(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111484
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】海洋生分解性を有するパラミロンエステル誘導体、成形用樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
C08B37/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013359
(22)【出願日】2022-01-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業/海洋生分解性プラスチックに関する新技術・新素材の開発/海洋生分解性を有する新規な多糖類長鎖短鎖エステル誘導体の研究開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】田中 修吉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 忠久
(72)【発明者】
【氏名】墨 健吾
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA05
4C090BA23
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB35
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB97
4C090BC07
4C090BD11
4C090BD36
4C090BD50
4C090CA38
4C090CA39
4C090DA32
(57)【要約】
【課題】
機械特性及び海洋分解性に優れたパラミロンエステル誘導体、これを用いた成形用樹脂組成物及び成形体を提供する。
【解決手段】
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分と、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロンエステル誘導体であって、
前記長鎖成分による置換度(DSLo)が0.3~0.6の範囲にあり、前記短鎖成分による置換度(DSSh)が1.6~2.0の範囲にあり、
メルトプレスフィルムの引張特性評価におけるタフネスが3.0MJ/m3以上であり、
海水を用いたBOD試験による60日後の生分解値(対セルロース比)が10%以上である、パラミロンエステル誘導体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分と、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロンエステル誘導体であって、
前記長鎖成分による置換度(DSLo)が0.3~0.6の範囲にあり、前記短鎖成分による置換度(DSSh)が1.6~2.0の範囲にあり、
メルトプレスフィルムの引張特性評価におけるタフネスが3.0MJ/m3以上であり、
海水を用いたBOD試験による60日後の生分解値(対セルロース比)が10%以上である、パラミロンエステル誘導体。
【請求項2】
前記長鎖成分がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸のアシル基部分である、請求項1に記載のパラミロンエステル誘導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパラミロンエステル誘導体を含む成形用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の成形用樹脂組成物を用いて形成された成形体。
【請求項5】
溶媒中に分散されたパラミロンと、
炭素数2又は3の脂肪酸、その酸ハロゲン化物及び酸無水物から成る群から選択される1つ以上である短鎖反応剤と、
炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪酸、その酸ハロゲン化物及び酸無水物から成る群から選択される1つ以上である長鎖反応剤と、
を、酸捕捉成分の存在下、加温下で反応させて、該パラミロンのヒドロキシ基をアシル化する工程と、
前記アシル化工程により得られたパラミロンエステル誘導体を前記溶媒から回収する工程と、
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のパラミロンエステル誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生分解性を有するパラミロンエステル誘導体、成形用樹脂組成物及び成形体、並びにパラミロンエステル誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物成分を原料とするバイオマスプラスチックは、石油枯渇対策や温暖化対策に寄与できるため、包装、容器、繊維等の一般製品に加え、電子機器、自動車等の耐久製品への利用も開始されている。しかしながら、通常のバイオマスプラスチックは、デンプン等の食用成分を原料としているため、将来の食料不足への懸念から、非食用の植物成分を原料とする新しいバイオマスプラスチックの開発が求められている。
【0003】
非食用の植物成分としては、木材や草木等木質バイオマスや、藻類バイオマスに注目が集まっている。中でも藻類は農地に適さない土地でも培養でき、食糧生産と競合することがない上、CO2、栄養塩、太陽光によって循環的に培養を繰り返すことができる。そのため、化石資源の代替として持続的な利用が可能である。さらに藻類は、有用な有機成分、特にバイオプラスチックの主要成分として有効な長鎖脂肪酸や多糖類等を高効率で生産することも可能である。このような藻類由来の多糖類として、β-1,3グルカン(パラミロン)が知られている。パラミロンはグルコースの重合体(重合度700-750)で、β-1,3結合のみで構成されるという特徴を持つ。木質バイオマスから得られるβ-1,4グルコースが重合した多糖類セルロースと同様に、パラミロンもヒドロキシ基に由来する水素結合によって強力な分子間力を持つため、熱可塑性がない。
【0004】
このため、パラミロンを使ったバイオマスプラスチックに関しては、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子をアセチル基等の短鎖アシル基で置換してパラミロンの分子間力を下げ、さらに可塑剤を添加することで熱可塑性が付与したパラミロンエステル誘導体が開発されている。
例えば、特許文献1には、パラミロンのヒドロキシ基の少なくとも一つがアルキルカルボニル基で置換されているパラミロンエステル誘導体が記載されている。特許文献2には、パラミロンのヒドロキシ基の少なくとも一部と、カルダノール又はその誘導体とを、エステル結合、エーテル結合、又はウレタン結合により結合させたパラミロン誘導体が記載されている。
【0005】
さらに、アセチル基のような短鎖有機基だけでは熱可塑性や耐水性は不十分であるため、短鎖有機基に加えて、より炭素数の多い長鎖有機基をパラミロンに導入することが行われている。導入された長鎖有機基は疎水性の内部可塑剤として機能するため、パラミロンエステル誘導体の熱可塑性や耐水性が改良される。
例えば、特許文献3~6には、パラミロンに炭素数が異なる2種以上のアシル基を導入したパラミロンエステル誘導体が記載されている。
【0006】
一方、マイクロプラスチックをはじめとする海洋プラスチック汚染問題等の対策として、自然環境中で加水分解や微生物の働きによって分解される性質を持つ生分解性プラスチックが近年特に注目され、利用領域の拡大が求められている。しかしながら、上述のパラミロンエステル誘導体はいずれも、機械特性と海洋分解性を両立するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-218566号公報
【特許文献2】特開2014-98095号公報
【特許文献3】特許第6029155号
【特許文献4】国際公報第2021-225172号
【特許文献5】特開2018-141904号公報
【特許文献6】国際公報第2020-013232号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械特性及び海洋分解性に優れたパラミロンエステル誘導体、これを用いた成形用樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分と、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロンエステル誘導体であって、
前記長鎖成分による置換度(DSLo)が0.3~0.6の範囲にあり、前記短鎖成分による置換度(DSSh)が1.6~2.0の範囲にあり、
メルトプレスフィルムの引張特性評価におけるタフネスが3.0MJ/m3以上であり、
海水を用いたBOD試験による60日後の生分解値(対セルロース比)が10%以上である、パラミロンエステル誘導体が提供される。
本発明の他の態様によれば、上記のパラミロンエステル誘導体を含む成形用樹脂組成物が提供される。
本発明の他の態様によれば、上記の成形用樹脂組成物を用いて形成された成形体が提供される。
本発明の他の態様によれば、上記のパラミロンエステル誘導体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械特性及び海洋分解性に優れたパラミロンエステル誘導体、これを用いた成形用樹脂組成物及び成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】各パラミロンプロピオネートのBOD生分解値(対セルロース比)を示す。
【
図2】各パラミロンプロピオネートステアレートのBOD生分解値(対セルロース比)を示す。
【
図3】各パラミロンプロピオネートの引張特性(応力-ひずみ曲線)を示す。
【
図4】各パラミロンプロピオネートステアレートの引張特性(応力-ひずみ曲線)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[パラミロンエステル誘導体]
本発明によるパラミロンエステル誘導体は、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分と、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロンエステル誘導体であって、
前記長鎖成分による置換度(DSLo)が0.3~0.6の範囲にあり、前記短鎖成分による置換度(DSSh)が1.6~2.0の範囲にあり、
メルトプレスフィルムの引張特性評価におけるタフネスが3.0MJ/m3以上であり、
海水を用いたBOD試験による60日後の生分解値(対セルロース比)が10%以上である、パラミロンエステル誘導体である。
【0013】
(パラミロン)
パラミロンは、下記式(1)で示されるβ-D-グルコース分子(β-D-グルコピラノース)がβ(1→3)グリコシド結合により重合した直鎖状の高分子である。パラミロンを構成する各グルコース単位は3つのヒドロキシ基を有している(式中のnは自然数を示す)。本発明では、このようなパラミロンに、これらのヒドロキシ基を利用して、短鎖成分及び長鎖成分を導入することができる。
【0014】
【化1】
パラミロンは、藻類の主成分であり、藻類からタンパク質等の他の成分を分離処理することによって得られる。パラミロンは、ユーグレナに貯蔵多糖として蓄積された多糖類であり、栄養条件等の環境によりエネルギー源として貯蔵又は消費されるものである。パラミロンはグルコースからのみ成り、Euglena gracilisから得たパラミロンの平均重合度は、グルコース単位で約700~750であることが知られている。GPCにより測定したパラミロンの重量平均分子量は24万程度である。
【0015】
パラミロンには、類似の構造物、例えば、セルロース、キチン、キトサン、ヘミセルロース、キシラン、グルコマンナン、カードラン等が混合されていてもよい。このような類似の構造物が混合されている場合は、その類似の構造物の含有量は混合物全体に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
(長鎖成分)
本発明のパラミロンエステル誘導体は、パラミロンのヒドロキシ基を利用して、短鎖成分に加えて長鎖成分が導入されたものである。長鎖成分をパラミロンに導入することにより、その特性を改質することができ、例えば、耐水性や熱可塑性、機械特性を向上することができる。長鎖成分は、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基であり、炭素数14~30の直鎖状飽和脂肪族アシル基が挙げられ、炭素数14~22の直鎖状飽和脂肪族アシル基が好ましい。長鎖成分は、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸のアシル基部分(テトラデカノイル基(C14)、ヘキサデカノイル基(C16)、オクタデカノイル基(C18)、イコサノイル基(C20)、ドコサノイル基(C22))であることがより好ましく、オクタデカノイル基(C18)であることが特に好ましい。この長鎖成分は一種単独であってもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0017】
長鎖成分は、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子に代えて導入された長鎖反応剤由来のアシル基である。長鎖成分は、パラミロン中のヒドロキシ基と後述する長鎖反応剤とを反応させることで導入することができる。また長鎖成分の長鎖有機基とパラミロンのピラノース環は、エステル結合を介して結合することができる。
【0018】
長鎖成分による置換度(DSLo)、すなわち、パラミロンのグルコース単位あたりの長鎖成分(炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基)で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、機械特性と海洋生分解性の両立の観点から0.3~0.6の範囲であり、0.4~0.5の範囲であることが好ましい。DSLoが0.3未満であると、機械特性が劣ることがあり、DSLoが0.6を超過すると、海洋生分解性が劣ることがある。
【0019】
(短鎖成分)
本発明のパラミロンエステル誘導体は、パラミロンのヒドロキシ基を利用して、長鎖成分に加えて短鎖成分が導入されたものである。短鎖成分をパラミロンに導入することにより、パラミロンの分子間力(分子間結合)を低減することができ、弾性率等の機械特性や、耐薬品性、表面硬度の物性を高めることができる。短鎖成分は、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)であり、少なくともプロピオニル基を含むことが好ましく、プロピオニル基のみであることが特に好ましい。
【0020】
短鎖成分は、パラミロンのヒドロキシ基の水素原子に代えて導入された短鎖反応剤由来のアシル基である。短鎖成分は、パラミロン中のヒドロキシ基と後述する短鎖反応剤とを反応させることで導入することができる。また短鎖成分の短鎖有機基とパラミロンのピラノース環は、エステル結合を介して結合することができる。
【0021】
短鎖成分による置換度(DSSh)、すなわち、パラミロンのグルコース単位あたりの短鎖成分(アセチル基又は/及びプロピオニル基)で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、機械特性と海洋生分解性の両立の観点から1.6~2.0の範囲であり、1.6~1.8の範囲にあることが好ましい。DSShが1.6未満であると機械特性が劣ることがあり、DSShが2.0を超過すると海洋生分解性が劣ることがある。
【0022】
本発明のパラミロンエステル誘導体は、優れた機械特性及び海洋生分解性を有することができる。機械特性としては、例えば、引張破断伸びに優れた樹脂を得ることができる。パラミロンエステル誘導体のDSLoやDSShが低すぎると、製造した樹脂の引張破断伸び等の機械特性が十分でない場合がある。逆に、DSLoやDSShが高すぎると、海洋生分解性が低下する場合がある。特に、長鎖成分の導入により、熱可塑性や耐水性を高めることができ、また、この長鎖成分と短鎖成分とを適切な比率で有することにより、引張強度や、弾性率等の機械特性を高めることができる。
【0023】
本発明のパラミロンエステル誘導体は、メルトプレスフィルムの引張特性評価におけるタフネスが3.0MJ/m3以上であり、3.0~10.0MJ/m3であることが好ましく、3.0~7.0MJ/m3であることがより好ましい。このタフネスは、210℃、5MPaでメルトプレスしたフィルムを用いて幅5mm、長さ20mmの短冊状に試験片を切り出し、室温下、つかみ間長(10mm)、引張速度20mm/minで測定したフィルム引張特性評価で得られた応力-ひずみ曲線の面積積分値である。
【0024】
また、本発明のパラミロンエステル誘導体は、海水を用いたBOD試験による60日後の生分解値(対セルロース比)が10%以上であり、10~30%であることが好ましい。この海洋生分解性は、東京都・台場で採取した海水中でBOD装置を用いて測定したものである。
【0025】
[パラミロンエステル誘導体の製造方法]
本発明によるパラミロンエステル誘導体は、通常の方法で製造することができる。例えば、本発明のパラミロンエステル誘導体の製造方法は、
溶媒中に分散されたパラミロンと、
炭素数2又は3の脂肪酸、その酸ハロゲン化物及び酸無水物から成る群から選択される1つ以上である短鎖反応剤と、
炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪酸、その酸ハロゲン化物及び酸無水物から成る群から選択される1つ以上である長鎖反応剤と、
を、酸捕捉成分の存在下、加温下で反応させて、該パラミロンのヒドロキシ基をアシル化する工程と、
前記アシル化工程により得られたパラミロンエステル誘導体を前記溶媒から回収する工程と、
を含むものである。
【0026】
(アシル化工程)
本発明におけるアシル化工程(長鎖成分及び短鎖成分の導入)には、通常の方法を使用することができる。例えば、N,N-ジメチルアセトアミド/リチウムクロライド溶液にパラミロンを均一に溶解させ、これに対して長鎖反応剤(長鎖アシル化剤)及び短鎖反応剤(短鎖アシル化剤)を反応させて、パラミロンのヒドロキシ基をアシル化することができる。長鎖反応剤によるアシル化と、短鎖反応剤によるアシル化は、同時に行ってもよく、別個に行ってもよい。
【0027】
長鎖反応剤は、パラミロン中のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物である。長鎖反応剤としては、例えば、その炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸、及びその酸ハロゲン化物又は酸無水物を用いることができ、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸の具体例としては、例えば、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられ、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。さらに直鎖状飽和脂肪酸は、環境調和性の観点からは、天然物から得られるものが好ましい。
【0028】
短鎖反応剤は、パラミロン中のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物である。短鎖反応剤としては、例えば、その炭素数が2又は3の脂肪酸(酢酸又はプロピオン酸)、及びその酸ハロゲン化物又は酸無水物を用いることができ、塩化アセチル又は/及び塩化プロピオニルが好ましく、塩化プロピオニルがより好ましい。
【0029】
酸捕捉成分としては、副生する酸(塩酸、酢酸、プロピオン酸等)を中和する塩基であれば特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリエチルアミン、ピリジン等の含窒素求核性化合物が挙げられる。酸捕捉成分を溶媒とは別に添加する場合、反応開始時から酸捕捉成分が反応系に存在することが好ましい。酸捕捉成分が反応開始時に反応系に存在していれば、アシル化剤を添加する前に添加しても後に添加しても構わない。
【0030】
酸捕捉成分の添加量は、長鎖反応剤と短鎖反応剤の合計仕込み量に対して0.1~10当量が好ましく、0.5~5当量がより好ましい。ただし、含窒素求核性化合物を溶媒として用いる場合はこの範囲に限定されない。酸捕捉剤の添加量が少ないとアシル化反応の効率が低下する。また、酸捕捉剤の添加量が多いとパラミロンが分解して分子量が低下することがある。
【0031】
アシル化工程における反応温度は、50~100℃が好ましく、60~90℃がより好ましく、70~80℃がさらに好ましい。反応時間は、所望の置換度に合わせて適宜設定することができる。反応温度が十分に高いと反応速度を高くできるため、比較的短い時間でアシル化反応を完了させることができ、反応効率を高めることができる。また、反応温度が上記範囲にあれば、加熱による分子量の低下を抑えることができる。
溶媒の量は、原料のパラミロンの乾燥質量に対して10~50倍量に設定することができ、10~40倍量(質量比)に設定することが好ましい。
【0032】
(回収工程)
長鎖成分及び短鎖成が導入されたパラミロンエステル誘導体(生成物)は、通常の方法に従って反応溶液から回収することができ、その方法は限定されるものではない。生成物が反応溶液に溶解していない場合は、反応溶液と生成物とを固液分離する回収方法が製造エネルギーの観点から好ましい。生成物が反応溶液に溶解ないし親和して固液分離が困難な場合は、反応溶液を留去し生成物を残留分として回収することができる。あるいは、反応溶液に、生成物に対する貧溶媒を添加することにより、析出した生成物を固液分離して回収してもよい。
【0033】
反応溶液を留去する場合、短鎖反応剤や反応溶媒、触媒は沸点が低いものが好ましいが、触媒を留去せずに、洗浄溶媒等により生成物から除去することもできる。また、反応溶液から溶媒等の生成物以外の成分を留去する際に、生成物が析出した時点で留去を止め、その後、残る反応溶液と析出した生成物とを固液分離して生成物を回収することもできる。
【0034】
固液分離方法としては、濾過(自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、及びこれらの熱時ろ過)、自然沈降・浮上、分液、遠心分離、圧搾等が挙げられ、これらを適宜組み合わせて行ってもよい。
【0035】
固液分離後の濾液に溶解した生成物(パラミロンエステル誘導体)は、生成物に対する貧溶媒を添加することにより析出させ、さらに固液分離して回収することができる。反応溶液から回収した固形分(パラミロンエステル誘導体)は、必要に応じて洗浄し、通常の方法で乾燥することができる。
【0036】
[成形用樹脂組成物]
本発明のパラミロンエステル誘導体は、所望の特性に応じて添加剤を加え、成形用樹脂組成物のベース樹脂として用いることができる。ここでベース樹脂とは、成形用樹脂組成物中の主成分を意味し、この主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容することを意味し、特にこの主成分の含有割合を特定するものではないが、この主成分が組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上を占めることを包含するものである。
【0037】
本発明の成形用樹脂組成物には、通常の熱可塑性樹脂に使用する各種の添加剤を適用できる。例えば、可塑剤を添加することで、熱可塑性や破断時の伸びを一層向上できる。このような可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル;酒石酸ジブチル等の酒石酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸エステル;トリアセチン、ジアセチルグリセリン、トリプロピオニトリルグリセリン、グリセリンモノステアレート等の多価アルコールエステル;リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシル等のリン酸エステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルセバケート等の二塩基性脂肪酸エステル;クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;ヒマシ油及びその誘導体;O-ベンゾイル安息香酸エチル等の安息香酸エステル;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル等の脂肪族ジカルボン酸エステル;マレイン酸エステル等の不飽和ジカルボン酸エステル;その他、N-エチルトルエンスルホンアミド、トリアセチン、p-トルエンスルホン酸O-クレジル、トリプロピオニン等が挙げられる。中でも特に、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ベンジル-2ブトキシエトキシエチル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸ジフェニルオクチル等の可塑剤を添加すると、熱可塑性や破断時の伸びだけでなく、耐衝撃性も効果的に向上させることができる。
【0038】
その他の可塑剤として、シクロヘキサンジカルボン酸ジヘキシル、シクロヘキサンジカルボン酸ジオクチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジ-2-メチルオクチル等のシクロヘキサンジカルボン酸エステル;トリメリット酸ジヘキシル、トリメリット酸ジエチルヘキシル、トリメリット酸ジオクチル等のトリメリット酸エステル;ピロメリット酸ジヘキシル、ピロメリット酸ジエチルヘキシル、ピロメリット酸ジオクチル等のピロメリット酸エステルが挙げられる。
【0039】
本発明の成形用樹脂組成物には、必要に応じて、無機系もしくは有機系の粒状又は繊維状の充填剤を添加できる。充填剤を添加することによって、強度や剛性を一層向上できる。充填剤としては、例えば、鉱物質粒子(タルク、マイカ、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレイ、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト(又はウォラストナイト)等)、ホウ素含有化合物(窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタン等)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等)、金属珪酸塩(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウム等)、金属酸化物(酸化マグネシウム等)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタン等)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン等)、ホワイトカーボン、各種金属箔が挙げられる。繊維状の充填剤としては、有機繊維(天然繊維、紙類等)、無機繊維(ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ウォラストナイト、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維等)、金属繊維等が挙げられる。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
本発明の成形用樹脂組成物には、必要に応じて、難燃剤を添加できる。難燃剤を添加することによって、難燃性を付与できる。難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトのような金属水和物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、ゼオライト、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、リン酸系難燃剤(芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類等)、リンと窒素を含む化合物(フォスファゼン化合物)等が挙げられる。これらの難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
本発明のパラミロンエステル誘導体に各種添加剤を添加した成形用樹脂組成物の製造方法については、特に限定はなく、例えば各種添加剤とパラミロンエステル誘導体をハンドミキシングや、公知の混合機、例えばタンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸や多軸混合押出機、混練ニーダー、混練ロール等のコンパウンディング装置で溶融混合し、必要に応じ適当な形状に造粒等を行うことにより製造できる。また別の好適な製造方法として、有機溶媒等の溶剤に分散させた、各種添加剤とパラミロンエステル誘導体を混合し、さらに必要に応じて、凝固用溶剤を添加して各種添加剤とパラミロンエステル誘導体の混合組成物を得て、その後、溶剤を蒸発させる製造方法がある。
【0042】
[成形体]
本発明の成形体は、パラミロンエステル誘導体をベース樹脂として用いた成形用樹脂組成物を成形して作製される。成形方法は、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形等が挙げられる。本発明の成形体の用途は特に限定されないが、例えば、電子機器用外装等の筺体等の成形体に好適である。
【実施例0043】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。
(合成例1)パラミロンプロピオネート1の合成
パラミロン(数平均分子量:3.4×105、重量平均分子量::6.7×105)3.0gをサンプル瓶に入れ、105℃に設定した真空検体乾燥機の中で24時間乾燥した。N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)190mLにリチウムクロリド(LiCl)10.7gを加えたDMAc/LiCl(6wt%)溶液中に、乾燥したパラミロンを3.0g(1.6wt%)加え、70℃で24時間攪拌する。完全に溶解したのを確認した後、ピリジン(21.2mL)と無水プロピオン酸(21.2mL)加え、70℃で6時間攪拌してパラミロンをエステル化した。反応溶液を室温まで冷却後、メタノール1.0Lと水1.0Lの混合液にゆっくりと加えることで化合物を析出させた。その後、析出物を吸引濾過により回収し、メタノール2.0Lに加えて24時間攪拌し、洗浄した。その後、12時間以上真空乾燥して、パラミロンプロピオネート1(PaPr1.7)の白色固体を得た。
【0044】
(合成例2~7)パラミロンプロピオネート2~7の合成
70℃での反応撹拌時間をそれぞれ12時間、24時間、36時間、48時間、72時間に変更する以外は合成例1と同様の分量と手順に従って、バラミロンプロピオネート2~7(PaPr1.9、PaPr2.2、PaPr2.3、PaPr2.6、PaPr2.8、PaPr3.0)を合成した。
【0045】
(合成例8)パラミロンプロピオネートステアレート1の合成
合成例1で合成したパラミロンプロピオネート1(PaPr1.7)1.0gをサンプル瓶に入れ、105℃に設定した真空検体乾燥機の中で24時間乾燥した。N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)50mLにリチウムクロリド(LiCl)3.0gを加えたDMAc/LiCl(6wt%)溶液中に、乾燥したPaPr1.7を1.0g(6wt%)加え、70℃で24時間攪拌する。完全に溶解したのを確認した後、温度を80℃に上げる。80℃になったのを確認した後、ジメチルアミノピリジン(DMAP)1.0gとステアロイルクロリド5.0mL加え、80℃で0.5時間攪拌してステアロイル基を導入した。その後、エタノール250mLと水250mLの混合液にゆっくりと加えることで化合物を析出させた。析出物を吸引濾過により回収し、回収した沈殿物を10mLのクロロホルムに溶かし、500mLのエタノールに入れ、再沈殿を行った。その後、12時間以上真空乾燥して、パラミロンプロピオネートステアレート1(PaPrSt1.9)の黄色固体を得た。
【0046】
(合成例9~11)パラミロンプロピオネートステアレート2~4の合成
80℃での反応撹拌時間をそれぞれ1時間、2時間、3時間に変更する以外は合成例8と同様の分量と手順に従って、バラミロンプロピオネートステアレート2~4(PaPrSt2.1、PaPrSt2.2、PaPrSt2.5)を合成した。
【0047】
合成例1~11で得られた各パラミロンエステル誘導体に対して、下記に従って分析・評価を行った。
【0048】
[1]置換度(DSsh、DSLo)の算出
(1)核磁気共鳴分光(NMR)測定
各パラミロンエステル誘導体について、核磁気共鳴分光装置(JEOL、JNM-A500 FT-NMRspectrometer(500MHz)を用いて測定した。サンプル100mgをトリフルオロ酢酸無水物(TFAA)5mLと酢酸5mLの溶液に入れ、50℃で30分反応させた。溶液をメタノール50mLと水50mLの混合液にゆっくりと加えることで化合物をそれぞれ析出させた。析出物を吸引濾過により回収し、メタノール100mLの混合液に加えて24時間攪拌し、洗浄した。その後、12時間以上真空乾燥して、パラミロンエステル誘導体の残存水酸基を完全にアセチル化したエステル誘導体の白色固体を得た。作製したサンプルを重クロロホルム-dに溶解し、25℃で測定した。内部標準物質としてテトラメチルシランを用いた。
なお、パラミロンプロピオネートステアレート2~4(PaPrSt2.1、PaPrSt2.2、PaPrSt2.5)のサンプルは、直接重クロロホルムに溶けたため、アセチル化は行わず、そのまま核磁気共鳴分光(NMR)測定を行った。
(2)置換度の計算式
パラミロンプロピオネートの置換度(DSsh)は、パラミロンのリングプロトン(水素数7)のピーク面積の合計と、アルキル側鎖のメチル基(水素数3)のピーク面積から算出した。置換度の計算式を下記に示す。
DSSh=(Iacyl/3)/(IringH/7)
上記式において、Iacylはアルキル側鎖のメチル基のピーク面積、IringHはリングプロトンのピーク面積を示す。
パラミロンプロピオネートステアレートの置換度(DSsh+DSLo)は、パラミロンのリングプロトン(水素数7)のピーク面積の合計と、アルキル側鎖のメチル基(水素数3)のピーク面積から算出した。置換度の計算式を下記に示す。
DS=(Iacyl/3)/((IringH+IOH)/7)
上記式において、Iacylはアルキル側鎖のメチル基のピーク面積、IringHはリングプロトンのピーク面積、IOHは残存水酸基のピーク面積を示す。
【0049】
[2]分子量の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を測定した。3mgの各パラミロンエステル誘導体をDMAc/LiCl混合溶液1.5mLに溶解させ、測定サンプルとした。測定装置は島津製作所製PID-20A refractive index detectorであり、カラムはShodex製 K-806M、K-802、カラム内温度は40℃、移動相の流速は0.8mL/minとした。スタンダードにはPSS製のプルランを用いた。
【0050】
[3]海洋生分解性の測定
各パラミロンエステル誘導体のBOD試験を行って海洋生分解性を評価した。具体的には、下記の手法で実施した。
(1)サンプル
粉末状の各パラミロンエステル誘導体を約5mg使用した。標準サンプルとして、セルロースCe(Advantec社製)を使用した。サンプルが常に水中に存在するように、サンプルをメッシュ(122μm)に包んで試験を行った。
(2)環境水の採取及びその調整
環境水は台場の海水を使用した。気温や水温、pH等のデータを表1に示す。環境水は事前にエタノール殺菌された容器で採取した。採取時に水だけでなく土も同時に採取した。その後、環境水10Lに対して土が2kgになるように入れ、環境水と土をよくかき混ぜた。攪拌しながら、122μmのナイロンメッシュで不純物を取り除き、7日間予備培養を行い、生分解性実験の環境水と土を調整した。
【0051】
【0052】
(3)BOD測定
培養瓶(ガラス製透明瓶)250mLに、上記で調整した生分解性試験用の環境水100mL、土10g、表2に示す濃度の無機塩含有量を有するバッファー100μLを入れ、そこにメッシュで包んだサンプル5mg程度を加えた。培養瓶を恒温槽(25℃)で培養し、OxiTop IDS(WTW社)を用いてBOD測定を60日間実施した。
【0053】
【0054】
BOD試験装置の原理について、以下に記載する。測定中に水中の微生物により酸素が消費され、二酸化炭素が放出される。放出された二酸化炭素を吸収材(NaOH)で吸収すると瓶内の気圧が下がる。この圧力変化を圧力センサーでとらえ、BOD値を算出する。
BOD生分解値(%)=(BODs-BODb)/ThOD×100 (i)
BODs:試験片のBOD測定値(mg)
BODb:ブランクのBOD測定値(mg)
ThOD:理論酸素消費量(mL)
理論酸素消費量(ThOD)(mL)=w/M×(4x+y-2z)/4×22.4 (ii)
w:サンプル重量(mg)
M:サンプルの分子量
x:サンプルのモノマーユニット中の炭素原子の数
y:サンプルのモノマーユニット中の水素原子の数
z:サンプルのモノマーユニット中の酸素原子の数
【0055】
BOD生分解値は式(i)から算出した。理論酸素消費量(ThOD)(mL)は、サンプルのモノマーユニットの組成比がC
XH
YO
Zである時、すべてのCとHがCO
2とH
2Oに変換され、完全に無機化されると考えた場合の値であり、式(ii)により算出した。サンプル数はn=3で行い、そのうち最大の分解を示したものを採用した。求めたBOD生分解値は、試験期間60日間に対して5日ごとにプロットし、対セルロース(標準サンプル)当たりのBOD生分解曲線とした。
図1及び
図2に、各合成例で得られたパラミロンエステル誘導体のBOD生分解値(対セルロース比)を示す。
○:60日後の生分解値(対セルロース比)が10%以上
×:60日後の生分解値(対セルロース比)が10%未満
【0056】
[4]機械特性
(1)メルトプレスフィルムの作製
卓上ホットプレス機を使用して、各パラミロンエステル誘導体のフィルムを作製した。その際、成形機の設定温度を210℃、圧力を5MPa、プレス時間を1分に設定した。また、溶融プレス後、氷水でクエンチ処理を行った。
【0057】
(2)物性簡易評価
上記のメルトプレスフィルムを3cm×2cmのサイズに切り出し、手で180°折り曲げた際の破断の有無で簡易評価した。得られた結果は下記の基準で評価した。
〇:非破断
×:破断
【0058】
(3)引張特性の測定
上記のメルトプレスフィルムについて、引張試験による力学物性試験を行った。幅5mm、長さ20mmの短冊状に切り出したフィルムを試験片とし、1サンプル5本ずつ試験を行った。測定には卓上万能試験機EZ-Test(島津製作所)を用い、室温下、つかみ間長(10mm)、引張速度20mm/minで測定した。引張強度及び引張破断伸びはこれらのデータから平均値及び標準偏差を算出した。
図3及び
図4に、各合成例で得られたパラミロンエステル誘導体のメルトプレスフィルムの引張特性(応力-ひずみ曲線)を示す。得られた応力-ひずみ曲線の面積積分値からタフネス(MJ/m
3)を得た。
○:3.0MJ/m
3以上
×:3.0MJ/m
3未満
【0059】
表3に、各合成例で得られたパラミロンエステル誘導体の長鎖成分(オクタデカノイル基)及び短鎖成分(プロピオニル基)の置換度(DSLp・DSsh)、並びに各種物性評価結果を示す。
【0060】
【0061】
合成物1~7は、短鎖成分のみを有するパラミロンエステルである。短鎖成分の置換度を増やしても機械特性の改善は不十分であり(
図3参照)、海洋分解性は低下する傾向があった(
図1参照)。
合成物8~11は、短鎖成分と長鎖成分を有するパラミロンエステルである。本発明のパラミロンエステル誘導体(合成例9及び10)は、いずれも機械特性(
図4参照)及び海洋分解性(
図2参照)に優れることが確認された。一方、長鎖成分の置換度DS
Loが0.6より大きい合成例11のパラミロンエステル誘導体は、機械特性(タフネス)に優れるが、海洋分解性は低く、長鎖成分の置換度DS
Loが0.3より小さい合成例1及び8のパラミロンエステル誘導体は、海洋分解性は高いものの、機械特性(タフネス)が低かった。
【0062】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0063】
(付記1)
パラミロンのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪族アシル基である長鎖成分と、炭素数2又は3のアシル基(アセチル基又は/及びプロピオニル基)である短鎖成分で置換されたパラミロンエステル誘導体であって、
前記長鎖成分による置換度(DSLo)が0.3~0.6の範囲にあり、前記短鎖成分による置換度(DSSh)が1.6~2.0の範囲にあり、
メルトプレスフィルムの引張特性評価におけるタフネスが3.0MJ/m3以上であり、
海水を用いたBOD試験による60日後の生分解値(対セルロース比)が10%以上である、パラミロンエステル誘導体。
(付記2)
前記長鎖成分がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸のアシル基部分である、付記1に記載のパラミロンエステル誘導体。
(付記3)
付記1又は2に記載のパラミロンエステル誘導体を含む成形用樹脂組成物。
(付記4)
付記3に記載の成形用樹脂組成物を用いて形成された成形体。
(付記5)
溶媒中に分散されたパラミロンと、
炭素数2又は3の脂肪酸、その酸ハロゲン化物及び酸無水物から成る群から選択される1つ以上である短鎖反応剤と、
炭素数14以上の直鎖状飽和脂肪酸、その酸ハロゲン化物及び酸無水物から成る群から選択される1つ以上である長鎖反応剤と、
を、酸捕捉成分の存在下、加温下で反応させて、該パラミロンのヒドロキシ基をアシル化する工程と、
前記アシル化工程により得られたパラミロンエステル誘導体を前記溶媒から回収する工程と、
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のパラミロンエステル誘導体の製造方法。