(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112244
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】銅張積層板および銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/09 20060101AFI20230804BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20230804BHJP
H05K 3/24 20060101ALI20230804BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230804BHJP
C25D 5/18 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H05K1/09 C
C25D5/10
H05K3/24 A
B32B15/08 J
C25D5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013892
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【テーマコード(参考)】
4E351
4F100
4K024
5E343
【Fターム(参考)】
4E351AA02
4E351AA04
4E351AA16
4E351BB30
4E351BB33
4E351BB38
4E351CC06
4E351DD04
4E351DD54
4E351GG03
4F100AB17B
4F100AT00A
4F100BA05
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4F100BA10A
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4F100EH71B
4F100GB41
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4F100JG01
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4K024AA09
4K024AB04
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4K024BA12
4K024BB11
4K024BC01
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4K024EA04
4K024GA16
5E343AA16
5E343AA18
5E343AA33
5E343BB18
5E343BB24
5E343BB67
5E343DD47
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】耐折性の優れた銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とを備える。銅めっき被膜10は、高電流密度での電解めっきにより形成された4層の高電流密度層21と、低電流密度での電解めっきにより形成された3層の低電流密度層22とが交互に積層されてなる。低電流密度層22の間隔は0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmである。あるいは、低電流密度層22の間隔は銅めっき被膜の厚さの3.5~7.1%または9.4~12.9%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に成膜された銅めっき被膜と、を備え、
前記銅めっき被膜は、高電流密度での電解めっきにより形成された4層の高電流密度層と、前記高電流密度よりも低い低電流密度での電解めっきにより形成された3層の低電流密度層とが交互に積層されてなり、
前記高電流密度層を1層挟んで隣り合う2層の前記低電流密度層の間隔は、0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmである
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
基材と、
前記基材の表面に成膜された銅めっき被膜と、を備え、
前記銅めっき被膜は、高電流密度での電解めっきにより形成された4層の高電流密度層と、前記高電流密度よりも低い低電流密度での電解めっきにより形成された3層の低電流密度層とが交互に積層されてなり、
前記高電流密度層を1層挟んで隣り合う2層の前記低電流密度層の間隔は、前記銅めっき被膜の厚さの3.5~7.1%または9.4~12.9%である
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項3】
前記低電流密度は0.13~0.38A/dm2である
ことを特徴とする請求項1または2記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記低電流密度層のそれぞれの厚さは0.05~0.15μmである
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の銅張積層板。
【請求項5】
前記低電流密度層は、いずれも、前記銅めっき被膜の厚さ方向の35~65%の範囲内に位置している
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の銅張積層板。
【請求項6】
基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得る電解めっき工程を備え、
前記電解めっき工程は、4回の高電流密度での電解めっきと、3回の前記高電流密度よりも低い低電流密度での電解めっきとを交互に行なって前記銅めっき被膜を成膜し、
2回目および3回目の前記高電流密度での電解めっきにより、厚さが0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmの高電流密度層を成膜する
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項7】
基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得る電解めっき工程を備え、
前記電解めっき工程は、4回の高電流密度での電解めっきと、3回の前記高電流密度よりも低い低電流密度での電解めっきとを交互に行なって前記銅めっき被膜を成膜し、
2回目および3回目の前記高電流密度での電解めっきにより、厚さが前記銅めっき被膜の厚さの3.5~7.1%または9.4~12.9%の高電流密度層を成膜する
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板および銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムに銅箔を積層した銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている(例えば、特許文献1)。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を成膜する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を成膜する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を成膜する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が成膜された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子機器の小型化、薄型化にともない、フレキシブルプリント配線板は小さい曲率半径の曲げを伴う使い方が多くなっている。フレキシブルプリント配線板を小さい曲率半径で繰り返し曲げ伸ばしすると配線部の表面からクラックが生じ、クラックが成長して断線することがある。そのため、耐折性の優れた銅張積層板が求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、耐折性の優れた銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の銅張積層板は、基材と、前記基材の表面に成膜された銅めっき被膜と、を備え、前記銅めっき被膜は、高電流密度での電解めっきにより形成された4層の高電流密度層と、前記高電流密度よりも低い低電流密度での電解めっきにより形成された3層の低電流密度層とが交互に積層されてなり、前記高電流密度層を1層挟んで隣り合う2層の前記低電流密度層の間隔は、0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmであることを特徴とする。前記高電流密度層を1層挟んで隣り合う2層の前記低電流密度層の間隔は、前記銅めっき被膜の厚さの3.5~7.1%または9.4~12.9%であってもよい。
本発明の銅張積層板の製造方法は、基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得る電解めっき工程を備え、前記電解めっき工程は、4回の高電流密度での電解めっきと、3回の前記高電流密度よりも低い低電流密度での電解めっきとを交互に行なって前記銅めっき被膜を成膜し、2回目および3回目の前記高電流密度での電解めっきにより、厚さが0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmの高電流密度層を成膜することを特徴とする。2回目および3回目の前記高電流密度での電解めっきにより、厚さが前記銅めっき被膜の厚さの3.5~7.1%または9.4~12.9%の高電流密度層を成膜してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、銅めっき被膜に3層の低電流密度層が挿入されているので、銅張積層板の耐折性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【
図3】低電流密度層の電流密度と耐折性との関係を示すグラフである。
【
図4】低電流密度層の厚さと耐折性との関係を示すグラフである。
【
図5】低電流密度層の位置と耐折性との関係を示すグラフである。
【
図6】低電流密度層の数と耐折性との関係を示すグラフである。
【
図8】低電流密度層の間隔と耐折性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とからなる。
図1に示すように基材10の片面のみに銅めっき被膜20が成膜されてもよいし、基材10の両面に銅めっき被膜20が成膜されてもよい。
【0011】
基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が成膜されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12はスパッタリング法などの乾式成膜法により成膜される。金属層12は下地金属層13と銅薄膜層14とからなる。下地金属層13と銅薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、ベースフィルム11の厚さは10~100μmが一般的であり、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0012】
なお、下地金属層13はなくてもよい。銅薄膜層14はベースフィルム11の表面に下地金属層13を介して成膜されてもよいし、下地金属層13を介さずベースフィルム11の表面に直接成膜されてもよい。
【0013】
銅めっき被膜20は銅薄膜層14の表面に成膜されている。特に限定されないが、銅めっき被膜20の厚さは、サブトラクティブ法により加工される銅張積層板1の場合8~12μmが一般的である。なお、金属層12と銅めっき被膜20とを合わせて「導体層」と称する。
【0014】
銅めっき被膜20は、4層の高電流密度層21と3層の低電流密度層22とが交互に積層された7層構造を有する。基材10(銅薄膜層14)の表面に直接成膜された層は高電流密度層21である。銅めっき被膜20の最も外側に位置する層も高電流密度層21である。低電流密度層22はいずれも上下が2層の高電流密度層21で挟まれている。言い換えれば、銅めっき被膜20の厚さ方向の中間に3層の低電流密度層22が挿入されている。
【0015】
このような構造の銅めっき被膜20は、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜する電解めっき工程の途中で電流密度を通常よりも低くする期間を3回設けることにより得られる。以下、銅めっき被膜20の成膜方法を具体的に説明する。
【0016】
銅めっき被膜20は、例えば、ロールツーロール方式のめっき装置により成膜できる。この方式のめっき装置は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。めっき装置はロール状に巻回された基材10を繰り出す供給装置と、めっき後の基材10(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置とを有する。
【0017】
めっき装置には基材10を搬送するための複数のクランプが設けられている。複数のクランプが基材10の両縁を把持し、基材10を搬送する。基材10の搬送経路には、前処理槽、めっき槽30、および後処理槽が配置されている。基材10はめっき槽30内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面に銅めっき被膜20が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0018】
図2に示すように、めっき槽30は基材10の搬送方向に沿った横長の単一の槽である。基材10はめっき槽30の中心に沿って搬送される。めっき槽30には銅めっき液が貯留されている。めっき槽30内を搬送される基材10は、その全体が銅めっき液に浸漬されている。
【0019】
銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば特に限定されず用いられる。銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜20を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜20の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を1~300mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材10端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0021】
銅めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽30内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材10に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0022】
めっき槽30の内部には、基材10の搬送方向に沿って複数のアノード31が配置されている。また、基材10を把持するクランプはカソードとしての機能も有する。アノード31とクランプ(カソード)との間に電流を流すことで、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0023】
なお、
図2に示すめっき槽30には、基材10の表裏両側にアノード31が配置されている。したがって、ベースフィルム11の両面に金属層12が成膜された基材10を用いれば、基材10の両面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0024】
めっき槽30の内部に配置された複数のアノード31は、それぞれに整流器が接続されている。したがって、アノード31ごとに異なる電流密度となるように設定できる。本実施形態では、めっき槽30の内部が基材10の搬送方向に沿って複数の区域に区分けされている。各区域は一または複数の連続するアノード31が配置された領域に対応する。
【0025】
各区域は高電流密度区域HZまたは低電流密度区域LZである。高電流密度区域HZでは電流密度が比較的高い「高電流密度」に設定されており、基材10に対して高電流密度での電解めっきを行なう。低電流密度区域LZでは電流密度が高電流密度よりも低い「低電流密度」に設定されており、基材10に対して低電流密度での電解めっきを行なう。
【0026】
高電流密度区域HZと低電流密度区域LZとは基材10の搬送方向に沿って交互に設けられている。高電流密度区域HZの数は4つである。低電流密度区域LZの数は3つである。基材10の搬送方向を基準として、最も上流の区域および最も下流の区域は、いずれも、高電流密度区域HZである。
【0027】
ベースフィルム11に成膜された金属層12は比較的薄いため、電解めっきの初期に電流密度を高くすると、金属層12のうち給電部(クランプ)と接触する部分が溶解する恐れがある。一方で、生産性を上げるには電流密度をできるだけ高くすることが好ましい。そこで、電解めっきの初期において、電流密度を徐々に上昇させることが行なわれる。最も上流の高電流密度区域HZでは電流密度を徐々に上昇させながら電解めっきを行なってもよい。なお、金属層12の溶解の恐れがない場合には、最も上流の高電流密度区域HZにおいても電流密度を一定としてよい。
【0028】
基材10は、高電流密度区域HZと低電流密度区域LZとを交互に通過しながら、電解めっきされる。すなわち、めっき槽30では基材10に対して、4回の高電流密度での電解めっきと、3回の低電流密度での電解めっきとを交互に行なう。これにより、銅めっき被膜20が成膜される。
【0029】
このような方法により形成された銅めっき被膜20は、
図1に示すように、異なる電流密度での電解めっきにより形成された層が積層された構造となる。具体的には、銅めっき被膜20は高電流密度層22と低電流密度層21とが、厚さ方向に交互に積層された構造を有する。ここで、高電流密度層22とは高電流密度での電解めっきにより形成された層である。また、低電流密度層21とは低電流密度での電解めっきにより形成された層である。
【0030】
銅めっき被膜20は枚葉方式のめっき装置によっても成膜できる。枚葉状の基材10をめっき槽内の銅めっき液に浸漬して電解めっきを行ない、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜する。この際、電流密度を時間の経過にともない変化させる。具体的には、4回の高電流密度での電解めっきと、3回の低電流密度での電解めっきとを交互に行なう。
【0031】
本実施形態の銅張積層板1は、銅めっき被膜20に3層の低電流密度層22が挿入されているため、耐折性に優れている。ここで、耐折性とは繰り返しの曲げ伸ばしに対する強度を意味し、MIT試験により評価される。
【0032】
耐折性が向上する理由は不明なところもあるが、概ねつぎのとおりであると考えられる。銅張積層板1を小さい曲率半径で曲げると銅めっき被膜20の最表面に強い引張応力がかかる。そのため、曲げ伸ばしを繰り返すと、結晶粒界などをきっかけとして銅めっき被膜20の表面にクラックが生じる。銅めっき被膜20に低電流密度層22を挿入すると、高電流密度層21ごとに再結晶が別々に進行するため、結晶粒の成長が抑制される。そのため、銅張積層板1を曲げた時に銅めっき被膜20の最表面にかかる引張応力が緩和されクラックが生じにくくなる。これにより、耐折性が向上すると考えられる。
【0033】
銅張積層板1の耐折性は低電流密度層22の間隔の影響を受ける。ここで、低電流密度層22の間隔とは、高電流密度層21を1層挟んで上下に隣り合う2層の低電流密度層22の間の距離を意味する。したがって、2層の低電流密度層22の間隔は、それらに挟まれた高電流密度層21の厚さと同じである。耐折性を向上するという観点からすると、低電流密度層22の間隔は、0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmであることが好ましい。あるいは、銅めっき被膜20の厚さに対する比率で考えると、低電流密度層22の間隔は、銅めっき被膜20の厚さの3.5~7.1%または9.4~12.9%であることが好ましい。なお、基材10の表面から順に数えて、一番目の低電流密度層22と二番目の低電流密度層22との間隔と、二番目の低電流密度層22と三番目の低電流密度層22との間隔とは、同じでもよいし、異なってもよい。
【0034】
ここで、層の厚さは、電解めっきにおける電流密度とめっき時間とから求められる。具体的には、式(1)に示すように、電流密度J[A/dm
2]、めっき時間T[分]および所定の係数kを乗じて厚さd[μm]が求められる。なお、係数kはめっき液などの条件に依存する値であり、試験により定められる。
【数1】
【0035】
したがって、低電流密度層22の間隔を0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmとするには、2回目および3回目の高電流密度での電解めっきにおいて、厚さが0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmの高電流密度層21を成膜するよう、電流密度およびめっき時間を調整すればよい。あるいは、2回目および3回目の高電流密度での電解めっきにより、厚さが銅めっき被膜20の厚さの3.5~7.1%または9.4~12.9%の高電流密度層21を成膜するよう、電流密度およびめっき時間を調整すればよい。
【0036】
耐折性を向上するという観点からすると、低電流密度は0.13~0.38A/dm2が好ましく、0.16~0.22A/dm2がより好ましい。3層の低電流密度層22は、それぞれ、電流密度が同じでもよいし、異なってもよい。したがって、3つの低電流密度区域LZにおける電流密度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0037】
高電流密度は低電流密度より高ければよい。ただし、高電流密度は4~10A/dm2が好ましい。4層の高電流密度層21は、それぞれ、電流密度が同じでもよいし、異なってもよい。したがって、4つの高電流密度区域HZにおける電流密度は同じでもよいし、異なってもよい。また、最も上流の高電流密度区域HZでは電流密度を徐々に上昇させながら電解めっきを行なってもよい。この場合、電解めっき初期の電流密度を徐々に上昇させる期間(電流密度上昇期間)における電流密度は、1~6A/dm2の範囲で徐々に上昇させることが好ましい。
【0038】
また、耐折性を向上するという観点からすると、低電流密度層22の厚さは0.05~0.15μmが好ましく、0.08~0.12μmがより好ましい。
【0039】
さらに、耐折性を向上するという観点からすると、3層の低電流密度層22は、いずれも、銅めっき被膜20の厚さ方向の35~65%の範囲内に位置することが好ましい。ここで、0%は基材10の表面を意味し、100%は銅めっき被膜20の表面を意味する。
【実施例0040】
(共通の条件)
ベースフィルムとして、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの片面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ150nmの銅薄膜層を形成した。
【0041】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0042】
前記銅めっき液が貯留されためっき槽に基材を供給した。電解めっきにより基材の片面に厚さ8.5μmの銅めっき被膜を成膜した。ここで、銅めっき液の温度を31℃とした。また、電解めっきの間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。
【0043】
(基準試料)
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表1のとおり設定し、試料を4枚作製した。すなわち、電解めっきの初期は電流密度を1.38A/dm2、3.02A/dm2と段階的に上昇させ、その後電流密度を5.03A/dm2として厚さが8.5μmとなるまで銅めっき被膜を成膜した。銅めっき被膜は低電流密度層を有さない。得られた銅張積層板を基準試料とする。
【0044】
【0045】
基準試料の耐折性をMIT試験により評価した。MIT試験はJIS C6471(1995)に従って行なった。試験機として東洋精機製作所製MIT耐折疲労試験機D型を用いた。試料には1mm幅の配線パターンを形成した。試料を、曲率半径0.36mm、荷重500gf、反復速度175cpm(毎分175回で折り曲げ)の条件にて135°折り曲げ、続いて反対方向に135°折り曲げる操作を繰り返して、配線の導通が途切れたときの回数(耐断線回数)を測定した。MIT評価は、4枚の試料を用いて、電解めっきから1日後、10日後、20日後および30日後に実施した。
【0046】
(低電流密度層の電流密度および厚さの評価)
つぎに、銅めっき被膜の低電流密度層の電流密度および厚さと耐折性との関係を評価した。電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表2のとおり設定した。すなわち、電解めっきの初期は電流密度を1.38A/dm2、3.02A/dm2と段階的に上昇させ、その後電流密度を5.03A/dm2(高電流密度)として厚さ4.17μmの第1層(高電流密度層)を成膜した。つぎに、低電流密度で厚さ0.10μmの第2層(低電流密度層)を成膜した。最後に電流密度を5.03A/dm2(高電流密度)として厚さ4.23μmの第3層(高電流密度層)を成膜した。ここで、低電流密度を0.13、0.19、0.25、0.31、0.38A/dm2の5パターンで変化させた。また、めっき時間は低電流密度層の厚さが0.10μmとなるように調整した。得られた銅張積層板を試料1~5とする。
【0047】
【0048】
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表3のとおり設定した。すなわち、低電流密度を0.19A/dm2とした。また、低電流密度層のめっき時間を変化させ、低電流密度層の厚さが0.05、0.07、0.10、0.13、0.15μmの5種類の銅めっき被膜を成膜した。得られた銅張積層板を試料6~10とする。
【0049】
【0050】
試料1~10の耐折性をMIT試験により評価した。その結果を
図3および
図4に示す。MIT評価は、電解めっきから1日後および10日後に実施した。
図3および
図4において、試料1~10の1日後の耐断線回数は基準試料の1日後の耐断線回数を100%とした比率で表している。また、試料1~10の10日後の耐断線回数は基準試料の10日後の耐断線回数を100%とした比率で表している。
【0051】
図3および
図4から分かるように、電解めっきから1日後と10日後とでは耐折性の傾向が異なる。これは、銅めっき被膜の再結晶の進行度合いが影響していると考えられる。実際に耐折性が問題となるのは電子機器の使用時、つまり、銅めっき被膜の再結晶が完了している状態である。そのため、再結晶が完了している10日後の耐折性が実態に即している。そこで、以下、10日後の耐折性に注目して分析する。
【0052】
図3のグラフより、低電流密度が0.13~0.38A/dm
2の範囲で、基準試料よりも耐折性に優れているといえる。特に、低電流密度を0.16~0.22A/dm
2とすれば、耐断線回数が基準試料の115%以上となる。すなわち、低電流密度は0.13~0.38A/dm
2が好ましく、0.16~0.22A/dm
2がより好ましいといえる。なお、この傾向は銅めっき被膜が複数の低電流密度層を有する場合にも変わらないと推測される。
【0053】
図4のグラフより、低電流密度層の厚さが0.05~0.15μmの範囲で、基準試料よりも耐折性に優れているといえる。特に低電流密度層の厚さを0.08~0.12μmとすれば、耐断線回数が基準試料の115%以上となる。すなわち、低電流密度層の厚さは0.05~0.15μmが好ましく、0.08~0.12μmがより好ましいといえる。なお、この傾向は銅めっき被膜が複数の低電流密度層を有する場合にも変わらないと推測される。
【0054】
(低電流密度層の位置の評価)
つぎに、銅めっき被膜の厚さ方向における低電流密度層の位置と耐折性との関係を評価した。電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表4のとおり設定した。すなわち、電解めっきの初期は電流密度を1.38A/dm2、3.02A/dm2と段階的に上昇させ、その後電流密度を5.03A/dm2(高電流密度)として第1層(高電流密度層)を成膜した。つぎに、電流密度を0.19A/dm2(低電流密度)として厚さ0.10μmの第2層(低電流密度層)を成膜した。最後に電流密度を5.03A/dm2(高電流密度)として第3層(高電流密度層)を成膜した。ここで、高電流密度による電解めっきの時間を変化させ、銅めっき被膜の厚さ方向における低電流密度層の位置が異なる5種類の銅めっき被膜を成膜した。得られた銅張積層板を試料11~15とする。
【0055】
【0056】
試料11~15の耐折性をMIT試験により評価した。その結果を
図5に示す。
図5の横軸は銅めっき被膜の厚さ方向の位置であり、0%が基材の表面、100%が銅めっき被膜の表面を意味する。
図5に示す耐断線回数は電解めっきから10日後の値であり、基準試料の10日後の耐断線回数を100%とした比率で表している。また、近似曲線は測定値を二次関数でフィッティングした結果である。
【0057】
図5のグラフより、基準試料よりも耐折性の優れた銅張積層板を得るには、低電流密度層を銅めっき被膜の厚さの35~65%の範囲内に位置させることが好ましいことが分かる。なお、銅めっき被膜が複数の低電流密度層を有する場合には、少なくとも1層の低電流密度層が銅めっき被膜の厚さの35~65%の範囲内に位置すればよいと考えられる。しかし、全ての低電流密度層が銅めっき被膜の厚さの35~65%の範囲内に位置することが好ましいと推測される。
【0058】
(低電流密度層の数の評価)
つぎに、銅めっき被膜が有する低電流密度層の数と耐折性との関係を評価した。電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表5のとおり設定して、低電流密度層が1層の試料を4枚作製した。ここで、低電流密度を0.19A/dm2とし、低電流密度層の厚さを0.10μmとした。得られた銅張積層板を試料16とする。
【0059】
【0060】
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表6のとおり設定して、低電流密度層が3層の試料を4枚作製した。ここで、低電流密度を0.19A/dm2とし、各低電流密度層の厚さを0.10μmとした。得られた銅張積層板を試料17とする。
【0061】
【0062】
試料16および17の耐折性をMIT試験により評価した。MIT評価は、電解めっきから1日後、10日後、20日後および30日後に実施した。その結果を
図6に示す。
図6において、「低電流密度層なし」は基準試料を意味する。「低電流密度層1層」は試料16を意味する。「低電流密度層3層」は試料17を意味する。また、耐断線回数は基準試料の1日後の耐断線回数を100%とした比率で表している。
【0063】
図6のグラフより、全体的な傾向として、低電流密度層を含まない基準試料に比べて、低電流密度層を1層とした方が耐折性に優れ、低電流密度層を3層とするとより耐折性に優れることが分かる。特に電解めっきから30日後の耐折性に注目すると、低電流密度層を3層とすれば、耐断線回数が基準試料の123%となる。したがって、低電流密度層の数は3層が好ましいといえる。
【0064】
基準試料および試料16、17の銅めっき被膜の表面抵抗値を測定した。測定には三菱ケミカルアナリティック製のロレスタAX MCP-T370を用いた。また、測定は電解めっきから1日後、10日後、20日後および30日後に実施した。その結果を
図6に示す。表面抵抗値は銅めっき被膜の再結晶の進行に伴い低くなることが知られている。
図6のグラフより、低電流密度層を3層とすると、電解めっきから30日後でも表面抵抗値は高いままであり、再結晶の進行を抑制できていることが分かる。このことから、銅めっき被膜の再結晶の進行が低電流密度層で分断されることで、耐折性が向上すると考えられる。
【0065】
(低電流密訴層の間隔の評価)
つぎに、銅めっき被膜の低電流密度層の間隔と耐折性との関係を評価した。電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表7のとおり設定した。すなわち、低電流密度層の数を3層とし、低電流密度を0.19A/dm2、低電流密度層の厚さを0.10μmとした。また、低電流密度層の間隔(第3層および第5層の厚さ)を0.24、0.48、0.73、0.97、1.21、1.45μmの6パターンで変化させた。得られた銅張積層板を試料18~23とする。
【0066】
【0067】
図7に試料18~23の低電流密度層の配置を示す。
図7の縦軸は銅めっき被膜の厚さ方向の位置であり、0μmおよび0%が基材の表面、8.5μmおよび100%が銅めっき被膜の表面を意味する。また、試料18~23の耐折性をMIT試験により評価した。その結果を
図8に示す。
図8において、試料18~23の1日後の耐断線回数は基準試料の1日後の耐断線回数を100%とした比率で表している。また、試料18~23の10日後の耐断線回数は基準試料の10日後の耐断線回数を100%とした比率で表している。
【0068】
前述のごとく再結晶が完了している10日後の耐折性が実態に即しているため、10日後の耐折性に注目して分析する。
図8のグラフより、低電流密度層の間隔により耐折性が変化することが分かる。特に、低電流密度層の間隔が0.48μmの試料19、および0.97μmの試料21の耐折性が優れている。このことから、低電流密度層の間隔は0.3~0.6μmまたは0.8~1.1μmが好ましいといえる。銅めっき被膜の厚さに対する比率で考えると、低電流密度層の間隔は3.5~7.1%または9.4~12.9%が好ましいといえる。このようにすれば、耐断線回数が基準試料の120%以上となる。