサイシン、4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)、DL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩、DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)、3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩、ホモバニリン酸(HVA)、バニリン酸(VA)、ホモバニリルアルコール(MOPET)、メタネフリン(Metanephrine)塩酸塩、グアイアコール(2-メトキシフェノール)、ギンゲロール、ショウガオール、バニリン酸ジエチルアミド、イソオイゲノール、オイゲノール、イソバニリン酸、o-バニリン、トランスフェルラ酸、イソフェルラ酸、イソクレオソール、4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オン、ヘスペレチン、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸、イソバニリルアルコール、クレオソール、o-バニリン酸、バニリン酸メチル、メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩、5-ニトログアイアコール、スコポレチン、シリビン、バニリルアルコール、バニリン酸エチル、コニフェリルアルコールならびにそれらの塩および溶媒和物を挙げることができる。
【0036】
さらに好ましい実施形態としては、フェルラ酸、ヒドロキシフェルラ酸、バニリン酸およびカプサイシンを挙げることができる。
【0037】
本明細書において、グアイアコール骨格を有する化合物のうちの「カテコールアミン代謝産物」とは、グアイアコール骨格を有する化合物のうち、生体内のカテコールアミン代謝産物またはその改変体をいう。
【0038】
本明細書において「4-メトキシフェノール骨格を有する化合物」または「4-メトキシフェノール骨格含有化合物」とは、4-メトキシフェノール骨格を有する任意の化合物を意味する。4-メトキシフェノール骨格を有する化合物は、いずれの異性体(光学異性体等)であってもよく、D/L体がある場合、両方をさすことが理解される。このような物質としては、例えば、4-メトキシフェノール、4-メトキシ-3,5-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、3-t-ブチル-5-メトキシカテコール、4-tert-ブチル-5-メトキシカテコール、1-(2-ヒドロキシ-4,5-ジメトキシフェニル)-1-ブタノン、5-ヒドロキシ-8-メトキシ-3,4-ジヒドロ-1(2H)-ナフタレノン、ブチルヒドロキシアニソール、2,5-ビス(1,1-ジメチルブチル)ヒドロキノンモノメチルエーテル、3-ブロモ-4-ヒドロキシアニソール、3-クロロ-4-ヒドロキシアニソール、3.4-ジメトキシフェノール、2-フルオロ-4-メトキシフェノール、2’-ヒドロキシ-5’-メトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-5-メトキシベンズアルデヒド、4-メトキシ-1-ナフトール、5-メトキシサリチル酸、4-メトキシ-2-ニトロフェノール、メチル5-メトキシサリチラート、シリンガアルコール、3,4,5-トリメトキシフェノール等を挙げることができる。
【0039】
本明細書においてグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の「水溶性」とは、水に対する溶解性のほか、親水性溶媒(例えば、エタノール)を介して水に溶解しうる性質を包含する。本発明との関係で、水溶性の「高い」グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物は、エタノールに対する溶解性で分類することができ、「水溶性の高い」グアイアコール骨格は、エタノールに対して少なくとも50mg/ml溶解するものをいうが、これに限定されず、例えば、少なくとも100mg/ml、少なくとも90mg/ml、少なくとも80mg/ml、少なくとも70mg/ml、少なくとも60mg/ml、あるいは少なくとも40mg/ml、少なくとも30mg/ml、少なくとも20mg/ml、少なくとも10mg/ml溶解することをいう。
【0040】
本明細書においてグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の「分子量」は、当該分野において通常計算される手法で算出される。1つの実施形態において、例示的な分子量としては、本発明との関係で適切な「分子量」は、約1000Da以下、約900Da以下、約800Da以下、約700Da以下、約600Da以下、約400Da以下、約350Da以下等があげられるがこれに限定されない。なおグアイアコール自体の分子量が124.14であるので、最低限の分子量は、このグアイアコールの分子量ということになる。
【0041】
本明細書において「フェルラ酸」とは、フィトケミカルとして植物の細胞壁などに存在する有機化合物(CA537-98-4)であり、
【0042】
【化1】

の構造式で表される。フェルラ酸は、抗酸化作用を有することが知られており、最近では抗菌性作用についても研究が進んでいる。フェルラ酸は、様々な細菌(乳酸菌も含む)に対して抗菌性を発揮するが、ソルビン酸などと同様、酸性側で抗菌性を発揮する酸型の抗菌成分である。理論に束縛されることを望まないが、代表的には至適pHは細菌によっても異なるがpH5.0以下とされていることから、本発明は、抗菌作用のない範囲での新たな活性を見出した点でも注目される。
【0043】
本明細書において、「Lactobacillus plantarum」または「L.plantarum」とは、Lactobacillus属に分類されるグラム陽性細菌であり、特に、以下の微生物学的特徴を有する菌株をいう。またLactobacillus属の再分類に伴う学名変更後の表記では、Lactiplantibacillus plantarumを指し、本明細書においては相互互換に使用することができる。
・16S rRNA遺伝子配列の配列解析により、L.plantarum基準株(例えば、JCM1149T株)の16S rRNA配列(DDBJ/EMBL/GenBank accession number、X52653)と例えば99%などの高い相同性を示すこと
・CLUSTALX等によるアライメント解析後のMEGA等による系統樹解析により、L.plantarum基準株と系統学的に近縁な位置関係が認められること
・recA遺伝子を標的にしたmultiplex PCR法により、recAのPCR増幅産物がL.plantarum基準株の同増副産物と同じ電気泳動パターンを示すこと。
【0044】
本明細書において、「Lactobacillus paraplantarum」または「L.paraplantarum」とは、Lactobacillus属に分類されるグラム陽性細菌であり、特に、以下の微生物学的特徴を有する菌株をいう。またLactobacillus属の再分類に伴う学名変更後の表記では、Lactiplantibacillus paraplantarumを指し、本明細書においては相互互換に使用することができる。
・16S rRNA遺伝子配列の配列解析により、L.paraplantarum基準株(例えば、DSM10667T)の16S rRNA配列(DDBJ/EMBL/GenBank accession number、AJ306297)と例えば99%などの高い相同性を示すこと
・CLUSTALX等によるアライメント解析後のMEGA等による系統樹解析により、L.paraplantarum基準株と系統学的に近縁な位置関係が認められること
・recA遺伝子を標的にしたmultiplex PCR法により、recAのPCR増幅産物がL.paraplantarum基準株の同増副産物と同じ電気泳動パターンを示すこと。
【0045】
本明細書において、「Lactobacillus sakei」または「L.sakei」とは、Lactobacillus属に分類されるグラム陽性細菌であり、特に、以下の微生物学的特徴を有する菌株をいう。またLactobacillus属の再分類に伴う学名変更後の表記では、Latilactobacillus sakeiを指し、本明細書においては相互互換に使用することができる。
・16S rRNA遺伝子配列の配列解析により、L.sakei基準株(例えば、DSM20017T)の16S rRNA配列(DDBJ/EMBL/GenBank accession number、AM113784)と例えば99%などの高い相同性を示すこと
・CLUSTALX等によるアライメント解析後のMEGA等による系統樹解析により、L.sakei基準株と系統学的に近縁な位置関係が認められること
【0046】
本明細書において、「Lactobacillus casei」または「L.casei」とは、Lactobacillus属に分類されるグラム陽性細菌であり、特に、以下の微生物学的特徴を有する菌株をいう。またLactobacillus属の再分類に伴う学名変更後の表記では、Lacticaseibacillus caseiを指し、本明細書においては相互互換に使用することができる。
・16S rRNA遺伝子配列の配列解析により、L.casei基準株(例えば、ATCC393T)の16S rRNA配列(DDBJ/EMBL/GenBank accession number、AF469172)と例えば99%などの高い相同性を示すこと
・CLUSTALX等によるアライメント解析後のMEGA等による系統樹解析により、L.casei基準株と系統学的に近縁な位置関係が認められること
【0047】
本明細書において「乳酸菌属」とは、乳酸を多量に作る細菌属をいい、代表的に、Lactobacillus属等に分類されるグラム陽性細菌であり、一般的に、以下の微生物学的特徴を有する菌株をいう。
・細胞はグラム陽性である。
・細胞形態は桿菌または球菌である。
・カタラーゼ陰性である。
・内性胞子を形成しない。
・運動性を持つものと、運動性を持たないものとがある。
・消費したブドウ糖に対して50%以上の乳酸を産生する。
・ビタミンB群のうちナイアシンを必須要求する。
【0048】
本明細書において、「Lactobacillus属乳酸菌(株)」とは、代表的に、乳酸菌のうち、Lactobacillus属に属する任意の種の菌株をいう。その特徴は以下のとおりである。本明細書において、「Lactobacillus属乳酸菌(株)」という場合は、Lactobacillus属の再分類に伴う学名変更による新分類および/または旧分類においてLactobacillus属に分類されていた、あるいは分類されている細菌を包含する。
・胞子を形成しない乳酸桿菌である。
・絶対ホモ型発酵、通性ヘテロ型発酵あるいは絶対ヘテロ型発酵形式を示す。
・Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology, Second edition,2009,Volume Three(The Firmicutes)のLactobacillus項(P465-P511)に記載されている菌種である。
【0049】
「乳酸菌属」の例としては、L.plantarumのほか、L.paraplantarum、L.pentosus、L.sakeiおよびL.caseiを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0050】
例えば、特定の菌株としては、L.plantarum TO1000、TO1001、TO1002またはTO1003(受託番号NITE P-958、NITE P-959、NITE P-960またはNITE P-961(それぞれ受託番号NITE P-958、NITE P-959、NITE P-960またはNITE P-961に対応))、Lactobacillus paraplantarum LOOC 2020(受託番号NITE P-1308)、Lactobacillus sakei SG171(受託番号NITE P-1309)、Lactobacillus casei LOOC82(受託番号NITE P-1310)、Lactobacillus casei(受託番号NITE P-1311) PR143またはLactobacillus casei PR150(受託番号NITE P-1312)が挙げられる。これらの菌株は、供試したフェルラ酸等のグアイアコール骨格および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の添加により、コントロール区に対して約2.3~6.3倍あるいは場合によってはそれ以上と顕著に増殖活性が上昇したことを本発明において見出した。また、Lactobacillus属乳酸菌の他の菌株としてJCM1149T株を挙げることができるが、この株は理研バイオリソースセンターが管理するL.plantarumの基準株であり、同所から入手することができる。なお、本発明者らが本発明において確認したL.plantarumの基準株もまた、フェルラ酸に対して、反応性を有していることが本発明で明らかになった(500μMの供試化合物の添加により、コントロール区に対して約3.0倍の増殖活性が上昇する。)。
【0051】
本明細書において、「増殖(活性)」(growth (activity))とは、微生物について言及する場合、その微生物の個体・細胞などが数を増すこと、あるいはその活性をいう。
【0052】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0053】
本開示の一局面において、脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含む組成物であって、該菌株は、カテコール骨格を有する化合物、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇する、組成物が提供される。
【0054】
腸内細菌叢の存在や多様性により、動物の情動、ストレス応答、行動様式が変化する知見が幾つか報告されている。腸内細菌叢を持たない成熟マウスの行動様式は、腸内細菌叢を持つ成熟マウスよりも危険度が高く大胆となり、一般的に警戒心が強いマウスの行動様式とは大きく異なることが明らかになっている。例えば、若齢期の無菌マウスに正常な腸内微生物叢を移植すると、成熟期に本異常行動は認められなくなることが知られている(Heijtz, R. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 108(7):3047-3052 (2011).)。幼若マウスを母親マウスと早期に隔離することにより、幼少時のストレスの影響を調査する手法が確立されている。別の文献では、若齢マウスモデルにおける行動の変化に対する腸内細菌の寄与を調べている(De Palma, G. et al. Nat. Commun., 6:7735 (2015).)。この文献では、正常な腸内微生物叢を有するマウスと無菌マウスの比較により、無菌マウスでは不安様・うつ様行動は認められなかったことが示されている。母親マウスと隔離された若齢マウスの腸内細菌叢を無菌マウスに移植することにより、無菌マウスでも不安様行動やうつ様行動が認められるようになったことも示されている。これは、HPA系(視床下部-下垂体-副腎軸)のホルモン変化は腸内細菌叢の有無に関わらず認められており、幼若期のストレスに伴う行動変化には、腸内細菌叢の存在・変化が必要であることを示唆している。また腸内細菌叢とネガティブな画像に対する感情応答の関係を女性40人で調査した文献では、プレボテラ属が多い腸内細菌叢を持つ人は、ネガティブ画像に対して不安等のネガティブ感情を抱きやすい一方で、バクテロイデス属が多い腸内細菌叢を持つ人は、ネガティブ感情を抱く人が少ないことが示されている(Tillisch, K. et al., Psychosom. Med., 79(8):905-913 (2017).)。
【0055】
国連が掲げたSDGs(持続可能な開発目標)では、「すべての人に健康と福祉を(目標3)」が掲げられ、人々の幸福や健全な心身の健康維持・増進が重要視されている。他方、内閣府による「国民生活に関する世論調査(令和元年)」では、日常生活で悩みや不安を感じる人は63.2%であり、多くの国民が何らかの不安様ストレスを抱えていることがわかる。世論調査会社ギャラップが116カ国の16万人を対象に実施した調査「グローバル・エモーションズ・リポート(2020)」では、成人の約40%が不安やストレスを抱え、調査時以前に比べて大幅にストレスが増大した人は1億9000万人近くにのぼるとされる。これらの不安様ストレスによる心身の健康被害や社会的損失の解決が大きな課題である。
【0056】
上記のとおり、腸内細菌叢全体を移植することにより、動物のストレス応答や行動様式を制御する手法が解決策として示唆されるが、一般的に腸内細菌叢には善玉菌の他、悪玉菌とされる日和見感染菌や時に重篤な症状を引き起こす感染性細菌が含まれることがあり、安全性・安定性・コスト性・人々の受容性の観点から汎用的な解決手法とは考えにくい。一方、プロバイオティクスの代表とされるLactobacillus属などの乳酸菌は、発酵食品・飼料などを通じて古くから食経験の蓄積が豊富であり、安全なGRAS(Generally Recognized As Safe)と位置づけられている。不安様ストレスを背景とする諸問題のうち、摂食障害改善、精神・行動発達の促進、目標指向行動改善、無気力改善、内発的動機改善、うつ病/ストレス/精神障害等の改善、記憶能力改善などの各効果について、安全性が担保され産業上応用性の高い乳酸菌の活用が有望な選択肢となる。
【0057】
家畜の生産現場ではアニマルウェルフェアに基づく飼養管理が求められている。この中で、痛み・傷害・病気からの自由、恐怖や抑圧(精神的苦痛・不安ストレス)からの自由、正常な行動を表現する自由などの「5つの自由」の重要性が指摘されている。すなわち、適切で配慮が行き届いた飼養環境下において、家畜が持つ生産力を最大限発揮させる体制構築が急務である。家畜の健康とアニマルウェルフェアを守る上で、感染症の治療用途の他、効率生産を目的に飼料に添加される形で抗菌性物質が利用されている。しかし、抗菌性物質の多用がもたらす薬剤耐性菌により、2050年のパンデミック感染症による死者数予測は全世界で1000万人とされ、癌の死亡者数を遙かに超えるとされる。
【0058】
これらの解決策として、抗生物質(アンチバイオティクス)の対義語と位置づけられるプロバイオティクスの活用が有望視されており、飼料摂取量の増加効果、動物本来の精神・行動発達の促進、目標指向行動改善、無気力改善、内発的動機改善、ストレス/精神障害等の改善などの各効果を提供する技術が求められる。
【0059】
本開示の一実施形態において、本開示の組成物は、脳神経系に直接または間接に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含むことができ、具体的には、本開示の組成物は、神経発達/精神学的状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株を含むことができる。
【0060】
このような疾患としては、代表的には、フレイル、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症、睡眠障害、読字障害、知的能力障害、学習障害、記憶障害、レット症候群、精神症状、不安症群およびストレス因関連障害群、解離症群、摂食障害群、気分障害、強迫症およびその関連症群、パーソナリティ障害、統合失調症およびその関連症群、セクシュアリティ・性別違和・パラフィリア、身体症状症およびその関連症群、自殺行動および自傷行為、ならびに物質関連障害群などを挙げることができ、脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患の処置または予防には、精神発達の促進を含むことができる。
【0061】
1つの実施形態において、本開示の組成物は、フレイルを処置または予防することができる。フレイルは、加齢により心身が老い衰えた状態であり、意欲の低下や抑うつなどが原因の1つとなり、結果としてフレイルに移行する場合がある。本開示の組成物によれば、意欲の低下や抑うつを抑制または防止することができ、結果として、フレイルやプレフレイルを予防し、さらには身体的な変化を改善することができる。
【0062】
一実施形態において、本開示の組成物は、ストレス環境下における行動を、通常の状態のものへと改善することができることから、精神状態を改善し、脳神経系に関連する疾患などの改善に利用することができる。
【0063】
本開示の組成物は、カテコール骨格を有する化合物、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇するという特徴を備えた乳酸菌を含み、このような乳酸菌は、実施例に示すとおり、マウスに摂取させることにより、摂取させていない群と比較して、行動試験期間の総摂食量が増加することがわかっている。一実施形態において、強制水泳試験などの行動試験を実施することによって増体重の値が高くなり、強制水泳試験などの行動試験を実施することはマウスにとってストレスになることから、本開示の乳酸菌を含む組成物を摂取させることにより、ストレスにより生じた増体重の低下を抑制することができる。
【0064】
また他の実施形態において、本開示の乳酸菌を含む組成物を摂取させることにより、マウスの巣作り行動試験において、巣作り行動への着手を早めることができる。実施例に示すとおり、離乳直後における単飼育というストレス環境下において、本開示の乳酸菌を含む組成物を摂取させることにより、巣作り行動への着手を早めることができており、巣作り行動には、海馬や前頭前野が関わっていることが示唆されている(Deacon et al., 2002;Deacon et al., 2003;Otabi et al., 2017)ことから、本開示の乳酸菌を含む組成物は、特定の脳部位に変化をもたらし、巣作り行動に影響を与えたことが考えられる。
【0065】
一実施形態において、本開示の乳酸菌を含む組成物を摂取させることにより、マウスのY字迷路試験において、交替行動率を上昇させることができ、つまり空間認知記憶能力を増加させることができる。一実施形態において、本開示の乳酸菌を含む組成物は、神経伝達物質の濃度を増強し、ストレスによる記憶障害や記憶能力を改善することができる。
【0066】
理論に縛られるものではないが、本開示の乳酸菌を含む組成物を摂取させることにより、対象の腸内において本開示の乳酸菌の菌数上昇や優占率上昇等の腸内細菌叢の変化が発生することが考えられる。乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌には、γアミノ酪酸(GABA)などの神経伝達物質を代謝産生するものが含まれ、本開示の乳酸菌が産生する代謝産物や、それによって変化を受けた他の腸内細菌が産生する代謝産物が血中移行することにより、脳などの神経系へ影響を及ぼすことが考えられる。また腸内では、腸管免疫系に加えて、脳と直接的に接続する神経回路を含む腸管神経系が機能している。本開示の乳酸菌を含む組成物は、理論に縛られるものではないが、これらの系の活性化によって生じるホルモンやサイトカインなどの液性因子が直接的あるいは間接的に作用する脳腸相関の概念を通じて、精神疾患や神経疾患等に機能することができる。したがって、一実施形態において、本開示の乳酸菌を含む組成物は、神経系への作用を通じて、脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患や、神経発達/精神学的状態、障害、または疾患を処置または予防することができる。
【0067】
一実施形態において、本開示の組成物に含まれる乳酸菌としては、生菌を用いることができ、この場合、食事や飼料に直接添加することができる。一実施形態において、本開示の組成物に含まれる生菌数は特に限定されるものではなく、少なくとも1CFU/gの極微量であってもよく、少なくとも約10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×10CFU/g、少なくとも約1×1010CFU/g、少なくとも約1×1012CFU/g、少なくとも約1×1014CFU/g、少なくとも約1×1016CFU/g、または少なくとも約1×1018CFU/gとすることができる。また本開示の組成物に含まれる生菌数は、組成物の態様や添加する食事や飼料の形態によって適宜変更することができる。
【0068】
一実施形態において、本開示の組成物は、飲食品(特定保健用食品や機能性表示食品を含む)、食品添加物、飼料、サプリメント、または医薬として用いることができる。本開示の組成物を飲食品として用いる場合には、その表示として、「○○の方にお薦めします」、「○○に役立ちます」などの説明を付すことも可能である。
【0069】
本開示の一実施形態において、本開示の組成物に含まれる乳酸菌としては、Lactobacillus属細菌を挙げることができ、Lactobacillus属細菌としては、これに限られるものではないが、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus casei、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus acetotolerans、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus agilis、Lactobacillus alimentarius、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillusanimalis、Lactobacilus antrumi、Lactobacillus avarius、Lactobacillus bifermentans、Lactobacillus brevis、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus collinoides、Lactobacillus confusus、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus fructosus、Lactobacillus gallinarum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus graminis、Lactobacillus halotolerans、Lactobacillus hamsteri、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus hilgardii、Lactobacillus homohiochii、Lactobacillus intestinalis、Lactobacillus iners、Lactobacillus jensenii、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus kandleri、Lactobacillus kefir、Lactobacillus kefiranofaciens、Lactobacillus lactis、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus malefermentans、Lactobacillus mali、Lactobacillus minor、Lactobacillus mucosae、Lactobacillus murinus、Lactobacillus oris、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus pontis、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus sakei、Lactobacillus salivarius、Lactobacillus sanfranciscensis、Lactobacillus suebicus、Lactobacillus vaccinostercus、Lactobacillus vaginalis、Lactobacillus viridescens、Lactobacillus acidifarinae、Lactobacillus acidipiscis、Lactobacillus algidus、L.amylolyticus、Lactobacillus amylophilus、Lactobacillus amylotrophicus、Lactobacillus antri、Lactobacillus apodemi、Lactobacillus aviarius、Lactobacillus camelliae、Lactobacillus catenaformis、Lactobacillus ceti、Lactobacillus coleohominis、Lactobacillus composti、Lactobacillus concavus、Lactobacillus coryniformis、Lactobacillus crustorum、Lactobacillus delbrueckiisubsp. bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii、 Lactobacillus delbrueckiisubsp. lactis、Lactobacillus dextrinicus、Lactobacillus diolivorans、Lactobacillus equi、Lactobacillus equigenerosi、Lactobacillus farraginis、Lactobacillus farciminis、Lactobacillus fornicalis、Lactobacillus fructivorans、Lactobacillus frumenti、Lactobacillus fuchuensis、Lactobacillus gastricus、Lactobacillus ghanensis、Lactobacillus hammesii、Lactobacillus harbinensis、Lactobacillus hayakitensis、Lactobacillus ingluviei、Lactobacillus kalixensis、Lactobacillus kefiri、Lactobacillus kimchii、Lactobacillus kitasatonis、Lactobacillus kunkeei、Lactobacillus lindneri、Lactobacillus manihotivorans、Lactobacillus mindensis、Lactobacillus nagelii、Lactobacillus namurensis、Lactobacillus nantensis、Lactobacillus oligofermentans、Lactobacillus panis、Lactobacillus pantheris、Lactobacillus parabrevis、Lactobacillus parabuchneri、Lactobacillus paracollinoides、Lactobacillus parafarraginis、Lactobacillus parakefiri、Lactobacillus paralimentarius、Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus perolens、Lactobacillus protectus、Lactobacillus psittaci、Lactobacillus rennini、Lactobacillus rimae、Lactobacillus rogosae、Lactobacillus rossiae、Lactobacillus ruminis、Lactobacillus saerimneri、Lactobacillus satsumensis、Lactobacillus secaliphilus、Lactobacillus sharpeae、Lactobacillus siliginis、Lactobacillus spicheri、Lactobacillus thailandensis、Lactobacillus ultunensis、Lactobacillus versmoldensis、Lactobacillus vini、Lactobacillus vitulinus、Lactobacillus zeae、またはLactobacillus zymaeなどを含むことができる。本明細書において、「Lactobacillus属細菌」という場合は、Lactobacillus属の再分類に伴う学名変更による新分類および/または旧分類においてLactobacillus属に分類されていた、あるいは分類されている細菌を包含する。したがって、分類基準が改訂され、Lactobacillus属に分類されていた細菌が、他の属に分類されることとなっても、本明細書における「Lactobacillus属細菌」には、そのような細菌も包含され得る。Lactobacillus属は260を超える種が存在する非常に大きな属であったものの、近縁な関係にある他の属種と併せて、ゲノム解析に基づく分類学的な検証がなされた結果、23の新しい属が提案され、Lactobacillus属は既存の属名であるLactobacillus属およびParalactobacillus属を含む25属に再編成されている(Zheng J et al., Int J Syst Evol Microbiol (2020) 70, 2782-2858、Liu DD & Gu CT, Int J Syst Evol Microbiol (2020) 70, 6414-6417.)。したがって、Lactobacillus plantarumはLactiplantibacillus plantarumを、Lactobacillus paraplantarumはLactiplantibacillus paraplantarumを、Lactobacillus sakeiはLatilactobacillus sakeiを、Lactobacillus caseiはLacticaseibacillus caseiをそれぞれ指し、本明細書においては相互互換に使用することができる。
【0070】
またLactobacillus属の再分類に伴う学名変更によってLactobacillus属であったものが変更された新しい属名としては、Acetilactobacillus属、Agrilactobacillus属、Amylolactobacillus属、Apilactobacillus属、Bombilactobacillus属、Companilactobacillus属、Dellaglioa属、Fructilactobacillus属、Furfurilactobacillus属、Holzapfelia属、Lacticaseibacillus属、Lactiplantibacillus属、Lapidilactobacillus属、Latilactobacillus属、Lentilactobacillus属、Levilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Liquorilactobacillus属、Loigolactobacillus属、Paralactobacillus属、Paucilactobacillus属、Schleiferilactobacillus属、Secundilactobacillus属などが挙げられる。そのため、これらの属に分類される細菌であっても、再分類前にLactobacillus属に分類されていた細菌については、本明細書における「Lactobacillus属細菌」に包含され得る。
【0071】
したがって、本開示の一実施形態において、Lactobacillus属細菌としては、好ましくは、上記のZheng J et al.およびLiu DD & Gu CTによる新分類でLactiplantibacillus 属、Latilactobacillus属、またはLacticaseibacillus属に属する細菌とすることができ、Lactiplantibacillus属としては、これらに限られるものではないが、Lactiplantibacillus daoliensis、Lactiplantibacillus daowaiensis、Lactiplantibacillus dongliensis、Lactiplantibacillus fabifermentans、Lactiplantibacillus herbarum、Lactiplantibacillus modestisalitolerans、Lactiplantibacillus mudanjiangensis、Lactiplantibacillus nangangensis、Lactiplantibacillus paraplantarum、Lactiplantibacillus pentosus、Lactiplantibacillus pingfangensis、Lactiplantibacillus plajomi、Lactiplantibacillus argentoratensis、Lactiplantibacillus plantarum subsp. plantarum、Lactiplantibacillus songbeiensis、Lactiplantibacillus xiangfangensisなどを挙げることができ、Latilactobacillus属としては、これらに限られるものではないが、Latilactobacillus curvatus、Latilactobacillus fuchuensis、Latilactobacillus graminis、Latilactobacillus sakei subsp. carnosus、Latilactobacillus sakei subsp. sakeiなどを挙げることができ、またLacticaseibacillus属としては、これらに限られるものではないが、Lacticaseibacillus baoqingensis、Lacticaseibacillus brantae、Lacticaseibacillus camelliae、Lacticaseibacillus casei、Lacticaseibacillus zeae、Lacticaseibacillus chiayiensis、Lacticaseibacillus hulanensis、Lacticaseibacillus manihotivorans、Lacticaseibacillus nasuensis、Lacticaseibacillus pantheris、Lacticaseibacillus paracasei subsp. paracasei、Lacticaseibacillus paracasei subsp. paracasei、Lacticaseibacillus paracasei subsp. paracasei、Lacticaseibacillus paracasei subsp. tolerans、Lacticaseibacillus paracasei subsp. tolerans、Lacticaseibacillus porcinae、Lacticaseibacillus rhamnosus、Lacticaseibacillus rhamnosus、Lacticaseibacillus saniviri、Lacticaseibacillus sharpeae、Lacticaseibacillus songhuajiangensis、Lacticaseibacillus thailandensis、Lacticaseibacillus daqingensis、Lacticaseibacillus hegangensis、Lacticaseibacillus suibinensis、Lacticaseibacillus yichunensis、Lacticaseibacillus jixianensis、Lacticaseibacillus zhaodongensisなどを挙げることができる。
【0072】
また他の実施形態において、本開示の組成物に含まれる乳酸菌としては、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ラクチカゼイバチルス属、ラクチプランチバチルス属、およびビフィドバクテリウム属を挙げることができ、好ましくはラクトバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、またはラクチプランチバチルス属とすることができる。
【0073】
一実施形態において、本開示の組成物に含まれる乳酸菌は、ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)であり、好ましくはLactobacillus plantarum TO1002株(NITE P-960)を含むことができる。
【0074】
他の実施形態において、本開示の組成物に含まれる乳酸菌は、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei)であり、Lactobacillus casei LOOC82株(NITE P-1310)を含むことができる。
【0075】
本開示の一実施形態において、このような乳酸菌は、カテコール骨格を有する化合物、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇することができる。
【0076】
1つの実施形態では、本発明の組成物に含まれる化合物は、ピロカテコールまたはその塩、(-)-エピネフリンまたはその塩、L-(-)-ノルエピネフリンまたはその塩、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(L-ドパ)またはその塩、およびドパミンまたはその塩、ドブタミンまたはその塩、(-)-イソプロテレノール、(R)-(+)-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-(1H)3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオールまたはその塩、cis-(±)-1-(アミノメチル)-3,4-ジヒドロ-3-フェニル-1H-2-ベンゾピラン-5,6-ジオールまたはその塩、4-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロ-チエノ[2,3-c]ピリジンまたはその塩、6-クロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオールまたはその塩、(±)-6-クロロ-7,8-ジヒドロキシ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピンまたはその塩、R(-)-2,10,11-トリヒドロキシ-N-プロピル-ノルアポルフィン水和物またはその塩、R(-)-プロピルノルアポモルフィン、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸またはその塩および3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(例えば、塩酸(R)-(+)-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-(1H)3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、塩酸cis-(±)-1-(アミノメチル)-3,4-ジヒドロ-3-フェニル-1H-2-ベンゾピラン-5,6-ジオール、臭化水素酸4-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロ-チエノ[2,3-c]ピリジン、一臭化水素酸6-クロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8-ジオール、臭化水素酸(±)-6-クロロ-7,8-ジヒドロキシ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピン、臭化水素酸R(-)-2,10,11-トリヒドロキシ-N-プロピル-ノルアポルフィン水和物、塩酸R(-)-プロピルノルアポモルフィン、DL-3,4-ジヒドロキシマンデル酸および3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸)からなる群より選択される少なくとも1つあるいはこれらの溶媒和物(例えば、水和物)、ならびに/または存在する場合これらに相当するD体、L体またはD/L体を含み、これらのうち複数のものを含んでいてもよい。これらの化合物の塩としては、例えば、一価の塩(塩酸塩など)、二価の塩(硫酸塩など)を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0077】
1つの実施形態において、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物もまた、どのような化合物であってもよく、本発明において使用されるグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物としては、本明細書に記載される4-メトキシフェノール、グアイアコール、フェルラ酸、バニリン、クレオソール、4-エチルグアイアコール、ヒドロキシフェルラ酸、カプサイシン、ギンゲロール(ジンゲロール)、ショウガオール、4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩、DL-ノルメタネフリン塩酸塩、DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸、3-メトキシチラミン塩酸塩、ホモバニリン酸、バニリン酸(o-バニリン酸)、ホモバニリルアルコール、メタネフリン塩酸塩、コニフェリルアルコール、バニリン酸ジエチルアミド、イソオイゲノール、オイゲノール、塩化ペオニジン(Peonidin chloride)、2-メトキシヒドロキノン、4’-ヒドロキシ-3’-メトキシアセトフェノン、イソバニリン、o-バニリン、4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸ナトリウム、trans-フェルラ酸(トランスフェルラ酸)、イソフェルラ酸、イソクレオソール、3-ヒドロキシ-4-メトキシけい皮酸、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾニトリル、2-メトキシ-5-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-4-メトキシアニリン、ヘスペレチン、4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オン、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸、イソバニリン酸、イソバニリルアルコール、2-メトキシ-4-メチルフェノール、3-メトキシサリチル酸、バニリン酸メチル、メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸メチル、5-ニトログアイアコール、スコポレチン、シリビン、バニリルアルコール、バニリン酸エチル、それらの塩、溶媒和物(例えば、水和物)などの任意の具体例のほか、他の同骨格を有する化合物が挙げられる。通常使用されうるグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の代表例としては、水溶性の高いもの(例えば、エタノールに対して50mg/ml溶解するもの等)が挙げられるがそれらに限定されない。あるいは分子量も指標にされ得る(例えば、約500ダルトン以下、約400ダルトン以下、約350ダルトン以下等)。
【0078】
あるいは、カテコールアミンの代謝産物(例えば、4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)、DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)、3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩、ホモバニリン酸(HVA)、バニリン酸(VA)、ホモバニリルアルコール(MOPET)、およびメタネフリン(Metanephrine)塩酸塩等。3,4‐ジヒドロキシフェニルグリコールアルデヒド(MOPEGAL)などであってもよい。)に該当するものであってもよい。理論に束縛されることを望まないが、本発明の菌株は、グアイアコール骨格の特定の位置にあるヒドロキシ部分とメトキシ基とを含む部分、または4-メトキシフェノール骨格の特定の位置にあるヒドロキシ部分とメトキシ基とを含む部分を認識し、刺激を受けることによって増殖活性が上昇するものと考えられる。したがって、理論に束縛されることを望まないが、本発明の化合物は、菌株に対してグアイアコール骨格および/または4-メトキシフェノール骨格を認識することができることが重要であり、グアイアコール骨格および/または4-メトキシフェノール骨格の認識が可能な化合物であれば、他の部分がどのような構造をしていてもよく、グアイアコールまたは4-メトキシフェノール自体であってもよいことが理解される。また、いずれの異性体であってもよく、D/L体がある場合は、D体であってもL体であっても本発明に使用することができることが理解される。また、代謝等によってグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物を生じる化合物・複合物等の物質もまた、本発明の成分として、実質的にグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物に加えてまたは代替的に使用することができることが理解される。理論に束縛されることは望まないが、グアイアコール骨格を有するこれらの化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物は、本発明の微生物が増殖活性成分として認識する特定の構造をしていることが好ましい理由として挙げることができる。
【0079】
1つの実施形態では、本開示の組成物の対象とする菌株は、Lactobacillus plantarum TO1000(受託番号:NITE P-958)、Lactobacillus plantarum TO1001(受託番号:NITE P-959)、Lactobacillus plantarum TO1002(受託番号:NITE P-960)、Lactobacillus plantarum TO1003(受託番号:NITE P-961)、Lactobacillus paraplantarum LOOC 2020(受託番号:NITE P-1308)、Lactobacillus sakei SG171(受託番号:NITE P-1309)、Lactobacillus casei LOOC82(受託番号:NITE P-1310)、Lactobacillus casei PR143(受託番号:NITE P-1311)またはLactobacillus casei PR150(受託番号:NITE P-1312)である。
【0080】
1つの実施形態において、本発明の菌株の増殖活性は、1.45mM MgSO、8.92mM NHNO、4.79 mM KCl、3.96mM C12、2.62mM KHPOおよび30% ウシ血清を含む培地(pH6.5)において、以下の少なくとも1つの活性を有する。
【0081】
フェルラ酸の非存在下に比べて500μMのフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.3倍上昇する、
バニリンの非存在下に比べて500μMのバニリンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する、
ヒドロキシフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのヒドロキシフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.2倍上昇する、
カプサイシンの非存在下に比べて500μMのカプサイシンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.0倍上昇する、
4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)の非存在下に比べて500μMの4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.8倍上昇する、
DL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩の非存在下に比べて500μMのDL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.4倍上昇する、
DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)の非存在下に比べて500μMのDL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.1倍上昇する、
3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩の非存在下に比べて500μMの3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.8倍上昇する、
ホモバニリン酸(HVA)の非存在下に比べて500μMのホモバニリン酸(HVA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.5倍上昇する、
バニリン酸(VA)の非存在下に比べて500μMのバニリン酸(VA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.3倍上昇する、
ホモバニリルアルコール(MOPET)の非存在下に比べて500μMのホモバニリルアルコール(MOPET)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.9倍上昇する、
メタネフリン(Metanephrine)塩酸塩の非存在下に比べて500μMのメタネフリン(Metanephrine)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.8倍上昇する、
グアイアコールの非存在下に比べて500μMのグアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくともは約4.2倍上昇する、
4-メトキシフェノールの非存在下に比べて500μMの4-メトキシフェノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.5倍上昇する、
ギンゲロールの非存在下に比べて1.5mMのギンゲロールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.1倍上昇する、
ショウガオールの非存在下に比べて0.25mMのショウガオールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.3倍上昇する、
バニリン酸ジエチルアミドの非存在下に比べて500μMのバニリン酸ジエチルアミドの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.7倍上昇する、
イソオイゲノールの非存在下に比べて500μMのイソオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.6倍上昇する、
イソバニリン酸の非存在下に比べて500μMのイソバニリン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.7倍上昇する、
o-バニリンの非存在下に比べて500μMのo-バニリンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.1倍上昇する、
トランスフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのトランスフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.3倍上昇する、
イソフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのイソフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する、
イソクレオソールの非存在下に比べて500μMのイソクレオソールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約12.6倍上昇する、
4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オンの非存在下に比べて500μMの4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約9.8倍上昇する、
ヘスペレチンの非存在下に比べて500μMのヘスペレチンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.6倍上昇する、
3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の非存在下に比べて500μMの3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.9倍上昇する、
イソバニリルアルコールの非存在下に比べて500μMのイソバニリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する、
クレオソールの非存在下に比べて500μMのクレオソールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約9.7倍上昇する、
o-バニリン酸の非存在下に比べて500μMのo-バニリン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.2倍上昇する、
バニリン酸メチルの非存在下に比べて500μMのバニリン酸メチルの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.4倍上昇する、
メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩の非存在下に比べて500μMのメチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.6倍上昇する、
5-ニトログアイアコールの非存在下に比べて500μMの5-ニトログアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.6倍上昇する、
スコポレチンの非存在下に比べて500μMのスコポレチンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.8倍上昇する、
シリビンの非存在下に比べて500μMのシリビンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.7倍上昇する、
バニリルアルコールの非存在下に比べて500μMのバニリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.5倍上昇する、
バニリン酸エチルの非存在下に比べて500μMのバニリン酸エチルの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約1.5倍上昇する、
コニフェリルアルコールの非存在下に比べて500μMのコニフェリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約1.8倍上昇する、および
オイゲノールの非存在下に比べて500μMのオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.3倍上昇する。
【0082】
1つの実施形態において、本発明の菌株の増殖活性は、1.45mM MgSO、8.92mM NHNO、4.79mM KCl、3.96mM C12、2.62mM KHPOおよび30%ウシ血清を含む培地(pH6.5)において、以下の少なくとも1つの活性を有する。
【0083】
フェルラ酸の非存在下に比べて500μMのフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.3倍上昇する;
バニリンの非存在下に比べて500μMのバニリンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する;
ヒドロキシフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのヒドロキシフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.2倍上昇する;
カプサイシンの非存在下に比べて500μMのカプサイシンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.0倍上昇する;
4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)の非存在下に比べて500μMの4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.8倍上昇する;
DL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩の非存在下に比べて500μMのDL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.4倍上昇する;
DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)の非存在下に比べて500μMのDL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.1倍上昇する;
3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩の非存在下に比べて500μMの3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.8倍上昇する;
ホモバニリン酸(HVA)の非存在下に比べて500μMのホモバニリン酸(HVA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.5倍上昇する;
バニリン酸(VA)の非存在下に比べて500μMのバニリン酸(VA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.3倍上昇する;
ホモバニリルアルコール(MOPET)の非存在下に比べて500μMのホモバニリルアルコール(MOPET)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.9倍上昇する;
メタネフリン(Metanephrine)塩酸塩の非存在下に比べて500μMのメタネフリン(Metanephrine)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.8倍上昇する;
グアイアコールの非存在下に比べて500μMのグアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.9倍上昇する、
4-メトキシフェノールの非存在下に比べて500μMの4-メトキシフェノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.5倍上昇する、
ギンゲロールの非存在下に比べて1.5mMのギンゲロールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.1倍上昇する、
ショウガオールの非存在下に比べて0.25mMのショウガオールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.3倍上昇する、
バニリン酸ジエチルアミドの非存在下に比べて500μMのバニリン酸ジエチルアミドの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.7倍上昇する、
イソオイゲノールの非存在下に比べて500μMのイソオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.6倍上昇する、
イソバニリン酸の非存在下に比べて500μMのイソバニリン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.7倍上昇する、
o-バニリンの非存在下に比べて500μMのo-バニリンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.1倍上昇する、
トランスフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのトランスフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.3倍上昇する、
イソフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのイソフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する、
イソクレオソールの非存在下に比べて500μMのイソクレオソールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約12.6倍上昇する、
4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オンの非存在下に比べて500μMの4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約9.8倍上昇する、
ヘスペレチンの非存在下に比べて500μMのヘスペレチンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.6倍上昇する、
3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の非存在下に比べて500μMの3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.9倍上昇する、
イソバニリルアルコールの非存在下に比べて500μMのイソバニリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する、
クレオソールの非存在下に比べて500μMのクレオソールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約9.7倍上昇する、
o-バニリン酸の非存在下に比べて500μMのo-バニリン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.2倍上昇する、
バニリン酸メチルの非存在下に比べて500μMのバニリン酸メチルの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.4倍上昇する、
メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩の非存在下に比べて500μMのメチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.6倍上昇する、
5-ニトログアイアコールの非存在下に比べて500μMの5-ニトログアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.6倍上昇する、
スコポレチンの非存在下に比べて500μMのスコポレチンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.8倍上昇する、
シリビンの非存在下に比べて500μMのシリビンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.4倍上昇する、
バニリルアルコールの非存在下に比べて500μMのバニリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.5倍上昇する、
バニリン酸エチルの非存在下に比べて500μMのバニリン酸エチルの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約1.5倍上昇する、
コニフェリルアルコールの非存在下に比べて500μMのコニフェリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約1.8倍上昇する、および
オイゲノールの非存在下に比べて500μMのオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.3倍上昇する。
【0084】
別の実施形態において、本開示の乳酸菌株の増殖活性は、1.45mM MgSO、8.92mM NHNO、4.79 mM KCl、3.96mM C12、2.62mM KHPOおよび30%ウシ血清を含む培地(pH6.5)において、以下の少なくとも1つの活性を有する。
【0085】
フェルラ酸の非存在下に比べて500μMのフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.5倍上昇する;
バニリンの非存在下に比べて500μMのバニリンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する;
ヒドロキシフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのヒドロキシフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.2倍上昇する;
カプサイシンの非存在下に比べて500μMのカプサイシンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.0倍上昇する;
4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)の非存在下に比べて500μMの4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.8倍上昇する;
DL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩の非存在下に比べて500μMのDL-ノルメタネフリン(Normetanephrine)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.4倍上昇する;
DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)の非存在下に比べて500μMのDL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.1倍上昇する;
3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩の非存在下に比べて500μMの3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.8倍上昇する;
ホモバニリン酸(HVA)の非存在下に比べて500μMのホモバニリン酸(HVA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.5倍上昇する;
バニリン酸(VA)の非存在下に比べて500μMのバニリン酸(VA)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.3倍上昇する;
ホモバニリルアルコール(MOPET)の非存在下に比べて500μMのホモバニリルアルコール(MOPET)の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.9倍上昇する;
メタネフリン(Metanephrine)塩酸塩の非存在下に比べて500μMのメタネフリン(Metanephrine)塩酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.8倍上昇する、
グアイアコールの非存在下に比べて500μMのグアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.9倍上昇する、
4-メトキシフェノールの非存在下に比べて500μMの4-メトキシフェノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.5倍上昇する、
ギンゲロールの非存在下に比べて1.5mMのギンゲロールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.1倍上昇する、
ショウガオールの非存在下に比べて0.25mMのショウガオールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.3倍上昇する、
バニリン酸ジエチルアミドの非存在下に比べて500μMのバニリン酸ジエチルアミドの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.7倍上昇する、
イソオイゲノールの非存在下に比べて500μMのイソオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.6倍上昇する、
イソバニリン酸の非存在下に比べて500μMのイソバニリン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.7倍上昇する、
o-バニリンの非存在下に比べて500μMのo-バニリンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.1倍上昇する、
トランスフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのトランスフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.3倍上昇する、
イソフェルラ酸の非存在下に比べて500μMのイソフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する、
イソクレオソールの非存在下に比べて500μMのイソクレオソールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約12.6倍上昇する、
4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オンの非存在下に比べて500μMの4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-3-ブテン-2-オンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約9.8倍上昇する、
ヘスペレチンの非存在下に比べて500μMのヘスペレチンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.6倍上昇する、
3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の非存在下に比べて500μMの3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.9倍上昇する、
イソバニリルアルコールの非存在下に比べて500μMのイソバニリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.4倍上昇する、
クレオソールの非存在下に比べて500μMのクレオソールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約9.7倍上昇する、
o-バニリン酸の非存在下に比べて500μMのo-バニリン酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.2倍上昇する、
バニリン酸メチルの非存在下に比べて500μMのバニリン酸メチルの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.4倍上昇する、
メチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩の非存在下に比べて500μMのメチル-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸塩の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.6倍上昇する、
5-ニトログアイアコールの非存在下に比べて500μMの5-ニトログアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.6倍上昇する、
スコポレチンの非存在下に比べて500μMのスコポレチンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約8.8倍上昇する、
シリビンの非存在下に比べて500μMのシリビンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.4倍上昇する、
バニリルアルコールの非存在下に比べて500μMのバニリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.5倍上昇する、
バニリン酸エチルの非存在下に比べて500μMのバニリン酸エチルの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約1.5倍上昇する、
コニフェリルアルコールの非存在下に比べて500μMのコニフェリルアルコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約1.8倍上昇する、および
オイゲノールの非存在下に比べて500μMのオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約7.8倍上昇する。
【0086】
さらなる実施形態では、本開示の乳酸菌株の前記増殖活性は、1.45mM MgSO、8.92mM NHNO、4.79 mM KCl、3.96mM C12、2.62mM KHPOおよび30% ウシ血清を含む培地(pH6.5)において、
フェルラ酸の非存在下に比べて500μMのフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.3倍上昇し、
バニリンの非存在下に比べて500μMのバニリンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.7倍上昇し、
カプサイシンの非存在下に比べて500μMのカプサイシンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約3.8倍上昇し、
グアイアコールの非存在下に比べて500μMのグアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約5.8倍上昇する、
シリビンの非存在下に比べて500μMのシリビンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.7倍上昇する、および
オイゲノールの非存在下に比べて500μMのオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約6.9倍上昇する
からなる群より選択される特徴の少なくとも1つの特徴を上記の特徴に追加してあるいは独立して有する。
【0087】
さらなる実施形態では、本発明の菌株の前記増殖活性は、1.45mM MgSO、8.92mM NHNO、4.79 mM KCl、3.96mM C12、2.62mM KHPOおよび30% ウシ血清を含む培地(pH6.5)において、
フェルラ酸の非存在下に比べて500μMのフェルラ酸の存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.3倍上昇し、
グアイアコールの非存在下に比べて500μMのグアイアコールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.2倍上昇する、
シリビンの非存在下に比べて500μMのシリビンの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約2.7倍上昇する、および
オイゲノールの非存在下に比べて500μMのオイゲノールの存在下で、少なくとも約1.0倍を超えて、好ましくは少なくとも約4.3倍上昇する
からなる群より選択される特徴の少なくとも1つの特徴を上記の特徴に追加してあるいは独立して有する。
【0088】
1つの好ましい実施形態において、本開示で利用されるグアイアコール骨格を有する化合物は、カテコールアミンの代謝産物を含む。理論に束縛されることを望まないが、カテコールアミンは、神経伝達物質であり、動物体や植物体内においてホルモンや神経伝達物質として生理的作用を発揮し、また、神経線維末端のみならず、消化管組織、消化管内容物、糞便、尿、血中にも存在することから、潜在量は豊富であり、プレバイオティクス成分としての高度有効利用が十分に期待でき、これを増殖活性成分とする微生物はプロバイオティクスとして利用可能であるところ、このような微生物は今まで見出されていないことから、ユニークな有用性を有する。そのようなカテコールアミンの代謝産物としては、例えば、4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリコールヘミピペラジニウム塩(MHPG)、DL-4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(VMA)、3-メトキシチラミン(3MT)塩酸塩、ホモバニリン酸(HVA)、バニリン酸(VA)、ホモバニリルアルコール(MOPET)、およびメタネフリン(Metanephrine)塩酸塩を挙げることができ、別の例としては、例えば、3,4‐ジヒドロキシフェニルグリコールアルデヒド(MOPEGAL)も例示することができる。
【0089】
1つの局面において、本開示は、脳神経系または身体的に関連する状態、障害、または疾患を処置または予防するための乳酸菌に属する菌株であって、該菌株は、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇する乳酸菌(例えば、L.plantarum菌株)を選択する方法を提供する。この方法は、A)L.plantarum菌を含む試料を提供する提供工程;B)硫酸マグネシウム(MgSO)、硝酸アンモニウム(NHNO)、塩化カリウム(KCl)、D-(+)-グルコース、リン酸二水素カリウム(KHPO)およびウシ血清を含む培地中で、グアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の存在下または不存在下で該試料を培養する培養工程;およびC)該化合物の不存在下で増殖せず、かつ、存在下において増殖したか、または該化合物の存在下において不存在下よりも増殖が促進された菌株を分離する分離工程を包含する。
【0090】
1つの実施形態では、本開示で利用される培地において含まれる硫酸マグネシウムは、1.16~1.74mM、硝酸アンモニウムは、8.02~9.81mM、塩化カリウムは、3.83~5.74mM、前記D-(+)-グルコースは3.96~39.64mM、前記リン酸二水素カリウムは、2.09~3.14mM、および前記ウシ血清は15~30%で前記培地中に存在し、前記培地はpHが6.0~7.0であるがこれに限定されず、これらより多くても少なくても増殖が見られる限り利用することができる。理論に束縛されることを望まないが、これらの範囲が望ましい理由としては、汎用されている乳酸菌用培地(乳酸菌用MRS培地など)よりも生体内の環境を反映する組成となっており、生体内成分として血清を含むことからも、フェルラ酸、カテコールアミン代謝産物等のグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物を認識する乳酸菌を選抜・同定する本実験系としてはより望ましい組成となることが挙げられる。理論に束縛されることを望まないが、これらの範囲が望ましい理由としてはまた、乳酸菌用培地に含まれる酵母抽出物などの微生物由来成分を一切含まないため、培養に供した微生物以外の微生物成分について、培地中への汚染を防止することが期待されること、およびこれにより、培養に供した微生物の性能・性質について、他の微生物由来成分汚染による誤認を防ぐことが強く期待できることが挙げられる。理論に束縛されることを望まないが、これらの範囲が望ましい理由としてはまた、グルコース濃度を従来の培地に比べて極めて低濃度に維持しながら乳酸菌の培養が可能であるなど、生体消化管内、例えば、大腸内などを想定した低栄養条件に設定可能であり、栄養条件によって、菌体の性質が劇的に変化することを考慮すると、一対象として、消化管内等に見出される生体のグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物に対する認識性を指標とする選抜法の性格上、極めて有意義かつ特徴的であることも挙げることができる。
【0091】
例えば、好ましい培地組成としては、1.44 mM MgSO、8.92 mM NHNO、4.79 mM KCl、7.93 mM C12、2.62 mM KHPOおよび30% ウシ血清(bovine serum)を含むもの(pH 6.5)を挙げることができるがそれに限定されない。
【0092】
1つの実施形態では、本開示の方法の培養工程は、約32~約48時間実施される。好ましくは、約36時間(例えば、プラスマイナス3時間程度範囲は許容される)にて実施され、そして、約48時間以内に判定しうることも特徴でありうるがこれに限定されない。低栄養条件培地においてのこのような時間での判定は、従来の方法では困難であったことであり、その点で有利である。
【0093】
1つの実施形態では、本開示の方法の培養工程は、約20~約45℃、好ましくは、約25~約40℃(例えば、約30~約37℃)で実施されるがこれに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、これらの温度条件が望ましい理由としては、この温度条件は、通常、L.plantarum等の乳酸菌の増殖に適切な温度域であるため、バックグラウンドの環境として、より効率的な増殖温度条件に設定する、といった利点があり、また、本発明の菌株は、生体内のフェルラ酸、カテコールアミン代謝産物等のグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物を認識することから、体温や腸管内温度と同等レベルという意味でも有意義であることが挙げられる。
【0094】
1つの実施形態では、本開示の方法の培養工程は、0~5%CO、および1~20%Oの条件下で実施され、好ましくは、5% CO、1% Oで実施されるがこれに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、これらの範囲が好ましいのは、通性嫌気性菌であるL.plantarum等の乳酸菌は、通常の大気圧レベルの酸素条件においても増殖が可能であるが、1%程度の酸素条件にすることにより、菌株の嫌気性菌としての本来の特性として、より効率的な増殖が可能となり、評価系として迅速な判定が可能になることが挙げられる。また、理論に束縛されることを望まないが、評価系システム上の利点以外にも、仮想腸管を考えた場合に、腸管内は極めて嫌気条件であるため、低酸素状態にすることにより、より腸管内の反応を反映した系として成立が期待できることも好ましい理由のひとつである。他方で、理論に束縛されることを望まないが、上部消化管(口腔や食道などを含む)は比較的好気状態であることから、広いガス範囲で検討できるという利点も存在する。理論に束縛されることを望まないが、また、二酸化炭素濃度は、通常の細胞培養時に5%に設定されているように、生体内環境を反映する組織・細胞培養モデルとして適切な範囲に設定できる利点も挙げられる。
【0095】
1つの実施形態では、本開示の方法で用いられる試料は、5×10~5×10コロニー形成単位/wellの間で、好ましくは、1×10コロニー形成単位/wellで前記L.plantarum、Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus sakei、Lactobacillus casei菌等のLactobacillus属乳酸菌株等の乳酸菌を含むがこれに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、これらの範囲が好ましいのは、示した範囲で菌数を設定することにより、48時間以内に適切な濃度域の供試化合物の反応性の評価が可能となるからである。これ以下でも実施することができ、本明細書の記載に基づいて、当業者はその条件を適宜選択することができる。
【0096】
本発明で使用されうる培養容器としては、一般的な培養用ガラス試験管、培養用プラスチック製シャーレなどを使用することができ、選抜系として多サンプルを供試することが可能であり、一般的な12穴~48穴プラスチック製培養プレートも使用可能である。
【0097】
本開示の選抜法において、供試する微生物自体を何らかの環境中から分離、選抜する「選抜系」は周知の技術で行うことが理解されるべきことに留意すべきである。
【0098】
本開示の方法は、このような周知の方法で取得した微生物について、フェルラ酸等のグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の認識性を指標にして検討する「選抜系」を意味することに留意すべきである。
【0099】
すなわち、このような周知な方法を利用して、本発明の出発材料である微生物L.plantarum等の乳酸菌は、主に植物環境などから比較的頻繁に分離選抜できる。したがって、出発材料自体の分離選抜法も、特別困難な技術と設備を要求するものではなく、微生物操作の知識があれば簡易に取り扱い・入手可能であり、ある程度の一般性があるというべきである。
【0100】
そのような例示の方法としては、例えば、チモシー・オーチャードグラス混播牧草サイレージより以下の方法に従って分離、チモシー・オーチャードグラス混播牧草サイレージを滅菌水で充分にホモジナイズし(1:10 w/v)、サイレージ懸濁液上清を滅菌水で段階希釈後、Man Rogosa Sharpe(MRS)寒天培地(Difco、Detroit、USA)に塗布し、48時間培養する(30℃、嫌気条件下)。培養後、形成されたコロニーを純粋培養し、使用時まで10%グリセロールを含む栄養ブロス(nutrient broth)(Difco)中で-80℃保存することができる。
【0101】
本開示において供試した微生物は牧草サイレージ由来乳酸菌であるL.plantarumであり、家畜飼料用の発酵貯蔵飼料より頻繁に分離される菌種として既に多数の報告がある(Rossi F. & Dellaglio F., Journal of Applied Microbiology (2007)Vol.103, 1707-1715; Ennahar S. et al., Applied and Environmental Microbiology (2003)Vol.69, 444-451; Stevenson D-M., et al., Applied microbiology and biotechnology (2006)Vol.71, 329-338など)。いずれの場合も、各飼料の懸濁液から、乳酸菌用培地により容易かつ頻繁に分離されている。
【0102】
出発材料の選抜に使用されうる培地としては、例えば、「乳酸菌の科学と技術」(株式会社学会出版センター)の例えば18頁に記載される技術を用いることが例示されるがそれに限定されない。同文献では、巻末に記されている乳酸菌で使用されている主な培地の組成がされており、これらの文献は、本明細書において参考として援用される。
【0103】
出発材料の選抜に使用されうる培地としては、任意の適切なものを挙げることができるが、例えば、これまで周知の培地として、MRS培地、GYP培地、BL培地、BCP加プレートカウント寒天培地、GAM培地、トマトジュース培地などを挙げることができる。これらの培地の組成をみると、いずれも酵母エキスなどが含まれ、グルコース濃度が比較的高いなどに認められる。
【0104】
他方、本開示のグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物によって増殖活性が上昇するL.plantarum、Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus sakeiおよびLactobacillus casei菌株等のLactobacillus属乳酸菌株を含む乳酸菌を選択する方法は、このような周知の方法からは容易に想定できないものである。フェルラ酸などのグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の認識性については周知の事実ではなく、本発明の選抜法により、広くL.plantarum、Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus sakeiおよびLactobacillus casei菌株等のLactobacillus属乳酸菌株などの乳酸菌株のフェルラ酸などのグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物の認識性について評価が可能になったという点でも顕著性が認められる。
【0105】
また、本開示の選抜系で使用した培地は、周知の技術で用いられる培地とは性質を異にしている。例えば、グルコースを例に取ると、本発明の使用した新培地は、最も汎用されているMRS培地の約1/20となる。また、酵母エキスはビタミン源およびアミノ酸源として、使われており、多くの培地に含まれることから、当該分野では必須の成分として共通認識があるところ、本発明の培地のように酵母エキスを含まない、低栄養条件である、などの利点は、本開示において顕著である。
【0106】
1つの例示的な実施形態では、以下のように選抜される。
【0107】
MgSO、NHNO、KCl、C12、KHPO、ウシ血清(bovine serum)を成分とするNo.189-091201培地を開発する。例示的なこの培地に含まれる各成分は、好ましくは以下の濃度およびpHで調製する(1.45mM MgSO、8.92mM NHNO、4.79mM KCl、3.96mM C12、2.62mM KHPOおよび30%ウシ血清を含む。pH6.5)。推奨される各成分の詳細は以下の通りであるが、同等品であれば培地性能に問題はない。
【0108】
D(+)-グルコース(C12)、和光純薬工業株式会社(試薬特級、041-00595)
リン酸二水素カリウム(KHPO)、和光純薬工業株式会社(試薬特級、169-04245)
硝酸アンモニウム(NHNO)、和光純薬工業株式会社(試薬特級、017-03235)
塩化カリウム(KCl)、和光純薬工業株式会社(試薬特級、163-03545)
硫酸マグネシウム七水和物、和光純薬工業株式会社(試薬特級、131-00405)
ウシ血清(Bovine serum),成体(Adult)、Sigma(B5433)。
【0109】
本培地の含有組成は、微生物用培地(例えば、大腸菌用LB培地、乳酸菌用MRS培地など)で汎用されている酵母抽出物などの微生物由来成分を一切含まないため、培養に供した微生物以外の微生物成分について、培地中への汚染を防止することが期待される。これにより、培養に供した微生物の性能・性質について、他の微生物由来成分汚染による誤認を防ぐことが強く期待できる。また、グルコース濃度を従来の培地に比べて極めて低濃度に維持しながら乳酸菌の培養が可能であるなど、生体大腸内などを想定した低栄養条件に設定している。栄養条件によって、菌体の性質が劇的に変化するからである。
【0110】
供試微生物を適切な培地(例えばL.plantarum TO1002であれば、MRS培地や上述のNo.189-091201培地)で前培養し、充分に増殖させ、菌体を遠心操作により集菌後、培地上清を除去し、新鮮なPBSあるいは培地で数回、充分に遠心洗浄する。例示的に使用されるNo.189-091201培地に菌体を再懸濁し、各供試されたフェルラ酸等のグアイアコール骨格を有する化合物および/または4-メトキシフェノール骨格を有する化合物とともに、24穴プレートで嫌気条件下(5% CO、1% O)あるいは好気条件下(5%CO、20%O)により培養する(供試微生物の菌数を約1×10 CFU/wellとなるように調整する。CFUはコロニー形成単位)。約36時間培養し、菌体の増殖をコロニー形成数、培養液濁度(OD600)あるいは培養液pH測定等により解析する。
【0111】
これらの条件は、あくまで例示であり、当業者は、本発明の趣旨に基づいて変更することができることが理解される。
【0112】
<剤・添加成分>
本開示の一実施形態において、本開示の組成物は、その剤型に応じて、調剤用添加剤、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、及び調味料等の添加剤をさらに含むことができる。このような添加剤や賦形剤としては、例えば、アスコルビン酸、ビオチン、パントテン酸カルシウム、カロテン、ナイアシン、ピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、パントテン酸ナトリウム、チアミン塩酸塩、トコフェロール、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンD等のビタミン類;メタリン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム等のリン酸ナトリウム類;ソルビン酸カルシウム、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等の保存料;アラビアガム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、マンニット、ソルビトール、ラクトース、可溶性澱粉、アミノ酸類、グルコース、フラクトース、スクロース、ハチミツ、脂肪酸エステル、二酸化ケイ素を挙げることができる。
【0113】
本開示の一実施形態において、本開示の組成物の剤型は、例えば、粉末、顆粒、ペレット、錠剤、カプセル剤、油状、及び液状とすることができる。
【0114】
本開示の一実施形態において、本開示の組成物は、飲食品、医薬部外品、医薬品に含まれてもよい。このうち、飲食品としては、例えば野菜加工食品、海藻加工食品、肉類加工品等の各種加工食品;スープ、スナック菓子、パン類、麺類、氷菓子類、お茶、ジュース、コーヒー、健康食品、ヨーグルト、チーズなどの乳製品などを挙げることができる。
【0115】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0116】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えばGeneArt、GenScript、Integrated DNA Technologies(IDT)などの遺伝子合成やフラグメント合成サービスを用いることもでき、その他、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0117】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0118】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0119】
(実施例1:摂食量・体重への効果)
本開示の組成物をストレス曝露下のマウスに摂取させた場合の食餌の摂食量、および体重への影響を調べた。
【0120】
実験動物としては16頭のBALB/cAJcl(日本クレア)、オス、7週齢(試験開始時)を用いた。試験群は(1)対照群(AIN-93G飼料のみ)5頭、(2)Lacticaseibacillus casei添加群(AIN-93G飼料+LOOC82株)5頭、(3)Lactiplantibacillus plantarum添加群(AIN-93G飼料+TO1002株)6頭とした。試験期間は、14日間(10日間試験飼料給与、11日目~13日目行動試験、14日目サンプリング)とした。
【0121】
行動試験としては、社会行動試験(11日目)、オープンフィールド試験(12日目)、強制水泳試験(13日目)を行い、いずれの試験も茨城大学農学部中小動物舎106号室で実施した。すべての行動試験は、10:00~17:00の間に行い、マウスの体重および摂食量は、9:00~10:30に毎日測定した。
【0122】
試験マウスは、いずれの群についても、S型プラスチックケージ(143mm L×293mm W×148mm H、日本チャールスリバー株式会社、神奈川)で個別飼育した。飼育条件は、12時間明暗サイクル(明期:7:00~19:00)、室温23±2℃、自由摂食および自由飲水(RO水)(逆浸透膜ろ過水)とした。導入後1週間はAIN-93G固形飼料(Research Diets,Inc.,New Jersey,USA)で馴致した後、各区の平均体重が均等になるようにAIN-93G給与区(AIN-93G区、n=5)、AIN-93G+Lactobacillus casei LOOC82株給与区(LOOC82区、n=5)、AIN-93G+Lactobacillus plantarum TO1002株給与区(TO1002区、n=6)の3区画に分けた。
【0123】
飼料給与方法は、AIN-93G区は馴致期間と同様の飼料を給与し、LOOC82区には、AIN-93GにLOOC82の菌株粉末を混ぜた固形飼料、TO1002区には、AIN-93GにTO1002の菌株粉末を混ぜた固形飼料を給与した。飼料中に含まれる乳酸菌数は1×10 CFU/gとした。事前給与期間は10日間とし、行動試験期間も同様の飼料を給与した。なお、本実験の固形飼料に含まれる乳酸菌は生菌のため、一日に与える飼料は3粒(8~11(g)程度)とし、摂食量の測定時に飼料を新しいものに交換した。
【0124】
社会行動試験(Social interaction test:SI)
本試験は、Gotoらの方法(Goto et al.,2014)に基づき、Open field(400mm L×400mm W×300mm H、小原医科産業株式会社、東京)を用いて行った。照度は装置中央が20luxになるように設定した。行動解析にはImage SI software(小原医科産業株式会社)を使用した。ワイヤーメッシュで加工した籠(100mm L×100mm W×130mm H:プラスチック製)をOpen field内に設置して区画を作り、その区画をTarget zoneとした。Target zoneの左右の側面から70mm、Open fieldの中心側から60mmの範囲をInteraction zoneとした。また、Target zoneから最も離れたOpen fieldの隅(80mm×80mm)の2箇所をCorner zoneとした。Target zoneに籠をセットした後、B6をCorner zoneから導入し、行動を150秒間観察した。B6導入の際、どの個体も同じCorner zoneから、頭部をOpen fieldの中心に向けて、導入した。その後、B6を一度Open fieldから取り出しホームケージに戻し、Open field内を70%エタノールで清拭した。その後、ICRを籠に入れた状態でTarget zoneに設置した。その後、再度B6をCorner zoneから導入し、行動を150秒間観察した。試験中の総移動距離、Interaction zone、Corner zoneにおける滞在時間を測定した。また、Target zoneにICRがいる場合のB6のInteraction zone滞在時間をTarget zoneにICRがいない場合のB6のInteraction zone滞在時間で割って求めた数に100をかけた値をSocial Interaction score(SI score)とした。
【0125】
オープンフィールド試験(Open field test:OF)
本試験は、Open field(400mm L×400mm W×300mm H、小原医科産業株式会社)を使用して行った。照度はフィールド中央が20luxになるように設定し、試験時間は10分間とした。マウスをOpen fieldのコーナーに配置し、頭部の方向を統一して試験を開始した。試験ごとに、オープンフィールド内を70%エタノールで消毒した。本試験は、中央(床面積全体の36%)滞在時間、壁際滞在時間及び総移動距離を専用のソフトウェア「TimeOFCR1」(小原医科産業株式会社)により測定した。
【0126】
強制水泳試験(Forced swimming test:FS)
本試験には尾部懸垂&強制水泳装置マウス1個体用(小原医科産業株式会社)を使用した。透明アクリル水槽に水深15cm、水温は23±1℃に調整した水道水を満たし、試験を行った。5分間マウスを水槽の中に入れ、行動の測定を行った。試験ごとに水槽を洗浄し、水道水を交換した。尻尾をつかんでマウスをお腹から静かに水槽の水面に下した。水槽に導入されたマウスは水槽から逃げ出そうと泳ぎ回るが、次第に動きが小さくなり、顔だけ水面から出して水に浮いたまま動かなくなる。これを抑うつ様行動とし、無動時間を測定した。無動時間は、専用のソフトウェア「Time FZ1」(小原医科産業株式会社)により測定した。
【0127】
結果
行動試験期間(ストレス負荷期間。11日目~13日目)において、Lacticaseibacillus casei添加群(LOOC82区)、およびLactiplantibacillus plantarum添加群(TO1002区)のいずれにおいても、餌のみを与えた群(AIN-93G区)と比べて、摂食量が有意差を伴って増加していた(図1)。また試験14日間の各群の増体重を比較したところ、有意差は見られなかったものの、Lacticaseibacillus casei添加群(LOOC82区)、およびLactiplantibacillus plantarum添加群(TO1002区)のいずれにおいても、餌のみを与えた群(AIN-93G区)と比べて、最終増体重に増加傾向がみられた(図2)。以上の結果から、Lacticaseibacillus casei(LOOC82)、およびLactiplantibacillus plantarum(TO1002)のいずれも、摂取することにより、行動試験中のストレスにより生じた増体重の低下を抑制する可能性が示唆された。また、特にLacticaseibacillus casei(LOOC82)は行動試験中の摂食量の低下を改善する可能性が示唆された。これは、Lacticaseibacillus casei(LOOC82)、およびLactiplantibacillus plantarum(TO1002)を摂取することで、脳神経系に作用し、対象の脳神経系に関連する状態を正常なものへと変化させたことが考えられる。
【0128】
また強制水泳試験の結果では、いずれの群においても無動時間の割合に有意差は見られなかった。従来のモノアミン系に作用すると考えられる多くの抗鬱薬(例えばSSRIなど)では、無動時間を短縮することが、抗鬱薬としての効果として評価され、そのような抗鬱薬では改善が期待できない鬱病は難治性鬱病とされている。強制水泳試験の結果から、本開示の組成物は、従来の多くの抗鬱薬とは異なる作用機序で薬効を示すことが示唆され、従来開発品がターゲットとできなかった患者を治療対象とすることができる。
【0129】
(実施例2:行動への効果)
本実施例においては、Lacticaseibacillus casei(Lactobacillus casei) LOOC82株、Lactiplantibacillus plantarum(Lactobacillus plantarum) TO1002株の添加飼料の給与が雄性C57BL/6Jマウスの行動に与える影響を調べた。
【0130】
材料・方法
供試動物
雄のC57BL/6JJcl(B6)マウス(3週齢、n=25)は日本クレア株式会社(東京)より、茨城大学農学部中小動物舎のマウス飼育室に導入した。導入後、S型プラスチックケージ(143mm L×293mm W×148mm H、日本チャールスリバー株式会社、神奈川)で個別飼育した。飼育条件は、12時間明暗サイクル(明期:7:00~19:00)、室温23±2℃、自由摂食および自由飲水(RO水)(逆浸透膜ろ過水)とした。導入後1週間はAIN-93G固形飼料(Research Diets,Inc., New Jersey, USA)で馴致した後、各区の平均体重が均等になるようにAIN-93G給与区(AIN-93G区、n=8)、AIN-93G+Lacticaseibacillus casei LOOC82株給与区(LOOC82区、n=8)、AIN-93G+Lactiplantibacillus plantarum TO1002株給与区(TO1002区、n=9)の3区画に分けた。なお、本研究は茨城大学動物実験委員会の指針に基づき、同委員会の承認(承認番号:21070)を得て行った。
【0131】
試験概要
馴致期間7日後、各飼料給与開始日を1日目とした。AIN-93G区には、AIN-93G固形飼料を、LOOC82区にはAIN-93G固形飼料にLacticaseibacillus casei LOOC82株の菌株粉末を混合した固形飼料、TO1002区にはAIN-93G固形飼料にLactiplantibacillus plantarum TO1002株の菌株粉末を混合した固形飼料を10日間事前給与した。10~11日目に巣作り行動試験、11日目に社会行動試験、12日目にY字迷路試験、13日目に高架式十字迷路試験、14日目に強制水泳試験、15日目に尾部懸垂試験、16日目にサンプリングを行った。
【0132】
飼料給与方法
3区それぞれ異なる飼料を給与した。AIN-93G区は馴致期間と同様の飼料を給与し、LOOC82区には、AIN-93GにLacticaseibacillus casei LOOC82株の菌株粉末を混ぜた固形飼料、TO1002区には、AIN-93GにLactiplantibacillus plantarum TO1002株の菌株粉末を混ぜた固形飼料を給与した。飼料中に含まれる乳酸菌数は1×10 CFU/gとした。事前給与期間は10日間とし、行動試験期間も同様の飼料を給与した。なお、本実験の固形飼料に含まれる乳酸菌は生菌のため、一日に与える飼料は3粒(7~12(g)程度)とし、摂食量の測定時に飼料を新しいものに交換した。
【0133】
体重・摂食量・飲水量の測定
マウスの体重・飲水量・摂食量は、9:00~10:30に毎日測定した。
【0134】
行動試験
全ての行動試験は、巣作り行動試験を除き、10:00~17:00の間に行った。
【0135】
巣作り行動試験(Nest building test:NB)
本試験はOtabiらの方法に基づいて実施した(Otabi et al., 2016)。事前給与開始から9日目に馴致のため敷料をシェファーズコブ(Shephared Speciality papers, TN)に変更した。10日目に巣材として約3gの圧縮コットン(Nestlet、Ancare、NewYork)を投入した。巣作り行動の観察は投入後の明期および投入から23、24時間後とし、Nest scoreを評価した。Nest scoreはDeaconの方法に基づいて評価した(Deacon, 2006)。Nest scoreは5段階評価とした。Score1は巣材が90%以上そのままの状態、Score2は巣材の50%~90%がそのままの状態、Score3は巣材がほとんど細断されているが巣と識別できない状態、Score4は平らな巣がある状態、Score5はほとんど完璧な巣を作っており、巣の壁がマウスの体の50%以上ある状態とした。
【0136】
社会行動試験(Social interaction test:SI)
実施例1と同様にして行った。
【0137】
Y字迷路試験(Y-maze test)
本試験は、3本のアームから構成されるY字型の装置(各アームの長さ:30mm W×400mm D×120mm H、塩化ビニル製、小原医科産業株式会社)で行われた。Y字の交差点が照度20luxになるように設定し、試験時間は8分間とした。マウスを導入する際は、手前側のアームの壁側にマウスの頭部が向くように統一して配置し実施した。試験ごとに、装置を70%エタノールで清掃した。本試験では、総移動距離、総アーム侵入回数、交替行動率((交替行動数/総アーム侵入回数-2)×100)を専用のソフトウェア「TimeYM1」(小原医科産業株式会社)により測定した。
【0138】
高架式十字迷路試験(Elevated plus maze test:EPM)
本試験は、床上50cmにおいて底面が白色で左右対称の、オープンアーム(50mm L×250mm W×5mm H)、透明の壁があるクローズドアーム(50mm L×250mm W×160mm H)、プラットフォーム(50mm L×50mm W×5mm H)からなる十字部、それを支える脚部で構成された装置(株式会社筑波光科学)を用いて行った。中央のプラットフォームが照度20luxになるように設定し、試験時間は10分間とした。マウスを導入する際は、頭部の方向がクローズドアームに向くように統一して配置した。試験ごとに、装置を70%エタノールで清掃した。本試験では、各アーム滞在時間、総移動距離を専用のソフトウェア「TimeEP1」(小原医科産業株式会社)により測定した。
【0139】
強制水泳試験(Forced swimming test:FS)
実施例1と同様にして行った。
【0140】
尾部懸垂試験(Tail suspension test:TS)
本試験は、Steruらの方法(Steru et al.,1985)に基づいて行った。本試験には尾部懸垂&強制水泳試験装置マウス1個体用(小原医科産業株式会社)を使用した。マウスの尾部根元をテープで尾部懸垂用の小さな穴の開いたステンレス製の板に固定し、この板を尾部懸垂用のフックに取り付け、6分間試験を行った。マウスは逆さ吊りの状態を嫌がって暴れるが、次第に動かなくなる。この無動状態を抑うつ様行動とし、無動時間を測定した。無動時間は、専用のソフトウェア「Time FZ1」(小原医科産業株式会社)により測定した。
【0141】
糞便サンプリング
馴致開始から6日目と7日目、そして事前給与開始から8日目と9日目に糞便採取を行った。馴致開始から6日目と事前給与開始から8日目の糞便はモノアミン解析用、馴致開始から7日目と事前給与開始から9日目の糞便は腸内細菌叢解析用とした。朝7時にマウスを空ケージに導入し、滅菌したピンセットで糞便を採取した。生化学分析用の糞便は液体窒素で一時保存後、-80℃で凍結保存した。腸内細菌叢解析用の糞便は、DNA/RNA Shield(ZYMO RESEARCH社, カリフォルニア州, 米国)で保存後、一晩4℃で保存し、その後-80℃で凍結保存した。採取する糞便は5粒から10粒とした。
【0142】
臓器および組織サンプリング
事前給与開始から16日目にサンプリングを行った。サンプリング直前の摂食による代謝パラメータの変動を防ぐため、サンプリング前に3時間(7:00~10:00)の絶食時間を設けた。マウス・ラット等小動物実験用簡易吸入麻酔装置(NARCOBITE-E(II型)、KN-1071、株式会社夏目製作所、東京)を用いてイソフルラン5%で吸入麻酔をかけ麻酔を導入した後、3%で維持麻酔を行いながら腹部大静脈から全採血を行った。全採血後、頸椎脱臼によりマウスを安楽死させ、その後断頭を行った。断頭後、すみやかに各組織(脳、腸管、盲腸)を摘出し、脳以外の重量を測定した。なお、腸管の範囲は胃下から大腸までとした。さらにパイエル板の数を目視で計測した。脳は摘出後ドライアイスで一時保存、腸管は液体窒素で一時保存、盲腸はDNA/RNA Shieldを500μL添加し、保存した。脳、腸管については-80℃で凍結保存した。また、腸管について各区3頭ずつは小腸の組織を見るため、胃側に最も近いパイエル板周辺1cmをサンプリングし、ホルマリンに固定した。各区の代表3個体は、社会行動試験におけるSIスコアの中央値をもとに決定した。盲腸については、DNA/RNA Shieldに浸透させるため一晩4℃で保存した後、-80℃で凍結保存した。採取した血液は、800×g、4℃にて15分間遠心分離処理を行った。遠心分離処理後、上清を回収し、-80℃で凍結保存した。
【0143】
統計処理
データの解析処理にはエクセル統計2006 for Windows(社会情報サービス、東京)を用いた。各区間の比較には、一元配置分散分析(one-way ANOVA)を行った後、事後検定としてBonferroni法を用いて検定を行った。p<0.05で有意差あり、p<0.1で傾向ありとした。
【0144】
結果
本試験においては、LOOC82区に水頭症が疑われる個体が一頭いたため、その個体のデータは除外したデータを以下記載する。
【0145】
増体重・摂食量
行動試験期間中(ストレス負荷期間。11日目~15日目)の摂食量については、Lacticaseibacillus casei添加群(LOOC82区)(n=7)において、AIN-93G給与区(n=8)と比較して、有意に増加していた(AIN-93G vs L.casei:p=0.0492)。またLactiplantibacillus plantarum添加群(TO1002区)(n=9)についても、AIN-93G給与区と比較して、摂食量に増加傾向がみられた。以上の結果から、Lacticaseibacillus casei(LOOC82)、およびLactiplantibacillus plantarum(TO1002)のいずれも、行動試験中の摂食量の低下を改善する可能性が示唆された。これは、Lacticaseibacillus casei(LOOC82)、およびLactiplantibacillus plantarum(TO1002)を摂取することで、脳神経系に作用し、対象の脳神経系に関連する状態を正常なものへと変化させたことが考えられる。
【0146】
また16日目までの増体重をみてみると、Lacticaseibacillus casei添加群(LOOC82区)(n=7)、およびLactiplantibacillus plantarum添加群(TO1002区)(n=9)のいずれも、AIN-93G給与区(n=8)と比較して、増加傾向がみられた。この結果から、Lactobacillus casei(LOOC82)、およびLactobacillus plantarum(TO1002)のいずれも、摂取することにより、行動試験中のストレスにより生じた増体重の低下を抑制する可能性が示唆された。
【0147】
行動試験
巣作り行動試験(Nest building test:NB)
各区のネストスコアの経時的変化を図3に示した。巣材投入から、1~9時間後、そして23時間後における各区のネストスコアに対して統計解析を実施した。
【0148】
巣材をケージに投入してから1時間後については、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)=0.2107、p=0.8117;one-way ANOVA;AIN-93G区:1.875 ± 0.125 vs LOOC82区:2.000 ± 0.000 vs TO1002区: 2.111 ± 0.389)。AIN-93G区とLOOC82区間、AIN-93G区とLOOC82区間、LOOC82区とTO1002区間にそれぞれ統計的な有意差は認められなかった(p=1.0000)が、乳酸菌介入群は2群ともネストスコアの若干の上昇傾向が示唆され、その後の上昇を期待させた。巣材投入1時間という短時間での評価では大きな差が生じにくいと考えられる。
【0149】
巣材をケージに投入してから2時間後についても、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2,21)= 0.8400、p = 0.4457;one-way ANOVA;AIN-93G区:1.875 ± 0.125 vs LOOC82区:2.000 ± 0.000 vs TO1002区:2.444 ± 0.503)。AIN-93G区とLOOC82区間(p=1.0000)、AIN-93G区とTO1002区間(p=0.6981)、LOOC82区とTO1002区間(p=1.0000)にはそれぞれ統計的な有意差は認められなかったが、乳酸菌介入群は2群ともで改善の傾向がみられ、L.plantarumの立ち上がりが目立った。
【0150】
巣材をケージに投入してから3時間後についても、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)=1.1470、p=0.3367;one-way ANOVA;AIN-93G区:1.875±0.125 vs LOOC82区:2.286 ± 0.286 vs B 区:2.667 ± 0.527)。AIN-93G区とLOOC82区間(p=1.0000)、AIN-93G区とTO1002区間(p=0.4344)、LOOC82区とTO1002区間(p=1.0000)にはそれぞれ統計的な有意差は認められなかったが、乳酸菌介入群は2群ともで改善の傾向がみられた。
【0151】
巣材をケージに投入してから4時間後についても、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)=1.7995、p=0.1900;one-way ANOVA;AIN-93G区:2.000 ± 0.000 vs LOOC82区:3.143±0.553 vs TO1002区:2.778±0.494)。AIN-93G区とLOOC82区間(p=0.2422)、AIN-93G区とTO1002区間(p=0.5933)、LOOC82区とTO1002区間(p=1.0000)にはそれぞれ統計的な有意差は認められなかったが、乳酸菌介入群は2群ともで改善の傾向がみられ、L.casei群の立ち上がりが急速になった。
【0152】
巣材をケージに投入してから5時間後についても、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)=2.0212、p=0.1575;one-way ANOVA;AIN-93G区:2.000 ± 0.000 vs LOOC82区:3.286 ± 0.606 vs TO1002区:2.778±0.494)。AIN-93G区とLOOC82区間(p=0.1821)、AIN-93G区とTO1002区間(p=0.6464)、LOOC82区とTO1002区間(p=1.0000)にはそれぞれ統計的な有意差は認められなかったが、乳酸菌介入群は2群ともで改善の傾向がみられた。
【0153】
巣材をケージに投入してから6時間後について、3区間で統計的な有意差が認められた(F(2, 21)= 6.1923、p = 0.0077;one-way ANOVA;AIN-93G区:2.000 ± 0.000 vs LOOC82区:4.000 ± 0.535 vs TO1002区:2.667 ± 0.441 )。LOOC82区はAIN-93G区と比較し、ネストスコアが有意に高かった(p=0.0068)。LOOC82区とTO1002区間で有意傾向が認められた(p=0.0810)。AIN-93G区とTO1002区間で、統計的な有意差は認められなかった(p=0.6936)が、改善の傾向がみられた。
【0154】
巣材をケージに投入してから7時間後について、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)= 2.0608、p = 0.1523;one-way ANOVA;AIN-93G区:2.375 ± 0.375 vs LOOC82区:3.714 ± 0.474 vs TO1002区:3.333 ± 0.527)。AIN-93G区とLOOC82区間(p = 0.1972)、AIN-93G区とTO1002区間(p = 0.4613)、LOOC82区とTO1002区間(p = 1.0000)には、それぞれ統計的な有意差は認められなかったが、乳酸菌介入群は2群ともで改善の傾向がみられた。
【0155】
巣材をケージに投入してから8時間後についても、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)= 1.0892、p = 0.3548;one-way ANOVA;AIN-93G区:2.750 ± 0.491 vs LOOC82区:3.857 ± 0.508 vs TO1002区:3.333 ± 0.527)。AIN-93G区とLOOC82区間(p = 0.4676)、AIN-93G区とTO1002区間(p = 1.0000)、LOOC82区とTO1002区間(p = 1.0000)には、それぞれ統計的な有意差は認められなかったが、乳酸菌介入群は2群ともで改善の傾向がみられた。
【0156】
巣材をケージに投入してから9時間後についても、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)= 1.1487、p = 0.3362;one-way ANOVA;AIN-93G区:2.750 ± 0.491 vs LOOC82区:3.714 ± 0.474 vs TO1002区:3.667 ± 0.527)。AIN-93G区とLOOC82区間(p = 0.6199)、AIN-93G区とTO1002区間(p = 0.6037)、LOOC82区とTO1002区間(p = 1.0000)にはそれぞれ統計的な有意差は認められなかったが、乳酸菌介入群は2群ともで改善の傾向がみられた。
【0157】
巣材をケージに投入してから23時間後についても、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2, 21)= 1.1655、p = 0.3311;one-way ANOVA;AIN-93G区:5.000 ± 0.000 vs LOOC82区:4.714 ± 0.184 vs TO1002区:4.556 ± 0.294)。AIN-93G区とLOOC82区間(p=1.0000)、AIN-93G区とTO1002区間(p=0.4338)、LOOC82区とTO1002区間(p=1.0000)にはそれぞれ統計的な有意差は認められなかった。この結果から、ネガティブコントロールについて、運動障害が原因ではなく、また視覚障害、嗅覚障害などで巣材が分からない(把握できない)などの状態が原因となっているわけでもないことが確認された。
【0158】
投入から24時間後のネストスコアについては、午前9時から体重、摂食、飲水の測定をしたことにより、巣が崩れてしまったものがあり、正確に測ることができなかった。
【0159】
Y字迷路試験(Y-maze test)
交替行動率を解析した結果、3区間で統計的な有意差が認められた(F(2,21)= 4.5018、p = 0.0236;one-way ANOVA;AIN-93G区:58.64 ± 4.012(%) vs LOOC82区:71.58 ± 3.241(%) vs TO1002区:58.33 ± 2.994(%))。LOOC82区において、AIN-93G区と比較し、交替行動率が上昇する傾向が認められた(p = 0.0535)。AIN-93G区とTO1002区間についても統計的な有意差を期待することができる。
【0160】
強制水泳試験(Forced swimming test:FS)
総無動時間割合を解析した結果、3区間で統計的な有意差は認められなかった(F(2,20)= 1.6546、p = 0.2163;one-way ANOVA;AIN-93G区:21.38 ± 4.957(%) vs LOOC82区:21.90 ± 3.752(%) vs TO1002区:32.24 ± 5.334(%))。AIN-93G区とLOOC82区間(p = 1.0000)、AIN-93G区とTO1002区間(p = 0.3574)、LOOC82区とTO1002区間(p = 0.4501)にはそれぞれ統計的な有意差は認められなかった。また、本試験においては1頭測定ミスがあり、その個体についてはデータから外した。
【0161】
以上のとおり、強制水泳試験の結果では、いずれの群においても無動時間の割合に有意差は見られなかった。従来のモノアミン系などの多くの抗鬱薬では、無動時間を短縮することが、抗鬱薬としての効果として評価され、そのような抗鬱薬では改善が期待できない鬱病は難治性鬱病とされている。強制水泳試験の結果から、本開示の組成物は、従来の多くの抗鬱薬とは異なる作用機序で薬効を示すことが示唆され、従来開発品がターゲットとできなかった患者を治療対象とすることができる。
【0162】
(実施例3:亜慢性社会的敗北モデルマウスの行動に与える影響)
実施例2の結果から、AIN-93G区とLOOC82区、TO1002区の摂食量について、乳酸菌添加飼料の給与により摂食量が著しく低下することはなく、B6マウスの摂食行動に悪影響はおよぼさないことが確認できた。このことから、B6マウスにおける当該乳酸菌の嗜好性には問題ないことがわかった。
【0163】
本実施例では、Lacticaseibacillus casei LOOC82株、Lactiplantibacillus plantarum TO1002株を事前給与したマウスにsCSDSを供し、増体重、飲水量、摂食量、そして各種行動試験にどのような影響をおよぼすか調査した。
【0164】
供試動物
・侵入者(Intruder)
雄のC57BL/6JJcl(B6)マウス(3週齢、n=25)は日本クレア株式会社(東京)より、茨城大学農学部中小動物舎のマウス飼育室に導入した。導入後、S型プラスチックケージ(143mm L×293mm W×148mm H、日本チャールスリバー株式会社、神奈川)で個別飼育した。飼育条件は、12時間明暗サイクル(明期:7:00~19:00)、室温23±2℃、自由摂食および自由飲水(RO水)とした。導入後1週間はAIN-93G固形飼料(Research Diets, Inc. New Jersey,USA)で馴致した後、各区の平均体重が均等になるように、コントロール区(AIN-cont区、n=6)、AIN-93G+stress 区(AIN-st区、n=6)、AIN-93G+Lacticaseibacillus casei LOOC82+stress区(A+st区、n=7)、AIN-93G+Lactiplantibacillus plantarum TO1002株+stress区(B+st区、n = 6)の4区画に分けた。
【0165】
・居住者(Resident)
飼料資源科学研究室で飼育維持されていたリタイアのICR雄マウスをS型プラスチックケージで個別飼育した。飼育条件は12時間の明暗サイクル(明期:7:00~19:00)、室温23±2℃、自由摂食(MF固形飼料:オリエンタル酵母株式会社、東京)、自由飲水(水道水)とした。
【0166】
なお本研究は茨城大学動物実験委員会の指針に基づき、同委員会の承認(承認番号:21070)を得て行った。
【0167】
試験概要
馴致期間7日後、各飼料給与開始日を1日目とした。AIN-cont区、AIN-st区にはAIN-93G固形飼料を、A+st区にはAIN-93G固形飼料にLacticaseibacillus casei LOOC82株の菌株粉末を混合した固形飼料、B+st区にはAIN-93G固形飼料にLactiplantibacillus plantarum TO1002株の菌株粉末を混合した固形飼料を10日間事前給与した。11~20日目にsCSDS暴露を行った。20~21日目にNB、21日目にSI、22日目にY-maze、23日目にFS、24日目にTS、25日目にサンプリングを行った。
【0168】
攻撃性の高いICR(Aggressive ICR)の選抜
攻撃性の高いICR(Aggressive ICR)の選抜は、飼料資源科学研究室で飼育されているResident選抜用マウス(B6)をICRマウスのホームケージに導入する方法で行った。ICRのホームケージにB6を導入後、ICRの攻撃性を180秒間、主に噛みつきを指標に評価した。この180秒間の選抜を1個体につき1日3回、計3日間行った。この3日間の選抜において、Resident選抜用マウスを導入してから30秒以内に攻撃を始めた回数、180秒間の総攻撃時間をもとに攻撃性の高いICRを選抜した。選抜されたICRは、亜慢性社会的敗北ストレス暴露3日前からプラスチックケージ(Social Defeatケージ:SDケージ、220mm L×320mm W×135mm H、夏目製作所、東京)で中央に仕切り版を設け馴致した。
【0169】
亜慢性社会的敗北ストレス暴露方法
亜慢性社会的敗北ストレス暴露は、10:00~13:00の間に行った。亜慢性社会的敗北ストレスのパラダイムはGotoらの方法を参考にして行った(Goto et al., 2014 ; Goto & Toyoda, 2015 ; Hagihara et al., 2021)。開始前にケージの中央に穴をあけた仕切り(アクリル製)を固定し、アクリル板で蓋をした。その後、ResidentであるICRのホーム側にIntruderとしてB6を導入し、社会的敗北ストレス暴露を行った。その後、仕切りの反対側にB6を移動させ、24時間同ケージで飼育した。この方法によって、同ケージで飼育している間、Residentとの物理的接触を与えることなく、視覚、聴覚、嗅覚由来の刺激による心理的ストレスをB6に暴露した。社会的敗北実施時間は、B6をICRのホームに導入した直後から計測し、初日は5分間、それ以降1日30秒ずつ減らしていき、最終日は30秒とした。ストレス暴露は1日1回、10日間連続で行った。B6が受けるストレス強度の平均化、そして慣れを回避するため、B6とICRのペアは毎回変更し、新しいケージに移し替えた。なお、本実験では幼若マウスへの身体的ストレスの程度を軽減するため、1日の噛みつきの回数をsCSDS暴露開始から4日目までは10~15回としていたが、実験者が身体的ストレスの影響が大きいと判断したため、5日目以降は5~10回に制限した。さらに毎回別のケージに移し替えることにより、他個体が排泄した糞を食してしまうことを防ぐため、敷料は毎回新しいものに交換した。AIN-cont区については、毎回前日とは異なる場所に移し替え、敷料を交換し、B6同士のペアも変更した。10日間のsCSDS暴露終了後、行動試験の間はsCSDS暴露は行わず、S型プラスチックケージに移し個別飼育した。
【0170】
飼料給与方法
AIN-cont区、AIN-st区は馴致期間と同様の飼料を給与し、A+st区には、AIN-93GにLacticaseibacillus casei LOOC82株の菌株粉末を混ぜた固形飼料、B+st区には、AIN-93GにLactiplantibacillus plantarum TO1002株の菌株粉末を混ぜた固形飼料を給与した。事前給与期間は10日間とし、sCSDS期間および行動試験期間も同様の飼料を給与した。なお、本実験の固形飼料に含まれる乳酸菌は生菌のため、一日に与える飼料は3粒(7~12(g)程度)とし、摂食量の測定時に飼料を新しいものに交換した。
【0171】
体重・摂食量・飲水量の測定
マウスの体重・飲水量・摂食量は、9:00~10:30に毎日測定した。
【0172】
行動試験
全ての行動試験は、巣作り行動試験を除き、10:00~17:00の間に行った。
【0173】
巣作り行動試験(Nest building test:NB)
本試験はOtabiらの方法に基づいて実施した(Otabi et al., 2016)。sCSDS暴露から9日目に馴致のため敷料をシェファーズコブ(Shephared Speciality papers, TN)に変更した。10日目に巣材として約3 gの圧縮コットン(Nestlet、Ancare、NewYork)を投入した。巣作り行動の観察は投入後の明期および投入から20、23時間後とし、Nest scoreを評価した。Nest scoreはDeaconらの方法に基づいて評価した(Deacon, 2006;R. Deacon, 2012)。
【0174】
社会行動試験(Social interaction test:SI)
実施例2と同一の方法で実施した。
【0175】
Y字迷路試験(Y-maze test)
実施例2と同一の方法で実施した。
【0176】
強制水泳試験(Forced swimming test:FS)
実施例1と同一の方法で実施した。
【0177】
尾部懸垂試験(Tail suspension test:TS)
実施例1と同一の方法で実施した。
【0178】
糞便サンプリング
馴致開始から6日目、事前給与開始から9日目、そしてsCSDS暴露から8、9日目に糞便採取を行った。糞便採取前日に敷料を交換し、一日経過後に滅菌したピンセットで糞便を採取した。モノアミン解析用、腸内細菌叢解析用にそれぞれ採取し、モノアミン解析用の糞便は液体窒素で一時保存後、-80℃で凍結保存した。腸内細菌叢解析用の糞便は、DNA/RNA Shieldで保存後、一晩4℃で保存し、その後-80℃で凍結保存した。採取する糞便は、10粒程度を目安とした。
【0179】
臓器および組織サンプリング
事前給与開始から25日目にサンプリングを行った。サンプリング直前の摂食による代謝パラメータの変動を防ぐため、サンプリング前に3時間(7:00~10:00)の絶食時間を設けた。マウス・ラット等小動物実験用簡易吸入麻酔装置 (NARCOBITE-E(II型)、KN-1071、株式会社夏目製作所、東京)を用いてイソフルラン5%で吸入麻酔をかけ麻酔を導入した後、3%で維持麻酔を行いながら腹部の大静脈から全身採血を行った。全身採血後、頸椎脱臼によりマウスを安楽死させ、その後断頭を行った。断頭後、すみやかに各組織(脳、腸管、盲腸)を摘出し、脳以外の重量を測定した。なお、腸管の範囲は胃から大腸までとした。さらにパイエル板の数を目視で計測した。脳は摘出後ドライアイスで一時保存、腸管は液体窒素で一時保存、盲腸はDNA/RNA Shieldを500μL添加し、保存した。脳、腸管については-80℃で凍結保存した。また、腸管について各区3頭ずつは小腸の組織を見るため、胃側および盲腸側に最も近いパイエル板周辺1cmをサンプリングし、ホルマリンに固定した。各区の代表3個体は、社会行動試験におけるSIスコアの中央値をもとに決定した。盲腸については、DNA/RNA Shieldに浸透させるため一晩4℃で保存した後、-80℃で凍結保存した。採取した血液は、800×g、4℃にて15分間遠心分離処理を行った。遠心分離処理後、上清を回収し、-80℃で凍結保存した。一部上清をうまく回収できなかったサンプルについては、追加で遠心分離処理を行い、上清を回収した。
【0180】
統計処理
実施例2と同一の方法で実施した。
【0181】
結果
いずれの試験においても、コホートサイズを大きくすることで、Lacticaseibacillus casei(Lactobacillus casei) LOOC82株、またはLactiplantibacillus plantarum(Lactobacillus plantarum) TO1002株の事前給与が、sCSDS暴露による影響を改善する可能性が見出された。特に社会行動試験においては、コホートサイズを大きくすることで、本開示の乳酸菌、特にLacticaseibacillus casei(Lactobacillus casei) LOOC82株の介入により、ICRへの忌避行動(恐怖、不安)が改善することが期待された。3群比較の社会行動試験であるため、コホートサイズとしては、各群20頭程度のサイズとすることで、上記改善が期待できる。このことから、本開示の組成物は、本モデルにおいて効果を奏する可能性があることがわかる。
【0182】
(実施例4:離乳直後の単飼育が雄性C57BL/6Jマウスの行動、および神経伝達物質濃度に与える影響)
本実施例では、乳酸菌の介入を行わずに単飼育を行い、単飼育と群飼育との比較を行った。離乳直後に単飼育をすると、群飼育されたマウスと比較し、社会性や学習能力が低下することが報告されている(Makinodan et al., 2012)。よって、実施例2では、離乳直後の単飼育により、B6マウスがストレスを受けていた可能性がある。本実施例では、実施例2の実験から得られた結果の補足として、離乳直後の単飼育がB6マウスに行動失調、そして脳内神経伝達物質濃度に影響をおよぼすかどうか、調査した。
【0183】
材料・方法
供試動物
雄のC57BL/6JJcl(B6)マウス(3週齢、n=21)は日本クレア株式会社(東京)より、茨城大学農学部中小動物舎のマウス飼育室に導入した。導入後、各区の平均体重が均等になるように、Group Housing区(GH区、n=12)、Single Housing(SH区、n=9)の2区画に分けた。GH区は、4匹のB6マウスをM型プラスチックケージ(235mm L×325mm W×170mm H、日本チャールスリバー株式会社、神奈川)で群飼育、SH区は S型プラスチックケージ(143 mm L×293mm W×148mm H、日本チャールスリバー株式会社)で個別飼育した。飼育条件は、12時間明暗サイクル(明期:7:00~19:00)、室温23±2℃、自由摂食および自由飲水(RO水)とした。導入後は、AIN-93G固形飼料(Research Diets, Inc. New Jersey, USA)を給与した。
【0184】
本研究は茨城大学動物実験委員会の指針に基づき、同委員会の承認(承認番号:21070)を得て行った。
【0185】
試験概要
導入後、体重をもとに群分けし、2週間単飼育群飼育それぞれで飼育した。
行動試験開始日を1日目とし、1~2日目にNB、3日目にOFT、4日目にSI、5日目にY-maze、6日目にFS、7日目にTS、8日目にサンプリングを行った。
【0186】
個体識別方法
本試験では、GH区の個体識別を容易にするため、マウスの耳にピアスをつけた。なお、GH区とSH区の間でピアス装着による影響をなくすため、SH区も含め全個体にピアスを装着した。ピアスは、ら・ピアス(実験小動物用個体識別タグ、株式会社サイテック、静岡)を用いた。マウス・ラット等小動物実験用簡易吸入麻酔装置 (NARCOBITE-E(II型)、KN-1071、株式会社夏目製作所、東京)を用いてイソフルランで吸入麻酔をかけたのち、維持麻酔を行いながら全個体右耳にピアスを装着した。なお、ピアスを付けた直後に自ら外してしまった個体については、再度麻酔をし、ピアスを再装着した。
【0187】
体重・飲水・摂食の測定
体重・飲水・摂食の測定について、飼育期間中は4日おきに、行動試験期間中は毎日9:00~10:30に測定した。
【0188】
行動試験
全ての行動試験は、巣作り行動試験を除き、10:00~17:00の間に行った。
【0189】
巣作り行動試験(Nest building test:NB)
本試験はOtabiらの方法に基づいて実施した(Otabi et al., 2016)。導入から14日後に、敷料をシェファーズコブ(Shephared Speciality papers, TN)に変更した。15日目に巣材として約3gの圧縮コットン(Nestlet、Ancare、NewYork)を投入した。巣作り行動の観察は投入後の明期および21~24時間後とし、Nest scoreを評価した。Nest scoreはDeaconらの方法に基づいて評価した (Deacon, 2006;R. Deacon, 2012)。
【0190】
オープンフィールド試験(Open field test:OF)
本試験は、Open field(400mm L×400mm W×300mm H、小原医科産業株式会社)を使用して行った。照度はフィールド中央が20luxになるように設定し、試験時間は10分間とした。マウスをOpen fieldのコーナーに配置し、頭部の方向を統一して試験を開始した。試験ごとに、オープンフィールド内を70%エタノールで消毒した。本試験は、中央(床面積全体の36%)滞在時間、壁際滞在時間及び総移動距離を専用のソフトウェア「TimeOFCR1」(小原医科産業株式会社)により測定した。
【0191】
社会行動試験(Social interaction test:SI)
実施例2と同一の方法で実施した。
【0192】
Y字迷路試験(Y-maze test)
実施例2と同一の方法で実施した。
【0193】
強制水泳試験(Forced swimming test:FS)
実施例2と同一の方法で実施した。
【0194】
尾部懸垂試験(Tail suspension test:TS)
実施例2と同一の方法で実施した。
【0195】
臓器および組織サンプリング
最後の行動試験項目であるTSの翌日、Day8にサンプリングを行った。サンプリング直前の摂食による代謝パラメータの変動を防ぐため、サンプリング前に3時間(7:00~10:00)の絶食時間を設けた。非麻酔下で頸椎脱臼によりマウスを安楽死させ、その後断頭を行った。断頭後、すみやかに各組織(脳、腸管、盲腸、直腸糞便)を摘出した。腸管については、小腸部分の長さを測定した。脳は摘出後ドライアイス、腸管、直腸糞便は液体窒素、盲腸はDNA/RNA Shieldを500μL添加し、一時保存した。脳、腸管、直腸糞便については-80℃で凍結保存した。盲腸については、DNA/RNA Shieldに浸透させるため一晩4℃で保存した後、-80℃で凍結保存した。
【0196】
前頭前野における神経伝達物質濃度の分析
前頭前野における神経伝達物質濃度の分析は、株式会社・栄養・病理学研究所(京都)に委託をした。
【0197】
統計処理
増体重、摂食量、飲水量、そして巣作り行動試験のデータの統計解析には、エクセル統計2006 for Windows(社会情報サービス、東京)を用いて、二元配置分散分析(Two-way ANOVA)を行った。巣作り行動試験の1時間ごとのデータ解析には、Mann Whitney U検定を行った。その他のデータの解析処理にはStudent’s t検定を用いた。p<0.1で有意傾向ありとし、p<0.05で有意差ありとした。
【0198】
結果
単飼育によるストレスによって、群飼育した群と比較して、巣作り行動が遅くなる傾向がみられた。実施例2では、本開示の組成物を与えた群では、与えていない群と比較して、巣作り行動の改善がみられていることから、本開示の組成物を与えることで、単飼育によるストレスを改善することがわかった。
【0199】
(実施例5:フレイルへの効果)
対象実験動物として、加齢マウス(壮年モデル、50週齢程度のC57BL6Jマウス、日本 クレアなどから購入可能)、老化促進モデルマウス(SAM系統、SAMP8など)を用いる。
介入方法としては、本開示の乳酸菌入り飼料を上記マウスに一定期間給与して、評価する(介入群)。対照群には通常飼料を給与する。介入群と対照群とを2群比較する。
評価方法としては、摂食量、飲水量、体重、筋力測定、各種行動(歩行パターンと速度、ホームケージ内活動量、オープンフィールド試験(自発活動量)、強制水泳試験(うつ)、尾部懸垂試験(うつ)、高架式十字迷路試験(不安)、Y字迷路試験(記憶)、など)、血液生化学的パラメータ―、筋肉量、筋肉の組織の化学的解析、腸内細菌叢解析などを測定することで、フレイルの予防効果や治療効果を確認する。
これらの試験を行うことによって、壮年モデルの場合は治療効果に加えて予防効果も確認することができる。老化マウスでは、治療効果を主として確認することができる。
【0200】
(実施例6:剤型の多様性)
本開示の組成物について、投与の剤形を検討する。発酵物(発酵乳製品、漬物等)へのスターター添加、カプセル、錠剤、粉末などで経口投与を行う。
本開示の組成物を「粉末」として、種々の食品に混ぜ込み、対象に食事させて投与する。
脂肪酸などで菌体表面をコーティングし、生存性や消化管への到達性を改善したものを食品に添加する。
このようにして得た食品や錠剤について、対象に投与し、その効果を確認する。
【0201】
(実施例7:効果の多様性)
本開示の組成物を投与した場合の効果について、各種評価系において確認する。
動物実験の場合には、モデル評価系を実施する。
ヒト試験(健常、ストレステスト・国家試験等でストレス気味の対象、または精神科通院者など)では、プラセボ投与などの手法により、アンケート調査、認知機能テスト評価、活動量調査(歩数計など)、各種ストレス調査方法などを行う。不安・ストレス関係検査としては、DSRS-Cバールソン児童用抑うつ性尺度、SCASスペンス児童用不安尺度、ストレス対処法質問紙、CMAS 児童用不安尺度、PSI(パブリックヘルスリサーチセンター版ストレスインベントリー)、BDI-IIベック抑うつ質問票、社交不安障害検査 Social Anxiety Disorder Scale、CES-D(セスデー)うつ病(抑うつ状態)自己評価尺度、CB-E(Coping Behavior Egogram対処行動エゴグラム)、STAI状態・特性不安検査 (Form X)、J-SACL ストレステスト、CAS不安測定検査、S-H式 レジリエンス検査、MAS(不安尺度)、SRQ-DII 東邦大式抑うつ尺度 第2版、A-ADHD 成人期ADHD検査、A-ASD 成人期ASD検査、SCI ラザルス式ストレスコーピング・インベントリー、EAS 自我態度スケール Ego Aptitude Scale、新版 STAI 状態-特性不安検査、CISS 日本語版、CLAS(クラス)大学生活不安尺度、OSI 職業ストレス検査(第2版)、PSI 育児ストレスインデックス、PSI-SF育児ストレスインデックスショートフォーム、J-ZBI/J-ZBI_8 Zarit介護負担尺度日本語版/短縮版、SDS うつ性自己評価尺度、LOI レイトン強迫性検査、TSCC 子供用トラウマ症状チェックリスト、LSAS-J リーボヴィッツ社交不安尺度、GDS-15-J 老年期うつの検査-15-日本版、またはSASS-J 自己式社会適応度評価尺度を行う。
【0202】
(実施例8:菌の多様性)
実施例1および2と同様にして、Lactobacillus plantarum TO1000株(NITE P-958)、Lactobacillus plantarum TO1001株(NITE P-959)、Lactobacillus plantarum TO1003株(NITE P-961)、Lactobacillus paraplantarum LOOC 2020株(NITE P-1308)、Lactobacillus sakei SG171株(NITE P-1309)、Lactobacillus casei PR143株(NITE P-1311)、またはLactobacillus casei PR150株(NITE P-1312)を飼料に添加し、対象に対して摂取を行う。
その後、各試験区について、それぞれ行動試験を行う。
【0203】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0204】
本開示の乳酸菌組成物は、本開示の乳酸菌組成物が発揮する機能・効果を備えた機能性食品・機能性飼料(ペット・家畜等)、発酵スターター、サプリメント、医薬品分野への利用が考えられ、多くの産業での利用可能性が高い。
【受託番号】
【0205】
Lactobacillus plantarum TO1000株(NITE P-958)
【0206】
Lactobacillus plantarum TO1001株(NITE P-959)
【0207】
Lactobacillus plantarum TO1002株(NITE P-960)
【0208】
Lactobacillus plantarum TO1003株(NITE P-961)
【0209】
Lactobacillus paraplantarum LOOC 2020株(NITE P-1308)
【0210】
Lactobacillus sakei SG171株(NITE P-1309)
【0211】
Lactobacillus casei LOOC82株(NITE P-1310)
【0212】
Lactobacillus casei PR143株(NITE P-1311)
【0213】
Lactobacillus casei PR150株(NITE P-1312)
図1
図2
図3
図4