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  • 特開-グラフェンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117855
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20230817BHJP
【FI】
C01B32/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020640
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】東海 旭宏
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA07
4G146AB07
4G146AC27B
4G146AD24
4G146AD28
4G146AD29
4G146AD30
4G146BA02
4G146CA11
4G146CA15
4G146CB10
4G146CB20
4G146CB32
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】新たなグラフェンの製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第1イオンと、第4族及び第14族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第1原子を含む第1フッ化物錯体と、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンと、第7族、第10族及び第11族からなる群から選択される少なくとも1種の3価又は4価の第2原子を含む第2フッ化物錯体と、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む、非水系液体を準備することと、前記非水系液体とグラファイトを接触させて、グラフェンを得ること、を含む、グラフェンの製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第1イオンと、第4族及び第14族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第1原子を含む第1フッ化物錯体と、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンと、第7族、第10族及び第11族からなる群から選択される少なくとも1種の3価又は4価の第2原子を含む第2フッ化物錯体と、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む、非水系液体を準備することと、
前記非水系液体と、グラファイトを接触させて、グラフェンを得ること、を含む、グラフェンの製造方法。
【請求項2】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記非水系液体に含まれる第1フッ化物錯体と第2フッ化物錯体の合計100質量%に対して、第2フッ化物錯体の含有量が5質量%以上50質量%以下の範囲内である、請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項3】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記非水系液体において、前記非水系フッ化水素含有液体1Lに対して、第1フッ化物錯体と第2フッ化物錯体の合計の量が12g/L以上120g/L以下の範囲内である、請求項1又は2に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項4】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記第1フッ化物錯体及び前記第2フッ化物錯体を前記非水系フッ化水素含有液体に加えて、前記非水系液体を準備する、請求項1から3のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項5】
前記非水系液体とグラファイトを接触させることにおいて、前記非水系液体に対するグラファイトの量が、非水系液体1Lに対して、1g/L以上5g/L以下の範囲内である、請求項1から4のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項6】
前記非水系液体とグラファイトを接触させることにおいて、前記非水系液体の温度が、10℃以上40℃以下の範囲内である、請求項1から5のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項7】
前記非水系液体とグラファイトを接触させることにおいて、前記非水系液体を撹拌しながらグラファイトと接触させる、請求項1から6のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項8】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記第2フッ化物錯体に含まれる第2イオンが、K、Na及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第2原子が、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から7のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項9】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記第1フッ化物錯体が、下記式(I)で表される組成式に含まれる組成を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
A1[M14+] (I)
(式(I)中、A1は、アルカリ金属及びNH からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1イオンであり、M1は、第4族及び第14族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第1原子である。)
【請求項10】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記第1フッ化物錯体に含まれる第1イオンが、K、Na及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第1原子が、Si、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から9のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項11】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記第2フッ化物錯体が、下記式(II-1)で表される組成式に含まれる組成又は下記式(II-2)で表される組成式に含まれる組成を有する、請求項1から9のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
A2[M24+] (II-1)
(式(II-1)中、A2は、アルカリ金属及びNH からなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンであり、M2は、第7族及び第10族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第2原子である。)
A2[M23+] (II-2)
(式(II-2)中、A2は、アルカリ金属及びNH からなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンであり、M2は、第11族からなる群から選択される少なくとも1種の3価の第2原子である。)
【請求項12】
前記非水系液体を準備することにおいて、前記非水系フッ化水素含有液体が、複素環化合物類、アミン類、尿素類、アミド類、カルバミン酸エステル類、トリアルキルホスフィン類、エーテル類、エステル類及びアルコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1から11のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項13】
得られるグラフェンが、フッ素を含み、フッ素の含有量が、炭素とフッ素と酸素の合計100atomic%に対して、1atomic%以上20atomic%以下の範囲内である、請求項1から12のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項14】
得られるグラフェンの酸素の含有量が、炭素とフッ素と酸素の合計100atomic%に対して、0atomic%以上5atomic%以下の範囲内である、請求項1から12のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項15】
得られるグラフェンが、フッ素を含み、炭素に対するフッ素の原子比F/Cが、0.01以上0.3以下の範囲内である、請求項1から14のいずれか1項に記載のグラフェンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子が六角形のハニカム状に共有結合したシート状の物質である。グラフェンは単層の物や複数層の物が知られており、電子移動度及び正孔移動度が高く、高い熱伝導率を有する。また、単層のグラフェンは、バンドギャップの無いゼロギャップの半導体としても知られている。さらに、グラフェンは、白色光の吸収率が高い光学特性等の種々の特性を有する。これらのグラフェンの特性から、様々な分野において、利用することができる材料の一つとして着目されている。
【0003】
グラフェンは、グラファイトを構成している六角形の炭素原子が2次元的に共有結合したシート状のグラフェンを剥離することによって得られる。グラファイトからシート状のグラフェンを剥離する方法としては、物理的方法、電気的方法、化学的方法が挙げられる。物理的方法としては、粉末又は有機溶媒中でミキサー等によりグラファイトにせん断力を付与してグラフェンを剥離する方法が挙げられる。電気的方法としては、電解質を含む水溶液中でグラファイトを陽極とし、陽極と陰極間に電圧を加え、グラファイトが酸化され、アニオン電解質がグラファイトの層間中に挿入されることにより、グラファイトを剥離する方法が挙げられる。化学的方法としては、黒鉛を硫酸水溶液中で過マンガン酸カリウム等の酸化剤と反応させて、グラファイトを剥離する方法(特許文献1)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-544223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラフェンは様々な分野で利用することができる材料として期待されているため、新たなグラフェンの製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第1イオンと、第4族及び第14族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第1原子を含む第1フッ化物錯体と、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンと、第7族、第10族及び第11族からなる群から選択される少なくとも1種の3価又は4価の第2原子を含む第2フッ化物錯体と、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む非水系液体を準備することと、前記非水系液体とグラファイトを接触させて、グラフェンを得ること、を含む、グラフェンの製造方法である。
【0007】
本発明の一態様によれば、新たなグラフェンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】グラフェンの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るグラフェンの製造方法を一実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための例示であって、本発明は、以下のグラフェンの製造方法に限定されない。
【0010】
グラフェンの製造方法は、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第1イオンと、第4族及び第14族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第1原子を含む第1フッ化物錯体と、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンと、第7族、第10族及び第11族かららなる群から選択される少なくとも1種の3価又は4価の第2原子を含む第2フッ化物錯体と、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む非水系液体を準備することと、前記非水系液体と、グラファイトを接触させて、グラフェンを得ること、を含む。
【0011】
非水系液体中の第2フッ化物錯体が酸化剤となり、六角形の炭素原子が2次元的に共有結合したシート状のグラフェンが積層して3次元的に結合したグラファイトに接触した際に、各シート状のグラフェンの表面から電子が引き抜かれ、各シート状のグラフェンの表面に電荷が集まる。積層された各シート状のグラフェンの表面に同極の電荷が集まると、各シート状のグラフェンの間で静電反発が生じ、各シート状のグラフェンの層間が拡がって、六角形の炭素原子が2次元的に結合したシート状に剥離され、グラフェンを得ることができる。非水系液体中の第1フッ化物錯体は、酸化剤となる第2フッ化物錯体によって、グラフェンの表面から電子が引き抜かれる際に、電子の引き抜きを助長すると推測され、シート状のグラフェンの層間でより静電反発が生じやすくなり、シート状に剥離されて、グラフェンを得やすくなる。このように、グラフェンの新たな製造方法を提供することができる。また、グラファイトからグラフェンが剥離されると同時に、剥離されたグラフェンがフッ化される。特許文献1に開示されているような、酸化グラフェンを用いてフッ化グラフェンを製造する必要がなくなり、グラファイト(黒鉛)から直接、フッ化グラフェンを製造することができる。酸化グラフェンを調製する工程が必要なくなるため、フッ化グラフェンを簡便に製造することができる。
【0012】
図1は、グラフェンの製造方法の一例を示すフローチャートである。グラフェンの製造方法は、第1フッ化物錯体と、第2フッ化物錯体と、非水系フッ化水素含有液体と、を含む非水系液体を準備することS101と、非水系液体と、グラファイトを接触させてグラフェンを得ることS102と、を含む。
【0013】
非水系液体を準備すること
第1フッ化物錯体
第1フッ化物錯体は、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第1イオンと、第4族及び第14族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第1原子を含む。第1イオンは、Li、Na、K、Rb、Cs及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Li、Na、K及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、Na、K及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。第1原子は、Si、Ge、Ti、Zr、Sn、Pb及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Si、Ge、Ti、Zr、Sn及びPbからなる群から選択される少なくとも1種の原子であることがより好ましく、Si、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。第1フッ化物錯体に含まれる第1イオンが、K、Na及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、第1フッ化物錯体に含まれる第1原子が、Si、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
第1フッ化物錯体は、下記式(I)で表される組成式に含まれる組成を有することが好ましい。
A1[M14+] (I)
(式(I)中、A1は、アルカリ金属及びNH からなる群から選択される少なくとも1種の第1イオンであり、M1は、第4族及び第14族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第1原子である。)
【0015】
式(I)中、A1は、K、Na及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であり、M1は、Si、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
第1フッ化物錯体は、具体的には、K[Si4+]、Na[Si4+]、(NH[Si4+]、K[Ge4+]、Na[Ge4+]、(NH[Ge4+]、K[Ti4+]、Na[Ti4+]、(NH[Ti4+]、K[Zr4+]、Na[Zr4+]、(NH[Zr4+]、K[Sn4+]、Na[Sn4+]、及び(NH[Sn4+]からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。第1フッ化物錯体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
第2フッ化物錯体
第2フッ化物錯体は、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンと、第7族、第10族及び第11族からなる群から選択される少なくとも1種の3価又は4価の第2原子を含む。第2イオンは、Li、Na、K、Rb、Cs及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Li、Na、K及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、Na、K及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。第2原子は、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu及びAgからなる群から選択される少なくとも1種の原子であることがより好ましい。第2フッ化物錯体に含まれる第2イオンが、K、Na及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、第2フッ化物錯体に含まれる第2原子が、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
前記第2フッ化物錯体は、下記式(II-1)で表される組成式に含まれる組成又は下記式(II-2)で表される組成式に含まれる組成を有することが好ましい。
A2[M24+] (II-1)
(式(II-1)中、A2は、アルカリ金属及びNH からなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンであり、M2は、第7族及び第10族からなる群から選択される少なくとも1種の4価の第2原子である。)
A2[M23+] (II-2)
(式(II-2)中、A2は、アルカリ金属及びNH からなる群から選択される少なくとも1種の第2イオンであり、M2は、第11族からなる群から選択される少なくとも1種の3価の第2原子である。)
【0019】
式(II-1)又は式(II-2)において、A2は、K、Na及びNH からなる群から選択される少なくとも1種であり、M2は、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
第2フッ化物錯体は、具体的には、K[Mn4+]、Na[Mn4+]、(NH[Mn4+]、K[Ni4+]、Na[Ni4+]、(NH[Ni4+]、K[Pd4+]、Na[Pd4+]、(NH[Pd4+]、K[Pt4+]、Na[Pt4+]、(NH[Pt4+]、K[Ag3+]、Na[Ag3+]、(NH)[Ag3+]、K[Au3+]、Na[Au3+]及び(NH)[Au3+]からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。第2フッ化物錯体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
非水系液体中に含まれる第1フッ化物錯体と第2フッ化物錯体の合計100質量%に対して、第2フッ化物錯体の含有量は、5質量%以上50質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下の範囲内でもよく、15質量%以上35質量%以下の範囲内でもよい。非水系液体中に含まれる第1フッ化物錯体と第2フッ化物錯体の合計100質量%に対する第2フッ化物錯体の含有量が5質量%以上50質量%以下の範囲内であると、第2フッ化物錯体の酸化力により、グラファイトに接触した際に、六角形の炭素原子が2次元的に共有結合したシート状のグラフェンの表面から電子を引き抜き、第1フッ化物錯体が電子の引き抜きを助長して、シート状のグラフェンの表面に電荷を集めて、各シート状のグラフェンの層間で静電反発を生じやすくすることができ、各シート状のグラフェンの層間を拡げて、グラフェンを得やすくすることができる。
【0022】
非水系フッ化水素含有液体
非水系フッ化水素含有液体は、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である。非水系フッ化水素含有液体は、標準状態(25℃、1気圧)において、液体のフッ化水素100質量%であってもよい。非水系フッ化水素含有液体中のフッ化水素の含有量は、20質量%以上80質量%以下の範囲内であってもよく、30質量%以上60質量%以下の範囲内であってもよく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であってもよく、60質量%以上80質量%以下であってもよい。非水系フッ化水素含有液体は、フッ化水素の他に、標準状態(25℃、1気圧)において、液体であり、沸点が120℃以上である化合物を含んでいてもよい。非水系フッ化水素含有液体は、複素環化合物類、アミン類、尿素類、アミド類、カルバミン酸エステル類、トリアルキルホスフィン類、エーテル類、エステル類、アルコール類、及び第4級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい。市販の非水系フッ化水素含有液体として、例えば、70質量%のフッ化水素とピリジンを含むピリジン-HF錯体である、Olah試薬が挙げられる。また、非水系フッ化水素含有液体として、28質量%のフッ化水素とトリエチルアミンを含むトリエチルアミン-HF錯体が挙げられる。その他、非水系フッ化水素含有液体として、65-75質量%のフッ化水素と尿素を含む尿素-HF錯体、65%質量のフッ化水素とN,N’-ジメチルプロピレン尿素を含むDMPU-HF錯体が挙げられる。
【0023】
複素環化合物類としては、1,3-プロピレンオキシド、トリメチレンスルフィド、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピぺリジン、テトラヒドロピラン及びテトラヒドロチオピランから選択される環を有する脂環式化合物、フラン、チオフェン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、イソキサゾール、チアゾール、チアジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾフラン、インドール、チアナフテン、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、ジベンゾチオフェン、アクリジン及びフェナントロリンから選択される環を有する複素環式芳香族化合物が挙げられる。含窒素複素環化合物は、フッ素、塩素、臭素を化合物中に含むものであってもよい。
【0024】
イミダゾールとフッ素を含む化合物としては、下記式(1)で表されるイミダゾリウム塩が挙げられる。
【0025】
【化1】
【0026】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、R2、4、及びRは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1から4のアルキル基を示す。またRからRの一部又は全てが相互に結合して環を形成してもよい。nは1から4の数値を表す。炭素数1から4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。R2、4、及びRは、水素原子、メチル基、又はエチル基であってもよく、水素原子であってもよい。式(1)中、nは1から4の数値であり、必ずしも整数でなくてもよい。nの数値は化合物の元素分析値から算出することができる。
【0027】
式(1)で表される化合物の具体例としては、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1,3,4-トリメチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩等が挙げられ、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩は常温で溶融する塩である。また、式(1)において、RからRの一部又は全ては相互に結合して環を形成していてもよい。具体例としては1,3-ジメチルベンズイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルベンズイミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0028】
フッ素、塩素又は臭素を化合物中に含む酸素含有複素環化合物類としては、3-トリクロロメチルフラン、3-トリブロモメチルフラン、2,3-ビス[トリクロロメチル]ベンゾフラン、2,3-ビス[トリブロモメチル]ベンゾフラン等が挙げられる。
【0029】
フッ素、塩素又は臭素を化合物中に含む硫黄含有複素環化合物類としては、2-トリクロロメチルチオフェン、3-トリクロロメチルチオフェン、2,3-ビス[トリクロロメチル]チオフェン、2,5-ビス[トリクロロメチル]チオフェン、3,4-ビス[トリクロロメチル]チオフェン、2-トリブロモメチルチオフェン、3-トリブロモメチルチオフェン、2,3-ビス[トリブロモメチル]チオフェン、2,5-ビス[トリブロモメチル]チオフェン、3,4-ビス[トリブロモメチル]チオフェン、2-トリクロロメチルチアナフテン、2-トリブロモメチルチアナフテン、4,6-ビス[トリクロロメチル]ジベンゾチオフェン、4,6-ビス[トリブロモメチル]ジベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0030】
フッ素、塩素又は臭素を化合物中に含む窒素含有複素環化合物類としては、2-トリクロロメチルピロール、2-トリブロモメチルピロール、4-クロロ-3-トリクロロメチルピラゾール、4-クロロ-3,5-ビス[トリクロロメチル]ピラゾール、4-クロロ-3-トリブロモメチルピラゾール、4-クロロ-3,5-ビス[トリブロモメチル]ピラゾール、1-メチル-3-トリクロロメチルピラゾール-4-カルボン酸エチル、1,2-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,3-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,5-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、2,5-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、4,5-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,2,5-トリス[トリクロロメチル]イミダゾール、2,3,4-トリス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,2-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、1,3-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、1,5-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、2,5-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、4,5-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、1,2,5-トリス[トリブロモメチル]イミダゾール、2,3,4-トリス[トリブロモメチル]イミダゾール、2-トリクロロメチルピリジン、3-トリクロロメチルピリジン、4-トリクロロメチルピリジン、2,3-2,5-ビス[トリクロロメチル]ピリジン、2,6-ビス[トリクロロメチル]ピリジン、3,5-ビス[トリクロロメチル]ピリジン、2-トリブロモメチルピリジン、3-トリブロモメチルピリジン、4-トリブロモメチルピリジン、2,3-2,5-ビス[トリブロモメチル]ピリジン、2,6-ビス[トリブロモメチル]ピリジン、3,5-ビス[トリブロモメチル]ピリジン、3-トリクロロメチルピリダジン、3-トリブロモメチルピリダジン、4-トリクロロメチルピリダジン、4-トリブロモメチルピリダジン、2,4-ビス[トリクロロメチル]ピリミジン、2,6-ビス[トリクロロメチル]ピリミジン、2,4-ビス[トリブロモメチル]ピリミジン、2,6-ビス[トリブロモメチル]ピリミジン、2,4-ジクロロ-5-トリクロロメチルピリミジン、2-トリクロロメチルピラジン、2-トリブロモメチルピラジン、1,3,5-トリスビス[トリクロロメチル]トリアジン、1,3,5-トリスビス[トリブロモメチル]トリアジン、4-トリクロロメチルインドール、5-トリクロロメチルインドール、4-トリブロモメチルインドール、5-トリブロモメチルインドール、2-トリクロロメチルベンズイミダゾール、2-トリブロモメチルベンズイミダゾール、5-トリクロロメチル-1H-ベンゾトリアゾール、5-トリブロモメチル-1H-ベンゾトリアゾール、6-トリクロロメチルプリン、6-トリブロモメチルプリン、3-トリクロロメチルキノリン、4-トリクロロメチルキノリン、3-トリブロモメチルキノリン、4-トリブロモメチルキノリン、3-トリクロロメチルイソキノリン、3-トリブロモメチルイソキノリン、4-トリクロロメチルチノリン、4-トリブロモメチルチノリン、2-トリクロロメチルキノキサリン、2-トリブロモメチルキノキサリン、5-トリクロロメチルキノキサリン、5-トリブロモメチルキノキサリン、9-トリクロロメチルアクリジン、9-トリブロモメチルアクリジン、4-トリクロロメチル-1,10-フェナントロリン、4-トリブロモメチル-1,10-フェナントロリン、5-トリクロロメチル-1,10-フェナントロリン、5-トリブロモメチル-1,10-フェナントロリン等が挙げられる。
【0031】
フッ素、塩素又は臭素を含む酸素、窒素含有複素環化合物類としては、3,5-ビス[トリクロロメチル]イソキサゾール、3,5-ビス[トリブロモメチル]イソキサゾール、2-トリクロロメチルベンゾキサゾール、2-トリブロモメチルベンゾキサゾール等が挙げられる。
【0032】
フッ素、塩素又は臭素を含む硫黄、窒素含有複素環化合物類としては、4,5-ビス[トリクロロメチル]チアゾール、4,5-ビス[トリブロモメチル]チアゾール、5-トリクロロメチル-チアジアゾール、5-トリブロモメチル-チアジアゾール、2-トリクロロメチルベンゾチアゾール、2-トリブロモメチルベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0033】
アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、1,2-プロピレンジアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、o-トルイジン、p-ニトロトルエン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、アニリン、ピペラジン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0034】
尿素類としては、尿素、1,1,3,3-テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-プロピル)-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-ブチル)-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン、N,N’-ジメチルプロピルウレア、N,N’-ジエチルプロピルウレア、N,N’-ジ(n-プロピル)プロピルウレア、N,N’-ジ(n-ブチル)プロピルウレア等が挙げられる。
【0035】
アミド類としては、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0036】
カルバミン酸類としては、カルバミン酸、カルバミン酸エチル等が挙げられる。
【0037】
トリアルキルホスフィン類としては、ヘキサメチルホスホルアミド等が挙げられる。
【0038】
エーテル類としては、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0039】
エステル類としては、酢酸-n-ブチル、酢酸-n-ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0040】
アルコール類としては、炭素数が4以上の炭化水素基を有するアルコールであり、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-メチル-2-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノ―ル、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール等が挙げられる。
【0041】
4級アンモニウム塩としては、下記式(2)で表される4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0042】
【化2】
【0043】
式(2)中、Rは、炭素数1から4のアルキル基、Rは、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基を示す。nは、1から4の数値を示す。
【0044】
式(2)で表される第4級アンモニウム塩は、第4級アンモニウムカチオンとフルオロハイドロジェネートアニオンとから構成される。第4級アンモニウムカチオンのRとしては、直鎖状或いは、分岐鎖状の炭素数1から4のアルキル基を挙げることができる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基等を挙げることができる。第4級アンモニウムカチオンのRとしては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基を挙げることができる。フルオロハイドロジェネートアニオンとしては、nが1から4の数値を示すF(HF)nで表されるフルオロハイドロジェネートアニオンを挙げることができる。nは必ずしも整数でなくても良く、好ましくは1.5以上3以下の数値であり、より好ましくは、2以上2.5以下の数値である。
【0045】
具体例としては、N-メトキシメチル-N-メチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-エチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-n-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-iso-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-n-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-iso-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-tert-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-エチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-n-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-iso-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-n-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-iso-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-tert-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-メチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-エチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-n-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-iso-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-n-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-iso-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-tert-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート等を挙げることができる。
【0046】
非水系液体は、非水系フッ化水素含有液体に、第1フッ化物錯体及び第2フッ化物錯体を加えて、非水系液体を準備することが好ましい。非水系フッ化水素含有液体を撹拌しながら、第1フッ化物錯体及び第2フッ化物錯体を加えて、非水系液体を準備してもよい。非水系フッ化水素含有液体に第1フッ化物錯体及び第2フッ化物錯体を加える順序は、非水系フッ化水素含有液体に、第1フッ化物錯体を先に加えてその後に第2フッ化物錯体を加えてもよく、第2フッ化物錯体を先に加えてその後に第1フッ化物錯体を加えてもよく、第1フッ化物錯体と第2フッ化物錯体を非水系フッ化水素含有液体に同時に加えてもよい。第1フッ化物錯体と第2フッ化物錯体とを混合し、得られた混合物を非水系フッ化水素含有液体に加えて、非水系液体を準備してもよい。
【0047】
非水系液体中の第1フッ化物錯体と第2フッ化物の錯体の合計の量は、非水系フッ化水素含有液体1Lに対して、12g/L以上120g/L以下の範囲内であることが好ましく、15g/L以上100g/L以下の範囲内でもよく、18g/L以上80g/L以下の範囲内でもよく、20g/L以上70g/L以下の範囲内でもよい。非水系液体中の第1フッ化物錯体と第2フッ化物錯体の合計の量が12g/L以上120g/L以下の範囲内であれば、非水系液体とグラファイトとが接触した際に、第2フッ化物錯体の酸化力によりシート状のグラフェンの表面から電子を引き抜き、第1フッ化物錯体が電子の引き抜きを助長して、各シート状のグラフェンの表面に電荷を集めて、各シート状のグラフェンの層間で静電反発を生じやすくすることができ、各シート状のグラフェンの層間を拡げて、シート状のグラフェンを得やすくすることができる。
【0048】
非水系液体とグラファイトを接触させる工程
非水系液体とグラファイトを接触させて、グラフェンを得る。
グラファイトは、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等の人造黒鉛、球状化天然黒鉛、鱗片状天然黒鉛、塊状天然黒鉛等の天然黒鉛が挙げられる。
【0049】
非水系液体に対するグラファイトの量は、非水系液体1Lに対して、グラファイトの量が1g/L以上5g/L以下の範囲内であることが好ましく、1.5g/L以上4g/L以下の範囲内でもよく、2g/L以上3.5g/L以下の範囲内でもよい。非水系液体1Lに対するグラファイトの量が1g/L以上5g/L以下の範囲内であれば、非水系液体とグラファイトとが接触した際に、シート状のグラフェンを得やすくすることができる。
【0050】
非水系液体とグラファイトを接触させる工程において、非水系液体の温度は10℃以上40℃以下の範囲内であることが好ましく、15℃以上35℃以下の範囲内でもよい。非水系液体の温度は、室温でもよく、10℃以上40℃以下の範囲内であれば、非水系液体に含まれる非水系フッ化水素含有液体の蒸発を抑制し、比較的安全に非水系液体とグラファイトを接触させることができる。
【0051】
非水系液体は、撹拌しながらグラファイトと接触させることが好ましい。撹拌しながら、非水系液体とグラファイトを接触させることにより、非水系液体中に含まれる第2フッ化物錯体の酸化力により、六角形の炭素原子が2次元的に共有結合したシート状のグラフェンの表面から電子を引き抜きやすくし、また、第1フッ化物錯体による電子の引き抜きをより助長させやすくすることができ、各シート状のグラフェンの表面に電荷を集めて、各シート状のグラフェンの層間で静電反発を生じやすくすることができ、各シート状のグラフェンの層間を拡げて、グラフェンを得やすくすることができる。非水系液体は、60rpm以上1350rpm以下の範囲の速度で撹拌してもよく、70rpm以上1200rpm以下の範囲で撹拌してもよく、80rpm以上1000rpm以下の範囲で撹拌してもよく、90rpm以上900rpm以下の範囲で撹拌してもよい。
【0052】
非水系液体とグラファイトを接触させて、グラフェンを剥離させた後、上澄み液である非水系液体を除去し、必要に応じてグラフェンを乾燥させて、六角形の炭素原子が2次元的に共有結合したシート状のグラフェンを得ることができる。
【0053】
グラフェンは、非水系液体に分散する状態を目視で確認することによって、存否を確認することができる。グラファイトと接触させた後の非水系液体に超音波処理等を実施し、一定時間経過後に目視で確認する。このとき、グラファイトと接触させる前の非水系液体と比較し、グラファイトと接触させた後の非水系液体の色が濃くなっていれば、非水系液体と接触したグラファイトからシート状のグラフェンが剥離していることを確認することができる。また、グラファイトと接触させた非水系液体を超音波処理等で均一に分散させ、5000rpmで10分間遠心分離した後に、上澄み液の700nmにおける吸光度を測定することにより、非水系液体と接触したグラファイトからシート状のグラフェンが剥離していることを確認することができる。未処理のグラファイトは強いファンデルワールス力によって凝集するため非水液体中では沈殿しやすいため、上澄み液の吸光度が約0となるが、フッ化物を含む非水系液体と接触させてフッ素が結合したグラフェンは、フッ素同士の静電反発により、非水液体中でも凝集せず分散状態を保つと考えられ、非水系液体の色が濃くなったり、上澄み液の吸光度が大きくなったりする。
【0054】
原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて、得られたグラフェンの表面の形状を測定することによっても、グラフェンが得られているか否かを確認することができる。AFMは、探針と試料に作用する原子間力を検出するタイプの顕微鏡である。AFMの探針は、片持ちばね(カンチレバー)の先端に取り付けられている。この探針と試料表面を微小な力で接触させ、カンチレバーのたわみ量が一定になるように探針・試料間距離(Z方向)をフィ-ドバック制御しながら水平方向(X、Y方向)に走査することで、表面形状を画像化できる。この画像デ-タを数値処理することによって、ナノレベルの形状を数値化することが可能である。このナノレベルの形状を数値化する指標はいろいろあるが、グラフェンの評価においては、Z方向の値からグラフェンが製造されていることを確認できる。なお、AFM測定を行った際に単層グラフェンの厚みが1nmであることが知られており、Z方向の値から何層のグラフェンが製造されているかを確認できる。
【0055】
非水系液体中にフッ化水素含有液体を含むため、得られる剥離されたグラフェンとフッ素イオンが結合し、フッ素を含むフッ化グラフェンが得られる。得られるグラフェンがフッ化されていることによって、フッ素が荷電不純物としてふるまい、エネルギーギャップを付与することができ、バンドギャップが無い状態(ゼロギャップ、0ギャップ)と比較して、制御しやすい半導体素子用の材料として、用途を広げることができる。また、フッ化グラフェンは、フッ素ガスを吸着しやすく、フッ素ガスの吸着剤用の材料としても用いることができる。また、フッ化グラフェンは、フッ素の撥水効果を利用して撥水剤の材料として用いることが可能である。加えて、リチウムイオン電池の負極材の固体電解質界面膜(SEI膜)形成のための助剤として用いることが可能である。
【0056】
得られるグラフェンが、フッ素を含み、フッ素の含有量が、炭素とフッ素と酸素の合計量100atomic%に対して1atomic%以上20atomic%以下の範囲内であることが好ましく、3atomic%以上19atomic%以下の範囲内であってもよく、5atomic%以上18atomic%以下の範囲内でもよい。得られるグラフェンのフッ素の含有量が炭素とフッ素と酸素の合計量100atomic%に対して1atomic%以上20atomic%以下の範囲内であれば、フッ素が荷電不純物としてふるまい、十分なエネルギーギャップを付与することができ、得られるグラフェンを使用する用途を広げることができる。グラフェンに含まれる、炭素、フッ素、酸素等の各元素の含有量は、得られたグラフェンの表面をX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy、又は、ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)の市販の装置を利用して測定することができる。
【0057】
得られるグラフェンが、フッ素を含み、炭素に対するフッ素の原子比F/Cが、0.01以上0.3以下の範囲内であることが好ましく、0.02以上0.25以下の範囲内でもよく、0.03以上0.20以下の範囲内でもよい。グラフェンに含まれるフッ素の炭素に対する原子比F/Cが、0.01以上0.3以下の範囲内であれば、フッ素が荷電不純物としてふるまい、十分なエネルギーギャップを付与することができ、得られるグラフェンの用途を広げることができる。
【0058】
得られるグラフェン中に酸素は含まれていなくてもよく、グラフェン中の酸素の含有量は炭素とフッ素の合計100atomic%に対して、0atomic%以上5atomic%以下の範囲であることが好ましく、0.001atomic%以上4atomic%以下の範囲内でもよく、0.002atomic%以上3atomic%以下の範囲内でもよく、0.003atomic%以上2atomic%以下の範囲内でもよい。グラフェン中に酸素が含まれていると、グラフェンの表面に酸素含有基が付着していると推測され、酸素含有基が親水性であることから、グラフェンに含まれるフッ素の特性、例えば撥水性等を妨げる場合がある。そのため、得られるグラフェン中に酸素は含まれていなくてもよい。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1
非水系液体の準備工程
第1フッ化物錯体としてヘキサフルオロケイ酸カリウム(KSiF)を0.8g及び第2フッ化物錯体としてヘキサフルオロマンガン酸カリウム(KMnF)を0.2g秤量し、それらをフッ化水素70質量%とピリジン30質量%含むピリジン-HF錯体である非水系フッ化水素含有液体45mLに添加し、非水系フッ化水素含有液体を撹拌して、ヘキサフルオロケイ酸カリウム及びヘキサフルオロマンガン酸カリウムを溶解させて、非水系液体を準備した。
【0061】
非水系液体とグラファイトの接触工程
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)撹拌子を、25℃に調整した非水系液体に入れ、マグネティックスターラを用いて、300rpmで連続的に撹拌しながら、グラファイト(鱗片状黒鉛、製品名:グラファイト、富士フイルム和光純薬株式会社製)0.1gを非水系液体に添加し、72時間撹拌した。非水系液体とグラフェンとを含む液体を回収し、25℃、5000rpmで5分間遠心分離を行い、グラフェンを液体中に沈殿させた。非水系フッ化水素含有液体を加え、同様の条件で遠心分離を行って上澄み液を除去した。上澄み液を除去する操作を3回行うことにより、グラフェンに不純物として残存する第2フッ化物錯体と第1フッ化物錯体を除去した。その後、沈殿物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加え、5℃、5000rpmで5分間、遠心分離を行って上澄み液を回収した。上澄み液を回収する操作を3回行うことにより、再分散後のNMP溶媒に非水系フッ化水素含有液体が残存しないようにした。さらにグラフェンの濃度が3mg/mLとなるようにNMPを加え、グラフェン分散液を得た。
【0062】
比較例1
非水系液体と接触させる前のグラファイトを比較例1とした。
【0063】
評価及び結果1
AFMによる形状の測定
実施例1に係る製造方法によって得られたグラフェンをシリコン基板上に固定し、AFMを用いて、シリコン基板の表面Z1とグラフェンの表面Z2との高低差を測定した。結果を表1に示し、AFMの測定条件を以下に示す。なお測定は、実施例1に係る製造方法によって得られたグラフェン2つ(実施例1:サンプル1、サンプル2)に対して実施した。
AFMの測定条件
測定装置:AFM5400L(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
スキャナー径:20μm
走査周波数:1.0Hz
測定エリア:5μm×5μm角
XYデータ数:256×256
探針:SI-DF20(材質シリコン、先端半径R10nm、探針深さ12.5μm)
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示す結果から、高低差が約5nmであることより、5層程度のグラフェンが得られることが確認できた。
【0066】
評価及び結果2
XPSによる表面の測定
実施例1に係る製造方法によって得られたグラフェン及び比較例1に係るグラファイトについて、XPSを用いて各表面の各原子量を測定した。結果を表2に示し、XPSの測定条件を以下に示す。表2中、「N.D」は検出限界未満であることを示す。検出限界は、0.1atomic%未満である。表2中、「-」は、Fの原子量が検出限界以下であったために原子比F/Cの値が算出できないことを示す。
XPSの測定条件
装置:Quantera SXM(アルバック・ファイ株式会社製)
X線源:単色化Al Kα線(hν 1486.6eV)
分析エリア:200μmφ
パスエネルギー:224eV
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示す結果から、実施例1に係る製造方法によって得られたグラフェンが、フッ素を含み、フッ素の含有量が、炭素とフッ素と酸素の合計量100atomic%に対して、1atomic%以上20atomic%以下の範囲内であることが確認できた。実施例1に係る製造方法によって得られたグラフェンは、フッ素が荷電不純物としてふるまい、十分なエネルギーギャップを付与することができると推測された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示の製造方法によって得られたグラフェンは、電界効果トランジスタのような半導体素子、透明導電膜等に用いることができ、電子センサー、トランジスタ、電池、燃料電池、太陽電池、タッチスクリーン、ディスプレイ技術、照明等の分野において、利用することができる。また、本開示の製造方法によって得られたグラフェンは、制御しやすい半導体素子用の材料、フッ素ガスの吸着剤用の材料、撥水剤用の材料としても利用することができる。
図1