(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112613
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】茶園用除草機及び除草機構
(51)【国際特許分類】
A01B 39/18 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
A01B39/18 B
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014531
(22)【出願日】2022-02-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、農業機械技術クラスター事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000145116
【氏名又は名称】株式会社寺田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】水上 智道
(72)【発明者】
【氏名】荒木 琢也
(72)【発明者】
【氏名】雪丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】今村 健太郎
【テーマコード(参考)】
2B034
【Fターム(参考)】
2B034AA07
2B034BA01
2B034BB10
2B034BC06
2B034BE01
2B034BE05
2B034HA17
2B034HB02
2B034HB13
2B034HB19
2B034HB41
(57)【要約】
【課題】茶樹の畝間を走行しながら、畝間及び雨落ち部を効率的に除草可能な茶園用除草機、及びこの茶園用除草機に用いられる除草機構を提供する。
【解決手段】無端帯によって走行する左右一対の走行装置21,21と、左右一対の走行装置21,21を連結し茶樹Tを跨ぐことが可能な門型フレーム22と、左右一対の走行装置21,21それぞれの後方に設けられた除草機構3と、を備え、除草機構3は、雑草に接触して除草する除草処理部を備えた回転体7と、回転体7を地表からの距離を一定に保つように調整可能な処理位置保持部材52と、を有するものであり、回転体7は、上下方向に延在する軸Sを中心に横回転するものである。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端帯によって走行する左右一対の走行装置と、
前記左右一対の走行装置を連結し茶樹を跨ぐことが可能な門型フレームと、
前記左右一対の走行装置それぞれの後方に設けられた除草機構と、を備え、
前記除草機構は、雑草に接触して除草する除草処理部を備えた回転体と、
前記回転体を地表からの距離を一定に保つように調整可能な処理位置保持手段と、を有するものであり、
前記回転体は、上下方向に延在する軸を中心に横回転するものであることを特徴とする茶園用除草機。
【請求項2】
前記除草機構は、走行方向に対して水平面内で直行する方向に並設された少なくとも2つの前記回転体を有するものであることを特徴とする請求項1記載の茶園用除草機。
【請求項3】
前記除草機構は、偶数個の前記回転体を有し、そのうち半数が逆回転するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の茶園用除草機。
【請求項4】
前記回転体は、中心に前記軸が設けられた円盤状のカップ部を有するものであり、
前記除草処理部は、前記カップ部の外周部分から放射状に水平より下方向へ向けて突出した複数の線材からなるブラシで構成されたものであることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項記載の茶園用除草機。
【請求項5】
前記除草機構は、前記軸の角度を維持した状態で前記回転体を上下動させる上下動手段を有するものであることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項記載の茶園用除草機。
【請求項6】
前記除草機構は、前記回転体を、走行方向に対して左右方向へ揺動させる揺動手段を有するものであることを特徴とする請求項1~5のうちいずれか1項記載の茶園用除草機。
【請求項7】
前記除草機構は、前記軸の角度を調整する角度調整手段を有するものであることを特徴とする請求項1~6のうちいずれか1項記載の茶園用除草機。
【請求項8】
前記除草機構は、走行時に前記回転体に負荷がかかった場合に、該回転体の上昇を許容する上昇許容手段を有するものであることを特徴とする請求項1~7のうちいずれか1項記載の茶園用除草機。
【請求項9】
前記除草機構は、前記回転体の上方に位置し、平面視において該回転体の周囲に設けられたガードフレームを有するものであり、
前記ガードフレームは、走行方向の前側から後側に向けて上方向へ角度をもつものであることを特徴とする請求項1~8のうちいずれか1項記載の茶園用除草機。
【請求項10】
無端帯によって走行する左右一対の走行装置、及び該左右一対の走行装置を連結し茶樹を跨ぐことが可能な門型フレームを備えた走行車体に取り付けられる除草機構であって、
前記左右一対の走行装置それぞれの後方に設けられ、
雑草に接触して除草する除草処理部を備えた回転体と、
前記回転体を地表からの距離を一定に保つように調整可能な処理位置保持手段と、を有するものであり、
前記回転体は、上下方向に延在する軸を中心に横回転するものであることを特徴とする除草機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶園の畝間及び雨落ち部(茶園における樹冠外縁部直下付近の途上表面)の除草が可能な茶園用除草機、及びこの茶園用除草機に用いられる除草機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消費者の安全・安心に対するニーズの高まりから、有機栽培や農薬の使用量が少ない茶栽培が求められている。農薬には除草剤も含まれるため、除草作業を手作業で行うことによって、除草剤の使用量の削減が図られているのが現状である。しかしながら、手作業による除草作業には非常に多くの労力を要し、さらに、雇用労働力の確保も困難になってきている。これまで、茶園で使用可能なハンディタイプの除草機等も提案されてはいるものの(例えば特許文献1や特許文献2等参照)、生産者においては、茶樹の畝間を走行する除草機等による除草作業の機械化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭58-150901号公報
【特許文献2】実開昭59-018807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、茶樹は永年作物(樹木)であり、他の永年作物よりも植え付け間隔が狭く、管理作業を容易にするため畝の形で密集して植栽されている。さらに、機械摘採を容易にするため、樹高を維持する台切り更新(台刈り)が繰り返される。このため、雨落ち部の空間(樹冠下の高さ方向の間隔)が狭く、特に、植栽から数十年経過したような茶園では、側枝から発根し、樹冠下自体がほとんど存在しない場合もある。これらの茶園の特異性によって、これまでは、茶樹の畝間を走行する除草機等の導入が阻まれてきたというのが実情である。
【0005】
以上のことより、本発明は、茶樹の畝間を走行しながら、畝間及び雨落ち部を効率的に除草可能な茶園用除草機、及びこの茶園用除草機に用いられる除草機構を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1手段は、無端帯によって走行する左右一対の走行装置と、
前記左右一対の走行装置を連結し茶樹を跨ぐことが可能な門型フレームと、
前記左右一対の走行装置それぞれの後方に設けられた除草機構と、を備え、
前記除草機構は、雑草に接触して除草する除草処理部を備えた回転体と、
前記回転体を地表からの距離を一定に保つように調整可能な処理位置保持手段と、を有するものであり、
前記回転体は、上下方向に延在する軸を中心に横回転するものであることを特徴とする茶園用除草機である。
【0007】
ここで、上下方向に延在する軸とは、鉛直方向に延在する軸に限定されるものではなく、前記回転体が縦回転ではなく横回転できるものを含む概念である。具体的には、鉛直方向に対して、軸が上方に向かうに従い走行方向の後方や前方、あるいは左右方向に傾いていても、前記回転体が横回転するものであれば含まれる。
【0008】
本発明の第1手段では、前記除草機構が前記走行装置の後方に設けられている。このため、従来の茶園管理機において、走行装置の後方に設けられているカルチベータや肥料散布機と同様の配置となる。この結果、植え付け間隔が狭く密集して植栽されている茶園であっても、茶樹の畝間を走行させることができる。さらに、前記回転体は、横回転するものであるため、高さ方向の寸法(厚み)を抑えることができる。これにより、樹冠下の高さ方向の間隔が狭い場合や樹冠下自体がほとんど存在しない場合であっても、前記除草処理部を樹冠下に挿入しやすくなり、雨落ち部の除草も可能となる。またさらに、前記処理位置保持手段を有しているため、処理高さが安定し、前記回転体を回転させるモータ等への過負荷を抑えることができる。
【0009】
本発明の第2手段は、前記第1手段において、前記除草機構は、走行方向に対して水平面内で直行する方向に並設された少なくとも2つの前記回転体を有するものである。本発明の第2手段によれば、畝間及び雨落ち部の広い面積を除草しやすくなる。
【0010】
本発明の第3手段は、前記第1または第2手段において、前記除草機構は、偶数個の前記回転体を有し、そのうち半数が逆回転するものである。前記回転体は横方向に回転するため、走行方向に対して異なる方向に力がかかることになる。本発明の第3手段によれば、偶数個の前記回転体を有し、そのうち半数が逆回転するものであるため、走行方向に対して異なる方向にかかる力が均衡し、走行方向に対して左右の一方に寄ってしまう、といった不具合を解消することができる。
【0011】
本発明の第4手段は、前記第1~3手段において、前記回転体は、中心に前記軸が設けられた円盤状のカップ部を有するものであり、
前記除草処理部は、前記カップ部の外周部分から放射状に水平より下方向へ向けて突出した複数の線材からなるブラシで構成されたものである。ここで、前記回転体として、前記ブラシが鋼線で構成された、草刈機用のカップブラシを採用することが可能である。
【0012】
本発明の第5手段は、前記第1~4手段において、前記除草機構は、前記軸の角度を維持した状態で前記回転体を上下動させる上下動手段を有するものである。本発明の第5手段によれば、前記回転体の姿勢(傾き)を維持した状態で、該回転体の高さ調整が可能となる。
【0013】
本発明の第6手段は、前記第1~5手段において、前記除草機構は、前記回転体を、走行方向に対して左右方向へ揺動させる揺動手段を有するものである。前記走行装置が走行し前記回転体が回転しながら通過する走行面には、茶樹の根等の障害物が存在する場合がある。本発明の第6手段によれば、前記揺動手段によって茶樹の根等を避け、茶樹を傷めたり装置を破損したりする虞を回避することができる。
【0014】
本発明の第7手段は、前記第1~6手段において、前記除草機構は、前記軸の角度を調整する角度調整手段を有するものである。本発明の第7手段によれば、前記角度調整手段によって前記軸の角度を調整し、前記回転体の、地表面との接触状態を調整することができる。例えば、前記軸を、上方に向かうに従い走行方向の後方側になるように傾斜させ、前記除草処理部における後側に位置する部分を地表面に接触させる状態で前記回転体を回転させる態様を採用してもよい。この態様を採用すれば、走行状態において、前記回転体によって生じる抵抗を低減することができる。
【0015】
本発明の第8手段は、前記第1~7手段において、前記除草機構は、走行時に前記回転体に負荷がかかった場合に、該回転体の上昇を許容する上昇許容手段を有するものである。茶園の走行面は平らではなく、上り傾斜や下り傾斜があり、さらには、前述したような茶樹の根等の障害物もあって、そのような場合には、前記回転体に負荷がかかる場合がある。本発明の第8手段によれば、前記回転体にかかる負荷を、前記上昇許容手段によって吸収することができる。
【0016】
本発明の第9手段は、前記第1~8手段において、前記除草機構は、前記回転体の上方に位置し、平面視において該回転体の周囲に設けられたガードフレームを有するものであり、
前記ガードフレームは、走行方向の前側から後側に向けて上方向へ角度をもつものである。
【0017】
本発明の第9手段によれば、樹冠下の高さ方向の間隔が狭い場合や樹冠下自体がほとんど存在しない場合であっても、前記ガードフレームによって、樹冠下の枝葉を押し上げ(すくい上げ)、前記回転体を挿入し回転させる空間の確保が容易になる。
【0018】
本発明の第10手段は、無端帯によって走行する左右一対の走行装置、及び該左右一対の走行装置を連結し茶樹を跨ぐことが可能な門型フレームを備えた走行車体に取り付けられる除草機構であって、
前記左右一対の走行装置それぞれの後方に設けられ、
雑草に接触して除草する除草処理部を備えた回転体と、
前記回転体を地表からの距離を一定に保つように調整可能な処理位置保持手段と、を有するものであり、
前記回転体は、上下方向に延在する軸を中心に横回転するものであることを特徴とする除草機構である。
【0019】
本発明の第10手段は、本発明の第1~9手段における茶園用除草機の前記除草機構として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、茶樹の畝間を走行しながら、畝間及び雨落ち部を効率的に除草可能な茶園用除草機、及びこの茶園用除草機に用いられる除草機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の茶園用除草機の一例を示す斜視図である。
【
図2】(a)は、
図1に示す茶園用除草機の平面図であり、(b)は、(a)のA部を拡大して示す図である。
【
図4】(a)は、
図1に示す茶園用除草機の側面図であり、(b)は、(a)のC部を拡大して示す図である。
【
図5】(a)は、
図2(a)における、ガードフレームの一部を切り欠いて示す、B-B線部分断面図であり、(b)は、本発明の角度調整手段を説明するための図である。
【
図7】本発明の上昇許容手段を説明するための図である。
【
図8】(a)は、角度調整手段によって軸Sの角度を傾斜させた状態の回転体を示す図であり、(b)は、
図2(b)に示す除草処理ユニットの平面図である。
【
図9】本発明の揺動手段を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の茶園用除草機1の一例を示す斜視図であり、
図2は、
図1に示す茶園用除草機1の平面図である。また、
図3は、
図1に示す茶園用除草機1の背面図であり、
図4は、
図1に示す茶園用除草機1の側面図である。なお、
図1、
図2及び
図4では、茶園用除草機1の走行方向を白抜きの矢印で示しており、
図3では、紙面奥側に向かう方向が走行方向となる。以下、茶園用除草機1の走行方向を基準として、前(前側、前方)、後(後側、後方)、左(左側)、右(右側)を用いて説明する。すなわち、
図3において両矢印で示すように、茶園用除草機1の走行方向に対して水平面内で直交する方向が左右方向となる。
【0023】
図1~
図4に示すように、茶園用除草機1は、走行車体2と除草機構3を有している。走行車体2は、無端帯によって走行する左右一対の走行装置21,21と、左右一対の走行装置21,21を連結し茶樹Tを跨ぐことが可能な門型フレーム22と、を備えている。また、走行車体2には運転席23が設けられ、運転席23には、走行装置21等を操作する、操縦かん、操作レバー及びスイッチ類などが配置されている。
【0024】
本実施形態では、走行車体2として、施肥や防除のための乗用型茶園管理機を採用している。この乗用型茶園管理機は、作業内容に応じて、走行装置21の後方に耕耘機構(カルチ機構)や肥料散布機構等が設けられるものである。このため、走行車体2には、耕耘機構等を上下動させる油圧シリンダ24が設けられている。なお、油圧シリンダ24や、詳しくは後述する油圧モータ61(
図5等参照)等に接続された油圧ホースHは、図面が煩雑になるため
図1のみに示し、
図2以降では省略している。また、走行車体2として、摘採装置を備えた乗用型茶葉摘採機を採用してもよく、この態様の場合には、油圧シリンダ24を乗用型茶葉摘採機に設ければよい。
【0025】
図4に示すように、除草機構3は、詳しくは後述する回転体7(
図5等参照)を有する除草処理ユニット5と、除草処理ユニット5を上下動させる上下動ユニット4とを備えている。
図4(b)は、同図(a)の一点鎖線で囲んだC部の拡大図である。また、
図4(b)では、除草処理ユニット5を上昇させた状態を二点鎖線で示し、除草処理ユニット5が下降して、処理位置保持部材52によって支持されている状態を実線で示している。本実施形態では、自重によって除草処理ユニット5が下降する形態を採用している。また、処理位置保持部材52は、詳しくは後述するガードフレーム51に取り付けられた取付部521と、この取付部521に対して、上下方向にスライド可能に設けられた脚部522を有している。両矢印で示すように、取付部521に対して脚部522をスライドさせることによって、除草処理ユニット5の高さ位置を調整することができる。
【0026】
図4(b)に示すように、上下動ユニット4は、走行装置21に設けられた第1取付部41に、持ち上げアーム43の基部が、左右方向に延在する第1軸42によって回動自在に取り付けられている。持ち上げアーム43は、走行装置21の後端部分との干渉を避けるため、「へ」の字状に屈曲したものであり、その先端が、左右方向に延在する第2軸44によって、除草処理ユニット5側の取付部851に回動自在に取り付けられている。また、第2軸44によって、リンクプレート45の一端側が回動自在に取り付けられ、リンクプレート45の他端側とリンクシャフト47の一端側が、左右方向に延在する第3軸46によって回動自在に連結されている。リンクシャフト47の他端側は、左右方向に延在する第4軸48によって、走行装置21に設けられた第2取付部49に回動自在に取り付けられている。
【0027】
また、油圧シリンダ24のロッド241が、持ち上げアーム43に取り付けられており、油圧シリンダ24を駆動させることで、除草処理ユニット5が上昇し、また、除草処理ユニット5は自重によって下降する。ここで、持ち上げアーム43、リンクプレート45、リンクシャフト47、及び第1軸42~第4軸48は、平行リンク機構と略同様の作用を奏するものである。これにより、除草処理ユニット5を、角度を維持した状態で上下動させることができる。すなわち、持ち上げアーム43、リンクプレート45、リンクシャフト47、及び第1軸42~第4軸48は、本発明における上下動手段の一例に相当し、詳しくは後述する回転体7(
図5等参照)を、軸Sの角度を維持した状態で上下動させることができる。
【0028】
図5(a)は、
図2(a)における、ガードフレーム51の一部を切り欠いて示す、B-B線部分断面図である。
図5(a)に示すように、除草処理ユニット5は、下端部分に回転体7が設けられた回転部材6を備えている。回転部材6は、走行車体2の油圧源から供給される圧油によって駆動する油圧モータ61やカップリング62等を有しており、図では概念的に示す軸Sを中心に、回転体7を横回転させることができる。
【0029】
図6は、回転体7を示す図であり、同図(a)は平面図、同図(b)は正面図、同図(c)は底面図、同図(d)は斜め上方から見た斜視図、同図(e)は斜め下方から見た斜視図である。本実施形態では、回転体7として草刈機用のカップブラシを採用している。具体的には、
図6に示すように、回転体7は、円盤状のカップ部71と、カップ部71の外周部分から放射状に水平より下方向へ向けて突出した複数の線材からなるブラシ72とを有している。このブラシ72の下端部分72aが雑草に接触して除草する部分であり、本発明における除草処理部の一例に相当する。また、カップ部71の中央には、回転軸が取り付けられる軸孔71aが形成されている。本実施形態のブラシ72は、複数の鋼線をねじって形成した束を放射状に配置したカップブラシを採用しているが、他のカップブラシを採用してもよい。
【0030】
図5等に示すように、回転体7は、軸Sを中心に横回転するものであるため、高さ方向の寸法(厚み)を抑えることができる。これにより、樹冠下の高さ方向の間隔が狭い場合や樹冠下自体がほとんど存在しない場合であっても、
図3等から分かるように、ブラシ72の下端部分72aが樹冠下に挿入しやすくなり、雨落ち部Oの除草も可能となる。また、複数の鋼線をねじって形成した束の下端部分72aによって、効率的に除草を行うことができる。
【0031】
図2(b)は、同図(a)における、一点鎖線の四角で囲んだA部を拡大して示す図である。なお、
図2(b)は、
図4(b)に示す除草処理ユニット5の平面図に相当する。
図2(b)に示すように、回転部材6は、走行方向に対して左右一対設けられ、連結部材81によって連結されている。すなわち、本実施形態では、2つの回転体7が、走行方向に対して水平面内で直行する方向に並設されている。これにより、
図3に示すように、畝間U及び雨落ち部O上に、2つの回転体7が配置されることになる。なお、
図3では、網掛けによって樹冠を概念的に示している。また、以下の説明では、畝間Uと雨落ち部Oを併せて畝間等UOと称する場合がある。
【0032】
図2(b)に示すように、連結部材81は、前側部分が平面視コ字状に開放された角度調整部材83と、上下方向に延在した揺動第1軸82によって回動可能に連結されている。また、角度調整部材83における開放された前側部分に揺動部材84が挿入され、
図5(a)に示すように、角度調整部材83と揺動部材84が、左右方向に延在した角度調整軸88によって回動可能に連結されている。
【0033】
図2(b)に示すように、揺動部材84は、基端部材85と、上下方向に延在した揺動第2軸86によって回動可能に連結されている。基端部材85は、前述した、持ち上げアーム43が連結される、左右一対の取付部851,851が設けられている部材である。また、
図5(a)に示すように、基端部材85は、平行維持部材87によって、回転部材6の取付部63にも連結されている。
【0034】
図2(b)に示すように、基端部材85には、ガードフレーム51が固定され、ガードフレーム51には、処理位置保持部材52が取り付けられている。本実施形態のガードフレーム51は、
図2(b)に示す平面視において、一対の回転体7,7の周囲に設けられた枠状の部材であり、
図5(a)に示すように、回転体7の上方に位置している。また、ガードフレーム51は、走行方向の前側から後側に向けて上方向へ角度(例えば10°程度)をもつものである。これにより、樹冠下の高さ方向の間隔が狭い場合や樹冠下自体がほとんど存在しない場合であっても、ガードフレーム51によって、樹冠下の枝葉を押し上げ(すくい上げ)、回転体7を挿入し回転させる空間の確保が可能になる。また、
図3及び
図4(b)に示すように、ガードフレーム51における左右両側部分には、垂下して設けられた垂下プレート53が設けられている。この垂下プレート53は、石などの飛散を防止するためのものであり、例えば、やや硬めのゴムによって構成されている。
【0035】
図5(b)は、本発明の角度調整手段を説明するための図であり、同図(a)の回転部材6と角度調整手段を抜き出して示している。本実施形態では、主として、角度調整部材83、角度調整軸88、及びボルトとナットからなる固定部材89によって角度調整手段を構成している。
【0036】
図5(b)に示すように、角度調整部材83には、円弧状の長孔83aが形成されており、この長孔83aに固定部材89が挿入されている。角度調整部材83は、角度調整軸88によって回動可能に構成されており、固定部材89によって所定の角度で固定される。これにより、回転体7の軸Sの角度を調整することができる。
図5(b)では、軸Sが鉛直方向の状態を一点鎖線で示し、軸Sを、上方に向かうに従い走行方向の後方側になるように角度α(例えば3°程度)傾斜させた状態を実線で示している。
【0037】
角度調整手段によって軸Sの角度を調整した後、前述したようにして処理位置保持部材52によって回転体7の高さを調整すればよい。例えば、
図5(b)に実線で示す状態において、最も低くなる、ブラシ72の後側の下端部分72aが、畝間Uの地表面よりも数mm程度低くなるように調整する。
【0038】
ここで、茶園の走行面(畝間U)や雨落ち部O(畝間等UO)は平らではなく、上り傾斜や下り傾斜、さらには茶樹の根等の障害物がある。本実施形態では、そのような上り傾斜等を走行する際に回転体7にかかる負荷を吸収する上昇許容手段を備えている。
図7は、本発明の上昇許容手段を説明するための図であり、回転体7が上り傾斜にさしかかろうとする様子を示している。なお、
図7では、一点鎖線の楕円で囲んだD部を上方から見た図を、実線の楕円で囲んで示している。本実施形態では、主として、左右一対の対向片431,431、摺動ピン432及びばね433によって上昇許容手段を構成している。
【0039】
図7に示すように、持ち上げアーム43の上端部分に、左右方向に対向する状態で一対の対向片431,431が設けられている。一対の対向片431,431それぞれには、走行方向に延びた開口431aが形成されている。油圧シリンダ24におけるロッド241の先端は、一対の開口431a,431aに挿通された取付ピン242によって持ち上げアーム43と連結されている。一対の対向片431,431間には、ばね433が配置され、取付ピン242とばね433との間には、一対の開口431a,431aに挿通された摺動ピン432が配置されている。
【0040】
図7に示すように、回転体7が上り傾斜にさしかかると、回転体7に対して、畝間等UOに押さえつけられる方向の負荷が生じる。本実施形態の上昇許容手段によれば、ロッド241の先端に設けられた取付ピン242、さらには摺動ピン432が、ばね433の付勢力に抗して後方にスライドする。これにより、回転体7の上昇が許容され、回転体7等にかかる負荷が軽減される。なお、茶樹の根等の障害物に回転体7が接触した場合も、回転体7の上昇が許容されることによって、回転体7等にかかる負荷が軽減される。また、回転体7が下り傾斜にさしかかると、回転体7に対して浮き上がろうとする力が生じるが、これについても、上昇許容手段によって吸収することができる。
【0041】
次いで、
図8を用いて回転体7の回転方向について説明する。
図8(a)は、
図5を用いて前述した角度調整手段によって、軸Sの角度を傾斜させた回転部材6について2つの状態を示している。
図8(a)の右側に実線で示す回転部材6は、
図5(b)と同様に、軸Sを、上方に向かうに従い後方側になるように傾斜させた状態である。この状態では、前述したように、ブラシ72の後側の下端部分72aが畝間等UOに接触する。他方、
図8(a)の左側に一点鎖線で示す回転部材6’は、軸S’を、上方に向かうに従い前方側になるように傾斜させた状態である。この状態では、ブラシ72の前側の下端部分72aが畝間等UOに接触する。
【0042】
図8(b)は、
図2(b)と同じく、
図4(b)に示す除草処理ユニット5の平面図である。
図8(a)において実線で示す、ブラシ72の後側の下端部分72aが畝間等UOに接触する態様の場合には、実線の矢印で示すように、右側の回転体7を時計回りに回転させ、左側の回転体7を反時計回りに回転させる。他方、
図8(a)において一点鎖線で示す、ブラシ72の前側の下端部分72aが畝間等UOに接触する態様の場合には、一点鎖線の矢印で示すように、右側の回転体7を反時計回りに回転させ、左側の回転体7を時計回りに回転させる。すなわち、畝間等UOに接触する下端部分72aが、内側(畝間Uの中央)に向かうように回転体7を回転させる。この態様を採用すれば、回転体7を回転させながら畝間等UOを走行すると、畝間等UOの土が内側に寄っていく。反対に、畝間等UOに接触する下端部分72aが、外側(茶樹T側)に向かうように回転体7を回転させると、畝間等UOの土や回転体7で除草された雑草も畝間等UOの外側に飛散してしまう。このため、茶園用除草機1によって除草処理を実施する度に畝間等UOの土量が減少してしまうという問題がある。なお、畝間等UOの土が内側に寄っても、その上を走行装置21が走行することによって鎮圧されるので問題は生じない。
【0043】
さらに、回転体7は横回転なので、走行方向に対して異なる方向に力がかかることになる。この点に対しても、一対の回転体7,7の回転方向を逆回転にすることで、走行方向に対して異なる方向にかかる力が均衡し、走行方向に対して左右の一方に寄ってしまう、といった不具合も生じにくい。
【0044】
また、本実施形態では、回転体7が茶樹の根等の障害物に接触した場合に、それを避ける揺動手段を備えている。本実施形態では、主として、
図2(b)に示す、連結部材81、揺動第1軸82、角度調整部材83、揺動部材84、基端部材85、揺動第2軸86及び平行維持部材87によって揺動手段を構成している。
【0045】
図9は、本発明の揺動手段の一例を説明するための図である。具体的には、
図9(b)は、揺動部材84が走行方向と平行な状態で、一対の回転体7,7が、左右方向の中央に位置する様子を示している。また、
図9(a)は、揺動部材84の後端側が右側に回動し、一対の回転体7,7が右側に揺動した様子を示している。
図9(c)は、揺動部材84の後端側が左側に回動し、一対の回転体7,7が左側に揺動した様子を示している。
【0046】
本実施形態の揺動手段は、基端部材85と回転部材6を連結する平行維持部材87(
図5(a)等参照)を備え、さらに、一対の回転体7,7を連結する連結部材81が、上下方向に延在した揺動第1軸82によって角度調整部材83と回動可能に連結されている。このため、
図9(b)に示す、一対の回転体7,7の左右方向の位置関係(平行状態)の傾きを抑えながら、一対の回転体7,7を左右に揺動させることができる。この結果、
図9(a)や同図(c)のように、一対の回転体7,7が左右に揺動した場合であっても、回転体7によって処理される面積の減少を抑えることができる。
【0047】
次に、これまで説明してきた茶園用除草機1を用いた除草処理の一例を説明する。
【0048】
茶園用除草機1を用いて畝間等UOの除草処理を行う場合には、事前に除草機構3を走行車体2の走行装置21の後方に装着しておく。そして、
図5等を用いて前述したように、角度調整部材83等からなる角度調整手段によって、回転体7の軸Sの角度を調整する。例えば、
図5(b)や
図8(a)の実線で示すように、軸Sが、上方に向かうに従い走行方向の後方側になるように調整する。
【0049】
次いで、処理位置保持部材52(処理位置保持手段)における脚部522(
図4(b)参照)を上下方向にスライドさせ、除草処理ユニット5の高さ位置を調整する。この調整は、例えば
図5(b)の実線で示すように、ブラシ72の後側の下端部分72aが、畝間等UOの地表面よりも数mm程度低くなるように調整する。これにより、回転体7を畝間UO等の地表面から一定の距離に保つことが可能になる。また、
図4(b)に示すように、持ち上げアーム43等からなる上下動手段によって、軸Sの角度を維持した状態で、回転体7の高さを調整することができる。
【0050】
その後、
図4(b)の二点鎖線で示すように、除草機構3の除草処理ユニット5を油圧シリンダ24によって上昇させ、その状態で茶畝に向けて茶園用除草機1を走行させる。茶畝へ到着したら、門型フレーム22にて茶樹Tを跨ぎ、除草機構3が畝間等UOの上方に来た時に、除草処理ユニット5を自重によって下降させ、
図4(b)に示すように、処理位置保持部材52によって畝間等UO上に除草処理ユニット5を支持させる。
【0051】
次いで、油圧モータ61を駆動させ、回転体7を回転させる。例えば、
図8(b)において実線の矢印で示すように、右側の回転体7を時計回りに回転させ、左側の回転体7を反時計回りに回転させる。その状態で、茶園用除草機1を、茶樹Tを跨いで畝間Uに沿って走行させる。
【0052】
回転体7が畝間等UOの終端部へ到達した時点で油圧モータ61を停止し、回転体7の回転を止める。そして、除草処理ユニット5を油圧シリンダ24によって上昇させ、その状態で、次の処理対象の畝間等Uの開始端部へ移動し、処理対象とする畝間等UOのすべての処理が完了するまで繰り返す。
【0053】
図3から分かるように、植え付け間隔が狭く密集して植栽されている茶園であっても、樹冠下の高さ方向の間隔が狭い場合や樹冠下自体がほとんど存在しない場合であっても、畝間U及び雨落ち部Oを除草することが可能となる。特に、本実施形態のように、走行方向の前側から後側に向けて上方向へ角度をもつガードフレーム51を設ける態様とすれば、このガードフレーム51によって、樹冠下の枝葉を押し上げ、回転体7を挿入し回転させる空間が確保しやすくなる。また、回転体7の軸Sが、上方に向かうに従い走行方向の後方側になるように調整すれば、ブラシ72の後側の下端部分72aが畝間等UOに接触する。このため、走行状態において、回転体7によって生じる抵抗を低減することができる。
【0054】
次に、本発明の茶園用除草機の効果を実証するために実施した試験について説明する。
【0055】
15m
2(0.5m×30m)の畝間等UOを処理区として設定し、本発明の茶園用除草機による除草処理と、手作業による除草作業をそれぞれ実施し、それぞれの処理区の除草にかかる時間(除草時間)を計測した。そして、除草前(令和3年7月19日)、除草直後(令和3年7月19日)、除草2週間後(令和3年8月4日)及び除草5週間後(令和3年8月23日)の雑草の状態を調査した。雑草の状態の調査はコドラート法を用いた。具体的には、畝間等UOの植生が典型的な箇所に枠(60cm×60cm)を各区1箇所設置し、枠内の中央部の畝間U(30cm×60cm)とそれ以外の雨落ち部Oで分けて、雑草を抜き取り、生草重を測定した。なお、枠の設置場所は、雨落ち部Oに草高の高い雑草(ベニバナボロギク、ダンドボロギク、オオアレチノギク、ノゲシ、コセンダングサ、セイタカアワダチソウ)がある場所(植生が典型的箇所)とした。また、茶園用除草機の走行速度は、0.1~0.2m/s程度とし、回転体7は、
図8(b)において実線の矢印で示すように、右側の回転体7を時計回りに回転させ、左側の回転体7を反時計回りに回転させた。
【0056】
表1は、畝間Uの雑草の状態を示す表であり、表2は、雨落ち部Oの雑草の状態を示す表である。
【0057】
【0058】
【0059】
除草時間は、本発明の茶園用除草機による除草処理では、2分8秒であったのに対し、手作業による除草作業では、2時間以上を要する結果となった。なお、茶園用除草機によって除草処理した畝間等UOにおいても、土量の減少は見られなかった。
【0060】
この試験結果から、畝間Uにおいては、本発明の茶園用除草機による除草処理は、手作業による除草作業に比べて、同等か、あるいはそれ以上の除草効果があることがわかる。また、雨落ち部Oは、除草効果が若干劣るものの、一定以上の除草効果が期待できる。さらに、本発明の茶園用除草機によれば、除草時間を圧倒的に短縮することができた。
【0061】
したがって、本発明の茶園用除草機によれば、茶樹の畝間Uを走行しながら、畝間U及び雨落ち部Oを効率的に除草でき、生産者に望まれていた、除草作業の機械化を達成することが可能となる。
【0062】
本発明は上述の実施例に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことが出来る。例えば、前述した実施形態では、角度調整手段を設けて軸Sの角度が調整できる構成を採用しているが、最適な角度Sが決まるようであれば、軸Sの角度が固定された構成を採用してもよい。また、前述した実施形態では、処理位置保持部材52を、回転体7よりも前側に設けているが、処理位置保持部材52の位置は特に限定されるものではない。例えば、回転体7よりも後側に設けてもよいし、さらに、処理位置保持部材52に垂下プレート53の機能を付加し、回転体7の側方に設けてもよい。
【0063】
また、前述した実施形態では、2つの回転体7が、走行方向に対して水平面内で直行する方向に並設された態様を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、大型の回転体7を一つ設ける態様でもよいし、3つ以上の回転体7を、走行方向に対して水平面内で直行する方向に並設してもよい。また、回転体7を偶数個とし、そのうち半数を逆回転させれば、走行方向に並べて配置してもよいし、走行方向に対して斜めに配置してもよい。
【0064】
またさらに、前述した実施形態では、除草処理ユニット5が自重によって下降する形態を採用しているが、油圧シリンダ等によって下降させる態様としてもよい。さらにまた、前述した実施形態では、枠状のガードフレーム51を採用しているが、樹冠下の枝葉を押し上げる(すくい上げる)部分を備えていれば、枠状のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0065】
1 茶園用除草機
2 走行車体
21 走行装置
22 門型フレーム
24 油圧シリンダ
3 除草機構
4 上下動ユニット
43 持ち上げアーム
431 対向片
432 摺動ピン
433 ばね
5 除草処理ユニット
51 ガードフレーム
52 処理位置保持部材
53 垂下プレート
6 回転部材
61 油圧モータ
7 回転体
72 ブラシ
72a 下端部分(除草処理部)
81 連結部材
83 角度調整部材
84 揺動部材
85 基端部材
S 軸
T 茶樹
U 畝間
O 雨落ち部
UO 畝間等