(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117897
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】電解槽、及び電解槽を用いて金属材料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/06 20060101AFI20230817BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C25C7/06 301A
C25C7/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020706
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金澤 聖臣
(72)【発明者】
【氏名】中山 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 大
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA04
4K058CA27
(57)【要約】
【課題】本開示は、給液される電解液の均一性を向上させる手段を提供することを目的とする。
【解決手段】一側面において、本開示は以下の発明を提供する。
電解液の排液口及び給液管を備える電解槽であって、
前記電解槽は、底面と、前記給液管側に位置する第1側面、該第1側面に対向し前記排液口が設けられた第2側面、前記第1側面と第2側面とを接続する第3側面及び第4側面とを備え、
前記給液管は、電解槽の底面の短辺に接する前記第1側面に沿って延在し、
前記給液管の前記延在部分には、ノズルが設けられ、
前記延在部分の頂部側には、板状部材が設けられ、
吐出孔の向きが、前記第1側面側に設けられる、
電解槽。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液の排液口及び給液管を備える電解槽であって、
前記電解槽は、底面と、前記給液管側に位置する第1側面、該第1側面に対向し前記排液口が設けられた第2側面、前記第1側面と第2側面とを接続する第3側面及び第4側面とを備え、
前記給液管は、電解槽の底面の短辺に接する前記第1側面に沿って延在し、
前記給液管の前記延在部分には、ノズルが設けられ、
前記延在部分の頂部側には、板状部材が設けられ、
前記ノズルの向きが、電解液が前記第1側面側に向かうように設けられる、
電解槽。
【請求項2】
請求項1の電解槽であって、前記ノズルが、複数の孔を含む、電解槽。
【請求項3】
請求項1の電解槽であって、前記ノズルが、1つ又は複数のスリットを含む、電解槽。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の電解槽であって、
前記給液管の断面形状が円形であり、
前記電解槽の高さ方向を0°とし、尚且つ、前記第1側面側の向きの角度をプラスとしたときに、
吐出の角度が20°~160°の範囲となるように、吐出孔の向きが設定される、
電解槽。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の電解槽であって、
前記板状部材は、前記給液管の延在部分を収納する筐体を構成し、
前記電解槽の排液口側に位置する前記筐体の側面には、複数の孔が設けられ、
前記複数の孔の一部は、流速が制限されるように構成される、
電解槽。
【請求項6】
電解製錬により金属材料を製造する方法であって、請求項1~5いずれか1項に記載の電解槽を使用することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解槽、及び電解槽を用いて金属材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解装置は、電解槽の中にカソード及びアノードを浸し、カソードに所望の金属を析出させるために用いられる。電解槽は、直方体又はこれに近い形状をしているものが多く、直方体の長手方向に沿って、カソード及びアノードが交互に配置される。そして、長手方向と垂直な2つの側面には、それぞれ給液口と、排液口が備えられる。
【0003】
析出する金属の品質は、様々な要素によって影響を受ける。そうした要素の1つとしては、電解液の給液方法が挙げられる。特許文献1では、電解液を電解槽の一方の側壁の下側から給液し、他方の側壁の上部から排液することを開示している。特許文献2では、電解槽の長手方向と平行な側壁にそって複数の給液口が設けられた構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-204779号公報
【特許文献2】特開2020-164960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献におけるアプローチは、給液される電解液の均一性を高めることに依拠したものとなっている。しかしながら、依然として、電解液の均一性については改善の余地があった。そこで本開示は、給液される電解液の均一性を向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、幅方向における電解液の均一性に着目した。ここで述べる幅方向とは、
図1に示すように、電解槽の長手方向とは垂直な方向であり、尚且つ、高さ方向とも垂直な方向である。そして、本発明者は、給液口の向きを改良した。具体的には、給液口の向きを変更して、排液口側ではなく、あえて、逆方向の側面側に向けて電解液を給液させた。その結果、側壁から跳ね返ってから電解液が排液口側に向かうため、幅方向における電解液の均一性が高まった。
【0007】
上記知見に基づいて発明が完成され、本開示は、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
電解液の排液口及び給液管を備える電解槽であって、
前記電解槽は、底面と、前記給液管側に位置する第1側面、該第1側面に対向し前記排液口が設けられた第2側面、前記第1側面と第2側面とを接続する第3側面及び第4側面とを備え、
前記給液管は、電解槽の底面の短辺に接する前記第1側面に沿って延在し、
前記給液管の前記延在部分には、ノズルが設けられ、
前記延在部分の頂部側には、板状部材が設けられ、
前記ノズルの向きが、電解液が前記第1側面側に向かうように設けられる、
電解槽。
(発明2)
発明1の電解槽であって、前記ノズルが、複数の孔を含む、電解槽。
(発明3)
発明1の電解槽であって、前記ノズルが、1つ又は複数のスリットを含む、電解槽。
(発明4)
発明1~3いずれか1つに記載の電解槽であって、
前記給液管の断面形状が円形であり、
前記電解槽の高さ方向を0°とし、尚且つ、前記第1側面側の向きの角度をプラスとしたときに、
吐出の角度が20°~160°の範囲となるように、前記吐出孔の向きが設定される、
電解槽。
(発明5)
発明1~4いずれか1つに記載の電解槽であって、
前記板状部材は、前記給液管の延在部分を収納する筐体を構成し、
前記電解槽の排液口側に位置する前記筐体の側面には、複数の孔が設けられ、
前記複数の孔の一部は、流速が制限されるように構成される、
電解槽。
(発明6)
電解製錬により金属材料を製造する方法であって、発明1~5いずれか1つに記載の電解槽を使用することを含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
上記発明の一側面において、電解液が給液管側の側面に向かうように設けられるように、ノズルの向きが設定される。これにより、電解液が移動する距離が長くなり、これにともなって電解液の拡散による均一化がより一層進む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電解槽(100)における各方向を説明するための図である。図に示す電解槽(100)は直方体である。図には3つの矢印が示されており、3つの矢印は、高さ方向、幅方向、長手方向に対応する。
【
図3】一実施形態におけるノズル(180)部分の構造の一例を示す。給液管(120)は、電解液に浸漬される側の先端において、ノズル(180)を備える。そして、ノズル(180)は複数の孔を備える。複数の孔(190)の向きは、給液管(120)を電解槽(100)に取り付けたときに、電解槽(100)の給液管側の第1側面(130)に向かって電解液が吐出されるように構成される。
【
図4】一実施形態におけるノズル(180)部分の構造の一例を示す。給液管(120)は、電解液に浸漬される側の先端において、ノズル(180)を含む。そして、ノズル(180)はスリット(200)を備える。スリット(200)の向きは、給液管(120)を電解槽(100)に取り付けたときに、電解槽(100)の給液管側の第1側面(130)に向かって電解液が吐出されるように構成される。
【
図5】一実施形態において、電解槽(100)の頂面方向からの視点にて、ノズル(180)部分の孔(190)から電解液が吐出される状態を示す。ノズル(180)は3つの孔を等間隔で備える。そして、フレッシュな電解液が孔から吐出されて、拡散している。そして、フレッシュな電解液の周囲には、以前に電解槽(100)に吐出済みの電解液が存在している。時間とともにフレッシュな電解液と、既存の電解液とが拡散して混合される。
【
図6】一実施形態において、ノズル(180)の吐出の角度の定義を示す。ノズル(180)の断面は円形状になっており、ノズル(180)の一部において、孔(190)が設けられる。高さ方向と平行な方向を0°とする。断面の中心から孔(190)(又はスリット(200))の中心までの直線と、高さ方向と平行な直線とで形成される角度をθとする。そして、角度θは、吐出の角度として定義される。
【
図7】一実施形態における、給液管(120)の配置方法を示す。電解槽(100)の給液側の一部を切断した後の内側状態を示す。
【
図8】一実施形態における、給液管(120)の配置方法を示す。電解槽(100)の給液側の一部を切断した後の内側状態を示す。
【
図9】一実施形態における、給液管(120)の配置方法を示す。電解槽(100)の給液側の一部を切断した後の内側状態を示す。
【
図10】一実施形態における、給液管(120)及び板状部材(230)の配置方法を示す。電解槽(100)の給液側の一部を切断した後の内側状態を示す。
【
図11】一実施形態における、給液管(120)及び板状部材(230)の配置方法を示す。電解槽(100)を、長手方向に沿って切断したときの断面を示す。
【
図12】一実施形態における、給液管(120)及び筐体(240)の配置方法を示す。電解槽(100)の給液側の一部を切断した後の内側状態を示す。
【
図13】一実施形態における給液管(120)及び筐体(240)を用いて、電解槽内に、着色した液体を供給したときの拡散状態を示す。上の図は、実際の拡散状態の写真であり、下の図は、当該写真をイラスト化したものである。グレーチング構造の筐体が電解液中に水没している。筐体の孔からフレッシュな電解液(
図13で濃色で示す)が供給され、既存の電解液中(
図13で淡色で示す)を拡散している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0011】
1.電解槽
1-1.対象金属
一実施形態において、本開示は電解槽に関する。電解槽は、電解製錬に使用される器具である。対象となる金属は特に限定されず、例えば、金、銀、銅、鉛、ニッケル、亜鉛、カドミウム、マンガンなどが対象となる。また、対象金属の種類に応じて、適宜電解液の組成を変更することができる。
【0012】
1-2.電解槽(100)の形状
電解槽(100)の形状は、典型的には直方体である。そして、電解槽(100)上部は開放されており、電解槽(100)は底面(150)と複数の側面を有する。具体的には、
図1に示すように、電解槽(100)は、以下の5つの面を有する:底面(150)、4つの側面(第1側面(給液管側)(130)、第2側面(排液口側)(140)、第3側面(長手方向に平行な第1の面)(160)、第4側面(長手方向に平行な第2の面)(170))。
【0013】
1-3.電解槽(100)の内の各パーツ配置
電解槽(100)は、内部に電解液を保持する。そして、
図2に示すようにアノード(210)とカソード(220)を電解液に浸漬し、電流を加えることで、カソード(220)側に金属を析出させることができる。電解液は循環させて使用することができる。この目的で、電解槽(100)は、給液管(120)と、排液口(110)を備えることができる。給液管(120)の給液口と、排液口(110)の位置は特に限定されないが、典型的には、下部から電解液を給液する。そして、上部においてオーバーフローすることにより電解液が排出される。ただし、後述するが、給液する位置が下になりすぎると、電解槽(100)の底にある殿物を巻き上げる可能性がある。したがって、給液口の下端は、ある程度底から距離を維持されるような場所に位置することが好ましい。
【0014】
電解液は、給液管(120)を経て電解槽(100)内部に給液することができる。給液管(120)は電解槽(100)外部に存在する電解液のタンクに連通されてもよい。給液管(120)は、ノズル(180)を備えており、当該ノズル(180)を経て電解液が電解槽(100)内部へ排出される。本明細書においてノズルとは、気体や液体のような流体の流れる方向を定めるために使用されるパイプ状の機械部品を意味する。
【0015】
1-4.給液管(120)
1-4-1.材質
給液管(120)の材料、及び、ノズル(180)の材料は特に限定されず、当分野で公知の材料であってもよい。また、ノズル(180)において、電解液を吐出するための構造についても、特に限定されない。例えば、
図3に示すように複数の孔(190)をノズル(180)に設けてもよい。一定方向に向かって吐出することができるよう、複数の孔(190)は長手方向に直線状に並ぶように設けることが好ましい。複数の孔(190)同士の距離は特に限定されない。別の例では、
図4に示すようにスリット(200)構造をノズル(180)に設けてもよい。孔(190)及びスリット(200)の数、大きさ、形状などは特に限定されない。例えば、スリット(200)構造は1つであってもよいし、複数あってもよい。また、孔(190)の形状は円形でも矩形でもその他の多角形でもよい。
【0016】
1-4-2.ノズル(180)の向き
上述したように、ノズル(180)は、気体や液体のような流体の流れる方向を定めるために使用される。本開示において、電解液の吐出される方向が重要となる。通常の発想であれば、ノズル(180)の向きは、電解槽(100)の排液口(110)側に吐出されるように設定される。しかし、一実施形態において、電解液が電解槽(100)の底面(150)の短辺に接する側面(具体的には給液管側の第1側面(130))に向かうように、ノズル(180)の向きが設定される。この意義は、給液管側の第1側面(130)に電解液がぶつかることで、一定方向の流れが乱れ、電解液の幅方向の拡散が進むためである。
【0017】
また、もう一つの意義としては
図5に示すように説明できる。
【0018】
図5では、ノズル(180)の向きを電解槽(100)の排液口(110)側に吐出されるように設定したときの状態を示している。ここで、吐出されてからの距離がX1の時点では、幅方向において、電解液の偏りが生じている。具体的には、新たに給液された電解液の組成が濃い部分と、相対的に薄い部分とが幅方向において混在している。しかし、吐出されてからの距離がX2の時点(X2>X1)では、X1の場合と比べて幅方向における電解液の偏りが少なくなる。
【0019】
この理由は、長手方向の移動距離が長くなると、幅方向における電解液の拡散度合いが大きくなるからである。この観点から、電解槽(100)のサイズを長手方向に大きくして、幅方向における電解液の拡散度合いを促進するためのスペースを確保する手段も取り得る。しかし、そのようなアプローチを採用した場合、電解槽(100)のサイズ変更などが必要になる可能性もある。そして、各々の電解槽(100)のサイズが大きくなると設備全体のスペースに影響を及ぼす可能性がある。
【0020】
一実施形態における電解槽(100)においては、電解液が電解槽(100)の底面(150)の短辺に接する側面(具体的には給液管側の第1側面(130))に向かうように、ノズル(180)の向きが設定される。これにより、電解液が給液管側の第1側面(130)にぶつかってから排液口(110)側へと移動するので、長手方向における移動距離が長くなる。したがって、幅方向における拡散が、更に促進される結果となる。そして、幅方向における拡散のための長手方向におけるスペースを節約することができる。
【0021】
ここで、ノズル(180)と、給液管側の第1側面(130)との距離は特に限定されないが、幅方向の拡散を促進できる程度に長いことが好ましい。例えば、10cm以上(好ましくは、20cm~30cm)である。
【0022】
ノズル(180)の向きは、給液管側の第1側面(130)に向かう限りはある程度の幅の範囲で設定可能である。例えば、
図6を参照しながら説明すると、吐出の角度が20°~160°(好ましくは、60°~120°、更に好ましくは、80°~100°)の範囲となるように、ノズル(180)の向きを設定してもよい。ここで、吐出の角度は、以下の様に定義される。
・電解槽(100)の高さ方向を0°とする。
・排液口(110)側の向きの角度をマイナスとし、給液側の向きの角度をプラスとする。
・断面の中心から孔(190)(又はスリット(200))の中心までの直線と、高さ方向と平行な直線とで形成される角度を吐出角度θとする。
【0023】
1-4-3.ノズル(180)などの取り付け位置
給液管(120)及びノズル(180)の取り付け位置は、少なくとも幅方向にわたって、ある程度の均一性を確保する目的から、電解槽(100)の底面(150)の短辺に接する側面(給液管側の第1側面(130))に沿って延在する。この際に、給液管(120)が、電解槽(100)の外部から内部へと延在することになるが、その位置については特に限定されない。また、給液管(120)の数についても特に限定されない。
【0024】
例えば、
図7、
図8、
図9等に示すいくつかのバリエーションのいずれかを採用してもよい。
図7では、給液管(120)は2つ設けられている。そして、2つの給液管(120)は、給液管側の第1側面(130)の中央付近を高さ方向に通るように延在しており、更には、底面(150)付近にて、幅方向に平行に、且つ給液管側の第1側面(130)の両端に向かうように曲がっている。
【0025】
図8では、2つの給液管(120)は、給液管側の第1側面(130)の両端を通るように延在しており、更には、底面(150)付近にて、幅方向に平行に、且つ給液管側の第1側面(130)中央に向かうように曲がっている。
【0026】
図9では、給液管(120)が1つであり、給液管側の第1側面(130)の一端を通るように延在しており、更には、底面(150)付近にて、他端に向かうように曲がっている。
【0027】
図7、
図8、
図9等には示していないが、給液管(120)は、電解槽(100)の上部から延在するのではなく、例えば、電解槽(100)の給液管側の第1側面(130)を貫通するように設けてもよい。
【0028】
また、ノズル(180)の高さ方向の位置は、特に限定されないが、電極の下端(例えば、電極の下端の位置が電極ごとにバラバラの場合には、最も下端に位置する電極の下端)の位置又はそれ以下の位置であることが好ましい。この理由は、こうした位置だと、電極へフレッシュな電解液を十分に供給できるからである。
【0029】
1-5.板状部材(230)
一実施形態において、例えば、
図10に示すように、上述したノズル(180)部分の上部には板状部材(230)が設けられる。これは、ノズル(180)から吐出した電解液が頂部側に拡散することを防ぐためである。より具体的には、上述の通り、ノズル(180)から吐出した電解液は、いったん給液管側の第1側面(130)に向かうので、そこで一部の流れが給液管側の第1側面(130)に沿って上側に流れる可能性がある。板状部材(230)が存在することで、こうした流れをブロックして、排液口(110)側へ流れを誘導することができる。
【0030】
板状部材(230)の材質及び厚さは特に限定されず、電解液に対する耐性などを考慮して適宜決定すればよい。板状部材(230)の幅は、電解槽(100)の幅の内寸に適合するサイズにすればよい。板状部材(230)の長さは、長すぎると、アノード(210)及びカソード(220)の位置を超えてしまい、これらの電極にフレッシュな電解液を給液できなくなる。したがって、板状部材(230)の長さは、電解槽(100)の給液管側の第1側面(130)から、当該側面から最も近い電極の位置までの距離よりも短いことが好ましい(
図11)。
【0031】
好ましい実施形態において、
図12に示すように、板状部材(230)は筐体(240)の一部を構成してもよい。そして、当該筐体(240)は、ノズル(180)部分を収納するようにしてもよい。この場合、筐体(240)の一部、すなわち、排液口(110)側の側面には、複数の孔(250)が設けられ、ノズル(180)から排出された電解液を最終的に排出することができる。また、筐体(240)の構造上の強度を維持するため、筐体(240)は、排液口(110)側の側面にグレーチング構造を設けてもよい。
【0032】
この時に、筐体(240)の複数の孔(250)の大きさは均等であってもよい。しかし、好ましい実施形態において、筐体(240)の複数の孔(250)の一部は、流速が制限されるように構成されてもよい。例えば、幅方向で見たときに、両端の箇所の流速が制限されるように構成されてもよい。また、これに加えて、幅方向で見たときに、中央の箇所の流速が制限されるように構成されてもよい。
【0033】
両端の箇所の流速を制限する理由は、吐出した電解液の流れの一部が、壁からの反発により加速する可能性があるからである。
図12に示す構成では、両端側に近い部分では給液管(120)から吐出される電解液が電解槽(100)の壁にぶつかることで加速する可能性がある。
【0034】
また、
図12に示す構成では、筐体(240)内部のノズル(180)が
図7に示すように配置されている。したがって、中央の箇所に近い位置では、両端と比べて、給液源からの圧力が強い傾向にある。したがって、両端付近だけでなく、中央付近においても流速を制限する。
【0035】
一方で、両端付近及び中央付近のいずれにも該当しない部位においては、孔(250)の大きさを比較的大きくしてもよい。
図12では、横方向に数えると14個の矩形の孔(250)がある。そして、1~2番目及び13~14番目の孔(250)は両端付近であるため、孔(250)の大きさを比較的小さく設定する。また、6~9番目の孔(250)は中央付近であるため、孔(250)の大きさを比較的小さく設定する。一方で、3~5番目、及び、10~12番目の孔(250)は比較的大きく設定する。これにより、幅方向においての電解液の給液速度の均一度合いを高めることができる。
【0036】
給液管(120)のノズル(180)が
図7とは異なって配置される場合、例えば、
図9示すような給液管(120)のノズル(180)の配置の場合、壁からの反発と給液源に近い位置にあるという2つの理由により、一端側が最も流速が高くなる可能性もある。その場合には、一端側の流速を最も厳しく制限し、他端側の流速を緩やかに制限し、中央部分の流速を制限しないようにしてもよい。
【0037】
また、
図8に示すような給液管(120)のノズル(180)の配置の場合、両端付近は、壁からの距離が近いこと、及び、給液源からの圧力が相対的に強いことの理由から、両端側の孔(250)の大きさを制限してもよい。そして、両端から中央付近に向かうにつれて孔(250)の大きさを大きく設定してもよい。
【0038】
いずれにしても、ノズル(180)からの流速の偏りに応じて、流速を調整するため、筐体(240)の孔(250)からの流れの制限する度合いを調整してもよい。孔(250)に代えてスリット(200)をもうける場合においても同様である。
【0039】
流れを制御する手段は、特に限定されず、例えば、孔(250)のサイズ自体を小さくしてもよく、或いは孔(250)の部分にフィルタを設けてもよく、或いは、流れを邪魔する板を孔(250)の出口に設けてもよい。
【0040】
以上の構成を採用することで、新たに給液される電解液の均一性を高めることができる。また、上記構成とすることで、均一性を実現させるのに必要なサイズを節約することができる。
【0041】
2.金属材料の製造方法
一実施形態において、本開示は、金属材料の製造方法に関する。当該製造方法においては上述した電解槽(100)を使用する。例えば、前記製造方法は、以下の工程により、金属材料を得ることができる。
【0042】
上述した電解槽(100)に電解液を給液すること。
アノード(210)とカソード(220)を電解液に浸漬させること。
電圧をかけてカソード(220)に対象となる金属材料を析出させること。
給液管(120)及び排液口(110)を利用して電解液を適宜交換させること。
析出した金属材料をカソード(220)から剥がすこと。
【0043】
以上の工程により、良好な品質の金属材料を製造することができる。
【0044】
以上、発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
【実施例0045】
以下では上述したいくつかの実施形態に対応する更なる具体例を示す。上述した実施形態と同様、以下の説明は本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
電解槽の側面のうち給液を行う側面の中央寄りを貫通するように、2本の給液管を通した。そして、2本の給液管が前記側面の両端側に向かうように設けた(
図7に示すように)。また、2本の給液管には複数の孔が設けられた。なお、複数の孔は側面側に設けられ、吐出した電解液が側面に向かうようになっている。そして、電解槽の内側に延在する2本の給液管を筐体で覆った。筐体には、複数の孔が設けられ、筐体内部の電解液が、排液口側に向かうようになっている。また、筐体に設けられた複数の孔のうち、中央よりと端部は、それ以外の部分と比べて、孔の大きさを小さくした。
【0047】
実験の都合上、電解槽内に水を入れ、そして、給液管から供給される液には着色させ、拡散が視認できるようにした。
【0048】
上述した構造において、着色させた液を供給管から電解槽内部に供給したときの状態を
図13に示す。筐体から排出されるフレッシュな電解液は、どの孔においても濃淡度合いに差はなかった。このことは、比較的均一に電解液が供給されていることを示す。