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特開2023-114015対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置
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  • 特開-対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114015
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/06 20060101AFI20230809BHJP
   G02B 7/182 20210101ALI20230809BHJP
   G02B 5/10 20060101ALI20230809BHJP
   G02B 7/00 20210101ALI20230809BHJP
【FI】
G21K1/06 B
G02B7/182
G02B5/10 A
G02B7/00 D
G21K1/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016056
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】396007188
【氏名又は名称】株式会社ジェイテックコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(72)【発明者】
【氏名】松山 智至
(72)【発明者】
【氏名】山田 純平
(72)【発明者】
【氏名】一井 愛雄
(72)【発明者】
【氏名】三宅 明
【テーマコード(参考)】
2H042
2H043
【Fターム(参考)】
2H042DD01
2H042DD07
2H042DD09
2H043AD02
2H043AD13
2H043AD21
2H043CA09
2H043CA10
2H043CB01
2H043CE00
(57)【要約】
【課題】ミラー同士を調整するのにかかる時間を大幅に短縮し、特殊計測機やX線のビームを用いずともアライメントが完了した状態で対向型X線複合ミラーを提供する。
【解決手段】1次元のX線反射面が形成されたミラー基体が少なくとも2つ以上存在し、少なくとも二つのX線反射面が対向している対向型X線複合ミラーであって、各ミラー基体の表面にX線反射面と平面領域を形成し、X線反射面が対向している二つのミラー基体のうち、少なくとも一方のミラー基体の平面領域が、他方のミラー基体の端面よりX線の光軸方向に沿った外側位置に配置されている。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次元のX線反射面を二つ以上備え、X線の斜入射光学系に用いるX線複合ミラーであって、
少なくとも表面とそれに対向する裏面を備えたミラー基体が少なくとも2つ以上存在し、
前記各ミラー基体の表面の一部に、凹型、凸型の何れか一方、若しくは両方の形状の1次元のX線反射面を有するとともに、当該X線反射面と同一側の表面の一部に、平面領域を有し、
前記ミラー基体の平面領域の少なくとも一部を基準にして、別のミラー基体の相対配置を決定し、少なくとも二つのX線反射面が対向している構造の対向型X線複合ミラーにおいて、
前記X線反射面が対向している二つのミラー基体のうち、少なくとも一方のミラー基体の平面領域が、他方のミラー基体の端面よりX線の光軸方向に沿った外側位置に配置されている、
ことを特徴とする対向型X線複合ミラー。
【請求項2】
前記少なくとも1つのミラー基体において、平面領域は鏡面で、波長0.1nm~1000nmの波長のうち少なくとも一つの波長の光を反射可能な表面を有している、請求項1記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項3】
前記ミラー基体のうち少なくとも1つがシリコン、若しくはガラス材料であって、当該ミラー基体の裏面側から表面側へ入射した評価光の光軸に対する角度を評価可能にする目的で、当該ミラー基体の表面側に、X線反射面、平面領域とが形成されている、請求項1又は2記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項4】
前記X線反射面の理想形状からの形状誤差が、1mm以上有効長さまでの空間周波数領域で、0.1nmRMS以上、2nmRMS以下である、請求項1~3何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項5】
前記各ミラー基体は、X線の光軸方向に沿って延び、前記表面と直交する側面を備え、各ミラー基体の側面が平面基板上に存在して同一面上に配置されている、請求項1~4何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項6】
前記ミラー基体の、X線の光軸方向に沿って延びる対向する両側面と、前記X線反射面との直角度が100秒以下である、請求項5記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項7】
前記ミラー基体の、X線の光軸方向に沿って延びる対向する両側面の平行度が100秒以下である、請求項5又は6記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項8】
前記請求項5~7何れか1項に記載の対向型X線複合ミラーにおいて、
前記平面基板上に前記ミラー基体の一側面を載置して配置すること、
X線の光軸方向に対して向かい合う位置に、入射光を内部で2回以上反射させて、180度反転させ所定距離だけ離れた位置から出射する若しくは反射する機能を備えた光路変更素子と、平面の角度を光学的に測定可能な光学的角度測定装置とを配置するとともに、第1ミラー基体と光路変更素子とを配置し、
前記光学的角度測定装置から入射する評価光が光路変更素子を介して第1ミラー基体の平面領域に入射することで当該第1ミラー基体の角度調整を行う工程と、
前記光学的角度測定装置から直接第2ミラー基体の平面領域に評価光が入射することで当該第2ミラー基体の角度調整を行う工程と、
を含む、ことを特徴とする対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【請求項9】
前記平面基板上に前記ミラー基体の一側面を載置した状態で、二つの向かい合うミラー基体の、X線の光軸方向に対する位置を、片側のミラー基体のX線の光軸方向に直交する端面を基準にして、もう一方のミラー基体の位置を固定具若しくは調整治具によって決定する、請求項8記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【請求項10】
前記光路変更素子が、直角プリズム、ダブプリズム、レトロリフレクタプリズム、レトロリフレクタミラー(コーナーキューブ)、中空ルーフミラー及び複数のペンタプリズムの組み合わせの少なくとも1つから構成される、請求項8又は9記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【請求項11】
前記光路変更素子が直角プリズムであり、前記光学的角度測定装置がオートコリメータである、請求項8又は9記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【請求項12】
前記オートコリメータの評価光を前記直角プリズムを介して前記第1ミラー基体の平面領域に反射させて、該平面領域が評価光の光軸方向と直交するように調整した後、
前記第2ミラー基体の平面領域を前記オートコリメータの評価光と直接交差する位置に配置し、該平面領域で反射した反射光の角度を測定して両平面領域の相対角度を評価する、請求項11記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【請求項13】
前記対向するミラーの各々の平面領域におけるX線の光軸方向の場所が、光源もしくはサンプル地点を基準としたときに、第1ミラー基体の平面領域の位置座標をAとし、直角プリズム内でX線の光軸方向に進行する光線距離をDとしたときに、第2ミラー基体の平面領域の位置座標Bが、A+D、もしくはA-Dで表される、請求項11又は12記載の対向型X線複合ミラー及びアライメント装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置に係わり、更に詳しくはX線の斜入射光学系に用いる対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
楕円形状を使ったX線ミラーはKirkpatric-Baez(KB)ミラーとして、現在多くの放射光施設で使用されていて、微小な集光径が得られるだけでなく、他の集光光学系と比べて光の集光効率も高いことが特徴である(非特許文献1)。また、色収差がないことも特徴となっていて、エネルギーが変わっても焦点位置が変わらないので、イメージング用途にも利用が可能である。
【0003】
例えば、多くの放射光施設では、図6(a)に示すように、一対の楕円ミラー101、102を垂直と水平に配置(KBミラー配置)したX線集光光学系や、図6(b)に示すように、一対の楕円ミラー101,102と一対の双曲ミラー103,104をそれぞれKBミラー配置したX線結像光学系が使用されているが、垂直方向と水平方向においてX線ビームに対して片側だけで用いられる。
【0004】
しかし、近年、集光光学系・結像光学系では、より多くの光を集めるため、両側にミラーを対向して配置することが提案されつつある(図7参照)。図7(a)は、二対の楕円ミラー105,105、楕円ミラー106,106をKBミラー配置とした集光光学系で、それぞれ対向する楕円ミラー105,105及び楕円ミラー106,106は同形であり、これにより光量を増大させることができる。また、図7(b)は、二対の凹面ミラー107,108・凸面ミラー109,110を光軸方向にずらせて対向させるように配置した結像光学系である(特許文献1、非特許文献2)。ここで、凹面ミラー107,108は楕円ミラー、凸面ミラー109,110は双曲ミラーで構成されている。これによって光学系の主面を試料側へシフトでき、光学系全体をコンパクト化できる。この図7(b)の結像光学系を用いることで、放射光施設のような大規模な施設でなくても数10nm程度の微細構造を拡大して観察できるようになっている。
【0005】
ミラーの反射面が対向する光学系は、前述のように優れた特性を備えているが、ミラーは向かい合った形状のため、1枚ずつ別々に作ることが必要である。そして、それらのミラーの相対位置を精度よくアライメント調整する必要があるが、その調整には放射光のX線を利用することを必要とし、特殊な計測機を用いるか,調整後にミラーをUV硬化樹脂で固定化させるなどの手段が必要である。しかし、UV硬化樹脂による固定では接着剤の硬化収縮やUV照射による温度ドリフトの影響がでてしまうので、高い精度を要求する場合には難しい一面があった。
【0006】
これまでは、対向する一対のミラーは、(1)ステージ上に別々に組み付けて実現するか、(2)基板に接着によって固定した上でステージに組み付けて実現していた。しかし,(1)の手法は、非常に高精度なアライメント技術が必要であり、使い勝手と長時間安定性、振動の問題が懸念される。(2)の手法は、接着によるアライメント変化や形状変形が懸念されるうえ、接着剤は高真空下では使用不可であり、メンテナンスの度にミラーを剥離しなければならないという問題もある。どちらの場合も、対向するミラーを100nm、10μradの精度で測定できる特殊な計測器を必要とし、これは非常に困難である。
【0007】
尚、一枚のミラー基体に、楕円ミラーと双曲ミラーを作り込んだ一次元ウォルターミラーは提供されている(特許文献2)。1枚のミラーに楕円ミラーと双曲ミラーが作り込まれているので、各々1枚ずつ別々の場合と比較してミラーのアライメント調整が格段にしやすくなっているが、イメージング用として使う場合、その拡大倍率が限られているという課題が残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2017/051890号公報
【特許文献2】特開2014-006457号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Satoshi Matsuyama,et.al, Scientific Reports, 7:5,63,48, (2017).
【非特許文献2】Jumpei Yamada,et.al, Applied Optics, Vol.56,No.4, p.967 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ミラーの反射面が対向する光学系は、前述のように優れた特性を備えているが、ミラーは向かい合った形状のため、1枚ずつ別々に作ることが必要である。そして、それらのミラーの相対位置を精度よくアライメント調整する必要があるが、その調整には放射光のX線を利用することを必要とし、上述した特殊な計測機を用いるか,調整後にミラーをUV硬化樹脂で固定化させるなどの手段が必要である。しかし、UV硬化樹脂による固定では接着剤の硬化収縮やUV照射による温度ドリフトの影響がでてしまうので、高い精度を要求する場合には難しい一面があった。
【0011】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、市販のX線発生装置で発生させたX線ビームと、オートコリメータ、3次元計測器といったものを使うことで、ミラー同士を調整するのにかかる時間を大幅に短縮した対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前述の課題解決のために、以下に示す対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置を構成した。
【0013】
(1)
1次元のX線反射面を二つ以上備え、X線の斜入射光学系に用いるX線複合ミラーであって、
少なくとも表面とそれに対向する裏面を備えたミラー基体が少なくとも2つ以上存在し、
前記各ミラー基体の表面の一部に、凹型、凸型の何れか一方、若しくは両方の形状の1次元のX線反射面を有するとともに、当該X線反射面と同一側の表面の一部に、平面領域を有し、
前記ミラー基体の平面領域の少なくとも一部を基準にして、別のミラー基体の相対配置を決定し、少なくとも二つのX線反射面が対向している構造の対向型X線複合ミラーにおいて、
前記X線反射面が対向している二つのミラー基体のうち、少なくとも一方のミラー基体の平面領域が、他方のミラー基体の端面よりX線の光軸方向に沿った外側位置に配置されている、
ことを特徴とする対向型X線複合ミラー。
【0014】
(2)
前記少なくとも1つのミラー基体において、平面領域は鏡面で、波長0.1nm~1000nmの波長のうち少なくとも一つの波長の光を反射可能な表面を有している、(1)記載の対向型X線複合ミラー。
【0015】
(3)
前記ミラー基体のうち少なくとも1つがシリコン、若しくはガラス材料であって、当該ミラー基体の裏面側から表面側へ入射した評価光の光軸に対する角度を評価可能にする目的で、当該ミラー基体の表面側に、X線反射面、平面領域とが形成されている、(1)又は(2)記載の対向型X線複合ミラー。
【0016】
(4)
前記X線反射面の理想形状からの形状誤差が、1mm以上有効長さまでの空間周波数領域で、0.1nmRMS以上、2nmRMS以下である、(1)~(3)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【0017】
(5)
前記各ミラー基体は、X線の光軸方向に沿って延び、前記表面と直交する側面を備え、各ミラー基体の側面が平面基板上に存在して同一面上に配置されている、(1)~(4)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【0018】
(6)
前記ミラー基体の、X線の光軸方向に沿って延びる対向する両側面と、前記X線反射面との直角度が100秒以下である、(5)記載の対向型X線複合ミラー。
【0019】
(7)
前記ミラー基体の、X線の光軸方向に沿って延びる対向する両側面の平行度が100秒以下である、(5)又は(6)記載の対向型X線複合ミラー。
【0020】
(8)
前記(5)~(7)何れか1に記載の対向型X線複合ミラーにおいて、
前記平面基板上に前記ミラー基体の一側面を載置して配置すること、
X線の光軸方向に対して向かい合う位置に、入射光を内部で2回以上反射させて、180度反転させ所定距離だけ離れた位置から出射する若しくは反射する機能を備えた光路変更素子と、平面の角度を光学的に測定可能な光学的角度測定装置とを配置するとともに、第1ミラー基体と光路変更素子とを配置し、
前記光学的角度測定装置から入射する評価光が光路変更素子を介して第1ミラー基体の平面領域に入射することで当該第1ミラー基体の角度調整を行う工程と、
前記光学的角度測定装置から直接第2ミラー基体の平面領域に評価光が入射することで当該第2ミラー基体の角度調整を行う工程と、
を含む、ことを特徴とする対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【0021】
(9)
前記平面基板上に前記ミラー基体の一側面を載置した状態で、二つの向かい合うミラー基体の、X線の光軸方向に対する位置を、片側のミラー基体のX線の光軸方向に直交する端面を基準にして、もう一方のミラー基体の位置を固定具若しくは調整治具によって決定する、請求項8記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【0022】
(10)
前記光路変更素子が、直角プリズム、ダブプリズム、レトロリフレクタプリズム、レトロリフレクタミラー(コーナーキューブ)、中空ルーフミラー及び複数のペンタプリズムの組み合わせの少なくとも1つから構成される、(8)又は(9)記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【0023】
(11)
前記光路変更素子が直角プリズムであり、前記光学的角度測定装置がオートコリメータである、(8)又は(9)記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【0024】
(12)
前記オートコリメータの評価光を前記直角プリズムを介して前記第1ミラー基体の平面領域に反射させて、該平面領域が評価光の光軸方向と直交するように調整した後、
前記第2ミラー基体の平面領域を前記オートコリメータの評価光と直接交差する位置に配置し、該平面領域で反射した反射光の角度を測定して両平面領域の相対角度を評価する、(11)記載の対向型X線複合ミラーのアライメント装置。
【0025】
(13)
前記対向するミラーの各々の平面領域におけるX線の光軸方向の場所が、光源もしくはサンプル地点を基準としたときに、第1ミラー基体の平面領域の位置座標をAとし、直角プリズム内でX線の光軸方向に進行する光線距離をDとしたときに、第2ミラー基体の平面領域の位置座標Bが、A+D、もしくはA-Dで表される、(11)又は(12)記載の対向型X線複合ミラー及びアライメント装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明の対向型X線複合ミラー及びそのアライメント装置によれば、少なくとも1つのミラー基体は、X線を反射させるX線反射面の隣に平面領域を有し、光学式角度測定装置と、光路変更素子を用いることで、対向するミラー基体であっても互いの光軸方向に対する相対角度を正確に位置決めすることにより、少なくとも二つのX線反射面を正確に対向させることが可能となる。ミラー基体の同一面側にX線反射面と平面領域とがあるので、高精度な干渉計や3次元計測機の適用範囲内であり,計測・加工を繰り返すことで、相対形状を正確に作り込むことができる。また、ミラー基体の平面領域同士は空隙が存在していて、これによってミラー間に突起物が存在していても容易に調整が可能となる。また、前記光路変更素子が直角プリズムであり、前記光学的角度測定装置がオートコリメータであると、比較的安価にアライメント装置を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の対向型X線複合ミラーの実施形態を示す斜視図である。
図2】本発明の対向型X線複合ミラーにおけるミラー基体1の第三角法による六面図である。
図3】本発明の対向型X線複合ミラーにおけるミラー基体2の第三角法による六面図である。
図4】本発明の対向型X線複合ミラーにおける基板1、2の相対角度をプリズムとオートコリメータにて調整する一例を示した説明用平面図であり、(a)は一方のミラー基体の平面領域の法線方向とプリズムを反射させたオートコリメータの評価光を一致させた状態、(b)は他方のミラー基体の平面領域の法線方向とプリズムに入射する前の評価光を一致させて配置した状態を示す。
図5】本発明の対向型X線複合ミラーにおけるアライメント装置の実施形態を示す斜視図である。
図6】従来例を示し、(a)はKBミラー配置の集光光学系を示す説明図、(b)はAKBミラー配置の結像光学系を示す説明図である。
図7】従来例を示し、(a)対向する二対の楕円ミラーをKBミラー配置とした集光光学系を示す説明図、(b)は二つの楕円凹面ミラーと二つの双曲凸面ミラーをKBミラー配置としたコンパクト結像光学系を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1図7は本発明の対向型X線複合ミラーの実施形態を示し、図中符号1は第1ミラー基体、2は第2ミラー基体をそれぞれ示している。尚、本実施形態では、ミラー基体の数が2つの場合を示しているが、3つ以上であっても構わない。
【0029】
前記第1ミラー基体1及び第2ミラー基体2は、X線の進行方向(便宜上、光軸方向Pとして表す)に延びた直方体形状である。前記第1ミラー基体1は、X線の進行方向に沿った表面11と、該表面11に対面する裏面12及び両側に側面13,14を有し、更にX線の進行方向に交差する端面15,16を有する形状である。同様に、前記第2ミラー基体2は、表面21、裏面22、両側面23,24及び両端面25,26を有する形状である。但し、前記第1ミラー基体1の表面11と裏面12あるいは前記第2ミラー基体2の表面21と裏面22とが、精度よく機械加工され、ポリッシングされていても、完全な平面且つ平行であるとは精度の限界から期待できない。尚、図2及び図3において、第三角法による六面図では、前記表面11,21が正面図、裏面12,22が背面図、側面13,23が底面図(下面図)、側面14,24が平面図、端面15,25が左側面図、端面16,26が右側面図にそれぞれ対応する。
【0030】
本発明は、1次元のX線反射面3,4を二つ以上備え、X線の斜入射光学系に用いるX線複合ミラーであって、ミラー基体1,2が少なくとも2つ以上存在し、前記第1ミラー基体1の表面11の一部に、凹型、凸型の何れか一方、若しくは両方の形状の1次元のX線反射面3を有するとともに、当該X線反射面3と同一側の表面11の一部に平面領域5を有し、また前記第2ミラー基体2の表面21の一部に、凹型、凸型の何れか一方、若しくは両方の形状の1次元のX線反射面4を有するとともに、当該X線反射面4と同一側の表面21の一部に平面領域6を有し、少なくとも二つのX線反射面3,4が対向した配置になるように、両平面領域5,6を利用して前記第1ミラー基体1と前記第2ミラー基体2の相対配置を正確に決定することを特徴とする対向型X線複合ミラーである。言い換えれば、一方のミラー基体の平面領域の一部を基準にして、別のミラー基体の相対配置を決定するということである。ここで、X線は、対向したX線反射面3,4を反射してミラー基体1,2間を通過する。
【0031】
前記第1ミラー基体1と前記第2ミラー基体2のそれぞれの平面領域5,6を利用して第1ミラー基体1と第2ミラー基体2の相対配置を正確に決定する方法として、前記ミラー基体1,2の平面領域5,6の一部が、向かい合う位置に配置され、しかもX線の光軸方向Pに沿って離れた位置に存在していることが必要であり、そして前記ミラー基体1,2の平面領域5,6間に空隙を設けて設置する。本発明では、前記第1ミラー基体1の平面領域5及び前記第2ミラー基体2の平面領域6と、入射光を180度反転させ所定距離だけ離れた位置から出射する若しくは反射する機能を備えた光路変更素子7及び光学的角度測定装置8を利用してアライメントする。
【0032】
前記ミラー基体1,2の表面11,21の一部に、楕円、放物、双曲の何れかの一次元形状のX線反射面3,4を有するとともに、当該X線反射面3,4と同一側の表面11,12の一部に平面領域5,6を有するとは、前記ミラー基体1,2のX線反射面3,4の形状プロファイルがそれぞれ、多項式
Y=Fn(X)
(nは1、2、・・・n、XはX線の光軸方向の座標、基体裏面12,22をゼロとする)
で表わされ、
前記ミラー基体1,2の平面領域5,6の形状プロファイルが、略
Y=aX+An
(nは1、2、・・・n、基体裏面12,22をゼロとする)
で表されることと同じ意味である。尚、本発明においてX線反射面3,4の形状限定は不要であり、任意の形状で良い。
【0033】
このとき、第1ミラー基体1における平面領域5とX線反射面3との関係、更には、第2ミラー基体2における平面領域6とX線反射面4の関係は、干渉計や3次元計測器といった、形状計測方法によって別々に導出できる。
【0034】
二つのミラー基体1,2の平面領域5,6が鏡面であることが好ましい。鏡面であることで、各々の平面領域5,6、X線反射面3,4、裏面12,22の形状を様々な計測器で相対角を正確に評価が可能となる。尚、二つのミラー基体1,2の平面領域5,6が平面であることが更に好ましく、当該平面のスロープエラーが10μradrmsを下回ることが更には好ましい。各々の平面領域の光軸方向において求められる角度誤差は約30μradである。つまりスロープエラーに換算すると3σとして考慮して、10μradRMS以下になるよう設計することが好ましい。また、前記少なくとも1つのミラー基体において、平面領域は鏡面で、波長0.1nm~1000nmの波長のうち少なくとも一つの波長の光を反射可能な表面を有していることが好ましい。
【0035】
入射光を180度に反転させ所定距離だけ離れた位置から出射する若しくは反射する機能を備えた光路変更素子7としては、前記直角プリズム、ダブプリズム、レトロリフレクタプリズム、レトロリフレクタミラー(コーナーキューブ)、中空ルーフミラー、複数のペンタプリズムの組み合わせなどがあり、それらを複数組み合わせて複合的な光学素子を構成することも可能である。何れの光路変更素子7も入射光に対して、出射光若しくは反射光の位置は、X線の光軸方向Pに所定距離だけ離れている。ここで、前記光路変更素子7の入射光と出射光の相対角度の誤差精度としては、±10秒、より好ましくは±3秒であることが求められる。
【0036】
本実施形態では、前記第1ミラー基体1の平面領域5と第2ミラー基体2の平面領域6を利用して、前記光路変更素子7として直角プリズム、前記光学的角度測定装置8としてオートコリメータを用いて精度良くアライメントする方法を説明する。図4及び図5に示すように、第1ミラー基体1とオートコリメータ8とがX線の光軸(光軸方向Pとして表す)に対し、同一の法線方向に存在していて、オートコリメータ8と、直角プリズム7とが光軸を挟んで向かい合う位置に設置されていることが好ましい。
【0037】
このとき、直角プリズム7は、斜面7Aに直角に入射した光を、内部で直角構成面7B、7Cで2回反射させて、X線の光軸方向Pに平行に距離Dだけ離れた位置の斜面7Aから略180度反対の方向へ出射する機能を有している。
【0038】
先ず、図4(a)にオートコリメータ8の評価光の光軸方向をQとして示すように、直角プリズム7の斜面7Aに直角に入射した入射光Q1は、一方の直角構成面7Bで反射した後、距離Dだけ離れた他方の直角構成面7Cで反射し、前記斜面7Aから直角に出射し、該出射光Q2は、前記第1ミラー基体1の平面領域5で反射し、該平面領域5で反射した評価光が再び入射光Q3として直角プリズム7の斜面7Aに入射し、前記直角構成面7Cと直角構成面7Bで反射して前記斜面7Aから出射し、その出射光Q4が前記オートコリメータ8の入射光Q1と重なるように、前記第1ミラー基体1を調整する。
【0039】
次に、図4(b)に示すように、第2ミラー2の平面領域6がオートコリメータ8と正対するように配置されることで、平面領域6から反射される光がオートコリメータ8の受光部に入射し、平面領域5,6の相対角度が評価できる。前記平面領域5,6の相対角度がゼロ、つまり前記平面領域5,6が平行になるように調整するには、第2ミラー基体2を、その平面領域6が前記オートコリメータ8の入射光Q1を遮るように配置し、該平面領域6で反射された反射光Q5が前記入射光Q1に重なるように調整する。このように、オートコリメータ8の評価光の光軸方向Qと各平面領域5,6が直交するように調整することにより、両平面領域5,6が平行となって、それぞれ平面領域5,6を基準として精度良く作り込まれたX線反射面3,4が設計通りの相対角度で対向することになる。尚、図4(b)において、入射光Q1に対して反射光Q5が所定の角度を持つように調整することも可能である。
【0040】
一般的には、各々のミラー基体1,2のX線反射面3,4と、平面領域5,6との関係を3次元測定器や干渉計にて事前に評価しておけば、オートコリメータ8による平面領域間の相対角度の測定結果から、X線反射面3,4が目的の相対角度になるように、第2ミラー基体2の角度を調整すればよい。
【0041】
このようなアライメントを可能にするためには、二つのミラー基体のうち、少なくとも一方のミラー基体の平面領域が、他方のミラー基体の端面よりX線の光軸方向Pに沿った外側位置に配置されていることが必要である。本実施形態では、前記第2ミラー基体2の平面領域6が、第1ミラー基体1の端面16よりもX線の光源側に変位した例を示しているが、サンプル側に変位しても構わない。つまり、図4において、光軸方向Pはそのままで、ミラー基体1,2、直角プリズム7及びオートコリメータ8が、表裏反転した配置にした場合である。
【0042】
言い換えれば、図4に示すように、前記対向するミラーの各々の平面領域におけるX線の光軸方向の場所が、光源もしくはサンプル地点を基準としたときに、第1ミラー基体1の平面領域5の位置座標をAとし、直角プリズム7内でX線の光軸方向Pに進行する光線距離をDとしたときに、第2ミラー基体2の平面領域6の位置座標Bが、A+D、若しくはA-Dで表される。
【0043】
尚、オートコリメータ8は評価位置をステージにて変更することが可能であるものの、評価する場所が変わる際に、ステージのゆがみ等で、角度が変わってしまう。このため、設置場所を固定することが好ましい。更には、前記平面領域5,6には金属コーティングが施してあることが好ましい。
【0044】
以上のように、本発明の対向型X線複合ミラーのアライメント装置は、前記平面基板10上に前記ミラー基体1,2の一側面13,23を載置して配置すること、X線の光軸方向Pに対して向かい合う位置に、入射光を内部で2回以上反射させて、180度反転させ所定距離だけ離れた位置から出射する若しくは反射する機能を備えた光路変更素子7と、平面の角度を光学的に測定可能な光学的角度測定装置8とを配置するとともに、同様に第1ミラー基体1と光路変更素子7とを配置し、前記光学的角度測定装置8から入射する評価光が光路変更素子7を介して第1ミラー基体1の平面領域5に入射することで当該第1ミラー基体1の角度調整を行う工程と、前記光学的角度測定装置8から直接第2ミラー基体2の平面領域6に評価光が入射することで当該第2ミラー基体2の角度調整を行う工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0045】
光軸方向Pに沿った位置については、片側のミラー基体端面を基準にして、もう一方のミラー基体の位置を固定具若しくは調整治具によって固定できるようにする。例えば、図5のように2つのミラー基体1,2の一側面13,23が平面基板9の上に存在した状態で、第2ミラー基体2の端面25を基準に所定の長さの固定治具若しくは調整可能な治具10を用いて、第1ミラー基体1を光軸方向Pのみで移動させる。これらの方法によってミラー基体間の角度と光軸方向Pの調整が可能になる。尚、これら平面領域5を有する第1ミラー基体1、平面領域6を有する第2ミラー基体2に、直角プリズム7、オートコリメータ8と、平面基板9及びX軸方向調整治具10を含めて、対向型X線複合ミラーのアライメント装置を構成する。また、アライメント後、両ミラー基体1,2を平面基板9の上に位置固定した状態を対向型X線複合ミラーとして需要者に提供する。
【0046】
ここで、X線を対象とするので、前記反射面3,4の理想形状からの形状誤差が、1mm以上有効長さまでの空間周波数領域で、0.1nmRMS以上、2nmRMS以下であることが要求される。
【0047】
通常、前記ミラー基体1,2は、シリコン単結晶体や石英ガラスの直方体状基板材料を用いて製造される。具体的には、前記ミラー基体1,2は、それぞれ基体材料の裏面12,22を基準として平面領域5,6と反射面3,4を、機械研磨等や切削等による粗加工の後、EEM(Elastic Emission Machining)、CARE(Catalyst Referred Etching、触媒表面基準エッチング法)、PCVM(Plasma Chemical Vaporization Machining)等の精密加工法によって精度良く加工して製造する。同一の基板材料に、その裏面を基準として一面に反射面と平面領域を作り込むので、反射面と平面領域の相対関係の精度を100nm、10μradにすることは容易である。
【0048】
EEMは、微粒子の懸濁液中に被加工物を配置し、被加工物の表面に沿った剪断流を作ることで、被加工物表面に付着した微粒子を剪断流により除去する際に、微粒子に結合した表面原子も除去されるという加工原理で、P-V値:1nmを実現している加工法である。
【0049】
CAREは、触媒機能を持つパッド(PtやNi等の触媒を成膜)を対象上で超純水を加工液として動かすことで表面上の凸部のみ化学的に除去し、様々な材料を原子スケールで平坦化するもので、P-V値:0.7nmを実現可能な究極的な加工法である。
【0050】
PCVMは、1気圧という高圧力のプラズマを用いた化学エッチングにより、高能率且つ無歪の加工を実現した加工法で、機械加工では困難な非球面形状も簡単に作成可能であり、プラズマを発生する電極の形状によって加工物表面の必要な場所のみを数値制御で加工することが可能である。
【0051】
前記ミラー基体1の両側面13,14と、X線反射面3との直角度が100秒以下であることが要求される。同様に、前記ミラー基体2の両側面23,24と、X線反射面4との直角度が100秒以下であることが要求される。前記ミラー基体1,2の側面は、アライメント調整時に基準となることが多いので高い精度が要求される。ここで、直角度が100秒を超えると要求される精度が確保できない。
【0052】
また、前記ミラー基体1の両側面13,14の平行度が100秒以下であることが要求される。同様に、前記ミラー基体2の両側面23,24の平行度が100秒以下であることが要求される。前記ミラー基体1,2の側面は、アライメント調整時に基準となることが多いので高い精度が要求される。ここで、平行度が100秒を超えると要求される精度が確保できない。
【0053】
前記ミラー基体1,2を前記アライメント装置によりX線反射面3,4の相対位置を精度良く調整した後、その状態を何らかの固定手段で固定しておくことが望ましい。それには、ミラー基体1,2の変形を許容する程度の外部応力を加えて固定する、あるいはUV硬化樹脂で接合端部を固定する等の固定手段がある。
【0054】
本発明で「X線反射面が対向」とは、本実施形態のようにX線反射面3とX線反射面4がX線の光軸方向Pの上流側と下流側に一部重なる状態でずれる場合に限定されず、X線反射面3とX線反射面4が完全に対面する場合、あるいはX線反射面3とX線反射面4がX線の光軸方向Pに対して完全に離れた状態を含む広い概念である。
【0055】
本発明では、前記ミラー基体1のX線反射面3と前記ミラー基体2のX線反射面4の形状は限定されず、様々な形状及び凸面と凹面の組み合わせがあり得る。
【符号の説明】
【0056】
1 第1ミラー基体
2 第2ミラー基体
3 X線反射面
4 X線反射面
5 平面領域
6 平面領域
7 光路変更素子(直角プリズム)
8 光学的角度測定装置(オートコリメータ)
9 平面基板
10 光軸方向調整治具
P X線の光軸方向
Q オートコリメータの光軸方向
11,21 表面
12,22 裏面
13,14,23,24 側面
15,16,25,26 端面
101,102 楕円ミラー
103,104 双曲ミラー
105 楕円ミラー
106 楕円ミラー
107,108 凹面ミラー
109,110 凸面ミラー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7