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特開2023-114116アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート、全固体電池用高分子バインダー及び全固体二次電池
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  • 特開-アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート、全固体電池用高分子バインダー及び全固体二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114116
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート、全固体電池用高分子バインダー及び全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/42 20060101AFI20230809BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230809BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20230809BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20230809BHJP
【FI】
C08G64/42
H01M4/62 Z
H01M10/056
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016273
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110135
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 裕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(72)【発明者】
【氏名】石井 修人
(72)【発明者】
【氏名】富永 洋一
【テーマコード(参考)】
4J029
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB02
4J029AD01
4J029AD03
4J029AD10
4J029AE18
4J029BA01
4J029BF18
4J029BF30
4J029FC08
4J029HA01
4J029HC05A
4J029JA121
4J029JB162
4J029JF031
4J029KH01
5H029AJ06
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ08
5H029EJ12
5H029HJ02
5H050AA12
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050DA11
5H050EA11
5H050EA28
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】全固体電池用高分子バインダーなどに有用な、新規なポリマーを提供する。
【解決手段】アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、脂肪族ポリオールとスピロ構造を有する酸素含有複素環ジオールからなる架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートであり、ポリマー分子末端がアシル基により封鎖された構造が特徴であり、かつポリマー分子末端のアシル基と水素原子との割合が、ポリマー平均の濃度(eq/T)で(100:0)~(65:35)である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)~(4)で表される構造単位を含み、
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数2以上20以下の脂肪族炭化水素残基を表し、xは3以上100以下の整数を表す。)
【化2】
(式(2)中、Rは、下記式(2-1)
【化3】
を表し、R2’およびR2’’は、それぞれ独立して炭素数0以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表し、R2’’’は、水素原子または炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表す。)
【化4】
(式(3)中、Rは、スピロ構造を有し、構造中にヘテロ原子が含まれていても良い脂肪族炭化水素残基を表す。)
【化5】
(式(4)中、Rは炭素数2以上10以下の脂肪族炭化水素残基を表し、mは1以上30以下の整数を表す。)
ポリマー分子末端は、前記式(1)~(4)における左端部分のカーボネート酸素原子に結合する末端基がそれぞれ下記式(5-1)~(5-4)で表される構造のいずれかであり、前記式(1)~(4)における右端部分のR~Rに結合する末端基が下記式(6)で表される構造であり、
【化6】
(式(5-1)~(5-4)および式(6)中、Rは、それぞれ独立して水素原子又はアシル基を表す。)
前記式(5-1)~(5-4)および式(6)で表される前記ポリマー分子末端のアシル基と水素原子との割合が、ポリマー平均の濃度(eq/T)で(100:0)~(65:35)である、
アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート。
【請求項2】
前記Rで表されるアシル基が、アセチル基またはベンゾイル基である、請求項1に記載のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート。
【請求項3】
前記Rが、炭素数8以上12以下の脂肪族炭化水素残基を表し、xは60以上90以下の整数を表し、
前記Rが、前記式(2-1)におけるR2’’が炭素数1以上2以下の脂肪族炭化水素残基を表し、
前記Rが、スピロ原子数が1~2であり、ヘテロ原子が酸素原子または硫黄原子であり、
前記Rが、炭素数2以上4以下の脂肪族炭化水素残基を表し、mは1以上3以下の整数を表す、請求項1又は2に記載のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート。
【請求項4】
前記Rが炭素数10のアルキレン基であり、前記Rが、前記式(2-1)におけるR2’’が炭素数1のアルキレン基であり、前記Rが2,2’-(2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパンジイル基であり、前記Rが炭素数2のアルキレン基でありmが3の整数である、請求項1~3のいずれか1項に記載のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート。
【請求項5】
前記式(1)~(4)で表される構造単位の割合が、モル比で、(1):(2):(3):(4)=40~50:0.4~0.8:10~50:10~35である、請求項1に記載のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートとリチウム塩とを含む、全固体電池用高分子バインダー。
【請求項7】
前記リチウム塩がLiTFSIを含む、請求項6に記載の全固体電池用高分子バインダー。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを含む全固体二次電池。
【請求項9】
請求項6または7に記載の全固体電池用高分子バインダーを含む全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート、全固体電池用高分子バインダー及び全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池では、電解質として非水系溶媒に溶解した液状電解質が使用されている。
【0003】
それに対して、全固体二次電池では電解質として固体材料が使用される。そして、全固体二次電池は、その固体の電解質と、正極合剤、負極合剤等のその他の電池の構成要素である固体材料とで製造される。そのため、全固体二次電池には、電池の構成要素の各固体材料を結着する結着剤が使用される。
【0004】
特許文献1では、結着剤としてポリビニルピロリドンやブチレンゴム等のバインダー樹脂を用いて、固体材料を結着して正極、負極及び固体電解質層を製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2では、結着剤としてポリビニルアセタール樹脂をバインダーとして用いることが開示されている。
【0006】
また、本発明者は、特許文献3において、結着剤の樹脂バインダーとして、三次元架橋型共重合ポリカーボネートを開示した。具体的には、2種類の脂肪族ジオールに由来する構造単位と、水酸基を3以上有するポリオールに由来する構造単位と、エーテル結合を有するジオールに由来する構造単位とを有する三次元架橋型共重合ポリカーボネートを開示している。この樹脂バインダーは、無機固体電解質、アルミニウムなどの固体材料との結着性が改善されており、成形性とイオン伝導性に優れるので、全固体二次電池の電極を大面積化し、電池性能を向上しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-137869号公報
【特許文献2】特開2014-212022号公報
【特許文献3】国際公開第2020/203881号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、全固体二次電池には、更なる性能の向上が求められており、それに用いる、バインダーについても、例えば接着性についてより優れた特性が求められており、このような用途にも有用な、新規のポリマーが望まれている。
【0009】
本発明の目的は、全固体電池用高分子バインダーなどに有用な、新規なポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の問題を解決するために検討を行った結果、特定の構造単位を含む架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの末端の水酸基を特定の割合でアシル化すると、アルミ箔との結着性に優れ、使用する量を削減することで、電池内部のイオン伝導性が向上しうることを見出し、発明者らは本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第一の観点に係るアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、下記式(1)~(4)で表される構造単位を含み、
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数2以上20以下の脂肪族炭化水素残基を表し、xは3以上100以下の整数を表す。)
【化2】
(式(2)中、Rは、下記式(2-1)
【化3】
を表し、R2’およびR2’’は、それぞれ独立して炭素数0以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表し、R2’’’は、水素原子または炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表す。)
【化4】
(式(3)中、Rは、スピロ構造を有し、構造中にヘテロ原子が含まれていても良い脂肪族炭化水素残基を表す。)
【化5】
(式(4)中、Rは炭素数2以上10以下の脂肪族炭化水素残基を表し、mは1以上30以下の整数を表す。)
ポリマー分子末端は、前記式(1)~(4)における左端部分のカーボネート酸素原子に結合する末端基がそれぞれ下記式(5-1)~(5-4)で表される構造のいずれかであり、前記式(1)~(4)における右端部分のR~Rに結合する末端基が下記式(6)で表される構造であり、
【化6】
(式(5-1)~(5-4)および式(6)中、Rは、それぞれ独立して水素原子又はアシル基を表す。)
前記式(5-1)~(5-4)および式(6)で表される前記ポリマー分子末端のアシル基と水素原子との割合が、ポリマー平均の濃度(eq/T)で(100:0)~(65:35)である。
【0012】
前記Rで表されるアシル基が、アセチル基またはベンゾイル基である、と好ましい。
【0013】
前記Rが、炭素数8以上12以下の脂肪族炭化水素残基を表し、xは60以上90以下の整数を表し、
前記Rが、前記式(2-1)におけるR2’’が炭素数1以上2以下の脂肪族炭化水素残基を表し、
前記Rが、スピロ原子数が1~2であり、ヘテロ原子が酸素原子または硫黄原子であり、
前記Rが、炭素数2以上4以下の脂肪族炭化水素残基を表し、mは1以上3以下の整数を表す、と好ましい。
【0014】
前記Rが炭素数10のアルキレン基であり、前記Rが、前記式(2-1)におけるR2’’が炭素数1のアルキレン基であり、前記Rが2,2’-(2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパンジイル基であり、前記Rが炭素数2のアルキレン基でありmが3の整数である、と好ましい。
【0015】
前記式(1)~(4)で表される構造単位の割合が、モル比で、(1):(2):(3):(4)=40~50:0.4~0.8:10~50:10~35である、と好ましい。
【0016】
本発明の第二の観点に係る全固体電池用高分子バインダーは、前記アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートとリチウム塩とを含む。
【0017】
前記リチウム塩がLiTFSIを含む、と好ましい。
【0018】
本発明の第三の観点に係る全固体二次電池は、前記アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを含む。
【0019】
本発明の第四の観点に係る全固体二次電池は、前記全固体電池用高分子バインダーを含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートによれば、全固体電池用高分子バインダーなどに有用な、新規なポリマーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】

図1】製造例1に係る架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートのH-NMRスペクトル。
図2】製造例1に係る架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの13C-NMRスペクトル。
図3】実施例1に係るアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートのH-NMRスペクトル。
図4】実施例1に係るアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの13C-NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、下記式(1)~(4)で表される構造単位を含み、
【化7】
(式(1)中、Rは炭素数2以上20以下の脂肪族炭化水素残基を表し、xは3以上100以下の整数を表す。)
【化8】
(式(2)中、Rは、下記式(2-1)
【化9】
を表し、R2’およびR2’’は、それぞれ独立して炭素数0以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表し、R2’’’は、水素原子または炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表す。)
【化10】
(式(3)中、Rは、スピロ構造を有し、構造中にヘテロ原子が含まれていても良い脂肪族炭化水素残基を表す。)
【化11】
(式(4)中、Rは炭素数2以上10以下の脂肪族炭化水素残基を表し、mは1以上30以下の整数を表す。)
ポリマー分子末端は、前記式(1)~(4)における左端部分のカーボネート酸素原子に結合する末端基がそれぞれ下記式(5-1)~(5-4)で表される構造のいずれかであり、前記式(1)~(4)における右端部分のR~Rに結合する末端基が下記式(6)で表される構造であり、
【化12】
(式(5-1)~(5-4)および式(6)中、Rは、それぞれ独立して水素原子又はアシル基を表す。)
前記式(5-1)~(5-4)および式(6)で表される前記ポリマー分子末端のアシル基と水素原子との割合が、ポリマー平均の濃度(eq/T)で(100:0)~(65:35)である。
【0023】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、後述するように、例えば、リチウム塩と組み合わせて全固体電池用高分子バインダーとし、疎水性溶媒を用いたスラリーにして、正極合剤、負極合剤、及び固体電解質間に浸透させて、全固体二次電池を製造する際に使用することができる。
【0024】
(式(1)で表される構造単位)
本発明に係る式(1)
【化13】
で表される構造単位において、Rは炭素数2以上20以下の脂肪族炭化水素残基を表し、xは3以上100以下の整数を表す。
【0025】
式(1)中のRの炭素数が2未満であると、後述する全固体二次電池の作製時に用いるスラリー中におけるアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの分散性が低下する傾向にある。後述するが、本発明に係る高分子バインダーは、全固体二次電池の製造工程中で正極合剤、負極合剤、及び固体電解質間に浸透することが望ましい。したがって、製造工程では、疎水性溶媒を用いたスラリーが通常使用されるため、本発明の高分子バインダーに含まれるアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、疎水性溶媒に分散することが望ましい。
【0026】
一方、Rの炭素数が20を超えると、リチウムイオンとの親和性が低下する傾向にある。
【0027】
は、一種単独であっても、複数種を組み合わせてもよいが、Rが一種単独であると好ましい。
【0028】
が一種単独である場合、Rは、炭素数8以上12以下の脂肪族炭化水素残基であると好ましく、炭素数9以上11以下のアルキレン基であるとより好ましく、炭素数10の脂肪族炭化水素残基であると特に好ましい。
【0029】
が複数種である場合には、Rは、炭素数2以上7以下のアルキレン基および2以上20以下の脂肪族炭化水素残基を表すと好ましい。Rが複数種である場合には、構造単位の配列は特に限定されず、例えば、ランダム共重合体であっても、交互共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよい。
【0030】
の炭素数が、この範囲にあると、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを用いた全固体電池用高分子バインダーは、結着性、成形性、イオン伝導性のバランスに優れる。
【0031】
に係る脂肪族炭化水素残基は、直鎖型、分岐型及び環状のいずれでもよいが、直鎖型であると好ましい。また、Rに係る脂肪族炭化水素残基は、主鎖又は側鎖に、アルコキシ基、シアノ基、1~3級アミノ基、ハロゲン原子等が置換されていてもよいが、無置換であると好ましい。
【0032】
炭素数が2以上20以下の脂肪族炭化水素残基としては、例えば、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、ドデカン-1,12-ジイル基、テトラデカン-1,14-ジイル基、ヘキサデカン-1,16-ジイル基、オクタデカン-1,18-ジイル基、イコサン-1,20-ジイル基等の鎖状脂肪族炭化水素基、1-メチルエタン-1,2-ジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基、2-メチルブタン-1,4-ジイル基、2-エチルブタン-1,4-ジイル基、3-メチルペンタン-1,5-ジイル基、2-メチルヘキサン-1,6-ジイル基、5-メチルデカン-1,10-ジイル基等の分岐型脂肪族炭化水素基、シクロプロパン-1,2-ジイル基、シクロブタン-1,2-ジイル基、シクロブタン-1,3-ジイル基、シクロペンタン-1,2-ジイル基、シクロペンタン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,1-ジイル基、シクロヘキサン-1,2-ジイル基、シクロヘキサン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ジイル基、シクロヘプタン-1,2-ジイル基、シクロヘプタン-1,3-ジイル基、シクロヘプタン-1,4-ジイル基、シクロオクタン-1,2-ジイル基、シクロオクタン-1,3-ジイル基、シクロオクタン-1,4-ジイル基、シクロオクタン-1,5-ジイル基、シクロノナン-1,2-ジイル基、シクロノナン-1,3-ジイル基、シクロノナン-1,4-ジイル基、シクロノナン-1,5-ジイル基、シクロデカン-1,2-ジイル基、シクロデカン-1,3-ジイル基、シクロデカン-1,4-ジイル基、シクロデカン-1,5-ジイル基、シクロデカン-1,6-ジイル基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。これらの脂肪族炭化水素残基の中でも、直鎖状脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数10のアルキレン基がより好ましく、デカン-1,10-ジイル基が特に好ましい。
【0033】
式(1)中のxは、式(1)中の括弧で示される繰り返し単位の数を表し、3以上100以下の整数を表す。xが3未満では、全固体二次電池を製造する際のスラリー中での固体電解質、正極活物質、負極活物質等の分散性が低下する。また、xが100を超えるとスラリーを調製した際の粘度が高くなり、スラリーの塗工性が低下する。
【0034】
xは、30以上95以下であることが好ましく、60以上90以下であることがより好ましく、70以上80以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを用いた全固体電池用高分子バインダーは、全固体二次電池を構成する正極、固体電解質層又は負極をシート状に形成することを可能とするため、電極合剤又は無機固体電解質との結着性に優れ、且つ強度が優れていることが望ましい。xが大きいと強度は向上する傾向がある。
【0036】
式(1)
【化14】
で表される構造単位を含む、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、公知のエステル交換反応およびアシル化反応を行って得ることができる。例えば、Rで表される脂肪族炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているジオール化合物にジフェニルカーボネート又はホスゲン等を反応させてカーボネート化して、予めポリマー分子末端が水酸基であるオリゴマーを調製し、そのオリゴマーと、他のジオール化合物等と共重合する方法により架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得、そのポリマー分子末端の水酸基の一部を、公知のアシル化反応でアシル化して、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0037】
で表される脂肪族炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているジオール化合物としては、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-イコサンジオールなどが挙げられる。
【0038】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートにおいて、式(1)~(4)の構造単位の総和に対する式(1)の構造単位の比率は特に限定されないが、式(1)中の括弧内の繰り返し単位の比率で、20mol%~70mol%であると好ましく、30mol%~60mol%であるとより好ましく、40mol%~50mol%であると更に好ましく、45mol%~50mol%であると特に好ましい。また、なお、前記比率は、式(1)については、式(1)全体に基づく比率ではなく、式(1)中の括弧内の繰り返し単位に基づいた値であり、本明細書において、特に特に断りのない限り、各式の構造単位の式(1)~(4)の構造単位の総和に対する比率は、式(1)中の括弧内の繰り返し単位に基づいた値である。
【0039】
(式(2)で表される構造単位)
本発明に係る式(2)
【化15】
で表される構造単位において、Rは、下記式(2-1)
【化16】
を表し、R2’およびR2’’は、それぞれ独立して炭素数0以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表し、R2’’’は、水素原子または炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素残基を表す。
【0040】
なお、式(2-1)において、R2’およびR2’’の炭素数0の場合とは、結合のみが存在することを意味し、括弧内の中心炭素原子と、括弧外の他の構造中のカーボネート酸素原子等との結合を意味する。また、式(2-1)中の上下方向で括弧外に繋がる直線で表される結合は、式(2-1)において左右方向で右端の括弧外に繋がる直線で表される結合と同様に、他の構造のカーボネート酸素原子との結合を意味する。
【0041】
2’およびR2’’に係る脂肪族炭化水素残基は、直鎖型、分岐型及び環状のいずれでもよいが、直鎖型であると好ましい。また、R2’およびR2’’に係る脂肪族炭化水素残基は、主鎖又は側鎖に、アルコキシ基、シアノ基、1~3級アミノ基、ハロゲン原子等が置換されていてもよいが、無置換であると好ましい。
【0042】
2’およびR2’’に係る炭素数が0以上5以下の脂肪族炭化水素残基としては、例えば、メタン-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基等の鎖状脂肪族炭化水素基、1-メチルエタン-1,2-ジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基、2-メチルブタン-1,4-ジイル基、2-エチルブタン-1,4-ジイル基等の分岐型脂肪族炭化水素基、シクロプロパン-1,2-ジイル基、シクロブタン-1,2-ジイル基、シクロブタン-1,3-ジイル基、シクロペンタン-1,2-ジイル基、シクロペンタン-1,3-ジイル基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。本明細書においてR2’およびR2’’の炭素数が0の脂肪族炭化水素残基とは、前述のとおり、中心炭素原子と、他の構造のカーボネート酸素原子等との結合を意味する。これらの脂肪族化水素残基の中でも、直鎖状脂肪族炭化水素基が好ましい。また、炭素数1以上2以下の脂肪族炭化水素残基が好ましく、メタン-ジイル基(メチレン基)がより好ましい。
【0043】
2’’’に係る脂肪族炭化水素残基は、直鎖型、分岐型及び環状のいずれでもよいが、直鎖型であると好ましい。また、R2’’’に係る脂肪族炭化水素残基は、主鎖又は側鎖に、アルコキシ基、シアノ基、1~3級アミノ基、ハロゲン原子等が置換されていてもよいが、無置換であると好ましい。
【0044】
2’’’に係る炭素数が1以上5以下の脂肪族炭化水素残基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の鎖状脂肪族炭化水素基、2-メチルエチル基(イソプロピル基)、2-メチルプロピル基、2,2-ジメチルエチル基(t-ブチル基)、2-メチルブチル基等の分岐型脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。
【0045】
式(2)で表される構造単位は、他の構造単位を三次元的に架橋する架橋構造として機能する。これにより、架橋構造が均一になり、疎水性溶媒に対する全固体電池用高分子バインダーの分散性が向上する。
【0046】
式(2)で表される構造単位を含むアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、公知のエステル交換反応およびアシル化反応を行って得ることができる。例えば、分子末端が共に水酸基である式(1)で表される構造単位を有するオリゴマーと、式(3)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物と、式(4)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物と、式(2-1)中のR2’およびR2’’で表される炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているトリオール化合物またはテトラオール化合物とを、ジフェニルカーボネート等でカーボネート結合させることにより、架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得、そのポリマー分子末端の水酸基の一部を、公知のアシル化反応でアシル化して、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0047】
式(2-1)中のR2’およびR2’’で表される炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているトリオール化合物またはテトラオール化合物としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらのトリオール化合物またはテトラオール化合物は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。本発明においては、ペンタエリスリトールを使用することが好ましい。
【0048】
式(2)で表される構造単位を含むアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの他の製造方法としては、前述のトリオール化合物またはテトラオール化合物の代わりに、カルボキシ基を3または4個有する化合物を用いることもできる。
【0049】
カルボキシ基を3以上有する化合物としては、1,3,5-ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0050】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートにおいて、式(1)~(4)の構造単位の総和に対する式(2)の構造単位の比率は特に限定されないが、0.01mol%~10mol%であると好ましく、0.05mol%~5mol%であるとより好ましく、0.1mol%~1mol%であると更に好ましく、0.4mol%~0.8mol%であると特に好ましく、0.4mol%~0.6mol%であると最も好ましい。ここで、前記比率は、式(1)については、式(1)全体ではなく、式(1)中の括弧内の繰り返し単位に基づいた値である。
【0051】
式(2)の構造単位の比率を低くして架橋密度が低くなると、金属塩を固溶化した高分子バインダーの接着性が低下する傾向がある。また、式(2)の構造単位の比率が大きすぎると、架橋密度が高くなりゲル化して、疎水性溶媒に対する分散性が低下する傾向がある。
【0052】
(式(3)で表される構造単位)
本発明に係る式(3)
【化17】
で表される構造単位において、Rは、スピロ構造を有し、構造中にヘテロ原子が含まれていても良い脂肪族炭化水素残基を表す。
【0053】
前記ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などが挙げられ、ヘテロ原子が酸素原子または硫黄原子であると好ましく、ヘテロ原子が酸素原子であるとより好ましい。
【0054】
式(3)で表される構造は、全固体電池の製造で使用される疎水性溶媒への分散性に寄与すると考えている。本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートがこの構造を有することで、本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを用いた高分子バインダーの疎水性溶媒への親和性が向上し、かつ疎水性溶媒中での凝集力が低下し、結果として疎水性溶媒への分散性が向上するので好ましい。
【0055】
式(3)中のRで表されるスピロ構造を有する炭化水素残基は、1つのスピロ原子を有する2環式のスピロ構造を有する炭化水素残基であっても、2つ以上のスピロ原子を有する3環式以上であってもよいが、スピロ原子数が1~2である2環式または3環式のスピロ構造を有する炭化水素残基であると好ましく、1つのスピロ原子を有する2環式のスピロ構造を有する炭化水素残基であると好ましい。環を形成する原子数は4以上が好ましく、6以上が更に好ましい。また、環を形成する炭素原子の一部が酸素原子等のヘテロ原子で置換されていると更に好ましい。
【0056】
式(3)中のRがスピロ構造を有する炭化水素残基であることで、嵩高さが増加し、全固体電池の作成時に用いるスラリー中の分散性が高くなり、また環を形成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されているとリチウム塩との親和性が増加するので更に好ましい。
【0057】
2環式以上のスピロ構造を有する炭化水素残基としては、例えば、スピロ[2.2]ペンタン-1,4-ジイル基、スピロ[3.3]ヘプタン-2,6-ジイル基、スピロ[4.4]ノナン-2,7-ジイル基、スピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル基、スピロ[3.5]ノナン-2,7-ジイル基、スピロ[2.6]ノナン-1,6-ジイル基、スピロ[4.5]デカン-1,5-ジイル基、ジスピロ[4.2.4.2]テトラデカン-1,11-ジイル基、ジスピロ[4.1.5.2]テトラデカン-2,12-ジイル基、1,1’-スピロビ[インデン]-8,8’-ジイル基、1H,1’H-2,2’-スピロビ[ナフタレン]-9,9’-ジイル基が挙げられる。
【0058】
環を形成する原子の一部が酸素原子等のヘテロ原子で置換されているスピロ構造を有する炭化水素残基としては、例えば、2,2’-(2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパンジイル基(モノマー一般名:スピログリコール)、2,2’,3,3’-テトラヒドロ-1,1’-スピロビ[インデン]-7,7’-ジイル基、4,8-ジヒドロ-1H,1’H-2,4’-スピロビ[キノリン]-6’,7-ジイル基、4,4,4’,4’-テトラメチル-2,2’-スピロビ[クロマン]-7,7’-ジイル基が挙げられる。これらの中でも、2,2’-(2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパンジイル基が好ましい。
【0059】
スピロ構造を有する炭化水素残基は、飽和であっても、不飽和であってもよく、主鎖又は側鎖に、アルコキシ基、シアノ基、1~3級アミノ基、ハロゲン原子等が置換されていてもよい。
【0060】
式(3)で表される構造単位は、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート中でブロック又はランダムで存在することができる。
【0061】
ここで、式(3)で表される構造単位が主鎖中にブロックで存在する場合、式(3)で表される構造単位は、1以上10以下で連結してブロックを形成していることが好ましく、1以上5以下で連結していることがより好ましく、1以上3以下で連結していることが特に好ましい。3以下で連結していると、高分子バインダーの疎水性溶媒に対する分散性が向上する。
【0062】
式(3)で表される構造単位を含むアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、公知のエステル交換反応を行って得ることができる。例えば、分子末端が共に水酸基である式(1)で表される構造単位を有するオリゴマーと、式(2-1)中のR2’およびR2’’で表される炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているトリオール化合物またはテトラオール化合物と、式(4)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物と、式(3)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物とを、ジフェニルカーボネート等でカーボネート結合させることにより、架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得、そのポリマー分子末端の水酸基の一部を、公知のアシル化反応でアシル化して、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0063】
式(3)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物としては、スピロ[2.2]ペンタン-1,4-ジオール、スピロ[3.3]ヘプタン-2,6-ジイル基、スピロ[4.4]ノナン-2,7-ジオール、スピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジオール、スピロ[3.5]ノナン-2,7-ジオール、スピロ[2.6]ノナン-1,6-ジオール、スピロ[4.5]デカン-1,5-ジオール、ジスピロ[4.2.4.2]テトラデカン-1,11-ジオール、ジスピロ[4.1.5.2]テトラデカン-2,12-ジオール、1,1’-スピロビ[インデン]-8,8’-ジオール、1H,1’H-2,2’-スピロビ[ナフタレン]-9,9’-ジオール、2,2’-(2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパンジオール(別名:スピログリコール)、2,2’,3,3’-テトラヒドロ-1,1’-スピロビ[インデン]-7,7’-ジイル基、4,8-ジヒドロ-1H,1’H-2,4’-スピロビ[キノリン]-6’,7-ジオール、4,4,4’,4’-テトラメチル-2,2’-スピロビ[クロマン]-7,7’-ジオールなどが挙げられる。これらの中でも、スピログリコールが好ましい。
【0064】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートにおいて、式(1)~(4)の構造単位の総和に対する式(3)の構造単位の比率は特に限定されないが、5mol%~55mol%であると好ましく、10mol%~50mol%であるとより好ましく、20mol%~35mol%であると更に好ましく、25mol%~33mol%であると特に好ましい。ここで、前記比率は、式(1)については、式(1)全体ではなく、式(1)中の括弧内の繰り返し単位に基づいた値である。
【0065】
(式(4)で表される構造単位)
本発明に係る式(4)
【化18】
で表される構造単位において、Rは炭素数2以上10以下の脂肪族炭化水素残基を表し、mは1以上30以下の整数を表す。
【0066】
式(4)で表される構造単位は、高分子バインダーの全固体電池中における結着対象物質である正/負極活物質、固体電解質、及び集電体への接着性に寄与すると考えている。本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート高分子がこの構造を有することで、高分子バインダーの柔軟性及び極性が増加し、結果として結着対象物質への接着性が向上するので好ましい。
【0067】
式(4)中のRは、炭素数が2以上10以下の脂肪族炭化水素残基であれば特に限定されないが、炭素数が2以上4以下のアルキレン基であると好ましい。炭素数が2以上であると、ポリマーの柔軟性が向上する傾向がある。
【0068】
式(4)中のmは1以上30以下の整数であれば特に限定されないが、1以上20以下の整数であると好ましく、2以上10以下の整数であるとより好ましく、3以上5以下の整数であると更に好ましく、mは1以上3以下の整数であると特に好ましく、3であると最も好ましい。mが1以上であると、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの柔軟性が増加し、5以下であると金属との接着性が向上する傾向がある。
【0069】
式(4)中のRに係る炭素数が2以上10以下の脂肪族炭化水素残基としては、例えば、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基等の鎖状脂肪族炭化水素基、1-メチルエタン-1,2-ジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基、2-メチルブタン-1,4-ジイル基、2-エチルブタン-1,4-ジイル基、3-メチルペンタン-1,5-ジイル基、3-メチルペンタン-1,5-ジイル基、2-メチルヘキサン-1,6-ジイル基等の分岐型脂肪族炭化水素基が挙げられる。これらの中でも炭素数2のアルキレン基、すなわちエタン-1,2-ジイル基(エチレン基)が好ましい。
【0070】
式(4)中のRに係る脂肪族炭化水素残基は、飽和であっても、不飽和であってもよく、主鎖又は側鎖に、アルコキシ基、シアノ基、1~3級アミノ基、ハロゲン原子等が置換されていてもよい。
【0071】
式(4)で表される構造単位は、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート中でブロック又はランダムで存在することができる。
【0072】
式(4)で表される構造単位がブロックで存在する場合、式(4)で表される構造単位は1以上10以下で連結してブロックを形成していることが好ましく、1以上5以下で連結していることがより好ましく、1以上3以下で連結していることが特に好ましい。3以下で連結していると、高分子バインダーの疎水性溶媒に対する分散性と結着性が両立するので好ましい。
【0073】
式(4)で表される構造単位を含むアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、公知のエステル交換反応を行って得ることができる。例えば、分子末端が共に水酸基である式(1)で表される構造単位を有するオリゴマーと、式(2-1)中のR2’およびR2’’で表される炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているトリオール化合物またはテトラオール化合物と、式(3)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物と、式(4)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物とを、ジフェニルカーボネート等でカーボネート結合させることにより、架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得、そのポリマー分子末端の水酸基の一部を、公知のアシル化反応でアシル化して、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0074】
式(4)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、トリエチレングリコールが好ましい。
【0075】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートにおいて、式(1)~(4)の構造単位の総和に対する式(4)の構造単位の比率は特に限定されないが、5mol%~40mol%であると好ましく、10mol%~35mol%であるとより好ましく、15mol%~30mol%であると更に好ましく、18mol%~22mol%であると特に好ましい。ここで、前記比率は、式(1)については、式(1)全体ではなく、式(1)中の括弧内の繰り返し単位に基づいた値である。
【0076】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートにおいて、本発明の効果を損なわない範囲で、式(1)~(4)の構造単位以外の構造単位を含むことができるが、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート中の式(1)~(4)の構造単位の総和の比率は、好ましくは70mol%以上、より好ましくは80mol%以上、更に好ましくは90mol%以上、特に好ましくは、95mol%以上、最も好ましくは、99mol%以上である。
【0077】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート中、式(1)~(4)で表される構造単位の割合は、モル比で、(1):(2):(3):(4)=40~50:0.4~0.8:10~50:10~35であると好ましい。ここで、前記比率は、式(1)については、式(1)全体ではなく、式(1)中の括弧内の繰り返し単位に基づいた値である。
【0078】
本発明のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、5.0×10~1.0×10であると好ましく、1.0×10~7.0×10であると好ましい。4.0×10~5.0×10であると好ましい。
【0079】
本発明に係るアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの製造方法は特に限定されず、例えば、Rで表される脂肪族炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているジオール化合物にジフェニルカーボネート又はホスゲン等を反応させてカーボネート化してオリゴマーを予め調製し、そのオリゴマーと、式(2-1)中のR2’およびR2’’で表される炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているトリオール化合物またはテトラオール化合物と、式(3)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物と、式(4)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物とを、ジフェニルカーボネート又はホスゲン等を反応させてカーボネート結合させることにより、ランダム重合させて、架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得、そのポリマー分子末端の水酸基の一部を、公知のアシル化反応でアシル化して、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0080】
また、Rで表される脂肪族炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているジオール化合物にジフェニルカーボネート又はホスゲン等を反応させてカーボネート化して式(1)で表される構造単位を含むオリゴマーを調製し、式(3)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物にジフェニルカーボネート又はホスゲン等を反応させてカーボネート化して式(3)で表される構造単位を含むオリゴマーを調製し、式(4)中の内括弧で表される構造を有するジオール化合物にジフェニルカーボネート又はホスゲン等を反応させてカーボネート化して式(1)で表される構造単位を含むオリゴマーを調製し、これらのオリゴマーと式(2-1)中のR2’およびR2’’で表される炭化水素残基の末端に水酸基が結合しているトリオール化合物またはテトラオール化合物にジフェニルカーボネート又はホスゲン等を反応させてカーボネート結合させることによりブロック重合させて、架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートが得ることができる。
【0081】
(アシル化)
本発明に係るアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートは、架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートのポリマー分子末端の水酸基の一部が特定割合で、アシル化されたアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートである。すなわち、本発明に係るアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートのポリマー分子末端は、式(1)~(4)における左端部分のカーボネート酸素原子に結合する末端基がそれぞれ下記式(5-1)~(5-4)で表される構造のいずれかであり、式(1)~(4)における右端部分のR~Rに結合する末端基が下記式(6)で表される構造であり、
【化19】
(式(5-1)~(5-4)および式(6)中、Rは、それぞれ独立して水素原子又はアシル基を表す。)
式(5-1)~(5-4)および式(6)で表される前記ポリマー分子末端のアシル基と水素原子との割合が、ポリマー平均の濃度(eq/T)で(100:0)~(65:35)である。
【0082】
ポリマー平均の濃度が(eq/T)で(100:0)~(65:35)の範囲にあることで、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを含む高分子バインダーのアルミ箔への接着性が向上する。
【0083】
高分子バインダーの接着性が高いと、使用する高分子バインダーの量を減らすことができ、それによって全固体電池内部の抵抗が低下し、イオン伝導性の向上が期待される。
【0084】
アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート中のアシル基としては、ホルミル基(別名:メタノイル基)、アセチル基(別名:エタノイル基)、プロピオニル基(別名:プロパノイル基)、ベンゾイル基、アクリリル基(別名:プロペノイル基)などが挙げられ、中でも、アセチル基およびベンゾイル基が好ましく、アセチル基が特に好ましい。
【0085】
(高分子バインダー)
本発明の第二の観点に係る、高分子バインダーは、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートとリチウム塩を含有することができる。リチウム塩を含有していると、高分子バインダーのイオン伝導性が向上するため好ましい。高分子バインダー中のアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートとリチウム塩との割合としては、例えばアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート100質量部に対し、リチウム塩が100~200質量部である。
【0086】
例えば、全固体二次電池の固体電解質として硫化物を使用する場合、硫化物は熱により脆くなったり、変性したりしてイオン伝導性が低下する恐れがあるため、バインダーを熱処理により除去することができない場合がある。本発明においては、高分子バインダーにリチウム塩を含有させることにより、最終的にバインダーを除去しなくても、高分子バインダーに含有されたリチウム塩が、正極、負極又は固体電解質層のイオン伝導を補助する効果を得ることができる。
【0087】
高分子バインダーに含有させることができるリチウム塩としては、LiN(SOF)(一般名:LiFSI)、LiN(SOCF(一般名:LiTFSI)、LiN(SO、LiPF、LiBF等のリチウム塩が挙げられる。このリチウム塩は、アルカリ金属の無機塩等の他の成分が含まれていてもよい。中でもLiTFSIが好ましい。
【0088】
本発明の高分子バインダーは、全固体二次電池の正極合剤、負極合剤、及び固体電解質を結着するためにも使用する。即ち、本発明の高分子バインダーは、製造工程中で正極合剤、負極合剤、及び固体電解質間に浸透することが望ましい。硫化物を固体電解質層に用いる全固体二次電池を製造する場合、その製造工程では、クロロホルム、アニソール、酪酸ブチル等の疎水性溶媒を用いたスラリーが好んで使用される。本発明の高分子バインダーは疎水性溶媒に良好に分散するので、硫化物を固体電解質層に用いる場合に、好適に用いられる。
【0089】
疎水性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン置換炭化水素、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン置換芳香族炭化水素、アニソール等の芳香族エーテル、酪酸ブチル等の脂肪族エステル、ジエチルカーボネート等の脂肪族カーボネートが挙げられ、特に酪酸ブチル、ジエチルカーボネートが好ましく使用される。
【0090】
従って、本発明の高分子バインダーは、疎水性溶媒に対する分散性が高いことが好ましいという観点から、酪酸ブチル又はジエチルカーボネートの分散率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0091】
但し、分散率は下記式(a)により算出する。
分散率(%)=(残存物量/理論量)×100・・・(a)
上記式中の「理論量」とは、試料高分子バインダーの全量が酪酸ブチル又はジエチルカーボネート中に分散したと仮定したときの、分散液の高分子バインダーの濃度(質量%)、及び、採取した該分散液の質量(g)から算出される高分子バインダーの質量(g)である。また、「残存物量」は、前記採取した分散液を、乾燥して酪酸ブチル又はジエチルカーボネートを除去したときに、実際に残存した試料高分子バインダーの質量(g)である。
【0092】
また、高分子バインダーに固体電解質を含有させた場合、一般的に固体電解質は疎水性溶媒に対する溶解性が低いので、疎水性溶媒中に分散せず、固体電解質が分離して沈殿するおそれがある。そのため、本発明の高分子バインダーに固体電解質を含有させる場合は、アシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートを使用することで、疎水性溶媒中に分散させることができる。具体的には、THF等の親水性溶媒にアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート及び固体電解質を混合して分散させ、分散物を乾燥して溶媒を揮発させることにより、高分子バインダー中に固体電解質を含有させることができる。
【0093】
本発明の全固体二次電池は、正極、負極、及び正極と負極の間に位置する固体電解質層を有しており、これらの内、少なくとも1つは、本発明の高分子バインダーを含むか、もしくは製造時に使用されている。また、本発明の全固体二次電池には、本発明の高分子バインダー以外のバインダーが含まれるか、もしくは製造時に使用されていてもよい。本発明の高分子バインダー以外のバインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンラバー、PVDF、PTFE、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0094】
固体電解質層に使用される固体電解質としては、ZS-Mで表される固体硫化物が挙げられる。但し、式中のZはLi又はNa、MはP、Si、Ge、B、Al又はGa、x及びyは、Mの種類に応じた化学量論に基づく数である。Mの例としては、P、SiS、GeS、B、Al、Ga等の固体硫化物が挙げられる。
【0095】
S-Mの例としては、LiS-P、LiS-SiS等が挙げられる。また、上述した固体硫化物は、Mが異なるMを含んでいてもよい。
【0096】
更に、ZS-M-ZXで表される固体硫化物も、固体電解質として使用することができる。但し、式中のZはLi、MはP、Si、Ge、B、Al又はGa、XはCl、Br又はIであり、n及びmは、Mの種類に応じた、化学量論に基づく数である。
【0097】
の例としては、P、SiS、GeS、B、Al、Ga等の固体硫化物が挙げられる。
【0098】
S-M-ZXの例としては、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr-LiCl、LiS-SiS-LiBr等が挙げられる。
【0099】
固体電解質層に使用される固体硫化物電解質として、上記以外には、例えばLi10GeP12(一般名:LGPS)、Li10SnP12、LiPSClが使用される。これらの固体硫化物は、1種のみを使用しても、複数組み合わせて使用してもよい。
【0100】
また、固体硫化物以外に、LiLaZr12(一般名:LLZO)、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(一般名:LATP)等の固体酸化物も固体電解質として使用することができる。これら固体電解質は、1種のみ使用しても、複数組み合わせて使用してもよい。
【0101】
好ましい固体電解質は、LiS-Pであり、例えば、LiSとPのモル比をLiS:P=50:50~95:5とすることが特に好ましい。
【0102】
正極には、正極活物質及び前記固体電解質が含まれており、更に、本発明の高分子バインダーが含まれていてもよい。
【0103】
正極活物質としては、全固体二次電池に使用可能な公知の正極活物質を使用することができる。例としては、LiCoO、LiNiO、Li1+xNi1/3Mn1/3Co1/3(xは正の数である)、LiMn、Li1+xMn2-x-y(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni、Znから選ばれる少なくとも一種の金属、x及びyは正の数である)、LiTiO(x及びyは正の数である)、LiMPO(MはFe、Mn、Co又はNiである)等が挙げられる。
【0104】
正極には、正極活物質、固体電解質及び本発明の高分子バインダーの他に導電助剤等の他の成分が含まれていてもよい。
【0105】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやカーボンナノチューブ、天然黒鉛、人工黒鉛、気相成長カーボンファィバ(VGCF(登録商標))等が挙げられる。
他の成分の正極中の含有量は、特に限定されないが、含有率を10質量%以下とすることが好ましい。
【0106】
正極は、集電体上に形成されていてもよい。集電体としては、例えば、板状に成形されたアルミニウム等の金属を使用することができる。
【0107】
負極には、負極活物質、及び前記固体電解質が含まれ、更に本発明の高分子バインダーが含まれていてもよい。負極活物質としては、全固体二次電池で使用可能な公知の負極活物質を使用することができる。例としてはメソカーボンマイクロビーズ、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料、LiTi12等のリチウムチタン酸化物、Li等の金属が挙げられる。
【0108】
負極には、負極活物質、固体電解質の他に、アルカリ金属の無機塩、導電助剤等の他の成分が含まれていてもよい。負極用の他の成分には、前記固体電解質層の説明で例示したその他の成分を使用できる。他の成分の負極中の含有量は10質量%以下とすることが好ましい。
【0109】
負極は、集電体上に形成されていてもよい。集電体としては、例えば、板状に成形された銅、ステンレスの金属を使用することができる。
【0110】
本発明の全固体二次電池は、正極、固体電解質層及び負極によって1セルを構成する。1セルのみで全固体二次電池を構成してもよいが、複数個のセルを直列接続又は並列接続して集合体としてもよい。
【0111】
正極、負極又は固体電解質層は、原材料、即ち、各々の説明で述べた物質及び本発明の高分子バインダーを有機溶媒に溶解又は分散させてスラリーを得る工程(スラリー製造工程)と、スラリーを基体上に塗布及び乾燥させる工程(塗布乾燥工程)とを経ることで得ることができる。
【0112】
有機溶媒としては、固体電解質及び活物質の性質に影響を与えず、本発明の高分子バインダーを溶解又は分散するものを使用する。具体的には、n-ペンタン、n-ヘキサン、ヘプタン、n-オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の飽和鎖状炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン置換飽和鎖状炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の飽和環状炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン置換芳香族炭化水素、ジオキサン、メチルエチルケトン、トリオキサウンデカン、トリオキサノナン、トリオキサペンタデカン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の酸素含有鎖状炭化水素、トリエチルアミン、プロパンニトリル、ジメチルジアゾヘキサン、トリメチルトリアゾノナン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン等の窒素含有飽和炭化水素、アニソール等の酸素含有芳香族炭化水素、酪酸ブチル等の脂肪族エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の脂肪族カーボネート等が挙げられる。硫化物を固体電解質層に用いる場合、有機溶媒は、クロロホルム、アニソール、酪酸ブチル、ジエチルカーボネート等の疎水性溶媒が好ましい。有機溶媒は、前記原材料の溶液又は分散液が、塗布可能な程度となる量で使用される。
【0113】
固体電解質及び本発明の高分子バインダーの有機溶媒への溶解又は分散の条件は、十分な溶解又は分散が行われる限り特に限定されない。溶解又は分散は、常温下(例えば、25℃)で行うことができ、必要に応じて、冷却や加温してもよい。また、必要に応じて、溶解又は分散は、常圧、減圧及び加圧のいずれかの圧力条件下で行ってもよい。
【0114】
正極、負極又は固体電解質の原材料のスラリーをそれぞれ基体上に塗布した後、得られた塗膜を乾燥させることにより、正極、負極、及び固体電解質層を得ることができる。
【0115】
スラリーを塗布する基体は、特に限定されない。例えば、固体電解質スラリーの製造が正極の製造と同時に行われる場合、集電体又は固体電解質層又は正極を基体として使用できる。塗布法としては、例えば、アプリケーター、ドクターブレード、バーコーターによる塗布、刷毛塗り、ロールコート、スプレーコート、エレクトロスプレーコート等が挙げられる。
【0116】
このようにして得られた正極、固体電解質層及び負極をこの順序で積層した後、積層方向にプレスして互いに固着させて積層体とする。積層体を必要に応じて熱処理することによって、本発明の全固体二次電池を得ることができる。
【0117】
積層体の熱処理は、必要に応じて、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行うことができる。また、熱処理は、常圧下、減圧下、加圧下で行ってもよい。更に、熱処理は、固体電解質の結晶構造が変化しない温度以下で加熱することで行うことが好ましい。より好ましい熱処理温度は、本発明の高分子バインダーの分解開始温度をT℃とすると、T-25℃~T+50℃の間の温度である。また、熱処理時間は、積層体の大きさや積層数、熱処理温度によって変化するが、通常、3~60分間であり、より好ましくは5~30分間である。また、固体電解質層、正極及び負極、それぞれ単独で熱処理を行ってもよく、これらを積層してから処理を行ってよい。
【0118】
(実施例)
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明の範囲は限定されない。
【0119】
<重量平均分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)の値から求めた。分子量分布(Mw/Mn)とは数平均分子量(Mn)に対する重量平均(Mw)の比で表される値である。
【0120】
GPCの測定は、検出器にウォーターズコーポレーション製示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにMODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodex GPC HFIP-806Lを2本直列に接続したものを用いて行った。測定条件は、流速1.0mL/minとし、溶媒にクロロホルムを用い、試料濃度0.2mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
【0121】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、T・A・インスツルメント株式会社製示差走査型熱量計(Q20)により試料10mgを窒素雰囲気下中で、-160℃から速度20℃/minで100℃まで昇温して測定した。
【0122】
<ポリマー構造>
ポリマー構造は、重クロロホルム溶液中、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置JNM-ECA600スペクトルメーターを使用して、H-NMRおよび13C-NMRを測定し、その構造を確認した。
【0123】
<疎水性溶媒分散性>
ポリカーボネートの分散性は、以下の方法で評価した。
30mLバイアルに、ポリマー0.4gと、LiTFSI0.6gと、THF5.7gを加え、よく撹拌した後、65℃で5時間乾燥した後、更に減圧下65℃で24時間乾燥した。
次に、酪酸ブチル又はジエチルカーボネートを、高分子バインダーが10質量%になるように30mLバイアルに入れ、25℃で3時間撹拌した。撹拌停止後、0分及び24時間静置し、計量した30mLバイアルに混合液を1g分注した。酪酸ブチルの場合は、160℃で3時間乾燥後、減圧下65℃で2時間乾燥した。ジエチルカーボネートの場合は、130℃で3時間乾燥後、減圧下65℃で2時間乾燥した。
乾燥後、30mLバイアルを計量し、残存物の質量を算出した。算出された残存物量から、下記式(c)を用いて溶液の分散率を算出した。
分散率=残存物量/理論残存物量×100・・・(c)
○(良好):分散率が90%以上
×(不良):分散率が90%未満
【0124】
<耐熱性>
高分子バインダー膜の耐熱性は、5%重量減少温度Tdで評価した。5%重量減少温度Tdの測定は、株式会社リガク製TG-DTA 8122/C-SLを用い、試料15mgを窒素雰囲気下中で、20℃から110℃まで速度10℃/minで昇温後、10分保持した後、更に500℃まで昇温した後30分保持して測定した。110℃で10分保持後の重量を基準とし、重量が5%減少した時の温度を、5%重量減少温度Tdとした。
【0125】
<アルミ箔接着力>
30質量%の高分子バインダーのTHF分散液2.5mLをアルミ箔上に縦150mm、横60mmとなるように均一に塗布した。
次に100℃で1時間乾燥後、さらに減圧下60℃で2時間乾燥した。得られたシートサンプル上に別のアルミ箔を重ね、60℃、0.5MPa条件で2分間プレスした。プレス後のアルミシートをポリマー部分が含まれるように縦200mm、幅25mmに裁断し、剥離試験用サンプルを作成した。剥離試験用サンプルを株式会社島津製作所製AG-100Bにチャック間20mmとなるようにセットし、10mm/minの速度で剥離力(N)を測定した。200mmの測定範囲のうち、60から100mm間の剥離力の平均値を算出し、高分子バインダーのアルミ箔接着力とした。
【0126】
<イオン伝導度測定>
イオン伝導度は次の方法により得た。
後述する方法で得た高分子バインダー膜を、それぞれ直径6mmの円形に切り抜き、2枚のステンレス鋼板で挟み、高分子バインダー膜のインピーダンスを測定した。
Biologic社製インピーダンスアナライザーを用い、測定周波数範囲100~1,000,000Hz、振幅電圧10mVとし、30~80℃におけるインピーダンスを測定した。得られたインピーダンスから下式(b)を用いてイオン伝導度を算出した。
σ=L/(R×S)・・・(b)
前記式(b)において、σはイオン伝導度(S/cm)、Rはインピーダンス(Ω)、Sは高分子バインダー膜の断面積(cm)、Lは高分子バインダー膜の厚み(cm)である。
【0127】
<製造例1>
以下の操作により、架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの合成を行った。
【0128】
(オリゴマーの調製)
撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、真空コントローラー、還流冷却管を備えた0.3Lの三口フラスコに、1,10-デカンジオールを69.71g(0.40mol)、ジフェニルカーボネート(アルドリッチ社製)77.1g(0.36mol)及び炭酸水素ナトリウム0.30mg(4μmol)を入れ、撹拌しながら200℃に昇温した。次に1kPa/minで減圧しながら0.5℃/minで昇温を行い、2時間撹拌した。その後減圧下、260℃で15分間撹拌し、重合反応を行い、オリゴマーを得た。
【0129】
(共重合反応)
次に前記の0.3Lの三口フラスコに、ペンタエリスリトール(和光純薬工業株式会社製)0.28g(0.002mol)、スピログリコール36.89g(0.12mol)、トリエチレングリコール12.14g(0.08mol)、ジフェニルカーボネート44.7g(0.21mol)、炭酸水素ナトリウム0.18mg(2μmol)を入れ、撹拌しながら200℃に昇温した。次に1kPa/minで減圧しながら0.5℃/minで昇温を行い、2時間撹拌した。次いで、減圧下、260℃で30分間撹拌し、重合反応を行い、反応終了後、三口フラスコを冷却して架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートR1を得た。得られた架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートR1の重量平均分子量は2.9×10(Mw/Mn=2.0)であった。得られた架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートR1の構造は、H-NMR、13C-NMRにより確認した(図1、2)。
【0130】
<実施例1>
以下の操作により、製造例1で得られた架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートR1をアシル化した。
【0131】
(アシル化反応)
撹拌機、温度計、還流冷却管を備えた1Lの三口フラスコに、製造例1で得られた架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートR1を5g、ピリジン69g(0.9mol)、NMP600mLを入れ、室温で30分撹拌した。次に無水酢酸104g(1.0mol)を加え、70℃に昇温後、6時間撹拌した。室温に戻した後、反応液にメタノールを加えポリマーを析出させ、フィルターろ過した。残渣をビーカーに移し、クロロホルムで溶解させ、純水で分液処理を3回行った。分液後、クロロホルム相をメタノールに加え、析出物をフィルターろ過により回収した。得られたアシル化した架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの重量平均分子量は4.6×10(Mw/Mn=1.6)であった。アシル化した架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートのガラス転移温度は-25℃であった。アシル化した架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートの構造はH-NMR、13C-NMRにより確認した(図3、4)。図3図4により、ポリマー中のアセチル基、及び水酸基の濃度を算出した。濃度の単位は、ポリマー1トン当たりの等量数(eq/T)とした。得られたアセチル基、及び水酸基濃度から、下式(c)を用いてアセチル化率(アシル化率)の算出を行った。
アセチル化率(アシル化率)=アセチル基濃度/(アセチル基濃度+水酸基濃度)×100・・・(c)
アシル化した架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートのアセチル化率(アシル化率)を求めたところ、75%であった。
【0132】
(高分子バインダーの製造)
実施例1により得られたアシル化した架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートに、LiTFSIの含有率が60質量%となるように秤量したLiTFSIを混合してTHF中で良く撹拌し、濃度30質量%の高分子バインダーの分散液を得た。
【0133】
疎水性溶媒として、酢酸ブチルおよびジエチルカーボネートを用いて、高分子バインダーの分散性を評価したところ、酢酸ブチルおよびジエチルカーボネートについていずれも分散率が90%以上であり、良好であった。結果を表1に示す。
【0134】
(高分子バインダー膜の製造)
高分子バインダーのTHF分散液を1mL、マイクロピペッターを用いてアルミ箔膜片面に5cm四方となるように均一に塗布した。65℃で3時間乾燥した後、更に減圧下65℃で4時間乾燥し、LiTFSIの含有率が60質量%である透明な高分子バインダーからなる高分子バインダー膜を得た。得られた高分子バインダー膜のTgを測定したところ-55℃であり、耐熱性(Td5)は、267℃であった。また、得られた高分子バインダー膜のアルミ箔接着力を測定したところ、8.8Nであった。結果を表1に示す。
【0135】
<比較例1>
製造例1の架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートR1をアシル化せずに、実施例1と同様の手順で、高分子バインダーおよび高分子バインダー膜を製造し、Tg、耐熱性、アルミ箔接着力、疎水性溶媒分散性を測定した。結果を表1に示す。架橋型共重合脂肪族ポリカーボネートR1を用いた高分子バインダー膜のアルミ箔接着力は実施例1に劣っていた。
【0136】
【表1】
【0137】
末端が全て-OHの架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート(比較例1)であっても比較的高い接着力を有するが、電池の大面積化や、充放電時のサイクル特性を安定化するためには、電極層の剥離を抑制することが重要であり、高分子バインダーとしてはさらなる集電箔への接着力の向上が必要である。本願発明に係るアシル化架橋型共重合脂肪族ポリカーボネート(実施例1)では、前述のとおり接着力が増加している。接着力試験において、1Nの接着力は、金属粒子100gの保持に相当するため、実施例1で示されているように、比較例1のものに比べて1.8N増加したことは、全固体電池の大面積化に大きく寄与すると言える。
図1
図2
図3
図4