(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116631
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】光学ガラス、これを用いた光学素子、光学系、カメラ用交換レンズ、及び光学装置
(51)【国際特許分類】
C03C 3/064 20060101AFI20230815BHJP
C03C 3/066 20060101ALI20230815BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C03C3/064
C03C3/066
G02B1/00
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094613
(22)【出願日】2023-06-08
(62)【分割の表示】P 2020516032の分割
【原出願日】2019-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2018082588
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 辰典
(72)【発明者】
【氏名】山本 博史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高分散であり、かつ、アッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が低い光学ガラスを提供する。
【解決手段】質量百分率で、SiO2:10~30%、B2O3:6~20%、Nb2O5:25~50%、K2O:15~30%、TiO2:0~8%、P2O5:0~8%、RO(式中、Rは、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。):0~4%、Li2O:0~10%、であり、Nb2O5の含有量に対するTiO2の含有量の比(TiO2/Nb2O5)が、0~0.3である、光学ガラスを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、
SiO2:10~30%、
B2O3:6~20%、
Nb2O5:25~50%、
K2O:15~30%、
TiO2:0~8%、
P2O5:0~8%、
RO(式中、Rは、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。):0~4%、
Li2O:0~10%、
であり、
Nb2O5の含有量に対するTiO2の含有量の比(TiO2/Nb2O5)が、0~0.3である、
光学ガラス。
【請求項2】
質量百分率で、
Na2O:0~10%、
ZrO2:0~12%、
Ta2O5:0~12%、
WO3:0~5%、
Sb2O3:0~1%、
である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
屈折率(nd)が、1.60~1.80の範囲である、
請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
アッベ数(νd)が、25~35の範囲である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
屈折率(nd)とアッベ数(νd)が、下記式(1)で表される関係を満たす、
請求項1~4のいずれか一項に記載の光学ガラス。
nd≦-0.04×νd+3.00・・・(1)
【請求項6】
内部透過率が5%となる波長(λ5)が、355nm以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
異常分散値(ΔPg,F)が、0.0080以下である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
部分分散比(Pg,F)とアッベ数(νd)が下記式(2)で表される関係を満たす、
Pg,F≦-0.003νd+0.6900・・・(2)
請求項1~7のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学ガラスを用いた光学素子。
【請求項10】
請求項9に記載の光学素子を含む光学系。
【請求項11】
請求項10に記載の光学系を含むカメラ用交換レンズ。
【請求項12】
請求項10に記載の光学系を備える光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、これを用いた光学素子、光学系、カメラ用交換レンズ、及び光学装置に関する。本発明は2018年4月23日に出願された日本国特許の出願番号2018-082588の優先権を主張し、文献の参照による織り込みが認められる指定国については、その出願に記載された内容は参照により本出願に織り込まれる。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、フツリン酸ガラスからなる光学ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第一の態様は、質量百分率で、SiO2:10~30%、B2O3:6~20%、Nb2O5:25~50%、K2O:15~30%、TiO2:0~8%、P2O5:0~8%、RO(式中、Rは、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。):0~4%、Li2O:0~10%、であり、Nb2O5に対するTiO2の比(TiO2/Nb2O5)が、0~0.3である、光学ガラスである。
【0005】
本発明の第二の態様は、上述の光学ガラスを用いた光学素子である。
【0006】
本発明の第三の態様は、上述の光学素子を含む光学系である。
【0007】
本発明の第四の態様は、上述の光学系を含むカメラ用交換レンズである。
【0008】
本発明の第五の態様は、上述の光学系を備える光学装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の斜視図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の他の例の概略図であり、
図2(a)は撮像装置の正面図であり、
図2(b)は撮像装置の背面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える多光子顕微鏡の構成の例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、各実施例及び各比較例のλ
5とν
dをプロットしたグラフである。
【
図5】
図5は、各実施例及び各比較例のΔP
g,Fとν
dをプロットしたグラフである。
【
図6】
図6は、各実施例及び各比較例のP
g,Fとν
dをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0011】
本実施形態に係る光学ガラスは、SiO2-B2O3-Nb2O5-K2O系の光学ガラスであり、質量百分率で、SiO2:10~30%、B2O3:6~20%、Nb2O5:25~50%、K2O:15~30%、TiO2:0~8%、P2O5:0~8%、RO(式中、Rは、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。):0~4%、Li2O:0~10%、であり、Nb2O5の含有量に対するTiO2の含有量の比(TiO2/Nb2O5)が、0~0.3である。
【0012】
本明細書中において、特に断りがない場合は、各成分の含有量は全て酸化物換算組成のガラス全重量に対する質量%であるものとする。ここでいう酸化物換算組成とは、ガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩等が溶融時に全て分解されて酸化物に変化すると仮定し、当該酸化物の総質量を100%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0013】
従来、蛍光顕微鏡等をはじめとする紫外光を利用した顕微鏡観察が盛んに行われている。こういった光学装置に用いる光学ガラスの材料等として、紫外光領域等において高透過率である硝材が望まれている。また、このような光学装置における光学系では、屈折率や分散が異なる硝材を組み合わせることで色収差を補正すること(色消し)が行われており、このような色消しを行う観点から、高分散(アッベ数が小さい)でありながら部分分散比の小さい硝材が望まれている。
【0014】
しかしながら、一般的な光学ガラスの特性として、分散が高くなるにしたがいアッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が高くなる傾向にある。そのため、高分散である光学ガラスは、アッベ数と部分分散比の関係が直線関係(基準線)から正の方向へ大きく偏差し、正の異常分散性が大きくなってしまうといった問題があった。
【0015】
この点、本実施形態に係る光学ガラスは、高分散であり、かつ、アッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が低いものである。また、本実施形態に係る光学ガラスは、紫外光領域を含む広い領域における透過率も高い。さらには、本実施形態の好適な一態様として、例えば、1.60≦nd≦1.80、25≦νd≦35、かつ、nd≦-0.04×νd+3.00である中屈折率高分散領域において、内部透過率が5%となる波長がλ5≦355nmであり、異常分散値がΔPg,F≦0.0080であり、かつ、Pg,F≦-0.0030×νd+0.6900の関係を満たす光学ガラスを実現可能である。
【0016】
このような光学ガラスは、紫外光の内部透過率が高く、かつ、アッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が低いものであり、アッベ数と部分分散比の関係が直線関係(基準線)に近似するよう制御されたものである。すなわち、部分分散比の基準線からの正の方向への偏差が少なく、正の異常分散性が低い光学ガラスである。さらには、紫外光領域の内部透過率、アッベ数(νd)に対する屈折率(nd)、アッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が特異な光学ガラスとすることも可能である。本実施形態に係る光学ガラスは、かかる特性を有するため、上述した要求にも十分に応え得るものである。
【0017】
以下、本実施形態に係る光学ガラスの成分組成を説明する。
【0018】
SiO2は、ガラスを形成する酸化物であり、耐失透性を向上させることができる。その一方で、多量に含有すると熔解性を悪化させ、アッベ数を上昇させてしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、10~30%である。また、含有量の上限値は、29%としてよく、28%としてもよい。また、含有量の下限値は、12%としてよく、15%としてもよい。
【0019】
B2O3は、ガラスを形成する酸化物であり、熔解性を向上させることができる。また、アッベ数に対して屈折率を低下させることができる。その一方で、多量に含有すると耐失透安定性が低下してしまい、アッベ数を上昇させてしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、6~20%である。また、含有量の上限値は、19%としてよく、18%としてもよい。また、含有量の下限値は、7%としてよく、8%としてもよい。
【0020】
Nb2O5は、所望のアッベ数を得るために有効な成分である。また、アッベ数に対して屈折率を低下させることができる。その一方で、多量に含有すると耐失透性や熔解性が低下し、アッベ数に対する部分分散比が上昇し、透過率が悪化する傾向にある。かかる観点から、その含有量は、25~50%である。また、含有量の上限値は、好ましくは49%であり、より好ましくは48%である。また、含有量の下限値は、好ましくは27%であり、より好ましくは29%である。
【0021】
K2Oは、アッベ数に対する所望の部分分散比を得るために有効な成分である。また、透過率を向上させることができる。その一方で、多量に含有すると耐失透安定性が低下し、アッベ数を上昇させてしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、15~30%である。また、その含有量の上限値は、26%としてよく、22%としてもよい。また、その含有量の下限値は、15%超としてよく、15.5%としてもよい。
【0022】
TiO2は、0%超含む場合に、アッベ数に対する屈折率を低下させることができる任意成分である。その一方で、多量に含有すると透過率が悪化する傾向にある。かかる観点から、その含有量は、0~8%である。また、その含有量の上限値は、6%としてよく、4%としてもよい。また、その含有量の下限値は、0%超としてよく、1%としてもよい。
【0023】
なお、Nb2O5の含有量に対するTiO2の含有量が多すぎると、透過率が低下する傾向にある。かかる観点から、Nb2O5の含有量に対するTiO2の含有量の比(TiO2/Nb2O5)は、0~0.3である。また、その比の上限値は、0.25としてよく、0.24としてもよい。また、その比の下限値は、0超としてよく、0.01としてもよい。
【0024】
P2O5は、0%超含む場合に、アッベ数に対する屈折率を低下させる任意成分である。その一方で、多量に含有するとアッベ数に対する部分分散比が大きくなり、また、アッベ数が上昇してしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、0~8%である。また、その含有量の上限値は、7%としてよく、6%としてもよい。また、その含有量の下限値は、0%超としてよく、1%としてもよい。
【0025】
RO(Rは、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる1種以上を表す。)は、0%超含む場合に、アッベ数に対する部分分散比を低下させる任意成分である。その一方で、多量に含有すると耐失透安定性が低下し、アッベ数に対する屈折率が上昇してしまう傾向にある。かかる観点から、ROに該当する成分の含有量の合計は、0~4%である。また、その含有量の合計の上限値は、3%としてよく、2%としてもよい。また、その含有量の合計の下限値は、0%超としてよく、0.3%としてよい。
【0026】
Li2Oは、0%超含む場合に、アッベ数に対する部分分散比を低下させ、透過率を向上させる任意成分である。その一方で、多量に含有すると耐失透安定性が低下し、アッベ数が上昇し、アッベ数に対する屈折率が上昇してしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、0~10%である。また、その含有量の上限値は、8%としてよく、7%としてもよい。また、その含有量の下限値は、0%超としてよく、1%としてもよい。
【0027】
Na2Oは、0%超含む場合に、アッベ数に対する部分分散比を低下させ、透過率を向上させる任意成分である。その一方で、多量に含有すると耐失透安定性が低下し、アッベ数が上昇し、アッベ数に対する屈折率が上昇してしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、0~10%である。また、その含有量の上限値は、8%としてよく、7%としてもよい。また、その含有量の下限値は、0%超としてよく、1%としてもよい。
【0028】
ZrO2は、0%超含む場合に、アッベ数を上昇させずにアッベ数に対する部分分散比を低下させる任意成分である。その一方で、多量に含有すると耐失透安定性が低下し、透過率が悪化してしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、0~12%である。また、その含有量の上限値は、10%としてよく、8%としてもよい。また、その含有量の下限値は、0%超としてよく、1%としてよもよい。
【0029】
Ta2O5は、0%超含む場合に、アッベ数を低く維持する任意成分である。その一方で、多量に含有すると耐失透安定性が低下してしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、0~12%である。また、その含有量の上限値は、10%としてよく、8%としてもよい。また、その含有量の下限値は、0%超としてよく、2%としてもよい。
【0030】
WO3は、0%超含む場合に、アッベ数を低く維持する任意成分である。その一方で、多量に含有すると透過率が悪化してしまう傾向にある。かかる観点から、その含有量は、0~5%である。また、その含有量の上限値は、4%としてよく、3%としてもよい。また、その含有量の下限値は、0%超としてよく、1%としてもよい。
【0031】
Sb2O3は、0%超含む場合に、ガラスの清澄や均質化のために有効な任意成分である。かかる観点から、その含有量は、好ましくは0~1%である。
【0032】
上述した各成分に限らず、本実施形態において目的とする光学ガラスの達成に支障のない範囲で、その他の任意成分を添加することもできる。
【0033】
上述した成分組成を有する本実施形態に係る光学ガラスは、高分散であり、かつ、紫外光領域を含む広い領域において、内部透過率が高く、かつ、アッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が低い。特に、中屈折率高分散領域であっても、かかる特性を維持できる。
【0034】
以下に、本実施形態における光学ガラスが持つ好適な特性を説明する。
【0035】
まず、本実施形態に係る光学ガラスが中屈折率高分散領域での使用に適するといった観点から、当該領域として、その好適な屈折率(nd)は、1.60~1.80の範囲であり、かつ、好適なアッベ数(νd)は、25~35の範囲であるものが挙げられる。
【0036】
次に、本実施形態に係る光学ガラスの好適な態様として、屈折率(nd)とアッベ数(νd)が、下記式(1)で表される関係を満たすものが挙げられる。
nd≦-0.04×νd+3.00・・・(1)
【0037】
上記の中でも、中屈折率高分散領域においても所望の特性を一層良好に発揮できるものとして、屈折率(nd)が1.60~1.80の範囲であり、アッベ数(νd)が25~35の範囲であり、かつ、式(1)で表される関係を満たすものが挙げられる。
【0038】
そして、本実施形態に係る光学ガラスは、高い紫外光透過率を有する。例えば、紫外光の利用と色消しに供する有用性の観点から、紫外光領域においても透過率が良く、アッベ数に対する部分分散比が低い光学ガラスとすることができる。その好適な具体例として、内部透過率が5%となる波長(λ5)が、355nm以下である光学ガラスが挙げられる。
【0039】
さらに、本実施形態の好適な具体例としては、異常分散値(ΔPg,F)が、0.0080以下である光学ガラスが挙げられる。異常分散値は、異常分散性の指標であり、具体的な定義については後述する。
【0040】
従来、とりわけ中屈折率高分散領域では、光学ガラスの分散性が大きくなるにつれて異常分散値(ΔPg,F)が大きくなるといった問題点があるところ、この点を考慮した本実施形態の好適な具体例として、部分分散比(Pg,F)とアッベ数(νd)が下記式(2)で表される関係を満たすものが挙げられる。
Pg,F≦-0.003νd+0.6900・・・(2)
【0041】
そして、本実施形態に係る光学ガラスの一層好適な態様としては、上記式(2)で表される関係を満たし、かつ、内部透過率が5%となる波長(λ5)が、355nm以下であり、異常分散値(ΔPg,F)が、0.0080以下のものである。これらの特性を併せ持つ光学ガラスは、中屈折率高分散領域においても、紫外光の内部透過率が高く、かつ、アッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が低いものである。
【0042】
上述したような特性を有する本実施形態に係る光学ガラスは、例えば、光学装置等に用いられる光学素子として好適に用いることができる。このような光学素子には、ミラー、レンズ、プリズム、フィルタ等が含まれる。そして、かかる光学素子を含む光学系としては、例えば、対物レンズ、集光レンズ、結像レンズ、カメラ用交換レンズ等が挙げられる。さらに、これらの光学系は、レンズ交換式カメラ、レンズ非交換式カメラ等の撮像装置、多光子顕微鏡等の顕微鏡等の光学装置に好適に用いることができる。かかる光学装置としては、上述した撮像装置や顕微鏡に限られず、ビデオカメラ、テレコンバーター、望遠鏡、双眼鏡、単眼鏡、レーザー距離計、プロジェクタ等も含まれる。以下にこれらの一例を説明する。
【0043】
<撮像装置>
図1は、光学装置を撮像装置とした場合の一例の斜視図である。
【0044】
撮像装置1はいわゆるデジタル一眼レフカメラ(レンズ交換式カメラ)であり、撮影レンズ103(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。カメラボディ101のレンズマウント(不図示)にレンズ鏡筒102が着脱自在に取り付けられる。そして、該レンズ鏡筒102の撮影レンズ103を通した光がカメラボディ101の背面側に配置されたマルチチップモジュール106のセンサチップ(固体撮像素子)104上に結像される。このセンサチップ104は、いわゆるCMOSイメージセンサー等のベアチップであり、マルチチップモジュール106は、例えば、センサチップ104がガラス基板105上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
【0045】
図2は、光学装置を撮像装置とした場合の他の例の概略図である。
図2(a)は撮像装置CAMの正面図を、
図2(b)は撮像装置CAMの背面図を示す。
【0046】
撮像装置CAMはいわゆるデジタルスチルカメラ(レンズ非交換式カメラ)であり、撮影レンズWL(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。
【0047】
撮像装置CAMは、不図示の電源ボタンを押すと、撮影レンズWLのシャッタ(不図示)が開放されて、撮影レンズWLで被写体(物体)からの光が集光され、像面に配置された撮像素子に結像される。撮像素子に結像された被写体像は、撮像装置CAMの背後に配置された液晶モニターMに表示される。撮影者は、液晶モニターMを見ながら被写体像の構図を決めた後、レリーズボタンB1を押し下げて被写体像を撮像素子で撮像し、メモリー(不図示)に記録保存する。
【0048】
撮像装置CAMには、被写体が暗い場合に補助光を発光する補助光発光部EF、撮像装置CAMの種々の条件設定等に使用するファンクションボタンB2等が配置されている。
【0049】
<多光子顕微鏡>
図3は、多光子顕微鏡2の構成の例を示すブロック図である。
【0050】
多光子顕微鏡2は、対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210を備える。対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210のうち少なくとも1つは、本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。以下、多光子顕微鏡2の光学系を中心に説明する。
【0051】
パルスレーザ装置201は、例えば、近赤外波長(約1000nm)であって、パルス幅がフェムト秒単位の(例えば、100フェムト秒の)超短パルス光を射出する。パルスレーザ装置201から射出された直後の超短パルス光は、一般に所定の方向に偏光された直線偏光となっている。
【0052】
パルス分割装置202は、超短パルス光を分割し、超短パルス光の繰り返し周波数を高くして射出する。
【0053】
ビーム調整部203は、パルス分割装置202から入射される超短パルス光のビーム径を、対物レンズ206の瞳径に合わせて調整する機能、試料Sから発せられる多光子励起光の波長と超短パルス光の波長との軸上の色収差(ピント差)を補正するために超短パルス光の集光及び発散角度を調整する機能、超短パルス光のパルス幅が光学系を通過する間に群速度分散により広がってしまうのを補正するために、逆の群速度分散を超短パルス光に与えるプリチャープ機能(群速度分散補償機能)等を有する。
【0054】
パルスレーザ装置201から射出された超短パルス光は、パルス分割装置202によりその繰り返し周波数が大きくされ、ビーム調整部203により上述した調整が行われる。そして、ビーム調整部203から射出された超短パルス光は、ダイクロイックミラー204によりダイクロイックミラー205の方向に反射され、ダイクロイックミラー205を通過し、対物レンズ206により集光されて試料Sに照射される。このとき、走査手段(不図示)を用いることにより、超短パルス光を試料Sの観察面上に走査させてもよい。
【0055】
例えば、試料Sを蛍光観察する場合には、試料Sの超短パルス光の被照射領域及びその近傍では、試料Sが染色されている蛍光色素が多光子励起され、赤外波長である超短パルス光より波長が短い蛍光(以下、「観察光」という。)が発せられる。
【0056】
試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた観察光は、対物レンズ206によりコリメートされ、その波長に応じて、ダイクロイックミラー205により反射されたり、あるいは、ダイクロイックミラー205を透過したりする。
【0057】
ダイクロイックミラー205により反射された観察光は、蛍光検出部207に入射する。蛍光検出部207は、例えば、バリアフィルタ、PMT(photo multiplier tube:光電子増倍管)等により構成され、ダイクロイックミラー205により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部207は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0058】
一方、ダイクロイックミラー205を透過した観察光は、走査手段(不図示)によりデスキャンされ、ダイクロイックミラー204を透過し、集光レンズ208により集光され、対物レンズ206の焦点位置とほぼ共役な位置に設けられているピンホール209を通過し、結像レンズ210を透過して、蛍光検出部211に入射する。
【0059】
蛍光検出部211は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、結像レンズ210により蛍光検出部211の受光面において結像した観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部211は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0060】
なお、ダイクロイックミラー205を光路から外すことにより、試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた全ての観察光を蛍光検出部211で検出するようにしてもよい。
【0061】
また、試料Sから対物レンズ206と逆の方向に発せられた観察光は、ダイクロイックミラー212により反射され、蛍光検出部213に入射する。蛍光検出部213は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、ダイクロイックミラー212により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部213は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0062】
蛍光検出部207、211、213からそれぞれ出力された電気信号は、例えば、コンピュータ(不図示)に入力され、そのコンピュータは、入力された電気信号に基づいて、観察画像を生成し、生成した観察画像を表示したり、観察画像のデータを記憶したりすることができる。
【実施例0063】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
<光学ガラスの作製>
各実施例及び各比較例に係る光学ガラスは、以下の手順で作製した。まず、表2~表10に記載の化学組成(質量%)となるよう、酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸化合物(リン酸塩、正リン酸等)、及び硝酸塩等のガラス原料を秤量した。次に、秤量した原料を混合して白金ルツボに投入し、1100~1400℃の温度で1時間程度熔融し、攪拌均質化した。その後、適当な温度に下げてから金型等に鋳込み、徐冷することにより、各サンプルを得た。
【0065】
<光学ガラスの屈折率の測定>
各サンプルの屈折率(nd)は、精密屈折率測定器(TRIOPTICS社製;「Spectro Master HR」)を用いて測定した。そして、得られた実測値を用いて、アッベ数(νd)、部分分散比(Pg,F)をそれぞれ算出した。なお、計算に用いた屈折率の値は、小数点以下第7位までとした。
【0066】
<光学ガラスの内部透過率の測定>
各サンプルの透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製;「UH4150」)を用いて測定した。厚み12mmのサンプルと厚み2mmのサンプルの透過率の差から内部透過率を算出した。なお、表中の「失透」との記載は、ガラスを製造した際に、ガラスの失透などによって測定が不可能であったこと(即ち、光学ガラスとしての使用が不可能なこと)を示す。
【0067】
<光学ガラスの分散性の評価>
部分分散比(Pg,F)とは、主分散(nF-nC)に対する(ng-nF)の比のことである。ここで、nFは、波長486.133nmの光(F線)に対するガラスの屈折率であり、nCは、波長656.273nmの光(C線)に対するガラスの屈折率であり、ngは、波長435.835nmの光(g線)に対するガラスの屈折率である。
【0068】
異常分散値(ΔPg,F)とは、異常分散性を示す指標であり、以下の方法により算出した。まず、表1に示すアッベ数(νd)と部分分散比(Pg,F)を有する2硝種のガラス「NSL7」と「PBM2」(ともに株式会社オハラ硝種名)を、基準材として用いた。
【0069】
続いて、部分分散比(Pg,F)を縦軸に、アッベ数(νd)を横軸に取り、上述の基準材に対応する2点を結ぶ直線を基準線とした。そして、各実施例及び各比較例の値を当該グラフ上にプロットし、基準線との縦軸(部分分散比Pg,F)の差分をΔPg,Fとした。そして、部分分散比が基準線の上側にあるものを正の異常分散性、直線の下側にあるものを負の異常分散性を有するという。
【0070】
この異常分散値(ΔP
g,F)の基準線の方程式は、P
g,F=0.641462+(-0.0016178)×ν
dである(
図6の基準線参照)。
【0071】
【0072】
表2~10に、各実施例及び各比較例の成分組成(質量基準)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(Pg,F)、式(i)としてnd+0.04×νd-3.00の値(式(1)参照)、内部透過率が5%となる波長(λ5)、異常分散値(ΔPg,F)、及び式(ii)としてPg,F+0.0030×νd-0.6900の値(式(2)参照)を示す。
【0073】
そして、式(i)の値が0又は負の値であれば、式(1)の関係(nd≦-0.04×νd+3.00)を満たすことになる。また、式(ii)の値が0又は負の値であれば、式(2)の関係(Pg,F≦-0.0030×νd+0.6900)を満たすことになる。
【0074】
図4に、各実施例及び各比較例のλ
5とν
dをプロットしたグラフを示し、
図5に、各実施例及び各比較例のΔP
g,Fとν
dをプロットしたグラフを示し、
図6に、各実施例及び各比較例のP
g,Fとν
dをプロットしたグラフを示す。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
※式(i)=nd+0.04×νd-3.00
式(ii)=Pg,F+0.0030×νd-0.6900
【0085】
以上より、各実施例の光学ガラスは、内部透過率が高く、かつ、アッベ数(νd)に対する部分分散比(Pg,F)が低いことが確認された。とりわけ、1.60≦nd≦1.80、25≦νd≦35、であり、かつ、nd≦-0.04×νd+3.00の関係を満たす領域においても、アッベ数と部分分散比の関係を示す基準線からの偏差が少なく、正の異常分散性が低いことが確認された。
【0086】
一方、各比較例については、サンプルが失透してしまい、光学ガラスとして使用できないもの、透過率が悪いもの、あるいは、部分分散比が大きく、正の異常分散性が高いものであった。
1・・・撮像装置、101・・・カメラボディ、102・・・レンズ鏡筒、103・・・撮影レンズ、104・・・センサチップ、105・・・ガラス基板、106・・・マルチチップモジュール、2・・・多光子顕微鏡、201・・・パルスレーザ装置、202・・・パルス分割装置、203・・・ビーム調整部、204,205,212・・・ダイクロイックミラー、206・・・対物レンズ,207,211,213・・・蛍光検出部、208・・・集光レンズ、209・・・ピンホール、210・・・結像レンズ、CAM・・・撮像装置、WL・・・撮影レンズ、EF・・・補助光発光部、M・・・液晶モニター、B1・・・レリーズボタン、B2・・・ファンクションボタン、S・・・試料