IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114333
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20230809BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20230809BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20230809BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230809BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230809BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K9/06
C08F214/26
B05D7/24 302L
B32B27/30 D
C01B21/064 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016643
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4D075CA13
4D075CA17
4D075CA21
4D075DA04
4D075DB01
4D075DB06
4D075DB07
4D075DB13
4D075DB14
4D075DB31
4D075DB39
4D075DB48
4D075DB53
4D075DB61
4D075DC11
4D075DC21
4D075DC38
4D075EB18
4D075EC01
4D075EC02
4D075EC08
4D075EC45
4F100AA07A
4F100AA14A
4F100AA16A
4F100AA18A
4F100AA19A
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AD05A
4F100AH06A
4F100AK18A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100EJ42
4F100EJ67A
4F100GB31
4F100GB32
4F100GB41
4F100GB87
4F100GB90
4F100JA02
4F100JA04A
4F100JG05
4F100JJ01
4F100JL11
4F100YY00A
4J002BD151
4J002DE076
4J002DE146
4J002DJ056
4J002DK006
4J002FA016
4J002FB146
4J002FD206
4J002GF00
4J002GQ05
4J100AC26P
4J100AE56Q
4J100AK33R
4J100BB18Q
4J100CA05
4J100JA44
(57)【要約】
【課題】テトラフルオロエチレン系ポリマーと所定の無機粒子とを含む、分散性及び成形性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、基材との密着性、熱伝導性及び放熱性に優れた成形物を形成できる組成物を提供すること。
【解決手段】テトラフルオロエチレン系ポリマーと、カップリング剤で表面処理された、疎水性の無機粒子とを含み、前記カップリング剤が、トリアルコキシシリル基と官能基とがイミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合及びカルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む連結基を介して結合している化合物である、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーと、カップリング剤で表面処理された、疎水性の無機粒子とを含み、前記カップリング剤が、トリアルコキシシリル基と官能基とがイミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合及びカルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む連結基を介して結合している化合物である、組成物。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が180℃以上の熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが粒子状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記無機粒子が、表面水酸基量が50個/nm以下の無機粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記無機粒子が、アルミナ、クリストバライト、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、マイカ、フォルステライト及びコージライトからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記無機粒子の平均粒子径が15μm未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記カップリング剤が、ベンゾトリアゾール官能基型シランカップリング剤及びエポキシ官能基型シランカップリング剤から選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーに対する前記無機粒子の含有量比(質量比)が1より大きい、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
液状又は粉体状である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
トリアルコキシシリル基と官能基とがイミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、カルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む連結基を介して結合している化合物であるカップリング剤を含む溶液中で、疎水性の無機粒子を剪断処理する、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物に使用される、カップリング剤で表面処理された、疎水性の無機粒子の製造方法。
【請求項12】
前記剪断処理を、薄膜旋回による撹拌機構か、又は、自転及び公転による撹拌機構を備えた槽内にて混合して行う、請求項11に記載の無機粒子の製造方法。
【請求項13】
テトラフルオロエチレン系ポリマーと、請求項11又は12の製造方法で得られた疎水性の無機粒子とを混合して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記無機粒子とを含む組成物を得る、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物を基材の表面に付与し、加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記無機粒子を含むポリマー層を形成して、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項15】
基材層と、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物から形成される、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記無機粒子を含むポリマー層とを有する積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機粒子とを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の移動体通信機器における高速化、高周波化に対応するため、通信機器のプリント基板の材料には高熱伝導、低線膨張係数、低誘電率かつ低誘電正接である材料が求められ、低誘電率かつ低誘電正接であるテトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されている。
また、電気機器又は電子機器の回路の高速化、高集積化、回路基板への電子密度実装の高密度化に伴う、高発熱部品からの熱による不具合を防ぐべく、プリント基板材料に放熱性が求められている。さらに、電子部品からの発熱を効率よく放散させる、熱伝導性及び放熱性により優れる材料が求められる。
低誘電特性及び熱伝導性により優れた材料を得るべく、テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機粒子との組成物が検討されている。特許文献1には、溶融加工可能なフッ素樹脂と特定粒子径の粒子存在割合が所定範囲である窒化ホウ素粒子とを含む回路基板用樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、凹構造を形成した表面を金属カップリング剤で表面処理した六方晶窒化ホウ素粒子と樹脂を含む組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/010320号
【特許文献2】特開2019-137581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは表面張力が低く、他の成分との親和性が低く、特に、他の成分が疎水性の無機粒子である組成物から形成される成形物においては、各成分の物性が充分に発現しない場合がある。
本発明者らは、上記した特許文献1及び2の組成物では、線膨張係数が低く電気特性に優れ、また、特に基材との密着性、熱伝導性及び放熱性に優れる成形物を形成できる組成物を得難い点を知見した。
本発明者らは、テトラフルオロエチレン系ポリマーと、特定のカップリング剤により表面処理した所定の無機粒子とを含む組成物は分散性及び成形性に優れており、その成形物は線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、基材との密着性、熱伝導性及び放熱性に優れることを見出し、本発明に至った。
本発明の目的は、かかる組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] テトラフルオロエチレン系ポリマーと、カップリング剤で表面処理された、疎水性の無機粒子とを含み、前記カップリング剤が、トリアルコキシシリル基と官能基とがイミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合及びカルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む連結基を介して結合している化合物である、組成物。
[2] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が180℃以上の熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[1]の組成物。
[3] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[1]又は[2]の組成物。
[4] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが粒子状である、[1]~[3]のいずれかの組成物。
[5] 前記無機粒子が、表面水酸基量が50個/nm以下の無機粒子である、[1]~[4]のいずれかの組成物。
[6] 前記無機粒子が、アルミナ、クリストバライト、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、マイカ、フォルステライト及びコージライトからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかの組成物。
[7] 前記無機粒子の平均粒子径が15μm未満である、[1]~[6]のいずれかのの組成物。
[8] 前記カップリング剤が、ベンゾトリアゾール官能基型シランカップリング剤及びエポキシ官能基型シランカップリング剤から選択される少なくとも1種である、[1]~[7]のいずれかの組成物。
[9] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーに対する前記無機粒子の含有量比(質量比)が1より大きい、[1]~[8]のいずれかの組成物。
[10] 液状又は粉体状である、[1]~[9]のいずれかの組成物。
[11] トリアルコキシシリル基と官能基とがイミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、カルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む連結基を介して結合している化合物であるカップリング剤を含む溶液中で、疎水性の無機粒子を剪断処理する、[1]~[10]のいずれかの組成物に使用される、カップリング剤で表面処理された、疎水性の無機粒子の製造方法。
[12] 前記剪断処理を、薄膜旋回による撹拌機構か、又は、自転及び公転による撹拌機構を備えた槽内にて混合して行う、[11]の無機粒子の製造方法。
[13] テトラフルオロエチレン系ポリマーと、[11]又は[12]の製造方法で得られた疎水性の無機粒子とを混合して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記無機粒子とを含む組成物を得る、[1]~[10]のいずれかの組成物の製造方法。
[14] [1]~[10]のいずれかの組成物を基材の表面に付与し、加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記無機粒子を含むポリマー層を形成して、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
[15] 基材層と、[1]~[10]のいずれかの組成物から形成される、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記無機粒子を含むポリマー層とを有する積層体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーと所定の無機粒子とを含み、分散安定性及び成形性に優れた組成物が提供される。かかる組成物からは、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、基材との密着性、熱伝導性及び放熱性に優れた成形物を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
粒子のD50は、粒子を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で組成物を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、組成物の、回転数が30rpmの条件で測定される粘度ηを、回転数が60rpmの条件で測定される粘度ηで除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0008】
本発明の組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)と、カップリング剤で表面処理された、疎水性の無機粒子(以下、「本無機粒子」とも記す。)とを含み、前記カップリング剤が、トリアルコキシシリル基と官能基とがイミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合及びカルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む連結基を介して結合している化合物である。
【0009】
本組成物は分散性に優れ、本組成物からは、Fポリマーと無機粒子との物性を高度に具備し、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、基材との密着性、熱伝導性及び放熱性に優れた成形物を形成しやすい。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0010】
Fポリマーは表面エネルギーが低いため、Fポリマー同士で凝集しやすい。さらに、Fポリマーと無機粒子との親和性も低いため、F粒子と無機粒子が良好に分散した組成物が得られ難い。この傾向は、疎水性の無機粒子や、組成物に含まれる無機粒子の割合が高くなるほど顕著になりやすく、その成形物においても両成分の物性が発現し難くなるだけでなく、また他の基材との密着性も低下しやすくなる。
本組成物が含有する本無機粒子は、好適には特定カップリング剤を含む溶液中で疎水性の無機粒子を剪断処理して製造される。かかる方法により、無機粒子全体としての性状や物性を損なうことなく無機粒子の表面粗化が進み、特定のカップリング剤のトリアルコキシシリル基がかかる表面粗化した無機粒子表面に高度に結合して本無機粒子が形成される。この際、特定のカップリング剤が有する官能基は、特定の剛直な連結基を介して結合しているため、本無機粒子の表面に高度に露出していると考えられる。それが、Fポリマーと本無機粒子との親和性を高め、本組成物の分散性が向上させているだけでなく、成形物形成時には、カップリング剤の官能基の作用によりFポリマーと本無機粒子の間にネットワーク構造の形成が促され、両成分の界面密着性及び、成形物と基材との密着性を向上させていると考えられる。
その結果、Fポリマーと無機粒子との物性を高度に具備し、具体的には、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、基材との密着性、熱伝導性及び放熱性に優れた成形物が本組成物から得られたと考えられる。
【0011】
本発明におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含むポリマーである。
Fポリマーは熱溶融性であってもよく、非熱溶融性であってもよい。ここで、熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。また非熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在しないポリマーを意味する。
熱溶融性であるFポリマーの溶融温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、260℃以上がさらに好ましい。前記Fポリマーの溶融温度は、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。前記Fポリマーの溶融温度は、180℃~320℃が好ましい。この場合、本組成物が加工性に優れやすく、また、本組成物から形成される成形物が耐熱性に優れやすい。
【0012】
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有量は、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。かかるフッ素含有量の高いFポリマーは、特に無機粒子との親和性が低いが、上述した作用機構により、本発明によれば分散性に優れた組成物(本組成物)が得られる。
Fポリマーの表面張力は、16~26mN/mが好ましい。なお、Fポリマーの表面張力は、Fポリマーで作製された平板上に、JIS K 6768に規定されているぬれ張力試験用混合液(和光純薬社製)の液滴を載置して測定できる。
【0013】
Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(EFEP)、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましく、PFA及びFEPがより好ましく、PFAがさらに好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEは、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF及びCF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0014】
Fポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましく、カルボニル基含有基を有するのがさらに好ましい。
この場合、Fポリマーが、本無機粒子と相互作用しやすく、本組成物が分散性に優れやすい。また、本組成物から、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、熱伝導性及び接着性に優れた成形物を得やすい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH及び-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)、ホルミル基、ハロゲノホルミル基、ウレタン基(-NHC(O)O-)、カルバモイル基(-C(O)-NH)、ウレイド基(-NH-C(O)-NH)、オキサモイル基(-NH-C(O)-C(O)-NH)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
Fポリマーが酸素含有極性基を有する場合、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、主鎖の炭素数1×10個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0015】
酸素含有極性基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として酸素含有極性基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーが挙げられる。
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
【0016】
Fポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有するポリマーであるのが好ましく、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0017】
本発明において、Fポリマーは粒子状であるのが好ましい(以下、「F粒子」と称する。)。F粒子のD50は、0.01μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。F粒子のD50は、10μm未満が好ましく、8μm未満がより好ましい。この場合、本組成物が分散性と加工性に優れやすい。また、本組成物から、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、基材との密着性、熱伝導性及び放熱性に優れた成形物を得やすい。
F粒子の比表面積は、1~25m/gが好ましい。
【0018】
F粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。F粒子は、少なくとも、熱溶融性Fポリマーの粒子であるのが好ましく、溶融温度が180℃~320℃である、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの粒子であるのがより好ましい。この場合、本組成物の分散性が向上しやすい。
【0019】
2種のF粒子を用いる場合、F粒子は、熱溶融性Fポリマーの粒子と非熱溶融性Fポリマーの粒子の混合物であるのが好ましい。この場合、熱溶融性Fポリマーの粒子による凝集抑制作用と、非熱溶融性Fポリマーのフィブリル化による保持作用とがバランスし、本組成物の分散性が向上しやすい。また、それから得られる成形物において、非熱溶融性Fポリマーの電気特性が高度に発現し、特に誘電正接の低い成形物が得られやすい。
前者の粒子としては、溶融温度が200~320℃である熱溶融性Fポリマーの粒子が好ましく、溶融温度が180~320℃であり、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの粒子がより好ましい。前者の粒子における、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの好適態様は、上述の酸素含有極性基を有するFポリマーにおける好適態様と同様である。
後者の粒子としては、非熱溶融性PTFEの粒子が好ましい。
また、2種のF粒子の総質量における前者の粒子の割合は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。また、前記割合は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
また、前者の粒子のD50は1~4μmであり、かつ、後者の粒子のD50は0.1~1μmであるのが好ましい。
【0020】
F粒子は、Fポリマー以外の樹脂や無機化合物を含んでいてもよく、FポリマーをコアとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をシェルとするコア-シェル構造を形成していてもよく、FポリマーをシェルとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をコアとするコア-シェル構造を形成していてもよい。
ここで、Fポリマー以外の樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、マレイミドが挙げられ、無機化合物としては、シリカ、窒化ホウ素が挙げられる。
【0021】
本発明において用いる疎水性の無機粒子は、その表面水酸基量が100個/nm以下であるのが好ましく、50個/nm以下であるのがより好ましい。
なお、無機粒子の単位量当たりの表面水酸基量は、以下の方法により測定される。
無機粒子を1.5g秤量して、0.1mol/Lの塩酸でpHが約3になるよう調整し、これを蒸留水で希釈して全量を150gにする。この調製液に、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを滴下してpHが9となるまでの量を求める。これを下記式(1)に代入して、表面水酸基量を算出する。
表面水酸基量(個/nm)=[0.1mol/Lの水酸化ナトリウム量×6×1023]/[無機粒子量×比表面積] ・・・式(1)
【0022】
疎水性の無機粒子の形状は、球状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよく、具体的には、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状のいずれであってもよく、鱗片状であるのが好ましい。この場合、本組成物から形成される成形物中で本無機粒子が熱伝導パスを形成しやすく、成形物が熱伝導率と低線膨張性に優れやすい。
【0023】
疎水性の無機粒子における無機化合物としては、炭素、無機窒化物又は無機酸化物が挙げられる。例えば、炭素繊維、ガラス、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ベリリア、シリカ、クリストバライト、アルミナ(酸化アルミニウム)、ウォラストナイト、マイカ、タルク、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、フォルステライト(2MgO・SiO)、コージライト(2MgO・2Al・5SiO)又は酸化チタンが挙げられる。中でも、本組成物の分散安定性と本組成物から形成される成形物の熱伝導性、放熱性の観点からは、アルミナ、クリストバライト、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、マイカ、フォルステライト及びコージライトからなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、窒化ホウ素がより好ましく、六方晶窒化ホウ素がさらに好ましい。
窒化ホウ素粒子の具体例としては、「UHP」シリーズ(昭和電工社製)、「デンカボロンナイトライド」シリーズの「GP」、「HGP」グレード(デンカ社製)が挙げられる。
疎水性の無機粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0024】
疎水性の無機粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素粒子である場合、本組成物及び本組成物から形成される成形物中でカードハウス構造をとりやすくなり、熱伝導パスを形成すると考えられる。その結果、本組成物が分散性に優れ、また、成形物が低線膨張性、熱伝導率及び放熱性に優れやすく、好ましい。
【0025】
疎水性の無機粒子の平均粒子径(D50)は15μm未満であるのが好ましく、10μm未満がより好ましく、8μm以下がより好ましい。疎水性の無機粒子のD50は、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。かかるD50の小さい疎水性の無機粒子は、それ自体が凝集しやすく、Fポリマーとの親和性が低い傾向にあるが、上述した作用機構により、本発明によれば分散性に優れた組成物(本組成物)が得られる。
疎水性の無機粒子のアスペクト比は、1以上であるのが好ましく、10以上がより好ましい。アスペクト比は、10000以下が好ましい。
【0026】
本無機粒子は、前記した疎水性の無機粒子が、トリアルコキシシリル基と官能基とがイミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合及びカルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む連結基を介して結合している化合物であるカップリング剤(以下、「本カップリング剤」とも称する。)で表面処理されている。
本カップリング剤におけるトリアルコキシシリル基としては、例えばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基が挙げられる。
本カップリング剤における前記官能基としては、例えばトリアジン基、イソシアネート基、イソシアヌル酸基、ベンゾトリアゾール基、酸無水物基、アザシラシクロペンタン基、イミダゾール基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、アルケニル基、スチリル基が挙げられる。中でも、ベンゾトリアゾール基又はエポキシ基が好ましい。本カップリング剤は、異なる種類の官能基を複数有していてもよく、同じ種類の官能基を複数有していてもよい。
前記連結基としては、例えば2価の有機基(アルキレン基、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するアルキレン基等。)を主鎖として、イミノ結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合及びカルボジイミド結合から選択されるいずれか1つ以上を含む基であればよい。
【0027】
本カップリング剤は、前記した官能基とトリメトキシシリル基とを、それぞれ前記連結基を含む主鎖の両末端に有する化合物;前記連結基を含む主鎖に複数の官能基を有し、側鎖に複数のトリエトキシシリル基を有する化合物;前記連結基を含む主鎖にシロキサン構造を有し、該主鎖の両末端に官能基を有する化合物;前記連結基を含む主鎖にブタジエン構造を有し、側鎖に酸無水物基とトリメトキシシリル基とを1つずつ有する化合物;前記連結基を含む主鎖にアルコキシシロキサン構造を有し、側鎖に複数のエポキシ基を有する化合物、であることができる。
【0028】
本カップリング剤の具体例としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリエチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-3,5-ジ-2-プロペニル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、N-[5-(トリメトキシシリル)-2-アザ-1-オキソペンチル]カプロラクタム、N-[5-(トリエトキシシリル)-2-アザ-1-オキソペンチル]カプロラクタム、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-カルバミン酸エチル、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-カルバミン酸エチル、3,5-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1H-ピラゾール-1-カルボキシアミド、3,5-ジメチル-N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1H-ピラゾール-1-カルボキシアミド、2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物、2-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物、N-(トリメトキシシリル-プロピル)-1H-ベンゾトリアゾール-1-カルボジアミド、ジヒドロ-3-(トリメトキシシリル-プロピル)-2,5-フランジオン、2、2-ジメトキシ-1-フェニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、N-2-ピリジニル-N-(トリエトキシシリル-プロピル)-ウレア、3-[(トリメトキシシリル)プロピル]-1H-イミダゾール、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、エポキシ基含有オリゴマー型シランカップリング剤、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0029】
中でも、本カップリング剤における前記官能基は、ベンゾトリアゾール基又はエポキシ基であることがより好ましい。すなわち、本カップリング剤は、ベンゾトリアゾール官能基型シランカップリング剤及びエポキシ官能基型シランカップリング剤から選択される少なくとも1種であるのが、より好ましい。
このような本カップリング剤として市販品を用いることもでき、例えば信越化学工業株式会社製の「X-12-1214A」「X-12-981S」「X-12-984S」「KBM-303」、「KBM-402」、「KBE-402」、「KBM-403」、「KBE-403」、「X-12-967C」「KBM-1403」「KBM-4803」(いずれも商品名)が挙げられる。
【0030】
疎水性の無機粒子を本カップリング剤で表面処理して本無機粒子を製造する方法としては、本カップリング剤を含む溶液と、疎水性の無機粒子とを混合処理する方法が挙げられる。特に、本無機粒子の製造方法として、本カップリング剤を含む溶液中で、疎水性の無機粒子を剪断処理するのが好ましい。かかる方法により、上述した作用機構で本無機粒子を形成でき、Fポリマーとの親和性が高まると考えられる。
剪断処理としては、薄膜旋回による撹拌機構か、又は、自転及び公転による撹拌機構を備えた槽内にて混合して行うのが好ましい。
前記した薄膜旋回による撹拌機構を備えた槽としては、薄膜旋回型高速ミキサーが挙げられる。薄膜旋回型高速ミキサーは、円筒形の撹拌槽の内壁面に、疎水性の無機粒子と本カップリング剤を含む溶液とを薄膜状に展開し旋回させて、遠心力を作用させながら混合する撹拌装置である。
また、自転及び公転による撹拌機構を備えた槽としては、例えばプラネタリーミキサー、自転公転撹拌機が挙げられる。プラネタリーミキサーは、互いに自転と公転を行う2軸の撹拌羽根を有する撹拌装置である。
なお、剪断処理においては、本カップリング剤を含む溶液と疎水性の無機粒子の混合物を加熱して、好適には加熱還流条件として、本カップリング剤の反応を促してもよい。また、反応触媒によって、本カップリング剤の反応を加速させてもよい。
【0031】
本カップリング剤を含む溶液の溶媒はアルコールであるのが好ましい。アルコールとしては、大気圧における沸点が50℃~200℃の範囲である、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等が好ましく、メタノール又はエタノールがより好ましい。
剪断処理後の溶液から溶媒を除去し、必要に応じさらに乾燥して、本無機粒子を得る。溶液からの溶媒の除去は濾過、遠心分離等の公知の方法を適用できる。また、乾燥はオーブン、通風乾燥炉等の公知の乾燥手段で、例えば溶媒の沸点以上の温度にて、10分~300分間行える。乾燥は常圧下又は減圧下で行うことができ、空気又はヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下のいずれで行ってもよい。
また、乾燥後、本カップリング剤で表面処理された疎水性の無機粒子を解砕して本無機粒子を得てもよく、分級して本無機粒子を得てもよい。
【0032】
本組成物におけるF粒子の含有量は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。F粒子の含有量は50質量%以下が好ましい。
本組成物における本無機粒子の含有量は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。本無機粒子の含有量は70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
本組成物における、F粒子の含有量に対する本無機粒子の含有量比(質量比)は0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1超がさらに好ましい。上記比は3以下が好ましく、2以下がより好ましい。
F粒子及び本無機粒子の含有量や含有量比がかかる範囲である場合、上述の作用機構により本組成物が分散性に優れやすい。また、本組成物から線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、基材との接着性、熱伝導性及び放熱性に優れた成形物を得やすい。
【0033】
本組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、本無機粒子とは異なる他の無機粒子をさらに含んでいてもよい。他の無機粒子の形状は、球状、針状、繊維状又は板状のいずれでもよい。他の無機粒子としては、炭素繊維、ガラス、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ベリリア、シリカ、ウォラストナイト、タルク、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛又は酸化チタンが挙げられる。
本組成物が本無機粒子とは異なる他の無機粒子をさらに含む場合、その含有量は組成物全体に対して1~20質量%以下が好ましい。
【0034】
本組成物は、さらにテトラフルオロエチレン系ポリマーとは異なる他の樹脂を含んでもよい。かかる他の樹脂は、本組成物に粒子として含まれていてもよく、本組成物が後述する液状分散媒を含む場合、液状分散媒に溶解又は分散して含まれていてもよい。
他の樹脂としては、液晶性の芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。
他の樹脂としては、芳香族ポリマーが好ましく、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミック酸、芳香族ポリアミドイミド及び芳香族ポリアミドイミドの前駆体からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族イミドポリマーがより好ましい。芳香族ポリマーは本組成物中で、液状分散媒に溶解したワニスとして含まれるのが好ましい。
本組成物が他の樹脂をさらに含む場合、その含有量は組成物全体に対して0.1~5質量%以下が好ましい。
【0035】
本組成物は粉体状であってもよく、液状分散媒をさらに含む液状(分散液状、スラリー状)、又は練粉状であってもよい。また、粉体状の本組成物をさらに溶融して、ペレット状の本組成物としてもよい。
液状分散媒としては、大気圧下、25℃にて液体である化合物であり、沸点が50~240℃である化合物が好ましい。液状分散媒は1種類を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種の液状分散媒を用いる場合、2種の液状分散媒は、互いに相溶するのが好ましい。
【0036】
液状分散媒は、水、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる化合物が好ましい。
アミドとしては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。
エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンが挙げられる。
【0037】
本組成物が液状分散媒を含む場合、液状分散媒の含有量は本組成物全体に対して10~70質量%以上が好ましい。
本組成物が液状分散媒を含む場合、本組成物における固形分濃度は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。固形分濃度は90質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
なお、固形分とは本組成物から形成される成形物において固形分を形成する物質の総量を意味する。具体的には、F粒子、本無機粒子は固形分であり、本組成物が他の樹脂又は他の無機粒子を含む場合には、これら他の樹脂又は他の無機粒子も固形分であり、これらの成分の総質量割合が本組成物における固形分濃度となる。
【0038】
本組成物が液状分散媒を含む場合、本組成物は、分散安定性を向上する観点からさらに界面活性剤を含むのが好ましい。かかる界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤であるのが好ましい。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業社製)、「Tergitol」シリーズ(ダウケミカル社製、「Tergitol TMN-100X」等。)が挙げられる。
本組成物がノニオン性界面活性剤を含有する場合、本組成物中のノニオン性界面活性剤の含有量は、本組成物全体に対して0.1~10質量%が好ましい。
【0039】
本組成物は、必要に応じ、さらにシランカップリング剤を含んでいてもよい。シランカップリング剤としては、疎水性の無機粒子の表面処理に用いてもよいシランカップリング剤と同様のものが挙げられる。本組成物がシランカップリング剤を含む場合、本組成物中のシランカップリング剤の含有量は、本組成物全体に対して0.1~10質量%が好ましい。
【0040】
本組成物は、さらに、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、上記したシランカップリング剤以外の表面処理剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0041】
本組成物が液状分散媒を含み液状である場合、その粘度は、10mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本組成物の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、3000mPa・s以下がより好ましい。
本組成物が液状分散媒を含み液状である場合、そのチキソ比は、1.0~3.0が好ましい。
本組成物が液状分散媒として水を含む場合、そのpHは、長期保管性を向上する観点から、8~10がより好ましい。かかる本組成物のpHは、pH調整剤(アミン、アンモニア、クエン酸等。)又はpH緩衝剤(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エチレンジアミン四酢酸、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等。)によって調整できる。
【0042】
本組成物は、F粒子と本無機粒子と、必要に応じて他の樹脂、他の無機粒子、液状分散媒、界面活性剤、シランカップリング剤、添加剤等を混合することで得られる。
本組成物は、F粒子と本無機粒子とを一括で混合して得てもよいし、別々に順次混合してもよいし、これらのマスターバッチを予め作成し、それと残りの成分を混合してもよい。混合の順は特に制限はなく、また混合の方法も一括混合でも複数回に分割して混合してもよい。
本組成物を得るための混合の装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー及びプラネタリーミキサー等のブレードを備えた撹拌装置、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル及びアジテーターミル等のメディアを備えた粉砕装置、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー、薄膜旋回型高速ミキサー、自転公転撹拌機及びV型ミキサー等の他の機構を備えた分散装置が挙げられる。
【0043】
液状分散媒を含む本組成物の好適な製造方法としては、F粒子と、本無機粒子と、液状分散媒の一部とを予め混練して混練物を得て、さらに前記混練物を残余の液状分散媒に添加して本組成物を得る製造方法が挙げられる。混練と添加に際して使用する液状分散媒は、同種の液状分散媒であってもよく、異種の液状分散媒であってもよい。他の樹脂、他の無機粒子、界面活性剤、シランカップリング剤、添加剤は、混練に際して混合してもよく、添加に際して混合してもよい。混練における混合は、プラネタリーミキサー又は自転公転撹拌機にて行うのが好ましい。
【0044】
混練により得られる混練物は、ペースト状(粘度が1000~100000mPa・sであるペースト等。)であってもよく、ウェットパウダー状(キャピログラフにより測定される粘度が10000~100000Pa・sであるウェットパウダー(練粉)等。)であってもよい。
なお、キャピログラフにより測定される粘度とは、キャピラリー長が10mm、キャピラリー半径が1mmのキャピラリーを用いて、炉体径を9.55mm、ロードセル容量を2tとし、温度を25℃、剪断速度剪断速度を1s-1として測定される値である。
【0045】
本組成物を押出等の成形方法に供すれば、シート等の成形物を得られる。
本組成物が液状分散媒を含み液状である場合、本組成物をシート状に押出するのが好ましい。押出して得たシートは、さらにプレス成形、カレンダー成形等をして流延してもよい。シートは、さらに加熱して、液状分散媒を除去し、Fポリマーを焼成するのが好ましい。
本組成物が粉状である場合、本組成物を溶融押出成形するのが好ましい。押出成形は単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等を用いて行うことができる。
また、本組成物を射出成形して成形物を得てもよい。
成形物の形成に際しては、本組成物を直接、溶融押出成形又は射出成形してもよく、本組成物を溶融混練してペレットとし、ペレットを溶融押出成形又は射出成形してシート等の成形物を得てもよい。
【0046】
本組成物から得られるシートの厚さは、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。シートの厚さは200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
シートの線膨張係数は、100ppm/℃以下が好ましく、80ppm/℃以下がより好ましい。シートの線膨張係数の下限は、30ppm/℃である。なお、線膨張係数は、JIS C 6471:1995に規定される測定方法に従って、25℃以上260℃以下の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した値を意味する。
シートの面内方向における熱伝導率は、1.0W/m・K以上が好ましく、3.0W/m・K以上がより好ましい。シート熱伝導率の上限は、20W/m・Kである。
【0047】
かかるシートを基材に積層すれば積層体を形成できる。積層体の製造方法としては、前記押出機として共押出機を用い、基材の原料とともに本組成物を押出成形する方法、前記基材上に本組成物を押出成形する方法、シートと前記基材とを熱圧着する方法等が挙げられる。
基材としては、金属基板(銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等)、耐熱性樹脂フィルム(ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、テトラフルオロエチレン系ポリマー等の耐熱性樹脂フィルム)、プリプレグ基板(繊維強化樹脂基板の前駆体)、セラミックス基板(炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス基板)、ガラス基板が挙げられる。
【0048】
基材の形状としては、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられる。また、基材の形状は、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
基材の表面の十点平均粗さは、0.01~0.05μmが好ましい。
基材の表面は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよく、プラズマ処理されていてもよい。かかるシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等の官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。
シートと基材との剥離強度は、2kN/m以上が好ましく、2.5kN/m以上がより好ましい。上記剥離強度は、10kN/m以下が好ましい。
【0049】
本組成物を基材の表面に配置し、Fポリマーと本無機粒子とを含むポリマー層を形成すれば、基材で構成される基材層とポリマー層とを有する積層体を得られる。
ポリマー層は、液状分散媒を含む本組成物を基材の表面に配置し、加熱して分散媒を除去し、さらに加熱してFポリマーを焼成して形成するのが好ましい。
基材としては、上述のシートと積層できる基材と同様のものが挙げられ、その好適態様も同様である。
【0050】
本組成物の配置の方法としては、塗布法、液滴吐出法、浸漬法が挙げられ、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、ダイコート法又はスプレー法が好ましい。
液状分散媒の除去に際する加熱は、100~200℃にて、0.1~30分間で行うのが好ましい。この際の加熱において液状分散媒は、完全に除去する必要はなく、F粒子と本無機粒子とのパッキングにより形成される層が自立膜を維持できる程度まで除去すればよい。また、加熱に際しては、空気を吹き付け、風乾によって液状分散媒の除去を促してもよい。
Fポリマーの焼成に際する加熱は、Fポリマーの焼成温度以上の温度にて行うのが好ましく、360~400℃にて、0.1~30分間行うのがより好ましい。
それぞれの加熱における加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。装置における熱源は、接触式の熱源(熱風、熱板等)であってもよく、非接触式の熱源(赤外線等)であってもよい。
また、それぞれの加熱は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
また、それぞれの加熱における雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
【0051】
ポリマー層は、本組成物の配置、加熱の工程を経て形成される。これら工程は1回ずつ行ってもよく、2回以上繰り返してもよい。例えば、基材の表面に本組成物を配置し加熱してポリマー層を形成し、さらに前記ポリマー層の表面に本組成物を配置し加熱して2層目のポリマー層を形成してもよい。また、基材の表面に本組成物を配置し加熱して液状分散媒を除去した段階で、さらにその表面に本組成物を配置し加熱してポリマー層を形成してもよい。
本組成物は、基材の一方の表面にのみ配置してもよく、基材の両面に配置してもよい。前者の場合、基材層と、かかる基材層の片方の表面にポリマー層を有する積層体が得られ、後者の場合、基材層と、かかる基材層の両方の表面にポリマー層を有する積層体が得られる。
【0052】
積層体の好適な具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にポリマー層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にポリマー層を有する多層フィルムが挙げられる。
ポリマー層の厚さ、誘電率、誘電正接、線膨張係数、面内方向における熱伝導率、ポリマー層と基材層との剥離強度の好適範囲は、上述の本組成物から得られるシートにおける、厚さ、誘電率、誘電正接、線膨張係数、面内方向における熱伝導率、シートと基材との剥離強度の好適範囲と同様である。
【0053】
本組成物は、絶縁性、耐熱性、対腐食性、耐薬品性、耐水性、耐衝撃性、熱伝導性を付与するための材料として有用である。
本組成物は、具体的には、プリント配線板、熱インターフェース材、パワーモジュール用基板、モーター等の動力装置で使用されるコイル、車載エンジン、熱交換器、バイアル瓶、注射筒(シリンジ)、アンプル、医療用ワイヤー、リチウムイオン電池等の二次電池、リチウム電池等の一次電池、ラジカル電池、太陽電池、燃料電池、リチウムイオンキャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、キャパシタ、コンデンサ(アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等)、エレクトロクロミック素子、電気化学スイッチング素子、電極のバインダー、電極のセパレーター、電極(正極、負極)に使用できる。
本組成物は部品を接着する接着剤としても有用である。具体的には、本組成物は、セラミックス部品の接着、金属部品の接着、半導体素子やモジュール部品の基板におけるICチップや抵抗、コンデンサ等の電子部品の接着、回路基板と放熱板の接着、LEDチップの基板への接着に使用できる。
また、本組成物は、導電性が要求される用途、例えばプリンテッド・エレクトロニクスの分野においても好適に使用できる。具体的には、プリント基板、センサー電極等における通電素子の製造に使用できる。
【0054】
本組成物から形成される成形物、シート及び積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、放熱部品、塗料、化粧品等として有用である。
具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気自動車等のモーター等に使用されるエナメル線被覆材、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、石油輸送ホース、水素タンク、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、ヨー軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、ブッシュ、シール、スラストワッシャ、ウェアリング、ピストン、スライドスイッチ、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、テンションロープ、ウェアパッド、ウェアストリップ、チューブランプ、試験ソケット、ウェハーガイド、遠心ポンプの摩耗部品、薬品及び水供給ポンプ、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ラケットのガット、ダイス、便器、コンテナ被覆材、パワーデバイス用実装放熱基板、無線通信デバイスの放熱部材、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPU、放熱フィン、金属放熱板、風車や風力発電設備や航空機等のブレード、パソコンやディスプレイの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、低酸素下で加熱処理する加工機や真空オーブン、プラズマ処理装置などのシール材、スパッタや各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品、電磁波シールドとして有用である。
【0055】
本組成物から形成される成形物、シート及び積層体は、特に、LEDヘッドランプ、パワー・コントロール・ユニット又はエレクトリック・コントロール・ユニット等のカーエレクトロニクス用フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等の電子基板材料の、放熱シートや放熱基板、自動車向けの放熱基板として有用である。
放熱部材として、本組成物から形成される成形物、シート及び積層体を使用するに際しては、成形物、シート又は積層体を対象とする基板に直接貼合してもよく、シリコーン系粘着層等の粘着層を介して対象とする基板に貼合してもよい。
【実施例0056】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
F粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)の粒子(D50:2.1μm、非中空状)
[疎水性の無機粒子]
無機粒子1:板状の窒化ホウ素粒子(6方晶系、平均粒子径(D50)11μm)
[カップリング剤]
カップリング剤1:「X-12-1214A」(商品名、信越化学工業株式会社製、N-(トリメトキシシリル-プロピル)-1H-ベンゾトリアゾール-1-カルボジアミド;トリメトキシシリル基とベンゾトリアゾール基が、カルボジイミド結合を含む連結基を介して結合している化合物)
カップリング剤2:「X-12-984S」(商品名、信越化学工業株式会社製、トリエトキシシリル基とグリシジルエーテル基が、ウレタン結合を含む連結基を介して結合している化合物)
カップリング剤3:「KBM-904」(商品名、信越化学工業株式会社製、3-グリコキシドプロピルトリメトキシシラン)
[液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0057】
2.組成物の製造例
[例1]
カップリング剤1を含むメタノール溶液と無機粒子1を、80℃にて加熱還流させながら、プラネタリーミキサーを用いて5時間剪断処理した。内容物を濾過後、濾物を乾燥して、カップリング剤1で表面処理された無機粒子1(以下、「BN-T11」と称する。)を得た。
上記で得たBN-T11(22質量部)、F粒子1(11質量部)及びNMP(20質量部)を自転公転撹拌機中で混練してウェットパウダー状の練粉1を得、さらにNMP(47質量部)を添加して撹拌し、分散液である組成物1を得た。
【0058】
[例2]
カップリング剤1を含むメタノール溶液を、カップリング剤2を含むメタノール溶液に変更した以外は例1と同様にして、カップリング剤2で表面処理された無機粒子1(以下、「BN-T21」と称する。)を得、さらに例1と同様にして、BN-T21とF粒子1とNMPを含有する分散液である組成物2を得た。
[例3]
カップリング剤1を含むメタノール溶液を、カップリング剤3を含むメタノール溶液に変更した以外は例1と同様にして、カップリング剤3で表面処理された無機粒子1(以下、「BN-T31」と称する。)を得、さらに例1と同様にして、BN-T31とF粒子1とNMPを含有する分散液である組成物3を得た。
【0059】
[例4]
無機粒子1(22質量部)、F粒子1(11質量部)及びNMP(20質量部)を自転公転撹拌機中で混練してウェットパウダー状の練粉を得、さらにNMP(47質量部)を添加して撹拌し、分散液である組成物4を得た。
[例5]
F粒子1(15質量部)及びNMP(25質量部)を自転公転撹拌機中で混練してウェットパウダー状の練粉を得、さらにNMP(60質量部)を添加して撹拌し、分散液である組成物5を得た。
【0060】
3.組成物の分散安定性の評価
それぞれの組成物を容器中に25℃にて保管保存後、その分散性を目視にて確認し、下記の基準に従って分散安定性を評価した。
[評価基準]
〇:凝集物が視認されない。
△:容器底部にも凝集物が沈殿しているのが視認されるが、再分散は容易である。
×:容器底部にも凝集物が沈殿しているのが視認され、再分散が困難である。
なお、組成物3については、その分散安定性の観点から、次に述べる積層体の製造及び評価を未実施とした。
【0061】
4.積層体の製造例
長尺の銅箔の表面に、バーコーターを用いて組成物1を塗布し、ウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成された銅箔を、110℃にて5分間、乾燥炉に通し乾燥させてドライ膜を形成した。その後、ドライ膜を有する銅箔を、窒素オーブン中で、380℃にて3分間、加熱した。これにより、銅箔と、その表面に、F粒子1の溶融焼成物及びBN-T11を含む、厚さが50μmのポリマー層とを有する積層体1を製造した。
積層体1と同様にして、組成物2、4及び5から、積層体2、4及び5を製造した。
【0062】
5.積層体の評価
5-1.積層体の熱伝導性の評価
それぞれの積層体について、積層体の銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングにより除去して単独のポリマー層であるシートを作製した。作成したシートの中心部から10mm×10mm角の試験片を切り出し、その面内方向における熱伝導率(W/m・K)を測定し、下記の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:2W/m・K超
△:1W/m・K以上2W/m・K以下
×:1W/m・K未満
【0063】
5-2.積層体の剥離強度の評価
それぞれの積層体から矩形状(長さ100mm、幅10mm)の試験片を切り出した。そして、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分、長さ方向の片端から試験片に対して90°で、銅箔とポリマー層とを剥離させた。
そして、この際にかかる最大荷重を剥離強度(N/m)として測定し、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
○:2kN/m以上
×:2kN/m未満
以上の結果をまとめて表1に示す。
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記結果から明らかなように、本組成物は分散安定性に優れ、また本組成物から形成した積層体はFポリマー及び無機粒子の物性を高度に発現し、基材との密着性、熱伝導性に優れており、放熱性に優れる。