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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118001
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】生活習慣病予防又は改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20230817BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230817BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230817BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230817BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230817BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
A61K36/48
A61P3/04
A61P3/06
A61P1/00
A23L33/10
A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020866
(22)【出願日】2022-02-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)日本食品科学工学会第68回大会講演集第161頁 発行日;令和3年8月26日 (2)日本食品科学工学会第68回大会 開催日;令和3年8月28日 (3)日本食物繊維学会第26回学術集会講演要旨集第s24頁 発行日 令和3年10月26日 (4)日本食物繊維学会第26回学術集会 開催日;令和3年11月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐香
(72)【発明者】
【氏名】江頭 祐嘉合
(72)【発明者】
【氏名】駒谷 初音
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD58
4B018ME01
4B018ME11
4B018ME14
4C088AB59
4C088AC04
4C088BA07
4C088CA02
4C088MA02
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA70
4C088ZC33
(57)【要約】
【課題】生活習慣病を予防又は改善することができる生活習慣病予防又は改善剤を提供する。
【解決手段】加熱大豆皮を有効成分とする生活習慣病の予防又は改善剤、及び本発明の生活習慣病の予防又は改善剤を含む生活習慣病の予防又は改善用飲食品若しくは医薬品。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱大豆皮を有効成分とする生活習慣病の予防又は改善剤。
【請求項2】
前記生活習慣病の予防又は改善が、体重増加抑制、脂肪組織重量増加抑制、及び/又は腸内細菌叢改善である請求項1の生活習慣病の予防又は改善剤。
【請求項3】
前記脂肪組織重量増加抑制が、皮下脂肪組織、精巣周囲脂肪組織、腎臓周囲脂肪組織、及び褐色脂肪組織から選択される1種以上の脂肪組織の重量増加抑制である請求項2に記載の生活習慣病の予防又は改善剤。
【請求項4】
前記腸内細菌叢改善が、Firmicutes門とBacterioidetes門の存在比(F/B比)の低下、Proteobacteria門の減少、Lactobacillus属の増加及びButyricicoccus属の増加から選択される1種以上の腸内細菌叢の変化である請求項2に記載の生活習慣病の予防又は改善剤。
【請求項5】
前記加熱大豆皮のCIELAB表色系のL値が、60~73である請求項1~4のいずれか1項に記載の生活習慣病の予防又は改善剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の生活習慣病の予防又は改善剤を含む生活習慣病の予防又は改善用飲食品若しくは医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱大豆皮を有効成分とする生活習慣病予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は遺伝要因及び環境要因に起因し、多くの場合は食習慣の変化や身体活動量の低下による摂取エネルギーと消費エネルギーの不均衡によって引き起こされる。近年、食生活や社会環境の変化により肥満人口が急増し、世界的な問題となっている。日本においても生活習慣の変化によって肥満は増加している。肥満は脂肪がたまる部位によって皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満に大別され、内臓脂肪が過剰に蓄積した内臓脂肪型肥満は、糖尿病、高血圧、脂質異常症等を合併しやすく、心血管疾患や脳血管疾患の発症リスクを高めることが知られている。そのため、肥満の予防・改善は健康維持において極めて重要であり、肥満の予防・改善を目的とした多くの研究が行われている。また、腸内細菌と肥満の関係についての研究も進み、腸内細菌が食習慣や身体活動量の低下と並んで肥満形成に寄与することが示唆されている。このような生活習慣病に関する研究の一環として、日常的に摂取可能な食品の有する生体調節機能が注目され、生活習慣病の予防又は改善につながる素材の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、天然由来の素材から、肥満症、内臓脂肪蓄積、高脂血症、高尿酸血症、糖尿病、肝臓疾患等の生活習慣病の予防、治療又は改善剤を見出すことを目的とし、オキアミ圧搾液の熱凝固物を有効成分とする生活習慣病の予防又は改善剤が開示されている。また、特許文献2では、ヒトが日常的に手軽かつ安全に、しかも継続的に摂取でき、生活習慣病、中でもアルコール性又は高脂肪食性の脂肪肝を効果的に予防又は改善することができる抗生活習慣病用剤と、これを含んでなる経口組成物、さらにはそれらを含んでなる高脂肪食品を提供することを目的とし、下記(A)乃至(D)の特徴を有する分岐α-グルカンを含有する、抗生活習慣病用剤;(A)グルコースを構成糖とし、(B)α-1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα-1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有し、(C)グルコース重合度が6乃至430であって、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)が20以下で、(D)本文記載の高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が20質量%以上である。が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-116680号公報
【特許文献2】国際公開2014/133060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生活習慣病を予防又は改善することができる生活習慣病予防又は改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、加熱大豆皮が、生活習慣病の予防又は改善につながる、体重増加を抑制する効果、脂肪組織重量を抑制する効果、及び腸内細菌叢を改善する効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、上記目的は、加熱大豆皮を有効成分とする生活習慣病の予防又は改善剤によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、大豆製品の副産物である大豆皮を活用した加熱大豆皮を用いて、生活習慣病の予防又は改善剤、及び生活習慣病の予防又は改善用飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】標準食を摂取したST群、高脂肪食を摂取したHFD群、及びHFD+10%加熱大豆皮群で飼育したマウスの10週目の腸内細菌叢の門レベルの存在比を調べた結果であり、図1(a)は、門レベルの積み上げグラフであり、図1(b)は、Proteobacteria門の存在比を示し、図1(c)は、Firmicutes門とBacteroidetes門の存在比(F/B比)を示す。
図2図1の場合と同様の腸内細菌叢の属レベルの存在比を調べた結果であり、図2(a)は、Prevotella属の存在比を示し、図2(b)は、Butyricicoccus属の存在比を示し、図2(c)は、Anaerotruncus属の存在比を示し、図2(d)は、Dorea属の存在比を示し、図2(e)はLactobacillus属の存在比を示す。
図3図1の場合と同様の腸内細菌叢の種レベルの存在比を調べた結果であり、Butyricicoccus pullicaecorumの存在比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[生活習慣病の予防又は改善剤]
本発明の生活習慣病の予防又は改善剤は、加熱大豆皮を有効成分とする。本発明において、加熱大豆皮は、大豆皮を加熱処理したものである。本発明において、大豆皮は、丸大豆の種皮部分であり、大豆粉や大豆油、脱脂大豆の製造時、又は豆乳や豆腐等の大豆加工品の製造時、における脱皮工程で得られる大豆の種皮部分であれば、どのようなものを用いてもよい。安定した品質で大量に得られる点で、大豆粉や大豆油、脱脂大豆の製造時における脱皮工程で得られる大豆皮が好ましい。
【0011】
本発明において、加熱大豆皮のCIELAB表色系のL値は、特に制限はないが、好ましくは60~73である。前記L値が73より大きい場合は、加熱処理が不足している場合があり、60未満である場合は、加熱大豆皮の焦げた味が強く感じる場合がある。加熱大豆皮のCIELAB表色系のL値は、より好ましくは65~72であり、68~72としてもよい。なお、CIELAB表色系のL値は、公知の手法を用いて色差計により測定された明度を示す値をいう。L値は0から100までの数値で表され、L値0は黒、L値100は白を意味する。色差計としては、例えば、分光測色計CM-5(コニカミノルタ株式会社)を用いることができる。
また、本発明において、加熱大豆皮に含まれるリポキシゲナーゼ活性は、以下の測定方法で検出限界値未満であることが好ましい。なお、本発明においてリポキシゲナーゼ活性の検出限界値未満とは、2U(単位)/g未満を意味する。
<リポキシゲナーゼ活性測定方法>
0.05mol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用いて大豆皮抽出液を調製し、0.001mol/Lリノール酸(pH9.0)3mLにその抽出液を0.02mL混合して、25℃、波長232.5nmの条件で吸光度変化を測定する。25℃、pH9.0において1分間に1μmolの基質が反応する酵素量を1U(単位)とする。
【0012】
本発明において、加熱大豆皮の総食物繊維含量は、65質量%以上が好ましい。より好ましくは70質量%以上であり、72質量%以上、75質量%以上であってもよい。また、上限値は、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下、88質量%以下であってもよい。また、加熱大豆皮の水溶性食物繊維含量は、8~15質量%が好ましく、8.5~13質量%がより好ましく、9~12質量%であってもよい。なお、本発明において、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維及び総食物繊維の質量は、プロスキー変法(AOAC公定法991.43)で測定した値である。一般的に、加熱に伴い食物繊維の性質が変化する可能性は知られており、この食物繊維の性質の変化が、生活習慣病の予防又は改善の効果に寄与していると考える。さらに本発明において、加熱大豆皮のたん白含量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下であってもよい。なお、本発明において、たん白質の質量は、窒素燃焼法によって定量した窒素含量に、窒素-たん白質換算係数(6.25)を乗じて算出した値である。加熱大豆皮のたん白質含量がこのような範囲であることが、生活習慣病の予防又は改善の効果に寄与していると考える。
【0013】
本発明において、大豆皮の加熱処理方法には、特に制限はない。例えば、乾熱加熱処理、マイクロ波加熱処理、及び過熱水蒸気処理等が挙げられ、より好ましくは乾熱加熱処理である。乾熱加熱処理とは、加熱工程中に外部から水分や水蒸気を加えずに加熱する処理である。乾熱加熱処理に用いる装置としては、例えば、熱風乾燥機、オーブン、焙煎窯、焙煎機、パドルドライヤー、流動層乾燥機等が挙げられる。また、好ましい加熱処理条件は、120~160℃、15~45分である。加熱温度は、125~155℃、130~150℃としてもよく、加熱時間は、20~40分、25~35分にしてもよい。一方、大豆皮の加熱条件は、加熱後の大豆皮のCIELAB表色系のL値が60~73、及び/又はリポキシゲナーゼ活性が検出限界値未満、及び/又は水溶性食物繊維含量が8~15質量%となる加熱条件としてもよい。加熱後の大豆皮のCIELAB表色系のL値、水溶性食物繊維含量のより好ましい範囲は上述の通りである。
【0014】
生活習慣病とは、一般に、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称のことである。本発明において、加熱大豆皮は、後述する実施例で示す通り、肥満の予防又は改善に効果を有する。したがって、本発明において、特に有効な疾患は、過体重や肥満を一つの原因とする疾患である。このような疾患としては、糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、脳血管疾患等が挙げられる。
【0015】
本発明において、前記生活習慣病の予防又は改善は、具体的には、体重増加抑制、脂肪組織重量増加抑制、及び/又は腸内細菌叢改善である。これらにより、肥満を予防又は改善し、生活習慣病を予防又は改善することができる。後述する実施例に示す通り、前記脂肪組織重量増加抑制は、より具体的には、皮下脂肪組織、精巣周囲脂肪組織、腎臓周囲脂肪組織、及び褐色脂肪組織から選択される1種以上の脂肪組織の重量増加抑制である。また、前記腸内細菌叢改善は、より具体的には、Firmicutes門とBacteroidetes門の存在比(F/B比)の低下、Proteobacteria門の減少、Lactobacillus属の増加及びButyricicoccus属の増加から選択される1種以上の腸内細菌叢の変化である。なお、これらの腸内細菌叢は、過体重や肥満との関係で増減することが報告されている(Ruth E Ley,Peter J Turnbaugh,Microbial ecology:human gut microbes associated with obesity.Nature.2006 Dec 21;444(7122):1022-3.、J Graessler,Y Qin,H Zhong et al.Metagenomic sequencing of the human gut microbiome before and after bariatric surgery in obese patients with type 2 diabetes:correlation with inflammatory and metabolic parameters.The Pharmacogenomics Journal volume 13, p514-522(2013).、Zeng Q,Li D,He Y,Li Y,Yang Z,Zhao X,Liu Y,Wang Y,Sun J,Feng X,Wang F,Chen J,Zheng Y,Yang Y,Sun X,Xu X,Wang D,Kenney T,Jiang Y,Gu H,Li Y,Zhou K,Li S,Dai W.Discrepant gut microbiota markers for the classification of obesity-related metabolic abnormalities.Sci Rep.2019 Sep17;9(1):13424.)。
【0016】
本発明の生活習慣病の予防又は改善剤は、前記加熱大豆皮のみを含んでもよく、前記加熱大豆皮に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。本発明の生活習慣病の予防又は改善剤の加熱大豆皮の含有量は、特に制限されないが、例えば、80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。本発明の生活習慣病の予防又は改善剤は、例えば、賦形剤、結合剤、安定化剤、防腐剤等の各種添加剤を含んでもよい。各種添加剤の配合量は、特に制限されず、適宜設定できる。また、本発明の生活習慣病の予防又は改善剤の形態は、特に制限されないが、例えば、粉状、粒状、タブレット状、塊状、液状、ペースト状等であってよく、用途に応じて適宜選択できる。本発明の生活習慣病予防又は改善剤は、サプリメントとしてそのまま摂取してもよく、後述するような生活習慣病予防又は改善用飲食品若しくは医薬品の製造時に必要な原料と混合して用いてもよく、生活習慣病予防又は改善用飲食品若しくは医薬品に必要な原料の一部又は全部と混合した組成物としてもよい。前記原料は、例えば、穀粉類、澱粉類、加工澱粉類、蛋白素材、油脂類、食物繊維、糖質類、膨張剤、増粘剤、乳化剤、pH調整剤、食塩、甘味料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料等が挙げられ、1種又は2種以上、自由に組み合わせることができる。
【0017】
[生活習慣病の予防又は改善用飲食品若しくは医薬品]
本発明の生活習慣病の予防又は改善用飲食品若しくは医薬品は、本発明の生活習慣病の予防又は改善剤を含む。本発明の生活習慣病の予防又は改善用飲食品の形態としては、例えば、パン、ケーキ、ビスケット等の小麦粉製品;ハンバーグ、肉団子、つくね、ソーセージ、そぼろ、肉みそ、ミートソース、麻婆豆腐、餃子等の畜肉加工食品;ツナフレーク、鮭フレーク等の魚肉加工食品;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハッシュドビーフ、パスタソース、トマトソース、デミグラスソース、ホワイトソース等のソース状食品;ミネストローネ、コーンポタージュスープ、中華風スープ、味噌汁等のスープ類;豆乳等の飲料;乳製品、調味料、カプセル状食品、粉末状食品等の形態が挙げられる。本発明の生活習慣病の予防又は改善用飲食品に含まれるその他の材料としては、本発明の効果を阻害しない限り特に制限はなく、飲食品の種類に応じて適宜選択して配合することができる。また、本発明の生活習慣病の予防又は改善用医薬品は、本発明の生活習慣病の予防又は改善剤のみで構成されていてもよく、その他の材料を含んでいてもよい。その形態としては、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤等、適宜設定することができる。本発明の生活習慣病の予防又は改善用飲食品に含まれるその他の材料としては、本発明の効果を阻害しない限り特に制限はなく、通常、医薬品に使用される各種の賦形剤、塩類、滑沢剤、糖類、香料等を適宜選択して配合することができる。
【実施例0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.試験試料
大豆油製造時における脱皮工程で得られた大豆皮(自社調製品)を、回転式焙煎機ロータリーシェフRCD-1T(クマノ厨房工業株式会社)に投入し、140℃で30分間焙煎処理した後、超遠心粉砕機ZM200(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社)で目開き0.25mmのスクリーンを用いて粉砕し、試験試料とした。原料に用いた大豆皮と加熱大豆皮のCIELAB表色系のL値、リポキシゲナーゼ活性、総食物繊維含量、水溶性食物繊維含量、不溶性食物繊維含量、及びたん白質含量を、表1に示す。なお、CIELAB表色系のL値は、分光測色計CM-5(コニカミノルタ株式会社)を用いて測定し、その際、原料に用いた大豆皮は、超遠心粉砕機ZM200(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社)で目開き0.25mmのスクリーンを用いて粉砕したものを用いた。
【0019】
【表1】
【0020】
2.動物試験
加熱大豆皮の摂取が、高脂肪食誘導性肥満マウスの体重増加、脂肪組織重量、及び腸内細菌叢に及ぼす影響を調べた。
(1)飼育方法
7週齢の雄性C57BL/6Jマウス(日本エスエルシー株式会社)を24匹購入し、12時間の明暗サイクル、室温22℃±2℃、湿度50%の条件下で、1匹ずつプラスチック製の小ゲージに分けて飼育を行った。環境馴致のため、マウスに1週間CE-2固形飼料(日本クレア株式会社)を与え、予備飼育を行った。その後、マウスの体重の平均値及び標準誤差が群間で等しくなるように、AIN-93G標準食を給餌するStandard(ST)群(n=8)、AIN-93G標準食を基本とし、飼料中の脂質が40%(w/w)となるようにβ-コーンスターチをラードと置換した高脂肪食(High Fat Diet:HFD)を給餌するHFD群(n=8)、高脂肪食に重量比で10%となるように加熱大豆皮を添加した餌を給餌するHDF+10%加熱大豆皮群(n=8)の3群に群分けし、10週間の本飼育を行った。各群の飼料組成を表2に示す。なお、高脂肪食をベースとした各群の餌は窒素含量、食物繊維量、脂質含量が等しくなるように調整した。本飼育期間中は、各群の摂食量を合わせるためにペアフェッドを施し、県水は自由摂取させた。2日毎に飼料交換・飼料摂取量測定を行い、7日毎に体重測定を行った。飼育10週目に糞を採取し、16時間の絶食後、麻酔下において解剖を行い、組織重量を測定した。
【0021】
【表2】
【0022】
(2)体重増加量
10週間の飼育後の各群の体重を測定し、体重増加量を算出した結果を表3に示す。表3に示した通り、高脂肪食を摂取したHFD群は、標準食を摂取したST群と比較して体重増加量が大きく増加した。これに対し、高脂肪食に10%加熱大豆皮を添加したHFD+10%加熱大豆皮群では、HFD群と比較して体重増加量が大きく低下した。
(3)脂肪組織重量
解剖時に測定した組織重量の内、脂肪組織重量を表3に示す。表3に示した通り、高脂肪食を摂取したHFD群は、標準食を摂取したST群と比較して、白色脂肪組織重量が大きく増加した。これに対し、高脂肪食に10%加熱大豆皮を添加したHFD+10%加熱大豆皮群では、HFD群と比較して、皮下脂肪組織、精巣周囲脂肪組織、腎臓周囲脂肪組織、褐色脂肪組織重量が減少した。
【0023】
【表3】
【0024】
(4)腸内細菌叢の解析
飼育10週目に採取した糞より採取したDNAを用いて、16SrRNA解析を行った。具体的には、各試料の16SrRNA領域を増幅したPCR産物を対象に大量に配列解析を行い、16SrRNAデータベースに対する相同性検索及び系統分類解析することによって腸内細菌叢を解析した。門レベルの存在比を図1に、属レベルの存在比を図2に、種レベルの存在比を図3に示す。門レベルの解析では、図1(a)に示した通り、高脂肪食を摂取したHFD群は、標準食を摂取したST群と比べて門レベルの組成が変化したが、HFD+10%加熱大豆皮群では、HFD群と比べてBacteroidetes門の増加、Proteobacteria門の減少が見られ、ST群と似た傾向を示した。特に、図1(b)に示した通り、高脂肪食摂取で増加することが報告されているProteobacteria門は、HFD群と比較してHFD+10%加熱大豆皮群で有意に減少した。また、Firmicutes門とBacteroidetes門の存在比(F/B比)は、高脂肪食摂取では、Firmicutes門の増加とBacteroidetes門の減少に伴い高い値を示すことが報告されているが、図1(c)に示した通り、高いF/B比を示すHFD群と比較してHFD+10%加熱大豆皮群では低下する傾向が認められた。
【0025】
属レベルの解析では、図2(a)、図2(b)に示した通り、Prevotella属、及びButyricicoccus属が、HFD群と比較して、HFD+10%加熱大豆皮群で有意に増加した。また、図2(c)、図2(d)に示した通り、Anaerotruncus属、Dorea属は、HFD群と比較して、HFD+10%加熱大豆皮群で有意に減少した。なお、Anaerotruncus属は、高脂肪食で増加することが報告されており(Maria Bailen,Carlo Bressa et al.Microbiota Features Associated With a High Fat/Low Fiber Diet in Healthy Adults.Front Nutr.2020 Dec 18;7:583608.、Cheng Kong,Renyuan Gao,Xuebing Yan,Linsheng Huang,Huanlong Qin,Probiotics improve gut microbiota dysbiosis in obese mice fed a high fat or high sucrose diet,Nutrition,Volume 60,2019, Pages 175-184.)、Dorea属は過体重、肥満者に多いことが報告されている(Francesca Galle,Federica Valeriani et al.Mediterranean Diet,Physical Activity and Gut Microbiome Composition:A Cross Sectional Study among Healthy Young Italian Adults.Nutrients.2020 Jul;12(7):2164.)。また、図2(e)に示した通り、Lactobacillus属は、HFD群と比較して、HFD+10%加熱大豆皮群で増加する傾向が認められた。
【0026】
種レベルの解析では、図3に示した通り、HFD群と比較して、HFD+10%加熱大豆皮群で、Butyricicoccus pullicaecorumが有意に増加した。なお、Butyricicoccus pullicaecorumは、酪酸産生が報告されている(Venessa Eeckhaut,Filip Van Immerseel et al.Butyrate production in phylogenetically diverse Firmicutes isolated from the chicken caecum.Microb Biotechnol.2011 Jul;4(4):503-12.)。
【0027】
以上の試験結果により、高脂肪食を摂取したHFD群と比較し、HFD+10%加熱大豆皮群は、高脂肪食誘導性肥満マウスの各脂肪組織における脂肪蓄積を抑えることで、体重増加を抑制し、抗肥満作用を呈することが示された。また、腸内細菌叢解析において、標準食を摂取したST群、高脂肪食を摂取したHFD群、及びHFD+10%加熱大豆皮群間で、腸内細菌叢の組成が門レベル、属レベル、種レベルで変化し、HFD群と比較すると、HFD+10%加熱大豆皮群ではST群と似たレベルまで回復した菌も認められ、加熱大豆皮の摂取が、腸内細菌叢のバランスを整えるプレバイオティクス作用を呈し、腸内細菌叢が改善したことが示唆された。したがって、加熱大豆皮の摂取により、体重増加抑制、脂肪組織重量増加抑制、及び/又は腸内細菌叢改善の効果が得られ、すなわち生活習慣病予防又は改善を図ることができることが示唆された。
【0028】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、大豆製品の副産物である大豆皮を活用した加熱大豆皮を用いて、生活習慣病の予防又は改善剤、及び生活習慣病の予防又は改善用飲食品を提供することができる。

図1
図2(a-c)】
図2(d-e)】
図3