(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116833
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】Ag-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料
(51)【国際特許分類】
C22C 5/04 20060101AFI20230816BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20230816BHJP
C22F 1/14 20060101ALN20230816BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
C22C5/04
C22C30/02
C22F1/14
C22F1/00 681
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 612
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 630D
C22F1/00 630K
C22F1/00 625
C22F1/00 661Z
C22F1/00 602
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019142
(22)【出願日】2022-02-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】布施 健志
(72)【発明者】
【氏名】嶋 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】寒江 威元
(72)【発明者】
【氏名】河野 真治
(57)【要約】
【課題】プローブピン用途の合金材料であって、抵抗値や硬度・耐摩耗性等といった従来から要求される特性に優れ、更に折り曲げ耐性が向上したものを提供する。
【解決手段】本発明は、Ag、Pd、Cuと、第1添加元素であるBと、第2添加元素であるZn、Bi、Snの少なくともいずれかの元素を必須とするAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料である。ここで、第1添加元素の濃度は0.1質量%以上1.5質量%以下であり、記第2添加元素の濃度は0.1質量%以上1.0質量%以下である。そして、Ag-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度については、それら三元素のみでAg-Pd-Cu三元合金を形成したとして換算されるAg濃度(S
Ag)、Pd濃度(S
Pd)、Cu濃度(S
Cu)がいずれもAg-Pd-Cu三元系状態図における、所定の範囲内にあることを要する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag、Pd、Cuと、第1添加元素であるBと、第2添加元素であるZn、Bi、Snの少なくともいずれかの元素と、不可避不純物と、からなるAg-Pd-Cu系合金よりなるプローブピン用材料であって、
前記Ag-Pd-Cu系合金のAg濃度とPd濃度とCu濃度との合計値に基づき、前記Ag濃度、前記Pd濃度、前記Cu濃度のそれぞれを、Ag-Pd-Cu三元合金のAg濃度SAg、Pd濃度SPd、Cu濃度SCuに換算したとき、
前記SAg、前記SPd、前記SCuが、いずれも、Ag-Pd-Cu三元系状態図における、A1点(Ag:5.5質量%、Pd:47.5質量%、Cu:47質量%)、A2点(Ag:5.5質量%、Pd:58.5質量%、Cu:36質量%)、A3点(Ag:18質量%、Pd:49質量%、Cu:33質量%)、A4点(Ag:18質量%、Pd:45質量%、Cu:37質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)の範囲内にあり、
前記第1添加元素の濃度が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、
前記第2添加元素の濃度が0.1質量%以上1.0質量%以下であるプローブピン用材料。
【請求項2】
前記SAg、前記SPd、前記SCuが、いずれも、A1点、A2点、B3点(Ag:13質量%、Pd:52.8質量%、Cu:34.2質量%)、B4点(Ag:13質量%、Pd:46質量%、Cu:41質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-B3-B4)の範囲内にある請求項1に記載のプローブピン用材料。
【請求項3】
前記SAg、前記SPd、前記SCuが、いずれも、C1点(Ag:5.5質量%、Pd:52質量%、Cu:42.5質量%) 、A2点、C3点(Ag:11質量%、Pd:54.3質量%、Cu:34.7質量%)、C4点(Ag:11質量%、Pd:50質量%、Cu:39質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(C1-A2-C3-C4)の範囲内にある請求項1又は請求項2に記載のプローブピン用材料。
【請求項4】
時効熱処理後の比抵抗が10μΩ・cm以下である請求項1~請求項3のいずれかに記載のプローブピン用材料。
【請求項5】
ビッカース硬度が380Hv以上580Hv以下である請求項1~請求項4のいずれかに記載のプローブピン用材料。
【請求項6】
Ag-Pd-Cu系合金からなる線材の一端を固定し、
前記線材を直線状態から略90°の角度で折り曲げる第1折り曲げ工程と、折り曲げた状態から前記直線状態に戻るように折り曲げる第2折り曲げ工程と、を交互に繰り返し、前記第1折り曲げ工程と第2折り曲げ工程のそれぞれを1回の折り曲げ回数として前記線材が破断するまでの折り曲げ回数をカウントしたとき、
カウントされる前記折り曲げ回数が5回以上である請求項1~請求項5のいずれかに記載のプローブピン用材料。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれかに記載のプローブピン用材料を含むプローブピン。
【請求項8】
Ag-Pd-Cu三元系状態図における、A1点(Ag:5.5質量%、Pd:47.5質量%、Cu:47質量%)、A2点(Ag:5.5質量%、Pd:58.5質量%、Cu:36質量%)、A3点(Ag:18質量%、Pd:49質量%、Cu:33質量%)、A4点(Ag:18質量%、Pd:45質量%、Cu:37質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)の範囲内の組成のAg、Pd、Cuと、
0.1質量%以上1.5質量%以下の濃度の前記第1添加元素と、0.1質量%以上1.0質量%以下の濃度の前記第2添加元素と、を熔解鋳造してAg-Pd-Cu系合金を製造する工程を含むプローブピン用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器や半導体デバイス等の検査に使用されるプローブピンに好適な合金材料に関する。詳しくは、Ag-Pd-Cu系合金からなり、各構成元素の組成及び添加元素の選択が好適化されており、低抵抗であると共に耐摩耗性に優れ、更に、折り曲げ加工性にも優れたプローブピン用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の基板や半導体デバイスの半導体ウェハに搭載された素子等の導通検査・動作特性検査ではプローブカードを備えるプローブ検査装置が使用されている。プローブカードには、多数のプローブピンが支持されており、プローブピンを素子等の電極に接触させて電極との間で電気信号を送受することで検査が行われている。
【0003】
プローブピンは、電極との接触・離隔を無数に繰り返しながら通電されるという過酷な環境の下で使用されている。そのため、プローブピン用材料には、導電材料としての低電気抵抗性に加えて、耐摩耗性・硬度等の機械的性質や耐食性・耐酸化性等が要求される。
【0004】
また、プローブピンの形態にはいくつかの種類があり、直線状の垂直型、片持ち梁のカンチレバー型のプローブピンやポゴピン(バネ付きピン)型のプローブピンが良く知られている。これらの中でカンチレバー型のプローブピンは、片側が60°~90°の角度に折り曲げ加工されており、この状態で検査対象物と繰り返し接触・離隔されて使用される。そして、カンチレバー型のプローブピンでは、使用過程で折り曲げ加工された部位への負荷が大きく、ときとして疲労破壊に至ることもある。また、ポゴピン型のプローブピンも、先端部が複雑形状に加工されており、接触圧が大きいと破壊・部分的欠損が生じることがある。そのため、これらのプローブピンに適用される材料には、折り曲げ耐性も重要な特性となっている。
【0005】
これまで、上記した様々な要求特性を考慮しながら、プローブピン用材料としていくつかの合金金属が提案されている。例えば、Pt、Ir、Au等の貴金属を主成分とする貴金属基合金がプローブピン用材料として提案されている。これらの貴金属合金は、耐摩耗性において特に優れており、塑性加工や析出効果によって高硬度なプローブピン用材料として知られている(特許文献1、2)。
【0006】
また、プローブピン用材料としては、Ag-Pd-Cu合金の適用例が多く知られている。Ag-Pd-Cu合金は比較的低抵抗な合金であり、更に、時効析出により形成されるPdCu相による硬度上昇も期待できる。そして、Ag-Pd-Cu合金に各種の添加元素を添加することで耐酸化性や加工性等の特性向上を図ることができる。このAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料としては、例えば、添加元素としてNi、Zn、Bを添加し、耐酸化性・耐褪色性を確保しながら電気的性質を良好にしたものがある(特許文献3)。また、Ag-Pd-Cu合金に添加元素としてInを添加し、比抵抗、硬度、加工性のバランスを従来よりも高レベルで発揮させたものもある(特許文献4)。更に、折り曲げ耐性については、Ptを添加したAg-Pd-Cu-Pt合金がある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4176133号明細書
【特許文献2】特許第4216823号明細書
【特許文献3】特表平10-504062号公報
【特許文献4】国際公開WO2019/194322号公報
【特許文献5】国際公開WO2012/077378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでのプローブピン用材料は、要求特性の一部に対して着目して改善されたものが多く、要求特性の全体をバランス良く改善させたものは少ない。上記特許文献1、2の貴金属基合金は、硬度・耐摩耗性については極めて良好であるが、構成金属の特性上、抵抗値が高めとなっている。
【0009】
一方、Ag-Pd-Cu系合金は、特許文献1、2の貴金属基合金に対して低抵抗であり、添加元素の選定により耐食性等の複数の特性向上を図ることができる。しかしながら、折り曲げ耐性等を考慮すると、これまでのAg-Pd-Cu系合金でも全体的な特性向上の観点では不十分であった。上記した従来技術に関してみれば、特許文献3のAg-Pd-Cu-Ni-Zn-B合金は、電気抵抗がやや高くなる傾向がある上に、折り曲げ耐性に関する改善効果も明らかではない。特許文献4のAg-Pd-Cu-In合金は、Inが合金の延性を低下させて折り曲げ耐性を低下させている。また、折り曲げ耐性に配慮した特許文献4のAg-Pd-Cu-Pt合金は、折り曲げ部分の疲労破壊は抑制できるが、硬度が低過ぎてプローブピン用材料としての基本特性に劣っている。
【0010】
また、Ag-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料に関しては、今後、より安定して低い抵抗値を示すことが要求される。近年、普及が広がっているHV・EV等の電気自動車等で搭載されているパワーデバイス(SiC、GaN等)は、高温下での動作が前提となっていることから、その検査環境も100℃~250℃の高温域に設定されることとなる。Ag-Pd-Cu系合金は、この温度域では耐酸化性等を有するが、これより高温の300℃を超えた状態で特性変化が生じる。上記したように、Ag-Pd-Cu系合金は時効硬化型の合金であり、300℃以上で時効が進行するからである。プローブピンは、デバイスの検査工程で通電されているので抵抗熱により雰囲気温度より高温になる可能性がある。プローブピン材料に特性変化を生じさせないためには、抵抗値を従来以上に低減して加熱を抑制する必要がある。
【0011】
本発明は以上のような背景のもとになされたものであり、抵抗値や硬度(耐摩耗性)等といった従来のプローブピン用材料に要求される特性に優れると共に、折り曲げ耐性が向上したプローブピン用材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の具体的検討において、本発明者等は、Ag-Pd-Cu系合金を基本とした材料開発を行うこととした。Ag-Pd-Cu系合金は、本来的に低抵抗の合金であり、組成の最適化を行うことで従来よりも低抵抗な材料とすることができると考察したからである。そして、合金の低抵抗化は、プローブピンという導電部材として優先すべき特性である。また、上記のとおり、時効硬化型合金であるAg-Pd-Cu系合金は、300℃以上の高温における特性変化が懸念されるものの、この問題も低抵抗化により対処できるといえる。
【0013】
そして、本発明者等は、上記課題に対応し得るAg-Pd-Cu系合金として、そのベースとなるAg、Pd、Cuの3元素のみで構成されるAg-Pd-Cu三元合金の組成の最適化と、この最適化されたAg-Pd-Cu三元合金に耐摩耗性と折り曲げ耐性を付与し得る添加元素を好適範囲で添加したAg-Pd-Cu系合金を見出し、本発明に想到した。
【0014】
上記課題を解決する本発明は、Ag、Pd、Cuと、第1添加元素であるBと、第2添加元素であるZn、Bi、Snの少なくともいずれかの元素と、不可避不純物と、からなるAg-Pd-Cu系合金よりなるプローブピン用材料であって、前記Ag-Pd-Cu系合金のAg濃度とPd濃度とCu濃度との合計値に基づき、前記Ag濃度、前記Pd濃度、前記Cu濃度のそれぞれを、Ag-Pd-Cu三元合金のAg濃度SAg、Pd濃度SPd、Cu濃度SCuに換算したとき、前記SAg、前記SPd、前記SCuが、いずれも、Ag-Pd-Cu三元系状態図における、A1点(Ag:5.5質量%、Pd:47.5質量%、Cu:47質量%)、A2点(Ag:5.5質量%、Pd:58.5質量%、Cu:36質量%)、A3点(Ag:18質量%、Pd:49質量%、Cu:33質量%)、A4点(Ag:18質量%、Pd:45質量%、Cu:37質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)の範囲内にあり、前記第1添加元素の濃度が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、前記第2添加元素の濃度が0.1質量%以上1.0質量%以下であるプローブピン用材料である。以下、本発明に係るプローブピン用材料の構成及び諸特性について詳細に説明する。尚、本願明細書においては、Ag、Pd、Cuの3元素のみで構成される合金を「Ag-Pd-Cu三元合金」と称する。また、Ag、Pd、Cuと、それら以外の元素を1種以上含む合金を「Ag-Pd-Cu系合金」と称する。
【0015】
I.本発明に係るプローブピン用材料の構成
上記のとおり、本発明に係るプローブピン用材料は、Ag-Pd-Cu系合金からなる。このAg-Pd-Cu系合金は、Ag-Pd-Cu三元合金に、第1添加元素としてのB及び第2添加元素としてのZn、Bi、Snの少なくともいずれかの元素を添加することで構成される5元系以上のAg-Pd-Cu系合金である。以下、これらの必須の構成元素の作用と組成範囲について説明する。
【0016】
(i)Ag、Pd、Cu
本発明で適用されるAg-Pd-Cu系合金は、そのAg濃度、Pd濃度、Cu濃度をAg-Pd-Cu三元合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度に換算したときの濃度値(SAg、SPd、SCu)が、Ag-Pd-Cu三元合金の状態図の後述の所定領域(A1-A2-A3-A4)の範囲内にあることを要件とする。
【0017】
このように、本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度をAg-Pd-Cu三元合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度に換算するのは、本発明における合金開発の経緯を重視したからである。即ち、本発明においては、まず、Ag-Pd-Cu三元合金について、それ自体がプローブピン用材料として最適となり得る組成範囲を明らかとしている。この最適化されたAg-Pd-Cu三元合金は、上述した従来技術に対してAg濃度を低減しPd濃度を高めた低Ag高Pdの合金となる所定の組成領域にある。このAg-Pd-Cu三元合金は、低抵抗化を主目的としつつ、三元合金でありながらも耐摩耗性や折り曲げ耐性を可能な限り発揮し得る組成範囲を有する。そして、本発明は、Ag-Pd-Cu三元合金の最適化を前提として、添加元素の種類と濃度の好適を図ることとしている。
【0018】
かかる合金設計の過程を考慮すると、本発明のAg-Pd-Cu系合金については、第1添加元素及び第2添加元素が作用しないとき(つまり、各添加元素の添加がないとき)の合金組成が、最適化されたAg-Pd-Cu三元合金の組成に相当しているとみなすことが合理である。本発明者等は、かかる理由により本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度を上記のように規定した。
【0019】
そして、「Ag-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度を、Ag-Pd-Cu三元合金のAg濃度(SAg)、Pd濃度(SPd)、Cu濃度(SCu)に換算する」とは、「本発明のAg-Pd-Cu系合金を構成するAg、Pd、Cuが各元素間の濃度比を変更することなくAg-Pd-Cu三元合金を形成したと仮想したとき、当該Ag-Pd-Cu三元合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度をSAg、SPd、SCuに換算する」という意味である。この換算の具体的手法としては、まず、本発明のAg-Pd-Cu系合金を構成するAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の合計値を求める。この合計値は、第1、第2添加元素の存在により100質量%未満となる。そして、前記合計値と、仮想したAg-Pd-Cu三元合金のAg、Pd、Cuの合計濃度(100質量%)との比(100/(本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の合計値))を換算のための係数Kとする。そして、当該係数Kを本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度にそれぞれ乗じることでSAg、SPd、SCuを得ることができる。
【0020】
尚、以上のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度に関する要件は、多くの場合、換算前の濃度値そのものがAg-Pd-Cu三元合金の状態図の所定領域(A1-A2-A3-A4)の範囲内にあるであろうし、その方が好ましいともいえる。よって、上記のような換算をすることなく、Ag-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度に基づき上記要件の判断を行う場合もある。もっとも、本願明細書においては、本願で規定した判断手法・要件に沿った説明をする。
【0021】
そして、本発明に係るプローブピン用材料を構成するAg-Pd-Cu系合金では、S
Ag、S
Pd、S
Cuが、Ag-Pd-Cu三元系状態図における、A1点(Ag:5.5質量%、Pd:47.5質量%、Cu:47質量%)、A2点(Ag:5.5質量%、Pd:58.5質量%、Cu:36質量%)、A3点(Ag:18質量%、Pd:49質量%、Cu:33質量%)、A4点(Ag:18質量%、Pd:45質量%、Cu:37質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)の範囲内に位置するようにAg濃度、Pd濃度、Cu濃度が設定される。このS
Ag、S
Pd、S
Cuがとるべき濃度範囲を規定するAg-Pd-Cu三元系状態図の多角形(A1-A2-A3-A4)を
図1に示す。
【0022】
本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の換算値であるS
Ag、S
Pd、S
Cuの範囲を上記のように規定したのは、主に、Ag-Pd-Cu系合金の低抵抗化を図るためである。つまり、S
Ag、S
Pd、S
Cuの少なくともいずれかが、
図1の各点(A1、A2、A3、A4)を相互に結んだ線(A1-A2、A2-A3、A3-A4、A4-A1)の外側にあるようなAg-Pd-Cu系合金は、時効熱処理後の比抵抗が高くなる傾向がある。また、本発明におけるS
Ag、S
Pd、S
Cuの範囲は、Ag-Pd-Cu系合金の耐摩耗性(硬度)や折り曲げ耐性にも影響を及ぼし得る。特に、S
Ag、S
Pd、S
Cuの少なくともいずれかが、
図1におけるA2-A3線の外側にあるようなAg-Pd-Cu系合金は、硬度が低くなる傾向がある。また、S
Ag、S
Pd、S
Cuの少なくともいずれかが、A3-A4線の外側にあるようなAg-Pd-Cu系合金は折り曲げ耐性が劣る傾向がある。
【0023】
尚、本発明において、「各点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)の範囲内にある」とは、SAg、SPd、SCuが当該多角形の辺上又は頂点上にある場合を含む。
【0024】
また、本発明のAg-Pd-Cu系合金においては、Ag濃度、Pd濃度、Cu濃度の換算値であるS
Ag、S
Pd、S
Cuが、A1点、A2点、B3点(Ag:13質量%、Pd:52.8質量%、Cu:34.2質量%)、B4点(Ag:13質量%、Pd:46質量%、Cu:41質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-B3-B4)の範囲内に位置するものが好ましい。このAg、Pd、Cuの各元素の好ましい濃度範囲を規定する多角形(A1-A2-B3-B4)を
図2に示す。この組成範囲は、
図1の組成に対して限定的な組成範囲での合金であり、より好適な比抵抗及び折り曲げ耐性を示し得る合金組成である。
【0025】
そして、本発明に係るAg-Pd-Cu系合金におけるS
Ag、S
Pd、S
Cuの特に好ましい範囲は、C1点(Ag:5.5質量%、Pd:52質量%、Cu:42.5質量%)、A2点、C3点(Ag:11質量%、Pd:54.3質量%、Cu:34.7質量%)、C4点(Ag:11質量%、Pd:50質量%、Cu:39質量%)の各点間を直線で囲んだ多角形(C1-A2-C3-C4)の範囲内に位置する。このAg、Pd、Cuの各元素の特に好ましい濃度範囲を規定する多角形(C1-A2-C3-C4)を
図3に示す。このように最も限定された範囲内にS
Ag、S
Pd、S
Cuが位置するようなAg濃度、Pd濃度、Cu濃度のAg-Pd-Cu系合金は、特に好適な比抵抗及び折り曲げ耐性等を示し得る。
【0026】
(ii)第1添加元素(B)
第1添加元素であるB(ホウ素)は、適切量の添加により、Ag-Pd-Cu系合金の硬度上昇(耐摩耗性向上)の作用に加えて、合金に延性を付与して折り曲げ耐性を向上させる作用を有する添加元素である。B濃度は、0.1質量%以上1.5質量%以下とする。0.1質量%未満では前記の効果を発揮せず、1.5質量%を超えると塑性加工性が低下し冷間加工が困難となり、硬度上昇効果に乏しくなる。Bの過剰添加は、折り曲げ耐性の低下の要因にもなり得る。B濃度は、0.15質量%以上0.5質量%以下とするのがより好ましい。
【0027】
(iii)第2添加元素(Zn、Bi、Sn)
第2添加元素であるZn(亜鉛)、Bi(ビスマス)、Sn(スズ)は、Ag-Pd-Cu系合金の時効硬化因子であるPdCu規則相と金属間化合物を形成する。この金属間化合物による粒界強化で耐摩耗性が向上する。Zn、Bi、Snは、少なくともいずれかを添加することを要するが、いずれか1種のみの添加であっても良い。Zn、Bi、Snは、それらの合計濃度として0.1質量%以上1.0質量%以下含まれる。0.1質量%未満では前記の効果を発揮せず、1.0質量%を超えると折り曲げ耐性が低下する。また、Zn、Bi、Snの過剰添加は、塑性加工性が低下し冷間加工を困難にする要因にもなる。Zn、Bi、Snの合計濃度は、0.1質量%以上0.5質量%以下とするのがより好ましい。
【0028】
(iv)不可避不純物
本発明に係るプローブピン用材料は、実質的に、Ag、Pd、Cuと上記した第1、第2添加元素(B及びZn、Bi、Snの少ないともいずれか)とで構成される。よって、これら必須構成元素の濃度の合計、即ち、Ag濃度とPd濃度とCu濃度と前記第1添加元素の濃度と前記第2添加元素の濃度との合計は100質量%となる。但し、本発明に係るプローブピン用材料は、不可避的不純物を含有してもよい。不可避不純物としては、Au、Co、Cr、Fe、Ir、Mg、Ni、Pt、Rh、Ru、Si、Ti等が含まれる可能性がある。これらの不純物は、合計で0.02質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以下とする。不可避不純物が検出される場合、上記必須構成元素の濃度の合計値と不可避不純物濃度との和が100質量%となる。
【0029】
尚、本発明に係るAg-Pd-Cu系合金の各構成元素の濃度(Ag濃度、Pd濃度、Cu濃度、第1・第2添加元素濃度)の測定の方法は特に限定する必要はないが、誘導結合発光分光分析(ICP発光分光分析)や蛍光X線分析(XRF分析)等が適用できる。更に、エネルギー分散型X線分析(EDX)や、波長分散型X線分析(WDX)等の分析法といった簡易的な測定法も適用できる。
【0030】
II.本発明に係るプローブピン用材料の特性及び使用形態
これまで述べた通り、本発明に係るプローブピン用材料を構成するAg-Pd-Cu系合金は、低抵抗で耐摩耗性を有すると共に、折り曲げ耐性に優れる。本発明のAg-Pd-Cu系合金は、電気的特性としては、室温における比抵抗が10μΩ・cm以下であるものが好ましい。更に好ましくい室温における比抵抗値は、8μΩ・cm以下である。尚、この比抵抗値及び後述する硬度や折り曲げ耐性の基準は、後述する製造方法における時効熱処理を行った状態の合金に対するものである。
【0031】
また、本発明のAg-Pd-Cu系合金は、耐摩耗性を確保するために高硬度であることが好ましい。具体的には、ビッカース硬度が380Hv以上であることが好ましく420HV以上が更に好ましい。硬度の上限については特に制限すべきではないが、加工熱処理を適切に行うとしても限界はある。また、硬度のみを過度に高めても折り曲げ耐性が低下するおそれもある。更に、プローブピン用途であることから、検査対象物への傷発生のおそれもある。これらから、本発明に係るプローブピン用材料の硬度は、580Hv以下であるものが好ましい。
【0032】
更に、本発明のAg-Pd-Cu系合金は、折り曲げ耐性に優れる。折り曲げ耐性に関する評価は、Ag-Pd-Cu系合金の線材を繰り返し折り曲げたときの回数により評価することができる。具体的には、Ag-Pd-Cu系合金の線材の一端を固定し、直線状態から略90°の角度で折り曲げる第1折り曲げ工程と、折り曲げた状態から直線状態に戻るように折り曲げる第2折り曲げ工程とを交互に繰り返し、第1折り曲げ工程と第2折り曲げ工程のそれぞれを1回の折り曲げ回数として線材が破断するまでの折り曲げ回数をカウントする。この折り曲げ回数によって折り曲げ耐性の評価ができる。尚、破断とは、線材が完全に断線した状態であり、この状態となったときの折り曲げ回数をカウントするのが好ましい。そして、本発明に係るAg-Pd-Cu系合金は、この評価法に基づく折り曲げ回数が5回以上であるものが好ましい。また、上限は特に設定されるべきではないが、本発明の合金も金属材料であるので無限に折り曲げ可能ではないことから、30回以下のものが好ましい。
【0033】
本発明は、当然にプローブピン用途に供されるが、その形態としては線材、棒材に加工された状態で使用されることが多い。これらの形態における寸法は特に制限されることはないが、線径については、直径50μm以上1000μm以下の線材として利用されることが多い。上記した抵抗値や硬度は、この線材としたときに発現されていることが好ましい。上述した折り曲げ耐性の評価においても、この線径範囲で上記の基準を満たしていることが好ましい。また、本発明のAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピンの形態には折り曲げ耐性に優れていることから、カンチレバー型のプローブピンに好適であるが、必ずしもこれに限定されない。垂直型等の他の形態のプローブピンにも利用可能である。
【0034】
III.本発明に係るプローブピン用材料の製造方法
本発明に係るプローブピン用材料は、上記した組成のAg-Pd-Cu系合金の合金インゴットを熔解鋳造法により製造し、合金インゴットをプローブピンに適した寸法・形状に冷間加工した後に時効熱処理をすることで製造可能である。熔解鋳造法では、真空熔解(減圧熔解)、大気熔解(雰囲気熔解)後に鋳造して合金インゴットを製造する他、連続鋳造法、アーク熔解も適用できる。
【0035】
上記合金インゴットを熔解鋳造するに際しては、
図1のA1-A2-A3-A4の範囲内の組成のAg、Pd、Cuを用意し(計100%)、ここに第1添加元素と第2添加元素を添加して熔解鋳造しても良い。また、予め、Ag-Pd-Cu系合金の第1添加元素及び第2添加元素の濃度とS
Ag、S
Pd、S
Cuを設定し、これらに基づき合金インゴットのAg、Pd、Cuの濃度を決定することもできる。この場合は、設定した第1添加元素及び第2添加元素の濃度から上述した係数Kが算出できるので、設定したS
Ag、S
Pd、S
Cuと係数Kの逆数(1/K)から合金インゴットのAg、Pd、Cuの濃度を決定できる。
【0036】
冷間加工工程は、Ag-Pd-Cu系合金インゴットを所望の形状・寸法に成形すると共に、合金に加工歪を導入してプローブピンとして必要な強度・硬度を得るための工程である。冷間加工の形式としては、圧延加工(溝圧延含む)、伸線加工、引き抜き・押出加工等を適宜に選択でき、これらを複数回繰返し又は組み合わせることができる。加工温度としては、100℃以下で行うことが好ましい。
【0037】
時効熱処理は、上記で加工後のAg-Pd-Cu系合金について熱処理をすることでPdCu規則相を析出させて所望の硬度を得るための工程となる。時効熱処理の温度は、300℃以上580℃以下とすることが好ましい。処理時間としては、10分以上4時間以下とすることが好ましい。
【0038】
また、上記時効熱処理は溶体化熱処理と組み合わせて行うことが好ましい。溶体化熱処理は、Ag-Pd-Cu系合金を高温で熱処理して均質な過飽和固溶体の状態にする処理であり、その後の時効処理によるPdCu規則相の析出を好適にするための処理である。本発明のAg-Pd-Cu系合金における溶体化熱処理の加熱温度は、650℃以上950℃以下とすることが好ましい。加熱後の冷却は水冷等の急冷とすることが好ましい。
【0039】
溶体化処理は、複数回行うことができる。上記した冷間加工工程では、伸線加工等を複数回行うことができるが、この冷間加工毎に溶体化処理を行い、最後の冷間加工後に時効熱処理を行うことで最適な特性のAg-Pd-Cu系合金を得ることができる。このように冷間加工と溶体化処理との組み合わせを複数回行う場合、例えば、1回の冷間加工における加工率(断面積減少率)を12%以上80%以下に制御しながら溶体化熱処理を行うことができる。
【0040】
そして、上記の時効熱処理を経たAg-Pd-Cu系合金は、好適な硬度及び電気特性を有すると共に折り曲げ耐性を備える。時効処理後は、更にプローブピンとして必要な形状に加工しても良い。また、カンチレバー型のプローブピンとして折り曲げ加工を行っても良い。
【発明の効果】
【0041】
以上説明したように、本発明に係るプローブピン用材料は、Ag-Pd-Cu系合金を基本としつつ、Ag、Pd、Cuの組成範囲を上記したA1点、A2点、A3点、A4点により囲まれる領域に基づき最適化されており、低抵抗化が達成されている。そして、適切な添加元素を添加することで、耐摩耗性及び折り曲げ耐性が付与されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】Ag-Pd-Cu三元系状態図と、本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の換算値であるS
Ag、S
Pd、S
Cuの範囲(A1-A2-A3-A4)を示す図。
【
図2】Ag-Pd-Cu三元系状態図と、本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の換算値であるS
Ag、S
Pd、S
Cuの好ましい範囲(A1-A2-B3-B4)を示す図。
【
図3】Ag-Pd-Cu三元系状態図と、本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の換算値であるS
Ag、S
Pd、S
Cuの更に好ましい範囲(C1-A2-C3-C4)を示す図。
【
図4】Ag-Pd-Cu三元系状態図と、本実施形態で検討した実施例1~34と比較例5~12のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の換算値であるS
Ag、S
Pd、S
Cuを示す図。
【
図5】Ag-Pd-Cu三元系状態図と、本実施形態で検討した比較例1~4のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度の換算値であるS
Ag、S
Pd、S
Cuを示す図。
【
図6】本実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金の折り曲げ耐性の評価方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、各種の組成のAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料を製造し、その硬度及び比抵抗を測定し、更に折り曲げ耐性の評価試験を行った。
【0044】
本実施形態では、Ag、Pd、Cuの地金原料を混合した状態のベース材を作製し、このベース材に第1添加元素(B)と第2添加元素(Zn、Bi、Sn)の地金原料を添加した後、熔解鋳造してAg-Pd-Cu系合金のインゴットを製造した。本実施形態では、
図1のA1-A2-A3-A4の範囲内の比率でAg、Pd、Cuを混合したベース材を12種作製した(実施例1~34と比較例5~12で使用した)。また、
図1のA1-A2-A3-A4の範囲外の比率でAg、Pd、Cuを混合したベース材を4種作製した(比較例1~4で使用した)。そして、各添加元素を添加した後に、真空熔解と連続鋳造によりAg-Pd-Cu系合金のインゴットを製造した。尚、比較例として、第1、第2添加元素の双方又は一方を添加しないAg-Pd-Cu三元合金又はAg-Pd-Cu系合金のインゴットも製造した。
【0045】
製造した各種の合金インゴットについては、ICPで各構成元素の濃度分析を行った。そして、測定されたAg濃度、Pd濃度、Cu濃度をS
Ag、S
Pd、S
Cuに換算した。本実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金のS
Ag、S
Pd、S
Cuについて、Ag-Pd-Cu三元系状態図における位置を
図4及び
図5に示す。
【0046】
次に、各種組成のAg-Pd-Cu三元合金及びAg-Pd-Cu系合金の合金インゴットを冷間溝圧延により4mm角の棒材に加工し、更に冷間伸線加工して直径2mmの線材とした。この合金線材を800℃で30分間加熱した後に水冷して1回目の溶体化処理を行った。次に、冷間伸線加工により直径1mmの線材に加工し、850℃で30分間加熱し水冷して2回目の溶体化処理を行った。そして、冷間伸線加工により直径0.1mmの細線に加工した後に時効熱処理を行った。時効熱処理は、300~580℃で60分間の加熱とした。
【0047】
製造した各種組成のAg-Pd-Cu三元合金及びAg-Pd-Cu系合金の細線について、硬度と比抵抗の測定を行った。これらの測定は、時効熱処理の前(加工後)と時効処理後の細線の双方について行った。硬度測定はビッカース硬度計により行い、荷重200gf、押し込み時間10秒間とした。
また、比抵抗の測定は、電気抵抗計により電気抵抗を測定し、試料の断面積と長さから比抵抗を算出した。
【0048】
そして、各細線についての折り曲げ耐性の評価試験を行った。この評価試験は、上述した評価方法に基づいた方法により行った。
図6のように、治具により一旦が固定された合金細線(直径0.1mm)を90°の角度で折り曲げ、折り曲げた状態から直線状態に戻るように折り曲げた。そして、再度90°折り曲げて戻す加工操作を交互に繰り返して破断が生じるまでの折り曲げ回数をカウントして評価した。この折り曲げ耐性の評価についても時効熱処理の前後の細線について行った。
【0049】
本実施形態で製造したAg-Pd-Cu三元合金及びAg-Pd-Cu系合金の細線についての各種測定結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
表1から、本発明の課題である低抵抗、硬度(耐摩耗性)、折り曲げ耐性の改善を図る上で、Ag、Pd、Cuの組成範囲の好適化と適切な添加元素の添加が必要であることが分かる。即ち、S
Ag、S
Pd、S
Cuが
図1の多角形(A1-A2-A3-A4)の領域外となるAg、Pd、Cuの濃度のAg-Pd-Cu系合金は、比抵抗が高くなる傾向がある(比較例1~4)。詳細には、A1-A2線の外側の組成の合金(比較例1)、 A2-A3線の外側の組成の合金(比較例2)、A3-A4線の外側の組成の合金(比較例3)は、時効熱処理後の比抵抗が高く10μΩ・cmを超えている。また、比較例2は硬さも劣っており(380Hv未満)、比較例3は折り曲げ耐性に劣る(折り曲げ回数3回)。そして、A4-A1線の外側の組成の合金(比較例4)は、比抵抗の値は10μΩ・cm以下であるが高抵抗の傾向にある。この比較例4は、折り曲げ回数が5回未満(4回)であり折り曲げ耐性に劣る。以上のように、比較例1~4は、本発明で適用する添加元素(BとZn、Bi、Snの少なくともいずれか)を適切に含むが、低抵抗化の観点で劣り、硬度や折り曲げ耐性でも不十分となることもある。
【0052】
そして、Ag-Pd-Cu系合金には、添加元素の適切な添加も必要である。添加元素のないAg-Pd-Cu三元合金は、硬度が最も低く、耐摩耗性に劣ると考えられる(比較例5)。また、Bについては、適切な範囲外の添加量では硬度上昇の効果に乏しい(比較例6~8)。更に、Bの過剰添加は、折り曲げ耐性の明確な低下に繋がり得る(比較例9)。更に、Zn、Bi、Snは、硬度上昇に効果がある添加元素であるが、その添加量が適正範囲外となると、折り曲げ回数が5回未満となり折り曲げ耐性が低下する(比較例10~12)。
【0053】
以上の比較例のAg-Pd-Cu系合金に対し、S
Ag、S
Pd、S
Cuが
図1の多角形(A1-A2-A3-A4)の範囲内となるようにAg、Pd、Cuの濃度を制御し、更に、B及びZn、Bi、Snの少なくともいずれかを適切に添加したAg-Pd-Cu系合金(実施例1~34)は、低抵抗(比抵抗)、耐摩耗性(硬さ)、折り曲げ耐性(折り曲げ回数)のいずれにおいても優れた特性を発揮することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明に係るプローブピン用材料は、低抵抗で耐摩耗性に優れ、折り曲げ耐性も良好である。本発明は、各種電子機器、半導体デバイス、パワーデバイス等における検査用のプローブカードのプローブピンに適用される。特に、折り曲げ耐性に優れる本発明は、カンチレバー型のプローブピンやポゴピン形状のプローブピンにも有用に適用できる。