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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113349
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/16 20060101AFI20230808BHJP
   B23F 19/06 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015658
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】馮 雁楠
(72)【発明者】
【氏名】長田 哲
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】任 宗偉
(72)【発明者】
【氏名】方 正隆
【テーマコード(参考)】
3C025
【Fターム(参考)】
3C025AA03
(57)【要約】
【課題】スカイビング加工において、工具による歯車の加工時のびびり振動を抑えて、歯車の加工精度を向上させる。
【解決手段】歯車の製造方法は、スカイビング加工においてNパス(N≧3)の切削によってワークを加工して歯車を製造する方法である。当該製造方法は、第Mパス(=2~N)の切削において、切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値が最大となる転位係数の値をXmとして、Xmよりも大きい転位係数を有する工具を用意することと、第Mパスの切削において前記工具によってワークを加工すること、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカイビング加工においてNパス(N≧3)の切削によってワークを加工して歯車を製造する方法であって、
第Mパス(=2~N)の切削において、切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値が最大となる転位係数の値をXmとして、前記Xmよりも大きい転位係数を有する工具を用意することと、
前記第Mパスの切削において前記工具によって前記ワークを加工すること、
を備える歯車の製造方法。
【請求項2】
第Nパスの切削において、切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値が最大となる転位係数の値をXnとして、
前記工具は、前記Xnよりも大きい転位係数を有する、
請求項1に記載の歯車の製造方法。
【請求項3】
前記歯車の溝数をZw、前記工具の刃数をZt、前記ワークの転位係数をXw、前記工具の回転軸と前記ワークの回転軸に平行な軸線とがなす軸交差角をθとして、前記Xnは以下の式で表される、
Xn=Xw×(Zt/Zw)/cos(θ)×0.96-0.11/cos(θ)
請求項2に記載の歯車の製造方法。
【請求項4】
前記工具の刃先の頂部幅をSa、前記工具のモジュールをmとして、
前記工具は、Sa=0.25×mとなる転位係数の値よりも小さい転位係数を有する、
請求項1から3のいずれかに記載の歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スカイビング加工による歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークから歯車を形成する方法の1つとして、スカイビング加工がある。スカイビング加工では、工具の回転軸が、ワークの回転軸に対して一定角度(軸交差角)で傾斜するように配置される。工具は、工具の周方向に並んで配置された複数のカッタ刃を有している。カッタ刃は、工具の周方向に等ピッチで配置される(例えば、特許文献1参照)。工具が回転すると共に、ワークが工具の回転に同期して回転することで、工具がワークを加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-33732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したスカイビング加工によって、大モジュールの歯車を加工する場合、加工時にびびり振動が発生することがある。その場合、歯車の加工精度が低下する恐れがある。本開示の目的は、スカイビング加工において、工具による歯車の加工時のびびり振動を抑えて、歯車の加工精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る歯車の製造方法は、スカイビング加工においてNパス(N≧3)の切削によってワークを加工して歯車を製造する方法である。本態様に係る歯車の製造方法は、第Mパス(=2~N)の切削において、切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値が最大となる転位係数の値をXmとして、Xmよりも大きい転位係数を有する工具を用意することと、第Mパスの切削において工具によってワークを加工すること、を備える。
【0006】
本開示の発明者らは、鋭意研究の結果、以下の知見を得た。Nパスの切削のうち、第2パス以降では、1パスの切削において切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値は、工具の転位係数に応じて変化する。切削力の最大値が最大となる転位係数の値は、各パスによって異なる。また、切削力の最大値が最大となる転位係数の値よりも工具の転位係数を大きくすることで、切削力の最大値が小さくなる。
【0007】
本態様に係る歯車の製造方法では、第Mパス(=2~N)の切削において、切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値が最大となる転位係数の値Xmよりも大きい転位係数を有する工具により、第Mパスの切削が行われる。それにより、切削力が低減される。その結果、工具による歯車の加工時のびびり振動が抑えられ、歯車の加工精度が向上する。
【0008】
第Nパスの切削において、切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値が最大となる転位係数の値をXnとして、工具は、Xnよりも大きい転位係数を有してもよい。本開示の発明者らは、切削のパス数の増大に応じて、切削力の最大値が最大となる転位係数の値が大きくなることを見出した。従って、Xnよりも大きい転位係数を有する工具を用いることにより、同じ工具によって、すべてのパスの切削において切削力が低減される。
【0009】
Xnは以下の式(1)で表されてもよい。
Xn=Xw×(Zt/Zw)/cos(θ)×0.96-0.11/cos(θ) (1)
Zwは歯車の溝数である。Ztは工具の刃数である。Xwはワークの転位係数である。θは、加工時の軸交差角である。
【0010】
内歯車の加工用の工具は、外歯車と見なすことができる。したがって、工具は、モジュール、圧力角と歯数とを同じくする外歯車の設計基準に従って製造されてよい。工具は、Saが0.25×mとなる転位係数の値よりも小さい転位係数を有してもよい。Saは、モジュールと圧力角と歯数とを、工具と同じくする外歯車の歯先の頂部幅である。mは、工具のモジュールである。それにより、工具の刃先が細くなりすぎることが抑えられる。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る歯車の製造方法によれば、スカイビング加工において、工具による歯車の加工時の切削負荷が低減される。それにより、工具のびびり振動が抑えられ、歯車の加工精度が向上すると共に、工具の寿命が延びる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るカッタヘッドとワークとを示す側面断面図である。
図2】カッタヘッドとワークとを示す上面図である。
図3】カッタヘッドの拡大図である。
図4A】1パスの切削における工具の動作を示す図である。
図4B】1パスの切削における工具の動作を示す図である。
図4C】1パスの切削における工具の動作を示す図である。
図5】第1実施例に係るワークと工具との形状を規定するパラメータを示す表である。
図6】Nパスの切削のそれぞれでの切込量を示す図である。
図7】第1実施例に係る工具の転位係数と、各パスの切削における最大切削力との関係を示すグラフである。
図8A図7における点P5(X5)での工具のカッタ刃のすくい面の位置と切削幅とを示す図である。
図8B図7における点P5(0.9)での工具のカッタ刃のすくい面の位置と切削幅とを示である。
図9A】ゼロ転位工具でのワークの速度と、工具の速度と、切削速度との関係を示す図である。
図9B】正の転位係数を有する工具でのワークの速度と、工具の速度と、切削速度との関係を示す図である。
図10】第2実施例に係るワークと工具との形状を規定するパラメータを示す表である。
図11】第2実施例に係る工具の転位係数と、各パスの切削における最大切削力との関係を示す表である。
図12】第3実施例に係るワークと工具との形状を規定するパラメータを示す表である。
図13】第3実施例に係る工具の転位係数と、各パスの切削における最大切削力との関係を示す表である。
図14】サンプルとしてのワークと工具との形状を規定するパラメータを示す表である。
図15】サンプルを対象に行われた回帰分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態に係る歯車の製造方法について説明する。図1は、実施形態に係る工具1とワーク2とを示す側面断面図である。図2は、実施形態に係る工具1とワーク2とを示す上面図である。工具1は、スカイビング加工機に用いられるカッタヘッドである。工具1は、スカイビング加工により、ワーク2を切削することで、複数の歯溝3を有する歯車を形成する。なお、図面においては複数の歯溝3の一部のみに符号3が付されており、他の歯溝3の符号は省略されている。
【0014】
工具1とワーク2とは、図示しない駆動装置により、互いに同期して回転する。図1に示すように、工具1の回転軸A1は、ワーク2の回転軸A2に対して傾斜している。工具1は、回転軸A1回りに回転しながら、ワーク2の回転軸A2に平行な方向に移動することで、ワーク2の内面を切削して歯溝を形成する。工具1の回転軸A1と、ワーク2の回転軸A2と平行な軸線とは、軸交差角θをなして交差する。
【0015】
図2に示すように、工具1は、複数のカッタ刃4を有している。なお、図面においては複数のカッタ刃4の一部のみに符号4が付されており、他のカッタ刃4の符号は省略されている。図3は、工具1の拡大図である。図3において、二点鎖線は、ゼロ転位工具のカッタ刃5の形状を示している。工具1のカッタ刃4は、ゼロ転位工具のカッタ刃5に対して転位している。ゼロ転位工具は、転位量が0の工具である。
【0016】
工具1のカッタ刃4は、ゼロ転位工具のカッタ刃5に対して転位量m×Xtだけ転位している。mは、工具1のモジュールである。Xtは、工具1の転位係数である。図3に示すように、工具1は、正の転位係数を有している。なお、図3において、破線は、負の転位係数を有する工具1のカッタ刃4’の形状を示している。
【0017】
本開示の発明者らは、鋭意研究の結果、以下の知見を得た。スカイビング加工においてNパス(N≧3)の切削によってワークを加工して歯車を製造する場合、第2パス以降の切削では、1パスの切削において切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値は、工具1の転位係数に応じて変化する。切削力の最大値が最大となる転位係数の値は、各パスによって異なる。切削のパス数の増大に応じて、切削力の最大値が最大となる転位係数の値が大きくなる。また、切削力の最大値が最大となる転位係数の値よりも工具1の転位係数を大きくすることで、切削力の最大値が小さくなる。
【0018】
図4A図4Cは、1パスの切削における工具1の動作を示す。図4A図4Cに示すように、1パスの切削とは、工具1をワーク2の下端21に向けて下降させ、ワーク2を切削した後、工具1を上昇させてワーク2の上端22に戻すまでの一連の加工動作である。D1は第1パスにおける切込量を示す。二点鎖線10は、刃先円底を示す。
【0019】
以下、上記の知見に基づく工具1の転位係数を決定する方法について説明する。
【0020】
(第1実施例)
図5は、第1実施例に係るワーク2と工具1との形状を規定するパラメータを示す表である。図6は、Nパスの切削のそれぞれでの切込量を示す図である。第1実施例では5パスの切削によりワーク2を加工して歯溝を形成する。図6において、二点鎖線で示される6は、ワーク2に形成される歯溝の目標形状を示している。また、7は、ワーク2の切削された形状を示している。
【0021】
第1実施例では、第1~第5パスの切削の切込量D1~D5は以下の通りである。
D1=2.18mm
D2=1.61mm
D3=1.25mm
D4=1.00mm
D5=0.2mm(仕上)
図7は、第1実施例に係る工具1の転位係数と、各パスの切削における最大切削力との関係を示すグラフである。最大切削力は、1パスの切削の開始から終了までの間の切削力の最大値である。例えば、図7において、点P1~P5は、それぞれ転位係数0.64を有する工具1によってワーク2を切削した場合の第1パス~第5パスの切削での最大切削力を示している。
【0022】
L1は、第1パスの切削における工具1の転位係数と最大切削力との関係を示す。L2は、第2パスの切削における工具1の転位係数と最大切削力との関係を示す。L3は、第3パスの切削における工具1の転位係数と最大切削力との関係を示す。L4は、第4パスの切削における工具1の転位係数と最大切削力との関係を示す。L5は、第5パスの切削における工具1の転位係数と最大切削力との関係を示す。図7に示すように、同じパスの切削であっても、最大切削力は、工具1の転位係数に応じて変化する。
【0023】
図7に示すように、第2パスの切削においては、転位係数XtがX2である場合に、最大切削力が最大となる。第3パスの切削においては、転位係数XtがX3である場合に、最大切削力が最大となる。第4パスの切削においては、転位係数XtがX4である場合に、最大切削力が最大となる。第5パスの切削においては、転位係数XtがX5である場合に、最大切削力が最大となる。
【0024】
従って、第2パスの切削では、X2より大きい転位係数を有する工具1を用いることで、最大切削力が低減される。第3パスの切削では、X3より大きい転位係数を有する工具1を用いることで、最大切削力が低減される。第4パスの切削では、X4より大きい転位係数を有する工具1を用いることで、最大切削力が低減される。第5パスの切削では、X5より大きい転位係数を有する工具1を用いることで、最大切削力が低減される。
【0025】
図7に示すように、第2パス以降の切削において、最大切削力が最大となる転位係数の値X2~X5は、以下の式(2)の関係を満たす。
X2<X3<X4<X5 (2)
X2とX3、X3とX4、X4とX5の差分は、それぞれ、X3、X4、X5の切込量D3、D4、D5と正の相関関係がある。例えば、D5はD3とD4に比べて小さいため、X4とX5の差分も、X2とX3の差分及びX3とX4の差分より小さい。従って、X5より大きい転位係数を有する工具1を用いることで、第1パス以外の全てのパスでの最大切削力が低減される。なお、X5より小さい転位係数を有する工具1を用いることでも、第5パスでの最大切削力が低減される。しかし、他のパスでの最大切削力が大きくなり得るため、工具1の転位係数はX5より大きいことが好ましい。
【0026】
なお、上述のように最大切削力が低減される原因は以下のように考えられる。図8Aは、図7における点P5(X5)での工具1のカッタ刃のすくい面の位置と切削幅とを示している。図8Aにおいて複数の曲線Y1がすくい面の位置の変化を示しており、ハッチングが付された部分W1が切削幅を示している。切削幅は、すくい面のうちワーク2と接触している部分である。点P5(X5)は、第5パスの切削において、転位係数X5の工具1による最大切削力を示す。
【0027】
図8Bは、図7における点P5(0.9)での工具1のカッタ刃のすくい面の位置と切削幅とを示している。図8Bにおいて複数の曲線Y2がすくい面の位置の変化を示しており、ハッチングが付された部分W2が切削幅を示している。点P5(0.9)は、X5よりも大きな転位係数(0.9)の工具1による最大切削力を示す。
【0028】
図8A及び図8Bに示すように、第5パスの切削において、X5よりも大きい転位係数を有する工具1が用いられた場合の各すくい面での切削幅W2は、転位係数X5を有する工具1が用いられた場合の各すくい面での切削幅W1よりも小さい。従って、X5よりも大きい転位係数を有する工具1が用いられた場合には、工具1によって同時に切削されるワーク2の面積が小さくなることで、最大切削力が低減されると考えられる。
【0029】
また、転位係数に応じて切削幅が変化する原因は、以下のように考えられる。図9Aは、ゼロ転位工具でのワーク2の速度Vwと、工具1の速度Vtと、切削速度Vcとの関係を示す図である。速度Vwと速度Vtは、ともに周速である。図9Aに示すように、スカイビング加工機においてゼロ転位工具が用いられる場合、工具1とワーク2とのピッチ円上では、切削速度Vcが水平方向成分を持たないように、ワーク2の速度Vwと工具1の速度Vtとが設定される。すなわち、切削速度Vcは、ワーク2の回転軸と平行となっている。ゼロ転位工具では、カッタ刃の両側が同時にワーク2を切削することで、接触幅が大きくなり、切削力が大きい。
【0030】
図9Bは、正の転位係数を有する工具1でのワーク2の速度Vwと、工具1の速度Vtと、切削速度Vcとの関係を示す図である。図9Bに示すように、正の転位係数を有する工具1では、工具1の外径が大きくなることで、工具1の速度Vtが増大する。ワーク2の速度Vwが同じであれば、工具1の速度Vtが増大することで、切削速度Vcの水平方向成分が変化する。それにより、カッタ刃の両側がそれぞれワーク2を切削するタイミングが変化する。
【0031】
例えば、上述したX5よりも大きな転位係数(0.9)の工具1では、ゼロ転位工具と比べて、カッタ刃の一方側がワーク2を切削するタイミングが早まり、他方側がワーク2を切削するタイミングが遅れる。それにより、切削幅が小さくなることで、切削力が低減される。
【0032】
工具1の転位係数の上限は以下のように決定される。転位係数が大きくなるほど、カッタ刃の頂部幅は小さくなり、カッタ刃の刃先が尖る。従って、工具1の転位係数は、Saが0.25×mとなる転位係数の値よりも小さいことが好ましい。Saは、工具1のモジュールと、圧力角と、歯数と同じ外歯車の歯先の頂部幅である。mは、工具1のモジュールである。
【0033】
以上より、第1実施例においては、工具1の転位係数は、0.8~1.0である。
【0034】
(第2実施例)
図10は、第2実施例に係るワーク2と工具1との形状を規定するパラメータを示す表である。図11は、第2実施例に係る工具1の転位係数と、各パスの切削における最大切削力との関係を示す表である。図11では、各パスの切削において最大切削力の最大値を示す欄にハッチングが付されている。
【0035】
図11に示すように、第2パス以降の切削において、最大切削力が最大となる転位係数の値X2~X12は、以下の式(3)の関係を満たす。
X2<X3<X4<X5<X6<X7<X8<X9 (3)
従って、X9より大きい転位係数を有する工具1を用いることで、第1パス以外の全てのパスでの最大切削力が低減される。また、工具1の転位係数の上限は、第1実施例と同様に決定される。なお、切削工程の終盤のパス(仕上げパス)では、切込量Dが小さいことで、前のパスとの差が小さくなる。そのため、転位係数が略等しくなってもよい。
【0036】
以上より、第2実施例においては、工具1の転位係数は、0.2~0.4である。
【0037】
(第3実施例)
図12は、第3実施例に係るワーク2と工具1との形状を規定するパラメータを示す表である。図13は、第3実施例に係る工具1の転位係数と、各パスの切削における最大切削力との関係を示す表である。図13では、各パスの切削において最大切削力の最大値を示す欄にハッチングが付されている。
【0038】
図13に示すように、第2パス以降の切削において、最大切削力が最大となる転位係数の値X2~X12は、以下の式(4)の関係を満たす。
X2<X3<X4<X5<X6<X7<X8<X9<X10<X11 (4)
従って、X11より大きい転位係数を有する工具1を用いることで、第1パス以外の全てのパスでの最大切削力が低減される。また、工具1の転位係数の上限は、第1実施例と同様に決定される。
【0039】
以上より、第3実施例においては、工具1の転位係数は、0~0.4である。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0041】
上記の実施形態では、工具1は、ワーク2を内歯歯車に加工する。しかし、工具1は、ワーク2を外歯歯車に加工してもよい。上記の実施形態では、工具1は、ワーク2を平歯車に加工する。しかし、工具1は、ワーク2を斜歯歯車に加工してもよい。
【0042】
第Nパスの切削において、切削開始から切削終了までの間の切削力の最大値が最大となる転位係数の値Xnは、以下の式(5)により算出されてもよい。
【0043】
Xn=Xw×(Zt/Zw)/cos(θ)×0.96-0.11/cos(θ) (5)
Zwは歯車の溝数である。Ztは工具1の刃数である。Xwはワーク2の転位係数である。θは、軸交差角である。式(5)の右辺の第2項は0.12と近似してもよい。式(5)は、以下のように導出される。
【0044】
上述した切削速度Vcの水平方向成分の変化により、工具1のカッタ刃4がワーク2の歯溝3の両側の歯面と接触するタイミングは変化する。工具1のカッタ刃4がワーク2の歯溝3の両側の歯面と同時に接触する場合、切削力の最大値が大きくなる。その状況は、工具1の転位係数がXm付近である場合、Mパスにて発生する。
【0045】
工具1の回転数Stとワーク2の回転数Swは、噛合が1刃ずつであるため、St×Zt=Sw×Zwの関係に従う。即ちSw=St×Xt/Zwである。工具1の速度Vtは、工具1の刃数Zt、モジュールm、軸交差角θ、及び工具1の転位係数Xt、工具1の回転数Stに応じて変わる。ゼロ転位工具の周速は、Zt×m/cosθ×Stである。転位係数を考慮すると、周速は(Zt×m/cosθ+2×m×Xt)×Stである。ワーク2の速度Vwは、ワーク2の溝数(歯数)Zw、モジュールm、及びワーク2の転位係数Xw、ワーク2の回転数Swに応じて変わる。ゼロ転位ワークの周速は、Zw×m×Swである。転位係数を考慮すると、周速は(Zw×m+2×m×Xw)×Swである。
【0046】
ゼロ転位工具を用いてゼロ転位ワークを加工する場合、工具1の周速はZt×m/cosθ×Stであり、ワーク2の周速はZw×m×Swである。水平方向成分はZt×m/cosθ×St×cosθ-Zw×m×Swで表され、値は0となる。
【0047】
工具1とワーク2の転位係数を考慮した場合、水平方向成分は(Zt×m/cosθ+2×m×Xt)×St×cosθ-(Zw×m+2×m×Xw)×Sw=2×m×Xt×St×cosθ-2×m×Xw×Sw=2×m×(Xt×St×cosθ-Xw×Sw)=2×m×St×(Xt×cosθ-Xw×Zt/Zw)と表せる。
【0048】
水平方向成分は、Xt×cosθとXw×Zt/Zwとの大小関係により決まる。そのため、XnをXtに代入し、Xn×cosθとXw×Zt/Zwとの関係について、図14に示す工具1とワーク2の5つのサンプルを対象に回帰分析を行った。その結果、図15に示すように、Xn×cosθ=0.96×Xw×Zt/Zw-0.11でR=0.997の高い相関が得られた。以上より、Xn=0.96×Xw×Zt/(Zw×cosθ)-0.11/cosθという式が得られる。
【0049】
或いは、以下のように転位係数Xnが推定されてもよい。まず、複数のワーク2が、それぞれ転位係数の異なる工具1によって実験的に加工される。各ワーク2について、第Nパスでの切削力が測定される。そして、測定された切削力の最大値と転位係数との関係により、転位係数Xnが推定される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示に係る歯車の製造方法によれば、スカイビング加工において、工具による歯車の加工時の切削負荷が低減される。それにより、工具のびびり振動が抑えられ、歯車の加工精度が向上すると共に、工具の寿命が延びる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15