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特開2023-111617樹脂組成物、これを用いたフィルム及び偏光板、並びに樹脂組成物の製造方法
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  • 特開-樹脂組成物、これを用いたフィルム及び偏光板、並びに樹脂組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111617
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物、これを用いたフィルム及び偏光板、並びに樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20230803BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230803BHJP
   B29C 48/395 20190101ALI20230803BHJP
   B29C 48/505 20190101ALI20230803BHJP
   B29C 48/285 20190101ALI20230803BHJP
   B29C 48/63 20190101ALI20230803BHJP
   B29C 48/76 20190101ALI20230803BHJP
   B29C 48/57 20190101ALI20230803BHJP
   B29B 7/46 20060101ALI20230803BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C08L65/00
B29C48/08
B29C48/395
B29C48/505
B29C48/285
B29C48/63
B29C48/76
B29C48/57
B29B7/46
B29B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013545
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中堀 兵太
【テーマコード(参考)】
4F201
4F207
4J002
【Fターム(参考)】
4F201AA12
4F201AB19
4F201AG01
4F201AR06
4F201AR11
4F201BA01
4F201BA02
4F201BC01
4F201BC37
4F201BD05
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK26
4F201BK36
4F201BK40
4F201BL08
4F201BL43
4F207AA12
4F207AB19
4F207AG01
4F207AR06
4F207AR11
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL01
4F207KL03
4F207KL22
4F207KL23
4F207KL41
4F207KL84
4F207KM14
4J002BC012
4J002BG052
4J002BK001
4J002BK002
4J002CE001
4J002CE002
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DL006
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD050
4J002GF00
4J002GP00
4J002GQ00
4J002GS00
(57)【要約】
【課題】良好な滑り性を有し、ヘイズ及び内部ヘイズが小さいフィルムを得ることができ、製造装置の汚染を低減できる樹脂組成物等を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度がTg(℃)であるノルボルネン系樹脂と、粒子とを含む樹脂組成物であって、前記粒子の平均一次粒子径が500nm以下であり、前記樹脂組成物中の前記粒子の含有量が10重量%以下であり、前記粒子の屈折率と前記ノルボルネン系樹脂の屈折率との差の絶対値が0.01以下であり、前記粒子をTg+120℃で60分間加熱したときの重量減少率が5%未満である、樹脂組成物。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度がTg(℃)であるノルボルネン系樹脂と、粒子とを含む樹脂組成物であって、
前記粒子の平均一次粒子径が500nm以下であり、
前記樹脂組成物中の前記粒子の含有量が10重量%以下であり、
前記粒子の屈折率と前記ノルボルネン系樹脂の屈折率との差の絶対値が0.01以下であり、
前記粒子をTg+120℃で60分間加熱したときの重量減少率が5%未満である、樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を含む樹脂層を備える、フィルム。
【請求項3】
前記フィルムのヘイズが5%以下であり、内部ヘイズが0.5%以下であり、前記フィルム同士の静摩擦係数が1.0以下である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のフィルムと、偏光子とを備える、偏光板。
【請求項5】
押出機を用いて、請求項1に記載の樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
前記押出機が、シリンダと、前記シリンダ内に収納された1以上のスクリュとを備え、
前記シリンダは、ノルボルネン系樹脂及び粒子を混練できる混練室と、前記混練室へノルボルネン系樹脂及び粒子を供給できる供給口と、前記混練室から外部へガスを排出できるベント口と、前記樹脂組成物を吐出できる吐出口とを備え、
前記スクリュは、搬送エレメントと、混練エレメントとを備え、
前記シリンダの前記供給口よりも前記吐出口側に位置し、前記スクリュの前記混練エレメントが配置された区間である、1以上の混練ゾーンと、
前記1以上の混練ゾーンのうち最も前記吐出口側に位置する最終混練ゾーンの吐出口側境界から前記吐出口までの区間であって、前記ベント口が配置された区間である、ベントゾーンとを有し、
前記製造方法が、
前記供給口から、前記ノルボルネン系樹脂及び前記粒子を供給する工程(1a)と、
前記混練ゾーンにおいて、前記ノルボルネン系樹脂及び前記粒子を混練する工程(1b)と、
前記ベントゾーンにおいて、前記混練室内のガスを外部へ排出する工程(1c)とをこの順に含み、
前記ベントゾーンにおける、前記ノルボルネン系樹脂の平均温度がTg+120℃以下である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記工程(1b)において、前記ノルボルネン系樹脂の温度がTg(℃)よりも高い温度を保有している時間が100秒以下である、請求項5に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記押出機が、前記シリンダの前記供給口から、前記1以上の混練ゾーンのうち、最も前記供給口側に位置する第一混練ゾーンの供給口側境界までの区間である、搬送ゾーンを有し、
前記工程(1b)の前において、前記搬送ゾーンにおける、前記樹脂の平均温度がTg(℃)以下である、請求項5又は6に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記押出機が、前記混練ゾーンを1か所のみに有する、請求項5~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法により、樹脂組成物を製造する工程(1)と、
前記樹脂組成物を加熱して溶融物を得る工程(2)と、
前記溶融物を層状に押し出す工程(3)とをこの順に含む、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、これを用いたフィルム及び偏光板、並びに樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の機能を有する樹脂成形体を得るために、樹脂及び粒子を含む材料を用いる技術が知られている。例えば、特許文献1には、ポリオレフィン樹脂及び有機粒子を含有する樹脂層を含む反射材が記載されている。特許文献2には、無機微粒子を含む樹脂を用いた光学機能素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-149060号公報
【特許文献2】特開2009-58734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形体の一種である樹脂フィルムは、例えば、画像表示装置などの光学素子として用いられる。このような樹脂フィルムには、擦り傷などの欠陥の少ないことが求められる。樹脂フィルムを形成する樹脂の種類によっては、樹脂フィルムの滑り性が低い場合がある。滑り性が低い樹脂フィルムを巻き回してロールの形態とすると、特に擦り傷などの欠陥が多くなる場合がある。
【0005】
そのため、本発明者は、樹脂フィルムの滑り性を向上させるために、樹脂層に、樹脂及び粒子を含む材料を用いることを検討した。
【0006】
しかし、樹脂及び粒子を含む樹脂組成物を押出成形することによりフィルムを製造する場合において、フィルタや冷却ロールなどの製造装置に汚れが付着して、フィルムの品質が低下する場合があった。また、得られたフィルムのヘイズ及び内部ヘイズを十分に小さくすることが難しい場合があった。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、良好な滑り性を有し、ヘイズ及び内部ヘイズが小さいフィルムを得ることができ、製造装置の汚染を低減できる樹脂組成物;これを用いたフィルム及び偏光板;前記の樹脂組成物を容易に製造できる樹脂組成物の製造方法;フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、樹脂としてノルボルネン系樹脂を用い、前記樹脂に所定の物性を備える粒子を所定量含ませることで、良好な滑り性を有し、ヘイズ及び内部ヘイズが小さく、製造装置の汚染を低減可能な樹脂組成物が得られること、さらに、押出機を用いた樹脂組成物の製造方法において、押出機の軸方向に特定の区分を設け、各区分の樹脂の温度を調整することにより、上述の樹脂組成物を容易に製造できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下のものを含む。
【0009】
〔1〕 ガラス転移温度がTg(℃)であるノルボルネン系樹脂と、粒子とを含む樹脂組成物であって、前記粒子の平均一次粒子径が500nm以下であり、前記樹脂組成物中の前記粒子の含有量が10重量%以下であり、前記粒子の屈折率と前記ノルボルネン系樹脂の屈折率との差の絶対値が0.01以下であり、前記粒子をTg+120℃で60分間加熱したときの重量減少率が5%未満である、樹脂組成物。
〔2〕 〔1〕に記載の樹脂組成物を含む樹脂層を備える、フィルム。
〔3〕 前記フィルムのヘイズが5%以下であり、内部ヘイズが0.5%以下であり、前記フィルム同士の静摩擦係数が1.0以下である、〔2〕に記載のフィルム。
〔4〕 〔2〕又は〔3〕に記載のフィルムと、偏光子とを備える、偏光板。
〔5〕 押出機を用いて、〔1〕に記載の樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、前記押出機が、シリンダと、前記シリンダ内に収納された1以上のスクリュとを備え、前記シリンダは、ノルボルネン系樹脂及び粒子を混練できる混練室と、前記混練室へノルボルネン系樹脂及び粒子を供給できる供給口と、前記混練室から外部へガスを排出できるベント口と、前記樹脂組成物を吐出できる吐出口とを備え、前記スクリュは、搬送エレメントと、混練エレメントとを備え、前記シリンダの前記供給口よりも前記吐出口側に位置し、前記スクリュの前記混練エレメントが配置された区間である、1以上の混練ゾーンと、前記1以上の混練ゾーンのうち最も前記吐出口側に位置する最終混練ゾーンの吐出口側境界から前記吐出口までの区間であって、前記ベント口が配置された区間である、ベントゾーンとを有し、前記製造方法が、前記供給口から、前記ノルボルネン系樹脂及び前記粒子を供給する工程(1a)と、前記混練ゾーンにおいて、前記ノルボルネン系樹脂及び前記粒子を混練する工程(1b)と、前記ベントゾーンにおいて、前記混練室内のガスを外部へ排出する工程(1c)とをこの順に含み、前記ベントゾーンにおける、前記ノルボルネン系樹脂の平均温度がTg+120℃以下である、樹脂組成物の製造方法。
〔6〕 前記工程(1b)において、前記ノルボルネン系樹脂の温度がTg(℃)よりも高い温度を保有している時間が100秒以下である、〔5〕に記載の樹脂組成物の製造方法。
〔7〕 前記押出機が、前記シリンダの前記供給口から、前記1以上の混練ゾーンのうち、最も前記供給口側に位置する第一混練ゾーンの供給口側境界までの区間である、搬送ゾーンを有し、前記工程(1b)の前において、前記搬送ゾーンにおける、前記樹脂の平均温度がTg(℃)以下である、〔5〕又は〔6〕に記載の樹脂組成物の製造方法。
〔8〕 前記押出機が、前記混練ゾーンを1か所のみに有する、〔5〕~〔7〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
〔9〕 〔5〕~〔8〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法により、樹脂組成物を製造する工程(1)と、前記樹脂組成物を加熱して溶融物を得る工程(2)と、前記溶融物を層状に押し出す工程(3)とをこの順に含む、フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な滑り性を有し、ヘイズ及び内部ヘイズが小さいフィルムを得ることができ、製造装置の汚染を低減できる樹脂組成物;これを用いたフィルム及び偏光板;前記の樹脂組成物を容易に製造できる樹脂組成物の製造方法;フィルムの製造方法を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の別の実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法に用いられる押出機を破断して示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。以下に示す実施形態の構成要素は、適宜組み合わせうる。また、図において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0013】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0014】
〔1.樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、ガラス転移温度がTg(℃)であるノルボルネン系樹脂と、粒子とを含む樹脂組成物であって、粒子の平均一次粒子径が500nm以下であり、樹脂組成物中の粒子の含有量が10重量%以下であり、粒子の屈折率とノルボルネン系樹脂の屈折率との差の絶対値が0.01以下であり、粒子をTg+120℃で60分間加熱したときの重量減少率が5%未満である。
【0015】
本発明によれば、上述した所定の平均一次粒子径及び屈折率を有し、所定の耐熱性を示す粒子を所定量含むことにより、良好な滑り性を有し、ヘイズ及び内部ヘイズが小さいフィルムを得ることが可能な樹脂組成物とすることができる。
【0016】
ここで、樹脂及び粒子を含む樹脂層を備えるフィルムは、粒子を含まない樹脂層を備えるフィルムに比べて、滑り性を良好にすることができる一方で、製造装置が汚染されやすい傾向にある。製造装置の汚染は、本発明を限定するものではないが、熱による粒子の分解物によるものと推察される。
【0017】
これに対し、本発明に係る樹脂組成物は、粒子が所定の耐熱性を備えることから、ブロッキングが低減されたフィルムを製造する際に、製造時の加熱による粒子の分解を抑制することができるため、製造装置の汚染を低減しうる。特に、フィルムを溶融押出法により製造する場合、ポリマーフィルター、及びフィルムを冷却するためのロールの汚染を効果的に低減しうる。
【0018】
〔1.1.ノルボルネン系樹脂〕
樹脂組成物に含まれるノルボルネン系樹脂は、通常、熱可塑性樹脂であり、ガラス転移温度がTg(℃)である。以下、樹脂組成物に含まれるノルボルネン系樹脂を樹脂(A)ともいう。
【0019】
樹脂(A)のガラス転移温度Tg(℃)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは140℃以上であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。ガラス転移温度が上記範囲内であることにより、フィルムの耐熱性を良好にすることができるからである。
【0020】
樹脂(A)のガラス転移温度は、JIS K7121に基づき、示差走査熱量分析法により測定しうる。測定条件としては、例えば、室温から200℃まで20℃/minで昇温し、次いで40℃まで20℃/minで冷却した樹脂について、40℃から200℃まで10℃/minで昇温する条件で行いうる。
【0021】
樹脂(A)は、通常、ノルボルネン系重合体と、必要に応じて用いられる任意成分とを含む。樹脂(A)に含まれうるノルボルネン系重合体としては、そのガラス転移温度の範囲が上述した樹脂(A)のガラス転移温度の範囲と同じものであってもよい。また、本実施形態においては、ノルボルネン系重合体のガラス転移温度が樹脂(A)のガラス転移温度と同じである場合もありえる。ノルボルネン系重合体のガラス転移温度の測定方法については上述した樹脂のガラス転移温度の測定方法と同様としうる。
【0022】
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン系単量体を重合させ、必要に応じて更に水素化を行って、得られる構造を含む重合体である。ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体の開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体の付加共重合体が挙げられる。これらの重合体としては、例えば、特開2002-321302号公報等に開示されている重合体が挙げられる。
【0023】
ノルボルネン系重合体及びこれらの水素化物の具体例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア」;JSR社製「アートン」;TOPAS ADVANCED POLYMERS社製「TOPAS」が挙げられる。
【0024】
樹脂(A)は、1種類のノルボルネン系重合体を単独で含んでいてもよく、2種類以上のノルボルネン系重合体を任意の比率の組み合わせとして含んでいてもよい。
本発明の利点を顕著に発揮させる観点から、樹脂(A)中のノルボルネン系重合体の割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、更に好ましくは90重量%以上であり、通常100重量%以下である。
【0025】
本発明の効果を著しく損なわない限り、樹脂(A)は、ノルボルネン系重合体以外の任意成分を含有していてもよい。樹脂(A)は、任意成分として、紫外線吸収剤を含有していてもよい。これにより、フィルムが紫外線に対する耐性を獲得することができる。このため、例えば偏光子保護フィルムなどの光学フィルムとして紫外線吸収剤を含有するフィルムを用いる場合、フィルム及びこのフィルムにより保護される偏光子等の保護対象を、紫外線による劣化から効果的に保護できる。
【0026】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤などが使用可能である。中でも、紫外線吸収剤としては、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,4-ジ-tert-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン等が好適に用いられる。紫外線吸収剤は、1種類で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本実施形態に係る樹脂組成物を用いたフィルムは、滑り性を良好にする観点から、通常、前記樹脂組成物を含む樹脂層が、フィルムの表面に露出するように配置される。そのため、紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制する観点から、樹脂組成物100重量部に対する紫外線吸収剤の重量割合は、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1重量部以下であり、通常0重量部以上であり、0重量部であってもよく、0.1重量部以上であってもよい。
【0028】
〔1.2.粒子〕
樹脂組成物に含まれる粒子は、その平均一次粒子径が500nm以下であり、粒子の屈折率と樹脂(A)の屈折率との差の絶対値が0.01以下であり、粒子を樹脂(A)のTg+120℃で60分間加熱したときの重量減少率(以下、加熱重量減少率ということもある)が5%未満である。
【0029】
樹脂組成物に含まれる粒子は、無機粒子でもよく、有機粒子でもよく、無機材料及び有機材料を組み合わせた複合粒子でもよい。以下、樹脂組成物に含まれる粒子を粒子Cともいう。粒子Cは、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本実施形態において、粒子Cは、好ましくは有機粒子であり、粒子の屈折率調整を容易とし、粒度分布の広がりを狭くする観点から、より好ましくは有機重合体の粒子である。
【0031】
粒子Cを構成しうる有機重合体の例としては、メタクリル酸メチルとスチレンとの架橋共重合体、及び脂環式構造含有架橋重合体が挙げられる。
屈折率の調整を容易とする観点から、粒子Cは、好ましくはメタクリル酸メチルとスチレンとの架橋共重合体の粒子である。
樹脂(A)と近い屈折率を有する粒子とする観点から、粒子Cは、好ましくは脂環式構造含有架橋重合体の粒子である。
【0032】
前記のとおり、粒子Cは、メタクリル酸メチルとスチレンとの架橋共重合体の粒子であってもよい。ここで、メタクリル酸メチルとスチレンとの架橋共重合体とは、メタクリル酸メチル、スチレン、及び架橋性単量体の共重合体である。ここで、架橋性単量体の例としては、一分子当たり二以上の重合性基を含む、多官能性単量体が挙げられ、具体例としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、及びトリプロピレングリコールジメタクリレートが挙げられる。前記架橋共重合体の粒子は、例えば、メタクリル酸メチル、スチレン、及び架橋性単量体を含む単量体混合物を、懸濁重合する方法により得られうる。メタクリル酸メチル、スチレン、及び架橋性単量体の重量比は、任意に設定できる。
【0033】
前記メタクリル酸メチルとスチレンとの架橋共重合体の粒子としては、様々な平均粒子径の粒子が市販され、これらが用いられうる。かかる粒子の市販品の例としては、積水化成品工業社製「テクポリマー」が挙げられる。
【0034】
前記のとおり、粒子Cは、脂環式構造含有架橋重合体の粒子であってもよい。ここで、脂環式構造含有架橋重合体とは、脂環式構造を含有する繰り返し単位が架橋された構造を含む重合体である。粒子Cを、脂環式構造含有架橋重合体の粒子とすることにより、粒子Cの屈折率を樹脂組成物に含まれうる脂環式構造含有重合体を含む樹脂の屈折率と近いものとして、樹脂組成物を用いたフィルムの内部ヘイズを効果的に低くできる。
【0035】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度および耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、シクロアルカン構造がより好ましい。
【0036】
脂環式構造を構成する炭素原子数に特に制限はないが、通常4個以上、好ましくは5個以上であり、通常30個以下、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数が前記の範囲に収まるようにすることで、フィルムの機械強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0037】
脂環式構造含有架橋重合体100重量%中に占める脂環式構造を含有する繰り返し単位の割合は、好ましくは55重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上であり、通常100重量%以下である。脂環式構造含有架橋重合体に占める脂環式構造を含有する繰り返し単位の割合が前記の範囲にあると、粒子Cの透明性および耐熱性を効果的に向上させることができる。
【0038】
脂環式構造含有架橋重合体の例としては、ノルボルネン系架橋重合体、単環の環状オレフィン系架橋重合体、環状共役ジエン系架橋重合体、ビニル脂環式炭化水素系架橋重合体、及び、これらの水素化物が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系架橋重合体及びこれらの水素化物は、透明性が良好なため、好適である。
【0039】
ノルボルネン系架橋重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体単位の架橋重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合しうる任意の単量体との共重合体の架橋体及びその水素化物;が挙げられる。共重合体は、ノルボルネン構造を有する単量体の、開環共重合体であってもよく、付加共重合体であってもよい。
【0040】
脂環式構造含有架橋重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体を、架橋剤存在下にて懸濁重合させることで架橋させた粒子や、ノルボルネン構造を有する重合体を、架橋剤存在下にて架橋させた粒子等を用いることができる。
【0041】
粒子Cは、無機粒子であってもよい。無機粒子の例としては、シリカ粒子、合成ゼオライト粒子、及びガラス粒子が挙げられる。
粒度分布を均一とする観点から、粒子Cは好ましくはシリカの粒子である。
シリカの粒子としては、様々な平均粒子径の粒子が市販され、これらが用いられうる。市販品の例としては、信越化学工業社製「QSG」シリーズ、日本触媒社製「シーホスター」シリーズ、アドマテックス社製「アドマナノ」などが挙げられる。
【0042】
粒子Cの平均一次粒子径は、通常500nm以下、好ましくは450nm以下、より好ましくは400nm以下であり、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、さらに好ましくは300nm以上である。平均一次粒子径が、前記上限値以下であることにより、フィルムの滑り性を良好にしうるとともに、フィルムの内部ヘイズを低下させうる。また樹脂(A)と粒子Cとを含む溶融物を、ポリマーフィルターに通した場合に、ポリマーフィルターの目詰まりを低減できる。そのため、フィルムの生産性の低下を抑制できる。平均一次粒子径が、前記下限値以上であると、フィルムの滑り性を十分なものとしうる。
【0043】
粒子Cの平均一次粒子径とは、一次粒子の数平均粒子径を指し、溶媒に分散させた分散液の状態で、動的光散乱法による粒子径測定装置によって測定しうる。動的光散乱法によって吸湿性粒子の平均一次粒子径を測定ができない場合、電子顕微鏡を用いた観察により平均一次粒子径を測定してもよい。具体的には、以下の方法により測定できる。電子顕微鏡を用いた観察により、50個の一次粒子のそれぞれについて、粒子の短軸と長軸との和を求め、得られた和を2で割って粒子それぞれの粒子径を測定する。そうして測定した50個の一次粒子の粒子径の算術平均値を、平均一次粒子径としうる。
【0044】
粒子Cは、粒子径が1μm以上である粗大粒子の体積割合が、小さいことが好ましい。これにより、フィルムの製造時において、樹脂(B)と粒子Cとを含む溶融物を、ポリマーフィルターに通した場合に、ポリマーフィルターの目詰まりをより低減できるので、フィルムの生産性がより向上する。粒子Cにおける、粒子径が1μm以上である粗大粒子の体積割合は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%以下であり、通常0%以上であり、0%が好ましいが、0.01%以上であってもよい。粗大粒子の割合の計算上、粗大粒子の粒子径の上限は、特に限定されないが例えば1mm以下としうる。但し、通常の製造において粒子径が1mm超の粒子は完全に取り除かれるので、1mm超の粒子を計算に含めたとしても、粗大粒子の割合の好ましい範囲は、上に述べた値と同じである。
粒子Cにおける前記粗大粒子の体積割合は、粒子Cをふるい分けなどにより分級して粗大粒子を取り除くことにより、小さくすることができる。
【0045】
樹脂(A)の屈折率及び粒子の屈折率の差の絶対値は、通常0.01以下、0以上であり、理想的には0であるが、0.005以上であってもよい。樹脂(A)及び粒子の屈折率差の絶対値が上記範囲にあることで、樹脂組成物を用いたフィルムの内部ヘイズをより低減させることができるからである。
屈折率は、波長589nmの光について、実施例記載の方法により測定しうる。
【0046】
樹脂組成物において、粒子Cの含有量(重量割合)は、通常10重量%以下、より好ましくは9重量%以下、更に好ましくは8重量%以下であり、好ましくは3重量%以上、より好ましくは4重量%以上、更に好ましくは5重量%以上である。
【0047】
樹脂組成物中の粒子Cの含有量が、前記下限値以上であることにより、樹脂組成物を用いて得られるフィルムが長さ2000mを超える長尺のフィルムであって、ロールとした際に巻き芯の付近に大きな荷重がかかるものである場合であっても、フィルムの滑り性が向上することにより、巻き芯付近でブロッキングが発生しにくくなり、擦り傷などの不良が発生しにくくなる。
【0048】
樹脂組成物中の粒子Cの含有量が、前記上限値以下であることにより、樹脂組成物を含むフィルムの樹脂層の表面粗さが適度なものとなり、フィルムの外部ヘイズの上昇が抑制される。その結果、フィルムを画像表示装置の構成要素として用いた場合に、画像表示装置の視認性を向上させうる。また、フィルムにハードコート層などの任意の追加の層を積層する際に、樹脂組成物を含む樹脂層と追加の層との密着性が良好となる。また、樹脂組成物中の粒子Cの含有量が、前記上限値以下であることにより、製造コストの点で有利である。さらに、樹脂組成物を製造する際に、粒子Cの樹脂(A)への分散不良を抑制できる。
【0049】
粒子Cは、Tg+120℃、60℃加熱したときの重量減少率が、通常5重量%以下、好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下であり、通常0重量%以上であり、0重量%を超えることもありうる。上述した粒子Cの重量減少率が上記範囲にあることで、フィルムの製造装置の汚染を低減しうる。粒子Cの重量減少率は後述する実施例で説明する方法により測定しうる。Tgは、樹脂(A)のガラス転移温度を指す。
【0050】
〔2.フィルム〕
上述の樹脂組成物は、通常、フィルムの材料として用いられる。このようなフィルムは、通常、上述した樹脂組成物を含む樹脂層を備える。以下の説明において上述した樹脂組成物を含む樹脂層を樹脂層(a)と称して説明する場合がある。
【0051】
フィルムとしては、樹脂層(a)のみを備える単層フィルムであってもよく、樹脂層((a)と他の樹脂層とを含む積層フィルムであってもよいが、後者がより好ましい。後者の場合、積層フィルムは、通常、樹脂層(a)と、樹脂を含む樹脂層(b)とを含み、樹脂層(b)の一方の主面上に樹脂層(a)が設けられた構成を備える。樹脂層(b)が、滑り性の高い層及び滑り性の低い層のいずれであっても、樹脂層(a)により積層フィルムに良好な滑り性が付与される。その結果、積層フィルムのブロッキングが低減されて、積層フィルムに擦り傷が生じることを抑制しうる。
【0052】
また、上述したように、樹脂層(a)が上述した樹脂組成物を含むことにより、樹脂層(a)のヘイズ及び内部ヘイズを小さくすることができることから、フィルム全体のヘイズ及び内部ヘイズを小さくすることができ、フィルムの製造装置の汚染を低減することができる。
【0053】
〔2.1.樹脂層(a)〕
樹脂層(a)は、上述した樹脂組成物を含む。
樹脂層(a)の厚みは、フィルムの層構成及び使用目的などに応じて任意に設定できる。フィルムが、樹脂層(a)と、樹脂を含む樹脂層(b)とを含む積層フィルムである場合、樹脂層(a)の厚みとしては、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。樹脂層(a)の厚みが前記下限値以上であることにより、例えば共押出法などの押出成形により樹脂層(a)を成形する際に、厚みの制御を容易に行いうる。また樹脂層(a)の厚みが前記上限値以下であることにより、粒子Cを含む樹脂層(a)の滑り性と樹脂層(a)の強度低下とがバランスして、積層フィルムの強度を良好にしうるともに、積層フィルムを搬送する際に、積層フィルムに破断が生じることを抑制して、積層フィルムのハンドリング性を優れたものとしうる。ここで、積層フィルムが複数層の樹脂層(a)を有する場合、それぞれの樹脂層(a)の厚みが、前記範囲内であることが好ましい。
【0054】
樹脂層(a)の厚みの、樹脂層(b)の厚みに対する比(樹脂層(a)の厚み/樹脂層層(b)の厚み)は0.32以下が好ましく、0.25以下がより好ましく、0.11以下が更に好ましい。前記比が前記上限値以下であることにより、積層フィルムの強度をより良好にしうる。また前記比は0.02以上が好ましく、0.04以上がより好ましい。前記比が前記下限値以上であることにより、積層フィルムの厚み制御をより良好に行いうる。ここで、積層フィルムが複数層の樹脂層(a)を有する場合、それぞれの樹脂層(a)の厚みが、前記範囲内であることが好ましい。
【0055】
〔2.2.樹脂層(b)]
樹脂層(b)に含まれる樹脂は、通常、重合体と、必要に応じて用いられる任意成分とを含む。樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。以下、樹脂層(b)に含まれる樹脂を樹脂(B)ともいう。
【0056】
樹脂(B)に含まれうる重合体は、樹脂(A)に含まれうる重合体と同一であってもよく、異なっていてもよい。樹脂(B)に含まれうる重合体と樹脂(A)に含まれうる重合体とを同一とすることにより、樹脂層(a)と樹脂層(b)との親和性が通常は高くなるため、樹脂層(a)と樹脂層(b)との接着強度を高めることができる。
樹脂(B)に含まれうる重合体としては、積層フィルムの耐熱性及び耐湿性を高めることができるので、脂環式構造含有重合体が好ましい。
【0057】
脂環式構造含有重合体とは、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を含有する重合体をいう。脂環式構造含有重合体としては、フィルムの機械強度及び耐熱性を向上させる観点から、主鎖に脂環式構造を含有する脂環式構造含有重合体が好ましい。脂環式構造の例、脂環式構造を構成する炭素数については、上述した粒子Cに用いられる脂環式構造含有架橋重合体において説明した内容と同様としうる。
【0058】
脂環式構造含有重合体中に占める脂環式構造を含有する繰り返し単位の割合は、フィルムの使用目的に応じて適宜選択しうる。脂環式構造含有重合体100重量%中に占める脂環式構造を含有する繰り返し単位の割合は、好ましくは55重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上であり、通常100重量%以下である。脂環式構造含有重合体に占める脂環式構造を含有する繰り返し単位の割合が前記の範囲にあると、フィルムの透明性および耐熱性を効果的に向上させることができる。
【0059】
脂環式構造含有重合体の例としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適である。ノルボルネン系重合体の例としては、樹脂(A)に含まれうる例と同様としうる。
【0060】
樹脂(B)は、1種類の脂環式構造含有重合体を単独で含んでいてもよく、2種類以上の脂環式構造含有重合体を任意の比率の組み合わせとして含んでいてもよい。
本発明の利点を顕著に発揮させる観点から、樹脂(B)中の脂環式構造含有重合体の割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、更に好ましくは90重量%以上であり、通常100重量%以下である。
【0061】
本発明の効果を著しく損なわない限り、樹脂(B)は、重合体以外の任意成分を含有していてもよい。任意成分の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤が挙げられる。樹脂は、任意成分を1種単独で含んでいてもよく、2種以上の任意の比率の組み合わせで含んでいてもよい。
【0062】
樹脂(B)は、任意成分として、紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤の例としては、樹脂(A)に含まれうる紫外線吸収剤の例及び好ましい例と同様の例が挙げられる。
【0063】
樹脂(B)中の、紫外線吸収剤の重量比率は、好ましくは1.0重量%以上、より好ましくは3.0重量%以上であり、好ましくは23重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。紫外線吸収剤の重量比率が前記範囲の下限値以上であると、紫外線を効果的に遮断することができる。紫外線吸収剤の濃度が前記範囲の上限値以下であると、紫外線吸収剤の分散不良により積層フィルムに点欠陥が発生することを抑制でき、また積層フィルムの強度低下を抑制できる。
【0064】
樹脂(B)のガラス転移温度は、好ましくは、樹脂(A)のガラス転移温度Tg±15℃の範囲内、より好ましくはTg±10℃の範囲内であることが好ましい。樹脂(A)及び樹脂(B)を用いて積層フィルムを製造する場合、樹脂の加熱温度を製造装置の汚染を低減しうるように調整して積層フィルムを容易に製造しうるからである。
【0065】
樹脂層(b)の厚みは、積層フィルムの使用目的などに応じて任意に設定できる。樹脂層(b)の厚みは、例えば、1μm以上99μm以下としてよい。
【0066】
〔2.3.フィルムの構成〕
本発明の一実施形態に係るフィルムとしては、樹脂層(a)のみを備える単層フィルムであってもよく、樹脂層(a)と他の樹脂層とを含む積層フィルムであってもよい。
本発明の一実施形態に係るフィルムが積層フィルムである場合、積層フィルムは、通常樹脂層(a)と樹脂層(b)とを有する。積層フィルムは、樹脂層(a)及び樹脂層(b)の2層のみからなる積層フィルムであってもよい。積層フィルムは樹脂層(a)及び樹脂層(b)の他に、任意の層を有していてもよい。任意の層は、1層でもよく、2層以上であってもよい。また、任意の層が2層以上存在する場合、任意の層は、厚み、材料などが同じ層であってもよく、異なる層であってもよい。任意の層の位置は任意に設定できる。積層フィルムを薄型化する観点から、積層フィルムは、樹脂層(a)及び樹脂層(b)以外の層を有さないことが好ましい。
【0067】
積層フィルムは、樹脂層(a)を二つ有していてもよい。積層フィルムが二つの樹脂層(a)を有する場合、通常積層フィルムは、樹脂層(a)、樹脂層(b)、及び樹脂層(a)をこの順に有する積層フィルムであり、通常樹脂層(a)は、樹脂層(b)の二つの主面上に設けられている。樹脂層(b)は、積層フィルムの両方の表面に配置されて、二つの樹脂層(a)のそれぞれが、積層フィルムの両方の表面のそれぞれに露出していることが好ましい。積層フィルムが二つの樹脂層(a)を有する場合、それぞれを、樹脂層(a1)及び樹脂層(a2)という場合がある。
【0068】
積層フィルムは、樹脂層(a)が含んでいてもよい紫外線吸収剤などの添加剤がブリードアウトすることを抑制し、滑り性をより向上させる観点から、樹脂層(a)を二つ有し、第一の樹脂層(a1)、樹脂層(b)、及び第二の樹脂層(a2)をこの順で有することが好ましい。
【0069】
積層フィルムが樹脂層(a)を二つ有する場合、二つの樹脂層(a)は、同一の材料により構成され、同一の厚みを有していてもよく、同一の材料により構成されるが厚みが異なっていてもよく、成分の種類、成分の重量比などが異なる材料により構成されていてもよい。積層フィルムが樹脂層(a)を二つ有する場合、製造を容易にしうると共に、積層フィルムのカールを抑制しうるので、二つの樹脂層(a)は、好ましくは同一の材料により構成され且つ同一の厚みを有する。ここで、同一の材料とは、樹脂組成物に含まれる樹脂(A)及び粒子Cの種類及び重量割合が同一であることを指し、異なる材料は樹脂組成物に含まれる樹脂(A)及び粒子Cの種類及び重量割合の少なくとも一方が異なる材料を指す。
【0070】
積層フィルムは、樹脂層(b)を複数有していてもよい。積層フィルムが樹脂層(b)を複数有する場合、複数の樹脂層(b)はそれぞれ、成分の種類、成分の重量比などが互いに異なる材料により構成されていてもよい。
【0071】
以下、図を用いて本発明の一実施形態に係る積層フィルムの層構成を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。本実施形態の積層フィルム10は、樹脂層(b)11と、樹脂層(b)の一方の主面である面11Uと接するように配置された樹脂層(a)12とを備える。樹脂層(a)12は、積層フィルム10の最も表面に配置されていて、樹脂層(a)12の面12Uが露出している。
【0072】
図2は、本発明の別の実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。本実施形態の積層フィルム20は、樹脂層(a1)22と、樹脂層(b)21と、樹脂層(a2)23とを、この順で備える。樹脂層(a1)22は、樹脂層(b)21の一方の主面である面21Uと接するように配置されている。樹脂層(a2)23は、樹脂層(b)21のもう一方の主面である面21Dと接するように配置されている。樹脂層(a1)22及び樹脂層(a2)23は、それぞれ積層フィルム20の最も表面に配置されていて、樹脂層(a1)22の面22U及び樹脂層(a2)23の面23Dが露出している。
【0073】
〔2.4.フィルムの厚み、長さ、特性〕
(厚み)
フィルムの厚みは、任意の厚さに設定できるが、好ましくは10μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上80μm以下としうる。
【0074】
(フィルムの長さ)
フィルムは、枚葉であっても、長尺であってもよい。本実施形態のフィルムは、巻き芯付近でのブロッキングの発生、擦り傷などの不良の発生が低減できるので、好ましくは長尺であって、ロールの形態である。フィルムが長尺である場合、フィルムの長さは、2000mを超えていてもよい。本実施形態のフィルムは、このように長尺のフィルムを巻き回してロールの形態とした場合であっても、前記のとおり巻き芯付近でのブロッキングの発生、擦り傷などの不良の発生を低減できる。
【0075】
(紫外線透過率)
フィルムは、紫外線透過率が低いことが好ましい。フィルムは、波長380nmの紫外線の透過率が、好ましくは4%以下、より好ましくは1%以下であり、通常0%以上であり、0%であってもよい。紫外線透過率が前記上限値以下であるフィルムは、画像表示装置の構成要素(特に、有機エレクトロルミネッセンス素子の構成要素、偏光子など)の保護フィルムとして好適に用いられうる。紫外線透過率は、分光光度計(例えば、日本分光社製「V-7200DS」)を用いて測定できる。
【0076】
フィルムを構成する層のいずれかに、紫外線吸収剤を含有させることにより、フィルムの紫外線透過率を低減しうる。
フィルムを構成する層のうち、樹脂層(a)が紫外線吸収剤を含んでいてもよく、樹脂層(b)が紫外線吸収剤を含んでいてもよく、樹脂層(a)及び樹脂層(b)の両方が紫外線吸収剤を含んでいてもよく、樹脂層(a)及び樹脂層(b)のいずれでもない任意の層が、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。フィルムが紫外線吸収剤を含むフィルムである場合、樹脂層(b)が紫外線吸収剤を含み、樹脂層(a)は紫外線吸収剤を含まないことが好ましい。
【0077】
(滑り性:静摩擦係数)
フィルムは、優れた滑り性を備える。滑り性は、摩擦試験機を用いて、JIS K7125に準拠し、荷重を1kgfとしてフィルム同士の静摩擦係数を求めることにより評価できる。フィルムは、実施例の項に記載の方法により求められる静摩擦係数が、通常1.0以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下であり、好ましくは0.4以上である。
【0078】
荷重1kgfとして測定されたフィルムの静摩擦係数が、前記下限値以上であることにより、フィルムの滑り性を適度なものとして、フィルムの巻き取りの際のハンドリング性をより優れたものとしうる。また、荷重1kgfとして測定されたフィルムの静摩擦係数が、前記上限値以下であることにより、フィルムが長さ2000mを超える長尺のフィルムのように、ロールとした際に巻き芯の付近に大きな荷重がかかるものであっても、巻き芯付近でのブロッキングを低減し、擦り傷などの不良の発生を低減できる。
【0079】
(ヘイズ及び内部ヘイズ)
本発明の一実施形態に係るフィルムはヘイズ及び内部ヘイズが低い。
フィルムのヘイズは、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下であり、通常0.0%以上であり、理想的には0.0%である。
フィルムの内部ヘイズは、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.2%以下であり、通常0.0%以上であり、理想的には0.0%である。フィルムのヘイズ及び内部ヘイズが低いことにより、フィルムを、精細な表示性能が求められる画像表示装置の構成要素として、好適に用いうる。フィルムのヘイズ及び内部ヘイズは、ヘイズメーターを用いて、測定しうる。
【0080】
本実施形態に係るフィルムは、良好な滑り性を有し、擦り傷などの欠陥が低減されている。そのため、偏光子保護フィルムなどの光学フィルムとして、好適に用いうる。
【0081】
〔3.偏光板〕
本発明の一実施形態に係る偏光板は、上述したフィルムと、偏光子とを含む。
【0082】
偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の適切なビニルアルコール系重合体のフィルムに、ヨウ素及び二色性染料等の二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適切な処理を適切な順序及び方式で施したフィルムが挙げられる。また、偏光子の他の例としては、グリッド偏光子、多層偏光子、コレステリック液晶偏光子などの、偏光を反射光と透過光に分離する機能を有する偏光子が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール樹脂フィルムからなる偏光子が好ましい。このような偏光子は、自然光を入射させると直線偏光を透過させうるものであり、特に、光透過率及び偏光度に優れるものが好ましい。偏光子の厚には、例えば5μm~80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0083】
この偏光板は、偏光子の片側に上述のフィルムを備えていてもよく、両側に上述のフィルムを備えていてもよい。この偏光子は、例えば、偏光子と上述のフィルムとを貼り合わせることを含む方法により、製造できる。貼り合わせに際しては、必要に応じて、接着剤を用いてもよい。
【0084】
偏光板は、偏光子及び上述のフィルムに組み合わせて、更に任意の層を備えていてもよい。例えば、偏光板は、上述のフィルム以外の任意の保護フィルムを、偏光子の保護のために備えていてもよい。このような保護フィルムは、通常、上述のフィルムとは反対側の偏光子の面に設けられる。さらに、任意の層としては、例えば、低屈折率層、帯電防止層、インデックスマッチング層等が挙げられる。
【0085】
前記の偏光板は、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置に適用できる。
【0086】
〔4.樹脂組成物の製造方法〕
前記の樹脂組成物は、任意の方法により製造しうるが、下記の押出機を用いて、下記の工程(1a)~(1c)を含む製造方法により製造することが好ましい。
【0087】
押出機は、シリンダと、シリンダ内に収納された1以上のスクリュとを備え、シリンダは、樹脂(A)及び粒子を混練できる混練室と、混練室へ樹脂(A)及び粒子を供給できる供給口と、混練室から外部へガスを排出できるベント口と、樹脂組成物を吐出できる吐出口とを備え、スクリュは、搬送エレメントと、混練エレメントとを備え、シリンダの供給口よりも吐出口側に位置し、スクリュの混練エレメントが配置された区間である、1以上の混練ゾーンと、1以上の混練ゾーンのうち最も吐出口側に位置する最終混練ゾーンの吐出口側境界から吐出口までの区間であって、ベント口が配置された区間である、ベントゾーンとを有する。
【0088】
製造方法は、供給口から、樹脂(A)及び粒子を供給する工程(1a)と、混練ゾーンにおいて、樹脂(A)及び粒子を混練する工程(1b)と、ベントゾーンにおいて、混練室内のガスを外部へ排出する工程(1c)とをこの順に含む。また、工程(1c)において、ベントゾーンにおける、樹脂(A)の平均温度がTg+120℃以下である。
【0089】
以下、上述の押出機を用いた、上記工程(1a)~(1c)を含む樹脂組成物の製造方法を、本発明の一実施形態の樹脂組成物の製造方法として説明する。また、以下の説明において、別に断らない限り、「上流」及び「下流」は、樹脂(A)及び粒子の搬送方向における上流及び下流を指す。通常、押出機においては樹脂及び粒子は、シリンダの供給口側から吐出口側へ搬送される。
【0090】
〔4.1.押出機〕
本実施形態に係る押出機は、シリンダと、1以上のスクリュとを備える押出機である。このような押出機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、及び3軸以上の多軸押出機を挙げることができる。本実施形態においては、中でも二軸押出機であることが好ましい。樹脂(A)及び粒子の混練を良好に行うことができ、上述の樹脂組成物を容易に製造しやすいからである。
【0091】
図3は、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法に用いられる、押出機の一部を破断して示す模式的な側面図である。図3においては、押出機100が2本のスクリュを備える二軸押出機であり、2本のスクリュのうち1本のみを図示し、他の1本の図示を省略した例を示している。押出機100は、シリンダ110と、シリンダ110内に収納されたスクリュ120とを備える。
【0092】
シリンダ110は、壁部111と、樹脂(A)及び粒子を混練できる混練室112と、混練室112へ樹脂(A)及び粒子を供給できる供給口113と、混練室112から外部へガスを排出できるベント口114と、樹脂組成物を吐出できる吐出口115とを備える。シリンダ110は、通常、供給口113、ベント口114および吐出口115を、スクリュの軸方向の上流側からこの順に備える。以下の説明において、別に断らない限り、「軸方向」は、スクリュの軸方向を指す。
【0093】
混練室112は、シリンダ110内で樹脂(A)及び粒子の混練を行えるようにシリンダ110内に形成された中空部である。また、混練室112は、通常、軸方向に延びるように設けられており、この混練室112内にスクリュ120が収納される。
【0094】
供給口113は、樹脂(A)及び粒子を混練室112に供給できるように形成された孔である。通常、供給口113は、シリンダ110の壁部111に、この壁部111を貫通するように形成される。シリンダ110は、例えば、図3に示すように、樹脂供給口113a及び粒子供給口113bの複数の供給口を備えていてもよく、図示はしないが樹脂(A)及び粒子の両方を同時に供給できる1つの供給口を備えていてもよい。前者の場合は、樹脂供給口よりも粒子供給口がシリンダの吐出口側に設けられることが好ましい。供給口には、通常、供給装置(フィーダー)が接続され、供給装置を通して樹脂(A)及び粒子がシリンダの混練室へと供給される。
【0095】
シリンダの混練室全体の軸方向の長さとしては、例えば、シリンダの内径をDとし、シリンダの混練室全体の軸方向の長さをL0としたとき、L0/Dの値が、下記式(1)を満たすことが好ましい。
30≦L0/D≦60 (1)
(シリンダの混練室全体の軸方向の長さ)/(シリンダの内径)の値(L0/Dの値)は、より好ましくは35以上であり、より好ましくは55以下である。L0/Dの値が上述の範囲にあることにより、樹脂(A)及び粒子を効率よく混練することができるからである。
【0096】
シリンダの具体的な内径D及び混練室全体の軸方向の具体的な長さL0については、所望の樹脂組成物を得ることができれば特に限定されない。シリンダの内径Dは、例えば、20mm以上100mm以下であり、混練室全体の長さL0は、例えば、1000mm以上4000mm以下である。
【0097】
シリンダの軸方向における供給口の位置は、樹脂(A)及び粒子の供給量に応じて適宜調整しうる。供給口113の位置としては、例えば、シリンダの内径をDとし、供給口から吐出口までの軸方向の長さをL1としたとき、L1/Dの値が、下記式(2)を満たす位置であることが好ましい。
20≦L1/D<60 (2)
(供給口から吐出口までの軸方向の長さ)/(シリンダの内径)の値(L1/Dの値)は、より好ましくは25以上、さらに好ましくは35以上であり、より好ましくは55以下、さらに好ましくは50以下である。L1/Dの値が上述した範囲内であることにより、樹脂(A)及び粒子を効率良く混練することができるからである。また、供給口は、混練室全体の長さL0としたとき、L0/2となる位置よりも上流側に位置することが好ましい。
【0098】
ここで、供給口から吐出口までの軸方向の長さとは、供給口の上流側の内壁から吐出口までの軸方向の長さを指す。
【0099】
図3に示すように、シリンダ110が供給口113を複数有する場合は、最も上流側の供給口113aの中心から吐出口115までの軸方向の長さを上述したL1とする。また、複数の供給口のうち、最も下流側の供給口113bの位置としては、シリンダの内径をDとし、最も下流側の供給口から吐出口までの軸方向の長さをL2としたとき、L2/Dの値が、上述したL1/Dの値の好ましい範囲内にあることが好ましい。
【0100】
ベント口114は、シリンダ内で発生したガスを外部へ排出できるように設けられた孔である。通常、シリンダ110の壁部111に、この壁部111を貫通するように形成される。シリンダ110に設けられるベント口114の数は複数であってもよいが、1つのみであることが好ましい。ベント口には、通常、減圧装置が接続される。
【0101】
シリンダにおけるベント口の位置は、後述する混練ゾーンよりも吐出口側である。ベント口の位置としては、例えば、シリンダの内径をDとし、ベント口から吐出口までの軸方向の長さをL3としたとき、L3/Dの値が、下記式(3)を満たす位置であることが好ましい。
5<L3/D≦15 (3)
(ベント口から吐出口までの軸方向の長さL3)/(軸方向の内径D)の値は、より好ましくは6以上、より好ましくは13以下、更に好ましくは12以下である。
L3/Dの値が、上記下限値を超えることにより、ベント口から樹脂組成物が吸引されることを抑制し、操業安定性を向上させうる。L3/Dの値が、前記上限値以下であることにより、樹脂組成物に含まれる揮発成分を効率よく排出しうる。シリンダが複数のベント口を有する場合は、各ベント口から吐出口までの軸方向の長さの、シリンダの内径に対する値が、それぞれ独立して上述した下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0102】
ここで、ベント口から吐出口までの軸方向の長さとは、ベント口の上流側の内壁からと吐出口までの軸方向の長さを指す。
【0103】
吐出口115は、混練室112内で得られた熱可塑性樹脂組成物を、シリンダ110の外へ吐出できるように形成された孔である。通常、吐出口115は、シリンダ110の一方の軸方向の端部に形成される。
【0104】
シリンダは、例えば、複数のシリンダブロックが接合された構成を有していてもよい。シリンダが複数のシリンダブロックを有する場合は、個々のブロックの温度条件を調整することにより、後述するシリンダの区間の樹脂(A)の温度を調整しうる。
【0105】
スクリュ120は、スクリュエレメントとして搬送エレメント121と混練エレメント122とを備える。搬送エレメント121としては、例えば、それぞれ、相対的に凹んだ溝部及び相対的に突出したフライト部を有するフルフライト構造のスクリュエレメントを用いうる。混練エレメント122としては、例えば、ニーディングディスクを用いうる。スクリュエレメントは、スクリュの軸123に設けられ、通常、軸方向に延在して設けられている。スクリュ120は、シリンダ110の他方の軸方向の端部(吐出口115とは反対側の端部)に形成された軸受け(図示せず)によって、回転可能に支持されている。また、スクリュ120には、スクリュ120を周方向に回転させる動力を供給するための駆動装置(図示せず)が接続されている。
【0106】
スクリュにおいて、混練エレメントは、シリンダの軸方向において、通常後述する混練ゾーンのみに配置され、搬送エレメントは、シリンダの軸方向において混練ゾーン以外の区間に配置される。
【0107】
二軸押出機における2本のスクリュ120の組み合わせは、完全噛み合い型、不完全噛み合い型、非噛み合い型のいずれであってもよい。中でも、混練性が良好であるので、完全噛み合い型が好ましい。また、複数のスクリュ120の回転方向は、同方向でもよく、異方向でもよい。
【0108】
スクリュ120の回転速度は、樹脂(A)及び粒子を混練できる範囲で、任意に設定しうる。具体的なスクリュ120の回転速度は、好ましくは50rpm以上、より好ましくは60rpm以上、特に好ましくは70rpm以上であり、好ましくは400rpm以下、より好ましくは350rpm以下、特に好ましくは300rpm以下である。スクリュ120の回転速度が前記範囲のある場合、樹脂(A)及び粒子を良好に混練することができるとともに、シリンダ内を所望の速度で樹脂(A)及び粒子を搬送することができる。
【0109】
シリンダ110の外周には、通常シリンダ110の所望の位置を所望の温度に調整できるように、温度調整装置としてのヒーター(図示せず)が設けられている。
【0110】
本実施形態において、押出機のシリンダは、シリンダの供給口、ベント口、及び吐出口、並びに、シリンダ内に配置されるスクリュのスクリュエレメントの種類に応じて、その軸方向にいくつかの区間に分けられる。シリンダは、軸方向において、通常、1以上の混練ゾーンとベントゾーンとを有する。
【0111】
混練ゾーンは、供給口よりも吐出口側に位置し、スクリュの混練エレメントが配置された区間である。混練ゾーンは、シリンダにおいて、1以上設けられており、1か所に設けられていてもよく、2か所以上設けられていてもよいが、1か所のみに設けられていることが好ましい。すなわち、シリンダは1の混練ゾーンのみを有することが好ましい。混練ゾーンが1か所のみに設けられることで、樹脂(A)及び粒子を混練する際の樹脂(A)の温度を調整しやすいからである。
【0112】
シリンダが、複数の混練ゾーンを有する場合、隣接する混練ゾーンの間には、通常、搬送エレメントが配置された混練休止ゾーンが設けられる。混練休止ゾーンにおいては、混練エレメントによる樹脂(A)及び粒子の混練が休止されるが、例えば、搬送エレメントの作用により樹脂(A)及び粒子の混練が進行することはありうる。混練ゾーンの数としては、例えば、1か所以上3か所以下でありうる。
【0113】
混練ゾーン軸方向の長さとしては、樹脂組成物が得られるように樹脂(A)及び粒子を混練しうる程度に適宜調整される。混練ゾーンの軸方向の長さをL4としたとき、上述した給口から吐出口までの軸方向の長さL1に対する、混練ゾーンの軸方向の長さL4の比率(L4/L1)は、好ましくは、0.05以上、好ましくは0.20以下である。
【0114】
混練ゾーンの軸方向の長さは、混練ゾーンの供給口側境界から吐出口側境界までの軸方向の距離を指す。混練ゾーンの供給口側境界は、混練ゾーンに配置された混練エレメントの供給口側の端部の位置を指す。また、混練ゾーンの吐出口側境界は、混練ゾーンに配置された混練エレメントの吐出口側端部の位置を指す。
【0115】
ベントゾーンは、1以上の混練ゾーンと、1以上の混練ゾーンのうち最も吐出口側に位置する最終混練ゾーンの吐出口側境界から吐出口までの区間であって、ベント口が配置された区間である。シリンダにおいて混練ゾーンが1か所のみに設けられている場合は、その混練ゾーンの吐出口側の境界から吐出口までの区間がベントゾーンである。ベントゾーンの軸方向の長さをL5としたとき、上述した給口から吐出口までの軸方向の長さL1に対する、ベントゾーンの長さL5の比率(L5/L1)は、好ましくは、0.2以上、好ましくは0.5以下である。
【0116】
シリンダは、シリンダの供給口から、1以上の混練ゾーンのうち、最も供給口側に位置する第一混練ゾーンの供給口側境界までの区間である、搬送ゾーンを有することが好ましい。搬送ゾーンは、供給口から供給された樹脂(A)及び粒子を混練ゾーンまで搬送する区間である。
【0117】
シリンダの供給口から第一混練ゾーンの供給口側境界までの区間とは、供給口の上流側の内壁から第一混練ゾーンの供給口側境界までの区間を指す。
【0118】
搬送ゾーンの距離は、樹脂(A)及び粒子の搬送過程において、粒子を乾燥しうる程度の距離を有することが好ましい。混練中の樹脂(A)の発泡を抑制しうるからである。樹脂(A)の発泡を抑制しうる理由としては、本発明の限定するものではないが、粒子の残留溶媒や、粒子により持ち込まれた空気中の水分の量を少なくしうるためと推測される。
【0119】
具体的には、樹脂供給口113bの中心から混練ゾーンZkの供給口側境界までの長さをL6としたとき、上述した供給口から吐出口までの軸方向の長さL1に対するL6の比率(L6/L1)は、好ましくは0.4以上好ましくは0.7以下である。シリンダが1つの供給口のみを備える場合は、1つの供給口から混練ゾーンの供給口側境界までの長さをL6とみなすものとする。
【0120】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法においては、上述した押出機を用いることにより、シリンダの軸方向の各区間(搬送ゾーン、混練ゾーン及びベントゾーン)で行われる工程(1a)~(1c)の樹脂(A)の温度を調整することができ、樹脂(A)及び粒子に対し高温が加わる時間を少なくすることができるため、樹脂(A)及び粒子の分解物の発生を抑制しうる。
【0121】
シリンダの各ゾーンにおける樹脂(A)の温度及び平均温度は、例えば、株式会社日本製鋼所の押出成形シミュレーションソフトウェア「TEX-FAN」を用い、押出機の構成及び運転条件、並びに樹脂(A)の物性に基づいて算出しうる。シリンダの各ゾーンにおける樹脂(A)の温度の直接的な計測が可能である場合は、直接計測して求めてもよい。
【0122】
上述したように、本実施形態に係る各ゾーンの樹脂(A)の温度及び平均温度は、押出機の構成及び運転条件、並びに樹脂(A)の物性に基づくシミュレーションに基づき算出しうることから、各ゾーンの樹脂(A)の温度及び平均温度は、通常、樹脂組成物に用いられる樹脂(A)の物性に合わせて、押出機の構成及び運転条件を適宜設定することにより調整しうる。
【0123】
〔4.2.樹脂組成物の各製造工程〕
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、上述した押出機を用いた製造方法であって、供給口から、樹脂(A)及び粒子を供給する工程(1a)と、混練ゾーンにおいて、樹脂(A)及び粒子を混練する工程(1b)と、ベントゾーンにおいて、混練室内のガスを外部へ排出する工程(1c)とをこの順に含む。
【0124】
工程(1a)は、供給口から、樹脂(A)及び粒子を供給する工程である。供給された樹脂(A)及び粒子は搬送ゾーンを通り、混練ゾーンへ供給される。
【0125】
搬送ゾーンにおける樹脂(A)の平均温度は、好ましくはTg以下、より好ましくはTg-10℃以下、好ましくはTg-30℃以上、より好ましくはTg-25℃以上である。搬送ゾーンにおける樹脂(A)の平均温度が上記上限値以下であることにより、混練前に樹脂(A)及び粒子へ加わる熱的な負荷を小さくすることができる。また、搬送ゾーンにおける樹脂(A)の平均温度が上記下限値以上とすることにより、樹脂(A)及び粒子に含まれる水分及び揮発成分を乾燥しやすくしうる。搬送ゾーンにおいては、通常、供給口側から混練ゾーン側に向かって樹脂(A)の温度が高くなるように、樹脂(A)の温度が調整される。Tgは、樹脂(A)のガラス転移温度を表す。
【0126】
工程(1b)は、樹脂(A)及び粒子を混練する工程である。工程(1b)は、通常、シリンダの混練ゾーンで行われる。
【0127】
混練ゾーンにおける樹脂(A)の平均温度は、樹脂(A)中に粒子を混練して樹脂組成物を得ることができれば特に限定されないが、好ましくはTg+80℃以上、より好ましくはTg+90℃以上、更に好ましくはTg+100℃以上であり、好ましくはTg+140℃以下、より好ましくはTg+130℃以下、更に好ましくはTg+120℃以下である。ここで、Tgは、樹脂(A)のガラス転移温度を表す。
【0128】
工程(1b)において、樹脂(A)の温度がTg(℃)よりも高い温度を保有している時間が、好ましくは100秒以下、より好ましくは80秒以下、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上である。混練ゾーンにおいては、上述したように、通常樹脂(A)の温度をTgよりも高くすることが好ましいことから、通常混練ゾーンにおける樹脂及び粒子の滞留時間が上述した時間内となるように調整される。
【0129】
シリンダが複数の混練ゾーンを有する場合は、各混練ゾーンにおける樹脂(A)の平均温度が上述した範囲となり、樹脂(A)の温度がTgより高い温度を保有している時間が上述の範囲となるように調整しうる。
【0130】
シリンダが複数の混練ゾーンを有する場合、複数の混練ゾーンのうち、最も供給口側に位置する混練ゾーンを第一混練ゾーンとし、最も吐出口側に位置する混練ゾーンを最終混練ゾーンとする。複数の混練ゾーンのうち、各混練ゾーンの樹脂(A)の温度は同じであってもよく、異なっていてもよいが、最終混練ゾーンにおける樹脂(A)の温度が、他の混練ゾーンの樹脂(A)の温度よりも高くなるように、各混練ゾーンの樹脂の温度を調整することが好ましい。樹脂及び粒子の熱履歴による劣化を低減しうるからである。
また、この場合、シリンダの供給口から最終混練ゾーンの供給口側境界までの区間における樹脂(A)の平均温度は、好ましくはTg以下、より好ましくはTg-10℃以下、好ましくはTg-30℃以上、より好ましくはTg-25℃以上である。
【0131】
シリンダの供給口から最終混練ゾーンの供給口側境界までの区間とは、供給口の上流側の内壁から最終混練ゾーンの供給口側境界までの区間を指す。
【0132】
工程(1c)は、混練室内のガスを外部へ排出する工程である。工程(1c)は、シリンダにおけるベントゾーンにて行われる。ガスとしては、例えば、水蒸気、揮発成分が挙げられる。
【0133】
ベントゾーンにおける樹脂(A)の平均温度は、好ましくは、Tg+120℃以下であり、より好ましくはTg+110℃以下であり、好ましくはTg+60℃以上、より好ましくはTg+70℃以上、さらに好ましくはTg+80℃以上である。ベントゾーンにおける樹脂の平均温度が上記範囲にあることにより、樹脂組成物に含まれる揮発成分を効率よく排出しうるとともに、樹脂組成物の分解を抑制しうるからである。Tgは、樹脂(A)のガラス転移温度を表す。
【0134】
工程(1c)においては、通常ベント口から真空ポンプ等の減圧装置によりシリンダ内を減圧することにより、シリンダ内のガスを外部へと排出する。ベントゾーンにおける吸引圧力(絶対圧)は、好ましくは100kPa以下、より好ましくは40kPa以下、更に好ましくは30kPa以下、更に好ましくは25kPa以下、更に好ましくは20kPa以下であり、好ましくは1kPaを超え、より好ましくは5kPa以上である。吸引圧力が、1kPa超であることにより、ベント口から樹脂(A)が吸引されることを抑制して操業安定性を向上させうる。吸引圧力が前記上限値以下であることにより、樹脂組成物に含まれる揮発成分を効率よく排出しうる。
【0135】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、上述した工程(1a)~(1c)を少なくとも含んでいればよく、必要に応じて任意の工程を適宜選択して追加することができる。任意の工程としては、例えば、吐出口から樹脂組成物を吐出する工程(1d)を挙げることができる。
【0136】
工程(1d)は、吐出口から樹脂組成物を吐出する工程である。吐出口115から外気中へと熱可塑性樹脂組成物が吐出された場合、その熱可塑性樹脂組成物は外気によって冷却され、硬化する。よって、熱可塑性樹脂組成物は、通常、固体状のストランドとして得られる。
【0137】
また、任意の工程としては、例えば、上述した工程(1d)で得られた樹脂組成物の取り扱い性を高めるため、ストランド状の樹脂組成物を切断してペレット状に加工する工程を含んでいてもよい。
【0138】
〔5.フィルムの製造方法〕
前記のフィルムは、任意の方法により製造しうるが、例えば、上述の樹脂組成物の製造方法により、樹脂組成物を製造する工程(1)と、樹脂組成物を加熱して溶融物を得る工程(2)と、溶融物を層状に押し出す工程(3)とをこの順に含む製造方法であることが好ましい。以下、樹脂組成物の溶融物を溶融物(A)ともいう。
【0139】
上述したように、本発明に係るフィルムとしては、単層フィルムであってもよいが、樹脂層(a)及び樹脂層(b)を含む積層フィルムであることが好ましいことから、フィルムの製造方法についても、上記層構成を有する積層フィルムの製造方法であることが好ましい。以下、樹脂層(a)及び樹脂層(b)を含む積層フィルムの製造方法を例に挙げて説明する。
【0140】
積層フィルムの製造方法においては、上述した工程(1)~(3)に加えて、通常工程(3)の前に樹脂(B)を加熱して溶融物(B)を得る工程(4)をさらに含み、工程(3)では、溶融物(A)と溶融物(B)を層状に押し出すことを含む。
【0141】
工程(1)における樹脂組成物の製造は、上述した樹脂組成物の製造方法により行いうる。
【0142】
工程(2)における樹脂組成物の加熱は、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機により行いうる。工程(2)においては、工程(1)において、押出機の吐出口から樹脂組成物を吐出してストランド状またはペレット状の樹脂組成物を得た後、得られた樹脂組成物を別の押出機に供給した後、加熱して溶融物(A)を得てもよく、工程(1)において押出機から樹脂組成物を吐出せずに、同一の押出機を用いて樹脂組成物を加熱して溶融物(A)を得てもよい。
【0143】
工程(2)における加熱温度は、樹脂組成物の樹脂である樹脂(A)のガラス転移温度Tg、粒子のガラス転移温度によって適宜設定しうる。工程(2)においては、樹脂組成物に含まれる樹脂(A)の温度が上述したベントゾーンにおける樹脂の平均温度を有するように、加熱温度を調整することが好ましい。溶融物(A)の流動性を良好なものとしうる。また、溶融物(A)の分解を抑制しうる。
【0144】
工程(4)は、工程(3)の前に行われ、樹脂(B)を加熱して溶融物(B)を得る工程である。樹脂(B)の加熱は、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機により行いうる。樹脂(B)が、重合体に加えて紫外線吸収剤などの任意成分を含む場合、二軸押出機に重合体と任意成分とを供給して混練しながら加熱を行って、任意成分を含む樹脂(B)を溶融してもよい。工程(4)により、溶融物(B)が得られる。
【0145】
工程(4)における加熱温度は、樹脂(B)に含まれる重合体のガラス転移温度Tg、樹脂(B)に含まれうる紫外線吸収剤などの任意成分の重量割合によって、適宜設定しうる。樹脂(B)に含まれる重合体と樹脂(A)に含まれる重合体とが同一である場合、工程(2)における加熱温度と同様に、加熱温度を調整することが好ましい。溶融物(B)の流動性を良好なものとしうる。また、溶融物(B)の分解を抑制しうる。
【0146】
工程(3)は、溶融物(A)と溶融物(B)とを層状に押し出す工程である。溶融物(A)と溶融物(B)を層状に押し出すことは、共押出による成型方法により行いうる。共押出による成型方法の例としては共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、及び共押出ラミネーション法が挙げられ、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法の例としては、フィードブロック方式及びマルチマニホールド方式が挙げられ、設備の構成を単純としうる点から、フィードブロック方式が好ましい。
【0147】
工程(3)において層状に押し出された溶融物(A)と溶融物(B)とは、通常冷却される。冷却手段の例としては、冷却ロールが挙げられる。冷却手段として、冷却ロールを用いる場合、層状に押し出された溶融物(A)と溶融物(B)とを冷却ロール上にキャストして搬送することにより、層状に押し出された溶融物(A)と溶融物(B)とが冷却されて固化し、樹脂層(a)及び樹脂層(b)が積層された積層フィルムが製造される。
【0148】
冷却ロールの温度は、好ましくはTg-10℃以下、より好ましくはTg-20℃以下、更に好ましくはTg-30℃以下であり、好ましくはTg-80℃以上である。ここで、Tgは、樹脂(A)のガラス転移温度を表す。
【0149】
積層フィルムの製造方法は、工程(3)において押し出された積層フィルムを、任意の方法により延伸する工程を含んでもよい。
例えば、積層フィルムは、工程(3)の後、縦一軸延伸、横一軸延伸、縦横同時二軸延伸、逐次二軸延伸、斜め延伸などの、任意の延伸工程を経たフィルムであってもよい。したがって、積層フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであっても、延伸された延伸フィルムであってもよい。積層フィルムは、未延伸フィルムであることが好ましい。未延伸フィルムは、画像表示装置の偏光を乱しにくいこと、フィルム製造時に粒子の脱落が起こりにくいこと、及び、積層フィルムの表層付近で凝集破壊が起きにくく、積層フィルムと他部材との接着強度が確保できること、の三つの観点から好ましい。
【0150】
上述した工程(1)~(4)においては、2層の積層フィルムを製造する製造方法を例に挙げて説明したが、これに限定されず、3層以上の積層フィルムについても適用しうる。また、例えば単層のフィルムについては工程(1)及び(2)と同様の条件により、樹脂組成物の溶融物(A)を製造し、公知の押出法を用いることにより製造しうる。
【実施例0151】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0152】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温(20℃±15℃)及び常圧(1atm)の条件において行った。
【0153】
〔評価方法〕
〔樹脂のガラス転移温度の測定方法〕
JIS K7121に基づき、示差走査熱量分析法により測定した。測定条件は、室温から200℃まで20℃/minで昇温し、次いで40℃まで20℃/minで冷却した樹脂について、40℃から200℃まで10℃/minで昇温する条件で行った。
【0154】
〔粒子の平均一次粒子径〕
粒子濃度が2重量%の水スラリーを作製し、動的光散乱法による粒度分布測定装置「多検体ナノ粒子径測定システム nanoSAQLA」(大塚電子製)を用いて測定した。平均一次粒子径は動的光散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0155】
〔樹脂及び粒子の屈折率〕
樹脂又は粒子の屈折率は、ベッケ法(JIS K7142)にて測定した。樹脂ペレット又は粒子を、屈折率既知の液体に浸して樹脂ペレット又は粒子の輪郭を確認することで屈折率を測定した。顕微鏡の光源として、単色光である波長589nmのナトリウムD線を用いた。
【0156】
〔粒子の加熱重量減少率の測定方法〕
100℃、ゲージ圧-100kPa以下の条件下で6時間乾燥した粒子を10gはかりとり、重量(W1)を測定した後、示差熱熱重量同時測定を行った。測定は、示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、STA7000)を使用し、窒素気流下、30℃/分の昇温条件で40℃から樹脂のTg+120℃まで昇温し、樹脂のTg+120℃で60分間保持した。40℃から樹脂のTg+120℃に到達した時点までに減少した重量(W2)、樹脂のTg+120℃の保持時間(0分から60分経過した時点)までに減少した重量(W3)を求め、下記式から重量変化率を算出した。
重量変化率(%)=-(W2+W3)/W1×100
上記式により求められる重量変化率がマイナスの値である場合、重量が減少した変化率を示していることから、その絶対値は、重量減少率(%)として捉えうる。
【0157】
〔フィルムのヘイズの測定方法〕
フィルムを50mm×50mmの矩形に切り出し、JIS K7361-1997に準拠して、日本電色工業社製の濁度計「NDH2000」を用いて測定した。
【0158】
〔フィルムの内部ヘイズの測定方法〕
高さ55mm、横40mm、幅14mmの石英セル内に、臭化亜鉛を純水で希釈した臭化亜鉛水溶液(屈折率1.53)を入れた。石英セルをヘイズメーター(日本電色社製「NDH2000」)に設置し、ヘイズを測定し、ゼロ補正を行った。次いで、各例で得られたフィルムを長方形状に切り出し、切り出されたフィルム片を前記石英セル中に挿入した。フィルム片を挿入した石英セルをヘイズメーター(日本電色社製「NDH2000」)に設置し、フィルムの内部ヘイズを測定した。
【0159】
〔フィルムの静摩擦係数〕
摩擦試験機(東洋精機製作所製「TR-2」)を用い、JIS K7125に準拠して、各例で得られたフィルムの静摩擦係数を測定した。測定は、試験片の大きさが140mm×65mm、荷重が1kgf、速度が500mm/minの条件で行った。静摩擦係数が小さいほどフィルムの滑り性が大きい。
【0160】
〔ロール汚れ〕
Tダイから出てきた樹脂組成物の溶融物が最初に触れる冷却ロールの汚れを目視で観察した。観察はフィルム製膜を連続して24時間継続した後に実施した。ロール汚れは、下記の指標により評価した。
A:目視により冷却ロールの汚れが観察されなかった。
B:目視により冷却ロールの汚れが観察された。
【0161】
〔フィルタ差圧の上昇〕
ギアポンプ及びフィルタを備えた単軸押出機に樹脂組成物を投入し、溶融させ、ギアポンプ及びフィルタをこの順で通過させた。樹脂組成物をフィルム製膜条件にて500kg流し込みフィルタの差圧(フィルタ入口圧力-フィルタ出口圧力)の変化量を確認した。
A:差圧増加量が0.5MPa未満
B:差圧増加量が0.5MPa以上
【0162】
〔二軸押出機内の樹脂の温度及び滞留時間〕
株式会社日本製鋼所の押出成形シミュレーションソフトウェア「TEX-FAN」を用い、二軸押出機内の樹脂の温度及び滞留時間を計算した。上述のソフトウェアは、押出機の装置構成及び運転条件、ならびに樹脂組成物の物性を情報として入力することで、二軸押出機内の樹脂温度及び滞留時間が計算される。ただし、樹脂組成物の温度に対する粒子の影響は十分に小さいと仮定して、樹脂組成物の物性については樹脂の物性のみを用いて計算した。
【0163】
(押出機の装置構成)
<二軸押出機1>
樹脂組成物の製造に用いる二軸押出機として下記構成のものを用いた。
2台の重量フィーダーを備えた二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX44αIII」:シリンダ内径:47mm)を用意した。この二軸押出機は、2つの供給口(樹脂供給口及び粒子供給口)、1つのベント口、及び1つの吐出口を備えるシリンダと、フルフライトスクリュにニーディングディスクが配置されたスクリュとを備え、搬送ゾーン、1つの混練ゾーン及びベントゾーンを有していた。シリンダは供給口から吐出口までに複数のシリンダブロックC1~C13の13個のブロックを有しており、樹脂供給口をC1、粒子供給口をC2、混練ゾーンをC10、ベント口をC11に備えていた。個々のシリンダブロックの内径及び軸方向の長さは同一であった。シリンダの内径Dに対する、シリンダブロックC1~C13までの軸方向の長さLの比率(L/D)は、45.5であった。
【0164】
<二軸押出機2>
混練ゾーンを2か所に設け、シリンダとして、供給口から吐出口までに複数のシリンダブロックC1~C15の15個のブロックを有し、樹脂供給口をC1、粒子供給口をC2、混練ゾーンをC5及びC9、ベント口をC13に備えた点以外は二軸押出機1と同様の構成のものを用いた。シリンダの内径Dに対する、シリンダブロックC1~C15までの軸方向の長さLの比率(L/D)は、52.5であった。
【0165】
(押出機の運転条件)
押出機の運転条件については、押出量、スクリュ回転速度、スクリュ先端圧力、原料樹脂温度、シリンダ温度の条件値を入力した。原料樹脂温度は、シリンダ内に供給される樹脂の温度であり、樹脂供給口にて計測される温度(実測値)である。
【0166】
(樹脂の物性)
樹脂の物性については、日本ゼオン製「ゼオノア1600」のデータを入力した。
【0167】
〔実施例1〕
(樹脂組成物の製造方法)
ノルボルネン系樹脂(樹脂(A))として日本ゼオン社製「ゼオノア1600」(ガラス転移温度163℃、屈折率1.53)を95重量部と、有機粒子A(積水化成品工業社製ポリマービーズ「テクポリマー」(数平均粒子径380nm、屈折率1.53)の耐熱改善品)を5重量部とを用意した。
【0168】
押出機として、上述の二軸押出機1を用いた。
二軸押出機1の2台の重量フィーダーに、樹脂(A)及び有機粒子Aをそれぞれ投入した。樹脂組成物中の有機粒子Aの含有量が5重量%となる比率で各重量フィーダーから樹脂(A)及び有機粒子Aが二軸シリンダの混練室に投入された後、樹脂(A)及び有機粒子Aはフルフライトスクリュで混練ゾーンへと送られた。ニーディングディスクを配置した混練ゾーンにて樹脂(A)を可塑化させ、可塑化した樹脂(A)中に有機粒子Aを分散させた。ついで、混練ゾーンからダイまでの区間(ベントゾーン)にベント口を設け、真空ポンプにて脱気する工程を経て、ダイへ送られた。ダイからストランド状に押し出され、水槽にて冷却され、ペレタイザーにてペレット状に裁断し、樹脂組成物を得た。この際、上述のシミュレーションから算出された、供給口から混練ゾーンまでの平均樹脂温度は100℃、混練ゾーンにおける樹脂の滞留時間(Tg以上の樹脂温度を保持する時間)は60秒間、ベントゾーンの平均樹脂温度は260℃であった。
【0169】
(フィルムの製造方法)
樹脂(B)として、日本ゼオン社製「ゼオノア1600」(ガラス転移温度163℃、屈折率1.53)を用意した。
【0170】
ギアポンプ及びフィルタを備えた単軸押出機を2台用意した。
2台の単軸押出機に、樹脂(B)及び上述の樹脂組成物をそれぞれ投入し、樹脂(B)及び上述の樹脂組成物を溶融させ、ギアポンプ及びフィルタをこの順で通過させた。
次いで、溶融した樹脂(B)及び樹脂組成物を、2種3層用フィードブロックで合流させ、Tダイより共押し出しした。押出温度は280℃とした。層状に押し出された溶融物を冷却ロールを通過させて、樹脂層(a)、樹脂層(b)及び樹脂層(a)がこの順で積層された層構成を有する長尺のフィルムを得た。各樹脂層(a)の厚みは2μmであり、樹脂層(b)の厚みは26μmであった。
【0171】
〔実施例2~3及び比較例1~3〕
樹脂組成物に用いる粒子の種類及び含有量、及びシミュレーションにより得られる押出機の温度条件を表1及び表2に条件としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び積層フィルムを製造し、上記の評価方法により評価を行った。
【0172】
〔比較例4〕
二軸押出機2を使用したこと、並びに、樹脂組成物に用いる粒子の種類及び含有量、及びシミュレーションにより得られるシリンダ内の温度条件を表1及び表2に条件としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び積層フィルムを製造し、上記の評価方法により評価を行った。
【0173】
結果を表1及び表2に示す。表1及び2の略語は以下の内容を示している。
【0174】
「ZNR1600」:日本ゼオン製「ゼオノア1600」
「Tg(℃)」:「ZNR1600」のガラス転移温度
有機粒子A:積水化成品工業社製ポリマービーズ「テクポリマー」(数平均粒子径380nm、屈折率1.53)の耐熱改善品
有機粒子B:積水化成品工業社製ポリマービーズ「テクポリマー」(数平均粒子径380nm、屈折率1.53)
無機粒子C:トクヤマ製微小球状シリカ「サンシール」(数平均粒子径300nm)
有機粒子D:日本ペイント・インダストリアルコーティングス製(スチレン)アクリル微粒子「ファインスフェア MG-351」
無機粒子E:アドマテックス製真球状酸化物微粒子「アドマファインSC101G」
有機粒子F:日本触媒製ポリメタクリル酸メチル系ナノ架橋粒子「エポスターMX」
平均一次粒子径(nm):粒子の数平均粒子径(nm)
含有量(wt%):樹脂組成物中の粒子の含有量(重量割合)
加熱重量減少率(%):粒子を樹脂のТg+120℃、60分間加熱したときの粒子の重量減少率(%)
最後の混練ゾーンまでの平均樹脂温度:シリンダにおいて最も上流側の供給口から最終混練ゾーンの供給口側境界までの区間における樹脂の平均温度。二軸押出機1においては、最も上流側の供給口から混練ゾーンの供給口側境界までの区間における樹脂の平均温度であり、二軸押出機2においては、最も上流側の供給口から吐出口側に設けられた2つ目の混練ゾーンの供給口側境界までの区間における樹脂の平均温度である。
Tg以上の樹脂温度の保持時間:混練ゾーンにおけるTg以上の樹脂温度の保持時間
【0175】
【表1】
【0176】
【表2】
【0177】
実施例1~3に示すように、樹脂に所定の物性を備える粒子を所定量含ませることで、ヘイズ及び内部ヘイズが小さいフィルムを得ることができ、製造装置の汚染を低減可能な樹脂組成物が得られることが確認された。また、フィルムの静摩擦係数を小さくすることができ良好な滑り性を発現できることが確認された。一方、比較例1においては、一次粒径の大きな粒子を用いたことにより、フィルタ差圧の上昇が確認された。またヘイズを十分に低くすることが困難であった。さらに、実施例1~3に比べ、フィルムの静摩擦係数が大きくなり、フィルムの滑り性が低下することが確認された。また、比較例2においては、粒子の含有量を15重量%と多くしたことにより、ロール汚れが生じることが確認された。またヘイズを十分に低くすることが困難であった。また、比較例3においては、樹脂の屈折率と粒子の屈折率との差が0.01を超えることから、フィルムのヘイズ及び内部ヘイズを十分低くすることが困難であった。比較例4においては、粒子の加熱による重量減少率が5重量%を超えることにより、ロール汚れ及びフィルタ差圧の上昇が確認された。また、押出機の温度条件においてもベントゾーンの樹脂の平均温度をTg+120℃を超える温度とすることにより、ロール汚れ及びフィルタ差圧の上昇が確認された。さらに、実施例1~3に比べ、フィルムの静摩擦係数が大きくなり、フィルムの滑り性が低減することが確認された。
【符号の説明】
【0178】
10 積層フィルム
11 樹脂層(a)
11U 面
12 樹脂層(b)
12U 面
20 積層フィルム
21 樹脂層(b)
21U 面
21D 面
22 樹脂層(a)
22U 面
23 樹脂層(a)
23D 面
100 押出機
110 シリンダ
111 壁部
112 混練室
113 供給口
114 ベント口
115 吐出口
120 スクリュー
121 搬送エレメント
122 混練エレメント
Zk 混練ゾーン
Zv ベントゾーン
図1
図2
図3