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特開2023-115698リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、電極および固体リチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115698
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、電極および固体リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230814BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230814BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230814BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230814BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230814BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230814BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230814BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/131
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018060
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】細川 晴香
(72)【発明者】
【氏名】門脇 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祥史
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】被覆率が高く、微粒子の発生が少ないリチウム二次電池用正極活物質の製造方法の提供。
【解決手段】リチウム金属複合酸化物と、前記リチウム金属複合酸化物の一粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記リチウム金属複合酸化物に、二流体ノズルを備える被覆装置を用いて、前記被覆層を形成するための被覆コート液を接触させる被覆工程を備え、前記リチウム金属複合酸化物は、(A)を満たし、前記被覆工程は、前記被覆装置から、前記被覆コート液と高圧気流をそれぞれ噴射し、前記高圧気流は(B)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物と、前記リチウム金属複合酸化物の一粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記リチウム金属複合酸化物に、二流体ノズルを備える被覆装置を用いて、前記被覆層を形成するための被覆コート液を接触させる被覆工程を備え、
前記リチウム金属複合酸化物は、下記(A)を満たし、前記被覆工程は、前記二流体ノズルから、前記被覆コート液と高圧気流をそれぞれ噴射する工程であり、
前記高圧気流は下記(B)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(A):A0.4/A0.1<1.9
[レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より得られる、リチウム金属複合酸化物の体積基準の累積粒度分布において、A0.4は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値であり、A0.1は分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値である。前記累積粒度分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90とする。]
(B):0.002<E≦0.550
[ただし、E(W/g)はリチウム金属複合酸化物の単位質量当たりの高圧気流の膨張エネルギーである。高圧気流が大気圧に放出する際に発生する膨張エネルギーE(W)は、下記式により算出するものとする。
=nRT×ln(P/P
(n=高圧気流のモル数(mol)、R=気体定数、T=298.15(K)、P=高圧気流の圧力(MPaA)、P=大気圧(MPaA)である。)]
【請求項2】
前記被覆層は元素Aを含む酸化物であり、前記元素Aは、Nb、Ta、Ti、Al、B、P、W、Zr、La、およびGeからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物は下記式(I)を満たす、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O …(I)
(ただし、MはFe、Cu、Mg、Al、W、B、P、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Ta、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10及びy+z+w<1を満たす。)
【請求項4】
前記リチウム金属複合酸化物は一次粒子の凝集体である二次粒子を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記被覆工程の後に、100℃以上500℃以下の温度で加熱する熱処理工程を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム金属複合酸化物は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の前記累積粒度分布の粒度分布曲線(0.4)において、粒径の最小値から、分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際に求められる前記累積粒度分布の粒径の最小値まで、の範囲の累積頻度(%)が28%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム金属複合酸化物は、分散エア圧力(MPa)を横軸とし、D10(μm)を縦軸とした散布図において、分散エア圧力が0.4MPaである点と、0.1MPaである点とを結んで得られる直線の傾きの絶対値が19以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記被覆工程は転動流動コーティング装置を用いて行う工程である、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム二次電池用正極活物質は固体リチウム二次電池用正極活物質である、請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
リチウム金属複合酸化物と、前記リチウム金属複合酸化物の一粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、元素Aを含む酸化物であり、前記元素Aは、Nb、Ta、Ti、Al、B、P、W、Zr、La、およびGeからなる群より選択される1種以上であり、下記(X)~(Z)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
(X)リチウム金属複合酸化物の被覆率は70%以上である。
(Y)(WD50-WDmin)/WD50≦0.6
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式粒度分布測定により得られる体積基準の累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積割合が50%となる粒子径(μm)がWD50であり、得られた累積粒度分布曲線における最小粒径(μm)がWDminである。)
(Z)Z0.4/Z0.1<1.7
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より得られる、リチウム二次電池用正極活物質の体積基準の累積粒度分布曲線において、Z0.4は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値であり、Z0.1は分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値である。前記累積粒度分布曲線について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90とする。)
【請求項11】
請求項10に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含む電極。
【請求項12】
固体電解質をさらに含む請求項11に記載の電極。
【請求項13】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された固体電解質層と、を有し、前記固体電解質層は、第1の固体電解質を含み、前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、前記正極活物質層は、請求項10に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含む固体リチウム二次電池。
【請求項14】
前記正極活物質層は、前記リチウム二次電池用正極活物質と、第2の固体電解質とを含む請求項13に記載の固体リチウム二次電池。
【請求項15】
前記第1の固体電解質と、前記第2の固体電解質とが同じ物質である請求項14に記載の固体リチウム二次電池。
【請求項16】
前記第1の固体電解質は、硫化物固体電解質である請求項13~15のいずれか1項に記載の固体リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、電極および固体リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池としては、正極活物質を有する正極と、負極と、正極及び負極に接する電解質と、を有する構成が知られている。
【0003】
リチウム二次電池に用いられる電解質としては、有機溶媒を含む電解液や、固体電解質が知られている。以下の説明においては、電解液と固体電解質とをあわせて「電解質」と称することがある。
【0004】
正極と電解質との界面においては、正極が有する正極活物質と電解質とが接している。リチウム二次電池では、電池の充電及び放電に応じて、電解質から正極活物質へのLiイオンの挿入と、正極活物質から電解質へのLiイオンの脱離とが行われている。
【0005】
正極と電解質との界面に着目し、リチウム二次電池の性能向上を図る試みがある。例えば特許文献1は、リチウムコバルト複酸化物の粒子表面にアルミナ被覆層を形成したリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-276454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えばリチウム金属複合酸化物粒子の表面に被覆層を設ける場合、リチウム金属複合酸化物に被覆原料を噴霧添加する方法は特許文献1に記載のように公知である。
【0008】
本発明者らは、リチウム金属複合酸化物の表面を高い被覆率で被覆することを検討する中、リチウム金属複合酸化物が欠け、微粒子が生じてしまうという課題に直面した。ここでいう微粒子とは、非常に直径が小さい微粒子であって、周囲のリチウム金属複合酸化物と接点を持てない粒子をいう。このような微粒子の直径は、例えば0.5μm以下、又はサブミクロン以下である。以降において、リチウム金属複合酸化物が欠け、微粒子が発生する現象を「チッピング」と記載する場合がある。
【0009】
正極活物質の粒子間において、電子伝導およびイオン伝導のネットワークが十分に構築されていると電池性能が向上しやすい。
しかしながら、チッピングにより生じた微粒子は、電子伝導およびイオン伝導のネットワークを形成せず、充電と放電に寄与しない成分として存在することになる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、被覆層を備えるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、被覆率が高く、微粒子の発生が少ないリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、電極および固体リチウム二次電池を提供することを目的とする。
【0011】
本明細書において「被覆率が高い」とは、後述する[元素Aの表面存在率の測定方法]に記載の方法により測定した被覆率が、70%以上であることを意味する。
【0012】
本明細書において「微粒子が少ない」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式粒度分布測定より得られる、リチウム二次電池用正極活物質の体積基準の累積粒度分布曲線において、(WD50-WDmin)/WD50の値が0.6以下であることを意味する。ここで、湿式粒度分布測定より得られる累積粒度分布曲線について、小粒子側からの累積割合が50%となる粒子径をWD50(μm)とし、累積粒度分布曲線における最小粒径をWDmin(μm)とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の[1]~[16]を含む。
[1]リチウム金属複合酸化物と、前記リチウム金属複合酸化物の一粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記リチウム金属複合酸化物に、二流体ノズルを備える被覆装置を用いて、前記被覆層を形成するための被覆コート液を接触させる被覆工程を備え、前記リチウム金属複合酸化物は、下記(A)を満たし、前記被覆工程は、前記二流体ノズルから、前記被覆コート液と高圧気流をそれぞれ噴射する工程であり、前記高圧気流は下記(B)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(A):A0.4/A0.1<1.9
[レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より得られる、リチウム金属複合酸化物の体積基準の累積粒度分布において、A0.4は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値であり、A0.1は分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値である。前記累積粒度分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90とする。]
(B):0.002<E≦0.550
[ただし、E(W/g)はリチウム金属複合酸化物の単位質量当たりの高圧気流の膨張エネルギーである。高圧気流が大気圧に放出する際に発生する膨張エネルギーE(W)は、下記式により算出するものとする。
=nRT×ln(P/P
(n=高圧気流のモル数(mol)、R=気体定数、T=298.15(K)、P=高圧気流の圧力(MPaA)、P=大気圧(MPaA)である。)]
[2]前記被覆層は元素Aを含む酸化物であり、前記元素Aは、Nb、Ta、Ti、Al、B、P、W、Zr、La、およびGeからなる群より選択される1種以上である、[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[3]前記リチウム金属複合酸化物は下記式(I)を満たす、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O …(I)
(ただし、MはFe、Cu、Mg、Al、W、B、P、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Ta、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10及びy+z+w<1を満たす。)
[4]前記リチウム金属複合酸化物は一次粒子の凝集体である二次粒子を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[5]前記被覆工程の後に、100℃以上500℃以下の温度で加熱する熱処理工程を備える、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[6]前記リチウム金属複合酸化物は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の前記累積粒度分布の粒度分布曲線(0.4)において、粒径の最小値から、分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際に求められる前記累積粒度分布の粒径の最小値まで、の範囲の累積頻度(%)が28%以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[7]前記リチウム金属複合酸化物は、分散エア圧力(MPa)を横軸とし、D10(μm)を縦軸とした散布図において、分散エア圧力が0.4MPaである点と、0.1MPaである点とを結んで得られる直線の傾きの絶対値が19以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[8]前記被覆工程は転動流動コーティング装置を用いて行う工程である、[1]~[7]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[9]前記リチウム二次電池用正極活物質は固体リチウム二次電池用正極活物質である、[1]~[8]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[10]リチウム金属複合酸化物と、前記リチウム金属複合酸化物の一粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、元素Aを含む酸化物であり、前記元素Aは、Nb、Ta、Ti、Al、B、P、W、Zr、La、およびGeからなる群より選択される1種以上であり、下記(X)~(Z)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
(X)リチウム金属複合酸化物の被覆率は70%以上である。
(Y)(WD50-WDmin)/WD50≦0.6
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式粒度分布測定により得られる体積基準の累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積割合が50%となる粒子径(μm)がWD50であり、得られた累積粒度分布曲線における最小粒径(μm)がWDminである。)
(Z)Z0.4/Z0.1<1.7
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より得られる、リチウム二次電池用正極活物質の体積基準の累積粒度分布曲線において、Z0.4は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値であり、Z0.1は分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値である。前記累積粒度分布曲線について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90とする。)
[11][10]に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含む電極。
[12]固体電解質をさらに含む[11]に記載の電極。
[13]正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された固体電解質層と、を有し、前記固体電解質層は、第1の固体電解質を含み、前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、前記正極活物質層は、[10]に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含む固体リチウム二次電池。
[14]前記正極活物質層は、前記リチウム二次電池用正極活物質と、第2の固体電解質とを含む[13]に記載の固体リチウム二次電池。
[15]前記第1の固体電解質と、前記第2の固体電解質とが同じ物質である[14]に記載の固体リチウム二次電池。
[16]前記第1の固体電解質は、硫化物固体電解質である[13]~[15]のいずれか1つに記載の固体リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被覆層を備えるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、被覆率が高く、微粒子の発生が少ないリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、電極および固体リチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図2】固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図3】累積粒度分布曲線の一例を示す模式図である。
図4】累積粒度分布曲線の一例を示す模式図である。
図5】所定座標における傾きの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
本実施形態は、リチウム金属複合酸化物と、リチウム金属複合酸化物の一粒子の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0017】
本明細書において、金属複合化合物(Metal Composite Compound)を以下「MCC」と称する。
本明細書において、リチウム金属複合酸化物(Lithium Metal composite Oxide)を以下「LiMO」と称する。
リチウム二次電池用正極活物質(Cathode Active Material for lithium secondary batteries)を以下「CAM」と称する。
「Li」との表記は、特に言及しない限りLi金属単体ではなく、Li元素であることを示す。Ni、Co、Mn等の他の元素の表記も同様である。
【0018】
本実施形態のCAMの製造方法は、LiMOを製造する工程と、被覆工程と、を備える。
【0019】
≪LiMOを製造する工程≫
本工程において、下記(A)を満たすLiMOを製造する。
(A):A0.4/A0.1<1.9
[レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より得られる、LiMOの体積基準の累積粒度分布において、A0.4は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値であり、A0.1は分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値である。前記累積粒度分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90とする。]
【0020】
[乾式粒度分布測定]
レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より、LiMOの体積基準の累積粒度分布曲線を得る。乾式粒度分布測定は、噴射型乾式測定装置を用いて実施する。噴射型乾式測定装置は、圧搾空気を用いてノズルから測定対象であるLiMOを噴射し、レーザービームを通過するよう空気中に強制的に分散させて測定する方法である。
【0021】
具体的には、まず、LiMOの粉末2gについてレーザー回折粒度分布計により所定の圧搾空気圧力における乾式粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積割合が10%累積時、50%累積時、90%累積時の粒子径をそれぞれD10(μm)、D50(μm)、D90(μm)とする
【0022】
レーザー回折粒度分布計としては、例えばマルバーン製、MS2000が使用できる。
本実施形態において、圧搾空気の圧力を0.4MPaとする測定と、0.1MPaとする測定をそれぞれ行う。
【0023】
圧搾空気の圧力が0.4MPaである測定において得られたD10(μm)、D50(μm)、D90(μm)のそれぞれの値から、(D90-D10)/D50を算出し、これをA0.4とする。
【0024】
圧搾空気の圧力が0.1MPaである測定において得られたD10(μm)、D50(μm)、D90(μm)のそれぞれの値から、(D90-D10)/D50を算出し、これをA0.1とする。
【0025】
0.4とA0.1との比であるA0.4/A0.1を算出する。
【0026】
図3(a)に、(A)を満たすLiMOについて、分散エア圧力を0.4MPa及び0.1MPaとして測定した累積粒度分布曲線をそれぞれ示す。図3(a)に示す累積粒度分布曲線において、A0.4/A0.1は1.14である。(A)を満たすLiMOは、分散エア圧力を0.1MPaから0.4MPaに高圧にしても、累積粒度分布曲線の形状が大きく変化しない。これは、高圧エアを吹き付けてもチッピングが生じにくいことを意味する。
【0027】
図3(b)に、A0.4/A0.1の値が1.9以上であるLiMOについて、分散エア圧力を0.4MPa及び0.1MPaとして測定した累積粒度分布曲線をそれぞれ示す。図3(b)に示す累積粒度分布曲線において、A0.4/A0.1は1.9である。図3(b)から、分散エア圧力を0.1MPaから0.4MPaに高圧にした場合には、累積粒度分布曲線の形状が大きく変化する。これは、高圧エアを吹き付けたことによりチッピングが生じやすいことを意味する。
【0028】
(A)は下記(A)-1~(A)-3のいずれかであることが好ましい。
(A)-1:0.3≦A0.4/A0.1<1.9
(A)-2:0.5≦A0.4/A0.1<1.6
(A)-3:0.7≦A0.4/A0.1<1.3
【0029】
(A)を満たすLiMOは、チッピングが生じにくい。このため、後の被覆工程において被覆原料を噴霧された場合に、チッピングが生じにくくなる。
【0030】
LiMOが満たすことが好ましい組成や粒度分布等の物性については後述する。
【0031】
LiMOを製造する方法の詳細については後述する。
【0032】
≪被覆工程≫
LiMOの一粒子の少なくとも一部を被覆するため、二流体ノズルを備えた被覆装置を用いて被覆コート液をLiMOに接触させる。その後必要に応じて熱処理することによりLiMOの少なくとも一部を被覆する被覆層を形成できる。
【0033】
二流体ノズルを備えた装置は、一方のノズルから一つ目の流体である被覆コート液を噴射し、他方のノズルから二つ目の流体である高圧気流を噴射して、被覆コート液に高圧気流を吹き当てる装置である。これにより、被覆コート液は被覆対象の粒子サイズと同等、又はそれより細かい液滴径まで微粒化されながら高圧気流とともに噴射される。また、高圧気流による被覆対象粒子の分散効果も奏されるため、被覆対象粒子表面への均一な被覆層形成を実現しやすくなる。
【0034】
しかし、噴射のための高圧気流がLiMOに衝突することから、LiMOのチッピングの発生が課題となる。(A)を満たすLiMOは、上述のように高圧気流が衝突してもチッピングが生じにくい。
【0035】
被覆コート液に混合する高圧気流は、LiMOの単位重量当たりの膨張エネルギーであるEが下記(B)を満たす。
【0036】
(B):0.002<E≦0.550
(W/g)は、高圧気流が大気圧下に噴射されるときの膨張エネルギーであるE(W)を、LiMOの質量(g)で除した値である。
ここで、LiMOの質量は、被覆装置への投入量である。
被覆装置への投入量は、例えばバッチ式の被覆装置の場合には、バッチ当たりの投入量である。連続式の被覆装置の場合には、供給量(単位:kg/時間)に被覆装置内の滞留時間(単位:時間)を乗じた量である。
【0037】
膨張エネルギーであるEは、以下の式により算出する。
【0038】
【数1】
【0039】
(n=高圧気流のモル数(mol)、R=気体定数、T=298.15(K)、P=高圧気流の圧力(MPaA)、P=大気圧(MPaA)である。)
【0040】
を算出する際、気体定数Rは8.314(J/(K・mol))とする。
を算出する際、変数はn及びPとなる。nは、高圧気流の種類と流量(g/min)とから算出する。
【0041】
高圧気流としては、空気又は二酸化炭素を除去した空気が挙げられる。本実施形態においては、高圧気流は二酸化炭素を除去した空気とすることが好ましい。
【0042】
高圧気流の空気流量は、例えば10NL/min以上70NL/min以下である。
高圧気流の噴射圧力は、例えば0.01MPa以上0.30MPa以下である。
【0043】
(B)は、下記(B)-1~(B)-3のいずれかであることが好ましい。
(B)-1:0.010<E≦0.500
(B)-2:0.015<E≦0.450
(B)-3:0.020<E≦0.400
【0044】
(B)を満たす条件でLiMOに被覆コート液を含む高圧気流を接触させると、チッピングが生じにくい。
【0045】
被覆工程では転動流動コーティング装置を使用することが好ましい。
転動流動コーティング装置は、例えばパウレック社製のMP-01が好適に使用できる。
【0046】
[熱処理工程]
被覆工程の後に、熱処理工程を備えることが好ましい。
被覆コート液及びLiMOの混合後に熱処理する場合、100℃以上500℃以下の温度で加熱する工程であることが好ましい。
【0047】
被覆材原料とLiMOの混合物を、上述の熱処理条件で熱処理することで、LiMOの表面に不純物の少ない被覆層が形成されたCAMが得られる。
【0048】
CAMは、適宜解砕、分級され、リチウム二次電池用正極活物質となる。
【0049】
以下に、LiMOの製造方法の一例を、MCCの製造工程と、LiMOの製造工程とに分けて説明する。
【0050】
(MCCの製造工程)
LiMOを製造するにあたって、まず、目的物であるLiMOを構成する金属のうちリチウム以外の金属を含むMCCを調製し、当該MCCを適当なリチウム化合物と焼成することが好ましい。
【0051】
詳しくは、「MCC」は、必須金属であるNiと、Co、Mn、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVのうちいずれか1種以上の任意金属と、を含む化合物である。
MCCとしては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。
【0052】
MCCは、通常公知の共沈殿法により製造することが可能である。共沈殿法としては、通常公知のバッチ式共沈殿法又は連続式共沈殿法を用いることができる。以下、金属として、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物を例に、MCCの製造方法を詳述する。
【0053】
まず共沈殿法、特にJP-A-2002-201028に記載された連続式共沈殿法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、Ni(1-y-z)CoMn(OH)(式中、y+z<1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0054】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0055】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0056】
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0057】
以上の金属塩は、上記Ni(1-y-z)CoMn(OH)の組成比に対応する割合で用いる。すなわち、各金属塩は、ニッケル塩溶液の溶質におけるNi、コバルト塩溶液の溶質におけるCo、マンガン塩溶液の溶質におけるMnのモル比が、Ni(1-y-z)CoMn(OH)の組成比に対応して1-y-z:y:zとなる量を用いる。
【0058】
また、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の溶媒は、水である。すなわち、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の溶媒は、水溶液である。
【0059】
錯化剤は、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン、及びマンガンイオンと錯体を形成可能な化合物である。錯化剤は、例えば、アンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0060】
錯化剤を用いる場合、ニッケル塩溶液、任意金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0061】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、任意金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ金属水酸化物を添加する。アルカリ金属水酸化物とは、例えば水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムである。
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
【0062】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、Ni、Co、及びMnが反応し、Ni(1-y-z)CoMn(OH)が生成する。
【0063】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30~70℃の範囲内で制御する。
【0064】
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
【0065】
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0066】
反応槽に供給する金属塩溶液の金属塩濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、最終的に得られるLiMOの二次粒子径、細孔半径等の各種物性を制御することが出来る。
【0067】
上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、またはそれらの混合ガスを反応槽内に供給し、得られる反応生成物の酸化状態を制御してもよい。
【0068】
得られる反応生成物を酸化する化合物(酸化剤)として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用することができる。
【0069】
得られる反応生成物を還元する化合物として、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用する事ができる。
【0070】
詳しくは、反応槽内は、不活性雰囲気であってもよい。反応槽内が不活性雰囲気であると、混合液に含まれる金属のうち、Niよりも酸化されやすい金属が、Niよりも先に凝集してしまうことが抑制される。そのため、均一な金属複合水酸化物が得られる。
【0071】
また、反応槽内は、適度な酸化性雰囲気であってもよい。酸化性雰囲気は、不活性ガスに、酸化性ガスを混合した酸素含有雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気下で酸化剤を存在させてもよい反応槽内が適度な酸化性雰囲気であることにより、混合液に含まれる遷移金属が適度に酸化され、金属複合酸化物の形態を制御しやすくなる。
【0072】
酸化性雰囲気中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子が存在すればよい。
【0073】
酸化性雰囲気が酸素含有雰囲気である場合、反応槽内の雰囲気の制御は、反応槽内に酸化性ガスを通気させる、混合液に酸化性ガスをバブリングするなどの方法で行うことができる。
【0074】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥することで、MCCが得られる。本実施形態では、MCCとしてニッケルコバルトマンガン水酸化物が得られる。また、反応沈殿物に水で洗浄するだけでは混合液に由来する夾雑物が残存してしまう場合には、必要に応じて、反応沈殿物を、弱酸水や、アルカリ溶液で洗浄してもよい。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含む水溶液を挙げることができる。
【0075】
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0076】
例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を酸化することによりニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製することができる。酸化のための焼成時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上30時間以下とすることが好ましい。
【0077】
最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましく、250℃/時間以上が特に好ましい。
【0078】
本明細書における最高保持温度とは、焼成工程における焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度であり、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
【0079】
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差と、から算出される。
【0080】
(LiMOの製造工程)
本工程では、上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥させた後、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物とリチウム化合物とを混合する。
【0081】
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
水酸化リチウムが不純物として炭酸リチウムを含む場合には、水酸化リチウム中の炭酸リチウムの含有率は、5質量%以下であることが好ましい。
【0082】
上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥条件は特に制限されない。乾燥条件は、例えば、下記1)~3)のいずれの条件でもよい。
1)金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化または還元されない条件。具体的には、酸化物が酸化物のまま維持される乾燥条件、水酸化物が水酸化物のまま維持される乾燥条件である。
2)金属複合水酸化物が酸化される条件。具体的には、水酸化物が酸化物に酸化される乾燥条件である。
3)金属複合酸化物が還元される条件。具体的には、酸化物が水酸化物に還元される乾燥条件である。
【0083】
酸化または還元がされない条件のためには、乾燥時の雰囲気に窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用すればよい。
水酸化物が酸化される条件のためには、乾燥時の雰囲気に酸素又は空気を使用すればよい。
【0084】
また、金属複合酸化物が還元される条件のためには、乾燥時に、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。
【0085】
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0086】
以上のリチウム化合物とMCCとは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合化合物を用いる場合、リチウム化合物と当該MCCは、LiNi(1-y-z)CoMn(式中、y+z<1)の組成比に対応する割合で用いられる。また、最終目的物であるLiMOにおいて、リチウムが過剰(含有モル比が1超)である場合には、リチウム化合物に含まれるリチウムと、MCCに含まれる金属元素とのモル比が1を超える比率となる割合で混合する。
【0087】
ニッケルコバルトマンガン複合化合物及びリチウム化合物の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0088】
保持温度として、具体的には、200℃以上1150℃以下の範囲を挙げることができ、300℃以上1050℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましい。
【0089】
また、保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
【0090】
ニッケルコバルトマンガン複合化合物及びリチウム化合物の混合物は、焼成温度が異なる焼成工程を複数有していてもよく、一次焼成と、一次焼成よりも高温で焼成する二次焼成をすることが好ましい。
【0091】
一次焼成の焼成温度は、例えば500℃以上700℃以下とすればよい。一次焼成の焼成時間は例えば3時間以上7時間以下とすればよい。
【0092】
二次焼成の焼成温度は、750℃以上950℃以下が好ましく、800℃以上900℃以下がより好ましい。二次焼成の焼成時間は例えば3時間以上7時間以下とすればよい。
【0093】
二次焼成において、最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は115℃/時間以上が好ましく、120℃/時間以上がより好ましく、125℃/時間以上が特に好ましい。
【0094】
二次焼成において、最高保持温度から冷却する降温速度は115℃/時間以上が好ましく、120℃/時間以上がより好ましく、125℃/時間以上が特に好ましい。
【0095】
二次焼成における焼成温度、昇温速度および降温速度を上記範囲とすることにより、(A)を満たすLiMOが得られやすくなる。
【0096】
(任意の乾燥工程)
焼成後に得られた焼成物は乾燥させることが好ましい。焼成後に乾燥させることにより、微細な孔に入り込み、残存している水分を確実に除去できる。微細な細孔に残存する水分は、電極を製造した際に電解質を劣化させる原因となる。焼成後に乾燥させ、微細な細孔に残存する水分を除去することにより、電解質の劣化を防ぐことができる。
【0097】
焼成後の乾燥方法としては、LiMOに残留する水分を除去できれば特に限定されない。
焼成後の乾燥方法としては、例えば真空引きによる真空乾燥処理、又は熱風乾燥機を用いた乾燥処理が好ましい。
【0098】
乾燥温度は例えば80℃以上140℃以下の温度が好ましい。
【0099】
水分を除去できれば乾燥時間は特に限定されないが、例えば5時間以上12時間以下が挙げられる。
【0100】
上記の工程により、(A)を満たすLiMOが得られる。
【0101】
被覆層は元素Aを含む化合物である。
元素Aは、Nb、Ta、Ti、Al、B、P、W、Zr、La、およびGeからなる群より選択される1種以上の元素である。被覆層はリチウムイオン伝導性を有することが好ましい。
【0102】
被覆層は元素Aを含むリチウム複合酸化物を主成分とすることが好ましい。元素Aを含むリチウム複合酸化物は、例えばLiNbO、LiTaO、LiTiO、LiAlO、LiWO、LiWO、LiBO、Li、LiZrO、LiPO、LiLaZr12(LLZ)、Li1.5Al0.5Ge1.512(LAGP)、及びLi1.3Al0.3Ti1.712(LATP)、及びLiLaTa12(LLT)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物である。
【0103】
なお、被覆層について、上記酸化物を「主成分とする」とは、被覆層の形成材料のうち上記酸化物の含有率が最も多いことを意味する。被覆層全体に対する上記酸化物の含有率は、50mol%以上が好ましく、60mol%以上がより好ましい。また、被覆層全体に対する上記酸化物の含有率は、90mol%以下が好ましい。
【0104】
被覆層が上記の酸化物を2種以上含む場合の組み合わせとしては、例えばLiNbOとLiBOとの組み合わせや、LiPOとLiBOとの組み合わせが挙げられる。
【0105】
被覆コート液に含まれる被覆材原料は、上述したリチウム化合物と、元素Aの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩又はアルコキシドとを用いることができる。
【0106】
被覆材原料は、例えば、ニオブ酸リチウムの原料である。被覆層を形成する際には被覆材原料と、溶媒とを含有するコート液を用いる。
ニオブ酸リチウム以外には、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、アルミン酸リチウム、タングステン酸リチウム、リン酸リチウム、ホウ酸リチウムが挙げられる。
【0107】
ニオブ酸リチウムのLi源としては、例えば、Liアルコキシド、Li無機塩、Li水酸化物を挙げることができる。
【0108】
Liアルコキシドとしては、例えば、エトキシリチウム、メトキシリチウムを挙げることができる。
【0109】
Li無機塩としては、例えば、硝酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウムを挙げることができる。Li水酸化物としては、例えば、水酸化リチウムを挙げることができる。
【0110】
タンタル酸リチウムのTa源としては、酸化タンタル、ペンタエトキシタンタルが挙げられる。チタン酸リチウムのTi源としては、酸化チタン、テトラエトキシタンタルが挙げられる。アルミン酸リチウムのAl源としては、酸化アルミニウムが挙げられる。タングステン酸リチウムのW源としては、酸化タングステンが挙げられる。リン酸リチウムのP源としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムが挙げられる。ホウ酸リチウムのB源としては、ホウ酸、酸化ホウ素が挙げられる。
【0111】
ニオブ酸リチウムのNb源としては、例えば、Nbアルコキシド、Nb無機塩、Nb水酸化物、Nb錯体を挙げることができる。
【0112】
Nbアルコキシドとしては、例えば、ペンタエトキシニオブ、ペンタメトキシニオブ、ペンタ-i-プロポキシニオブ、ペンタ-n-プロポキシニオブ、ペンタ-i-ブトキシニオブ、ペンタ-n-ブトキシニオブ、ペンタ-sec-ブトキシニオブを挙げることできる。
【0113】
Nb無機塩としては、例えば、酢酸ニオブ等を挙げることができる。
【0114】
Nb水酸化物としては、例えば、水酸化ニオブを挙げることができる。
【0115】
Nb錯体としては、例えば、Nbのペルオキソ錯体(ペルオキソニオブ酸錯体、[Nb(O3-)を挙げることができる。
【0116】
Nbのペルオキソ錯体を含有するコート液は、Nbアルコキシドを含有するコート液に比べて、被覆処理中および熱処理後の被覆層からのガス発生量が少なく、高密度の被覆層が得られやすいという利点がある。
【0117】
Nbのペルオキソ錯体を含有するコート液の調製方法としては、例えば、Nb酸化物またはNb水酸化物に、過酸化水素水およびアンモニア水を添加する方法を挙げることができる。過酸化水素水およびアンモニア水の添加量は、透明溶液(均一な溶液)が得られるように適宜調整すればよい。
【0118】
コート液の溶媒の種類は、特に限定されるものではなく、アルコール、水等を挙げることができる。
【0119】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を挙げることができる。例えば、コート液がアルコキシドを含有する場合、溶媒は、無水または脱水アルコールであることが好ましい。一方、例えば、コート液が、Nbのペルオキソ錯体を含有する場合、溶媒は水であることが好ましい。
【0120】
≪LiMOの物性≫
LiMOは、層状の結晶構造を有し、且つ少なくともLiとNiと遷移金属とを含む。
【0121】
LiMOは、遷移金属として、Co、Mn、Fe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La,Ti,Nb及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0122】
LiMOが、遷移金属として上記の元素を含むことにより、得られるLiMOは、Liイオンが脱離可能又は挿入可能な安定した結晶構造を形成する。
【0123】
さらに詳しくは、LiMOは、下記組成式(I)で表される。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O …(I)
(ただし、MはFe、Cu、Mg、Al、W、B、P、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Ta、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10及びy+z+w<1を満たす。)
【0124】
(xについて)
サイクル特性がよいリチウムイオン二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回充放電効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるxは0.25以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
【0125】
なお、本明細書において「サイクル特性がよい」とは、充放電の繰り返しにより、電池容量の低下量が低い特性を意味し、初期容量に対する再測定時の容量比が低下しにくいことを意味する。
【0126】
また、本明細書において「初回充放電効率」とは「(初回放電容量)/(初回充電容量)×100(%)」で求められる値である。初回充放電効率が高い二次電池は、初回の充放電時の不可逆容量が小さく、体積及び重量あたりの容量がより大きくなりやすい。
【0127】
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(I)において、xは、-0.10以上0.25以下であってもよく、-0.10以上0.10以下であってもよい。
【0128】
xは、0を超え0.30以下であってもよく、0を超え0.25以下であってもよく、0を超え0.10以下であってもよい。
【0129】
xは、0.01以上0.30以下であってもよく、0.01以上0.25以下であってもよく、0.01以上0.10以下であってもよい。
【0130】
xは、0.02以上0.3以下であってもよく、0.02以上0.25以下であってもよく、0.02以上0.10以下であってもよい。
【0131】
xは、0<x≦0.30を満たすことが好ましい。
【0132】
(yについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウムイオン二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるyは0を超えることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるyは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることがよりさらに好ましい。
【0133】
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(I)において、yは、0以上0.35以下であってもよく、0以上0.33以下であってもよく、0以上0.30以下であってもよい。
【0134】
yは、0を超え0.40以下であってもよく、0を超え0.35以下であってもよく、0を超え0.33以下であってもよく、0を超え0.30以下であってもよい。
【0135】
yは、0.005以上0.40以下であってもよく、0.005以上0.35以下であってもよく、0.005以上0.33以下であってもよく、0.005以上0.30以下であってもよい。
【0136】
yは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよく、0.01以上0.33以下であってもよく、0.01以上0.30以下であってもよい。
【0137】
yは、0.05以上0.40以下であってもよく、0.05以上0.35以下であってもよく、0.05以上0.33以下であってもよく、0.05以上0.30以下であってもよい。
【0138】
yは、0<y≦0.40を満たすことが好ましい。
【0139】
組成式(I)において、0<x≦0.10であり、0<y≦0.40を満たすことがより好ましい。
【0140】
(zについて)
また、サイクル特性がよいリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるzは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましく、0.1以上であることが特に好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるzは0.39以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
【0141】
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(I)において、zは、0以上0.39以下であってもよく、0以上0.38以下であってもよく、0以上0.35以下であってもよい。
【0142】
zは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.39以下であってもよく、0.01以上0.38以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよい。
【0143】
zは、0.02以上0.40以下であってもよく、0.02以上0.39以下であってもよく、0.02以上0.38以下であってもよく、0.02以上0.35以下であってもよい。
【0144】
zは、0.10以上0.40以下であってもよく、0.10以上0.39以下であってもよく、0.10以上0.38以下であってもよく、0.10以上0.35以下であってもよい。
【0145】
(wについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が多いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
【0146】
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(I)において、wは、0以上0.09以下であってもよく、0以上0.08以下であってもよく、0以上0.07以下であってもよい。
【0147】
wは、0を超え0.10以下であってもよく、0を超え0.09以下であってもよく、0を超え0.08以下であってもよく、0を超え0.07以下であってもよい。
【0148】
wは、0.0005以上0.10以下であってもよく、0.0005以上0.09以下であってもよく、0.0005以上0.08以下であってもよく、0.0005以上0.07以下であってもよい。
【0149】
wは、0.001以上0.10以下であってもよく、0.001以上0.09以下であってもよく、0.001以上0.08以下であってもよく、0.001以上0.07以下であってもよい。
【0150】
(y+z+wについて)
また、電池容量が大きいリチウム二次電池を得る観点から、組成式(1)におけるy+z+wは0.50以下が好ましく、0.48以下がより好ましく、0.46以下がさらに好ましい。
【0151】
LiMOは、組成式(I)において0.50≦1-y-z-w≦0.95、かつ0≦y≦0.30を満たすと好ましい。すなわち、LiMOは、組成式(I)においてNiの含有モル比が0.50以上、かつCoの含有モル比が0.30以下であると好ましい。
【0152】
(Mについて)
組成式(I)におけるMはFe、Cu、Mg、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La,Ti、Nb及びVからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
【0153】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるMは、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Al、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることがより好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0154】
上述したx、y、z、wについて好ましい組み合わせの一例は、xが0.02以上0.3以下であり、yが0.05以上0.30以下であり、zが0.02以上0.35以下であり、wが0以上0.07以下である。
【0155】
x、y、z、wについて好ましい組み合わせを有するLiMOとして、例えば、x=0.05、y=0.20、z=0.30、w=0であるLiMOや、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であるLiMOや、x=0.25、y=0.07、z=0.02、w=0であるLiMOが挙げられる。
【0156】
[組成分析]
LiMOの組成分析は、LiMOを塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行うことができる。
【0157】
(結晶構造)
LiMOの結晶構造は、層状である。LiMOの結晶構造は、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0158】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P-3、R-3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P-6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcm及びP6/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0159】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/c及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0160】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0161】
LiMOは、一次粒子の凝集体である二次粒子を含むことが好ましい。
本明細書において、「一次粒子」とは、外観上に粒界が存在しない粒子であって、二次粒子を構成する粒子を意味する。より詳細には、「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡等で5000倍以上20000倍以下の視野にて粒子を観察した場合に、粒子表面に明確な粒界が見られない粒子を意味する。
本明細書において、「二次粒子」とは、複数の一次粒子が間隙をもって三次元的に結合した粒子を意味する。二次粒子は、球状、略球状の形状を有する。
通常、二次粒子は一次粒子が10個以上凝集して形成される。
【0162】
[累積頻度(%)の積分値の算出]
LiMOの累積粒度分布曲線において、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の粒度分布曲線(0.4)と、分散圧力を0.1MPaとして測定した際の粒度分布曲線(0.1)と、をそれぞれ得る。
粒度分布曲線(0.4)の粒径の最小値から、粒度分布曲線(0.1)の粒径の最小値までの累積頻度(%)の積分値が28%以下を満たすことが好ましく、20%以下を満たすことがより好ましく10%以下を満たすことがさらに好ましい。
【0163】
積分値の下限値は、例えば0%以上、0.001%以上又は0.005%以上が挙げられる。
積分値の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0%以上28%以下、0.001%以上20%以下、0.005%以上10%以下が挙げられる。
【0164】
図4(a)に、本実施形態のLiMOの粒度分布曲線(0.4)と粒度分布曲線(0.1)をそれぞれ示す。本実施形態のLiMOは、粒度分布曲線(0.4)の粒径の最小値から、粒度分布曲線(0.1)の粒径の最小値までの累積頻度(%)の積分値(図4(a)中の斜線部)が小さい。これは、高圧エアを吹き付けてもチッピングが生じにくいために粒度分布曲線の形状が大きく変化しないことを意味する。
【0165】
図4(b)に、本実施形態以外のLiMOの粒度分布曲線(0.4)と粒度分布曲線(0.1)をそれぞれ示す。本実施形態以外のLiMOは、粒度分布曲線(0.4)の粒径の最小値から、粒度分布曲線(0.1)の粒径の最小値までの累積頻度(%)の積分値(図4(a)中の斜線部)が大きい。これは、高圧エアを吹き付けるとチッピングが生じ、粒度分布曲線の形状が大きく変化することを意味する。
【0166】
[分散エア圧力と粒子径の関係の評価]
本実施形態のLiMOの累積粒度分布曲線において、分散エア圧力(MPa)を横軸とし、小粒子側からの累積割合が10%となる粒子径であるD10(μm)を縦軸としてプロットする座標を得る。この座標において、分散エア圧力(MPa)が0.4MPaである点と、0.1MPaである点とを結んで得られる直線の傾きの絶対値が19以下であることが好ましく、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。
【0167】
上記絶対値の下限値は、例えば0.1以上、0.2以上、0.3以上である。
上記絶対値の上記上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、0.1以上19以下、0.2以上10以下、0.3以上5以下が挙げられる。
【0168】
図5(a)に、本実施形態のLiMOの座標を示す。図5(a)から、上記直線の傾きの絶対値が19以下と小さいことがわかる。これは、0.1MPaから0.4MPaに分散エア圧力を挙げても、D10(μm)相当の微粒子が増大しない、つまり、高圧エアを吹き付けてもチッピングが生じにくいことを意味する。
【0169】
図5(b)に、本実施形態以外LiMOの座標を示す。図5(b)から、上記直線の傾きの絶対値が19を超え大きいことがわかる。これは、0.1MPaから0.4MPaに分散エア圧力を挙げると、D10(μm)相当の微粒子が増大する、つまり、高圧エアを吹き付けるとチッピングが生じやすいことを意味する。
【0170】
<リチウム二次電池用正極活物質>
CAMは、LiMOと、LiMOの少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、下記(X)~(Z)を満たす。
(X)LiMOの被覆率は70%以上である。
(Y)(WD50-WDmin)/WD50≦0.6
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式粒度分布測定により得られる体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積割合が50%となる粒子径(μm)がWD50であり、得られた累積粒度分布曲線における最小粒径(μm)がWDminである。)
(Z)Z0.4/Z0.1<1.7
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より得られる、CAMの体積基準の累積粒度分布において、Z0.4は、分散エア圧力が0.4MPaで測定した際の(D90-D10)/D50の値であり、Z0.1は0.1MPaで測定した際の(D90-D10)/D50の値である。累積粒度分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90とする。)
【0171】
LiMOの被覆率は、元素Aの表面存在率として測定する。
元素Aの表面存在率は75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
元素Aの表面存在率は、例えば100%以下、99%以下、98%以下である。
元素Aの表面存在率の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。元素Aの表面存在率は、例えば70%以上100%以下、75%以上99%以下、80%以上98%以下である。
【0172】
[元素Aの表面存在率の測定方法]
元素AはCAMが備える被覆層に存在するため、CAMについてXPS分析をすると、被覆層に存在する元素Aの運動エネルギーに対応する光電子が検出される。
【0173】
CAMについて、元素Aの存在率はCAMの一粒子を測定対象とし、XPSを用いた分析結果により求める。
具体的には、下記条件でCAMの表面組成分析を行い、CAMの表面におけるナロースキャンスペクトルを得る。
測定方法:X線光電子分光法(XPS)
X線源:AlKα線(1486.6eV)
X線スポット径:100μm
中和条件:中和電子銃(加速電圧は元素により調整、電流100μA)
【0174】
上記条件におけるXPSの検出深さは、CAMの表面から内部に約3nmの範囲である。CAMにおいて、被覆層が薄い又は被覆層が無い部分では、被覆層のみならず、LiMOの表面についても分析される。
【0175】
各元素が対応するピークについては、既存のデータベースを用いて同定できる。
【0176】
元素AであるNbの光電子強度としては、Nb3dの波形の積分値を用いる。
【0177】
元素AであるTaの光電子強度としては、Ta4fの波形の積分値を用いる。
【0178】
元素AであるTiの光電子強度としてはTi2pの波形の積分値を用いる。
【0179】
元素AであるAlの光電子強度としてはAl2pの波形の積分値を用いる。
【0180】
元素AであるBの光電子強度としてはB1sの波形の積分値を用いる。
【0181】
元素AであるPの光電子強度としてはP2pの波形の積分値を用いる。
【0182】
元素AであるWの光電子強度としてはW4fの波形の積分値を用いる。ただしGeと同時に計測する場合はW4dの背景の積分値を用いる。
【0183】
元素AであるZrの光電子強度としてはZr3dの波形の積分値を用いる。
【0184】
元素AであるLaの光電子強度としてはLa3d5/2の波形の積分値を用いる。
【0185】
元素AであるGeの光電子強度としてはGe2pの波形の積分値を用いる。
【0186】
また、同じXPS分析において、LiMOに含まれる遷移金属についても、各元素の運動エネルギーに対応する光電子が検出される。
LiMOに含まれる遷移金属として、例えば、Niの光電子強度としてはNi2p3/2の波形の積分値を用いる。
【0187】
LiMOに含まれる遷移金属として、Coの光電子強度としてはCo2p3/2の波形の積分値を用いる。
【0188】
LiMOに含まれる遷移金属として、Mnの光電子強度としてはMn2p1/2の波形の積分値を用いる。
【0189】
得られたスペクトルにおける各元素の光電子強度から各元素での感度補正を行った値の比は、XPS測定によって求められるCAMの元素比に該当する。
【0190】
なお、測定対象となるCAMにおいて、被覆層とLiMOとのそれぞれに共通する元素が含まれる場合がありうる。この場合、上記XPS分析の結果における元素比について、被覆層が有している元素であるか、LiMOが有している元素であるかを区別することなく取り扱う。
【0191】
例えば、被覆層とLiMOとの両方に、Tiが含まれている場合、XPS分析の結果求められるTiの元素比は、LiMOに含まれるTiと被覆層に含まれるTiとの合計の元素比として取り扱う。
【0192】
CAMは、下記(Y)を満たす。
(Y):(WD50-WDmin)/WD50≦0.6
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式粒度分布測定により得られる体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積割合が50%となる粒子径(μm)がWD50であり、得られた累積粒度分布曲線における最小粒径(μm)がWDminである。)
【0193】
[湿式粒度分布測定によるWD50及びWDminの測定]
CAMの湿式粒度分布測定によるWD50及びWDminの測定は、以下の方法により行う。
具体的には、CAMの粉末0.1gを0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、該粉末を分散させた分散液を得る。得られた分散液についてレーザー回折粒度分布計(マルバーン製、MS2000)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。湿式粒度分布測定により得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の粒子径の値をWD50とし、最小粒径(μm)をWDminとする。
【0194】
(Y)を満たすCAMは微粒子が少ない。
【0195】
CAMは、下記(Z)を満たす。
(Z):Z0.4/Z0.1<1.7
(レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた乾式粒度分布測定より得られる、リチウム二次電池用正極活物質の体積基準の累積粒度分布曲線において、Z0.4は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値であり、Z0.1は分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値である。前記累積粒度分布曲線について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90とする。)
【0196】
(Z)を満たすCAMは、微粒子が少ない。
リチウムイオン二次電池の場合には、チッピングにより生じた微粒子は導電経路を確保することが難しい。このためチッピングにより生じた微粒子は充電及び放電に寄与しにくい。つまり、電解質が電解液又は固体電解質であるかを問わず、リチウムイオン二次電池の場合、チッピングにより生じた微粒子の存在量が少ないほど、電池特性は向上する。
【0197】
なかでも、電解質が固体である固体リチウムイオン二次電池の場合、電解質に流動性が乏しいためにチッピングにより生じた微粒子へのイオン伝導経路も確保しにくくなるため、電解質が電解液である場合よりもチッピングで生じた微粒子の影響をより受けやすくなる。
【0198】
(Z)を満たすCAMは、そもそも微粒子が少なく、製造時や使用時に圧力がかかった場合に、LiMO粒子が割れにくい。
ここで、固体リチウムイオン二次電池の製造時においては、粉体を混合する際又は圧粉成形を行う際に正極活物質粉末に圧力がかかる。
さらに、固体リチウムイオン二次電池の使用時においては、充電及び放電を繰り返した際の膨張と収縮に伴い正極活物質粉末に圧力がかかる。
例えば固体電解質として酸化物系固体電解質を用いた場合には、50MPa以上の圧力がかかることが想定され、硫化物系固体電解質を用いた場合には、200MPa以上の圧力がかかることが想定される。
【0199】
(Z)を満たすCAMは、繰返し使用した場合微粒子が発生しにくい。つまり繰り返し使用した場合にもリチウムイオンの導電経路が減少しないため、容量が低下しにくい。このため、固体リチウムイオン二次電電池特性を良好なものとすることができる。
【0200】
(組成式)
CAMは、下記式(II)を満たすことが好ましい。
(Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]O (II)
(ただし、XはFe、Cu、Mg、Al、W、B、P,Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb、Ta、Ge及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦a≦0.30、0≦b≦0.40、0≦c≦0.40及び0<d≦0.10を満たす。)
【0201】
(aについて)
サイクル特性がよいリチウムイオン二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるaは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回充放電効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるaは0.25以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
【0202】
aの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(II)において、aは、-0.10以上0.25以下であってもよく、-0.10以上0.10以下であってもよい。
【0203】
aは、0を超え0.30以下であってもよく、0を超え0.25以下であってもよく、0を超え0.10以下であってもよい。
【0204】
aは、0.01以上0.30以下であってもよく、0.01以上0.25以下であってもよく、0.01以上0.10以下であってもよい。
【0205】
aは、0.02以上0.3以下であってもよく、0.02以上0.25以下であってもよく、0.02以上0.10以下であってもよい。
【0206】
aは、0<a≦0.30を満たすことが好ましい。
【0207】
(bについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウムイオン二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるbは0を超えることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるbは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることがよりさらに好ましい。
【0208】
bの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(II)において、bは、0以上0.35以下であってもよく、0以上0.33以下であってもよく、0以上0.30以下であってもよい。
【0209】
bは、0を超え0.40以下であってもよく、0を超え0.35以下であってもよく、0を超え0.33以下であってもよく、0を超え0.30以下であってもよい。
【0210】
bは、0.005以上0.40以下であってもよく、0.005以上0.35以下であってもよく、0.005以上0.33以下であってもよく、0.005以上0.30以下であってもよい。
【0211】
bは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよく、0.01以上0.33以下であってもよく、0.01以上0.30以下であってもよい。
【0212】
bは、0.05以上0.40以下であってもよく、0.05以上0.35以下であってもよく、0.05以上0.33以下であってもよく、0.05以上0.30以下であってもよい。
【0213】
bは、0<b≦0.40を満たすことが好ましい。
【0214】
組成式(II)において、0<a≦0.10であり、0<b≦0.40を満たすことがより好ましい。
【0215】
(cについて)
また、サイクル特性がよいリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるcは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましく、0.1以上であることが特に好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるcは0.39以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
【0216】
cの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(II)において、cは、0以上0.39以下であってもよく、0以上0.38以下であってもよく、0以上0.35以下であってもよい。
【0217】
cは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.39以下であってもよく、0.01以上0.38以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよい。
【0218】
cは、0.02以上0.40以下であってもよく、0.02以上0.39以下であってもよく、0.02以上0.38以下であってもよく、0.02以上0.35以下であってもよい。
【0219】
cは、0.10以上0.40以下であってもよく、0.10以上0.39以下であってもよく、0.10以上0.38以下であってもよく、0.10以上0.35以下であってもよい。
【0220】
(dについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるdは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が多いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるdは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
【0221】
dの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組成式(II)において、
dは、0を超え0.10以下であってもよく、0を超え0.09以下であってもよく、0を超え0.08以下であってもよく、0を超え0.07以下であってもよい。
【0222】
dは、0.0005以上0.10以下であってもよく、0.0005以上0.09以下であってもよく、0.0005以上0.08以下であってもよく、0.0005以上0.07以下であってもよい。
【0223】
dは、0.001以上0.10以下であってもよく、0.001以上0.09以下であってもよく、0.001以上0.08以下であってもよく、0.001以上0.07以下であってもよい。
【0224】
(b+c+dについて)
また、電池容量が大きいリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるb+c+dは0.50以下が好ましく、0.48以下がより好ましく、0.46以下がさらに好ましい。
【0225】
CAMは、組成式(II)において0.50≦1-b-c-d≦0.95、かつ0≦b≦0.30を満たすと好ましい。すなわち、CAMは、組成式(II)においてNiの含有モル比が0.50以上、かつCoの含有モル比が0.30以下であると好ましい。
【0226】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(II)におけるXは、Nb、P、又はBであることが好ましい。
【0227】
上述したa、b、c、dについて好ましい組み合わせの一例は、aが0.02以上0.3以下であり、bが0.05以上0.30以下であり、cが0.02以上0.35以下であり、dが0を超え0.07以下である。
【0228】
a、b、c、dについて好ましい組み合わせを有するCAMとして、例えば、a=0.05、b=0.20、c=0.30、d=0.0005であるCAMや、a=0.05、b=0.08、c=0.04、d=0.0005であるCAMや、a=0.25、b=0.07、c=0.02、d=0.0005であるCAMが挙げられる。
【0229】
CAMは固体リチウム二次電池用正極活物質であることが好ましい。
【0230】
<リチウム二次電池>
次いで、本実施形態により製造されるCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の構成を説明する。
さらに、本実施形態により製造されるCAMを用いる場合に好適なリチウム二次電池用正極(以下、正極と称することがある。)について説明する。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
【0231】
本実施形態のCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0232】
リチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0233】
図1は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0234】
まず、図1に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0235】
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0236】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0237】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0238】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0239】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まずCAM、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0240】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)及び繊維状炭素材料などを挙げることができる。
【0241】
正極合剤中の導電材の割合は、100質量部のCAMに対して5-20質量部であると好ましい。
【0242】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂;ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の樹脂を挙げることができる。
【0243】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。
【0244】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、電極プレス工程を行って固着する方法が挙げられる。
【0245】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)が挙げられる。
【0246】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
【0247】
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0248】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物又は硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0249】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0250】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO及びSiOなど式SiO(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;SnO及びSnOなど式SnO(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;LiTi12及びLiVOなどのリチウムとチタンとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0251】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。負極活物質として使用可能な材料として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の材料を用いてもよい。
【0252】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0253】
負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い及び繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0254】
負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと記載することがある)、スチレンブタジエンゴム(以下、SBRと記載することがある)、ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
【0255】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。
【0256】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布又は乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0257】
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂又は含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布又は織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。また、JP-A-2000-030686又はUS20090111025A1に記載のセパレータを用いてもよい。
【0258】
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0259】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO及びLiPFなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
【0260】
また電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート類を用いることができる。
【0261】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
【0262】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。電解液に含まれる電解質および有機溶媒として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の電解質および有機溶媒を用いてもよい。
【0263】
<固体リチウム二次電池>
次いで、固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係るCAMを用いた固体リチウム二次電池用正極、及びこの正極を有する固体リチウム二次電池について説明する。
【0264】
図2は、本実施形態の固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。図2に示す固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側にCAMと負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。各部材を構成する材料については、後述する。
【0265】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0266】
固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0267】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルめっき鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0268】
固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0269】
固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0270】
以下、各構成について順に説明する。
【0271】
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0272】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様であるCAM及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0273】
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質及び有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質及び水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。各電解質としては、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2012/0251871A1、US2018/0159169A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0274】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物及びガーネット型酸化物などが挙げられる。各酸化物の具体例は、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2020/0259213A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0275】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiLa1-aTiO(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LiLa1-bTaO(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物及びLiLa1-cNbO(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0276】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAlTi2-d(PO(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物とは、Li (式中、Mは、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。m、n、o、p及びqは、任意の正数である。)で表される酸化物である。
【0277】
LISICON型酸化物としては、Li-Li(Mは、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表される酸化物などが挙げられる。
【0278】
ガーネット型酸化物としては、LiLaZr12(LLZともいう)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0279】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0280】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、LiS-P系化合物、LiS-SiS系化合物、LiS-GeS系化合物、LiS-B系化合物、LiI-SiS-P系化合物、LiI-LiS-P系化合物、LiI-LiPO-P系化合物及びLi10GeP12系化合物などを挙げることができる。
【0281】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「LiS」「P」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、LiS-P系化合物には、LiSとPとを主として含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。LiS-P系化合物に含まれるLiSの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して50~90質量%である。LiS-P系化合物に含まれるPの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して10~50質量%である。また、LiS-P系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して0~30質量%である。また、LiS-P系化合物には、LiSとPとの混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0282】
LiS-P系化合物としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI及びLiS-P-Z(m、nは正の数である。Zは、Ge、ZnまたはGaである。)などを挙げることができる。
【0283】
LiS-SiS系化合物としては、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-P-LiCl、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO及びLiS-SiS-LiMO(x、yは正の数である。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はInである。)などを挙げることができる。
【0284】
LiS-GeS系化合物としては、LiS-GeS及びLiS-GeS-Pなどを挙げることができる。
【0285】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0286】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH、LiBH-3KI、LiBH-PI、LiBH-P、LiBH-LiNH、3LiBH-LiI、LiNH、LiAlH、Li(NHI、LiNH、LiGd(BHCl、Li(BH)(NH)、Li(NH)I及びLi(BH)(NHなどを挙げることができる。
【0287】
(ポリマー系固体電解質)
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物及びポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプの電解質を用いることもできる。
【0288】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0289】
(導電材及びバインダー)
正極活物質層111が有する導電材としては、上述の(導電材)で説明した材料を用いることができる。また、正極合剤中の導電材の割合についても同様に上述の(導電材)で説明した割合を適用することができる。また、正極が有するバインダーとしては、上述の(バインダー)で説明した材料を用いることができる。
【0290】
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、上述の(正極集電体)で説明した材料を用いることができる。
【0291】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0292】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質、導電材及びバインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0293】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質及び導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0294】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、上述の(正極集電体)で説明した正極合剤をペースト化する場合に用いることができる有機溶媒と同じものを用いることができる。
【0295】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、上述の(正極集電体)で説明した方法が挙げられる。
【0296】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。正極110に用いる具体的な材料の組み合わせとしては、本実施形態に記載のCAMと表1に記載する組み合わせが挙げられる。
【0297】
【表1】
【0298】
【表2】
【0299】
【表3】
【0300】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。負極活物質、負極集電体、固体電解質、導電材及びバインダーは、上述したものを用いることができる。
【0301】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、及び負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0302】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
【0303】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0304】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0305】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極活物質層121が接する態様で負極120を積層させることで製造することができる。
【0306】
以上のような構成のリチウム二次電池において、本実施形態のCAMを用いているため、充電と放電を繰り返した場合でも放電容量を維持できるリチウム二次電池を提供できる。
【0307】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のCAMを有するため、リチウム二次電池の充電と放電を繰り返した場合でも放電容量を維持できる。
【0308】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、充電と放電を繰り返した場合でも放電容量を維持できる二次電池となる。
【0309】
固体リチウムイオン二次電池の電池性能は、以下の方法で求めた初回充放電効率により評価することができる。
【0310】
[初回充放電効率の測定]
<固体リチウムイオン二次電池の製造>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
【0311】
(正極合材の作製)
上述の方法で得られた正極活物質1.000gと、導電材(アセチレンブラック)0.0543gと、固体電解質(MSE社製、LiPSCl)8.6mgとを秤量する。正極活物質、導電材及び固体電解質を、乳鉢で15分間混合し、正極合材を作製する。
【0312】
(電池セル作成)
次に、全固体電池用電池セル(宝泉株式会社製HSSC-05、電極サイズφ10mm)内に、固体電解質(MSE社製、LiPSCl)を150mg入れ、一軸プレス機で29.3kNの負荷までセルを加圧し、固体電解質層を成形する。
【0313】
次いで、圧力を開放したのち、上ポンチを引き抜き、セル内で成型された固体電解質層の上に、上述の正極合材を14.4mg入れる。その上にSUS箔(φ10mm×0.5mm厚)を挿入し、上ポンチを再度挿入して手で押し込む。
【0314】
全固体電池セルを上下反転させ、正極合材側とは逆のポンチを引き抜き、固体電解質層の上に、負極としてφ8.5mmで打ち抜いたリチウム金属箔(厚さ50μm)とインジウム箔(厚さ100μm)を順に挿入する。
【0315】
さらに、負極に重ねてφ10mm、厚さ50μmのSUS箔を挿入した後、電池セルのポンチを入れて、一軸プレスで512kNの負荷までセルを加圧し、除圧後にケースのねじをセル内部拘束圧力が200MPaになるよう締め上げる。
【0316】
機密性を有しながら電気配線を内外へ繋げたガラスデシケータを準備し、上述の電池セルをガラスデシケータに入れ、セルの各電極とデシケータの配線を接続し、封をすることで硫化物系全固体リチウムイオン二次電池を作製する。完成した硫化物系全固体リチウムイオン二次電池は、アルゴン雰囲気グローブボックスから取り出され、下記評価を行う。
【0317】
<充放電試験>
上記の方法で作製した固体電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施する。
【0318】
(充放電条件)
試験温度:60℃
(充放電1回目(初回))
充電最大電圧3.68V、充電電流密度0.1C、カットオフ電流密度0.02C、定電流-定電圧充電
放電最小電圧1.88V、放電電流密度0.1C、定電流放電
【0319】
初回充電容量と初回放電容量とを用い、以下の式で求められる初回充放電効率を算出する。
(初回充放電効率)
初回充放電効率(%)
=初回放電容量/初回充電容量×100
【0320】
初回充放電効率(%)が70%以上であると、固体電池として良好に動作していると評価する。
【0321】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例0322】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0323】
<LiMO及びCAMの組成分析>
後述の方法で製造されるLiMO及びCAMの組成分析は、上記[組成分析]に記載の方法により実施した。
【0324】
<LiMO及びCAMの乾式粒度分布測定>
LiMO及びCAMについて、上記[乾式粒度分布測定]に記載の方法により累積粒度分布曲線を得た。
【0325】
<A0.4及びA0.1の測定>
0.4は、分散エア圧力を0.4MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値とした。
0.1は分散エア圧力を0.1MPaとして測定した際の(D90-D10)/D50の値とした。D10、D50、D90に関する説明は、上記と同様である。
【0326】
<LiMOの累積頻度(%)の積分値の算出>
LiMOの累積頻度(%)の積分値は、上記[累積頻度(%)の積分値の算出]に記載の方法により算出した。
【0327】
<分散エア圧力と粒子径の関係の評価>
LiMOの直線の傾きの絶対値は、上記[分散エア圧力と粒子径の関係の評価]に記載の方法により算出した。
【0328】
<元素Aの表面存在率の測定>
CAMの被覆元素Aの表面存在率は、上記[元素Aの表面存在率の測定方法]に記載の方法により測定した。
【0329】
<湿式粒度分布測定によるWD50及びWDminの測定>
CAMのWD50及びWDminは、上記[湿式粒度分布測定によるWD50及びWDminの測定]に記載の方法により測定した。
【0330】
上記<固体リチウムイオン二次電池の製造>に記載の方法により、固体リチウムイオン二次電池を製造した。
【0331】
製造した固体リチウム二次電池及び液系リチウム二次電池について、上記<充放電試験>に記載の方法により充放電試験を実施し、放電容量の値をもとに、電池性能を評価した。
【0332】
<実施例1>
(CAM1の製造)
[LiMOの製造工程]
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.58:0.20:0.22となる割合で混合して、混合原料液1を調製した。
【0333】
次に、反応槽内に、攪拌下、混合原料液1を硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.1(水溶液の液温が40℃のとき)になる条件で水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0334】
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して105℃、20時間で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0335】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03となる割合で秤量して混合し、混合物1を得た。
その後、混合物1を酸素雰囲気下で650℃で5時間、一次焼成した。
次いで、酸素雰囲気下850℃で5時間、二次焼成して、二次焼成品を得た。
二次焼成の昇温速度は134℃/時間とし、降温速度は134℃/時間とした。
【0336】
得られた二次焼成品をマスコロイダー型粉砕機で粉砕し、粉砕物を得た。マスコロイダー型粉砕機の運転条件及び使用装置は下記の通りとした。
(マスコロイダー型粉砕機運転条件)
使用装置:増幸産業社製MKCA6-5J
回転数:1200rpm
間隔:100μm
仕込み量:3.42kg
回収量:3.37kg
【0337】
得られた粉砕物を、ターボスクリーナで篩別することで、LiMO1を得た。ターボスクリーナの運転条件、篩別条件は下記の通りとした。
【0338】
[ターボスクリーナの運転条件、篩別条件]
得られた粉砕物を、ターボスクリーナ(TS125×200型、フロイント・ターボ株式会社製)で篩分けした。ターボスクリーナの運転条件は下記の通りとした。
(ターボスクリーナ運転条件)
使用スクリーン:45μmメッシュ、ブレード回転数:1800rpm、供給速度:50kg/時間
【0339】
(LiMO1の評価)
LiMO1はA0.4/A0.1が1.01であり、積分値が1.4%であり、傾きの絶対値が0.98であった。LiMO1の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]Oの組成式で表すと、x=0.07、y=0.20、z=0.22、w=0であった。LiMO1は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含んでいた。
【0340】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
ドライ窒素雰囲気中で、412.0gの脱水エタノール(水分含有量は0.005重量%以下、和光純薬社製)に、30.8gのエトキシリチウム(高純度化学社製)を添加した。次に、5.1gのペンタエトキシニオブ(高純度化学社製)を溶解し、混合してコート液1を得た。
【0341】
(被覆工程)
被覆工程には、転動流動コーティング装置(パウレック製、MP-01)を使用した。
600gのLiMO1の粉末を、真空雰囲気下、120℃で10時間乾燥させる前処理を実施した。
その後、下記の条件でLiMO1の表面をコート液1を用いてコートした。
導入空気:脱二酸化炭素空気
給気風量:0.23m/min
給気温度:200℃
スプレータイプ:二流体ノズル(型式MPXII-LP)
二流体ノズル液流量:3.0g/min
二流体ノズルエア流量:30NL/min
ロータ回転速度:400rpm
二流体ノズルエア圧力:0.07MPaG
:0.05W/g
【0342】
(熱処理工程)
コート液1でコートした後、酸素雰囲気下、200℃で5時間熱処理し、CAM1を得た。
【0343】
[CAM1の評価]
CAM1は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はNbを有していた。
CAM1のNbの表面存在率は81%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.50であり、Z0.4/Z0.1は1.02であった。CAM1の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.06、b=0.20、c=0.21、d=0.02であった。
【0344】
<実施例2>
(CAM2の製造)
[LiMOの製造工程]
上記と同様の方法により、LiMO1を得た。
【0345】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
354.9gの濃度30質量%のH水と、402.6gの純水と、18.0gの酸化ニオブ水和物Nb・3HO(含有率72%)とを混合した。次に、35.8gの濃度28質量%のアンモニア水を添加し、攪拌した。さらに、5.1gのLiOH・HOを加えることにより、ニオブのペルオキソ錯体およびリチウムを含有するコート液2を得た。
【0346】
(被覆工程)
被覆工程には、転動流動コーティング装置(パウレック製、MP-01)を使用した。
500gのLiMO1の粉末を、真空雰囲気下、120℃で10時間乾燥させる前処理を実施した。
その後、下記の条件でLiMO1の表面をコート液2を用いてコートした。
導入空気:脱二酸化炭素空気
給気風量:0.23m/min
給気温度:200℃
スプレータイプ:二流体ノズル(型式MPXII-LP)
二流体ノズル液流量:2.7g/min
二流体ノズルエア流量:30NL/min
ロータ回転速度:400rpm
二流体ノズルエア圧力:0.07MPaG
:0.06W/g
【0347】
(熱処理工程)
その後、酸素雰囲気下、200℃で5時間熱処理し、CAM2を得た。
【0348】
[CAM2の評価]
CAM2は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はNbを有していた。
CAM2のNbの表面存在率は86%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.50であり、Z0.4/Z0.1は0.88であった。CAM2の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.13、b=0.20、c=0.21、d=0.02であった。
【0349】
<実施例3>
(CAM3の製造)
[LiMOの製造工程]
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を、広東桂納社製のNi/Co/Mn=60/20/20、D50が5μm~6μmの材料を用い、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05とし、二次焼成の温度を820℃とし、二次焼成の昇温速度を129℃/時間とし、降温速度は129℃/時間とした以外は実施例1と同様の方法により、LiMO2を得た。
【0350】
(LiMO2の評価)
LiMO2はA0.4/A0.1が0.91であり、積分値が0.35%であり、傾きの絶対値が1.15であった。LiMO2の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]Oの組成式で表すと、x=0.07、y=0.20、z=0.20、w=0であった。LiMO2は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含んでいた。
【0351】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
ドライ窒素雰囲気中で、393.7gの脱水エタノール(水分含有量は0.005重量%以下、和光純薬社製)に、29.2gのエトキシリチウム(高純度化学社製)を添加した。次に、4.9gのペンタエトキシニオブ(高純度化学社製)を溶解し、混合してコート液3を得た。
【0352】
(被覆工程)
被覆工程には、転動流動コーティング装置(パウレック製、MP-01)を使用した。
600gのLiMO2の粉末を、真空雰囲気下、120℃で10時間乾燥させる前処理を実施した。
その後、下記の条件でLiMO2の表面をコート液3を用いてコートした。
導入空気:脱二酸化炭素空気
給気風量:0.23m/min
給気温度:200℃
スプレータイプ:二流体ノズル(型式MPXII-LP)
二流体ノズル液流量:3.0g/min
二流体ノズルエア流量:50NL/min
ロータ回転速度:400rpm
二流体ノズルエア圧力:0.15MPaG
:0.14W/g
【0353】
(熱処理工程)
その後、酸素雰囲気下、200℃で5時間熱処理し、CAM3を得た。
【0354】
[CAM3の評価]
CAM3は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はNbを有していた。
CAM3のNbの表面存在率は89%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.40であり、Z0.4/Z0.1は1.02であった。CAM3の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.03、b=0.20、c=0.20、d=0.02であった。
【0355】
<実施例4>
(CAM4の製造)
[LiMOの製造工程]
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を、広東桂納社製のNi/Co/Mn=75/12.5/12.5、D50が3μmの材料を用い、二次焼成の温度を800℃とし、二次焼成の昇温速度を125℃/時間とし、降温速度は125℃/時間とし、二次焼成品をマスコロイダー型粉砕機で粉砕後にピンミルでさらに粉砕した以外は実施例1と同様の方法により、LiMO3を得た。
(ピンミル粉砕条件)
使用装置:ミルシステム社製、AVIS100
回転数:12000rpm
供給速度:8kg/h
【0356】
(LiMO3の評価)
LiMO3はA0.4/A0.1が0.99であり、積分値が0.01%であり、傾きの絶対値が0.82であった。LiMO3の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]Oの組成式で表すと、x=0.03、y=0.12、z=0.13、w=0であった。LiMO3は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含んでいた。
【0357】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
325.5gの濃度30質量%のH水と、369.2gの純水と、16.5gの酸化ニオブ水和物Nb・3HO(含有率72%)とを混合した。次に、32.9gの濃度28質量%のアンモニア水を添加し、攪拌した。さらに、4.7gのLiOH・HOを加えることにより、ニオブのペルオキソ錯体およびリチウムを含有するコート液4を得た。
【0358】
(被覆工程)
コート液4を用いた以外は実施例2と同様の方法によりCAM4を製造した。
【0359】
[CAM4の評価]
CAM4は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はNbを有していた。
CAM4のNbの表面存在率は89%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.47であり、Z0.4/Z0.1は0.69であった。CAM4の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.07、b=0.12、c=0.12、d=0.03であった。
【0360】
<実施例5>
(CAM5の製造)
[LiMOの製造工程]
上記と同様の方法により、LiMO1を得た。
【0361】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
364.6gの濃度30質量%のH水と、413.6gの純水と、18.5gの酸化ニオブ水和物Nb・3HO(含有率72%)とを混合した。次に、36.8gの濃度28質量%のアンモニア水を添加し、攪拌した。さらに、5.3gのLiOH・HOを加えることにより、ニオブのペルオキソ錯体およびリチウムを含有するコート液5を得た。
【0362】
(被覆工程)
被覆工程には、転動流動コーティング装置(パウレック製、MP-01)を使用した。
500gのLiMO1の粉末を、真空雰囲気下、120℃で10時間乾燥させる前処理を実施した。
その後、下記の条件でLiMO1の表面をコート液5を用いてコートした。
導入空気:脱二酸化炭素空気
給気風量:0.23m/min
給気温度:200℃
スプレータイプ:二流体ノズル(型式MPXII-LP)
二流体ノズル液流量:2.7g/min
二流体ノズルエア流量:20NL/min
ロータ回転速度:400rpm
二流体ノズルエア圧力:0.02MPaG
:0.02W/g
【0363】
(熱処理工程)
その後、酸素雰囲気下、200℃で5時間熱処理し、CAM5を得た。
【0364】
[CAM5の評価]
CAM5は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はNbを有していた。
CAM5のNbの表面存在率は88%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.51であり、Z0.4/Z0.1は1.01であった。CAM5の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.10、b=0.20、c=0.22、d=0.03であった。
【0365】
<実施例6>
(CAM6の製造)
[LiMOの製造工程]
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を、広東桂納社製のNi/Co/Mn=60/20/20、D50が5μm~6μmの材料を用い、二次焼成の温度を840℃とし、二次焼成の昇温速度を132℃/時間とし、降温速度は132℃/時間した以外は実施例1と同様の方法により、LiMO4を得た。
【0366】
(LiMO4の評価)
LiMO4はA0.4/A0.1が1.14であり、積分値が7.99%であり、傾きの絶対値が3.87であった。LiMO4の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]Oの組成式で表すと、x=0.03、y=0.20、z=0.22、w=0であった。LiMO4は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含んでいた。
【0367】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
517.3gの純水と、3.8gのホウ酸(HBO)と、9.1gの水酸化リチウム一水和物とを添加し、2時間混合し、コート液6を得た。
【0368】
(被覆工程)
被覆工程には、転動流動コーティング装置(パウレック製、MP-01)を使用した。
500gのLiMO4の粉末を、真空雰囲気下、120℃で10時間乾燥させる前処理を実施した。
その後、下記の条件でLiMO4の表面をコート液6を用いてコートした。
導入空気:脱二酸化炭素空気
給気風量:0.23m/min
給気温度:200℃
スプレータイプ:二流体ノズル(型式MPXII-LP)
二流体ノズル液流量:3.0g/min
二流体ノズルエア流量:30NL/min
ロータ回転速度:400rpm
二流体ノズルエア圧力:0.07MPaG
:0.06W/g
【0369】
(熱処理工程)
その後、酸素雰囲気下、300℃で5時間熱処理し、CAM6を得た。
【0370】
[CAM6の評価]
CAM6は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はBを有していた。
CAM6のBの表面存在率は81%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.43であり、Z0.4/Z0.1は1.31であった。CAM6の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.11、b=0.20、c=0.20、d=0.01であった。
【0371】
<比較例1>
(CAM11の製造)
[LiMOの製造工程]
Li/(Ni+Co+Mn)=1.10とし、二次焼成を720℃で5時間とし、二次焼成の昇温速度を114℃/hとし、降温速度を114℃/hに変更して二次焼成品を得た。二次焼成品を純水でスラリー濃度40質量%、20分間攪拌して洗浄した。その後、窒素雰囲気下、250℃で10時間乾燥させた以外はLiMO1と同様の方法によりLiMO5を得た。
【0372】
(LiMO5の評価)
LiMO5はA0.4/A0.1が1.9であり、積分値が28.7%であり、傾きの絶対値が19.7であった。LiMO5の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]Oの組成式で表すと、x=0.02、y=0.09、z=0、w=0であった。LiMO5は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含んでいた。
【0373】
[被覆層を形成する工程]
ドライ窒素雰囲気中で、159.6gの脱水エタノール(水分含有量は0.005重量%以下、和光純薬社製)に、11.9gのエトキシリチウム(高純度化学社製)を添加した。次に、2.0gのペンタエトキシニオブ(高純度化学社製)を溶解し、混合してコート液7を得た。
【0374】
(被覆工程)
被覆工程には、転動流動コーティング装置(パウレック製、MP-01)を使用した。
500gのLiMO5の粉末を、真空雰囲気下、120℃で10時間乾燥させる前処理を実施した。
その後、下記の条件でLiMO5の表面をコート液7を用いてコートした。
導入空気:脱二酸化炭素空気
給気風量:0.23m/min
給気温度:200℃
スプレータイプ:二流体ノズル(型式MPXII-LP)
二流体ノズル液流量:2.7g/min
二流体ノズルエア流量:50NL/min
ロータ回転速度:400rpm
二流体ノズルエア圧力:0.15MPaG
:0.14W/g
【0375】
(熱処理工程)
その後、酸素雰囲気下、200℃で5時間熱処理し、CAM11を得た。
【0376】
[CAM11の評価]
CAM11は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はNbを有していた。
CAM11のNbの表面存在率は65%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.62であり、Z0.4/Z0.1は1.70であった。CAM11の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.03、b=0.09、c=0、d=0.04であった。
【0377】
<比較例2>
(CAM12の製造)
[LiMOの製造工程]
Li/(Ni+Co+Mn)=1.06とした以外はLiMO2と同様の方法により、LiMO6を得た。
【0378】
(LiMO6の評価)
LiMO6はA0.4/A0.1が0.91であり、積分値が0.35%であり、傾きの絶対値が1.15であった。LiMO6の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]Oの組成式で表すと、x=0.07、y=0.20、z=0.20、w=0であった。LiMO6は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含んでいた。
【0379】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
261.5gの濃度30質量%のH水と、296.6gの純水と、13.3gの酸化ニオブ水和物Nb・3HO(含有率72%)とを混合した。次に、26.4gの濃度28質量%のアンモニア水を添加し、攪拌した。さらに、3.8gのLiOH・HOを加えることにより、ニオブのペルオキソ錯体およびリチウムを含有するコート液8を得た。
【0380】
(被覆工程)
被覆工程には、転動流動コーティング装置(パウレック製、MP-01)を使用した。
500gのLiMO6の粉末を、真空雰囲気下、120℃で10時間乾燥させる前処理を実施した。
その後、下記の条件でLiMO6の表面をコート液8を用いてコートした。
導入空気:脱二酸化炭素空気
給気風量:0.23m/min
給気温度:200℃
スプレータイプ:二流体ノズル(型式MPXII-LP)
二流体ノズル液流量:2.7g/min
二流体ノズルエア流量:100NL/min
ロータ回転速度:400rpm
二流体ノズルエア圧力:0.42MPaG
:0.59W/g
【0381】
(熱処理工程)
その後、酸素雰囲気下、200℃で5時間熱処理し、CAM12を得た。
【0382】
[CAM12の評価]
CAM12は、LiMOの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はNbを有していた。
CAM12のNbの表面存在率は45%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.50であり、Z0.4/Z0.1は0.92であった。CAM12の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.05、b=0.20、c=0.19、d=0.02であった。
【0383】
<比較例3>
(CAM13の製造)
[LiMOの製造工程]
Li/(Ni+Co+Mn)=1.03、二次焼成の温度を840℃、二次焼成の昇温速度を132℃/h、降温速度を132℃/hとした以外はLiMO6と同様にLiMO7を得た。
【0384】
(LiMO7の評価)
LiMO7はA0.4/A0.1が1.14であり、積分値が7.99%であり、傾きの絶対値が3.87であった。LiMO7の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]Oの組成式で表すと、x=0.03、y=0.20、z=0.20、w=0であった。LiMO7は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含んでいた。
【0385】
[被覆層を形成する工程]
(コート液の調製工程)
9243.4gの純水に、77.8gのホウ酸と、155.6gの水酸化リチウムを添加し、2時間混合してコート液9を得た。
【0386】
(被覆工程)
被覆工程には、堅型ミキサー(日本コークス社製、FM20C/L)を使用した。
10kgのLiMO7の表面をコート液9を用いてコートした。
導入空気:空気
給気風量:空気なし
給気温度:ジャケット油温度は150℃
スプレータイプ:二流体ノズル(アトマックス製、AM25S-ISVL)
二流体ノズル液流量:26g/min
二流体ノズルエア流量:14NL/min
ミキサー回転速度:1050rpm
二流体ノズルエア圧力:0.1MPaG
:0.002W/g
【0387】
(熱処理工程)
その後、酸素雰囲気下、300℃で5時間熱処理し、CAM13を得た。
【0388】
[CAM13の評価]
CAM13は、LiMOの少なくとも一部を被覆する被覆層を備えていた。被覆層はBを有していた。
CAM13の表面存在率は54%であり、(WD50-WDmin)/WD50は0.41であり、Z0.4/Z0.1は1.43であった。CAM13の組成分析を行い、Li[Li(Ni(1-b-c-d)CoMn1-a]Oの組成式で表すと、a=0.09、b=0.20、c=0.20、d=0.01であった。
【0389】
[電池性能の評価]
CAM13を使用した固体リチウムイオン二次電池の初回充放電効率は63.3%であった。
【0390】
下記表4に、実施例1~6、比較例1~3の製造条件、LiMO及びCAMの物性を記載する。
【0391】
【表4】
【0392】
下記表5に、実施例2~6、比較例3の初回充放電効率の結果を記載する。
【0393】
【表5】
【符号の説明】
【0394】
1:セパレータ、3:負極、4:電極群、5:電池缶、6:電解液、7:トップインシュレーター、8:封口体、10:リチウム二次電池、21:正極リード、100:積層体、110:正極、111:正極活物質層、112:正極集電体、113:外部端子、120:負極、121:負極活物質層、122:負極集電体、123:外部端子、130:固体電解質層、200:外装体、200a:開口部、1000:固体リチウム二次電池
図1
図2
図3
図4
図5