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特開2023-117034水硬性組成物、硬化物、及び水硬性組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117034
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】水硬性組成物、硬化物、及び水硬性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230816BHJP
   C04B 24/28 20060101ALI20230816BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230816BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/28 Z
C08K3/013
C08L75/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019497
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】馬塲園 誠
(72)【発明者】
【氏名】松富 豊
(72)【発明者】
【氏名】松田 芳範
(72)【発明者】
【氏名】醍醐 宏治
【テーマコード(参考)】
4G112
4J002
【Fターム(参考)】
4G112PB33
4J002CK041
4J002DM006
4J002EV257
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】
十分な強度を有し、低い吸水性を有する硬化物を得ることができる水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】
(A)セメントに(B)ウレタン樹脂の水分散液を配合してなる水硬性組成物であって、(B)成分が、少なくとも1種の(C)多価アルコール及び少なくとも1種の(D)多価イソシアネートの重合反応により形成されたウレタン樹脂であり、(B)の固形成分量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、水硬性組成物。
(1)(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメントに(B)ウレタン樹脂の水分散液を配合してなる水硬性組成物であって、
前記(B)成分が、少なくとも1種の(C)多価アルコール及び少なくとも1種の(D)多価イソシアネートの重合反応により形成されたものであり、
前記(B)の固形成分量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、水硬性組成物。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
【請求項2】
前記水分散液が界面活性剤を含む、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
(A)セメント、(B)ウレタン樹脂、及び(E)界面活性剤を含み、
前記(B)成分が、少なくとも1種の(C)多価アルコール及び少なくとも1種の(D)多価イソシアネートの重合反応により形成されたものであり、
前記(B)の含有量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、水硬性組成物。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
【請求項4】
前記(C)成分が、(C1)2価アルコールのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
前記(C1)成分がポリプロピレンオキサイドのエチレンオキサイド付加物である、請求項4に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
前記(C)成分が(C2)分子量200以下の短鎖2価アルコールを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
前記(C)成分が(C3)3価以上のアルコールを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
更に骨材を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水硬性組成物の硬化物である、硬化物。
【請求項10】
多価アルコールと多価イソシアネートの重合反応により形成されたウレタン樹脂が水に分散された水分散液を得る工程と、
セメントと前記水分散液とを混合して水硬性組成物を得る工程と、を備え、
前記水硬性組成物における前記ウレタン樹脂の含有量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、水硬性組成物の製造方法。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、硬化物、及び水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートからなる建築・土木構造物の表面に、水の浸入による躯体の劣化や、内部への漏水を防止する目的で、ポリマーセメントで被覆する工法、珪酸質系防水剤配合モルタルで被覆する工法、有機系樹脂やセメント系、水ガラス系材料による注入・浸透・被膜塗装工法などが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された技術には、ウレタン系樹脂を含む樹脂塗膜防水層(ウレタン系防水層)の上にウレタン系樹脂などの接着剤を薄く塗布し、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)系熱可塑性樹脂シートを敷き詰めている。ウレタン系防水層を用いた床版防水構造は、プライマー樹脂層、ウレタン系防水層、ウレタン樹脂接着剤層、EVA系熱可塑性樹脂シートを順次積層してなる構成である。このような構成の床版防水構造は、プライマー樹脂層およびウレタン系防水層を形成した後、ウレタン樹脂接着剤の主剤/硬化剤(イソシアネート/ポリオール)を工事現場で混合し、それをローラ刷毛等で薄く均一に塗布し、熱可塑性樹脂シートを敷き均して施工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3956757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のポリマーセメント等を硬化させて得られるセメント系硬化体は、強度が十分ではなく、また、吸水性が高いため、水中疲労により劣化しやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みなされたものであり、十分な強度を有し、低い吸水性を有する硬化物を得ることができる水硬性組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる水硬性組成物の硬化物及び水硬性組成物の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水硬性組成物は、(A)セメントに(B)ウレタン樹脂の水分散液を配合してなり、(B)成分が、少なくとも1種の(C)多価アルコール及び少なくとも1種の(D)多価イソシアネートの重合反応により形成されたものであり、(B)の固形成分量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、水硬性組成物。
(1)(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。当該水硬性組成物は、水分散液が界面活性剤を含んでいてよい。
【0008】
本発明の水硬性組成物は、(A)セメント、(B)ウレタン樹脂、及び(E)界面活性剤を含み、(B)成分が、少なくとも1種の(C)多価アルコール及び少なくとも1種の(D)多価イソシアネートの重合反応により形成されたものであり、(B)の固形成分量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して質量%以下である。
【0009】
上記(C)成分が、(C1)2価アルコールのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物を含んでいてよい。
【0010】
上記(C1)成分がポリプロピレンオキサイドのエチレンオキサイド付加物であってよい。
【0011】
上記(C)成分が(C2)分子量200以下の短鎖2価アルコールを含んでいてよい。
【0012】
上記(C)成分が(C3)3価以上のアルコールを含んでいてよい。
【0013】
上記水硬性組成物は、更に骨材を含んでいてよい。
【0014】
本発明の硬化物は、上記水硬性組成物の硬化物である。
【0015】
本発明の水硬性組成物の製造方法は、多価アルコールと多価イソシアネートの重合反応により形成されたウレタン樹脂を水に分散させて水分散液を得る工程とセメントと水分散液とを混合して水硬性組成物を得る工程と、を備え、当該水硬性組成物におけるウレタン樹脂の固形成分量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分な強度を有し、低い吸水性を有する硬化物を得ることができる水硬性組成物を提供することができる。また、本発明によれば、かかる水硬性組成物の硬化物及び水硬性組成物の製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の水硬性組成物は、(A)セメントに(B)ウレタン樹脂の水分散液を配合してなり、(B)成分が、少なくとも1種の(C)多価アルコール及び少なくとも1種の(D)多価イソシアネートの重合反応により形成されたものであり、(B)の固形成分量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
【0018】
また、本実施形態の水硬性組成物は、(A)セメント、(B)ウレタン樹脂、及び(E)界面活性剤を含み、
前記(B)成分が、少なくとも1種の(C)多価アルコール及び少なくとも1種の(D)多価イソシアネートの重合反応により形成されたものであり、
前記(B)の含有量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たすものであってもよい。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
【0019】
本実施形態の水硬性組成物によれば、十分な強度を有し、低い吸水性を有する硬化物が得られる。
【0020】
条件(1)について、(B)成分の含有量(固形成分量)は、(A)成分100質量部に対して25質量部以下であると好ましく、23質量部以下であるとより好ましく、20質量部以下であると更に好ましい。(B)成分の合計量は、非常に小さくても上記効果を奏するため、0質量部でなければ特に制限はないが、(A)成分100質量部に対して0.01質量部以上であってよく、0.05質量部以上であってよく、0.1質量部以上であってよく、1質量部以上であってよい。
【0021】
条件(2)における水硬性組成物は、上記(A)、(B)成分と骨材と添加された水を含んでいてもよい。条件(1)について、(B)の固形成分の合計量(固形成分量)は、水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下、又は6質量%以下であってよい。(B)成分の合計量は、非常に小さくても上記効果を奏するため、0質量%でなければ特に制限はないが、水硬性組成物の総量100質量%に対して0.01質量%以上であってよく、0.05質量%以上であってよく、0.1質量%以上であってよい。
【0022】
[セメント]
水硬性組成物は、(A)成分としてセメントを含む。セメントとしては特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等の混合セメント;エコセメント、超速硬セメント、アルミナセメント、リン酸セメント、気硬性セメント等のその他セメントなどから1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0023】
[多価アルコール]
水硬性組成物は、(C)成分として多価アルコールを含んでいてよい。(C)成分は水分散液に含まれていてもよく、水性分散液とは別に水硬性組成物に添加されたものであってもよい。多価アルコールは分子内に2つ以上のアルコール性水酸基を有する化合物である。(C)成分としては、分子内に複数の水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、脂肪族多価アルコール(複数の水素原子が水酸基により置換された炭化水素化合物)、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ヒマシ油又はその誘導体、ポリブタジエン系ポリオール、アルカノールアミン等が挙げられる。多価アルコール一分子に含まれる水酸基の数は、2~6個であってよく、2~5個であってよく、2~3個であってよく、2個であってよい。なお、水酸基の数は、一分子当たりの平均値(個数平均)であってもよく、その場合、当該数は有理数であってよい。(C)成分は、(B)成分を製造する際の未反応物であってもよく、(B)成分とは別に添加されたものであってよい。
【0024】
多価アルコールは、以下の(C1)~(C3)から選択される少なくとも1種の化合物を含むと好ましい。
(C1)2価アルコールのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物。
(C2)分子量200以下の2価アルコール(以下、短鎖2価アルコールとも呼ぶ)。
(C3)3価以上のアルコールのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物。
【0025】
(C1)成分は、2価のアルコールを開始剤として、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの開環付加反応を行って得られる構造を有する化合物であり、当該開環付加反応で得られる構造と同じ構造の化合物であれば、実際にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを開環付加して製造されたものでなくてもよい。
【0026】
(C1)成分の数平均分子量は、(B)成分の固形成分の水への分散性の観点から、300~3000が好ましく、400~2500がより好ましく、500~2000がさらに好ましい。
【0027】
2価のアルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族2価アルコール(2つの水素原子が水酸基に置換された炭化水素化合物)、ポリプロピレングリコール(ポリ(1,2-プロピレングリコール)又はポリプロピレンオキサイド)、ポリエチレングリコール等の2価アルコールであるポリアルキレングリコールが挙げられる。2価のアルコールは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(C1)成分としては、後述のウレタン樹脂に親水性を付与できる観点から、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物が好ましい。かかる付加物におけるエチレンオキサイド単位とプロピレンオキサイド単位との質量比(EO/PO質量比)は、10/90~90/10であると好ましく、15/85~80/20であるとより好ましい。
【0029】
(C1)成分としては、アクトコールED28(三井化学SKCポリウレタン株式会社製;数平均分子量4000、EO/PO質量比:20/80)、アクトコールED36(三井化学SKCポリウレタン株式会社製;数平均分子量3600、EO/PO質量比:78/22)、アクトコールED56(三井化学SKCポリウレタン株式会社製;数平均分子量2000)等が挙げられる。
【0030】
(C2)成分の分子量は、180以下であってよく、150以下であってもよい。(C2)成分の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族2価アルコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジアルキレングリコールが挙げられる。
【0031】
(C3)成分は、3価以上のアルコールを開始剤として、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの開環付加反応を行って得られる構造を有する化合物であり、当該開環付加反応で得られる構造と同じ構造の化合物であれば、実際にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを開環付加して製造されたものでなくてもよい。後述のウレタン樹脂の水溶性を低下させる効果がある。
【0032】
3価以上のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価のアルコール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、ソルビトール、単糖類若しくは多糖類(例えば、スクロース)等の3価以上のアルコールが挙げられる。中でも、3価のアルコールが好ましく、グリセリンがより好ましい。3価のアルコールは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(C3)成分の数平均分子量(Mn)は、水硬性組成物から形成される硬化物の吸水性を低下させる観点から、300~7000が好ましく、500~6500がより好ましく、1000~6000が更に好ましく、2000~6000が特に好ましい。
【0034】
(C3)成分としては、例えば、EXCENOL 430(Mn=430)、EXCENOL 1030(Mn=1000)、EXCENOL 3030(Mn=3000)、EXCENOL 4030(Mn=4000)、EXCENOL 5030(Mn=5100)(いずれもAGC株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
[多価イソシアネート]
水硬性組成物は、(D)成分として多価イソシアネートを含んでいてもよい。(D)成分は水分散液に含まれていてもよく、水性分散液とは別に水硬性組成物に添加されたものであってもよい。(D)多価イソシアネートは、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば、特に制限はない。具体的には、(D)成分は、フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-3,5-フェニレンジイソシアネート、1-エチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-イソプロピル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-4,6-フェニレンジイソシアネート、1,4-ジメチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアネート、1-メチル-3,5-ジエチルベンゼンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ジエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、1,3,5-トリエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、1-メチル-ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、ナフタレン-2,7-ジイソシアネート、1,1-ジナフチル-2,2’-ジイソシアネート、ビフェニル-2,4’-ジイソシアネート、ビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3-3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4-ジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-シクロペンチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ポリイソシアネート、カルボジイミド変性イソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどであってよい。これらの多価イソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的強度及び接着性の点から、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、芳香族ジイソシアネートがより好ましく、トルエンジイソシアネート(1-メチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート及び1-メチル-2,5-フェニレンジイソシアネート)の少なくとも一種が更に好ましい。(D)成分は、(B)成分を製造する際の未反応物であってもよく、(B)成分とは別に添加されたものであってよい。多価イソシアネート化合物は、水硬性組成物に含まれていなくてもよく、その含有量は、(B)成分100質量部に対して25質量部以下であってよく、10質量部以下であってよく、5質量部であってよい。
【0036】
[ウレタン樹脂]
水硬性組成物は、(B)成分としてウレタン樹脂を含む。ウレタン樹脂は水分散液として水硬性組成物に配合されてよい。当該ウレタン樹脂は、多価アルコールの水酸基と多価イソシアネートのイソシアネート基との重合反応(逐次重合)を行った際に形成される重合反応生成物であり、当該多価アルコールの残基と、当該多価イソシアネートの残基とを有する。(B)成分は、分子内に二つ以上のウレタン結合を有するポリウレタン化合物を含み、任意に分子内に一つのウレタン結合を有するモノウレタン化合物を含んでもよい。
【0037】
このようなウレタン樹脂は、例えば、原料である多価アルコールと多価イソシアネートの混合物を加熱して得られる部分重合物に含まれていてよい。当該部分重合物では、上記混合物に含まれる多価アルコール及び多価イソシアネートのすべてが完全には反応しておらず、部分重合物には上記ウレタン樹脂に加えて原料である多価アルコール又は多価イソシアネートの一部が未反応のまま含まれる。
【0038】
水分散液に含まれる(B)ウレタン樹脂について、(C)多価アルコールが反応前に有する水酸基(つまり、原料としての多価アルコールが有する水酸基)の合計のモル量([OH]と表す。)と(D)多価イソシアネートの反応前のイソシアネート基(つまり、原料としての多価イソシアネートが有するイソシアネート基)の合計のモル量([NCO]と表す。)との比[NCO]/[OH]が1より大きいと好ましく、1.5以上であるとより好ましい。[NCO]/[OH]が1より大きいと未反応のイソシアネート基が水硬性組成物中に多く存在するため、セメントの硬化に伴ってイソシアネート基と水又は多価アルコールとの反応を多く利用できるため好ましい。
【0039】
(B)成分は、上記(C1)、(C2)及び(C3)成分の少なくとも一つの残基を含むと好ましく、上記(C1)、(C2)及び(C3)成分のいずれの残基も含むとより好ましい。(B)成分の原料における(C1)成分の含有量は、使用する多価アルコールの総量100質量%に対して、20~70質量%であると好ましく、30~60質量%であるとより好ましい。(B)成分の原料における(C2)成分の含有量は、使用する多価アルコールの総量100質量%に対して、1~15質量%であると好ましく、3~10質量%であるとより好ましい。(B)成分の原料における(C3)成分の含有量は、使用する多価アルコールの総量100質量%に対して、5~30質量%であると好ましく、10~25質量%であるとより好ましい。
【0040】
水分散液は、(B)成分を水に分散させた分散体である。すなわち、水分散液は、連続相である水(又は水溶液)と、ウレタン樹脂を含む粒子とを含む。水分散液において(B)成分は略均一に分散されていてよい。水分散液は、界面活性剤を含んでいてよい。水分散液は、(B)成分以外に、(C)成分及び(D)成分の少なくとも一方を含んでいてよい。(C)成分及び(D)成分は、ウレタン樹脂を製造する際の未反応物であってよく、別途水分散液に添加されたものであってもよい。
【0041】
[水]
水分散液に含まれる水は特に限定されないが、例えば、水道水、蒸留水、脱イオン水等であってよい。水硬性組成物における水の含有量はセメント100質量部に対して好ましくは20~100質量部、より好ましくは25~80質量部、更に好ましくは30~70質量部である。また水分散液における水の含有量は水分散液100質量部に対して好ましくは75~98質量部、より好ましくは85~95質量部である。
【0042】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。界面活性剤はウレタン樹脂を水中に安定に分散させる役割を果たす。分散液における界面活性剤の含有量は分散液100質量部に対して0.1~5質量部が好ましい。その他、公知の界面活性剤を用いることができる。陰イオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられ、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、陽イオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0043】
[骨材]
骨材は、特に限定されず、細骨材、粗骨材等であってよい。細骨材は特に限定されず、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂、硬質高炉スラグ細骨材、高炉スラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材等であってよい。粗骨材は特に限定されず、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、電気炉酸化スラグ粗骨材等であってよい。水硬性組成物は、細骨材及び粗骨材の少なくとも一方を含んでいてもよい。また、水硬性組成物は、細骨材を2種以上含んでいてもよく、粗骨材を2種以上含んでいてもよい。なお、JIS A 0203:2014「コンクリート用語」に規定されるように、細骨材とは10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材であり、粗骨材とは5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材である。
【0044】
骨材が細骨材のみを含む場合、水硬性組成物における骨材の含有量は、セメント100質量物に対して好ましくは50~500質量部、より好ましくは100~400質量部、更に好ましくは150~350質量部である。
【0045】
[その他の成分]
水硬性組成物は、石膏、無機質微粉末、増粘剤、消泡剤、減水剤、インク、顔料、分散剤、凝結調整材、膨張材、収縮低減剤等のその他成分(添加剤)を含有してもよい。
【0046】
増粘剤としては、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、変性アクリル系及び水溶性ポリマー系等が挙げられる。増粘剤は変性アクリル系又はセルロース系増粘剤であることが好ましい。また、増粘剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。水硬性組成物における増粘剤の含有量は、セメント100質量部に対して0.001~1質量部が好ましく、0.01~0.5質量部がより好ましい。
【0047】
消泡剤は、例えば、鉱油系、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系等の合成物質又は植物由来の天然物質等であってよく、ウレタン樹脂中、及びウレタン分散スラリー中の消泡の観点から、好ましくはウレタンの消泡に適した消泡剤である。具体的には、アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、ブタジエンポリマー、オレフィンポリマー、ジメチルシリコーン、変性シリコーン、特にポリエーテル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキル・アラルキル変性シリコーン、高級脂肪族エステル変性シリコーン、高級脂肪酸アミド変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、鉱物油、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アセチレンジオール、疎水性シリカ、ワックス、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、ポリオキシアルキレングリコール等並びにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0048】
減水剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物系減水剤、メラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、ポリスチレンスルホン酸系減水剤、フェノールホルムアルデヒド縮合物系減水剤、及びアニリンスルホン酸系減水剤が挙げられる。減水剤は、界面活性剤的な性質を持ち、水と水酸基を有する化合物を混合して得られる分散液を安定に分散させる乳化剤の役割を果たす。減水剤は、水硬性組成物の流動性を良くし、施工性、作業性を改善できる。水硬性組成物における減水剤の含有量は、セメント100質量部に対して0.01~20質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。
【0049】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。界面活性剤はウレタン樹脂を水中に安定に分散させる役割を果たす。分散液における界面活性剤の含有量は分散液100質量部に対して0.1~5質量部が好ましい。その他、公知の界面活性剤を用いることができる。陰イオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられ、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、陽イオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0050】
本実施形態の水硬性組成物は、コンクリート組成物又はモルタル組成物であってもよく、モルタル組成物であると好ましい。
【0051】
<水硬性組成物の製造方法>
本実施形態の水硬性組成物の製造方法は、水硬性組成物における(A)成分及び(B)成分が所定の配合比となるものであれば特に制限されないが、例えば、(B)を水に分散させて水分散液を得る工程と(工程2)と、(A)セメントと(B)水分散液とを混合して水硬性組成物を得る工程(工程3)であり、水硬性組成物における(B)の固形成分量が、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、工程と、を備える方法が挙げられる。
(1)前記(A)成分100質量部に対して25質量部以下である。
(2)水硬性組成物の総量100質量%に対して7質量%以下である。
本実施形態の製造方法は、工程2の前に、(C)多価アルコールと(D)多価イソシアネートとの混合物を加熱してウレタン樹脂(例えば、ウレタン化合物を含む部分重合物)を得る工程(工程1)を備えていてよい。
【0052】
工程1では、(C)多価アルコールと(D)多価イソシアネートとの混合物を加熱してウレタン樹脂を得る。ウレタン樹脂を得る条件としては、(C)多価アルコールの水酸基と(D)多価イソシアネートのイソシアネート基とが反応する条件であれば特に制限はないが、例えば、80~150℃で行うことが好ましい。また、加熱時間は、1~5時間であると好ましい。工程1は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行ってもよい。
【0053】
工程2では、工程1で得られたウレタン樹脂を水に分散する。例えば、ウレタン樹脂、界面活性剤、水を混合し、ウレタン樹脂の水分散液を得る。本実施形態の製造方法では、工程2においてウレタン樹脂を水分散液としているため、セメント等の他成分と混合しやすく作業性に優れる。
【0054】
工程3では、工程2で得られた水分散液とセメントとを(1)又は(2)の条件を満たすように混合する。混合は、ホバートミキサ等により行ってよい。その他添加剤を部分重合物と一緒にセメントに配合してもよく、分散液とセメントとを混合した後に配合してもよい。また、骨材及び追加の水についても、分散液と一緒にセメントに配合してもよく、分散液とセメントとを混合した後に配合してもよい。
【0055】
<硬化物の製造方法>
硬化物(セメント系硬化体)の製造方法は、特に限定されないが、水硬性組成物を成型し、成型体を得る工程(工程4)、及び成形体を養生する工程(工程5)を含んでいてもよい。なお、成型方法は特に限定されず、型(金属製、プラスチック製の型等)に水硬性組成物を流し込む。必要に応じてバイブレータによる脱気を行ってもよい。水硬性組成物を型内に収容した状態で、例えば、1~5日程度放置して成型体を得る。鉄筋、鉄骨等の芯材を使用する場合は、予め型内に芯材を配置してから水硬性組成物を流し込んでよい。
【0056】
工程5では、工程4で得られた成型体を養生する。なお、養生前に脱型してもよい。養生の方法としては特に制限されず、封緘養生、水中養生等いずれの養生方法であってもよい。養生は、水硬性組成物が固化するまで行う。
【0057】
本実施形態の硬化物は、高い強度及び低吸水性を有するため、建材、消波ブロック等、様々な用途に使用できる。特に、橋梁又は高架橋の支承部沓座材料、消波ブロック等の使用状態において一部が水と接触するもの又は頻繁に水と接触するものの材料として有用である。
【実施例0058】
<ウレタン樹脂の調製>
天秤を用いて314.89gのアクトコールED28((C1)成分、三井化学SKCポリウレタン株式会社製)、41.63gのジプロピレングリコール((C2)成分)、102.94gのEXCENOL 5030((C3)成分、AGC株式会社製)の3種の多価アルコールをセパラブルフラスコ本体に秤量しながら投入した。
ガスを供給しながら、多価アルコールを混合した。
138.55gのコロネート T-100(多価イソシアネート、東ソー株式会社製)を計り取り、上記セパラブルフラスコ本体に投入した。撹拌しながら、100℃で3時間加熱し、ウレタン樹脂を調製した。
ウレタン樹脂の反応進行度はJIS K 7301に基づき評価し、イソシアネート基の含有率が、すべての多価アルコールの水酸基と反応した場合の含有率と略等しくなった時点を終点とした。
【0059】
<ウレタン樹脂の分散液の作製>
表1のウレタン樹脂を同表の界面活性剤を混合した水に分散した。具体的には所定量の水に界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)を投入し、続いてウレタン樹脂を投入し1時間から3時間攪拌し水分散液を得た。
【0060】
<水硬性組成物の調製>
表1に示す配合量で各成分を配合した。具体的には、まず、セメント、珪砂、及び添加剤(増粘剤、減水剤等)を計量し、ホバートミキサに投入し、1分間混合して混合物を得た。
次いで、上記のとおり調整した水中に分散化したウレタン樹脂を混合物に投入してホバートミキサにより混合した。なお、混合不良防止のため、混合開始後(例えば1分程度)、ホバートミキサを停止し、撹拌羽、及び釜についた材料を落とした。再び混合を開始し、ホバートミキサを停止し(計3から5分程度の練り混ぜを行った)、水硬性組成物を得た。
調製した水硬性組成物を型に入れた。1日後に脱型して成型体を得た。成型体を水中に沈め、28日間養生し(水中養生)、供試体を得た。
【0061】
表1中の記号の意味は以下のとおりである。
c/s :セメントの骨材に対する質量比(セメント/骨材)
p/c :ウレタン樹脂のセメントに対する質量比(ウレタン樹脂/セメント)
p :ウレタン樹脂の配合量(g)
D1 :消泡剤の配合量(g)
C :セメントの配合量(g)
S :細骨材(珪砂)の配合量(g)
A :減水剤の配合量(g)
W :水の配合量
Su :界面活性剤量(g)
なお、セメント、減水剤及び消泡剤としては、以下のものを使用した。
セメント:早強ポルトランドセメント(ブレーン比表面積4500cm/g、宇部三菱セメント株式会社製)
減水剤:マイティ21P(花王ケミカル社製)
消泡剤:BYK1794(ビックケミージャパン株式会社製)
【0062】
<圧縮強度の測定方法>
(圧縮強度)
実施例及び比較例の各供試体に対して、圧縮強度の試験を行った。圧縮強度の試験方法は、JIS A 1171-2016「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載されている方法に従った。
試験結果を表1に示す。
【0063】
<吸水水位の測定方法>
JSCE-G 582-2018記載の「短期の水掛かりを受けるコンクリート中の水分浸透速度係数試験方法」に記載されている方法に従って測定した。
【0064】
【表1】