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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113468
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】魚類又は甲殻類用飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20230808BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20230808BHJP
   A23K 20/105 20160101ALI20230808BHJP
   A23K 20/142 20160101ALI20230808BHJP
   A23K 20/153 20160101ALI20230808BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/30
A23K20/105
A23K20/142
A23K20/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015865
(22)【出願日】2022-02-03
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】林 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】和才 昌史
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】益本 俊郎
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005GA02
2B005GA04
2B005GA06
2B005JA04
2B005LA02
2B005LB02
2B005LB07
2B005MA01
2B005MB06
2B150AA07
2B150AA08
2B150AB02
2B150AB20
2B150AC01
2B150AE05
2B150BE04
2B150CD30
2B150CE07
2B150CE09
2B150CJ01
2B150DA02
2B150DA36
2B150DA41
2B150DA43
2B150DC19
2B150DD12
(57)【要約】
【課題】本発明は、魚類又は甲殻類の養殖用飼料の提供を目的とする。
【解決手段】ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含む、魚類又は甲殻類用飼料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含む、魚類又は甲殻類用飼料。
【請求項2】
前記ヌクレオチドが、呈味性ヌクレオチドである、請求項1に記載の飼料。
【請求項3】
前記ヌクレオチドが、イノシン酸、グアニル酸及びキサンチル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2も記載の飼料。
【請求項4】
前記アミノ酸が、アラニン、プロリン、グルタミン酸、タウリン、ロイシン、ヒスチジン、リシン、スレオニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、アルギニン、プロリン及びメチオニンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項5】
前記植物性タンパク質が大豆由来のタンパク質である、請求項1~4のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項6】
前記カロテノイドがアスタキサンチンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項7】
前記カロテノイドが、飼料に対して1~150ppmのアスタキサンチンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項8】
前記カロテノイドが、パラコッカス属に属する細菌に由来する、請求項1~7のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項9】
前記飼料における動物性タンパク質源の含有量が10%(w/w)以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項10】
魚粉を含有しない、請求項1~9のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項11】
前記魚類が、スズキ目に属する魚類である、請求項1~10のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項12】
前記スズキ目に属する魚類が、マグロ、ハタ、マダイ、ブリ又はカンパチである、請求項11に記載の飼料。
【請求項13】
魚類又は甲殻類の成長を刺激するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の飼料を用いて、魚類又は甲殻類の体重を増加させる方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の飼料を用いて、魚類又は甲殻類の皮、殻又は肉を色揚げする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイドを含有する魚類又は甲殻類用飼料に関する。詳しくは、本発明は、ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含む、魚類又は甲殻類用飼料、及び当該飼料を用いる魚類又は甲殻類の成長を刺激する方法又は体重を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類の養殖用飼料に使用されている主なタンパク質源は魚粉である。養殖用飼料には、特に、カタクチイワシやマアジなどの魚を乾燥して粉砕した魚粉が用いられている。
【0003】
近年では、魚粉の供給不足や魚粉の価格高騰が懸念されている。世界では、一人当たりの食用魚介類の消費量が過去半世紀で約2倍に増加し、近年においてもそのペースは衰えていない(農林水産省令和2年度水産白書)。魚粉の供給不足や価格高騰は、魚肉の需要増加により水産資源が減少する中で、魚粉の原料となる魚の量も減少することに起因する。
【0004】
また、魚粉の原料となる魚の乱獲に伴って生物多能性が損なわれてしまうという環境問題が生じ得る。
【0005】
このような懸念や環境問題に即した持続可能な養殖のための飼料を開発する取り組みが進められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】農林水産省令和2年度水産白書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、魚類又は甲殻類の養殖用飼料、及び当該飼料を用いる魚類又は甲殻類の養殖方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を行い、魚粉の含有量を低減した魚類又は甲殻類用飼料を見出した。すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]
ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含む、魚類又は甲殻類用飼料。
[2]
前記ヌクレオチドが、呈味性ヌクレオチドである、[1]に記載の飼料。
[3]
前記ヌクレオチドが、イノシン酸、グアニル酸及びキサンチル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]も記載の飼料。
[4]
前記アミノ酸が、アラニン、プロリン、グルタミン酸、タウリン、ロイシン、ヒスチジン、リシン、スレオニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、アルギニン、プロリン及びメチオニンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の飼料。
[5]
前記植物性タンパク質が大豆由来のタンパク質である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の飼料。
[6]
前記カロテノイドがアスタキサンチンを含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の飼料。
[7]
前記カロテノイドが、飼料に対して1~150ppmのアスタキサンチンを含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載の飼料。
[8]
前記カロテノイドが、パラコッカス属に属する細菌に由来する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の飼料。
[9]
前記飼料における動物性タンパク質源の含有量が10%(w/w)以下である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の飼料。
[10]
魚粉を含有しない、[1]~[9]のいずれか一項に記載の飼料。
[11]
前記魚類が、スズキ目に属する魚類である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の飼料。
[12]
前記スズキ目に属する魚類が、マグロ、ハタ、マダイ、ブリ又はカンパチである、[11]に記載の飼料。
[13]
魚類又は甲殻類の成長を刺激するための、[1]~[12]のいずれか一項に記載の飼料。
[14]
[1]~[12]のいずれか一項に記載の飼料を用いて、魚類又は甲殻類の体重を増加させる方法。
[15]
[1]~[12]のいずれか一項に記載の飼料を用いて、魚類又は甲殻類の皮、殻又は肉を色揚げする方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、魚粉の含有量を低減した魚類又は甲殻類用の飼料が提供される。本発明により提供される飼料は、従来の飼料よりも魚粉の含有量を減らすことが可能であるため、持続可能な養殖のための飼料として使用し得る。
本発明の別の態様において、魚類又は甲殻類の成長を刺激するための魚類又は甲殻類用の飼料及び魚類又は甲殻類の体重を増加させる方法が提供される。
また、本発明の別の態様において、魚類又は甲殻類の皮、殻又は肉を色揚げする方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.本発明の飼料
本発明の飼料は、ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含む、魚類又は甲殻類用の飼料又は飼料組成物である。本発明の飼料は、魚類又は甲殻類の養殖に用いることができる。
【0011】
本発明は、魚類又は甲殻類用の飼料に加えるタンパク質として植物性タンパク質を利用する飼料において、ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤とカロテノイドとをさらに飼料に含有させることにより、魚類又は甲殻類に使用し得る飼料を提供するものである。本発明の飼料は、実施例において従来の飼料と同程度又は同程度以上の飼料効率を有することが示された。したがって、本発明の飼料は魚類又は甲殻類の成長を刺激又は促進するために用いることができる。
【0012】
本発明の飼料は、従来の飼料と比べて動物性タンパク質の含有量が低減されていてもよい。本発明の飼料は、一般的な魚類又は甲殻類用の飼料に含有されるべき動物性タンパク質の量よりも少ない動物性タンパク質を含有してもよく、動物性タンパク質を含有していなくてもよい。飼料に含まれる動物性タンパク質は、例えば、魚類、甲殻類、昆虫、鳥類又は哺乳類由来のタンパク質であり得る。
【0013】
魚類又は甲殻類用の飼料では、通常、動物性タンパク質源として魚粉が用いられる。本発明の一態様において、本発明の飼料は魚粉を含み得るが、従来の飼料と比べて魚粉の量が低減されていてもよい。本発明の飼料は、一般的な魚類又は甲殻類用の飼料に含有されるべき魚粉の量よりも少ない魚粉を含有してもよい。別の態様において、本発明の飼料は、魚粉を含有しない。さらに別の態様において、本発明の飼料は魚粉と共に用いてもよい。
【0014】
「一般的な魚類又は甲殻類の飼料に含有されるべき動物性タンパク質」又は「一般的な魚類又は甲殻類の飼料に含有されるべき魚粉」は、一般的な魚粉主体の魚類又は甲殻類用の飼料を用いて魚類又は甲殻類を飼育した場合と比較して、植物性タンパク質、ヌクレオチド及びアミノ酸、及びカロテノイドを含有させない条件下で生育低下を招かない最低限の含有量の動物性タンパク質又は魚粉をいう。
【0015】
本発明の飼料における動物性タンパク質の含有量は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の飼料における動物性タンパク質の含有量は、動物性タンパク質源の含有量を調整することにより、従来の飼料と比べて低減させることができる。本発明の飼料における動物性タンパク質源の含有量は、例えば50%(w/w)以下、40%(w/w)以下、30%(w/w)以下、25%(w/w)以下、20%(w/w)以下、15%(w/w)以下、10%(w/w)以下、5%(w/w)以下、0%(w/w)であってよい。
【0016】
本発明の飼料における動物性タンパク質源の含有量は、好ましくは10%(w/w)以下である。
【0017】
本発明の飼料における魚粉の含有量は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の飼料における魚粉の含有量は、例えば60%(w/w)以下、50%(w/w)以下、40%(w/w)以下、30%(w/w)以下、20%(w/w)以下、10%(w/w)以下、5%(w/w)以下、0%(w/w)であってよい。また、本発明の飼料における魚粉の含有量は、例えば0%(w/w)以上、5%(w/w)以上、10%(w/w)以上、20%(w/w)以上、30%(w/w)以上、又は40%(w/w)以上でもよい。魚粉は動物性タンパク質源として飼料に含有され得る。
【0018】
本発明において、魚類又は甲殻類の種類は特に限定されない。魚類として、例えば、ブリ(ハマチ)、マダイ、カンパチ、マグロ、トラフグ、ヒラメ、シマアジ、マアジ、ヒラマサ、イシダイ、カワハギ、メバル、スズキ、チダイ、イサキ、オオニベ、イジナ、マサバ、ハタ、クエ、ウナギ、ナマズ、アユ、シーバス、ニジマス、コイ、タイヘイヨウサケ、ギンザケ、マスノサケなどが挙げられる。甲殻類として、例えば、クルマエビ、バナメイエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ、ガザミ、上海蟹が挙げられる。本発明において、ハタはマハタでもよい。また、マグロはクロマグロでもよい。
【0019】
本発明において、魚類はスズキ目に属する魚類が好ましい。スズキ目に属する魚類は、例えば、マグロ、ハタ、マダイ、ブリ、カンパチが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明において、植物性タンパク質は、魚類又は甲殻類の養殖に使用されるものであれば特に限定されない。例えば大豆(例えば濃縮大豆タンパク質、大豆油粕など)、トウモロコシ(例えばコーングルテンミール)、菜種(菜種油粕)、大麦、小麦、米由来のタンパク質を用いることができる。本発明において、植物性タンパク質は好ましくは大豆由来のタンパク質である。
【0021】
植物性タンパク質としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。植物性タンパク質の製造方法は特に限定されず、公知の方法を利用できる。
【0022】
本発明の飼料における植物性タンパク質の含有量は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の飼料における植物性タンパク質の含有量は、例えば10%(w/w)以上、20%(w/w)以上、30%(w/w)以上、40%(w/w)以上、50%(w/w)以上、60%(w/w)以上、70%(w/w)以上でもよい。また、本発明の飼料における植物性タンパク質の含有量は、例えば80%以下、70%(w/w)以下、60%(w/w)以下、50%(w/w)以下、40%(w/w)以下又は30%(w/w)以下であってよい。
【0023】
本発明において、植物性タンパク質を構成するアミノ酸組成や魚類又は甲殻類の種類に応じて、アミノ酸を適宜追加することができる。植物性タンパク質のアミノ酸組成が魚粉に比べて不十分な場合は、該当するアミノ酸を飼料に含有すればよい。例えば、植物性タンパク質に含まれるメチオニンやシステインなどの含硫アミノ酸が魚粉よりも少ない場合は、メチオニンやシステインを追加して飼料に含有させることにより、成長促進が期待される。例えば、大豆はメチオニン、リジン、トリプトファンが不足することが多いことから、大豆由来のタンパク質を用いる場合にメチオニン、リジン、トリプトファンを添加してもよい。トウモロコシはリジンとトリプトファンが不足することが多いことから、トウモロコシ由来のタンパク質を用いる場合にリジンとトリプトファンを添加してもよい。
また、本発明において、魚類又は甲殻類の種類に応じてアミノ酸を適宜追加することができる。魚類又は甲殻類の有するアミノ酸代謝酵素やアミノ酸産生酵素の特徴に応じて、飼料にアミノ酸を添加してもよい。例えば、ブリなどの魚類や甲殻類は、メチオニンをタウリンに代謝できないため、飼料にタウリンを添加してもよい。
【0024】
前記アミノ酸として、アラニン、プロリン、グルタミン酸、タウリン、ロイシン、ヒスチジン、リシン、スレオニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、アルギニン、プロリン、メチオニン及びシステインからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記アミノ酸は、例えば、アラニン、プロリン、リシン、メチオニン、グルタミン酸及びタウリンから選択される1種以上が挙げられる。アミノ酸はL体、D体、ラセミ体のいずれであってもよい。
【0025】
本発明において、ヌクレオチドを適宜加えることができる。本発明において用いられるヌクレオチドは、好ましくは呈味性ヌクレオチドである。呈味性ヌクレオチドには、例えば、イノシン酸、グアニル酸及びキサンチル酸が挙げられる。呈味性ヌクレオチドを飼料に含有させることにより魚の摂餌性が刺激され、成長促進(体重増加)が期待される。魚の摂餌性を刺激する目的でコハク酸を飼料に含有させてもよい。
【0026】
ヌクレオチドに結合するリン酸の数は、限定されず、例えば、1、2または3である。
【0027】
本発明において、リボースの5’位にリン酸が1つ結合し、6位が-OHのプリンヌクレオチドが好ましい。
【0028】
ヌクレオチドやアミノ酸は、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。
【0029】
ヌクレオチド又はアミノ酸の製造方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。例えば、ヌクレオチド又はアミノ酸は、化学合成、酵素反応又はその組み合わせにより製造することができる。また、例えば、ヌクレオチド又はアミノ酸は、ヌクレオチド又はアミノ酸の生産能を有する微生物を培養し、培養物かヌクレオチド又はアミノ酸を回収することで製造することができる。また、例えば、ヌクレオチド又はアミノ酸は、ヌクレオチド又はアミノ酸を含有する農水畜産物から回収することで製造することができる。
【0030】
本発明の飼料におけるヌクレオチドの含有量は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の飼料におけるヌクレオチドの含有量は、例えば0.1%(w/w)~5%(w/w)、0.5%~5%(w/w)、1%~5%(w/w)又は1.5%~3%(w/w)であってよい。
【0031】
本発明の飼料におけるアミノ酸の含有量は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の飼料におけるアミノ酸の含有量は、例えば0.1%(w/w)~10%(w/w)、1%~10%(w/w)、2%~10%(w/w)、3%~10%(w/w)、4%~10%(w/w)又は5%~10%(w/w)であってよい。
【0032】
本発明の飼料に含有されるカロテノイドは、化学的に合成された合成カロテノイドであってもよく、あるいは、動物、植物、微生物等の天然由来のカロテノイドであってもよい。当業者であれば化学合成法、又は細菌や酵母等の微生物を用いた方法等の公知の方法でカロテノイドを製造することができる。カロテノイドは、精製された生成物又は部分的に生成された生成物であってもよい。本発明の飼料にカロテノイドを含有させることにより、生体内酸化の低減や免疫賦活による成長促進(体重増加)が期待される。また、本発明の飼料にカロテノイドを含有させることにより、魚類または甲殻類の皮、殻又は肉の色揚げが期待される。
【0033】
カロテノイドは、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。市販されている合成カロテノイドとして、CAROPHYLL(登録商標)ピンク(DSM社)、Lucantin(登録商標)ピンク(BASF社)等が挙げられる。
【0034】
本発明において、カロテノイドを産生する微生物に由来するカロテノイドを用いることができる。カロテノイドを産生する微生物は、カロテノイドを産生する微生物であれば特に限定されず、緑藻類Haematococcus pluvialis、赤色酵母Phaffia rhodozyma、Paracoccus(パラコッカス)属に属する細菌、Brevundimonas(ブレブンディモナス)属に属する細菌、Erythrobacter(エリスロバクター)属に属する細菌等が挙げられる。本発明においては、好ましくはパラコッカス属に属する細菌、ブレブンディモナス属に属する細菌又はエリスロバクター属に属する細菌が用いられ、より好ましくはパラコッカス属に属する細菌が用いられる。パラコッカス属、ブレブンディモナス属及びエリスロバクター属は、いずれもProteobacteria門、Alphaproteobacteria鋼に分類され、細菌分類学上の共通性があるため、これらの属に属する細菌を使用することが可能である。
【0035】
本発明において、パラコッカス属に属する細菌に由来するカロテノイドを好ましく用いることができる。
【0036】
本発明において、パラコッカス属に属する細菌は、Paracoccus carotinifaciens、Paracoccus marcusii、Paracoccus haeundaensis及びParacoccus zeaxanthinifaciensが好ましく用いられ、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。
【0037】
パラコッカス属に属する細菌の具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)及びParacoccus属細菌A-581-1株(FERM BP-4671)が挙げられ、これらの変異株も本発明に好ましく用いられる。ブレブンディモナス属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばBrevundimonas SD212株(特開2009-27995)、Brevundimonas FERM P-20515, 20516株(特開2006-340676)、Brevundimonas vesicularis(Gene, Vol.379, p.101-108, 1 Sep 2006)などが挙げられる。エリスロバクター属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばErythrobacter JPCC M種(特開2008-259452)、Erythrobacter JPCC O種(特開2008-259449)などが挙げられる。
【0038】
本発明において、カロテノイドを産生する細菌は、好ましくはE-396株の16SリボソームRNAの塩基配列と実質的に同一である細菌が用いられる。ここで、「実質的に同一」とは、塩基配列決定の際のエラー頻度等を考慮し、塩基配列が好ましくは90%以上、95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上相同であることを意味する。同一性・相同性は、例えば、遺伝子解析ソフトClustal Wにより決定することができる。
【0039】
この16SリボソームRNAの塩基配列の同一性・相同性に基づいた微生物の分類法は、近年主流になっている。従来の微生物の分類法は、従来の運動性、栄養要求性、糖の資化性など菌学的性質に基づいているため、自然突然変異による形質の変化等が生じた場合に、微生物を誤って分類する場合があった。これに対し、16SリボソームRNAのの塩基配列は遺伝的に安定であるので、その同一性・相同性に基づく分類法は従来の分類法に比べて分類の信頼度が格段に向上する。
【0040】
Paracoccus carotinifaciens E-396株の16SリボソームRNAの塩基配列と、他のカロテノイド産生細菌である、Paracoccus marcusii DSM 11574株、Paracoccus属細菌N-81106株、Paracoccus haeundaensis BC 74171株、Paracoccus属細菌A-581-1株、Paracoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株、及びParacoccus sp. PC-1株の16SリボソームRNAの塩基配列との相同性は、それぞれ99.7%、99.7%、99.6%、99.4%、95.7%、及び95.4%であり、これらは分類学上極めて近縁な菌株であることが分かる。よって、これらの菌株はカロテノイドを産生する細菌として一つのグループを形成しているといえる。このため、これらの菌株は本発明に好ましく用いられ、カロテノイドを効率的に増強することができる。
【0041】
本発明においては、カロテノイドを産生する微生物を適宜培養し、得られた培養物を、カロテノイドとして用いることができる。微生物の培養方法は、カロテノイドを産生する条件であればいずれの方法でもよく、当業者であれば、公知の方法から適宜選択、変更することができる。当業者は、公知技術に基づき、培養物をさらに濃縮、乾燥、粉砕、抽出又は精製などを行い、得られた沈殿濃縮物、乾燥菌体、抽出物もしくは精製物、又はそれらの組み合わせ等をカロテノイドとして本発明に使用することができる。
【0042】
本発明において、カロテノイドを産生する微生物の乾燥菌体は、市販品を使用することもできる。そのような市販品としては、例えば、Panaferd-P又はPanaferd-AX(ENEOS株式会社)を挙げることができる。
【0043】
カロテノイドとしては、アスタキサンチンが好ましく挙げられる。本発明において、カロテノイドを産生する微生物に含まれるカロテノイドの種類は、アスタキサンチンを含む限り特に限定されず、アドニルビン、アドニキサンチン等を含んでいてもよい。
【0044】
また、本発明のカロテノイドを産生する微生物に含まれるカロテノイドの量は特に限定されない。例えば、アスタキサンチンの含有量は、微生物中、0.005~20%、好ましくは0.01~10%、より好ましくは0.1~5%である。また、アドニルビンの微生物中の含有量は、例えば0.001~7%、好ましくは0.03~4%、より好ましくは0.3~2%であり、アドニキサンチンの微生物中の含有量は、例えば0.0001~2%、好ましくは0.001~1%、より好ましくは0.01~0.5%である。さらに例えば、乾燥菌体中のアスタキサンチンの含有量は、0.05~20%、好ましくは0.1~10%、より好ましくは0.5~5%、最も好ましくは1~3%である。また、アドニルビンの乾燥菌体中の含有量は、例えば0.01~7%、好ましくは0.03~4%、より好ましくは0.2~3%であり、最も好ましくは0.5~2%であり、アドニキサンチンの乾燥菌体中の含有量は、例えば0.005~2%、好ましくは0.01~1%、より好ましくは0.05~0.5%であり、最も好ましくは0.1~0.3%である。
【0045】
本発明の飼料におけるカロテノイドの含有量は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の飼料におけるカロテノイドの含有量は、例えば0.01%(w/w)~5%(w/w)、0.01%~1%(w/w)、0.01%~0.5%(w/w)又は0.05%~0.3%(w/w)であってよい。
【0046】
本発明の飼料におけるアスタキサンチンの含有量は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の飼料におけるアスタキサンチンの含有量は、例えば0.1~2000ppm、0.5~1500ppm、0.5~1000ppm、1~500ppm、1~150ppm、10~150ppm、1~100ppm、10~100ppm又は50~100ppmであってよい。一態様において、アスタキサンチンは、1~150ppm又は1~100ppmで飼料に含有される。本発明において、飼料に対して上記含有量のアスタキサンチンを含むカロテノイドを用いることができる。
【0047】
上記のとおり、本発明ではアミノ酸やヌクレオチドを添加剤として使用することができる。本発明の飼料の組成は、本発明の飼料が、ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含み、魚類又は甲殻類が摂取できる限り、特に限定されない。
【0048】
本発明の飼料が含有する成分の種類は、対象の魚類又は甲殻類の種類や生育ステージ等の諸条件に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の飼料は、ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドに加えて、通常の魚類又は甲殻類用飼料が含有する成分と同様の成分を含有していてもよい。通常の魚類又は甲殻類用飼料の成分として、具体的には、例えば、魚粉、魚油、ビタミン混合物、ミネラル混合物、金属、塩基性物質、リン酸カルシウム、小麦粉、小麦グルテン、αデンプン、粘結剤、骨粉、酵母、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等が挙げられる。
【0049】
さらに、本発明の飼料において、魚油の量を調整してもよい。例えば、本発明の飼料は、魚粉を含まない又は低含量の魚粉を含む場合、魚油の量を通常の飼料よりも増加させることができる。あるいは、十分な成長促進が可能な限度において、魚油の量を通常の飼料の量から減少させることができる。
【0050】
本発明の飼料は、植物性タンパク質、アミノ酸又はヌクレオチド及びカロテノイドを含有されるように、その他の成分を組み合わせることにより製造される。本発明の飼料の製造方法は特に限定されない。例えば、本発明の飼料は、植物性タンパク質、アミノ酸又はヌクレオチド、及びカロテノイド添加すること以外は、上述の通常の魚類又は甲殻類用飼料の成分と同様の成分を用い、同様の方法によって製造することができる。
【0051】
また、本発明の飼料の形態は、対象の魚類又は甲殻類が摂取可能な態様である限り、特に制限されない。すなわち、本発明の飼料は、粉末状、顆粒状、ペレット状、キューブ状、ペースト状、液状等のいかなる形態であってもよい。本発明の飼料は、例えば、ドライペレットやモイストペレット等のペレットとして成形されてよい。形態に基づき、増粘剤などの賦形剤をさらに加えることもできる。
【0052】
本発明は、ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含む飼料組成物を含む。本発明の一態様において、本発明の飼料組成物は、魚類又は甲殻類に用いることができる。また、本発明の別の態様において、本発明の飼料組成物は、魚類又は甲殻類の生育低下を防止又は低減するため、魚類又は甲殻類の成長を刺激又は促進するため、又は魚類又は甲殻類の皮、殻又は肉を色揚げに用いることができる。
【0053】
本発明の飼料又は飼料組成物は、魚類又は甲殻類に給餌することにより魚類又は甲殻類を養殖することができる。「本発明の飼料(又は飼料組成物)を給餌する」とは、予め調製された本発明の飼料を給餌する場合に限られず、上述した本発明の飼料に含まれる成分を組み合わせて給餌する場合を含む。例えば、配合前の成分をそれぞれ準備し、給餌前又は給餌時に混合して、あるいはそれぞれ別個に、給餌してもよい。
【0054】
本発明の飼料は、1日1回又は複数回に分けて給餌されてよい。また、本発明の飼料は、数日に1回給餌されてもよい。各給餌時の本発明の飼料の給餌量は、一定であってもよく、変動してもよい。本発明の飼料の給餌量は特に限定されない。当業者は、魚類又は甲殻類の種類や魚体、飼育方法に基づき適宜調整することができる。各給餌時の本発明の飼料の組成は、一定であってもよく、変動してもおい。各給餌時の本発明の飼料に含まれる植物性タンパク質、ヌクレオチド又はアミノ酸及びカロテノイドの含有量は一定であっても良く、変動してもよい。
【0055】
本発明の飼料の給餌方法は、魚の種類や成長度合、水温などに依拠して適宜選択することができる。例えば、手まき給餌でもよいし、給餌船給餌や自動給餌などの機械給餌でもよい。また、当業者は、魚のエネルギー要求量などに基づき給餌量や給餌タイミングを調整できる。
【0056】
本発明の飼料を給餌する期間は、対象の魚類又は甲殻類の種類等の諸条件に応じて適宜選択することができる。本発明の飼料は、養殖の全期間において継続して給餌されてもよく、一部の期間にのみ給餌されてもよい。また、本発明の飼料は、任意の期間で給餌の継続と中断を繰り返してもよい。本発明の飼料を給餌する期間は、限定されないが、例えば1~12月間又は1~4月間であってよく、約1月又は約2月であってもよい。「一部の期間」とは、例えば、養殖の全期間の10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、又は90%以上の期間であってよい。
【0057】
魚類又は甲殻類の養殖は、本発明の飼料を給餌すること以外は、魚類又は甲殻類を飼育する通常の方法により行うことができる。養殖は、例えば、海上の生簀や陸上の水槽で行うことができる。また、養殖には、稚魚生産のみを行う増養殖及び親魚までの生産を行う養殖が含まれる。
【0058】
本発明の飼料を用いて養殖された魚類又は甲類は、海上の生簀や陸上の水槽などの養殖環境から回収され得る。回収は、従来公知の方法で実施することができる。
【0059】
2.本発明の飼料の用途及び方法
本発明の一態様において、本発明の飼料を給餌して魚類又は甲殻類を養殖することにより、飼料中の動物性タンパク質又は魚粉の量が低減されている場合の、魚類又は甲殻類の飼料効率を上昇させることができる。本発明の飼料を給餌することにより、動物性タンパク質又は魚粉の量が低減され、かつ、カロテノイドが添加されていない飼料を給餌する場合と比較して、魚類又は甲殻類の飼料効率を上昇させることができる。したがって、本発明の方法の一態様は、本発明の飼料を魚類又は甲殻類に給餌することを含む、飼料中の動物性タンパク質又は魚粉の量が低減された飼料の飼料効率を上昇させる方法である。
【0060】
本発明の別の態様において、本発明の飼料を給餌して魚類又は甲殻類を養殖することにより、植物性タンパク質が飼料に添加されている場合の、魚類又は甲殻類の飼料効率を上昇させることができる。本発明の飼料を給餌することにより、植物性タンパク質を本発明の飼料と同程度含むが、カロテノイドが添加されていない飼料を給餌する場合と比較して、魚類又は甲殻類の飼料効率を上昇させることができる。したがって、本発明の方法の一態様は、本発明の飼料を魚類又は甲殻類に給餌することを含む、植物性タンパク質を含む飼料の飼料効率を上昇させる方法である。
【0061】
本発明の別の態様において、本発明の飼料を給餌して魚類又は甲殻類を養殖することにより、魚類又は甲殻類の飼料効率を上昇させることができる。本発明の飼料を給餌することにより、通常の飼料を給餌する場合と比較して、魚類又は甲殻類の飼料効率を上昇させることができる。したがって、本発明の方法の別の態様は、本発明の飼料を魚類又は甲殻類に給餌することを含む、飼料の飼料効率を上昇させる方法である。
【0062】
飼料効率の上昇は、例えば、魚類又は甲殻類が所定の大きさ又は体重に対照よりも早く到達すること又は所定の大きさ又は体重に対照よりも少ない飼料量で到達することを含む。飼料効率は、FCR(feed conversion ratio)によって評価することができる。FCRは増肉係数とも称され、1kgの魚肉を得るために必要な飼料量(kg)を意味する。FCRの値が小さいほど少ない飼料量で効率的に魚の体重が増加することを示す。
FCRは、1尾あたりの給餌量を体重の増重量で除することで算出される。FCRは増肉係数とも称され、FCRの値が小さいほど少ない飼料量で効率的に魚の体重が増加することを示す。
【0063】
また、本発明の飼料は、飼料効率を上昇させ得ることができることから、飼料中の動物性タンパク質又は魚粉の量の低減による生育低下又は植物性タンパク質の添加による魚類又は甲殻類の生育低下を防止又は低減することができる。したがって、本発明の飼料の一態様は、魚類又は甲殻類の生育低下の防止剤又は低減剤であり得る。また、本発明は、本発明の飼料を魚類又は甲殻類に給餌することを含む、魚類又は甲殻類の生育低下を防止又は低減する方法を含む。
【0064】
本発明の別の態様において、本発明の飼料は、飼料効率を上昇させ得ることができることから、本発明の飼料を給餌して魚類又は甲殻類を養殖することにより、魚類又は甲殻類の成長を促進又は刺激、あるいは魚類又は甲殻類の体重を増加させることができる。したがって、一態様において、本発明の飼料は、魚類又は甲殻類の成長を促進又は刺激するために用いることができる。本発明の飼料の一態様は、魚類又は甲殻類の成長の促進剤又は成長刺激剤であり得る。また、本発明は、本発明の飼料を魚類又は甲殻類に給餌することを含む、魚類又は甲殻類の成長促進方法又は成長刺激方法を含む。別の態様において、本発明は、本発明の飼料を魚類又は甲殻類に給餌することを含む魚類又は甲殻類の体重を増加させる方法である。
【0065】
本発明の飼料はカロテノイドを含有するため、魚粉の含有量が少ない又は含有しない飼料であっても、魚類又は甲殻類の皮、殻又肉を色揚げすることが期待される。したがって、本発明の別の態様において、本発明の飼料を給餌して魚類又は甲殻類を養殖することにより、魚類又は甲殻類の皮、殻又は肉を色揚げすることができる。本発明の飼料の一態様は、魚類又は甲殻類の色揚げ剤であり得る。また、本発明は、本発明の飼料を魚類又は甲殻類に給餌することを含む、魚類又は甲殻類の皮、殻又は肉の色揚げ方法を含む
【0066】
魚類又は甲殻類の皮、殻又肉の色は、皮、殻又は肉に含まれるカロテノイド色素の量を測定することにより、評価することができる。あるいは、皮、殻又は肉を色素計で測定することにより評価することもできる。
当業者は、公知の方法に基づき皮、殻又は肉に含まれるカロテノイドの量を測定することができる。例えば、魚類又は甲殻類から取得した皮、殻又は肉からカロテノイドを抽出し、抽出液を適宜処理した後、吸光度の測定や液体クロマトグラフィー分析により、皮、殻又は肉に含まれるカロテノイドの量を算出することができる。
【0067】
本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「1~40」という記載では、下限値である「1」、上限値である「40」のいずれも含むものとする。すなわち、「1~40」は、「1以上40以下」と同じ意味である。
【0068】
本明細書において、「%」及び「ppm」の値は、重量比を意味する。本明細書において、「1mg/kg」は「1ppm」と同じ意味である。本明細書において、含有量は、特に断りがない限り、質量又は重量比で表される。
【実施例0069】
1.飼料組成及び方法
1-1.試験飼料
以下の試験において使用した飼料の組成を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1中、「パラコッカス菌粉末」は、Panaferd-AX(ENEOS株式会社、アスタキサンチン含量2%。なお、その他のカロテノイドとして、アドニルビンを0.9%、アドニキサンチンを0.3%含む。)を用い、「合成アスタキサンチン」は、アスタキサンチンを8%含有するカロフィル ピンク(DSM社)を用いた。
また、(1)区で添加した魚粉は、チリ産のものを用いた。(2)~(6)区で添加した濃縮大豆タンパク質は、ADM社のSoy Protein Concentratesを用いた。
【0072】
表1の組成で各成分を混合した原料をエクストルーダー処理(圧力処理~乾燥)し、ペレット化したものを、試験飼料として魚に給餌した。
粉状のものをペレット状に成型することにより、魚への給餌が容易になることが期待される。また、エクストルーダー処理によって加圧、加熱されるため、魚が飼料を消化しやすくなることが期待される。
【0073】
試験飼料は以下の条件で処理し、エクストルーダーペレットを製造した。
原料供給量 70~90g/min
添加水量 26~30g/min
圧力 約0.5Mpa
原料温度 90~96℃
乾燥 90℃ 2~4時間
【0074】
1-2.試験方法
試験区は以下の6つであった:
(1)魚粉区(魚粉含有飼料の給餌区);
(2)無添加区(魚粉無し、アスタキサンチン添加無しの飼料の給餌区);
(3)天然アスタキサンチン50ppm添加区(魚粉無し、アスタキサンチンを50ppmの濃度で含有するようにPanaferd-AX(パラコッカス菌粉末)を添加した飼料の給餌区。なお、当該試験区はアドニルビンを23ppm、アドニキサンチンを7.5ppm含む。);
(4)合成アスタキサンチン50ppm添加区(魚粉無し、アスタキサンチンを50ppmの濃度で含有するように合成アスタキサンチンを添加した飼料の給餌区);
(5)天然アスタキサンチン100ppm添加区(魚粉無し、アスタキサンチンを100ppmの濃度で含有するようにPanaferd-AX(パラコッカス菌粉末)を添加した飼料の給餌区。なお、当該試験区はアドニルビンを45ppm、アドニキサンチンを15ppm含む。);及び
(6)合成アスタキサンチン100ppm添加区(魚粉無し、アスタキサンチンを100ppmの濃度で含有するように合成アスタキサンチンを添加した飼料の給餌区)。
【0075】
供試魚として、マダイ稚魚(60g程度)を用いた。
【0076】
給餌期間は、9月~11月の8週間実施した。
【0077】
飼育条件:
高知大学海洋研究施設の陸上飼育施設で飼育した。飼育海水は生海水(ろ過や殺菌なし)を使用した。200L水槽18基(6試験区×3反復)に1水槽あたりマダイ稚魚を5尾ずつ収容し、週5日8週間飼育した。給餌量を毎日記録するとともに試験開始時及び給餌終了時に体重を測定した。
試験終了時には、全5尾の体重を測定した。
【0078】
カロテノイドの含有量の測定方法:
マダイを3枚におろし、右身及び左身から皮をはぎ、得られた皮をサンプルとした。皮からカロテノイドをアセトンで抽出し、抽出液にジエチルエーテル:ヘキサン(1:1(v/v))混合溶媒と水を加え分配し、溶媒層を回収した。溶媒を蒸発させた後、残渣をヘキサンで再溶解し、470 nmの吸光度を測定した。アスタキサンチンの吸光係数:
【数1】
を使用し、ヘキサン中のアスタキサンチン量を総カロテノイドと仮定して計算した。また、ヘキサン再溶解液をHPLC分析に供した。条件は以下のとおりとした。
【0079】
カラム:Silica gel(製品名:COSMOSIL5SL-II 4.6 IDX250 nm NACALAI TESQUE INC)
溶媒:アセトン:ヘキサン(15:85v/v)
流速:1.0mL/minインジェクトボリューム:100μL
検出:450nm
システム Pomp LC-10AD VP Shimadzu, Detector L-7420 HITACHI
【0080】
保持時間約2~3分のピークを(1)黄色系カロテノイドエステル(ツナキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチンのトータル)のピークとし、保持時間約4分のピークを(2)アスタキサンチンジエステルのピーク、保持時間5~6分のピークを(3)アスタキサンチンモノエステルのピーク、保持時間13分のピークを(4)アスタキサンチン(フリー体)のピークとみなした。
(1)のピークの面積比を黄色系色素のカロテノイド比率とし、(2)~(4)のピークの合計の面積比を赤系色素のカロテノイド比率とした。
【0081】
TBARS(チオバルビツール酸反応物質)測定方法:
各区の飼料1gを採取し、リン酸緩衝液(pH7.4)5mLを加え、テフロンホモジナイザーでホモジナイズし、そのホモジネートをTBA反応に供した。ホモジネート液0.5mLに7% sodium dodecylsulphate水溶液0.2mLを添加、混合した。0.1N HCl 2mLを添加し、混合し、均一に溶かした。その後、10%リンタングステン酸0.3mLを添加した。0.5%チオバルビツール酸(TBA)水溶液1mLを加え、混合し、95℃で45分加熱した。冷却後、n-ブタノール5mLを加え、TBA色素をブタノール層に抽出した。遠心後、ブタノール層の吸光度(532nm)を測定した。n=3で分析を行った。
【0082】
2.結果1:成長の促進効果
魚の体重と給餌量を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2は、(1)区~(6)区の水槽18基それぞれにおける値と区毎の平均値(avg)を示す。表2において、「Initial」及び「Final」は、それぞれ試験開始時及び試験終了時の魚の体重を示し、「gain」は増重量を示す。「Feed/fish」は、1尾当たりの給餌量を示す。「DFR」(daily feed ratio)(%)は、1尾当たりの給餌量(feed/fish)を給餌日数で割り、さらに魚体重で割って100をかけて算出した。ここで、魚体重は初期体重(試験開始時)と最終体重(試験終了時)の平均とした。また、「FCR」(feed conversion ratio)は、1尾あたりの給餌量(feed/fish)を増重量(gain)で割った値である。FCRは増肉係数とも称され、FCRの値が小さいほど少ない飼料量で効率的に魚の体重が増加することを示す。
【0085】
(1)区(魚粉区)に比べて(2)区(大豆タンパク飼料)はFCRが高かった((1)区1.32に対し(2)区1.41)。魚粉に替えて大豆タンパク質(及びアミノ酸、ヌクレオチド等)を添加した飼料では、魚粉添加飼料と同等の効率で魚肉が得られないことが分かった。
(3)~(6)区(アスタキサンチン添加区)のFCRは、(2)区(大豆タンパク飼料区)と比べて小さかった。したがって、魚粉の替わりに大豆タンパク質(及びアミノ酸、ヌクレオチド等)を用いる場合、アスタキサンチンをさらに添加することにより、少ない飼料量で効率的に魚肉が得られることが示された。
また、(3)~(6)区(アスタキサンチン添加区)のFCRは、(1)区(魚粉区)のFCR同程度又はそれよりも小さかった。特に、天然アスタキサンチン添加区である(5)区(パラコッカス菌体によりアスタキサンチンを100ppm含有)は、もっとも小さいFCR(1.25)であった。したがって、本発明により、通常の魚粉含有飼料で給餌する場合よりも少ない飼料量で効率的に魚肉が得られることが示された。
以上より、ヌクレオチド及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、植物性タンパク質と、カロテノイドとを含む本発明の飼料は飼料効率が良く、魚類又は甲殻類の成長を刺激(体重増加)又は促進するために用いることができることが示された。
【0086】
3.結果2:皮の色揚げ効果
表3は、皮中のカロテノイド含有量を示す。
【0087】
【表3】
【0088】
天然アスタキサンチン添加区((3)区及び(5)区)及び合成アスタキサンチン添加区((4)区及び(6)区)において、皮にアスタキサンチン等の赤系色素が高濃度で蓄積していた。なお、天然アスタキサンチンとしてパラコッカス菌乾燥物を使用しており、パラコッカス菌乾燥物には、アスタキサンチンだけなく、アドニルビン、アドニキサンチン等の赤系色素も含まれる。また、ツナキサンチンは、マダイの体内でアスタキサンチンから代謝される黄色のカロテノイドである。
したがって、魚粉を含まない飼料であっても、本発明の飼料により、効率的に魚の皮の色揚げが可能であることが分かった。
【0089】
4.結果3:脂質酸化
飼料中の脂質の過酸化度を、TBA(チオバルビツール酸)を用いた吸光光度法であるTBA法で測定した。TBARSは脂質過酸化度の指標であり、値が低いほど酸化されていないことを示す。結果を表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
(1)区(魚粉区)又は(2)区(大豆タンパク飼料区)の飼料に比べて、アスタキサンチンを含有する(3)~(6)区の飼料は脂質酸化の程度が小さいことが示された。したがって、本発明の飼料は酸化しにくい飼料であることが示された。
また、(3)~(6)区(アスタキサンチン添加区)について、天然アスタキサンチン添加区である(3)区(50ppm添加区)及び(5)区(100ppm添加区)は、合成アスタキサンチンである添加区である(4)区(50ppm添加区)及び(6)区(100ppm添加区)よりもそれぞれTBARS値が小さく、脂質の酸化程度が小さいことが示された。
【0092】
魚油は不飽和脂肪酸を多く含むために酸化しやすい特性を有し、酸化した魚油を飼料中に含む飼料は成長率を低下させ得ることが知られている。本発明の飼料は、酸化しにくい飼料であることから、成長促進が可能な飼料になり得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、魚粉の含有量を低減した魚類又は甲殻類用の飼料が提供される。本発明により提供される飼料は、従来の飼料よりも魚粉の含有量を減らすことが可能であるため、持続可能な養殖のための飼料として使用し得る。
本発明の別の態様において、魚類又は甲殻類の成長を刺激するための魚類又は甲殻類用の飼料及び魚類又は甲殻類の体重を増加させる方法が提供される。
また、本発明の別の態様において、魚類又は甲殻類の皮、殻又は肉を色揚げする方法が提供される。