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特開2023-114645量子ゲート装置、量子計算システム、及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114645
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】量子ゲート装置、量子計算システム、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 3/00 20060101AFI20230810BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
G02F3/00
G06E3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017074
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 類
(72)【発明者】
【氏名】徳永 裕己
(72)【発明者】
【氏名】青木 隆朗
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102BA11
2K102BA31
2K102BB10
2K102BC02
2K102CA00
2K102DB01
2K102DC07
2K102EB02
2K102EB12
(57)【要約】
【課題】3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算方式のエラーを低減する。
【解決手段】第1偏光ビームスプリッタと、前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第1共振器と、前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第1ミラーと、第2偏光ビームスプリッタと、前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第2共振器と、前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第2ミラーと、を備え、前記第1偏光ビームスプリッタと前記第2偏光ビームスプリッタとが接続されている量子ゲート装置において、前記第1ミラーの反射率と前記第2ミラーの反射率、及び、前記第1ミラーの位置と前記第2ミラーの位置を、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算におけるエラーを低減するように設定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1偏光ビームスプリッタと、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第1共振器と、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第1ミラーと、
第2偏光ビームスプリッタと、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第2共振器と、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第2ミラーと、
を備え、前記第1偏光ビームスプリッタと前記第2偏光ビームスプリッタとが導波路を用いて接続されている量子ゲート装置であって、
前記第1ミラーの反射率と前記第2ミラーの反射率、及び、前記第1ミラーの位置と前記第2ミラーの位置が、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算におけるエラーを低減するように設定されている
量子ゲート装置。
【請求項2】
前記第1ミラーの反射率は、前記第1共振器における光子損失と、前記第1ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定された反射率であり、
前記第2ミラーの反射率は、前記第2共振器における光子損失と、前記第2ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定された反射率である
請求項1に記載の量子ゲート装置。
【請求項3】
前記第1ミラーの位置は、前記第1共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第1共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置であり、
前記第2ミラーの位置は、前記第2共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第2共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置である
請求項1又は2に記載の量子ゲート装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の量子ゲート装置を複数台備える量子プロセッサと、前記量子プロセッサにおける3次元クラスター状態を構成する各原子に対する測定を行う制御装置と
を備える量子計算システム。
【請求項5】
第1偏光ビームスプリッタと、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第1共振器と、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第1ミラーと、
第2偏光ビームスプリッタと、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第2共振器と、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第2ミラーと、
を備え、前記第1偏光ビームスプリッタと前記第2偏光ビームスプリッタとが導波路を用いて接続されている量子ゲート装置の製造方法であって、
前記第1ミラーの反射率を、前記第1共振器における光子損失と、前記第1ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定し、
前記第2ミラーの反射率を、前記第2共振器における光子損失と、前記第2ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定し、
前記第1ミラーを、前記第1共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第1共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置に配置し、
前記第2ミラーを、前記第2共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第2共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置に配置する
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器QEDに基づく量子ゲート装置に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
近年活発に研究が進められている、量子力学を用いた新しい情報処理では、現在の計算機の限界を超えた超高速計算が期待される。その量子情報処理の実現に向けた喫緊の課題の1つとして、量子ビットの相互作用を利用した量子ゲートの実装が挙げられる。
【0003】
その課題に対し、共振器中に閉じ込めた光と原子を1光子レベルで電磁気的に相互作用させることができる共振器量子電磁力学(QED)は、光ビットと原子ビットの間の相互作用を決定論的に操作するための手法として注目されている。
【0004】
非特許文献1には、光ビットと原子ビットの間の相互作用を利用した、光ビットと原子ビットの間の制御Zゲートが開示されている。また、非特許文献2には、この制御Zゲートを2回実行することで実現した、光子を媒介とした2つの原子ビット間の制御Zゲートが開示されている
また、非特許文献4には、上記原子ビット間の制御Zゲートにより、連接符号と呼ばれる誤り耐性量子計算方式(非特許文献3参照)を構築することを想定し、その計算エラーを最小に抑える共振器QEDシステムの設計が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L.-M. Duan and J. Kimble, "Scalable photonic quantum computation through cavity-assisted interactions", Phys. Rev. Lett. 92, 127902 (2004).
【非特許文献2】L.-M. Duan, B. Wang, and H. J. Kimble, "Robust quantum gates on neutral atoms with cavity-assisted photon scattering", Phys. Rev. A 72, 032333 (2005).
【非特許文献3】Hayato Goto and Kouichi Ichimura, "Fault-tolerant quantum computation with probabilistic two-qubit gates", Phys. Rev. A 80, 040303(R) (2009).
【非特許文献4】Hayato Goto and Kouichi Ichimura, "Condition for fault-tolerant quantum computation with a cavity-QED scheme", Phys. Rev. A 82, 032311 (2010).
【非特許文献5】K. Fujii and Y. Tokunaga, "Fault-tolerant topological one-way quantum computation with probabilistic two-qubit gates" Phys. Rev. Lett. 105, 250503 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、量子ビットの3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算方式(非特許文献5参照)が、光と原子を利用した量子計算と実装の観点で相性が良い可能性が指摘されている。しかし、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算方式に対する最適な共振器システムの設計が明らかになっていない。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算方式のエラーを低減するための量子ゲート装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術によれば、第1偏光ビームスプリッタと、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第1共振器と、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第1ミラーと、
第2偏光ビームスプリッタと、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第2共振器と、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第2ミラーと、
を備え、前記第1偏光ビームスプリッタと前記第2偏光ビームスプリッタとが導波路を用いて接続されている量子ゲート装置であって、
前記第1ミラーの反射率と前記第2ミラーの反射率、及び、前記第1ミラーの位置と前記第2ミラーの位置が、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算におけるエラーを低減するように設定されている
量子ゲート装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算方式のエラーを低減するための量子ゲート装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態における量子計算システムの構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における量子ゲート装置の構成例を示す図である。
図3】共振器内の原子の状態を説明するための図である。
図4】ミラーの位置及び反射率を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0012】
(実施の形態の概要)
非特許文献5に開示されている3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算方式は、非特許文献4の連接符号方式に比べ、光子損失によるエラーに強い一方、光子損失以外の計算エラーに弱い。
【0013】
本実施の形態では、この特性に着目し、光子の生存確率を犠牲にする代わりに、光子損失以外のエラーを抑制する光学系の設計に基づく、2つの共振器を用いた量子ゲート装置について説明する。具体的には、量子ゲート装置により、制御Zゲートを構築するのに必要な共振器周辺のミラーの反射率を意図的に落とすことで、光子損失以外のエラーを抑制することとしている。また、光子損失以外の計算エラーをより小さくするために、ミラーの位置の最適化も同時に実行している。
【0014】
(システムの全体構成例)
図1に、本実施の形態における量子計算システム300の構成例を示す。「量子計算システム」を「量子コンピュータ」と呼んでもよい。
【0015】
図1に示すとおり、量子計算システム300は、制御装置100と量子プロセッサ200を備える。制御装置100は、量子プロセッサ200に制御信号等を送信し、量子プロセッサ200から計算結果(測定結果)を取得することで、量子計算を行う。制御装置100は、例えば古典コンピュータにより実現できる。
【0016】
本実施の形態における量子プロセッサ200は、多数の原子ビット(原子量子ビットと呼んでもよい)を頂点として有する3次元クラスター状態を構成する。3次元クラスター状態は、辺と頂点からなる3次元のグラフの各頂点に原子ビットをある状態で置き、2つの頂点が辺で結ばれていたら、その2つの頂点に制御Zゲートを作用させることにより作られる。なお、制御Zゲートを制御位相ゲートと呼んでもよい。
【0017】
制御装置100が、上記の3次元クラスター状態の各原子ビットに対する測定を行うことにより測定型量子計算が行われる。
【0018】
本実施の形態では、量子プロセッサ200には、後述する量子ゲート装置が複数(多数)備えられる。1つの量子ゲート装置は、辺で接続される2つの頂点に相当する2つの原子ビットを有し、これら2つの原子ビット間に制御Zゲートを作用させる機能を持つ。
【0019】
(量子ゲート装置の構成例)
図2に、量子ゲート装置の構成例を示す。この量子ゲート装置の構成自体は、非特許文献2に開示されている既存技術である。
【0020】
図2に示すように、本実施の形態に係る量子ゲート装置は、共振器10、20、偏光ビームスプリッタ33、37、40、ミラーA34、ミラーB38、光サーキュレータ32、36、半波長板31、35、39、光子検出器41、42を備え、図示のように、これらの素子が導波路(例:光ファイバ)を用いて接続されている。
【0021】
共振器とは、ミラー等の損失の少ない光学媒質を用いて、光(電磁場)を狭い空間に閉じ込める装置である。光を波長程度の大きさの共振器に閉じ込めると、波長が連続的なモードから離散的になり、そのうち1つのモードと原子を相互作用させることができる。このような系の量子力学は、共振器量子電磁力学(共振器QED)と呼ばれる。
【0022】
共振器10と共振器20は同じ構成であり、二枚の高反射率ミラーを向かい合わせた構成である。各共振器内部には、原子ビットとしての単一原子がトラップされている。図2に示すとおり、共振器10内部には原子ビット1があり、共振器20内部には原子ビット2がある。
【0023】
共振器10を構成するミラー11とミラー12のうち、ミラー12には僅かな透過性を持たせてあり、ミラー12を介して光子を共振器10に入射し、光子を共振器10から反射(出力)させることができる。共振器20についても同様である。
【0024】
偏光ビームスプリッタ33、37、40は、入力側のポートから入力された光子パルスをH偏光とV偏光という2種類の直交する偏光状態に分割して出力する。図2に示すように、偏光ビームスプリッタ33のV偏光の出力側にミラーA34が備えられ、偏光ビームスプリッタ33のH偏光の出力側に共振器10が備えられる。共振器20についても同様である。
【0025】
光路上に備えられている各半波長板は、光子パルスの偏光状態に対して、アダマール変換を行う。
【0026】
(量子ゲート装置の動作例)
光子パルスが、半波長板31を経由して、偏光ビームスプリッタ33に届く。光子パルスの偏光状態がH偏光である場合、光子パルスは偏光ビームスプリッタ33から共振器10に入射し、共振器10から反射(出力)され、共振器20に向けて進む。共振器10から反射される光子パルスの状態は、共振器10における原子ビット1の状態に応じて異なる。
【0027】
偏光ビームスプリッタ33に入力される光子パルスの偏光状態がV偏光である場合、光子パルスは、偏光ビームスプリッタ33により反射してミラーA34へ向けて進み、ミラーA34で反射して、偏光ビームスプリッタ33に届き、偏光ビームスプリッタ33で反射して、共振器20に向かって進む。
【0028】
同様にして、光子パルスが、半波長板35を経由して、偏光ビームスプリッタ37に届く。光子パルスの偏光状態がH偏光である場合、光子パルスは共振器20に入射し、共振器20から反射(出力)され、偏光ビームスプリッタ40に向けて進む。共振器20から反射される光子パルスの状態は、共振器20における原子ビット2の状態に応じて異なる。
【0029】
偏光ビームスプリッタ37に入力される光子パルスの偏光状態がV偏光である場合、光子パルスは、偏光ビームスプリッタ37により反射してミラーB38へ向けて進み、ミラーB38で反射して、偏光ビームスプリッタ37に届き、偏光ビームスプリッタ37で反射して、偏光ビームスプリッタ40に向けて進む。
【0030】
上記のようにして光子パルスを共振器10と共振器20に連続的に入射し、それぞれで原子と光子とを相互作用させる。
【0031】
図3は、共振器10の中の原子ビット1の状態を説明するための図である。共振器20の中の原子ビット2も同様である。図3に示すように、原子ビットとして使用する原子は3準位系となっており、|0〉と|1〉の準位を量子ビットの2準位として利用する。ここで使用する原子として、|1〉-|e〉準位間だけ、入射する光子と共鳴するような原子を用いる。
【0032】
光子については、前述したH偏光とV偏光の2種類の直交する偏光状態をそれぞれ、量子ビットの|0〉と|1〉として用いる。
【0033】
各共振器における光子と原子の状態について説明する。以下の説明は、共振器10と共振器20のいずれにも該当する説明である。
【0034】
共振器に入射する光子ビット(光子量子ビットと呼んでもよい)と、共振器内の原子ビット(原子量子ビットと呼んでもよい)の初期状態がそれぞれ|ψ〉=p|0〉+p|1〉、|ψ〉=a|0〉+a|1〉であった場合、上記の選択的な相互作用により、光子と原子を含む全体の最終的な状態は、|ψ〉=p|0〉|0〉+p|0〉|1〉+p|1〉|0〉-p|1〉|1〉となり、光子と原子がともに|1〉のときだけ符号が反転する。なお、添え字のpは光子を表し、添え字のaは原子を表す。
【0035】
図2に示す量子ゲート装置において、光子1つと原子2つの間でこの操作を連続で2回行い、最後に光子の検出結果に応じてレーザーで原子ビット1の状態を適切に操作すると、原子ビット1も原子ビット2も|1〉の状態にあるときだけ符号が反転する制御Zゲートを実現することが可能である。
【0036】
(エラーを抑制する光学系について)
上記の制御Zゲートの動作は、エラーのない理想的な場合の動作である。しかし、実際には共振器系の不完全性によりエラーが存在する。その中で主要なエラーは、下記の3種類のエラーである:
(i)光子損失;
(ii)光子と原子の状態が|0〉|0〉、|0〉|1〉、|1〉|0〉、|1〉|1〉のうちのどれであるかで光子の損失確率が異なることに起因するエラー;
(iii)光子と原子の上記4状態によって光子が共振器から反射される速度が異なるために生じるエラー。
【0037】
先述したように、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算は、(i)の光子損失に強い耐性がある一方、(ii)と(iii)のエラーには脆弱である。この課題に対して本実施の形態では、エラー(ii)を最小化する外部ミラーA、Bの反射率Rと、エラー(iii)を最小化するミラーの位置Δxmirとを、下記の式により算出した値とする。なお、ミラーAとミラーBとで反射率R及び位置Δxmirは同じである。ただし、共振器10と共振器20のパラメータの相違等に応じて、ミラーAとミラーBとで、計算結果である反射率R及び位置Δxmirが異なっていてもよい。ミラーAとミラーBをそれぞれ「外部ミラー」と呼んでもよい。
【0038】
【数1】
【0039】
【数2】
【0040】
【数3】
ここで、ミラーの位置Δxmirは、図4に示すように、偏光ビームスプリッタの反射面と共振器における光子が入射する面との間の距離1と、偏光ビームスプリッタの反射面と外部ミラーの反射面との間の距離2との差分である。
【0041】
反射率R及び位置Δxmirを算出するための上記の式において、gは光子-原子間相互作用強度であり、γは原子の自然放出レートであり、κintは共振器を構成するミラーの吸収・散乱による光子の損失レートであり、κextは共振器と外部導波路との間の結合レートであり、Cint≡g2/2γκintである。
【0042】
反射率Rに関しては、共振器中の原子が状態|0〉と|1〉のどちらの状態でも、共振器における光子の損失が同じになるようなκextをまず決定し、さらに共振器中での光子損失と外部ミラーでの光子損失が等しくなるように反射率Rを決定している。これにより、エラー(ii)を最小化することができる。
【0043】
一方、外部ミラーの位置Δxmirは、共振器内の原子が状態|0〉にあるときに共振器から反射される光子パルスの遅延に相当する距離τと、共振器内の原子が状態|1〉にあるときに共振器から反射される光子パルスの遅延に相当する距離τとの平均としている。上記の「共振器から反射される光子パルスの遅延」とは、光子パルスが共振器に入射してから、光子パルスが共振器から出力されるまでの時間である。
【0044】
上記の位置Δxmirに外部ミラーを配置することで、エラー(iii)を最小化することができる。
【0045】
すなわち、上記のように光学系を設定することにより、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算において特に抑制すべきエラーであるエラー(ii)、(iii)がともに最小化される。なお、本明細書において、「最小化」を、「抑制」あるいは「低減」と言い換えてもよい。
【0046】
このような光学系を持つ量子ゲート装置は、上述した式により計算した反射率Rを持つミラーA、Bが、位置Δxmirに配置されるように、図2に示す各素子を導波路で接続することにより製造することができる。
【0047】
(実施の形態の効果)
以上説明したように、本実施の形態における量子ゲート装置により、共振器QEDに基づく3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算の苦手とするタイプのエラーを最小化することができる。
【0048】
(付記)
本明細書には、少なくとも下記各項の量子ゲート装置、量子計算システム、及び製造方法が開示されている。
(第1項)
第1偏光ビームスプリッタと、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第1共振器と、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第1ミラーと、
第2偏光ビームスプリッタと、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第2共振器と、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第2ミラーと、
を備え、前記第1偏光ビームスプリッタと前記第2偏光ビームスプリッタとが導波路を用いて接続されている量子ゲート装置であって、
前記第1ミラーの反射率と前記第2ミラーの反射率、及び、前記第1ミラーの位置と前記第2ミラーの位置が、3次元クラスター状態を利用した測定型量子計算におけるエラーを低減するように設定されている
量子ゲート装置。
(第2項)
前記第1ミラーの反射率は、前記第1共振器における光子損失と、前記第1ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定された反射率であり、
前記第2ミラーの反射率は、前記第2共振器における光子損失と、前記第2ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定された反射率である
第1項に記載の量子ゲート装置。
(第3項)
前記第1ミラーの位置は、前記第1共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第1共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置であり、
前記第2ミラーの位置は、前記第2共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第2共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置である
第1項又は第2項に記載の量子ゲート装置。
(第4項)
第1項ないし第3項のうちいずれか1項に記載の量子ゲート装置を複数台備える量子プロセッサと、前記量子プロセッサにおける3次元クラスター状態を構成する各原子に対する測定を行う制御装置と
を備える量子計算システム。
(第5項)
第1偏光ビームスプリッタと、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第1共振器と、
前記第1偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第1ミラーと、
第2偏光ビームスプリッタと、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第1の偏光を受信する側に備えられた第2共振器と、
前記第2偏光ビームスプリッタから出力される第2の偏光を受信する側に備えられた第2ミラーと、
を備え、前記第1偏光ビームスプリッタと前記第2偏光ビームスプリッタとが導波路を用いて接続されている量子ゲート装置の製造方法であって、
前記第1ミラーの反射率を、前記第1共振器における光子損失と、前記第1ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定し、
前記第2ミラーの反射率を、前記第2共振器における光子損失と、前記第2ミラーでの光子損失とが等しくなるように決定し、
前記第1ミラーを、前記第1共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第1共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第1共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置に配置し、
前記第2ミラーを、前記第2共振器内の原子が第1の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離と、前記第2共振器内の原子が第2の状態にあるときに、前記第2共振器に入射した光子が、入射してから反射されるまでの遅延に相当する距離との平均に基づき決定した位置に配置する
製造方法。
【0049】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
100 制御装置
200 量子プロセッサ
300 量子計算システム
10、20 共振器
33、37、40 偏光ビームスプリッタ
34 ミラーA
38 ミラーB
32、36 光サーキュレータ
31、35、39 半波長板
41、42 光子検出器
図1
図2
図3
図4