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特開2023-119415外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を学習する装置および方法、ならびに外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を予測する装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119415
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を学習する装置および方法、ならびに外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を予測する装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230821BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230821BHJP
   G01M 7/08 20060101ALN20230821BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G06N20/00
G01M7/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022314
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】樋口 諒
(72)【発明者】
【氏名】横関 智弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 早紀
(72)【発明者】
【氏名】武田 真一
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD16
2G024AD34
2G024BA21
2G024CA01
2G024DA12
2G024FA06
(57)【要約】
【課題】衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および内部の衝撃損傷を学習し、予測する技術を提供する。
【解決手段】衝突体情報・衝撃損傷学習装置100は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として衝突体情報および内部の衝撃損傷を学習する。学習部30は、構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、外観形状の特徴量と衝突体情報の間の相関関係を機械学習して衝突体推定モデルを生成し、外観形状の特徴量と構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、外観形状の特徴量と衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して衝撃損傷推定モデルを生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を学習する装置であって、
前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して衝突体推定モデルを生成し、前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して衝撃損傷推定モデルを生成する学習部と、
前記衝突体推定モデルと前記衝撃損傷推定モデルを記憶する学習済みモデル記憶部と
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記外観形状の特徴量は、前記衝突体の衝撃による前記構造物の大域的変形情報と衝突点直下の局所的変形情報、およびそれらを合算した全体変形情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記外観形状の特徴量は、前記衝突体の衝撃による前記構造物の凹部の変形情報として深さ、面積、体積、および勾配の少なくとも1つの情報を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記外観形状の特徴量は、前記衝突体の衝撃による前記構造物の前記凹部の周辺に生じる凸部の変形情報をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を予測する装置であって、
前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して生成された衝突体推定モデルと、前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して生成された衝撃損傷推定モデルとを記憶する学習済みモデル記憶部と、
前記衝突体推定モデルにもとづいて、検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝突体情報を予測して出力し、前記衝撃損傷推定モデルにもとづいて、前記検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝撃損傷状態を予測して出力する予測部と
を備えることを特徴とする装置。
【請求項6】
衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を学習する方法であって、
前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して衝突体推定モデルを生成するステップと、
前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して衝撃損傷推定モデルを生成するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項7】
衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を予測する方法であって、
前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して生成された衝突体推定モデルにもとづいて、検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝突体情報を予測するステップと、
前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して生成された衝撃損傷推定モデルにもとづいて、前記検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝撃損傷状態を予測するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を学習するプログラムであって、
前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して衝突体推定モデルを生成するステップと、
前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して衝撃損傷推定モデルを生成するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および衝撃損傷を予測するプログラムであって、
前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して生成された衝突体推定モデルにもとづいて、検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝突体情報を予測するステップと、
前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して生成された衝撃損傷推定モデルにもとづいて、前記検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝撃損傷状態を予測するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として外観形状から衝突体情報および内部の衝撃損傷を学習し、予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機、自動車、風車などの構造は、アルミ合金等の金属材料、炭素繊維複合材料(CFRP)等の複合材料積層板、またはそれらの積層構造等により構成されている。これらの構造物へ異物が衝突した場合、構造物の内外に多種多様な損傷が生じ得るが、外部損傷が僅かで目視検出が困難であっても内部に甚大な損傷が生じる場合がある。特に複合材料構造では、損傷の発生要因となる製造時の微小欠陥を取り除くことが困難であるため、ある程度微小欠陥が存在することを前提として損傷許容設計がなされる。
【0003】
航空機等の大型構造の場合、効率的な運用を目的に全体検査で損傷発生箇所を特定し、必要に応じて詳細検査により内部の衝撃損傷を計測する。これらの検査により内部損傷の位置、種類、大きさを把握し、その後の対応と修理法が決定される。従来、全体検査は目視により実施され、詳細検査は非破壊検査装置(超音波探傷、X線CT探傷、パルスサーモグラフィー等)により実施されてきた。
【0004】
まず、損傷位置特定のための目視(およびそれを補助するツール)による全体検査は、見落としなく構造全体を検査するために多くの時間とコストが必要となる。また、内部損傷の種類、大きさを調べるための非破壊検査装置による詳細検査には更に多くの時間とコストが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-108110号公報
【特許文献2】特表2020-517015号公報
【特許文献3】特開2018-8685号公報
【特許文献4】特開2020-85546号公報
【特許文献5】特開2020-128951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、大型構造物の目視検査を代替する手法として、外観形状の情報を短時間・高精度で自動計測する技術(代表例として、三角測量を利用した形状計測装置)が開発されている。
【0007】
先行技術として構造物の画像や構造物の状態を検知するセンサによる計測値を用いた損傷検査システムはあるが、形状計測装置によって計測された構造物の外観形状データから衝突体情報と衝撃損傷を予測するシステムはないため、特に航空機の運航会社などから強い要望がある。
【0008】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、衝突体によって衝撃を受けた構造物の外観形状データから適切な特徴量を抽出し、これらの特徴量を入力とした機械学習システムを用いることで、外観形状データから衝突体情報と構造内部の衝撃損傷状態を推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の装置は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として衝突体情報および衝撃損傷を学習する装置であって、前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して衝突体推定モデルを生成し、前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して衝撃損傷推定モデルを生成する学習部と、前記衝突体推定モデルと前記衝撃損傷推定モデルを記憶する学習済みモデル記憶部とを備える。
【0010】
本発明の別の態様の装置は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として衝突体情報および衝撃損傷を予測する装置であって、前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して生成された衝突体推定モデルと、前記外観形状の特徴量と前記構造物内部衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して生成された衝撃損傷推定モデルとを記憶する学習済みモデル記憶部と、前記衝突体推定モデルにもとづいて、検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝突体情報を予測して出力し、前記衝撃損傷推定モデルにもとづいて、前記検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝撃損傷状態を予測して出力する予測部とを備える。
【0011】
本発明のさらに別の態様の方法は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として衝突体情報および衝撃損傷を学習する方法であって、前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して衝突体推定モデルを生成するステップと、前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して衝撃損傷推定モデルを生成するステップとを備える。
【0012】
本発明のさらに別の態様の方法は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物を対象として衝突体情報および衝撃損傷を予測する方法であって、前記構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と前記衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝突体情報の間の相関関係を機械学習して生成された衝突体推定モデルにもとづいて、検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝突体情報を予測するステップと、前記外観形状の特徴量と前記構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、前記外観形状の特徴量と前記衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して生成された衝撃損傷推定モデルにもとづいて、前記検査対象の構造物の衝突部分の外観形状の特徴量から衝撃損傷状態を予測するステップとを備える。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、衝突体によって衝撃を受けた構造物の衝突体情報・衝撃損傷の高速で低コストの検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態に係る衝突体情報・衝撃損傷学習装置の構成図である。
図2】本実施の形態に係る衝突体情報・衝撃損傷予測装置の構成図である。
図3】構造物の外観形状計測データから抽出される特徴量の一例を示す図である。
図4】衝突位置からの距離と衝突による基準面からの変位の関係を示す図である。
図5】衝突部分の面積を示す図である。
図6図6(a)~図6(c)は、衝突体情報・衝撃損傷学習装置によって学習された衝突体推定モデルと衝撃損傷推定モデルによる予測性能を説明する図である。
図7図7(a)~図7(c)は、衝突体情報・衝撃損傷学習装置によって学習された衝突体推定モデルと衝撃損傷推定モデルにおいて寄与率が高かった特徴量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本実施の形態に係る衝突体情報・衝撃損傷学習装置100の構成図である。衝突体情報・衝撃損傷学習装置100は、外観形状取得部10、特徴量抽出部20、学習部30、教師データ記憶部40、および学習済みモデル記憶部70を含む。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現することができる。
【0017】
衝突体情報・衝撃損傷学習装置100は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物の衝突体情報および衝撃損傷を学習する。
【0018】
外観形状取得部10は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物の三次元的な外観形状計測データを取得する。外観形状計測データは、形状計測装置を用いて計測されたものを用いる。
【0019】
特徴量抽出部20は、外観形状計測データから外観形状の特徴量を抽出する。外観形状の特徴量は、凹凸部の深さ、面積、体積、変形の勾配などの量である。
【0020】
教師データ記憶部40は、構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と衝突体に関する衝突体情報と構造物内部の衝撃損傷状態を教師データとして格納する。衝突体情報は、衝突体種類、衝突体形状、衝突面積・半径など衝突体に関する情報である。衝撃損傷状態は、損傷面積、損傷形状、損傷の最大長さなど構造物内部の損傷の状態を示す情報である。
【0021】
教師データは、様々な形状や種類の衝突体を異なるエネルギーで構造物に衝突させる衝撃試験を行うこと、または構造物の実運用中の衝突現象にて得られるデータにより生成される。構造物内部の衝撃損傷状態は非破壊検査装置による超音波探傷により取得される。
【0022】
学習部30は、構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、外観形状の特徴量と衝突体情報の間の相関関係を機械学習して衝突体推定モデル50を生成し、学習済みモデル記憶部70に保存する。
【0023】
また、学習部30は、構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、外観形状の特徴量と衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して衝撃損傷推定モデル60を生成し、学習済みモデル記憶部70に保存する。
【0024】
機械学習の一例として、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、多層ニューラルネットワークモデルなどの手法を利用することができる。
【0025】
図2は、本実施の形態に係る衝突体情報・衝撃損傷予測装置200の構成図である。衝突体情報・衝撃損傷予測装置200は、外観形状取得部10、特徴量抽出部20、学習済みモデル記憶部70、予測部80、および予測結果記憶部90を含む。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現することができる。
【0026】
衝突体情報・衝撃損傷予測装置200は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する構造物の衝突体情報および衝撃損傷を予測する。
【0027】
衝突体情報・衝撃損傷学習装置100と同様に、外観形状取得部10は、衝突体によって衝撃を受けた複合材およびマルチマテリアル積層構造を有する検査対象の構造物の三次元的な外観形状計測データを取得する。
【0028】
衝突体情報・衝撃損傷学習装置100と同様に、特徴量抽出部20は、検査対象の外観形状計測データから外観形状の特徴量を抽出する。
【0029】
学習済みモデル記憶部70は、構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と衝突体に関する衝突体情報を教師データとして用いて、外観形状の特徴量と衝突体情報の間の相関関係を機械学習して生成された衝突体推定モデル50と、構造物の衝突部分の外観形状の特徴量と構造物内部の衝撃損傷状態とを教師データとして用いて、外観形状の特徴量と衝撃損傷状態の間の相関関係を機械学習して生成された衝撃損傷推定モデル60とを記憶する。衝突体推定モデル50と衝撃損傷推定モデル60は、衝突体情報・衝撃損傷学習装置100によって生成された学習済みモデルである。
【0030】
予測部80は、学習済みモデル記憶部70に記憶された衝突体推定モデル50にもとづいて、検査対象の構造物の外観形状の特徴量から衝突体情報を予測して予測結果記憶部90に保存する。
【0031】
また、予測部80は、学習済みモデル記憶部70に記憶された衝撃損傷推定モデル60にもとづいて、検査対象の構造物の外観形状の特徴量から衝撃損傷状態を予測して予測結果記憶部90に保存する。
【0032】
衝突体情報・衝撃損傷学習装置100および衝突体情報・衝撃損傷予測装置200の特徴量抽出部20によって外観形状計測データから抽出される外観形状の特徴量について説明する。
【0033】
図3は、構造物の外観形状計測データから抽出される特徴量の一例を示す図である。
【0034】
機械学習において、外観形状計測データから約150種類の特徴量を抽出し、その中から重要度の高い特徴量を選択する。特徴量の設計において、衝突による変形を構造全体の大域(グローバル)変形と衝突点直下の局所(ローカル)変形に分け、大域変形と局所変形のそれぞれについて深さ、面積、体積、勾配を抽出する。大域(グローバル)変形と局所(ローカル)変形を合わせて全体(トータル)変形と呼ぶ。さらに、構造物の変形として、凹部だけでなく、凹部周辺に生じる凸部の変形情報も特徴量に含める。
【0035】
全体変形に対して局所変形を区別するために衝突部分の深さに関する閾値を導入する。衝突部分の深さが閾値δth以上の領域を局所変形と定義する。全体変形に関連する特徴量は全体値、局所変形に関連する特徴量は局所値と呼ぶ。
【0036】
図4は、衝突位置からの距離と衝突による基準面からの変位の関係を示す図である。基準面から最深部までの深さは全体変形に関連するため、その全体値を全体深さdepth_tと定義する。一方、全体深さdepth_tから閾値δthを引いた量は局所変形に関連するため、その局所値を局所深さdepth_l_δthと定義する。全体深さに対する局所深さの比率ratio_depth_δthは、depth_l_δth/depth_tで定義される。
【0037】
図5は、衝突部分の面積を示す図である。基準面から変形している箇所の面積を全体面積area_tと定義し、深さの閾値δthよりも大きく変形している箇所の面積を局所面積area_l_δthと定義し、深さの閾値δthよりも浅い箇所の面積を大域面積area_g_δthと定義する。全体面積に対する局所面積の比率ratio_area_δthは、area_l_δth/area_tで定義される。
【0038】
同様に、衝突部分の体積についても局所体積、大域体積、全体体積を定義する。基準面から変形している箇所の体積を全体体積vol_tと定義し、深さの閾値δthよりも大きく変形している箇所の体積を局所体積vol_l_δthと定義し、深さの閾値δthよりも浅い箇所の体積を大域体積vol_g_δthと定義する。全体体積に対する局所体積の比率ratio_vol_δthは、vol_l_δth/vol_tで定義される。
【0039】
図6(a)~図6(c)は、衝突体情報・衝撃損傷学習装置100によって学習された衝突体推定モデル50と衝撃損傷推定モデル60による予測性能を説明する図である。衝突体情報・衝撃損傷予測装置200によって、代表的な複合材料であるCFRP積層板へ物体が衝突した際の衝撃損傷(層間はく離)を推定し、予測結果を代表的な非破壊検査装置である超音波探傷装置の結果と比較した。結果として、衝突体情報は約8割、衝撃損傷状態は約7割の精度で推定可能であった。これらは形状の異なる6種類の衝突体が5種類の衝突エネルギーで、異なる6種類の積層構成の板へ衝突した際の結果である。
【0040】
図6(a)は、衝突体推定モデル50によって衝突体情報の1つである「接触面積」を予測した結果を示す。横軸は接触面積の観測値、縦軸は接触面積の予測値として予測結果をプロットした。中心線は観測値と予測値が完全に一致している状態であり、回帰モデルの決定係数R2=1、二乗平均平方根誤差RMSE=0である。予測結果は、R2=0.925、RMSE=16.9である。
【0041】
図6(b)は、衝撃損傷推定モデル60によって衝撃損傷状態の1つである「はく離面積」を予測した結果を示す。横軸ははく離面積の観測値、縦軸ははく離面積の予測値として予測結果をプロットした。予測結果は、R2=0.787、RMSE=72.0である。
【0042】
図6(c)は、衝撃損傷推定モデル60によって衝撃損傷状態の1つである「はく離長さ」を予測した結果を示す。横軸ははく離長さの観測値、縦軸ははく離長さの予測値として予測結果をプロットした。予測結果は、R2=0.790、RMSE=5.24である。
【0043】
図7(a)~図7(c)は、衝突体情報・衝撃損傷学習装置100によって学習された衝突体推定モデル50と衝撃損傷推定モデル60において寄与率が高かった特徴量を示す図である。
【0044】
図7(a)は、衝突体推定モデル50において「接触面積」に対する寄与率が高い特徴量の上位3種類を示す。平均全体深さave_depth_tが最も高く、2番目は全体深さdepth_t、3番目は全体体積vol_tであった。
【0045】
図7(b)は、衝撃損傷推定モデル60において「はく離面積」に対する寄与率が高い特徴量の上位3種類を示す。深さ閾値δth=0.1mmの場合の局所体積vol_l_δthが最も高く、2番目は深さ閾値δth=0.15mmの場合の全体面積に対する局所面積の比率ratio_area_t_δth、3番目は深さ閾値δth=0.15mmの場合の大域面積に対する局所面積の比率ratio_area_g_δthであった。
【0046】
図7(c)は、衝撃損傷推定モデル60において「はく離面積」に対する寄与率が高い特徴量の上位3種類を示す。深さ閾値δth=0.15mmの場合の局所体積vol_l_δthが最も高く、2番目は深さ閾値δth=0.1mmの場合の局所体積vol_l_δth、3番目は勾配が大きい凹部の面積area_grad_dentであった。
【0047】
本実施の形態の衝突体情報・衝撃損傷学習装置100および衝突体情報・衝撃損傷予測装置200によって、詳細検査で従来使用されてきた非破壊検査装置を用いることなく、衝撃損傷推定モデル60を用いて外観形状の情報のみから構造内部の衝撃損傷状態、具体的には衝撃損傷面積とその最大長さなどが同定可能となる。さらに、衝突体推定モデル50を用いて従来手法では推定不可能な衝突体情報を推定できることから、事故原因の究明へも寄与できると考えられる。
【0048】
本実施の形態によれば、構造物の外観形状データから適切な特徴量(例えば、凹凸部の深さ、面積、体積、変形の勾配など)を抽出し、これらの特徴量を入力とした機械学習システムを用いることで、外観形状データから衝突情報と衝撃損傷状態を推定する。これにより、全体検査・詳細検査を兼ねた高速・低コストの検査が可能となる。
【0049】
本実施の形態は、画像や映像を用いた遠隔自動整備技術にも適用することができる。遠隔地において外観形状データから抽出された特徴量から衝突体情報と衝撃損傷状態を推定し、現場の作業者やロボットに整備内容を指示することで遠隔作業支援を実施することがきる。
【0050】
既存の航空機整備においては、目視による全体検査、必要に応じて非破壊検査装置による内部衝撃損傷計測を行う。本実施の形態では、自動形状計測・特徴量抽出・機械学習により、損傷個所の検出だけでなく、衝突体情報や衝撃損傷状況の推定が可能となる。衝突体情報が推定できれば、構造運用中の衝突事故の原因解明に有意義な知見が得られる可能性があり、損傷状況が推定できれば、的確な修理判断により構造の安全性向上や整備コスト低下に寄与できると考えられる。
【0051】
また、航空機以外の構造においても、構造検査は簡便であることを前提としており、本実施の形態が活用される可能性が考えられる。
【0052】
海外では航空機整備ではドローンの導入が進められており、ドローンによって目視検査が代替され、さらにはドローンで取得した画像による異常個所検出技術が利用されている。しかし、この技術はあくまで目視検査を代替するものであり、人が目で見る以上の情報は得ることができない。それに対して、本実施の形態では衝突体情報、衝撃損傷状態など、人が目で見る以上の情報の推定を実現しており、より詳細で精度の高い検査が可能である。
【0053】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0054】
10 外観形状取得部、 20 特徴量抽出部、 30 学習部、 40 教師データ記憶部、 50 衝突体推定モデル、 60 衝撃損傷推定モデル、 70 学習済みモデル記憶部、 80 予測部、 90 予測結果記憶部、 100 衝突体情報・衝撃損傷学習装置、 200 衝突体情報・衝撃損傷予測装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7