(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113757
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】発酵乾燥物の製造方法、セメントクリンカーの製造方法、及び、発酵乾燥物の使用方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/02 20060101AFI20230808BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C02F11/02 ZAB
C04B7/38
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089606
(22)【出願日】2023-05-31
(62)【分割の表示】P 2020061469の分割
【原出願日】2020-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597150795
【氏名又は名称】中部エコテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健史
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕之
(72)【発明者】
【氏名】本 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 政登
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達宏
(72)【発明者】
【氏名】荒川 友子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和敏
(57)【要約】
【課題】セメントの製造に使用される発酵乾燥物をより安定して短期間で製造する。
【解決手段】セメントの製造に使用される発酵乾燥物の製造方法であって、発酵乾燥装置において下水汚泥を好気性発酵することを含み、好気性発酵することにおいて、前記発酵乾燥装置内の処理物の全量に対して3重量%~30重量%の鶏糞を投入する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントの製造に使用される発酵乾燥物の製造方法であって、
発酵乾燥装置において下水汚泥を好気性発酵することを含み、
前記好気性発酵することにおいて、前記発酵乾燥装置内の処理物の全量に対して3重量%~30重量%の鶏糞を投入する、発酵乾燥物の製造方法。
【請求項2】
セメントの製造に使用される発酵乾燥物の製造方法であって、
発酵乾燥装置において下水汚泥を好気性発酵することを含み、
前記好気性発酵することにおいて、前記発酵乾燥装置へ投入する前記下水汚泥に対して3重量%~20重量%の鶏糞を、前記下水汚泥と共に投入する、発酵乾燥物の製造方法。
【請求項3】
前記好気性発酵することにおいて、前記下水汚泥は前記発酵乾燥装置へ所定の間隔で複数回投入され、
前記鶏糞は、前記下水汚泥を前記発酵乾燥装置へ投入する度に、前記下水汚泥と共に前記発酵乾燥装置へ投入される、請求項2に記載の発酵乾燥物の製造方法。
【請求項4】
前記鶏糞は、乾燥鶏糞及び/又は発酵鶏糞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵乾燥物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法で得られた発酵乾燥物を原料としてセメントクリンカーを製造する、セメントクリンカーの製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法で得られた発酵乾燥物をセメントプラントにおいて熱エネルギー源として用いる、発酵乾燥物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乾燥物の製造方法、セメントクリンカーの製造方法、及び、発酵乾燥物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、下水汚泥を発酵処理する縦型の発酵処理装置について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、セメントの製造に使用される発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係る発酵乾燥物の製造方法は、セメントの製造に使用される発酵乾燥物の製造方法であって、発酵乾燥装置において下水汚泥を好気性発酵することを含み、前記好気性発酵することにおいて、前記発酵乾燥装置内の処理物の全量に対して3重量%~30重量%の鶏糞を投入する。
【0006】
上記の発酵乾燥物の製造方法によれば、発酵乾燥装置内の処理物の全量に対して3重量%~30重量%の鶏糞が発酵乾燥装置内へ投入される。このような構成とすることで、鶏糞に含まれる好気性菌等が装置内での好気性発酵を促進することができるため、発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能となる。
【0007】
また、本開示の他の形態に係る発酵乾燥物の製造方法は、セメントの製造に使用される発酵乾燥物の製造方法であって、発酵乾燥装置において下水汚泥を好気性発酵することを含み、前記好気性発酵することにおいて、前記発酵乾燥装置へ投入する前記下水汚泥に対して3重量%~20重量%の鶏糞を、前記下水汚泥と共に投入する。
【0008】
上記の発酵乾燥物の製造方法によれば、発酵乾燥装置へ投入する前記下水汚泥に対して3重量%~20重量%の鶏糞が下水汚泥と共に投入される。このような構成とすることで、鶏糞に含まれる好気性菌等が装置内での好気性発酵を促進することができるため、発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能となる。
【0009】
前記好気性発酵することにおいて、前記下水汚泥は前記発酵乾燥装置へ所定の間隔で複数回投入され、前記鶏糞は、前記下水汚泥を前記発酵乾燥装置へ投入する度に、前記下水汚泥と共に前記発酵乾燥装置へ投入される態様としてもよい。
【0010】
この場合、下水汚泥の投入と共に鶏糞が繰り返し投入されるため、鶏糞による好気性発酵の促進効果が継続される。したがって、発酵乾燥物を短期間で製造を継続して行うことができる。
【0011】
前記鶏糞は、乾燥鶏糞及び/又は発酵鶏糞である態様としてもよい。
【0012】
鶏糞が乾燥鶏糞及び/又は発酵鶏糞である場合、発酵に関係する微生物が多く含まれ得るため、装置内での好気性発酵がさらに促進され、発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能となる。
【0013】
また、本開示の一形態に係るセメントクリンカーの製造方法は、上記の方法で得られた発酵乾燥物を原料としてセメントクリンカーを製造する。
【0014】
上記の方法で得られた発酵乾燥物を原料としてセメントクリンカーを製造することによって、下水汚泥から得られた発酵乾燥物を原料としてセメントクリンカーを製造できるため、廃棄物原単位の増加等を実現することができる。
【0015】
また、本開示の一形態に係る発酵乾燥物の使用方法は、上記の方法で得られた発酵乾燥物をセメントプラントにおいて熱エネルギー源として用いる。
【0016】
上記の方法で得られた発酵乾燥物をセメントプラントにおいて熱エネルギー源として用いる場合、発酵乾燥物を熱エネルギーに変換して利用することができるため、化石燃料の使用低減等を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、セメントの製造に使用される発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る発酵乾燥物の製造に係る製造システムの概略構成図である。
【
図3】
図3は、セメントクリンカー製造装置の概略構成図である。
【
図4】
図4は、実施例2に係る発酵槽内の温度の変化を記録した結果を示す図である。
【
図5】
図5は、比較例に係る発酵槽内の温度の変化を記録した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
[発酵乾燥物の製造システム]
図1は、本開示の一実施形態に係る発酵乾燥物の製造に係る製造システムの概略構成図である。
図1に示すように、製造システム1は、発酵槽2、送気ヒータ4、送気ブロア5、除塵塔6、排気ファン7、及び、洗浄脱臭塔8を含んで構成される。製造システム1において製造されるのは、下水汚泥を発酵すると共に乾燥させた発酵乾燥物(乾燥汚泥)である。また、下水汚泥の発酵に伴って発生する排気ガスについては所定の処理が行われる。
【0021】
発酵槽2は、下水汚泥を投入して発酵処理を行う機能を有する。発酵槽2では、好気性微生物による好気処理が行われる。発酵槽2へは、下水汚泥のほか、発酵に寄与する原料等が投入される。また、発酵槽2からは発酵後の発酵乾燥物(乾燥汚泥)が排出されると共に、発酵に伴って発生したガスがラインL1を介して排出される。発酵槽2へ投入される原料等については後述するが、本実施形態では、原料として鶏糞が用いられる。
【0022】
送気ヒータ4は、ラインL3へ導入された気体を加熱してラインL2へ供給する機能を有する。発酵槽2へ投入される気体の温度は、例えば、50℃~80℃程度とされる。送気ヒータ4は、ラインL2へ導入する気体を所定の温度範囲となるように気体を加熱する機能を有する。送気ヒータ4の上流に、例えばラインL1の排気の熱を利用して送気ファンから容器内に導入される外気を加温する熱交換手段(図示せず)を設けてもよい。熱交換手段の形態は特に限定されず、熱交換によって、ラインL1からの排気ガスは冷却される。一方、加熱された空気は、ラインL2を経て発酵槽2へ投入される。
【0023】
送気ブロア5は、ラインL2へ気体を供給する機能を有する。送気ブロア5にはモータM1が接続されていて、モータM1の動作による送気ブロア5によって、外部からの空気をラインL3へ導入してラインL2へ供給する。
【0024】
除塵塔6、排気ファン7、及び洗浄脱臭塔8は、発酵槽2からの排気ガスを排出するラインL1上に設けられ、排気ガスに対する脱臭処理を行う機能を有する。
【0025】
除塵塔6は、ラインL1を流れる排気ガスを導入し、排気ガスに含まれる塵埃を除去する機能を有する。除塵塔としては、スクラバ等の設備が用いられる。塵埃が除去されたガスは、排気ファン7を経て洗浄脱臭塔8へ送られる。
【0026】
排気ファン7は、ラインL1において排気ガスを移動させる機能を有する。排気ファン7にはモータM2が接続されていて、モータM2の動作による排気ファン7の駆動によって、排気ガスが下流側へ移動される。ファンとしてはファン回転数をインバータ周波数で制御できるものを用いることができる。
【0027】
洗浄脱臭塔8は、発酵槽からの排気に含まれるアンモニア等の微量臭気成分を除去する機能を有する。一例として、洗浄脱臭塔8は、湿式の洗浄塔であり、硫酸を吸収液とする酸洗浄塔とすることができる。なお、洗浄脱臭塔8は酸洗浄脱臭塔に限定されず、アルカリ洗浄脱臭、アルカリ・次亜塩洗浄脱臭等の洗浄脱臭を行い、除去する構成であれば種々の構成を採用することができる。洗浄脱臭等は処理対象のガスに応じて適宜選択でき、例えば、酸洗浄塔は、アンモニアを脱臭の対象とする場合に用いられる。また、排気に含まれるガスの種類や数によっては直列して複数の洗浄脱臭塔を接続することができる。硫化水素が発生する可能性がある場合は、さらに水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムを組み合わせたアルカリ・次亜塩洗浄脱臭塔を設けてもよい。
【0028】
なお、湿式脱臭装置は上記の構成には限定されない。例えば、活性炭を充填し、上記液の作用では十分に除去しきれない臭気成分を活性炭による吸着作用で除去する、吸着塔が含まれていてもよい。吸着塔は複数の処理装置の最後段に設置すればよい。
【0029】
[発酵槽]
次に、発酵槽2について説明する。
図2は、発酵槽2の概略構成図である。発酵槽2は密閉縦型発酵槽である。発酵槽2は、設置面に対して鉛直方向(図示A方向)に延びた容器21を有している。容器21の上方には、下水汚泥及び副原料等を投入する投入口22が設けられる。また、容器21の下方には、容器21内での処理後の発酵乾燥物を排出するための排出口23が設けられる。投入口22及び排出口23は、どちらも蓋などの開閉可能又は脱着可能な蓋状部材(図示せず)が設けられる。この蓋状部材を投入口22及び排出口23に装着することによって、発酵槽2における容器21を密閉可能に構成されている。このように、発酵槽2は密閉系での好気発酵を可能としている。発酵槽の効率をより向上させる観点から、発酵槽2は、例えば容器21の外周面に断熱材を配する等の方法によって、断熱構造を有していてもよい。
【0030】
発酵槽2は、発酵槽内の原材料を混合するための攪拌設備24を備えていることも好ましい。一例として、攪拌設備24は、例えば容器21内に設けられた攪拌翼24aと、攪拌翼24aに接続された回転軸24bと、容器21外に設けられた回転駆動装置(図示せず)とを備えている。攪拌翼24aは、回転軸24bを介して容器21外に設けられた回転駆動装置に接続されており、油圧シリンダを駆動源として一定方向に回転するようになっている。攪拌翼24aは回転軸24bの下部から上部にかけて所定間隔で離間して多段に設けられていてもよい。攪拌設備24を更に備えることによって、下水汚泥等の内容物の過度の圧密状態を抑制することができ、好気発酵効率を向上させることができる。
【0031】
また、発酵槽2は、空気などの酸素含有気体を発酵槽2内に供給するための送気手段25と、容器21内の気体を容器21外へ排気可能な排気手段26とを備える。酸素含有気体Fは、例えば、空気とすることができる。一例として、酸素含有気体Fは、容器21外に設けられた送気手段25から、中空の回転軸24bを経由し、攪拌翼24aの通気孔を介して、攪拌翼24aの鉛直方向下方側に供給できるようになっていてもよい。
図2に示す例では、最下方に設けられた攪拌翼24aの鉛直方向下方側に、酸素含有気体Fを流通可能な気体流通孔が複数設けられている。この場合、攪拌翼24aによる内容物の撹拌を行いながら、酸素含有気体Fを容器21に満遍なく供給することができる。容器21内に存在する酸素含有気体Fと、好気発酵によって生じたガスとは、容器21の上方に設けられた排気手段26を介して排気ガスとしてラインL1(
図1参照)へ排気される。
【0032】
酸素含有気体と内容物との接触効率を高めて、容器21内での下水汚泥の好気発酵効率を高める観点から、酸素含有気体Fは容器21の鉛直方向下方側から供給され、且つ、酸素含有気体Fを含む排気ガスは、容器21の鉛直方向上方側から排気する構成とすることができる。
【0033】
下水汚泥を含む発酵原料は、投入口22から連続的又は間欠的に発酵槽2における容器21内に投入する。発酵原料は、発酵槽2内で好気発酵させた後、発酵乾燥物として排出口23から排出される。
【0034】
上述の発酵槽2では、投入口22から発酵原料を容器21の内部に投入し、処理物を容器内で発酵後に発酵乾燥物を容器21下部の排出口23から取り出す。発酵槽2では、送気手段25により最下段の攪拌翼24aの通気孔から所定の入気量で外気を導入し、且つ、排気手段26から排気する。この状態で各攪拌翼24aを低速で回転させて、発酵原料を通気攪拌し、好気発酵させることにより、発酵が行われる。また、好気性発酵により生ずる発酵熱により同時に内容物は乾燥される。排気手段26より排出される空気は、通気孔から容器内に導入されて処理物中を通過しながら上方へ流れてきた気体に対して、発酵の過程で生じた二酸化炭素、アンモニア等のガスや水蒸気を含むものである。
【0035】
発酵槽2の運転手順の一例は以下のとおりである。まず、発酵槽2に、容器21の内容積に対して10~30%の空間を残して、下水汚泥等の発酵原料を投入口22から投入する。上記の程度の空間を残して発酵原料を投入することにより、発酵原料の攪拌と通気が十分かつ均一になされる。そのため、容器21内での発酵および乾燥が効率よく行われ得る。一例として、発酵原料の投入は毎日行われる。すなわち、発酵原料は、所定の間隔で(一定期間毎に)複数回投入され得る。また、発酵槽2内で所定の滞留期間(3日~20日程度)、発酵原料の発酵及び乾燥を継続し、一定期間(例えば毎日)毎に所定量の発酵乾燥物を排出口23から取り出す。発酵原料の投入は発酵乾燥物を排出口23から取り出した後に行う。このように、一定時間サイクルで下水汚泥発酵原料の一部投入と発酵物の一部取り出しを繰り返しながら、連続的に発酵処理を行う。上記の手順で得られる発酵乾燥物は、粉状又は粒状の固形物であり、部分的には塊状物となっている。
【0036】
[発酵原料]
発酵槽2での発酵乾燥物の製造に用いられる発酵原料には、主原料である下水汚泥のほかに、鶏糞、副原料等が用いられる。以下、各原料の詳細について及びその混合比等について説明する。
【0037】
[下水汚泥]
下水汚泥は、下水の活性汚泥処理の過程で生じる余剰汚泥をフィルタープレス等の脱水機で脱水したものであり、有機物、無機物および水を含むスラッジ状又はペースト状の物質である。下水汚泥は、これをそのまま用いてもよく、或いは消化汚泥などの下水汚泥の自己発酵処理物を用いてもよい。下水汚泥の水分含有量は、特に限定されないが、例えば、70%~90%程度とされる。
【0038】
なお、発酵原料に使用する下水汚泥を、その含水率、消化の有無、及び脱水処理方法の少なくとも一つに基づいて選別してもよい。
【0039】
[鶏糞]
鶏糞には生鶏糞、乾燥鶏糞、発酵鶏糞等が挙げられる。本発明で使用する鶏糞は水分量50重量%以下の鶏糞であり、乾燥鶏糞、発酵鶏糞を挙げることができる。なお、生鶏糞は水分含有量が65%以下の鶏糞であり、乾燥鶏糞及び発酵鶏糞は水分含有量が30%以下の鶏糞である。鶏糞はこれらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。乾燥鶏糞は水分量の多い鶏糞を自然乾燥させたものでもよく、機械を用いて乾燥させたものでもよい。
【0040】
発酵槽2へ投入する鶏糞の量は、発酵槽2へ投入する下水汚泥に対して3重量%~20重量%とすることができ、好ましくは5重量%~15重量%とすることができる。なお、上記の投入量は、発酵槽2への発酵原料の投入する度に鶏糞を添加する場合の投入量の一例である。例えば、発酵原料の投入の数回のうちに一度投入する(例えば、発酵原料の投入の3回に一度鶏糞を混合する)場合には、投入量を変更してもよい。一例として、発酵原料の度に投入した場合に上記の数値範囲となるように、投入量を決定してもよい。
【0041】
一方、鶏糞を発酵不良時の回復材として投入することとしてもよい。このように回復材として鶏糞を発酵槽2へ投入する場合、容器21の内容物(処理物)の全重量に対して3重量%~30重量%を投入してもよく、好ましくは3重量%~20重量%としてもよい。鶏糞を上記の範囲で投入することで、発酵状態を良好に維持することができる。また、鶏糞を発酵不良時に投入する場合は早期に発酵状況を改善することができる。
【0042】
なお、本発明では、上述の鶏糞のうち、乾燥鶏糞及び/又は発酵鶏糞を好ましく使用できる。乾燥鶏糞及び発酵鶏糞は、発酵に関係する微生物が多く含まれ得るため、これらを使用することで、装置内での好気性発酵がさらに促進され得る。このうち、特に発酵鶏糞は、後述のように、発酵槽2における好気発酵の発酵状況の改善に適していると考えられる。
【0043】
[発酵鶏糞]
発酵鶏糞は、鶏糞に好気発酵処理を施したものである。発酵鶏糞は、発酵処理により水分が減少しており、通常含水率が30%未満である。発酵槽2へ投入する発酵鶏糞の量は、発酵槽2へ投入する下水汚泥に対して3重量%~20重量%とすることができ、好ましくは5重量%~15重量%とすることができる。なお、上記の投入量は、発酵槽2へ発酵原料を投入する度に発酵鶏糞を添加する場合の投入量の一例である。例えば、発酵原料の投入の数回のうちに一度投入する(例えば、発酵原料の投入の3回に一度発酵鶏糞を混合する)場合には、投入量を変更してもよい。一例として、発酵原料を発酵槽2へ投入する度に発酵鶏糞を投入すると仮定して換算した結果上記の数値範囲となるように、1回当たりの発酵鶏糞の投入量を決定してもよい。
【0044】
一方、発酵鶏糞を発酵不良時の回復材として投入することとしてもよい。このように回復材として発酵鶏糞を発酵槽2へ投入する場合、容器21の内容物の全重量に対して3重量%~30重量%を投入してもよく、好ましくは3重量%~20重量%としてもよい。発酵鶏糞を上記の範囲で投入することで、発酵状態を良好に維持することができる。また、発酵鶏糞を発酵不良時に投入する場合は早期に発酵状況を改善することができる。
【0045】
一般的に、発酵鶏糞は、鶏糞の飼育目的や発酵期間、発酵方法等によって窒素濃度が変化し得るが、発酵原料に含めることができる発酵鶏糞は、製造条件等は特に限定されない。また、発酵鶏糞の形状等についても特に限定されず、種々の発酵鶏糞を発酵原料に含めることができる。発酵鶏糞としては、例えば採卵鶏鶏糞、肉鶏鶏糞、1次発酵鶏糞、2次発酵鶏糞を用いることができ、産卵鶏鶏糞の1次発酵鶏糞を用いることもできる。
【0046】
発酵鶏糞は、発酵に関係する微生物が含まれ得る。この微生物が発酵槽2内での発酵状況の改善に寄与していると考えられる。
【0047】
[副原料]
発酵原料は下水汚泥、鶏糞の他に副原料を含んでいてもよい。副原料は、下水汚泥ともに含有させることによって、下水汚泥発酵原料を発酵に供する際に、下水汚泥の安定的な好気発酵を促すための材料である。具体的には、副原料は、下水汚泥の含水率を低減させたり、下水汚泥と副原料とを含む下水汚泥発酵原料の通気性を高めたり、好気発酵に寄与する微生物の栄養源となる易分解性有機分を供給したり、好気発酵を効率良く進行させるための好気性微生物群を供給したりするために用いられる。
【0048】
用いられる副原料の形状は特に制限はなく、例えば、固形状、粒状、粉状、ペースト状、流動状、液状等の形状としてもよい。副原料の総含有量は、用いられる副原料の物性や目的に応じて適宜調整できるが、下水汚泥100重量部に対する副原料の総重量部として、好ましくは5重量部以上100重量部以下、より好ましくは5重量部以上50重量部以下、更に好ましくは5重量部以上40重量部以下とすることができる。このとき、基準となる下水汚泥の重量は、含水状態での重量とする。
【0049】
副原料の一例として用いられ得る通気助材及び栄養助材について説明する。
【0050】
[通気助材]
発酵原料には、含水率の低減や通気性の向上を目的として通気助材を含んでいてもよい。通気助材としては、例えば、稲わら、もみがら、おがくず、バーク、草木又はこれらの乾燥物若しくは破砕物などの有機系通気助材や、パーライト、ゼオライト、珪藻土、石炭灰などの無機系通気助材等が用いられる。通気助材を含むことによって、過度の圧密状態となることを抑制しつつ通気性を確保することができ、下水汚泥の好気性発酵を安定的かつ効果的に進行させることができる点で有利である。
【0051】
通気助材の形状は特に制限はなく、例えば、固形状、粒状、粉状、ペースト状、流動状、液状等の形状としてもよい。通気助材の含有量は、用いられる副原料の物性や目的に応じて適宜調整できるが、下水汚泥100重量部に対する通気助材の総重量部を、好ましくは5重量部以上80重量部以下、更に好ましくは5重量部以上50重量部以下とすることができる。このとき、基準となる下水汚泥の重量は、含水状態での重量とする。
【0052】
上述した通気助材のうち、一例としてフライアッシュを含む構成とすることができる。フライアッシュは、石炭の燃焼によって生成した石炭灰の一種であり、例えば、石炭火力発電所にて微粉石炭を燃焼した際に生成する石炭灰であって、電気集塵機等で回収されるものが挙げられる。フライアッシュは、その嵩密度が好ましくは0.2g/cm3以上1.5g/cm3以下、ブレーン比表面積が好ましくは1000cm2/g以上20000cm2/g以下のものであり、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム等を含む。
【0053】
フライアッシュを下水汚泥の発酵処理に用いることによって、初期の時点から好気発酵を安定的に進行させることができる。この理由は明らかではないが、フライアッシュ自体が比較的微細な粒子であることに起因して分散性が高いことが考えられる。また、フライアッシュに含まれるCaO成分によって下水汚泥の粒子が凝集しフロックを形成しやすくなり、下水汚泥発酵原料の密度を低下しやすくするため、と考えられる。
【0054】
[栄養助材]
下水汚泥の好気発酵を促進させる観点から、発酵原料は、栄養助材を更に含んでいてもよい。栄養助材は、好気発酵に寄与する微生物の栄養源となる易分解性有機分を供給するために用いられ得る副原料である。栄養助材としては、例えば、食品汚泥、酒粕及び焼酎粕等の食品加工残渣、廃白土、製紙スラッジ、廃食油、廃棄物固形燃料(RDF)、肉骨粉、生ごみ、し尿、畜糞、堆肥、活性汚泥、スカム等が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0055】
上述した栄養助材のうち、好気発酵をより一層促進させて、発酵の温度上昇効果を大きくさせるという理由から、肉骨粉が採用され得る。肉骨粉は、例えば、牛・豚・鶏から食肉を除いた後に、内蔵や屑肉等とともに加熱処理されたものであり、例えば、粉末状に粉砕された乾燥粉砕物である。肉骨粉の粉末は、下水汚泥等の他の発酵原料との混合効率が高められ得る。栄養助材の含有量は、下水汚泥100重量部に対して、好ましくは5重量部以上100重量部以下、更に好ましくは5重量部以上50重量部以下である。このとき、基準となる下水汚泥の重量は、含水状態での重量とする。
【0056】
[発酵原料の混合及び含水率について]
発酵原料は、例えば、下水汚泥と副原料とを混合した混合物とすることができる。一例として、発酵槽2等の発酵のための装置へ供給する前に、下水汚泥と副原料とを予め混合して発酵原料の混合物を作成してもよい。また、屋内若しくは屋外で、下水汚泥及び副原料のうち一方の上に他方を堆積させた堆積物として発酵原料を調整してもよい。さらに、下水汚泥及び副原料のうち一方を発酵用の容器に供給し、次いで他方を容器内に供給して、容器内で各原材料を交互に堆積させた堆積物としてもよい。この場合、堆積物の状態から発酵を開始してもよいし、堆積物を容器内で混合して混合物した後に発酵を開始してもよい。
【0057】
発酵初期の時点から好気発酵を安定的に進行させるために十分な水分量を確保する観点から、発酵原料の含水率は、30%以上70%以下とすることができる。さらに、含水率が40%以上60%以下であると、好気発酵がより安定的に進行し得る。含水率は、例えば市販の赤外線水分計又はハロゲン水分計を用いて、100℃~120℃の加熱温度で乾燥したときの乾燥前後の重量の差に基づいて測定することができる。またこれに代えて、JIS A 1203「土の含水比試験方法」に準じて測定することができる。発酵原料の含水率は、例えば、所望の含水率となるように原材料を選択したり、原材料又は発酵原料に対して、水を添加したりすることによって適宜調整することができる。
【0058】
上述の発酵原料は、上述のように堆積物又は混合物の状態で発酵槽2の容器21へ供給することで、好気発酵処理に供することができる。
【0059】
[発酵原料の調整]
発酵槽2で発酵を継続している間に発酵状況が変化する場合がある。一例として、発熱が少なく発酵状況が悪い場合、通常より高水分の発酵原料を投入する場合、または、通常時より多くの発酵原料を投入する場合は、原料投入による容器21での水分の増加と、蒸発による容器21での水分の減少とのバランスが崩れる。容器内の原料の水分が徐々に増加し、緩やかに発酵状況が悪化する場合がある。水分バランスの悪循環から抜け出せなければ、通常は容器内の原料を抜き出し、再度発酵を立ち上げることが必要となる。
【0060】
このような状況が生じる場合に、鶏糞の量を一時的に増加させて、発酵熱量を増加させることで発酵状態を向上させることができる。また、廃白土などの高発熱の栄養助材を投入し、発酵熱量を増加させることで水分蒸発を促進させることにより、発酵を制御してもよい。また、これらを組み合わせて調整を行ってもよい。
【0061】
[発酵乾燥物の使用]
発酵原料の発酵の進行に伴い、発酵原料が含有する水分は徐々に減少していく。その結果、発酵乾燥物の状態では、含水率が10%~40%、好ましくは15%~35%程度となる。発酵乾燥物は、例えば肥料、土壌改良材、園芸用土壌などの緑農地材料、固形燃料、セメントクリンカー原料、熱エネルギー源等のセメント製造用途に用いることができる。さらに、熱エネルギー源として、例えば、セメント製造以外のプラントに使用してもよく、一例としては発電所等熱源が必要とされる各種プラント等が挙げられる。
【0062】
図3は、セメントクリンカー製造装置100の一例を示す図である。セメントクリンカー製造装置100は、例えば、サスペンションプレヒーター110と、ロータリーキルン120と、仮焼炉130と、ロータリーキルン入口フット部140と、を有する。サスペンションプレヒーター110には、原料供給口135Aが設けられると共に、上部に排気部150が設けられる。また、ロータリーキルン入口フット部140にも原料供給口135Bが設けられると共に、仮焼炉130にも原料供給口135C,135Dが設けられる。ロータリーキルン120にはバーナー170及びクーラー180が設けられる。
【0063】
発酵乾燥物は、例えば、原料供給口135Aを介してサスペンションプレヒーター110上部に導入して、加熱されながらサスペンションプレヒーター110内を下降させる。その後、発酵乾燥物は、サスペンションプレヒーター110に連結されている仮焼炉130でさらに加熱された後、ロータリーキルン入口フット部140を経由してロータリーキルン120内に導入さる。ロータリーキルン120内に導入された発酵乾燥物は、バーナー170によってロータリーキルン120内に発生した炎によって焼成される。焼成された原料は、クーラー180を介して冷却されることで、目的とするセメントクリンカーとなり、外部へ排出される。上記の手順によって、発酵乾燥物を原料としてセメントクリンカーを製造することができる。
【0064】
なお、発酵乾燥物を処理する方法として、例えば、上述した原料供給口135Aから導入することのほかに、ロータリーキルン入口フット部140の側面に設けられた原料供給口135Bから導入したり、仮焼炉130の上部に設けられた原料供給口135Cから導入したり、あるいは、仮焼炉130の側面に設けられた原料供給口135Dから導入してもよい。また、セメント製造時の燃料として活用する方法として、発酵乾燥物をバーナー170からロータリーキルン120内に直接吹き込んで導入してもよいし、バーナー近傍に原料供給口を更に設けて吹き込んで導入してもよい。これらの場合、発酵乾燥物は、これをセメントクリンカー原料として処理できることに加えて、熱エネルギー源として処理できる利点がある。運用の容易さの観点からは、ロータリーキルン入口フット部140の近傍から発酵乾燥物を導入することが考えられる。いずれの場合であっても、発酵乾燥物をセメントクリンカー製造装置100に導入する際は、発酵乾燥物単独で導入してもよいし、他のセメントクリンカー原料と混合したものを導入することとしてもよい。発酵乾燥物の導入は、連続的に又は断続的に行われてもよい。また発酵乾燥物の導入は、一つの原料供給口を介して行われてもよく、複数の原料供給口を介してそれぞれ行われてもよい。
【0065】
なお、セメント工場では、製造されるセメントクリンカーの組成の管理が重要である。したがって、管理の容易さの観点から、発酵乾燥物の使用量を、目的とするセメントクリンカーの組成に基づいて予め設計し、設計した使用量に基づいて発酵製造物をセメントクリンカー製造装置に導入して、発酵乾燥物をセメントクリンカー原料として処理してもよい。具体的には、発酵原料中の副原料の添加量、発酵製造物の生産速度(発酵速度)、及び発酵乾燥物以外に同時に使用されるセメントクリンカー原料の組成及びその混合割合等のセメントの製造条件に係る情報(の少なくとも1つ)と、製造されるセメントクリンカーの組成との関係を予め把握する。そして、これらの情報に基づいて、発酵乾燥物の使用量をどのようにするかを設計する。このような作業を事前に行うことで、製造装置の安定した運転管理を行うことができる。また、上記の設計の際に発酵乾燥物の使用量を多くするように設計することで、廃棄物原単位の増加を実現し得る。
【0066】
[作用]
以上のように、上記の実施形態で説明した発酵乾燥物の製造方法によれば、発酵乾燥装置(発酵槽2)内の処理物の全量に対して3重量%~30重量%の鶏糞が発酵乾燥装置内へ投入される。このような構成としたことで、鶏糞に含まれる好気性菌等が装置内での好気性発酵を促進することができるため、発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能となる。
【0067】
下水汚泥を主原料とした好気性発酵による発酵乾燥物の製造では、発酵槽2内の環境の変化等に応じて発酵不良が生じ得る。この場合、従来は、発酵槽2へ投入する下水汚泥の種類・量、または、副原料の種類・量等を調整することで、発酵不良を改善する試みが行われていた。しかしながら、これらの手法では発酵不良の改善に時間がかかる場合も多くあり、セメントの製造に使用される発酵乾燥物を安定して製造するためには改善の余地があった。
【0068】
これに対して、上記のように発酵槽2内の処理物の全量に対して3重量%~30重量%の鶏糞を槽内に投入する場合、鶏糞に含まれる好気性菌が発酵槽2内の環境を改善することによって、発酵不良が早期に改善され得る。発酵不良の改善を引き起こす原因としては、例えば、鶏糞に含まれる好気性菌が、一般的な下水汚泥を好気性発酵する際に発生する好気性菌とは異なることが考えられ得る。一般的に、下水汚泥の発酵処理を行う場合には、発酵処理が進んでいる乾燥汚泥と種汚泥として発酵槽2内に投入し、この種汚泥に含まれる好気性菌によって発酵処理を開始する。発酵不良が発生する場合には、槽内の好気性菌の活性が低下していることが考えられる。このような状況において、槽内の好気性菌とは異なる好気性菌を含む鶏糞を発酵槽2内に投入することによって、発酵槽2内の菌種の分布を変化させることで、発酵状況が改善されることが考えられる。
【0069】
また、発酵乾燥装置(発酵槽2)へ投入する下水汚泥に対して3重量%~20重量%の鶏糞が下水汚泥と共に投入される構成としてもよい。このような構成とすることで、鶏糞に含まれる好気性菌等が装置内での好気性発酵を促進することができるため、発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能となる。
【0070】
上述のように、鶏糞に含まれる好気性菌が発酵槽2内の環境の改善に寄与すると考えられることから、投入する下水汚泥に対して3重量%~20重量%の鶏糞を下水汚泥と共に発酵槽2へ投入する構成としてもよい。このような構成としても、従来の種汚泥による発酵処理のみの場合と比較して、発酵槽2内の菌種の分布が鶏糞によって変化するため、発酵状況が改善されることが考えられる。
【0071】
特に、鶏糞が、下水汚泥を発酵槽2へ投入する度に、下水汚泥と共に投入される構成とした場合、下水汚泥の投入と共に鶏糞が繰り返し投入されることになる。したがって、鶏糞による好気性発酵の促進効果が継続される。したがって、発酵乾燥物を短期間で製造を継続して行うことができる。
【0072】
また、鶏糞が乾燥鶏糞及び/又は発酵鶏糞である場合、発酵に関係する微生物が多く含まれ得るため、装置内での好気性発酵がさらに促進され、発酵乾燥物をより安定して短期間で製造可能となる。
【0073】
また、上記の方法で得られた発酵乾燥物を原料としてセメントクリンカーを製造する態様としてもよい。この場合、下水汚泥から得られた発酵乾燥物を原料としてセメントクリンカーを製造できるため、廃棄物原単位の増加等を実現することができる。
【0074】
また、上記の方法で得られた発酵乾燥物をセメントプラントにおいて熱エネルギー源として用いる態様としてもよい。この場合、発酵乾燥物を熱エネルギーに変換して利用することができるため、化石燃料の低減等を実現することができる。
【0075】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0076】
例えば、上記で説明した製造システム1、発酵槽2、セメントクリンカー製造装置100等の構成は一例であって、適宜変更することができる。
【実施例0077】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
上記実施形態で説明した発酵槽2と同形状の発酵槽(容量39m3、中部エコテック社製:C-40ET)に対して、下水汚泥Aを投入すると共に各種副原料を投入し、種汚泥を利用した発酵乾燥物の製造を行った。下水汚泥Aの成分は、フィルタープレスで脱水されたスラッジ状汚泥(水分量80%~85%)である。
【0079】
発酵槽内での発酵状況等を考慮して下水汚泥および副原料の分量を調整しながら、基本的に毎日、所定時刻(午前9時~11時の間)に、下水汚泥排出口から発酵乾燥物を取り出し、発酵原料を投入口から投入した。発酵槽内の内容物の重量が所定の範囲となるように制御しながら、発酵処理を継続した。
【0080】
また、所定の日(表1における10月8日)に、発酵槽内の内容物の重量に対して10%に相当する量(2715kg)の発酵鶏糞を種汚泥に代えて投入した。その後、3日間(表1における10月9日~10月11日)は、投入する下水汚泥の重量に対して10%に相当する量(200kg)の発酵鶏糞を種汚泥に代えて投入した。
【0081】
所定の運転期間(10月1日~10月11日)の各日において、午後6時の発酵槽内容物の重量W1と、12時間経過後の翌日午前6時の発酵槽内容物の重量W2と、を計測し、その差分ΔWを算出した。さらに、各日において排出口から取り出した発酵乾燥物について、その重量と水分の含有率とを算出した。
【0082】
各日における発酵原料の投入量、発酵槽内容物の重量(午後6時及び午前6時)、取り出した発酵乾燥物の重量及び水分含有率を表1に示す。
【0083】
表1に示すΔWは12時間で発酵槽内容物の減量分であり、発酵槽内での有機物の分解量と槽内からの水分蒸発量の和であると捉えることができる。したがって、ΔWの大小は発酵速度の指標となり得る。表1に示す結果では、10月8日以前は、ΔWが242kg~386kgであるのに対して、10月8日以降は、ΔWが409kg~803kgであった。
【0084】
また、発酵乾燥物の水分含有率は、発酵乾燥物がどの程度乾燥されたかを示す指標となるため、水分含有率も発酵速度の指標となり得る。水分含有率が30%以上になると、乾燥汚泥が塊状になり安定した排出が困難になる。表1に示す結果では、10月8日以前は水分含有率の変動が大きく、水分含有率が33%を超える日もあり、その結果、発酵乾燥物の取り出し量が減少している。一方、10月8日以降は、水分含有率が概ね25%以下に維持され、乾燥汚泥取り出し量も安定している。
【0085】
【0086】
(実施例2)
実施例1と同様の発酵槽(容量39m3、中部エコテック社製:C-40ET)に対して、下水汚泥Aを投入すると共に各種副原料を投入し、種汚泥を利用した発酵乾燥物の製造を行った。
【0087】
下水汚泥排出口から発酵乾燥物を取り出した後、発酵槽内での発酵状況等を考慮して下水汚泥A及び副原料の分量を調整しながら、所定時刻(10時~11時の間)に発酵原料を投入口から基本的に毎日投入した。このとき、実施例2では、表2で示す期間の前から発酵鶏糞を下水汚泥Aに対する10%程度の量として200kgまたは100kgを投入した。発酵槽内の内容物の重量が所定の範囲となるように制御しながら、発酵処理を継続した。
【0088】
所定の運転期間(12月21日~12月24日)の各日において、午後6時の発酵槽内容物の重量と、12時間経過後の翌日午前6時の発酵槽内容物の重量と、を計測し、その差分を算出した。さらに、各日において排出口から取り出した発酵乾燥物について、その重量と水分の含有率とを算出した。
【0089】
各日における発酵原料の投入量、発酵槽内容物の重量(午後6時及び午前6時)、取り出した発酵乾燥物の重量及び水分含有率を表2に示す。表2に示す結果では、ΔWの平均が872kgで、後述の比較例よりも大きい。また、発酵乾燥物の水分の平均は、21.2%で、後述の比較例よりも低い。
【0090】
また、所定の運転期間の前後を含めて、発酵槽2内の温度の変化を記録した結果を
図4に示す。
図1に示すように発酵槽2の容器21内の3箇所(上部、中部、下部)に設けられた温度計T1~T3を用いて、各部の温度を測定した。後述の比較例の発酵槽2内の温度の変化(
図5)と比較すると、実施例では上部及び中部の温度が全般的に高温で安定していることがわかる。最高温度は70℃を超えて、最も効率よく発酵が進むといわれている高効率発酵領域に入っていると考えられる。さらに、実施例の発酵槽最下部温度は、上中部温度と比較して顕著に低いことより、発酵槽下部においては発酵がほぼ終了していると考えられる。一方、比較例(
図5)では、発酵槽上中部温度は60℃前後にとどまっており、実施例とは明確な違いがある。また、比較例では、発酵槽最下部と上中部との温度差は小さく、しかも最下部温度は実施例よりもかなり高温であることより、発酵槽最下部は発酵進行中であると考えられる。以上のことからも、実施例2は比較例に比べて発酵速度が速いと結論できる。
【0091】
【0092】
(実施例3)
下水汚泥の種類を下水汚泥Aから下水汚泥Bへ変更した点以外は実施例2と同じ方法で、所定期間発酵処理を行った。下水汚泥Bの成分は、スクリュープレスで脱水されたペースト状汚泥(水分量85%)である。
【0093】
所定の運転期間(1月21日~1月24日)の各日において、午後6時の発酵槽内容物の重量と、12時間経過後の翌日午前6時の発酵槽内容物の重量と、を計測し、その差分を算出した。さらに、各日において排出口から取り出した発酵乾燥物について、その重量と水分の含有率とを算出した。
【0094】
各日における発酵原料の投入量、発酵槽内容物の重量(午後6時及び午前6時)、取り出した発酵乾燥物の重量及び水分含有率を表3に示す。表3に示す結果では、ΔWの平均が891kgで、後述の比較例よりも大きいが、前述の実施例2よりも小さい。また、発酵乾燥物の水分の平均は、21.4%で、後述の比較例よりも低い。
【0095】
【0096】
(実施例4)
下水汚泥Aの投入量に対する発酵鶏糞の投入量の目安を10%から5%へ変更した点以外は実施例2と同じ方法で、所定期間発酵処理を行った。
【0097】
所定の運転期間(11月12日~11月15日)の各日において、午後6時の発酵槽内容物の重量と、12時間経過後の翌日午前6時の発酵槽内容物の重量と、を計測し、その差分を算出した。さらに、各日において排出口から取り出した発酵乾燥物について、その重量と水分の含有率とを算出した。
【0098】
各日における発酵原料の投入量、発酵槽内容物の重量(午後6時及び午前6時)、取り出した発酵乾燥物の重量及び水分含有率を表4に示す。表4に示す結果では、ΔWの平均が812kgで、後述の比較例よりも大きい。また、発酵乾燥物の水分の平均は、19.3%で、後述の比較例よりも低い。
【0099】
【0100】
(比較例)
実施例1と同様の発酵槽(容量39m3、中部エコテック社製:C-40ET)に対して、下水汚泥Aを投入すると共に各種副原料を投入し、種汚泥として発酵乾燥物を継続投入して発酵乾燥物の製造を行った。
【0101】
下水汚泥排出口から発酵乾燥物を取り出した後、発酵槽内での発酵状況等を考慮して下水汚泥A及び副原料の分量を調整しながら、発酵原料を投入口から基本的に毎日投入した。比較例では、発酵鶏糞等の鶏糞は投入せず、乾燥汚泥の一部を種汚泥として継続して投入した。発酵槽内の内容物の重量が所定の範囲となるように制御しながら、発酵処理を継続した。
【0102】
所定の運転期間(7月11日~7月14日)の各日において、午後6時の発酵槽内容物の重量と、12時間経過後の翌日午前6時の発酵槽内容物の重量と、を計測し、その差分を算出した。さらに、各日において排出口から取り出した発酵乾燥物について、その重量と水分の含有率とを算出した。
【0103】
各日における発酵原料の投入量、発酵槽内容物の重量(午後6時及び午前6時)、取り出した発酵乾燥物の重量及び水分含有率を表5に示す。表4に示す結果では、ΔWの平均が712kgであった。また、発酵乾燥物の水分の平均は、25.8%であった。
【0104】
また、所定の運転期間の前後を含めて、発酵槽2内の温度の変化を記録した結果を
図5に示す。
図1に示すように発酵槽2の容器21内の3箇所(上部、中部、下部)に設けられた温度計T1~T3を用いて、各部の温度を測定した。
【0105】
1…製造システム、2…発酵槽、4…送気ヒータ、5…送気ブロア、6…除塵塔、7…排気ファン、8…洗浄脱臭塔、21…容器、22…投入口、23…排出口、24…攪拌設備、24a…攪拌翼、24b…回転軸、25…送気手段、26…排気手段、100…セメントクリンカー製造装置。