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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111945
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20230803BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20230803BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H01L33/32
H01S5/343 610
H01S5/323 610
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090625
(22)【出願日】2023-06-01
(62)【分割の表示】P 2019031415の分割
【原出願日】2019-02-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [公開の事実1] 1.発行日:2018年9月5日 2.刊行物:2018年 第79回 応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集 3.公開者:江端 一晃、谷保 芳孝、熊倉 一英 [公開の事実2] 1.頒布日:2018年11月11日 2.刊行物:International Workshop on Nitride Semiconductors 2018 講演予稿集 3.公開者:江端 一晃、谷保 芳孝、熊倉 一英
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】江端 一晃
(72)【発明者】
【氏名】谷保 芳孝
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 一英
(57)【要約】
【課題】窒化物半導体からなる正孔濃度が高く低抵抗なp型半導体層を提供する。
【解決手段】p型半導体層102は、複数の単位半導体層121から構成され、複数の単位半導体層121の各々は、主表面を極性面または半極性面とされたp型の窒化物半導体から構成されている。単位半導体層121を構成する窒化物半導体は、窒素と2つ以上の元素から構成され、複数の単位半導体層121の各々は、例えばc軸方向の格子定数が+c軸方向に大きくなるように積層方向に組成が変化している。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成されたp型半導体層を備え、
前記p型半導体層は、複数の単位半導体層から構成され、
前記複数の単位半導体層の各々は、主表面を極性面とされたp型の窒化物半導体から構成され、
前記窒化物半導体は、窒素と2つ以上の元素から構成され、
前記複数の単位半導体層の各々は、積層方向に組成が連続的に変化し、
前記複数の単位半導体層の各々は、Alの組成xを0,7以上としたAlxGa1-xNから構成され、+c軸方向となる積層方向に対してAlの組成xが減少している
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置において、
前記複数の単位半導体層の各々は、不純物が導入されてp型とされていることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体装置において、
前記基板の上に、発光層およびn型の半導体層をさらに備えることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体から構成された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN、GaN、InNおよびそれらの混晶に代表される窒化物半導体は、バンドギャップエネルギーが大きく、かつ直接遷移型の半導体材料であるという特徴を有している。このため、窒化物半導体は、紫外線から赤色までの広い発光波長範囲をカバーできる発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)などの半導体発光素デバイスを構成する材料として注目されている。
【0003】
近年、窒化物半導体を用いた発光デバイスにおいて、発光波長を短波長化することにより、殺菌・浄水、各種医療分野、公害物質の高速分解処理などの非常に幅広い分野での応用が期待されている。例えば、深紫外領域(波長:200nm~350nm)で発光する半導体発光素子の研究開発が各研究機関で精力的に行われている。この種の発光デバイスでは、発光層への電流注入のために、p型の層とn型の層とが用いられる。しかし、p型の窒化物半導体は、アクセプタ凖位が深いことから、室温において高い正孔濃度を有する低抵抗なp型半導体層を作製することが困難である(非特許文献1,2)。このため、p型の窒化物半導体の低抵抗化、とりわけ、大きなバンドギャップを有するAlGaN系における低抵抗p型層の実現は、紫外発光素子の発展に大きく寄与する。
【0004】
p型窒化物半導体の低抵抗化のためにp型で高い正孔濃度を実現する技術としては、アクセプタ不純物をドーピングしたAlxGa1-xN/AlyGa1-yN(x≠y)超格子構造が挙げられる(特許文献1)。この技術では、超格子内に発生する分極電界を利用し、高濃度の正孔を得ている。しかしながら、上述した超格子構造では、AlGaNバリア層がp型層から活性層への正孔注入を阻害し、発光デバイスの発光効率が低下するなどの課題があった。他の高い正孔濃度を実現する技術として、Al組成を傾斜させたAlGaNによるp型層が提案されている(非特許文献3)。この技術ではp型AlGaNからなるp型層の正孔濃度はp型層の層厚に反比例するため、p型層の層厚増加とともに正孔濃度が低下する課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3631157公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H, Amano et al., "Growth and conductivity control of high quality AlGaN and its application to high-performance ultraviolet laser diodes", Proc. SPIE, Vol. 7216, 72161B, 2009.
【非特許文献2】H X Jiang and J Y Lin, "Hexagonal boron nitride for deep ultraviolet photonic devices", Semiconductor Science and Technology, vol. 29, 084003, 2014.
【非特許文献3】J. Simon et al., "Polarization-Induced Hole Doping in Wide.Band-Gap Uniaxial Semiconductor Heterostructures", Science, vol. 327, 5961, pp. 60-64, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、AlGaNなどの窒化物半導体からなるp型層を発光デバイスに適用すると、正孔注入効率が低いため、発光効率の低下を招くという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、窒化物半導体からなる正孔濃度が高く低抵抗なp型半導体層の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半導体装置は、基板の上に形成されたp型半導体層を備え、p型半導体層は、複数の単位半導体層から構成され、複数の単位半導体層の各々は、主表面を極性面または半極性面とされたp型の窒化物半導体から構成され、窒化物半導体は、窒素と2つ以上の元素から構成され、複数の単位半導体層の各々は、積層方向に組成が変化している。
【0010】
上記半導体装置の一構成例において、複数の単位半導体層の各々は、c軸方向の格子定数が+c軸方向に大きくなるように変化している。
【0011】
上記半導体装置の一構成例において、複数の単位半導体層の各々は、組成が連続的に変化している。
【0012】
上記半導体装置の一構成例において、複数の単位半導体層の各々は、不純物が導入されてp型とされている。
【0013】
上記半導体装置の一構成例において、単位半導体層は、AlGaNから構成され、AlとGaとの組成比が積層方向に変化している。
【0014】
上記半導体装置の一構成例において、基板の上に、発光層およびn型の半導体層をさらに備える。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したことにより、本発明によれば、窒化物半導体からなる正孔濃度が高く低抵抗なp型半導体層が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の一部構成を示す断面図である。
図2図2は、本発明のp型半導体層における正孔濃度の向上について説明する説明図である。
図3図3は、実施例1におけるp型半導体層102の、HAADF-STEM像(a),Al組成のEDSマッピング像(b)、Ga組成のEDSマッピング像(c)を示す特性図である。
図4図4は、実施例2における各試料のホール濃度の測定結果を示す特性図である。
図5図5は、本発明のp型半導体層を用いた深紫外LEDの構成を示す斜視図である。
図6図6は、実施例3における各LED試料の発光スペクトルの測定結果を示す特性図である。
図7図7は、実施例3の深紫外LEDの発光強度の、単位半導体層の層厚依存性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体装置について図1を参照して説明する。この半導体装置は、基板101の上に形成されたp型半導体層102を備える。p型半導体層102は、複数の単位半導体層121から構成され、複数の単位半導体層121の各々は、主表面を極性面または半極性面とされたp型の窒化物半導体から構成されている。基板101は、例えば、SiCから構成されている。例えば、窒化物半導体をc軸方向に結晶成長することで、主表面を極性面とした複数の単位半導体層121によるp型半導体層102が形成できる。
【0018】
単位半導体層121を構成する窒化物半導体は、窒素と2つ以上の元素から構成され、複数の単位半導体層121の各々は、積層方向に組成が変化している。例えば、複数の単位半導体層121の各々は、c軸方向への結晶成長により形成されている場合、c軸方向の格子定数が+c軸方向に大きくなるように変化している。なお、複数の単位半導体層121の各々は、格子が緩和しない範囲の厚さである場合、基板101の平面に平行な格子定数は、ほぼ一致している。
【0019】
単位半導体層121は、例えば、AlGaNから構成され、AlとGaとの組成比が積層方向に変化している。また、例えば、複数の単位半導体層121の各々は、組成が積層方向に連続的(例えば線形)に変化している。複数の単位半導体層121の各々は、組成が積層方向に階段状に変化する構成とすることもできる。また、複数の単位半導体層121の各々は、不純物が導入されてp型とされている。なお、このように、各々の組成が厚さ方向に変化している複数の単位半導体層121の積層構造を、超格子構造と呼ぶ場合もある。
【0020】
実施の形態の半導体装置は、p型半導体層102に加え、例えば、基板101の上に、発光層およびn型の半導体層をさらに備える発光デバイスである。例えば、p型半導体層102と、n型の半導体層とで発光層を挟む構成とすることで、発光ダイオード(LED)が構成できる。また、p型半導体層102と、n型の半導体層とで発光層を挟む構成に、共振器を組み合わせることで、半導体レーザとすることができる。
【0021】
実施の形態によれば、p型半導体層102における正孔濃度をより高くすることができる。この点について、以下に説明する。以下では、p型半導体層102を、主表面の面方位を(0001)面とした基板の上に結晶成長したAlGaNから構成した場合を例に、正孔濃度の向上について図2を参照して説明する。
【0022】
図2の(a)は、紙面左から右にかけて(+c軸方向に)Alの組成を減少させるように変化させたAlGaNから構成した1つの組成傾斜層によるp型半導体層を示している。また、図2の(b)は、図2の(a)に示すp型半導体層の層厚方向における分極電荷の変化を示している。また、図2の(c)は、図2の(a)に示すp型半導体層の層全体の分極電荷の状態を示している。
【0023】
図2の(d)は、複数の組成傾斜層によるp型半導体層を示している。各組成傾斜層は、紙面左から右にかけて(+c軸方向に)Alの組成を減少させるように変化させたAlGaNから構成している。また、各組成傾斜層のAl組成の変化量は、図2の(a)に示すp型半導体層におけるAl組成の変化量と同一としている。また、図2の(e)は、図2の(d)に示すp型半導体層の層厚方向における分極電荷の変化を示している。また、図2の(f)は、図2の(d)に示すp型半導体層の層全体の分極電荷の状態を示している。
【0024】
c軸方向にAlとGaの組成比を変化させているAlxGa1-xNの組成傾斜層では、c軸方向に隣り合う単位部分(Unit)の間の各々において、正負の分極電荷が発生する。単位部分は、c軸方向にある一定の組成比の部分である。図2の(a)に示すp型半導体層と、図2の(d)に示すp型半導体層の各組成傾斜層とは、Al組成の変化量が同一である。
【0025】
図2の(b)および図2の(e)に示すように、隣り合うi番目の単位部分とi+1番目の単位部分との界面の実効的な分極電荷は「[(Psp i+Ppe i)-(Psp i+1+Ppe i+1)]/q<0」の式で表すことができる。なお、Pspは自発分極、Ppeはピエゾ分極、qは電気素量を示している。i番目の単位部分とi+1番目の単位部分との界面において実効的な分極電荷は負となる。
【0026】
以上のことより、図2の(a)に示すp型半導体層には、図2の(c)に示すように負の分極電荷が発生する。一方、図2の(d)に示す複数の組成傾斜層によるp型半導体層には、各組成傾斜層に、図2の(a)に示すp型半導体層と同じ負の分極電荷が発生する。このため、図2の(d)に示す複数の組成傾斜層によるp型半導体層は、図2の(a)に示すp型半導体層と比べて負の分極電荷を増加させることができる。
【0027】
このように、主表面を極性面または半極性面とされたp型の窒化物半導体による複数の単位半導体層121からp型半導体層102を構成することは、負の分極電荷を増加させる技術として有効であることが分かる。窒化物半導体におけるアクセプタ不純物がイオン化し、負の分極電荷の領域に正孔が誘起されることでp型となるので、負の分極電荷の増加は、正孔濃度の増加につながる。
【0028】
なお、各々の単位半導体層121には、アクセプタ不純物をドーピングすることでp型とすることが好ましい。このアクセプタ不純物として一般的にMgが用いられるが、これに限らず、Zn,Be、Ca、Sr、およびBaなどがアクセプタ不純物として適用可能である。各々の単位半導体層121におけるアクセプタ不純物の濃度は、2×1016cm-3以上2×1020cm-3以下が好ましい。各々の単位半導体層121におけるアクセプタ不純物の濃度が2×1016cm-3未満であると、正孔濃度が低下し、例えば発光デバイスに用いた際にp型半導体層102のホール注入効率が低下するおそれがある。
【0029】
また、各々の単位半導体層121におけるアクセプタ不純物の濃度が2×1020cm-3を超えると、いわゆる自己補償効果のため正孔濃度が大幅に低下し、p型半導体層102が高抵抗化するおそれがある。各々の単位半導体層121アクセプタ不純物の濃度は、2次イオン質量分析法(SIMS)により確認することができる。
【0030】
なお、各々の単位半導体層121にアクセプタ不純物がドーピングされていない場合でも、各々の単位半導体層121にアクセプタ性の欠陥などが存在する場合、正孔供給源が存在するためp型となりうる。また、各々の単位半導体層121にアクセプタ不純物がドーピングされていない場合でも、p型半導体層102に、p型の窒化物半導体による層が接して配置されている場合、正孔供給源が存在するため、p型半導体層102は、p型になりうる。
【0031】
ところで、図2の(f)に示すように、図2の(d)に示すp型半導体層では、隣り合う各組成傾斜層の界面に正の分極電荷が発生するため、この界面において正孔分布が不連続となり、空乏化するおそれがある。この、隣り合う各組成傾斜層の界面での空乏化を補償するための技術として、アクセプタ不純物のデルタドーピングが考えられる。例えば、隣り合う単位半導体層121の界面にアクセプタ不純物としてMgのデルタドーピングを行うことで、上記界面における価電子帯の障壁を低減することができる。
【0032】
また、単位半導体層121は、全域が単結晶構造であることが好ましいが、結晶質の窒化物半導体の種々の性質を失わない程度に、部分的に、多結晶またはアモルファスな領域が偏在していてもよい。複数の単位半導体層121の各々の層厚は、p型半導体層102の層厚に対して2%~50%であることが好ましい。
【0033】
複数の単位半導体層121の各々の層厚が、p型半導体層102の層厚に対して2%未満であると、隣り合う単位半導体層121の界面のポテンシャル障壁の数が増加するため、p型半導体層102を発光デバイスに適用した場合に正孔注入効率が低下するおそれがある。また、複数の単位半導体層121の各々の層厚が、p型半導体層102の層厚に対して50%を超えると、正孔濃度が低下して高抵抗化するおそれがある。なお、より好ましくは、複数の単位半導体層121の各々の層厚は、p型半導体層102の層厚に対して5%~40%である。
【0034】
また、複数の単位半導体層121は、全て同じ層厚である必要はない。p型半導体層102を構成する複数の単位半導体層121の一部が、他とは異なる層厚とされていてもよい。例えば、各々の層厚20nmの10層の単位半導体層121と、各々の層厚50nmの2層の単位半導体層121とから、層厚300nmのp型半導体層102としてもよい。
【0035】
複数の単位半導体層121から構成したp型半導体層102の断面構造は、高角散乱電子(HAADF)像において、明瞭に確認される。なお、HAADF像とは、走査透過電子顕微鏡(STEM)によって得られる、高角度に非弾性散乱された電子の積分強度のマッピング像である。HAADF像においては、像強度は原子番号の2乗に比例し、原子番号が大きい原子が存在する箇所ほど明るく(白く)観察される。
【0036】
また、複数の単位半導体層121から構成したp型半導体層102の元素分布は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)で元素分析することで特定される。EDSは、STEM装置に付帯しているEDS測定装置により測定される。その他の元素分析方法としては、SIMSがある。
【0037】
実施の形態におけるp型半導体層102(単位半導体層121)は、例えば、種々のエピタキシャル成長法により形成することができる。エピタキシャル成長法は、例えば、MOVPE(metal organic vapor phase epitaxy)法を採用することが好ましい。なお、エピタキシャル成長法は、MOVPE法に限らず、例えば、HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法、MBE(molecular beam epitaxy)法、スパッタ法などを採用してもよい。
【0038】
p型半導体層102は、基板101を準備した後、基板101をエピタキシャル成長装置の成膜室に導入(搬入)し、エピタキシャル成長法により単位半導体層121を積層することで製造する。エピタキシャル成長装置としてMOVPE装置を採用し、単位半導体層121をAlGaNから構成する場合、Alの原料ガスとしては、トリメチルアルミニウム(TMAl)を採用することが好ましい。また、Gaの原料ガスとしては、トリメチルガリウム(TMGa)を採用することが好ましい。Nの原料ガスとしては、NH3を採用することが好ましい。また、p型導電性に寄与する不純物であるMgの原料ガスとしては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を採用することが好ましい。また、キャリアガスとしては、例えば、H2ガス、N2ガス、H2ガスとN2ガスとの混合ガスなどを採用することが好ましい。また各原料ガスは、特に限定されず、例えば、Gaの原料ガスとしてトリエチルガリウム(TEGa)、Nの原料ガスとしてヒドラジン誘導体などを採用してもよい。
【0039】
上述したことにより複数の単位半導体層121を積層した後、p型不純物を活性化するための加熱を行う。加熱を行うための加熱装置としては、例えば、ランプ加熱装置、電気炉などを採用することができる。p型不純物は、アクセプタ不純物を意味し、例えばMgである。
【0040】
上述した例では、単位半導体層121として、主表面を(0001)面とした基板101の上にAlxGa1-xNを結晶成長しているが、これに限るものではない。例えば、主表面を(000-1)面とした基板101の上にAlxGa1-xNを結晶成長することでも、複数の単位半導体層121によるp型半導体層102が形成可能である。この場合、複数の単位半導体層121は、-c軸方向に結晶成長するものとなり、結晶成長方向に対してAl組成xを増加させることで、負の分極電荷が誘起され正孔が生成される。また、主表面を(1-102)面とした基板101の上にAlxGa1-xNを結晶成長することで、複数の単位半導体層121によるp型半導体層102を形成することもできる。
【0041】
また、基板101は、SiCに限らず、サファイア、GaN、AlN、MgAl24、SiO2、MgO、ZnO、NdGaO3、ScAlMgO4、ZnS、GaAsSiなどの他の材料から構成することもできる。また、単位半導体層121は、AlxGa1-xNに限らず、InxGa1-xN、InxAl1-xN、InxAlyGa1-x-yNや、これらの組み合わせから構成することもできる。
【0042】
ところで、p型半導体層102の正孔濃度は、ホール効果測定法により測定することができる。詳細は以下に示すが、p型半導体層102の正孔濃度が1×1017cm-3以上であり、正孔濃度の活性化エネルギーが150meV以下であると、p型半導体層102を発光デバイスに適用した場合に良好な発光特性が得られやすい。活性化エネルギーは、p型半導体層102のホール効果測定の際に温度を変えて測定し、キャリア濃度の対数を温度の逆数に対してプロット(アレニウスプロット)したときの傾きによって求められる。
【0043】
実施の形態のp型半導体層102(単位半導体層121)は、高いAl組成(x>0.7)においても、1017cm-3以上の高い正孔濃度が得られるため、発光波長300nm以下の深紫外LEDや深紫外LDにおいても好適に適用可能である。
【0044】
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0045】
[実施例1]
はじめに、実施例1について説明する。実施例1では、半絶縁性4H-SiCからなり、主表面の面方位を(0001)とした基板101の上に、まず、MOVPE法によりAlNを成長させてバッファ層を形成し、このバッファ層の上に複数の単位半導体層121を積層してp型半導体層102を形成した。単位半導体層121は、MgドープAlxGa1-xNから構成し、厚さ20nmとした。複数の単位半導体層121の各々は、Alの組成xを結晶成長方向に対して0.9から0.7に減少させた。また、10層の単位半導体層121からp型半導体層102を構成した。
【0046】
図3に、上述した実施例1におけるp型半導体層102の、HAADF-STEM像(a),Al組成のEDSマッピング像(b)、Ga組成のEDSマッピング像(c)を示す。この測定には、JEM-ARM200F(日本電子製)を利用し、測定における加速電圧は200kVとした。ADEPT1010(ULVAC PHI製)を用いたSIMSの測定により、単位半導体層121におけるMgのドーピング量は2×1019cm-3であることが分かった。また、同じSIMSによる測定で、単位半導体層121においては、Al組成xが0.9から0.7に変化していることが確認された。
【0047】
なお、図3の(a)のHAADF-STEM像に示すように、隣り合う単位半導体層121の界面は急峻であり、層厚20nmの単位半導体層121が作製されていることが確認された。また、図3の(b),(c)のEDSマッピング像から、AlおよびGaの組成は、結晶成長方向に対して線形に変化している状態で、単位半導体層121が繰り返し積層されていることが確認された。なお、1つの単位半導体層121における平均Al組成はx=0.8である。
【0048】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2では、前述した実施例1と同様に、半絶縁性4H-SiCからなり、主表面の面方位を(0001)とした基板101の上に、まず、MOVPE法によりAlNを成長させてバッファ層を形成し、このバッファ層の上に複数の単位半導体層121を積層し、厚さ200nmのp型半導体層102を形成した。
【0049】
実施例2では、厚さ5nmの単位半導体層121を40層積層してp型半導体層102とした試料1、厚さ10nmの単位半導体層121を20層積層してp型半導体層102とした試料2、厚さ20nmの単位半導体層121を10層積層してp型半導体層102とした試料3、厚さ50nmの単位半導体層121を4層積層してp型半導体層102とした試料4、厚さ100nmの単位半導体層121を2層積層してp型半導体層102とした試料5を作製した。いずれの試料においても、1つの単位半導体層121においては、AlxGa1-xNのAl組成xを、結晶成長方向に対して0.9から0.7に減少させた。いずれの試料においては、Mgのドーピング量は2×1019cm-3である。また、各試料を作製した後に、ランプ加熱装置を用い、800℃で10分間、N2フローをしながら加熱して、活性化を実施した。
【0050】
また、比較例として、Mgをドープしたp型のAlxGa1-xNからなる層厚200nmのp型半導体層による比較試料1を作製した。比較試料1においては、AlxGa1-xNのAl組成xを、p型半導体層の結晶成長方向に対して0.9から0.7に減少させた。比較試料1は、厚さ200nmの1層の単位半導体層121からp型半導体層102を構成した試料である。また、比較例として、Mgをドープしたp型のAl0.8Ga0.2Nからなる層厚200nmのp型半導体層による比較試料2を作製した。比較試料2は、厚さ方向に組成が変化していない。いずれの比較試料においては、Mgのドーピング量は2×1019cm-3である。また、各比較試料を作製した後に、ランプ加熱装置を用い、800℃で10分間、N2フローをしながら加熱して、活性化を実施した。
【0051】
実施例2では、試料1~5のp型半導体層102,比較試料1,2におけるp型半導体層の正孔濃度を測定した。正孔濃度は「van der Pauw」法を用いて測定することができる。ホール効果測定装置およびその測定条件例は以下に示す。
【0052】
・ホール効果測定装置:東陽テクニカ製の「Resi Test8300」。
・測定条件:室温(約25℃)、約0.25[T]、約10-4~10-9 [A]、AC磁場ホール測定。
・試料形状は、平面視約5mm×5mmの板状とした。
【0053】
上述したホール濃度の測定結果を図4に示す。図4に示すように、厚さ20nmまでは、単位半導体層121の厚さが小さいほど、正孔濃度が高いことがわかる。単位半導体層121の厚さを50nm以下にすることで1017cm-3以上の正孔濃度が得られている(試料1~4)。この結果は、比較試料1と比較して、1ケタ以上の正孔濃度が上昇している。分極ドーピングに加え、複数の単位半導体層121からp型半導体層102を構成することで、多くの負の分極電荷が各単位半導体層121に誘起されるため、正孔濃度が増加したためと考えられる。また、比較試料2については、抵抗率が9.6×104Ωcmと高いため、ホール効果測定を用いて正孔濃度を測定することができなかった。非特許文献1,2に記載されていることから、比較試料2の正孔濃度は1014cm-3以下と考えられる。
【0054】
また、試料2と、比較試料1について、温度を室温から500Kまで変化させて正孔濃度の温度依存性の測定を行った。p=n0exp(-Ea/kT)の式にしたがって、横軸に温度の逆数、縦軸に正孔濃度の対数を取り、その傾き(活性化エネルギー=Ea)を求めた。ここで、「T」は温度、「p」は温度Tでの正孔濃度、「n0」は定数、「Ea」は活性化エネルギー、そして「k」はボルツマン定数を示す。この結果、試料2は、活性化エネルギーが52meVとなった。一方、比較試料1の活性化エネルギーは171meVとなり、試料2より活性化エネルギーが高くなり、比較試料1は試料2より温度依存性が高いことが分かった。
【0055】
[実施例3]
実施例3では、深紫外LEDを作製して評価を実施した。作製した深紫外LEDについて、図5を参照して説明する。この深紫外LEDは、基板201の上にバッファ層202、n型半導体層203、発光層204、電子ブロック層205、p型半導体層206、コンタクト層207を備える。また、発光層204、電子ブロック層205、p型半導体層206、コンタクト層207によるメサの周囲において、n型半導体層203の上に電極208が形成されている。また、コンタクト層207の上に、半透明電極層209、電極210が形成されている。
【0056】
基板201は、半絶縁性4H-SiCから構成され、主表面の面方位が(0001)とされている。バッファ層202は、AlNから構成され、n型半導体層203は、シリコンをドープしたn型のAlN/AlGaN超格子から構成され、発光層204は、AlGaNの多重量子井戸から構成され、電子ブロック層205は、AlNから構成されている。また、p型半導体層206は、前述した実施の形態のp型半導体層102であり、各々がAlGaNから構成され組成が変化している複数の単位半導体層から構成されている。また、コンタクト層207は、Mgがドープされたp型のGaNから構成されている。
【0057】
各半導体の層は、MOVPE法により基板201の上に順次に結晶成長することで形成することができる。また、発光層204、電子ブロック層205、p型半導体層206、コンタクト層207を、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術によりパターニングすることでメサを形成し、このメサの周囲にn型半導体層203の上面を露出させる。このようにして露出させたn型半導体層203の上面に、よく知られた蒸着法およびリフトオフ法により、Ti/Al/Ni/Auの電極208を形成する。また、メサに形成したコンタクト層207の上に、Pd/Auの半透明電極層209を形成し、半透明電極層209の上に、Auからなる電極210を形成する。
【0058】
実施例3では、厚さ10nmの単位半導体層を20層積層してp型半導体層206としたLED試料1、厚さ20nmの単位半導体層を10層積層してp型半導体層206としたLED試料2、厚さ50nmの単位半導体層を4層積層してp型半導体層206としたLED試料3、厚さ100nmの単位半導体層を2層積層してp型半導体層206としたLED試料4を作製した。いずれのLED試料においても、1つの単位半導体層においては、AlxGa1-xNのAl組成xを、結晶成長方向に対して0.9から0.7に減少させた。いずれのLED試料においては、Mgのドーピング量は2×1019cm-3である。また、各LED試料を作製した後に、ランプ加熱装置を用い、800℃で10分間、N2フローをしながら加熱して、活性化を実施した。
【0059】
また、比較例として、Mgをドープしたp型のAlxGa1-xNからなる層厚200nmのp型半導体層206による比較LED試料1を作製した。比較LED試料1においては、AlxGa1-xNのAl組成xを、p型半導体層206の結晶成長方向に対して0.9から0.7に減少させた。比較LED試料1は、厚さ200nmの1層の単位半導体層からp型半導体層206を構成した試料である。また、比較例として、Mgをドープしたp型のAl0.8Ga0.2Nからなる層厚200nmのp型半導体層206による比較LED試料2を作製した。比較LED試料2は、厚さ方向に組成が変化していない。いずれの比較LED試料においては、Mgのドーピング量は2×1019cm-3である。また、各比較LED試料を作製した後に、ランプ加熱装置を用い、800℃で10分間、N2フローをしながら加熱して、活性化を実施した。
【0060】
上述した各LED試料について発光スペクトルの測定結果を図6に示す。図6において、(a)は、LED試料1の発光スペクトルの測定結果を示し、(b)は、LED試料2の発光スペクトルの測定結果を示し、(c)は、LED試料3の発光スペクトルの測定結果を示し、(d)は、LED試料4の発光スペクトルの測定結果を示す。また、図6において、(e)は、比較LED試料1の発光スペクトルの測定結果を示し、(f)は、比較LED試料2の発光スペクトルの測定結果を示す。
【0061】
図6に示す波長252nm付近に観測されたELピークは、発光層204を構成するAlGaN多重量子井戸からの発光である。図6のLED試料1~4の結果に示されているように、複数の単位半導体層からp型半導体層206を構成することで、比較LED試料1,2に対して発光強度が増大した。
【0062】
図7に、実施例3の深紫外LEDの発光強度の、単位半導体層の層厚依存性の結果を示す。層厚200nmから薄くするにしたがって発光強度が増加し、層厚50nm(LED試料3)で最大値となった。単位半導体層の層厚50nmのLED試料3は、比較LED試料1に対して約8倍の発光強度である。複数の単位半導体層からp型半導体層206を構成し、単位半導体層の層厚を短くすることで、多くの負の分極電荷が誘起されるため、p型半導体層206の正孔濃度が増加する。この結果、p型半導体層206から発光層204への正孔注入効率が増加し、発光強度が増大したと考えられる。
【0063】
一方、単位半導体層の層厚を50nmからさらに薄くすると、発光強度が低下していく傾向が見られた。この原因として、単位半導体層の薄層化に伴い、隣り合う単位半導体層の界面のポテンシャル障壁の数が増加するため、p型半導体層206から発光層204への正孔注入効率が低下したことが考えられる。以上から、発光強度を高めるためには、p型半導体層206における高正孔濃度、および単位半導体層界面のポテンシャルバリア数の低減の両方が必要であることが分かる。
【0064】
以上に説明したように、本発明では、p型半導体層を、複数の単位半導体層から構成し、複数の単位半導体層の各々を、主表面を極性面または半極性面とされたp型の窒化物半導体から構成し、複数の単位半導体層の各々は、積層方向に組成を変化させた。この結果、本発明によれば、窒化物半導体からなる正孔濃度が高く低抵抗なp型半導体層が提供できる。
【0065】
本発明によれば、LEDやLDの、p型半導体層から発光層(活性層)へのホール注入効率が改善され、発光強度を増大させることができる。例えば、単位半導体層を、Al組成x>0.7としたAlxGa1-xNから構成したp型半導体層は、1017cm-3以上の高い正孔濃度が得られるため、発光波長300nm以下の深紫外LEDや深紫外LDに好適に用いることができる。
【0066】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0067】
101…基板、102…p型半導体層、121…単位半導体層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7