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特開2023-113581粉末X線回折測定に用いられる試料ホルダーへの試料充填用治具、および当該試料充填用治具を用いた試料充填方法
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  • 特開-粉末X線回折測定に用いられる試料ホルダーへの試料充填用治具、および当該試料充填用治具を用いた試料充填方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113581
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】粉末X線回折測定に用いられる試料ホルダーへの試料充填用治具、および当該試料充填用治具を用いた試料充填方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20025 20180101AFI20230808BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20230808BHJP
   G01N 23/2005 20180101ALI20230808BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N1/28 W
G01N23/2005
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010449
(22)【出願日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022015875
(32)【優先日】2022-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝史
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001BA22
2G001CA01
2G001MA04
2G001QA02
2G052AD35
2G052AD55
2G052DA33
2G052GA19
2G052JA07
(57)【要約】
【課題】粉末X線回折測定用の平板型試料ホルダーへ粉末試料を充填する際、当該平板型試料ホルダーを直接に指で掴んで少し回しては、前記粉末試料を擦り切るという操作をなくすことを可能にする試料充填用治具、および当該試料充填用治具を用いた試料充填方法を提供する。
【解決手段】回転自在な試料ホルダー台座上に、前記平板型試料ホルダーを真空チャックする機構と、前記平板型試料ホルダーが真空チャックされた前記試料ホルダー台座を指先で回転させる機構とを、有する試料充填用治具を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折測定に用いる粉末試料を平板型試料ホルダーへ充填するために用いる試料充填用治具であって、
回転自在な試料ホルダー台座上に、前記平板型試料ホルダーを真空チャックする機構と、
前記平板型試料ホルダーが真空チャックされた前記試料ホルダー台座を指先で回転させる機構とを、有することを特徴とする試料充填用治具。
【請求項2】
粉末X線回折測定に用いる粉末試料を平板型試料ホルダーへ充填するために用いる試料充填用治具であって、
平板型試料ホルダーを載置させ、前記平板型試料ホルダーを真空チャックするための開口部を具備した円盤状の試料ホルダー台座と、
試料ホルダー台座を回転自在に支えるベースとを有し、
前記試料ホルダー台座の前記開口部の下部には、前記開口部と連通する管状のチャック用ホルダーが接続され、
前記管状のチャック用ホルダーは、前記ベースの円盤状の天板部に設けられた開口部を貫通し、真空ホースを介して真空ポンプへ接続可能に構成されており、
前記真空ポンプにより、前記平板型試料ホルダーを前記試料ホルダー台座へ真空チャックすることを特徴とする試料充填用治具。
【請求項3】
前記平板型試料ホルダーの厚みが、3mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の試料充填用治具。
【請求項4】
前記試料ホルダー台座上に載置され、前記平板型試料ホルダーから擦り切られて零れた前記粉末試料を受け止めるカバー部材を有することを特徴とする請求項1または2に記載の試料充填用治具。
【請求項5】
前記カバー部材は、シート状カバー部材または円柱状カバー部材であることを特徴とする請求項4に記載の試料充填用治具。
【請求項6】
請求項1または2に記載の試料充填用治具を用い、
前記試料ホルダー台座上に真空チャックされた前記平板型試料ホルダーへ、前記粉末X線回折測定に用いる粉末試料を充填する工程と、
前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて擦り切る工程と、
手指により前記試料ホルダー台座を回転させることで、前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて再び擦り切る工程とを有することを特徴とする試料充填方法。
【請求項7】
請求項5に記載の試料充填用治具を用い、
前記試料ホルダー台座上に真空チャックされた前記平板型試料ホルダーへ、前記粉末X線回折測定に用いる粉末試料を充填する工程と、
前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて擦り切る工程と、
手指により前記試料ホルダー台座を回転させることで、前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて再び擦り切る工程と、
前記擦り切る工程において擦り切られて零れた前記粉末試料を、前記シート状カバー部材で受け止める工程と、
前記粉末試料を受け止めた前記シート状カバー部材を、前記試料ホルダー台座から外す工程とを有することを特徴とする試料充填方法。
【請求項8】
請求項5に記載の試料充填用治具を用い、
前記試料ホルダー台座上に真空チャックされた前記平板型試料ホルダーへ、前記粉末X線回折測定に用いる粉末試料を充填する工程と、
前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて擦り切る工程と、
手指により前記試料ホルダー台座を回転させることで、前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて再び擦り切る工程と、
前記擦り切る工程において擦り切られて零れた前記粉末試料を、前記円柱状カバー部材で受け止め、前記円柱状カバー部材に設けられた溝部に収納することを特徴とする試料充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末X線回折測定に用いられる試料ホルダーへの試料充填用治具、および前記試料充填用治具を用いた試料充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末X線回折測定においては、封入管や回転対陰極式のX線管球をX線源として使用する。そして、疑似集中法による反射法では、集中円と呼ばれる仮想の円周上に、X線管球と試料面の高さ位置と、粉末試料で回折されたX線を検出する検出器とが配置される。このとき、前記集中円上に、試料面の高さ位置を正確に配置することが重要である。
【0003】
さらに、前記疑似集中法による反射法での粉末X線回折測定において用いられる粉末試料ホルダーは、ガラスやアルミニウム等が平板状に成形されたものであって、前記成形体の中央部に円形や四角などの凹み部が形成されており、前記凹み部に粉末試料を充填する構造になっている(本発明において「平板型試料ホルダー」と記載する場合がある。)。
【0004】
例えば、前記成形体がガラス製の場合は、充填した粉末を脱落しにくくするために、その凹みの底面は粗めの摺りガラス状になっている。そして、粉末X線回折装置の集中円上へ、試料面の高さ位置と充填した試料面とを合わせる必要があるため、平板型試料ホルダーには試料高さ基準面(主表面)が設定されており、他の面と比べて高い精度で加工されている。
【0005】
本発明者は、前記平板型試料ホルダー凹み部に粉末試料を充填する方法として、粉末試料を平板型試料ホルダーの一面に形成された、周囲を当該平板型試料ホルダーの主表面に囲まれた凹み部に粉末試料を充填し、当該平板型試料ホルダーの主表面と、平板状治具の平面とを接触させた状態で、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切ることにより、測定用試料を作製する方法を特許文献1として開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特開2018-66652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の更なる検討によると、上述した粉末試料を擦り切る操作を、前記粉末試料表面に対して一方向だけに実施すると、粉末試料が選択配向する場合があることを知見した。そこで、このような事態を回避するめ、平板型試料ホルダーを指で掴んで、少しずつ平板型試料ホルダーを回し、粉末試料を擦り切る操作を繰り返し行い、擦り切る方向をランダムにしながら、擦り切る操作が有効であることに想到した。
【0008】
ここで、粉末X線回折測定用として一般的に市販されている平板型試料ホルダーは、簡単に上述したように、粉末試料を充填するガラス板または金属板だけからなるものと、ガラス板または粉末試料を充填するガラス板または金属板を、さらに別の平板型試料ホルダーに組み込んだものの二種類がある。しかしながら、いずれの平板型試料ホルダーの厚みは2mm以下と薄い。そのため平板型試料ホルダーは、指で掴みにくくなりハンドリングが難しい。具体的には、平板型試料ホルダーを指で掴んで回す際に、平板型試料ホルダーを掴み損ねて落とし粉末試料を零す、平板型試料ホルダーへ振動や衝撃を加えてしまい、平板状治具による擦り切り操作で平坦にした粉末試料表面に微細な凹凸が発生させてしまう、といった事態が頻発する。この結果、粉末試料充填の操作をやり直すこととなり、作業性が損なわれて作業効率が悪くなっていた。
【0009】
本発明は、上述の状況の下で成されたものであり、その解決しようとする課題は、平板型試料ホルダーを直接に指で掴んで少し回しては、粉末試料を擦り切るという操作をなくすことを可能にする試料充填用治具、および当該試料充填用治具を用いた試料充填方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明者らは研究を行った。そして、平板型試料ホルダーを直接に指で掴んで粉末試料表面を擦り切り、再び指で平板型試料ホルダーを掴み少し回してから、粉末試料表面を擦り切るという操作に代えて、平板型試料ホルダーを固定する試料充填用治具を用い、前記試料充填用治具を指で回転することによって粉末試料表面の擦り切り操作を行う構成に想到した。
【0011】
即ち、前記課題を解決するための第1の発明は、
粉末X線回折測定に用いる粉末試料を平板型試料ホルダーへ充填するために用いる試料充填用治具であって、
回転自在な試料ホルダー台座上に、前記平板型試料ホルダーを真空チャックする機構と、
前記平板型試料ホルダーが真空チャックされた前記試料ホルダー台座を指先で回転させる機構とを、有することを特徴とする試料充填用治具である。
第2の発明は、
粉末X線回折測定に用いる粉末試料を平板型試料ホルダーへ充填するために用いる試料充填用治具であって、
平板型試料ホルダーを載置させ、前記平板型試料ホルダーを真空チャックするための開口部を具備した円盤状の試料ホルダー台座と、
試料ホルダー台座を回転自在に支えるベースとを有し、
前記試料ホルダー台座の前記開口部の下部には、前記開口部と連通する管状のチャック用ホルダーが接続され、
前記管状のチャック用ホルダーは、前記ベースの円盤状の天板部に設けられた開口部を貫通し、真空ホースを介して真空ポンプへ接続可能に構成されており、
前記真空ポンプにより、前記平板型試料ホルダーを前記試料ホルダー台座へ真空チャックすることを特徴とする試料充填用治具である。
第3の発明は、
前記平板型試料ホルダーの厚みが、3mm以下であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の試料充填用治具である。
第4の発明は、
前記試料ホルダー台座上に載置され、前記平板型試料ホルダーから擦り切られて零れた前記粉末試料を受け止めるカバー部材を有することを特徴とする第1または第2の発明に記載の試料充填用治具である。
第5の発明は、
前記カバー部材は、シート状カバー部材または円柱状カバー部材であることを特徴とする第4の発明に記載の試料充填用治具である。
第6の発明は、
第1または第2の発明に記載の試料充填用治具を用い、
前記試料ホルダー台座上に真空チャックされた前記平板型試料ホルダーへ、前記粉末X線回折測定に用いる粉末試料を充填する工程と、
前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて擦り切る工程と、
手指により前記試料ホルダー台座を回転させることで、前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて再び擦り切る工程とを有することを特徴とする試料充填方法である。
第7の発明は、
第5の発明に記載の試料充填用治具を用い、
前記試料ホルダー台座上に真空チャックされた前記平板型試料ホルダーへ、前記粉末X線回折測定に用いる粉末試料を充填する工程と、
前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて擦り切る工程と、
手指により前記試料ホルダー台座を回転させることで、前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて再び擦り切る工程と、
前記擦り切る工程において擦り切られて零れた前記粉末試料を、前記シート状カバー部材で受け止める工程と、
前記粉末試料を受け止めた前記シート状カバー部材を、前記試料ホルダー台座から外す工程とを有することを特徴とする試料充填方法である。
第8の発明は、
第5の発明に記載の試料充填用治具を用い、
前記試料ホルダー台座上に真空チャックされた前記平板型試料ホルダーへ、前記粉末X線回折測定に用いる粉末試料を充填する工程と、
前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて擦り切る工程と、
手指により前記試料ホルダー台座を回転させることで、前記平板型試料ホルダーへ充填された前記粉末試料を、板材を用いて再び擦り切る工程と、
前記擦り切る工程において擦り切られて零れた前記粉末試料を、前記円柱状カバー部材で受け止め、前記円柱状カバー部材に設けられた溝部に収納することを特徴とする試料充填方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉末X線回折測定に用いる粉末試料を平板型試料ホルダーへ充填し、当該充填された粉末試料を板材で擦り切った後、当該平板型試料ホルダーを直接に指で掴んで少し回しては粉末試料を擦り切るという操作をなくすことができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る試料充填用治具の一実施形態の模式的な断面図である。
図2】本発明に係る試料充填用治具の一実施形態の模式的な斜視図である。
図3】本発明に係るシート状カバー部材の模式的な斜視図である。
図4】本発明に係る円柱状カバー部材の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る試料充填用治具、および当該試料充填用治具を用いた試料充填方法について図1~4を参照しながら、1.本発明に係る試料充填用治具、2.本発明に係る試料充填用治具を用いた平板型試料ホルダーへの粉末試料の充填方法、3、平板型試料ホルダーの粉末X線回折装置への設置、の順に説明する。
尚、図1、2において、同じ部分を示す符号には同じ番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0015】
1.本発明に係る試料充填用治具
図1は本発明に係る試料充填用治具の一実施形態の模式的な断面図であり、図2図1と同じ試料充填用治具の一実施形態(真空ホースを接続している)の模式的な斜視図である。
本発明に係る試料充填用治具10は、粉末試料を充填する平板型試料ホルダー1を載置する円盤状の試料ホルダー台座2と、当該試料ホルダー台座2を回転自在に支持するベース4を有し、実験台または作業台等の土台9上に載置される。以下、図1、2を参照しながら、(1)平板型試料ホルダー、(2)試料ホルダー台座、(3)ベース、の順に説明する。
【0016】
(1)平板型試料ホルダー
測定対象である粉末試料を充填する平板型試料ホルダー1としては、市販されているガラス製または金属製のホルダーが使用できる。本発明では、平板型試料ホルダー1における、サイズ、厚み、粉末試料を充填する凹み部の形状、寸法は任意であるが、そのサイズは一般的に、角型のもので10×18~15×20mm、丸形のもので5~30mmφ(直径)、厚みは2~9mmである。平板型試料ホルダー1の厚みが3mm以下の場合、本発明に係る試料充填用治具による作業性の向上が顕著になる。
【0017】
(2)試料ホルダー台座
試料ホルダー台座2は、平板型試料ホルダー1を安定的に載置する円盤状を有する台座である。試料ホルダー台座2における上面の試料ホルダー台座円形部21は、平板型試料ホルダー1を安定的に載置する観点から、30~60mmφ(直径)であることが好ましく、試料ホルダー台座厚み22は、後述する操作性の観点から7~10mmであることが好ましい。
試料ホルダー台座2は平板型試料ホルダー1を載置し、平板型試料ホルダー1と共に土台9に対して回転可能である。
試料ホルダー台座2は、金属製であることが好ましいが、強度を有し、耐食性に優れ、磁性を帯びないことが好ましいので、オーステナイト系ステンレス鋼、真鍮、等が好ましい。
【0018】
(3)ベース
ベース4は、試料ホルダー台座2を回転自在に支えるベース部分であって、試料ホルダー台座2を安定的に載置するベース天板部5と、ベース天板部5と土台9との間の部分であって、ベース天板部5を支える中空のベース台座部6とを有している。ベース4は、試料ホルダー台座2を回転自在に支えるが、自身は土台9に対して回転しない。この結果、本発明に係る試料充填用治具10と土台9との間に、紙製のウエス等を敷いている場合であっても、試料ホルダー台座2の回転によって当該ウエスを巻き込むことがなく、作業性が良好である。
【0019】
ベース天板部5は、試料ホルダー台座2を安定的に載置する円盤状を有する天板である。ベース天板部5における上面のベース天板部円形部51は、試料ホルダー台座2を安定的に載置する観点から、30~60mmφ(直径)であって、試料ホルダー台座2とほぼ同径を有することが好ましい。ベース天板部厚み52は、特に制限はないが操作性の観点から7~10mmであることが好ましい。
ベース天板部5は土台9に対しては回転することなく、試料ホルダー台座2を回転可能に載置する。
ベース天板部5は、金属製であることが好ましいが、強度を有することが好ましいので、鋼材、ステンレス鋼、等が好ましい。
【0020】
ベース天板部5の軸心には、円筒のパイプ形状(管状)を有するチャック用ホルダー7を貫通させるためのベース天板部開口部53が設けられている。チャック用ホルダー7は、最上部がベース天板部5の試料ホルダー台座円形部21と面一に成形され、回転自在の状態でベース天板部5を貫通し、下端部はベース天板部5を支えるベース台座部6の中空部に至る。
【0021】
ここで、ベース天板部開口部53の周囲のベース天板部5の下面にボールベアリング8を設け、ボールベアリング8の内輪とチャック用ホルダー7とを嵌合させることにより、チャック用ホルダー7をベース4によって回転自在に支持することは好ましい構成である。
【0022】
一方、試料ホルダー台座2の円盤状の軸心には、チャック用ホルダー7の中空部と連通する試料ホルダー台座開口部24が設けられている。試料ホルダー台座開口部24の径は、平板型試料ホルダー1が、後述する真空チャックにより、チャック用ホルダー7および試料ホルダー台座2へ吸着できるものであれば、特に限定されない。
尚、本発明において「真空チャック」とは、真空あるいは減圧操作によって生じた圧力と大気圧との圧力差を用い、対象物を吸着し固定する機構または操作の意味である。
【0023】
ここで、試料ホルダー台座2に設けられた試料ホルダー台座開口部24と、チャック用ホルダー7の中空部とが連通し、且つ、試料ホルダー台座2とチャック用ホルダー7との真空チャックが成立するために、試料ホルダー台座2をベース4のベース天板部5上に載置したとき、両者の軸心が一致することが肝要である。当該観点から、試料ホルダー台座2とベース天板部5とは同一径の外筒部とすることが好ましい。そして、試料ホルダー台座2をベース天板部5上に載置する際、両者の外筒面を一致させるようにすれば良い。
【0024】
そして、図1、2には図示されていない真空ポンプに接続された真空ホース3を、ベース台座部6の中空部にあるチャック用ホルダー7の下端部(当該下端部は、タップが施されていることが好ましい。)に接続し、ポンプを作動させることで、チャック用ホルダー7内および試料ホルダー台座開口部24内を減圧することにより、平板型試料ホルダー1と試料ホルダー台座2とチャック用ホルダー7とを真空チャックすることができる。また、ポンプを停止する等して減圧を破ることで、当該真空チャックを解くことも自在にできる。
【0025】
平板型試料ホルダー1と試料ホルダー台座2とチャック用ホルダー7とが真空チャックされて一体化することにより、平板型試料ホルダー1および試料ホルダー台座2も、ベース4に回転自在に支持される。
【0026】
このとき、試料ホルダー台座2を回転させることにより、真空ホース3に捩れが生じるが、当該回転は高々1/2回転程度であるので、適宜な弾力性を有する真空ホースを用いることで当該捻れを吸収し、平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2へ真空チャックしたまま試料ホルダー台座2の回転を担保することができる。
【0027】
尚、試料ホルダー台座2を、より安定的にベース天板部5における上面のベース天板部円形部51へ載置する観点から、試料ホルダー台座2の下面部へリング状の試料ホルダー台座凹部23を設け、一方、ベース天板部5のベース天板部円形部51へリング状のベース天板部凸部54を設け、両者を咬み合わせることも好ましい構成である。具体的には、試料ホルダー台座凹部23、ベース天板部凸部54とも、それぞれ試料ホルダー台座および天板部の軸心から等距離の円周上において、互いに咬み合い、且つ、試料ホルダー台座2がベース天板部5上でスムーズに回転することを妨げない寸法とする。
【0028】
2.本発明に係る試料充填用治具を用いた平板型試料ホルダーへの粉末試料の充填方法
上述した、試料ホルダー台座2、ベース4を用いて試料充填用治具10を組み立て、チャック用ホルダー7の下端部へ、真空ポンプに接続された真空ホース3を接続する。
試料ホルダー台座2の試料ホルダー台座開口部24を塞ぐように平板型試料ホルダー1を載置し、真空ポンプの電源を入れ、平板型試料ホルダー1と、試料ホルダー台座2と、チャック用ホルダー7とを互いに吸着させて真空チャックする。
【0029】
その後、測定対象である粉末試料を、スパチュラなどを用いて、平板型試料ホルダー1の試料充填部である凹み部に入れ、平板状治具(例えば、平板状のガラス板を好ましく用いることができる。)で粉末試料を凹み部に押し広げ、さらに当該平板状治具を用いて粉末試料を擦り切る。
【0030】
次に、平板型試料ホルダー1が真空チャックされた試料ホルダー台座2を指で掴み、1/8~1/4回転程度、平板型試料ホルダー1と試料ホルダー台座2とチャック用ホルダー7とを回転する。そして、平板状治具を用いて平板型試料ホルダー1の粉末試料を、再び擦り切る。平板型試料ホルダー1が回転する際に、指は平板型試料ホルダー1に接触しておらず、厚みのある試料ホルダー台座2を指で掴むため、試料ホルダー台座2を回転するときの振動などにより、粉末試料が平板型試料ホルダー1から零れることはない。
【0031】
この、「平板状治具を用いた平板型試料ホルダー1における粉末試料の擦り切り→試料ホルダー台座2の回転→平板状治具を用いた平板型試料ホルダー1における粉末試料の擦り切り→試料ホルダー台座2の回転→(以降、粉末試料の擦り切りおよび台座の回転の操作を所望回に亘って繰り返す)」という操作を行い、平板型試料ホルダー1における粉末試料面を、平板型試料ホルダー1の基準面に合わせ、かつ平滑にする。
【0032】
3、平板型試料ホルダーの粉末X線回折装置への設置方法
上述した「2.本発明に係る試料充填用治具を用いた平板型試料ホルダーへの粉末試料の充填方法」にて説明した、粉末試料が充填された平板型試料ホルダーの粉末X線回折装置への設置方法について、(1)平板型試料ホルダー自体を粉末X線回折装置へ設置する方法、(2)平板型試料ホルダーを試料ホルダー台座に載置した状態で粉末X線回折装置へ設置する方法、の順に説明する。
【0033】
(1)平板型試料ホルダー自体を粉末X線回折装置へ設置する方法
上述した「2.本発明に係る試料充填用治具を用いた平板型試料ホルダーへの粉末試料の充填方法」に係る操作が完了したら真空ポンプの電源を切り、真空チャックを解く。
そして平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2から持ち上げて、粉末X線回折装置へ設置する。
勿論、平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2に載置した状態で試料ホルダー台座2をベース天板部5から外し、適宜な実験台や作業台上へ載置した後、平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2から持ち上げて、粉末X線回折装置へ設置するのも好ましい方法である。
この後、試料ホルダー台座2上に付着している、平板状治具で粉末試料を擦り切った際に零れ落ちた粉末試料をアルコールなどで拭き取ることが好ましい。
【0034】
(2)平板型試料ホルダーを試料ホルダー台座に載置した状態で粉末X線回折装置へ設置する方法
上述した「(1)平板型試料ホルダー自体を粉末X線回折装置へ設置する方法」は簡便な方法ではあるが、平板型試料ホルダー1を粉末X線回折装置へ設置する際、直接に手指にて保持するため、粉末試料を汚染したり、平板型試料ホルダー1の形状が薄いため、手指による保持が不安定化して粉末試料を零すことも考えられる。
このような事態を回避するためには、試料ホルダー台座2を粉末X線回折装置に設置可能な形状ものとし、平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2に載置した状態のままでで、粉末X線回折装置へ設置する方法をとれば良い。
【0035】
但し、平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2に載置した状態のままで粉末X線回折装置へ設置する場合、試料ホルダー台座2上には、粉末試料を擦り切った際に零れ落ちた粉末試料が残留している。このため、当該残留している粉末試料が、粉末X線回折装置内部を汚染する可能性がある。
【0036】
そこで、平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2に載置した状態のままで粉末X線回折装置へ設置する場合は、予め、試料ホルダー台座2上にシート状カバー部材、または、擦り切られて零れた粉末試料を収納可能な円柱状カバー部材を設けておくことが好ましい。そして、粉末試料を、平板型試料ホルダー1の試料充填部である凹み部に入れ、平板状治具で粉末試料を凹み部に押し広げ、さらに当該平板状治具を用いて粉末試料を擦り切れば良い。
【0037】
以下、〈1〉シート状カバー部材、および、〈2〉円柱状カバー部材、について、本発明に係る試料充填用治具の異なる実施形態の模式的な断面図と斜視図とである図3、4および図1、2を参照しながら説明する。
【0038】
〈1〉シート状カバー部材
図3は、本発明に係るシート状カバー部材の模式的な斜視図である。
図3に示すように、シート状カバー部材61は円形のシート状であるが、当該円の径は、図1、2で説明した試料ホルダー台座2の上面の径と概略同径とする。そして、シート状カバー部材61を試料ホルダー台座2の上面に被せた際に、平板型試料ホルダー1を露出可能とするために、平板型試料ホルダー1の外形と同一寸法の第一の孔部62を有するものである。材質としては、紙、不織布、等が好ましい。
また、粉末試料の飛散を予防する観点から、シート状カバー部材61の上面に適宜な粘着性を持たせることも好ましい。
【0039】
上述したように、平板型試料ホルダー1と試料ホルダー台座2とチャック用ホルダー7とが真空チャックされて一体化したところで、シート状カバー部材61を試料ホルダー台座2上に被せ、シート状カバー部材の第一の孔部62から平板型試料ホルダー1を露出させる。その後に、平板型試料ホルダー1ヘ粉末試料を充填し、上述した平板状治具を用いて充填された粉末試料を擦り切る。その際、擦り切られて零れた粉末試料は、シート状カバー部材61上に受け止められて保持されるので、擦り切り操作が完了した後、その状態を保持したままシート状カバー部材61を、破る、あるいは、上方へ持ち上げることによって、試料ホルダー台座2上から外す。その後、真空チャックを解き、平板型試料ホルダー1を試料ホルダー台座2に載置した状態のままで粉末X線回折装置へ設置すれば良い。
尚、シート状カバー部材61を破る場合に備えて、予め、シート状カバー部材61の適宜な場所へミシン目63等の切れ目を施して、破り易くしておくことも好ましい。
【0040】
〈2〉円柱状カバー部材
図4は、本発明に係る円柱状カバー部材の模式的な斜視図である。図4に示すように、円柱状カバー部材71の円柱の径は、図1、2で説明した試料ホルダー台座2の上面の径と概略同径である。また、円柱状カバー部材の厚み72は、図1、2で説明した平板型試料ホルダー1の厚みと同じ、または、それ以下である。そして、平板型試料ホルダー1と円柱状カバー部材71とを、試料ホルダー台座2の上面に載置した際に、平板型試料ホルダー1の上面を露出可能とするため、円柱状カバー部材71は平板型試料ホルダー1の外形と同一寸法の第二の孔部73を有するものである。材質としては、強度を有し、耐食性に優れ、磁性を帯びないことが好ましいので、オーステナイト系ステンレス鋼、真鍮、等の金属や、樹脂であることが好ましい。
【0041】
円柱状カバー部材71は、第二の孔部73の周囲に、擦り切られて零れた粉末試料を収納する溝部74を有する。溝部74は、第二の孔部73の周囲全域に設けられ、擦り切られて零れた粉末試料を全て収納可能な容積を有していることが好ましい。また、溝部74に収納された粉末試料の飛散を回避する観点から、溝部74の内壁に適宜な粘着性を持たせることも好ましい。
【0042】
試料ホルダー台座2上へ、平板型試料ホルダー1と円柱状カバー部材71とを載置し、真空チャックによりチャック用ホルダー7と一体化した後、平板型試料ホルダー1ヘ粉末試料を充填する。その後、上述した平板状治具を用いて充填された粉末試料を擦り切るが、擦り切り操作を滑らかに行う観点からは、円柱状カバー部材の厚み72が平板型試料ホルダー1の厚みと同じであることが好ましい。そして、擦り切られて零れた粉末試料は平板状治具により運ばれ、円柱状カバー部材71の溝部74に受け止められて、安定した状態で収納される。
【0043】
擦り切り操作が完了した後、真空チャックを解き、平板型試料ホルダー1と円柱状カバー部材71とを試料ホルダー台座2に載置した状態のままで粉末X線回折装置へ設置すれば良い。円柱状カバー部材71の溝部74内に収納された粉末試料は飛散しない状態にあるので、粉末X線回折装置内部を汚染する懸念はない。
【0044】
尚、粉末X線回折測定終了後に、平板型試料ホルダー1と円柱状カバー部材71とを試料ホルダー台座2とを、アルコール等を用いて清掃し、溝部74に収納されていた粉末試料を除去することは勿論である。
【0045】
以上説明した操作を行うことによって、粉末X線回折測定に用いる粉末試料を平板型試料ホルダーへ充填し、当該充填された粉末試料を板材で擦り切った後、当該平板型試料ホルダーを直接に指で掴んで少し回しては粉末試料を擦り切るという操作を行うことなく、粉末試料を平板型試料ホルダーへ充填することが可能になった。
【符号の説明】
【0046】
1.平板型試料ホルダー
2.試料ホルダー台座
3.真空ホース
4.ベース
5.ベース天板部
6.ベース台座部
7.チャック用ホルダー
8.ボールベアリング
9.土台
10.試料充填用治具
21.試料ホルダー台座円形部
22.試料ホルダー台座厚み
23.試料ホルダー台座凹部
24.試料ホルダー台座開口部
51.ベース天板部円形部
52.ベース天板部厚み
53.ベース天板部開口部
54.ベース天板部凸部
61.シート状カバー部材
62.第一の孔部
63.ミシン目
71.円柱状カバー部材
72.円柱状カバー部材の厚み
73.第二の孔部
74.溝部
図1
図2
図3
図4