(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118434
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20230818BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
H01L21/30 541D
H01L21/30 541H
H01J37/147 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021384
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森田 博文
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101EE03
5C101EE08
5C101EE59
5C101FF02
5C101FF27
5C101FF57
5C101GG02
5C101GG19
5C101HH03
5F056AA07
5F056BA08
5F056CB29
5F056CB30
5F056CB32
(57)【要約】
【課題】マルチ荷電粒子ビーム照明系収差を効率良く、かつ確実に低減させる。
【解決手段】マルチ荷電粒子ビームを複数の要素を含む照明光学系及び対物レンズを順次介して、ステージ上に載置される基板に照射するマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法。この方法では、前記マルチ荷電粒子ビームに含まれる複数の個別ビームの位置を、測定面又は前記マルチ荷電粒子ビームの結像位置を異なる2つ以上の光軸方向の高さとして測定し、前記2つ以上の高さと前記複数の個別ビームの位置に基づいて前記照明光学系の照明系収差相当量である正規化位置差分を算出し、前記複数の個別ビームの各々に対する前記正規化位置差分の値を用いて収差代表値を算出し、前記収差代表値が減少するように、前記複数の要素の少なくともいずれか1つの設定値を調整する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームを複数の要素を含む照明光学系及び対物レンズを順次介して、ステージ上に載置される基板に照射するマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法であって、
前記マルチ荷電粒子ビームに含まれる複数の個別ビームの位置を、測定面又は前記マルチ荷電粒子ビームの結像位置を異なる2つ以上の光軸方向の高さとして測定し、
前記2つ以上の高さと前記複数の個別ビームの位置に基づいて前記照明光学系の照明系収差相当量である正規化位置差分を算出し、
前記複数の個別ビームの各々に対する前記正規化位置差分の値を用いて収差代表値を算出し、
前記収差代表値が減少するように、前記複数の要素の少なくともいずれか1つの設定値を調整する、
マルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法。
【請求項2】
前記光軸方向の高さは、前記マルチ荷電粒子ビームの結像位置の光軸方向の高さであり、
前記対物レンズの励磁を変化させることで前記マルチ荷電粒子ビームの結像位置の高さを変え、前記複数の個別ビームの位置ずれ量を測定し、
前記結像高さの変化に対する位置ずれ量の変化率から、ビーム位置座標に前記対物レンズの励磁変化で生じるビームの倍率と回転の結像位置高さに対する変化率を示す定数を乗じた値を減じて、前記正規化位置差分を算出する、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法。
【請求項3】
前記光軸方向の高さは、前記ステージ上に設けられたビーム位置測定用のマークの表面の光軸方向の高さであり、
前記ビーム位置測定用のマークを上下に動かしてマークの表面の高さを変え、前記複数の個別ビームの位置ずれ量を測定し、
ビーム位置座標にビームの描画面入射位置とランディング角との比率を示す定数を乗じた値から、前記マーク表面の高さの変化に対する位置ずれ量の変化率を減じて、前記正規化位置差分を算出する、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法。
【請求項4】
前記複数の要素は、照明レンズ、アライナ偏向器、スティグメータ、六極子、八極子及び格子レンズの少なくともいずれか1つを含む、請求項1乃至3のいずれかに記載のマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法。
【請求項5】
マルチ荷電粒子ビームを、複数の要素を含む照明光学系及び対物レンズを順次介して、ステージ上に載置される基板に照射するマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系を調整するプログラムであって、
前記マルチ荷電粒子ビームに含まれる複数の個別ビームの位置を、測定面又は前記マルチ荷電粒子ビームの結像位置を異なる2つ以上の光軸方向の高さとして測定するステップと、
前記2つ以上の高さと前記複数の個別ビームの位置に基づいて、前記照明光学系の照明系収差相当量である正規化位置差分を算出するステップと、
前記複数の個別ビームの各々に対する前記正規化位置差分の値を用いて収差代表値を算出するステップと、
前記収差代表値が減少するように、前記複数の要素の少なくともいずれか1つの設定値を調整するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の開口を持った成形アパーチャアレイ基板に通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが光学系で縮小され、偏向器で偏向され試料上の所望の位置へと照射される。
【0004】
マルチビーム描画装置では、描画パターンの位置精度及び解像度を高めるために、描画面(試料面)でのマルチビームの歪み及び収差を低減する必要がある。描画面でのマルチビームの歪み及び収差に対しては、照明系収差が大きな影響を与えるため、照明系収差の低減が求められる。なお、照明系収差は、照明系で生じる理想的設計軌道からのずれであり、ビーム軌道の途中に形成されるクロスオーバ(実質的光源像)の収差の原因となる。従って、照明系収差とクロスオーバ収差は実質的に同じであるが、本明細書では照明系収差を使用する。
【0005】
しかし、従来、照明系収差を精度良く測定することができず、収差が十分に低減できているか否か確認できなかったため、照明系の調整が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-22616号公報
【特許文献2】特開2006-86182号公報
【特許文献3】特開2017-220615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、照明系収差を効率良く、かつ確実に低減させることができるマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法及びプログラムを提供することを課題とする。
なお、「光学系」とは、荷電粒子ビームの技術分野で通常用いられるように「荷電粒子光学系」を意味するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法は、マルチ荷電粒子ビームを複数の要素を含む照明光学系及び対物レンズを順次介して、ステージ上に載置される基板に照射するマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系調整方法であって、前記マルチ荷電粒子ビームに含まれる複数の個別ビームの位置を、測定面又は前記マルチ荷電粒子ビームの結像位置を異なる2つ以上の光軸方向の高さとして測定し、前記2つ以上の高さと前記複数の個別ビームの位置に基づいて前記照明光学系の照明系収差相当量である正規化位置差分を算出し、前記複数の個別ビームの各々に対する前記正規化位置差分の値を用いて収差代表値を算出し、前記収差代表値が減少するように、前記複数の要素の少なくともいずれか1つの設定値を調整するものである。
【0009】
本発明の一態様によるプログラムは、マルチ荷電粒子ビームを、複数の要素を含む照明光学系及び対物レンズを順次介して、ステージ上に載置される基板に照射するマルチ荷電粒子ビーム装置の光学系を調整するプログラムであって、前記マルチ荷電粒子ビームに含まれる複数の個別ビームの位置を、測定面又は前記マルチ荷電粒子ビームの結像位置を異なる2つ以上の光軸方向の高さとして測定するステップと、前記2つ以上の高さと前記複数の個別ビームの位置に基づいて、前記照明光学系の照明系収差相当量である正規化位置差分を算出するステップと、前記複数の個別ビームの各々に対する前記正規化位置差分の値を用いて収差代表値を算出するステップと、前記収差代表値が減少するように、前記複数の要素の少なくともいずれか1つの設定値を調整するステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、照明系収差を効率良く、かつ確実に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る描画装置の概略構成図である。
【
図3】同実施形態に係る光学系の調整方法を説明するフローチャートである。
【
図4】同実施形態に係る光学系の調整方法を説明するフローチャートである。
【
図5】(a)(b)は個別ビームの位置ずれ量を測定する際の高さの変え方の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態では、マルチ荷電粒子ビーム装置の光学系の一例として、電子ビームを用いたマルチビーム描画装置における光学系の構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、描画装置ではなく、SEM等の光学系に適用する事も可能である。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るマルチビーム描画装置の概略構成図である。
図1に示すように、マルチビーム描画装置は、描画部Wと制御部Cを備えている。描画部Wは、電子光学鏡筒102と描画室103を備えている。電子光学鏡筒102内には、電子銃201、照明光学系IL、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、制限アパーチャ基板206、偏向器208、及び対物レンズ210が配置されている。
【0014】
照明光学系ILは、成形アパーチャアレイ基板203にビームを照射するとともに、下流の所定の位置にクロスオーバCOを形成させる働きをする。クロスオーバCOは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴を通過した個別ビームの各中心軌道が1つにまとまる所であり、多くの光学系では本実施例のように、電子銃201の近傍に形成されたクロスオーバ(実質的光源、虚像の場合もある)の像となっている。
【0015】
図1に示した例では、照明光学系ILは、成形アパーチャアレイ基板203よりも上方(ビーム進行方向の上流側)に設けられていて、上流の1つのレンズでビーム照射とクロスオーバCO形成の機能を実現している。このような構成例とは別に、成形アパーチャアレイ基板203に電子ビームを垂直に照射する光学系では、下流の所定の位置にクロスオーバCOを形成させるために、成形アパーチャアレイ基板203の後段に配置されたレンズで再度ビームを収束させる構成とする例もある。この場合、成形アパーチャアレイ基板203の後段のレンズ(クロスオーバCOを形成させるためのレンズ)も、機能的に照明光学系ILの一部となっている。
【0016】
照明光学系ILは、複数の構成要素を含む。
図1に示す例では、照明光学系ILは、照明レンズ202、アライナ230、スティグメータ232、六極子234、八極子236及び格子レンズ238を有する。
【0017】
アライナ230は、ビームを偏向させる機能を持ち、照明レンズ202や成形アパーチャアレイ基板203でのビームの位置や角度を調整し、主に照明レンズ系のコマ収差やクロスオーバCOの平面内での位置を補正する。
【0018】
スティグメータ232は、照明レンズ系の非点収差を補正する。
【0019】
六極子234は、照明レンズ系の六極子収差成分を補正する。
【0020】
八極子236は、照明レンズ系の八極子収差成分を補正する。
【0021】
格子レンズ238は、照明レンズ系の球面収差を補正する。
【0022】
照明光学系IL及び成形アパーチャアレイ基板203よりも下方(ビーム進行方向の下流側)にも、アライナや多極子(スティグメータ、六極子、八極子など)が配置されるが、図示は省略している。
【0023】
描画室103内には、XY方向(電子光学系の光軸に垂直な方向)に移動可能なXYステージ105、及び検出器220が配置される。XYステージ105はZ方向(電子光学系の光軸方向)に移動可能であってもよい。XYステージ105上には、描画対象の基板10が配置される。基板10には、半導体装置を製造する際の露光用マスクや、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、基板10には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。
【0024】
XYステージ105上には、さらに、マーク20が設けられている。マーク20はZ方向に移動可能であってもよい。マーク20は、例えば十字形状や微小ドット形状の金属製マークである。検出器220は、マーク20をビームスキャンした際の反射電子(又は二次電子)を検出する。
【0025】
また、XYステージ105上には、ステージの位置測定用のミラー30が配置される。
【0026】
制御部Cは、制御計算機110、制御回路120、検出回路122及びステージ位置検出器124を有している。ステージ位置検出器124は、レーザを照射し、ミラー30からの反射光を受光し、レーザ干渉法の原理でXYステージ105の位置を検出する。
【0027】
図1では、実施の形態を説明する上で必要な構成を示しており、その他の構成の図示は省略している。例えば、
図1では、対物レンズ210は一段としているが、二段とするなど多段としてもよい。照明レンズ202についても多段としてもよい。
【0028】
図2は成形アパーチャアレイ基板203の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の開口(第1開口部)203aが所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。各開口203aは、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。開口203aは円形であっても構わない。これらの複数の開口203aを電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビームMBが形成される。
【0029】
ブランキングアパーチャアレイ機構204は、成形アパーチャアレイ基板203の下方に設けられ、成形アパーチャアレイ基板203の各開口203aの配置位置に合わせて通過孔(第2開口部)が形成されている。各通過孔には、対となる2つの電極の組からなるブランカが配置される。ブランカの一方の電極はグラウンド電位で固定されており、他方の電極をグラウンド電位と別の電位とに切り替える。各通過孔を通過する電子ビームは、ブランカに印加される電圧によってそれぞれ独立に偏向される。このように、複数のブランカが、成形アパーチャアレイ基板203の複数の開口203aを通過したマルチビームMBのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0030】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により屈折させられ、成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。電子ビーム200は、複数(全て)の開口203aが含まれる領域を照明する。電子ビーム200の一部が、成形アパーチャアレイ基板203の複数の開口203aを通過することによって、複数の電子ビーム(マルチビームMB)が形成される。マルチビームMBは、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランカは、それぞれ、通過するビームを、設定された描画時間(照射時間)ビームがON状態になるようにブランキング制御する。
【0031】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビームMBは、照明レンズ202による屈折により、制限アパーチャ基板206の中心に形成された開口部(第3開口部)に向かって進む。そして、マルチビームMBは、制限アパーチャ基板206の開口部の高さ位置でクロスオーバCOを形成する。
【0032】
ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカによって偏向されたビームは、制限アパーチャ基板206の開口部から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカによって偏向されなかったビームは、制限アパーチャ基板206の開口部を通過する。このように、制限アパーチャ基板206は、各ブランカによってビームOFFの状態になるように偏向されたビームを遮蔽する。
【0033】
ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットの各ビームが形成される。制限アパーチャ基板206を通過したマルチビームMBの各ビームは、対物レンズ210により、成形アパーチャアレイ基板203の開口203aの所望の縮小倍率のアパーチャ像となり、基板10上に焦点調整される。そして、偏向器208によって、制限アパーチャ基板206を通過した各ビーム(マルチビーム全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの基板10上のそれぞれの照射位置に照射される。
【0034】
例えば、XYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によって制御される。一度に照射されるマルチビームMBは、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の開口203aの配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、不要なビームはブランキング制御によりビームオフに制御される。
【0035】
基板10に描画するパターンの位置精度及び解像度を高めるためには、照明光学系ILで生じる照明系収差を低減する必要がある。照明系収差を低減するための光学系調整方法を
図3、
図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0036】
まず、描画面付近の異なる2つ以上の高さにおいて、マルチビームを構成する多数の個別ビームのうち、複数の個別ビームの位置ずれ量を測定する(ステップS1)。例えば、測定対象の個別ビームのみを1本ずつ順にオンにし、偏向器208でビームを偏向してマーク20をスキャンし、マーク20で反射された電子を検出器220で検出する。検出回路122は、検出器220で検出された電子量を制御計算機110へ通知する。制御計算機110は、検出された電子量からスキャン波形(スキャン画像を含む)を取得し、XYステージ105の位置を基準に、個別ビームの位置を算出する。算出したビーム位置と、理想位置との差分が位置ずれ量となる。位置ずれ量は、歪と呼ばれることがある。なお、近接するビームの複数をまとめて(例えば、16×16本で)スキャンして得られた、複数ビームの平均的な位置ずれ量を、複数ビームの中心位置にあると想定するビームの位置ずれ量としてもよい。
【0037】
オンする個別ビームを順に切り替えて、各ビームの位置ずれ量を求める。複数のビームの個々の位置ずれ量を測定する理由は、照明系収差はマルチビーム全体に影響を与えているので、照明系収差を算出するには複数のビームの情報が必要だからである。1つのビームの位置ずれ量や、ビーム全体の平均的位置ずれ量の情報からは、照明系収差の評価はできない。位置ずれ量を求める個別ビームの数は、例えば、マルチビームを構成する512×512本のビームから、等間隔に5×5本のビームを測定対象として選択する。
【0038】
なお、個別ビームの数は、後述する収差代表値の算出方法に応じて最低限必要な個数が決まる。例えば正規化位置差分の多項式近似の3次までの成分を収差代表値の算出に利用する場合は、3次までの多項式係数の個数(すなわち10個)と同数以上の個別ビームの位置ずれ量を測定するとよい。
【0039】
なお、「高さが異なる」あるいは「高さを変える」とは、
図5(a)に示すような、XYステージ105をZ方向(光軸方向)に移動させ、位置測定に使用するマーク20の表面(測定面)の光軸方向の高さを変え、マルチビームの結像高さは固定する「測定面高さ変更・結像高さ固定」でもよいし、
図5(b)に示すような、測定面の高さは変えず、マルチビームの結像位置の光軸方向の高さを変える「測定面高さ固定・結像高さ変更」であってもよい。ここで、結像高さの変更は、対物レンズ210の励磁を変更することにより行う。
【0040】
本実施形態では、高さz1と、高さz2の2つの高さで測定を行う例について説明する。高さz1と高さz2の差は、数μm~数十μm程度が好ましい。なお、高さz1、z2において、ビームはマーク20の表面(測定面)にジャストフォーカスしている必要はない。例えば、1つの高さではジャストフォーカス、もう1つの高さではフォーカスずれが生じていてよいし、両方の高さでフォーカスずれが生じていてもよい。
【0041】
高さz1におけるj番目の測定対象の個別ビームの理想位置(基準位置)を(xj、yj)、対応する複素座標をβj=xj+iyj、位置ずれ量をδw(βj、z1)とする。δw(βj、z1)は複素数であり、実部がx方向の位置ずれ量、虚部がy方向の位置ずれ量に対応する。この位置ずれ量は、理想位置からの位置ずれなので、歪に相当するものである。測定対象の個別ビームの数をNとすると、1≦j≦Nとなる。なお、通常の電子光学系解析等と同様に、個別ビームの理想位置(xj、yj)の原点は電子光学系の光軸とする(つまり、電子光学系の光軸が測定面に交差する点を原点とする)。
【0042】
同様に、高さz2での測定対象の個別ビームの位置ずれ量はδw(βj、z2)と表される。
【0043】
次に、ステップS1で求めた2つの高さでの位置ずれ量δw(βj、z1)及びδw(βj、z2)と、下記の式とを用いて、光学系収差に対応する照明系収差相当量である正規化位置差分δwH(βj)を算出する(ステップS2)。以下、δwH(βj)を正規化位置差分と呼ぶ。正規化位置差分は、後述するように、照明系収差相当量になる。正規化位置差分δwH(βj)の計算式は、ステップS1での高さ設定方法によって異なる。
【0044】
ステップS1での高さ設定方法が「測定面高さ固定・結像高さ変更」である場合、以下の式(1)を用いて正規化位置差分δwH(βj)を算出する。
【0045】
【0046】
照明系の収差に比例して、対物レンズ内のビーム通過位置が変化する。ここで、対物レンズ励磁を変化させると、ビーム通過位置のレンズ中心からの距離に比例して結像面でのビーム位置が変化する。また、同時に、対物レンズ励磁の変化に比例して結像高さが変わる。上記の式(1)の第1項は、結像高さに対するビーム位置の変化の比率を算出しており、これは照明系収差に比例する。
【0047】
ただし、式(1)の第1項には、照明系収差で生じる成分だけでなく、照明系収差が無い理想的な状態でも生じる成分が含まれる。ステップS1での高さ設定方法が「測定面高さ固定・結像高さ変更」である場合、照明系収差が無い理想的な場合でも生じる成分は、対物レンズ励磁を変化させた時の、ビームの倍率と回転の結像高さに対する変化率を示す定数にビーム位置座標を乗じた量である。
【0048】
従って、式(1)の第1項から、照明系収差が無い理想的な場合でも生じる成分である第2項を減じ、照明系収差相当量となる正規化位置差分δw
H(β
j)が求まる。式(1)のk
Hは複素数であり、
図1に示す描画装置が理想的に製作・調整された場合に、測定面高さ固定で対物レンズ励磁を変化させた時の、ビームの倍率と回転の変化率を示す定数である。定数k
Hの実数部が倍率変化に対応し、虚数部が回転変化に対応する。この定数k
Hは、ビーム軌道シミュレーションにより算出できる。なお、高さz
1、z
2の正とする方向は、定数k
Hの算出における座標の取り方と整合を取り決定する。
【0049】
色収差係数をシミュレーションで算出し、軸上色収差係数kX、倍率色収差係数kTを用いて、定数kHをkH=kT/kXのように算出してもよい。なお、対物レンズが静電レンズの場合は、励磁変化でなく、印加電圧変化に対する同様の定数を算出して用いればよい。対物レンズでなく、静電焦点補正レンズ(図示略)の印加電圧を変えることで、マルチビームの結像高さを変えてもよい。また、これまでの説明では、1つの対物レンズの励磁を変化させて結像高さを変える例を説明したが、複数の対物レンズの励磁を変化させてもよい。この場合は、一定の比率で複数の対物レンズの励磁量を変化させ、定数kHは前記一定の比率で励磁量を変化させる条件で軌道シミュレーションを行い算出する。
【0050】
ステップS1での高さ設定方法が「測定面高さ変更・結像高さ固定」である場合、以下の式(2)を用いて正規化位置差分δwH(βj)を算出する。式(2)の第1項は、測定面高さに対するビーム位置の変化の比率を算出している。式(1)の第1項は結像面の高さに対して、式(2)の第1項は測定面の高さに対してであるが、ともに高さに対するビーム位置の変化の比率を算出するものである。
【0051】
【0052】
照明系の収差に比例して、対物レンズ内のビーム通過位置が変化し、その結果、測定面へのランディング角(入射角)が変化する。ここで、測定面の高さを変化させると、ランディング角に比例して測定面でのビーム位置が変化する。上記の式(2)の第1項は、測定面高さに対するビーム位置の変化の比率すなわちランディング角を算出しており、これは照明系収差に比例する。
【0053】
ただし、式(2)の第1項には、照明系収差で生じる成分だけでなく、照明系収差が無い理想的な状態でも生じる成分が含まれる。
【0054】
ステップS1での高さ設定方法が「測定面高さ変更・結像高さ固定」である場合、照明系収差が無い理想的な場合でも生じる成分は、試料面ビーム位置とランディング角(設計上の理想的ランディング角)との比率を示す定数にビーム位置座標を乗じた量である。従って、式(2)の第1項から、照明系収差が無い理想的な場合でも生じる成分である第2項を減じ、照明系収差相当量となる正規化位置差分δwH(βj)が求まる。
【0055】
式(2)のL
Aは複素数であり、
図1に示す描画装置が理想的に製作・調整された場合に、個別ビームの描画面入射位置とランディング角との比率を示す定数である。定数L
Aの実数部が半径方向のランディング角に、虚数部が回転方向のランディング角に対応する。この定数L
Aは、ビーム軌道シミュレーションで算出された軸外起動w
bを用いて、L
A=w
b´(z
i)/w
b(z
i)のように算出される。ここでz
iは像面座標値(結像面位置)である
。なお、高さz
1、z
2の正とする方向は、定数L
Aの算出における座標の取り方と整合を取り決定する。
【0056】
次に、照明系収差相当量(すなわち正規化位置差分δwH(βj))から収差代表値を算出する(ステップS3)。収差代表値は、例えば、正規化位置差分δwH(βj)の要素(各ビームに対する値)の絶対値の二乗の総和の平方根である。
【0057】
正規化位置差分δwH(βj)を、ビーム位置をパラメータとする多項式で近似し、その低次成分の和(例えば、0次から3次までの成分のビーム領域端における絶対値の和)を、収差代表値としてもよい。また、正規化位置差分δwH(βj)にフーリエ変換を行い、低次成分の絶対値等を適宜選択してもよい。
【0058】
続いて、照明光学系ILの構成要素の設定値を順に調整する。照明光学系ILの構成要素は、照明レンズ202、アライナ230、スティグメータ232、六極子234、八極子236、格子レンズ238等である。これらの構成要素の中から、未選択のものを1つ選択する(ステップS4)。なお、アライナのようにXY2つの設定値を持つ要素は、XYを別の要素として扱い、例えば、最初にアライナX、次にアライナYの順に選択する。
【0059】
選択した構成要素の設定値を所定量変化(微動)させる(ステップS5)。設定値とは、励磁電流や印加電圧などである。
【0060】
設定値の変更後、2つ以上の高さにおける個別ビームの位置ずれ量の測定(ステップS6)、正規化位置差分の算出(ステップS7)、収差代表値の算出(ステップS8)を行う。ステップS6~S8の処理は、上述のステップS1~S3と同様であるため、説明を省略する。
【0061】
構成要素の設定値変更により収差代表値が減少した場合(ステップS9_Yes)、ステップS5に戻り、構成要素の設定値を前回変更と同じ方向にさらに所定量変化させる。収差代表値が減少しなくなるまでステップS5~S8の処理を繰り返す。
【0062】
事前に、構成要素毎に、設定値の変更量と、正規化位置差分や収差代表値の変化量との関係や傾向を、実測やシミュレーション等で求めておき、ステップS5の設定値変更に利用してもよい(すなわち、前記所定量の決定に利用してもよい)。
【0063】
構成要素の設定値変更により、収差代表値が増加したか、又は変化しなかった場合(ステップS9_No)、構成要素の設定値を1つ前の状態に戻す(ステップS10)。ステップS5での設定値変更の回数を判定する(ステップS11)。変更回数が1回である場合は、設定値を変化させる方向を反転して(ステップS12)、ステップS5に戻り、構成要素の設定値を所定量変化させる。
【0064】
例えば、1回目の設定値変更で印加電圧を所定量増加させたところ、収差代表値が増加した場合、設定値を初期値に戻し、2回目の設定値変更では印加電圧を所定量減少させる。
【0065】
設定値変更の回数が2回以上である場合は、この構成要素の設定値調整を終了する。設定値の調整を行っていない構成要素がある場合(ステップS13_No)、ステップS4に戻る。照明光学系ILの全ての構成要素について、順に、ステップS5~S12の処理を行い、設定値を調整する。
【0066】
照明光学系ILの構成要素の設定値調整順は特に限定されないが、一例としては、アライナ230、照明レンズ202、スティグメータ232、六極子234、八極子236、格子レンズ238の順に設定値を調整する。アライナ230の設定値を変更すると、ビーム軌道が大きく変わり、収差も大きく変化することが多いため、アライナ230の設定値を最初に調整することが効率的な場合が多い。
【0067】
全ての構成要素の設定値の調整後(ステップS13_Yes)、再度、ステップS4に戻る。このループ(ステップS4からステップS13までのループ)を所定回(通常2~5回程度)繰り返す。
【0068】
ステップS4からステップS13までのループを所定回実行した後(ステップS14_Yes)、公知の方法により、ブランキングアパーチャアレイ機構204よりも下方(ビーム進行方向の下流側)に設けられたアライナや多極子等の励磁を調整して、描画面でのビームアレイ像の歪みを調整する(ステップS15)。また、対物レンズ210の励磁を僅かに変化させたときの描画面でのビーム移動(全ビームの移動の平均、または、全ビームの中心付近のビームの移動)を測定し、ビーム移動量が最小になるように、アライナや多極子等の励磁を調整する。
【0069】
このようにして、光学系の調整を行った描画装置を用いて、基板10にパターンを描画する。まず、制御計算機110が、記憶装置(図示略)から描画データを読み出し、描画データに対し複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成する。ショットデータには、各ショットの照射量及び照射位置座標等が定義される。
【0070】
制御計算機110は、ショットデータに基づき各ショットの照射量を制御回路120に出力する。制御回路120は、入力された照射量を電流密度で割って照射時間tを求める。そして、制御回路120は、対応するショットを行う際、照射時間tだけビームONするように、対応するブランカに印加する偏向電圧を制御する。
【0071】
制御計算機110は、ショットデータが示す位置(座標)に各ビームが偏向されるように、偏向位置データを制御回路120に出力する。制御回路120は、偏向量を演算し、偏向器208に偏向電圧を印加する。これにより、その回にショットされるマルチビームがまとめて偏向される。
【0072】
以上のように、本実施形態によれば、照明系収差を効率良く、かつ確実に低減させ、基板に位置精度及び解像度の高いパターンを描画できる。
【0073】
以下の式(3)のような簡易式を用いて正規化位置差分δwH(βj)を求めてもよい。この式は、上記式(1)、(2)の第2項を省略した簡易式であり、ステップS1、S6での高さ設定方法によらず適用可能である。上記式(1)、(2)と比較すると、kHまたはLAの項が省略されているが、通常これらの係数が小さくなるように光学設計されることが多いので、多くの場合これらの項を省略しても影響は小さい。なお、式(2)の第1項の符号は式(3)の符号と異なるが、収差代表値を算出する際に絶対値を取る等により符号の影響を除去すればよい。
【0074】
【0075】
また、高さz1、z2が一定である場合は、以下の式(4)のようなさらに簡略化した数式を用いて、正規化位置差分δwH(βj)を求めてもよい。
【0076】
【0077】
上記実施形態では式(1)、(2)の第1項に示すように、2つの高さにおける位置ずれ量の差分を求めていたが、2つの高さにおける各ビームの位置の差分を用いてもよい。また、2つの高さにおける位置ずれ量を用いていたが、3つ以上の高さにおける位置ずれ量を用いてもよい。3つ以上の高さを用いる場合、式(1)、(2)の第1項は、単純な割り算でなく、高さ変化に対する位置ずれ量の変化率を用いればよい。変化率は、例えば最小自乗法で算出できる。
【0078】
上記の光学系調整方法の各ステップは、制御計算機110が制御回路120、検出回路122及びステージ位置検出器124を制御し、描画部Wの各部を動作させることで、実行される。制御計算機110は、電気回路等のハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御計算機110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、電気回路を含むコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。
【0079】
これまでの説明では、ビームの位置ずれ量の測定を、マークをスキャンして得られる信号により行う例を示したが、描画パターンの歪測定で代替してもよい。例えば、対物レンズ励磁を変える事によりビーム結像位置の高さを変えてパターン描画を行い、そのパターンの歪計測により行ってもよい。
【0080】
さらには、構成要素の設定値を順次変えながら、2つの励磁でパターン描画を行い、それらのパターンの歪計測を行い、正規化位置差分を算出し、収差代表値を算出し、最も収差代表値の小さくなる構成要素設定値を選択し、設定してもよい。
【0081】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 基板
20 マーク
102 電子光学鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
120 制御回路
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
204 ブランキングアパーチャアレイ機構
206 制限アパーチャ基板
208 偏向器
210 対物レンズ
230 アライナ
232 スティグメータ
234 六極子
236 八極子
238 格子レンズ