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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113881
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】乳がんの検出を補助する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230808BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230808BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12Q1/68
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094664
(22)【出願日】2023-06-08
(62)【分割の表示】P 2019559206の分割
【原出願日】2018-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2017238811
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田原 栄俊
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(57)【要約】      (修正有)
【課題】乳がんを高精度に検出することを補助する、乳がんの検出を補助する方法を提供する。
【解決手段】乳がんの検出を補助する方法は、生体から分離された被検試料中に含まれる、特定の塩基配列を持つmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、若しくは、転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする。特定の塩基配列を有する少なくとも1種のmiRNA等が健常者よりも多いこと、又は、特定の塩基配列を有する少なくとも1種のmiRNA等の存在量が健常者よりも少ないことが、乳がんを発症している可能性が大きいことを示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から分離された被検試料中に含まれる、塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16~20、29、35~39、42~150、153~159、161~269のいずれかで示されるmiRNA、そのアイソフォーム (isomiR)、miRNA前駆体、転移RNA断片(tRF) 又は非コードRNA断片 (RRNA、snoRNA、LincRNA)の少なくとも1種の存在量を指標とする乳がんの検出を補助する方法であって、塩基配列が配列番号1~19、27、28、34~51、74、76、77、80~84、96、101~104、115~122、125、128、134~139、151、152、159~165、168、169、174、175~199のいずれかで示される少なくとも1種のmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の存在量が健常者よりも多いこと、又は塩基配列が配列番号20~26、29~33、52~54、56~73、75、78~79、85~95、97~100、105~114、123、124、126、127、129~133、140~150、153~158、166、167、170~173、200~269のいずれかで示される少なくとも1種のmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の存在量が健常者よりも少ないことが、乳がんを発症している可能性が大きいことを示す、方法。
【請求項2】
塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16~20、29、35~39、42~150、153~159、161~174のいずれかで示されるmiRNA、そのアイソフォーム (isomiR)、miRNA前駆体、又は転移RNA断片(tRF)の少なくとも1種の存在量を指標とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16、20、27、29、37~39、41、43、45、47~52、56、60、66、82、86、90~92、107、111、112、126、127、130、137、158、161、162、173、175~265のいずれかで示されるmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16、20、27、29、37~39、41、43、45、47~52、56、60、66、82、86、90~92、107、111、112、126、127、130、137、158、161、162、173のいずれかで示されるmiRNA、isomiR、miRNA前駆体若しくは転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
塩基配列が配列番号3~9のいずれかで示されるisomiR又はmiRNA前駆体の少なくとも1種の存在量を指標とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160のいずれかで示されるmiRNA、isomiR、miRNA前駆体若しくは転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする請求項2記載の方法。
【請求項7】
塩基配列が配列番号152、151、15、40、41、1又は14で示されるisomiR又は転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、31~33又は55で示されるisomiR、miRNA前駆体又は転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする請求項2記載の方法。
【請求項9】
生体から分離された血清又は血漿中に含まれる、miR-150-5p(配列番号83)及び/又は、miR-26b-5p(配列番号126)の成熟miRNAに対する、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の量(ここで、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量を示す)の割合を測定することを含み、該割合が健常者よりも多いことが乳がんを発症している可能性が大きいことを示す、請求項2記載の方法。
【請求項10】
生体から分離された血清又は血漿中に含まれる、miR-93-5p(配列番号155)及び/又はmiR-17-5p(配列番号282)の成熟miRNAに対する、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の量(ここで、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量を示す)の量の割合を測定することを含み、該割合が健常者よりも少ないことが乳がんを発症している可能性が大きいことを示す、請求項2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳がんの検出を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳がんの診断方法としては、エコー検査やマンモグラフィー等の画像診断や触診が行われている。しかしながら、これらの方法では、見落としもあると言われており、また、腫瘤の形成に至っていないステージ0の乳がんを発見することは全くできない。
【0003】
一方、血液中のマイクロRNA(以下、「miRNA」)の存在量を指標として乳がんを検出する方法が提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-505639号公報
【特許文献2】特開2014-117282号公報
【特許文献3】特開2016-25853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、種々のmiRNAが、乳がん検出のための指標として提案されているが、より正確に乳がんを検出することができれば有利であることは言うまでもない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、乳がんを高精度に検出することを補助する、乳がんの検出を補助する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、乳がんにおいて存在量が増大又は減少するmiRNA、そのアイソフォーム (isomiR)、転移RNA断片(tRF)および非コードRNA断片 (RRNA, snoRNA, LincRNA)を新たに見出し、これらを指標とすることにより、高精度に乳がんが可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1) 生体から分離された被検試料中に含まれる、塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16~20、29、35~39、42~150、153~159、161~269のいずれかで示されるmiRNA、そのアイソフォーム (isomiR)、miRNA前駆体、転移RNA断片(tRF) 又は非コードRNA断片 (RRNA、snoRNA、LincRNA)の少なくとも1種の存在量を指標とする乳がんの検出を補助する方法であって、塩基配列が配列番号1~19、27、28、34~51、74、76、77、80~84、96、101~104、115~122、125、128、134~139、151、152、159~165、168、169、174、175~199のいずれかで示される少なくとも1種のmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の存在量が健常者よりも多いこと、又は塩基配列が配列番号20~26、29~33、52~54、56~73、75、78~79、85~95、97~100、105~114、123、124、126、127、129~133、140~150、153~158、166、167、170~173、200~269のいずれかで示される少なくとも1種のmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の存在量が健常者よりも少ないことが、乳がんを発症している可能性が大きいことを示す、方法。
(2) 塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16~20、29、35~39、42~150、153~159、161~174のいずれかで示されるmiRNA、そのアイソフォーム (isomiR)又は転移RNA断片(tRF)の少なくとも1種の存在量を指標とする(1)記載の方法。
(3) 塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16、20、27、29、37~39、41、43、45、47~52、56、60、66、82、86、90~92、107、111、112、126、127、130、137、158、161、162、173、175~265のいずれかで示されるmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする(1)記載の方法。
(4) 塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16、20、27、29、37~39、41、43、45、47~52、56、60、66、82、86、90~92、107、111、112、126、127、130、137、158、161、162、173のいずれかで示されるmiRNA、isomiR、miRNA前駆体若しくは転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする(3)記載の方法。
(5) 塩基配列が配列番号3~9のいずれかで示されるisomiR又はmiRNA前駆体の少なくとも1種の存在量を指標とする(4)記載の方法。
(6) 塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160のいずれかで示されるmiRNA、isomiR、miRNA前駆体若しくは転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする(2)記載の方法。
(7) 塩基配列が配列番号152、151、15、40、41、1又は14で示されるisomiR又は転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする(6)記載の方法。
(8) 塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、31~33又は55で示されるisomiR又は転移RNA断片の少なくとも1種の存在量を指標とする(2)記載の方法。
(9) 生体から分離された血清又は血漿中に含まれる、miR-150-5p(配列番号83)及び/又は、miR-26b-5p(配列番号126)の成熟miRNAに対する、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の量(ここで、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量を示す)の割合を測定することを含み、該割合が健常者よりも多いことが乳がんを発症している可能性が大きいことを示す、(2)記載の方法。
(10) 生体から分離された血清又は血漿中に含まれる、miR-93-5p(配列番号155)及び/又はmiR-17-5p(配列番号282)の成熟miRNAに対する、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の量(ここで、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量を示す)の量の割合を測定することを含み、該割合が健常者よりも少ないことが乳がんを発症している可能性が大きいことを示す、(2)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、高精度に、かつ、それでいて簡便に乳がんを検出することが可能であるので、乳がんの検出に大いに寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記の通り、本発明の方法では、生体から分離された被検試料中に含まれる特定のmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片又は非コードRNA断片(以下、便宜的に「miRNA等」と呼ぶことがある)の存在量を指標とする。これらのmiRNA等自体は公知であり、その塩基配列は配列表に示すとおりである。本発明の方法に用いるmiRNA等の一覧を下記表1に示す。
【0011】
【表1-1】
【0012】
【表1-2】
【0013】
【表1-3】
【0014】
【表1-4】
【0015】
【表1-5】
【0016】
【表1-6】
【0017】
【表1-7】
【0018】
【表1-8】
【0019】
【表1-9】
【0020】
【表1-10】
【0021】
【表1-11】
【0022】
【表1-12】
【0023】
これらのmiRNA等のうち、塩基配列が配列番号1~33、56~173、175~269で示されるmiRNA等(以下、便宜上、例えば「塩基配列が配列番号1で示されるmiRNA等」を単に「配列番号1のmiRNA等」や「配列番号1のもの」と呼ぶことがある)は、血清中に存在するものであり、配列番号34~55、174のものは、血清中のエクソソーム中に存在するものである。
【0024】
これらのmiRNA等のうちの多くは、乳がん患者の血清又はエクソソーム中の存在量と、健常者の血清又はエクソソーム中の存在量との比の対数(底が2の対数で「log FC」(FCは、fold change)と呼ばれる)の絶対値が0.585超のものであり(すなわち、比が約1.5倍以上又は約1.5分の1以下)、統計学的に有意(t検定でp<0.05)のものである。
【0025】
配列番号1~19、27、28、34~51、74、76、77、80~84、96、101~104、115~122、125、128、134~139、151、152、159~165、168、169、175~199のmiRNA等は、乳がん患者中の存在量が健常者中の存在量よりも多いものであり、配列番号20~26、29~33、52~54、56~73、75、78~79、85~95、97~100、105~114、123、124、126、127、129~133、140~150、153~158、166、167、170~173、200~269のmiRNA等は、乳がん患者中の存在量が健常者中の存在量よりも少ないものである。
【0026】
これらの中でも、塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16、20、27、29、37~39、41、43、45、47~52、56、60、66、82、86、90~92、107、111、112、126、127、130、137、158、161、162、173、175~265のいずれかで示されるmiRNA等は、log FCの絶対値が1.5以上のものであり、特に感度の高い指標となるものであり、好ましい。
【0027】
また、これらのうち、配列番号3~9のものを指標とする方法では、下記実施例に具体的に記載するとおり、ステージ0の乳がん(すなわち、腫瘤が未形成のステージで、画像診断や触診では検出できないもの)でも検出可能である。
【0028】
がんマーカーの精度を示す指標としてROC曲線下面積(AUC(Area Under Curve))が用いられており、一般的にAUCが0.7以上のものががんマーカーとして有効であると言われている。AUCが0.90以上のものは高精度であり、0.97以上は非常に高精度、0.98以上は極めて高精度、1.00で完璧(偽陽性及び偽陰性が全くない)である。したがって、本発明においても、AUCが0.90のものが好ましく、さらに0.97以上のものが好ましく、さらに0.98以上のものが好ましく、さらに0.99以上のものが好ましく、1.00のものが最も好ましい。塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160のものがAUC 0.97以上で好ましく、これらのうち、配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1のものがAUC 0.98以上でさらに好ましく、配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152のものがAUC 1.00で最も好ましい。
【0029】
さらに、塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、31~33又は55のmiRNA等は、がん患者中又は健常者中の存在量が0のものであるので、これらを用いることにより、AUCが1.00の場合と同様に高精度の判定が可能である(ほとんどのものは、AUCが1.00でもある)。
【0030】
被検試料としては、miRNAを含む体液であれば特に限定されないが、通常、血液試料(血漿、血清及び全血を包含する)が好ましく用いられる。血清中に存在する配列番号1~33、56~173、175~265のものは、血清又は血漿を被検試料とすることが簡便で好ましい。エクソソーム中に存在する配列番号34~54のものは、血清又は血漿を被検試料として、この中のエクソソームから全RNAを抽出して各miRNA等の存在量を測定することが好ましい。血清又は血漿中の全RNAの抽出方法は周知であり、下記実施例に具体的に記載されている。血清又は血漿中のエクソソームからの全RNAの抽出方法自体も公知であり、詳細は下記実施例に具体的に記載されている。
【0031】
各miRNA等の存在量の測定(定量)は、次世代シーケンサーを用いて行うことが好ましい。次世代シーケンサーのように配列を読む機器であれば、機種は限定されない。下記実施例に具体的に記載されるように、本発明の方法では、定量するmiRNA等には、例えば、通常の成熟型miRNAの5'末端及び/又は3'末端からわずか1塩基以上が欠失又は付加されているだけのisomiRを、基本となるmiRNAと区別して定量する必要があるので、精度の観点から、miRNAの定量に広く用いられている定量的逆転写PCR(qRT-PCR)よりも次世代シーケンサーを用いて行うことが好ましい。具体的には下記実施例において詳細に記載するが、簡単に述べると、この定量方法は、例えば次のようにしておこなうことができる。血清又は血漿中に存在するRNAが一定である場合、それらを用いた次世代シークエンス解析において読まれたリード数のうち、ヒト由来のシーケンスを100万リード数に換算して、100万リード数当たりのそれぞれのisomiRや成熟型miRNAのリード数を測定値とする。疾患によって健常人に比較して血清中または血漿中のRNAが変化する場合は、血清及び血漿中で存在量の変動が少ないmiRNAを用いる場合がある。なお、血清又は血漿中のmiRNA等を定量する場合には、血清及び血漿中で存在量の変動が少ないmiRNAであるlet-7g-5p、miR-425-3p、 miR-425-5p、miR-23a-3p、miR-484-5p、miR-191-5pから成る群より選ばれる少なくとも1種のmiRNAを内部標準として用いることが好ましい。
【0032】
判定に用いる、各miRNA等の存在量のカットオフ値としては、各miRNA等について、健常者に対する統計学的有意差(t検定で、p<0.05、好ましくはp<0.01、さらに好ましくはp<0.001)の有無を基準とすることが好ましい。具体的には、好ましくは、例えば、偽陽性率が最良の値(最も低くなる値)なるプロット点におけるlog2リード数(カットオフ値)を各miRNA等について設定することができ、例えば、いくつかの各miRNA等におけるカットオフ値(log2リード数)は表2に示すとおりである。なお、表2に示されるカットオフ値は、単なる例に過ぎず、統計学的有意差が出る限り、他の値をカットオフ値として採用することができる。また、データを採取する患者及び健常者の集団が異なれば、最良のカットオフ値も異なる。もっとも、通常、表2又は表3に示されるカットオフ値の±20%の範囲内、特には±10%の範囲内でカットオフ値を設定することができる。
【0033】
また、下記実施例及び比較例から明らかなように、基本型が同一のmiRNA等であっても、miRNAと各種isomiRとでは、患者と健常者の間で存在量が異なる。例えば、下記実施例2及び比較例1では、基本型のmiRNAはmiR-15a 5pであるが、比較例1のmiRNA(配列番号270)では、log FCが0であるのに対し、実施例2(配列番号2)のMature 5' subのisomiRではlog FCが5.67であり、乳がん患者で圧倒的に存在量が多くなっている。したがって、一人の患者の配列番号2と配列番号270を測定し、その比に基づいて乳がんの検出を補助することができる。さらに、実施例85~88(配列番号85~88)も同じくmiR-15a 5p群のisomiRであるが、それぞれlog FCが異なるので、これらの間の比率も指標に加えてより正確な検出の補助を行うことも可能である。なお、このように、あるmiRNA及びそのisomiRの存在量を測定する場合には、微妙な塩基配列の違いを的確に区別する必要があるため、通常miRNAの定量に用いられている定量的逆転写PCR(qRT-PCR)よりも次世代シーケンサーを用いて行うことが好ましい。比較例1のmiRNA(配列番号270)のようにqRT-PCRで検出される配列であるmature型のマイクロRNAでは差が見いだせないが、実施例2(配列番号2)のMature 5' subのisomiRでは有意差のある違いが見いだせる優位性は、次世代シーケンサーを用いて行うことが好ましい。
【0034】
なお、上記した各miRNA等は、乳がん患者と健常者の間でそれぞれ統計学的有意差を持つので、単独で指標として用いることもできるが、複数のmiRNAを組み合わせて指標としてもよく、その場合にはさらに正確な乳がん検出の補助が可能になる。
【0035】
また、下記実施例に具体的に記載されるように、生体から分離された血清又は血漿中に含まれる、miR-150-5p(配列番号83)及び/又は、miR-26b-5p(配列番号126)の成熟miRNAに対する、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の量(ここで、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量を示す)の割合を測定することによっても、乳がんの検出を補助することができる。この場合、前記割合が健常者よりも多いことが乳がんを発症している可能性が大きいことを示す。この方法は、統計学的有意差が非常に大きい(p値が非常に小さい)ので、正確な方法である。
【0036】
同様に、下記実施例に具体的に記載されるように、生体から分離された血清又は血漿中に含まれる、miR-93-5p(配列番号155)及び/又はmiR-17-5p(配列番号282)の成熟miRNAに対する、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の量(ここで、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量を示す)の量の割合を測定することによっても、乳がんの検出を補助することができる。この場合、前記割合が健常者よりも少ないことが乳がんを発症している可能性が大きいことを示す。この方法は、統計学的有意差が非常に大きい(p値が非常に小さい)ので、正確な方法である。
【0037】
また、乳がんが疑われるか又は乳がんに罹患するヒトの被検試料中のmiRNA等の存在量を検出する方法も提供される。すなわち、
乳がんが疑われる又は乳がんに罹患するヒトの被検試料中の塩基配列が配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160、3~11、13、16~20、29、35~39、42~150、153~159、161~265のいずれかで示されるmiRNA、そのアイソフォーム (isomiR)、miRNA前駆体、転移RNA断片(tRF) 又は非コードRNA断片 (RRNA、snoRNA、LincRNA)の少なくとも1種の存在量を検出する方法であって、
ヒトから血液試料を得る工程、及び
次世代シーケンサーまたはqRT-PCRを用いて、前記血液試料内のRNA鎖の存在量を測定する工程を含み、
ここで、塩基配列が配列番号1~19、27、28、34~51、74、76、77、80~84、96、101~104、115~122、125、128、134~139、151、152、159~165、168、169、174、175~199のいずれかで示される少なくとも1種のmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の存在量が健常者よりも多い、又は塩基配列が配列番号20~26、29~33、52~54、56~73、75、78~79、85~95、97~100、105~114、123、124、126、127、129~133、140~150、153~158、166、167、170~173、200~265のいずれかで示される少なくとも1種の1種のmiRNA、isomiR、miRNA前駆体、転移RNA断片若しくは非コードRNA断片の存在量が健常者よりも少ない、方法、も提供される。
【0038】
また、上記した本願発明の方法により、乳がんが検出された場合、乳がんが検出された患者に有効量の抗乳がん剤を投与することにより、乳がんを治療することができる。抗乳がん剤としては、ハーセプチン、トラスツズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシンパクリタキセル,ドセタキセル、ビノレルビン、ラパチニブ、カペシタビン等を挙げることができる。
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1~269、比較例1~12
1. 材料及び方法
(1) 臨床検体
乳がん患者109例、健常者72例の血清を用いた。乳がん患者のステージは、ステージ0が6名、ステージ1以上が134名であった。
【0041】
(2) 血清中のRNAの抽出
血清中 RNA の抽出は、miRNeasy Mini kit (QIAGEN) を用いて行った。
1) 凍結した血清サンプルを融解し、10000 rpm で 5 分間、室温で遠心し、凝集タンパク質や血球成分を沈殿させた。
2) 上清 200 μL を新しい 1.5 mL チューブ に移した。
3) 1000 μL の QIAzol Lysis Reagent を加えて十分に混和し、タンパク質成分を変性した。
4) RNA 抽出のコントロール RNA として 0.05 nM cel-miR-39 を 10 μL 加え、ピペッティングで混和した後、室温で 5 分間静置した。
5) 水層と有機溶媒層の分離促進のため、200μLのクロロホルムを加え、十分に混和し、室温で 3 分間静置した。
6) 12000 xg、15分間、4℃で遠心し、上層の水層650μLを新しい2mLチューブ に移した。
7) RNA を析出させるため、975μLの 100% エタノールを加え、ピペッティングで混和した。
8) 650 μL の 7) を miRNeasy Mini spin column (以下、カラム) に移し、室温で 1 分間静置後、8000 xg、15 秒間、室温で遠心し、RNA をカラムのフィルターに吸着させた。カラムから通過した溶液は廃棄した。
9) 7) の溶液を全てカラムに通すまで 8) を繰り返し、全ての RNA をフィルターに吸着させた。
10) フィルターに付着した夾雑物の除去のため、650 μL の Buffer RWT をカラムに加え、 8000 xg、15 秒間、室温で遠心した。 カラムから通過した溶液は廃棄した。
11) フィルターに吸着した RNA の洗浄のため、500 μL のBuffer RPE をカラムに加え、8000 xg、15 秒間、室温で遠心した。カラムから通過した溶液は廃棄した。
12) フィルターに吸着した RNA の洗浄のため、500 μL のBuffer RPE をカラムに加え、8000 xg、2 分間、室温で遠心した。 カラムから通過した溶液は廃棄した。
13) フィルターに付着している溶液を完全に除去するため、カラムを新しい 2 mL collection チューブ に移し、10000 xg、1 分間、室温で遠心した。
14) カラムを 1.5 mL チューブ に移し、50 μL の RNase-free water を加え、室温で 1 分間静置した。
15) 8000 xg、1 分間、室温で遠心し、フィルターに吸着した RNA を溶出した。溶出した RNAは、そのまま次の実験に用い、残りは -80 ℃ で保存した。
【0042】
(3) エクソソームからのRNAの抽出
血清中のエクソソームは、市販のキットであるサーモフィッシャーサイエンティフィック社の_Total Exosome Isolation (from serum)で精製した。回収したエクソソームからのRNAの抽出は、miRNeasy Mini kit (商品名、QIAGEN社製) を用いて行った。
【0043】
(4) miRNA等の定量
miRNA等の定量は、次のようにして行った。二群等でmiRNA等の定量を行う場合は、同様の方法で回収した細胞外小胞(エクソソームを含む)を用いて同様の方法でRNAを精製してcDNAライブラリーを作成して次世代シークエンス解析を行った。なお、次世代シークエンス解析は、配列を読む機器であれば機器は限定されない。
【0044】
(5) カットオフ値及びAUCの算出
定量結果からのカットオフ値及びAUCの算出は、具体的に次のようにして行った。JMP Genomics 8(商品名)を用いてロジスティック回帰分析を実施し、ROC曲線とAUCの算出を行った。また、ROC曲線の左上隅の点(感度1.0, 特異度 1.0)との距離が最小となる点をカットオフ値とした。
【0045】
2. 結果
結果を表2に示す。
【0046】
【表2-1】
【0047】
【表2-2】
【0048】
【表2-3】
【0049】
【表2-4】
【0050】
【表2-5】
【0051】
【表2-6】
【0052】
【表2-7】
【0053】
【表2-8】
【0054】
【表2-9】
【0055】
【表2-10】
【0056】
【表2-11】
【0057】
これらの結果からわかるように、配列番号1~19、27、28、34~51、74、76、77、80~84、96、101~104、115~122、125、128、134~139、151、152、159~165、168、169、174、175~199のmiRNA等は、乳がん患者中の存在量が健常者中の存在量よりも有意に多く、配列番号20~26、29~33、52~54、56~73、75、78~79、85~95、97~100、105~114、123、124、126、127、129~133、140~150、153~158、166、167、170~173、200~265のmiRNA等は、乳がん患者中の存在量が健常者中の存在量よりも有意に少なかった。本発明の方法(実施例1~265)によれば、これらに用いるmiRNA等と長さがわずかに異なるだけのmiRNA等(比較例1~13)を指標とする場合と比較して、高精度に乳がんの検出が可能であることが示された。また、実施例1~265のt検定によるp値はほとんどの場合0.05未満であり、乳がんの検出に有効であることが示された。
【0058】
また、配列番号3~9のものを指標とする方法では、ステージ0の乳がんでも検出可能であった。さらに、配列番号2、21、22、23、24、26、30、31、32、33、34、152、151、15、28、41、1、14、27、40、25、12、160のものは、AUCが0.97以上であり、特に好ましいものである。さらに、配列番号2、21、22、23、24、26、31~33又は55のmiRNA等は、がん患者中又は健常者中の存在量が0のものであるので、これらを用いることにより、AUCが1.00の場合と同様に高精度の判定が可能であることが明らかになった。
【0059】
実施例270
実施例1~269と同様にして、血清に含まれる、miR-150-5p(配列番号83)及びmiR-26b-5p(配列番号126)の成熟miRNA(表3中、「mature」)の存在量と、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の存在量を測定した。なお、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量である。各miRNAと、そのアイソフォームの比率を測定した。結果を下記表3に示す。
【0060】
実施例271
実施例1~269と同様にして、血清に含まれる、miR-93-5p(配列番号155)及び/又はmiR-17-5p(配列番号282の成熟miRNA(表3中、「mature」)の存在量と、そのそれぞれのアイソフォーム(isomiR)の存在量を測定した。なお、「アイソフォーム(isomiR)の量」は、成熟miRNAの3'若しくは5'側末端が1~5塩基欠損又は1~5塩基長い配列の総量である。各miRNAと、そのアイソフォームの比率を測定した。結果を下記表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3から、miR-150-5p(配列番号83)及びmiR-26b-5p(配列番号126)では、isomiR/成熟miRNAの比率が健常者よりも多いことが乳がんを発症している可能性が大きく、miR-93-5p(配列番号155)及びmiR-17-5p(配列番号282)では、isomiR/成熟miRNAの比率が健常者よりも少ないことが乳がんを発症している可能性が大きいことが示された。
【配列表】
2023113881000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から分離された被検試料中に含まれる、塩基配列が配列番号20、89、90、91、125、126、127、269のいずれかで示されるmiRNA、そのアイソフォーム (isomiR)又はmiscRNAの少なくとも1種の存在量を指標とする乳がんの検出を補助する方法であって、塩基配列が配列番号125で示されるmiRNAの存在量が健常者よりも多いこと、又は塩基配列が配列番号20、89、90、91、126、127、269のいずれかで示される少なくとも1種のmiRNA、isomiR若しくはmiscRNAの存在量が健常者よりも少ないことが、乳がんを発症している可能性が大きいことを示す、方法。