(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116356
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】コモンモード電圧キャンセラ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230815BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20230815BHJP
H02M 1/14 20060101ALI20230815BHJP
H02M 1/44 20070101ALI20230815BHJP
H02M 1/12 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M1/00 H
H02M1/00 E
H02M1/14
H02M1/44
H02M1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019120
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 淳之
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 悟司
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB05
5H740BB09
5H740BB10
5H740BC06
5H740MM01
5H740MM11
5H740NN03
5H740NN08
5H770AA05
5H770BA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770HA15Y
5H770HA17Y
5H770JA11W
5H770JA13Y
5H770JA16Y
5H770KA01W
(57)【要約】
【課題】インバータの電圧利用率を向上させることができるコモンモード電圧キャンセラを提供する。
【解決手段】コモンモード電圧キャンセラ(40)は、直流電力を交流電力に変換するインバータ(20)の動作に伴い発生するコモンモード電圧をキャンセルする。コモンモード電圧キャンセラ、コモンモード電圧と逆極性のキャンセル電圧を発生するコモンモードトランス(50)を備えている。コモンモードトランスは、インバータに直流電力を供給する直流電力線(13,14)に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換するインバータ(20)の動作に伴い発生するコモンモード電圧をキャンセルするコモンモード電圧キャンセラ(40、140、240、340)であって、
前記コモンモード電圧と逆極性のキャンセル電圧を発生するコモンモードトランス(50、250、350)を備え、
前記コモンモードトランスは、前記インバータに前記直流電力を供給する直流電力線(13、14)に配置されている、コモンモード電圧キャンセラ。
【請求項2】
前記コモンモード電圧キャンセラは、前記コモンモードトランスに接続された受動部品を備えるパッシブコモンモード電圧キャンセラ(40、140、240)である、請求項1に記載のコモンモード電圧キャンセラ。
【請求項3】
前記コモンモード電圧キャンセラは、前記コモンモードトランスに接続された能動部品を備えるアクティブコモンモード電圧キャンセラ(340)である、請求項1に記載のコモンモード電圧キャンセラ。
【請求項4】
前記コモンモードトランスは、前記コモンモード電圧に相関する電圧が入力される1次コイル(51u、51v、51w、351)と、前記キャンセル電圧を前記直流電力線に出力する2次コイル(52u、53u、52v、53v、52w、53w、352、353)とを備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のコモンモード電圧キャンセラ。
【請求項5】
前記インバータはN相に交流電力を出力し、
前記1次コイルと前記2次コイルとの巻数比はN:1である、請求項4に記載のコモンモード電圧キャンセラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータの動作に伴い発生するコモンモード電圧をキャンセルするコモンモード電圧キャンセラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータが発生するコモンモード電圧を、3つのコモンモードトランスを用いて各相別々にキャンセルするコモンモード電圧キャンセラがある(非特許文献1参照)。非特許文献1に記載のコモンモード電圧キャンセラでは、3相線に発生するコモンモード電圧を各相別々にキャンセルするために、コモンモードトランスをインバータとモータとの間の3相線に配置している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】電気学会「電磁環境/半導体電力変換合同研究会」資料2020年12月11日21-26頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コモンモードトランスには漏れインダクタンスが存在する。このため、コモンモードトランスが3相線に配置されていると、漏れインダクタンスにより3相線の交流電圧が降下し、インバータの電圧利用率が低下するおそれがある。特に、電動航空機に搭載されるモータは、軽量化のために多極化される傾向にあり、高周波駆動且つ低インダクタンスとなっている。このため、僅かな漏れインダクタンスによっても、交流電圧が降下する影響を受けやすい。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、インバータの電圧利用率を向上させることができるコモンモード電圧キャンセラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、
直流電力を交流電力に変換するインバータ(20)の動作に伴い発生するコモンモード電圧をキャンセルするコモンモード電圧キャンセラ(40、140、240、340)であって、
前記コモンモード電圧と逆極性のキャンセル電圧を発生するコモンモードトランス(50、250、350)を備え、
前記コモンモードトランスは、前記インバータに前記直流電力を供給する直流電力線(13、14)に配置されている。
【0007】
上記構成によれば、コモンモード電圧キャンセラは、直流電力を交流電力に変換するインバータの動作に伴い発生するコモンモード電圧をキャンセルする。詳しくは、コモンモード電圧キャンセラは、前記コモンモード電圧と逆極性のキャンセル電圧を発生するコモンモードトランスを備えている。このため、インバータの動作に伴い発生するコモンモード電圧を、コモンモードトランスが発生するキャンセル電圧によりキャンセルすることができる。
【0008】
ここで、前記コモンモードトランスは、前記インバータに前記直流電力を供給する直流電力線に配置されている。このため、コモンモードトランスに漏れインダクタンスが存在したとしても、コモンモードトランスの漏れインダクタンスによる交流電圧の降下を抑制することができる。さらに、直流電力線により供給される直流電力は、漏れインダクタンスによる電圧降下を受けない。したがって、インバータの電圧利用率を向上させることができる。しかも、例えばインバータが3相に出力する構成において3相線にコモンモードトランスを配置する場合は3本の相線をコアに貫通させる必要があるのに対して、2本の直流電力線をコアに貫通させればよい。このため、コアに貫通させる配線の断面積を減少させることができ、コモンモードトランスのコアを小型化することができる。
【0009】
具体的には、第2の手段のように、前記コモンモード電圧キャンセラは、前記コモンモードトランスに接続された受動部品を備えるパッシブコモンモード電圧キャンセラである、といった構成を採用することができる。
【0010】
また、第3の手段のように、前記コモンモード電圧キャンセラは、前記コモンモードトランスに接続された能動部品を備えるアクティブコモンモード電圧キャンセラである、といった構成を採用することもできる。
【0011】
第4の手段では、前記コモンモードトランスは、前記コモンモード電圧に相関する電圧が入力される1次コイル(51u、51v、51w、351)と、前記キャンセル電圧を前記直流電力線に出力する2次コイル(52u、53u、52v、53v、52w、53w、352、353)とを備える。
【0012】
上記構成によれば、コモンモード電圧が発生した際に、コモンモードトランスの2次コイルにより前記キャンセル電圧を前記直流電力線に出力して、コモンモード電圧をキャンセルすることができる。
【0013】
インバータがN相に交流電力を出力する場合、コモンモード電圧Vcは各相の電圧の和を1/Nにした電圧となる。このため、コモンモードトランスが、各相の電圧を1/Nにした逆極性のキャンセル電圧を発生することにより、コモンモード電圧をキャンセル電圧によりキャンセルすることができる。
【0014】
この点、第5の手段では、前記インバータはN相に交流電力を出力し、前記1次コイルと前記2次コイルとの巻数比はN:1である。したがって、コモンモードトランスは、1次コイルに入力された電圧を1/Nにした逆極性のキャンセル電圧を2次コイルに発生することができ、コモンモード電圧をキャンセル電圧によりキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】コモンモードトランスのうち1相に対応するトランスを示す斜視図。
【
図3】コモンモードトランスの結合係数とモータトルクとの関係を示すグラフ。
【
図4】従来技術のモータ駆動システムを示す回路図。
【
図6】従来技術のコモンモード電圧及びキャンセル電圧の等価回路を示す回路図。
【
図7】コモンモード電圧及びキャンセル電圧の等価回路を示す回路図。
【
図8】
図6の等価回路を変形した等価回路を示す回路図。
【
図9】
図7の等価回路を変形した等価回路を示す回路図。
【
図10】モータ駆動システムの変更例を示す回路図。
【
図11】モータ駆動システムの他の変更例を示す回路図。
【
図12】モータ駆動システムの他の変更例を示す回路図。
【
図13】モータ駆動システム及びコモンモード電圧キャンセラの変更例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、モータ駆動システムに具現化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、モータ駆動システム10は、3相モータ11、電源12、インバータ20、及びコモンモード電圧キャンセラ40等を備えている。電源12は、例えば直流電力を供給するバッテリである。
【0018】
インバータ20は、直流電力を交流電力に変換して出力する。詳しくは、インバータ20は、3つの出力端子U,V,Wから順番にパルス電圧を繰り返し出力する。
【0019】
コモンモード電圧キャンセラ40は、コモンモードトランス50(受動部品)と、6つのYコンデンサ61u,62u,61v,62v,61w,62w(受動部品)とを備えている。コモンモード電圧キャンセラ40は、受動部品により構成されており、パッシブコモンモード電圧キャンセラである。
【0020】
Yコンデンサ61u,61v,61wの一方の端子は、それぞれ正極側の直流電力線13に接続されている。Yコンデンサ61u,61v,61wの他方の端子は、それぞれYコンデンサ62u,62v,62wの一方の端子に接続されている。Yコンデンサ62u,62v,62wの他方の端子は、それぞれ負極側の直流電力線14に接続されている。すなわち、Yコンデンサ61u,62uの直列接続体と、Yコンデンサ61v,62vの直列接続体と、Yコンデンサ61w,62wの直列接続体とが、直流電力線13と直流電力線14との間に並列に接続されている。
【0021】
コモンモードトランス50は、インバータ20のU相に対応する1次コイル51u、2次コイル52u,53u及びコア54uと、インバータ20のV相に対応する1次コイル51v、2次コイル52v,53v及びコア54vと、インバータ20のW相に対応する1次コイル51w、2次コイル52w,53w及びコア54wと、を備えている。
【0022】
1次コイル51uの一端はインバータ20の出力端子Uに接続され、1次コイル51uの他端はYコンデンサ61uとYコンデンサ62uとの接続点に接続されている。2次コイル52uの第1端はインバータ20の負極入力端子に接続され、2次コイル52uの第2端は2次コイル52vの第1端に接続されている。2次コイル53uの第1端はインバータ20の正極入力端子に接続され、2次コイル53uの第2端は2次コイル53vの第1端に接続されている。1次コイル51uと2次コイル52u,53uとの巻数比は、3:1:1である。1次コイル51u、2次コイル52u,53u、及びコア54uによりインバータ20のU相に対応するトランスが構成されている。
【0023】
1次コイル51vの一端はインバータ20の出力端子Vに接続され、1次コイル51vの他端はYコンデンサ61vとYコンデンサ62vとの接続点に接続されている。2次コイル52vの第2端は2次コイル52wの第1端に接続されている。2次コイル53uの第2端は2次コイル53wの第1端に接続されている。1次コイル51vと2次コイル52v,53vとの巻数比は、3:1:1である。1次コイル51v、2次コイル52v,53v、及びコア54vによりインバータ20のV相に対応するトランスが構成されている。
【0024】
1次コイル51wの一端はインバータ20の出力端子Wに接続され、1次コイル51wの他端はYコンデンサ61wとYコンデンサ62wとの接続点に接続されている。2次コイル52wの第2端は負極側の直流電力線14に接続されている。2次コイル53wの第2端は正極側の直流電力線13に接続されている。1次コイル51wと2次コイル52w,53wとの巻数比は、3:1:1である。1次コイル51w、2次コイル52w,53w、及びコア54wによりインバータ20のW相に対応するトランスが構成されている。
【0025】
インバータ20のU相に対応するトランス、V相に対応するトランス、及びW相に対応するトランス(コモンモードトランス50)は、1つのトランスユニットとして構成されている。そして、コモンモードトランス50は、インバータ20に直流電力を供給する直流電力線13,14に配置(挿入)されている。
【0026】
なお、1次コイル51u、2次コイル52u,53u及びコア54uと、1次コイル51v、2次コイル52v,53v及びコア54vと、1次コイル51w、2次コイル52w,53w及びコア54wとを互いに入れ替えてもよい。Yコンデンサ61u,62uの直列接続体と、Yコンデンサ61v,62vの直列接続体と、Yコンデンサ61w,62wの直列接続体とは、直流電力線13,14において、電源12とコモンモードトランス50との間に限らず、コモンモードトランス50とインバータ20との間に接続してもよい。
【0027】
図2は、コモンモードトランス50のうち1相に対応するトランスを示す斜視図である。ここでは、U相を例にして説明する。
【0028】
1次コイル51uは、円筒状のコア54uに3回巻かれている。2次コイル52u,53uは、コア54uを貫通している。すなわち、1次コイル51u、2次コイル52u,53u、及びコア54uは貫通型のトランスを構成しており、1次コイル51uと2次コイル52u,53uとの巻数比は、3:1:1である。
【0029】
1次コイル51uは、インバータ20の出力電圧に応じて励磁される。各相に相電圧Vu,Vv,Vwが出力される場合、コモンモード電圧Vcは以下の式で表される。
【0030】
Vc=Vu/3+Vv/3+Vw/3
例えば、インバータ20が相電圧Vuを出力すると、コモンモード電圧Vc=Vu/3が発生する。このとき、1次コイル51uに相電圧Vuが入力され、2次コイル52u,53uがキャンセル電圧Vr=-Vu/3を発生する。これにより、コモンモード電圧Vcが、インバータ20の出力側ではなく、インバータ20の入力側でキャンセル電圧Vrにより予めキャンセルされる。
【0031】
図3は、コモンモードトランスの結合係数とモータトルクとの関係を示すグラフである。
【0032】
コモンモードトランスをインバータ20と3相モータ11との間の3相線に配置した従来技術では、コモンモードトランスの結合係数が1.00よりも小さくなるに従って、モータトルクが低下している。これは、インバータ20が3相線に出力する相電圧は交流であり、コモンモードトランスの漏れインダクタンスにより相電圧が降下することによる。
【0033】
これに対して、コモンモードトランス50を電源12とインバータ20との間の直流電力線13,14に配置した本実施形態では、コモンモードトランスの結合係数が1.00よりも小さくなっても、モータトルクが低下していない。これは、直流電力線13,14によりインバータ20に入力される入力電圧は直流であり、コモンモードトランスの漏れインダクタンスによる電圧降下を受けないことによる。
【0034】
次に、本実施形態は、従来技術と比較してコモンモードトランス50の巻線断面積を小さくすることができることを説明する。
【0035】
図4は、従来技術のモータ駆動システムを示す回路図である。インバータの直流入力側の平均電圧をVdc、電流をIdcとし、インバータの三相交流側の基本波実効値の線間電圧をV、線電流をI、力率をcosθとすると、有効電力Pの関係から次式を得る。
【0036】
P=Vdc・Idc=√3・V・I・cosθ ・・・(1)
インバータ出力の最大線間実効値電圧は、以下の関係を満たす必要がある。
【0037】
Vdc>√2・V ・・・(2)
(1)式及び(2)式から、直流電流Idcと交流実効値電流Iとの間には、以下の関係が成立する。
【0038】
Idc<√(3/2)・I・cosθ ・・・(3)
コモンモードトランスを直流側に挿入した場合には、直流電力線が2本であるため、コモンモードトランスの巻線断面積は直流電流Idcの2倍の電流を流すだけ必要である。一方、コモンモードトランスを交流側に挿入した場合には、相線が3本であるため(3相の場合)、コモンモードトランスの巻線断面積は交流電流の3倍の電流を流すだけ必要である。(3)式の左辺のIdcを2倍し、右辺のIを3倍して比較すると以下の式が成立する。
【0039】
2Idc<√6I・cosθ≒2.449I・cosθ
このため、交流出力電圧が最大で力率cosθ=1の場合においても、直流側にコモンモードトランスを配置した場合の巻線断面積は、交流側にコモンモードトランスを配置した場合の巻線断面積よりも2.449/3=0.816倍小さくてよい。したがって、コモンモードトランス50におけるコア54u,54v,54wの窓面積を小さくすることができ、コア54u,54v,54wを小型化することができる。実際のモータでは力率cosθ<1であり、通常はcosθ=0.6~0.8程度である。このため、交流側にコモンモードトランスを配置した場合は、線電流Iをさらに大きくする必要があり、巻線断面積をさらに大きくする必要がある。
【0040】
このことは、本実施形態は従来技術と比較して、コア54u,54v,54wの平均磁路長を小さくできることを意味し、励磁電流を低減することができる。また、交流側電流に比べて直流側電流は常に小さく、巻線断面積が同じであれば、直流側にコモンモードトランス50を配置した場合は巻線抵抗による損失を小さくすることが可能である。
【0041】
次に、本実施形態と従来技術とで、パワー半導体デバイスの浮遊容量による影響が変わらないことを説明する。
【0042】
パワー半導体デバイスでは、スイッチング損失や導通損失による過熱を防止するために、放熱フィンを取り付けることが一般的である。放熱フィンは、装置筐体に直接取り付けられ、筐体は接地される。このため、デバイスと大地との間に浮遊容量が存在する。例えば、パワー半導体デバイスとしてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使用した場合には、デバイスの損失のほとんどはコレクタ側で発生し、この熱を効率よく放熱するために、コレクタ部が放熱フィンのベース部に対向するように取り付けられている。その結果、デバイスと大地との間の浮遊容量は、主にIGBTのコレクタ側に存在する。
【0043】
図5は、インバータの浮遊容量を示す回路図である。ここでは、各IGBTの浮遊容量をCinv1,Cinv2,・・・Cinv6=cで表している。
【0044】
インバータの交流側各端子には、下アームの3つのIGBTのコレクタ(浮遊容量Cinv2,Cinv4,Cinv6)だけが接続されている。このため、各相端子の対地浮遊容量もcとなり、インバータの交流側全体の浮遊容量CAC=3cである。
【0045】
一方、インバータの直流側の正側端子には、上アームの3つのIGBTのコレクタ(浮遊容量Cinv1,Cinv3,Cinv5)が接続されており、直流側の正側端子と大地との間の浮遊容量は3cである。しかし、インバータの直流側の負側端子には、IGBTのコレクタが接続されていないため、直流側の負側端子の浮遊容量は0である。したがって、インバータの直流側全体の浮遊容量CDC=3cであり、CAC=CDCである。
【0046】
次に、本実施形態と従来技術とで、高周波領域の伝導性EMI(Electromagnetic Interference)に差が生じないことを説明する。
【0047】
図6,7は、従来技術,本実施形態のコモンモード電圧Vc及びキャンセル電圧Vrの等価回路を示す回路図である。ここで、Vcはインバータが発生するコモンモード電圧を表し、その交流側と直流側とにおいて、それぞれ浮遊容量CAC及びCDCを大地との間に挿入している。ZSとZLは、直流電源と負荷のコモンモードインピーダンスである。インバータの浮遊容量を無視すると、インバータが発生するコモンモード電圧Vcとコモンモードトランスが発生するキャンセル電圧Vrとは、極性が逆向きで直列接続となる。このため、従来技術と本実施形態とで、コモンモードトランスの効果は全く変わらない。
【0048】
図6,7において、コモンモードトランスはインバータが発生するコモンモード電圧Vcと同じ大きさで逆極性のキャンセル電圧Vrを発生するため、A点とB点とは同電位であり、またA’点とB’点とは同電位である。したがって、
図6,7の等価回路をそれぞれ
図8,9のように書換えることができる。
【0049】
また、ZSとZLは配線等のインダクタンス成分を直列に含んでいるため、高周波領域においてはCACとCDCのインピーダンスに対して無視することができる。このため、伝導性EMIに関係するZSに印加される電圧は、CACとCDCとの分圧で決定される。したがって、交流側にコモンモードトランスを挿入した場合にZSに印加される電圧と、直流側にコモンモードトランスを挿入した場合にZSに印加される電圧との比は、CAC/(CAC+CDC):CDC/(CAC+CDC)である。ここで、CAC=CDCであるため、コモンモードトランスを交流側に挿入した場合と直流側に挿入した場合とでは、高周波領域の伝導性EMIにほとんど差が生じないと考えられる。
【0050】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0051】
・コモンモード電圧キャンセラ40は、コモンモード電圧Vcと逆極性のキャンセル電圧Vrを発生するコモンモードトランス50を備えている。このため、インバータ20の動作に伴い発生するコモンモード電圧Vcを、コモンモードトランス50が発生するキャンセル電圧Vrによりキャンセルすることができる。
【0052】
・コモンモードトランス50は、インバータ20に直流電力を供給する直流電力線13,14に配置されている。このため、コモンモードトランス50に漏れインダクタンスが存在したとしても、コモンモードトランス50の漏れインダクタンスによる交流電圧の降下を抑制することができる。さらに、直流電力線13,14により供給される直流電力は、漏れインダクタンスによる電圧降下を受けない。したがって、インバータ20の電圧利用率を向上させることができる。特に、高周波駆動且つ低インダクタンスのモータが採用される用途において、上記効果は有利となる。
【0053】
・インバータ20が3相に出力する構成において3相線にコモンモードトランス50を配置する場合は3本の相線をコアに貫通させる必要があるのに対して、2本の直流電力線13,14をコア54u,54v,54wに貫通させればよい。このため、コア54u,54v,54wに貫通させる配線の断面積を減少させることができ、コモンモードトランス50のコア54u,54v,54wを小型化することができる。
【0054】
・コモンモードトランス50は、コモンモード電圧Vc(コモンモード電圧Vcに相関する電圧)が入力される1次コイル51u,51v,51wと、キャンセル電圧Vrを直流電力線13,14に出力する2次コイル52u,53u,52v,53v,52w,53wとを備えている。こうした構成によれば、コモンモード電圧Vcが発生した際に、コモンモードトランス50の2次コイル52u,53u,52v,53v,52w,53wによりキャンセル電圧Vrを直流電力線13,14に出力して、コモンモード電圧Vcをキャンセルすることができる。
【0055】
・インバータ20は3相(N相)に交流電力を出力し、1次コイル51u,51v,51wと2次コイル52u,53u,52v,53v,52w,53wとの巻数比は3:1(N:1)である。したがって、コモンモードトランス50は、1次コイル51u,51v,51wに入力された電圧を1/3(1/N)にした逆極性のキャンセル電圧Vrを2次コイル52u,53u,52v,53v,52w,53wに発生することができ、コモンモード電圧Vcをキャンセル電圧Vrによりキャンセルすることができる。
【0056】
・直流側にコモンモードトランスを配置した場合の巻線断面積は、交流側にコモンモードトランスを配置した場合よりも小さくてよい。したがって、コモンモードトランス50におけるコモンモードトランス50のコア54u,54v,54wの窓面積を小さくすることができ、コア54u,54v,54wを小型化することができる。本実施形態は従来技術と比較して、コア54u,54v,54wの平均磁路長を小さくできることができ、励磁電流を低減することができる。したがって、巻線を細くしてコモンモードトランス50を小型化することができる、あるいは巻線の太さが同じであれば低損失にすることができる。
【0057】
・ノイズフィルタと異なり、コモンモード電圧Vcそのものを生じない(キャンセルする)ため、コモン電流に起因する輻射ノイズやベアリング電食を抑制することができる。さらに、輻射ノイズを生じないため、ハーネス(配線)のシールドを不要にすることができる。
【0058】
なお、第1実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0059】
・
図10に示すように、交流電源15からAC/DCコンバータ16を介して直流電力線13,14に直流電力を供給する構成に、上記実施形態と同様のコモンモード電圧キャンセラ40を適用することもできる。
【0060】
・
図11に示すように、2つ(複数)の3相モータ11及び2つ(複数)のインバータ20を備えるモータ駆動システム110に、上記実施形態と同様のコモンモード電圧キャンセラ140を適用することもできる。
【0061】
・
図12に示すように、デュアル巻線モータ211及び2つのインバータ20を備えるモータ駆動システム210に、上記実施形態と同様のコモンモード電圧キャンセラ240を適用することもできる。2つのインバータ20のキャリアは同期して90度の位相差を有している。コモンモードトランス250は、2つのインバータ20にそれぞれ対応したトランスを備えている。
【0062】
・
図13に示すように、特許第2863833号公報に記載されたアクティブコモンモード電圧キャンセラ340において、コモンモードトランス350を直流電力線13,14に配置することにより、上記実施形態に準じた構成を実現することもできる。アクティブコモンモード電圧キャンセラ340は、エミッタホロワ回路341(能動部品)、コモンモードトランス350、コンデンサC等を備えている。コモンモードトランス350は、直流電力線13,14に配置され、1次コイル351、及び2次コイル352,353を備えている。こうした構成によっても、上記実施形態に準じた作用効果を奏することができる。
【0063】
・インバータにより駆動されるモータを備えるモータ駆動システム全般に、上記実施形態及び上記変更例を適用することができる。
【0064】
なお、上記の各変更例を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0065】
13…直流電力線、14…直流電力線、20…インバータ、40…コモンモード電圧キャンセラ、50…コモンモードトランス、140…コモンモード電圧キャンセラ、240…コモンモード電圧キャンセラ、250…コモンモードトランス、340…アクティブコモンモード電圧キャンセラ、350…コモンモードトランス。