(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119202
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】酸素阻害低減剤、重合性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/38 20060101AFI20230821BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20230821BHJP
C07C 235/84 20060101ALI20230821BHJP
C07D 311/86 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F20/00 510
C07C235/84
C07D311/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021940
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
(72)【発明者】
【氏名】糸山 諒介
(72)【発明者】
【氏名】矢野 章世
【テーマコード(参考)】
4H006
4J011
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB80
4J011AA05
4J011AC04
4J011NA23
4J011NB03
4J011QA24
4J011SA84
4J011TA01
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA01
(57)【要約】
【課題】硬化物の黄変を伴わず、酸素による硬化阻害を効果的に低減できる酸素阻害低減剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を含む酸素阻害低減剤。
(式(1)中、-X-は、存在しても、存在しなくてもよく、存在する場合、Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。Aは、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合を含んでもよい、アルキレン基を表す。Yは、炭素数1から18のフルオロアルキル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含む酸素阻害低減剤。
【化1】
(式(1)中、-X-は、存在しても、存在しなくてもよく、存在する場合、Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。Aは、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合を含んでもよい、アルキレン基を表す。Yは、炭素数1から18のフルオロアルキル基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の酸素阻害低減剤と、ラジカル重合性化合物を含むことを特徴とする重合性組成物。
【請求項3】
請求項2記載の重合性組成物から形成されることを特徴とする硬化物。
【請求項4】
請求項2記載の重合性組成物を活性エネルギー線で照射する工程を含むことを特徴とする硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素阻害低減剤、重合性組成物、硬化物、及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂組成物の光硬化においては、塗膜表面からの酸素の塗膜内への拡散および塗膜内の溶存酸素によって硬化阻害を受ける。特に、空気と直接接触する塗膜表面は酸素阻害を受けやすく、表面の硬化不良により、外観異常や表面物性の低下が生じる。このため、酸素による硬化阻害を効果的に低減できる光硬化系の開発が求められている。
【0003】
酸素阻害は、一般に次のような機構で生じることが知られている。光硬化性樹脂組成物への光照射によって光重合開始剤から活性ラジカル種が生じ、モノマー中の不飽和結合を攻撃することで成長ラジカル種が生成して硬化が進行する。ここで酸素が存在すると、成長ラジカル種が酸素にトラップされてペルオキシラジカル種が生成する。ペルオキシラジカル種はモノマーと反応しないため、硬化が阻害される。
【0004】
酸素阻害を低減する方法として、光硬化性樹脂組成物全体に占める光重合開始剤の添加部数の割合を増やす方法がある。しかし、光重合開始剤の添加部数を増やすと、塗膜物性の低下や、塗膜表面への光重合開始剤のブリードアウト等の問題が生じる。
【0005】
また、酸素阻害を低減するための酸素阻害低減剤として、アミン化合物を使用する方法が特許文献1に開示されている。アミン化合物は、ペルオキシラジカル種から水素引き抜きを受けることで自身が活性ラジカル種となり、酸素によって停止した硬化を再度進行させる効果がある。しかし、アミン化合物による酸素阻害の低減効果は十分でなく、また、硬化物が黄変するため、適用できる条件が限定される。このことから、更なる改善が望まれている。
【0006】
また、非特許文献1では、高分子鎖中に含まれるケトン化合物に光照射することによって、有機過酸化物を効率的に増感分解する方法が開示されている。ペルオキシラジカル種の再結合もしくは水素引き抜きによって生じた有機過酸化物のケトン化合物による増感分解は、ケトン化合物が触媒的に作用することと、1つの過酸化結合から2つの活性ラジカル種を再生できることから、少ない添加部数で効率的に酸素による硬化阻害を低減することができると推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【0008】
【非特許文献1】macromolecules,1978,11,937-942.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、硬化物の黄変を伴わず、酸素による硬化阻害を効果的に低減できる酸素阻害低減剤を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明は、重合性組成物およびその硬化物と、当該硬化物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を含む酸素阻害低減剤に関する。
【化1】
(式(1)中、-X-は、存在しても、存在しなくてもよく、存在する場合、Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。Aは、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合を含んでもよい、アルキレン基を表す。Yは、炭素数1から18のフルオロアルキル基を表す。)
【0012】
また、本発明は、前記酸素阻害低減剤と、ラジカル重合性化合物を含む重合性組成物、および該重合性組成物から形成される硬化物と、当該硬化物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記一般式(1)で表される化合物は、アリールケトン構造を有することにより、光硬化時に酸素阻害によって生じたペルオキシラジカル種を有する化合物を増感分解することで、酸素による硬化阻害を効果的に低減することができ、硬化物の黄変も伴わない。また、フルオロアルキル基を有することで、塗膜表面に偏析するため、最も酸素阻害の影響を受けやすい塗膜表面の硬化不良を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<酸素阻害低減剤>
本発明の酸素阻害低減剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。
【化2】
(式(1)中、-X-は、存在しても、存在しなくてもよく、存在する場合、Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。Aは、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合を含んでもよい、アルキレン基を表す。Yは、炭素数1から18のフルオロアルキル基を表す。)
【0015】
前記一般式(1)中、Xは、ランプの光に対する感度が高くなり、増感分解の効率が高くなる観点から、酸素原子又は硫黄原子が好ましい。
【0016】
前記一般式(1)中、Aは、炭素数が0から6のアルキレン基が好ましい。前記アルキレン基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。これらの中でも、合成が容易である観点から、Aは、エーテル結合、エステル結合、アミド結合を含むことが好まく、エーテル結合、アミド結合を含むことが特に好ましい。
【0017】
前記一般式(1)中、フルオロアルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。炭素数は1から18が好ましく、2から7が特に好ましい。
【0018】
前記一般式(1)で表される化合物の製造方法は、例えば、ヒドロキシ基置換アリールケトン誘導体を、塩基の存在下、ハロゲン化フルオロアルキル化合物と反応させる工程、カルボキシ基置換アリールケトン誘導体を、加熱還流下、ヒドロキシフルオロアルキル化合物と反応させる工程、カルボキシ基置換アリールケトン誘導体を、縮合剤の存在下、アミノフルオロアルキル化合物と反応させる工程、を含む方法など、公知の技術を広く使用することができる。なお、反応後には、余剰の原料等を減圧留去(除去)する工程や、精製工程を含んでも良い。
【0019】
<重合性組成物>
本発明の重合性組成物は、前記一般式(1)で表される化合物、ラジカル重合性化合物を含有する。さらに、重合性組成物は、アルカリ可溶性樹脂を含有することで現像性を付与することができる。また、重合性組成物は、その他の成分を適宜組み合わせて含有させることができる。
【0020】
<ラジカル重合性化合物>
本発明のラジカル重合性化合物としては、エチレン性不飽和基を有する化合物を好ましく用いることができる。ラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、イタコン酸エステル類、桂皮酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、ビニルケトン類、アリルエーテル類、アリルエステル類、N-置換マレイミド類、N-ビニル化合物類、不飽和ニトリル類、オレフィン類等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高い(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。ラジカル重合性化合物は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0021】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、単官能化合物および多官能化合物を使用することができる。単官能化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2―エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するモノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の鎖状または環状のエーテル結合を有するモノマー等;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の窒素原子を有するモノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマー;リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等のリン原子を有するモノマー;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子を有するモノマー;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を有するモノマー;(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するモノマー等が挙げられる。
【0022】
前記多官能化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)フェニル)フルオレン等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルチオフェニル)スルフィド、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ジルコニウム、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。
【0023】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、重合性組成物の感度の向上、酸素阻害の低減や、硬化物の塗膜の機械的強度や硬度、耐熱性、耐久性、耐薬品性の向上の観点から、前記多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物が好ましく、特に、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、前記ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1から40質量部であることが好ましく、0.5から20質量部であることがより好ましく、1から15質量部であることがさらに好ましい。
【0025】
<アルカリ可溶性樹脂>
前記重合性組成物は、さらにアルカリ可溶性樹脂を配合することにより、ネガ型レジストとして好適に使用することができる。アルカリ可溶性樹脂としては、ネガ型レジストに一般的に使用されるものを用いることができ、アルカリ水溶液に可溶な樹脂であれば特に限定されないが、カルボキシル基を含む樹脂であることが好ましい。アルカリ可溶性樹脂は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0026】
前記重合性組成物には、硬化を促進したり、硬化物の物性を向上させる目的で、重合開始剤を加えることができる。重合開始剤は、活性エネルギー線により分解し、発生した活性種がラジカル重合性化合物の重合(硬化)を開始する働きを有する。重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0027】
前記重合開始剤としては、公知のものが使用でき、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒロドキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα―ヒドロキシアセトフェノン誘導体;2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(N,N-ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα―アミノアセトフェノン誘導体;ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、エチル(メシチルカルボニル)フェニルホスフィナート等のアシルホスフィンオキサイド誘導体;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-[({1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エチリデン}アミノ)オキシ]エタノン、等のオキシムエステル誘導体;2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(3,4-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)1,3,5-トリアジン、2-(4-エトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチルトリアジン誘導体;2,2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン等のベンジルケタール誘導体;イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体、4-(4-メチルフェニルチオ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;3-ベンゾイルー7-ジエチルアミノクマリン、3,3‘-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)等のクマリン誘導体;2-(2-クロロフェニル)-1-[2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-1,3-ジアゾール-2-イル]-4,5-ジフェニルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;3,3‘、4,4’-テトラキス(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジベンゾイルペルオキシド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;カンファーキノン等が挙げられる。
【0028】
前記重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1から40質量部であることが好ましく、0.5から20質量部であることがより好ましく、1から15質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
前記重合性組成物には、粘度や塗装性、硬化膜の平滑性の改良のため、更に溶媒を加えることもできる。溶媒は、前記ラジカル重合性化合物等を、溶解または分散することができるものであり、乾燥温度において揮発する溶媒であれば、特に制限されるものではない。
【0030】
前記溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、カルビトール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ラクトン系溶媒、不飽和炭化水素系溶媒、セロソルブアセテート系溶媒、カルビトールアセテート系溶媒やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0031】
前記溶媒の使用量は、重合性組成物の固形分100質量部に対して、10から1000質量部であることが好ましく、20から500質量部であることがより好ましい。
【0032】
<重合性組成物の調製方法>
前記重合性組成物を調製する場合には、収納容器内に前記酸素阻害低減剤、前記ラジカル重合性化合物、必要に応じて、前記アルカリ可溶性樹脂や前記その他の成分を投入し、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドグラインドミル、ボールミル、アトライターミル、2本ロールミル、3本ロールミル等を用いて、常法に従って溶解または分散させればよい。また、必要に応じて、メッシュまたはメンブレンフィルター等を通してもろ過してもよい。
【0033】
なお、前記重合性組成物の調製において、酸素阻害低減剤および重合開始剤は、重合性組成物に最初から添加しておいてもよいが、重合性組成物を比較的長時間保存する場合には、使用直前に酸素阻害低減剤および重合開始剤を、ラジカル重合性化合物を含む組成物中に溶解または分散させることが好ましい。
【0034】
<硬化物の製造方法>
本発明の硬化物は、前記重合性組成物から形成されるものである。硬化物の製造方法は、例えば、重合性組成物を基板上に塗布後、当該重合性組成物を活性エネルギー線で照射する工程を含む製造方法が挙げられる。
【0035】
前記塗布方法としては、例えば、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スリットコート法、ドクターブレードコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法等の種々の方法が挙げられる。また、前記基板は、例えば、ガラス、シリコンウエハ、金属、プラスチック等のフィルムやシート、および立体形状の成形品等が挙げられ、基板の形状が制限されることは無い。
【0036】
上記の重合性組成物を活性エネルギー線で照射する工程は、電子線、紫外線、可視光線、放射線等の活性エネルギー線の照射により、ラジカル重合性化合物を重合させることで、硬化物を得ることができるものである。
【0037】
活性エネルギー線は、活性エネルギー線の波長が250から450nmの光であることが好ましく、硬化を迅速に行うことができる観点から、350から410nmの光であることがより好ましい。
【0038】
前記光の照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線無電極ランプ、LEDランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、太陽光、YAGレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等のガスレーザー等を使用することができる。なお、必要に応じて、前記添加剤として、その光を吸収する増感剤を使用することにより硬化を行なうことができる。
【0039】
前記活性エネルギー線の露光量は、活性エネルギー線の波長や強度、重合性組成物の組成に応じて適宜設定すべきである。一例として、UV-A領域での露光量は、10から5,000mJ/cm2であることが好ましく、30から1,000mJ/cm2であることがより好ましい。
【0040】
また、前記重合組成物に前記溶媒を含む場合、前記硬化物の製造方法は、乾燥工程を含むことができる。
【0041】
前記乾燥工程において、溶媒を乾燥させる手法は、例えば、加熱乾燥、通風加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱乾燥の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0042】
また、前記乾燥工程において、重合性組成物の温度は、溶媒の蒸発潜熱によって、乾燥の設定温度よりも低くなるため、重合性組成物のゲル化するまでの時間を長く確保することができる。このゲル化するまでの時間は、乾燥手法や膜厚等にも影響されるため、溶媒の選定を含めて乾燥温度と時間は適宜設定すべきである。一例として、乾燥温度は、20から120℃であることが好ましく、40から100℃であることがより好ましい。乾燥時間は1から60分であることが好ましく、1から30分であることがより好ましい。
【0043】
前記重合性組成物の乾燥膜厚(硬化物の膜厚)は、用途に応じて適宜設定されるが、0.05から500μmであることが好ましく、0.1から100μmであることがより好ましい。
【0044】
<パターン形成方法>
前記重合性組成物がアルカリ可溶性樹脂を含む場合、フォトリソグラフィー法によりパターンを形成することができる。前述と同様にして重合性組成物を基材に塗布し、必要に応じて、乾燥して乾燥被膜を形成する。そして、乾燥被膜にマスクを介して活性エネルギー線を照射することにより、露光部ではラジカル重合性化合物が重合することで硬化膜となる。一方、レーザーを用いた直接描画により、マスクを介さずに高精度なパターン形状を作製することもできる。
【0045】
上記の露光後、未露光部は、例えば、0.3から3質量%の炭酸ナトリウム水溶液等のアルカリ現像液により現像除去され、パターン化した硬化膜が得られる。さらに、硬化膜と基材との密着性を高めること等を目的に、後乾燥として180から250℃、20から90分でのポストベークが行われる。このようにして、硬化膜に基づく所望のパターンが形成される。
【0046】
本発明の重合性組成物は、ハードコート剤、光ディスク用コート剤、光ファイバー用コート剤、モバイル端末用塗料、家電用塗料、化粧品容器用塗料、木工用塗料、光学素子用内面反射防止塗料、高・低屈折率コート剤、遮熱コート剤、放熱コート剤、防曇剤等の塗料・コーティング剤;オフセット印刷インキ、グラビア印刷インキ、スクリーン印刷インキ、インクジェット印刷インキ、導電性インキ、絶縁性インキ、導光板用インキ等の印刷インキ;感光性印刷版;ナノインプリント材料;3Dプリンター用樹脂;ホログラフィー記録材料;歯科用材料;導波路用材料;レンズシート用ブラックストライプ;コンデンサ用グリーンシートおよび電極材料;FPD用接着剤、HDD用接着剤、光ピックアップ用接着剤、イメージセンサー用接着剤、有機EL用シール剤、タッチパネル用OCA、タッチパネル用OCR等の接着剤・シール剤;カラーレジスト、ブラックレジスト、カラーフィルター用保護膜、フォトスペーサー、ブラックカラムスペーサー、額縁レジスト、TFT配線用フォトレジスト、層間絶縁膜等のFPD用レジスト;液状ソルダーレジスト、ドライフィルムレジスト等のプリント基板用レジスト;半導体レジスト、バッファーコート膜等の半導体用材料等の各種用途に使用でき、その用途に特に制限は無い。
【実施例0047】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
[化合物1の合成]
【化3】
[合成例1:化合物1の合成]
200mL二口フラスコに、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸0.40g(1.5mmol)、1,1’-カルボニルジイミダゾール0.32g(2.0mmol)、脱水アセトン30mLを入れ、室温下で7時間撹拌した。2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルアミン0.67g(4.5mmol)を徐々に加え、80℃で6時間撹拌した。酢酸エチル30mLと水30mLを添加した後に、水相を分液で除去した。さらに水相を酢酸エチル30mLで2回抽出した。油相を合わせて減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をトルエン中で再結晶し、0.07g(収率12%)の化合物1を得た。得られた化合物1の
1H-NMRおよび
19F-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
<実施例2>
[化合物2の合成]
【化4】
[合成例2:化合物2の合成]
200mL二口フラスコに、4-ベンゾイル安息香酸1.1g(5.0mmol)、1,1’-カルボニルジイミダゾール0.9g(5.5mmol)、脱水テトラヒドロフラン30mLを入れ、室温下で6時間撹拌した。2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルアミン2.2g(15mmol)を徐々に加え、室温で4時間撹拌した。酢酸エチル50mLと水50mLを添加した後に、水相を分液で除去した。さらに水相を酢酸エチル50mLで2回抽出した。油相を合わせて減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製し、1.3g(収率74%)の化合物2を得た。得られた化合物2の
1H-NMRおよび
19F-NMRによる分析結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
<実施例3>
[化合物3の合成]
【化5】
[合成例3:化合物3の合成]
200mL二口フラスコに、4-ベンゾイル安息香酸0.40g(1.5mmol)、1,1’-カルボニルジイミダゾール0.34g(2.0mmol)、脱水テトラヒドロフラン30mLを入れ、室温下で7時間撹拌した。1H,1H-ヘプタフルオロブチルアミン2.0g(4.5mmol)を徐々に加え、80℃で6時間撹拌した。酢酸エチル30mLと水30mLを添加した後に、水相を分液で除去した。さらに水相を酢酸エチル30mLで2回抽出した。油相を合わせて減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製し、1.2g(収率57%)の化合物3を得た。得られた化合物3の
1H-NMRおよび
19F-NMRによる分析結果を表3に示す。
【0053】
【0054】
<重合性組成物(A)の調製>
表4に示す量のラジカル重合性化合物、溶媒を混合撹拌し、酸素阻害低減剤、重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例4および比較例1の重合性組成物(A)を調製した。
【0055】
【0056】
上記表4中、BAPOは、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(IGM社製);
TMPTAは、トリメチロールプロパントリアクリレート(東京化成工業試薬);
THFは、テトラヒドロフラン(東京化成工業試薬);を示す。
【0057】
<酸素による硬化阻害の評価>
上記で調製した重合性組成物(A)を、スピンコーターを用いて、ガラス基板上に塗布した。塗布後、ガラス基板を60℃のクリーンオーブン中で3分間乾燥処理により溶媒を乾燥させ、塗布膜を作製した。次いで、UV-LEDランプを光源とする露光機を用い、波長365nmの光を露光量150000mJ/cm
2で照射した。その硬化膜部分を減衰全反射赤外分光法(ATR-IR)にてアクリレートの残存率(%)を測定した。その際、二重結合基の面外変角振動の吸収スペクトル(809cm
-1)および露光前後で変化のないカルボニル基の吸収スペクトル(1728cm
-1)のピーク面積を用いて、以下の式に基づいてアクリレートの残存率を算出した。また、硬化膜の黄変の有無を目視で確認した。その結果を表5に示す。
【数1】
【0058】
【0059】
<重合性組成物(B)の調製>
表6に示す量のラジカル重合性化合物、溶媒を混合撹拌し、酸素阻害低減剤、重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例5および比較例2の重合性組成物(B)を調製した。
【0060】
【0061】
<酸素による硬化阻害の評価>
上記で調製した重合性組成物(B)を、スピンコーターを用いて、ガラス基板上に塗布した。塗布後、ガラス基板を60℃のクリーンオーブン中で3分間乾燥処理により溶媒を乾燥させ、塗布膜を作製した。次いで、低圧水銀ランプを光源とするプロキシミティー露光機を用い、波長254nmの光を露光量6000mJ/cm
2で照射した。その硬化膜部分を減衰全反射赤外分光法(ATR-IR)にてアクリレートの残存率(%)を測定した。その際、二重結合基の面外変角振動の吸収スペクトル(1634cm
-1)および露光前後で変化のない標準ピーク(2970cm
-1)のピーク面積を用いて、以下の式に基づいてアクリレートの残存率を算出した。また、硬化膜の黄変の有無を目視で確認した。その結果を表7に示す。
【数2】
【0062】