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特開2023-114929炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114929
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/12 20060101AFI20230810BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20230810BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652C
H01L29/78 658A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017530
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】松永 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正和
(72)【発明者】
【氏名】原田 信介
(57)【要約】
【課題】閾値を高いまま、チャネル移動度を上げ、チャネルリークを抑えることができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第1導電型の炭化珪素半導体基板1と、第1導電型の第1半導体層2と、第2導電型の第1半導体領域3と、第1導電型の第2半導体領域4と、トレンチ5と、ゲート絶縁膜7と、ゲート電極8と、トレンチ5の側壁のゲート絶縁膜7と第1半導体領域3との間に設けられた第1導電型の第3半導体領域19と、第1半導体領域3と第3半導体領域19との間に設けられた第1半導体領域3より高不純物濃度の第2導電型の第4半導体領域17とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素半導体基板と、
前記炭化珪素半導体基板のおもて面に設けられた、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に設けられた第2導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1導電型の第2半導体領域と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチと、
前記トレンチの内部に、前記トレンチの底部および側壁に沿って設けられたゲート絶縁膜と、
前記トレンチの内部の、前記ゲート絶縁膜の内側に設けられたゲート電極と、
前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜と前記第1半導体領域との間に設けられた第1導電型の第3半導体領域と、
前記第1半導体領域と前記第3半導体領域との間に設けられた前記第1半導体領域より高不純物濃度の第2導電型の第4半導体領域と、
を備えることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第3半導体領域の、前記トレンチが並ぶ方向の幅は、0nmより大きく50nm以下であり、
前記第4半導体領域の、前記トレンチが並ぶ方向の幅は、10nmより大きく200nm以下であり、
前記第1半導体領域は、前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜から100nm以上離れていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記第4半導体領域の不純物濃度は、1×1018/cm3以上であり、
前記第1半導体領域の不純物濃度は、5×1016/cm3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第1半導体領域および第1導電型の第3半導体領域を形成する第2工程と、
前記第1半導体領域の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第2半導体領域を形成する第3工程と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第4工程と、
前記トレンチの側壁から斜めに不純物を注入することで、前記第1半導体領域より高不純物濃度の第2導電型の第4半導体領域を形成する第5工程と、
前記トレンチの内部に、前記トレンチの底部および側壁に沿ってゲート絶縁膜を形成する第6工程と、
前記トレンチの内部の、前記ゲート絶縁膜の内側にゲート電極を形成する第7工程と、
を含み、
前記第2工程では、前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜と前記第1半導体領域との間に前記第3半導体領域が形成されるように不純物を注入し、
前記第5工程では、前記第1半導体領域と前記第3半導体領域との間に前記第4半導体領域を形成することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に代わる次世代の半導体材料として期待されている。炭化珪素を半導体材料に用いた半導体素子(以下、炭化珪素半導体装置とする)は、シリコンを半導体材料に用いた従来の半導体素子と比較して、オン状態における素子の抵抗を数百分の1に低減可能であることや、より高温(200℃以上)の環境下で使用可能なこと等、様々な利点がある。これは、炭化珪素のバンドギャップがシリコンに対して3倍程度大きく、シリコンよりも絶縁破壊電界強度が1桁近く大きいという材料自体の特長による。
【0003】
炭化珪素半導体装置としては、現在までに、ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)、プレーナゲート構造やトレンチゲート構造の縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)が製品化されている。
【0004】
プレーナゲート構造は、半導体基板のおもて面上に平板状にMOSゲートを設けたMOSゲート構造である。トレンチゲート構造は、半導体基板(半導体チップ)のおもて面に形成したトレンチ内にMOSゲートを埋め込んだMOSゲート構造であり、トレンチの側壁に沿って半導体基板のおもて面と直交する方向にチャネル(反転層)が形成される。このため、半導体基板のおもて面に沿ってチャネルが形成されるプレーナゲート構造と比べて、単位面積当たりの単位セル(素子の構成単位)密度を増やすことができ、単位面積当たりの電流密度を増やすことができるため、コスト面で有利である。
【0005】
従来の炭化珪素半導体装置の構造について、トレンチ型SiC-MOSFETを例に説明する。図8は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図8には、オン状態のときに電流が流れる活性領域に配置される単位セル(素子の機能単位)構造を示す。図8に示すように、従来の半導体装置200は、n+型炭化珪素半導体基板101のおもて面にn型ドリフト層102が堆積される。n型ドリフト層102の第1主面側にMOSゲート構造を備える。MOSゲート構造は、p型ベース領域103、n+型ソース領域104、p+型コンタクト領域114、トレンチ105、ゲート絶縁膜107およびゲート電極108からなる。n+型ソース領域104およびp+型コンタクト領域114は、p型ベース領域103の内部に選択的に設けられている。
【0006】
トレンチ105は、深さ方向にn+型ソース領域104およびp型ベース領域103を貫通してn型ドリフト層102に達する。ゲート電極108は、トレンチ105の内部に設けられている。ゲート電極108は、トレンチ105の底面および側壁に設けられたゲート絶縁膜107を挟んでp型ベース領域103およびn+型ソース領域104に対向する。n型ドリフト層102の表面層には、トレンチ105間に第1p型領域115が選択的に設けられている。また、n型ドリフト層102内には、トレンチ105の底面全体を覆うように第2p型ベース領域116が選択的に設けられている。
【0007】
従来の半導体装置200は、p型ベース領域103をある程度の高濃度にする、または、全面チャネルインプラを行うことにより、順バイアス、逆バイアス時のソース-ドレイン間リークを抑えている。さらに、ドレイン電圧が高くなった場合の短チャネル効果によるリーク電流の増加や飽和電流の増加を抑えるためにp型ベース領域103よりも高濃度のp型チャネルインプラ層117をチャネル近傍に設けている。また、高濃度のp型チャネルインプラ層117を、トレンチ105開口前に、全面チャネルインプラによって、チャネルの近傍に形成することによって、チャネル閾値を調整すると共に、p型ベース領域103を貫通するチャネルリークを抑えることができる。
【0008】
図9は、従来の炭化珪素半導体装置の他の構造を示す断面図である。図9に示すように、従来の半導体装置210において、ドレイン電圧が高くなった場合、トレンチ105の底への高電界を抑えるため、トレンチ105近傍に高濃度p型領域118を設けることが公知である(例えば、下記特許文献1参照)。p型ベース領域103とは別に高濃度p型領域118を斜めインプラによってトレンチ105近傍に形成することによって、ゲート絶縁膜107への高電界を抑えることができる。
【0009】
また、ゲート絶縁膜に隣接してp型領域を設け、p型領域により、n+型ソース領域がゲート絶縁膜に接触しなく、n型ソース抵抗領域とゲート絶縁膜との接触面積を小さくしている炭化珪素半導体装置が知られている(例えば、下記特許文献2参照)。また、トレンチ側壁から離して、かつトレンチ側壁と平行にp型ベース領域に第3p+型領域を設けることで、p型ベース領域の、チャネル領域を挟んでトレンチの側壁に対向する部分のp型不純物濃度を高くすることができ、MOSFETのオン時にドレイン側およびソース側からそれぞれp型ベース領域内に空乏層が伸びることを抑制することができる半導体装置が知られている(例えば、下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許6416143号公報
【特許文献2】特開2021-150405号公報
【特許文献3】特開2019-050352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の炭化珪素半導体装置において、p型ベース領域103がある程度、高濃度でないと逆バイアス時のソース-ドレイン間リークを抑えることができない。また、図9のように、高濃度p型領域118をチャネルの極近傍に配置するためには、トレンチ105に対して斜めインプラが必要となるが、斜めインプラでは、注入される不純物がチャネル近傍に留まるためp型ベース領域103全域を高濃度のp型領域とすることができない。
【0012】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、閾値を高いまま、チャネル移動度を上げ、チャネルリークを抑えることができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層が設けられる。前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第1半導体領域が設けられる。前記第1半導体領域の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第2半導体領域が設けられる。前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチが設けられる。前記トレンチの内部に、前記トレンチの底部および側壁に沿ってゲート絶縁膜が設けられる。前記トレンチの内部の、前記ゲート絶縁膜の内側にゲート電極が設けられる。前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜と前記第1半導体領域との間に第1導電型の第3半導体領域が設けられる。前記第1半導体領域と前記第3半導体領域との間に前記第1半導体領域より高不純物濃度の第2導電型の第4半導体領域が設けられる。
【0014】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第3半導体領域の、前記トレンチが並ぶ方向の幅は、0nmより大きく50nm以下であり、前記第4半導体領域の、前記トレンチが並ぶ方向の幅は、10nmより大きく200nm以下であり、前記第1半導体領域は、前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜から100nm以上離れていることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第4半導体領域の不純物濃度は、1×1018/cm3以上であり、前記第1半導体領域の不純物濃度は、5×1016/cm3以上であることを特徴とする。
【0016】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、 第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面に第2導電型の第1半導体領域および第1導電型の第3半導体領域を形成する第2工程を行う。次に、前記第1半導体領域の、前記炭化珪素半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第2半導体領域を形成する第3工程を行う。次に、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第4工程を行う。次に、前記トレンチの側壁から斜めに不純物を注入することで、前記第1半導体領域より高不純物濃度の第2導電型の第4半導体領域を形成する第5工程を行う。次に、前記トレンチの内部に、前記トレンチの底部および側壁に沿ってゲート絶縁膜を形成する第6工程を行う。次に、前記トレンチの内部の、前記ゲート絶縁膜の内側にゲート電極を形成する第7工程を行う。前記第2工程では、前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜と前記第1半導体領域との間に前記第3半導体領域が形成されるように不純物を注入する。前記第5工程では、前記第1半導体領域と前記第3半導体領域との間に前記第4半導体領域を形成する。
【0017】
上述した発明によれば、トレンチの側壁のゲート絶縁膜の極近傍の範囲は、n型領域となり、トレンチの側壁のゲート絶縁膜の近傍の範囲は、p型ベース領域より高不純物濃度のp型領域となり、p型ベース領域は、トレンチの側壁のゲート絶縁膜から100nm程度以上離れた領域に設けられ、p型ベース領域を高濃度p型としている。これにより、チャネルの電子移動度を落とさずに、閾値を上げて、かつ、リークを抑えることができる。このため、閾値を高いまま、チャネル移動度を上げられることで低オン抵抗にでき、閾値低下によるスイッチング時の誤動作を抑えながら、導通損低減が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、閾値を高いまま、チャネル移動度を上げ、チャネルリークを抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の耐圧波形を示すグラフである。
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置および従来の炭化珪素半導体装置の閾値電圧に対するオン抵抗を示すグラフである。
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その1)。
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その2)。
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その3)。
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その4)。
図8】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図9】従来の炭化珪素半導体装置の他の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。そして、同じまたは同等との記載は製造におけるばらつきを考慮して5%以内まで含むとするのがよい。
【0021】
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製(製造)された炭化珪素半導体装置について、トレンチ型MOSFET100を例に説明する。
【0022】
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図1に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置において、n+型炭化珪素半導体基板(第1導電型の炭化珪素半導体基板)1の第1主面側(おもて面)には、n型ドリフト層(第1導電型の第1半導体層)2が設けられている。n型ドリフト層2のn+型炭化珪素半導体基板1と反対側には、トレンチゲート構造のMOSゲート構造が設けられている。MOSゲート構造は、p型ベース領域(第2導電型の第1半導体領域)3、n+型ソース領域(第1導電型の第2半導体領域)4、トレンチ5、ゲート絶縁膜7およびゲート電極8からなる。p+型コンタクト領域5が設けられていてもよい。トレンチ5は、例えば、図1に示すように、ストライプ形状である。図1では、トレンチ型MOSFET100の主電流が流れる活性領域のみを示している。
【0023】
n型ドリフト層2の内部には、p型ベース領域3と離して第2p型領域16が選択的に設けられている。第2p型領域16は、トレンチ5の底部を囲むようにn型ドリフト層2の内部に埋め込まれていてもよく、ゲート絶縁膜7を挟んでゲート電極8に対向する。すなわち、第2p型領域16の内部にトレンチ5の底部が位置してもよい。第2p型領域16は、トレンチ5よりも幅が広い。第2p型領域16は、n型ドリフト層2にかかる電界を緩和する機能を有する。第2p型領域16は、例えばイオン注入によって形成された拡散領域であってもよい。
【0024】
トレンチ5間のn型ドリフト層2の表面層に、第1p型領域15が設けられている。第1p型領域15は、第2p型領域16と同じ深さまで設けられ、p型ベース領域3と同電位となっている。第1p型領域15は、第2p型領域16と同様に、n型ドリフト層2にかかる電界を緩和する機能を有する。
【0025】
第1p型領域15と第2p型領域16とを同電位にするため、第1p型領域15の一部を在延して、第1p型領域15と第2p型領域16を接続してもよい。p型ベース領域3は、n型ドリフト層2上に設けられている。p型ベース領域3は、n型ドリフト層2の表面層に例えばイオン注入によって形成された拡散領域である。
【0026】
実施の形態では、p型ベース領域3およびチャネルインプラ層17は、トレンチ5の側壁のゲート絶縁膜7と離れて設けられる。トレンチ5の側壁のゲート絶縁膜7とp型ベース領域3との間、ゲート絶縁膜7の極近傍にn型ドリフト層2と同じ不純物濃度のn型領域(第1導電型の第3半導体領域)19が、設けられている。n型領域19のトレンチ5が並ぶ方向の幅W1は、0nmより大きく50nm以下程度である。このため、トレンチ5の側壁のゲート絶縁膜7の極近傍W1の範囲は、n型領域となっている。これにより、電子がゲート絶縁膜7界面のみを走行しないことで、チャネル移動度の低下を防ぐことができる。トレンチ5の側壁がn型であり、その部分は電子が走行できるので、オン時に(蓄積層)チャネルになる。さらに、同等のゲート正バイアス時においてp型よりもチャネルを誘起させやすくなる。また、ゲート電位と界面近傍の高濃度チャネルインプラ層17によって界面付近のn型が空乏化するためチャネルが形成されず、n型であっても閾値が0V以下にならない(デプレッションでない)。
【0027】
また、n型領域19とp型ベース領域3との間、ゲート絶縁膜7の近傍にp型ベース領域3より高不純物濃度のチャネルインプラ層17(第2導電型の第4半導体領域)が、設けられている。チャネルインプラ層17のトレンチ5が並ぶ方向の幅W2は、10nmより大きく200nm以下程度である。このため、トレンチ5の側壁のゲート絶縁膜7の近傍W2の範囲は、p型ベース領域3より高不純物濃度のp型領域となっている。これにより、半導体装置の閾値を上げることができる。また、チャネルインプラ層17の不純物濃度は、例えば、1×1018/cm3以上である。
【0028】
また、p型ベース領域3は、トレンチ5の側壁のゲート絶縁膜7からW3(100nm程度)以上離れた領域に設けられ、p型ベース領域3を高濃度p型としている。これにより、p型ベース領域3の部分のリークを抑えることができる。p型ベース領域3の不純物濃度は、例えば、5×1016/cm3以上である。
【0029】
このような構造とすることで、実施の形態では、チャネルの電子移動度を落とさずに、閾値を上げて、かつ、リークを抑えることができる。このため、閾値を高いまま、チャネル移動度を上げられることで低オン抵抗にでき、閾値低下によるスイッチング時の誤動作を抑えながら、導通損低減が可能となる。
【0030】
+型ソース領域4は、p型ベース領域3の内部に選択的に設けられている。n+型ソース領域4は、エピタキシャル層であってもよいし、例えばイオン注入によって形成された拡散領域であってもよい。p+型コンタクト領域14が、p型ベース領域3の内部に選択的に設けられていてもよい。n+型ソース領域4は、ゲート絶縁膜7と接し、p+型コンタクト領域14は、ゲート絶縁膜7から離れた位置に設けられる。トレンチ5は、n+型ソース領域4およびp型ベース領域3を貫通してn型ドリフト層2に達する。
【0031】
ゲート電極8は、トレンチ5の底部および側壁に設けられたゲート絶縁膜7を挟んで第2p型領域16、p型ベース領域3、n+型ソース領域4、チャネルインプラ層17およびn型ドリフト層2に対向する。ゲート電極8のドレイン側の端部は、p型ベース領域3とn型ドリフト層2との間のpn接合よりもドレイン側に位置する。
【0032】
ソース電極(非表示)は、p型ベース領域3およびn+型ソース領域4に接し、図示省略する層間絶縁膜によってゲート電極8と電気的に絶縁されている。p+型コンタクト領域14が設けられている場合、ソース電極10は、p+型コンタクト領域14およびn+型ソース領域4に接する。
【0033】
+型炭化珪素半導体基板1の第2主面(裏面)には、裏面電極(不図示)となるドレイン電極が設けられている。裏面電極の表面には、ドレイン電極パッド(不図示)が設けられている。
【0034】
図2は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の耐圧波形を示すグラフである。図2において、横軸はドレイン電圧を示し、単位はVである。縦軸は、ドレイン電流を示し、単位はAである。図2では、p型ベース領域3の不純物濃度を2×1016/cm3~6×1016/cm3まで変化させたときの耐圧を示し、図2に示すように、不純物濃度が4×1016/cm3以上では、高耐圧を維持できている。
【0035】
図3は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置および従来の炭化珪素半導体装置の閾値電圧に対するオン抵抗を示すグラフである。図3において、横軸は閾値(Vth)を示し、単位はVである。縦軸は、オン抵抗(RonA)を示し、単位はmΩ/cm2である。図3に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置では、従来の炭化珪素半導体装置より、閾値を高く保ったまま、オン抵抗を下げることができる。
【0036】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図4図7は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【0037】
まず、n型の炭化珪素でできたn+型炭化珪素基板1を用意する。次に、n+型炭化珪素基板1のおもて面(第1主面)上に、n型の不純物、例えば窒素原子(N)をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n型ドリフト層(不図示)をエピタキシャル成長させる。
【0038】
次に、第1n型ドリフト層の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを、例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部にイオン注入し、下部第1p型ベース領域(不図示)および第2p型ベース領域16を形成する。次に、イオン注入用のマスクを除去する。次に、第1n型ドリフト層の表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第2n型ドリフト層(不図示)を形成する。
【0039】
次に、第2n型ドリフト層の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部にイオン注入し、上部第1p型ベース領域(不図示)を、下部第1p型ベース領域に重なるように形成する。上部第1p型ベース領域と下部第1p型ベース領域は連続した領域を形成し、第1p型ベース領域15となる。次に、イオン注入用のマスクを除去する。ここまでの状態が図4に記載される。
【0040】
次に、第2部n型ドリフト層の表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第3n型ドリフト層(不図示)を形成する。以降、第1n型ドリフト層と第2n型ドリフト層と第3型ドリフト層を合わせてn型ドリフト層2となる。
【0041】
次に、第3n型ドリフト層の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部にイオン注入し、第3n型ドリフト層の表面の一部にp型ベース領域3を選択的に形成する。ここでは、トレンチ5の側壁のゲート絶縁膜7とp型ベース領域3との間にn型の領域が残るように不純物を注入する。次に、イオン注入用のマスクを除去する。ここまでの状態が図5に記載される。
【0042】
次に、p型ベース領域3の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、ドライエッチングによってp型ベース領域3を貫通し、n型ドリフト層2に達するトレンチ5を形成する。トレンチ5の底部はn型ドリフト層2に形成された第2p型ベース領域16に達してもよい。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。トレンチ5の側壁のn型の領域がn型領域19となる。ここまでの状態が図6に記載される。
【0043】
次に、トレンチ5の側壁から斜めにアルミニウム等のp型の不純物をp型ベース領域3にイオン注入することで、チャネルインプラ層17を形成する。ここまでの状態が図7に記載される。
【0044】
次に、p型ベース領域3の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部に窒素(N)、リン(P)等のn型の不純物をイオン注入し、p型ベース領域3の表面の一部にn+型ソース領域4を形成する。次に、n+型ソース領域4形成に用いたイオン注入用マスクを除去し、同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成し、p型ベース領域3の表面の一部にホウ素等のp型の不純物をイオン注入し、p+型コンタクト領域14を形成する。p+型コンタクト領域14の不純物濃度は、p型ベース領域3の不純物濃度より高くなるように設定する。
【0045】
次に、イオン注入で形成した全領域を活性化するための熱処理(活性化アニール)を行う。例えば、1700℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理(アニール)を行い、p型ベース領域3、第1p型ベース領域15、第2p型ベース領域16、n+型ソース領域4、p+型コンタクト領域14、チャネルインプラ層17の活性化処理を実施する。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0046】
次に、n+型ソース領域4の表面と、トレンチ5の底部および側壁に沿ってゲート絶縁膜7を形成する。まず、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱酸化または高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応(化学気相成長法)によってトレンチ内に酸化膜が堆積される。
【0047】
次に、トレンチ5の底部およびトレンチの開口部の角を丸めるための犠牲酸化を行ってもよい。次に、酸化膜に対して、アニール処理を行う。これにより、ゲート絶縁膜7が形成される。
【0048】
次に、ゲート絶縁膜7上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層はトレンチ5内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ5内部に残すことによって、ゲート電極8を形成する。
【0049】
次に、ゲート電極8を覆うように、例えばBPSG膜などの層間絶縁膜を堆積する。次に、層間絶縁膜をパターニングしてコンタクトホールを形成し、n+型ソース領域4およびp+型コンタクト領域14を露出させる。次に、コンタクトホールの内部に、例えばスパッタリング法により、n+型ソース領域4およびp+型コンタクト領域14に接するように、ソース電極(不図示)を形成する。
【0050】
次に、半導体基板の裏面全体に、裏面電極(不図示)を形成する。その後、半導体ウエハを切断(ダイシング)して個々のチップ状に個片化することで、図1に示すトレンチ型MOSFET100が完成する。
【0051】
以上、説明したように、実施の形態によれば、トレンチの側壁のゲート絶縁膜の極近傍の範囲は、n型領域となり、トレンチの側壁のゲート絶縁膜の近傍の範囲は、p型ベース領域より高不純物濃度のp型領域となり、p型ベース領域は、トレンチの側壁のゲート絶縁膜から100nm程度以上離れた領域に設けられ、p型ベース領域を高濃度p型としている。これにより、チャネルの電子移動度を落とさずに、閾値を上げて、かつ、リークを抑えることができる。このため、閾値を高いまま、チャネル移動度を上げられることで低オン抵抗にでき、閾値低下によるスイッチング時の誤動作を抑えながら、導通損低減が可能となる。
【0052】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0054】
1、101 n+型炭化珪素半導体基板
2、102 n型ドリフト層
3、103 p型ベース領域
4、104 n+型ソース領域
5、105 トレンチ
7、107 ゲート絶縁膜
8、108 ゲート電極
14、114 p+型コンタクト領域
15、115 第1p型領域
16、116 第2p型領域
17、117 チャネルインプラ層
19 n型領域
100 トレンチ型MOSFET
118 高濃度p型領域
200、210 半導体装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9