(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011147
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】熱硬化性マレイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20230117BHJP
C08F 299/00 20060101ALI20230117BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230117BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230117BHJP
C09J 181/00 20060101ALI20230117BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C08F2/44 A
C08F299/00
C08J5/24 CER
H01L23/30 R
C09J181/00
C09J11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114804
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
【テーマコード(参考)】
4F072
4J011
4J040
4J127
4M109
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB09
4F072AB28
4F072AD03
4F072AD45
4F072AE02
4F072AE14
4F072AF06
4F072AF15
4F072AF21
4F072AF23
4F072AF24
4F072AF29
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG19
4F072AH02
4F072AH21
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AL13
4J011PA07
4J011PA10
4J011PA13
4J011PB06
4J011PB40
4J011PC02
4J011PC08
4J040EH021
4J040KA03
4J040KA29
4J040MA02
4J040MA04
4J040MA10
4J040NA20
4J127BB261
4J127BC021
4J127BC131
4J127BD261
4J127CA01
4J127DA06
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4J127EA05
4J127FA41
4M109AA01
4M109EA11
4M109EB02
4M109EB12
4M109EE06
(57)【要約】
【課題】優れた誘電特性を有し、イオンマイグレーションも起こさない硬化物となる熱硬化性マレイミド樹脂組成物の提供。
【解決手段】
(A)1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物、
(B)平均粒径が5μm以下であるイオントラップ材 (A)成分100質量部に対して1~50質量部
及び
(C)反応促進剤
を含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物、
(B)平均粒径が5μm以下であるイオントラップ材 (A)成分100質量部に対して1~50質量部
及び
(C)反応促進剤
を含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項2】
硬化物中の硫酸イオン含有量が10ppm以下である、請求項1に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物である請求項1又は2に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分のマレイミド化合物が有する2価の炭化水素基が2価の脂肪族炭化水素基である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に一つ以上ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有するものである請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分のマレイミド化合物が、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物である請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、
Qは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、
WはB又はQであり、nは0~100であり、mは0~200であり、n及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【請求項7】
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項6に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項8】
(C)成分の反応促進剤が有機過酸化物、ラジカル重合開始剤、イミダゾール化合物、リン含有化合物及びアミン化合物の中の少なくとも一種である請求項1~7のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる未硬化樹脂フィルム。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物からなる硬化樹脂フィルム。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物と繊維基材とを有するプリプレグ。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物を有する基板。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる接着剤。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる半導体封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性マレイミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gという次世代通信システムが流行しており、さらには6Gという次々世代の通信システムの開発も始まり、今以上の高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらを実現するためには、高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須となるために、誘電特性の優れた(低比誘電率かつ低誘電正接)絶縁材料の開発が求められている。
【0003】
その中でも基板用途で、このような誘電特性の優れた絶縁材料が求められている。リジッド基板では反応性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、フレキシブルプリント基板(FPC)では液晶ポリマー(LCP)や特性を改良した変性ポリイミド(MPI)と呼ばれる製品が使用されるようになってきている。
【0004】
これに対して、実質的にダイマージアミン骨格を有するマレイミド化合物(特殊マレイミド化合物)を接着剤や基板用のメイン樹脂として使用することが報告されている(例えば、特許文献1~6)。一般的なマレイミド樹脂の特性とは逆で、特殊マレイミド化合物は、低ガラス転移温度(Tg)、高熱膨張係数(CTE)であるが、非常に誘電特性には優れ、フレキシブルな特性を有し、金属などへの接着力に優れるなど優位な点も多く、広い範囲にわたって研究開発されている。
【0005】
この特殊マレイミド化合物はダイマージアミン中の1級アミンと無水マレイン酸とを反応させて得られるマレアミック酸を、酸触媒を用いて閉環脱水反応を促進させてイミド化することで得られる。しかし、脂肪族の1級アミンを用いているために閉環脱水反応は非常に遅く、酸触媒に硫酸やメタンスルホン酸といった強酸を大量に使用する必要があり、さらに構造起因で反応後の水洗工程の水洗効率が非常に悪く、目的である特殊マレイミド化合物は多くの不純物が混入していることが分かってきた。
【0006】
そのため、この特殊マレイミド化合物を高周波基板用の絶縁樹脂や半導体封止材用の絶縁樹脂として用いた場合、イオンマイグレーションを引き起こす可能性があることがわかり、その対策が急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第8513375号明細書
【特許文献2】特開2014-194021号公報
【特許文献3】特開2016-131243号公報
【特許文献4】特開2016-131244号公報
【特許文献5】国際公開2016/114286号
【特許文献6】国際公開2016/114287号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、優れた誘電特性を有し、イオンマイグレーションも起こさない硬化物となる熱硬化性マレイミド樹脂組成物、該組成物からなる未硬化樹脂フィルム、該組成物の硬化物からなる硬化樹脂フィルム、該組成物を有するプリプレグ及び基板、並びに該組成物からなる接着剤及び半導体封止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記熱硬化性マレイミド樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
<1>
(A)1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物、
(B)平均粒径が5μm以下であるイオントラップ材 (A)成分100質量部に対して1~50質量部
及び
(C)反応促進剤
を含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
<2>
硬化物中の硫酸イオン含有量が10ppm以下である、<1>に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
<3>
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物である<1>又は<2>に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
<4>
(A)成分のマレイミド化合物が有する2価の炭化水素基が2価の脂肪族炭化水素基である<1>~<3>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
<5>
(A)成分のマレイミド化合物が1分子中に一つ以上ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有するものである<1>~<4>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
<6>
(A)成分のマレイミド化合物が、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物である<1>~<5>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、Qは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、WはB又はQであり、nは0~100であり、mは0~200であり、n及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
<7>
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである<6>に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
<8>
(C)成分の反応促進剤が有機過酸化物、ラジカル重合開始剤、イミダゾール化合物、リン含有化合物及びアミン化合物の中の少なくとも一種である<1>~<7>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
<9>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる未硬化樹脂フィルム。
<10>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物からなる硬化樹脂フィルム。
<11>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物と繊維基材とを有するプリプレグ。
<12>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物を有する基板。
<13>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる接着剤。
<14>
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる半導体封止材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、誘電特性に優れ(低非誘電率かつ低誘電正接)、イオンマイグレーションを起こしにくい硬化物となる。従って、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は未硬化フィルム、硬化フィルム、接着剤、半導体封止材、プリプレグ及び基板やその構成材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0013】
[(A)1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物]
本発明で用いる(A)成分は、特定のマレイミド化合物であり、1分子中に飽和又は不飽和の炭素数6から200の2価の炭化水素基を1個以上有するものである。
【0014】
前記(A)成分のマレイミド化合物は、原料の入手のしやすさや、合成の安定性の観点から、1分子中に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物であることが好ましい。また、硬化物が優れた誘電特性を有するためには、前記2価の炭化水素基は2価の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0015】
前記(A)成分のマレイミド化合物は、2価の炭化水素基の中でも、ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有することがより好ましい。
【0016】
ここで言う、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸であり、ダイマー酸は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。本明細書において、ダイマー酸骨格とは、このようなダイマー酸のカルボキシ基を1級アミノメチル基で置換した構造を有するダイマージアミンから誘導される基をいう。すなわち、(A)成分は、ダイマー酸骨格として、下記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がメチレン基で置換された基を有するものが好ましい。
また、(A)成分のマレイミド化合物がダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有する場合、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基は、水添反応により、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基中の炭素-炭素二重結合が低減した構造を有するものが、硬化物の耐熱性や信頼性の観点からより好ましい。
【化3】
【0017】
(A)成分のマレイミド化合物としては、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物が好ましい。この下記式(1)で示されるマレイミド化合物を使用すると、硬化前後共に、得られるフィルムの機械的特性が良く、ハンドリングしやすく、誘電特性にも優れ、また銅箔との密着力が強く、信頼性の高い組成物となる。
【0018】
【化4】
(式(1)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、
Qは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、WはB又はQであり、nは0~100であり、mは0~200であり、n及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【0019】
ここで、前記式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、中でも下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化5】
【0020】
また、前記式(1)中、Bは独立して炭素数6~60、好ましくは7~30、より好ましくは8~20の2価の脂環式炭化水素基である。Bの具体例としては、以下の構造式で表される2価の脂環式炭化水素基が挙げられる。
【化6】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0021】
また、前記式(1)中、Qは独立して炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50の2価炭化水素基である。中でも、前記2価炭化水素基中の水素原子の1個以上が、炭素数1~200、好ましくは1~100、より好ましくは1~50のアルキル基又はアルケニル基で置換されている分岐状2価炭化水素基であることが好ましい。分岐状2価炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよい。
前記分岐状2価炭化水素基として、具体的には、ダイマージアミンと呼ばれる両末端ジアミン由来の2価炭化水素基が挙げられる。なお、ダイマージアミンとは、オレイン酸などの不飽和脂肪酸の二量体(ダイマー酸)から誘導される化合物であり、従って、Qとしては、上記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がそれぞれメチレン基で置換された基が特に好ましい。
【0022】
前記式(1)において、WはB又はQである。前記Wについては、製造方法の違いによって、B又はQを有するいずれの構造単位かが決まる。
【0023】
前記式(1)において、nは0~100であり、好ましくは1~60であり、より好ましくは2~50であり、mは0~200であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは3~40であるが、n及びmは同時に0となってもよい。nやmが大きすぎると流動性が低下し、成形性に劣るおそれがある。
【0024】
(A)成分のマレイミド化合物としては、更に、下記式(1’)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物が好ましい。
【化7】
(式(1’)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、
Qは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、WはB又はQであり、n’は1~100であり、mは0~200であり、n’及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。
【0025】
式(1’)中のA、B、Q及びWの具体例としては、式(1)中のA、B、Q及びWで例示したものとそれぞれ同様のものが挙げられ、n'は1~100であり、好ましくは1~60であり、より好ましくは2~50であり、mは0~200であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは3~40である。
【0026】
(A)成分のマレイミド化合物の数平均分子量は特に制限はないが、組成物のハンドリング性の観点から2,000~50,000が好ましく、より好ましくは5,000~40,000である。また、(A)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
なお、本明細書中で言及する数平均分子量とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
【0027】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0028】
[(B)平均粒径が5μm以下であるイオントラップ材]
本発明で用いる(B)成分はイオントラップ材である。イオントラップ材とは、イオントラップ材中にイオンをトラップ(補足)できるものであって、陽イオン及び陰イオンの少なくとも一方をトラップすることができるものであれば特に制限はない。
これを用いることで、ナトリウムイオン、塩素イオン及び硫酸イオンなどを捕捉したり、pHの調整を行うことができ、電気絶縁性などを改善し、イオンマイグレーションを生じることを防止することができる。
【0029】
イオントラップ材は本発明の使用用途やイオントラップ能力の観点から平均粒径が5μm以下であり、3μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。イオントラップ材の平均粒径の下限は特に限られないが、通常0.1μm以上である。
【0030】
イオントラップ材としては、陽イオンを捕捉する陽イオントラップ材、陰イオンを捕捉する陰イオントラップ材、並びに両方のイオンを捕捉する両イオントラップ材が挙げられる。
【0031】
陽イオンを捕捉する陽イオントラップ材としては、リン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、モリブデン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、アンチモン酸ジルコニウム、セレン酸ジルコニウム、テルル酸ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、リンケイ酸ジルコニウム、ポリリン酸ジルコニウム等の金属酸化物などの無機イオン交換体を挙げることができる。
【0032】
陰イオンを捕捉する陰イオントラップ材としては、酸化ビスマス水和物、ハイドロタルサイト類等の無機イオン交換体を挙げることができる。
【0033】
陽イオン及び陰イオンを捕捉する両イオントラップ材としては、酸化アルミニウム水和物、酸化ジルコニウム水和物等の金属含水酸化物などの無機イオン交換体を挙げることができる。
【0034】
本発明においては、イオンマイグレーション防止のための硫酸イオンの除去及びpHの調整(中和)が主の目的であることから、陰イオントラップ材及び両イオントラップ材が好ましく、Mg及び/又はAlを含有するものがより好ましい。
【0035】
(B)成分を使用することで、(A)成分及び後述する(C)成分、さらにはその他の添加剤を含む樹脂組成物中の硫酸イオンをトラップし、結果として樹脂組成物の硬化物の抽出水中の硫酸イオンが低減し、pHも大きな数値、すなわち抽出水が中性寄りに変化する。
【0036】
(B)成分の配合量としては、硬化物中の硫酸イオン濃度を所望の範囲とするため、(A)成分100質量部に対して1~50質量部であり、1~40質量部であることが好ましい。また、組成物中に後述するその他の熱硬化性樹脂を配合する場合は、(A)成分及びその他の熱硬化性樹脂総計100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、より好ましくは2~40質量部である。(B)成分の配合量が少ないと硫酸イオンがあまりトラップされず、多すぎるとトラップ効果が頭打ちになるだけでなく、例えば半導体封止材として用いようとした際、流動性が大きく低下するなどの不具合を生じることがある。
また、(B)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0037】
[(C)反応促進剤]
(C)成分である反応促進剤は、(A)成分であるマレイミド化合物の架橋反応や(A)成分中のマレイミド基と反応しうる反応基との反応を促進するために添加するものである。
(C)成分としては架橋反応を促進するものであれば特に制限されるものではなく、イミダゾール類、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩類、三弗化ホウ素アミン錯体、オルガノホスフィン類、オルガノホスホニウム塩等のイオン触媒;ジアリルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシドカーボネート、ヒドロパーオキシド等の有機過酸化物;アゾイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤などが挙げられる。
これらの中でも、(A)成分単独での反応を促進したり、後述する(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂が有する反応基がマレイミド基、アルケニル基、及び(メタ)アクリル基のような炭素-炭素二重結合を有する基である場合は、有機過酸化物及びラジカル重合開始剤が好ましい。有機過酸化物としては、ジクミルパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、ジベンゾイルパーオキシド、ジウラロイルパーオキシド等が挙げられる。
また、(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂が有する反応基がエポキシ基、水酸基又は酸無水物基の場合は、イミダゾール類及び第3級アミン類など塩基性の化合物が好ましい。マレイミド基の単独重合にイミダゾール又はアミン類を使用することも可能であるが、イミダゾールの場合は非常に高温を必要とし、アミン類はポットライフが非常に短くなる傾向があるなど注意が必要である。
【0038】
反応促進剤は、(A)成分100質量部に対して0.05~10質量部配合することが好ましく、0.1~5質量部配合することがより好ましい。また、組成物中に後述するその他の熱硬化性樹脂を配合する場合は、(A)成分及びその他の熱硬化性樹脂成分の総和100質量部に対して0.05~10質量部、特に0.1~5質量部の範囲内で配合することが好ましい。上記範囲を外れると、マレイミド樹脂組成物の成形時に硬化が非常に遅くなったり速くなったりするおそれがあるため好ましくない。また、得られた硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスも悪くなるおそれがある。
(C)成分の反応促進剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
その他の添加剤
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。その他の添加剤を以下に例示する。
【0040】
[マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂]
本発明ではさらに、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂を添加してもよい。
熱硬化性樹脂としてはその種類を限定するものではなく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、(A)成分以外のマレイミド化合物を始めとする環状イミド樹脂、ユリア樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ・シリコーンハイブリッド樹脂など(A)成分以外の各種樹脂が挙げられる。また、マレイミド基と反応しうる反応性基としては、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、酸無水物基、アリル基やビニル基のようなアルケニル基、(メタ)アクリル基、チオール基などが挙げられる。
【0041】
反応性の観点から、熱硬化性樹脂の反応性基は、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、及びアルケニル基の中から選ばれるものであることが好ましく、さらに誘電特性の観点からはアルケニル基又は(メタ)アクリル基がより好ましい。
ただし、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂の総和中、0~60質量%である。
【0042】
[無機充填材]
本発明ではさらに、必要に応じて無機充填材を添加してもよい。無機充填材は、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の強度や剛性を高めたり、熱膨張係数や硬化物の寸法安定性を調整したりする目的で配合する。無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、硫酸バリウム、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられる。さらに誘電特性改善のために含フッ素樹脂、コーティングフィラー、及び/又は中空粒子を用いてもよく、導電性の付与などを目的として金属粒子、金属被覆無機粒子、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの導電性充填材を添加してもよい。無機充填材は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
無機充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、フィルムや基板を成形する場合は特に平均粒径が0.5~5μmの球状シリカが好適に用いられる。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めた値である。
【0044】
さらに無機充填材は特性を向上させるために、マレイミド基と反応しうる有機基を有するシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。このようなシランカップリング剤としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
前記シランカップリング剤としては、(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基含有アルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
[その他]
上記以外に、無官能シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、光増感剤、光安定剤、重合禁止剤、難燃剤、顔料、染料、接着助剤等を配合してもよい。
また、上述した無機充填材を表面処理するエポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等のシランカップリング剤は、別途本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物に配合されていてもよく、具体的なものも上述したものと同様のものが挙げられる。
【0046】
[製造方法]
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の製造方法としては、上述した各成分を、例えば、プラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)や、攪拌機THINKY CONDITIONING MIXER(シンキー(株)製)を使用して混合する方法が挙げられる。
【0047】
イオンマイグレーションを起こさないため、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、硬化物中の硫酸イオン含有量が10ppm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、硬化物中の硫酸イオン含有量は、下記条件における抽出水(I)中のイオンクロマトグラフ法による硫酸イオン含有量として算出される値であり、さらに、下記(1)及び(2)を満たすことがより好ましい。
(A)成分、(B)成分、(C)成分及び必要に応じて添加されるその他の添加剤を含む熱硬化性マレイミド樹脂組成物(I)のフィルム状の硬化物10gをイオン交換水50mLに浸漬し、121℃で20時間静置後の抽出水を抽出水(I)とする。
別途、(A)成分、(C)成分及び必要に応じて添加されるその他の添加剤を含む熱硬化性マレイミド樹脂組成物(II)を調製し、そのフィルム状の硬化物10gをイオン交換水50mLに浸漬し、121℃で20時間静置後の抽出水を抽出水(II)とする。
(1)抽出水(I)中のイオンクロマトグラフ法による硫酸イオン含有量が、抽出水(II)中のイオンクロマトグラフ法による硫酸イオン含有量の50%以下である。
(2)抽出水(I)の25℃におけるpHが、抽出水(II)の25℃におけるpHより1以上大きい。
【0048】
[用途]
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、主に、プリプレグ、基板用材料、接着剤及び半導体封止材として好適に用いることができ、用途に応じてフィルム状又はシート状に加工してもよく、また、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともできる。該組成物をワニス化することによってフィルム化しやすくなり、また、Eガラスや低誘電ガラス、石英ガラスなどでできたガラスクロスへも塗布・含浸しやすくなる。有機溶剤に関しては(A)成分及びその他の添加剤としてのマレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂が溶解するものであれば制限なく使用することができるが、例えば、アニソール、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
この熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、前述のワニスを基材に塗工し、有機溶剤を揮発させることで未硬化樹脂シート又は未硬化樹脂フィルムにしたり、さらにそれを硬化させることで硬化樹脂シート又は硬化樹脂フィルムとしたりすることができる。以下にシート及びフィルムの製造方法を例示するが、これに限定されるものではない。
【0050】
例えば、有機溶剤に溶解した熱硬化性マレイミド樹脂組成物(ワニス)を基材に塗布した後、通常80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で0.5~5時間加熱することによって有機溶剤を除去し、さらに130℃以上、好ましくは150℃以上の温度で0.5~10時間加熱することで、表面が平坦で強固なマレイミド樹脂硬化皮膜を形成することができる。
有機溶剤を除去するための乾燥工程、及びその後の加熱硬化工程での温度は、それぞれ一定であってもよいが、段階的に温度を上げていくことが好ましい。これにより、有機溶剤を効率的に組成物外に除去するとともに、樹脂の硬化反応を効率よく進めることができる。
ワニスの塗布方法として、スピンコーター、スリットコーター、スプレー、ディップコーター、バーコーター等が挙げられるが特に制限はない。
【0051】
基材としては、一般的に用いられるのを用いることができ、例えばポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などのポリエステル樹脂、などが挙げられる。該基材の表面を離形処理していてもかまわない。また、塗工層の厚さも特に限定されないが、溶剤留去後の厚さが1~100μm、好ましくは3~80μmの範囲である。さらに塗工層の上にカバーフィルムを使用してもかまわない。
【0052】
他にも、各成分をあらかじめ予備混合し、溶融混練機を用いてシート状又はフィルム状に押し出してそのまま使用することもできる。さらにはそのシート状やフィルム状のものを加工して、顆粒やタブレット状として使用することもできる。
【0053】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化により得られる硬化皮膜は、耐熱性、機械的特性、電気的特性、基材に対する接着性及び耐溶剤性に優れている上、低誘電率を有している。そのため、例えば半導体装置、具体的には半導体素子表面のパッシベーション膜や保護膜、ダイオード、トランジスタ等の接合部のジャンクション保護膜、VLSIのα線遮蔽膜、層間絶縁膜、イオン注入マスク等のほか、プリントサーキットボードのコンフォーマルコート、液晶表面素子の配向膜、ガラスファイバーの保護膜、太陽電池の表面保護膜に応用することができる。更に、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物に無機充填材を配合した半導体封止材、印刷用ペースト組成物、導電性充填材を配合した導電性ペースト組成物といったペースト組成物など幅広い範囲に応用することもできる。
【0054】
また、未硬化の状態でフィルム状又はシート状にでき、ハンドリング性も良好で、自己接着性があり、誘電特性にも優れることから、特にフレキシブルプリント配線板(FPC)用などのボンディングフィルムに好適に用いることができる。また、硬化樹脂フィルムはカバーレイフィルムとして使用することもできる。
【0055】
他にも、ワニス化した熱硬化性マレイミド樹脂組成物をEガラスや低誘電ガラス、石英ガラスなどでできたガラスクロスなどへ含浸し、有機溶剤を除去し半硬化状態にすることでプリプレグとして使用することもできる。また、そのプリプレグや銅箔などを積層させることでリジット基板を作製することができる。
本発明のプリプレグに関しては、従来方法を用いて、本発明の組成物を所定の組成比で有機溶剤に溶解し、繊維基材に含侵させ、加熱乾燥させることで製造することができる。
【実施例0056】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0057】
[(A)マレイミド化合物]
(A-1):下記式で示される直鎖アルキレン基含有ビスマレイミド化合物(商品名:SLK-2600、信越化学工業(株)製)
【化8】
-C
36H
72-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
m≒3(平均値)、n≒1(平均値)
(A-2):下記式で示される直鎖アルキレン基含有ビスマレイミド化合物(商品名:BMI-3000、Designer Molecules Inc.製)
【化9】
-C
36H
72-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
n≒5(平均値)
(A-3):1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン(商品名:BMI-TMH、大和化成工業(株)製)
【0058】
[(A')マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂((A)成分以外のマレイミド化合物)]
(A-4):4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(商品名:BMI-1000、大和化成工業(株)製)
(A-5):ビスフェノールA-ジフェニルエーテルビスマレイミド(商品名:BMI-4000、大和化成工業(株))
【0059】
[(B)イオントラップ材]
(B-1)平均粒径0.5μmの両イオン交換型イオントラップ材(商品名:IXEPLAS-A1、東亞合成(株)製)
(B-2)平均粒径0.5μmの陰イオン交換型ハイドロタルサイト様イオントラップ材(商品名:DHT-4A-2、協和化学工業(株)製)
(B-3)平均粒径1.0μmの陽イオン交換型イオントラップ材(商品名:IXE-100、東亞合成(株)製)
(B-4)平均粒径6.0μmの陰イオン交換型イオントラップ材(商品名:IXE-700D、東亞合成(株)製、比較例用)
【0060】
[(C)反応促進剤]
(C-1):ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油(株)製)
【0061】
[(D)無機充填材]
(D-1):VMC法シリカ(商品名:SO-25R、(株)アドマテックス製)
【0062】
[(E)シランカップリング剤]
(E-1):3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-503、信越化学工業(株)製)
【0063】
[実施例1~8、比較例1~10]
<ワニスの作製>
表1及び2の配合で、ジムロート冷却管及び撹拌装置を備えた500mLの4つ口フラスコに、表1及び2に示す各成分を投入し、50℃で2時間撹拌させることでワニス状の樹脂組成物を得た。
【0064】
<未硬化フィルムの作製>
上記手順でワニスを作製した際、ワニスの分離が発生しなかった実施例1~8、比較例1~10のワニス状熱硬化性環状イミド樹脂組成物を厚さ38μmのPETフィルム上にローラーコーターで塗布し、120℃で10分間乾燥させて厚さ50μmの未硬化樹脂フィルムを得た。
【0065】
<比誘電率、誘電正接>
前記未硬化樹脂フィルムを厚さ100μmのテトラフルオロエチレン-エチレン共重合樹脂フィルム(AGC株式会社製、製品名:アフレックス)上に載せ、180℃で2時間の条件で硬化させることで硬化樹脂フィルムを得た。
前記硬化樹脂フィルムを用いて、ネットワークアナライザ(キーサイト製、製品名:E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化樹脂フィルムの周波数10GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0066】
<pH、硫酸イオン測定>
前記硬化フィルムを、5mm×5mmの四角に裁断した。この裁断されたフィルム10gと、イオン交換水50mLを加圧容器に入れ、121℃で20時間抽出した抽出水中の不純物として、pHと硫酸イオンを測定した。なお、pHはpHメーター((株)アタゴ、製品名PAL-pH)を、硫酸イオン量はイオンクロマトグラフィー(カラム:東ソー(株)、製品名SuperIC-Anion series)を使用し、測定した。
【0067】
<イオンマイグレーション試験>
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン、商品名カプトンEN)上に、ライン/スペース(L/S)=15/15μm、厚み0.3μmの錫メッキを施したくし型同パターンを形成したテスト基板上に、上記の未硬化フィルムをPETフィルムが無い面を基板側にし、真空プレス(ニッコーマテリアル(株)製、製品名:V-130)を用いて100℃でラミネートし、室温まで冷却してからPETフィルムをはがした。その後180℃で2時間の条件で硬化させ、このフィルム状の硬化物を封止材とみなし、85℃85%RHの恒温恒湿槽中で40Vのバイアスをかけ、抵抗値が初期値より1オーダー低下するまでの時間を確認し、以下のように判定した。
×:100時間未満で抵抗値が1オーダー低下した
△:100時間以上500時間未満で抵抗値が1オーダー低下した
〇:500時間以上1000時間未満で抵抗値が1オーダー低下した
◎:1000時間抵抗値が1オーダー低下しなかった
【0068】
【0069】
【0070】
実施例1~8の硬化物は誘電特性に優れ、イオンマイグレーションも起こしにくいことがわかり、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の高周波基板用の絶縁樹脂や半導体封止材用の絶縁樹脂としての有用性を確認することができた。