(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112295
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】フコース結合型レクチンを含む抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20230804BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230804BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230804BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230804BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P31/12
A61P31/14
C12N15/31 ZNA
C07K14/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013983
(22)【出願日】2022-02-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術協力基盤整備事業「海洋天然物由来の抗新型コロナウイルスリード化合物の探索」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隆一
(72)【発明者】
【氏名】辺 浩美
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 礼人
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA23
4C084BA34
4C084CA04
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4H045BA10
4H045CA11
4H045DA80
4H045EA20
4H045GA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エボラウイルス又はSARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】110~135個のアミノ酸残基からなり、特定の配列を有するバクテリア由来のフコース結合型レクチンを含む、抗ウイルス剤とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリア由来のフコース結合型レクチンを含む、エボラウイルスまたはSARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス剤。
【請求項2】
フコース結合型レクチンが下記の特徴を有する、請求項1に記載の抗ウイルス剤;
1) 110~135個のアミノ酸残基からなる、
2) 配列番号1のアミノ酸配列の第24位~第28位に相当するアミノ酸配列が、
X1-X2-S-X3-X4
[式中、X1はVまたはAであり、
X2はQまたはNであり、
X3はSまたはAであり、
X4はR、GまたはAである。]である、
3) 配列番号1のアミノ酸配列の第107位~第120位に相当するアミノ酸配列が、
X5-D-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-D-X14-N-D
[式中、X5はEまたはNであり、
X6はGまたはAであり、
X7はH、A、T、MまたはGであり、
X8は存在しないか、またはC、SもしくはAであり、
X9は存在しないか、またはI、D、EもしくはNであり、
X10は存在しないか、またはVもしくはAであり、
X11は存在しないか、またはGであり、
X12はDまたはKであり、
X13は任意のアミノ酸であり、
X14はYまたはFである。]である、および、
4) 配列番号1のアミノ酸配列の第131位に相当するアミノ酸残基がC末端である。
【請求項3】
フコース結合型レクチンが、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
フコース結合型レクチンが、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
フコース結合型レクチンが、配列番号2または5のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、請求項1~3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
フコース結合型レクチンが配列番号2または5のアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
フコース結合型レクチンが、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、請求項1~3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項8】
フコース結合型レクチンが配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項9】
エボラウイルスに対する抗ウイルス剤である、請求項7または8に記載の抗ウイルス剤。
【請求項10】
配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるフコース結合型レクチンを含む、エボラウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項11】
フコース結合型レクチンが配列番号10のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の抗ウイルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フコース結合型レクチンを含む抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レクチンは2価以上の結合サイトを持つ糖結合タンパク質の総称であり、細菌、真菌、植物、動物等に幅広く存在する。発明者らは、海洋生物レクチンの研究を長年行い、アメフラシ、サンゴ、海綿のレクチンを報告してきた(非特許文献1)。
【0003】
ある種のレクチンは、ウイルス表面の糖鎖に特異的に結合し、ウイルスの細胞への吸着に影響を与える。例えば、海藻由来のマンノース結合レクチンGriffithsin(GRFT)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の増殖を強力に抑制する(非特許文献2)。また、マンノース結合型バナナレクチンの変異体(BanLec H84T)がマウス腹腔内投与でエボラウイルスに対する保護作用を示すこと、その機構はウイルスの細胞侵入阻害のみではなく、細胞内でのウイルス増殖阻害にもよることが報告されている(非特許文献3、4)。ラン藻のマンノース結合型レクチンも皮下投与でエボラウイルスに抗ウイルス作用を示した(非特許文献5)。
【0004】
抗ウイルス作用のあるレクチンの多くはマンノース結合型であるが、最近フコース結合型レクチンであるヒイロチャワンタケレクチン(AAL)および麹菌(Aspergillus oryzae)由来のレクチン(AOL)、そしてGal-NAc特異的ヘアリーベッチ(Vicia villosa、VVA-G)、フジ(Wisteria floribunda、WFL)由来レクチンに抗インフルエンザウイルス作用があることが報告された(特許文献1)。非特許文献6は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)-レクチンII(PA-IIL)のフコース特異性を担う構造的特徴を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Watari, H. Nakajima, W. Atsuumi, T. Nakamura, T. Nanya, Y. Ise, R. Sakai, A novel sponge-derived protein thrombocorticin is a new agonist for thrombopoietin receptor, Comparative biochemistry and physiology Part C: Toxicology & pharmacology 2019, 221, 82-88.
【非特許文献2】Kouokam, J. C., Lasnik, A. B., & Palmer, K. E. (2016). Studies in a murine model confirm the safety of griffithsin and advocate its further development as a microbicide targeting HIV-1 and other enveloped viruses. Viruses, 8(11), 311.
【非特許文献3】Coves-Datson, E. M., et al., (2019). Inhibition of Ebola virus by a molecularly engineered banana lectin. PLoS neglected tropical diseases, 13(7), e0007595.
【非特許文献4】Swanson, M. D., et al., (2015). Engineering a therapeutic lectin by uncoupling mitogenicity from antiviral activity. Cell, 163(3), 746-758.
【非特許文献5】Garrison, A. R., et al., (2014). The cyanobacterial lectin scytovirin displays potent in vitro and in vivo activity against Zaire Ebola virus. Antiviral research, 112, 1-7.
【非特許文献6】Adam, J., et al. Engineering of PA-IIL lectin from Pseudomonas aeruginosa - Unravelling the role of the specificity loop for sugar preference. BMC Struct Biol 7, 36 (2007). https://doi.org/10.1186/1472-6807-7-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、新たな抗ウイルス剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フコース結合型レクチンにエボラウイルスまたはSARSコロナウイルス2(新型コロナウイルス、SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス作用があることを見出した。
従って、ある態様では、本開示は、フコース結合型レクチンを含む、エボラウイルスまたはSARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、エボラウイルスまたはSARSコロナウイルス2に対する新たな抗ウイルス剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】SARS-CoV-2に対する各種レクチンの細胞保護作用を示す。
【
図2】SARS-CoV-2に対するPA-IILと変異体の細胞保護作用を示す。
【
図3】VSV-EBOVに対する各種レクチンの細胞保護作用を示す。
【
図4】VSV-EBOVに対するPA-IILと変異体の細胞保護作用を示す。
【
図5】VSV-EBOVに対するThCおよびPA-IILと変異体の細胞保護作用を示す。
【
図6】VSV-EBOVに対する0.9μMのThCおよびPA-IILと変異体の細胞保護作用を示す。
【
図7】ThCと類似するアミノ酸配列を持つレクチンの系統樹を示す。
【
図8】rThC、PA-IIL、BC2LCctの構造を示す。
【
図11】rThCQ25K変異体におけるG131のコンフォメーション変化を示す。
【
図13】レクチンの単糖結合ループのアミノ酸配列の比較を示す。
【
図14】表面プラズモン共鳴によるSARS-CoV-2の発現スパイクタンパク質とThCの結合解析の結果を示す。
【
図15】SARS-CoV-2のスパイクタンパク質にThCを添加した際のネガティブ染色電顕画像を示す。矢印はThCにより凝集したスパイクタンパク質を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0012】
特に具体的な定めのない限り、本開示で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本開示で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本開示において、一般的な理解に優先する。
【0013】
後述する実施例に記載する通り、発明者らは、海綿由来のレクチンであるThCに、エボラウイルスおよびSARSコロナウイルス2(新型コロナウイルス)に対する抗ウイルス作用があることを見出した。さらに、ThCのX-線構造解析を行い、その構造がバクテリア由来のレクチンであるBC2La、BC2L-Cct、PA-IIL、CV-IIL、RS-IILに類似することを見出した。これらのレクチンのThCに対する配列相同性は20%程度であるが、構造はThCと高い類似性を示した。ThCおよびこれらのバクテリア由来レクチンは、フコースまたはマンノースに結合する。ThC、PA-IILおよびCV-IILはフコース結合性を有し、BC2La、BC2L-CctおよびRS-IILはフコース結合性を有さない。フコースに結合するPA-IILは、ThCと同様にエボラウイルスおよびSARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス作用を示した。また、フコースに結合しないBC2L-Cctに抗ウイルス作用は見られなかった。さらに、ThCとは構造が異なるフコース結合型レクチンであるAALにも、エボラウイルスに対する抗ウイルス作用が確認された。従って、フコース結合型レクチンには、エボラウイルスまたはSARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス作用があり、抗ウイルス剤として使用し得る。
【0014】
レクチンとは、2価以上の結合サイトを持つ糖結合タンパク質の総称であり、細菌、真菌、植物、動物等に幅広く存在する。本開示において、「フコース結合型レクチン」は、フコースを含む糖鎖に親和性を有するレクチンを意味する。
典型的には、本開示のフコース結合型レクチンは、下記の構造的特徴を有する。
1) 110~135個のアミノ酸残基からなる、
2) 配列番号1のアミノ酸配列の第24位~第28位に相当するアミノ酸配列がフコース結合配列である、
3) 配列番号1のアミノ酸配列の第107位~第120位に相当するアミノ酸配列がカルシウム結合配列である、および、
4) 配列番号1のアミノ酸配列の第131位に相当するアミノ酸残基がC末端である。
【0015】
理論により限定されないが、C末端のアミノ酸残基はレクチンの2量体形成およびカルシウムイオンとの結合に関与すると考えられる。例えば、ThCは、βサンドイッチ構造を持つ2つのプロトマーがホモ2量体を形成する構造を有する。2量体の両端には2つのカルシウムイオンが結合し、C末端のグリシンのカルボキシル基がもう一方のプロトマーに入り込む特有の構造を取ることにより、カルシウムイオンおよび糖と強く結合する。バクテリア由来のPA-IILおよびBC2LC-ctも類似の構造を有する。フコース結合型レクチンのC末端のアミノ酸残基は、好ましくはグリシンまたはアラニンであり、より好ましくはグリシンである。
【0016】
レクチンには、単糖結合配列と呼ばれる5個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列が保存されている。フコース結合性を有するThC、PA-IILおよびCV-IILでは、単糖結合配列の3番目のアミノ酸はセリンであり、フコース結合性を有さないBC2La、BC2L-CctおよびRS-IILでは、単糖結合配列の3番目のアミノ酸はアラニンである。理論により限定されないが、3番目のアミノ酸がセリンである単糖結合配列、即ち、フコース結合配列を有するレクチンは、フコース結合性を有すると考えられる。
【0017】
フコース結合配列は、式:X1-X2-S-X3-X4で表される。
式中、
X1はVまたはAであり、
X2はQまたはNであり、
X3はSまたはAであり、
X4はR、GまたはAである。
フコース結合配列は、好ましくは、ANSAG、VNSAAまたはVQSSRであり、より好ましくはANSAGまたはVQSSRであり、特に好ましくはANSAGである。
【0018】
また、レクチンの単糖結合にはカルシウムが必須であることが知られており、レクチンにはカルシウム結合配列と呼ばれる共通するアミノ酸配列が保存されている。
カルシウム結合配列は、式:X5-D-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-D-X14-N-Dで表される。
式中、
X5はEまたはNであり、
X6はGまたはAであり、好ましくはGであり、
X7はH、A、T、MまたはGであり、好ましくはTまたはGであり、
X8は存在しないか、または、C、SもしくはAであり、好ましくは、存在しないか、または、Aであり、
X9は存在しないか、または、I、D、EもしくはNであり、好ましくは、存在せず、
X10は存在しないか、または、VもしくはAであり、好ましくは、存在しないか、または、Aであり、
X11は存在しないか、または、Gであり、
X12はDまたはKであり、好ましくはDであり、
X13は任意のアミノ酸であり、好ましくは、S、D、N、M、Y、R、PまたはKであり、
X14はYまたはFである。
カルシウム結合配列は、好ましくは、EDGTDNDYND、EDGTDMDYNDまたはNDGGCIVGDRDFNDであり、より好ましくはEDGTDNDYNDまたはNDGGCIVGDRDFNDであり、特に好ましくはEDGTDNDYNDである。
【0019】
配列番号1はThCの代表的なアミノ酸配列であり、その第24位~第28位はフコース結合配列であり、第107位~第120位はカルシウム結合配列であり、第131位はC末端である。「配列番号1のアミノ酸配列の第24位~第28位に相当するアミノ酸配列」とは、あるレクチンのアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列を最適な状態(アミノ酸の一致が最大となる状態)にアラインメントしたときに、配列番号1の第24位~第28位のアミノ酸配列と一致する、当該レクチンにおけるアミノ酸配列を意味する。数種のレクチンを最適な状態にアラインメントした例を、
図12に示す。例えば、配列番号2のアミノ酸配列を有するPA-IILの第21位~第25位のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列の第24位~第28位に相当するアミノ酸配列である。「配列番号1のアミノ酸配列の第107位~第120位に相当するアミノ酸配列」、「配列番号1のアミノ酸配列の第131位に相当するアミノ酸」も同様に定義される。例えば、配列番号2のアミノ酸配列を有するPA-IILの第96位~第105位のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列の第107位~第120位に相当するアミノ酸配列であり、PA-IILの第115位のアミノ酸は、配列番号1のアミノ酸配列の第131位に相当するアミノ酸である。
【0020】
ある実施態様では、フコース結合型レクチンは海綿に由来する。海綿由来のフコース結合型レクチンの例には、トロンボコルティシン(ThC)が含まれる。ThCの代表的なアミノ酸配列を、配列番号1に示す。
【0021】
ある実施態様では、フコース結合型レクチンはバクテリアに由来する。バクテリア由来のフコース結合型レクチンの例には、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)-レクチンII(PA-IIL)、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)-レクチンII(CV-IIL)、オケアニア(Okeania)-レクチン、RICIN_ミクソコッカス・バクテリウム(Myxococcales bacterium)_Ctermレクチン、ズーシケラ(Zooshikella)_HPレクチンまたはスパルチニビシヌス・ルーバー(Spartinivicinus ruber)HPレクチンが含まれる。これらのレクチンの代表的なアミノ酸配列を、各々、配列番号2、5、11、12、13、14に示す。バクテリア由来のフコース結合型レクチンは、好ましくはPA-IILまたはCV-IILであり、特に好ましくはPA-IILである。
【0022】
フコース結合型レクチンは、上記の構造的特徴を持たなくてもよい。そのようなフコース結合型レクチンの例には、真菌のレクチン、例えば、スギタケ(Pholiota squarrosa)レクチン(PhoSL)およびヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia)レクチン(AAL)が含まれ、好ましくはAALである。PhoSLおよびAALの代表的なアミノ酸配列を、各々、配列番号9および10に示す。
【0023】
フコース結合型レクチンは、フコース結合性が維持されている限り、代表的なアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換あるいは付加した配列を含んでいてもよい。なお、「数個」とは、好ましくは2~7個、より好ましくは2~5個、最も好ましくは2~3個のアミノ酸を意味する。
【0024】
アミノ酸の置換はいずれの種類のアミノ酸との間で行われてもよく、保存的なアミノ酸置換が好ましい。「保存的なアミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することを意味する。アミノ酸残基はその側鎖によって、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、脂肪族側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン)、芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)、アミド側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン)、含硫側鎖(例えば、システイン、メチオニン)のように、いくつかのファミリーに分類できる。保存的なアミノ酸置換は、好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。保存的なアミノ酸置換の例としては、グルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、フェニルアラニン残基をチロシン残基に、ロイシン残基をイソロイシン残基に、イソロイシン残基をバリン残基に、ヒスチジン残基をアルギニン残基に置換することなどが挙げられる。
【0025】
フコース結合型レクチンは、フコース結合性が維持されている限り、代表的なアミノ酸配列と、BLAST等を用いて計算したときに(例えば、BLASTの初期条件のパラメーターを用いた場合に)、少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、特に好ましくは少なくとも約95%、最も好ましくは少なくとも約97%、約98%もしくは約99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0026】
本開示において、アミノ酸配列の同一性とは、タンパク質間の配列の類似の程度を意味し、比較対象の配列の領域にわたって最適な状態(アミノ酸の一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一のアミノ酸を決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内のアミノ酸の総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定され得る。
【0027】
フコース結合型レクチンは、フコース結合性が維持されている限り、任意のタンパク質またはポリペプチドとの融合タンパク質であってもよい。リンカーを介して融合していてもよい。好ましくは、レクチンのN末端に他のタンパク質またはポリペプチドが結合した融合タンパク質である。ここで、融合タンパク質を構成するタンパク質またはポリペプチドとしては、例えば、ヒスチジンタグ、GSTタグ、GFPタグ、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。
【0028】
フコース結合性は、例えば、等温滴定カロリメトリー(ITC)を用いる結合アッセイにより測定できる。本開示において、「フコース結合性が維持される」とは、元のレクチンのフコース結合性が約30%以上維持されることを意味し、100%を超えてもよい。約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上または約90%以上維持されることが好ましい。
【0029】
ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号1のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体である。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0030】
ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体である。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列を含む。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列からなる。
【0031】
ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号9または10のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列と、少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号9または10のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列と、少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号9または10のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体である。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号9または10のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列を含む。ある実施態様では、フコース結合型レクチンは、配列番号9または10のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列からなる。
【0032】
フコース結合型レクチンは、遺伝子工学的手法により、例えば、これをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを作製して細胞で発現させる方法など、公知の方法により製造することができる。具体的には、フコース結合型レクチンをコードするポリヌクレオチドがエンハンサーやプロモーターなどの発現制御領域のもとで発現するよう発現ベクターを構築し、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換して、フコース結合型レクチンを発現させ、回収する。あるいは、販売されているフコース結合型レクチンを用いてもよい。
【0033】
本開示において、「抗ウイルス剤」は、ウイルス感染症を処置または予防するための組成物を意味する。本明細書で使用されるとき、「ウイルス感染症を処置する」または「ウイルス感染症の処置」は、ウイルス感染症の原因または症状を軽減、緩和、改善または除去することを意味する。本明細書で使用されるとき、「ウイルス感染症を予防する」または「ウイルス感染症の予防」は、対象において、特に、ウイルス感染症に罹患するリスクがある対象において、罹患を防止すること、または、罹患する可能性を低減することを意味する。ウイルス感染症に罹患するリスクがある対象には、例えば、日常生活または職務においてウイルス感染症の患者に接近または接触する者が含まれる。
【0034】
本開示において提供される抗ウイルス剤は、エボラウイルスまたはSARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス作用を有する。
エボラウイルスはエボラウイルス症の原因ウイルスであり、ザイールエボラウイルス、スーダンエボラウイルス、ブンディブギョエボラウイルス、タイフォレストエボラウイルス、レストンエボラウイルス、ボンバリエボラウイルス、および、これらの変異株が含まれる。
SARSコロナウイルス2は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の原因ウイルスである。本開示において、SARSコロナウイルス2はその変異株も含む。
【0035】
抗ウイルス剤の投与方法は特に限定されず、経口投与、非経口投与、注射、輸液等の一般的な投与経路を経ることができる。非経口投与は、全身投与であっても局所投与であってもよく、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮内投与、皮下投与、経皮投与、筋肉内投与、腹腔内投与または鼻腔内投与が挙げられる。経口投与、静脈内投与または鼻腔内投与が好ましく、例えば、エボラウイルスに対しては静脈内投与が、SARSコロナウイルス2に対しては鼻腔内投与が好ましい。また、抗ウイルス剤を、手指、医療器具、避妊具などの消毒剤に加えることもできる。
【0036】
抗ウイルス剤は、固体、液体またはその間の任意の形態(例えば半固体)であり得、対象の特徴、投与方法および投与量に応じて、公知の各種製剤形態を採り得る。経口投与の剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、散剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。鼻腔内投与の剤形としては、点鼻液、点鼻スプレーなどが挙げられる。また注射による投与の剤形としては、静脈注射用、点滴投与用、活性物質の放出を延長する製剤などの医薬製剤一般の剤形を採用することができる。静脈注射用または点滴投与用の剤形としては、水性および非水性の注射溶液および注射懸濁液が挙げられる。注射用の投与形は、密閉したアンプルやバイアル中に提供されてもよく、使用直前に滅菌液体(例えば、注射用水)を加えるだけでよい凍結乾燥物として提供されてもよい。注射溶液または懸濁液を、粉末、顆粒または錠剤から調製してもよい。
【0037】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、抗酸化剤、静菌剤、等張化剤、懸濁剤、増粘剤、色素、染料、香料等が挙げられる。
【0038】
抗ウイルス剤の投与量および投与回数は、有効量の抗ウイルス剤が対象に投与されるように、投与対象の動物種、健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。ある状況での有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができる。例えば、有効成分としてのフコース結合型レクチンの重量で、約0.01~約1000mg/kg体重/日または約0.1~約100mg/kg体重/日の抗ウイルス剤を投与し得る。
【0039】
抗ウイルス剤は単回投与してもよく、複数回投与してもよく、持続投与してもよい。複数回投与する場合、例えば、1日1回~数回、例えば、1日1回、2回または3回の投与頻度で、連日または数日おきに、例えば、1日、2日、3日または7日おきに、投与し得る。投与期間は制限されず、例えば、ウイルス感染症が改善されるまで投与を継続し得る。
【0040】
ある態様では、フコース結合型レクチンを含む、エボラウイルス症またはCOVID-19を処置または予防するための組成物が提供される。
ある態様では、エボラウイルス症またはCOVID-19の処置または予防を必要としている対象にフコース結合型レクチンを投与することを含む、エボラウイルス症またはCOVID-19の処置または予防方法が提供される。
ある態様では、エボラウイルス症またはCOVID-19の処置または予防用のフコース結合型レクチンが提供される。
ある態様では、エボラウイルス症またはCOVID-19の処置または予防のためのフコース結合型レクチンの使用が提供される。
ある態様では、エボラウイルス症またはCOVID-19の処置または予防用の組成物の製造における、フコース結合型レクチンの使用が提供される。
【0041】
本開示は、例えば、下記の実施態様を提供する。
[1]フコース結合型レクチンを含む、エボラウイルスまたはSARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス剤。
[2]エボラウイルスに対する抗ウイルス剤である、第1項に記載の抗ウイルス剤。
[3]SARSコロナウイルス2に対する抗ウイルス剤である、第1項に記載の抗ウイルス剤。
[4]フコース結合型レクチンが下記の特徴を有する、第1項~第3項のいずれかに記載の抗ウイルス剤;
1) 110~135個のアミノ酸残基からなる、
2) 配列番号1のアミノ酸配列の第24位~第28位に相当するアミノ酸配列が、
X1-X2-S-X3-X4
[式中、X1はVまたはAであり、
X2はQまたはNであり、
X3はSまたはAであり、
X4はR、GまたはAである。]である、
3) 配列番号1のアミノ酸配列の第107位~第120位に相当するアミノ酸配列が、
X5-D-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-D-X14-N-D
[式中、X5はEまたはNであり、
X6はGまたはAであり、
X7はH、A、T、MまたはGであり、
X8は存在しないか、またはC、SもしくはAであり、
X9は存在しないか、またはI、D、EもしくはNであり、
X10は存在しないか、またはVもしくはAであり、
X11は存在しないか、またはGであり、
X12はDまたはKであり、
X13は任意のアミノ酸であり、
X14はYまたはFである。]である、および、
4) 配列番号1のアミノ酸配列の第131位に相当するアミノ酸残基がC末端である。
[5]配列番号1のアミノ酸配列の第24位~第28位に相当するアミノ酸配列が、ANSAG、VNSAAまたはVQSSRであり、好ましくはANSAGまたはVQSSRであり、より好ましくはANSAGである、第4項または第5項に記載の抗ウイルス剤。
[6]X6がGであり、X7がTまたはGであり、X8が存在しないか、または、Aであり、X9が存在せず、X10が存在しないか、または、Aであり、X13がS、D、N、M、Y、R、PまたはKである、第4項または第5項に記載の抗ウイルス剤。
[7]配列番号1のアミノ酸配列の第107位~第120位に相当するアミノ酸配列が、EDGTDNDYND、EDGTDMDYNDまたはNDGGCIVGDRDFNDであり、好ましくはEDGTDNDYNDまたはNDGGCIVGDRDFNDであり、より好ましくはEDGTDNDYNDである、第4項~第6項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[8]配列番号1のアミノ酸配列の第131位に相当するアミノ酸残基が、グリシンまたはアラニンであり、好ましくはグリシンである、第4項~第7項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[9]フコース結合型レクチンが海綿由来である、第1項~第8項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[10]フコース結合型レクチンが配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、第9項に記載の抗ウイルス剤。
[11]フコース結合型レクチンが配列番号1のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体である、第9項または第10項に記載の抗ウイルス剤。
[12]フコース結合型レクチンが配列番号1のアミノ酸配列を含む、第9項または第10項に記載の抗ウイルス剤。
[13]フコース結合型レクチンが配列番号1のアミノ酸配列からなる、第9項~第12項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[14]フコース結合型レクチンがバクテリア由来である、第1項~第8項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[15]フコース結合型レクチンが、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、第13項に記載の抗ウイルス剤。
[16]フコース結合型レクチンが、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体である、第14項または第15項に記載の抗ウイルス剤。
[17]フコース結合型レクチンが、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列を含む、第14項または第15項に記載の抗ウイルス剤。
[18]フコース結合型レクチンが、配列番号2、5、11、12、13および14のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号2または5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号2のアミノ酸配列からなる、第14項~第17項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[19]フコース結合型レクチンが真菌由来である、第1項~第8項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[20]フコース結合型レクチンが、配列番号9または10のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、第19項に記載の抗ウイルス剤。
[21]フコース結合型レクチンが、配列番号9または10のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列からなるレクチンまたはその天然に存在する変異体である、第19項または第20項に記載の抗ウイルス剤。
[22]フコース結合型レクチンが、配列番号9または10のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列を含む、第19項または第20項に記載の抗ウイルス剤。
[23]フコース結合型レクチンが、配列番号9または10のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列からなる、第19項~第22項のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【0042】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
以下、実施例にて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。また、上記の説明は、すべて非限定的なものであり、本発明は添付の特許請求の範囲において定義され、その技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0043】
【0044】
実施例1:タンパク質の製造
後述するバクテリアフコース結合レクチン(BFBL)の構造-活性相関の知見からレクチンのN-末端側にHis-Tagを付与しても活性に影響がないことが示されたので、4種類のN-His-Tag付きレクチン(ThC、BC2L-C C-terminal domain、PA-IIL、Griffithsin)、並びに、4種類のN-His-Tag付き変異体(PA-IIL Q81E、PA-IIL V82S、ThC Q25K、ThC G132)を可溶性分子として発現させ、大量調製した。なお、PA-IILの残基番号はNC_002516,2 3773029..3773376の配列(配列番号2)に基づいており、ThCの残基番号は天然から調製したThCの配列(配列番号1)に基づいている。
【0045】
タンパク質の発現用ベクターへのクローニング
合成遺伝子を鋳型にし、Prime STAR(登録商標) Max DNA Polymerase (Takara Bio)を用いて目的遺伝子を増幅した。DNA精製キット(Biogene)を用いて、DNAを抽出した後、各種制限酵素を用いて、37℃、一晩、消化した(Insert)。同時にpET28Mベクター(研究室自作ベクター:pET28aのマルチクローニングサイトを改変)も制限酵素を用いて、37℃、一晩、消化した(Vector)。DNA精製キットを用いてそれぞれのDNAを抽出した後、モル比でInsert:Vector = 1.5:1になるように混合し、その混合溶液と等量のT4 DNA ligase(Takara Bio)を混合し、16℃で3時間インキュベートした。インキュベート後の溶液全量を使用し、大腸菌DH5α株をヒートショック法で形質転換した。25μg/mL Kanamycinを含んだLB培地プレート上で37℃、一晩培養した。生えたコロニーを爪楊枝で突き、25μg/mL Kanamycinを含んだ5 mL LB培地に植菌した。130 rpm、37℃で一晩振とう培養した。プラスミド抽出キット(Promega)を用いて、DNAを抽出した後、サンガー法によるシーケンス解析(Eurofins genomicsに委託)を行い、挿入された配列の確認を行った。
【0046】
タンパク質の発現
作製したベクターでそれぞれ発現用大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、25μg/mL Kanamycinを含んだLB培地プレート上で37℃、一晩培養した。生えたコロニーを爪楊枝で突き、25μg/mL Kanamycinを含んだ5 mL LB培地に植菌した。130 rpm、37℃で一晩振とう培養した。その培養液を25μg/mL Kanamycinを入れた1 L LB培地1本あたり、2本(計10 mL)加え、OD600 = 0.6になるまで120 rpm、37℃で振とう培養した。培地を氷冷した後、終濃度0.2 mMになるようIsopropyl-β-D-thiogalactopyranoside (IPTG)を加え、100 rpm、22℃で一晩培養した。4000 x g、20分間遠心分離をすることで集菌し、遠心上清を捨て、沈殿を回収した。沈殿から培地成分を除去するために、沈殿をMilliQで溶解した後、50 mL 遠沈管に移し、再度5000 x g、10分間遠心分離をし、遠心上清を捨て、-30℃で保存した。
【0047】
ThC及びその変異体、BC2L-C C-terminal domain、PA-IIL及びその変異体の精製
凍結していた菌体を室温で30分程度融解し、20 mM HEPES-NaOH pH8.0, 200 mM NaCl (buffer A)のバッファーで懸濁し、超音波破砕した。その後、遠心分離(40,000 x g、60 分、4℃)をし、遠心上清を回収した。上清を0.45μmのフィルターに通した後、あらかじめ20CV以上のbuffer Aで平衡化しておいたNi-NTA樹脂に通した。概ね、破砕後上清100 mLに対し3 mLの樹脂を使用した。30CV以上の20 mM HEPES-NaOH pH8.0, 200 mM NaCl, 10 mM Imidazoleで洗浄を行い、Imidazoleのステップグラジエントをかけた溶出Buffer(20 mM HEPES-NaOH pH8.0, 200 mM NaCl, 62.5 mM Imidazole, 125 mM Imidazole, 250 mM Imidazole, 500 mM Imidazole)で溶出した。各フラクション4CV x 2回収した。それぞれのフラクションをSDS-PAGEに供し、精製度を確認した後、精製度が高いフラクションを選別し、Amicon(登録商標) Ultra 10Kを用いた限外ろ過により、濃縮した後、HiLoad(登録商標) 16/600 Superdex(登録商標) 75 pg (Cytiva)または、HiLoad(登録商標) 26/600 Superdex(登録商標) 75 pg (Cytiva)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより、分画をした。再度、SDS-PAGEに供し、精製度を確認した。
【0048】
Griffithsinの精製
凍結していた菌体を室温で30分程度融解し、20 mM HEPES-NaOH pH8.0, 200 mM NaCl (buffer A)のバッファーで懸濁し、超音波破砕した。その後、遠心分離(40,000 x g、60 分、4℃)をし、遠心上清を回収した。上清を0.45μmのフィルターに通した後、あらかじめ20CV以上のbuffer Aで平衡化しておいたNi-NTA樹脂に通した。概ね、破砕後上清100 mLに対し3 mLの樹脂を使用した。30CV以上の20 mM HEPES-NaOH pH8.0, 200 mM NaCl, 10 mM Imidazoleで洗浄を行い、Imidazoleのステップグラジエントをかけた溶出Buffer(20 mM HEPES-NaOH pH8.0, 200 mM NaCl, 62.5 mM Imidazole, 125 mM Imidazole, 250 mM Imidazole, 500 mM Imidazole)で溶出した。各フラクション4CV x 2回収した。それぞれのフラクションをSDS-PAGEに供し、精製度を確認した。
【0049】
実施例2:抗ウイルスアッセイ
レクチンの抗ウイルス活性をホスト細胞の保護を指標に調べた。ホスト細胞であるVero細胞にウイルスを感染後、細胞の生存率をMTT法で測定し、化合物存在下の生存率 (1=100%生存)を計測した。
【0050】
方法
抗SARS-CoV-2ウイルスアッセイ
II型膜貫通型セリンプロテアーゼ(Vero-TMPRSS2)を発現するVero E6細胞のコンフルエントなモノレイヤーを96ウェルプレート上に用意した。次に成長培地(10% FCS)を維持培地(2% FCS)50μLに交換した。維持培地で希釈した化合物(25μL)を各ウェルに添加し、37℃で30分間インキュベートした。維持培地(25μL)で希釈したSARS-CoV-2株JPN/TY/WK-521を各ウェルに加えた(約50×TCID50/ウェル)。37℃のCO2インキュベータ内で3日間培養した。細胞生存率はMTTアッセイで測定した。生存率は以下の式で示す:
生存率=[サンプルの吸光度-ネガティブコントロール(ウイルスのみ)の吸光度]/
[ポジティブコントロールの吸光度-ネガティブコントロールの吸光度]
【0051】
抗エボラシュードタイプウイルスアッセイ
96ウェルプレート上に Vero E6 のコンフルエントモノレイヤーを作製した。増殖培地(10% FCS DMEM)50μLを除去した。維持培地(2%FCS)で希釈した化合物(25μL)を各ウェルに添加し、37℃で30分間インキュベートした。維持培地で希釈した複製能のある水疱性口内炎ウイルス、またはエボラウイルス糖タンパク質で偽陽性化したウイルス (25μL)を各ウェルに添加した(約50×TCID50/ウェル)[Takada et al. J Virol 77(2):1069-74, 2003.]。37℃、CO2インキュベータで3日間培養後、細胞生存率はMTTアッセイで測定した。生存率は同上の式で計算した。
【0052】
結果
抗SARS-CoV-2活性
実施例1で製造したThC、Griffithsin、PA-IIL、PA-IIL Q81E、PA-IIL V82S、BC2L-C C-terminal domain、並びに、購入したコンカナバリンA(ConA、ナカライテスク)、DSA(J-ケミカル)、MPL(J-ケミカル)、ECA(J-ケミカル)、Lotus(J-ケミカル)の抗SARS-CoV-2活性を測定した。結果を
図1および2に示す。ThC、ConA、ECA、MPL、Griffithsinに阻害活性が確認された。最も強い活性を示したものはThCで、EC50は7.6μg/mLであった。ConAも強い阻害を示したが、EC50は146μg/mLでThCの1/20程度の活性であった。バクテリアフコース結合レクチンPA-IILは高濃度では細胞増殖を阻害したが、低濃度側で生存率0.4程度の弱い抗ウイルス作用を示した。また、PA-IILの変異体Q81E、V82Sでは、PA-IILの四量体構造の形成に関与すると考えられるアミノ酸が置換されているが、抗ウイルス作用は維持され、変異体間で活性に有意な差は見られなかった。強力な抗ウイルスレクチンとして知られるGriffithsinは生存率0.3程度の弱い阻害作用を示した。
【0053】
抗EBOV活性
実施例1で製造したThC、ThC Q25K、ThC G132、BC2L-C C-terminal domain、Griffithsin、PA-IIL、PA-IIL Q81E、PA-IIL V82S、並びに、購入したConA、AAL(J-ケミカル)、PSA(J-ケミカル)、LCA(J-ケミカル)、DSA、MPL、ECA、Lotusの抗EBOV活性を測定した。結果を
図3~6に示す。EBOVに最も強い活性を示したのは抗ウイルス作用が知られているGriffithsinであり、EC50は2.9μg/mLであった。フコース結合レクチンであるThCとAALも抗ウイルス作用を示した。また、PA-IILとその変異体は比較的高濃度で抗ウイルス作用を示し、EC50値は20μg/mL程度であった。0.9μMのThCとPA-IILおよびその変異体は、VSV-EBOVに対して、10μMのバナナレクチンのエボラウイルスに対する阻害作用(非特許文献2、Fig 1)と同等の効果を示した(
図6)。
【0054】
実施例3:BFBLの構造-活性相関
PA-IILは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)より見出されたレクチンであり、市販されている。一方で、本種およびバークホルデリア・セノセパシア(Burkholderia cenocepacia)のゲノムにはおよそ5000種のフコース結合性レクチンと相同性を持つ配列が存在し、フコース結合性レクチンファミリーを形成している(NCBIProtein検索結果)。また最近海洋シアノバクテリアのゲノムにも類似のレクチンの存在が認められている。フコース結合性レクチンの系統樹を
図7に示す。BFBLの構造と抗ウイルス作用の関連を探るため、強い抗ウイルス作用を示すThCの結晶構造解析を行い他のBFBLと比較した。
【0055】
方法
結晶化、X線回折データ収集、構造決定
結晶化には、約6mg/mLまで濃縮した精製タンパク質を使用した。0.1 M Tris-HCl (pH 8.5), 0.2 M MgCl2, 30% (w/v) PEG 4000からなるバッファーを用いて、天然のThC(nThC)の結晶を成長させた。nThCの回折データセットは、Advanced Photon Source (IL, USA)で収集された。nThCの回折データは、プログラムHKL2000を用いて処理された。
【0056】
nThCの位相決定には、SeMet置換したリコンビナント体(rThC)(SeMet-rThC)の結晶構造を決定した。SeMet-rThCの結晶は、100 mM酢酸ナトリウム(pH 3.3~5.5)、20% PEG3350~6000、20% PEG400からなる緩衝液から育成した。rThCが糖鎖結合活性にCa2+イオンを必要とすることが生化学的に判明したので、5 mM CaCl2存在下で結晶を得た。5 mM CaCl2存在下でのrThC Q25Kの結晶は、100 mM酢酸ナトリウム(pH 3.3~5.5)、20% PEG3350~6000、20% PEG400からなるバッファーから成長させた。精製したrThC溶液に5 mMのフコースまたはマンノースを加えて共結晶化することにより、フコースまたはマンノースと複合化したrThCの結晶を得た。X線回折実験はフォトンファクトリー(日本、つくば市)およびSPring-8(日本、播磨)で実施された。SeMet置換rThC、CaCl2存在下でのrThC、フコースとの複合体rThC、マンノースとの複合体rThCの回折データをPhoton Factoryで収集した。rThCの回折データは、プログラムXDSで処理した。
【0057】
SeMet-rThCの結晶構造は、Se-SAD法により決定した。Seの部位はプログラムHKL2MAPを用いて決定した。フェーシングとモデル構築はphenix.autosolを用いて行った。rThCの結晶構造は、SeMet-rThCの構造をサーチプローブとして、phenix.mrを用いて分子置換法により決定された。rThCとそのCa2+イオン、マンノース、フコースとの複合体の結晶構造は、rThCの構造をサーチプローブとして、分子置換法により決定した。nThCの結晶構造は、rThCの構造をサーチプローブとして、分子置換法により決定した。異常差分フーリエマップはphenix.mapsを使用して計算した。構造精密化はphenix.refineを用いて行った。
【0058】
等温滴定カロリメトリー(ITC)
ITC測定は、iTC200(GEヘルスケア社製)を用いて行った。セルに約100μM rThC、100μM BC2LC-CTD、35μM PA-IILを入れ、シリンジに1.5μMフコースまたはマンノースを充填した。120秒間に2μLずつ18回注入した。データはプログラムORIGINで解析した。
【0059】
結果
ThCの構造を解析したところ、βサンドイッチ構造を持つタンパク質で最小単位として2つのプロトマーからなるホモ2量体を形成していた。2量体の両端には2つのカルシウムイオンが結合し、C-末端アミノ酸のグリシンのカルボキシル基がもう一方のプロトマーに入り込む特有の構造を取ることによりカルシウムイオンおよび糖と強く結合している(
図8~11)。この構造をBFBLの代表であるPA-IILおよびBC2LC-ctの構造(Protein Data Bankから取得)と比較したところ、糖やカルシウムイオンとの結合様式も含めて、高い類似性を示していた(
図8)。
【0060】
次にカルシウムイオンの存在下、非存在下におけるThC、BC2L-C CTDおよびPA-IILの糖結合性を等温カロリメトリーにより定量し、サーモグラムおよび滴定曲線を作成し、結合定数を算出した。結果を下表に示す。ThCは、フコースとマンノースに対しカルシウムイオン存在下で結合し、その結合定数はそれぞれKD=4.72および66.2μMであった。カルシウムイオン非存在下では糖結合活性は示さなかった。またThCの変異体であるQ25K、G132(ThCのC末端にグリシンを付加した変異体)の糖結合性も完全に失われていた。BC2L-C CTDは、カルシウムイオン存在下でマンノースと結合したがフコースに対する結合は観察されなかった。PA-IILでは、カルシウムイオン存在下でフコースに対する強い結合が認められ、マンノースに対する結合が認められた。
【0061】
【0062】
ThCと類似性の高いBFBLの配列比較
バクテリアのゲノムにフコース結合性レクチンと相同性を持つ配列は多数存在するが、BFBLタンパク質として発現が確認されているものはPA-IIL等数種である。レクチンのアミノ酸配列の比較を
図12に示す。これらのレクチンはおよそ115もしくは130程度のアミノ酸残基であり、C-末端にアミノ酸残基を付加することで、レクチン活性および抗ウイルス活性が完全に失われる。一方、PA-IILと同等の構造を持つBC2LCctには全く抗ウイルス活性がない(
図3)。これはBC2LCctがマンノース結合性レクチンであることに起因していると思われ、フコース結合性が抗ウイルス活性に重要であることを示している。これらのレクチンには単糖結合ループと呼ばれるアミノ酸配列が保存されており、特にフコース結合性レクチンではThCの26番目のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基がSerであり、マンノース結合性レクチンBC2L-C CTDおよびRS-IILではこのアミノ酸残基がAlaであることから、マンノース/フコース結合性の差異は、これらの残基に起因するものと考えられている。レクチンの単糖結合ループのアミノ酸配列の比較を
図13に示す。
【0063】
単糖結合ループの他のアミノ酸配列の役割は未知であった。そこで、ThCの25QをKに置き換えた変異体を作成し、抗ウイルス活性を調べたところ、完全に活性が消失することを確認した(
図3)。その原因として、グルタミンQがリジンKに変異することにより、Qの側鎖カルボニル酸素と、G131のアミドNHの水素結合が失われることでコンフォメーションが大きく変化し、カルシウムイオン結合性とフコース結合性が失われたことを、X-線構造解析により示した(
図11)。これらの知見から、上述のアミノ酸残基を変異させることで、バクテリアフコース結合レクチンの糖選択性や結合の強さを改変することが可能である。また、レクチン発現の際にN-末端側にヒスチジンオリゴマーを結合させた場合でも活性は失われなかったことから、N末端側に他のポリペプチドを伸長することが可能である。
【0064】
活性予測
これらの知見を総合すると、ThCの構造情報に基づいて、未知のレクチンに抗ウイルス作用があるか否かを予測することができる。具体的には、レクチンのアミノ酸配列が下記の基準を満たす場合に、抗ウイルス作用があると予想し得る。
1)アミノ酸配列が110~135残基程度である。
2)ThCの第131位に相当するアミノ酸残基がC-末端である。
3)単糖結合配列が保存されており、その3番目のアミノ酸がセリンである。
4)カルシウム結合ループのアミノ酸残基が保存されている。
【0065】
実施例4:ThCによるSARS-CoV-2スパイクタンパク質の凝集
SARS-CoV-2の発現スパイクタンパク質とThCの親和性を表面プラズモン共鳴法で調べたところ、K
Dは3.7pMと強力に結合することを見出し、ネガティブ染色電子顕微鏡解析により、スパイク蛋白質を凝集させることを確認した。結果を
図14および15に示す。PA-IILはThCとほぼ同一の構造を有することから、これらのレクチンは、スパイクタンパク質との特異的な結合でSARS-CoV-2の細胞侵入を阻止していると考えられる。
【0066】
実施例5:構造予測による他のレクチンの探索
これまでの結果から、フコースへの結合力を有するバクテリアレクチンは抗ウイルス作用を有することが示され、また、バクテリアレクチンの構造をアミノ酸配列から予測でき、それによりフコース結合性を予測できることが分かった。そこでAlphaFold(DeepMind Technologies)を用いて構造未知のバクテリアレクチンの立体構造を予測したところ、ThCと高いアミノ酸配列の相同性を示すOkeania、RICIN_Myxococcales_bacterium_Cterm、Zooshikella_HP、Spartinivicinus_ruberHPのレクチンの構造は、ThCとほぼ一致した。したがってこれらのバクテリアレクチンはフコースに結合し、ThCと同等の抗ウイルス活性があるものと予測できる。
【0067】
上記の実験結果を下表にまとめる。
【表3】
◎:細胞保護作用が強い
○:細胞保護作用がある
△:細胞保護作用はあるが、細胞にわずかな異常が見られる
×:細胞保護作用がない
-:未測定