IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧

特開2023-112544情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体
<>
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図1
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図2
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図3
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図4
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図5
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図6
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図7
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図8
  • 特開-情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112544
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20230804BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014402
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】菊地 悠太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 航
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC12
(57)【要約】
【課題】金属有機構造体の吸脱着特性を効率的に推定することができる情報処理方法等を提供する。
【解決手段】情報処理方法は、金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する
情報処理方法。
【請求項2】
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力して前記第2パラメータを出力する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記金属有機構造体における前記第1パラメータと、前記第1パラメータ及び前記第2モデルを用いて得られた前記第2パラメータとを前記第1モデルに入力する
請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記第2パラメータが空隙率である
請求項2又は請求項3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記第1モデルにより出力された前記吸脱着特性に基づいて、前記吸脱着特性が所定条件を満たす金属有機構造体を抽出する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記第1モデルは、金属有機構造体における比表面積、細孔容積、結晶密度及び細孔径から選択される少なくとも1つと、空隙率とを入力した場合に、前記金属有機構造体における水の吸着性能を出力するよう学習されている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記金属有機構造体における複数のパラメータと、前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性との相関関係に基づいて、前記複数のパラメータのうち前記吸脱着特性と相関するパラメータを特定する
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項8】
特定した前記吸脱着特性と相関するパラメータが所定条件を満たす金属有機構造体を抽出し、
抽出した金属有機構造体に対し、前記第1モデルを用いて前記吸脱着特性を出力する
請求項7に記載の情報処理方法。
【請求項9】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する
処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する
処理を実行する制御部を備える
情報処理装置。
【請求項11】
金属有機構造体における複数のパラメータと、前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性とを含む訓練データを取得し、
前記訓練データに基づき、金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習されたモデルを生成する
モデルの生成方法。
【請求項12】
候補となる金属有機構造体における複数のパラメータを取得する工程と、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する工程と、
出力された前記吸脱着特性が所定条件を満たす金属有機構造体を特定する工程と、
特定した前記金属有機構造体を得る工程とを有する
金属有機構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の情報処理方法を経て得られた、金属有機構造体。
【請求項14】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の情報処理方法を経て得られた金属有機構造体を含む、複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理方法、プログラム、情報処理装置、モデルの生成方法、金属有機構造体の製造方法、金属有機構造体及び複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性化合物である金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework、以下MOFとも称する。)は、多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)とも呼ばれる材料である。MOFは、金属と有機配位子との相互作用により形成された高表面積の配位ネットワーク構造を有する。
【0003】
MOFは上述した構造により水やガス、有機分子等を吸着又は脱着する特性を示すことから、多様な材料として利用できる。そのため、MOFに関する研究・開発が進められている。特許文献1には、低湿度条件下でも高い吸湿性能を有する金属有機構造体の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-11943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高い要求性能を示すMOFを製造する場合には、多数存在するMOFの中から、各MOFの特性を評価することにより、利用目的に応じた特性を満たすMOFを選択し、製造対象とするMOFを決定する必要がある。多数のMOFにおける特性を個々に評価することは、時間やコストを要する。
【0006】
本開示の目的は、MOFの吸脱着特性を効率的に推定することができる情報処理方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る情報処理方法は、金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する。
【0008】
本開示の一態様に係るモデルの生成方法は、金属有機構造体における複数のパラメータと、前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性とを含む訓練データを取得し、前記訓練データに基づき、金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習されたモデルを生成する。
【0009】
本開示の一態様に係る金属有機構造体の製造方法は、候補となる金属有機構造体における複数のパラメータを取得する工程と、金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する工程と、出力された前記吸脱着特性が所定条件を満たす金属有機構造体を特定する工程と、特定した前記金属有機構造体を得る工程とを有する。
【0010】
本開示の一態様に係る金属有機構造体は、上述の情報処理方法を経て得られる。
【0011】
本開示の一態様に係る複合体は、上述の情報処理方法を経て得られた金属有機構造体を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、MOFの吸脱着特性を効率的に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る情報処理装置の構成を示すブロック図である。
図2】第1モデルの概要を示す説明図である。
図3】第2モデルの概要を示す説明図である。
図4】MOFデータの内容例を示す図である。
図5】相関関係を示すヒートマップの一例を示す図である。
図6】抽出結果を示すヒートマップの一例を示す図である。
図7】1次抽出に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8】2次抽出に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9】3次抽出に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。初めに、実施形態に係る情報処理装置を用いた情報処理方法について説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係る情報処理装置1の構成を示すブロック図である。情報処理装置1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な装置であり、例えばサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、量子コンピュータ等である。情報処理装置1は、後述するモデルを用いて複数のMOFにおける吸脱着特性を推定する。吸脱着特性とは、MOFの吸着又は脱着(脱離)に関する特性である。情報処理装置1は、推定した吸脱着特性に基づいて、所定の吸脱着特性を満たすMOFを抽出する。これにより、多数のMOFの中から製造(作製)対象となるMOFの候補を効率的に選別することができる。
【0016】
本実施形態では一例として、水の吸着に特化したMOFを抽出する場合を説明するが、抽出対象とするMOFに求められる吸脱着特性は水の吸着に限定されず、例えば水の脱着、ガスの吸着又は脱着、有機分子の吸着又は脱着に関する性能等であってもよい。ガスとしては、例えば二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1~4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン等が、有機分子としては、例えば炭素数5~8の炭化水素、炭素数1~8のアルコール、炭素数1~8のアルデヒド、炭素数1~8のカルボン酸、炭素数1~8のケトン、炭素数1~8のアミン、炭素数1~8のエステル、炭素数1~8のアミド等が挙げられる。なお、前記有機分子は芳香環を含んでいてもよい。
【0017】
情報処理装置1は、制御部11、記憶部12、通信部13、表示部14及び操作部15等を備える。情報処理装置1は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであってもよく、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0018】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等を備える演算処理装置である。制御部11は、内蔵するROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリ、クロック、カウンタ等を用い、各構成部を制御して処理を実行する。
【0019】
記憶部12は、ハードディスク又はSSD(Solid State Drive )等の不揮発性記憶装置を備える。記憶部12は、制御部11が参照するプログラム及びデータを記憶する。記憶部12は、複数の記憶装置により構成されていてもよく、情報処理装置1に接続された外部記憶装置であってもよい。記憶部12に記憶されるコンピュータプログラムには、MOFの吸脱着特性の推定や抽出に関する処理をコンピュータに実行させるためのプログラム1Pが含まれる。
【0020】
記憶部12に記憶されるコンピュータプログラム(コンピュータプログラム製品)は、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体1Aにより提供されてもよい。記録媒体1Aは、CD-ROM、USBメモリ、SD(Secure Digital)カード等の可搬型メモリである。制御部11は、図示しない読取装置を用いて、記録媒体1Aから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部12に記憶させる。代替的に、上記コンピュータプログラムは通信により提供されてもよい。プログラム1Pは、単一のコンピュータ上で、または1つのサイトにおいて配置されるか、もしくは複数のサイトにわたって分散され、通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0021】
記憶部12に記憶されるデータには、MOFの吸脱着特性を推定するための第1モデル121及びMOFのパラメータを推定するための第2モデル122が含まれる。第1モデル121及び第2モデル122はそれぞれ、機械学習により生成された機械学習モデルである。第1モデル121及び第2モデル122は、人工知能ソフトウェアの一部を構成するプログラムモジュールとしての利用が想定される。
【0022】
通信部13は、インターネット等のネットワークを介した通信に関する処理を行うための通信デバイスを備える。制御部11は通信部13を通して、外部装置との間で各種情報の送受信を行う。
【0023】
表示部14は、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のディスプレイ装置を備える。表示部14は、制御部11からの指示に従い、各種の情報を表示する。
【0024】
操作部15は、ユーザの操作を受け付けるインタフェースであり、例えばキーボード、ディスプレイ内蔵のタッチパネルデバイス、スピーカ及びマイクロフォン等を備える。操作部15は、ユーザからの操作入力を受け付け、操作内容に応じた制御信号を制御部11へ送出する。
【0025】
図2は、第1モデル121の概要を示す説明図である。第1モデル121は、所定の訓練データを学習済みのモデルである。第1モデル121は、MOFにおける複数のパラメータを入力として、MOFの吸脱着特性を出力する。
【0026】
MOFにおけるパラメータとは、MOFを規定するためのパラメータであり、例えばMOFの物性値、MOFの構造を表す値等が含まれる。MOFのパラメータは、当該パラメータの種類に応じて、第1パラメータ及び第2パラメータに分類される。図2に示す例にて、第1モデル121に入力されるパラメータには、4種類の第1パラメータと、1種類の第2パラメータとが含まれている。第1パラメータは、MOFの比表面積、細孔容積、結晶密度、細孔径である。第2パラメータは空隙率である。以下の説明において、第1パラメータ及び第2パラメータを区別して説明する必要がない場合には、単にパラメータとも記載する。各パラメータの詳細については後述する。
【0027】
MOFの吸脱着特性とは、製造対象となるMOFに求める特性を規定するためのものである。図2に示す例にて、第1モデル121から出力される吸脱着特性は、MOFにおける水吸着性能(水吸着量)である。吸脱着特性は、相対湿度10%における水吸着性能である第1水吸着性能と、相対湿度30%における水吸着性能である第2水吸着性能とを含む。
【0028】
第1モデル121は、例えば線形重回帰モデルである。第1モデル121は、MOFにおける各パラメータを説明変数とし、吸脱着特性を目的変数とする線形重回帰式である。線形重回帰式は、例えば以下のように表すことができる。
y=a11+a22+・・・+ann+a0
ここで、x1~xnは各パラメータであり、yは吸脱着特性であり、a0~anは係数である。
【0029】
線形重回帰式は、目的変数となる吸脱着特性それぞれについて導出されてよい。例えば、第1水吸着性能及び第2水吸着性能それぞれを出力する第1モデル121が構築されてよい。
【0030】
情報処理装置1は、MOFの第1パラメータ及び第2パラメータに、既知の水吸着性能が付与された情報群を訓練データとして予め収集して、第1モデル121を学習する。具体的には、情報処理装置1は、各パラメータを説明変数とし、水吸着性能を目的変数として、準備された訓練データに対して線形重回帰分析を実行する。情報処理装置1は、説明変数の値を引数とし、出力される値を目的変数の値とする線形重回帰式を導出する。情報処理装置1は、各データについて、出力されたy(水吸着性能)の値が正解値である水吸着性能に近づくように、係数a0~anを学習する。
【0031】
情報処理装置1は、各水吸脱着特性に対して上述したように線形重回帰式を導出する。このようにして、第1パラメータ及び第2パラメータに対し、水吸着性能を適切に推算可能に学習された第1モデル121を構築することができる。
【0032】
MOFの吸脱着特性は、MOFに含まれる金属と有機配位子との構造に影響される。例えば、比表面積が大きい場合には水吸着量が多い場合がある。例えば、空隙率が大きい場合には水吸着量が多い場合がある。これらの知見に沿った第1モデル121が生成される。
【0033】
図3は、第2モデル122の概要を示す説明図である。第2モデル122は、所定の訓練データを学習済みのモデルである。第2モデル122は、MOFにおける複数の第1パラメータを入力として、MOFにおける第2パラメータを出力する。第2パラメータは、第1パラメータとは異なる種類のパラメータである。
【0034】
第2モデル122は、例えば線形重回帰モデルである。第2モデル122は、MOFにおける各第1パラメータを説明変数とし、第2パラメータを目的変数とする線形重回帰式である。第2モデル122の構成は第1モデル121と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0035】
上述の通り、第1パラメータはMOFの比表面積、細孔容積、結晶密度、細孔径であり、第2パラメータは空隙率である。第1パラメータは、MOFの構造に関する各種パラメータであって、MOFの細孔に関する測定値又は当該測定値に基づいて計算式により算出可能なパラメータである。第2パラメータは、MOFの構造に関する各種パラメータであって、例えばX線結晶構造解析のための所定の解析ソフトウェアを用いて得られるパラメータである。すなわち、第1パラメータは、比較的測定又は算出が容易なパラメータであり、第2パラメータは、比較的測定又は算出が困難なパラメータである。
【0036】
情報処理装置1は、MOFの第1パラメータに、既知の第2パラメータが付与された情報群を訓練データとして予め収集して、第2モデル122を学習する。具体的には、情報処理装置1は、各第1パラメータを説明変数とし、第2パラメータを目的変数として、準備された訓練データに対して線形重回帰分析を実行する。情報処理装置1は、説明変数の値を引数とし、出力される値を目的変数の値とする線形重回帰式を導出する。情報処理装置1は、各データについて出力されたy(第2パラメータ)の値が正解値である第2パラメータに近づくように、係数a0~anを学習する。
【0037】
このようにして、第1パラメータに対し、第2パラメータを適切に推算可能に学習された第2モデル122を構築することができる。情報処理装置1は、入手容易な第1パラメータと、入手困難な第2パラメータとが既知であるMOFの情報を収集して第2モデル122を構築する。
【0038】
従来、空隙率は、予め算出された比表面積、細孔容積、結晶密度、細孔径及びX線結晶構造解析結果等を用いて解析ソフトウェアにより算出されている。従って、専用の解析ソフトウェアが必要とされ、また解析処理のための負担を要する。本実施形態では、第2モデル122を用いることで、任意のMOFにおける第1パラメータに基づいて、第2パラメータを容易に推算することができる。情報処理装置1は、得られた第1パラメータ及び第2パラメータを用いることで、上記第1モデル121により吸着性能を精度よく推定することができる。
【0039】
なお、第1パラメータ、第2パラメータ及び水吸脱着特性は単なる例示である。第1モデル121及び第2モデル122の入力及び出力となり得る値はそれぞれ上記の例に限定されるものではなく、抽出すべきMOFに応じて適宜選択されてよい。第1パラメータは、例えばMOFにおける分子量、式量(単位格子当たりの分子量)、金属の価数、有機配位子の官能基等を含んでもよい。吸脱着特性は、例えばMOFにおける水の脱離性能(脱離量)、各種ガスの吸着性能、各種ガスの脱離性能、繰り返し特性(例えば水又はガスを吸着又は脱離してもMOFの構造が破壊されないような最大繰り返し回数)、機械物性を含んでもよい。
【0040】
第1モデル121及び第2モデル122の構成は限定されるものではない。第1モデル121及び第2モデル122は、Lasso回帰、非線形回帰、サポートベクタマシン、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク等、他の学習アルゴリズムで構築された学習モデルであってもよい。
【0041】
第1モデル121及び第2モデル122は、情報処理装置1が生成するものに限定されず、情報処理装置1と通信可能に接続された外部装置により生成されたものを情報処理装置1が取得し、記憶部12に記憶してもよい。
【0042】
次に、本実施形態におけるMOFの抽出手法について説明する。以下では、既存のMOFの中から所定の水吸着性能を満たすMOFを抽出する例を説明する。
【0043】
MOFの抽出にあたり、予め説明変数とする第1パラメータ及び第2パラメータの種類と、目的変数とする吸脱着特性の種類とが設定される。以下の説明では、第1パラメータとして上記比表面積、細孔容積、結晶密度及び細孔径、第2パラメータとして空隙率を用いる。吸脱着特性として、上記第1水吸着性能及び第2水吸着性能を用いる。なお本実施形態では2種類の吸脱着特性を評価するが、評価対象とする吸脱着特性は1種類であってもよく3種類以上であってもよい。
【0044】
情報処理装置1は、既存のMOFに関する情報を保持するデータベースを参照して、複数の既存のMOFに係る各種パラメータ及び吸脱着特性を含むMOFデータを取得する。データベースは、自装置に記憶されるものであってもよく、又は情報処理装置1と通信可能に接続される外部機関に記憶されるものであってもよい。情報処理装置1は、一又は複数のデータベースを用いて多種のMOFの情報を広く収集することが好ましい。情報処理装置1は、データベースに記憶されるMOFのうち、所定の特性(例えば水の吸着)を有することが既知であるMOFのみを抽出するものであってよい。
【0045】
図4は、MOFデータの内容例を示す図である。MOFデータには、例えばMOFを識別するための識別情報(例えばMOFのID、名称等)をキーに、複数のパラメータ及び複数の吸脱着特性の情報を紐付けたレコードが含まれている。
【0046】
MOFデータに含まれるパラメータには、第1パラメータ(図4に示す例にて、比表面積を示すx1、細孔容積を示すx2、結晶密度を示すx3、及び細孔径を示すx4)に加え、その他複数のパラメータ(図4に示す例にて、式量を示すx5、格子定数(軸間角度)βを示すx6、格子定数(軸間角度)γを示すx7、及び格子定数(軸の長さ)aを示すx8)が含まれている。第1パラメータ以外のパラメータには、MOFに関するパラメータとして通常観察される各種パラメータが含まれてよい。
【0047】
MOFデータに含まれる吸脱着特性には、評価対象となる水吸着性能(図4に示す例にて、第1水吸着性能を示すy1、及び第2水吸着性能を示すy2)と、評価対象以外の水吸着性能(図4に示す例にて、第3の水吸着性能を示すy3)とが含まれている。なおMOFデータの吸脱着特性は、少なくとも評価対象となる水吸着性能を含むものであればよい。
【0048】
図4に示すように、MOFデータに含まれる各MOFのレコードには、全てのデータが記録されているものと、一部のデータが欠損しているものとが含まれている。
【0049】
まず初めに、複数のMOFの中から各パラメータx1~x8及び水吸着性能y1~y2に欠損値を含まないMOFを特定する。その際、少なくとも第1パラメータを含むその他所定数のパラメータのみを、欠損値有無の判定対象としてもよい。その他所定のパラメータとしては、例えば吸脱着特性に影響を及ぼし得るパラメータが挙げられる。情報処理装置1は、特定した複数のMOFにおけるパラメータx1~x8及び吸脱着特性y1~y2を取得する。
【0050】
取得した各パラメータx1~x8と各吸脱着特性y1~y2との相関関係に基づいて、各パラメータx1~x8のうち吸脱着特性y1~y2と相関するパラメータ(以下、着目パラメータとも称する)を特定する。具体的には、各パラメータx1~x8と第1水吸着性能y1とに基づき算出される相関係数が所定値以上となるパラメータを特定する。同様に、各パラメータx1~x8と第2水吸着性能y2とに基づき算出される相関係数が所定値以上となるパラメータを特定する。あるいは、上記相関係数の高い順に所定数のパラメータを特定してもよい。
【0051】
特定したパラメータの相関係数を総合的に評価することにより、特定したパラメータの中から第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2の両方と相関が強い1つの着目パラメータを特定する。例えば情報処理装置1は、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2の相関係数の合計値が最も高いパラメータを、着目パラメータとして選択してもよい。
【0052】
相関係数は、例えば、算式(相関係数=複数のデータに含まれる第1データの値と、複数のデータに含まれる第1データ以外の第2データの値との共分散/(第1データの値の標準偏差×第2データの値の標準偏差))を用いることにより算出することができる。
【0053】
上記着目パラメータは、情報処理装置1が決定するものに限定されず、担当者等のユーザからの選択を受け付けることにより取得されるものであってもよい。情報処理装置1は、上述の処理にて算出した相関係数を表示部14を介して出力する。その際、情報処理装置1は、例えばヒートマップを用いて相関係数を可視化して出力してもよい。
【0054】
図5は、相関関係を示すヒートマップの一例を示す図である。図5に示す例にて、ヒートマップは、縦軸及び横軸の両方を各パラメータx1~x8及び吸脱着特性y1~y3の種類とするマトリクス図である。マトリクス図中における各領域には、対応するパラメータと吸脱着特性との相関係数が表示され、さらに相関係数に応じた彩色が施されている。彩色方法は限定的ではないが、例えば正の相関を有する領域を赤、負の相関を有する領域を青にて彩色するとともに、相関係数の数値(絶対値)が大きい程、濃度値が高くなるよう各領域の濃度値を変化させる。
【0055】
ユーザは、ヒートマップにより、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2と強い相関を有するパラメータを明確に認識することが可能になる。図5に示す例では、格子定数γを示すx7が、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2のいずれとも相関が最も高いことが示されている。以下では、着目パラメータとして格子定数γを示すx7が指定されたものとする。なお、着目パラメータは2種類以上が特定されてもよい。
【0056】
次いで、着目パラメータx7に対する抽出条件を決定する。抽出条件は、MOFデータに含まれる各MOFの第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2と、着目パラメータx7の値とに基づいて適宜設定されてよい。本実施形態では、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2が所定値以上であるMOFの着目パラメータx7に基づいて、着目パラメータx7の閾値(下限値)を設定する。一例として抽出条件はγ≧120である。
【0057】
情報処理装置1は、再び自装置又は外部機関のデータベースに記憶される複数の既存のMOFの情報を参照し、全てのMOFの中から、着目パラメータx7に対する抽出条件を満たすMOF、すなわちγが120°以上であるMOFを抽出する。これにより着目パラメータを用いた1次抽出が完了する。
【0058】
次に、第2モデル122を用いて、1次抽出した各MOFにおける第2パラメータを取得する。情報処理装置1は、データベースを参照して得られた各MOFの第1パラメータx1~x4を第2モデル122に入力することにより、第2パラメータである空隙率を推定する。情報処理装置1は、第2パラメータの取得に際し、第1パラメータx1~x4が欠損しているMOFを除外してもよい。
【0059】
空隙率は、第2モデル122を用いて取得するものに限定されず、例えば論文や専門書等の記載に基づいて取得してもよい。なお予め空隙率が既知であるMOFについては、第2モデル122による推定処理は不要である。
【0060】
得られた各MOFの空隙率に基づいて、空隙率に対する抽出条件を決定する。抽出条件は、各MOFの第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2と、空隙率の値とに基づいて適宜設定されてよい。この場合において、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2が既知のMOFのみを選択して抽出条件を設定することが好ましい。本実施形態では、既知の第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2が所定値以上であるMOFの空隙率に基づいて、空隙率の閾値(下限値)を設定する。空隙率の下限値は、例えば第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2が所定値以上であるMOFにおける空隙率の最小値を用いてもよく、上記最小値に所定のマージンを加味した値を用いてもよい。
【0061】
情報処理装置1は、1次抽出したMOFの中から、第2パラメータである空隙率に対する抽出条件を満たすMOF、すなわち空隙率≧所定閾値(下限値)であるMOFを抽出する。これにより第2パラメータを用いた2次抽出が完了する。
【0062】
2次抽出した各MOFについて、第1モデル121を用いて第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2を評価する。情報処理装置1は、2次抽出した各MOFの第1パラメータx1~x4及び第2パラメータを第1モデル121に入力することにより、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2を取得する。
【0063】
得られた各MOFの第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2に基づいて、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2に対する抽出条件を決定する。抽出条件は、MOFに求められる吸脱着特性に応じて適宜設定されてよい。一例として、抽出条件は第1水吸着性能y1≧所定閾値(下限値)、第2水吸着性能y2≧所定閾値(下限値)である。
【0064】
情報処理装置1は、2次抽出したMOFの中から、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2に対する抽出条件を満たすMOF、すなわち第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2がそれぞれの下限値以上であるMOFを抽出する。これにより吸脱着特性を用いた3次抽出が完了する。
【0065】
第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2に対する抽出条件は、下限値ソートに限定されず、例えば第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2の数値に基づいて、数値の高い順に所定数のMOFを抽出するものであってもよい。
【0066】
情報処理装置1は、3次抽出の結果を表示部14を介して出力する。情報処理装置1は、例えばヒートマップを用いて3次抽出の結果を可視化して出力してもよい。
【0067】
図6は、抽出結果を示すヒートマップの一例を示す図である。図6は、第1水吸着性能y1に基づく抽出結果を示すヒートマップの例を示す。図6に示す例にて、ヒートマップは、縦軸をMOFの識別情報、横軸を第1水吸着性能y1とする図である。図6では、横軸の項目としてさらに、第1パラメータ、第2パラメータ、着目パラメータ、他の吸脱着特性が含まれている。横軸の他の項目は必須ではないが、並列的に表示することで他の項目との関係性を効率的に把握することができる。
【0068】
縦軸に示されるMOFは、第1水吸着性能y1の値に従って並べられる。図6に示す例にて、第1水吸着性能y1が最も小さいMOFを最上部に配置している。図中における各領域には、第1水吸着性能y1に応じた彩色が施されている。なお第1水吸着性能y1は、予め表示対象となる全てのMOFにおける第1水吸着性能y1の最大値を1、最小値を-1とする正規化処理が施されている。情報処理装置1は、例えば第1水吸着性能y1が正の値である領域を赤、第1水吸着性能y1が負の値である領域を青にて彩色するとともに、第1水吸着性能y1の数値(絶対値)が大きい程、濃度値が高くなるよう各領域の濃度値を変化させる。
【0069】
情報処理装置1は、同様にして第2吸着性能y2に基づく抽出結果を示すヒートマップを生成し出力する。ユーザは、ヒートマップにより、各MOFに対する第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2の評価結果を明確に認識することが可能になる。
【0070】
ユーザは、3次抽出の結果に基づいて、抽出された各MOFの合成難易度や有機配位子の入手難易度等を考慮し、製造候補となるMOFを最終的に決定する。
【0071】
図7は、1次抽出に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。以下の各フローチャートにおける処理は、情報処理装置1の記憶部12に記憶するプログラム1Pに従って制御部11により実行されてもよく、制御部11に備えられた専用のハードウェア回路(例えばFPGA又はASIC)により実現されてもよく、それらの組合せによって実現されてもよい。
【0072】
情報処理装置1の制御部11は、抽出処理に用いる第1パラメータx1~x4、第2パラメータ及び吸脱着特性y1~y2の種類を取得する(ステップS11)。制御部11は、例えばユーザが操作部15を操作することによる入力を受け付けることにより上記の種類を取得してもよく、又は通信接続された外部装置から送信される情報を受信することにより上記の種類を取得してもよい。
【0073】
制御部11は、自装置又は外部機関のデータベースを参照して、既存の複数のMOFにおける各パラメータx1~x8及び吸脱着特性y1~y2を含むMOFデータを取得する(ステップS12)。制御部11は、取得したMOFデータにおける複数のMOFの中から、上記各パラメータx1~x8及び吸脱着特性y1~y2に欠損値を含まないMOFのみを抽出する。
【0074】
制御部11は、所定の算式を用いて、抽出したMOFにおける各パラメータx1~x8と各吸脱着特性y1~y2との相関係数を算出する(ステップS13)。制御部11は、算出した相関係数に基づいて、各パラメータx1~x8と各吸脱着特性y1~y2との相関関係を示すヒートマップ(図5参照)を生成し、生成したヒートマップを出力する(ステップS14)。制御部11は、各パラメータx1~x8と各吸脱着特性y1~y2との相関係数に応じて、ヒートマップにおける各領域の色及びその濃度値を変化させて表示する。
【0075】
制御部11は、各パラメータx1~x8のうち吸脱着特性y1~y2と相関する着目パラメータの種類を取得する(ステップS15)。さらに、制御部11は、着目パラメータに対する抽出条件を取得する(ステップS16)。制御部11は、ユーザが操作部15を操作することによる入力を受け付けることにより、着目パラメータ及び抽出条件を取得してもよい。制御部11は、所定ルールに従い着目パラメータ及び抽出条件を特定してもよい。
【0076】
制御部11は、自装置又は外部機関のデータベースを参照して、既存の複数のMOFにおける各種パラメータ及び吸脱着特性を取得する(ステップS17)。制御部11は、各種パラメータ及び吸脱着特性を取得した全てのMOFの中から、着目パラメータに対する抽出条件を満たすMOFを抽出する(ステップS18)。一例として制御部11は、着目パラメータである格子定数γが120°以上であるMOFを抽出する。上述の処理により、1次抽出が終了する。
【0077】
図8は、2次抽出に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0078】
情報処理装置1の制御部11は、図7のステップS18にて抽出した各MOFにおける第1パラメータx1~x4を第2モデル122に入力する(ステップS21)。制御部11は、第2モデル122から出力される第2パラメータ(例えば空隙率)を取得する(ステップS22)。
【0079】
制御部11は、第2パラメータに対する抽出条件を取得する(ステップS23)。第2パラメータに対する抽出条件は、吸脱着特性y1~y2が既知のMOFにおける空隙率の値に基づいて設定されてよい。制御部11は、例えばユーザが操作部15を操作することによる入力を受け付けることにより上記抽出条件を取得してもよく、所定ルールに従い抽出条件を特定してもよい。
【0080】
制御部11は、1次抽出した全てのMOFの中から、第2パラメータに対する抽出条件を満たすMOFを抽出する(ステップS24)。一例として制御部11は、空隙率が下限値以上であるMOFを抽出する。上述の処理により、2次抽出が終了する。
【0081】
図9は、3次抽出に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0082】
情報処理装置1の制御部11は、図8のステップS24にて抽出した各MOFにおける第1パラメータx1~x4と、ステップS22にて取得した第2パラメータとを第1モデル121に入力する(ステップS31)。制御部11は、第1モデル121から出力される吸脱着特性y1~y2を取得する(ステップS32)。制御部11は、各吸脱着特性y1~y2を出力する複数の第1モデル121それぞれに第1パラメータx1~x4及び第2パラメータを入力することにより、複数の第1モデル121それぞれから出力される各吸脱着特性y1~y2を取得するものであってよい。
【0083】
制御部11は、各吸脱着特性y1~y2に対する抽出条件を取得する(ステップS33)。制御部11は、例えばユーザが操作部15を操作することによる入力を受け付けることにより上記抽出条件を取得してもよく、所定ルールに従い抽出条件を特定してもよい。
【0084】
制御部11は、2次抽出した全てのMOFの中から、各吸脱着特性y1~y2に対する抽出条件を満たすMOFを抽出する(ステップS34)。一例として制御部11は、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2がそれぞれ下限値以上であるMOFを抽出する。このようにして、3次抽出が実行される。
【0085】
制御部11は、抽出結果を示すヒートマップ(図6参照)を生成し、生成したヒートマップを出力する(ステップS35)。制御部11は、抽出した各MOFにおける各吸脱着特性y1~y2に従いMOFを並べるとともに、各吸脱着特性y1~y2に応じて、ヒートマップにおける各領域の色及びその濃度値を変化させて表示する。
【0086】
上述の処理において制御部11は、吸脱着特性として第3水吸着性能y3を含んで各処理を実行してもよい。第3水吸着性能y3は、第1水吸着性能y1及び第2水吸着性能y2と同様の処理により得られる。
【0087】
次に、本実施形態に係る情報処理方法を適用した、本実施形態に係るMOFの製造方法について説明する。
【0088】
本実施形態に係るMOFの製造方法は、候補となるMOFにおける複数のパラメータを取得する工程と、MOFにおける複数のパラメータを入力した場合に前記MOFにおける吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデル121に、取得した複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する工程と、出力された吸脱着特性が所定条件を満たすMOFを特定する工程と、特定したMOFを得る工程とを有する。
【0089】
候補となるMOFにおける複数のパラメータを取得する工程と、上記第1モデル121に取得した複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する工程とは、上述した情報処理方法と同様に行うことできる。
【0090】
出力された吸脱着特性が所定条件を満たすMOFを特定する工程は、吸脱着特性の推算値に基づいてMOFを特定する工程と、吸脱着特性の実測値に基づいてMOFを特定する工程とを含むものであってもよい。
【0091】
吸脱着特性の推算値に基づいてMOFを特定する工程では、上述した情報処理方法と同様にして第3抽出を行うことにより、第1モデル121から出力された吸脱着特性が所定条件を満たすMOFが抽出される。
【0092】
吸脱着特性の実測値に基づいてMOFを特定する工程では、抽出したMOFにおける吸脱着特性を実際に計測(観察)することにより、吸脱着特性の実測値を取得する。取得した吸脱着特性の実測値が、製造対象とする吸脱着特性の条件を満たすか否かを判定することにより、製造対象とする一又は所定数のMOFを特定する。
【0093】
特定したMOFを得る工程では、例えば水熱合成法又はソルボサーマル合成法を用いて、金属イオン源と有機配位子又はその塩とを混合することによりMOFを得ることができる。
【0094】
本実施形態において、上記情報処理方法を経て得られたMOFを提供できる。上記情報処理方法を経て得られたMOFとは、上記情報処理方法を適用したMOFであり、具体的には、上記情報処理方法により吸着又は脱離に関する吸脱着特性が出力されたMOFである。
【0095】
本実施形態において、上記情報処理方法を経て得られたMOFを含む複合体を提供できる。上記情報処理方法を経て得られたMOFを含む複合体とは、上記情報処理方法を適用したMOFを含む複合体であり、具体的には、上記情報処理方法により吸着又は脱離に関する吸脱着特性が出力されたMOFを含む複合体である。複合体は、例えば繊維、セルロース、ガラス、樹脂、金属等と、前記MOFとを混合すること、または前記MOFを付着させることにより得ることができる。
【0096】
本実施形態によれば、第1モデル121及び第2モデル122を用いて容易且つ精度よくMOFの吸脱着特性を推定することができる。得られた吸脱着特性を用いることで、良好な吸脱着特性を有するMOFを効率的に抽出することができる。
【0097】
吸脱着特性の推定に用いる第1モデル121へ入力されるパラメータには、空隙率が含まれている。空隙率は、水吸着性能と相関を有する可能性があるが、観測困難なパラメータであるため、吸脱着特性を最適化するための入力要素として用いることは容易ではない。本実施形態では、第2モデル122を用いることで、このような観測困難なパラメータを効率的に推算し得る。得られたパラメータを含めて吸脱着特性を評価することで、吸脱着特性が最適化されたMOFをより効率的に抽出することができる。
【0098】
本実施形態によれば、既知のMOFにおける吸脱着特性と、着目パラメータや空隙率との関係性に着目することにより、適正な抽出条件を効率的に特定することができる。
【0099】
上述のように開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。また、上述の実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
上述の実施の形態に示すシーケンスは限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各処理手順はその順序を変更して実行されてもよく、また並行して複数の処理が実行されてもよい。各処理の処理主体は限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各装置の処理を他の装置が実行してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
13 通信部
14 表示部
15 操作部
1P プログラム
121 第1モデル
122 第2モデル
1A 記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
情報処理方法。
【請求項2】
前記金属有機構造体における前記第1パラメータと、前記第1パラメータ及び前記第2モデルを用いて得られた前記第2パラメータとを前記第1モデルに入力する
請求項に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記第2パラメータが空隙率である
請求項又は請求項に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記第1モデルにより出力された前記吸脱着特性に基づいて、前記吸脱着特性が所定条件を満たす金属有機構造体を抽出する
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記第1モデルは、金属有機構造体における比表面積、細孔容積、結晶密度及び細孔径から選択される少なくとも1つと、空隙率とを入力した場合に、前記金属有機構造体における水の吸着性能を出力するよう学習されている
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記金属有機構造体における複数のパラメータと、前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性との相関関係に基づいて、前記複数のパラメータのうち前記吸脱着特性と相関するパラメータを特定する
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項7】
特定した前記吸脱着特性と相関するパラメータが所定条件を満たす金属有機構造体を抽出し、
抽出した金属有機構造体に対し、前記第1モデルを用いて前記吸脱着特性を出力する
請求項に記載の情報処理方法。
【請求項8】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
処理を実行する制御部を備える
情報処理装置。
【請求項10】
金属有機構造体における複数のパラメータと、前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性とを含む訓練データを取得し、
前記訓練データに基づき、金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習されたモデルを生成し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
モデルの生成方法。
【請求項11】
候補となる金属有機構造体における複数のパラメータを取得する工程と、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する工程と、
出力された前記吸脱着特性が所定条件を満たす金属有機構造体を特定する工程と、
特定した前記金属有機構造体を得る工程とを有し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
金属有機構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の情報処理方法を経て得られた、金属有機構造体。
【請求項13】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の情報処理方法を経て得られた金属有機構造体を含む、複合体。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
情報処理方法。
【請求項2】
前記金属有機構造体における前記第1パラメータと、前記第1パラメータ及び前記第2モデルを用いて得られた前記第2パラメータとを前記第1モデルに入力する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記第2パラメータが空隙率である
請求項1又は請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記第1モデルにより出力された前記吸脱着特性に基づいて、前記吸脱着特性が所定条件を満たす金属有機構造体を抽出する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記第1モデルは、金属有機構造体における比表面積、細孔容積、結晶密度及び細孔径から選択される少なくとも1つと、空隙率とを入力した場合に、前記金属有機構造体における水の吸着性能を出力するよう学習されている
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記金属有機構造体における複数のパラメータと、前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性との相関関係に基づいて、前記複数のパラメータのうち前記吸脱着特性と相関するパラメータを特定する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項7】
特定した前記吸脱着特性と相関するパラメータが所定条件を満たす金属有機構造体を抽出し、
抽出した金属有機構造体に対し、前記第1モデルを用いて前記吸脱着特性を出力する
請求項6に記載の情報処理方法。
【請求項8】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
金属有機構造体における複数のパラメータを取得し、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
処理を実行する制御部を備える
情報処理装置。
【請求項10】
金属有機構造体における複数のパラメータと、前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性とを含む訓練データを取得し、
前記訓練データに基づき、金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習されたモデルを生成し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
モデルの生成方法。
【請求項11】
候補となる金属有機構造体における複数のパラメータを取得する工程と、
金属有機構造体における複数のパラメータを入力した場合に前記金属有機構造体における吸着又は脱離に関する吸脱着特性を出力するよう学習された第1モデルに、取得した前記複数のパラメータを入力して吸脱着特性を出力する工程と、
出力された前記吸脱着特性が所定条件を満たす金属有機構造体を特定する工程と、
特定した前記金属有機構造体を得る工程とを有し、
前記パラメータは第1パラメータ及び前記第1パラメータとは異なる第2パラメータを含み、
金属有機構造体における第1パラメータを入力した場合に第2パラメータを出力するよう学習された第2モデルに、取得した前記第1パラメータを入力することにより前記第2パラメータを取得する
金属有機構造体の製造方法。