(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118355
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】通信品質予測モデル更新装置、通信品質予測モデル更新方法、および、通信品質予測モデル更新プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20230818BHJP
【FI】
H04W16/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021268
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】工藤 理一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 馨子
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 匡史
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
(72)【発明者】
【氏名】西尾 理志
(72)【発明者】
【氏名】太田 翔己
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067DD20
5K067EE02
5K067EE10
5K067HH23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】無線通信エリアにおける未来の通信品質の予測精度を改善する通信品質予測モデル更新装置、通信品質予測モデル更新方法及び通信品質予測モデル更新プログラムを提供する。
【解決手段】通信品質予測モデル更新装置1は、無線通信エリアAR内の物理的情報である物理空間情報を取得する物理空間情報取得部11と、無線通信エリア内で現在無線通信中の通信情報を取得する通信情報取得部12と、物理空間情報及び通信情報を記憶するデータ記憶部13と、無線通信エリア内の無線通信に係る未来の通信品質を予測するための通信品質予測モデルを記憶する通信品質予測モデル記憶部14と、通信品質予測モデルの更新頻度または更新タイミングを決定する更新ルール決定部15と、更新頻度または前記更新タイミングに基づき、物理空間情報及び通信情報を用いて通信品質予測モデルを更新するモデル更新部16と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信エリア内の物理的情報である物理空間情報を取得する第1の取得部と、
前記無線通信エリア内で現在無線通信中の通信情報を取得する第2の取得部と、
前記物理空間情報および前記通信情報を記憶する第1の記憶部と、
前記無線通信エリア内の無線通信に係る未来の通信品質を予測するための通信品質予測モデルを記憶する第2の記憶部と、
前記通信品質予測モデルの更新頻度または更新タイミングを決定する決定部と、
前記更新頻度または前記更新タイミングに基づき、前記物理空間情報および前記通信情報を用いて前記通信品質予測モデルを更新する更新部と、
を備える通信品質予測モデル更新装置。
【請求項2】
前記通信品質予測モデルは、前記物理空間情報を収集する異なる位置に設置された複数の収集手段に対応する複数の通信品質予測モデルであって、
前記決定部は、通信品質予測モデル毎に前記更新頻度または前記更新タイミングを決定し、
前記更新部は、
前記通信品質予測モデル毎の更新頻度または更新タイミングに基づき、前記複数の通信品質予測モデルをそれぞれ更新する請求項1に記載の通信品質予測モデル更新装置。
【請求項3】
前記決定部は、
更新前の通信品質予測モデルに対する更新後の通信品質予測モデルによる通信品質予測精度の改善度に応じて、前記更新頻度または前記更新タイミングを決定する請求項1または2に記載の通信品質予測モデル更新装置。
【請求項4】
前記決定部は、
前記物理空間情報を収集する収集手段の位置と前記無線通信エリア内で無線通信を行う複数の通信機の位置との位置関係を基に、前記更新頻度または前記更新タイミングを決定する請求項1ないし3のいずれかに記載の通信品質予測モデル更新装置。
【請求項5】
前記決定部は、
前記収集手段の位置と前記収集手段の位置から2つの前記通信機の位置を結ぶ直線に垂線を下ろしたときの交点との間の距離の長さを基に、前記更新頻度または前記更新タイミングを決定する請求項4に記載の通信品質予測モデル更新装置。
【請求項6】
前記決定部は、
前記通信品質予測モデルを訓練するための訓練データの量の大きさを基に、前記通信品質予測モデルの更新頻度または更新タイミングを決定する請求項1ないし5のいずれかに記載の通信品質予測モデル更新装置。
【請求項7】
通信品質予測モデル更新装置で行う通信品質予測モデル更新方法において、
無線通信エリア内の物理的情報である物理空間情報を取得するステップと、
前記無線通信エリア内で現在無線通信中の通信情報を取得するステップと、
前記物理空間情報および前記通信情報を記憶するステップと、
前記無線通信エリア内の無線通信に係る未来の通信品質を予測するための通信品質予測モデルの更新頻度または更新タイミングを決定するステップと、
前記更新頻度または前記更新タイミングに基づき、前記物理空間情報および前記通信情報を用いて前記通信品質予測モデルを更新するステップと、
を行う通信品質予測モデル更新方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の通信品質予測モデル更新装置としてコンピュータを機能させる通信品質予測モデル更新プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信品質予測モデル更新装置、通信品質予測モデル更新方法、および、通信品質予測モデル更新プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット、IoT(Internet of Things)、M2M(Machine to Machine)トラヒックの増加に伴い、より高い周波数の利活用が検討されている。5G、6Gの次世代移動体通信では、ミリ波と呼ばれる30GHz以上の周波数を用いた高速大容量通信の実現が期待されている。
【0003】
一方、sub6GHz、ミリ波、テラヘルツ波など、高い周波数を利用した無線通信では、周囲環境の影響を強く受け、人体等による無線通信路の遮蔽によって、通信品質が急峻に低下することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
このような通信品質の急峻な変化は、体感通信品質を大きく低下させる要因となる。そこで、無線通信路の遮蔽を事前に予測し、その影響を低減するように通信制御を行う装置が必要となる。
【0005】
例えば、RGBカメラ、深度カメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)を用いて無線通信エリアの深度画像や点群情報などの物理空間情報を取得し、その物理空間情報を入力として、機械学習により無線通信の通信品質値との対応関係を学習し、物理空間情報から通信品質値へ写像する通信品質予測モデルを用いて未来の通信品質を事前に予測し、その予測結果に基づいてハンドオーバ制御や送信電力制御を行う装置が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Collonge、外2名、“Influence of the human activity on wide-band characteristics of the 60 GHz in- door radio channel”、IEEE Transactions. Wireless Communications、Vol.3、No.6、2004年11月、p.2396-p.2406
【非特許文献2】T. Nishio、外7名、“Proactive Received Power Prediction Using Machine Learning and Depth Images for mmWave Networks”、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、Vol.37、No.11、2019年11月、p.2413-p.2427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2では、一度機械学習した通信品質予測モデルを繰り返し使用することを想定しているため、時間経過に伴い機械学習時と通信環境の現状とに徐々に差異が生じ、通信品質の予測精度が低下するという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、無線通信エリアにおける未来の通信品質の予測精度を改善可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の通信品質予測モデル更新装置は、無線通信エリア内の物理的情報である物理空間情報を取得する第1の取得部と、前記無線通信エリア内で現在無線通信中の通信情報を取得する第2の取得部と、前記物理空間情報および前記通信情報を記憶する第1の記憶部と、前記無線通信エリア内の無線通信に係る未来の通信品質を予測するための通信品質予測モデルを記憶する第2の記憶部と、前記通信品質予測モデルの更新頻度または更新タイミングを決定する決定部と、前記更新頻度または前記更新タイミングに基づき、前記物理空間情報および前記通信情報を用いて前記通信品質予測モデルを更新する更新部と、を備える。
【0010】
本発明の一態様の通信品質予測モデル更新方法は、通信品質予測モデル更新装置で行う通信品質予測モデル更新方法において、無線通信エリア内の物理的情報である物理空間情報を取得するステップと、前記無線通信エリア内で現在無線通信中の通信情報を取得するステップと、前記物理空間情報および前記通信情報を記憶するステップと、前記無線通信エリア内の無線通信に係る未来の通信品質を予測するための通信品質予測モデルの更新頻度または更新タイミングを決定するステップと、前記更新頻度または前記更新タイミングに基づき、前記物理空間情報および前記通信情報を用いて前記通信品質予測モデルを更新するステップと、を行う。
【0011】
本発明の一態様の通信品質予測モデル更新プログラムは、上記通信品質予測モデル更新装置としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無線通信エリアにおける未来の通信品質の予測精度を向上可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、システムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の更新方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第2の更新方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、通信品質の予測誤差を示す図である。
【
図5】
図5は、通信品質予測モデル更新装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0015】
[発明の概要]
本発明は、通信品質予測モデルを更新する技術を開示する。具体的には、無線通信エリアに含まれる物理空間情報と現在無線通信中の通信情報とを取得し、それらの情報を基に通信品質予測モデルを更新する。
【0016】
このとき、カメラやLiDARの設置場所と無線通信のアクセスポイントの設置場所との位置関係を基に更新頻度または更新タイミングを設定(更新)し、通信品質予測モデルの更新に要する計算コストやデータ収集コストを削減する。
【0017】
本発明では、通信品質予測モデルを更新するので、時間経過に伴い通信品質予測モデルによる通信品質の予測値と現在の実測値とにズレが生じる状況を回避可能となり、予測精度を向上可能となる。
【0018】
[システムの全体構成]
図1は、本実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。本実施形態に係るシステムは、通信品質予測モデル更新装置1と、通信品質予測装置2と、通信制御装置3と、を備える。
【0019】
通信品質予測装置2は、通信品質予測モデルとカメラ6から得られる物理空間情報を用いて、無線通信エリアARで無線通信を行うアクセスポイント4と各ユーザ端末5との間にそれぞれ形成される各無線通信路Rの未来の通信品質を予測する装置である。ここで、カメラ6は、LiDARなどのセンサであってもよい。
【0020】
通信制御装置3は、通信品質予測装置2で予測された各無線通信路Rの未来の通信品質の予測結果に基づき、各無線通信路Rの通信を制御する装置である。例えば、通信制御装置3は、人体等による遮蔽によって通信品質が低下すると予測された無線通信路Rに対して、ハンドオーバ制御や送信電力制御を行う。
【0021】
通信品質予測モデル更新装置1は、通信品質予測装置2が使用する通信品質予測モデルを更新する装置である。具体的には、通信品質予測モデル更新装置1は、無線通信エリアARに含まれる物理空間情報と現在無線通信中の通信情報とを取得し、それらの情報を基に通信品質予測モデルを適宜更新し、更新後の通信品質予測モデルを通信品質予測装置2へ送信する。
【0022】
例えば、通信品質予測モデル更新装置1は、
図1に示したように、物理空間情報取得部11と、通信情報取得部12と、データ記憶部13と、通信品質予測モデル記憶部14と、更新ルール決定部15と、モデル更新部16と、を備える。
【0023】
物理空間情報取得部(第1の取得部)11は、無線通信エリアARの近傍に設置されたカメラ6やセンサから、その無線通信エリアAR内の物体の位置や存在などの物理的情報に関する物理空間情報を画像データや点群データとして取得する機能を備える。
【0024】
例えば、物理空間情報取得部11は、RGBカメラや深度カメラなどで撮影された物理空間情報の画像データ、LiDARなどで検出された物理空間情報の点群データを、時系列でカメラ6から取得する。RGBカメラ、深度カメラ、LiDARは、無線通信エリアAR内の物理空間情報を収集する収集手段の例である。
【0025】
物理空間情報とは、例えば、移動する人・車・通信機器、成長する植物、天候、建設中の建物、水位が変動する川などの動的オブジェクト、荷物、ベンチ、信号機等といった静的オブジェクトである。
【0026】
なお、LiDARで得られる点群データはLiDARから見た光の反射点情報なので、物理空間情報取得部11は、LiDARから取得した物理空間情報の点群データを、通信品質予測モデル更新装置1で認識可能な座標系の物理空間情報に変換してもよい。
【0027】
例えば、物理空間情報取得部11は、得られた物理空間情報を、多次元の座標系やボクセルへ変換する変換処理や、値の規格化や差分情報の抽出などの信号処理を行ってからデータ記憶部13へ出力してもよい。ボクセルとは、立体を表現するデータ形式であり、3次元空間を格子状に分割した立方体に値(例えば、0または1や、0から1までの係数)を与えることにより、その立方体の小領域に事物が存在するか否かや、存在しているものの特徴を表現するものである。
【0028】
通信情報取得部(第2の取得部)12は、無線通信エリアAR内に設置されたアクセスポイント4から、そのアクセスポイント4と各ユーザ端末5との間で現在行われている無線通信中の通信情報を取得する機能を備える。アクセスポイント4、ユーザ端末5は、通信機(送受信局、送信局、受信局)の例である。
【0029】
通信情報とは、例えば、受信信号電力、信号対雑音電力比(SNR)、信号対干渉雑音電力比(SINR)、RSSI(Received Signal Strength Indication)、RSRQ(Received Signal Reference Quality)、パケット誤り率、到達ビット数、単位時間当たりの到達ビット数、MCS(Modulation and Coding Scheme index)、再送回数、遅延時間、誤り訂正方式、通信システムの周波数、利用するリソースの帯域幅等の周波数条件、通信ネットワークのトラフィックなどである。これらの値の微分情報、これらの値を所定の計算式に代入して算出される指標、その指標に影響を与えるシステムの設定項目等でもよい。
【0030】
データ記憶部(第1の記憶部)13は、物理空間情報取得部11が取得した物理空間情報と、通信情報取得部12が取得した現在無線通信中の通信情報と、を記憶する機能を備える。データ記憶部13は、それらの情報に対して、絶対値の規格化などの前処理を行ったり、保存するデータを選別するなどを行ったりしてもよい。
【0031】
通信品質予測モデル記憶部(第2の記憶部)14は、無線通信エリアAR内の無線通信に係る未来の通信品質を予測するための通信品質予測モデルを記憶する機能を備える。
【0032】
通信品質予測モデルは、複数のカメラ6がある場合には、カメラ毎に用意されてもよいし、複数のカメラに対して1つ用意されてもよい。複数のカメラ6がある場合とは、例えば、1つの無線通信エリアに対して異なる位置に複数のカメラがある場合、複数の無線通信エリア毎に1つ以上のカメラがある場合である。
【0033】
更新ルール決定部(決定部)15は、通信品質予測モデルの更新ルールを決定する機能を備える。更新ルールとは、例えば、更新周期、更新頻度、更新タイミング、更新条件、更新方法である。更新ルール決定部15は、複数または全ての通信品質予測モデルに対して同じ更新ルールを決定してもよいし、通信品質予測モデル毎に異なる更新ルールを決定してもよい。
【0034】
モデル更新部(更新部)16は、更新ルール決定部15が決定した更新ルールに基づき、データ記憶部13に記憶された物理空間情報と通信情報とを用いて、通信品質予測モデル記憶部14に記憶されている通信品質予測モデルを更新する機能を備える。
【0035】
例えば、モデル更新部16は、より時間的に新しい物理空間情報と通信情報とを用いて、ファインチューニングや転移学習などを行うことにより、通信品質予測装置2で現状使用中の通信品質予測モデルを更新する。更新後の通信品質予測モデルは、通信品質予測装置2に入力され、無線通信やユーザ端末5の制御などに用いられる。
【0036】
[通信品質予測モデルの更新方法]
(第1の更新方法)
図2は、通信品質予測モデルの第1の更新方法を示すフローチャートである。
【0037】
ステップS101;
まず、物理空間情報取得部11が、無線通信エリアARの近傍に設置されたカメラ6やセンサから、その無線通信エリアAR内の物理空間情報を時系列に取得してデータ記憶部13に記憶させる。
【0038】
また、通信情報取得部12が、その無線通信エリアAR内に設置されたアクセスポイント4から、そのアクセスポイント4と各ユーザ端末5との間で現在行われている無線通信中の通信情報を時系列に取得してデータ記憶部13に記憶させる。
【0039】
ステップS102;
次に、モデル更新部16が、更新ルール決定部15の更新ルールに定められた更新頻度または更新タイミングを満たすか否かを判定する。例えば、モデル更新部16は、現在の時刻が、前回の更新時刻に更新周期を加算した時刻を超えている場合、更新頻度を満たすと判定する。
【0040】
ステップS103;
更新ルールに定められた更新頻度または更新タイミングを満たす場合、モデル更新部16は、データ記憶部13から最も新しい物理空間情報および通信情報(=Training data)を読み出し、所定のデータベースから機械学習パラメータのチューニング用の検証データ(=Validation data)を読み出し、読み出した各情報や各データを用いて、更新ルールに予め定められた更新条件や更新方法に従い、ファインチューニングや転移学習などの機械学習を行うことにより、現在の通信品質予測モデルを更新する。その後、モデル更新部16は、ステップS102へ戻る。
【0041】
一方、更新ルールに定められた更新頻度または更新タイミングを満たさない場合、モデル更新部16は、通信品質予測モデルを更新することなく、ステップS102を繰り返す。
【0042】
(第2の更新方法)
図3は、通信品質予測モデルの第2の更新方法を示すフローチャートである。
【0043】
上記第1の更新方法は、通信品質予測モデルの更新処理に留まるため、通信品質予測モデルや更新条件などが適切であったか不明である。第2の更新方法では、この点を改善する。
【0044】
ステップS201~ステップS202;
ステップS101~ステップS102と同じである。
【0045】
ステップS203;
更新ルールに定められた更新頻度または更新タイミングを満たす場合、モデル更新部16は、ステップS103と同様に現在の通信品質予測モデルを更新するとともに、更新前の通信品質予測モデルを記憶(維持)する。
【0046】
ステップS204;
次に、モデル更新部16は、更新後の通信品質予測モデルと、更新前の通信品質予測モデルとを、検定データを用いて評価する。より具体的には、モデル更新部16は、検定データを用いて、更新前の通信品質予測モデルに対する更新後の通信品質予測モデルによる通信品質予測の改善度を計算する。
【0047】
検定データとは、データ記憶部13にこれまでに記憶された物理空間情報および通信情報であり、通信品質予測モデルが正しく動作しているかを検定(評価)するために用いられるデータである。
【0048】
例えば、モデル更新部16は、同じ物理空間情報および通信情報を、更新後の通信品質予測モデルと更新前の通信品質予測モデルとにそれぞれ入力し、更新前の通信品質予測モデルによる予測結果の正解率に対して、更新後の通信品質予測モデルによる正解率がどの程度が向上しているかを計算する。
【0049】
モデル更新部16は、数ヶ月前、数年前、数十年前のようなかなり過去の検定データを用いて、通信品質予測モデルが大きく変わっていないことを検定(評価)してもよいし、数週間、数日、数時間前の検定データを用いて、現在の通信状況に対する性能を検定(評価)してもよい。モデル更新部16は、過去の検定データと当該過去に比較的近い時間の検定データとの両方を用いてもよい。更新前の通信品質予測モデルや過去の通信品質予測モデルは、通信品質予測モデル記憶部14において保持することができる。
【0050】
ステップS205;
次に、モデル更新部16は、更新後の通信品質予測モデルの評価結果に基づき、更新前の通信品質予測モデルから改善されたか否かの効果を評価し、その効果の評価結果を更新ルール決定部15に通知する。より具体的には、モデル更新部16は、ステップS204で計算した更新後の通信品質予測モデルの改善度が、予め定めた所定の改善度以上であるか否かを判定する。
【0051】
ステップS206;
更新後の通信品質予測モデルが更新前の通信品質予測モデルから改善されていない場合、更新ルール決定部15は、モデル更新部16から入力されたモデル更新の効果評価を基に、モデル更新の更新条件、更新頻度、更新タイミングなどを更新(変更)する。
【0052】
例えば、更新ルール決定部15は、更新後の通信品質予測モデルよる予測結果の改善度が所定の改善度未満である場合、更新ルールに定める更新頻度を低くしたり、更新タイミングを大きくしたりするなど、通信品質予測モデルの更新処理が頻繁に行われないように更新ルールを更新する。その後、ステップS202へ戻る。
【0053】
このとき、モデル更新部16は、更新ルール決定部15による更新ルールの更新に付随して、改善効果のない更新後の通信品質予測モデルを破棄(削除)し、維持していた更新前の通信品質予測モデルを通信品質予測装置2へ送信してもよい。
【0054】
一方、更新後の通信品質予測モデルが更新前の通信品質予測モデルから改善されている場合、更新ルール決定部15は、更新ルールを更新しない。このとき、更新ルール決定部15は、予測精度の改善が著しい場合には、更新頻度を高くしたり、更新タイミングを小さくしたりするなど、通信品質予測モデルの更新処理が頻繁に行われるように更新ルールを更新してもよい。その後、ステップS202へ戻る。
【0055】
ステップS102やステップS202の更新ルール・タイミングについては、更新ルール決定部15は、例えば、予め指定した時間間隔、時刻、通信品質予測モデルの精度、通信品質予測モデルの更新のための訓練データの量もしくは質またはその両方を基準として定めてもよい。例えば、更新ルール決定部15は、あらかじめ指定した日数間隔、曜日・日付・時刻、通信品質予測モデルの基準精度を下回る場合、訓練データ用のサンプルをあらかじめ定めた量以上に取得できた場合、などを設定できる。
【0056】
以上、第1の更新方法と第2の更新方法について説明した。
【0057】
第1の更新方法と第2の更新方法は、1つ以上の無線通信エリアについて、異なる位置に設置された各カメラ(センサ)にそれぞれ対応する通信品質予測モデル毎に行うことができる。後述する実験により確かめられているように、通信品質予測モデルに必要な更新頻度または更新タイミングは、設置するカメラ(センサ)の位置により異なるため、各位置のカメラ(センサ)について最適な更新ルールを用いることで、通信品質予測モデルによる予測結果を最適化でき、通信品質予測モデルの管理を適切かつ効率的に行うことができる。
【0058】
つまり、通信品質予測モデル更新装置1において、更新ルール決定部15は、異なる位置に設置された複数のカメラ(センサ)またはその組み合わせに対応する複数の通信品質予測モデル毎に、更新頻度または更新タイミングを決定し、モデル更新部16は、通信品質予測モデル毎に決定された頻度またはタイミングに基づき、複数の通信品質予測モデルをそれぞれ更新する。
【0059】
[更新頻度または更新タイミングの決定方法]
次に、更新頻度または更新タイミングの決定方法について説明する。
【0060】
通信品質予測モデルの更新頻度または更新タイミングは、カメラ6やLiDARなどの環境センサの位置と、アクセスポイント4およびユーザ端末5の各位置と、の位置関係を基に決定する。
【0061】
具体的には、アクセスポイント4の位置とユーザ端末5の位置とを結ぶ直線を基準線(ax+by+c=0;a,b,cは任意の初期値)とし、環境センサの位置(x1,y1)から基準線への垂線を下ろし、その交点と環境センサの位置との間の距離dの長さを式(1)の「点と直線の距離の公式」を基に計算する。
【0062】
【0063】
この距離dが大きいほど、更新頻度を高くし、更新タイミングを小さくする。
【0064】
例えば、通信品質予測モデルの更新を行わなかった期間と通信品質の予測精度の低下とを実測し、その実測結果を基に距離dに応じて妥当な更新頻度を検討し、距離dまたは距離dの範囲と更新頻度との対応表を作成する。
【0065】
予測精度の低下を把握する方法については、前述の検定データを異なる複数のタイミングについて用意してそれぞれの通信品質の予測結果を求め、正解を示す正しい通信品質に対する差分(誤差)を計算する。
【0066】
例えば、1か月毎に検定データを取得・記憶し、5か月前に更新された通信品質予測モデルを用いて、月々の検定データによる通信品質の予測結果に基づく予測誤差の変化より、予測精度の低下を判定する。
【0067】
より具体的には、距離dが30cm以内において、予測精度の低下が一定以上(例えば、10%)となり始めたのが1か月であれば、「d≦30cm」に対する更新頻度を「1か月」とする。距離dが30cmを超え1m以内であり、予測精度の低下が一定以上(例えば、10%)となり始めたのが1週間であれば、「30cm<d≦1m」に対する更新頻度を「1週間」とする。
【0068】
[モデル更新用データセットの生成方法]
次に、モデル更新用データセットの生成方法について説明する。ここでいうモデル更新用データセットとは、物理空間情報および通信情報(=Training data)および検証データ(=Validation data)に基づくデータセットである。
【0069】
上記決定方法で決定された更新頻度時または更新タイミング時に、データ記憶部13の情報を用いてモデル更新用データセットを生成する。まず、タイムスタンプが新しい順に通信情報をN個取り出す。次に、取り出したN個の通信情報のそれぞれに対応し、各通信情報の取得時刻からτ秒前の時刻に最も近い時刻に取得された物理空間情報をデータ記憶部13から取り出す。そして、これらN個の物理空間情報に対してN個の通信情報をラベルとして対応付ける。τ秒前の物理空間情報と対応付けるのは、将来の通信品質を予測するため、時刻をずらしてラベル付を行うTemporal Difference Labeling(非特許文献2)を適用するためである。
【0070】
続いて、取り出した通信情報と物理空間情報とに対して所定の前処理を施す。この前処理とは、例えば、正規化である。
【0071】
通信情報については、その分布がおおよそ平均値0、分散1に近くなるように、重みを乗算したり、オフセットを加えたりする。値が0~1の間に分布するように、重みとオフセットを設定してもよい。重みとオフセット値を固定とすることを重視し、値の分布が-1から1の間におおよそ分布するようにし、大きくずれた値を1や-1などの値で頭打ちとするようにしてもよい。
【0072】
物理空間情報については、現在使用している通信品質予測モデルの入力に合うように処理を行う。例えば、画像情報であれば、解像度を通信品質予測モデルの入力と同じ解像度に調整し、値を0~1の範囲内に正規化する。点群情報であれば、外れ値除去とダウンサンプリングを行った後に、2次元マップやボクセルに変換する。
【0073】
以下に、点群前処理の具体的な手順を示す。点群前処理は、物理空間情報取得部11、データ記憶部13、または、モデル更新部16により行われる。
【0074】
まず、計測時に点群データへ入ってしまう外れ値(ノイズ点)を除去する。ノイズ点の除去により、正確な予測を実現できるようになる。ノイズ点の除去方法としては、例えば、ある点から一定数の各近傍点との距離をそれぞれ計算して閾値より大きい点を除去する方法、点を中心に持つ球の中に含まれる点の数が少ない点を除去する方法がある。
【0075】
次に、点群データの点数を削減(ダウンサンプル)する。点数の削減により、通信品質予測モデルへの入力次元数を削減し、機械学習の計算量を抑制できる。ダウンサンプル方法としては、例えば、インデックスをランダムに間引く方法、一定間隔で一様に間引く方法がある。
【0076】
次に、点群データの3次元空間を任意の2次元平面に変換する。点群データの2次元平面への変換により、点群データの容量をさらに削減できる。2次元平面への変換方法としては、例えば、点群データの3次元空間を形成している複数の2次元平面の中から1つの2次元平面を決定し、その2次元平面に対して点群データを写像する方法がある。
【0077】
次に、点群データをボクセルデータに変換する。点群データのボクセルデータへの変換により、点群データの容量をさらに削減できる。ボクセルデータへの変換方法としては、点群データの3次元空間を格子状に区切ったボクセル内の点数に応じ、ボクセル空間の値を0または1とする。例えば、各ボクセルについて、ボクセルに対応する空間内に点群が一定数(最小1つ)存在する場合には、そのボクセルの値を1とし、その空間内に点が一定数存在しない場合は、そのボクセルの値を0とする。
【0078】
それ以外のボクセルデータへの変換方法としては、ボクセルに対応する空間内の点数を密度としてボクセル値に設定する方法がある。例えば、ボクセルの境界座標(ボクセルの8つの頂点のうち対角の2点)をそれぞれ(x1,y1,z1)、(x2,y2,z2)とすると、“x1≦x≦x2”,“y1≦y≦y2”,“z1≦z≦z2”を満たす点が存在する場合には、1またはその点数をボクセルの値として代入し、存在しない場合には、0とする。
【0079】
最後に、ラベルとなる通信情報および物理空間情報のそれぞれについて前処理が完了したものをモデル更新用データセットとして用いる。
【0080】
[通信品質予測モデルの更新方法]
モデル更新部16は、上記手法で生成されたモデル更新用データセットを用いて、通信品質予測モデルを更新する。具体的には、モデル更新部16は、モデル更新用データセットをTraining dataとValidation dataとに分割し、Training dataで通信品質予測モデルを更新する処理と、Validation dataで通信品質予測モデルの性能検証する処理とを、モデル性能(予測結果)の向上が見られなくなるまで繰り返す。
【0081】
[予測誤差の測定結果]
図4は、更新後の通信品質予測モデルによる通信品質の予測結果に基づく予測誤差を示す図である。異なる位置に設置した2つのカメラA、Bについて、一定時間経過後の予測誤差を示している。更新頻度または更新タイミングの基準となる距離dは、カメラAの方が大きい。
【0082】
使用した通信品質予測モデルは、入力を線形変換する処理単位がネットワーク状に結合された数理モデルである。深層学習の基本となるNeural Networkを3次元に構築し、畳み込みを行うConvolution layerを含めて構成した、3D Convolutional Neural Networksを用いた。
【0083】
横軸のデータ量が0のときがモデル更新前の予測誤差である。
図4より、モデル更新を行うことで、予測誤差が小さくなることを把握できる。また、距離dが大きいカメラAの方がカメラBに比べて予測誤差が大きいことがわかる。つまり、時間経過による予測精度の低下が大きいことがわかる。また、その傾向は、使用する通信品質予測モデルにも依存している。この通信品質予測モデルに対し、一定量以上のデータでモデル更新を行うことで、予測誤差を一定水準(今回は4dBとした)以下まで低減し、予測精度を向上できることを示した。
【0084】
[産業への活用]
本発明は、無線LAN、特にミリ波通信機能を搭載した機器において、通信品質を予測したり、通信品質に基づく制御に用いるシステムにおいて、通信品質モデルの更新を適切に行い、演算負荷を低減したり、データベースに用意するデータの量を削減したり、安定した性能を持つ、通信品質モデルを長期にわたり管理する技術であり、通信品質予測が重要となるミリ波などの高い周波数を用いた無線通信の高信頼化など、高信頼で安定した無線ネットワークを必要とする用途において、特に有用な発明である。
【0085】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、通信品質予測モデルを更新するので、無線通信エリアにおける未来の通信品質の予測精度を向上可能な技術を提供できる。
【0086】
また、本実施形態によれば、通信品質予測モデル毎に更新頻度または更新タイミングを決定し、通信品質予測モデル毎の更新頻度または更新タイミングに基づき、複数の通信品質予測モデルをそれぞれ更新するので、通信品質予測モデルによる予測結果を最適化でき、通信品質予測モデルの管理を適切かつ効率的に行うことができる。
【0087】
また、本実施形態によれば、更新前の通信品質予測モデルに対する更新後の通信品質予測モデルによる通信品質予測精度の改善度に応じて、更新頻度または更新タイミングを決定するので、通信品質の予測精度をより向上可能な技術を提供できる。
【0088】
また、本実施形態によれば、物理空間情報を収集するカメラやセンサの位置と無線通信エリア内で無線通信を行うアクセスポイントおよびユーザ端末の各位置との位置関係を基に、更新頻度または更新タイミングを決定するので、通信品質の予測精度をより向上可能な技術を提供できる。
【0089】
[その他]
本発明は、上記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の要旨の範囲内で数々の変形が可能である。本実施形態に係る通信品質予測モデル更新装置1は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0090】
例えば、本実施形態に係る通信品質予測モデル更新装置1は、
図5に示すように、CPU901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906と、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いて実現できる。メモリ902及びストレージ903は、記憶装置である。当該コンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、通信品質予測モデル更新装置1の各機能が実現される。
【0091】
通信品質予測モデル更新装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよい。通信品質予測モデル更新装置1は、複数のコンピュータで実装されてもよい。通信品質予測モデル更新装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであってもよい。
【0092】
通信品質予測モデル更新装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。通信品質予測モデル更新装置1用のプログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0093】
1…通信品質予測モデル更新装置
11…物理空間情報取得部
12…通信情報取得部
13…データ記憶部
14…通信品質予測モデル記憶部
15…更新ルール決定部
16…モデル更新部
2…通信品質予測装置
3…通信制御装置
4…アクセスポイント
5…ユーザ端末
6…カメラ
901…CPU
902…メモリ
903…ストレージ
904…通信装置
905…入力装置
906…出力装置