(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118120
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】活性炭製造用組成物、その製造方法、活性炭製造用成形体、その製造方法、活性炭素繊維製造用繊維、その製造方法、活性炭前駆体、活性炭素繊維前駆体、炭化物、炭素繊維、活性炭、その製造方法、活性炭素繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 97/00 20060101AFI20230817BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20230817BHJP
C01B 32/318 20170101ALI20230817BHJP
D01F 9/17 20060101ALI20230817BHJP
D01F 9/16 20060101ALI20230817BHJP
D01F 9/24 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C08L97/00
C08L61/06
C01B32/318
D01F9/17
D01F9/16 521
D01F9/24 551
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020122
(22)【出願日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2022020649
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山下 修平
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓人
(72)【発明者】
【氏名】遠井 宏幸
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
4L037
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA06
4G146AB06
4G146AC04B
4G146AC09B
4G146AC10B
4G146AC21B
4G146AC23B
4G146AD11
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4G146BA18
4G146BA32
4G146BB02
4G146BB04
4G146BB06
4G146BB11
4G146BC23
4G146BC33B
4G146BD02
4G146CA08
4J002AH00W
4J002CC03X
4J002CC04X
4J002GK00
4J002GT00
4L037AT11
4L037CS06
4L037FA01
4L037PA31
4L037PC05
4L037PC09
4L037PC10
(57)【要約】
【課題】炭化及び賦活により高比表面積で高メソ孔容積の活性炭が得られ、成形性にも優れる活性炭製造用組成物を提供する。
【解決手段】100~175℃の軟化点を有するリグニンと、フェノール樹脂とを含む活性炭製造用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100~175℃の軟化点を有するリグニンと、フェノール樹脂とを含む活性炭製造用組成物。
【請求項2】
前記リグニンの灰分量が0.1~2.0質量%である請求項1に記載の活性炭製造用組成物。
【請求項3】
前記フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂である請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物。
【請求項4】
前記リグニンと前記フェノール樹脂との合計質量に対する前記リグニンの割合が、5~90質量%である請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物の製造方法であって、
前記リグニンと前記フェノール樹脂とを、160~200℃で溶融混合する活性炭製造用組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物からなる活性炭製造用成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の活性炭製造用成形体の製造方法であって、
前記リグニンと前記フェノール樹脂とを、160~200℃で溶融混合し、得られた混合物を成形する活性炭製造用成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物からなる活性炭素繊維製造用繊維。
【請求項9】
請求項8に記載の活性炭素繊維製造用繊維の製造方法であって、
前記リグニンと前記フェノール樹脂とを、160~200℃で溶融紡糸する活性炭素繊維製造用繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物の硬化物からなる活性炭前駆体。
【請求項11】
成形体である請求項10に記載の活性炭前駆体。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物の硬化物からなる活性炭素繊維前駆体。
【請求項13】
請求項10に記載の活性炭前駆体が炭化された炭化物。
【請求項14】
請求項12に記載の活性炭素繊維前駆体が炭化された炭素繊維。
【請求項15】
請求項13に記載の炭化物が賦活された活性炭。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の活性炭製造用組成物を硬化し、得られた硬化物を炭化し、得られた炭化物を賦活する活性炭の製造方法。
【請求項17】
請求項6に記載の活性炭製造用成形体を硬化し、得られた硬化物を炭化し、得られた炭化物を賦活する活性炭の製造方法。
【請求項18】
請求項14に記載の炭素繊維が賦活された活性炭素繊維。
【請求項19】
請求項8に記載の活性炭素繊維製造用繊維を硬化し、得られた硬化物を炭化し、得られた炭素繊維を賦活する活性炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭製造用組成物、その製造方法、活性炭製造用成形体、その製造方法、活性炭素繊維製造用繊維、その製造方法、活性炭前駆体、活性炭素繊維前駆体、炭化物、炭素繊維、活性炭、その製造方法、活性炭素繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、多数の細孔が形成された比表面積の大きな物質であり、そのような特性を利用して、吸着材、電気二重層キャパシタ用電極等に好適に利用されている。活性炭は通常、活性炭前駆体を炭化、賦活する方法で製造される。賦活は、活性炭の細孔を形成するための処理であり、通常、高温条件下で特定のガスや薬品と反応させる方法で行われる。賦活は活性化と呼ばれることもある。
従来、活性炭前駆体としては、粉末状の活性炭の場合には、主にヤシ殻、鋸屑、木分、石炭ピッチ、石油ピッチ等が使用され、繊維状の活性炭、いわゆる活性炭素繊維の場合には、主にピッチ系繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂系繊維、レーヨン繊維等が使用されている。
【0003】
また、リグニンを活性炭前駆体に用いることも検討されている。
特許文献1には、親水性基を有するリグニンを調製し、該リグニンから前駆体繊維を形成し、該前駆体繊維を酸処理により不融化し、炭化して炭素繊維を形成し、該炭素繊維を賦活する方法が開示されている。
特許文献2には、リグニン-ポバール系炭素繊維等の炭素繊維に対して水添化活性を有する金属元素を分散させ、金属元素が分散された炭素繊維を還元性雰囲気中で熱処理する方法が開示されている。
特許文献3には、木質系バイオマスを原料としたバイオエタノールの製造工程に由来するリグニンを含む木質残渣のペレットを炭化し、特定の雰囲気下で加熱して賦活する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-147768号公報
【特許文献2】特開平11-269763号公報
【特許文献3】特開2010-207693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~3に記載の方法により得られる活性炭はいずれも、メソ孔容積が充分ではないために性能が劣る。例えば、特許文献1の方法で得られる活性炭素繊維は、全細孔容積の75%以上をミクロ孔容積が占めており、サイズの大きい分子の吸着能は充分でない。
また、特許文献2の方法は、重金属元素を必要とするので、得られる活性炭素繊維に重金属元素が残存する。このような活性炭素繊維は、用途によっては使用できない。
また、特許文献3の方法は、前駆体である木質残渣が溶融しないので成形性に劣り、ペレット以外の形状、例えば繊維状に成形することは難しい。他の形状に成形できたとしても、前駆体の強度や靭性に劣り、炭化、賦活の際にその形状が損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明は、炭化及び賦活により高比表面積で高メソ孔容積の活性炭が得られ、成形性にも優れる活性炭製造用組成物及びその製造方法、並びに該活性炭製造用組成物を用いた活性炭製造用成形体、その製造方法、活性炭素繊維製造用繊維、その製造方法、活性炭前駆体、その炭化物、活性炭素繊維前駆体、炭素繊維、活性炭、その製造方法、活性炭素繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]100~175℃の軟化点を有するリグニンと、フェノール樹脂とを含む活性炭製造用組成物。
[2]前記リグニンの灰分量が0.1~2.0質量%である前記[1]の活性炭製造用組成物。
[3]前記フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂である前記[1]又は[2]の活性炭製造用組成物。
[4]前記リグニンと前記フェノール樹脂との合計質量に対する前記リグニンの割合が、5~90質量%である前記[1]~[3]のいずれかの活性炭製造用組成物。
[5]前記[1]~[4]のいずれかの活性炭製造用組成物の製造方法であって、
前記リグニンと前記フェノール樹脂とを、160~200℃で溶融混合する活性炭製造用組成物の製造方法。
[6]前記[1]~[4]のいずれかの活性炭製造用組成物からなる活性炭製造用成形体。
[7]前記[6]の活性炭製造用成形体の製造方法であって、
前記リグニンと前記フェノール樹脂とを、160~200℃で溶融混合し、得られた混合物を成形する活性炭製造用成形体の製造方法。
[8]前記[1]~[4]のいずれかの活性炭製造用組成物からなる活性炭素繊維製造用繊維。
[9]前記[8]の活性炭素繊維製造用繊維の製造方法であって、
前記リグニンと前記フェノール樹脂とを、160~200℃で溶融紡糸する活性炭素繊維製造用繊維の製造方法。
[10]前記[1]~[4]のいずれかの活性炭製造用組成物の硬化物からなる活性炭前駆体。
[11]成形体である前記[10]の活性炭前駆体。
[12]前記[1]~[4]のいずれかの活性炭製造用組成物の硬化物からなる活性炭素繊維前駆体。
[13]前記[10]又は[11]の活性炭前駆体が炭化された炭化物。
[14]前記[12]の活性炭素繊維前駆体が炭化された炭素繊維。
[15]前記[13]の炭化物が賦活された活性炭。
[16]前記[1]~[4]のいずれかの活性炭製造用組成物を硬化し、得られた硬化物を炭化し、得られた炭化物を賦活する活性炭の製造方法。
[17]前記[6]の活性炭製造用成形体を硬化し、得られた硬化物を炭化し、得られた炭化物を賦活する活性炭の製造方法。
[18]前記[14]の炭素繊維が賦活された活性炭素繊維。
[19]前記[8]の活性炭素繊維製造用繊維を硬化し、得られた硬化物を炭化し、得られた炭素繊維を賦活する活性炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭化及び賦活により高比表面積で高メソ孔容積の活性炭が得られ、成形性にも優れる活性炭製造用組成物及びその製造方法、並びに該活性炭製造用組成物を用いた活性炭製造用成形体、その製造方法、活性炭素繊維製造用繊維、その製造方法、活性炭前駆体、その炭化物、活性炭素繊維前駆体、炭素繊維、活性炭、その製造方法、活性炭素繊維及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】リグニン繊維Aのリグニン配合率に対する強度及び伸度の変化を示すグラフ。
【
図2】リグニン繊維Bのリグニン配合率に対する強度及び伸度の変化を示すグラフ。
【
図3】リグニン活性炭素繊維Aのリグニン配合率に対する原料収率とメソ孔容積の変化を示すグラフ。
【
図4】リグニン活性炭素繊維Aのリグニン配合率に対する原料収率及び比表面積の変化を示すグラフ。
【
図5】リグニン活性炭素繊維Bのリグニン配合率に対する原料収率及びメソ孔容積の変化を示すグラフ。
【
図6】リグニン活性炭素繊維Bのリグニン配合率に対する原料収率及び比表面積の変化を示すグラフ。
【
図10】リグニン活性炭A及びリグニン活性炭Bの細孔分布。
【
図11】リグニン活性炭素繊維A(リグニン配合率50質量%)の賦活時間に対する原料収率及びメソ孔容積の変化を示すグラフ。
【
図12】リグニン活性炭素繊維A(リグニン配合率50質量%)の賦活時間に対する原料収率及び比表面積の変化を示すグラフ。
【
図13】リグニン活性炭素繊維A(リグニン配合率50質量%)の賦活時間による細孔分布の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔活性炭製造用組成物〕
本発明の一実施形態に係る活性炭製造用組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、100~175℃の軟化点を有するリグニンと、フェノール樹脂とを含む。
【0011】
リグニンは、p-ヒドロキシケイ皮アルコール類である3種のリグニンモノマーが重合したポリマーであり、下記式(1)で表される基本骨格を有する。
【0012】
【0013】
上記式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメトキシ基を示す。X1は炭素原子に結合していることを示し、X2は水素原子又は炭素原子に結合していることを示す。
R1及びR2の両方が水素原子のものはp-ヒドロキシフェニル核(H型骨格)、R1及びR2のいずれか一方が水素原子のものはグアイアシル核(G型骨格)、R1及びR2の両方が水素原子でないものはシリンギル核(S型骨格)と称される。
【0014】
本組成物に用いられるリグニンは、100~175℃の軟化点を有する。リグニンの軟化点が100℃以上であれば、本組成物は十分な溶融粘度を有し、曳糸性が高くなる。リグニンの軟化点が175℃以下であれば、リグニンが熱分解する前に充分にリグニンが軟化し、溶融混合が行える。そのため、本組成物の成形性、活性炭製造時の原料収率に優れる。リグニンの軟化点は、120~175℃、さらには135~175℃であってよい。曳糸性、成形性、原料収率の点では、リグニンの軟化点は100~145℃がより好ましく、120~145℃がさらに好ましく、135~145℃であってもよい。
軟化点は、以下の手順で求められる。
リグニンの試料を乳鉢で粉砕し、砕いた試料をアルミ製カップ(円形上部φ60、下部φ53×深さ15mm)に10~20mgに入れる。試料を入れたアルミ製カップをホットプレート(IKA C-MAG HP7)に置き、アルミ箔で蓋をし、100℃まで加熱後、10℃刻みに温度を上げ、目視観察を行い、目視により試料が溶解した温度を軟化点とする。
【0015】
リグニンは、典型的には、灰分を含む。灰分としては、F、Cl、Br、S、Na、K、Ca、Mg、Al、Si、P、Fe、Mn、Ti、Zn、Ba、Cr、Cu、V等が挙げられる。
リグニンの灰分量は、リグニンの総質量に対し、0.1~2.0質量%が好ましく、0.5~0.6質量%がより好ましい。リグニンの灰分量が上記上限値以下であれば、本組成物の炭化及び賦活を良好に実施できる。
リグニンの灰分量は、熱重量・示差熱同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、TG/DTA6300)にて、Ptパンに約10mgのサンプルを秤量し、昇温速度10℃/分、測定雰囲気:空気200mL/分、温度35℃~800℃まで測定し、残存した成分の質量割合により求められる。
【0016】
リグニンは、市販のリグニンを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。100~175℃の軟化点を有するリグニンは、例えば、国際公開第2019/031609号に記載の方法に準じて製造できる。
リグニンの軟化点は、リグニンの分子量等によって調整できる。例えば、リグニンの分子量が低くなるほど、軟化点が低くなる傾向がある。
【0017】
フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、各種の変性フェノール樹脂、及びこれらの混合物等が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂は、酸性触媒の存在下でフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られたフェノール樹脂である。レゾール型フェノール樹脂は、塩基性触媒の存在下でフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られたフェノール樹脂である。変性フェノール樹脂としては、ノボラック型又はレゾール型フェノール樹脂を、ホウ素変性、ケイ素変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等の公知の技法により変性させたものが挙げられる。
【0018】
フェノール類としては、酸性又は塩基性触媒の存在下でアルデヒド類と反応させて各フェノール樹脂が得られるものであればよく、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、3,5-キシレノール、m-エチルフェノール、m-プロピルフェノール、m-ブチルフェノール、p-ブチルフェノール、o-ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2-メチルレゾルシノール、2,3-ジメチルハイドロキノン、2,5-ジメチルレゾルシノール、2-エトキシフェノール、4-エトキシフェノール、4-エチルレゾルシノール、3-エトキシ-4-メトキシフェノール、2-プロペニルフェノール、2-イソプロピルフェノール、3-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、3,4,5-トリメチルフェノール、2-イソプロポキシフェノール、4-ピロポキシフェノール、2-アリルフェノール、3,4,5-トリメトキシフェノール、4-イソプロピル-3-メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4-ベンゼントリオール、5-イソプロピル-3-メチルフェノール、4-ブトキシフェノール、4-t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、4-t-ペンチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール、3-フェノキシフェノール、4-フェノキシフェノール、4-へキシルオキシフェノール、4-ヘキサノイルレゾルシノール、3,5-ジイソプロピルカテコール、4-ヘキシルレゾルシノール、4-ヘプチルオキシフェノール、3,5-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、ジ-sec-ブチルフェノール、4-クミルフェノール、ノニルフェノール、2-シクロペンチルフェノール、4-シクロペンチルフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。
なかでも、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、ビスフェノールA、2,3-キシレノール、3,5-キシレノール、m-ブチルフェノール、p-ブチルフェノール、o-ブチルフェノール、4-フェニルフェノール、レゾルシノールが好ましく、フェノールが最も好ましい。前記フェノール類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0019】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α-フェニルプロピルアルデヒド、β-フェニルプロピルアルデヒド、o-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、o-クロロベンズアルデヒド、o-ニトロベンズアルデヒド、m-ニトロベンズアルデヒド、p-ニトロベンズアルデヒド、o-メチルベンズアルデヒド、m-メチルベンズアルデヒド、p-メチルベンズアルデヒド、p-エチルベンズアルデヒド、p-n-ブチルベンズアルデヒド等が挙げられる。
なかでも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが特に好ましい。前記アルデヒド類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0020】
酸性触媒としては、塩酸、シュウ酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p-トルエンスルフォン酸、硼酸、又は塩化亜鉛もしくは酢酸亜鉛などの金属との塩等が挙げられる。
中でも、メソ孔の比率が高い活性炭を得やすいことから、塩酸またはシュウ酸を触媒として使用することが好ましく、塩酸が特に好ましい。
酸性触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
酸性触媒は、フェノール類100質量%に対し、0.05~3.00質量%使用することが好ましく、0.05~1.00質量%使用することがより好ましい。
酸性触媒を用いた反応を終了させる際に中和する場合、中和液としては、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水、酢酸亜鉛、水酸化カリウム等を使用できる。
【0021】
塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類等が挙げられる。
中でも固形のレゾール型フェノール樹脂を得やすいことから、アミン類が好ましく、アンモニア、ジエチルアミンから選択されるアミン類が特に好ましい。
塩基性触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
塩基性触媒は、フェノール類100質量%に対し、0.5~3.0質量%使用することが好ましく、0.8~2.0質量%使用することがより好ましい。
【0022】
フェノール樹脂としては、上記のなかでも、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂が好ましく、形態が固体であると、リグニンや後述する添加剤を均一に分散させやすいことから、ノボラック型フェノール樹脂及び固形のレゾール型フェノール樹脂がより好ましく、ノボラック型フェノール樹脂が特に好ましい。
ノボラック型フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂に比べて熱安定性に優れ、溶融時の加熱で意図しない重合が進みにくい。そのため、繊維状等、各種の形状への成形を安定して行うことができる。
ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、1000~10000が好ましく、2000~9000がより好ましく、3000~8000がさらに好ましい。重量平均分子量が前記範囲内であれば、曳糸性がより優れる。
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定されるポリスチレン換算値である。
【0023】
本組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の成分をさらに含んでいてもよい。
他の成分としては、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール、脂肪酸ヒドラジド、脂肪酸エステルのポリオキシエチレン誘導体、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0024】
本組成物中、リグニンとフェノール樹脂との合計質量に対するリグニンの割合(以下、「リグニン配合率」とも記す。)は、5~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、40~60質量%がさらに好ましい。リグニン配合率が前記下限値以上であれば、活性炭のメソ孔容積が向上する傾向があり、前記上限値以下であれば、本組成物の成形性、本組成物の硬化物の強度や伸度、活性炭の比表面積が向上する傾向がある。
【0025】
本組成物中、リグニンとフェノール樹脂との合計の含有量は、本組成物の総質量に対し、87質量%以上が好ましく、93質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0026】
本組成物は、例えば、前記したリグニンとフェノール樹脂とを、160~200℃溶融混合することによって得られる。このとき、必要に応じて、他の成分を混合してもよい。
【0027】
リグニンとフェノール樹脂とを溶融混合する際の温度(溶融混合温度)は、160~200℃であり、175~185℃が好ましい。溶融混合温度が160℃以上であれば、リグニンが充分に軟化し、リグニンとフェノール樹脂とを容易に混合できる。溶融混合温度が200℃以下であれば、リグニンの熱分解を抑制しやすい。
【0028】
リグニンとフェノール樹脂とを溶融混合する時間(溶融混合時間)は、30~120分間が好ましく、60~90分間がより好ましい。溶融混合時間が前記下限値以上であれば、両者をより均一に混合することができ、前記上限値以下であれば、リグニンの熱分解を抑制しやすい。
【0029】
溶融混合は、公知の溶融混合装置を用いて実施できる。溶融混合装置としては、押出機型混練機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、高速二軸連続ミキサー等が挙げられる。
【0030】
〔活性炭製造用成形体〕
本発明の一実施形態に係る活性炭製造用成形体(以下、「本成形体」とも記す。)は、前記した本組成物からなる成形体である。
成形体の形状としては、繊維状、板状、粒状、膜状等が挙げられる。これらの中でも、高比表面積、通気性、通液性、柔軟性、クロスやフェルトへの二次成形性の点で、繊維状が好ましい。
本成形体が繊維である場合、本成形体は、例えば、活性炭素繊維製造用繊維として用いられる。
【0031】
繊維の繊度は、1~10デニールが好ましく、2~6デニールがより好ましい。繊度が前記上限値以下であれば、繊維を硬化したときに硬化不良が生じにくく、硬化物の強度や伸度がより優れる。
【0032】
本成形体は、例えば、前記したリグニンとフェノール樹脂とを、160~200℃で溶融混合し、得られた混合物(本組成物)を成形することによって得られる。
【0033】
リグニンとフェノール樹脂とを溶融混合する際の好ましい温度や時間は前記と同様である。このとき、必要に応じて、他の成分を混合してもよい。
【0034】
成形方法は、成形体の形状に応じて公知の成形方法を適用できる。
例えば繊維状に成形する場合、湿式紡糸、乾式紡糸、乾・湿式紡糸、溶融紡糸、ゲル紡糸、液晶紡糸等の公知の方法を適宜選択することができる。なかでも、装置の簡便さ、経済的に有利なことから、溶融紡糸が好ましい。
【0035】
紡糸の方法として溶融紡糸を用いる場合、一般的な溶融紡糸装置が使用できる。溶融紡糸装置の溶解装置としては、グリッドメルター式、単軸押出し機方式、二軸押出し機方式、タンデム押出し機方式等を使用できる。
なお、溶融した本組成物の酸化を防止するために、溶融紡糸装置内の窒素置換を行ってもよく、又はベントを具備した押出し機を使用して、微量の残留溶媒もしくはモノマー類を除去する操作を行ってもよい。
【0036】
溶融紡糸の際、温度条件は、160~200℃が好ましく、175~185℃がより好ましい。温度条件を好ましい下限値以上とすることで、リグニンが充分に軟化し、効率良く紡糸することができる。温度条件を好ましい上限値以下とすることで、リグニンの熱分解を抑制しやすい。
【0037】
紡糸口金としては、通常のものが使用可能であり、孔径は0.05mm以上1mm未満が好ましく、0.1mm以上0.5mm未満がより好ましく、キャピラー部の(長さL/直径D)は0.5以上10未満が好ましく、1~5がより好ましい。孔径とL/Dをそれぞれ前記の好ましい範囲とすることで、安定して紡糸することができる。
特別な繊維の製造方法の場合(たとえば並列型複合繊維、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維の場合など)には、サイドバイサイド型もしくはシースコア型、又は第三成分のポリマーを組み合わせるコンジュゲート口金を使用することもできる。
【0038】
紡糸速度は、15m/分以上、3000m/分未満が好ましく、30m/分以上、2000m/分未満がより好ましく、50m/分以上、1600m/分未満がさらに好ましい。紡糸速度を好ましい下限値以上とすることで、効率良く紡糸できる。紡糸速度を好ましい上限値未満とすることで、紡糸時の糸切れの発生を抑制できる。
【0039】
板状に成形する場合は、例えば、金型を用いて成型すればよい。
粒状に成形する場合は、例えば、造粒機を用いて造粒すればよい。
膜状に成形する場合は、例えば、成膜装置を用いて成膜すればよい。
【0040】
成形工程で、混合物を成形する方法が溶融成形法(溶融紡糸等)である場合、溶融混合工程と成形工程を連続的に行ってもよく、溶融混合工程と成形工程との間に、溶融混合工程で得られた溶融状態の混合物を冷却する工程を有していてもよい。
【0041】
〔活性炭前駆体〕
本発明の一実施形態に係る活性炭前駆体(以下、「本前駆体」とも記す。)は、前記した本組成物の硬化物からなる。
本前駆体は、成形体であることが好ましい。本組成物は成形性に優れるので、本前駆体が成形体である場合に本発明の有用性が高い。
成形体の形状としては、前記と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。すなわち、本前駆体は活性炭素繊維前駆体であることが好ましい。
【0042】
本前駆体は、成形した本組成物(本成形体)又は成形していない本組成物を硬化することによって得られる。
フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であり、本成形体を硬化させる場合は、本成形体に、触媒及び必要に応じてアルデヒド類を含む水性の処理液を接触させることによって硬化できる。
フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であり、成形していない本組成物を硬化させる場合は、本組成物に、触媒及び必要に応じてアルデヒド類を混練することによって硬化できる。
【0043】
触媒としては、水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類、及びこれらの混合物等の塩基性触媒;塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p-トルエンスルフォン酸、硼酸、塩化亜鉛もしくは酢酸亜鉛等の金属との塩、及びこれらの混合物等の酸性触媒等が挙げられる。触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であり、本成形体を硬化させる場合は、触媒として酸性触媒を使用することが好ましい。
フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂であり、成形していない本組成物を硬化させる場合、触媒としては、ヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0044】
処理液が酸性触媒を含む場合、処理液の酸性触媒濃度は、処理液の総質量に対し、16.5~19.0質量%が好ましく、17.5~18.0質量%がより好ましい。酸性触媒濃度が前記範囲内であれば、硬化物の伸度が良好である。
【0045】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α-フェニルプロピルアルデヒド、β-フェニルプロピルアルデヒド、o-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、o-クロロベンズアルデヒド、o-ニトロベンズアルデヒド、m-ニトロベンズアルデヒド、p-ニトロベンズアルデヒド、o-メチルベンズアルデヒド、m-メチルベンズアルデヒド、p-メチルベンズアルデヒド、p-エチルベンズアルデヒド、p-n-ブチルベンズアルデヒド等が挙げられる。
なかでも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドがより好ましい。アルデヒド類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
触媒としてヘキサメチレンテトラミンを使用する場合、アルデヒド類は不要である。
【0046】
処理液を用いる場合、硬化は、処理液内にて、60℃以上110℃未満の温度で3時間以上30時間未満、加熱して行うことが好ましい。
硬化は、処理液に接触させた後、又は触媒と必要に応じてアルデヒド類を混練した後に、気相下で加熱することにより硬化してもよい。
また、処理液内で加熱硬化させた後、水洗乾燥し、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の不活性ガス中、100~300℃の温度で加熱することによりさらに硬化させてもよい。
その他、公知の硬化処理を行うことができる。
【0047】
処理液に接触させる具体的な方法に特に限定はないが、繊維状の硬化物(活性炭素繊維前駆体)を得る方法としては、ステープル状又はトウ状に成形した本組成物を反応容器内の処理液に浸漬させてバッチ式で硬化処理する方法、ボビン状又はかせ状に成形した本組成物を処理液と接触させて硬化処理する方法、トウ状に成形した本組成物を連続的に処理液と接触させて硬化処理する方法等が挙げられる。
【0048】
一方、フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂である場合、湿熱法又は乾熱法で加熱処理を行うことにより硬化物を得ることができる。
加熱処理温度は100~220℃が好ましく、120~180℃がより好ましく、加熱処理時間は5~120分間が好ましく、20~60分間がより好ましい。
【0049】
〔炭化物〕
本発明の一実施形態に係る炭化物(以下、「本炭化物」とも記す。)は、本前駆体が炭化されたものである。
本炭化物の形状は、本前駆体と同様である。例えば、本前駆体が繊維状(活性炭素繊維前駆体)である場合、本炭化物も繊維状である。繊維状の炭化物は炭素繊維ともいう。
【0050】
炭化は、不活性ガス存在下で加熱する従来公知の方法を用いることができる。
炭化に使用する不活性ガスとしては、酸素を実質的に含まないガス、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、一酸化炭素、二酸化炭素等が挙げられる。
炭化時の温度は480~1200℃が好ましく、520~1000℃がより好ましく、600~900℃がさらに好ましい。
炭化は、多段炉、ロータリーキルン炉、流動層炉等を用いて行うことができる。
本炭化物は、賦活されて活性炭とされる。
【0051】
〔活性炭〕
本発明の一実施形態に係る活性炭(以下、「本活性炭」とも記す。)は、本炭化物が賦活されたものである。換言すれば、本前駆体が炭化及び賦活されたものである。
本活性炭の形状は、本炭化物と同様である。例えば、本炭化物が繊維状(炭素繊維)である場合、本活性炭も繊維状である。繊維状の活性炭は活性炭素繊維ともいう。
【0052】
本活性炭は、メソ孔を有する。メソ孔は、直径2~50nmの細孔である。
本活性炭は、メソ孔に加えて、直径2nmに満たないミクロ孔や、直径50nmを超えるマクロ孔を有していてもよい。
【0053】
本活性炭の比表面積は、1400~2400m2/gが好ましく、1600~2400m2/gがより好ましく、1800~2400m2/gがさらに好ましい。比表面積が前記下限値以上であれば、吸着性能、静電容量が向上する傾向がある。比表面積が前記上限値以下であれば、メソ孔容積が向上する傾向がある。
ここで、比表面積は、BET法により求められる値(BET比表面積)である。
【0054】
本活性炭のメソ孔容積は、0.1~2.6cm3/gが好ましく、0.5~2.6cm3/gがより好ましく、1.9~2.6cm3/gがさらに好ましい。メソ孔容積が前記下限値以上であれば、吸着性能が向上する傾向がある。メソ孔容積が前記上限値以下であれば、比表面積、製造時の収率が向上する傾向がある。
ここで、メソ孔容積は、BJH法により求められる値である。
【0055】
本活性炭は、前記した炭化物を賦活することによって得られる。
賦活は、ガス賦活法、薬剤賦活法等の従来公知の賦活方法を用いることができる。
【0056】
ガス賦活法では、賦活ガスを炭化物に接触させて賦活する。
賦活ガスとしては、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素又はこれらを混合したものからなるガスが挙げられる。
【0057】
薬剤賦活法では、薬剤を炭化物に接触させて賦活する。
薬剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;ホウ酸、リン酸、硫酸、塩酸等の無機酸類;又は塩化亜鉛等の無機塩類等が挙げられる。
薬剤賦活法の場合、賦活の後、生成物や用いた薬品を、酸又はアルカリで中和してもよいし、水洗等により除去してもよい。
【0058】
上記賦活方法のなかでも、設備の簡便性、賦活後に特別な処理を要しない点で、ガス賦活法が好ましく、水蒸気によるガス賦活法が特に好ましい。
【0059】
賦活は、多段炉、ロータリーキルン炉、流動層炉等を用いて行うことができる。
賦活温度(賦活ガスや薬剤を炭化物に接触させる際の温度)は、ガス賦活法では、750~1200℃が好ましく、850~1200℃がより好ましく、900~1000℃がさらに好ましく、薬品賦活法では、550~800℃が好ましく、600~800℃がより好ましく、700~750℃がさらに好ましい。
賦活時間(賦活ガスや薬剤を炭化物に接触させる時間)は、30~75分間が好ましく、45~60分間がより好ましい。賦活時間が前記下限値以上であれば、メソ孔が充分に成長し、メソ孔容積が向上する傾向があり、前記上限値以下であれば、活性炭の比表面積、収率が向上する傾向がある。
【実施例0060】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。以下において「%」は、特に言及がない場合は、「質量%」を示す。
【0061】
<使用材料>
リグニンA:出光興産株式会社製、軟化点135~145℃、灰分0.5%。
リグニンB:出光興産株式会社製、軟化点165~175℃、灰分0.6%。
リグニンC:出光興産株式会社製、軟化点125~135℃、灰分0.5%。
フェノール樹脂A:ノボラック型、群栄化学工業株式会社製、重量平均分子量6201。
フェノール樹脂B:ノボラック型、群栄化学工業株式会社製、重量平均分子量3980。
フェノール樹脂繊維:ノボラック型フェノール樹脂の硬化物からなる繊維、群栄化学工業株式会社製、商品名「KF-0570」。
【0062】
軟化点、灰分、重量平均分子量の測定方法は以下のとおりである。
軟化点:試料を乳鉢で粉砕し、砕いた試料をアルミ製カップ(円形上部φ60、下部φ53×深さ15mm)に10~20mgに入れた。試料を入れたアルミ製カップをホットプレート(IKA C-MAG HP7)に置き、アルミ箔で蓋をした。100℃まで加熱後、10℃刻みに温度を上げ、目視観察を行い、目視により溶解した温度を軟化点とした。
灰分:日立ハイテクサイエンス社製、TG/DTA6300にて、Ptパンに約10mgの試料を秤量し、昇温速度10℃/分、測定雰囲気:空気200mL/分、温度35℃~800℃まで測定し、残存した成分の質量割合を求め、その値を灰分とした。
重量平均分子量:以下の条件のゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によりポリスチレン換算値として測定した。
GPC装置:東ソー株式会社製、HLC8320GPC。
カラム:東ソー株式会社製、TSKgel G3000HXL+G3000HXL+G2000HXL。
【0063】
<実施例1~8>
(リグニン活性炭素繊維の製造)
以下の手順でリグニン活性炭素繊維を製造した。
(1)温度計、撹拌装置及びコンデンサーを備えた反応容器(500mLフラスコ)に、リグニンA又はリグニンBの100g、フェノール樹脂Aの100g(質量比:リグニン/フェノール樹脂=5/5)を加え、180℃まで昇温して30分間撹拌した。
(2)次いで、180℃を維持したまま5mmHgの減圧下で30分撹拌して揮発分を除去し、最終的に黒褐色固体の混合樹脂を得た。
(3)上記の混合樹脂を顆粒状に粉砕し、温度計、ニクロム線ヒーターを備え、下部にモノホールを有するノズルに投入した。ノズルを昇温させて混合樹脂を融解させたら、ノズル上部から窒素ガスで加圧して溶融物を押し出し、紡糸を行った。
(4)次いで、得られた繊維をポリボトル中で塩酸17.5~18.0%、ホルマリン9.5~10.0%の水溶液に浸漬し、約95℃で7時間加熱することで硬化反応を行った。
(5)硬化反応後、中和、洗浄及び乾燥を行い、黒褐色のリグニン繊維を得た。
(6)得られたリグニン繊維の繊度(デニール)をデニールコンピューター(サーチ社製、DC-11B)により測定し、強度と伸度を引張試験機(エー・アンド・デイ社製、RTG-1210、試料長20mm、試験速度20mm/min)により測定した。
(7)上記(5)で得られたリグニン繊維を坩堝に入れ、窒素雰囲気下、室温から5℃/minで昇温し300℃で1時間保持した後、5℃/minで800℃まで昇温し、1時間保持することで、リグニン炭素繊維を得た。
(8)得られたリグニン炭素繊維を坩堝に入れ、横型管状炉内に入れ窒素ガスを流しながら5℃/minの昇温速度で900℃になるまで昇温し、次いで予め80℃に調整されている温水中を通過させた窒素ガスを導入することにより、水蒸気を4.125mL/minで前記管状炉内に窒素ガスと共に導入しながら900℃で60分間加熱を継続して賦活した。続いて、窒素ガスのみを導入しながら冷却することにより、リグニン活性炭素繊維を得た。
(9)得られたリグニン活性炭素繊維を約50mg採取し、減圧下300℃で4時間真空乾燥した後、比表面積・細孔分布測定装置(micromeritics製、3Flex)を用いて、液体窒素の沸点(-195.8℃)における窒素ガスの吸着量を相対圧が1.0×10-7~0.99の範囲で測定し、吸着等温線を作成した。その結果をもとに以下の計算を行った。
[a]BET法によりBET比表面積(m2/g)を算出した。
[b]MP法によりミクロ孔容積(cm3/g)とミクロ孔分布を算出した。
[c]BJH法によりメソ孔容積(cm3/g)とメソ孔分布を算出した。
(10)以下の式により、炭化収率、賦活収率及び原料収率を算出した。
炭化収率(%)=(炭化後乾燥質量(g)/炭化前乾燥質量(g))×100
賦活収率(%)=(賦活後乾燥質量(g)/賦活前乾燥質量(g))×100
原料収率(%)=(炭化収率(%)×賦活収率(%))/100
(11)上記(1)~(10)の操作を、リグニンAについてはリグニン/フェノール樹脂=5/95、2/8、5/5、8/2、9/1、リグニンBについてはリグニン/フェノール樹脂=5/95、2/8、5/5の混合比率でも実施した。
【0064】
<実施例9>
(12)反応容器(3Lフラスコ)に、リグニンCの1250g、フェノール樹脂Bの1250g(質量比:リグニン/フェノール樹脂B=5/5)を加え、170℃のオーブン中で5時間加熱して溶融させ、その後、温度計、撹拌装置及びコンデンサーを反応容器に取り付けて170℃で60分間撹拌した。
(13)次いで、170℃を維持したまま5mmHgの減圧下で60分間撹拌して揮発分を除去し、最終的に黒褐色固体の混合樹脂を得た。
その後、上記(3)~(10)と同様の操作を実施し、リグニン活性炭素繊維を得た。ただし、上記(8)の賦活時間のみ33分間とした。
【0065】
<比較例1>
リグニン繊維の代わりにフェノール樹脂繊維を用いて、上記(6)~(10)と同様の操作を実施し、フェノール樹脂活性炭素繊維を得た。
【0066】
<比較例2~3>
リグニン繊維の代わりに粉末状のリグニンA又はリグニンBを用いて、上記(7)~(10)と同様の操作を実施し、粉末状のリグニン活性炭を得た。
【0067】
表1に、実施例1~9のリグニン繊維及び比較例1のフェノール樹脂繊維の繊度及び引張試験結果を示す。
図1は、実施例1~5のリグニン繊維Aのリグニン配合率を横軸に、強度及び伸度を縦軸にとったグラフである。
図2は、実施例6~8のリグニン繊維Bのリグニン配合率を横軸に、強度及び伸度を縦軸にとったグラフである。リグニン及びフェノール樹脂を含むリグニン繊維は、充分な強度及び伸度を有していた。
表2に、リグニン活性炭素繊維、フェノール樹脂活性炭素繊維及びリグニン活性炭の、炭化及び賦活処理における収率と、比表面積・細孔分布測定の結果を示す。
図3は、実施例1~5のリグニン活性炭繊維Aのリグニン配合率を横軸に、原料収率及びメソ孔容積を縦軸にとったグラフである。
図4は、実施例1~5のリグニン活性炭繊維Aのリグニン配合率を横軸に、原料収率及び比表面積を縦軸にとったグラフである。
図5は、実施例6~8のリグニン活性炭繊維Bのリグニン配合率を横軸に、原料収率及びメソ孔容積を縦軸にとったグラフである。
図6は、実施例6~8のリグニン活性炭繊維Bのリグニン配合率を横軸に、原料収率及び比表面積を縦軸にとったグラフである。リグニン活性炭素繊維は、比表面積が最大で2363cm
2/g、メソ孔容積が最大で2.5200cm
3/gであり、高比表面積及び高メソ孔容積が達成されていた。
図7、
図8、
図9に、リグニンAを用いたリグニン活性炭素繊維A、リグニンBを用いたリグニン活性炭素繊維B、リグニンCを用いたリグニン活性炭素繊維Cそれぞれの細孔分布を示す。細孔分布のピークは、リグニン活性炭素繊維Aでは、リグニン配合率5%で細孔直径3.8nm、リグニン配合率20%以上で細孔直径15nmに出現し;リグニン活性炭素繊維Bでは、リグニン配合率20%で細孔直径3.8nm、リグニン配合率50%では細孔直径15nmに出現し;リグニン活性炭素繊維Cでは、リグニン配合率50%で細孔直径22nmに出現した。
図10に、比較例2~3で得られたリグニン活性炭の細孔分布を示す。細孔分布のピークは、リグニンAを用いたリグニン活性炭Aでは細孔直径9.9nm、リグニンBを用いたリグニン活性炭では細孔直径15nmに出現した。
【0068】
【0069】
【0070】
表1~2及び
図1~10中、「リグニン配合率」は、リグニンとフェノール樹脂との合計質量に対するリグニンの割合(%)を意味し、「D」はデニールを意味する(以下同様)。
【0071】
<実施例10~13>
実施例3の上記(1)~(5)と同様の操作を実施し、リグニン配合率50%(リグニンA/フェノール樹脂=5/5)のリグニン繊維Aを調製した。
このリグニン繊維Aについて、上記(8)の賦活時間を10分間、30分間、45分間又は60分間に変更した以外は、上記(7)~(10)と同様の操作を実施し、リグニン活性炭素繊維を得た。
【0072】
<比較例4~6>
リグニン繊維の代わりにフェノール樹脂繊維を用い、上記(8)の賦活時間を10分間、30分間又は60分間に変更した以外は、上記(7)~(10)と同様の操作を実施し、フェノール樹脂活性炭素繊維を得た。
【0073】
表3、
図11、
図12に、リグニン配合率50%のリグニン活性炭素繊維Aとフェノール樹脂活性炭素繊維の各賦活時間における炭化賦活処理における収率と、比表面積・細孔分布測定の結果を示す。リグニン繊維Aの場合、メソ孔容積は賦活時間45分以降で急激に増加し、比表面積は賦活時間45分で飽和状態となることが判明した。
図13に、リグニン配合率50%のリグニン活性炭素繊維Aの各賦活時間における細孔分布を示す。細孔分布のピークは、賦活時間30分までは細孔直径3.8nmに出現し、賦活時間45分では細孔直径9.7nm、賦活時間60分では細孔直径15nmに出現した。
【0074】
本発明によれば、炭化及び賦活により高比表面積で高メソ孔容積の活性炭が得られ、成形性にも優れる活性炭製造用組成物及びその製造方法、並びに該活性炭製造用組成物を用いた活性炭製造用成形体、その製造方法、活性炭素繊維製造用繊維、その製造方法、活性炭前駆体、その炭化物、活性炭素繊維前駆体、炭素繊維、活性炭、その製造方法、活性炭素繊維及びその製造方法を提供できる。