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特開2023-116241表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法、表面処理装置およびフッ素樹脂-エラストマー複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116241
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法、表面処理装置およびフッ素樹脂-エラストマー複合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/18 20060101AFI20230815BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C08J7/18 CEW
C23C14/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018936
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】000145471
【氏名又は名称】株式会社十川ゴム
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】大久保 雅章
(72)【発明者】
【氏名】井田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】西川 正一
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】澤田 康志
【テーマコード(参考)】
4F073
4K029
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073BA16
4F073BB03
4F073BB09
4F073CA02
4F073CA08
4F073DA09
4F073HA04
4F073HA09
4F073HA12
4K029AA11
4K029BA62
4K029CA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、フッ素樹脂の表面に均質な表面被覆層を形成することができる表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法は、不活性ガスを含む気体が流れるガス流路における誘電体バリア放電による大気圧プラズマによりフッ素樹脂基体の表面をプラズマ処理し、有機化合物の蒸気により前記表面に表面被覆層を形成する表面処理工程を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスを含む気体が流れるガス流路における誘電体バリア放電による大気圧プラズマによりフッ素樹脂基体の表面をプラズマ処理し、有機化合物の蒸気により前記表面に表面被覆層を形成する表面処理工程を含むことを特徴とする表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法。
【請求項2】
前記表面処理工程において、前記有機化合物の液体を溜めた蒸気発生槽のヘッドスペースに不活性ガスを流入させることにより前記ヘッドスペースから排出される前記有機化合物の蒸気を含むガスを前記ガス流路へ供給する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記蒸気発生槽における前記有機化合物の液体の液面の面積又は前記液体の温度を調節することにより前記ガス流路に供給する有機化合物の蒸気の量を制御する請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機化合物は、分子内に二重結合を有するモノマーであり、
前記表面被覆層は、樹脂層であり、
前記表面処理工程は、プラズマグラフト重合により前記樹脂層を形成する工程である請求項1~3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物は、(メタ)アクリル系モノマーであり、
前記表面被覆層は、(メタ)アクリル系樹脂層であり、
前記表面処理工程は、プラズマグラフト重合により前記(メタ)アクリル系樹脂層を形成する工程である請求項1~4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
第1電極及び第2電極を有する放電反応器と、第1及び第2電極のうち少なくとも一方に電気的に接続した電源装置と、前記放電反応器に不活性ガスを供給するように設けられた不活性ガス供給部と、前記放電反応器に有機化合物の蒸気を供給するように設けられた蒸気発生槽とを備え、
前記放電反応器は、第1電極と第2電極との間に処理対象物であるフッ素樹脂基体を配置するように設けられ、
前記蒸気発生槽及び前記不活性ガス供給部は、前記有機化合物を溜めた前記蒸気発生槽のヘッドスペースに不活性ガスを流入させることにより前記ヘッドスペースから排出される前記有機化合物の蒸気を含むガスを前記放電反応器へ供給するように設けられた表面処理装置。
【請求項7】
前記蒸気発生槽は、不活性ガスを前記蒸気発生槽内に流入させるように設けられたガス注入口と、前記蒸気発生槽内のガスを排出するように設けられたガス排出口とを備え、
前記ガス注入口及び前記ガス排出口は、前記ヘッドスペースにおいて不活性ガスが前記有機化合物の液面と平行に流れるように設けられた請求項6に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記放電反応器は、外筒を有し、
前記フッ素樹脂基体は、管形状を有し、かつ、前記外筒の内部に配置され、
第2電極は、前記フッ素樹脂基体の内部に配置され、
第1電極は、前記外筒の外表面上に配置され、
前記不活性ガス供給部及び前記蒸気発生槽は、前記外筒と前記フッ素樹脂基体との間のガス流路に前記有機化合物の蒸気及び不活性ガスを供給するように設けられた請求項6又は7に記載の表面処理装置。
【請求項9】
フッ素樹脂基体と、前記フッ素樹脂基体の表面を覆う(メタ)アクリル系樹脂層と、前記(メタ)アクリル系樹脂層を介して前記フッ素樹脂基体と接合したエラストマー部材とを備えたフッ素樹脂-エラストマー複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法、表面処理装置およびフッ素樹脂-エラストマー複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE、PCTFE、PFAなどのフッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、ガスバリア性などにおいて優れた性能を有し、様々な用途に用いられている。しかし、フッ素樹脂は、他の材料との接着性が低く、接合界面においてはがれやすい。
フッ素樹脂の表面処理方法として、大気圧プラズマ重合処理を施す方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。フッ素樹脂の表面にこのような大気圧プラズマ重合処理を施すことにより、フッ素樹脂の接着性を向上させることができる。
特許文献1では、アルゴンガスを液槽中の液状のアクリル酸モノマーにバブリングさせることにより生成される混合ガス(アクリル酸モノマーの蒸気とアルゴンガスの混合ガス)を放電ノズルに供給しながら、放電ノズルで生じさせたコロナ放電によるプラズマによりPTFE板の表面処理を行っている。
特許文献2では、処理室に設置したモノマーガス供給装置中の液状のアクリル酸を60℃に加熱することにより処理室中にアクリル酸の蒸気を供給し、この処理室においてコロナ放電によるプラズマによりPTFEフィルムの表面処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-188570号公報
【特許文献2】特開2012-233038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コロナ放電によるプラズマによりフッ素樹脂の表面処理を行う場合、プラズマトーチを移動させながらフッ素樹脂の表面を処理する。このため、フッ素樹脂の表面に均質な表面被覆層を形成することは難しい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、フッ素樹脂の表面に均質な表面被覆層を形成することができる表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、不活性ガスを含む気体が流れるガス流路における誘電体バリア放電による大気圧プラズマによりフッ素樹脂基体の表面をプラズマ処理し、有機化合物の蒸気により前記表面に表面被覆層を形成する表面処理工程を含むことを特徴とする表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
電極間に誘電体であるフッ素樹脂基体を配置して誘電体バリア放電による大気圧プラズマを発生させることができる。このプラズマ中で発生している高エネルギーの電子がフッ素樹脂基体に衝突してラジカルを発生させることができる。このフッ素樹脂基体のラジカルと有機化合物とが反応することにより有機化合物がフッ素樹脂基体の表面と化学結合する。このことにより、フッ素樹脂基体の表面に強固に結合した表面被覆層を形成することができ、フッ素樹脂基体の接着性を向上させることが可能になる。また、有機化合物から表面被覆層を形成するため、表面処理の効果を長時間持続させることができる。
不活性ガスを含む気体が流れるガス流路における誘電体バリア放電では、安定して一様な大気圧プラズマを発生させることができる。このため、フッ素樹脂基体の表面に均質な表面被覆層を形成することができ、フッ素樹脂基体の接着性にムラが生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態の表面処理装置の概略断面図である。
図2図1の点線E-E又は点線F-Fにおける表面処理装置の概略断面図である。
図3】(a)~(d)はそれぞれ蒸気発生槽の概略断面図である。
図4】フッ素樹脂-エラストマー複合体の製造方法の説明図である。
図5】フッ素樹脂-エラストマー複合体の概略断面図である。
図6】剥離試験の説明図である。
図7】アクリル酸濃度測定箇所の説明図である。
図8】アクリル酸濃度測定の結果を示すグラフである。
図9】接触角測定の結果及びアクリル酸濃度測定の結果を示す表である。
図10】剥離試験用試料の位置を示すフッ素樹脂基体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法は、不活性ガスを含む気体が流れるガス流路における誘電体バリア放電による大気圧プラズマによりフッ素樹脂基体の表面をプラズマ処理し、有機化合物の蒸気により前記表面に表面被覆層を形成する表面処理工程を含むことを特徴とする。
【0009】
バブリングにより有機化合物の蒸気を発生させる従来の方法(例えば、特許文献1)では、バブリングにより有機化合物のミストが発生しこのミストが、有機化合物の蒸気を含むガスに混入し、有機化合物の濃度が高くなる場合がある。この場合、この高濃度の有機化合物がプラズマ処理に影響を与え、フッ素樹脂基体の接着性を安定して向上させることが難しい。また、液状の有機化合物を溜めた開放容器を放電反応器内に設置する従来方法(例えば、特許文献2)では、放電反応器の内部の有機化合物濃度に経時変化が発生し、有機化合物の濃度を精密に制御することが困難である。また、放電反応器内の気体を、有機化合物の蒸気を含む不活性ガスと、有機化合物の蒸気を含まない不活性ガスとを切り替えることが難しい。
本発明の製造方法の表面処理工程において、有機化合物の液体を溜めた蒸気発生槽のヘッドスペースに不活性ガスを注入することにより前記ヘッドスペースから排出される有機化合物の蒸気を含むガスを前記ガス流路へ供給することが好ましい。このことにより、有機化合物の蒸気を安定した濃度で含む不活性ガスを放電反応器のガス流路に供給することができ、プラズマ処理によりフッ素樹脂基体の接着性を安定して向上させることが可能になる。
前記表面処理工程において、有機化合物の液体を溜めた蒸気発生槽のヘッドスペースに不活性ガスを有機化合物の液面に平行に注入することが好ましい。このことにより、ヘッドスペースに流入させた不活性ガスが有機化合物の液面に吹き付けられることを抑制することができ、液面が波立ち泡やミストが生じることを抑制することができる。この結果、放電反応器のガス流路に供給するガス中の有機化合物濃度が異常に高くなることを抑制することができ、有機化合物の蒸気を安定した濃度で含む不活性ガスを放電反応器のガス流路に供給することができる。
【0010】
前記蒸気発生槽における前記有機化合物の液体の液面の面積又は前記液体の温度を調節することにより前記ガス流路に供給する有機化合物の蒸気の量を制御することが好ましい。このことにより、有機化合物の蒸気を適切な濃度で含む不活性ガスを前記ガス流路に供給することができる。
好ましくは、前記有機化合物は、分子内に二重結合を有するモノマーであり、前記表面被覆層は、樹脂層であり、前記表面処理工程は、プラズマグラフト重合により前記樹脂層を形成する工程である。この樹脂層は、フッ素樹脂基体の表面に化学結合しているため、フッ素樹脂基体から剥離しにくい。このため、樹脂層を介して、フッ素樹脂基体と他の部材とを強固に接合することが可能になる。
好ましくは、前記有機化合物は、(メタ)アクリル系モノマーであり、前記表面被覆層は、(メタ)アクリル系樹脂層であり、前記表面処理工程は、プラズマグラフト重合により前記(メタ)アクリル系樹脂層を形成する工程である。この(メタ)アクリル系樹脂層は、フッ素樹脂基体の表面に化学結合しているため、フッ素樹脂基体から剥離しにくい。このため、(メタ)アクリル系樹脂層を介して、フッ素樹脂基体と他の部材とを強固に接合することが可能になる。
【0011】
本発明は、第1電極及び第2電極を有する放電反応器と、第1及び第2電極のうち少なくとも一方に電気的に接続した電源装置と、前記放電反応器に不活性ガスを供給するように設けられた不活性ガス供給部と、前記放電反応器に有機化合物の蒸気を供給するように設けられた蒸気発生槽とを備え、前記放電反応器は、第1電極と第2電極との間に処理対象物であるフッ素樹脂基体を配置するように設けられ、前記蒸気発生槽及び前記不活性ガス供給部は、前記有機化合物を溜めた前記蒸気発生槽のヘッドスペースに不活性ガスを注入することにより前記ヘッドスペースから排出される前記有機化合物の蒸気を含むガスを前記放電反応器へ供給するように設けられた表面処理装置も提供する。
放電反応器は第1電極と第2電極との間に処理対象物であるフッ素樹脂基体を配置するように設けられているため、フッ素樹脂基体に隣接するガス流路に誘電体バリア放電による大気圧プラズマを発生させることができる。
前記蒸気発生槽及び前記不活性ガス供給部は、有機化合物の液面上部のヘッドスペースに不活性ガスを供給することにより前記ヘッドスペースから排出される前記有機化合物の蒸気を含むガスを前記放電反応器へ供給するように設けられているため、有機化合物の蒸気を安定した濃度で含む不活性ガスを放電反応器のガス流路に供給することができ、プラズマ処理によりフッ素樹脂基体の接着性を安定して向上させることが可能になる。
【0012】
前記蒸気発生槽は、不活性ガスを前記蒸気発生槽内に注入するように設けられたガス注入口と、前記蒸気発生槽内のガスを排出するように設けられたガス排出口とを備えることが好ましく、前記ガス注入口及び前記ガス排出口は、前記ヘッドスペースにおいて不活性ガスが前記有機化合物の液面と平行に流れるように設けられることが好ましい。このことにより、有機化合物の蒸気を安定した濃度で含む不活性ガスを放電反応器のガス流路に供給することができ、プラズマ処理によりフッ素樹脂基体の接着性を安定して向上させることが可能になる。
【0013】
好ましくは、前記放電反応器は、外筒を有し、前記フッ素樹脂基体は、管形状を有し、かつ、前記外筒の内部に配置され、第2電極は、前記フッ素樹脂基体の内部に配置され、第1電極は、前記外筒の外表面上に配置され、前記不活性ガス供給部及び前記蒸気発生槽は、前記外筒と前記フッ素樹脂基体との間のガス流路に前記有機化合物の蒸気及び不活性ガスを供給するように設けられる。このことにより、第1電極と第2電極との間の距離を短くして第1電極と第2電極とを平行に配置することができ、ガス流路に安定した大気圧プラズマを発生させることができる。この大気圧プラズマによりフッ素樹脂基体の表面を均質にプラズマ処理することができる。
本発明は、フッ素樹脂基体と、前記フッ素樹脂基体の表面を覆う(メタ)アクリル系樹脂層と、前記(メタ)アクリル系樹脂層を介して前記フッ素樹脂基体と接合したエラストマー部材とを備えたフッ素樹脂-エラストマー複合体も提供する。このフッ素樹脂-エラストマー複合体は、エラストマー特性を有し、かつ、その表面がフッ素樹脂の特性を有するため様々な用途に利用することができる。
【0014】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
図1は本実施形態の表面処理装置の概略断面図であり、図2図1の点線E-E又は点線F-Fにおける表面処理装置の概略断面図である。
本実施形態の表面被覆フッ素樹脂基体17の製造方法は、不活性ガスを含む気体が流れるガス流路20における誘電体バリア放電による大気圧プラズマによりフッ素樹脂基体5の表面をプラズマ処理し、有機化合物の蒸気により前記表面に表面被覆層6を形成する表面処理工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本実施形態の表面被覆フッ素樹脂基体17の製造方法に用いる表面処理装置40は、第1電極2及び第2電極3を有する放電反応器4と、第1電極2及び第2電極3のうち少なくとも一方に電気的に接続した電源装置10と、放電反応器4に不活性ガスを供給するように設けられた不活性ガス供給部11と、放電反応器4に有機化合物の蒸気を供給するように設けられた蒸気発生槽7とを備える。放電反応器4は、第1電極2と第2電極3との間に処理対象物であるフッ素樹脂基体5を配置するように設けられ、蒸気発生槽7及び不活性ガス供給部11は、有機化合物8の液面上部のヘッドスペース9に不活性ガスを供給することによりヘッドスペース9から排出される有機化合物の蒸気を含むガスを放電反応器4へ供給するように設けられる。
【0017】
誘電体バリア放電は、電極間に誘電体(例えば、外筒15及びフッ素樹脂基体5)を配置した状態で電極に交流電圧を印加することにより電極間のガス流路にプラズマを発生させる放電である。また、大気圧プラズマとは、プラズマを発生させる電極間のガス流路の圧力を大気圧にして又は大気圧に近い圧力にして発生させるプラズマである。誘電体バリア放電による大気圧プラズマは、例えば、図1に示したような表面処理装置40を用いて発生させることができる。
【0018】
放電反応器4は、ガス流路20に大気圧プラズマを発生させフッ素樹脂基体5を表面処理するための反応器である。放電反応器4は、第1電極2及び第2電極3を含む。第1電極2及び第2電極3は、電極間のガス流路20に大気圧プラズマを発生させるための電極であり、電源装置10を用いて第1電極2と第2電極3との間に交流電圧を印加することによりガス流路20に大気圧プラズマを発生させることができる。ガス流路20は、例えば、フッ素樹脂基体5と外筒15との間に形成することができる。また、第1電極2は、外筒15の外側表面上に配置することができる。第1電極2は、金属膜であってもよく、金属メッシュであってもよい。第1電極2の材質は、例えば、銀、銅、アルミニウムなどである。
【0019】
外筒15は、誘電体材料からなる管を含むことができ、例えば、ガラス管を含み、好ましくは石英ガラス管を含む。外筒15は透光性を有することが好ましい。このことにより、大気圧プラズマの状態を目視で確認することができる。また、外筒は、継手を用いて複数の管を継ぎ合わせたものであってもよい。この場合、外周面に金属膜(第1電極2)を有するガラス管を継手を用いて他の管と継ぎ合わせることができる。
外筒15は、注入口と排出口とを有することができる。また、注入口及び排出口は、注入口から放電反応器4中に注入されたガスがフッ素樹脂基体5と外筒15との間のガス流路20(第1電極2と第2電極3との間のガス流路20)を流れ排出口から排出されるように設けることができる。
【0020】
第2電極3は、外筒15の内部に配置され、外筒15及びフッ素樹脂基体5を挟んで第1電極2と対向するように配置される。また、第2電極3は、例えば、金属管とすることができ、具体的には、ステンレス鋼管とすることができる。この場合、第2電極3は、外筒15と第2電極3とが二重管となり外筒15と第2電極3との間にガス流路20が形成されるように配置することができる。
【0021】
フッ素樹脂基体5は、フッ素樹脂を含む基体であり、例えば、フッ素樹脂チューブ、フッ素樹脂シートなどである。フッ素樹脂基体5の厚さは、例えば、10μm以上3mm以下である。フッ素樹脂基体5の材料は、例えば、PTFE、変性PTFE、PFA、PCTFE、PVDF、PVF、FEP、ETFE、ECTFEなどのフッ素樹脂である。
【0022】
フッ素樹脂基体5は、第2電極3と外筒15との間に配置することができる。また、フッ素樹脂基体5は、フッ素樹脂基体5と、外筒15との間にガス流路20が形成されるように配置することができる。フッ素樹脂基体5は、管形状を有することができる。この場合、第2電極3は、フッ素樹脂基体5の内部に配置され、フッ素樹脂基体5のマンドレルとして機能する。また、フッ素樹脂基体5の内周面は、第2電極3の外周面に密着してもよい。このことにより、フッ素樹脂基体5の外周面と外筒15の内周面との間にガス流路20を形成することができる。
【0023】
電源装置(パワーサプライ)10は、例えば高周波電源装置であり、第1電極2と第2電極3との間に交流電圧を印加するように設けられる。例えば、電源装置10の出力端子と、第1電極2とを電気的に接続し、第2電極3をアースに接続することができる。電源装置10の出力は、例えば、50W以上300W以下とすることができる。また、電源装置10の出力周波数は、例えば、20kHz以上35kHz以下とすることができる。
【0024】
不活性ガス供給部11は、放電反応器4のガス流路20に不活性ガスを供給するように設けられた部分である。不活性ガス供給部11は、例えば、ガスボンベ、ガス配管、流量制御バルブ、圧力調整バルブ、フローメータ及びフローコントローラのうちガス供給に必要なものを含むことができる。不活性ガス供給部11は、不活性ガスを蒸気発生槽7のヘッドスペース9に供給してもよい。この場合、ヘッドスペース9に不活性ガスを供給することによりヘッドスペース9から排出される有機化合物の蒸気及び不活性ガスを含む気体が放電反応器4のガス流路20に供給される。不活性ガス供給部11がガス流路20に供給する不活性ガスは、例えば、アルゴンガス(Ar)、ヘリウムガス(He)などである。また、不活性ガス供給部11は、ガス流路20への供給ガスを、有機化合物の蒸気と不活性ガスの混合気体と、不活性ガスと、この両方とのいずれかに切り替えるように設けられた切り替えバルブを含んでもよい。
【0025】
蒸気発生槽7は、有機化合物8の蒸気を発生させる液槽である。図3(a)(d)は蒸気発生槽7の概略断面図であり、図3(b)は図3(a)の点線A-Aにおける蒸気発生槽7の概略断面図であり、図3(c)は図3(a)の破線B-Bにおける蒸気発生槽7の概略断面図である。
蒸気発生槽7は、液状の有機化合物を溜める液槽と、液面上部のヘッドスペース9に不活性ガスを供給するように設けられたガス注入口12と、ヘッドスペース9のガスを排出するように設けられたガス排出口13とを備えた密閉式液槽とすることができる。ヘッドスペース9は、有機化合物の液面上部のヘッドスペースを含むスペースである。ガス排出口13は、排出ガスが放電反応器4のガス流路20に供給されるように外筒15の注入口に繋がっている。また、ガス注入口12とガス排出口13は、蒸気発生槽7において、不活性ガスが有機化合物の液面と平行な方向に流れるように設けることができる。このことにより、ヘッドスペース9に流入させた不活性ガスが有機化合物の液面に吹き付けられることを抑制することができ、液面が波立ち泡やミストが生じることを抑制することができる。この結果、ガス流路20に供給するガス中の有機化合物濃度が異常に高くなることを抑制することができ、有機化合物の蒸気を安定した濃度で含む不活性ガスを放電反応器4のガス流路20に供給することができる。
【0026】
蒸気発生槽7に溜める有機化合物は、室温で液体状態である有機化合物であり、例えば、分子内に二重結合を有するモノマー、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸、蟻酸などである。分子内に二重結合を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系モノマー(例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸誘導体など)、スチレン系モノマーなどが挙げられる。表面被覆層6が樹脂層である場合、有機化合物は分子内に二重結合を有するモノマーとすることができる。表面被覆層6が(メタ)アクリル系樹脂層16である場合、有機化合物は(メタ)アクリル系モノマーとすることができる。また、(メタ)アクリル系樹脂層16は、(メタ)アクリル系モノマーの重合反応に由来する層である。また、有機化合物がメタノール、エタノール、プロパノール、酢酸、蟻酸などである場合、表面被覆層6は、有機化合物の単分子層とすることができる。
【0027】
蒸気発生槽7は、液状の有機化合物の温度を測定するように設けられた温度測定部(例えば、熱電対28)を備えることができる。また、蒸気発生槽7は、槽内の液状の有機化合物を加熱することができるように設けられた加熱部を有することができる。また、蒸気発生槽7は、温度測定部と加熱部を用いて液状の有機化合物の温度を制御する制御部を備えることもできる。この制御部により液状の有機化合物8の温度を制御することにより、液状の有機化合物8の蒸気圧を制御することができ、液状の有機化合物8からヘッドスペース9に供給される有機化合物の蒸気量を制御することができる。
【0028】
蒸気発生槽7は、上面開放の直方体状の液槽25と、液槽25の上部開口を覆う上蓋26とを備えることができる。また、液槽25と上蓋26との隙間は、ゴムパッキン27によりシールすることができる。また、上蓋26は、下面開放の直方体形状を有することができる。また、ガス注入口12は上蓋26の1つの側面に設けることができ、ガス排出口13は、ガス注入口12を設けた側面に対向する側面に設けることができる。このことにより、不活性ガスを液面に平行な方向に流すことができ、ヘッドスペース9において乱流が生じることを抑制することができる、さらに、安定した濃度で有機化合物を含む気体をガス排出口13から排出し放電反応器4のガス流路20に供給することができる。
【0029】
蒸気発生槽7(液槽25)は、長さL×幅W×深さDのスペースに液状の有機化合物を溜めることができるように設けることができる。幅Wに対する長さLの比(L/W)は、例えば、10/1以上20/1以下とすることができる。また、ガス注入口12及びガス排出口13は、蒸気発生槽7の長さ方向(長さLの一方の端から他方の端に向かう方向)に不活性ガスが流れるように設けることができる。このことにより、ヘッドスペース9において乱流が生じることを抑制することができ、安定した濃度で有機化合物を含む気体をガス排出口13から排出し放電反応器4のガス流路20に供給することができる。また、液状の有機化合物8から十分な量の有機化合物の蒸気をヘッドスペース9を流れる不活性ガス中に供給することができ、適切な濃度の有機化合物を安定して含む気体をガス排出口13から排出し放電反応器4のガス流路20に供給することができる。
【0030】
蒸気発生槽7が液槽25と上蓋26とを含む場合、幅Wを有するブロック29(ブロックの上面は液状の有機化合物の液面より高い)を液槽25の前記スペースに配置することができる。このことにより、ブロック29の長さにより前記液面の広さを調節することができ、液状の有機化合物からヘッドスペースを流れる不活性ガスに供給される有機化合物の蒸気量を制御することができる。ブロック29は、例えばアルミニウムブロックである。図3(d)に示した蒸気発生槽7では、ブロック29を用いて液面の広さを図3(a)に示した蒸気発生槽7よりも狭くしている。
【0031】
表面被覆層6の形成する表面処理工程においてについて説明する。
表面処理工程では、フッ素樹脂基体5の表面をプラズマ処理することによりフッ素樹脂基体5に形成されるラジカルに有機化合物を反応させて表面被覆層6を形成する。
フッ素樹脂基体5の表面のプラズマ処理は、ガス流路20に不活性ガス及び有機化合物の蒸気が流れている状態で行ってもよい。また、ガス流路20に不活性ガスを流している状態でプラズマ処理(前処理)を行い、その後、フッ素樹脂基体5の表面のラジカルと有機化合物とを反応させてもよい。
【0032】
ガス流路20に不活性ガス及び有機化合物の蒸気が流れている状態で行うプラズマ処理について説明する。
図1のように、チューブ状のフッ素樹脂基体5を外筒15内にセットし、シール部材22によりシールする。その後、液状の有機化合物を溜めた蒸気発生槽7のヘッドスペース9に不活性ガスを供給し、液面と平行に不活性ガスを流し、ガス排出口13から有機化合物の蒸気を含む不活性ガスを排出し、この排出したガスを外筒15の注入口からガス流路20に供給する。また、ガス排出口13から排出された有機化合物の蒸気を含む不活性ガスを不活性ガスで希釈してガス流路20に供給してもよい。また、別の注入口から不活性ガスをガス流路20に供給し、有機化合物の蒸気を含む不活性ガスの希釈をガス流路20において行ってもよい。
【0033】
有機化合物の蒸気を含む不活性ガスは、フッ素樹脂基体5の外周面と外筒15の内周面との間のガス流路20(第1電極2と第2電極3との間のガス流路20)を流れた後、外筒15の排出口から排出される。ガス流路20を流れる気体における有機化合物の濃度は、500ppm以上4000ppm以下とすることができる。このようにガス流路20に有機化合物の蒸気を含む不活性ガスが流れている状態において、電源装置10を用いて第1電極2と第2電極3との間に交流電圧を印加し、ガス流路20を流れる混合気体に大気圧プラズマ(有機化合物の蒸気プラズマ)を発生させる。電源装置10の出力は、例えば、50W以上300W以下とすることができる。また、電源装置10の出力周波数は、例えば、20kHz以上35kHz以下とすることができる。また、大気圧プラズマが発生させるための電圧印加時間は、例えば、0.5秒間以上20秒間以下とすることができる。
【0034】
大気圧プラズマ中では、強い電界のため不活性ガスの電離又は有機化合物の電離が生じ電子及びイオンが存在する。このプラズマ電子がフッ素樹脂基体5の表面に衝突すると、フッ素樹脂基体5の表面にラジカル(不対電子を有する原子や分子)が発生する。例えば式(1)のように、フッ素樹脂基体5のC-F結合が切断され、ラジカルが発生する。式(1)においてRは、炭素原子、水素原子、酸素原子及びフッ素原子を含むフッ素樹脂主鎖である。
式(1):R-F → R・ + F・
【0035】
ガス流路20を流れる有機化合物とフッ素樹脂基体5表面のラジカルとが反応すると、フッ素樹脂基体5と化学結合した表面被覆層6が形成される。有機化合物がメタノール、エタノール、プロパノール、酢酸、蟻酸などである場合、フッ素樹脂基体5の表面に表面被覆層である単分子膜が形成される。
有機化合物が分子内に二重結合を有するモノマーである場合、ガス流路20を流れるモノマーとフッ素樹脂基体5表面のラジカルとが反応すると、グラフト重合反応(気相重合反応)が進行し、フッ素樹脂基体5と化学結合した表面被覆層6である樹脂層が形成される。また、有機化合物が(メタ)アクリル系モノマーである場合、ガス流路20を流れる(メタ)アクリル系モノマーとフッ素樹脂基体5表面のラジカルとが反応すると、グラフト重合反応(気相重合反応)が進行し、フッ素樹脂基体5と化学結合した表面被覆層6である(メタ)アクリル系樹脂層16が形成される。例えば、アクリル酸とフッ素樹脂基体5表面のラジカル(開始ラジカル)とが反応すると、式(2)のように、ラジカルがアクリル酸の二重結合に付加し、成長ラジカルが発生する。この成長ラジカルがアクリル酸の二重結合への付加を繰り返すことにより重合反応が進行し(例えば、式(3))、(メタ)アクリル系樹脂層16が形成される。
式(2):R・ + CH2=CHCOOH → R-CH2-C・HCOOH
式(3):R・ + n(CH2=CHCOOH) → R-(CH2-CHCOOH)n
このようにして、フッ素樹脂基体5の表面に表面被覆層6を形成することができる。
【0036】
次に、前処理としてプラズマ処理を行い、その後表面被覆層6を形成する方法について説明する。
図1のように、チューブ状のフッ素樹脂基体5を外筒15内にセットし、シール部材22によりシールする。その後、不活性ガス(例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、これらの混合ガスなど)を外筒15の注入口からガス流路20に供給する。不活性ガスは、フッ素樹脂基体5の外周面と外筒15の内周面との間のガス流路20(第1電極2と第2電極3との間のガス流路20)を流れた後、外筒15の排出口から排出される。このようにガス流路20に不活性ガスが流れている状態において、電源装置10を用いて第1電極2と第2電極3との間に交流電圧を印加し、ガス流路20を流れる気体に大気圧プラズマ(アルゴンプラズマ、ヘリウムプラズマなど)を発生させる。大気圧プラズマ中では、強い電界のため不活性ガスの電離が生じ電子及びイオンが存在する。このプラズマ電子がフッ素樹脂基体5の表面に衝突すると、フッ素樹脂基体5の表面にラジカル(不対電子を有する原子や分子)が発生する。例えば式(1)のように、フッ素樹脂基体5のC-F結合が切断され、ラジカルが発生する。
【0037】
交流電圧の印加を停止した後、液状の有機化合物を溜めた蒸気発生槽7のヘッドスペース9に不活性ガスを供給し、液面と平行に不活性ガスを流し、ガス排出口13から有機化合物の蒸気を含む不活性ガスを排出し、この排出したガスを外筒15の注入口からガス流路20に供給する。この供給ガスは不活性ガスにより希釈してもよい。有機化合物の蒸気を含む不活性ガスは、フッ素樹脂基体5の外周面と外筒15の内周面との間のガス流路20(第1電極2と第2電極3との間のガス流路20)を流れた後、外筒15の排出口から排出される。
【0038】
前処理であるプラズマ処理により発生したフッ素樹脂基体5表面のラジカルとガス流路20を流れる有機化合物とが反応すると、フッ素樹脂基体5と化学結合した表面被覆層6が形成される。有機化合物がメタノール、エタノール、プロパノール、酢酸、蟻酸などである場合、フッ素樹脂基体5の表面に表面被覆層6である単分子膜が形成される。
有機化合物が(メタ)アクリル系モノマーである場合、ガス流路20を流れる(メタ)アクリル系モノマーとフッ素樹脂基体5表面のラジカルとが反応すると、グラフト重合反応が進行し、表面被覆層6である(メタ)アクリル系樹脂層16が形成される。例えば、アクリル酸とフッ素樹脂基体5表面のラジカル(開始ラジカル)とが反応すると、式(2)のように、ラジカルがアクリル酸の二重結合に付加し、成長ラジカルが発生する。この成長ラジカルがアクリル酸の二重結合への付加を繰り返すことにより重合反応が進行し(例えば、式(3))、(メタ)アクリル系樹脂層16が形成される。
このようにして、フッ素樹脂基体5の表面に表面被覆層6を形成することができる。
【0039】
次に、フッ素樹脂-エラストマー複合体50について説明する。
図4はフッ素樹脂-エラストマー複合体の製造方法の説明図であり、図5はフッ素樹脂-エラストマー複合体の概略断面図であり、図6は剥離試験の説明図である。
フッ素樹脂-エラストマー複合体50は、フッ素樹脂基体5と、フッ素樹脂基体5の表面を覆う(メタ)アクリル系樹脂層16(表面被覆層6)と、(メタ)アクリル系樹脂層16を介してフッ素樹脂基体5と接合したエラストマー部材18とを備える。アクリル樹脂層16(表面被覆層6)は上述の方法により形成することができる。
エラストマー部材18は、ゴム弾性を有する部材であり、熱硬化性エラストマーであってもよく、熱可塑性エラストマーであってもよく、ゴムであってもよい。エラストマー部材18は、例えば、ブチルゴム(種別:IIR)である。
【0040】
エラストマー部材18は、例えば、架橋剤を用いて(メタ)アクリル系樹脂層16を有するフッ素樹脂基体5と接着することができる。例えば、架橋剤を含む生ゴム(エラストマー部材18)が(メタ)アクリル系樹脂層16と接触するように生ゴムとフッ素樹脂基体5とを重ね合わせた積層体に熱と圧力を加えることにより架橋反応を進行させることができる。この架橋反応によりエラストマー部材18と(メタ)アクリル系樹脂層16とが架橋接合され、(メタ)アクリル系樹脂層16を介してフッ素樹脂基体5とエラストマー部材18とを接合することができ、フッ素樹脂-エラストマー複合体50を製造することができる。例えば、図4に示したように、プレス機を用いて生ゴムとフッ素樹脂基体5との積層体を加圧加熱することによりエラストマー部材18と(メタ)アクリル系樹脂層16とを接合することができる。
使用する架橋剤としては、例えば、硫黄、有機過酸化物、アルキルフェノール樹脂オリゴマー、p-ベンゾキノンジオキシムなどが挙げられる。また、エラストマー部材18は、加硫促進剤、加硫促進助剤、活性剤などを含んでもよい。
また、エラストマー部材18とフッ素樹脂基体5と間の剥離接着強さは、図6に示したような剥離試験装置を用いて測定することができる。
【0041】
アクリル酸濃度測定及びプラズマ処理
図1図2に示したような表面処理装置40を用いて試験No. 1~No. 9を行いガス流路20などにおけるアクリル酸濃度測定を行った(表1参照)。また、試験No. 5~No. 9ではフッ素樹脂基体5の表面のプラズマ処理を行った。フッ素樹脂基体5にはPFAチューブを用いた。また、外筒15のうち第1電極2(金属膜電極)を配置した部分には、石英ガラス管(外径:55mm、内径50mm)を用い、第1電極2のそれぞれの幅(放電幅)は100mmとした。また、図3(a)~(d)に示したような蒸気発生槽7(長さL:295.5mm、幅W:20.5mm)を用いた。また、第2電極3(ステンレス鋼チューブ)をアースに接続し、第1電極2を高周波高電圧発生装置(電源装置10)の出力端子に接続した。
【0042】
【表1】
【0043】
アルミニウムブロック29(幅:19mm、高さ:35mm、長さ280.5mm)を蒸気発生槽7内に入れた後、アクリル酸(CH2=CHCOOH)(有機化合物8)26.07g(アクリル酸表面積307.5mm2、液深26mm)を入れた。蒸気発生槽7の内部が室温の定常状態になるまで15分間放置した後、表1に示したパージ時間の間、不活性ガス供給部11を用いて蒸気発生槽7のヘッドスペース9にアルゴンガス(Q1.1=2.0L/min)を供給し、ガス流路20にヘリウムガス(Q3=6.5L/min)とアルゴンガス(Q4=4.5L/min)の混合ガスを供給した。試験No. 1~No. 9はそれぞれパージ時間が異なっており、徐々に長くしている。また、試験No. 1~No. 4では、パージ時間が経過した後、図1図7に示したスポットA、B、Cにおけるアクリル酸濃度を測定した。図7は、図1の破線G-Gにおける放電反応器4の概略断面図であり、スポットA、Bの位置の説明図である。試験No. 5~No. 9では、パージ時間が経過した後、高周波高電圧発生装置を用いて第1電極2と第2電極3との間に交流電圧を印加し(出力:150W、印加電圧:約15kV、周波数:25.2kHz、印加時間:5秒間)、第1電極2と第2電極3との間のガス流路20に大気圧プラズマを発生させ、フッ素樹脂基体5の表面処理を行った。その後、図1図7に示したスポットA、Bにおけるアクリル酸濃度を測定した。また、試験No. 9では、スポットDにおけるアクリル酸濃度も測定した。なお、図7図8図10に示した「Ac」はアクリル酸を示している。
【0044】
アクリル酸濃度の測定は、シリンジ型の希釈容器を用いてスポットA、B又はDの混合ガスを採取し、大気で100倍希釈した後、検知管(酢酸81、株式会社ガステック製)を用いてアクリル酸濃度を測定した。測定結果を表1、図8に示す。表1には、チャンバー内温度(ガス流路20の温度)、モノマー温度(アクリル酸槽内の液状アクリル酸の温度)、湿球温度、パージ時間、放電出力、プラズマ処理時間も示している。また、図8には、不活性ガス(アルゴンガス及びヘリウムガス)の流量(Q1.1、Q3、Q4)、モノマー温度(アクリル酸槽内の液状アクリル酸の温度)も示している。
ガス流路20においてアクリル酸を含むアルゴンガスを希釈しているため、スポットA、B、Cでアクリル酸濃度にばらつきがあったが、パージ時間を変えても、スポットAにおけるアクリル酸濃度は、1400ppm~2200ppmであり、大きく変動することはなかった。
【0045】
接触角測定
試験No. 5~No. 9のアクリル酸濃度測定の後、フッ素樹脂基体5を放電反応器4から取り出し、フッ素樹脂基体5のプラズマ処理を施した表面(θ=230°~244°の箇所(図7図10参照))に水を滴下し1分後の接触角を測定した。測定結果を図9に示す。図9には、プラズマ処理を施していないフッ素樹脂基体の接触角、パージ時間、アクリル酸濃度も合わせて示している。試験No. 5~No. 9で得られたフッ素樹脂基体の接触角が未処理のフッ素樹脂基体に比べ接触角が小さくなった。従って、プラズマ処理によりフッ素樹脂基体の親水性が向上することがわかった。これは、フッ素樹脂基体の表面にアクリル樹脂層が形成されているためと考えられる。
【0046】
フッ素樹脂-エラストマー複合体の作製
試験No. 5~No. 9のアクリル酸濃度測定の後、放電反応器4からフッ素樹脂基体5を取り出し、フッ素樹脂基体5のうちプラズマ処理を施した部分を切り出した。また、図10に示した(1)~(10)の部分に切り分けフッ素樹脂基体サンプルを作製した(サンプルサイズ:長さ100mm×幅50mm)。なお、図10のθは、図7と同様の角度である。また、架橋剤を含むエラストマー部材18(種別:IIR、硬さ[ゴム硬度計タイプA]:40、引張強さ:9.2MPa、伸び:1000%)を長さ100mm×幅50mm×厚さ約4mmに切り分けた。そして、図4のように、フッ素樹脂基体サンプルのプラズマ処理を施した表面がエラストマー部材18に接触するようにフッ素樹脂基体サンプルとエラストマー部材18とを重ねたものを金型30にセットして加熱プレス処理を施した(荷重10kN、加硫温度150℃、加硫時間60分間)。このことによりフッ素樹脂基体サンプルとエラストマー部材18とがアクリル樹脂層を介して接着したフッ素樹脂-エラストマー複合体を作製した。なお、剥離試験においてグリッパー35、36で掴む部分を形成するために、フッ素樹脂基体サンプルとエラストマー部材との間には、長さ50mm×幅10mm×厚さ0.2mmの高分子フィルムを挟み、フッ素樹脂-エラストマー複合体の端部につかみ部を形成している。
【0047】
剥離試験
図6に示したような剥離試験装置(INSTRON(登録商標)、型式:33R4444)を用いてフッ素樹脂-エラストマー複合体の剥離試験を行った(JIS K 6256-1「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-接着性の求め方-第1部:布との剥離強さ」に準拠、180°剥離、試験片の幅:10mm)。具体的には、フッ素樹脂-エラストマー複合体のつかみ部を第1及び第2グリッパー35、36で掴み、第1グリッパー35を50mm/minで上昇させ、最大剥離強さ(N/mm)を測定した。変位が350mmに達したとき又はゴムや樹脂が切断したときに剥離試験を終了した。また、ゴム剥離割合(剥離面のうちエラストマー部材が破壊している領域の割合)を目視により確認した。測定結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
試験No. 5及びNo. 7で表面処理したフッ素樹脂基体を用いて作製したフッ素樹脂-エラストマー複合体の最大剥離強さは、10N/mmを超えており、ゴム破壊割合は7割~10割であった。従って、この複合体では、フッ素樹脂基体とエラストマー部材とを強固に接合できることがわかった。
一方、試験No. 6、No. 9で表面処理したフッ素樹脂基体を用いて作製したフッ素樹脂-エラストマー複合体の最大剥離強さは低くフッ素樹脂基体とエラストマー部材とは容易に剥離することがわかった。また、試験No. 8で表面処理したフッ素樹脂基体を用いて作製したフッ素樹脂-エラストマー複合体の最大剥離強さは、場所によりバラツキがあることがわかった。この理由は明らかではないが、ガス流路20においてアクリル酸を含むアルゴンガスを希釈しているためプラズマ処理時のアクリル酸濃度にバラツキが生じ、このバラツキがアクリル樹脂層の形成に影響を与えたことが考えられる。
【符号の説明】
【0050】
2: 第1電極 3:第2電極 4:放電反応器 5:フッ素樹脂基体 6:表面被覆層 7:蒸気発生槽 8:有機化合物 9:ヘッドスペース 10:電源装置 11:不活性ガス供給部 12:ガス注入口 13:ガス排出口 15:外筒 16:(メタ)アクリル系樹脂層 17:表面被覆フッ素樹脂基体 18:エラストマー部材 20:ガス流路 22:シール部材 25:液槽 26:上蓋 27:ゴムパッキン 28:熱電対 29:ブロック 30:金型 31:プレス用第1プレート 32:プレス用第2プレート 35:第1グリッパー 36:第2グリッパー 40:表面処理装置 50:フッ素樹脂-エラストマー複合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10