(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001194
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20221222BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20221222BHJP
H01J 37/16 20060101ALI20221222BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20221222BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20221222BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20221222BHJP
F16F 15/027 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
H01L21/30 541C
G03F7/20 504
H01J37/16
H01J37/20 A
H01J37/305 B
F16F15/02 M
F16F15/02 A
F16F15/027
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171685
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2018186473の分割
【原出願日】2018-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】川口 通広
(72)【発明者】
【氏名】明野 公信
(72)【発明者】
【氏名】出野 恵太
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 光太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慶介
(72)【発明者】
【氏名】中曽 潔
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】松下 仁士
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】福田 優輝
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビームに影響すること無く小型で簡易な構成により移動可能な物体の移動により生じる振動を防止できる荷電粒子ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム描画装置は、試料に荷電粒子ビームを照射する鏡筒と、鏡筒を支持し且つ直交する2軸方向に移動して載置する試料に荷電粒子ビームを照射させるステージを支持する架台とを備える。さらに荷電粒子ビーム装置は、可撓性を有し湾曲する板形状の湾曲板と、電圧の印加により伸縮し湾曲板の曲率を変える圧電素子と、架台に対して湾曲板の曲率の変化により生じる力をステージの動きに起因して架台に加わる力に抗する方向に伝達する連結ユニットとを含むアクチュエータと、このアクチュエータの圧電素子に印加される電圧を描画用パターンデータに基づくステージの動き情報に応じて制御するアクチュエータ制御回路とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を搭載するステージと、
描画用パターンデータに基づいて前記試料の所定位置に荷電粒子ビームを照射する機構を有する鏡筒と、
前記鏡筒を直接または間接的に支持するとともに、前記試料の前記所定位置に前記荷電粒子ビームが照射されるように直交する2軸方向に移動可能に構成された前記ステージを、直接または間接的に支持する架台と、
可撓性の材料により湾曲する板形状に形成された湾曲板と、
前記湾曲板の上に設けられ、電圧の印加による伸縮により前記湾曲板の曲率を変えるよう構成された圧電素子と、
前記湾曲板の湾曲部と連結し、前記架台に対して、前記湾曲板の曲率の変化によって生じる力を、前記ステージの動きに起因して前記架台に加わる力に抗する方向に伝達する連結ユニットと、
を含むアクチュエータと、
前記アクチュエータの前記圧電素子に印加される電圧を、前記描画用パターンデータに基づく前記ステージの動き情報に応じて制御するアクチュエータ制御回路と、
を有する、荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記湾曲板の曲率の変化によって生じる力を、前記架台に対して、前記架台に対する前記ステージの動きの方向と垂直な方向に伝達するように配置された第1のアクチュエータ及び第2のアクチュエータを含む少なくとも一対の前記アクチュエータを有し、
前記アクチュエータ制御回路は、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータが、前記描画用パターンデータに基づく前記ステージの動き情報に応じ、前記ステージの動きに起因して前記架台に対して前記ステージの動きの方向と垂直な方向に作用する力に抗する力を前記架台に伝達するように、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの前記圧電素子にそれぞれ印加される電圧を制御する、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記湾曲板の曲率の変化によって生じる力を、前記架台に対して、前記ステージの動きと平行な方向に伝達するように配置された第3のアクチュエータとして、少なくとも1つの前記アクチュエータを有し、
前記アクチュエータ制御回路は、前記第3のアクチュエータが、前記描画用パターンデータに基づく前記ステージの動き情報に応じ、前記ステージの動きに起因して前記架台に対して前記ステージの動きの方向に平行に作用する力に抗する力を前記架台に伝達するように、前記第3のアクチュエータの前記圧電素子に印加される電圧を制御する、請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
空圧により重力と平行な方向に伸縮することによって、前記架台に対し重力と平行な方向の力を伝達する第4のアクチュエータと、
前記第4のアクチュエータに供給する空圧を調整して、前記第4のアクチュエータの伸縮を制御する空圧調整機構と、
を備える、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記アクチュエータ制御回路は、前記ステージの動きに起因して前記架台に作用する力によって生じる予め設定された周波数又は周波数帯域の振動を制振するために、前記描画用パターンデータに基づく前記ステージの動き情報に応じて、前記周波数又は前記周波数帯域の振動を生じるような前記架台に作用する力に抗する力を生成するための応答特性を有するフィルタ回路を備える、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項6】
前記フィルタ回路の前記応答特性は、前記描画用パターンデータに基づく前記ステージの位置や加速度の範囲に応じて、前記抗する力の大きさへの反応しやすさが変わるように設定される、請求項5に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項7】
前記フィルタ回路を、前記ステージの位置や加速度で切り替える、請求項5または請求項6に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
予め前記ステージの動き情報と振動力との間の応答特性を実験により特定し、前記描画用パターンデータに基づく前記ステージの動き情報に応じて前記アクチュエータ制御回路を制御する、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造用のマスク部材及び半導体材料等の試料への描画処理を行うために荷電粒子ビームを用いる荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物や装置等に発生する振動又は、揺れを低減するために種々の制振機構や制振システムが構築され、また実施されている。一般に、振動防止を要する装置等は、制振機構により床等からの振動が装置に伝わらないようにするための除振台と呼ばれる台の上に設置される。ここで、質量を持つ物体が除振台の上を移動するように構成された装置の場合、移動に伴う反力や重心移動により装置側から除振台に与える振動が発生し、この振動を抑える機構も必要とされる場合がある。例えば、特許文献1は、半導体素子製造に用いられる露光装置が開示され、除振台上を移動する物体としてウェハを載置するステージが示される。特許文献1では、ステージの移動に伴う反力や重心移動による振動を抑えるため、ステージの位置から算出された加速度(除振台に与える反力に対応)をリニアモータにフィードフォワードし、除振台に与える反力をリニアモータが発生する力により打ち消して除振台の振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1により提案される除振台は、ステージの移動に伴う反力を打ち消すためのアクチュエータとしてリニアモータを用いている。除振台を搭載して除振する対象となる装置が、例えば、ステージを備えた荷電粒子ビームを用いたマスク描画装置等、リニアモータが発生する磁場を要因とする磁場変動が影響し、出射された荷電粒子ビームのビーム軌道が変わってしまうような装置である場合には、ステージが載置された除振台の制振のためにリニアモータを使用することは望ましくない。また、リニアモータを使用する場合には、その磁場が影響を与えないように種々の対策が必要となる。その結果、装置構成が大きく且つ重くなり、製造コストが増大する。
【0005】
そこで本発明は、荷電粒子ビームに影響すること無く、小型で簡易な構成により、移動可能な物体(例えば、ステージ)の移動により生じる振動を防止できる荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に従う一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、試料を搭載するためのステージと、描画用パターンデータに基づいて試料の所定位置に荷電粒子ビームを照射するための鏡筒と、鏡筒を直接または間接的に支持するとともに、試料の所定位置に荷電粒子ビームが照射されるように直交する2軸方向に移動可能に構成されたステージを、直接または間接的に支持する架台と、圧電素子を利用して、ステージの動きに起因して架台に加わる力に抗する方向の力を架台に対して与えるアクチュエータと、アクチュエータの圧電素子に印加される電圧を、描画用パターンデータに基づくステージの動き情報に応じて制御するアクチュエータ制御回路と、を有する。アクチュエータは、可撓性の材料により湾曲する板形状に形成された湾曲板と、湾曲板の上に設けられ、電圧の印加による伸縮により湾曲板の曲率を変えるよう構成された圧電素子と、湾曲板の湾曲部と連結し、架台に対して、湾曲板の曲率の変化によって生じる力を、ステージの動きに起因して架台に加わる力に抗する方向に伝達する連結ユニットとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、荷電粒子ビームに影響すること無くし、小型で簡易な構成により、移動可能な物体(例えば、ステージ)の移動により生じる振動できる種々の構造物や装置に適用可能な汎用性を有する制振装置を備える荷電粒子ビーム装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る制振装置の概念的な構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の制振装置で使用される例示のアクチュエータを斜め上から見た外観構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の制振装置を備えた装置の例として、例示の荷電粒子ビーム描画装置の概略構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の制振装置を荷電粒子ビーム描画装置に実装した例における、本実施形態の制振装置の動作を説明するための図である。
【
図5】
図5は、制振対象となる架台に対するアクチュエータの第1の配置例を示す図である。
【
図6】
図6は、制振対象となる架台に対するアクチュエータの第2の配置例を示す図である。
【
図7】
図7は、制振対象となる架台に対するアクチュエータの第3の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る制振装置について説明する。
図1は、一実施形態に係る制振装置の概念的な構成を示す図である。この実施形態の制振装置は、例えば、
図3を参照して後述される荷電粒子ビーム描画装置1に使用することができる。
【0010】
荷電粒子ビーム描画装置1は、半導体製造に用いられるマスク上にパターンを描画するために用いられる。パターンの描画時に当該マスクの位置を移動させ、所定位置に荷電粒子ビームを照射するために、当該マスクは、荷電粒子ビームの照射方向とは垂直な面内で移動可能である必要がある。そのため、マスクは、当該面内で直交する2軸(X軸・Y軸)に移動可能なステージの上に搭載される。ステージが移動する場合、ステージの重心移動や、ステージの加減速(正や負の加速度)に伴ってステージに作用する慣性力、等により、ステージが搭載された架台を変動させる力(以下、「振動力」と呼ぶ)が発生し、架台を振動させる原因となる。振動力は、ステージの移動方向(例えば、X軸方向)に沿った方向、ステージの移動方向に垂直な方向(例えば、ステージが水平に移動する場合には重力の方向)、等の成分を有すると考えられる。例えば、ステージがX軸方向に移動中に加減速するとき、ステージに対してX軸方向に作用する慣性力(ステージの質量×加速度)の反力が、架台を水平方向に移動させようとする力として架台に対して作用し、水平方向の振動力となる。ステージの移動方向に垂直な方向の振動力は、Y軸方向を中心とした回転モーメント(ΘY)を生じさせる力として架台に作用する。マスク上へのパターンの描画は極めて微細な加工であり、荷電粒子ビームとマスクの描画位置との位置関係が、これらの振動力によって変動しないようにすることが重要である。
【0011】
図1は、ステージの移動によって生じる「ステージの移動方向に沿った方向の振動力」または「ステージの移動方向に垂直な方向の振動力」のいずれか一方について、その振動力を打ち消すことにより、架台に振動が発生しないように制御することを示している。尚、ステージの移動によって生じる他方の振動力についても、この図に示される制御系と同様な制御系が与えられる。また、ステージの移動によって生じる振動力とは別に、荷電粒子ビーム描画装置1などの装置が設置される場所に生じる振動(装置環境における振動外乱と呼ぶ)が架台に影響を与えないように除振する必要がある。後述するように、この装置環境における振動外乱の除振のための制御系は、別途、
図1に示す制御系と並列に与えられる。
【0012】
図1のブロック60は、本実施形態のフィードフォワード制御系による制御の対象である、ステージの動きに伴って振動力をが与えられる被制御系(ステージ、架台、鏡筒、等)のステージの加速度αに対する応答特性Ga(α)を示す。応答特性Ga(α)は、ステージの移動に伴ってステージから架台に作用する力の一つの成分(ステージの移動方向に沿った方向の振動力、または、ステージの移動方向に垂直な方向の振動力)について、ステージに加えられた加速度αに対して生じる当該成分の振動力の応答特性を示す。この振動力を打ち消すことで、当該成分の方向に生じる振動が抑制される。複数の成分の振動力を打ち消すためには、振動力の各々の成分に対抗する方向の振動力を打ち消す力(以下、「抑制力」と呼ぶ)が必要になる。
【0013】
フィルタ回路(ブロック62)と圧電素子を用いたアクチュエータ(ブロック64)とを備えた系は、ステージの移動に伴ってステージから架台に作用する振動力の一つの成分を打ち消すための抑制力を発生するフィードフォワード制御系である。本実施例では、抑制力を発生するためのアクチュエータとして、例えば、
図2を参照して後述されるような、圧電素子を用いたアクチュエータ64が使用される。アクチュエータ64は、制御信号(例えば、圧電素子に印加される電圧)と、当該アクチュエータ64が架台に対して及ぼすことのできる抑制力との間で、応答特性Bを有する。フィルタ回路62は、アクチュエータ64が適切な抑制力(-Ga(α))を発生するように、当該アクチュエータ64に対して適切な制御信号(電圧)を加えることができるように設計されたフィルタ回路である。従って、フィルタ回路62は、ステージに加えられた加速度αと制御信号(電圧)との間で、-(Ga/B)の応答特性を有する。
【0014】
ステージに加えられる加速度(または、ステージの位置、速度)と振動力との間の応答特性Gaは、ステージに様々な加速度を与えたとき(または、ステージを様々な位置に置いたり、様々な速度を与えたりしたとき)の振動力を実験により確認することにより特定することができる。例えば、様々な加速度(または、ステージの位置と速度)を与え、その時の架台の変位応答をモニタし、その変位応答を時間で2回微分すれば加速度(架台の質量を乗じれば作用した力に相当)を特定できる。この目的で、架台は、架台の変位を測定するための変位センサ、または、架台に生じる加速度を測定するための加速度センサを備え得る(例えば、
図4の加速度センサ25a)。また、前述のように、荷電粒子ビームのマスク面に対する振動の防止が求められる。荷電粒子ビームを安定させるためには、荷電粒子ビームの照射光学系などを備えた鏡筒の振動を防止することも必要にある。従って、架台の変位を測定する代わりに、鏡筒に設けられた変位または加速度センサ(例えば、
図4の加速度センサ25b)を用いて、応答特性Gaを決定することにより、鏡筒を含めた制振を行うことができる。
【0015】
ここで、
図4に示された加速度センサ25a,25bは、例えば、3軸加速度センサが用いられ、鏡筒27及びチャンバー21に発生する振動を、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の方向に分けられた振動を振動情報として検出する。鏡筒27について、横揺れの振動は、鏡筒27を直接または間接的に支持する架台から離れるほど振幅が大きくなる。従って、本実施形態では、加速度センサ25bが、例えば、架台、ステージ、ステージ上の試料から最も離れた位置にある鏡筒27の頂部に配置される。加速度センサ25a,25bは、描画装置1に発生する振動の周波数により装置上の配置する箇所が異なるが、振動の最も大きい振幅が掛かる箇所に配置することが好ましい。応答特性Gaを加速度センサ25が検出する振動情報に基づいて特定することにより、本実施形態による制振装置は、ステージ12の動きによって鏡筒27に生じる振動を抑える働きをし得る。また、鏡筒27の形状や重量バランスは仕様によって異なり得る。上記のように応答特性Gaを決定することにより、様々な仕様の鏡筒27に対応することができる。
【0016】
上述した方法により応答特性Gaが決まれば、アクチュエータ2の応答特性Bは既知なので、フィルタ回路62の応答特性(-(Ga/B)が決まる。また、被制御系(ステージ)の応答特性Gaは、周波数や、架台に対するステージの位置に応じた振動力の性質、等に応じて、抑制すべき振動力を選択的に反映したものであって良い。従って、フィルタ回路62の応答特性は、抑制すべき振動力に応じて適宜設定し得る。フィルタ回路62は、想定される振動の周波数に応じたフィルタ特性を有し得る。ステージ12の動きに応じて生じる振動の周波数が変化することを考慮して、例えば、ゲインの変更によって、ある周波数、または、ある特定の周波数帯域の振動に対応するように応答特性を設定してもよい。例えば、ある範囲のステージ加速度に対して架台の振動が発生しやすいのであれば、そのステージ加速度の範囲においてフィードフォワード制御系が敏感に反応するようにフィルタを設計することが可能である。フィルタ回路62は、入力(位置、速度、または、加速度)と出力(制御信号=アクチュエータ2に入力する電圧値)をマッピングしてメモリに記憶したものであってよく、さらに、マップをステージの位置や加速度で切り替えられるようにしたものであってよい。
【0017】
尚、
図1では、ステージ加速度αが制御系に入力されるものとして応答特性Gaを示した。しかし、速度は、ステージの位置変化の時間微分で得られ、加速度は、ステージの位置変化の2回時間微分、あるいは、速度の時間微分で得られる。従って、本実施形態のフィードフォワード制御系は、ステージの何らかの動き情報(位置変化、速度、または、加速度)を入力とする制御系であればよい。
【0018】
図2を参照して、
図1の圧電素子を用いたアクチュエータ64の一実施形態について説明する。
アクチュエータ64は、湾曲型アクチュエータ本体41と、固定軸受け部44と、可動軸受け部45と、台座46と、連結ユニット49を有している。湾曲型アクチュエータ本体41は、圧電素子が湾曲の曲率を変化させることによって湾曲頂部に上下方向の変位を生じさせ、変位方向に力を生じさせるアクチュエータである。湾曲型アクチュエータ本体41は、基材42と、圧電素子43とを有している。基材42は、平坦な板形状の例えば、可撓性の金属板で形成される。この基材42は、湾曲させることで所望の張力を有する板バネとして用いられている。ここでは、架台11側に向かう凸状に湾曲されている。
【0019】
圧電素子43は、薄板形状に形成され、基材42の少なくとも一方の面上に貼付されるように設けられている。圧電素子43は基材42と一体的に変形し、基材42の湾曲(曲率)を変化させる。
【0020】
圧電素子43は、
図1のフィルタ回路62と電気的に接続されている。圧電素子43は、例えば、可撓性を有するシート状の膜型圧電素子である。この膜型圧電素子は、例えば、繊維状の圧電セラミックの束で形成された繊維シートの両面に電極が形成されたポリイミドフィルム等をエポキシ樹脂により被覆した構造である。この圧電素子43は、フィルタ回路62より印加された制御信号(電圧)に応じて所定方向(ここでは、基材42の長手方向)に伸縮する。この圧電素子43の伸縮に応じて、基材42の湾曲の度合い(曲率)が変化する。
【0021】
湾曲型アクチュエータ本体41は、例えば、圧電素子43に正電圧を印加し、圧電素子43が伸長するように変形させると、基材42がより湾曲変形(弾性変形)し、その曲率が大きくなる。反対に、圧電素子43に負電圧を印加すると、圧電素子43が収縮するように変形して、基材42の湾曲形状を戻すように変形し、その曲率が小さくなる。
【0022】
基材42は、例えば長方形であり、その短辺側の両端には回転軸47,48が取り付けられている。これらのうち、回転軸47には、固定軸受け部44が取れ付けられている。他方の回転軸48には、可動軸受け部45が取り付けられている。また、固定軸受け部44及び可動軸受け部45は、一方の端に傾斜部を有する平坦な台座46に固定されている。固定軸受け部44は、台座46の平坦面に固定される。可動軸受け部45は、台座46の傾斜部の傾斜面に沿って設けられるガイドレール(図示せず)に嵌め込まれて、傾斜方向に移動可能に取り付けられている。可動軸受け部45がスライド移動することで、湾曲型アクチュエータ本体41の曲率が変わった際に変形しやすくしている。
【0023】
圧電素子43が伸長するように変形され、基材42の湾曲変形の曲率が大きくなると、基材42が回転軸47,48で支えられていることにより、基材42の頂部は図面の上方向に変位し、その方向に押す力を発生する。逆に、圧電素子43が収縮するように変形され、基材42の湾曲変形の曲率が小さくなると、基材42の頂部は図面の下方向に変位し、その方向に戻す力を発生する。尚、可動軸受け部45は、必須ではなく、固定軸受け部44を用いてもよい。
【0024】
また、基材42の凸部の頂部には、ステージが載せられた架台と連結するための連結ユニット50が設けられている。連結ユニット50は、架台固定部材51、連結ベース部材52と、軸部材(棒ねじ又はスタットボルト)53と、弾性部材54と、ナット55等で構成される。基材42の湾曲の頂部に生じた力は、連結ユニット50によって架台に伝達される。この力が、
図1に示した抑制力として働く力となる。
【0025】
架台固定部材51は、金属材料により形成され、4本の脚部51aと平坦な取り付け部で構成される。架台固定部材51は、4本の脚部51aを架台11にねじ止めすることで固定される。連結ベース部材52は、基材42の短辺側の長さを有する硬質な板状部材である。連結ベース部材52は、基材42の凸部の頂部に沿って短辺側を橋渡し、且つ基材42を表裏面から挟み込むように固定されている。
【0026】
また、弾性部材54は、例えば、リング状の板ゴム等によって形成されている。基材42、架台固定部材51の平坦部中央、及び連結ベース部材52には、貫通するねじ穴が形成されている。さらに、基材42、弾性部材54、連結ベース部材52、架台固定部材51及び弾性部材54を重ねて、軸部材53を差し入れて、軸部材53の両端側にナット55をねじ止めする。弾性部材54は、基材42の湾曲状態が変化する際に、基材42に急峻に負荷が掛かることを緩和する。弾性部材54は、架台固定部材51側のみの1つであってもよい。架台固定部材51は、4本の脚部51aを架台11にねじ止めすることで固定される。
【0027】
圧電素子を用いたアクチュエータは、リニアモータ等の磁力を用いたアクチュエータに比べ、入力電圧の変化に対する応答性がよく、低い周波数から高い周波数の変動や、短い時間に現れるインパルス的な変動にも対応できる利点を有する。また、圧電素子を用いたアクチュエータは、磁場による荷電粒子ビームへの影響を抑制できるので、荷電粒子ビームが安定する利点を有する。
【0028】
図3は、一実施形態に係る制振装置を搭載する装置の例として、荷電粒子ビーム描画装置1に当該制振装置が実装された場合の、荷電粒子ビーム描画装置1の概略構成の例を示す図である。荷電粒子ビーム描画装置1は、荷電粒子ビーム(EBビーム)を用いて、半導体やフォトマスク原版上に微細パターンを描画する。尚、一実施形態に係る制振装置の用途は、荷電粒子ビーム描画装置に限定されるものではなく、制振装置を必要とする機器、例えば、電子顕微鏡(SEM,走査型顕微鏡等)を含む観察機器、マスク検査装置などにも適用可能である。尚、以下に記載する制振とは、振動の発生を防ぐことを示唆する。
【0029】
この荷電粒子ビーム描画装置1は、試料17を保持する移動可能なステージ(試料ステージ)12と、ステージ12を収容するチャンバー21と、チャンバー21上に立設される鏡筒27と、チャンバー21の底部に配置される架台11と、を有している。さらに、装置全体を制御する制御回路31と、荷電粒子ビームを出射する電子銃22制御するEB制御回路34と、パターン設計データに基づき試料17にパターンを描画させる描画制御回路35と、処理のためのプログラムやパターン設計データなどの処理情報記憶するメモリ36と、ステージ12を移動させるためのステージ移動機構14と、ステージ移動機構14を駆動制御するステージ制御回路15と、を備えている。
【0030】
チャンバー21は、例えば、ステンレス合金等の金属部材による中空な箱状を成し、チャンバー21の底部には架台11が配置されている。チャンバー21内は、架台11を含み真空維持が可能に構成される。架台11の形状は、チャンバーの外形形状に合わせた形状を成し、例えば、長方形や正方形の矩形形状又は円盤形状である。また、図示していないがチャンバー21には、試料17を出し入れする開口部が形成され、その開口部を気密に覆うゲートが開閉可能に設けられている。試料17は、ゲートが開いた際に、図示しない試料搬送機構により、外部から搬入されて、ステージ12に載置される。同様に、パターンが描画された試料17は、試料搬送機構により、ステージ12上から外部に搬出される。尚、
図3では、チャンバー21が架台11と共に密閉空間を形成するように示されるが、チャンバー21自体が密閉空間を形成する箱を構成し、箱状のチャンバー21が架台上に載る構造であってもよい。
【0031】
チャンバー21内を真空にする排気系は、図示していないが、粗引き排気用のドライポンプと、超高真空排気用のイオンポンプ又はターボモリキュラポンプ等を組み合わせて用いることができる。
試料17は、ステージ12上に固定される保持部材16により保持されている。試料17は、例えば、ガラス基板を主体とするフォトマスク用基板である。
【0032】
鏡筒27は、チャンバー21上に立設され、試料17に荷電粒子ビーム26を照射する光源である電子銃22及び荷電粒子光学系を含む。荷電粒子光学系は、照明レンズ、アパーチャ、投影レンズ、偏光器及び対物レンズ等で構成され、鏡筒27の内部に配置される。この荷電粒子光学系は、描画制御回路35及びEB制御回路34の制御に従い、電子銃22から出射された荷電粒子ビーム26を整形及び偏向し、走査するように試料17に照射する。この荷電粒子ビーム26の走査と、ステージ12の移動とを併せて行い、試料17に所望するパターンを描画する。
【0033】
また、ステージ移動機構14は、ステージ制御回路15により駆動制御され、試料17に任意のパターンを描画する際に、荷電粒子ビーム26に垂直な面内でステージ12を移動させる。一般的に、ステージ移動機構14は、当該面内において直行する2つの軸(X軸,Y軸)の各々に沿ってステージ12を駆動する機構を備える。ステージ移動機構14には、例えば、リニア超音波モータ等の非磁性・真空モータが使用され得る。また、チャンバー21の外側面には、レーザー測長器であるインターフェロメータ(干渉計)等のステージ位置検出器24が設けられている。このステージ位置検出器24は、チャンバー外部から測長レーザー光をステージ12に連続的に照射して、反射光を検出する。測長レーザー光を出射した時間と反射光の受光時間との測定時間からステージ12の位置情報(移動距離)を生成する。また、ステージ12の位置情報は、制御回路31で演算してもよい。一般的に、ステージ位置検出器24は、ステージ移動機構14によるステージの移動方向、即ち、X軸,Y軸方向の各々に設けられる。
【0034】
制御回路31は、ステージの位置情報に測定時間の時間情報とから、ステージの位置の変化を時間で1回微分、2回微分することにより、ステージの動き情報(移動速度、加速度)を演算して生成することができる。また位置情報は、チャンバー21内で予め設定された座標を基準にしてステージの物理的な位置を示す座標情報(ステージ座標情報)を生成するために用いられ得る。このステージ12のステージ座標情報及びステージの動き情報は、ステージ制御回路15にフィードバックされ、ステージ移動機構14の制御、試料17の位置決め等に用いられる。ステージ制御回路15は、パターン描画時には、描画されるパターンの設計データに従って、ステージ移動機構14を駆動制御し、ステージ12を2次元的(X,Y軸方向)に移動させる。
【0035】
荷電粒子ビーム描画装置1について上述したが、電子顕微鏡等の観察機器では、試料のどの位置を測定するのかを記述した測定レシピが、測定される試料毎に予め作成される。測定レシピには試料の測定位置座標が測定順に記述されるので、機器は、測定位置座標に基づいて、ステージ12の移動方向や移動距離を決定することができる。パターン描画時における微小な領域内の描画については、鏡筒27内に設けられた荷電粒子光学系により荷電粒子ビームを偏向することによって行ってもよい。一方、試料17の粗い移動においては、ステージ12を移動させることで行う。また、ステージ移動機構14は、ステージ12を昇降(Z軸の方向:荷電粒子ビームの照射方向)させて高さ調整も行うための機構を備えてもよい。
【0036】
ステージ12がチャンバー内を移動するのに伴い、ステージ12の重心と架台11の重心との位置関係にずれが生じる。例えば、ステージ12がX軸方向に移動し、ステージ12の重心が架台11の重心に対してX軸方向にオフセットされると、架台11には、Y軸方向を中心とした回転モーメント(ΘY)が加わる。ステージ12の移動が加速度を伴うと回転モーメント(ΘY)の変化が急になり、加速度が大きくなるほど架台11に加わる回転モーメント(ΘY)の変化は急峻になる。従って、この回転モーメント(ΘY)は、架台11が振動する要因となり得る。また、ステージ12の移動において加減速が生じると、加速度とは反対向きの力(慣性力)がステージ12に加わる。例えば、X軸方向に移動しているステージ12に加減速が起こると、ステージに12にはX軸に平行に慣性力が加わる。ステージ12に加わった慣性力が反力として架台11に伝達され、架台11が振動する要因となり得る。
【0037】
ステージ12の加速度が大きくなるほど、架台11に生じる力の影響は大きい。荷電粒子ビーム描画装置1において、荷電粒子ビーム26が、試料17の狙った位置に正確に照射されることが重要であり、描画されるパターンが微細化すればするほど、鏡筒27内の光学系と試料17との相対変位を抑える必要性が高くなる。従って、本実施形態の制振装置は、架台11に加わる回転モーメント(ΘY)を打ち消す力を発生すること、または、ステージ12に加わった慣性力により架台11に生じた反力を打ち消す力を発生すること、によって架台11、鏡筒27、あるいは、架台11と鏡筒27の制振を行う(即ち、架台11や鏡筒27に振動が発生しないようにする)ために用いられる。
【0038】
次に、
図3及び
図4を参照して、本実施形態の制振装置100が、荷電粒子ビーム描画装置1に搭載された場合の動作例について説明する。
制振装置100は、圧電素子を用いた1対の第1,第2アクチュエータ2、圧電素子を用いた第3アクチュエータ3、及び、空気圧を用いた複数の第4アクチュエータ5と、第1,第2,第3アクチュエータ2,3を制振のために制御するアクチュエータ制御回路4と、第4アクチュエータ5の空気圧を調整する空圧調整機構32と、空圧調整機構32を駆動制御する空圧調整機構制御回路33と、振動測定機構である加速度センサ25a,25b,29と、を有する。
【0039】
また、制振装置100の制御を行う制御回路は、描画装置1の制御回路31が兼用する構成である。勿論、制振装置100の専用の制御回路を設けてもよい。尚、ステージ位置検出器24によるステージ位置の検出値から演算により求めたステージ12の動き情報(ステージの位置変化、ステージの速度、ステージの加速度)と区別するために、変位センサまたは加速度センサ25a,25b,29から取得した検出値は、装置1に関わる振動情報と称する。アクチュエータ制御回路4は、ステージ12の動きによって架台11に作用する振動力の方向(成分)の各々に対応するフィルタ回路62を有する。
【0040】
このフィルタ回路62は、
図1を参照して上述したように、ステージ12の動きに応じたフィードフォワード制御による制振を行うために用いられる。即ち、フィルタ回路62を有するアクチュエータ制御回路4と、圧電素子を用いた第1,第2,第3アクチュエータ2、3とが、ステージ12の移動によって与えられる振動力により架台11や鏡筒27に生じる振動を防止するために、ステージ位置検出器24を用いて得られるステージ12の動き情報に基づいて制振を行う。この制御系が、ステージ12の移動によって与えられる振動力を打ち消すためのフィードフォワード制御系(
図1)に対応する。一方、空圧調整記憶制御回路33と、空圧制御機構32と、空気圧を用いた第4アクチュエータ5とが、装置環境における振動外乱を主に除振するために、変位センサまたは加速度センサ25b,29などから取得した振動情報に基づいて制振を行う。
【0041】
この制御系は、振動情報を用いたフィードバック制御系を構成する。また、空圧調整機構制御回路33は、ステージ座標情報やステージ動き情報に基づくフィードフォワード除振制御系も構成する。
図4に示されるように、空圧調整機構制御回路33を用いたフィードバック/フィードフォワード除振制御系は、別途、アクチュエータ制御回路4を用いたフィードフォワード制振制御系と並列に設けられる。従って、空圧によるフィードバック/フィードフォワード除振制御系の制御パラメータの設定と、圧電素子を用いたアクチュエータによるフィードフォワード制振制御系の制御パラメータの設定とは、独立に行うことができる。言い換えれば、1対の第1,第2アクチュエータ2と、第3アクチュエータ3と、第4アクチュエータ5とは、それぞれ、位置において独立に、時間において独立に、および、量や周波数において独立に、架台11に力を並列に作用させることができる。
【0042】
従って、制振の対象となる様々な振動源(装置環境における振動外乱、ステージ12の移動、など)の特徴(振動力の方向、振動の周波数、振動モード、など)に合わせた制振制御が可能になる。また、例えば、第1,第2,第3,第4アクチュエータ2、3、5の個々の特性に応じた制御パラメータの設定を可能にする。また、フィードバック除振制御系のメンテナンスや調整とフィードフォワード制振制御系のメンテナンスや調整とを個別に行うことができるので、メンテナンスや調整の作業が簡便になる。
【0043】
図3及び
図4に示すように、荷電粒子ビーム描画装置1の架台11の下面(チャンバー21の配置面と反対側の面)には、圧電体を備える一対の第1,第2アクチュエータ2と、同じく圧電体を備える第3アクチュエータ3と、装置の脚部としても機能する空気圧を利用した第4アクチュエータ5と、が設けられている。これらの第1,第2アクチュエータ2、第3アクチュエータ3、及び、第4アクチュエータ5は、ベース台28上に配置されている。架台11は、これらの第1,第2アクチュエータ2、第3アクチュエータ3、及び、第4アクチュエータ5により制振され、ステージ12及びそれに搭載された機構、チャンバー21、鏡筒27に振動の影響を与えない。このため、架台11は、除振台とも呼ばれる。
【0044】
この例では、第3アクチュエータ3は、ベース台28上の中央付近に配置され、架台11の重心の近傍において架台11に抑制力を作用するように構成される。第3アクチュエータ3は、架台11に対して、ステージ12にかかった慣性力の反力を打ち消す抑制力を発生する。例えば、X軸方向に移動するステージ12の加減速に起因して架台11にかかる反力は、X軸方向に生じる。従って、
図3及び
図4では、第3アクチュエータ3によって生成される抑制力が、架台11に対してX軸方向に作用するように、L型固定部材71を用いて、第3アクチュエータ3の湾曲変形した基材42の頂部がX軸方向を向くように配置される。そして、もうひとつのL型固定部材72が架台11の背面に取り付けられ、第3アクチュエータ3の基材42の頂部の変位により生成された抑制力が、L型固定部材72を介して、X軸方向に架台11に対して作用するように構成される。
【0045】
具体的には、第3アクチュエータ3は、
図2を参照して説明したように、湾曲型アクチュエータ本体41と、固定軸受け部44と、可動軸受け部45と、台座46と、を有している。さらに、連結ユニット50は、連結ベース部材52と、軸部材53と、弾性部材54と、ナット55等を有し、架台固定部材51に代わってL型固定部材71,72を有している。
【0046】
この第3アクチュエータ3は、湾曲型アクチュエータ本体41がベース台28の搭載面に対して垂直方向に延びる向きで、L型固定部材71に固定される。L型固定部材71は、L形の一方がベース台28に取り付けられる。第2アクチュエータ3の台座46がL型固定部材71のL形の他方に固定される。L型固定部材72は、L形の一方が架台11の下面に取り付けられる。そして、L型固定部材72のL形の他方は、第3アクチュエータ3の連結ベース部材52に、軸部材53及びナット55を用いて固定される。
【0047】
従って、第3アクチュエータ3は、架台11に対して、ステージ12の移動方向(例えば、X軸)に平行な方向に抑制力を作用させることができる。上述のように、例えば、ステージ12がX軸方向に移動中に加減速するとき、ステージ12に対してX軸方向に作用する慣性力(ステージの質量×加速度)の反力が、架台11に対するX軸方向の振動力となる。第3アクチュエータ3は、このX軸方向の振動力を打ち消す力(抑制力)を架台11に与える。このため、第3アクチュエータ3は、架台11を振動させようとする水平方向の振動力をなくし、荷電粒子ビーム描画装置1のチャンバー21、鏡筒27などの横揺れを抑制する。
【0048】
一対の第1,第2アクチュエータ2は、例えば、架台11の重心を間に挟んで、当該重心を通るX軸に平行な線(以下、「重心軸」と呼ぶ)上に配置される。一対の第1,第2アクチュエータ2は、架台11に作用する上述したY軸周りのモーメントΘYを打ち消すために設けられる。従って、第1,第2アクチュエータ2は、基材42の頂部の変位により生成される抑制力がステージ12の移動方向と垂直な方向に沿って作用するように、ベース台28に設置される。また、アクチュエータ制御回路4は、モーメントΘYを打ち消すために、第1,第2アクチュエータ2がお互いに反対向きに抑制力を生成するように、第1,第2アクチュエータ2を制御する。
【0049】
即ち、これら第1,第2アクチュエータ2は、ステージ12の移動方向と垂直な方向に架台11に作用する振動力を打ち消す抑制力を生成する。尚、ステージ12が搭載される架台11のテーブル面が重力と直交する方向(水平)である場合、第1,第2アクチュエータ2は、重力と平行な方向に抑制力を生成する。
【0050】
アクチュエータ制御回路4は、ステージ位置検出器24によるステージの動きの測定により得られたステージの動き情報(例えば、ステージの加速度)に基づいて圧電素子43に電圧(正電圧又は負電圧)を印加し、第1,第2アクチュエータ2から連結ユニット50(
図2)を介し、架台11に対して、矢印(
図3)で示した上下方向に作用する抑制力を与える。これにより、架台11に生じる振動が抑制される。
【0051】
例えば、架台11のテーブル面が水平に配置され、第1または第2アクチュエータ2が、架台11に対して重力方向の上向きに抑制力を作用させる例について説明する。アクチュエータ制御回路4は、第1または第2アクチュエータ2の圧電素子43に対して、正電圧を印加する。この正電圧の印加により圧電素子43が伸長し、基材42の曲率が大きくなる、即ち、上方向に伸び上がるように変形される。従って、基材42は、湾曲する基材42の頂部がより高くなる方向に変形されるので、基材42は、連結ユニット50を介して、架台11に対し、架台11を押し上げる方向の抑制力を与える。従って、この抑制力は、架台11に対して重力方向の下向きに作用するモーメント(振動力)を打ち消す。
【0052】
次に、同じ例で、第1または第2アクチュエータ2が、架台11に対して重力方向の下向きに抑制力を作用させる例について説明する。アクチュエータ制御回路4は、第1または第2アクチュエータ2の圧電素子43に対して、負電圧を印加する。この負電圧の印加により圧電素子43が縮小し、基材42の曲率が小さくなる、即ち、広がるように変形される。従って、基材42は、湾曲する基材42の頂部がより低くなる方向に変形されるので、基材42は、連結ユニット50を介して、架台11に対し、架台11を引き下げる方向の抑制力を与える。従って、この抑制力は、架台11に対して重力方向の上向きに作用するモーメント(振動力)を打ち消す。
【0053】
この例では、アクチュエータ制御回路4が、第1,第2アクチュエータ2の一方が重力方向の上向きの抑制力を生成し、他方が重力方向の下向きの抑制力を生成するように、第1,第2アクチュエータを制御することによって、架台11を振動させようとする重力方向のモーメント(振動力)がなくなり、結果、架台11の振動が抑制される。
【0054】
ベース台28は、各アクチュエータ2,3,5を搭載し、荷電粒子ビーム描画装置1を支持した状態で、この描画装置1が設置される場所、例えば、クリーンルーム等の床面上に設置される。ベース台28は、描画装置1を設置する床面との間に制振部材として弾性部材(図示せず)を介在させて、防振機能を持たせてもよい。即ち、設置する際に、ベース台28と床面の間に、弾性部材を介在させることで、床面で発生した外部振動が装置本体側に伝搬されることを防止することができる。
【0055】
制振装置100は、ベース台28上に配置される複数の加速度センサ29を有している。複数の加速度センサ29は、ベース台28上の両端に配置される。加速度センサ29は、3軸加速度センサが用いられる。加速度センサ29は、ベース台28に発生する振動を前述した3軸(X,Y,Z軸)方向に分けて、振動情報として検出する。加速度センサ29は、加速度センサ25の検出と同様であり、床等を通じて描画装置1の外部から与えられる外部振動と、ステージ12が移動する際に発生させる振動とが含まれている。
【0056】
加速度センサ29で取得された振動情報は、制御回路31に出力される。制御回路31は、この振動情報を空圧調整機構制御回路33に出力する。空圧調整機構制御回路33は、加速度センサ29で取得された振動を抑制するように空圧調整機構32を制御し、アクチュエータ5の空圧を調整する。また、制御回路31は、センサ25aによって検出された架台11の変位を空圧調整機構制御回路33に与えてもよい。この場合、空圧調整機構制御回路33は、架台11の変位(例えば、傾き)をなくすように、第4アクチュエータ5の空圧調整機構32を調整する。従って、この系統によって、空気圧を用いた第4アクチュエータ5によって架台11の変位をなくすフィードバック制御系が構成される。
【0057】
更に、空圧調整機構制御回路33は、圧電素子を用いたアクチュエータ2,3を制御するアクチュエータ制御回路4と同様に、制御回路31から送られるステージの位置(座標)やステージの動きの情報(ステージの移動速度、または、ステージの加速度)に基づくフィードフォワード制御によって、空圧調整機構32を制御してもよい。ステージの動きの情報(ステージの移動速度、または、ステージの加速度)は、上述したステージ位置検出器24で検出されたステージ12の位置情報に基づいて得られる。
【0058】
具体的には、第4アクチュエータ5は、架台11を水平に保持するため、少なくとも3個を使用する。本実施形態では、矩形の架台11の四隅に配置された4個の第4アクチュエータ5を用いて、荷電粒子ビーム描画装置1が支持される。また、第4アクチュエータ5は、荷電粒子ビーム描画装置1の重量を支える脚部としても機能している。
【0059】
本実施形態では、第4アクチュエータ5は、例えば、空気の圧力を利用して伸縮する、空圧アクチュエータを用いている。第4アクチュエータ5は、例えば、アクティブダンパー(アクティブサスペンション)又は、エアーシリンダである。制振装置100は、第4アクチュエータ5を駆動するための空圧調整機構32と空圧調整機構制御回路33とを有している。
【0060】
空圧調整機構32は、例えば、エアーシリンダ内に圧縮空気を送り込むコンプレッサと、圧縮空気を送るアクチュエータの選択及び空気圧を調整するためのバルブを有している。上述したように、空圧調整機構制御回路33は、センサ25aにより検出された架台11の振動情報、加速度センサ29により検出されたベース台28の振動情報に基づくフィードバック制御により、及び、制御回路1から贈られたステージの位置及び動きの情報に基づくフィードフォワード制御により、架台11の振動が減少するように、空圧調整機構32のコンプレッサ及びソレノイドバルブを駆動制御する。
【0061】
本実施形態において、第4アクチュエータ5は、第1,第2アクチュエータ2,第3アクチュエータ3に比べて応答速度は遅いが、制振力が大きいため、周波数が低く、振幅が大きな振動に対して有効である。また、第4アクチュエータ5は、第1,第2アクチュエータ2に較べ、より重い重量に対して制振力を作用することが可能である。本実施形態において、第4アクチュエータ5は、架台11、チャンバー21、及び鏡筒27の重みを支える。
【0062】
空圧調整機構32は、空圧調整機構制御回路33からの指示に従い、コンプレッサによって圧縮された圧縮空気を空気バネからなる第4アクチュエータ5に送気したり、バルブにより排気したりすることによって、第4アクチュエータ5を伸縮させて、架台11の水平を維持し、架台11の振動を減少させる。
【0063】
次に、
図5を参照して、制振対象となる架台11に対する、圧電素子を用いたアクチュエータ(
図1の64)の第1の配置例について説明する。
図5は、装置1を、電子銃22から架台11が配置される方向を見たとき、架台11を透視して、アクチュエータの配置を模式的に示す図である。
【0064】
この第1の配置例は、標準的な配置例を示している。上述した第1,第2アクチュエータ2からなる第1の対21と、同じく第1,第2アクチュエータ2からなるもう一つの第2の対22が、X軸に平行で、架台11の重心を通る軸(以下、「X方向の重心軸」と呼ぶ)を中位に挟むように、4個のアクチュエータが配置されている(第1の位置)。上述したように、第1,第2の対21,22に含まれる各々のアクチュエータは、ステージ12の移動方向と垂直な方向に上下異なる向きの抑制力を架台11に与えるように、アクチュエータ制御回路4によって制御される。
【0065】
また、第1の対21と第2の対22とは、同じ方向に、アクチュエータに対して抑制力を与えるように、アクチュエータ制御回路4によって制御される。即ち、第1,第2のアクチュエータ対21,22は、X方向の重心軸を対称軸として対称に配置され、架台11の4箇所において、対称の位置にあるアクチュエータが、ステージ12の移動方向と垂直な方向(Z軸方向)の同じ向き(上下)に、架台11に対して抑制力を与える。従って、架台11のほぼ全面にわたって同じ向きの力が均等に作用するので、アクチュエータ対21,22が架台11を撓ませるような抑制力を与えることは、避けられる。尚、架台11に対する重心軸の位置は、載置されている荷電粒子ビーム描画装置1の重心位置により決定され、必ずしも架台中央の位置に設定されるものではない。また、ここで言う中位や対称軸とは、荷電粒子ビーム描画装置1を載置する架台11を左右に分けた際の重量の釣り合いがとれる位置とする。その中位に沿った線分を重心軸としている。
【0066】
次に、2つのアクチュエータ3は、
図3,4に示された第3アクチュエータ3に相当するアクチュエータである。2つのアクチュエータ3は、X方向の重心軸と直交する方向に並ぶように、架台11の両端部に配置される(第2の位置)。2つのアクチュエータ3は、各々、架台11に対し、ステージ12の移動方向(
図5ではX軸方向)と平行な同じ向きに抑止力を与える。2つのアクチュエータ3が、架台11に対し、架台11のY軸方向の両端部において、X軸方向の同じ向きに抑制力を与える。従って、架台11をX-Y平面で回転させるような力をアクチュエータ3が発生することは、避けられる。X軸方向の同じ向きに抑制力を生成する2つのアクチュエータ3は、ステージ12のX軸方向の移動(加減速)に伴ってステージ12に作用する慣性力によって架台11に生じる反力を打ち消し、振動を減少させる。
【0067】
図5には、ステージ12がX軸方向に移動して、連続描画する場合のアクチュエータの配置例を示した。一方、ステージ12がY軸方向に移動して連続描画する場合には、第1,第2アクチュエータ対2
1,2
2が配置される位置と、2つのアクチュエータ3が配置される位置とを入れ替える。即ち、第1,第2のアクチュエータ対2
1,2
2は、Y方向の重心軸を対称軸として、対称な位置に配置される。また、2つのアクチュエータ3は、架台11のX軸方向の両端部に配置される。
【0068】
尚、このような第1の配置例においては、全てのアクチュエータが使用されるのではなく、抑制力を発生したい方向に応じて、第1,第2のアクチュエータ対21,22のみを使用する、又は、2つのアクチュエータ3のみを使用する、又は、第1,第2のアクチュエータ対21,22と2つのアクチュエータ3の両方を使用する、のいずれかを選択することが可能である。
【0069】
次に、
図6を参照して、制振対象となる架台11に対するアクチュエータの第2の配置例について説明する。
図6の見方は
図5と同様である。
この第2の配置例では、架台11のX方向の重心軸上の両端部に、架台11に対してステージ12の移動方向と垂直な方向に抑制力を与えるアクチュエータ対2が配置される。また、架台11の重心近傍に、ステージ12の移動方向(
図6ではX軸方向)に平行な方向の抑制力を架台11に与えるアクチュエータ3が配置される(第3の位置)。この第2の配置例では、ステージ12の移動方向と垂直な方向の抑制力を発生するアクチュエータ対2を重心軸上に配置したので、アクチュエータ対2が架台11を撓ませるような力を発生することは、避けられる。
【0070】
従って、ステージ12の移動方向と垂直な方向の抑制力を発生するために、1対のアクチュエータ2だけを用いることが可能である。また、ステージ12の移動方向に平行な方向の抑制力を発生するアクチュエータ3を架台11の重心近傍に配置したので、アクチュエータ3が架台11に水平方向のモーメントを与えることは、避けられる。従って、1つのアクチュエータ3によって架台11の制振をすることが可能である。尚、第2の配置例においても、全てのアクチュエータが使用されるのではなく、抑制力を発生したい方向に応じて、アクチュエータ対2のみを使用する、又は、1つのアクチュエータ3のみを使用する、又は、アクチュエータ対2と1つのアクチュエータ3の両方を使用する、のいずれかを選択することが可能である。
【0071】
次に、
図7を参照して、制振対象となる架台11に対するアクチュエータの第3の配置例について説明する。
第3の配置例において、ステージ12の移動方向と垂直な方向に上下異なる向きの抑制力を架台11に与える2つのアクチュエータからなる対2が、X方向の重心軸を中央に挟んで点対称となる位置に配置される。対2を構成する2つのアクチュエータが点対称に配置されたので、アクチュエータ対2が架台11を撓ませるような抑制力を架台11に与えることは、避けられる。また、ステージ12の移動方向に平行な方向の抑制力を発生する2つのアクチュエータ3を用いる場合、2つのアクチュエータ3は、必ずしも、ステージ12の移動方向の重心軸に垂直な方向に並んで配置される必要はない。2つのアクチュエータ3は、
図7に示したように、ステージ12の移動方向に沿った架台11の両側部の任意の位置に配置されてよい。
【0072】
本実施形態では、ステージ12の動きの情報(速度、加速度)をステージ位置検出器24よってステージ12までの距離を測定することにより所得、検出した。これ以外にも、描画制御回路35に入力される描画用パターンデータを利用することができる。描画用パターンデータは、描画されるパターンの位置情報(描画位置の座標及び描画順序)を含んでいる。描画用パターンデータは、メモリ36に記憶される。制御回路31は、描画対象となる試料17対応する描画用パターンデータをメモリ36から読み出しながら、所定の位置に所定の順序でパターンが描画されるように、ステージ制御回路15を介して、ステージ移動機構14を制御する。
【0073】
従って、制御回路31は、次に描画される位置の座標から、ステージ12の動き(通過する位置座標、X軸またはY軸方向の速度または加速度)を推定できる。例えば、制御回路31は、描画位置情報(ステージの位置情報)、移動距離、設定されたステージ12の駆動パターンに基づく移動速度及び加速度、等の情報を推定できる。
図1に示したフィルタ回路62と圧電素子を用いたアクチュエータ64を備えたフィードフォワード制御系に、例えば、推定されたステージ12の加速度の情報を入力することによって、抑制力を発生することもできる。
【0074】
尚、上記は描画用パターンデータを例に挙げて説明したが、本実施形態の制振装置を電子顕微鏡等の測定装置に使用する場合でも、測定対象となる試料の測定位置の座標や測定順序を規定する測定レシピが使用される。従って、制御回路31は、上述の描画用パターンデータに代えて測定レシピの情報を使用することにより、同様の制御を行うことができる。また、本実施形態では、光学装置として荷電粒子ビーム描画装置を一例としているが、鏡筒等のチャンバーを試料室等のチャンバー上に立設して構成される装置であれば、同様に制振装置を適用することができる。また、ビームは、荷電粒子ビームに限られず、レーザーなどの光、X線などの電磁波であってよい。従って、「光学」とは、いわゆる「光」の他に、「電子線」や「電磁波」といったものも含まれるものとする。
【0075】
なお、本発明は、前記態様、前記変形例及び前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。
【符号の説明】
【0076】
1…荷電粒子ビーム描画装置、2、3,5…アクチュエータ、4…アクチュエータ制御回路、11…架台、12…ステージ、14…ステージ移動機構、15…ステージ制御回路、16…保持部材、17…試料、21…チャンバー、22…電子銃、24…ステージ位置検出器、25a,b…変位センサまたは加速度センサ、26…荷電粒子ビーム、27…鏡筒、28…ベース台、29…加速度センサ、31…制御回路、32…空圧調整機構、33…空圧調整機構制御回路、34…EB制御回路、35…描画制御回路、36…メモリ、41…湾曲型アクチュエータ本体、42…基材、43…圧電素子、44…固定軸受け部、45…可動軸受け部、46…台座、47,48…回転軸、49…連結ユニット、50…連結ユニット、51…架台固定部材、51a…脚部、52…連結ベース部材、53…軸部材、54…弾性部材、55…ナット、60…被制御系、62…フィルタ回路、64…圧電素子を用いたアクチュエータ、71,72…L型固定部材、100…制振装置。