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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112791
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】暗渠施工装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 11/02 20060101AFI20230807BHJP
   E02B 11/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
E02B11/02 Z
E02B11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014719
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】513164451
【氏名又は名称】株式会社北海コーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100224269
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】北川 巌
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幸輝
(57)【要約】
【課題】農業者が利用するトラクタにおいても暗渠排水を施工できる暗渠施工装置を提供する。
【解決手段】暗渠施工装置が、鉛直切断刃21と、屈曲切断刃22と、鉛直切断刃21の下端にて前記鉛直切断刃21の内側及び外側にそれぞれ配置され平面視にて長方形で後方への上り傾斜を具備する内側土壌持ち上げ部材35及び外側土壌持ち上げ部材36と、前記鉛直切断刃21の後方に配置され、かつ暗渠管T及び疎水材Fを供給する資材埋設ユニット40と、を有し、進行することにより、前記鉛直切断刃21及び前記屈曲切断刃22により土壌を切断し、前記内側土壌持ち上げ部材35及び前記外側土壌持ち上げ部材36によりその上方の土壌を持ち上げて破砕し膨軟化した後、前記資材埋設ユニット40により暗渠管T及び疎水材Fを供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引されて進行することによって土壌中に暗渠排水を構築する暗渠施工装置であって、
鉛直方向に延在する鉛直板部(21b)と前記鉛直板部(21b)の前縁に沿って設けられた刃とを具備する鉛直切断刃(21)と、
前記鉛直切断刃(21)の前記鉛直板部(21b)と平行に鉛直方向に延在する上部鉛直板部(22b)及び前記上部鉛直板部(22b)の下端から前記鉛直切断刃(21)に近づくように斜め下方に延在する下部傾斜板部(22c)を含む屈曲板部と前記屈曲板部の前縁に沿って設けられた刃とを具備する屈曲切断刃(22)と、
前記鉛直切断刃(21)の下端にて前記鉛直切断刃(21)の内側に配置され、前方に向いた内側前刃(31)及びその後方に続く内側土壌持ち上げ板(32)を含み、かつ平面視にて長方形で後方への上り傾斜を具備する内側土壌持ち上げ部材(35)と、
前記鉛直切断刃(21)の下端にて前記鉛直切断刃(21)の外側に配置され、前方に向いた外側前刃(33)及びその後方に続く外側土壌持ち上げ板(34)を含み、かつ平面視にて長方形で後方への上り傾斜を具備する外側土壌持ち上げ部材(36)と、
前記鉛直切断刃(21)の後方に配置され、かつ暗渠管(T)及び疎水材(F)を供給する資材埋設ユニット(40)と、を有し、
進行することにより、前記鉛直切断刃(21)及び前記屈曲切断刃(22)により土壌を切断し、前記内側土壌持ち上げ部材(35)及び前記外側土壌持ち上げ部材(36)によりその上方の土壌を持ち上げて破砕し膨軟化した後、前記資材埋設ユニット(40)により暗渠管(T)及び疎水材(F)を供給することを特徴とする暗渠施工装置。
【請求項2】
前記内側土壌持ち上げ部材(35)及び前記外側土壌持ち上げ部材(36)の各々の前後方向の長さ及び/又は左右方向の幅が、前記鉛直切断刃(21)が土壌から受ける右向きの圧力(pr)と左向きの圧力(pl)とが同程度となるように設定されることを特徴とする請求項1に記載の暗渠施工装置。
【請求項3】
前記内側土壌持ち上げ部材(35)が、その前後方向の長さの異なる複数の内側土壌持ち上げ部材(35)の中から選択されて交換可能に取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の暗渠施工装置。
【請求項4】
前記外側土壌持ち上げ部材(36)が、その前後方向の長さ及び/又は左右方向の幅の異なる複数の外側土壌持ち上げ部材(36)の中から選択されて交換可能に取り付けられることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の暗渠施工装置。
【請求項5】
暗渠排水の施工深さを調整するために、前記鉛直切断刃(21)及び前記屈曲切断刃(22)の鉛直方向における固定位置を調整する手段を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の暗渠施工装置。
【請求項6】
前記鉛直切断刃(21)及び前記屈曲切断刃(22)の上端が回転軸(24)に固定されており、前記回転軸(24)は、一定以上のトルクがかかるまでは回転不能に固定されており、かつ一定以上のトルクがかかると回転可能となることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の暗渠施工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農産物の生産性を阻害する排水性の欠陥がありかつ土壌中の石礫や堅密な土層のために適切な排水性の改善作業が行えない農地に対し、排水性を抜本的に改善できる暗渠排水を構築するための暗渠施工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
畑作物の生産を振興するため、水田の畑地利用などによって、多様な畑作物栽培を推進し付加価値の高い農業を展開することが求められている。そのためには、畑作物の生産力を左右する農地の排水機能を向上させる排水改良技術の技術充実が必要である。この基幹技術である暗渠排水の整備には、我が国の沖積地の水田地帯にある河川周辺の石礫の多い農地や、中山間地域の石や堅密な土層がある農地においても、農家が所有するトラクタ等の作業機により、簡便で低コストに施工できる暗渠排水の施工技術の開発が求められている。
【0003】
従来の暗渠排水の工法として、土地改良事業により整備されることの多い暗渠排水については、一般的に、農林水産省監修の土地改良事業計画設計基準計画「暗渠排水」(平成29年5月制定)に、工事の手順や標準的な工法や施工上の基準が示され、それらに基づく工法がある。これらの工法を用いて排水性の劣る農地に対して施工される暗渠排水は、深さ60cm~90cm程度の位置に、多数の孔が空いている合成樹脂素材などの暗渠管を埋設し、その上に透水性の高い資材を疎水材として埋設した溝状の構造を、5~10m程度の一定間隔で設置することによって構築される。
【0004】
これら従来工法を行うための暗渠管埋設装置としては、パイプ引き込み溝を構築する回転チェーン式のトレンチャー(特許文献1)、犂体によるドレーンレイヤー(特許文献2)などが提案されている。トレンチャーは専用機で機械が複雑、大型、高価であり、土木業者が製造し所有しており市販されていない。ドレーンレイヤーの施工機はブル用大型機種もあるが、埋設深さは60cm程度と浅い。加えて施工前に予備的な土壌掘削作業が必要であり手間がかかる。トラクタ用小型機種の提案(非特許文献1)もあるが、事前に深さ40cmの溝掘りや深さ50cmの心土破砕を行なう必要があるにも関わらず、管の埋設深さは50cmと浅い。これらの課題と共に石礫のある農地では施工できない。また、これらを解決した暗渠管埋設装置(特許文献3)でも、石礫のある農地に対しては適用できなかった。
【0005】
また、資材埋設と暗渠管を埋設する装置(特許文献3)では、大きな石礫には対応できず、かつ、機械が大型で機械の左右バランスを十分とることができなかった。石礫に対応できる装置には心土破砕機(特許文献4)があるが、施工深さの調整に限界があり、かつ、装置の後ろに暗渠管や疎水材を埋設する機構を装着した場合に、機械の左右バランスを十分とることができなかった。
【0006】
これらのことから、バックホー掘削機の建設機械を用いる以外で、石礫や堅密な土層のある農地においても、多様な実施主体が、十分な排水機能をもつ深さに暗渠排水を構築できる簡便で低コスト施工技術はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-41815号公報(トレンチャー式暗渠埋設装置)
【特許文献2】特開2004-3268号公報(ドレーンレイヤー式暗渠埋設装置)
【特許文献3】特開2016-0522660号公報(特許第6187874号)(疎水材と暗渠管埋設装置)
【特許文献4】特開2020-184891号公報(心土破砕機)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「トラクタで利用できる浅層暗渠施工器」改訂版、農研機構東北農業研究センター、2019.3.30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術には、以下のような問題点がある。
(1)トレンチャーや油圧ショベルなどの掘削機の建設機械による施工方法は、高価な専用機械による施工となるため、機械コストが極めて高く、かつ限られた者しか使用できない。また、石礫のある条件ではトレンチャーは使用できず、油圧ショベルの掘削機しか使用できない。
(2)牽引式のドレーンレイヤー式は、大型機械による施工であっても埋設深さが浅く、土壌の硬さにより機械の抵抗がかかるため、埋設深さの制御が難しい。また、石礫のある条件では使用できない。
(3)大型機械で施工する場合、天候が悪いと走行により泥沼化してしまい、逆に排水不良を助長する。
(4)トラクタ用の小型牽引式のドレーンレイヤー式では、暗渠管の埋設深さは最深でも40~50cmまでと極めて浅い。また、石礫のある条件では使用できない。
(5)また暗渠管や疎水材を埋設する装置部分にかかる抵抗による装置の左右のバランスを調整する機構が従来の技術にはない。
【0010】
以上の現状に鑑み、本発明は、排水不良な農地を高生産性な農地に改良するために、石礫や堅密な土層のある農地においても農業者が簡単にトラクタ等の牽引力のみで、これまで建設機械により施工されていた構造の暗渠排水を構築することができる暗渠施工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するために、本発明は以下の構成を提供する。なお、括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付するものである。
- 本発明の態様は、牽引されて進行することによって土壌中に暗渠排水を構築する暗渠施工装置であって、
鉛直方向に延在する鉛直板部(21b)と前記鉛直板部(21b)の前縁に沿って設けられた刃とを具備する鉛直切断刃(21)と、
前記鉛直切断刃(21)の前記鉛直板部(21b)と平行に鉛直方向に延在する上部鉛直板部(22b)及び前記上部鉛直板部(22b)の下端から前記鉛直切断刃(21)に近づくように斜め下方に延在する下部傾斜板部(22c)を含む屈曲板部と前記屈曲板部の前縁に沿って設けられた刃とを具備する屈曲切断刃(22)と、
前記鉛直切断刃(21)の下端にて前記鉛直切断刃(21)の内側に配置され、前方に向いた内側前刃(31)及びその後方に続く内側土壌持ち上げ板(32)を含み、かつ平面視にて長方形で後方への上り傾斜を具備する内側土壌持ち上げ部材(35)と、
前記鉛直切断刃(21)の下端にて前記鉛直切断刃(21)の外側に配置され、前方に向いた外側前刃(33)及びその後方に続く外側土壌持ち上げ板(34)を含み、かつ平面視にて長方形で後方への上り傾斜を具備する外側土壌持ち上げ部材(36)と、
前記鉛直切断刃(21)の後方に配置され、かつ暗渠管(T)及び疎水材(F)を供給する資材埋設ユニット(40)と、を有し、
進行することにより、前記鉛直切断刃(21)及び前記屈曲切断刃(22)により土壌を切断し、前記内側土壌持ち上げ部材(35)及び前記外側土壌持ち上げ部材(36)によりその上方の土壌を持ち上げて破砕し膨軟化した後、前記資材埋設ユニット(40)により暗渠管(T)及び疎水材(F)を供給することを特徴とする。
- 上記態様において、前記内側土壌持ち上げ部材(35)及び前記外側土壌持ち上げ部材(36)の各々の前後方向の長さ及び/又は左右方向の幅が、前記鉛直切断刃(21)が土壌から受ける右向きの圧力(pr)と左向きの圧力(pl)とが同程度となるように設定されることを特徴とする。
- 上記態様において、前記内側土壌持ち上げ部材(35)が、その前後方向の長さの異なる複数の内側土壌持ち上げ部材(35)の中から選択されて交換可能に取り付けられることを特徴とする。
- 上記態様において、前記外側土壌持ち上げ部材(36)が、その前後方向の長さ及び/又は左右方向の幅の異なる複数の外側土壌持ち上げ部材(36)の中から選択されて交換可能に取り付けられることを特徴とする。
- 上記態様において、暗渠排水の施工深さを調整するために、前記鉛直切断刃(21)及び前記屈曲切断刃(22)の鉛直方向における固定位置を調整する手段を有することを特徴とする。
- 上記態様において、前記鉛直切断刃(21)及び前記屈曲切断刃(22)の上端が回転軸(24)に固定されており、前記回転軸(24)は、一定以上のトルクがかかるまでは回転不能に固定されており、かつ一定以上のトルクがかかると回転可能となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の暗渠管埋設装置と比べて以下の効果があるため、確実に暗渠排水に必要な構造を構築することができる。
(I)鉛直切断刃及び屈曲切断刃を具備する切断刃ユニットが土壌を切断すると共に、鉛直切断刃の左右両側にそれぞれ配置された内側土壌持ち上げ部材及び外側土壌持ち上げ部材を具備する土壌持ち上げユニットが土壌を持ち上げることによって、土壌を広く破砕して膨軟化させる。それにより、暗渠管埋設装置の土壌中施工部を確実に所定の深さに挿入できる。また、所定の深さと任意の間隔で自由度が高い暗渠排水を構築できる。さらに、暗渠排水周辺の土壌が膨軟化されたことによってより高い排水性の改善効果が期待できる。
(II)土壌膨軟化作用と、土壌持ち上げユニットによる左右バランス調整作用と、土壌挿入力強化作用とにより、資材の埋設が容易となる。暗渠管埋設装置の土壌中施工部を鉛直方向に土壌中に挿入する作用が働き、安定した暗渠排水の施工深さを維持できる。
(III)土壌膨軟化作用と、切断刃ユニットの形状とにより、直径が概ね30cm程度までの石が土壌中に1割程度まである条件でも、石が暗渠施工装置を通り抜けるように施工できる。これ以上の大きさの石がある場合は暗渠施工装置の安全装置が機能して施工が中断され、暗渠施工装置の破損を防止できる。
(IV)暗渠排水の施工において土壌の掘削を行わないことから、下層土に化学的に不良な土壌が有る場合でも、農地の化学性を悪化させることなく暗渠排水を構築できる。
【0013】
以上の効果により、石礫が土壌中に存在するなどの悪条件の農地において、これまで建設機械の油圧ショベルの掘削機により施工されていた高コストな暗渠排水の整備を、農業者が簡単に使用可能なトラクタ等で牽引できる暗渠施工装置を実現した。本発明は、我が国に多い中山間地域や石礫の多い沖積地などの排水不良地を改良して、高生産性で優良な農地の創出に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、暗渠施工装置の例示的実施形態の全体構成を示す概略斜視図である。
図1A図1Aは、図1の切断刃ユニットの概略正面図である。
図2図2(ア)~(オ)、図1に示した暗渠施工装置において内側土壌持ち上げ部材のみを配置し、外側土壌持ち上げ部材を配置していない従来技術の場合の動作を示している。
図3図3(ア)~(オ)は、図2と同様の断面図であるが、図1に示した本発明の暗渠施工装置を用いた場合の動作を示している。
図4図4(ア)~(エ)は、図3と同様の断面図であるが、鉛直切断刃の下端の左右両側にある内側土壌持上げ部材と外側土壌持上げ部材を、それぞれ大きさの異なる部材に交換した場合の動作を示している。
図5図5(ア)~(オ)は、図1に示した暗渠施工装置による各段階の施工手順を概略的に示した断面図である。
図6図6(ア)~(キ)は、図1に示した暗渠施工装置における切断刃ユニット及びこれに接続されたその他の構成要素の土壌への挿入深さを調整することによって暗渠排水の施工深さを調整する方法を示した断面図である。
図7図7(ア)~(ウ)の断面図は、切断刃ユニットの鉛直切断刃と屈曲切断刃に土壌中の石が衝突した時の石又は刃の挙動を示している。
図8図8(ア)(ウ)は、土壌中に巨大な埋設物がある場合の暗渠施工装置の挙動を示している。
図9図9は、図1に示した暗渠施工装置を使用して現地圃場で実用した時に施工された暗渠の構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の構成例を示した図面を参照して本発明の暗渠施工装置の実施形態を説明する。
一般的な暗渠排水は、土壌中の例えば深さ60cm~90cm程度の位置に埋設された多数の孔が空いている合成樹脂製の暗渠管と、その上に埋設された透水性の高い資材である疎水材とを有する溝状の構造物である。本発明の暗渠管埋設装置は、トラクタ等により牽引されて進行することによって、土壌中に所望の暗渠排水を構築するための機械である。
【0016】
本明細書では、暗渠施工装置の進行方向を「前方」と、その反対方向を「後方」と称する。また、暗渠施工装置の前後方向に垂直な方向を左右方向とし、前方に向いた状態で「右」側及び「左」側と称する。
【0017】
以下、図1図9を参照して本発明の暗渠施工装置10の構成及び動作を説明する。なお、説明においては複数の図を参照する場合があり、各図の説明において別の図中の符号を参照する場合がある。
【0018】
図1は、暗渠施工装置10の例示的実施形態の全体構成を示す概略斜視図である。暗渠施工装置10は、牽引されて地上を進行する装置フレーム11を含む地上進行部と、装置フレーム11の下方に位置し土壌中に挿入されて暗渠排水を施工する土壌中施工部とから構成されている。暗渠施工装置10の進行方向を矢印で示している。
【0019】
装置フレーム11の前面には、上部の1つのトップリンク12と、下部の2つのロアリンク13とを有する3点接続部が設けられている。3点接続部を用いて、農業者が所有する農耕用のトラクタ等の作業機械又はブルドーザ等の建設機械などの牽引機械に接続される。それらの牽引機械により牽引されて装置フレーム11が地上を進行することによって、土壌中施工部も土壌中を進行し、土壌中に暗渠排水を構築する。
【0020】
装置フレーム11の3点接続部の後方には、装置フレーム11の左右方向の幅の略全体に亘って延在する円柱パイプである回転軸24が配置されている。回転軸24の左右両端は、装置フレーム11の左右両端にそれぞれ配置された円筒状の回転軸保持固定ガイド25に挿入され、固定されている。回転軸保持固定ガイド25は、装置フレーム11と一体に固定されている。回転軸24の各端と回転軸保持固定ガイド25との固定は、ボルト留め、ピン留め、挟み込み、圧力締め、又は圧着等の適宜の固定具や固定手段により行われる。
【0021】
回転軸24には、下方に位置する土壌中施工部が固定されている。回転軸24と回転軸保持固定ガイド25が固定具等により互いに固定されているときは、回転軸24は、回転軸保持固定ガイド25すなわち装置フレーム11に対して回転不能である。そして、例えば土壌中施工部が石礫に衝突するなどして回転軸24に一定以上の大きなトルクがかかった場合、回転軸24と回転軸保持固定ガイド25との間の固定具等が破断されたり固定圧力を上回ったりして、回転軸24と回転軸保持固定ガイド25との接続が解除される。その結果、回転軸24は、回転軸保持固定ガイド25すなわち装置フレーム11に対して回転可能となる。
【0022】
この構造によって、回転軸24に過剰なトルクがかかっても、過剰なトルクが装置フレーム11に伝達されなくなるので、暗渠施工装置10及び牽引機械の破損を防止できる。これにより、石礫がある悪条件で排水不良の農地における暗渠排水の施工を安全に行うことができる。
【0023】
回転軸24上の中間位置には、暗渠施工装置10における土壌中施工部の切断刃ユニット20の上端部分が取り付けられる。これにより、切断刃ユニット20は、回転軸24から吊下するように上方から支持される。切断刃ユニット20の詳細は後述するが、切断刃ユニット20における鉛直切断刃21の上端鉛直延長部21aと、屈曲切断刃22の上端鉛直延長部22aとが、回転軸24に固定された一対の切断刃保持ホルダー23に下方からそれぞれ挿入される。上端鉛直延長部21a、22aは、切断刃保持ホルダー23に対して鉛直方向にスライド可能であり、所望の鉛直位置において適宜の固定具を用いて切断刃保持ホルダー23に固定される。切断刃ユニット20の鉛直位置の調整により、暗渠排水の施工深さを調整することができる。
【0024】
図1に示すように、切断刃ユニット20は、土壌中施工部のうち最前部に位置する。図1Aは、切断刃ユニット20を前方から見た概略正面図である。切断刃ユニット20は、左右方向に互いに所定の間隔を空けて配置された鉛直切断刃21と、屈曲切断刃22とを有する。鉛直切断刃21は、鉛直方向に延在する平板状の鉛直板部21bと、鉛直板部21bの前縁に沿って設けられた刃と、鉛直板部21bから上方に延長された上端鉛直延長部21aとを具備する。
【0025】
屈曲切断刃22は、鉛直切断刃21の鉛直板部21bと平行に所定の間隔を空けて延在する平板状の上部鉛直板部22bと、上部鉛直板部22bの下端から鉛直切断刃21に近づくように斜め下方に延在する平板状の下部傾斜板部22cとからなる屈曲板部を具備する。すなわち、屈曲切断刃22は、鉛直方向の中間位置にて略前後方向に延びる屈曲ラインで内側に屈曲している。屈曲角度は、例えば120°~150°程度である。屈曲切断刃22はさらに、屈曲板部の前縁に沿って設けられた刃を具備する。屈曲切断刃22はさらに、上部鉛直板部22bから上方に延長された上端鉛直延長部22aを具備する。
【0026】
鉛直切断刃21及び屈曲切断刃22の各々の刃は、前方を向いており、好ましくは波状刃であり全体的に凹に湾曲している。鉛直切断刃21と屈曲切断刃22の下端同士は、所定の間隔で離間している。図1Aに示す通り、切断刃ユニット20の全体形状は、前方から視て略U字状である。
【0027】
ここで本明細書では、鉛直切断刃21及び屈曲切断刃22の互いに対向する面を「内面」とし、内面のある側を「内側」とし、その反対の面を「外面」とし、外面のある側を「外側」と称する。
【0028】
図1に示すように、土壌持ち上げユニット30が、切断刃ユニット20の下端に配置されている。土壌持ち上げユニット30は、内側土壌持ち上げ部材35と外側土壌持ち上げ部材36とから構成されている。内側土壌持ち上げ部材35は、鉛直切断刃21の下端にて鉛直切断刃21の内側に配置されている。内側土壌持ち上げ部材35は、前方に向いた刃を具備する内側前刃31と、その後方に連結された内側土壌持ち上げ板32とから形成されており、全体として平面視にて長方形で後方への上り傾斜を有する板状部材である。
【0029】
内側土壌持ち上げ部材35の左右方向の幅は、鉛直切断刃21と屈曲切断刃22の下端同士の間の距離に等しい。内側土壌持ち上げ部材35の前後方向の長さは、必要に応じて設定される。また、長さの異なる複数の内側土壌持ち上げ部材35(すなわち長さの異なる複数の内側土壌持ち上げ板32)を用意しておき、それらの中から適切なものを選択して、互いに交換して取り付けることができる。なお、内側土壌持ち上げ部材35は、鉛直切断刃21と屈曲切断刃22の下端同士を連結しているとも言える。
【0030】
一方、外側土壌持ち上げ部材36は、鉛直切断刃21の下端にて鉛直切断刃21の外側に配置されている。外側土壌持ち上げ部材36は、前方に向いた刃をもつ外側前刃33と、その後方に連結された外側土壌持ち上げ板34とから形成されており、全体として平面視にて長方形で後方への上り傾斜を有する板状部材である。
【0031】
外側土壌持ち上げ部材36は、前後方向の長さに加え、左右方向の幅も、必要に応じて設定される。また、長さ及び/又は幅の異なる複数の外側土壌持ち上げ部材36(すなわち長さ及び/又は幅の異なる複数の外側土壌持ち上げ板34)を用意しておき、それらの中から適切なものを選択して、互いに交換して取り付けることができる。
【0032】
内側土壌持ち上げ部材35と外側土壌持ち上げ部材36の幅が同じ場合、それらを交換して取り付けることもできる。
【0033】
土壌持ち上げユニット30に含まれる内側土壌持ち上げ部材35と外側土壌持ち上げ部材36とは、鉛直切断刃21の下端において内側と外側に、すなわち左右両側にそれぞれ配置されていることになる。この構成は、切断刃ユニット20にかかる左右の圧力のバランスを取る効果があり、その結果、暗渠施工装置10の水平姿勢を最適に維持することに寄与する。後方への上り傾斜を有する内側土壌持ち上げ部材35及び外側土壌持ち上げ部材36が進行することによって、鉛直切断刃21の両側の土壌全体が持ち上げられることで、鉛直切断刃21の両側の土壌が破砕され膨軟化する。「膨軟化」とは、土壌に含まれる空気の割合が増えて土壌が柔らかくなることをいう。
【0034】
図1に示す通り、鉛直切断刃21の後方に直列して資材埋設ユニット40が配置されている。切断刃ユニット20と資材埋設ユニット40とは、適宜の連結手段により一体化されている。よって、上述した切断刃ユニット20の鉛直位置の調整を行った場合、資材埋設ユニット40も同時に位置調整されることになる。
【0035】
資材埋設ユニット40は、前後方向に直列配置された暗渠管埋設ガイド41と疎水材埋設ガイド42とを含む。暗渠管埋設ガイド41は管状であり、好ましくは管の断面は前方を三角形の頂点とする形状を有している。この暗渠管埋設ガイド41の形状は、進行することによって土壌を開削し易い形状である。また、鉛直切断刃21の両側の土壌全体が膨軟化していることによって、資材埋設ユニット40の土壌中への挿入が容易となる。また、土壌が膨軟化していることによって、暗渠施工装置10の進行が安定化する。
【0036】
管状の暗渠管埋設ガイド41は、地上に出ている上端開口から鉛直切断刃21の鉛直板部21bの後縁に沿って斜め下方に延び、その下端開口は送出口41aとして略後方に向いている。地上進行部の装置フレーム11の右後方には、暗渠管(図示せず)が巻かれた暗渠管積載リール44が取り付けられている。資材埋設ユニット40の土壌中への挿入と同時に、暗渠管積載リール44から連続的に取り出される暗渠管が、暗渠管埋設ガイド41の上端開口から挿入されて下方へと送られ、送出口41aから送出され、設置される。
【0037】
疎水材埋設ガイド42は、暗渠管埋設ガイド41の後方に直列配置されている。疎水材埋設ガイド42の上方の地上進行部には、疎水材投入ガイド43が配置されている。疎水材投入ガイド43は逆角錐台形状であり上方と下方が開口している。疎水材投入ガイド43の上方開口から疎水材(図示せず)が投入されて積載され、下方開口から疎水材埋設ガイド42に疎水材が供給される。そして、疎水材埋設ガイド42から疎水材が投下される。投下された疎水材は、直前に設置された暗渠管の上を覆う。このようにして、暗渠施工装置10の一度の通過によって、暗渠排水を構築できる。
【0038】
図2図4を参照して、図1に示した暗渠施工装置10の切断刃ユニット20及び土壌持ち上げユニット30による動作を説明する。模式的に示すこれらの土壌断面図は、暗渠施工装置10を進行方向とは逆方向に(すなわち前方から後方を)視た一断面を示している。
【0039】
図2(ア)~(オ)の断面図は、図1に示した暗渠施工装置10において内側土壌持ち上げ部材35のみを配置し、外側土壌持ち上げ部材36を配置していない従来技術の場合の動作を示している。図2(ア)~(オ)は施工順に示している。これらを参照して各段階における切断刃ユニット20及び土壌持ち上げユニット30に関係する圧力を説明する。切断刃ユニット20から土壌に与える圧力を符号Pで、切断刃ユニット20が土壌から受ける圧力を符号pで示している。符号P、pの添字は、異なる箇所の圧力及び/又は異なる向きの圧力を区別している。また、圧力を示す矢印の太さ又は長さは圧力の強さを模式的に示している。なお、一般的に圧力は単位面積当たりの力を表すが、本明細書では、対象面全体に加わる押す力の意味で用いる。
【0040】
図2(ア)の表土と下層土とからなる堅密な土壌に対して、略U字状の切断刃ユニット20を挿入することで、図2(イ)の通り、鉛直切断刃21と屈曲切断刃22で囲まれた領域の土壌が切断され、切断土塊Xが形成される。切断土塊Xには、図2(ウ)の通り、内側土壌持上げ部材35が土壌に与える圧力Paと、屈曲切断刃22の下部傾斜板部22cが土壌に与える圧力Pbが作用する。
【0041】
これにより、図2(エ)の通り、切断土塊Xの土壌の破砕Sが行われ土壌が膨軟化する。特に、内側土壌持上げ板部材35が土壌に与える圧力Paの方が、下部傾斜板部22cが土壌に与える圧力Pbよりも大きいことから、内側土壌持上げ板部材35の上方に土壌の破砕Sが発生して膨軟化する。この結果、略U字状の切断刃ユニット20の内側の切断土塊Xは、特に鉛直切断刃21の内側土壌持上げ板部材35の上方で膨軟化する。しかしながら、それとは対照的に、鉛直切断刃21のすぐ外側では、堅密な土壌がそのままの未破砕状態で存在する土壌条件となる。
【0042】
図2(エ)の土壌条件下において、鉛直切断刃21の後方に直列配置されている暗渠管埋設ガイド41及び疎水材埋設ガイド42を含む資材埋設ユニット40は、左右方向の幅が広いことから、図2(オ)の通り、内側土壌持上げ板部材35の上方で膨軟化された部分と鉛直切断刃21の外側の堅密な部分とを押し広げながら通過する。その結果、資材埋設ユニット40が土壌から左向きに受ける大きな圧力plと、右向きに受ける小さな圧力prとの左右のバランスがとれなくなる。このことは、暗渠施工装置10の水平に対する傾きや進行方向に対する横方向への曲がりの発生に繋がる。そのため、資材埋設ユニット40が土壌から受ける圧力を弱めると共に、左右が均等な圧力になるような構造の改善が必要である。
【0043】
図3(ア)~(オ)は、図2と同様の断面図であるが、図1に示した本発明の暗渠施工装置10を用いた場合の動作を示している。土壌持ち上げユニット30として、内側前刃31及び内側土壌持ち上げ板32を含む内側土壌持上げ部材35と、外側前刃33及び外側土壌持ち上げ板34を含む外側土壌持上げ部材36とを配置している。
【0044】
図3(ア)の堅密な土壌に対して、内側土壌持上げ部材35及び外側土壌持上げ部材36を配置した略U字状の切断刃ユニット20を挿入することで、図3(イ)の通り、鉛直切断刃21と屈曲切断刃22で囲まれた領域の土壌が切断され、切断土塊Xが形成される。切断土塊Xは、その重量により暗渠施工装置の浮き上がりを防止し、土壌深層への挿入を促進する機能がある。
【0045】
図3(ウ)の通り、切断刃ユニット20周辺では、内側土壌持上げ部材35が土壌に与える圧力Paと、屈曲切断刃22の下部傾斜板部22cが土壌に与える圧力Pbが作用する。さらに、外側土壌持上げ部材36が土壌に与える圧力Pcが作用する。これにより、切断土塊Xと共に、鉛直切断刃21の外側においても土壌の破砕Sが発生して土壌が膨軟化する。
【0046】
特に図3(エ)の通り、内側土壌持上げ部材35が土壌に与える圧力Paと、外側土壌持上げ部材36が土壌に与える圧力Pcは大きいため、内側土壌持上げ部材35及び外側土壌持上げ部材36の上方にそれぞれ土壌の破砕Sが発生して土壌が膨軟化する。
【0047】
図3(エ)の土壌条件下で、鉛直切断刃21の後方に直列配置されている暗渠管埋設ガイド41及び疎水材埋設ガイド42を含む資材埋設ユニット40は、左右方向の幅が広いにも関わらず、鉛直切断刃21の両側が膨軟化していることから、図3(オ)のように資材埋設ユニット40が土壌から左向きに受ける圧力plと、右向きに受ける圧力prとの左右のバランスが同程度となり水平バランスを維持できる。よって、暗渠施工装置10の水平に対する傾きや進行方向に対する横方向への曲がりが生じないので、望ましい暗渠排水の施工が可能となる。
【0048】
本発明の暗渠施工装置10によれば、このようにして土壌を全面的に破砕して膨軟化すると共に、その反力を用いて、切断刃ユニット20及び資材埋設ユニット40を含む土壌中施工部全体の土壌中への挿入を容易にすることができる。また、土壌全体を膨軟化することによって、暗渠施工装置10の進行が安定化する。
【0049】
図4(ア)(イ)及び(ウ)(エ)は、図3と同様の断面図であるが、鉛直切断刃21の下端の左右両側にある内側土壌持上げ部材35と外側土壌持上げ部材36を、それぞれ大きさの異なる部材に交換した場合の動作を示している。大きさを変えることによって、内側土壌持上げ部材35が土壌に与える圧力Paと、外側土壌持上げ部材36が土壌に与える圧力Pcを調整することができる。その結果、資材埋設ユニット40が土壌から受ける左向きの圧力plと右向きの圧力prとを同程度とし、相殺することができる。
【0050】
図4(ア)では、内側土壌持上げ部材35が土壌に与える圧力Paと、屈曲切断刃22の下部傾斜板部22cが土壌に与える圧力Pbとの和が、外側土壌持上げ部材36が土壌に与える圧力Pcよりも小さいことから、鉛直切断刃21に対し土壌から右向きの圧力prを与えることになる。すなわち外側よりも内側が緊密な土壌条件となっている。これを調整するため、図4(イ)のように、内側土壌持上げ部材35を長くする(例えば内側土壌持ち上げ板32を長くする)ことで、面積を大きくして内側土壌持上げ部材35が土壌に与える圧力Paを増大させる。その結果、左右のバランスを取ることができる。
【0051】
図4(ウ)では、内側土壌持上げ部材35が土壌に与える圧力Paと、屈曲切断刃22の下部傾斜板部22cが土壌に与える圧力Pbとの和が、外側土壌持上げ部材36が土壌に与える圧力Pcよりも大きいことで、鉛直切断刃21に対し土壌から左向きの圧力plを与えることになる。すなわち内側よりも外側が緊密な土壌条件となっている。これを調整するため、図4(エ)のように、外側土壌持上げ部材36の面積を大きくする(例えば外側前刃33及び外側土壌持ち上げ板34の幅を長くする)ことで、外側土壌持上げ部材36の土壌に与える圧力Pcを増大させる。その結果、左右のバランスを取ることができる。
【0052】
図5(ア)~(オ)は、図1に示した暗渠施工装置10による各段階の施工手順を概略的に示した断面図である。図5(ア)の表土と下層土とからなる堅密な土壌に対して、略U字状の切断刃ユニット20を挿入することで、図5(イ)の通り、鉛直切断刃21と屈曲切断刃22で囲まれた領域の土壌が切断され、切断土塊Xが形成される。特に、鉛直切断刃21により細溝が形成され、鉛直切断刃21の下端の左右両側にそれぞれ配置した内側土壌持上げ部材35及び外側土壌持ち上げ部材36からなる土壌持ち上げユニット30が、平面視にて長方形の各上面により各々の上方の土壌を持ち上げることによって、持ち上げられた土壌の破砕Sが進む。その結果、特に鉛直切断刃21の周辺の土壌が膨軟化する。
【0053】
続いて、図5(ウ)の通り、鉛直切断刃21の後方に直列配置されている暗渠管埋設ガイド41及び疎水材埋設ガイド42を含む資材埋設ユニット40が、膨軟化した部分の土壌を容易に開削して押し広げながら前進する。
【0054】
同時に、図5(エ)の通り、地上の暗渠管積載リール44から暗渠管埋設ガイド41を通して供給された暗渠管Tが、膨軟化部分の最下部に配置される。その直後に、疎水材埋設ガイド42の上部に位置する逆角錐台型の疎水材投入ガイド43の下方開口が開いて疎水材埋設ガイド42を通して疎水材Fが供給される。疎水材Fは、暗渠管Tの上方に一定の厚さと高さで埋設配置される。これにより、暗渠排水Uの基本的な構造が構築される。
【0055】
図5(エ)の時点では、暗渠排水Uの上部の表土に相当する部分には、上方に開いた溝が残っている。その後、図5(オ)の通り、ロータリ等の耕耘等により溝の埋戻しと均平化Wを行うことによって農地の暗渠排水Uを完成させる。暗渠排水Uは、前方から視て鉛直切断刃21が通過する位置に構築される。鉛直切断刃21の下端の位置が、暗渠管Tの管下の位置となる。
【0056】
図6(ア)~(キ)は、暗渠施工装置10における切断刃ユニット20及びこれに接続されたその他の構成要素の土壌への挿入深さを調整することによって、暗渠排水Uの施工深さを調整する方法を示した断面図である。
【0057】
図6(ア)の表土と下層土とからなる堅密な土壌に対して、略U字状の切断刃ユニット20を挿入することで、図6(イ)の通り、鉛直切断刃21と屈曲切断刃22で囲まれた領域の土壌が切断され、切断土塊Xが形成される。その後、図5で示した施工手順によって図6(オ)の通り暗渠排水Uを施工する。
【0058】
図6(ウ)では、切断刃ユニット20の一対の上端鉛直延長部21a、22aの鉛直位置を低くすることで切断刃ユニット20の挿入深さが深くなっている。図6(エ)では、切断刃ユニット20の一対の上端鉛直延長部21a、22aの鉛直位置を高くすることで切断刃ユニット20の挿入深さが浅くなっている。一対の上端鉛直延長部21a、22aの鉛直位置の調整は、図1に示した切断刃保持ホルダー23に対する固定位置を変えることで行う。その結果、図6(カ)のように深い位置の暗渠排水U、又は、図6(キ)のように浅い位置の暗渠排水Uを構築できる。
【0059】
図7(ア)~(ウ)の断面図は、切断刃ユニット20の鉛直切断刃21と屈曲切断刃22に土壌中の石が衝突した時の石又は刃の挙動を示している。
【0060】
図7(ア)の切断刃ユニット20内(鉛直切断刃21と屈曲切断刃22の間)にある石Raは施工には一切支障とならない。このような挙動を示す石の大きさは概ね直径30cm程度までである。
図7(ア)の鉛直切断刃21に衝突する位置にある石Rbは、特に周辺土壌の破砕Sが行われていることから、土壌中を移動しやすく、膨軟化した切断土塊X内に移動する。このような挙動を示す石の大きさも概ね直径30cm程度までである。
図7(イ)の屈曲切断刃22の下部傾斜板部に衝突する位置にある石Rcは、土壌中を移動しやすく、膨軟化した切断土塊X内に移動することがある。このような挙動を示す石の大きさも概ね直径30cm程度までである。
図7(ウ)の屈曲切断刃22の下部傾斜板部に衝突する位置にある石Rdは、やや外側にあり、やや深い場合も想定される。この場合、切断刃ユニット20が上に移動して浮き上がり、石を避ける。特に下部傾斜板部の刃が斜行していることからズレやすい。このような挙動を示す石の大きさは、概ね直径30cm程度まででもよく、30cm程度を超えてもよい。
【0061】
土壌が破砕され膨軟化することによって土壌中の石が動きやすい土壌条件となるため、切断刃ユニット20と衝突した場合も石が切断刃21、22を避けるように動く。あるいは、切断刃ユニット20が石を避けるように上昇することも容易となる。この結果、暗渠施工装置1の進行が石によって妨げられず、継続して走行できる。
【0062】
図8(ア)(イ)は、土壌中に巨大な石や埋設物Reがある場合の暗渠施工装置10の挙動を示している。図8(ア)の通り、切断刃ユニット20及び資材埋設ユニット40は、切断刃保持ホルダー23を介して円柱パイプである回転軸24に固定されている。これは、鉛直切断刃21及び屈曲切断刃22の各々の上端鉛直延長部を切断刃保持ホルダー23に下方から挿入して適宜の位置で固定することにより行われる。回転軸24の左右両端は、装置フレーム11と一体の回転軸保持固定ガイド25に対し適宜の固定手段によりそれぞれ固定されている。したがって、通常、回転軸24は、回転軸保持固定ガイド25に対して回転不能である。
【0063】
図8(イ)の通り、土壌中の巨大な石や埋設物Reが鉛直切断刃21及び屈曲切断刃22に衝突すると、円柱パイプの回転軸24に対し一定以上の過剰な負荷がかかって円柱パイプの回転軸24に大きなトルクが発生する。その結果、回転軸24と回転軸保持固定ガイド25とを固定している固定手段の破断や消失等によって、回転軸24と回転軸保持固定ガイド25との接続が解除される。それにより、回転軸24は、回転軸保持固定ガイド25に対して回転可能となる。回転軸24と共に切断刃ユニット20及び資材埋設ユニット40が回転することによって過剰な負荷が解放される。このようにして、過剰な負荷による暗渠施工装置10や牽引車両の破損を防止できる。
【0064】
以下に、本発明の各実施例を示す。
<実施例1>
図9(ア)は、図1に示した暗渠管埋設装置10を用いた暗渠排水の試験施工の結果を示す概略断面図である。試験条件は次の通りである。
・試験場所:北海道北見市西相内22の畑圃場
・トラクタ:ニューホランドT6.150 ホイールトラクタ150馬力
・土壌条件:礫質灰色低地土
・土層構成:作土10cm、それ以下は直径20cmの石礫が20%程度の礫質な土層が下層まで続く。土層全体が堅く締まっており、排水性は低い。
【0065】
施工試験の処理区では、切断刃ユニット20及び資材埋設ユニット40を想定の深さまで挿入できた。施工速度は1km/hでトラクタがスリップすることなく施工できた。最速2km/hで施工できたが、1.5km/hまでが疎水材などの資材の供給等を含めて適当であった。図9(ア)に示すように、施工後の暗渠排水Uの形状も暗渠管Tの埋設深が管下で77cmと想定の深さに施工されていることが見てとれる。暗渠排水Uの幅は7cmである。これにより、本発明の暗渠施工装置10の実施効果が確認された。
【0066】
<実施例2>
図9(イ)は、別の地域の圃場において土壌の違いによる暗渠施工装置10の作動を確認した結果を示す。なお、試験条件は次の通りである。
・試験場所:岩手県北上市和賀町横川目18地割の西部開発農産の水田圃場
・トラクタ:ヤンマーCT1380 クローラトラクタ138馬力
・土壌条件:礫質灰色台地土
・土層構成:作土10cm、それ以下は直径10~20cmの石礫が30%程度と多い礫質な土層が下層まで続く。湧水があり排水性は低い。
【0067】
施工試験の処理区は湧水があり多湿で排水性の悪い土壌であるため、機械走行を確保するため浅く施工することとなった。切断刃ユニット20及び資材埋設ユニット40は、石礫が多いにも関わらず挿入でき、暗渠管Tと疎水材Fを適切に埋設した暗渠排水Uが構築できた。圃場が多湿なため、施工速度は1km/hで施工できた。図9(イ)に示すように、施工後の暗渠排水Uの形状は暗渠管Tの埋設深さが管下47cmで、暗渠排水の幅は7cmである。これにより、本発明の暗渠施工装置10の実施効果が確認された。
【0068】
<比較例1>
本発明の暗渠施工装置10により施工されなかった、北海道北見市の試験圃場における未施工の場所の土壌条件は、以下の通りである。
・試験場所:北海道北見市西相内22の畑圃場
・土壌条件:礫質灰色低地土
・土層構成:地表から石礫が多く、作土10cm、それ以下は直径20cmの石礫が20%程度の礫質な土層が下層まで続く。土層全体が堅く締まっており、排水性は低い。地表10cm以下は貫入式土壌硬度計での計測値が2.5MPaを超え堅密である。降雨後には地表に表面滞水して作物が枯れる部分が点在している。
【0069】
<比較例2>
本発明の暗渠施工装置10により施工されなかった、岩手県北上市の試験圃場における未施工の場所の土壌条件は、以下の通りである。
・試験場所:岩手県北上市和賀町横川目18地割の西部開発農産の水田圃場
・土壌条件:礫質灰色台地土
・土層構成:作土10cm、それ以下は直径10~20cmの石礫が30%程度と多い礫質な土層が下層まで続く。湧水があり排水性は低い。雨天では表面に滞水が直ぐに発生する、暗渠排水10の施工が望まれる土壌の条件である。
【0070】
以上の通り、本発明による暗渠施工装置は、土壌中での鉛直位置を変えることのできる鉛直切断刃と屈曲切断刃が左右方向に並列配置された構成を備える。これにより、農業者が所有するトラクタによる暗渠管埋設装置の牽引作業によっても、堅密な土層においても、土壌を2本の刃で確実に切断して、深層まで暗渠管埋設装置を挿入でき、暗渠管と疎水材を深さ75cm程度までの所定の深さに安定して埋設することができる。これにより排水不良な農地の排水性を改善できる。
【符号の説明】
【0071】
10 暗渠施工装置
11 装置フレーム
12 3点接続部のトップリンク
13 3点接続部のロアリンク
20 切断刃ユニット
21 鉛直切断刃
21a 上端鉛直延長部
21b 鉛直板部
22 屈曲切断刃
22a 上端鉛直延長部
22b 上部鉛直板部
22c 下部傾斜板部
23 切断刃保持ホルダー
24 回転軸
25 回転軸保持固定ガイド
30 土壌持ち上げユニット
31 内側前刃
32 内側土壌持上げ板
33 外側前刃
34 外側土壌持上げ板
35 内側土壌持ち上げ部材
36 外側土壌持ち上げ部材
40 資材埋設ユニット
41 暗渠管埋設ガイド
41a 暗渠管送出口
42 疎水材埋設ガイド
43 疎水材投入ガイド
44 暗渠管積載リール
P 土壌に与える圧力
Pa 内側土壌持上げ板による圧力
Pb 屈曲切断刃の下部傾斜板部による圧力
Pc 外側土壌持上げ板による圧力
p 土壌から受ける圧力
pl 土壌から左向きに受ける圧力
pr 土壌から右向きに受ける圧力
S 土壌の破砕
F 疎水材
T 暗渠管
U 暗渠排水
R 石
Ra 切断刃ユニット内にある石
Rb 鉛直切断刃に衝突する位置にある石
Rc 屈曲切断刃の下部傾斜板部に衝突する位置にある石
Rd 屈曲切断刃の下部傾斜板部に衝突する位置にある石
Re 切断刃ユニットに衝突する巨大な石や埋設物
W 埋戻し均平化
X 切断土塊
図1
図1A
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9